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特開2024-93592非水系アルカリ金属蓄電素子用正極前駆体
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  • 特開-非水系アルカリ金属蓄電素子用正極前駆体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093592
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】非水系アルカリ金属蓄電素子用正極前駆体
(51)【国際特許分類】
   H01G 11/06 20130101AFI20240702BHJP
   H01G 11/42 20130101ALI20240702BHJP
   H01G 11/50 20130101ALI20240702BHJP
   H01G 11/22 20130101ALI20240702BHJP
   H01G 11/86 20130101ALI20240702BHJP
   H01G 11/34 20130101ALI20240702BHJP
   H01G 11/68 20130101ALI20240702BHJP
   H01G 11/46 20130101ALI20240702BHJP
   H01G 11/24 20130101ALI20240702BHJP
   H01G 11/32 20130101ALI20240702BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20240702BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20240702BHJP
   H01M 4/133 20100101ALI20240702BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240702BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20240702BHJP
   H01M 10/054 20100101ALI20240702BHJP
【FI】
H01G11/06
H01G11/42
H01G11/50
H01G11/22
H01G11/86
H01G11/34
H01G11/68
H01G11/46
H01G11/24
H01G11/32
H01M4/587
H01M4/36 C
H01M4/133
H01M4/62 Z
H01M10/0566
H01M10/054
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022210084
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100191444
【弁理士】
【氏名又は名称】明石 尚久
(72)【発明者】
【氏名】梅津 和照
(72)【発明者】
【氏名】岡田 宣宏
(72)【発明者】
【氏名】駒場 慎一
(72)【発明者】
【氏名】多々良 涼一
(72)【発明者】
【氏名】保坂 知宙
【テーマコード(参考)】
5E078
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5E078AA01
5E078AA02
5E078AA05
5E078AB06
5E078BA13
5E078BA18
5E078BA31
5E078BA44
5E078BA53
5E078BA59
5E078BA60
5E078BA62
5E078BA65
5E078BA67
5E078BA68
5E078BA70
5E078BA71
5E078BA73
5E078BB38
5E078BB40
5E078DA02
5E078DA03
5E078DA05
5H029AJ02
5H029AJ03
5H029AK08
5H029AK16
5H029AL02
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL08
5H029AM03
5H029AM05
5H029HJ01
5H050AA02
5H050AA08
5H050CA16
5H050CA20
5H050CB02
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050DA11
5H050EA23
5H050HA01
(57)【要約】
【課題】正極前駆体に含有されるアルカリ金属化合物の分解効率が高く、かつ活物質嵩密度が高く、そして、高容量かつ高出力な非水系アルカリ金属蓄電素子を提供することができる、正極前駆体を提供すること。
【解決手段】正極集電体と上記正極集電体上に配置された正極活物質層とを有する正極前駆体が提供される。正極前駆体は、正極活物質としての活性炭と、上記正極活物質以外のアルカリ金属化合物と、ポリカルボン酸塩とを含み、上記アルカリ金属化合物はナトリウムイオン、及びカリウムイオンからなる群から選択される少なくとも一つのアルカリ金属イオンを陽イオンとする無機化合物である。正極前駆体表面のSEM-EDXにより得られる炭素マッピングに対する酸素マッピングの面積重複率より算出される、上記正極活物質に対する上記アルカリ金属化合物の被覆率が50%以上99%以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極集電体と前記正極集電体上に配置された正極活物質層とを有する正極前駆体であって、
前記正極活物質層は、正極活物質としての活性炭と、前記正極活物質以外のアルカリ金属化合物と、ポリカルボン酸塩とを含み、
前記アルカリ金属化合物は、ナトリウムイオン、及びカリウムイオンからなる群から選択される少なくとも一つのアルカリ金属イオンを陽イオンとする無機化合物であって、
前記正極前駆体表面のSEM-EDXにより得られる炭素マッピングに対する酸素マッピングの面積重複率より算出される、前記正極活物質に対する前記アルカリ金属化合物の被覆率が50%以上99%以下である、正極前駆体。
【請求項2】
前記正極活物質に対する前記アルカリ金属化合物の被覆率が60%以上98%以下である、請求項1に記載の正極前駆体。
【請求項3】
前記アルカリ金属化合物が、炭酸ナトリウム、及び炭酸カリウムからなる群から選択される少なくとも一つである、請求項1又は2に記載の正極前駆体。
【請求項4】
前記ポリカルボン酸塩が、ポリアクリル酸ナトリウム、及びポリアクリル酸カリウムからなる群から選択される少なくとも一つである、請求項1又は2に記載の正極前駆体。
【請求項5】
前記正極活物質層中に含まれる前記アルカリ金属化合物の量が、前記正極活物質層の全質量を基準として、25質量%以上45質量%以下である、請求項1又は2に記載の正極前駆体。
【請求項6】
前記正極活物質層は、カルボキシメチルセルロース、及びカルボキシメチルセルロース塩からなる群から選択される少なくとも一つを更に含む、請求項1又は2に記載の正極前駆体。
【請求項7】
ナトリウムイオンまたはカリウムイオンから選ばれる少なくとも一種のアルカリ金属イオンを含む非水系電解液と、請求項1又は2に記載の正極前駆体から得られる正極とを含む、非水系アルカリ金属蓄電素子。
【請求項8】
ナトリウムイオンおよびカリウムイオンを含む非水系電解液と、請求項1又は2に記載の正極前駆体から得られる正極とを含む、非水系アルカリ金属蓄電素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、非水系アルカリ金属蓄電素子、および非水系アルカリ金属蓄電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境の保全および省資源を目指すエネルギーの有効利用の観点から、風力発電の電力平滑化システムまたは深夜電力貯蔵システム、太陽光発電技術に基づく家庭用分散型蓄電システム、電気自動車用の蓄電システム等が注目を集めている。これらの蓄電システムに用いられる電池の第一の要求事項は、エネルギー密度が高いことである。このような要求に対応可能な高エネルギー密度電池の有力候補として、リチウムイオン電池の開発が精力的に進められている。第二の要求事項は、出力特性が高いことである。例えば、高効率エンジンと蓄電システムとの組み合わせ(例えば、ハイブリッド電気自動車)または燃料電池と蓄電システムとの組み合わせ(例えば、燃料電池電気自動車)において、加速時に高い出力放電特性を発揮する蓄電システムが要求されている。現在、高出力蓄電デバイスとしては、電気二重層キャパシタ、ニッケル水素電池等が開発されている。
【0003】
電気二重層キャパシタのうち、電極に活性炭を用いたものは、0.5~1kW/L程度の出力特性を有する。この電気二重層キャパシタは、出力特性が高いだけでなく、耐久性(サイクル特性および高温保存特性)もまた高く、上記の高出力が要求される分野で最適のデバイスであると考えられてきた。しかしながら、そのエネルギー密度は1~5Wh/L程度に過ぎないため、更なるエネルギー密度の向上が必要である。
【0004】
リチウムイオンキャパシタは、リチウム塩等の電解質を含む非水系電解液を使用する蓄電素子(以下、「非水系アルカリ金属蓄電素子」ともいう。)の一種であって、正極においては約3V以上で電気二重層キャパシタと同様の陰イオンの吸着および脱着による非ファラデー反応、負極においてはリチウムイオン電池と同様のリチウムイオンの吸蔵および放出によるファラデー反応によって、充放電を行う蓄電素子である。
【0005】
リチウムイオンキャパシタは、正極に活性炭、負極に炭素材料を用い、正極では非ファラデー反応、負極ではファラデー反応により充放電を行うことを特徴とし、したがって、電気二重層キャパシタおよびリチウムイオン二次電池の特徴を兼ね備えた非対称キャパシタである。リチウムイオンキャパシタは高出力かつ高耐久性でありながら、高エネルギー密度を有し、リチウムイオン二次電池のように放電深度を制限する必要がないことが特徴である。しかしながら、肝心のリチウムは地殻中の濃度が平均20ppm程度しかなく、しかも産出地が偏在しているという問題がある。これからは、より多く普遍的に存在する元素でリチウムを代替していく必要があり、ナトリウム、及びカリウム等のアルカリ金属元素を蓄電デバイスに用いる研究が精力的に進められている。例えば、ナトリウムイオン二次電池、カリウムイオン二次電池、ナトリウムイオンキャパシタ、及びカリウムイオンキャパシタ等の開発が進められている。
【0006】
上記ナトリウムイオン二次電池、カリウムイオン二次電池、ナトリウムイオンキャパシタ、及びカリウムイオンキャパシタ等の特性向上や低コスト化については、様々な検討が行われている(特許文献1~3)。
【0007】
特許文献1には、低コスト化、環境負荷低減、充放電サイクル特性向上の観点から、水系結着剤を用いて作製した正極を備える、ナトリウムイオン二次電池が開示されている。
【0008】
特許文献2には、キャパシタ中の電解液の溶媒分解によるガス発生量を低減するために、炭酸カリウム等の制酸剤含む正極を備える、電気二重層キャパシタが開示されている。
【0009】
特許文献3には、非水系溶剤であるNMP(N-メチル-2-ピロリドン)を含む正極塗工液を用いて作製された正極前駆体を備える、ナトリウムイオンキャパシタ、及びカリウムイオンキャパシタが開示されている。そして、該正極前駆体に含まれる炭酸ナトリウム又は炭酸カリウムを分解し、負極にナトリウムイオン又はカリウムイオンをプレドープする技術が開示されている。
【0010】
本開示において、メソ孔量はBJH法により、マイクロ孔量はMP法により、それぞれ算出される。BJH法は非特許文献1に記載されており、かつMP法は、「t-プロット法」(非特許文献2)を利用して、マイクロ孔容積、マイクロ孔面積、およびマイクロ孔の分布を求める方法を意味し、非特許文献3に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2016-110991号公報
【特許文献2】特開2006-261516号公報
【特許文献3】特開2018-026411号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】E.P.Barrett, L.G.Joyner and P.Halenda, J.Am.Chem.Soc., (1951), 73, 373-380
【非特許文献2】B.C.Lippens, J.H.de Boer, J.Catalysis, (1965), 4, 319-323
【非特許文献3】R.S.Mikhail, S.Brunauer, E.E.Bodor, J.Colloid, Interface Sci., (1968), 26, 45-53
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、本発明者らは、特許文献1~3に記載されるような従来の非水系アルカリ金属蓄電素子用の正極前駆体は、炭酸ナトリウム及び炭酸カリウム等のアルカリ金属化合物の水への溶解度が高いことを考慮しておらず、アルカリ金属化合物の分解効率、活物質嵩密度、及び活物質粒子間の電子伝導性において改善の余地があることを見いだした。
【0014】
本開示は、正極前駆体に含有されるアルカリ金属化合物の分解効率が高く、かつ活物質嵩密度が高く、そして、高容量かつ高出力な非水系アルカリ金属蓄電素子を提供することができる、正極前駆体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題は以下の技術的手段により解決される。本開示の実施形態の例を以下の項目[1]~[8]に列記する。
[1]
正極集電体と上記正極集電体上に配置された正極活物質層とを有する正極前駆体であって、
上記正極活物質層は、正極活物質としての活性炭と、上記正極活物質以外のアルカリ金属化合物と、ポリカルボン酸塩とを含み、
上記アルカリ金属化合物は、ナトリウムイオン、及びカリウムイオンからなる群から選択される少なくとも一つのアルカリ金属イオンを陽イオンとする無機化合物であって、
上記正極前駆体表面のSEM-EDXにより得られる炭素マッピングに対する酸素マッピングの面積重複率より算出される、上記正極活物質に対する上記アルカリ金属化合物の被覆率が50%以上99%以下である、正極前駆体。
[2]
上記正極活物質に対する上記アルカリ金属化合物の被覆率が60%以上98%以下である、項目1に記載の正極前駆体。
[3]
上記アルカリ金属化合物が、炭酸ナトリウム、及び炭酸カリウムからなる群から選択される少なくとも一つである、項目1又は2に記載の正極前駆体。
[4]
上記ポリカルボン酸塩が、ポリアクリル酸ナトリウム、及びポリアクリル酸カリウムからなる群から選択される少なくとも一つである、項目1~3のいずれか一項に記載の正極前駆体。
[5]
上記正極活物質層中に含まれる上記アルカリ金属化合物の量が、上記正極活物質層の全質量を基準として、25質量%以上45質量%以下である、項目1~4のいずれか一項に記載の正極前駆体。
[6]
上記正極活物質層は、カルボキシメチルセルロース、及びカルボキシメチルセルロース塩からなる群から選択される少なくとも一つを更に含む、項目1~5のいずれか一項に記載の正極前駆体。
[7]
ナトリウムイオンまたはカリウムイオンから選ばれる少なくとも一種のアルカリ金属イオンを含む非水系電解液と、項目1~6のいずれか一項に記載の正極前駆体から得られる正極とを含む、非水系アルカリ金属蓄電素子。
[8]
ナトリウムイオンおよびカリウムイオンを含む非水系電解液と、項目1~6のいずれか一項に記載の正極前駆体から得られる正極とを含む、非水系アルカリ金属蓄電素子。
【発明の効果】
【0016】
本開示によれば、正極前駆体に含有されるアルカリ金属化合物の分解効率が高く、かつ活物質嵩密度が高く、そして、高容量かつ高出力な非水系アルカリ金属蓄電素子を提供することができる、正極前駆体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】(a)は、正極前駆体1の表面SEM像である。(b)は、正極前駆体1のSEM-EDXにより得られた炭素マッピング画像である。(c)は、正極前駆体1のSEM-EDXにより得られた酸素マッピング画像である。(d)は、正極前駆体14の表面SEM像である。(e)は、正極前駆体14のSEM-EDXにより得られた炭素マッピング画像である。(f)は、正極前駆体14のSEM-EDXにより得られた酸素マッピング画像である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本開示の実施形態を詳細に説明するが、本開示はこれらの実施形態に限定されるものではない。本開示に記載の各数値範囲における上限値および下限値は任意に組み合わせて任意の数値範囲を構成することができる。
【0019】
《非水系アルカリ金属蓄電素子》
一般に、非水系アルカリ金属蓄電素子は、正極と、負極と、セパレータと、電解液とを主な構成要素として有する。電解液としては、有機溶媒中にアルカリ金属イオンを溶解した溶液(以下、「非水系電解液」ともいう。)を用いる。後述のように、蓄電素子の製造過程で、負極にアルカリ金属イオンをプレドープすること(以下、「アルカリ金属ドープ工程」ともいう。)が好ましく、本開示では、アルカリ金属ドープ工程前における正極を「正極前駆体」、アルカリ金属ドープ工程後における正極を「正極」と定義する。
【0020】
〈正極前駆体〉
本開示の正極前駆体は、正極集電体と、その上に配置された、より詳細には、その片面または両面上に配置された正極活物質層とを有する。
【0021】
[正極活物質層]
正極活物質層は、正極活物質としての活性炭を含み、さらに正極活物質以外のアルカリ金属化合物と、ポリカルボン酸塩とを含む。正極活物質層は、これら以外に、必要に応じて、後述の任意成分を含んでいてもよい。
【0022】
(正極活物質)
正極活物質は、活性炭を含み、活性炭の他に、導電性高分子等をさらに含んでいてもよい。活性炭の種類およびその原料は、特に制限はないが、高い入出力特性と、高いエネルギー密度とを両立させるために、活性炭の細孔を最適に制御することが好ましい。具体的には、BJH法により算出した直径20Å以上500Å以下の細孔に由来するメソ孔量をV(cm/g)、MP法により算出した直径20Å未満の細孔に由来するマイクロ孔量をV(cm/g)とするとき、
(1)高い入出力特性のためには、0.3<V≦0.8、および0.5≦V≦1.0を満たし、かつ、BET法により測定される比表面積が1,500m/g以上3,000m/g以下である活性炭(以下、「活性炭1」ともいう。)が好ましく、また、
(2)高いエネルギー密度を得るためには、0.8<V≦2.5、および0.8<V≦3.0を満たし、かつ、BET法により測定される比表面積が2,300m/g以上4,000m/g以下である活性炭(以下、「活性炭2」ともいう。)が好ましい。
【0023】
本開示における活物質のBET比表面積およびメソ孔量、マイクロ孔量、平均細孔径は、それぞれ以下の方法によって求められる値である。すなわち、試料を200℃で一昼夜真空乾燥し、窒素を吸着質として吸脱着の等温線の測定を行ない、ここで得られる吸着側の等温線を用いて、BET比表面積はBET多点法またはBET1点法により、メソ孔量はBJH法により、マイクロ孔量はMP法により、それぞれ算出される。BJH法とは、一般的にメソ孔の解析に用いられる計算方法で、Barrett,Joyner, Halendaらにより提唱されたものである(非特許文献1)。また、MP法とは、「t-プロット法」(非特許文献2)を利用して、マイクロ孔容積、マイクロ孔面積、およびマイクロ孔の分布を求める方法を意味し、R.S.Mikhail, Brunauer,Bodorにより考案された方法である(非特許文献3)。また、平均細孔径とは、液体窒素温度下で、各相対圧力下における窒素ガスの各平衡吸着量を測定して得られる、試料の質量当たりの全細孔容積を上記BET比表面積で除して求めたものを指す。
【0024】
(活性炭1)
活性炭1のメソ孔量Vは、正極材料を蓄電素子に組み込んだときの入出力特性を大きくする点で、0.3cm/gより大きい値であることが好ましい。Vは、正極の嵩密度の低下を抑える点から、0.8cm/g以下であることが好ましい。Vは、より好ましくは0.35cm/g以上0.7cm/g以下、さらに好ましくは0.4cm/g以上0.6cm/g以下である。
【0025】
活性炭1のマイクロ孔量Vは、活性炭の比表面積を大きくし、容量を増加させるために、0.5cm/g以上であることが好ましい。Vは、活性炭の嵩を抑え、電極としての密度を増加させ、単位体積当たりの容量を増加させるという点から、1.0cm/g以下であることが好ましい。Vは、より好ましくは0.6cm/g以上1.0cc/g以下、さらに好ましくは0.8cm/g以上1.0cm/g以下である。
【0026】
マイクロ孔量Vに対するメソ孔量Vの比(V/V)は、0.3≦V/V≦0.9の範囲内であることが好ましい。すなわち、高容量を維持しながら出力特性の低下を抑えることができる程度に、マイクロ孔量に対するメソ孔量の割合を大きくするという観点から、V/Vが0.3以上であることが好ましい。一方で、高出力特性を維持しながら容量の低下を抑えることができる程度に、メソ孔量に対するマイクロ孔量の割合を大きくするという観点から、V/Vは0.9以下であることが好ましい。より好ましいV/Vの範囲は0.4≦V/V≦0.7であり、さらに好ましいV/Vの範囲は0.55≦V/V≦0.7である。
【0027】
活性炭1の平均細孔径は、得られる蓄電素子の出力を最大にする観点から、17Å以上(すなわち、17×10-10m以上)であることが好ましく、18Å以上であることがより好ましく、20Å以上であることが最も好ましい。また容量を最大にする観点から、活性炭1の平均細孔径は25Å以下であることが好ましい。
【0028】
活性炭1のBET比表面積は、1,500m/g以上3,000m/g以下であることが好ましく、1,500m/g以上2,500m/g以下であることがより好ましい。BET比表面積が1,500m/g以上の場合には、良好なエネルギー密度が得られ易く、他方、BET比表面積が3,000m/g以下の場合には、電極の強度を保つために結着剤を多量に入れる必要がないので、電極体積当たりの性能が高くなる。
【0029】
上記のような特徴を有する活性炭1は、例えば、次に説明する原料および処理方法を用いて得ることができる。
【0030】
本開示では、活性炭1の原料として用いられる炭素源は、特に限定されるものではないが、例えば、木材、木粉、ヤシ殻、パルプ製造時の副産物、バガス、廃糖蜜等の植物系原料;泥炭、亜炭、褐炭、瀝青炭、無煙炭、石油蒸留残渣成分、石油ピッチ、コークス、コールタール等の化石系原料;フェノール樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、レゾルシノール樹脂、セルロイド、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂等の各種合成樹脂;ポリブチレン、ポリブタジエン、ポリクロロプレン等の合成ゴム;その他の合成木材、合成パルプ等、およびこれらの炭化物が挙げられる。これらの原料の中でも、量産対応およびコストの観点から、ヤシ殻、木粉等の植物系原料、およびそれらの炭化物が好ましく、ヤシ殻炭化物が特に好ましい。
【0031】
これらの原料を上記活性炭1とするための炭化および賦活の方式としては、例えば、固定床方式、移動床方式、流動床方式、スラリー方式、ロータリーキルン方式等の既知の方式を採用できる。
【0032】
これらの原料の炭化方法としては、窒素、二酸化炭素、ヘリウム、アルゴン、キセノン、ネオン、一酸化炭素、燃焼排ガス等の不活性ガス、またはこれらの不活性ガスを主成分とした他のガスとの混合ガスを使用して、400℃~700℃(好ましくは450℃~600℃)程度において、30分~10時間程度に亘って焼成する方法が挙げられる。
【0033】
上記で説明された炭化方法により得られた炭化物の賦活方法としては、水蒸気、二酸化炭素、酸素等の賦活ガスを用いて焼成するガス賦活法が好ましく用いられる。これらのうち、賦活ガスとして、水蒸気または二酸化炭素を使用する方法が好ましい。この賦活方法では、賦活ガスを0.5kg/h~3.0kg/h(好ましくは0.7kg/h~2.0kg/h)の割合で供給しながら、得られた炭化物を3時間~12時間(好ましくは5時間~11時間、より好ましくは6時間~10時間)掛けて800℃~1,000℃まで昇温して賦活するのが好ましい。
【0034】
さらに、上記で説明された炭化物の賦活処理に先立ち、予め炭化物を1次賦活してもよい。この1次賦活では、通常、炭素材料を水蒸気、二酸化炭素、酸素等の賦活ガスを用いて、900℃未満の温度で焼成してガス賦活する方法が、好ましく採用できる。
【0035】
上記で説明された炭化方法における焼成温度および焼成時間と、賦活方法における賦活ガス供給量、昇温速度および最高賦活温度とを適宜組み合わせることにより、本開示において使用できる活性炭1を製造することができる。
【0036】
活性炭1の平均粒子径は、2μm~20μmであることが好ましい。平均粒子径が2μm以上であると、活物質層の密度が高いために電極体積当たりの容量が高くなる傾向がある。なお、平均粒子径が小さいと耐久性が低いという欠点を招来する場合があるが、平均粒子径が2μm以上であればそのような欠点が生じ難い。一方で、平均粒子径が20μm以下であると、高速充放電には適合し易くなる傾向がある。活性炭1の平均粒子径は、より好ましくは2μm~15μmであり、さらに好ましくは3μm~10μmである。
【0037】
(活性炭2)
活性炭2のメソ孔量Vは、正極材料を蓄電素子に組み込んだときの出力特性を大きくする観点から、0.8cm/gより大きい値であることが好ましい。Vは、蓄電素子の容量の低下を抑える観点から、2.5cm/g以下であることが好ましい。Vは、より好ましくは1.00cm/g以上2.0cm/g以下、さらに好ましくは、1.2cm/g以上1.8cm/g以下である。
【0038】
活性炭2のマイクロ孔量Vは、活性炭の比表面積を大きくし、容量を増加させるために、0.8cm/gより大きい値であることが好ましい。Vは、活性炭の電極としての密度を増加させ、単位体積当たりの容量を増加させるという観点から、3.0cm/g以下であることが好ましい。Vは、より好ましくは1.0cm/gより大きく2.5cm/g以下、さらに好ましくは1.5cm/g以上2.5cm/g以下である。
【0039】
上述したメソ孔量およびマイクロ孔量を有する活性炭2は、従来の電気二重層キャパシタまたはリチウムイオンキャパシタ用として使用されていた活性炭よりもBET比表面積が高いものである。活性炭2のBET比表面積の具体的な値は、2,300m/g以上4,000m/g以下であることが好ましく、3,000m/g以上4,000m/g以下であることがより好ましく、3,200m/g以上3,800m/g以下であることがさらに好ましい。BET比表面積が2,300m/g以上の場合には、良好なエネルギー密度が得られ易く、BET比表面積が4,000m/g以下の場合には、電極の強度を保つために結着剤を多量に入れる必要がないので、電極体積当たりの性能が高くなる。
【0040】
上記のような特徴を有する活性炭2は、例えば次に説明するような原料および処理方法を用いて得ることができる。
【0041】
活性炭2の原料として用いられる炭素質材料としては、通常活性炭原料として用いられる炭素源であれば特に限定されるものではなく、例えば、木材、木粉、ヤシ殻等の植物系原料;石油ピッチ、コークス等の化石系原料;フェノール樹脂、フラン樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、レゾルシノール樹脂等の各種合成樹脂等が挙げられる。これらの原料の中でも、フェノール樹脂、およびフラン樹脂は、高比表面積の活性炭を作製するのに適しており特に好ましい。
【0042】
これらの原料を炭化する方式、或いは賦活処理時の加熱方法としては、例えば、固定床方式、移動床方式、流動床方式、スラリー方式、ロータリーキルン方式等の公知の方式が挙げられる。加熱時の雰囲気は窒素、二酸化炭素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス、またはこれらの不活性ガスを主成分として他のガスとの混合したガスが用いられる。炭化温度は400℃~700℃程度で、焼成時間は0.5時間~10時間程度で、焼成する方法が一般的である。
【0043】
炭化物の賦活方法としては、水蒸気、二酸化炭素、酸素等の賦活ガスを用いて焼成するガス賦活法、およびアルカリ金属化合物と混合した後に加熱処理を行うアルカリ金属賦活法があるが、高比表面積の活性炭を作製するにはアルカリ金属賦活法が好ましい。この賦活方法では、炭化物とKOH、NaOH等のアルカリ金属化合物との質量比が1:1以上(アルカリ金属化合物の量が、炭化物の量と同じかこれよりも多い量)となるように混合した後に、不活性ガス雰囲気下で600℃~900℃の範囲において、0.5時間~5時間加熱を行い、その後アルカリ金属化合物を酸および水により洗浄除去し、さらに乾燥を行ってもよい。
【0044】
マイクロ孔量を大きくし、メソ孔量を大きくしないためには、賦活する際に炭化物の量を多めにしてKOHと混合するとよい。マイクロ孔量およびメソ孔量の双方を大きくするためには、KOHの量を多めに使用するとよい。また、主としてメソ孔量を大きくするためには、アルカリ賦活処理を行った後に水蒸気賦活を行うことが好ましい。
【0045】
活性炭2の平均粒子径は、2μm以上20μm以下であることが好ましく、より好ましくは3μm以上10μm以下である。
【0046】
(活性炭の使用態様)
活性炭1および2は、それぞれ、1種の活性炭であってもよいし、2種以上の活性炭の混合物であって前記した各々の特性値を混合物全体として示すものであってもよい。上記の活性炭1および2は、これらのうちのいずれか一方を選択して使用してもよいし、両者を混合して使用してもよい。
【0047】
正極活物質は、活性炭1および2以外の材料(例えば、上記で説明された特定のVおよび/若しくはVを有さない活性炭、または活性炭以外の材料(例えば、導電性高分子等))を含んでもよい。例示の態様において、活性炭1および2の合計含有量は、40.0質量%以上70.0質量%以下であることが好ましく、より好ましくは45.0質量%以上65.0質量%以下である。活性炭1および2の合計含有量が40.0質量%以上であれば、エネルギー密度を高めることができ、70.0質量%以下であれば、高温耐久性と高電圧耐久性を向上させることができる。
【0048】
(アルカリ金属化合物)
正極活物質層は、上記正極活物質以外のアルカリ金属化合物を含む。アルカリ金属化合物は、ナトリウムイオン、及びカリウムイオンからなる群から選択される少なくとも一つのアルカリ金属イオンを陽イオンとする無機化合物である。アルカリ金属化合物は、正極前駆体中で分解して陽イオンを放出し、負極で還元されることにより、負極にプレドープすることが可能である。このようなアルカリ金属化合物としては、炭酸塩、炭酸水素化物、酸化物、及び水酸化物からなる群から選択される少なくとも一つが好適に用いられる。中でも、空気中での取り扱いが可能であり、単位質量当たりの容量が高いという観点からは、式MCO{式中、Mは、NaまたはKである。}で示されるアルカリ金属炭酸塩が好ましく、中でも、炭酸ナトリウム、及び炭酸カリウムからなる群から選択される少なくとも一つが、より好ましい。
【0049】
本開示に係る正極前駆体としては、少なくとも1種のアルカリ金属化合物を含んでいればよい。本開示に係る正極前駆体は、上記のアルカリ金属化合物とともに、ナトリウム(Na)、カリウム(K)等をアルカリ金属イオンとして含む炭酸水素化物、酸化物、水酸化物、ハロゲン化物、およびカルボン酸塩からなる群から選択される少なくとも一つのアルカリ金属化合物を含んでいてもよい。
【0050】
アルカリ金属化合物は、正極活物質の表面を被覆していることが好ましい。正極活物質の表面をアルカリ金属化合物が被覆することにより、正極活物質からアルカリ金属化合物への電子伝導性が高まり、アルカリ金属化合物の分解反応を効率よく進行させることができる。
【0051】
正極前駆体表面のSEM-EDXにより得られる炭素マッピングに対する酸素マッピングの面積重複率より算出される、正極活物質の表面へのアルカリ金属化合物の被覆率は、50%以上99%以下であり、60%以上98%以下が好ましく、65%以上97%以下がより好ましい。被覆率が50%以上であれば、アルカリ金属化合物への電子伝導が促進して分解反応を効率化できる。被覆率が99%以下であれば、電子伝導性の低いアルカリ金属化合物が正極活物質表面を完全に被覆していない状態であり、活物質粒子間の電子伝導性を高めることでアルカリ金属化合物への電子伝導を促し、分解反応を促進することができる。活物質表面にアルカリ金属化合物を被覆させる方法は、特に限定されないが、水系塗工液として水中にアルカリ金属化合物を溶解させ、電極化する際に正極活物質表面にアルカリ金属化合物を析出させる方法や、アルカリ金属化合物を含む水溶液を正極前駆体に含浸させ、水分の乾燥後にアルカリ金属化合物を析出させる方法などが挙げられる。
【0052】
正極活物質表面のアルカリ金属化合物の被覆率の測定方法は、走査型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分光法(SEM-EDX)画像から算出することができる。被覆率の測定方法としては、正極表面のSEM-EDXにより得られる元素マッピングにおいて、輝度値の平均値を基準に二値化した炭素マッピングに対して酸素マッピングの面積重複率を算出することで求められる。SEM-EDXの元素マッピングの測定条件としては、画素数は128×128ピクセル~512×512ピクセルの範囲、マッピング像において最大輝度値に達する画素がなく、輝度値の平均値が最大輝度値の40%~60%の範囲に入るように輝度及びコントラストを調整する。
【0053】
正極前駆体の正極活物質層に含まれるアルカリ金属化合物の量は、正極活物質層の全質量を100質量%としたときに、25.0質量%以上45.0質量%以下であることが好ましく、28.0質量%以上43.0質量%以下であることがより好ましく、30.0質量%以上42.0質量%以下であることがさらに好ましい。アルカリ金属化合物の量が25.0質量%以上であれば、負極に十分な量のアルカリ金属イオンをプレドープすることができ、非水系アルカリ金属蓄電素子の容量がより高まる。この値が45.0質量%以下であれば、正極前駆体中の電子伝導を高めてアルカリ金属化合物の分解をより効率よく行うことができ。また、正極前駆体中の正極活物質比率を高めることができるため、より高いエネルギー密度を有する非水系アルカリ金属蓄電素子を提供することが。
【0054】
上記アルカリ金属化合物又はアルカリ金属化合物に由来するアルカリ金属元素の定量は、誘導結合プラズマ-発光分光分析法(ICP-AES)、原子吸光分析法、蛍光X線分析法、中性子放射化分析法、誘導結合プラズマ-質量分析法(ICP-MS)等により行うことができる。
【0055】
(分散剤)
正極活物質層は、分散剤として、ポリカルボン酸を含む。ポリカルボン酸としては、例えば、ポリアクリル酸、ポリグルタミン酸、ポリマレイン酸、及びこれらの共重合体からなる群から選択される少なくとも一つが好ましい。この中でも特に、ポリアクリル酸ナトリウム、及びポリアクリル酸カリウムからなる群から選択される少なくとも一つが好ましい。また、ポリカルボン酸の他に、カルボキシメチルセルロース(CMC)、及びカルボキシメチルセルロース塩からなる群から選択される少なくとも一つをさらに含むことが、特に好ましい。
【0056】
一般に、アルカリ金属化合物、例えば炭酸ナトリウム、及び炭酸カリウム等は、水への溶解度が高い。例えば、25℃での水100gへの溶解度は、炭酸リチウムが1gであるのに対し、炭酸ナトリウムは30g、炭酸カリウムは112gである。したがって、アルカリ金属化合物を溶解させた正極塗工液を正極集電体上に塗布及び乾燥することで正極活物質表面にアルカリ金属化合物を析出させることができるが、一方で、正極塗工液は高い塩基性を示す。これに関し、発明者らは、炭酸リチウムを用いた正極塗工液では、分散剤としてカルボキシメチルセルロース(CMC)やその塩を使用できるのに対し、アルカリ金属化合物を用いた場合には、高いpHのためCMCが加水分解してしまい、分散剤として機能しなくなる傾向があることを見いだした。その結果、正極塗工液中の粒子が凝集するなどして分散性が不十分となり、これより、塗工液の塗布、乾燥後に活物質嵩密度の低下、及び粒子間の電子伝導性の低下を引き起こす傾向があることが分かった。
【0057】
理論に限定されないが、ポリアクリル酸等のポリカルボン酸は、強塩基性水溶液中での安定性が高く、アルカリ金属化合物を含む正極塗工液中で高い分散性を発現することができる。また、ポリカルボン酸は、酸性官能基としてカルボキシル基を有するため、アルカリ金属化合物を含む正極塗工液のpHを安定化させ、ポリカルボン酸存在下ではCMC又はその塩を分散剤として使用することができ、ポリカルボン酸とCMC又はその塩とを共用することで正極塗工液の分散性をさらに向上させることができる。正極塗工液中のアルカリ金属化合物の分散性が向上することで、正極活物質表面へのアルカリ金属化合物の被覆率が高くなり、アルカリ金属化合物との接触面積が増大する。その結果、プレドープ反応を効率よく促進させることができ、蓄電素子における正極活物質層の高容量密度化、及び高出力を達成することができると考えられる。
【0058】
分散剤の総使用量は、正極活物質層中の固形分100質量%に対して、好ましくは0.1質量%以上10.0質量%以下である。分散剤の量が10.0質量%以下であれば、活物質へのイオンの出入りおよび拡散を阻害せず、高い入出力特性が発現される。
【0059】
(その他の成分)
本開示における正極前駆体の正極活物質層には、活性炭を含む正極活物質、アルカリ金属化合物、及びポリカルボン酸塩を含む分散剤の他に、必要に応じて、例えば、導電性フィラー、結着剤、及びpH調整剤等の任意成分を含んでいてもよい。
【0060】
結着剤としては、例えば、ラテックス、スチレン-ブタジエン共重合体、アクリル共重合体等を使用することができる。正極活物質層における結着剤の使用量は、正極活物質100質量%に対して、0質量%~20質量%が好ましく、0.1質量%~15質量%の範囲がさらに好ましい。
【0061】
導電性フィラーは、正極活物質よりも導電性の高い導電性炭素質材料を含むことが好ましい。このような導電性フィラーとしては、例えば、カーボンブラック、黒鉛、グラフェン、カーボンナノチューブ等、およびこれらの混合物等から選択される1種以上が好ましい。カーボンブラックは、例えば、例えば、ケッチェンブラック、アセチレンブラック等を包含する。黒鉛は、例えば、鱗片状黒鉛等を包含する。導電性フィラーとしては、特にカーボンブラック、またはカーボンナノチューブが好適に用いられる。
【0062】
正極前駆体の正極活物質層における導電性フィラーの含有割合は、正極活物質100質量%に対して、0質量%~20質量%が好ましく、1質量%~15質量%の範囲がより好ましい。導電性フィラーは、高入力の観点からは、できるだけ多く配合する方が好ましい。しかしながら、配合量が20質量%よりも多くなると、正極活物質層における正極活物質の含有割合が少なくなるために、正極活物質層体積当たりのエネルギー密度が低下するので、20質量%以下に調整されることが好ましい。
【0063】
アルカリ金属化合物を加えることによって塗工液がアルカリ性になるため、正極活物質層形成用の塗工液には、必要に応じてpH調整剤を塗工液に添加してもよい。pH調整剤としては、特に制限されるものではないが、例えば、フッ化水素、塩化水素、臭化水素等のハロゲン化水素;次亜塩素酸、亜塩素酸、塩素酸等のハロゲンオキソ酸;蟻酸、酢酸、クエン酸、シュウ酸、乳酸、マレイン酸、フマル酸等のカルボン酸;メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸等のスルホン酸;硝酸、硫酸、リン酸、ホウ酸、二酸化炭素等の酸等を用いることができる。
【0064】
[正極集電体]
正極集電体を構成する材料としては、電子伝導性が高く、電解液への溶出および電解質またはイオンとの反応等による劣化が起こらない材料であれば特に制限はないが、金属箔が好ましい。本開示に係る非水系アルカリ金属蓄電素子又はその前駆体における正極集電体としては、アルミニウムを含むことが好ましく、アルミニウム箔がより好ましい。
【0065】
金属箔は凹凸または貫通孔を持たない通常の金属箔でもよいし、エンボス加工、ケミカルエッチング、電解析出法、ブラスト加工等を施した凹凸を有する金属箔でもよいし、エキスパンドメタル、パンチングメタル、エッチング箔等の貫通孔を有する金属箔でもよい。
【0066】
後述されるアルカリ金属ドープ工程の観点からは、無孔状のアルミニウム箔がさらに好ましく、アルミニウム箔の表面が粗面化されていることが特に好ましい。
【0067】
正極集電体の厚みは、正極の形状および強度を十分に保持できれば特に制限はないが、例えば、1μm~100μmであることが好ましい。
【0068】
上記金属箔の表面に、例えば黒鉛、鱗片状黒鉛、カーボンナノチューブ、グラフェン、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、気相成長炭素繊維等の導電性材料を含むアンカー層を設けることが好ましい。アンカー層を設けることで正極集電体と正極活物質層間の電気伝導が向上し、低抵抗化できる。アンカー層の厚みは、正極集電体の片面当たり0.1μm以上5μm以下であることが好ましい。
【0069】
[正極前駆体の製造]
本開示において、非水系アルカリ金属蓄電素子の正極となる正極前駆体は、既知のリチウムイオン電池、電気二重層キャパシタ等における電極の製造技術に準じて製造することが可能である。例えば、正極活物質およびアルカリ金属化合物、ならびに必要に応じて使用されるその他の任意成分を水または有機溶剤中に分散または溶解してスラリー状の塗工液を調製し、この塗工液を正極集電体上の片面または両面に塗工して塗膜を形成し、これを乾燥することにより正極前駆体を得ることができる。さらに、得られた正極前駆体にプレスを施して、正極活物質層の膜厚または嵩密度を調整してもよい。
【0070】
正極活物質層形成用塗工液の調製方法は、特に制限されるものではないが、好適にはホモディスパー、多軸分散機、プラネタリーミキサー、薄膜旋回型高速ミキサー等の分散機を用いて行うことができる。良好な分散状態の塗工液を得るためには、塗工液を、周速1m/s以上50m/s以下で分散することが好ましい。周速1m/s以上であれば、各種材料が良好に溶解または分散するため好ましい。周速50m/s以下であれば、分散による熱またはせん断力により各種材料が破壊されることなく、再凝集が抑制されるため、好ましい。
【0071】
塗工液の分散度は、粒ゲージで測定した粒度が0.1μm以上100μm以下であることが好ましい。分散度の上限としては、粒ゲージで測定した粒度として、より好ましくは80μm以下、さらに好ましくは50μm以下である。この範囲の粒度であれば、塗工液の調製時に、材料を破砕することなく、塗工時のノズルの詰まり、塗膜のスジ発生等が抑制され、安定な塗工ができることとなる。
【0072】
塗工液の粘度(ηb)は、100mPa・s以上10,000mPa・s以下が好ましく、より好ましくは300mPa・s以上5,000mPa・s以下、さらに好ましくは500mPa・s以上3,000mPa・s以下である。粘度(ηb)が100mPa・s以上であれば、塗膜形成時の液ダレが抑制され、塗膜幅および厚みが良好に制御できる。また、粘度が10,000mPa・s以下であれば、塗工機を用いた際の塗工液の流路における圧力損失が少なく、安定に塗工でき、塗膜厚みの制御が容易となる。
【0073】
塗工液のTI値(チクソトロピーインデックス値)は、1.1以上5.0以下が好ましく、より好ましくは1.2以上4.5以下、さらに好ましくは1.5以上4.0以下である。TI値が1.1以上であれば、塗膜幅および厚みが良好に制御できる。TI値が5.0以下であれば、正極前駆体中の活物質層嵩密度を高め、活物質粒子間の電子伝導性を高めることができる。
【0074】
正極活物質層の塗膜の形成には、特に制限されるものではないが、好適にはダイコーターまたはコンマコーター、ナイフコーター、グラビア塗工機等の塗工機を用いることができる。塗膜は単層塗工で形成してもよいし、多層塗工して形成してもよい。多層塗工の場合には、塗膜各層内の成分の含有量が異なるように塗工液組成を調整してもよい。
【0075】
正極集電体上に塗膜を塗工する際、多条塗工してもよいし、間欠塗工してもよいし、多条間欠塗工してもよい。
【0076】
正極集電体の両面に正極活物質層を形成する場合、正極集電体の片面に塗工、乾燥し、その後もう一方の面に塗工、乾燥する逐次塗工を行ってもよいし、正極集電体の両面に同時に塗工液を塗工、乾燥する両面同時塗工を行ってもよい。また、この場合、正極集電体の表面および裏面の正極活物質層の厚みの差は、両者の平均厚みの10%以下であることが好ましい。表面および裏面における正極活物質層の質量比、および膜厚比が1.0に近いほど、一方の面に充放電の負荷が集中することがないため、高負荷充放電サイクル特性が向上する。
【0077】
正極集電体上に正極活物質層の塗膜を形成した後、その塗膜の乾燥を行う。正極前駆体の塗膜の乾燥は、好ましくは熱風乾燥、赤外線(IR)乾燥等の適宜の乾燥方法により、好ましくは遠赤外線、近赤外線、または熱風で行なわれる。塗膜の乾燥は、単一の温度で乾燥させてもよいし、多段的に温度を変えて乾燥させてもよい。複数の乾燥方法を組み合わせて乾燥させてもよい。
【0078】
乾燥温度は、25℃以上200℃以下であることが好ましく、より好ましくは40℃以上180℃以下、さらに好ましくは50℃以上160℃以下である。乾燥温度が25℃以上であれば、塗膜中の溶媒を十分に揮発させることが出来る。他方、200℃以下であれば、急激な溶媒の揮発による塗膜のヒビ割れまたはマイグレーションによる結着剤の偏在、正極集電体または正極活物質層の酸化を抑制できる。
【0079】
乾燥後の正極活物質層に含まれる水分は、正極活物質層の全質量を100質量%としたときに、0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましい。水分量が0.1質量%以上であれば、過剰な乾燥による結着剤の劣化を抑え、低抵抗化できる。水分量が10質量%以下であれば、アルカリ金属イオンの失活を抑え、高容量化できる。
【0080】
正極活物質層に含まれる水分量は、例えばカールフィッシャー滴定法(JIS 0068(2001)「化学製品の水分測定方法」)により測定することができる。
【0081】
正極活物質層のプレスには、好適には、油圧プレス機、真空プレス機、ロールプレス機等の適宜のプレス機を用いることができる。正極活物質層の膜厚、嵩密度および電極強度は、後述するプレス圧力、プレスロール間の隙間、プレス部の表面温度により調整できる。プレス圧力は、0.5kN/cm以上20kN/cm以下であることが好ましく、より好ましくは1kN/cm以上10kN/cm以下、さらに好ましくは2kN/cm以上7kN/cm以下である。プレス圧力が0.5kN/cm以上であれば、電極強度を十分に高くできる。他方、プレス圧力が20kN/cm以下であれば、正極に撓みおよびシワが生じることがなく、正極活物質層を所望の膜厚または嵩密度に調整できる。
【0082】
プレスにロールプレス機を使用する場合、プレスロール間の隙間としては、正極活物質層が所望の厚みおよび嵩密度となるように、適宜の値を設定できる。プレス速度は、正極に撓みおよびシワが生じない適宜の速度に設定できる。
【0083】
プレス部の表面温度は室温でもよいし、必要によりプレス部を加熱してもよい。加熱する場合のプレス部の表面温度の下限は、使用する結着剤の融点マイナス60℃以上が好ましく、より好ましくは結着剤の融点マイナス45℃以上、さらに好ましくは結着剤の融点マイナス30℃以上である。他方、加熱する場合のプレス部の表面温度の上限は、使用する結着剤の融点プラス50℃以下が好ましく、より好ましくは結着剤融点プラス30℃以下、さらに好ましくは結着剤の融点プラス20℃以下である。例えば、結着剤にスチレン-ブタジエン共重合体(融点100℃)を用いた場合、プレス部を、40℃以上150℃以下に加温することが好ましく、より好ましくは55℃以上130℃以下、さらに好ましくは70℃以上120℃以下に加温することである。
【0084】
結着剤の融点は、DSC(Differential Scanning Calorimetry、示差走査熱量分析)の吸熱ピーク位置で求めることができる。例えば、パーキンエルマー社製の示差走査熱量計「DSC7」を用いて、試料樹脂10mgを測定セルにセットし、窒素ガス雰囲気中で、温度30℃から10℃/分の昇温速度で250℃まで昇温したときに、昇温過程における吸熱ピーク温度が融点となる。
【0085】
プレス圧力、隙間、速度、プレス部の表面温度の条件を変えながら複数回プレスを実施してもよい。
【0086】
正極活物質層を多条塗工した場合には、プレスの前にスリットすることが好ましい。多条塗工された正極活物質層をスリットせずに正極のプレスを行うと、正極活物質層が塗工されていない正極集電体部分に過剰の応力が掛かり、皺ができる場合がある。プレス後に、正極活物質層を再度スリットしてもよい。
【0087】
正極活物質層の厚みは、正極集電体の片面当たり10μm以上200μm以下であることが好ましい。正極活物質層の厚みは、より好ましくは片面当たり20μm以上150μm以下であり、さらに好ましくは30μm以上100μm以下である。この厚みが10μm以上であれば、十分な充放電容量を発現することができる。他方、この厚みが200μm以下であれば、電極内のイオン拡散抵抗を低く維持することができる。そのため、十分な出力特性が得られるとともに、セル体積を縮小することができ、従ってエネルギー密度を高めることができる。なお、正極集電体が貫通孔または凹凸を有する場合における正極活物質層の厚みとは、正極集電体の貫通孔または凹凸を有していない部分の片面当たりの厚みの平均値をいう。
【0088】
〈負極〉
負極は、負極集電体と、その片面または両面上に存在する負極活物質層とを有する。
【0089】
[負極活物質層]
負極活物質層は、負極活物質を含み、これ以外に、必要に応じて、分散剤、導電性フィラー、結着剤等の任意成分を含んでよい。
【0090】
(負極活物質)
負極活物質は、アルカリ金属イオンを吸蔵・放出可能な物質を用いることができる。具体的には、炭素材料、活性炭、チタン酸化物等が例示される。
【0091】
負極活物質は炭素材料を含み、好ましくは負極活物質の総量に対する炭素材料の含有率が50質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上である。炭素材料の含有率は、100質量%であることができるが、他の材料の併用による効果を良好に得る観点から、例えば、97質量%以下であることが好ましく、95質量%以下でもよい。炭素材料の含有率の範囲の上限と下限は、任意に組み合わせることができる。
【0092】
炭素材料としては、例えば、難黒鉛化性炭素材料;易黒鉛化性炭素材料;カーボンナノ粒子;人造黒鉛;天然黒鉛;黒鉛化メソフェーズカーボン小球体を挙げることができる。
【0093】
本開示では、アルカリ金属イオンとしてナトリウムイオンを用いる場合、これらの中でも、負極へのプレドープ量を高める観点から、難黒鉛化性炭素材料が好適に用いられる。
【0094】
本開示では、アルカリ金属イオンとしてカリウムイオンを用いる場合、これらの中でも、負極の抵抗を低くする観点から、人造黒鉛、天然黒鉛、黒鉛化メソフェーズカーボン小球体等から選択される黒鉛質材料1種以上と、
石油系のピッチ、石炭系のピッチ、メソカーボンマイクロビーズ、コークス、合成樹脂(例えばフェノール樹脂等)等の炭素質材料前駆体1種以上と
を共存させた状態で熱処理を行い、黒鉛質材料と炭素質材料前駆体由来の炭素質材料とを複合させた複合炭素材料を用いることが好ましい。
【0095】
炭素質材料前駆体としては、熱処理により炭素質材料となるものであれば特に制限はないが、石油系のピッチまたは石炭系のピッチが特に好ましい。
【0096】
熱処理を行う前に、炭素質材料前駆体の融点より高い温度において、黒鉛質材料と炭素質材料前駆体とを混合してもよい。熱処理温度は、使用する炭素質材料前駆体の揮発または熱分解によって発生する成分が炭素質材料となる温度であればよいが、好ましくは400℃以上2,500℃以下、より好ましくは500℃以上2,000℃以下、さらに好ましくは550℃以上1,500℃以下である。熱処理を行う雰囲気は特に制限はないが、非酸化性雰囲気が好ましい。
【0097】
負極活物質は、高負荷充放電サイクル特性と出力特性のバランスの観点から、粒子状であることが好ましい。
【0098】
負極前駆体の負極活物質層における負極活物質の含有割合は、負極活物質層の全質量を位基準として、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましい。また、この含有割合の上限値は、例えば、100質量%以下、又は100質量%未満でよい。
【0099】
(負極活物質層中のその他の成分)
負極活物質層中の分散剤、導電性フィラー、および結着剤は、それぞれ、正極活物質層中の分散剤、導電性フィラー、および結着剤として上記に例示したものから適宜選択して使用してよい。
【0100】
負極活物質層中の分散剤、および結着剤の含有割合は、それぞれ、正極活物質中の分散剤、および結着剤の含有割合として上記した範囲内であってよい。
【0101】
[負極集電体]
負極集電体を構成する材料としては、電子伝導性が高く、電解液への溶出、電解質またはイオンとの反応による劣化等が起こらない材料であることが好ましく、例えば金属箔であってよい。このような金属箔としては、特に制限はなく、例えば、アルミニウム箔、銅箔、ニッケル箔、ステンレス鋼箔等が挙げられる。本開示に係る非水系アルカリ金属蓄電素子における負極集電体としては、アルミニウムを含むものが好ましく、アルミニウム箔がより好適に用いられる。
【0102】
負極集電体としての金属箔は、凹凸または貫通孔を持たない通常の金属箔でもよいし、エンボス加工、ケミカルエッチング、電解析出法、ブラスト加工等を施した凹凸を有する金属箔でもよいし、エキスパンドメタル、パンチングメタル、エッチング箔等の貫通孔を有する金属箔でもよい。
【0103】
負極集電体の厚みは、負極の形状および強度を十分に保持できれば特に制限はないが、例えば、1μm~100μmである。
【0104】
[負極の製造]
負極は、負極集電体の片面上または両面上に負極活物質層を有する。典型的な態様において、負極活物質層は負極集電体に固着している。
【0105】
負極は、既知のリチウムイオン電池、電気二重層キャパシタ等における電極の製造技術によって製造することが可能である。例えば、負極活物質を含む各種材料を水または有機溶剤中に分散または溶解してスラリー状の塗工液を調製し、この塗工液を負極集電体上の片面または両面に塗工して塗膜を形成し、これを乾燥することにより、負極を得ることができる。さらに得られた負極にプレスを施して、負極活物質層の膜厚または嵩密度を調整してもよい。
【0106】
負極活物質層形成用塗工液の調製、負極集電体上への塗工液の塗工、塗膜の乾燥、およびプレスは、それぞれ、正極前駆体の製造について上述した方法に準じて行うことができる。
【0107】
負極活物質層の厚みは、好ましくは、負極集電体の片面当たり10μm以上70μm以下であり、より好ましくは15μm以上60μm以下である。この厚みが10μm以上であれば、良好な充放電容量を発現することができる。他方、この厚みが70μm以下であれば、セル体積を縮小することができるから、エネルギー密度を高めることができる。なお、負極集電体に孔がある場合の負極活物質層の厚みとは、それぞれ、負極集電体の孔を有していない部分の片面当たりの厚みの平均値をいう。
【0108】
〈セパレータ〉
正極前駆体および負極は、セパレータを介して積層され、または積層および捲回され、正極前駆体、負極およびセパレータを有する電極積層体または電極捲回体が形成される。
【0109】
セパレータとしては、リチウムイオン二次電池に用いられるポリエチレン製の微多孔膜若しくはポリプロピレン製の微多孔膜、または電気二重層キャパシタで用いられるセルロース製の不織紙、ガラス繊維等から形成される織布又は不織布セパレータ、ガラス粒子又はシリカ粒子含有層が基材に積層されたセパレータ等を用いることができる。これらのセパレータの片面または両面に、有機または無機の微粒子からなる膜が積層されていてもよい。また、セパレータの内部に有機または無機の微粒子が含まれていてもよい。
【0110】
セパレータの厚みは5μm以上35μm以下が好ましい。5μm以上の厚みとすることにより、内部のマイクロショートによる自己放電が小さくなる傾向があるため好ましい。他方、35μm以下の厚みとすることにより、蓄電素子の出力特性が高くなる傾向があるため好ましい。
【0111】
有機または無機の微粒子からなる膜の厚みは、1μm以上10μm以下が好ましい。この膜を1μm以上の厚みとすることにより、内部のマイクロショートによる自己放電が小さくなる傾向があるため好ましい。他方、この膜を10μm以下の厚みとすることにより、蓄電素子の出力特性が高くなる傾向があるため好ましい。
【0112】
〈外装体〉
外装体としては、金属缶、ラミネートフィルム等を使用できる。金属缶としては、アルミニウム製のものが好ましい。金属缶は、例えば、角形、丸型、円筒型等の形態でよい。ラミネートフィルムとしては、金属箔と樹脂フィルムとを積層したフィルムが好ましく、外層樹脂フィルム/金属箔/内装樹脂フィルムから成る3層構成のものが例示される。外層樹脂フィルムは、接触等により金属箔が損傷を受けることを防止するためのものであり、ナイロンまたはポリエステル等の樹脂が好適に使用できる。金属箔は水分およびガスの透過を防ぐためのものであり、銅、アルミニウム、ステンレス等の箔が好適に使用できる。また、内装樹脂フィルムは、内部に収納する電解液から金属箔を保護するとともに、外装体のヒートシール時に溶融封口させるためのものであり、ポリオレフィン、酸変性ポリオレフィン等が好適に使用できる。
【0113】
〈電解液〉
本開示における電解液は、非水系電解液である。すなわち、この電解液は、非水溶媒を含む。非水系電解液に含まれる非水溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等に代表される環状カーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等に代表される鎖状カーボネートが挙げられる。非水系電解液は、ナトリウムイオンまたはカリウムイオンから選ばれる少なくとも一種のアルカリ金属イオンを含有することが好ましい。すなわち、非水系電解液は、ナトリウム塩またはカリウム塩から選ばれる少なくとも一種のアルカリ金属塩を電解質塩として含むことが好ましい。非水系電解液は、極低温環境下での電解質塩の析出を抑制し、内部抵抗の上昇を抑制する観点で、ナトリウムイオン及びカリウムイオンの両方を含有することがより好ましい。
【0114】
上記のような非水溶媒に溶解するアルカリ金属イオンを含む電解質塩としては、好ましくは、非水溶媒に溶解し、ナトリウムイオンまたはカリウムイオンから選ばれる少なくとも一種のアルカリ金属イオンを提供する電解質塩である。電解質塩としては、より具体的には、例えば、MFSI、MTFSI、MBF、MPF、M(C、MBF(C)及びMClO{それぞれの式中、Mは、NaまたはKである。}等から選ばれる1種以上を用いることができる。
【0115】
電解液における電解質塩濃度は、0.5mol/L以上であることが好ましく、0.5mol/L~2.0mol/Lの範囲内にあることがより好ましい。0.5mol/L以上の電解質塩濃度では、アニオンが十分に存在し、非水系アルカリ金属蓄電素子の容量が維持される。一方で、2.0mol/L以下の電解質塩濃度では、塩が電解液中で十分に溶解し、電解液の適切な粘度および伝導度が保たれる。
【0116】
《非水系アルカリ金属蓄電素子の製造方法》
本開示に係る非水系アルカリ金属蓄電素子の製造方法の一例は、以下の工程:
(1)活性炭を含む正極活物質、上記正極活物質以外のアルカリ金属化合物、及びポリカルボン酸塩を含む正極前駆体と、負極とを、セパレータを介して積層させた電極体を、外装体に収納する工程、
(2)アルカリ金属イオンを含有する電解質を含む非水系電解液を外装体内に注入して、非水系アルカリ金属蓄電素子を作製する工程、並びに
(3)正極前駆体と負極との間に電圧を印加して、アルカリ金属化合物を分解する工程
を、工程(1)、(2)、(3)の順で含んでよい。
【0117】
工程(1)~(3)を含む非水系アルカリ金属蓄電素子の製造方法は、非水系アルカリ金属蓄電素子について上述された部材、材料、条件などを用いて行うことができる。工程(1)は、電極体を作製するための組立工程、及び電極体を外装体に収納する収納工程を含んでよい。工程(2)は、所望により、外装体内への電解液の注液工程に加えて、電極体を非水系電解液に含浸する含浸工程、外装体の封止工程などを含んでよい。アルカリ金属イオンは、ナトリウムイオンまたはカリウムイオンから選ばれる少なくとも一種のアルカリ金属イオンであることが好ましい。工程(3)は、負極活物質層にアルカリ金属イオンをプレドープするアルカリ金属ドープ工程、ガス抜き工程などを含んでよい。所望により、工程(3)後に、エージング工程、更なるガス抜き工程などを行なってよい。
【0118】
[組立工程、電極体の作製]
電極体は、電極積層体又は電極捲回体であってよい。一実施形態の組立工程では、例えば、枚葉の形状にカットした正極前駆体および負極を、セパレータを介して積層して積層体を作製し、積層体に正極端子および負極端子を接続して、電極積層体を作製する。別の実施形態では、正極前駆体および負極を、セパレータを介して積層および捲回して捲回体を作製し、捲回体に正極端子および負極端子を接続して、電極捲回体を作製してもよい。電極捲回体の形状は円筒型であっても、扁平型であってもよい。正極端子および負極端子の接続の方法は特に限定されないが、抵抗溶接、超音波溶接等の方法を用いることができる。
【0119】
端子を接続した電極体(電極積層体、または電極捲回体)を乾燥して、残存溶媒を除去することが好ましい。乾燥方法は限定されないが、真空乾燥等により乾燥することができる。残存溶媒は、正極活物質層または負極活物質層の合計質量当たり、1.5質量%以下であることが好ましい。残存溶媒が1.5質量%より多いと、系内に溶媒が残存し、自己放電特性を悪化させるため好ましくない。
【0120】
乾燥した電極体は、好ましくは露点-40℃以下のドライ環境下にて、金属缶またはラミネートフィルムに代表される外装体の中に収納し、非水系電解液を注液するための開口部を1方だけ残して封止することが好ましい。露点が-40℃より高いと、電極体に水分が付着してしまい、系内に水が残存し、自己放電特性を悪化させるため好ましくない。外装体の封止方法は特に限定されないが、ヒートシール、インパルスシール等の方法を用いることができる。
【0121】
[注液、含浸、封止工程]
組立工程後に、外装体の中に収納された電極体に、非水系電解液を注液する。注液後に、さらに含浸を行い、正極又はその前駆体、負極、およびセパレータを非水系電解液で十分に浸すことが好ましい。正極又はその前駆体、負極、およびセパレータのうちの少なくとも一部に電解液が浸っていない状態では、後述するアルカリ金属ドープ工程において、アルカリ金属ドープが不均一に進むため、得られる非水系アルカリ金属蓄電素子の抵抗が上昇したり、耐久性が低下したりする。含浸の方法としては、特に制限されないが、例えば、注液後の電極体を、外装体が開口した状態で、減圧チャンバーに設置し、真空ポンプを用いてチャンバー内を減圧状態にし、再度大気圧に戻す方法等を用いることができる。含浸後に、外装体が開口した状態の電極体を減圧しながら封止することで密閉することができる。
【0122】
[アルカリ金属ドープ工程]
アルカリ金属ドープ工程では、正極前駆体と負極との間に電圧を印加して、正極前駆体中に好ましく含まれるアルカリ金属化合物を分解して、アルカリ金属イオンを放出し、負極でアルカリ金属イオンを還元することにより、負極活物質層にアルカリ金属イオンをプレドープすることが好ましい。正極活物質表面をアルカリ金属化合物が被覆していることにより、負極へのアルカリ金属イオンのプレドープに伴って、正極活物質表面のアルカリ金属化合物が分解されて、正極活物質層の実効面積が増大する。
【0123】
アルカリ金属ドープ工程において、正極前駆体中のアルカリ金属化合物の酸化分解に伴い、CO等のガスが発生する。そのため、電圧を印加する際には、発生したガスを外装体の外部に放出する手段を講ずることが好ましい。この手段としては、例えば、外装体の一部を開口させた状態で電圧を印加する方法;外装体の一部に予めガス抜き弁、ガス透過フィルム等の適宜のガス放出手段を設置した状態で電圧を印加する方法;等を挙げることができる。
【0124】
[エージング工程]
アルカリ金属ドープ工程後に、電極体にエージングを行うことが好ましい。エージング工程では、電解液中の溶媒が負極で分解し、負極表面にアルカリ金属イオン透過性の固体高分子被膜が形成される。エージングの方法としては、特に制限されないが、例えば高温環境下で電解液中の溶媒を反応させる方法等を用いることができる。
【0125】
[ガス抜き工程]
エージング工程後に、さらにガス抜きを行い、電解液、正極、および負極中に残存しているガスを確実に除去することが好ましい。電解液、正極、および負極の少なくとも一部にガスが残存している状態では、イオン伝導が阻害されるため、得られる非水系アルカリ金属蓄電素子の抵抗が上昇してしまう。ガス抜きの方法としては、特に制限されないが、例えば、外装体を開口した状態で電極体を減圧チャンバーに設置し、真空ポンプを用いてチャンバー内を減圧状態にする方法等を用いることができる。ガス抜き後、外装体をシールすることにより外装体を密閉し、非水系アルカリ金属蓄電素子を作製することができる。
【実施例0126】
以下、実施例および比較例を示して本開示の実施形態を具体的に説明する。しかしながら、本開示は、以下の実施例および比較例により、何ら限定されるものではない。
【0127】
《測定及び評価方法》
[アルカリ金属化合物の定量方法]
正極前駆体中に含まれるアルカリ金属化合物の定量方法を以下に記載する。正極前駆体を蒸留水で洗浄し、洗浄前後の正極前駆体の重量変化からアルカリ金属化合物を定量することができる。測定する正極前駆体の面積は特に制限されないが、測定のばらつきを軽減するという観点から5cm以上200cm以下であることが好ましく、更に好ましくは25cm以上150cm以下である。面積が5cm以上あれば測定の再現性が確保される。面積が200cm以下であればサンプルの取扱い性に優れる。
【0128】
正極前駆体の洗浄方法を以下に示す。正極前駆体の重量をM(g)とし、正極前駆体の重量の100倍(100M(g))の蒸留水に3時間以上十分に浸漬させる。この時、蒸留水が揮発しないよう容器に蓋をする等の対策を施すことが好ましい。3時間以上浸漬させた後、蒸留水から正極前駆体を取り出し、真空乾燥する。真空乾燥の条件は、温度:100~200℃、圧力:0~100kPa、時間:1~20時間の範囲で正極前駆体中の水分の残存量が1質量%以下になる条件とする。この時の正極前駆体の重量をM(g)とし、続いて、得られた正極前駆体の集電体の重量を測定するため、スパチュラ、ブラシ、刷毛等を用いて集電体上の正極活物質層を取り除く。得られた正極集電体の重量をM(g)とすると、正極前駆体中に含まれるアルカリ金属化合物の質量%であるZは、下記(1)式にて算出できる。
Z=100×[1-(M-M)/(M-M)] (1)
【0129】
[蓄電素子の特性評価]
(静電容量)
本開示において、静電容量F(F)とは、以下の方法によって得られる値である:
先ず、非水系アルカリ金属蓄電素子と対応するセルを25℃に設定した恒温槽内で、2Cの電流値で3.8Vに到達するまで定電流充電を行い、続いて3.8Vの定電圧を印加する定電圧充電を合計で30分行う。その後、2.2Vまで2Cの電流値で定電流放電を施した際の容量をQ(C)とする。ここで得られたQ及び電圧変化ΔE(V)を用いて、静電容量F=Q/ΔE=Q/(3.8-2.2)により算出される値をいう。ここで電流の放電レート(「Cレート」とも呼ばれる)とは、放電容量に対する放電時の電流の相対的な比率であり、一般に、上限電圧から下限電圧まで定電流放電を行う際、1時間で放電が完了する電流値のことを1Cという。本開示において、上限電圧3.8Vから下限電圧2.2Vまで定電流放電を行う際に1時間で放電が完了する電流値のことを1Cとする。
【0130】
(内部抵抗)
本開示において、内部抵抗R(Ω)とは、それぞれ、以下の方法によって得られる値である。先ず、非水系アルカリ金属蓄電素子を25℃に設定した恒温槽内で、2Cの電流値で3.8Vに到達するまで定電流充電し、続いて3.8Vの定電圧を印加する定電圧充電を合計で30分間行う。続いて、サンプリング間隔を0.1秒とし、20Cの電流値で2.2Vまで定電流放電を行って、放電カーブ(時間-電圧)を得る。この放電カーブにおいて、放電時間2秒及び4秒の時点における電圧値から、直線近似にて外挿して得られる放電時間=0秒における電圧をEoとしたときに、降下電圧ΔE=3.8-EoからR=ΔE/(20Cの電流値)として算出される値である。また、本開示において、内部抵抗Rb(Ω)とは、非水系アルカリ金属蓄電素子を-25℃に設定した恒温槽内で測定する以外は、上記内部抵抗R(Ω)と同様に測定した内部抵抗の値である。
【0131】
《実施例1》
<正極活物質の調製>
破砕されたヤシ殻炭化物を小型炭化炉内へ入れ、窒素雰囲気下、500℃で3時間炭化処理して炭化物を得た。得られた炭化物を賦活炉内へ入れ、予熱炉で加温した水蒸気を1kg/hで賦活炉内へ導入し、900℃まで8時間掛けて昇温して賦活した。賦活後の炭化物を取り出し、窒素雰囲気下で冷却して、賦活された活性炭を得た。得られた賦活された活性炭を10時間通水洗浄した後に水切りし、115℃に保持された電気乾燥機内で10時間乾燥した。その後に、乾燥された活性炭に対してボールミルで1時間粉砕を行うことにより、活性炭1を得た。
【0132】
島津製作所社製レーザー回折式粒度分布測定装置(SALD-2000J)を用いて、活性炭1の平均粒子径を測定した結果、5.5μmであった。また、ユアサアイオニクス社製細孔分布測定装置(AUTOSORB-1 AS-1-MP)を用いて、活性炭1の細孔分布を測定した。その結果、BET比表面積が2360m/g、メソ孔量(V)が0.52cm/g、マイクロ孔量(V)が0.88cm/g、V/V=0.59であった。
【0133】
<正極前駆体の製造例1>
市販のポリアクリル酸を蒸留水に溶解させ、炭酸カリウムで中和することにより、ポリアクリル酸カリウムの濃度が5wt%である分散剤溶液1を得た。活性炭1を52.0質量%、炭酸カリウム(KCO)を38.0質量%、カーボンブラック(CB)を3.0質量%、結着剤としてアクリルラテックス(LTX)を4.0質量%、およびPVP(ポリビニルピロリドン)を1.5質量部、ポリアクリル酸カリウムが1.5質量%となる量の分散剤溶媒1、ならびに正極塗工液中の固形分重量が合計37.5wt%となるように分散溶媒として水を混合し、自転公転式ミキサーを用いて2000rpmで5分間撹拌して正極塗工液1を得た。ドクターブレードを用いて、厚さ15μmのアルミニウム箔の片面に正極塗工液1を塗工し、150℃で12時間真空乾燥することにより、正極前駆体1を得た。
【0134】
得られた正極前駆体1の全厚を任意の10か所で測定し、その平均値からアルミニウム箔の膜厚を減じて正極活物質層の膜厚を求めたところ、正極前駆体1の正極活物質層の膜厚は、60μmであった。また、正極前駆体1の正極活物質層の嵩密度と目付を表2に示す。
【0135】
<活物質表面のアルカリ金属化合物の被覆率の算出>
[正極表面SEM及びEDX測定]
正極前駆体1から1cm×1cmの小片を切り出し、10Paの真空中にて金をスパッタリングにより表面にコーティングした。続いて以下に示す条件にて、大気暴露下で正極前駆体1表面のSEM、及びEDXを測定した。
(SEM-EDX測定条件)
・測定装置:日立ハイテクノロジー製、電解放出型走査型電子顕微鏡 FE-SEM S-4700
・加速電圧:10kV
・エミッション電流:1μA
・測定倍率:2000倍
・電子線入射角度:90°
・X線取出角度:30°
・デッドタイム:15%
・マッピング元素:C,O
・測定画素数:256×256ピクセル
・測定時間:60sec.
・積算回数:50回
・マッピング像において最大輝度に達する画素がなく、輝度値の平均値が最大輝度値の40%~60%の範囲に入るように輝度及びコントラストを調整した。
【0136】
(SEM-EDXの解析)
得られた炭素マッピング及び酸素マッピングに対し、画像解析ソフト(ImageJ)を用いて輝度値の平均値を基準に二値化した。この時の炭素マッピングの面積に対し、炭素マッピングと酸素マッピングの重複する面積より、アルカリ金属化合物の被覆率を(炭素マッピングの面積)/(炭素マッピングと酸素マッピングの重複する面積)として算出したところ86%であった。
【0137】
<負極の製造例1>
市販の天然黒鉛を94.0質量%、カルボキシメチルセルロース(CMC)を2.0質量%、スチレンブタジエンゴム2.0質量%、カーボンブラック2.0質量%ならびに蒸留水を混合して負極塗工液を得た。厚さ15μmのアルミニウム箔の片面に、ドクターブレードを用いて負極塗工液を塗工し、ホットプレートを用いて乾燥して、負極1を作製した。負極1の目付は16.0g/mであった。
【0138】
<非水系電解液の調整>
有機溶媒として、エチレンカーボネート(EC):エチルメチルカーボネート(EMC)=33:67(体積比)の混合溶媒を用い、全電解液に対してKN(SOF)の濃度が1.2mol/Lとなるように電解質塩を溶解して非水系電解液1を得た。
【0139】
<非水系アルカリ金属蓄電素子の作製>
正極前駆体1を正極活物質層が4.4cm×9.4cmの大きさになるように1枚切り出し、温度150℃で12時間真空乾燥した。負極1を4.6cm×9.6cmの大きさになるように1枚切り出し、150℃で12時間真空乾燥した。セパレータとして4.8cm×9.8cmのポリプロピレン製のセパレータ(旭化成製、厚み20μm)を用い、正極前駆体1および負極1を対向させて電極積層体を組み立てた。非水系電解液1を電極積層体に2.0cm注液して非水系アルカリ金属蓄電素子1を作製した。
【0140】
<アルカリ金属ドープ、エージング>
非水系アルカリ金属蓄電素子1について、温度25℃、電流値0.5mA/cmで電圧4.2Vに到達するまで定電流充電を行った後、続けて4.2V定電圧充電を合計3時間継続する手法により、負極1にアルカリ金属ドープを行った後、非水系アルカリ金属蓄電素子1を4.0Vに充電し、60℃の恒温槽で16時間保存するエージングを行った。続いて、アルゴン雰囲気下で非水系アルカリ金属蓄電素子の外装体を開封して減圧チャンバーに入れ、真空ポンプでチャンバー内を減圧状態にする方法でガス抜きを行った。ガス抜き後、外装体をシールすることで密閉した。
【0141】
<非水系アルカリ金属蓄電素子の評価>
得られた非水系アルカリ金属蓄電素子1について、上述の方法により静電容量および内部抵抗を測定した。
【0142】
《実施例2~9》
各成分の使用量を表1、正極前駆体の物性を表2に記載のとおりになるように調整した他は、〈正極前駆体の製造例1〉と同様にして、正極前駆体2~9を製造した。なお、表2中、活物質嵩密度(g/cm)とは、活物質層の嵩密度に活性炭1の組成比を乗じて算出した値である。正極活物質層容量密度(F/cm)とは、静電容量(F)を正極活物質層体積(cm)で除して算出した値である。
【0143】
《実施例10~13》
各成分の使用量を表1、正極塗工液の分散条件を表1、正極前駆体の物性を表2に記載のとおりになるように調整した他は、〈正極前駆体の製造例1〉と同様にして、正極前駆体10~13を製造した。
【0144】
《比較例1~5》
各成分の使用量を表1、正極前駆体の物性を表2に記載のとおりになるように調整した他は、〈正極前駆体の製造例1〉と同様にして、正極前駆体14~18を製造した。
【0145】
《比較例6~7》
分散剤としてカルボキシメチルセルロース(CMC)を用い、各成分の使用量を表1、正極前駆体の物性を表2に記載のとおりになるように調整した他は、〈正極前駆体の製造例1〉と同様にして、正極前駆体19~20を製造した。
【0146】
《実施例14~15、比較例8~9》
アルカリ金属化合物として炭酸ナトリウム、分散剤としてポリアクリル酸ナトリウムを用い、各成分の使用量を表1、正極塗工液の分散条件を表1、電極物性を表2に記載のとおりになるように調整した他は、〈正極前駆体の製造例1〉と同様にして、正極前駆体21~24を製造した。
【0147】
《実施例16》
分散剤としてポリアクリル酸カリウム1.5質量%、カルボキシメチルセルロースナトリウム1.0質量%を用い、合計2.5質量%の分散剤を用いて各成分の使用量を表1、正極塗工液の分散条件を表1、電極物性を表2に記載のとおりになるように調整した他は、〈正極前駆体の製造例1〉と同様にして、正極前駆体25を製造した。
【0148】
【表1】
【0149】
【表2】
【0150】
理論に限定されないが、実施例1~16では、ポリカルボン酸を用いることで、正極活物質表面にアルカリ金属化合物が被覆し、プレドープ反応を促進させることができ、正極活物質層の高容量密度化、および高出力化することができたと考えられる。ただし、比較例4、5及び9のように、正極活物質表面をアルカリ金属化合物で完全に被覆した場合には、活物質粒子間の電子伝導性が低下することによりプレドープ反応が進行し難くなり、静電容量の低下と内部抵抗の増大を招いたと考えられる。また、アルカリ金属化合物の被覆量については、塗工液の分散条件を強めることで高めることができた。これは、分散時に活物質表面へのアルカリ金属化合物の吸着を促進したためだと考えられる。
【0151】
《実施例17~18》
有機溶媒として、エチレンカーボネート(EC):エチルメチルカーボネート(EMC)=33:67(体積比)の混合溶媒を用い、全電解液に対してNaPFの濃度が0.6mol/L、KN(SOF)の濃度が0.6mol/Lとなるように電解質塩を溶解して非水系電解液2を得た。続いて、全電解液に対してKPFの濃度が0.6mol/L、KN(SOF)の濃度が0.6mol/Lとなるように電解質塩を溶解して非水系電解液3を得た。
【0152】
非水系電解液2、または非水系電解液3を用いた他は、実施例14と同様にして非水系アルカリ金属蓄電素子を製造した。得られた非水系蓄電素子について、上述の方法により内部抵抗R(Ω)を測定し、続いて恒温槽の温度を-25℃に設定した他は、実施例1と同様の方法で内部抵抗Rb(Ω)を測定した。
【0153】
【表3】
【0154】
理論に限定されないが、ナトリウムイオン、カリウムイオンを含む電解質塩は、電解液溶媒への溶解度に温度依存性があり、単一のアルカリ金属イオンのみからなる電解質塩を用いた場合には、-25℃という極低温環境において電解質塩が析出し、内部抵抗が上昇してしまう。ナトリウムイオン、およびカリウムイオンを両方含む電解質塩を用いることで極低温環境下での電解質塩の析出を抑制し、内部抵抗の上昇を抑制することが可能になると推測される。
【産業上の利用可能性】
【0155】
本開示の非水系アルカリ金属蓄電素子は、自動車のハイブリット駆動システムの電力回生システム、太陽光発電や風力発電等の自然発電やマイクログリッド等における電力負荷平準化システム、工場の生産設備等における無停電電源システム、マイクロ波送電や電解共鳴等の電圧変動の平準化及びエネルギーの蓄電を目的とした非接触給電システム、振動発電等で発電した電力の利用を目的としたエナジーハーベストシステムに用いられる非水系アルカリ金属蓄電素子として好適に利用できる。該非水系アルカリ金属蓄電素子は、例えば、複数個の非水系アルカリ金属蓄電素子を直列、又は並列に接続して蓄電モジュールを作ることができる。本開示の非水系アルカリ金属蓄電素子は、カリウムイオンキャパシタまたはナトリウムイオンキャパシタとして適用したときに、本開示の効果が最大限に発揮されるため、好ましい。
図1