(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093658
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】焦点距離可変レンズ装置および焦点距離可変レンズ制御方法
(51)【国際特許分類】
G02B 7/04 20210101AFI20240702BHJP
G02B 7/08 20210101ALI20240702BHJP
G02B 3/14 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
G02B7/04 Z
G02B7/08 C
G02B3/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022210179
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000137694
【氏名又は名称】株式会社ミツトヨ
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 悟
(72)【発明者】
【氏名】倉橋 佑旗
(72)【発明者】
【氏名】久保 光司
【テーマコード(参考)】
2H044
【Fターム(参考)】
2H044BF00
2H044BF07
2H044BF10
2H044DC10
(57)【要約】
【課題】目的の共振周波数を確実に検出できる焦点距離可変レンズ装置を提供する。
【解決手段】焦点距離可変レンズ装置1は、入力される駆動信号Cfに応じて屈折率が変化する液体共振式の液体レンズユニット3と、所定の標準周波数帯を駆動信号Cfの周波数の走査範囲として設定する走査範囲設定部611と、駆動信号Cfの周波数を走査範囲で走査し、液体レンズユニット3の振動状態に基づいて、液体レンズユニット3の共振周波数を検出する共振周波数検出部612と、共振周波数検出部612により標準周波数帯から検出された共振周波数である標準共振周波数に基づいて、目的の共振周波数である対象共振周波数の推定値を算出する共振周波数推定部614と、を備え、走査範囲設定部611は、対象共振周波数の推定値を含む対象周波数帯を走査範囲としてさらに設定する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力される駆動信号に応じて屈折率が変化する液体共振式の液体レンズユニットと、
所定の標準周波数帯を前記駆動信号の周波数の走査範囲として設定する走査範囲設定部と、
前記駆動信号の周波数を前記走査範囲で走査させ、前記液体レンズユニットの振動状態に基づいて、前記液体レンズユニットの共振周波数を検出する共振周波数検出部と、
前記共振周波数検出部により前記標準周波数帯から検出された共振周波数である標準共振周波数に基づいて、前記液体レンズユニットにおける目的の共振周波数である対象共振周波数の推定値を算出する共振周波数推定部と、を備え、
前記走査範囲設定部は、前記対象共振周波数の前記推定値を含む対象周波数帯を、前記走査範囲としてさらに設定する、焦点距離可変レンズ装置。
【請求項2】
前記対象周波数帯の幅は、前記標準周波数帯の幅よりも狭い、請求項1に記載の焦点距離可変レンズ装置。
【請求項3】
前記対象周波数帯の幅は、標準温度に対応する前記液体レンズユニットの共振周波数間隔の1/4以下である、請求項1に記載の焦点距離可変レンズ装置。
【請求項4】
入力される駆動信号に応じて屈折率が変化する液体共振式の液体レンズユニットを備える焦点距離可変レンズ装置において、
前記駆動信号の周波数を所定の標準周波数帯で走査させ、前記液体レンズユニットの振動状態に基づいて、前記液体レンズユニットの標準共振周波数を検出する第1検出ステップと、
前記第1検出ステップにより検出された前記標準共振周波数に基づいて、前記液体レンズユニットにおける目的の共振周波数である対象共振周波数の推定値を算出する共振周波数推定ステップと、
前記駆動信号の周波数を、前記共振周波数推定ステップで推定された前記対象共振周波数の前記推定値を含む対象周波数帯で走査させ、前記液体レンズユニットの振動状態に基づいて、前記液体レンズユニットの前記対象共振周波数を検出する第2検出ステップと、を実施する、焦点距離可変レンズ制御方法。
【請求項5】
前記第1検出ステップにおける前記駆動信号の周波数の走査ピッチは、前記第2検出ステップにおける前記駆動信号の周波数の走査ピッチよりも大きい、請求項4記載の焦点距離可変レンズ制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焦点距離可変レンズ装置および焦点距離可変レンズ制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液体共振式の液体レンズユニットを備える焦点距離可変レンズ装置が知られている(例えば特許文献1参照)。この焦点距離可変レンズ装置では、最大数百KHz程度の高周波数の駆動信号を液体レンズユニットに入力し、液体レンズユニットの容器内に設置された圧電素子を振動させ、内部の流体を共振させて屈折率が異なる同心円状の定在波を形成し、共振周波数に応じた高速で焦点距離を周期的に変化させることができる。
【0003】
前述の焦点距離可変レンズ装置では、外気温の影響または稼働に伴う発熱などにより、液体レンズユニット内部の液体等の温度が変化し、定在波が得られる駆動信号の周波数、すなわち液体レンズユニットの共振周波数が変化する。このため、特許文献1の焦点距離可変レンズ装置は、液体レンズユニットの駆動を開始する際、液体レンズユニットの共振周波数を検出する検出処理を行う。この検出処理では、駆動信号の周波数が所定の走査範囲で走査され、液体レンズユニットの振動状態がピークを示すときの周波数が液体レンズユニットの共振周波数として検出される。なお、液体レンズユニットの振動状態は、液体レンズユニットに供給される有効電力、電圧、電流または電圧電流位相差等により検出可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した特許文献1の焦点距離可変レンズ装置では、液体レンズユニットの共振周波数が変化を考慮して、駆動信号の周波数の走査範囲を広く確保している。しかし、駆動信号の周波数の走査範囲が余分に広く確保されていると、目的の共振周波数を検出することが困難な場合がある。例えば、液体レンズユニットの振動状態が走査範囲内の共振周波数以外の周波数で偽ピークを示す場合や、走査範囲内に目的ではない次数の共振周波数が含まれる場合、目的の共振周波数を検出することが困難である。
【0006】
本発明は、目的の共振周波数を確実に検出できる焦点距離可変レンズ装置および焦点距離可変レンズ制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一形態に係る焦点距離可変レンズ装置は、入力される駆動信号に応じて屈折率が変化する液体共振式の液体レンズユニットと、所定の標準周波数帯を前記駆動信号の周波数の走査範囲として設定する走査範囲設定部と、前記駆動信号の周波数を前記走査範囲で走査させ、前記液体レンズユニットの振動状態に基づいて、前記液体レンズユニットの共振周波数を検出する共振周波数検出部と、前記共振周波数検出部により前記標準周波数帯から検出された。
共振周波数である標準共振周波数に基づいて、前記液体レンズユニットにおける目的の共振周波数である対象共振周波数の推定値を算出する共振周波数推定部と、を備え、前記走査範囲設定部は、前記対象共振周波数の前記推定値を含む対象周波数帯を前記走査範囲としてさらに設定する。
【0008】
このような構成では、液体レンズユニットにおける目的の共振周波数である対象共振周波数を検出する際、駆動信号の周波数の走査範囲として、対象共振周波数の推定値を含む対象周波数帯を設定できる。これにより、対象共振周波数を検出する際の走査範囲について、当該走査範囲の幅を広く確保せずとも、走査範囲から対象共振周波数を確実に検出することができる。
【0009】
本発明の一形態に係る焦点距離可変レンズ装置において、前記対象周波数帯の幅は、前記標準周波数帯の幅よりも狭いことが好ましい。
このような構成では、標準周波数帯を広く確保して標準共振周波数を確実に検出すること、および、対象周波数帯を狭く限定して偽ピーク等を含まない範囲に対象周波数帯を設定することを好適に両立できる。
【0010】
本発明の一形態に係る焦点距離可変レンズ装置において、前記対象周波数帯の幅は、標準温度に対応する前記液体レンズユニットの共振周波数間隔の1/4以下であることが好ましい。
【0011】
本発明の一形態に係る焦点距離可変レンズ制御方法は、入力される駆動信号に応じて屈折率が変化する液体共振式の液体レンズユニットを備える焦点距離可変レンズ装置において、前記駆動信号の周波数を所定の標準周波数帯で走査させ、前記液体レンズユニットの振動状態に基づいて、前記液体レンズユニットの標準共振周波数を検出する第1検出ステップと、前記第1検出ステップにより検出された前記標準共振周波数に基づいて、前記液体レンズユニットにおける目的の共振周波数である対象共振周波数の推定値を算出する共振周波数推定ステップと、前記駆動信号の周波数を、前記共振周波数推定ステップで推定された前記対象共振周波数の前記推定値を含む対象周波数帯で走査させ、前記液体レンズユニットの振動状態に基づいて、前記液体レンズユニットの前記対象共振周波数を検出する第2検出ステップと、を実施する。
このような方法によれば、前述した本発明の一形態に係る焦点距離可変レンズ装置と同様の効果を得ることができる。
【0012】
本発明の一形態に係る焦点距離可変レンズ制御方法において、前記第1検出ステップにおける前記駆動信号の周波数の走査ピッチは、前記第2検出ステップにおける前記駆動信号の周波数の走査ピッチよりも大きいことが好ましい。
このような方法によれば、第1検出工程における走査ピッチを大きくすることで、第1検出工程に係る時間を短縮しつつ、第2検出工程における走査ピッチを小さくすることで、対象共振周波数を高精度に検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態の焦点距離可変レンズ装置を示す模式図。
【
図2】前記実施形態の焦点距離可変レンズ装置における制御系を示すブロック図。
【
図3】標準周波数帯(低周波数帯)の駆動信号の周波数に対する液体レンズユニットの有効電力の変化を例示するグラフ。
【
図4】対象周波数帯(高周波数帯)の駆動信号の周波数に対する液体レンズユニットの有効電力の変化を例示するグラフ。
【
図5】対象周波数帯(高周波数帯)の駆動信号の周波数に対する液体レンズユニットの有効電力の変化を例示するグラフ。
【
図6】前記実施形態の焦点距離可変レンズ装置の動作例を説明するフローチャート。
【
図7】液体レンズユニットの共振周波数と共振次数との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1には、本実施形態の焦点距離可変レンズ装置1の全体構成が示される。本実施形態の焦点距離可変レンズ装置1は、焦点位置Pfまでの焦点距離Dfを周期的に変化させつつ撮像領域におかれた測定対象物9の表面の画像Lgを検出するものである。
【0015】
(焦点距離可変レンズ装置の構成)
図1に示すように、焦点距離可変レンズ装置1は、測定対象物9の表面に交差する光軸A上に配置された対物レンズ2、液体レンズユニット3および画像検出部4と、測定対象物9の表面をパルス照明するパルス照明部5と、液体レンズユニット3などの動作を制御するレンズ制御部6と、レンズ制御部6を操作するための制御用PC7とを備える。
【0016】
対物レンズ2は、既存の凸レンズまたはレンズ群によって構成される。
液体レンズユニット3は、例えば可変音響式屈折率分布型レンズ(TAGレンズ)など、液体共振式のレンズユニットであり、レンズ制御部6から入力される駆動信号Cfに応じて屈折率が周期的に変化する。駆動信号Cfは、液体レンズユニット3が有する振動部材を振動させる正弦波状の交流信号である。駆動信号Cfの周波数が液体レンズユニット3の共振周波数fmに調整されると、液体レンズユニット3の内部の液体に定在波が生じ、当該液体の屈折率が周期的に変化する。
本実施形態では、対物レンズ2および液体レンズユニット3により焦点距離可変レンズが構成される。この焦点距離可変レンズの焦点位置Pfまでの焦点距離Dfは、対物レンズ2の焦点距離を基本とし、液体レンズユニット3の屈折率に応じて変調されたものとなる。これにより、焦点距離Dfは、駆動信号Cfに同期した正弦波状の焦点変動波形を描いて変動する。
【0017】
画像検出部4は、既存のCCD(Charge Coupled Device)イメージセンサあるいは他の形式のカメラ等で構成され、入射される画像Lgを所定の信号形式の検出画像Imとして制御用PC7へ出力する。
【0018】
パルス照明部5は、LED(Light Emitting Diode)などの発光素子で構成される。パルス照明部5は、所定時間だけ照明光Liを発光させ、測定対象物9の表面に対するパルス照明を行うことができる。測定対象物9で反射された反射光Lrは、対物レンズ2および液体レンズユニット3によって画像Lgを形成し、画像検出部4に入射する。
【0019】
レンズ制御部6は、液体レンズユニット3の駆動、パルス照明部5の発光、および画像検出部4の画像検出を制御するものである。具体的には、
図2に示すように、レンズ制御部6は、液体レンズユニット3に駆動信号Cfを出力する駆動制御部61と、パルス照明部5に発光信号Ciを出力する発光制御部62と、画像検出部4に画像検出信号Ccを出力する画像検出制御部63と、種々の情報が記憶される記憶部64とを有する。
なお、駆動制御部61、発光制御部62および画像検出制御部63のそれぞれは、複数のIC等によってハードウェア的に構成されてもよいし、CPUなどのプロセッサを備えるコンピュータを中心に構成され、プロセッサが記憶部64に格納されたプログラムを実行することにより実現されてもよい。
【0020】
駆動制御部61は、液体レンズユニット3に駆動信号Cfを出力して液体レンズユニット3の共振状態を生成するとともに、液体レンズユニット3の振動状態Vfを検出して液体レンズユニット3が所期の共振状態となるように駆動信号Cfを制御する。
なお、駆動制御部61は、レンズシステムの振動状態Vfとして、駆動信号Cfにより液体レンズユニット3に供給される駆動電圧V、駆動電流I、有効電力P、または、駆動電圧Vと駆動電流Iとの位相差である電圧電流位相差θの少なくともいずれかを検出できればよい。有効電力Pは、駆動電圧Vの実効値をVe、駆動電流Iの実効値をIeとするとき、以下の式(1)によって算出可能である。
P=Ve・Ie・cosθ ・・・式(1)
また、駆動制御部61は、後述するように、走査範囲設定部611、共振周波数検出部612、温度推定部613、共振周波数推定部614、および、共振ロック制御部615として機能する。
【0021】
発光制御部62は、発光信号Ciによってパルス照明部5の発光タイミングを制御し、画像検出制御部63は、画像検出信号Ccによって画像検出部4による画像検出のタイミングを制御する。例えば、発光制御部62は、駆動信号Cfが任意の位相になった時点でパルス照明部5に測定対象物9をパルス照明させる。画像検出制御部63は、駆動信号Cfの複数周期の間、画像検出部4に画像を検出させる。これにより、駆動信号Cfの任意の位相に対応する焦点位置Pfで合焦した検出画像Imが得られる。
【0022】
記憶部64は、各種データが記録される記録媒体である。本実施形態では、後述するように、基本的な検出方法では検出が困難な共振周波数fmの次数mを含む検出困難次数リスト、および、液体レンズユニット3の共振周波数fmの算出に利用される演算式またはテーブルなどが記憶部64に記憶されている。
【0023】
制御用PC7は、既存のパーソナルコンピュータにより構成され、所定の制御用ソフトウェアを実行することで所期の機能が実現される。例えば、制御用PC7は、画像検出条件の設定などのレンズ制御部6に対する操作を行うレンズ操作部71と、画像検出部4から検出画像Imを取り込んで処理する画像処理部72と、焦点距離可変レンズ装置1に対するユーザの操作を受け付ける操作インターフェイス73と、を有する。
【0024】
(液体レンズユニット3の共振周波数)
本実施形態の焦点距離可変レンズ装置1では、液体レンズユニット3の駆動を開始する際など、目的の次数mの共振モードを液体レンズユニット3に実現するために、当該次数mの共振周波数fmを検出する処理を行う。
本実施形態において、共振周波数fmの基本的な検出方法は、従来の共振周波数の検出方法と略同様である。すなわち、駆動信号Cfの周波数を所定の走査範囲で走査させ、液体レンズユニット3の振動状態Vf(例えば液体レンズユニット3の有効電力P)が最大値を示すときの周波数を共振周波数fmとして検出する方法が挙げられる。ここで、所定の走査範囲は、液体レンズユニット3を用いた実験またはシミュレーションにより、次数mごとに予め定められる範囲である。例えば、所定の走査範囲は、標準温度に対応する液体レンズユニット3の共振周波数を含み、かつ、当該液体レンズユニット3の共振周波数間隔(隣り合う共振周波数同士の間の間隔)の半分程度の幅を有することが好ましい。
【0025】
また、本実施形態の液体レンズユニット3には、上述の基本的な検出方法によって検出可能な共振周波数fmだけでなく、当該方法によって検出が困難な共振周波数fmが存在する。
具体的には、本実施形態の液体レンズユニット3では、低周波数帯(例えば100KHz未満)内の共振周波数fmを基本的な検出方法によって検出することが可能であるが、高周波数帯(例えば100~300KHz)内の共振周波数fmを当該方法によって検出することが困難である。
【0026】
図3は、駆動信号Cfの周波数に対する液体レンズユニット3の有効電力Pの変化を例示するグラフであり、比較的低い次数m
a(例えばm
a=3)の共振周波数fm
aを含む低周波数帯を示すものである。この
図3に示すように、駆動信号Cfの周波数が共振周波数fm
aであるとき、液体レンズユニット3の有効電力Pが最大のピークPaを示す。また、共振周波数fm
a以外の周波数においても液体レンズユニット3の有効電力がピーク(偽ピークPs)を示すことがあるが、この偽ピークPsの値は、共振周波数fm
aに対応するピークPaの値よりも小さい。よって、基本的な検出方法を行った場合、所定の走査範囲内で最大値(ピークPa)を示す周波数を共振周波数fm
aとして検出できる。
【0027】
一方、
図4は、駆動信号Cfの周波数に対する液体レンズユニット3の有効電力Pの変化を例示するグラフであり、比較的高い次数m
b(例えばm
b=6)の共振周波数fm
bを含む高周波数帯を示すものである。この
図4に示すように、駆動信号Cfの周波数が共振周波数fm
bであるとき、液体レンズユニット3の有効電力Pは、ピークPbを示す。しかし、共振周波数fm
b以外の周波数においても液体レンズユニット3の有効電力Pがピーク(偽ピークPs)を示し、この偽ピークPsの値は、共振周波数fm
bに対応するピークPbの値よりも大きい。よって、基本的な検出方法を行った場合、所定の走査範囲内での最大値(偽ピークPs)を示す周波数を共振周波数として検出し、正しい共振周波数fm
bが検出されない。
【0028】
なお、上述したような偽ピークPsは、液体レンズユニット3の液体の振動だけでなく、当該液体を収容する収容構造の振動が影響することで発生すると考えられ、駆動信号Cfの周波数を偽ピークPsに対応する周波数に調整しても、液体レンズユニット3の液体に定在波を生じさせることができない。
【0029】
また、
図5は、高周波数帯の駆動信号Cfの周波数に対する液体レンズユニット3の有効電力Pの変化を例示するグラフである。この
図5に示すように、駆動信号Cfの高周波数帯では、液体レンズユニット3の温度が変化した場合、液体レンズユニット3の共振周波数fmが大きく変化する。例えば、20℃における次数m
Nの共振周波数fm
N(20度)の近傍には、10℃における次数m
N-1の共振周波数fm
N-1(10℃)が存在する。このため、液体レンズユニット3の温度によっては、次数m
Nの共振周波数fm
Nではなく、次数m
N-1の共振周波数fm
N-1が走査範囲内に含まれ、次数m
Nの共振周波数fm
Nを狙って検出することが難しい場合がある。
【0030】
本実施形態では、上述のいずれかの理由により、基本的な検出方法では検出が困難な共振周波数fmの次数mを検出困難次数と称する。検出困難次数は、液体レンズユニット3の実験またはシミュレーションによって特定され、検出困難次数リストとして記憶部64に予め記憶されるものとする。なお、上述では、高周波数帯内の共振周波数fmの次数mを検出困難次数として説明しているが、検出困難次数はこれに限られない。
【0031】
(焦点距離可変レンズ装置の動作)
本実施形態の焦点距離可変レンズ装置1の動作例について説明する。
まず、駆動制御部61は、ユーザの操作を受けたレンズ操作部71から、液体レンズユニット3の起動指令と共に、ユーザ指定の共振モードの次数m(以下、対象次数md)を入力される。そして、駆動制御部61は、入力された対象次数mdが検出困難次数リストに含まれるか否かを判定し、当該対象次数mdが検出困難次数リストに含まれない場合、上述の基本的な検出方法によって共振周波数fmdを検出する。
【0032】
一方、駆動制御部61は、入力された対象次数m
dが検出困難次数リストに含まれる場合、
図6に示すフローチャートを実施することにより、共振周波数fm
dを検出する。
図6のフローチャートでは、まず、走査範囲設定部611が、入力された対象次数m
dではなく、予め定められた所定の次数m
s(以下、標準次数m
s)の共振周波数fm
sを、上述の基本的な検出方法によって検出する。
具体的には、走査範囲設定部611が標準次数m
sに対応する標準周波数帯Rsを走査範囲として設定する(ステップS1)。ここで、標準周波数帯Rsは、
図3に示すように、基本的な検出方法における所定の走査範囲と同様である。すなわち、対象周波数帯Rdは、液体レンズユニット3を用いた実験またはシミュレーションにより予め定められた周波数帯であり、標準温度に対応する液体レンズユニット3の共振周波数を含み、当該液体レンズユニット3の共振周波数間隔(隣り合う共振周波数同士の間の間隔)の半分程度の幅を有することが好ましい。
その後、共振周波数検出部612は、駆動信号Cfの周波数(駆動周波数)をステップS1で設定された走査範囲で走査させる。このとき、共振周波数検出部612は、駆動周波数を走査範囲の開始位置に調整した後、駆動周波数を所定量変化(増加または減少)させるごとに、液体レンズユニット3の振動状態Vf(例えば液体レンズユニット3の有効電力P)をサンプリングする。そして、共振周波数検出部612は、液体レンズユニット3の振動状態Vfが最大値を示す周波数を、標準次数m
sの共振周波数fm
sとして検出する(ステップS2)。なお、ステップS1~S2は、第1検出ステップに相当する。
【0033】
本実施形態において、ステップS1における標準次数msとは、検出困難次数ではない次数mであり、例えば低周波数帯(100KHz未満)に存在する共振周波数fmの次数m(例えばm=3)である。また、検出困難次数に該当する対象次数mdは、例えば高周波数帯(100KHz~300KHz)に存在する共振周波数fmの次数m(例えばm=6以上の整数)である。
以下、標準次数msの共振周波数fmsを標準共振周波数fmsと称し、対象次数mdの共振周波数fmdを対象共振周波数fmdと称する場合がある。
【0034】
次に、共振周波数推定部614は、ステップS2で検出された標準共振周波数fm
sに基づいて、対象共振周波数fm
dの推定値を算出する(ステップS3;共振周波数推定ステップ)。
ここで、
図7に示すように、液体レンズユニット3の共振周波数fmは、共振モードの次数mに対して比例関係を有する。このため、共振周波数推定部614は、当該比例関係を利用した演算式またはテーブルを用いることで、標準共振周波数fm
sから対象共振周波数fm
dの推定値を算出できる。
【0035】
例えば、
図7に示す比例関係に基づき、標準共振周波数fm
sは、以下の式(1)で表され、対象共振周波数fm
dは、以下の式(2)で表される。
【数1】
【数2】
上記式(1),(2)によれば、対象共振周波数fm
dは、以下の式(3)で表される。
【数3】
上記式(3)のαは、B/Aであり、液体レンズユニット3を用いた実験またはシミュレーション計算により求められる値である。共振周波数推定部614は、上記式(3)の演算を行うことにより、対象共振周波数fm
dの推定値を算出できる。
なお、上記式(1),(2)のA,Bは、温度に依存するが、互いに相関性があり、B/Aは温度に対して一定である。すなわち、上記式(3)のαは温度に対して一定である。
【0036】
次に、走査範囲設定部611は、ステップS3で算出された対象共振周波数fmdの推定値に基づいて、対象次数mdに対応する対象周波数帯Rdを走査範囲として設定する(ステップS4)。ここで、対象周波数帯Rdは、ステップS3で算出された対象共振周波数fmdの推定値を含む周波数帯であればよい。また、対象周波数帯Rdは、対象共振周波数fmdの推定値を中心とした範囲であって、標準温度の共振周波数間隔(隣り合う共振周波数同士の間の間隔)の1/4以下の幅を有することが好ましい。あるいは、標準温度の液体レンズユニット3において、対象共振周波数fmdと偽ピークの周波数との間の差(周波数幅)をシミュレーションまたは実験により予め求めておき、対象周波数帯Rdは、当該周波数幅を有してもよい。
【0037】
その後、共振周波数検出部612は、駆動信号Cfの周波数(駆動周波数)をステップS4で設定された走査範囲で走査させる。このとき、共振周波数検出部612は、駆動周波数を走査範囲の開始位置に調整した後、駆動周波数を所定量変化(増加または減少)させるごとに、液体レンズユニット3の振動状態Vf(例えば液体レンズユニット3の有効電力P)をサンプリングする。そして、共振周波数検出部612は、液体レンズユニット3の振動状態Vfが最大値を示す周波数を、対象共振周波数fm
dとして検出する(ステップS5)。ここで、走査範囲における駆動周波数の走査ピッチ(すなわち駆動周波数の変化に対する液体レンズユニット3の振動状態Vfのサンプリングピッチ)は、ステップS2における走査ピッチよりも小さいことが好ましい。
なお、ステップS4~S5は、第2検出ステップに相当する。
以上により、
図6のフローチャートが終了する。
【0038】
その後、駆動制御部61は、
図6のフローチャートで検出された対象共振周波数fm
dの検出値に従って調整された駆動信号Cfを液体レンズユニット3に送信開始する。これにより、液体レンズユニット3には、対象次数m
dの共振モードの定在波が形成され、液体レンズユニット3が稼働状態となる。
【0039】
液体レンズユニット3の起動後、共振ロック制御部615は、液体レンズユニット3の振動状態Vfに基づいて、駆動信号Cfの周波数を対象共振周波数fmdに追従させる。なお、共振ロック制御部615の具体的動作については、特開2018-189700号公報を参照可能である。
【0040】
(本実施形態の効果)
以上に説明した本実施形態の焦点距離可変レンズ装置1では、上述したように、液体レンズユニット3における対象共振周波数fmdを検出する際、駆動信号Cfの周波数の走査範囲として、対象共振周波数fmdの推定値を含む対象周波数帯Rdを設定できる。これにより、対象共振周波数fmdを検出する際の走査範囲について、当該走査範囲の幅を広く確保せずとも、走査範囲から対象共振周波数fmdを確実に検出することができる。
【0041】
例えば、
図4に示す例において、走査範囲としての対象周波数帯Rdは、ピークPbを含みかつ偽ピークPsを含まないように必要十分な狭い範囲となる。また、
図5に示す例では、走査範囲としての対象周波数帯Rdは、液体レンズユニット3がどのような温度であっても、目的の対象共振周波数fm
d(例えば周波数fm
N(20℃))を含む適切な範囲となる。その結果、
図4,
図5に示す各例において、対象周波数帯Rdから対象共振周波数fm
dを確実に検出することができる。
【0042】
本実施形態において、対象周波数帯Rdの幅は、標準周波数帯Rsの幅よりも狭い。このような構成では、標準周波数帯Rsを広く確保して標準共振周波数fmsを確実に検出すること、および、対象周波数帯Rdを狭く限定して偽ピーク等を示す周波数を含まない範囲に対象周波数帯Rdを設定することを好適に両立できる。
【0043】
本実施形態では、対象共振周波数fmdの幅は、標準温度に対応する液体レンズユニット3の共振周波数間隔の1/4以下であることが好ましい。これにより、対象共振周波数fmdを好適に狭く限定できる。
【0044】
前記実施形態において、第1検出工程における駆動信号Cfの走査ピッチは、第2検出工程における駆動信号Cfの走査ピッチよりも大きいことが好ましい。第1検出工程では、標準共振周波数fmsを高精度に検出する必要性は低いため、走査ピッチを粗くしても問題がない。また、第1検出工程における走査ピッチを粗くすることで、第1検出工程に係る時間を短縮することができる。また、第2検出工程における走査ピッチは、第1検出工程における走査ピッチよりも小さいことにより、対象共振周波数を高精度に検出できる。
【0045】
(変形例)
本発明は前述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形などは本発明に含まれる。
【0046】
前記実施形態において、温度推定部613は、ステップS2で検出された標準共振周波数fm
sに基づいて、液体レンズユニット3の推定温度を算出してもよい。この場合、走査範囲設定部611は、ステップS4で対象周波数帯Rdを走査範囲に設定する際、対象周波数帯Rdの幅を推定温度に応じて調整してもよい。例えば、
図7に示すように、共振次数に対する共振周波数fmの傾きは、温度が低くなるほど大きくなるため、推定温度が高いほど、対象周波数帯Rdの幅を小さくしてもよい。
また、前記実施形態において、対象周波数帯Rdの幅は、標準周波数帯Rsの幅よりも小さいことに限定されず、標準周波数帯Rsの幅と同等以上であってもよい。
【0047】
前記実施形態では、入力された対象次数m
dが検出困難次数リストに含まれる場合、
図6のフローチャートが実施されるが、これに限られない。例えば、対象次数m
dがどのような次数であっても、
図6のフローチャートを一律で行ってもよい。ここで、対象次数m
dは、標準次数m
sと同じ次数であってもよい。この場合、第1検出工程における駆動信号Cfの走査ピッチを粗くし、第2検出工程における駆動信号Cfの走査ピッチを細かくすることにより、目的の共振周波数を高精度に検出しつつ、検出にかかる時間を短縮できる。
【0048】
前記実施形態において、第1検出ステップにおける駆動信号Cfの周波数の走査ピッチは、第2検出ステップにおける駆動信号Cfの周波数の走査ピッチよりも大きいことに限定されず、当該走査ピッチ以下であってもよい。
【0049】
前記実施形態の焦点距離可変レンズ装置1は、撮像領域におかれた測定対象物9の表面の画像を検出する装置であるが、本発明はこれに限定されない。例えば、本発明の焦点距離可変レンズ装置は、焦点距離の変化を利用した変位計やレーザー装置等として構成されてもよい。
【符号の説明】
【0050】
1…焦点距離可変レンズ装置、2…対物レンズ、3…液体レンズユニット、4…画像検出部、5…パルス照明部、6…レンズ制御部、61…駆動制御部、611…走査範囲設定部、612…共振周波数検出部、613…温度推定部、614…共振周波数推定部、615…共振ロック制御部、62…発光制御部、63…画像検出制御部、64…記憶部、7…制御用PC、71…レンズ操作部、72…画像処理部、73…操作インターフェイス、9…測定対象物、A…光軸、Cc…画像検出信号、Cf…駆動信号、Ci…発光信号、Df…焦点距離、Im…検出画像、Lg…画像、Li…照明光、Lr…反射光、Pf…焦点位置、Rd…対象周波数帯、Rs…標準周波数帯、Vf…振動状態。