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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093714
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】光学フィルタ
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/20 20060101AFI20240702BHJP
   G02B 5/28 20060101ALI20240702BHJP
   G02B 5/22 20060101ALI20240702BHJP
   G02B 5/26 20060101ALI20240702BHJP
   G02B 1/115 20150101ALI20240702BHJP
   B32B 7/023 20190101ALI20240702BHJP
【FI】
G02B5/20
G02B5/28
G02B5/22
G02B5/26
G02B1/115
B32B7/023
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022210259
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】長田 崇
(72)【発明者】
【氏名】坂上 貴尋
(72)【発明者】
【氏名】塩野 和彦
【テーマコード(参考)】
2H148
2K009
4F100
【Fターム(参考)】
2H148AA05
2H148AA07
2H148AA12
2H148AA15
2H148AA16
2H148AA24
2H148CA04
2H148CA06
2H148CA12
2H148CA13
2H148CA24
2H148FA05
2H148FA12
2H148FA22
2H148FA24
2H148GA12
2H148GA24
2H148GA52
2H148GA54
2K009AA02
2K009BB02
2K009CC03
2K009CC06
4F100AA06D
4F100AA20E
4F100AA21C
4F100AG00A
4F100AK01B
4F100AK49B
4F100AR00C
4F100BA03
4F100BA05
4F100BA07
4F100BA08C
4F100BA08D
4F100BA08E
4F100BA10B
4F100CA13B
4F100EH46B
4F100EH66C
4F100EH66D
4F100GB48
4F100JD10A
4F100JD10B
4F100JG05C
4F100JN08
4F100YY00
4F100YY00A
4F100YY00B
(57)【要約】
【課題】可視光領域の透過性に優れ、可視光透過領域から近赤外遮光領域にかけての透過率の変化が急峻であり、近赤外光領域の遮蔽性、特に1200nm付近も含む広範囲の遮蔽性に優れ、高入射角でも分光特性の変化が小さい光学フィルタの提供。
【解決手段】基材と、前記基材の少なくとも一方の主面側に積層された誘電体多層膜とを備える光学フィルタであって、前記基材は、近赤外線吸収ガラスと、近赤外線吸収色素および樹脂を含有する樹脂膜とを有し、前記光学フィルタが特定の分光特性(i-1)~(i-5)をすべて満たす光学フィルタ。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材の少なくとも一方の主面側に積層された誘電体多層膜とを備える光学フィルタであって、
前記基材は、近赤外線吸収ガラスと、近赤外線吸収色素および樹脂を含有する樹脂膜とを有し、
前記光学フィルタが下記分光特性(i-1)~(i-5)をすべて満たす光学フィルタ。
(i-1)波長440~600nm、入射角0度での平均透過率T440-600(0deg)AVEと、波長440~600nm、入射角60度での平均透過率T440-600(60deg)AVEとの差の絶対値が15%以下
(i-2)前記平均透過率T440-600(0deg)AVEが85%以上
(i-3)波長500~700nmにおいて、入射角0度で透過率が70%になる波長IR_T70(0deg)と、入射角0度で透過率が10%になる波長IR_T10(0deg)との差の絶対値が70nm以下
(i-4)波長750~1100nm、入射角0度での平均透過率T750-1100(0deg)AVEが1.5%以下
(i-5)波長1200nm、入射角0度での透過率T1200(0deg)が5%以下
【請求項2】
前記光学フィルタが下記分光特性(i-6)を満たす、請求項1に記載の光学フィルタ。
(i-6)波長750~1100nm、入射角0度での平均透過率T750-1100(0deg)AVEと、波長750~1100nm、入射角60度での平均透過率T750-1100(60deg)AVEとの差の絶対値が2%以下
【請求項3】
前記光学フィルタが下記分光特性(i-7)を満たす、請求項1に記載の光学フィルタ。
(i-7)波長1200nm、入射角0度での透過率T1200(0deg)と、波長1200nm、入射角60度での透過率T1200(60deg)との差の絶対値が4%以下
【請求項4】
前記光学フィルタが下記分光特性(i-8)を満たす、請求項1に記載の光学フィルタ。
(i-8)波長500~700nmにおいて、入射角0度で透過率が50%になる波長IR_T50(0deg)と、入射角60度で透過率が50%になる波長IR_T50(60deg)との差の絶対値が14nm以下
【請求項5】
前記光学フィルタが下記分光特性(i-9)を満たす、請求項1に記載の光学フィルタ。
(i-9)波長300~500nmにおいて、入射角0度で透過率が50%になる波長UV50(0deg)と、入射角60度で透過率が50%になる波長UV50(60deg)との差の絶対値が20nm以下
【請求項6】
前記近赤外線吸収ガラスが、鉄リン酸ガラスである、請求項1に記載の光学フィルタ。
【請求項7】
前記光学フィルタが下記分光特性(i-10)および(i-11)を満たす、請求項1に記載の光学フィルタ。
(i-10)前記誘電体多層膜側を入射方向としたとき、波長800~1100nm、入射角5度での平均反射率R800-1100(5deg)AVEが60%以上
(i-11)前記誘電体多層膜側を入射方向としたとき、波長750~900nmの領域に、入射角5度で反射率が50%になる波長IR_R50(5deg)がある
【請求項8】
前記光学フィルタが下記分光特性(i-13)~(i-15)をすべて満たす、請求項1に記載の光学フィルタ。
(i-13)前記誘電体多層膜側を入射方向としたとき、波長440~600nm、入射角60度での平均反射率R440-600(60deg)AVEが15%以下
(i-14)前記誘電体多層膜側を入射方向としたとき、波長800~1100nm、入射角60度での平均反射率R800-1100(60deg)AVEが45%以上
(i-15)前記誘電体多層膜側を入射方向としたとき、波長750~900nmの領域において入射角5度で反射率が50%になる波長IR_R50(5deg)と、波長500~700nmの領域において入射角5度で透過率が50%になる波長IR_T50(5deg)との差の絶対値が50nm以上
【請求項9】
前記近赤外線吸収ガラスが下記分光特性(ii-1)~(ii-3)をすべて満たす、請求項1に記載の光学フィルタ。
(ii-1)波長440~600nm、入射角0度での平均透過率T440-600(0deg)AVEが87%以上
(ii-2)波長600~700nm、入射角0度での平均透過率T600-700(0deg)AVEが80%以上
(ii-3)波長1200nm、入射角0度での透過率T1200(0deg)が10%以下
【請求項10】
前記近赤外線吸収色素が、前記樹脂中で700~800nmに最大吸収波長を有する近赤外線吸収色素を含む、請求項1に記載の光学フィルタ。
【請求項11】
前記光学フィルタが下記分光特性(i-16)~(i-19)をすべて満たす、請求項1に記載の光学フィルタ。
前記誘電体多層膜側を入射方向としたとき、波長X~Ynmにおける吸収損失量X-Yを以下に定義する。
(吸収損失量X-Y)[%]=100-(入射角5度における透過率)―(入射角5度における反射率)
(i-16)波長440~600nmにおける吸収損失量440-600の平均値が15%以下
(i-17)波長640~780nmにおける吸収損失量640-780の平均値が80%以上
(i-18)波長800~1100nmにおける吸収損失量800-1100の平均値が40%以下
(i-19)波長1200nmにおける吸収損失量1200が60%以上
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の光学フィルタを備えた撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光を透過し、近赤外光を遮断する光学フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
固体撮像素子を用いた撮像装置には、色調を良好に再現し鮮明な画像を得るため、可視域の光(以下「可視光」ともいう)を透過し、近赤外波長領域の光(以下「近赤外光」ともいう)を遮断する光学フィルタが用いられる。
【0003】
このような光学フィルタとしては、例えば、透明基板の片面または両面に、屈折率が異なる誘電体薄膜を交互に積層(誘電体多層膜)し、光の干渉を利用して遮蔽したい光を反射する反射型のフィルタや、特定の波長領域の光を吸収するガラスや色素を用いて遮蔽したい光を吸収する吸収型のフィルタや、反射型と吸収型を組み合わせたフィルタ等、様々な方式が挙げられる。
【0004】
特許文献1には、近赤外線領域の光を吸収する銅錯体を含む光学フィルタが記載されている。
特許文献2には、近赤外線領域の光を吸収する色素を含む光学フィルタが記載されている。
特許文献3には、近赤外線領域の光を吸収するガラスと、誘電体多層膜からなる反射層とを備えた光学フィルタが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6802938号公報
【特許文献2】国際公開第2019/168090号
【特許文献3】国際公開第2014/104370号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
光学フィルタでは、透過領域と遮蔽領域間の透過率の変化が急峻であるほど、効率的に透過性と遮蔽性が両立できるため好ましいところ、特許文献1に記載の光学フィルタでは、透過領域である可視光と遮蔽領域である近赤外光との透過率変化の急峻性が小さい。
【0007】
特許文献2に記載の光学フィルタは、色素の吸収特性のみによって近赤外領域を広範囲に遮光することで、可視光領域の透過率が低下してしまう点で改善の余地がある。
【0008】
また特許文献3に記載される光学フィルタのように、誘電体多層膜の反射を利用した光学フィルタは、光の入射角度により誘電体多層膜の光学膜厚が変化するために、入射角による分光透過率曲線、分光反射率曲線の変化が懸念される。たとえば高入射角度で可視光領域の光の取り込み量が変化すると、画像再現性が低下する問題が生じる。特に、近年のカメラモジュール低背化に伴い高入射角条件での使用が想定されるため、入射角の影響を受けにくい光学フィルタが求められている。
【0009】
本発明は、可視光領域の透過性に優れ、可視光透過領域から近赤外遮光領域にかけての透過率の変化が急峻であり、近赤外光領域の遮蔽性、特に1200nm付近も含む広範囲の遮蔽性に優れ、高入射角でも分光特性の変化が小さい光学フィルタの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下の構成を有する光学フィルタ等を提供する。
〔1〕基材と、前記基材の少なくとも一方の主面側に積層された誘電体多層膜とを備える光学フィルタであって、
前記基材は、近赤外線吸収ガラスと、近赤外線吸収色素および樹脂を含有する樹脂膜とを有し、
前記光学フィルタが下記分光特性(i-1)~(i-5)をすべて満たす光学フィルタ。
(i-1)波長440~600nm、入射角0度での平均透過率T440-600(0deg)AVEと、波長440~600nm、入射角60度での平均透過率T440-600(60deg)AVEとの差の絶対値が15%以下
(i-2)前記平均透過率T440-600(0deg)AVEが85%以上
(i-3)波長500~700nmにおいて、入射角0度で透過率が70%になる波長IR_T70(0deg)と、入射角0度で透過率が10%になる波長IR_T10(0deg)との差の絶対値が70nm以下
(i-4)波長750~1100nm、入射角0度での平均透過率T750-1100(0deg)AVEが1.5%以下
(i-5)波長1200nm、入射角0度での透過率T1200(0deg)が5%以下
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、可視光領域の透過性に優れ、可視光透過領域から近赤外遮光領域にかけての透過率の変化が急峻であり、近赤外光領域の遮蔽性、特に1200nm付近も含む広範囲の遮蔽性に優れ、高入射角でも分光特性の変化が小さい光学フィルタを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は一実施形態の光学フィルタの一例を概略的に示す断面図である。
図2図2は一実施形態の光学フィルタの一例を概略的に示す断面図である。
図3図3は近赤外線吸収ガラスの分光透過率曲線を示す図である。
図4図4は例1の光学フィルタの分光透過率曲線(0度透過率、60度透過率)を示す図である。
図5図5は例1の光学フィルタの分光反射率曲線(5度反射率、60度反射率、誘電体多層膜1側)を示す図である。
図6図6は例2の光学フィルタの分光透過率曲線(0度透過率、60度透過率)を示す図である。
図7図7は例3の光学フィルタの分光透過率曲線(0度透過率、60度透過率)を示す図である。
図8図8は例3の光学フィルタの分光反射率曲線(5度反射率、60度反射率、誘電体多層膜1側)を示す図である。
図9図9は例4の光学フィルタの分光透過率曲線(0度透過率、60度透過率)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本明細書において、近赤外線吸収色素を「NIR色素」、紫外線吸収色素を「UV色素」と略記することもある。
本明細書において、式(I)で示される化合物を化合物(I)という。他の式で表される化合物も同様である。化合物(I)からなる色素を色素(I)ともいい、他の色素についても同様である。また、式(I)で表される基を基(I)とも記し、他の式で表される基も同様である。
【0014】
本明細書において、内部透過率とは、{実測透過率(入射角0度)/(100-反射率(入射角5度))}×100の式で示される、実測透過率から界面反射の影響を引いて得られる透過率である。
【0015】
本明細書において、特定の波長域について、透過率が例えば90%以上とは、その全波長領域において透過率が90%を下回らない、すなわちその波長領域において最小透過率が90%以上であることをいう。同様に、特定の波長域について、透過率が例えば1%以下とは、その全波長領域において透過率が1%を超えない、すなわちその波長領域において最大透過率が1%以下であることをいう。内部透過率においても同様である。特定の波長域における平均透過率および平均内部透過率は、該波長域の1nm毎の透過率および内部透過率の相加平均である。誘電体多層膜側を入射方向としたときの反射率とは、光学フィルタに設けられた誘電体多層膜の表面に向けて測定光を入射させ、反射した光の光学特性をいうものである。
分光特性は、紫外可視分光光度計を用いて測定できる。
本明細書において、数値範囲を表す「~」では、上下限を含む。
【0016】
<光学フィルタ>
本実施形態に係る光学フィルタは、基材と、前記基材の少なくとも一方の主面側に積層された誘電体多層膜とを備え、前記基材は、近赤外線吸収ガラスと、近赤外線吸収色素および樹脂を含有する樹脂膜とを有する。
本発明において、後述するように光学フィルタの遮光性は近赤外線吸収ガラスと近赤外線吸収色素の吸収特性と、誘電体多層膜の反射特性とにより担保されることが好ましい。吸収特性は光の入射角による影響が比較的軽微であるため、高入射角でも分光特性の変化が小さい光学フィルタが得られる。
【0017】
図面を用いて本実施形態に係る光学フィルタの構成例について説明する。図1は、一実施形態の光学フィルタの一例を概略的に示す断面図である。
【0018】
図1に示す光学フィルタ1Aは、近赤外線吸収ガラス10および樹脂膜30を有する基材40と、基材40の一方の主面に積層された誘電体多層膜21とを備えた例である。図示しないが、誘電体多層膜21は基材40の樹脂膜30側の主面に積層されていてもよい。
【0019】
図2に示す光学フィルタ1Bは、近赤外線吸収ガラス10および樹脂膜30を有する基材40と、基材40の一方の主面に積層された誘電体多層膜21と、基材40の他方の主面に積層された誘電体多層膜22とを備えた例である。
【0020】
本実施形態に係る光学フィルタは、下記分光特性(i-1)~(i-5)をすべて満たす。
(i-1)波長440~600nm、入射角0度での平均透過率T440-600(0deg)AVEと、波長440~600nm、入射角60度での平均透過率T440-600(60deg)AVEとの差の絶対値が15%以下
(i-2)前記平均透過率T440-600(0deg)AVEが85%以上
(i-3)波長500~700nmにおいて、入射角0度で透過率が70%になる波長IR_T70(0deg)と、入射角0度で透過率が10%になる波長IR_T10(0deg)との差の絶対値が70nm以下
(i-4)波長750~1100nm、入射角0度での平均透過率T750-1100(0deg)AVEが1.5%以下
(i-5)波長1200nm、入射角0度での透過率T1200(0deg)が5%以下
【0021】
分光特性(i-1)~(i-5)を全て満たす本実施形態に係る光学フィルタは、特性(i-2)に示すように可視光の高い透過性と、特性(i-4)、(i-5)に示すように750~1200nmの広範囲に高い近赤外光遮蔽性を有する。また特性(i-3)に示すように可視光透過領域から近赤外遮光領域にかけての透過率の変化が急峻であり、さらに特性(i-1)に示すように高入射角でも分光特性の変化が小さい。
【0022】
分光特性(i-1)および(i-2)を満たすことは、高入射角でも可視光透過率が低下せず可視光透過性に優れることを意味する。
分光特性(i-1)における差の絶対値は好ましくは15%以下、より好ましくは10%以下である。
平均透過率T440-600(0deg)AVEは好ましくは85%以上、より好ましくは86%以上である。
分光特性(i-1)および(i-2)は、たとえば、可視光領域の反射率が低い誘電体多層膜を用いること、可視光領域の透過率が高い近赤外線吸収色素および近赤外線吸収ガラスを用いることにより達成できる。
【0023】
分光特性(i-3)を満たすことは可視光透過領域から近赤外遮光領域にかけての透過率の変化が急峻であることを意味する。透過率変化が急峻であるほど、可視光の透過性と近赤外光の遮光性を両立できる。
波長IR_T70(0deg)と波長IR_T10(0deg)との差の絶対値は好ましくは70nm以下、より好ましくは67nm以下である。
分光特性(i-3)は、例えば、近赤外線吸収ガラスとして後述する鉄成分を含有するリン酸ガラス(以降、鉄リン酸ガラスと略記することがある)を用いることにより達成できる。
【0024】
分光特性(i-4)を満たすことは、近赤外光遮蔽性に優れることを意味する。
平均透過率T750-1100(0deg)AVEは好ましくは1.5%以下、より好ましくは1.2%以下である。
分光特性(i-4)は、たとえば、近赤外線吸収色素として後述するスクアリリウム色素を用い、近赤外線吸収ガラスとして後述する鉄リン酸ガラスを用いることにより達成できる。
【0025】
分光特性(i-5)を満たすことは、1200nm付近の広範囲まで近赤外光領域の遮光性に優れることを意味する。
透過率T1200(0deg)は好ましくは5%以下、より好ましくは4%以下である。
分光特性(i-5)は、たとえば、近赤外線吸収ガラスとして後述する鉄リン酸ガラスを用いることにより達成できる。
【0026】
本実施形態に係る光学フィルタは、下記分光特性(i-6)を満たすことが好ましい。
(i-6)波長750~1100nm、入射角0度での平均透過率T750-1100(0deg)AVEと、波長750~1100nm、入射角60度での平均透過率T750-1100(60deg)AVEとの差の絶対値が2%以下
分光特性(i-6)を満たすことは、高入射角でも近赤外光遮蔽性が低下せず近赤外光遮蔽性に優れることを意味する。
分光特性(i-6)における差の絶対値はより好ましくは1.7%以下、さらに好ましくは1.5%以下である。
分光特性(i-6)は、たとえば、近赤外線吸収色素として後述するスクアリリウム色素を用い、近赤外線吸収ガラスとして後述する鉄リン酸ガラスを用いることにより達成できる。吸収特性により遮光することで、入射角による分光特性の変化を回避できる。
【0027】
本実施形態に係る光学フィルタは、下記分光特性(i-7)を満たすことが好ましい。
(i-7)波長1200nm、入射角0度での透過率T1200(0deg)と、波長1200nm、入射角60度での透過率T1200(60deg)との差の絶対値が4%以下
分光特性(i-7)を満たすことは、高入射角でも近赤外光遮蔽性が低下せず近赤外光遮蔽性に優れることを意味する。
分光特性(i-7)における差の絶対値はより好ましくは3%以下、さらに好ましくは2.6%以下である。
分光特性(i-7)は、たとえば、近赤外線吸収ガラスとして後述する鉄リン酸ガラスを用いることにより達成できる。吸収特性により遮光することで、入射角による分光特性の変化を回避できる。
【0028】
本実施形態に係る光学フィルタは、下記分光特性(i-8)を満たすことが好ましい。
(i-8)波長500~700nmにおいて、入射角0度で透過率が50%になる波長IR_T50(0deg)と、入射角60度で透過率が50%になる波長IR_T50(60deg)との差の絶対値が14nm以下
分光特性(i-8)を満たすことは、高入射角であっても可視光透過領域と近赤外光遮光領域の境界の分光曲線がシフトしにくいことを意味する。
分光特性(i-8)における差の絶対値はより好ましくは13nm以下、さらに好ましくは12nm以下である。
分光特性(i-8)は、たとえば、近赤外線吸収色素として後述する700~800nmに最大吸収波長を有する色素を用いることより達成できる。吸収特性により遮光することで、入射角による分光特性の変化を回避できる。
【0029】
本実施形態に係る光学フィルタは、下記分光特性(i-9)を満たすことが好ましい。
(i-9)波長300~500nmにおいて、入射角0度で透過率が50%になる波長UV50(0deg)と、入射角60度で透過率が50%になる波長UV50(60deg)との差の絶対値が20nm以下
分光特性(i-9)を満たすことは、高入射角であっても可視光透過領域と紫外光遮光領域の境界の分光曲線がシフトしにくいことを意味する。
分光特性(i-9)における差の絶対値はより好ましくは18nm以下、さらに好ましくは17nm以下である。
分光特性(i-9)は、たとえば、紫外光領域と近紫外線吸収色素を用いて遮光することより達成できる。吸収特性により遮光することで、入射角による分光特性の変化を回避できる。
【0030】
本実施形態に係る光学フィルタは、下記分光特性(i-10)および(i-11)を満たすことが好ましい。
(i-10)前記誘電体多層膜側を入射方向としたとき、波長800~1100nm、入射角5度での平均反射率R800-1100(5deg)AVEが60%以上
(i-11)波長750~900nmの領域に、入射角5度で反射率が50%になる波長IR_R50(5deg)がある
分光特性(i-10)および(i-11)は誘電体多層膜の反射特性を間接的に示している。これらの特性を満たすことは、誘電体多層膜が、波長750~900nmの領域から反射特性が始まり、波長800~1100nmにかけて主に反射特性を有することを意味する。
波長700~800nm付近は近赤外線吸収色素の吸収特性により遮光し、波長900~1200nm付近は近赤外線吸収ガラスの吸収特性により遮光し、波長800~1100nm付近を誘電体多層膜の反射特性により遮光することで、本願発明の効果が得られやすい。
平均反射率R800-1100(5deg)AVEはより好ましくは62%以上、さらに好ましくは64%以上である。
波長IR_R50(5deg)はより好ましくは760~890nm、さらに好ましくは770~880nmの領域にある。
【0031】
本実施形態に係る光学フィルタは、下記分光特性(i-12)および分光特性(i-13)を満たすことが好ましい。
(i-12)前記誘電体多層膜側を入射方向としたとき、波長440~600nm、入射角5度での平均反射率R440-600(5deg)AVEが5%以下
(i-13)前記誘電体多層膜側を入射方向としたとき、波長440~600nm、入射角60度での平均反射率R440-600(60deg)AVEが15%以下
分光特性(i-12)および(i-13)は誘電体多層膜の反射特性を間接的に示している。これらの特性を満たすことは、誘電体多層膜が高入射角であっても可視光反射率が小さいことを意味する。
平均反射率R440-600(0deg)AVEはより好ましくは4%以下、さらに好ましくは3%以下である。
平均反射率R440-600(60deg)AVEはより好ましくは14%以下、さらに好ましくは13%以下である。
【0032】
本実施形態に係る光学フィルタは、下記分光特性(i-14)および分光特性(i-15)を満たすことが好ましい。
(i-14)前記誘電体多層膜側を入射方向としたとき、波長800~1100nm、入射角60度での平均反射率R800-1100(60deg)AVEが45%以上
(i-15)波長750~900nmの領域において入射角5度で反射率が50%になる波長IR_R50(5deg)と、波長500~700nmの領域において入射角5度で透過率が50%になる波長IR_T50(5deg)との差の絶対値が50nm以上
分光特性(i-14)および(i-15)は誘電体多層膜の反射特性を間接的に示している。
分光特性(i-14)を満たすことは、高入射角であっても近赤外光の遮光性に優れることを意味する。
分光特性(i-15)を満たすことは、反射特性の遮光領域と、吸収特性の遮光領域とが離れていることを意味する。
平均反射率R800-1100(60deg)AVEはより好ましくは47%以上、さらに好ましくは50%以上である。
分光特性(i-15)における差の絶対値はより好ましくは50.3nm以上、さらに好ましくは50.7nm以上である。
【0033】
本実施形態に係る光学フィルタは、下記分光特性(i-16)~(i-19)をすべて満たすことが好ましい。
前記誘電体多層膜側を入射方向としたとき、波長X~Ynmにおける吸収損失量X-Yを以下に定義する。
(吸収損失量X-Y)[%]=100-(入射角5度における透過率)―(入射角5度における反射率)
(i-16)波長440~600nmにおける吸収損失量440-600の平均値が15%以下
(i-17)波長640~780nmにおける吸収損失量640-780の平均値が80%以上
(i-18)波長800~1100nmにおける吸収損失量800-1100の平均値が40%以下
(i-19)波長1200nmにおける吸収損失量1200が60%以上
吸収損失量が大きいほど、かかる波長領域の光が吸収されていることを意味する。
分光特性(i-16)~(i-19)を満たすことは、可視光領域は吸収されにくく、すなわち透過性が高く、波長640~780nmの領域は吸収により遮光されている。また、赤外光領域は、波長800~1100nmおよび波長1200nm付近の領域は吸収と反射の両方により遮光されることにより、赤外光透過率をより低くできる。
吸収損失量440-600の平均値はより好ましくは14%以下、さらに好ましくは13%以下である。
吸収損失量640-780の平均値はより好ましくは81%以上、さらに好ましくは82%以上である。
吸収損失量800-1100の平均値はより好ましくは37%以下、さらに好ましくは35%以下である。
吸収損失量1200はより好ましくは62%以上、さらに好ましくは64%以上である。
分光特性(i-16)~(i-19)は、たとえば、波長700~800nmに最大吸収波長を有する近赤外線吸収色素を用いることにより達成できる。
【0034】
<近赤外線吸収ガラス>
本実施形態に係る光学フィルタにおける近赤外線吸収ガラスは下記分光特性(ii-1)~(ii-3)をすべて満たすことが好ましい。
(ii-1)波長440~600nm、入射角0度での平均透過率T440-600(0deg)AVEが87%以上
(ii-2)波長600~700nm、入射角0度での平均透過率T600-700(0deg)AVEが80%以上
(ii-3)波長1200nm、入射角0度での透過率T1200(0deg)が10%以下
【0035】
分光特性(ii-1)~(ii-3)に示すように、近赤外線吸収ガラスは可視光と600~700nmの近赤外光領域は透過し、700nm以降から吸収帯域となり、1200nmの近赤外光長波長領域の吸収特性に優れることが好ましい。これにより、可視光の透過性と1200nm付近の近赤外光の遮蔽性に優れた光学フィルタが得られる。
【0036】
平均透過率T440-600(0deg)AVEはより好ましくは87.5%以上、さらに好ましくは88%以上である。
平均透過率T600-700(0deg)AVEはより好ましくは82%以上、さらに好ましくは83%以上である。
透過率T1200(0deg)はより好ましくは8%以下、さらに好ましくは7%以下である。
【0037】
近赤外線吸収ガラスとしては、上記分光特性(ii-1)~(ii-3)が得られるガラスであれば制限されず、例えば、鉄イオンを含む吸収型のガラスが挙げられる。波長900nm付近の光を吸収する鉄イオンを含むことで700~1200nmの近赤外光を遮断できる。なかでも、上記分光特性が得られやすい観点から、鉄イオンを含むリン酸ガラスが好ましい。なお、「リン酸ガラス」は、ガラスの骨格の一部がSiOで構成されるケイリン酸塩ガラスも含む。
【0038】
例えば、鉄リン酸ガラスとして以下の成分を含有することが好ましい。なお、下記のガラス構成成分の各含有割合は、酸化物換算のmol%表示である。
【0039】
本発明の実施形態の鉄リン酸ガラスは、酸化物基準のモル%表示で
25%~75%、
Al 2.5%~22%、
ΣRO 0%~20%(ただし、ROは、LiO、NaO、及びKOから選ばれる1つ以上の成分、ΣROはROの合量を表す)、
ΣR'O 0.1%~35%(ただし、R'OはMgO、CaO、SrO、BaO、及びZnOから選ばれる1つ以上の成分、ΣR'OはR'Oの合量を表す)、
Fe 0.1%~35%
を含有することが好ましい。上記各成分の含有量を上記のように限定した理由を以下に説明する。
【0040】
は、ガラスを形成する主成分であり、近赤外領域のカット性を高めるための成分である。Pの含有量が25%以上であれば、近赤外領域の光をカットする効果が十分得られ、またガラス中の鉄成分におけるFe3+の割合の増加が抑えられ可視領域の光の透過率が良好であり好ましい。Pの含有量が75%以下であればガラスが安定であり、耐候性が良好であるため好ましい。Pの含有量は、より好ましくは30%~73%であり、さらに好ましくは32%~70%であり、さらに一層好ましくは33%~65%である。
【0041】
Alは、ガラスを形成する主成分であり、ガラスの耐候性を高める、ガラスの強度を高める、などのための必須成分である。Alの含有量が2.5%以上であればその効果が十分得られ、Alの含有量が22%以下であればガラスが安定であり、赤外線カット性が低下する等の問題が生じにくいため好ましい。Alの含有量は、より好ましくは3.0%~20%であり、さらに好ましくは3.5%~18%である。
【0042】
R'O(ただし、R'OはMgO、CaO、SrO、BaO、及びZnOから選ばれる1つ以上の成分)は、ガラスの溶融温度を低くする、ガラスの液相温度を低くする、ガラスを安定化させる、ガラスの強度を高めるなどのための必須成分である。R'Oの合計量(ΣR'O)が0.1%以上であればその効果が十分であり、ΣR'Oが35%以下であればガラスが安定であり、赤外線カット性が低下する、ガラスの強度が低下する等の問題が生じにくいため好ましい。ΣR'Oは、より好ましくは1.0%~33%であり、さらに好ましくは1.5%~32%である。ΣR'Oは、さらに一層好ましくは2.0%~30%であり、もっとも好ましくは2.5%~29%である。
【0043】
MgOは、必須成分ではないものの、ガラスの溶融温度を低くする、ガラスの液相温度を低くする、ガラスを安定化させる、ガラスの強度を高めるなどのための成分である。MgOを含有する場合、その含有量としては0.5%~15%が好ましい。MgOの含有量が0.5%以上であればその効果が十分得られ、MgOの含有量が15%以下であればガラスが安定になるため好ましい。MgOの含有量は、より好ましくは1.0%~13%であり、さらに好ましくは1.5%~10%である。
【0044】
CaOは、必須成分ではないものの、ガラスの溶融温度を低くする、ガラスの液相温度を低くする、ガラスを安定化させる、ガラスの強度を高めるなどのための成分である。CaOを含有する場合、その含有量としては0.1%~10%が好ましい。CaOの含有量が0.1%以上であればその効果が十分得られ、CaOの含有量が10%以下であればガラスが安定となるため好ましい。CaOの含有量は、より好ましくは0.3%~8%であり、さらに好ましくは0.5%~6%である。
【0045】
SrOは、必須成分ではないものの、ガラスの溶融温度を低くする、ガラスの液相温度を低くする、ガラスを安定化させるなどのための成分である。SrOを含有する場合、その含有量としては0.1%~10%が好ましい。SrOの含有量が0.1%以上であればその効果が十分得られ、SrOの含有量が10%以下であればガラスが安定となるため好ましい。SrOの含有量は、より好ましくは0.3%~8%であり、さらに好ましくは0.5%~8%である。
【0046】
BaOは、必須成分ではないものの、ガラスの溶融温度を低くする、ガラスの液相温度を低くする、ガラスを安定化させるなどのための成分である。BaOを含有する場合、その含有量としては0.1%~10%が好ましい。BaOの含有量が0.1%以上ではその効果が十分得られ、BaOの含有量が10%以下であればガラスが安定となり好ましい。BaOの含有量は、より好ましくは0.5%~8%であり、さらに好ましくは1.0%~6%である。
【0047】
ZnOは、必須成分ではないものの、ガラスの溶融温度を低くする、ガラスの液相温度を低くする、などの効果がある。ZnOを含有する場合、その含有量は0.5%~20%が好ましい。ZnOの含有量が0.5%以上であればその効果が十分得られ、ZnOの含有量が20%以下であればガラスの溶解性が良好であり好ましい。ZnOの含有量は、より好ましくは1.0%~18%であり、さらに好ましくは1.5%~17%である。
【0048】
Feは、近赤外線カットのための成分である。Feの含有量は0.1%以上35%以下が好ましい。Feの含有量が0.1%以上であるとガラスの肉厚を薄くした際にその効果が十分に得られ、Feの含有量が35%以下であると可視領域の光の透過率が低下せず好ましい。Feの含有量は、好ましくは0.5%~30%、より好ましくは1.0%~25%、さらに好ましくは2.0%~20%である。
【0049】
Oは、必須成分ではないものの、ガラスの熱膨張係数を上げる、ガラスの溶融温度を低くする、ガラスの液相温度を低くする、ガラスを安定化させるなどのための成分である。ROの合計量(ΣRO)は20%以下であればガラスが安定であるため好ましい。ΣROは、より好ましくは0.2%~18%であり、さらに好ましくは0.4%~16%であり、さらに一層好ましくは0.6%~15%である。
【0050】
LiOは、必須成分ではないものの、ガラスの溶融温度を低くする、ガラスの液相温度を低くする、ガラスを安定化させるなどのための成分である。LiOを含有する場合、その含有量は0%~10%が好ましい。LiOの含有量が10%以下であればガラスが安定であるため好ましい。LiOの含有量は、より好ましくは0.5%~8%であり、さらに好ましくは1.0%~7%である。
【0051】
NaOは、必須成分ではないものの、ガラスの溶融温度を低くする、ガラスの液相温度を低くする、ガラスを安定化させるなどのための成分である。NaOを含有する場合、その含有量は0%~20%が好ましい。NaOの含有量が20%以下であればガラスが安定になるため好ましい。NaOの含有量は、より好ましくは0.7%~18%であり、さらに好ましくは1.0%~16%である。
【0052】
Oは、必須成分ではないものの、ガラスの溶融温度を低くする、ガラスの液相温度を低くする、などの効果がある成分である。KOの含有量としては、0%~15%が好ましい。KOの含有量が15%以下であればガラスが安定であるため好ましい。KOの含有量は、より好ましくは0.5%~13%であり、さらに好ましくは0.7%~10%である。
【0053】
は、必須成分ではないものの、ガラスを安定化させるために10%以下の範囲で含有してもよい。Bの含有量が10%以下であれば耐候性が悪化せず、溶融温度が高くなりすぎるおそれがなく、好ましい。Bの含有量は、より好ましくは0%~9.0%であり、さらに好ましくは0%~8.5%であり、さらに一層好ましくは0%~8.0%であり、もっとも好ましくは0%~7.5%である。
【0054】
本実施形態のガラスは、PbO、Asを実質的に含有しないことが好ましい。PbOは、ガラスの粘度を下げ、製造作業性を向上させる成分である。また、Asは、幅広い温度域で清澄ガスを発生できる優れた清澄剤として作用する成分である。しかし、PbO及びAsは、環境負荷物質であるため、できるだけ含有しないことが望ましい。
【0055】
ガラス中の鉄イオンはFe2+(2価)とFe3+(3価)の状態で存在し得る。また、Fe2+は近赤外線を吸収するが、Fe3+は可視領域の光を吸収する。そのため、本実施形態のガラスにおいて、ガラス中のFe成分は、Fe2+の状態でより多く存在させる必要がある。
【0056】
しかしながら、溶融ガラスが酸化状態となると、波長400nm付近に吸収特性を有するFe3+の割合が増加し、波長400nm付近の透過率が低下する。そのため、Feに換算したFe成分の全Fe量に対するFe2+の割合((Fe2+/全Fe量)×100[%])を25%~99%とすることで、波長400nm付近の透過率の低下を抑制しつつ、波長1000nm以上の光を吸収できる。
【0057】
ガラス中のFeに換算したFe成分の全Fe量に対するFe2+の割合が、25%以上であると、波長400nm付近の透過率が低下せず好ましい。99%以下であれば、溶融ガラスの雰囲気を還元性に厳密に制御する必要がなく、製造コストが高くなるおそれがない。本実施形態のガラスにおける全Fe量に対するFe2+の割合は、30%~99%がより好ましく、35%~99%がさらに好ましく、37%~99%が一層好ましく、38%~99%が特に好ましく、40%~99%が最も好ましい。
【0058】
なお、(Fe2+/全Fe量)の表示において、Fe2+は、質量%の表示であり、全Fe量は、2価、3価、その他の存在する価数も含め、全てのFe成分の合量の質量%の表示である。
【0059】
本実施形態のガラスは、ガラス原料を溶解する際、還元剤としてショ糖のような有機物、カーボン、金属粉、塩化アンモニウム、及び炭酸アンモニウム等を添加することができる。還元剤は、ガラス中の全Fe量に対するFe2+の割合を所望の範囲に調整する効果がある。
【0060】
還元剤の添加量は、上記したガラスの組成の原料混合物の合量に対し外割添加で0.5質量%~10質量%が好ましい。添加量が0.5質量%以上であれば全Fe量に対するFe2+の割合を所望の範囲に調整する効果が十分であり、10質量%以下であればガラスの形成が困難になる。より好ましくは1質量%~8質量%であり、さらに好ましくは3質量%~6質量%である。金属粉としては、Fe、Si、及びAl等があるが、これらの物質に限られるものではない。
【0061】
本実施形態のガラスは、ガラス原料を溶解する際、窒素やアルゴン、水素ガスを炉内に流入したり、これらのガスをバブリングすることができる。これにより、炉内の雰囲気を還元性に保ち、ガラス中の全Fe量に対するFe2+の割合を所望の範囲に調整してもよい。
【0062】
本実施形態のガラスは、マイクロ波のような電磁波を照射することで、ガラス中の全Fe量に対するFe2+の割合を所望の範囲に調整してもよい。
【0063】
本実施形態の鉄リン酸ガラスは、例えば次のようにして作製できる。
まず、上記組成範囲になるように原料を秤量、混合する(混合工程)。この原料混合物を白金ルツボに収容し、電気炉内において700~1400℃の温度で加熱溶解する(溶解工程)。十分に撹拌・清澄した後、金型内に鋳込み、切断・研磨して所定の肉厚の平板状に成形する(成形工程)。
【0064】
上記製造方法の溶解工程において、ガラス溶解中のガラスの最も高い温度を1400℃以下にすることが好ましい。ガラス溶解中のガラスの最も高い温度が上記温度超であれば、透過率特性が悪化するおそれがある。上記温度は、より好ましくは1350℃以下、さらに好ましくは1300℃以下、より一層好ましくは1250℃以下である。
【0065】
また、上記溶解工程における温度は低くなりすぎると、溶解中に失透が発生する、溶け落ちに時間がかかるなどの問題が生じるおそれがあるため、好ましくは700℃以上、より好ましくは800℃以上である。
【0066】
本実施形態に係る光学フィルタにおける近赤外線吸収ガラスは、厚みが好ましくは0.5mm以下、より好ましくは0.4mm以下である。また素子強度維持の観点から厚みは0.1mm以上が好ましく、より好ましくは0.15mm以上である。
【0067】
<誘電体多層膜>
本実施形態に係る光学フィルタは、誘電体多層膜を備える。本実施形態に係る光学フィルタは誘電体多層膜を1以上有してもよいが、少なくとも一つは、近赤外光の一部を反射する反射膜(以下「NIR反射膜」とも記載する。)として設計されることが好ましい。他の誘電体多層膜は、近赤外域以外の反射域を有する反射膜や、または反射防止膜として設計されてもよい。
【0068】
NIR反射膜は、例えば、可視光を透過し、吸収層の透過領域の近赤外光を透過し、それ以外の近赤外光を主に反射する波長選択性を有することが好ましい。
【0069】
上記光学フィルタの分光特性(i-10)、分光特性(i-14)に示したように、波長800~1100nmの近赤外光領域は誘電体多層膜の反射特性により遮光されることが好ましい。
かかる特定波長領域の反射特性と、700~800nmに最大吸収波長を有する近赤外線吸収色素の吸収特性や、波長800~1200nmに吸収特性を備える鉄リン酸ガラスと組み合わせることで、波長750~1200nmの近赤外光領域を広範囲に遮光できる。
一方、上記光学フィルタの分光特性(i-12)~分光特性(i-13)に示したように、誘電体多層膜は可視光領域の反射特性が小さいことが好ましい。これにより可視光領域の分光特性が入射角によって変化しにくく、リップルが低減された光学フィルタが得られる。
以上より、少なくとも一つの誘電体多層膜は、光の入射角が0度および60度で近赤外光(波長800~1100nm)を反射する反射層として設計されることが好ましい。
他の誘電体多層膜は、反射防止層として設計されることが好ましい。
【0070】
誘電体多層膜は、例えば、屈折率の異なる誘電体膜を積層した誘電体多層膜から構成される。より具体的には、低屈折率の誘電体膜(低屈折率膜)、中屈折率の誘電体膜(中屈折率膜)、高屈折率の誘電体膜(高屈折率膜)が挙げられ、これらのうち2以上を積層した誘電体多層膜から構成される。
高屈折率膜は、好ましくは、波長500nmにおける屈折率が1.6以上であり、より好ましくは1.8~2.5であり、特に好ましくは2.2~2.5である。高屈折率膜の材料としては、例えばTa、TiO、TiO、Nbが挙げられる。その他市販品としてキヤノンオプトロン社製、OS50(Ti)、OS10(Ti)、OA500(TaとZrOの混合物)、OA600(TaとTiOの混合物)などが挙げられる。これらのうち、成膜性、屈折率等における再現性、安定性等の点から、TiOが好ましい。
【0071】
中屈折率膜は、好ましくは、波長500nmにおける屈折率が1.6以上2.2未満である。中屈折率膜の材料としては、例えばZrO、Nb、Al、HfOや、キヤノンオプトロン社が販売しているOM-4、OM-6(AlとZrOとの混合物)、OA-100、Merck社が販売しているH4、M2(アルミナランタニア)等が挙げられる。これらのうち、成膜性、屈折率等における再現性、安定性等の点から、Al系の化合物やAlとZrOとの混合物が好ましい。
【0072】
低屈折率膜は、好ましくは、波長500nmにおける屈折率が1.6未満であり、より好ましくは1.38~1.5である。低屈折率膜の材料としては、例えばSiO、SiOy、MgF等が挙げられる。その他市販品としてキヤノンオプトロン社製、S4F、S5F(SiOとAlOの混合物)が挙げられる。これらのうち、成膜性における再現性、安定性、経済性等の点から、SiOが好ましい。
【0073】
誘電体多層膜は、〔屈折率が相対的に高い誘電体膜のQWOTの総和T(H)〕/〔屈折率が相対的に低い誘電体膜のQWOTの総和T(L)〕が、好ましくは1.6以上である。これにより、波長800~1100nmの近赤外光を反射し、可視光は反射を抑えた上記分光特性を満たす誘電体多層膜が得られやすく、また、少なくとも光の入射側に積層される誘電体多層膜はかかる比率関係を満たすことが好ましい。
なお、ここでQWOT(Quater Wave Optical Thickness)とは、波長のλ/4の光学膜厚であり、下記式により物理膜厚から算出される。
QWOT=物理膜厚/中心波長(500nm)×4×波長500nmにおける屈折率
【0074】
誘電体多層膜が、低屈折率膜と高屈折率膜との積層体である場合、QWOTの総和T(H)は高屈折率膜のQWOTの総和であり、QWOTの総和T(L)は低屈折率膜のQWOTの総和である。
また、誘電体多層膜が、低屈折率膜と中屈折率膜との積層体である場合、QWOTの総和T(H)は中屈折率膜のQWOTの総和であり、QWOTの総和T(L)は低屈折率膜のQWOTの総和である。
誘電体多層膜が、中屈折率膜と高屈折率膜との積層体である場合、QWOTの総和T(H)は高屈折率膜のQWOTの総和であり、QWOTの総和T(L)は中屈折率膜のQWOTの総和である。
【0075】
また、誘電体多層膜は、下記に定義するH層とM層とが交互にそれぞれ10層以上積層された多層膜であることが好ましい。
層:屈折率が1.8以上2.5以下、QWOTが1.1以上3.5以下である単層
層:2つのH層間に存在し、QWOTの総和が1.2以上1.8以下である単層または複数の層
【0076】
上記特定の積層構造は、屈折率と光学膜厚の大きい単層(H層)と、光学膜厚の総和が所定範囲内の層(M層)とが交互に10以上積層された構造である。かかる構造により、波長800~1100nmの近赤外光を反射し、可視光の反射率が低い誘電体多層膜が得られやすい。
なおM層は所定の光学膜厚を満たせば、単層であっても複数の層であってもよいが、より滑らかな分光特性が得られる観点から、複数の層から構成されることが好ましく、また単層の膜厚の最小は5nm以上が好ましく、10nm以上がより好ましい。またM層を構成する誘電体膜の屈折率は、H層の屈折率と同一であるか、またはH層の屈折率よりも低いことが好ましい。
【0077】
上記特定の積層構造を有するのは、少なくとも反射層として設計される誘電体多層膜であることが好ましい。
反射層として設計される誘電体多層膜が上記積層構造を有する場合、H層とM層のうち近赤外線吸収ガラスに最も近い層はH層であることが好ましい。近赤外線吸収ガラスに最も近いH層は近赤外線吸収ガラスに直接積層されていてもよいし、近赤外線吸収ガラスに最も近いH層と近赤外線吸収ガラスとの間に、H層にもM層にも該当しない他の層が存在してもよい。
【0078】
反射層として設計される誘電体多層膜としては、誘電体多層膜の合計積層数が、好ましくは10層以上、より好ましくは20層以上、さらに好ましくは30層以上である。ただし、合計積層数が多くなると、反り等が発生したり、膜厚が増加したりするため、合計積層数は110層以下が好ましく、80層以下がより好ましく、60層以下がより一層好ましい。
また、反射層として設計される誘電体多層膜の膜厚(物理膜厚)は、全体として1~6μmが好ましい。
【0079】
光学フィルタを撮像装置に実装する際にセンサ側となる誘電体多層膜は、通常、反射防止層として設計されることが好ましい。反射防止層として設計される誘電体多層膜の合計積層数は、好ましくは40層以下、より好ましくは30層以下、さらに好ましくは20層以下であり、また好ましくは6層以上である。
また、反射防止層として設計される誘電体多層膜の膜厚(物理膜厚)は、全体として0.2~1.0μmが好ましい。
【0080】
誘電体多層膜の形成には、例えば、CVD法、スパッタリング法、真空蒸着法等の真空成膜プロセスや、スプレー法、ディップ法等の湿式成膜プロセス等を使用できる。
【0081】
光学フィルタを撮像装置に実装する際は、通常、ガラス面に積層された誘電体多層膜をレンズ側に、樹脂膜面に積層された誘電体多層膜をセンサ側となるようにする。
【0082】
<樹脂膜>
本実施形態に係る光学フィルタにおける樹脂膜は、樹脂と、近赤外線吸収色素とを含む。ここで、樹脂とは、樹脂膜を構成する樹脂を指す。
【0083】
近赤外線吸収色素としては、樹脂中で700~800nmに最大吸収波長を有する色素が好ましい。700~800nmに最大吸収波長を有することで、近赤外線吸収ガラスでは遮光性がやや弱い700nm付近の近赤外光領域を、色素の吸収特性によって遮光できる。
【0084】
近赤外線吸収色素としては、たとえば、シアニン色素、フタロシアニン色素、スクアリリウム色素、ナフタロシアニン色素、およびジイモニウム色素からなる群より選ばれる少なくとも一種が挙げられ、単独もしくは複数を混合して用いることができる。中でも、700~800nmの領域を急峻に吸収でき、本発明の効果が発揮されやすい観点から、スクアリリウム色素、シアニン色素が好ましい。
【0085】
樹脂膜における近赤外線吸収色素の含有量は、樹脂100質量部に対し好ましくは0.1~30質量部、より好ましくは0.1~20質量部である。なお、2種以上の化合物を組み合わせる場合、上記含有量は各化合物の総和である。
【0086】
樹脂膜は、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の色素、例えば紫外光吸収色素を含有してもよい。
紫外光吸収色素としては、オキサゾール色素、メロシアニン色素、シアニン色素、ナフタルイミド色素、オキサジアゾール色素、オキサジン色素、オキサゾリジン色素、ナフタル酸色素、スチリル色素、アントラセン色素、環状カルボニル色素、トリアゾール色素等が挙げられる。この中でも、メロシアニン色素が特に好ましい。また、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0087】
樹脂としては、透明樹脂であれば制限されず、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、エン・チオール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリパラフェニレン樹脂、ポリアリーレンエーテルフォスフィンオキシド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、環状オレフィン樹脂、ポリウレタン樹脂、およびポリスチレン樹脂等から選ばれる1種以上の透明樹脂が用いられる。これらの樹脂は1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
樹脂膜の分光特性やガラス転移点(Tg)、密着性の観点から、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂から選ばれる1種以上の樹脂が好ましい。
【0088】
複数の色素を用いる場合、これらは同一の樹脂膜に含まれてもよく、また、それぞれ別の樹脂膜に含まれてもよい。
【0089】
樹脂膜は、色素と、樹脂または樹脂の原料成分と、必要に応じて配合される各成分とを、溶媒に溶解または分散させて塗工液を調製し、これを支持体に塗工し乾燥させ、さらに必要に応じて硬化させて形成できる。この際の支持体は、本フィルタに用いられる近赤外線吸収ガラスでもよいし、樹脂膜を形成する際にのみ使用する剥離性の支持体でもよい。また、溶媒は、安定に分散できる分散媒または溶解できる溶媒であればよい。
【0090】
また、塗工液は、微小な泡によるボイド、異物等の付着による凹み、乾燥工程でのはじき等の改善のため界面活性剤を含んでもよい。さらに、塗工液の塗工には、例えば、浸漬コーティング法、キャストコーティング法、またはスピンコート法等を使用できる。上記塗工液を支持体上に塗工後、乾燥させることにより樹脂膜が形成される。また、塗工液が透明樹脂の原料成分を含有する場合、さらに熱硬化、光硬化等の硬化処理を行う。
【0091】
また、樹脂膜は、押出成形によりフィルム状に製造可能でもある。得られたフィルム状樹脂膜をリン酸ガラスに積層し熱圧着等により一体化させることにより基材を製造できる。
【0092】
樹脂膜は、光学フィルタの中に1層有してもよく、2層以上有してもよい。2層以上有する場合、各層は同じ構成であっても異なってもよい。また樹脂膜を2層以上有する場合は、近赤外線吸収ガラスの同一主面側に全て積層されてもよく、異なる主面側にそれぞれ積層されていてもよい。
【0093】
樹脂膜の厚さは、塗工後の基板内の面内膜厚分布、外観品質の観点から10μm以下、好ましくは5μm以下であり、また、適切な色素濃度で所望の分光特性を発現する観点から好ましくは0.5μm以上である。なお、光学フィルタが樹脂膜を2層以上有する場合は、各樹脂膜の総厚が上記範囲内であることが好ましい。
【0094】
本実施形態の光学フィルタは、他の構成要素として、例えば、特定の波長域の光の透過と吸収を制御する無機微粒子等による吸収を与える構成要素(層)などを備えてもよい。無機微粒子の具体例としては、ITO(Indium Tin Oxides)、ATO(Antimony-doped Tin Oxides)、タングステン酸セシウム、ホウ化ランタン等が挙げられる。ITO微粒子、タングステン酸セシウム微粒子は、可視光の透過率が高く、かつ1200nmを超える赤外波長領域の広範囲に光吸収性を有するため、かかる赤外光の遮蔽性を必要とする場合に使用できる。
【0095】
本実施形態の光学フィルタは、例えば、デジタルスチルカメラ等の撮像装置に使用した場合に、色再現性に優れる撮像装置を提供できる。かかる撮像装置は、固体撮像素子と、撮像レンズと、本実施形態の光学フィルタとを備える。本実施形態の光学フィルタは、例えば、撮像レンズと固体撮像素子との間に配置されたり、撮像装置の固体撮像素子、撮像レンズ等に粘着剤層を介して直接貼着されたりして使用できる。
【0096】
以上に記載した通り、本明細書には下記の光学フィルタ等が開示されている。
〔1〕基材と、前記基材の少なくとも一方の主面側に積層された誘電体多層膜とを備える光学フィルタであって、
前記基材は、近赤外線吸収ガラスと、近赤外線吸収色素および樹脂を含有する樹脂膜とを有し、
前記光学フィルタが下記分光特性(i-1)~(i-5)をすべて満たす光学フィルタ。
(i-1)波長440~600nm、入射角0度での平均透過率T440-600(0deg)AVEと、波長440~600nm、入射角60度での平均透過率T440-600(60deg)AVEとの差の絶対値が15%以下
(i-2)前記平均透過率T440-600(0deg)AVEが85%以上
(i-3)波長500~700nmにおいて、入射角0度で透過率が70%になる波長IR_T70(0deg)と、入射角0度で透過率が10%になる波長IR_T10(0deg)との差の絶対値が70nm以下
(i-4)波長750~1100nm、入射角0度での平均透過率T750-1100(0deg)AVEが1.5%以下
(i-5)波長1200nm、入射角0度での透過率T1200(0deg)が5%以下
〔2〕前記光学フィルタが下記分光特性(i-6)を満たす、〔1〕に記載の光学フィルタ。
(i-6)波長750~1100nm、入射角0度での平均透過率T750-1100(0deg)AVEと、波長750~1100nm、入射角60度での平均透過率T750-1100(60deg)AVEとの差の絶対値が2%以下
〔3〕前記光学フィルタが下記分光特性(i-7)を満たす、〔1〕または〔2〕に記載の光学フィルタ。
(i-7)波長1200nm、入射角0度での透過率T1200(0deg)と、波長1200nm、入射角60度での透過率T1200(60deg)との差の絶対値が4%以下
〔4〕前記光学フィルタが下記分光特性(i-8)を満たす、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の光学フィルタ。
(i-8)波長500~700nmにおいて、入射角0度で透過率が50%になる波長IR_T50(0deg)と、入射角60度で透過率が50%になる波長IR_T50(60deg)との差の絶対値が14nm以下
〔5〕前記光学フィルタが下記分光特性(i-9)を満たす、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の光学フィルタ。
(i-9)波長300~500nmにおいて、入射角0度で透過率が50%になる波長UV50(0deg)と、入射角60度で透過率が50%になる波長UV50(60deg)との差の絶対値が20nm以下
〔6〕前記近赤外線吸収ガラスが、鉄リン酸ガラスである、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の光学フィルタ。
〔7〕前記光学フィルタが下記分光特性(i-10)および(i-11)を満たす、〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の光学フィルタ。
(i-10)前記誘電体多層膜側を入射方向としたとき、波長800~1100nm、入射角5度での平均反射率R800-1100(5deg)AVEが60%以上
(i-11)前記誘電体多層膜側を入射方向としたとき、波長750~900nmの領域に、入射角5度で反射率が50%になる波長IR_R50(5deg)がある
〔8〕前記光学フィルタが下記分光特性(i-13)~(i-15)をすべて満たす、〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の光学フィルタ。
(i-13)前記誘電体多層膜側を入射方向としたとき、波長440~600nm、入射角60度での平均反射率R440-600(60deg)AVEが15%以下
(i-14)前記誘電体多層膜側を入射方向としたとき、波長800~1100nm、入射角60度での平均反射率R800-1100(60deg)AVEが45%以上
(i-15)前記誘電体多層膜側を入射方向としたとき、波長750~900nmの領域において入射角5度で反射率が50%になる波長IR_R50(5deg)と、波長500~700nmの領域において入射角5度で透過率が50%になる波長IR_T50(5deg)との差の絶対値が50nm以上
〔9〕前記近赤外線吸収ガラスが下記分光特性(ii-1)~(ii-3)をすべて満たす、〔1〕~〔8〕のいずれかに記載の光学フィルタ。
(ii-1)波長440~600nm、入射角0度での平均透過率T440-600(0deg)AVEが87%以上
(ii-2)波長600~700nm、入射角0度での平均透過率T600-700(0deg)AVEが80%以上
(ii-3)波長1200nm、入射角0度での透過率T1200(0deg)が10%以下
〔10〕前記近赤外線吸収色素が、前記樹脂中で700~800nmに最大吸収波長を有する近赤外線吸収色素を含む、〔1〕~〔9〕のいずれかに記載の光学フィルタ。
〔11〕前記光学フィルタが下記分光特性(i-16)~(i-19)をすべて満たす、〔1〕~〔10〕のいずれかに記載の光学フィルタ。
前記誘電体多層膜側を入射方向としたとき、波長X~Ynmにおける吸収損失量X-Yを以下に定義する。
(吸収損失量X-Y)[%]=100-(入射角5度における透過率)―(入射角5度における反射率)
(i-16)波長440~600nmにおける吸収損失量440-600の平均値が15%以下
(i-17)波長640~780nmにおける吸収損失量640-780の平均値が80%以上
(i-18)波長800~1100nmにおける吸収損失量800-1100の平均値が40%以下
(i-19)波長1200nmにおける吸収損失量1200が60%以上
〔12〕〔1〕~〔11〕のいずれかに記載の光学フィルタを備えた撮像装置。
【実施例0097】
次に、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。
各分光特性の測定には、紫外可視分光光度計((株)日立ハイテクノロジーズ社製、UH-4150形)を用いた。
なお、入射角度が特に明記されていない場合の分光特性は入射角0度(光学フィルタ主面に対し垂直方向)で測定した値である。
【0098】
<色素>
各例で用いた色素は下記のとおりである。
化合物1(シアニン化合物):Dyes and Pigments、73、344-352(2007)に記載の方法に基づき合成した。
化合物2(スクアリリウム化合物):国際公開第2017/135359号に基づき合成した。
化合物3(メロシアニン化合物):独国特許公報第10109243号明細書に基づき合成した。
化合物4(スクアリリウム化合物):特開2017-110209号公報に基づき合成した。
【0099】
【化1】
【0100】
各色素のポリイミド樹脂中における最大吸収波長を表1に示す。
【0101】
【表1】
【0102】
<ガラスの分光特性>
実施例および比較例に用いるガラスとして、以下に示すガラスを準備した。
鉄リン酸ガラスは、酸化物基準のmol%表示で、P 62.4%、Al 16.8%、KO 0.9%、BaO 2.2%、ZnO 8.8%、Fe 8.9%となるよう原料を秤量・混合し、内容積約400mLのルツボ内に入れて、還元雰囲気下で2時間溶融した。その後、清澄、撹拌し、およそ300℃~500℃に予熱した縦100mm×横80mm×高さ20mmの長方形のモールドに鋳込み後、約1℃/分で徐冷して、両面を0.3mmに光学研磨した板状体のサンプルのガラスを得た。
また、フツリン酸ガラスとしてNF-50T(AGCテクノグラス社製、板厚0.2mm)を準備し、アルカリガラスとしてD263ガラス(SCHOTT社製、板厚0.3mm)を準備した。
なお、上記ガラスのうち近赤外線吸収ガラスは、鉄リン酸ガラスおよびフツリン酸ガラスである。
【0103】
各ガラスの分光特性を下記表2に示す。
また、各近赤外線吸収ガラスの分光透過率曲線を図3に示す。
【0104】
【表2】
【0105】
上記に示すように、鉄リン酸ガラスは、可視光領域の透過率が高く、近赤外領域の遮光性に優れ、特に1200nm付近の近赤外領域の遮光性に優れていることが分かる。フツリン酸ガラスは1200nm付近の平均透過率が上がってしまい、近赤外領域の遮光性が鉄リン酸ガラスよりも低いことが分かる。
【0106】
<例1:光学フィルタ>
近赤外線吸収ガラスとして鉄リン酸ガラス基板の一方の主面に、下記に示す方法で樹脂膜を形成した。まず、ポリイミド樹脂(三菱ガス化学株式会社製「C3G30G」(商品名)、屈折率1.59)をγ-ブチロラクトン(GBL):シクロヘキサノン=1:1(質量比)に溶解して、樹脂濃度8.5質量%のポリイミド樹脂溶液を調製した。上記表1に記載の各色素をそれぞれ樹脂100質量部に対して、上記表1に記載の濃度で樹脂溶液に添加し、50℃、2時間撹拌・溶解することで塗工液を得た。得られた塗工液を鉄リン酸ガラス基板にスピンコート法により塗布し、およそ膜厚が3μmになるように樹脂膜1を形成した。
ガラス基板の他方の主面に、TiOとMgFとを下記表3に示す構成で蒸着により積層して、誘電体多層膜1を形成した。また、樹脂膜の表面に、TiOとSiOとを下記表4に示す構成で蒸着により積層して、誘電体多層膜2を形成した。
このようにして、誘電体多層膜1(前方面、表3)/近赤外線吸収ガラス/樹脂膜/誘電体多層膜2(後方面、表4)の構成を備えた光学フィルタを作製した。
【0107】
<例2~例4:光学フィルタ>
ガラス、誘電体多層膜1、誘電体多層膜2を、下記に示す構成に変更したこと以外は例1と同様にして、光学フィルタを作製した。各誘電体多層膜の構成は、表5~表9に示す。
例2:誘電体多層膜1(表5)/近赤外線吸収ガラス/樹脂膜および誘電体多層膜2(表6)
例3:誘電体多層膜1(表7)/近赤外線吸収ガラス/樹脂膜/誘電体多層膜2(表8)
例4:誘電体多層膜1(表9)アルカリガラス/樹脂膜および誘電体多層膜2(表6)
【0108】
【表3】
【0109】
【表4】
【0110】
【表5】
【0111】
【表6】
【0112】
【表7】
【0113】
【表8】
【0114】
【表9】
【0115】
各光学フィルタについて、紫外可視分光光度計を用いて300~1200nmの波長範囲における入射角0度および60度での分光透過率曲線、入射角5度での分光反射率曲線を測定した。
結果を下記表10に示す。
なお、反射率は誘電体多層膜2側から入射した光に対して測定した。
また、例1の光学フィルタの分光透過率曲線を図4に示し、分光反射率曲線を図5に示す。例2の光学フィルタの分光透過率曲線を図6に示す。例3の光学フィルタの分光透過率曲線を図7に示し、分光反射率曲線を図8に示す。例4の光学フィルタの分光透過率曲線を図9に示す。
なお、例1~例2は実施例であり、例3~例4は比較例である。
【0116】
【表10】
【0117】
上記結果より、例1および例2の光学フィルタは、平均透過率T440-600(0deg)AVEと平均透過率T440-600(60deg)AVEとの差の絶対値が15%以下であり、60度の高入射角であっても可視光透過率の変化が小さく、また平均透過率T440-600(0deg)AVEが85%以上であり高い可視光透過率を維持している。さらに波長IR_T70(0deg)と波長IR_T10(0deg)との差の絶対値が70nm以下であることから、可視光透過領域から近赤外光遮光領域にかけて透過率変化が急峻である。さらに平均透過率T750-1100(0deg)AVEと平均透過率T750-1100(60deg)AVEとの差の絶対値が15%以下であることから、60度の高入射角であっても近赤外光遮蔽性の変化が小さく、また平均透過率T750-1100(0deg)AVEが1.5%以下かつ透過率T1200(0deg)が5%以下であり、広範囲において近赤外光の遮蔽性に優れる。
一方、例3の光学フィルタは、高入射角において可視光透過率の変化が大きい。これは誘電体多層膜2の近赤外光反射特性が大きいため、高入射角では可視光透過率が低下したことによる。例3の光学フィルタはまた、可視光透過領域から近赤外光遮光領域にかけて透過率変化の急峻性が不十分であった。これは近赤外線吸収ガラスとして波長600~700nmに緩やかな吸収特性を備えるフツリン酸ガラスを用いたことによる。
例4の光学フィルタは、近赤外線吸収ガラスを用いなかったため、波長750~1100nmや波長1200nmでの近赤外光遮蔽性が不十分であった。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本実施形態の光学フィルタは、高入射角でも分光特性の変化が小さく、可視光領域の透過性に優れ、可視光透過領域から近赤外遮光領域にかけての透過率の変化が急峻であり、近赤外光領域の遮蔽性、特に1200nmも含む広範囲の遮蔽性に優れた分光特性を有する。近年、高性能化が進む、例えば、輸送機用のカメラやセンサ等の撮像装置の用途に有用である。
【符号の説明】
【0119】
1A、1B…光学フィルタ
10…近赤外線吸収ガラス
21、22…誘電体多層膜
30…樹脂膜
40…基材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9