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  • 特開-正極層、正極及び固体電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093769
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】正極層、正極及び固体電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20240702BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20240702BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20240702BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240702BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/13
H01M10/0562
H01M10/052
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022210342
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】城戸崎 徹
(72)【発明者】
【氏名】奥山 智幸
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ06
5H029AK01
5H029AK03
5H029AK05
5H029AK18
5H029AL02
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM12
5H050AA12
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CA29
5H050CB02
5H050CB11
5H050CB12
5H050DA13
5H050EA01
5H050HA01
(57)【要約】
【課題】固体電池の抵抗増加率を低減することができる、正極層、上記正極層を備える正極、上記正極を備える固体電池の提供。
【解決手段】リチウム原子、硫黄原子、ハロゲン原子を含む硫化物固体電解質を含有し、
前記硫化物固体電解質が、表面に下記一般式(1)で表される化合物、下記一般式(2)で表される化合物、下記一般式(1)で表される化合物のポリマー、下記一般式(2)で表される化合物のポリマー、並びに下記一般式(1)で表される化合物及び下記一般式(2)で表される化合物のポリマーから選択される少なくとも1種を含む被覆層を有する、正極層等。

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム原子、硫黄原子及びハロゲン原子を含む硫化物固体電解質を含有し、
前記硫化物固体電解質が、表面に下記一般式(1)で表される化合物、下記一般式(2)で表される化合物、下記一般式(1)で表される化合物のポリマー、下記一般式(2)で表される化合物のポリマー、並びに下記一般式(1)で表される化合物及び下記一般式(2)で表される化合物のポリマーから選択される少なくとも1種を含む被覆層を有する、正極層。
【化1】

(式(1)中、
~Rは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、1価の炭化水素基又は1価のハロゲン化炭化水素基であり、R~Rの少なくとも1つは1価の炭化水素基又は1価のハロゲン化炭化水素基であり、R~Rの少なくとも1つはエーテル構造を有する。
式(2)中、R11~R14は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、1価のシリルエーテル基、1価の炭化水素基又は1価のハロゲン化炭化水素基であり、R11~R14の少なくとも1つはシリルエーテル基である。)
【請求項2】
前記被覆層が、前記一般式(1)で表される化合物及び前記一般式(1)で表される化合物のポリマーの少なくとも一方を含み、
~Rのうちいずれか2つが水素原子であり、1つがエーテル構造を有する1価の炭化水素基である、請求項1に記載の正極層。
【請求項3】
前記被覆層が、前記一般式(2)で表される化合物及び前記一般式(2)で表される化合物のポリマーの少なくとも一方を含み、
11~R14のうち3つが1価のシリルエーテル基であり、1つが1価の炭化水素基である、請求項1又は請求項2に記載の正極層。
【請求項4】
前記被覆層が、下記化学式で表される化合物、及び下記化学式で表される化合物の少なくとも1つを含むポリマーから選択される少なくとも1種を含む、請求項1又は請求項2に記載の正極層。
【化2】
【請求項5】
前記一般式(1)で表される化合物、前記一般式(2)で表される化合物、前記一般式(1)で表される化合物のポリマー、前記一般式(2)で表される化合物のポリマー、又は前記一般式(1)で表される化合物及び前記一般式(2)で表される化合物のポリマーの分子量又は重量平均分子量が、60以上である、請求項1又は請求項2に記載の正極層。
【請求項6】
前記正極層に含有される前記硫化物固体電解質の含有量を100質量部としたとき、前記一般式(1)で表される化合物、前記一般式(2)で表される化合物、前記一般式(1)で表される化合物のポリマー、前記一般式(2)で表される化合物のポリマー、並びに前記一般式(1)で表される化合物及び前記一般式(2)で表される化合物のポリマーの含有量の和が、0.1質量部~20質量部である、請求項1又は請求項2に記載の正極層。
【請求項7】
正極集電体と、請求項1又は請求項2に記載の正極層とを備える、正極。
【請求項8】
請求項7に記載の正極と、電解質層と、負極層及び負極集電体を含む負極とを備える、固体電池。
【請求項9】
前記電解質層が、表面に下記一般式(1)で表される化合物、下記一般式(2)で表される化合物、下記一般式(1)で表される化合物のポリマー、下記一般式(2)で表される化合物のポリマー、並びに下記一般式(1)で表される化合物及び下記一般式(2)で表される化合物のポリマーから選択される少なくとも1種を含む被覆層を有する固体電解質を含まない、又は前記被覆層を有する固体電解質を含み、電解質層の総質量に対する、前記被覆層を有する固体電解質の含有率が1質量%以下であり、且つ
前記負極層が、表面に下記一般式(1)で表される化合物、下記一般式(2)で表される化合物、下記一般式(1)で表される化合物のポリマー、下記一般式(2)で表される化合物のポリマー、並びに下記一般式(1)で表される化合物及び下記一般式(2)で表される化合物のポリマーから選択される少なくとも1種を含む被覆層を有する固体電解質を含まない、又は前記被覆層を有する固体電解質を含み、負極層の総質量に対する、前記被覆層を有する固体電解質の含有率が1質量%以下である、請求項8に記載の固体電池。
【化3】

(式(1)中、
~Rは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、1価の炭化水素基又は1価のハロゲン化炭化水素基であり、R~Rの少なくとも1つは1価の炭化水素基又は1価のハロゲン化炭化水素基であり、R~Rの少なくとも1つはエーテル構造を有する。
式(2)中、R11~R14は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、1価のシリルエーテル基、1価の炭化水素基又は1価のハロゲン化炭化水素基であり、R11~R14の少なくとも1つはシリルエーテル基である。)


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、正極層、正極及び固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年におけるパソコン、ビデオカメラ、及び携帯電話等の情報関連機器や通信機器等の急速な普及に伴い、その電源として利用される電池の開発が重要視されている。中でもエネルギー密度が高く、安全性に優れるという観点から、リチウムイオン電池が注目を浴びている。
【0003】
従来、このような用途に用いられる電池において可燃性の有機溶媒を含む電解液が用いられていたため、短絡時の温度上昇を抑制する安全装置の取付、短絡防止のための構造、材料面での改善が必要となる。これに対して、電解液を固体電解質に代えて、電池を固体化することで、電池内に可燃性の有機溶媒を用いず、安全装置の簡素化が図れ、製造コスト、生産性に優れることから、電解液を固体電解質層に換えた電池の開発が行われている。
【0004】
特許文献1には、固体電解質層に含有させる固体電解質として、BET比表面積が10m/g以上であり、リチウム原子、硫黄原子、リン原子及びハロゲン原子を含む硫化物固体電解質と、エポキシ化合物と、を含み、FT-IR分析(ATR法)による赤外線吸収スペクトルにおいて、2800~3000cm-1にピークを有する、改質硫化物固体電解質が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2022/158458号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、固体電池は、充放電を繰り返すことにより抵抗が増加する傾向にあり、抵抗増加率の増加により、電池を充放電することに起因する電池の劣化が大きくなることを意味する。
今般、本発明者らは、特許文献1において開示される改質硫化物固体電解質は、負極層又は固体電解質層に含有させた場合、抵抗増加率を更に高めてしまうおそれがあること、特許文献1において開示される改質硫化物固体電解質の中には、正極層に含有させた場合であっても、抵抗増加率を更に高めてしまうおそれがあることを見出した。
【0007】
本開示の一実施形態は、上記事情に鑑みてなされたものであり、解決しようとする課題は、固体電池の抵抗増加率を低減することができる、正極層、上記正極層を備える正極、上記正極を備える固体電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための手段には、以下の実施態様が含まれる。
<1> リチウム原子、硫黄原子及びハロゲン原子を含む硫化物固体電解質を含有し、
上記硫化物固体電解質が、表面に下記一般式(1)で表される化合物、下記一般式(2)で表される化合物、下記一般式(1)で表される化合物のポリマー、下記一般式(2)で表される化合物のポリマー、並びに下記一般式(1)で表される化合物及び下記一般式(2)で表される化合物のポリマーから選択される少なくとも1種を含む被覆層を有する、正極層。
【0009】
【化1】
【0010】
(式(1)中、
~Rは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、1価の炭化水素基又は1価のハロゲン化炭化水素基であり、R~Rの少なくとも1つは1価の炭化水素基又は1価のハロゲン化炭化水素基であり、R~Rの少なくとも1つはエーテル構造を有する。
式(2)中、R11~R14は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、1価のシリルエーテル基、1価の炭化水素基又は1価のハロゲン化炭化水素基であり、R11~R14の少なくとも1つはシリルエーテル基である。)
<2> 上記被覆層が、上記一般式(1)で表される化合物及び上記一般式(1)で表される化合物のポリマーの少なくとも一方を含み、
~Rのうちいずれか2つが水素原子であり、1つがエーテル構造を有する1価の炭化水素基である、上記<1>に記載の正極層。
<3> 上記被覆層が、上記一般式(2)で表される化合物及び上記一般式(2)で表される化合物のポリマーの少なくとも一方を含み、
11~R14のうち3つが1価のシリルエーテル基であり、1つが1価の炭化水素基である、上記<1>又は<2>に記載の正極層。
<4> 上記被覆層が、下記化学式で表される化合物、及び下記化学式で表される化合物の少なくとも1つを含むポリマーから選択される少なくとも1種を含む、上記<1>~<3>のいずれか1つに記載の正極層。
【0011】
【化2】
【0012】
<5> 上記一般式(1)で表される化合物、上記一般式(2)で表される化合物、上記一般式(1)で表される化合物のポリマー、上記一般式(2)で表される化合物のポリマー、又は上記一般式(1)で表される化合物及び上記一般式(2)で表される化合物のポリマーの分子量又は重量平均分子量が、60以上である、上記<1>~<4>のいずれか1つに記載の正極層。
<6> 上記正極層に含有される上記硫化物固体電解質の含有量を100質量部としたとき、上記一般式(1)で表される化合物、上記一般式(2)で表される化合物、上記一般式(1)で表される化合物のポリマー、上記一般式(2)で表される化合物のポリマー、並びに上記一般式(1)で表される化合物及び上記一般式(2)で表される化合物のポリマーの含有量の和が、0.1質量部~20質量部である、上記<1>~<5>のいずれか1つに記載の正極層。
<7> 正極集電体と、上記<1>~<6>のいずれか1つに記載の正極層とを備える、正極。
<8> 上記<7>に記載の正極と、電解質層と、負極層及び負極集電体を含む負極とを備える、固体電池。
<9> 上記電解質層が、表面に下記一般式(1)で表される化合物、下記一般式(2)で表される化合物、下記一般式(1)で表される化合物のポリマー、下記一般式(2)で表される化合物のポリマー、並びに下記一般式(1)で表される化合物及び下記一般式(2)で表される化合物のポリマーから選択される少なくとも1種を含む被覆層を有する固体電解質を含まない、又は上記被覆層を有する固体電解質を含み、電解質層の総質量に対する、上記被覆層を有する固体電解質の含有率が1質量%以下であり、且つ
上記負極層が、表面に下記一般式(1)で表される化合物、下記一般式(2)で表される化合物、下記一般式(1)で表される化合物のポリマー、下記一般式(2)で表される化合物のポリマー、並びに下記一般式(1)で表される化合物及び下記一般式(2)で表される化合物のポリマーから選択される少なくとも1種を含む被覆層を有する固体電解質を含まない、又は上記被覆層を有する固体電解質を含み、負極層の総質量に対する、上記被覆層を有する固体電解質の含有率が1質量%以下である、上記<8>に記載の固体電池。
【0013】
【化3】
【0014】
(式(1)中、
~Rは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、1価の炭化水素基又は1価のハロゲン化炭化水素基であり、R~Rの少なくとも1つは1価の炭化水素基又は1価のハロゲン化炭化水素基であり、R~Rの少なくとも1つはエーテル構造を有する。
式(2)中、R11~R14は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、1価のシリルエーテル基、1価の炭化水素基又は1価のハロゲン化炭化水素基であり、R11~R14の少なくとも1つはシリルエーテル基である。)
【発明の効果】
【0015】
本開示の一実施形態によれば、固体電池の抵抗増加率を低減することができる、正極層、上記正極層を備える正極、上記正極を備える固体電池を提供することできる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本開示の固体電解質の一実施形態を表す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本開示において、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を意味する。
本開示に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。本開示に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
本開示において、各成分の量は、各成分に該当する物質が複数種存在する場合には、特に断らない限り、複数種の物質の合計量を意味する。

本開示において、「固体電解質」とは、窒素雰囲気下25℃で固体を維持する電解質を意味する。
本開示において、「硫化物固体電解質」には結晶構造を有する結晶性硫化物固体電解質と、非晶性硫化物固体電解質との両方が含まれる。
本開示において、結晶性硫化物固体電解質とは、粉末X線回折(XRD)測定においてX線回折パターンに、固体電解質由来のピークが観測される固体電解質であって、これらにおいての固体電解質の原料由来のピークの有無は問わない材料である。すなわち、結晶性硫化物固体電解質は、固体電解質に由来する結晶構造を含み、その一部が該固体電解質に由来する結晶構造であっても、その全部が該固体電解質に由来する結晶構造であってもよいものである。そして、結晶性硫化物固体電解質は、上記のようなX線回折パターンを有していれば、その一部に非晶性硫化物固体電解質(「ガラス成分」とも称される。)が含まれていてもよいものである。したがって、結晶性硫化物固体電解質には、非晶性固体電解質(ガラス成分)を結晶化温度以上に加熱して得られる、いわゆるガラスセラミックスが含まれる。
また、本開示において、非晶性硫化物固体電解質(ガラス成分)とは、粉末X線回折(XRD)測定においてX線回折パターンが実質的に材料由来のピーク以外のピークが観測されないハローパターンであるもののことであり、固体電解質の原料由来のピークの有無は問わないものであることを意味する。
【0018】
[正極層]
本開示の正極層は、リチウム原子、硫黄原子、ハロゲン原子を含む硫化物固体電解質(以下、「特定硫化物固体電解質」とも記す。)を含有し、
上記硫化物固体電解質が、表面に下記一般式(1)で表される化合物、下記一般式(2)で表される化合物(以下、下記一般式(1)で表される化合物及び下記一般式(2)で表される化合物を「特定化合物」とも記す。)、下記一般式(1)で表される化合物のポリマー、下記一般式(2)で表される化合物のポリマー、並びに下記一般式(1)で表される化合物及び下記一般式(2)で表される化合物のポリマー(以下、下記一般式(1)で表される化合物のポリマー、下記一般式(2)で表される化合物のポリマー、並びに下記一般式(1)で表される化合物及び下記一般式(2)で表される化合物のポリマーを「特定ポリマー」とも記す。)から選択される少なくとも1種を含む被覆層を有する。
【0019】
【化4】
【0020】
式(1)中、R~Rは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、1価の炭化水素基又は1価のハロゲン化炭化水素基であり、R~Rの少なくとも1つは1価の炭化水素基又は1価のハロゲン化炭化水素基であり、R~Rの少なくとも1つはエーテル構造を有する。
式(2)中、R11~R14は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、1価のシリルエーテル基、1価の炭化水素基又は1価のハロゲン化炭化水素基であり、R11~R14の少なくとも1つはシリルエーテル基である。
【0021】
本開示の正極層によれば、固体電池の抵抗増加率を低減することができる。上記効果が奏される理由は明らかではないが、以下のように推測される。
被覆層を有していない硫化物固体電解質は、充放電時に炭素繊維等により電子を引き抜かれ、劣化する。硫化物固体電解質が被覆層を有していることにより、この劣化を抑制することができ、固体電池の抵抗増加率を低減することができると推測される。
また、劣化した硫化物固体電解質からは酸素が放出され、これが硫化物固体電解質と反応し、更なる劣化につながるが、硫化物固体電解質が被覆層を有していることにより、酸素との反応を抑制することができ、固体電池の抵抗増加率を低減することができると推測される。
更に、正極層は導電助剤を含有する場合があり、この場合には、導電助剤と硫化物固体電解質との反応を抑制することができ、固体電池の抵抗増加率を低減することができると推測される。
【0022】
(硫化物固体電解質)
硫化物固体電解質は、リチウム原子、硫黄原子及びハロゲン原子を含む。
硫化物固体電解質は、非晶性であってもよく、結晶性であってもよい。
【0023】
一実施形態において、硫化物固体電解質の組成は、例えば、xLiS・(100-x)P(70≦x≦80)、yLiI・zLiBr・(100-y-z)(xLiS・(1-x)P)(0.7≦x≦0.8、0≦y≦30、0≦z≦30)等で表される。
また、硫化物固体電解質は、下記一般式(1)で表される組成を有してもよい。
Li4-xGe1-x (0<x<1) ・・・式(1)
式(1)において、Geの少なくとも一部は、Sb、Si、Sn、B、Al、Ga、In、Ti、Zr、V及びNbよりなる群から選ばれる少なくとも一つで置換されてもよい。また、Pの少なくとも一部は、Sb、Si、Sn、B、Al、Ga、In、Ti、Zr、V及びNbよりなる群から選ばれる少なくとも1つで置換されてもよい。Liの一部は、Na、K、Mg、Ca及びZnよりなる群から選ばれる少なくとも1つで置換されてもよい。Sの一部は、ハロゲンで置換されてもよい。ハロゲンとしては、F、Cl,Br及びIの少なくとも1つである。
【0024】
非晶性硫化物固体電解質としては、LiS-P-LiI、LiS-P-LiCl、LiS-P-LiBr、LiS-P-LiI-LiBr等の、硫化リチウム、硫化リン及びハロゲン化リチウムとから構成される固体電解質;更に酸素原子、珪素原子等の他の原子を含む、LiS-P-LiO-LiI、LiS-SiS-P-LiI等の固体電解質などが挙げられる。
より高いイオン伝導度を得る観点から、LiS-P-LiI、LiS-P-LiCl、LiS-P-LiBr、LiS-P-LiI-LiBr等の硫化リチウムと硫化リンとハロゲン化リチウムとから構成される固体電解質が好ましく挙げられる。
非晶性硫化物固体電解質を構成する原子の種類は、例えば、ICP発光分光分析装置により確認することができる。
結晶性硫化物固体電解質は、非晶性固体電解質を結晶化温度以上に加熱して得られる、いわゆるガラスセラミックスであってもよく、その結晶構造としては、LiPS結晶構造、Li結晶構造、LiPS結晶構造、Li11結晶構造、2θ=20.2°近傍及び23.6°近傍にピークを有する結晶構造(例えば、特開2013-16423号公報)等が挙げられる。また、Li4-xGe1-x系チオリシコンリージョンII(thio-LISICON Region II)型結晶構造(Kannoら、Journal of The Electrochemical Society,148(7)A742-746(2001)参照)、Li4-xGe1-x系チオリシコンリージョンII(thio-LISICON Region II)型と類似の結晶構造(Solid State Ionics,177(2006),2721-2725参照))等も挙げられる。
【0025】
硫化物固体電解質の形状は、特に制限はないが、例えば、粒子状を挙げることができる。粒子状の硫化物固体電解質の平均粒径(D50)は、例えば、0.01μm~500μm、0.1~200μmの範囲内を例示できる。
【0026】
正極層の総質量に対する硫化物固体電解質の含有率は、10質量%~50質量%であることが好ましく、11質量%~20質量%であることがより好ましい。
【0027】
-被覆層-
特定硫化物固体電解質は、特定化合物及び特定ポリマーから選択される少なくとも1種を含む被覆層を有する。被覆層は、特定硫化物固体電解質の表面全体に設けられていてもよく、一部に設けられていてもよい。
【0028】
以下、特定化合物の1つである一般式(1)で表される化合物について説明する。
ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等が挙げられ、フッ素、塩素、臭素が好ましく、フッ素がより好ましい。
【0029】
固体電池の抵抗増加率を低減する観点からは、1価の炭化水素基は、炭素数1~20であることが好ましく、炭素数3~15であることがより好ましく、炭素数5~10であることが更に好ましい。
1価の炭化水素基は、脂肪族炭化水素基、脂環族炭化水素基及び芳香族炭化水素基のいずれであってもよく、脂肪族炭化水素基又は脂環族炭化水素基が好ましく、脂肪族炭化水素基がより好ましい。脂肪族炭化水素基は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよく、分岐鎖状であることが好ましい。
脂肪族炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基等が挙げられ、アルキル基が好ましい。
脂環族炭化水素基としては、シクロアルキル基、シクロアルケニル基等が挙げられる。
芳香族炭化水素基としては、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、ジフェニルメチル基、トリチル基、アントラニル基、ペリレニル基、ピレニル基等が挙げられる。
芳香族炭化水素基は、水酸基、上記1価の脂肪族炭化水素基(例えば、アルキル基、アルケニル基)等により一部が置換されていてもよい。例えば、ベンジル基等も本開示においては、芳香族炭化水素基に含まれる。
1価の炭化水素基は、エーテル構造を含んでいてもよい。
【0030】
1価のハロゲン化炭化水素基としては、上記した1価の炭化水素基の一部がハロゲン原子により置換された基が挙げられる。ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素が好ましく、フッ素がより好ましい。
【0031】
固体電池の抵抗増加率を低減する観点からは、一般式(1)において、R~Rのうちいずれか2つが水素原子であり、1つがエーテル構造を有する1価の炭化水素基又は1価のハロゲン化炭化水素基であることが好ましく、R~Rのうちいずれか2つが水素原子であり、1つがエーテル構造を有する1価の炭化水素基であることがより好ましい。
【0032】
一般式(1)を満たす化合物としては、以下の化合物が挙げられる。なお、一般式(1)を満たす化合物は、これらに限定されるものではない。
【0033】
【化5】
【0034】
被覆層は、一般式(1)で表される化合物のポリマーを含んでいてもよい。
一般式(1)で表される化合物のポリマーは、一般式(1)で表される化合物のみから構成されるものであってもよく、本開示の効果を顕著に損なわない範囲において、その他のモノマー等と共重合したポリマーであってもよい。
なお、本開示において、一般式(1)で表される化合物のポリマーとは、一般式(1)で表される化合物が2個以上重合した化合物を指す。
また、被覆層において、一般式(1)で表される化合物のポリマーの存在は、GC-MSにより確認する。
【0035】
以下、特定化合物の1つである一般式(2)で表される化合物について説明する。なお、ハロゲン原子、1価の炭化水素基及び1価のハロゲン化炭化水素基については、一般式(1)と同様であるため、ここでは記載を省略する。
1価のシリルエーテル基は、*-O-Si-(R20で表される基であることが好ましい。上記基において、R20は、それぞれ独立して、水素原子又は1価の炭化水素基であり、R20のうち少なくとも1つが1価の炭化水素基である。R20は、1価の炭化水素基であることが好ましく、脂肪族炭化水素基又は脂環族炭化水素基が好ましく、脂肪族炭化水素基がより好ましい。脂肪族炭化水素基は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよく、分岐鎖状であることが好ましい。ここでの、1価の炭化水素基も、一般式(1)と同様であるため、ここでは記載を省略する。
また、上記基において、*は、一般式(2)におけるSiとの結合部を表す。
【0036】
固体電池の抵抗増加率を低減する観点からは、一般式(2)において、R11~R14のうち少なくとも2つが1価のシリルエーテル基であることが好ましく、少なくとも3つが1価のシリルエーテル基であることがより好ましく、3つが1価のシリルエーテル基であり、且つ1つが1価の炭化水素基であることが更に好ましい。
【0037】
一般式(2)を満たす化合物としては、以下の化合物が挙げられる。なお、一般式(2)を満たす化合物は、これらに限定されるものではない。
【0038】
【化6】
【0039】
被覆層は、一般式(2)で表される化合物のポリマーを含んでいてもよい。
一般式(2)で表される化合物のポリマーは、一般式(2)で表される化合物のみから構成されるものであってもよく、本開示の効果を顕著に損なわない範囲において、その他のモノマー等と共重合したポリマーであってもよい。
なお、本開示において、一般式(2)で表される化合物のポリマーとは、一般式(2)で表される化合物が2個以上重合した化合物を指す。
【0040】
被覆層は、一般式(1)で表される化合物及び一般式(2)で表される化合物のポリマーを含んでいてもよい。
上記ポリマーは、一般式(1)で表される化合物及び一般式(2)で表される化合物のみから構成されるものであってもよく、本開示の効果を顕著に損なわない範囲において、その他のモノマー等と共重合したポリマーであってもよい。
なお、本開示において、一般式(1)で表される化合物及び一般式(2)で表される化合物のポリマーとは、一般式(1)で表される化合物及び一般式(2)で表される化合物がそれぞれ1個以上重合した化合物を指す。
また、被覆層において、一般式(2)で表される化合物のポリマー、及び一般式(1)で表される化合物及び一般式(2)で表される化合物のポリマーの存在は、GC-MSにより確認する。
【0041】
固体電池の抵抗増加率を低減する観点からは、特定化合物の分子量は、60以上であることが好ましく、60~10000であることがより好ましく、300~5000であることが更に好ましい。
正極層は、特定ポリマーを含有していてもよい。この場合、特定ポリマーの重量平均分子量は、60~10000であることが好ましく、300~5000であることがより好ましい。
なお、「重量平均分子量」は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、ポリスチレン換算により求める。
【0042】
正極層に含有される硫化物固体電解質の含有量を100質量部としたとき、特定化合物及び特定ポリマーの含有量の和は、固体電池の抵抗増加率を低減する観点からは、0.1質量部~20質量部であることが好ましく、1質量部~10質量部であることがより好ましく、3質量部~7質量部であることが更に好ましい。
固体電池の抵抗増加率を低減する観点からは、正極層の総質量に対する、特定化合物及び特定ポリマーの含有率の和は、0.01量%~4質量%であることが好ましく、0.1質量%~2質量%であることがより好ましい。
【0043】
硫化物固体電解質の表面に被覆層を有する特定硫化物固体電解質は、硫化物固体電解質と、特定化合物と、有機溶媒とを混合し、次いで、有機溶媒を除去することにより製造することができる。
有機溶媒としては、ヘキサン、ペンタン、2-エチルヘキサン、トルエン、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、tert-ブチルメチルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル;プロピオン酸メチル、エチレンジアミン、ジアミノプロパン、ジメチルエチレンジアミン、ジエチルエチレンジアミン等が挙げられる。
硫化物固体電解質は、従来公知の方法により製造したものを使用してもよく、市販されるものを使用してもよい。
【0044】
(正極活物質)
本開示の正極層は、正極活物質を含有してもよい。
正極活物質は、負極活物質との関係で、イオン伝導度を発現させる原子として採用される原子、好ましくはリチウム原子に起因するリチウムイオンの移動を伴う電池化学反応を促進させ得るものであれば特に制限なく用いることができる。このようなリチウムイオンの挿入脱離が可能な正極活物質としては、酸化物系正極活物質、硫化物系正極活物質等が挙げられる。
酸化物系正極活物質としてはLMO(マンガン酸リチウム)、LCO(コバルト酸リチウム)、NMC(ニッケルマンガンコバルト酸リチウム)、NCA(ニッケルコバルトアルミ酸リチウム)、LNCO(ニッケルコバルト酸リチウム)、オリビン型化合物(LiMeNPO、Me=Fe、Co、Ni、Mn)等のリチウム含有遷移金属複合酸化物が好ましく挙げられる。
硫化物系正極活物質としては、硫化チタン(TiS)、硫化モリブデン(MoS)、硫化鉄(FeS、FeS)、硫化銅(CuS)、硫化ニッケル(Ni)等が挙げられる。また、上記正極活物質の他、セレン化ニオブ(NbSe)等も使用可能である。
正極活物質は、一種単独で、又は複数種を組み合わせて用いることが可能である。
【0045】
正極活物質は、空間群R-3m、Immm、及びP63-mmc(P63mc、P6/mmcともいう。)より選ばれる少なくとも1つの空間群に属する結晶構造を有してもよい。また、正極活物質は、遷移金属、酸素、及びリチウムの主たる配列がO2型構造を有していてもよい。
R-3mに属する結晶構造を有する正極活物質としては、例えば、LiMeαβ(MeはMn、Co、Ni、Fe、Al、Cu、V、Nb、Mo、Ti、Cr、Zr、Zn、Na、K、Ca、Mg、Pt、Au、Ag、Ru、W、B、Si及びPからなる群より選択される少なくとも一種を表し、Xは、F、Cl、N、S、Br及びIからなる群より選択される少なくとも一種を表し、0.5≦x≦1.5、0.5≦y≦1.0、1≦α<2、0<β≦1を満たす。)で表される化合物が挙げられる。
Immmに属する結晶構造を有する正極活物質としては、例えば、Lix1 (1.5≦x1≦2.3を満たし、MはNi,Co,Mn,Cu及びFeよりなる群から選択される少なくとも1種を含み、Aは少なくとも酸素を含み、Aに占める酸素の比率は85原子%以上である。)で表される複合酸化物(具体的な例としてLiNiO)、Lix11A 1-x21B x22-y (0≦x2≦0.5、0≦y≦0.3であり、x2及びyの少なくとも一方は0でなく、M1AはNi,Co,Mn,Cu及びFeよりなる群から選択される少なくとも1種を表し、M1BはAl,Mg,Sc,Ti,Cr,V,Zn,Ga,Zr,Mo,Nb,Ta及びWよりなる群から選択される少なくとも1種を表し、A2はF,Cl,Br,S及びPよりなる群から選択される少なくとも1種を表す。)で表される複合酸化物が挙げられる。
P63-mmcに属する結晶構造を有する正極活物質としては、例えば、M1M2(M1はアルカリ金属(Na及びKの少なくとも一種が好ましい)を表し、M2は遷移金属(Mn,Ni,Co及びFeよりなる群から選ばれる少なくとも一種が好ましい)を表し、x+yは0<x+y≦2を満たす。)で表される複合酸化物が挙げられる。
O2型構造を有する正極活物質としては、例えば、Li[Liα(MnCo1-α]O(0.5<x<1.1、0.1<α<0.33、0.17<a<0.93、0.03<b<0.50、0.04<c<0.33であり、MはNi、Mg、Ti、Fe、Sn、Zr、Nb、Mo、W及びBiよりなる群から選ばれる少なくとも一種を表す。)で表される複合酸化物が挙げられ、具体的な例としてLi0.744[Li0.145Mn0.625Co0.115Ni0.115]O等が挙げられる。
【0046】
正極層の総質量に対する正極活物質の含有率は、65質量%~95質量%であることが好ましく、80質量%~90質量%であることがより好ましい。
【0047】
(導電助剤)
本開示の正極層は、導電助剤を含有してもよい。
導電助剤としては、人造黒鉛、黒鉛炭素繊維、樹脂焼成炭素、熱分解気相成長炭素、コークス、メソカーボンマイクロビーズ、フルフリルアルコール樹脂焼成炭素、ポリアセン、ピッチ系炭素繊維、気相成長炭素繊維、天然黒鉛、難黒鉛化性炭素等の炭素系材料が挙げられる。
【0048】
正極層の総質量に対する導電助剤の含有率は、1質量%~5質量%であることが好ましく、1質量%~2質量%であることがより好ましい。
【0049】
(バインダー)
本開示の正極層は、バインダーを含有してもよい。
バインダーとしては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素系ポリマー、ブチレンゴム、スチレン-ブタジエンゴム等の熱可塑性エラストマー、アクリル樹脂、アクリルポリオール樹脂、ポロビニルアセタール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、シリコーン樹脂等の各種樹脂が例示される。
【0050】
正極層の総質量に対するバインダーの含有率は、0.1質量%~10質量%であることが好ましく、0.2質量%~0.8質量%であることがより好ましい。
【0051】
(その他の成分)
本開示の正極層は、上記した成分以外の成分(以下、「その他の成分」とも記す。)を含有してもよい。その他の成分としては、硫化物固体電解質以外の固体電解質等が挙げられる。硫化物固体電解質以外の固体電解質としては、酸化物固体電解質、ハロゲン化固体電解質等が挙げられる。
酸化物固体電解質として、アニオン元素の主成分として、酸素(O)を含有することが好ましく、例えば、Li、Q元素(Qは、Nb、B、Al、Si、P、Ti、Zr、Mo,W及びSの少なくとも一種を表す。)、及びOを含有してもよい。酸化物固体電解質としては、ガーネット型固体電解質、ペロブスカイト型固体電解質、ナシコン型固体電解質、Li-P-O系固体電解質、Li-B-O系固体電解質等が挙げられる。ガーネット型固体電解質としては、例えば、LiLaZr12、Li7-xLa(Zr2-xNb)O12(0≦x≦2)、LiLaNb12等が挙げられる。ペロブスカイト型固体電解質としては、例えば、(Li、La)TiO、(Li、La)NbO、(Li、Sr)(Ta、Zr)O等が挙げられる。ナシコン型固体電解質としては、例えば、Li(Al、Ti)(PO、Li(Al、Ga)(PO等が挙げられる。Li-P-O系固体電解質としては、LiPO、LIPON(LiPOのOの一部をNに置換した化合物)、Li-B-O系固体電解質としては、LiBO、LiBOのOの一部をCで置換した化合物等が挙げられる。
ハロゲン化物固体電解質として、Li、M及びXを含む固体電解質(MはTi、Al及びYの少なくとも1つを表し、XはF,Cl又はBrを表す。)が好適である。具体的には、Li6-3z(XはCl又はBrを表し、zは0<z<2を満たす。)、Li6-(4-x)b(Ti1-xAl(0<x<1、0<b≦1.5)が好ましい。Li6-3zの中でも、リチウムイオン伝導度に優れる点で、LiYX(XはCl又はBr表す。)がより好ましく、更にはLiYClが好ましい。また、Li6-(4-x)b(Ti1-xAl(0<x<1、0<b≦1.5)は、例えば、硫化物固体電解質の酸化分解を抑える等の観点から、硫化物固体電解質等の固体電解質とともに含まれることが好ましく、硫化物固体電解質等の固体電解質の表面の少なくとも一部を被覆していることがより好ましい。これにより、リチウムイオン伝導度がより良好になる。
【0052】
(用途)
本開示の正極層は、固体電池の正極を構成する材料として好適に使用することができる。
【0053】
[正極]
本開示の正極は、正極集電体と、上記正極集電体の少なくとも一方の表面に形成された上記正極層を備える。正極層については上記したためここでは記載を省略する。
【0054】
(正極集電体)
正極集電体としては、従来公知のものを使用することができる。正極集電体としては、ステンレス鋼、アルミニウム、ニッケル、鉄、チタン、カーボン等が挙げられ、アルミニウム合金箔又はアルミニウム箔が好ましい。アルミニウム合金箔及びアルミニウム箔は、粉末を用いて製造されてもよい。正極集電体の形状は、例えば、箔状、メッシュ状である。
【0055】
正極集電体の厚さは特に限定されるものではなく、例えば、1~100μmとすることができる。
正極層の厚さは特に限定されるものではなく、例えば、1~200μmとすることができる。
【0056】
本開示の正極は、正極集電体の表面に、特定硫化物固体電解質等を含有する電極組成物を塗布し、乾燥することにより製造することができる。
【0057】
(用途)
本開示の正極は、固体電池の正極として好適に使用することができる。
【0058】
[固体電池]
本開示の固体電池は、上記正極と、電解質層と、負極とを備える。
正極については、上記したためここでは記載を省略する。
本開示の固体電池は、リチウムイオン電池であることが好ましい。
【0059】
図1に固体電池の一実施形態を表す模式断面図を示す。図1に示すように、負極層A、電解質層B及び正極層Cは積層されている。
図1において、負極活物質を符号101、正極活物質を符号103、導電助剤を符号105及び107、バインダーを符号109及び111、負極集電体を符号113、正極集電体を符号115で示す。
固体電池は、正極/固体電解質層/負極の積層構造の積層端面(側面)が樹脂で封止される構成を有していてもよい。正極集電体及び負極集電体は、表面に緩衝層、弾性層、又はPTC(Positive Temperature Coefficient)サーミスタ層が配置された構成であってもよい。
また、電解質層は、図1に示すように、2層構造を有するものであってもよい。
【0060】
(電解質層)
電解質層は、固体電解質を含有する。固体電解質層は、単層構造であってもよく、2層以上の多層構造であってもよい。固体電解質としては、固体電池が備える電解質層に使用できる従来公知のものを使用することができ、例えば、硫化物固体電解質が挙げられる。
固体電池の抵抗増加率を低減する観点から、電解質層は、特定化合物及び特定ポリマーの少なくとも一方を含む被覆層を有する固体電解質を含まない、又は特定化合物及び特定ポリマーの少なくとも一方を含む被覆層を有する固体電解質を含み、且つ電解質層の総質量に対する、特定化合物及び特定ポリマーの少なくとも一方を含む被覆層を有する固体電解質の含有率が1質量%以下であることが好ましく、特定化合物及び特定ポリマーの少なくとも一方を含む被覆層を有する固体電解質を含まない、又は特定化合物及び特定ポリマーの少なくとも一方を含む被覆層を有する固体電解質を含み、且つ電解質層の総質量に対する特定化合物及び特定ポリマーの少なくとも一方を含む被覆層を有する固体電解質の含有率が0.5質量%以下であることがより好ましく、特定化合物及び特定ポリマーの少なくとも一方を含む被覆層を有する固体電解質を含まない、又は特定化合物及び特定ポリマーの少なくとも一方を含む被覆層を有する固体電解質を含み、且つ電解質層の総質量に対する、特定化合物及び特定ポリマーの少なくとも一方を含む被覆層を有する固体電解質の含有率が0.1質量%以下であることが更に好ましく、特定化合物及び特定ポリマーの少なくとも一方を含む被覆層を有する固体電解質を含まないことが特に好ましい。
【0061】
電解質層は、バインダーを含むことができる。バインダーとしては、スチレンブタジエンゴム等のゴム系バインダー、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のフッ化物系バインダー等が挙げられる。
【0062】
電解質層は、従来公知の方法により製造したものを使用してもよく、市販されるものを使用してもよい。
【0063】
電解質層の厚さは特に限定されるものではなく、例えば、1μm~100μmとすることができる。
【0064】
(負極)
負極は、負極集電体と、上記負極集電体の少なくとも一方の表面に形成された上記負極層を備える。
【0065】
-負極集電体-
負極集電体は、上記した金属箔を使用することができ、ニッケル箔が好ましい。
負極集電体の厚さは特に限定されるものではなく、例えば、10μm~100μmとすることができる。
【0066】
-負極層-
負極層は、固体電解質を含有することができる。固体電解質としては、固体電池が備える負極層に使用できる従来公知のものを使用することができ、例えば、硫化物固体電解質が挙げられる。
固体電池の抵抗増加率を低減する観点から、負極層は、特定化合物及び特定ポリマーの少なくとも一方を含む被覆層を有する固体電解質を含まない、又は特定化合物及び特定ポリマーの少なくとも一方を含む被覆層を有する固体電解質を含み、且つ電解質層の総質量に対する、特定化合物及び特定ポリマーの少なくとも一方を含む被覆層を有する固体電解質の含有率が1質量%以下であることが好ましく、特定化合物及び特定ポリマーの少なくとも一方を含む被覆層を有する固体電解質を含まない、又は特定化合物及び特定ポリマーの少なくとも一方を含む被覆層を有する固体電解質を含み、且つ電解質層の総質量に対する特定化合物及び特定ポリマーの少なくとも一方を含む被覆層を有する固体電解質の含有率が0.5質量%以下であることがより好ましく、特定化合物及び特定ポリマーの少なくとも一方を含む被覆層を有する固体電解質を含まない、又は特定化合物及び特定ポリマーの少なくとも一方を含む被覆層を有する固体電解質を含み、且つ電解質層の総質量に対する、特定化合物及び特定ポリマーの少なくとも一方を含む被覆層を有する固体電解質の含有率が0.1質量%以下であることが更に好ましく、特定化合物及び特定ポリマーの少なくとも一方を含む被覆層を有する固体電解質を含まないことが特に好ましい。
【0067】
負極層は、負極活物質を含有することができる。負極活物質としては、シリコン、シリコン合金、シリコン酸化物等が挙げられる。また、負極活物質として、金属リチウム、金属インジウム、金属アルミ、金属ケイ素、金属スズ等の金属リチウム又は金属リチウムと合金を形成し得る金属、これら金属の酸化物、またこれら金属と金属リチウムとの合金等を使用してもよい。
【0068】
負極層の総質量に対する負極活物質の含有率は、特に限定されるものではなく、例えば、40質量%~75質量%とすることができる。
【0069】
負極層の厚さは特に限定されるものではなく、例えば、1μm~100μmとすることができる。
【0070】
負極層は、上記した導電材、バインダー等を含有してもよい。
【0071】
負極は、従来公知の方法により製造したものを使用してもよく、市販されるものを使用してもよい。
【実施例0072】
以下、実施例により本開示をさらに詳細に説明するが、本開示の発明がこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0073】
<実施例1>
(正極層の形成及び正極の作製)
撹拌子入りシュレンク(容量:100mL)に、窒素雰囲気下、硫化リチウム0.59g、五硫化二リン0.95g、臭化リチウム0.19g、ヨウ化リチウム0.28gを導入した。撹拌子を回転させた後、錯化剤のテトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)20mLを加え、12時間撹拌を継続し、得られた錯体含有物を真空下で乾燥(室温:23℃)して粉末の錯体を得た。次いで、錯体の粉末を真空下で120℃で加熱を2時間行い、非晶性の硫化物固体電解質を得た。更に、非晶性の硫化物固体電解質を真空下で140℃で加熱を2時間行い、結晶性の硫化物固体電解質Aを得た(結晶性の硫化物固体電解質を得るための加熱温度(本例では140℃)を「結晶化温度」と称することがある。)。
【0074】
撹拌子入りシュレンク(容量:100mL)に、窒素雰囲気下、上記のようにして得られた結晶性の硫化物固体電解質Aを3g秤量して加え、トルエン22gを加えて撹拌し、スラリー状の流体とした。当該スラリー状の流体に、更に特定化合物として表1に記載の化合物を0.16g(結晶性硫化物固体電解質100質量部に対して5質量部)の割合となるような量で加え、10分撹拌した後、真空乾燥によりトルエンを留去し、表面に被覆層を有する特定硫化物固体電解質Aを得た。
特定硫化物固体電解質Aを、EDS搭載走査電子顕微鏡(SEM-EDS、倍率30000倍)により観察した後、EDSによりポリシロキサン由来であるSiをマッピング処理し、ImageJにより画像解析することで、特定硫化物固体電解質Aは被覆層を有することを確認した。また、この被覆層は、上記特定化合物のポリマーを含むことをGC-MSにより確認した。以降の実施例及び比較例においても同様の方法により、これらを確認した。
【0075】
正極活物質として(LiNi1/3Co1/3Mn1/3O)80.0g、上記のようにして得られた特定硫化物固体電解質9.51g、導電助剤として炭素繊維(VGCF、昭和電工社製)2.5gをフィルミックス容器に採取した。その後、バインダーであるスチレンブタジエンゴムを含む溶液(溶液中のバインダーの濃度は、溶液全体に対して5質量%)及び溶媒であるテトラリン32.21gをフィルミックス容器に添加し、固形分濃度が69質量%の正極用原料組成物を得た。混練装置としてフィルミックスを使用し、周速25m/sで正極用原料組成物を混練し正極用の電極組成物を得た。フィルミックスには高剪断用PCホイールを使用した。正極集電体(アルミニウム箔)の表面に、アプリケーターを使用したブレードコート法で正極用の電極組成物を膜状に塗工し、膜状の電極組成物を100℃で30分間加熱し、正極集電体の表面に、正極層を形成し、正極集電体及び正極層を備える正極を得た。
【0076】
(負極層の形成及び負極の作製)
負極活物質としてSi単体18.6g、硫化物固体電解質A8.69g、バインダーであるスチレンブタジエンゴムを含む溶液(溶液中のバインダーの濃度は、溶液全体に対して5質量%)及び溶媒であるジイソブチルケトンをフィルミックス容器に添加し、固形分濃度が43質量%の負極用原料組成物を得た。混練装置としてフィルミックスを使用し、周速5m/s~30m/sの範囲で負極用原料組成物を混練し負極用の電極組成物を得た。フィルミックスには高剪断用PCホイールを使用した。負極集電体(ニッケル箔)の表面に、アプリケーターを使用したブレードコート法で負極用の電極組成物を膜状に塗工し、膜状の電極組成物を100℃で30分間加熱し、負極集電体の表面に、負極層を形成し、負極集電体及び負極層を備える負極を得た。
【0077】
(固体電解質層の作製)
硫化物固体電解質A40g、アクリレートブタジエンゴム及びヘキサンを含む溶液(溶液中のアクリレートブタジエンゴムの濃度は、溶液全体に対して5質量%)8.00g、ヘプタン25.62g及びジブチルエーテル8.00gを混合し、超音波ホモジナイザーで混練し、固体電解質層組成物を得た。アルミニウム箔の表面に、アプリケーターを使用したブレードコート法で固体電解質層組成物を膜状に塗工し、膜状の固体電解質層組成物を100℃で30分間加熱し、固体電解質層を形成した。
【0078】
(固体電池の製造)
得られた負極の両面に固体電解質層及び正極をこの順で20kNの圧力を用いて転写した。得られた積層体を、ロールプレス機を用いてプレスし、固体電池を得た。プレス線圧は4ton/cmあった。ロール間のギャップは200μmであった。
【0079】
<実施例2及び実施例3>
特定化合物を表1に記載の特定化合物に変更した以外は、実施例1と同様にして、固体電池を製造した。
なお、実施例2において使用した特定硫化物固体電解質は特定硫化物固体電解質B、実施例3において使用した特定硫化物固体電解質は特定硫化物固体電解質Cとする。
【0080】
<比較例1~比較例3>
(正極層の形成及び正極の作製)
特定硫化物固体電解質Aを、被覆層を有していない硫化物固体電解質Aに変更した以外は、実施例1と同様にして、正極を作製した。
【0081】
(負極層の形成及び負極の作製)
被覆層を有していない硫化物固体電解質Aを、表1に記載の特定硫化物固体電解質に変更した以外は、実施例1と同様にして、負極を作製した。
【0082】
(固体電解質層の作製及び固体電池の製造)
実施例1と同様にして、固体電解質層を作製し、固体電池を製造した。
【0083】
<比較例4~比較例6>
(正極層の形成及び正極の作製)
特定硫化物固体電解質Aを、被覆層を有していない硫化物固体電解質Aに変更した以外は、実施例1と同様にして、正極を作製した。
【0084】
(負極層の形成及び負極の作製)
実施例1と同様にして、負極を作製した。
【0085】
(固体電解質層の作製)
被覆層を有していない硫化物固体電解質Aを、表1に記載の特定硫化物固体電解質に変更した以外は、実施例1と同様にして、固体電解質層を作製した。
【0086】
(固体電池の製造)
実施例1と同様にして、固体電池を製造した。
【0087】
<比較例7>
(正極層の形成及び正極の作製)
特定硫化物固体電解質Aを、被覆層を有していない硫化物固体電解質Aに変更した以外は、実施例1と同様にして、正極を作製した。
【0088】
(負極層の形成及び負極の作製)
実施例1と同様にして、負極を作製した。
【0089】
(固体電解質層の作製)
実施例1と同様にして、負極を作製した。
【0090】
(固体電池の製造)
実施例1と同様にして、固体電池を製造した。
【0091】
<比較例8~比較例9>
(正極層の形成及び正極の作製)
硫化物固体電解質の被覆層に使用した化合物を表1に記載の化合物に変更した以外は、実施例1と同様にして、固体電池を製造した。
なお、比較例8及び比較例9において使用した硫化物固体電解質は被覆層を有するが、含有される化合物は、特定化合物ではない。
また、比較例8において使用した硫化物固体電解質は硫化物固体電解質x、比較例9において使用した硫化物固体電解質は硫化物固体電解質yとする。
【0092】
(負極層の形成及び負極の作製)
実施例1と同様にして、負極を作製した。
【0093】
(固体電解質層の作製)
実施例1と同様にして、負極を作製した。
【0094】
(固体電池の製造)
実施例1と同様にして、固体電池を製造した。
【0095】
<比較例10~比較例11>
(正極層の形成及び正極の作製)
特定硫化物固体電解質Aを、被覆層を有していない硫化物固体電解質Aに変更した以外は、実施例1と同様にして、正極を作製した。
【0096】
(負極層の形成及び負極の作製)
被覆層を有していない硫化物固体電解質Aを、表1に記載の硫化物固体電解質に変更した以外は、実施例1と同様にして、負極を作製した。
【0097】
(固体電解質層の作製及び固体電池の製造)
実施例1と同様にして、固体電解質層を作製し、固体電池を製造した。
【0098】
<比較例12~比較例13>
(正極層の形成及び正極の作製)
特定硫化物固体電解質Aを、被覆層を有していない硫化物固体電解質Aに変更した以外は、実施例1と同様にして、正極を作製した。
【0099】
(負極層の形成及び負極の作製)
実施例1と同様にして、負極を作製した。
【0100】
(固体電解質層の作製)
被覆層を有していない硫化物固体電解質Aを、表1に記載の硫化物固体電解質に変更した以外は、実施例1と同様にして、固体電解質層を作製した。
【0101】
(固体電池の製造)
実施例1と同様にして、固体電池を製造した。
【0102】
[抵抗増加率評価]
実施例及び比較例において得られた固体電池を用いて、上限電圧4.55V、下限電圧2.5VのCCCV充放電を0.1Cで1000サイクル行った。固体電池の設計容量は0.3Ahとした。得られた結果から電池抵抗増加率を以下の式に基づいて、算出し、表1にまとめた。なお、初期抵抗は3サイクル後の抵抗とした。
抵抗増加率(%)=((1000サイクル後の電池抵抗-初期抵抗)/初期抵抗)×100
【0103】
【表1】
【0104】
表1の結果から、特定硫化物固体電解質を正極層に含有させた実施例の固体電池は、比較例の固体電池に比べて、抵抗増加率が低減されていることが分かる。
【符号の説明】
【0105】
A:負極層、B:電解質層、C:正極層、101:負極活物質、103:正極活物質、105及び107:導電助剤、109及び111:バインダー、113:負極集電体、115:正極集電体


図1