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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093820
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】抗菌ペプチドおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/31 20060101AFI20240702BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20240702BHJP
   C07K 14/335 20060101ALI20240702BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20240702BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20240702BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20240702BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20240702BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240702BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20240702BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20240702BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20240702BHJP
   C07K 1/00 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
C12N15/31 ZNA
C12N15/63 Z
C07K14/335
C12N1/00 P
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61K38/16
A61P31/04
C12P21/02 C
C07K1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022210404
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】桑原 弘
(72)【発明者】
【氏名】小澤 直也
(72)【発明者】
【氏名】味方 和樹
(72)【発明者】
【氏名】青木 幹雄
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG01
4B064CA02
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
4B065AA26X
4B065AA60X
4B065AA72X
4B065AA90X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA44
4C084AA02
4C084AA03
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA19
4C084BA23
4C084CA04
4C084DA42
4C084NA14
4C084ZB35
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA11
4H045EA20
4H045EA29
4H045FA20
4H045FA74
(57)【要約】      (修正有)
【課題】中性域からアルカリ性域における安定性に優れ、かつ熱安定性に優れる、抗菌活性を有するポリペプチドおよびその製造方法を提供すること。
【解決手段】特定のアミノ酸配列を含む、抗菌活性を有するポリペプチドを提供する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1~配列番号6のいずれかのアミノ酸配列に対して、85%以上100%以下の配列同一性を有するアミノ酸配列、または、
配列番号1~配列番号6のいずれかのアミノ酸配列に対して、1もしくは数個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列、
を含む、抗菌活性を有するポリペプチド。
【請求項2】
請求項1に記載の抗菌活性を有するポリペプチドをコードする塩基配列を含む核酸。
【請求項3】
配列番号7~配列番号12のいずれかの塩基配列を含む、請求項2に記載の核酸。
【請求項4】
請求項2に記載の核酸を含むベクター。
【請求項5】
請求項2または請求項3に記載の核酸を含むin-vitro用翻訳鋳型分子。
【請求項6】
RNAである、請求項5に記載のin-vitro用翻訳鋳型分子。
【請求項7】
請求項2もしくは請求項3に記載の核酸、または請求項4に記載のベクターを含む形質転換体。
【請求項8】
抗菌活性を有するポリペプチドの製造方法であって、
(A)化学合成法によって請求項1に記載の抗菌活性を有するポリペプチドを合成する工程、
(B)請求項5に記載のin-vitro用翻訳鋳型分子から前記抗菌活性を有するポリペプチドを翻訳する工程、
(C)請求項7に記載の形質転換体を培養する工程、または
(D)受託番号NITE BP-03198、NITE BP-03200およびNITE BP-03201からなる群より選ばれる少なくとも1種の乳酸菌を培養する工程、
を含む、抗菌活性を有するポリペプチドの製造方法。
【請求項9】
第1ポリペプチドおよび第2ポリペプチドの組み合わせ、または、第3ポリペプチドおよび第4ポリペプチドの組み合わせを含む、抗菌活性を有するポリペプチドの組み合わせであって、
前記第1ポリペプチドは、配列番号3のアミノ酸配列に対して、85%以上100%以下の配列同一性を有するアミノ酸配列、または、配列番号3のアミノ酸配列に対して、1もしくは数個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列を含み、
前記第2ポリペプチドは、配列番号4のアミノ酸配列に対して、85%以上100%以下の配列同一性を有するアミノ酸配列、または、配列番号4のアミノ酸配列に対して、1もしくは数個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列を含み、
前記第3ポリペプチドは、配列番号13のアミノ酸配列に対して、85%以上100%以下の配列同一性を有するアミノ酸配列、または、配列番号13のアミノ酸配列に対して、1もしくは数個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列を含み、
前記第4ポリペプチドは、配列番号14のアミノ酸配列に対して、85%以上100%以下の配列同一性を有するアミノ酸配列、または、配列番号14のアミノ酸配列に対して、1もしくは数個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列を含む、抗菌活性を有するポリペプチドの組み合わせ。
【請求項10】
請求項9に記載の抗菌活性を有するポリペプチドの組み合わせそれぞれをコードする塩基配列を含む核酸の組み合わせであって、
前記核酸の組み合わせは、第1核酸および第2核酸の組み合わせ、または、第3核酸および第4核酸の組み合わせを含み、
前記第1核酸は、前記第1ポリペプチドをコードする塩基配列を含み、
前記第2核酸は、前記第2ポリペプチドをコードする塩基配列を含み、
前記第3核酸は、前記第3ポリペプチドをコードする塩基配列を含み、
前記第4核酸は、前記第4ポリペプチドをコードする塩基配列を含む、核酸の組み合わせ。
【請求項11】
前記第1核酸は、配列番号9の塩基配列を含み、
前記第2核酸は、配列番号10の塩基配列を含み、
前記第3核酸は、配列番号15の塩基配列を含み、
前記第4核酸は、配列番号16の塩基配列を含む、請求項10に記載の核酸の組み合わせ。
【請求項12】
請求項10に記載の核酸の組み合わせを含むベクター。
【請求項13】
請求項10または請求項11に記載の核酸の組み合わせを含むin-vitro用翻訳鋳型分子。
【請求項14】
RNAである、請求項13に記載のin-vitro用翻訳鋳型分子。
【請求項15】
請求項10もしくは請求項11に記載の核酸の組み合わせ、または請求項12に記載のベクターを含む形質転換体。
【請求項16】
抗菌活性を有するポリペプチドの組み合わせの製造方法であって、
(A)化学合成法によって請求項9に記載のポリペプチドの組み合わせにおけるポリペプチドそれぞれを合成する工程、
(B)請求項13に記載のin-vitro用翻訳鋳型分子から前記ポリペプチドの組み合わせにおけるポリペプチドそれぞれを翻訳する工程、
(C)請求項15に記載の形質転換体を培養する工程、または
(D)受託番号NITE BP-03200の乳酸菌を培養する工程、
を含む、抗菌活性を有するポリペプチドの組み合わせの製造方法。
【請求項17】
請求項1に記載の抗菌活性を有するポリペプチド、または請求項9に記載の抗菌活性を有するポリペプチドの組み合わせと、
添加剤とを含む抗菌用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌ペプチドおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
抗菌ペプチドは、細菌(例えば、乳酸菌等)、動物(例えば、昆虫、哺乳類等)、および植物に至るまで、多種な生物が産生することができ、生体防御に重要な役割を果たす。抗菌ペプチドは、抗生物質と比べて即効性が高いこと、および消化酵素等によってアミノ酸に分解され環境中に残留しないことから、耐性菌が生じにくいと考えられている。抗菌ペプチドは、今日深刻な社会問題となっている薬剤耐性菌への対抗手段として期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第4584199号明細書
【特許文献2】米国特許第3295989号明細書
【特許文献3】国際公開第89/12399号
【特許文献4】国際公開第2004/029082号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
乳酸菌(Lactococcus lactis ATCC-11454株)が産生する抗菌ペプチドとして、ナイシンAが知られている。ナイシンAは、耐熱性芽胞菌を含む多くのグラム陽性菌に対して高い抗菌活性を示し、酸に対して安定で、腸管内の消化酵素でアミノ酸に分解される。そのため、ナイシンAは、50か国以上で食品保存料として実用されている。しかしながら、ナイシンAは中性域からアルカリ性域では不安定であり、中性域での熱安定性も低い。そのため、ナイシンAの利用は、酸性域にpH調整して市販されることが多い食品の保存料等に限られていた。また、ナイシンAは細胞内での翻訳後修飾によって生じる異常アミノ酸(例えば、ランチオニン等)を含むこと、およびランチオニン等によるモノスルフィド結合の架橋構造をとることから、化学合成、遺伝子組換え技術による合成およびin vitro翻訳による合成が困難であった。さらにナイシンAは、グラム陰性細菌(例えば、大腸菌)および真菌(例えば、カンジダ菌)には有効でないことが報告されている。米国特許第4584199号明細書(特許文献1)、米国特許第3295989号明細書(特許文献2)、国際公開第89/12399号(特許文献3)、国際公開第2004/029082号(特許文献4)には、ナイシンが食品の保存のために用いられることが開示されている。
【0005】
このような事情のもと、中性域からアルカリ性域における安定性に優れ、かつ熱安定性に優れる抗菌ペプチドが望まれている。本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、中性域からアルカリ性域における安定性に優れ、かつ熱安定性に優れる、抗菌活性を有するポリペプチドおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下に例示する項目に関する。
[1] 配列番号1~配列番号6のいずれかのアミノ酸配列に対して、85%以上100%以下の配列同一性を有するアミノ酸配列、または、
配列番号1~配列番号6のいずれかのアミノ酸配列に対して、1もしくは数個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列、
を含む、抗菌活性を有するポリペプチド。
[2] [1]に記載の抗菌活性を有するポリペプチドをコードする塩基配列を含む核酸。
[3] 配列番号7~配列番号12のいずれかの塩基配列を含む、[2]に記載の核酸。
[4] [2]または[3]に記載の核酸を含むベクター。
[5] [2]または[3]に記載の核酸を含むin-vitro用翻訳鋳型分子。
[6] RNAである、[5]に記載のin-vitro用翻訳鋳型分子。
[7] [2]もしくは[3]に記載の核酸、または[4]に記載のベクターを含む形質転換体。
[8] 抗菌活性を有するポリペプチドの製造方法であって、
(A)化学合成法によって[1]に記載の抗菌活性を有するポリペプチドを合成する工程、
(B)[5]または[6]に記載のin-vitro用翻訳鋳型分子から上記抗菌活性を有するポリペプチドを翻訳する工程、
(C)[7]に記載の形質転換体を培養する工程、または
(D)受託番号NITE BP-03198、NITE BP-03200およびNITE BP-03201からなる群より選ばれる少なくとも1種の乳酸菌を培養する工程、
を含む、抗菌活性を有するポリペプチドの製造方法。
[9] 第1ポリペプチドおよび第2ポリペプチドの組み合わせ、または、第3ポリペプチドおよび第4ポリペプチドの組み合わせを含む、抗菌活性を有するポリペプチドの組み合わせであって、
上記第1ポリペプチドは、配列番号3のアミノ酸配列に対して、85%以上100%以下の配列同一性を有するアミノ酸配列、または、配列番号3のアミノ酸配列に対して、1もしくは数個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列を含み、
上記第2ポリペプチドは、配列番号4のアミノ酸配列に対して、85%以上100%以下の配列同一性を有するアミノ酸配列、または、配列番号4のアミノ酸配列に対して、1もしくは数個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列を含み、
上記第3ポリペプチドは、配列番号13のアミノ酸配列に対して、85%以上100%以下の配列同一性を有するアミノ酸配列、または、配列番号13のアミノ酸配列に対して、1もしくは数個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列を含み、
上記第4ポリペプチドは、配列番号14のアミノ酸配列に対して、85%以上100%以下の配列同一性を有するアミノ酸配列、または、配列番号14のアミノ酸配列に対して、1もしくは数個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列を含む、抗菌活性を有するポリペプチドの組み合わせ。
[10] [9]に記載の抗菌活性を有するポリペプチドの組み合わせそれぞれをコードする塩基配列を含む核酸の組み合わせであって、
上記核酸の組み合わせは、第1核酸および第2核酸の組み合わせ、または、第3核酸および第4核酸の組み合わせを含み、
上記第1核酸は、上記第1ポリペプチドをコードする塩基配列を含み、
上記第2核酸は、上記第2ポリペプチドをコードする塩基配列を含み、
上記第3核酸は、上記第3ポリペプチドをコードする塩基配列を含み、
上記第4核酸は、上記第4ポリペプチドをコードする塩基配列を含む、核酸の組み合わせ。
[11] 上記第1核酸は、配列番号9の塩基配列を含み、
上記第2核酸は、配列番号10の塩基配列を含み、
上記第3核酸は、配列番号15の塩基配列を含み、
上記第4核酸は、配列番号16の塩基配列を含む、[10]に記載の核酸の組み合わせ。
[12] [10]または[11]に記載の核酸の組み合わせを含むベクター。
[13] [10]または[11]に記載の核酸の組み合わせを含むin-vitro用翻訳鋳型分子。
[14] RNAである、[13]に記載のin-vitro用翻訳鋳型分子。
[15] [10]もしくは[11]に記載の核酸の組み合わせ、または[12]に記載のベクターを含む形質転換体。
[16] 抗菌活性を有するポリペプチドの組み合わせの製造方法であって、
(A)化学合成法によって[9]に記載のポリペプチドの組み合わせにおけるポリペプチドそれぞれを合成する工程、
(B)[13]または[14]に記載のin-vitro用翻訳鋳型分子から上記ポリペプチドの組み合わせにおけるポリペプチドそれぞれを翻訳する工程、
(C)[15]に記載の形質転換体を培養する工程、または
(D)受託番号NITE BP-03200の乳酸菌を培養する工程、
を含む、抗菌活性を有するポリペプチドの組み合わせの製造方法。
[17] [1]に記載の抗菌活性を有するポリペプチド、または[9]に記載の抗菌活性を有するポリペプチドの組み合わせと、
添加剤とを含む抗菌用組成物。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、中性域からアルカリ性域における安定性に優れ、かつ熱安定性に優れる、抗菌活性を有するポリペプチドおよびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】抗菌活性評価試験を説明する模式図である。
図2】実施例に係るポリペプチドの抗菌活性評価試験の結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態(以下「本実施形態」と記す。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。本明細書において「A~Z」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちA以上Z以下)を意味し、Aにおいて単位の記載がなく、Zにおいてのみ単位が記載されている場合、Aの単位とZの単位とは同じである。本明細書において「~を含む」との表現は、「~からなる」、「~のみからなる」の概念を含む表現である。
【0010】
[抗菌活性を有するポリペプチド]
本実施形態に係る抗菌活性を有するポリペプチドは、
配列番号1~配列番号6のいずれかのアミノ酸配列に対して、85%以上100%以下の配列同一性を有するアミノ酸配列、または、
配列番号1~配列番号6のいずれかのアミノ酸配列に対して、1もしくは数個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列、
を含む、抗菌活性を有するポリペプチドである。以下、抗菌活性を有するポリペプチドを単に「ポリペプチド」と表記する場合がある。
【0011】
本実施形態において、「抗菌活性」とは、対象となる微生物の増殖を抑制する性質を意味する。上記抗菌活性は、後述する実施例で記載されている抗菌活性評価試験で評価できる。
【0012】
上記対象となる微生物は、病原性または有害性を有していてもよい。上記対象となる微生物は、グラム陽性細菌であってもよいし、グラム陰性細菌であってもよいし、真菌であってもよい。例えばグラム陽性細菌としてはLactobacillus sakei、Streptococcus uberis、Staphylococcus aureus、グラム陰性細菌としてはEscherichia coli 、真菌としてはCandida albicans等が挙げられる。
【0013】
本実施形態に係るポリペプチドは、配列番号1~配列番号6のいずれかのアミノ酸配列に対して例えば85%以上100%以下の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでいてもよい。本実施形態の一側面において、上記配列同一性の下限値は、90%以上であってもよいし、95%以上であってもよいし、96%以上であってもよいし、97%以上であってもよいし、98%以上であってもよいし、99%以上であってもよい。本実施形態に係るポリペプチドは、配列番号1~配列番号6のいずれかのアミノ酸配列のみからなっていてもよい。
【0014】
本実施形態において「配列同一性」とは、当該技術分野において公知の数学的アルゴリズムを用いて2つのアミノ酸配列をアラインさせた場合の最適なアラインメント(好ましくは、該アルゴリズムは最適なアラインメントのために配列の一方または両方へのギャップの導入を考慮し得るものである。)における、オーバーラップする全アミノ酸配列に対する同一アミノ酸残基の割合(%)を意味する。アミノ酸配列の「配列同一性」は、当業者であれば容易に確認することができる。例えば、NCBI BLAST(National Center for Biotechnology Information Basic Local Alignment Search Tool)を用いることができる。塩基配列の配列同一性も、上記と同様の方法で確認することができる。
【0015】
本実施形態に係るポリペプチドは、配列番号1~配列番号6のいずれかのアミノ酸配列に対して、1もしくは数個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列を含んでいてもよい。
【0016】
「1もしくは数個」とは、タンパク質の立体構造におけるアミノ酸残基の位置および種類等によっても異なるが、例えば1~10個であってよい。本実施形態に係るポリペプチドは、配列番号1~配列番号6のいずれかのアミノ酸配列に対して例えば1以上10以下のアミノ酸残基が欠損、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列を含むポリペプチドであってもよい。欠損、置換、挿入および/または付加されるアミノ酸残基の数の上限値は、9以下であってもよいし、8以下であってもよいし、7以下であってもよいし、6以下であってもよいし、5以下であってもよいし、4以下であってもよいし、3以下であってもよいし、2以下であってもよい。
【0017】
本実施形態の一側面において、「1もしくは数個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列」としては、例えば、欠失、置換、挿入および/または付加によって、欠失、置換、挿入および/または付加される前のアミノ酸配列に対して80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、97%以上、98%以上、または99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を挙げることができる。
【0018】
アミノ酸残基の置換、欠失、挿入および/または付加の一例は、ポリペプチドの機能が正常に維持される保存的変異である。保存的変異の代表的なものは、保存的置換である。保存的置換とは、例えば以下に示す変異である。置換部位が芳香族アミノ酸である場合には、Phe、Trp、Tyr間で、置換部位が疎水性アミノ酸である場合には、Leu、Ile、Val間でお互いに置換する変異である。極性アミノ酸である場合には、Gln、Asn間で、塩基性アミノ酸である場合には、Lys、Arg、His間でお互いに置換する変異である。酸性アミノ酸である場合には、Asp、Glu間で、ヒドロキシル基を持つアミノ酸である場合には、Ser、Thr間でお互いに置換する変異である。保存的置換とみなされる置換としては、AlaからSerまたはThrへの置換、ArgからGln、HisまたはLysへの置換、AsnからGlu、Gln、Lys、HisまたはAspへの置換、AspからAsn、GluまたはGlnへの置換、CysからSerまたはAlaへの置換、GlnからAsn、Glu、Lys、His、AspまたはArgへの置換、GluからGly、Asn、Gln、LysまたはAspへの置換、GlyからProへの置換、HisからAsn、Lys、Gln、ArgまたはTyrへの置換、IleからLeu、Met、ValまたはPheへの置換、LeuからIle、Met、ValまたはPheへの置換、LysからAsn、Glu、Gln、HisまたはArgへの置換、MetからIle、Leu、ValまたはPheへの置換、PheからTrp、Tyr、Met、IleまたはLeuへの置換、SerからThrまたはAlaへの置換、ThrからSerまたはAlaへの置換、TrpからPheまたはTyrへの置換、TyrからHis、PheまたはTrpへの置換、および、ValからMet、IleまたはLeuへの置換が挙げられる。
【0019】
配列番号1および2のアミノ酸配列それぞれは、乳酸菌Lactiplantibacillus plantarum NITE BP-03198のゲノム配列から予測されたポリペプチドの成熟体のアミノ酸配列である。
【0020】
配列番号3および4のアミノ酸配列、並びに配列番号5のアミノ酸配列(アミノ酸配列中のXはAla)それぞれは、乳酸菌Lactiplantibacillus plantarum NITE BP-03200のゲノム配列から予測されたポリペプチドの成熟体のアミノ酸配列である。
【0021】
配列番号5のアミノ酸配列(アミノ酸配列中のXはVal)および配列番号6のアミノ酸配列それぞれは、乳酸菌Lactiplantibacillus plantarum NITE BP-03201のゲノム配列から予測されたポリペプチドの成熟体のアミノ酸配列である。
【0022】
[抗菌活性を有するポリペプチドの組み合わせ]
本実施形態に係る抗菌活性を有するポリペプチドの組み合わせは、
第1ポリペプチドおよび第2ポリペプチドの組み合わせ、または、第3ポリペプチドおよび第4ポリペプチドの組み合わせを含む、抗菌活性を有するポリペプチドの組み合わせであって、
上記第1ポリペプチドは、配列番号3のアミノ酸配列に対して、85%以上100%以下の配列同一性を有するアミノ酸配列、または、配列番号3のアミノ酸配列に対して、1もしくは数個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列を含み、
上記第2ポリペプチドは、配列番号4のアミノ酸配列に対して、85%以上100%以下の配列同一性を有するアミノ酸配列、または、配列番号4のアミノ酸配列に対して、1もしくは数個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列を含み、
上記第3ポリペプチドは、配列番号13のアミノ酸配列に対して、85%以上100%以下の配列同一性を有するアミノ酸配列、または、配列番号13のアミノ酸配列に対して、1もしくは数個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列を含み、
上記第4ポリペプチドは、配列番号14のアミノ酸配列に対して、85%以上100%以下の配列同一性を有するアミノ酸配列、または、配列番号14のアミノ酸配列に対して、1もしくは数個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列を含む、抗菌活性を有するポリペプチドの組み合わせである。ここで、「ポリペプチドの組み合わせ」とは、対象となる2種のポリペプチドの混合物の形態であってもよいし、対象となる2種のポリペプチドがそれぞれ独立していて、使用時に共に用いられる形態であってもよいし、対象となる2種のポリペプチドが、リンカーペプチド(例えば、6×Gly)またはリンカー化合物を介してタンデムに結合して1つの分子を形成している形態であってもよい。
【0023】
配列番号13および14のアミノ酸配列それぞれは、乳酸菌Lactiplantibacillus plantarum NITE BP-03200のゲノム配列から予測されたポリペプチドの成熟体のアミノ酸配列である。
【0024】
本実施形態に係るポリペプチドは、広範な微生物種に対して抗菌活性を有し、例えば、グラム陽性細菌、グラム陰性細菌、真菌等に対して抗菌活性を有する。ポリペプチドの抗菌活性は、例えば後述の抗菌活性試験の方法(実験3参照)に従って測定することができる。本実施形態に係るポリペプチドは、pH安定性が高く、酸性域(例えばpH4.0)だけでなく、中性域(例えばpH7.4)からアルカリ性域(例えばpH10.0)においても抗菌活性を有する。本実施形態に係るポリペプチドは、熱安定性が高く、例えば中性域での熱処理後(温度80℃、100℃、121℃等)でも抗菌活性を有する。以上のように、本実施形態に係るポリペプチドは、高い抗菌活性を有する天然由来ポリペプチドであり、利用可能なpH域が広く、加熱等にも安定であるため、抗菌成分として汎用性が高い。
【0025】
本実施形態に係るポリペプチドは、シグナルペプチド(リーダーペプチド)を含んでもよく、上述のポリペプチドの前駆体ポリペプチドであってよい。前駆体ポリペプチドは細胞内または細胞外でペプチダーゼによって切断され、上述のポリペプチド(成熟型ポリペプチド)となり得る。前駆体ポリペプチドは通常、特定のペプチダーゼによって切断されるためのアミノ酸配列を含む。配列番号1~6のアミノ酸配列それぞれからなるポリペプチドの前駆体ポリペプチドとしては、配列番号25~30のアミノ酸配列それぞれからなるポリペプチドが挙げられる(表1)。配列番号13および14のアミノ酸配列それぞれからなるポリペプチドの前駆体ポリペプチドとしては、配列番号31および32のアミノ酸配列それぞれからなるポリペプチドが挙げられる(表1)。本実施形態に係るポリペプチドは、分泌型ポリペプチドであってもよく、膜結合型ポリペプチドであってもよい。
【0026】
本実施形態の他の側面において、上記ポリペプチドは、精製用のタグとなるペプチドを更に含んでいてもよい。精製用のタグとしては、例えば、ポリヒスチジン配列(6×His)等が挙げられる。
【0027】
[抗菌用組成物]
本実施形態に係る抗菌用組成物は、
上記抗菌活性を有するポリペプチド、または上記抗菌活性を有するポリペプチドの組み合わせと、
添加剤とを含む抗菌用組成物である。
【0028】
上記抗菌用組成物は、細菌等の微生物に対する増殖抑制剤または殺菌剤であってもよい。上記抗菌用組成物に含まれる添加剤は、例えば、界面活性剤、保存剤、防腐剤、pH調整剤、増粘剤、賦形剤、香料が挙げられる。添加剤は、1種を単独で含んでいてもよいし、2種以上を組み合わせて含んでいてもよい。
【0029】
界面活性剤はアニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤または両性界面活性剤であってよい。アニオン界面活性剤としては、N-アシルアミノ酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、N-アシルスルホン酸塩、アルキル硫酸塩(例えば、ラウリル硫酸ナトリウムなど)、グリセリン脂肪酸エステルの硫酸塩等が挙げられる。ノニオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロック共重合体、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、グリセリンエステルのポリオキシエチレンエーテル、アルキロールアミド、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、グリセリン有機酸脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、アルキルグリコシド等が挙げられる。両性界面活性剤としては、アルキルベタイン系界面活性剤、アミンオキサイド系界面活性剤、イミダゾリニウムベタイン系界面活性剤が挙げられる。その具体例としては、2-アルキル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ヤシ油アルキルベタイン(ヤシ油アルキルジメチルアミノ酢酸ベタイン)、ステアリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ステアリルジメチルベタインナトリウム、ヤシ油脂肪酸アミドアルキルベタイン、パーム油脂肪酸アミドプロピルベタイン、ラウリン酸アミドプロピルベタイン、リシノレイン酸アミドプロピルベタイン、ステアリルジヒドロキシエチルベタイン等が挙げられる。
【0030】
保存剤または防腐剤としては、安息香酸ナトリウム、メチルパラベン、エチルパラベン、ブチルパラベン、イソプロピルパラベン、プロピルパラベン、イソブチルパラベン、ベンジルパラベン等のパラオキシ安息香酸エステル、フェノキシエタノール、エタノール等のアルコール類、あるいはソルビン酸、安息香酸、デヒドロ酢酸、プロピオン酸またはこれらの塩、塩化ナトリウム等の塩、エチレンジアミン四酢酸塩、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化セチルピリジニウム、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン等が挙げられる。
【0031】
pH調整剤としては、酢酸、塩酸、硫酸、硝酸、クエン酸、リン酸、リンゴ酸、グルコン酸、マレイン酸、コハク酸、グルタミン酸、ピロリン酸、酒石酸、酢酸水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、酢酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸水素ナトリウム、リン酸、リン酸ナトリウム、リン酸一水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウムリン酸二水素カリウム等の酸やアルカリ、緩衝剤等が挙げられる。
【0032】
増粘剤としては、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースまたはこれらの塩、プルラン、ゼラチン、カラギーナン、アルギン酸ナトリウム、キサンタンガム、ポリアクリル酸ナトリウム、アラビアガム、グアーガム、ローカストビーンガム、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー等の有機系粘結剤、増粘性無水ケイ酸、ベントナイト等の無機系粘結剤等が挙げられる。
【0033】
賦形剤としては、結晶セルロース、粉末セルロース、バレイショデンプン、トウモロコシデンプン、軽質無水ケイ酸、含水二酸化ケイ素、二酸化ケイ素、沈降炭酸カルシウム、無水リン酸水素カルシウム、酸化マグネシウム、乳酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、合成ヒドロタルサイト、合成ケイ酸アルミニウム、乳糖、白糖、D-マンニトール、エリスリトール、ブドウ糖、果糖、タルク、デキストリン、シクロデキストリン等が挙げられる。
【0034】
香料としては、例えば、ペパーミント、アロエベラ液汁等が挙げられる。
【0035】
本実施形態にかかる抗菌活性を有するポリペプチドおよび抗菌用組成物は、細菌などの微生物の増殖を抑制するため、または当該微生物を殺菌するために用いられる。
【0036】
[抗菌活性を有するポリペプチドをコードする核酸]
本実施形態に係る核酸は、上述の抗菌活性を有するポリペプチドをコードする塩基配列を含む核酸である。核酸はDNAまたはRNAであってよい。核酸は、5’末端側に開始コドンを、3’末端側に終始コドンを含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。核酸はイントロン配列を含んでもよく、含んでいなくてもよい。本実施形態に係る核酸の一例は、配列番号7~配列番号12のいずれかの塩基配列を含む。配列番号7~12の塩基配列それぞれは、配列番号1~配列番号6のアミノ酸それぞれをコードする。言うまでもないが、核酸がRNAである場合、上記RNAの塩基配列は対応するDNAの塩基配列におけるチミンがウラシルに置換された塩基配列である。
【0037】
本実施形態の一側面において、配列番号17および18の塩基配列は、乳酸菌Lactiplantibacillus plantarum(NITE BP-03198)のゲノム配列に由来する配列であり、それぞれ配列番号25および26のアミノ酸配列からなる前駆体ポリペプチドをコードする。配列番号7および8の塩基配列は、それぞれ配列番号1および2のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする。
【0038】
配列番号19~21の塩基配列は、乳酸菌Lactiplantibacillus plantarum(NITE BP-03200)のゲノム配列に由来する配列であり、それぞれ配列番号27~29のアミノ酸配列からなる前駆体ポリペプチドをコードする。配列番号9~11の塩基配列は、それぞれ配列番号3~5のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする。なお、NITE BP-03200において、配列番号11および21の塩基配列におけるyで示される塩基は、シトシンであり、配列番号5および29のアミノ酸配列におけるXで示されるアミノ酸残基はアラニンである。
【0039】
配列番号21および22の塩基配列は、乳酸菌Lactiplantibacillus plantarum(NITE BP-03201)のゲノム配列に由来する配列であり、それぞれ配列番号29および30のアミノ酸配列からなる前駆体ポリペプチドをコードする。配列番号11および12の塩基配列は、それぞれ配列番号5および6のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする。なお、NITE BP-03201において、配列番号11および21の塩基配列におけるyで示される塩基は、チミンであり、配列番号5および29のアミノ酸配列におけるXで示されるアミノ酸残基はバリンである。
【0040】
核酸は、上述の乳酸菌NITE BP-03198、NITE BP-03200、およびNITE BP-03201が有する塩基配列に限定されず、コード領域において各アミノ酸をコードするコドンを同じアミノ酸をコードする他の等価のコドンに置換した塩基配列を含む核酸であってもよい。本実施形態に係る核酸は、本実施形態に係るポリペプチドの発現を向上させるように、コドン出現頻度(Codon usage)を変更した塩基配列を含む核酸であってもよい。
【0041】
本実施形態の一側面において、上記核酸は、精製用のタグとなるペプチドをコードする塩基配列を更に含んでいてもよい。
【0042】
本実施形態に係る核酸は、化学合成によって、または乳酸菌NITE BP-03198、NITE BP-03200、およびNITE BP-03201のゲノム配列を鋳型にするPCR等によって得ることができる。
【0043】
[抗菌活性を有するポリペプチドの組み合わせをコードする核酸の組み合わせ]
本実施形態に係る核酸の組み合わせは、上述の抗菌活性を有するポリペプチドの組み合わせそれぞれをコードする塩基配列を含む核酸の組み合わせであって、
上記核酸の組み合わせは、第1核酸および第2核酸の組み合わせ、または、第3核酸および第4核酸の組み合わせを含み、
上記第1核酸は、上記第1ポリペプチドをコードする塩基配列を含み、
上記第2核酸は、上記第2ポリペプチドをコードする塩基配列を含み、
上記第3核酸は、上記第3ポリペプチドをコードする塩基配列を含み、
上記第4核酸は、上記第4ポリペプチドをコードする塩基配列を含む。ここで、「核酸の組み合わせ」とは、対象となる2種の核酸の混合物の形態であってもよいし、対象となる2種の核酸がそれぞれ独立していて、使用時に共に用いられる形態であってもよいし、対象となる2種の核酸が、リンカーペプチド(例えば、6×Gly)をコードする核酸を介してタンデムに結合して1つの分子を形成している形態であってもよい。
【0044】
本実施形態の一側面において、上記第1核酸は、配列番号9の塩基配列を含み、上記第2核酸は、配列番号10の塩基配列を含み、上記第3核酸は、配列番号15の塩基配列を含み、上記第4核酸は、配列番号16の塩基配列を含むことが好ましい。
【0045】
配列番号23および24の塩基配列は、乳酸菌Lactiplantibacillus plantarum(NITE BP-03200)のゲノム配列に由来する配列であり、それぞれ配列番号31および32のアミノ酸配列からなる前駆体ポリペプチドをコードする。配列番号15および16の塩基配列は、それぞれ配列番号13および14のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする。
【0046】
上記核酸の組み合わせを構成する核酸は、DNAまたはRNAであってよい。核酸は、5’末端側に開始コドンを、3’末端側に終始コドンを含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。核酸はイントロン配列を含んでもよく、含んでいなくてもよい。言うまでもないが、核酸がRNAである場合、上記RNAの塩基配列は対応するDNAの塩基配列におけるチミンがウラシルに置換された塩基配列である。
【0047】
上記核酸の組み合わせを構成する核酸は、上述の乳酸菌NITE BP-03200が有する塩基配列に限定されず、コード領域において各アミノ酸をコードするコドンを同じアミノ酸をコードする他の等価のコドンに置換した塩基配列を含む核酸であってもよい。当該核酸は、コードするポリペプチドの発現を向上させるように、コドン出現頻度(Codon usage)を変更した塩基配列を含む核酸であってもよい。
【0048】
本実施形態の一側面において、上記核酸の組み合わせを構成する核酸は、精製用のタグとなるペプチドまたはリンカーペプチドをコードする塩基配列を更に含んでいてもよい。
【0049】
上記核酸の組み合わせを構成する核酸は、化学合成によって、または乳酸菌NITE BP-03200のゲノム配列を鋳型にするPCR等によって得ることができる。
【0050】
[ベクター]
本実施形態に係るベクターは、上述の核酸、または上述の核酸の組み合わせを含む。ベクターは、DNAを増幅、維持できる核酸分子であり、例えば発現ベクターおよびクローニングベクターが挙げられる。一例において、上述の核酸は、発現ベクターに挿入された形で宿主細胞等に導入され、抗菌活性を有するポリペプチドを発現する。ベクターは、宿主細胞へ導入されることによって宿主細胞においてポリペプチドを発現させることができる。発現ベクターは、組み込まれた遺伝子を発現するためのプロモーター配列およびターミネーター配列を有してもよい。上記ベクターは、通常の遺伝子工学的手法に準じて、元となるベクターに上述の核酸を組み込むことにより構築できる。上記ベクターは、選択マーカー配列を有していてもよい。
【0051】
本実施形態の一側面において、上記ベクターが上記核酸の組み合わせを含む場合、単一のベクターが当該組み合わせを構成する2種の核酸を共に含んでいてもよい。上記ベクターが第1ベクターと第2ベクターとを含み、上記第1ベクターが上記第1核酸を含み、上記第2ベクターが上記第2核酸を含んでいてもよい。または上記ベクターが第1ベクターと第2ベクターとを含み、上記第1ベクターが上記第3核酸を含み、上記第2ベクターが上記第4核酸を含んでいてもよい。
【0052】
ベクターは、例えば細菌プラスミド由来のベクター、酵母プラスミド由来のベクター、ウイルスベクター、コスミドベクター、ファージミドベクター、人工染色体ベクター等であってよい。例えば、pBR322、pUCプラスミドベクター、pET系プラスミドベクター等が挙げられる。具体的には、大腸菌を宿主細胞とする場合にはpUC19、pUC18、pUC119、pBluescriptII、pET32等を挙げることができる。哺乳動物細胞を宿主細胞とする場合には、例えばpRc/RSV、pRc/CMV、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター等を挙げることができる。
【0053】
ベクターに組み込まれる上記核酸または上記核酸の組み合わせは、プロモーターが機能可能な状態でプロモーターの下流に挿入される。プロモーターとしては、遺伝子の発現に用いる宿主に対応して適切なプロモーターであればいかなるものでもよい。例えば、宿主が動物細胞である場合、SRαプロモーター、SV40プロモーター、LTRプロモーター、CMV(サイトメガロウイルス)プロモーター、RSV(ラウス肉腫ウイルス)プロモーター、MoMuLV(モロニーマウス白血病ウイルス)LTR、HSV-TK(単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ)プロモーターなどが用いられる。なかでも、CMVプロモーター、SRαプロモーターなどが好ましい。宿主が大腸菌である場合、T7プロモーター、cspAプロモーター、trpプロモーター、lacプロモーター、recAプロモーター、λPLプロモーター、lppプロモーター、tacプロモーターなどが好ましい。宿主がバチルス属菌である場合、SPO1プロモーター、SPO2プロモーター、penPプロモーターなどが好ましい。宿主が酵母である場合、Gal1/10プロモーター、PHO5プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーター、AOX1プロモーターなどが好ましい。宿主が麹菌である場合、ENOAプロモーター、TAAプロモーター、GLAプロモーター、AGLプロモーターなどが好ましい。宿主が昆虫細胞である場合、ポリヘドリンプロモーター、P10プロモーターなどが好ましい。宿主が植物細胞である場合、CaMV35Sプロモーター、CaMV19Sプロモーター、NOSプロモーターなどが好ましい。
【0054】
発現ベクターとしては、上記の他に、目的によりエンハンサー、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、薬剤耐性遺伝子、栄養要求性相補遺伝子などの選択マーカー、複製起点などを有しているものを用いることができる。
【0055】
[in-vitro用翻訳鋳型分子]
本実施形態に係るin-vitro用翻訳鋳型分子は、上述の核酸、または上述の核酸の組み合わせを含む。ここで、「in-vitro用翻訳鋳型分子」とは、無細胞タンパク質合成系において、翻訳の鋳型となる核酸分子を意味する。上記in-vitro用翻訳鋳型分子は、DNAであってもよいし、RNAであってもよい。上記in-vitro用翻訳鋳型分子は、一本鎖であってもよいし、二本鎖であってもよい。上記in-vitro用翻訳鋳型分子は、組み込まれた遺伝子を発現するためのプロモーター配列およびターミネーター配列を有してもよい。以下、in-vitro用翻訳鋳型分子を「翻訳鋳型分子」と表記する場合がある。
【0056】
本実施形態の一側面において、上記in-vitro用翻訳鋳型分子が上記核酸の組み合わせを含む場合、単一のin-vitro用翻訳鋳型分子が当該組み合わせを構成する2種の核酸を共に含んでいてもよい。上記in-vitro用翻訳鋳型分子が第1翻訳鋳型分子と第2翻訳鋳型分子とを含み、上記第1翻訳鋳型分子が上記第1核酸を含み、上記第2翻訳鋳型分子が上記第2核酸を含んでいてもよい。または上記in-vitro用翻訳鋳型分子が第1翻訳鋳型分子と第2翻訳鋳型分子とを含み、上記第1翻訳鋳型分子が上記第3核酸を含み、上記第2翻訳鋳型分子が上記第4核酸を含んでいてもよい。
【0057】
上記in-vitro用翻訳鋳型分子に組み込まれる上記核酸または上記核酸の組み合わせは、プロモーターが機能可能な状態でプロモーターの下流に挿入される。プロモーターとしては、上述したプロモーターが挙げられる。
【0058】
[形質転換体]
本実施形態に係る形質転換体は、上述の核酸、またはベクターが導入された細胞である。上記形質転換体は、本実施形態に係るポリペプチドを発現できる。
【0059】
ベクターが導入される宿主細胞としては、真核生物または原核生物の細胞を用いることができる。より具体的には、例えば細菌、真菌、植物細胞、動物細胞、昆虫細胞が挙げられる。宿主細胞は、酵母、大腸菌、麹菌または哺乳動物の細胞であってよい。上記哺乳動物としては、ヒト、ウシ、ウマ、ヒツジ、サル、ブタ、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、イヌ等が挙げられる。本実施形態の一側面において、上記宿主細胞は、例えば、酵母(BG10、BG11等)、大腸菌(BL21、DH5α等)、HEK 293T細胞、CHO細胞、Expi293F細胞、ExpiCHO細胞であってもよい。
【0060】
宿主細胞に上記核酸又はベクターを導入する方法としては、リン酸カルシウム法、DEAE-デキストラン法、カチオニックリポソーム法などの化学的手法;アデノウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、レトロウイルスベクター、HVJリポソームなどの生物学的手法;エレクトロポレーション、DNA直接注射、遺伝子銃などの物理的手法などが例示される。上記核酸又はベクターを導入する宿主細胞に応じて、適切な導入方法を選択することができる。
【0061】
上記ベクターは、宿主細胞内で染色体外で保持されていてもよいし、染色体内に組み込まれていてもよい。
【0062】
上記核酸又はベクターが導入された形質転換体は、選択マーカーを用いて選択してもよい。例えば本実施形態に係る核酸と同時に選択マーカー遺伝子とを宿主細胞に導入し、選択マーカーの性質に応じた方法によって培養する。選択マーカー遺伝子が、宿主細胞に致死活性を示す選抜薬剤に対する薬剤耐性を付与する遺伝子である場合には、核酸の導入操作後に、当該選抜薬剤が添加された培地を用いて宿主細胞を培養すればよい。
【0063】
[抗菌活性を有するポリペプチドの製造方法]
本実施形態に係る抗菌活性を有するポリペプチドの製造方法は、
(A)化学合成法によって上記抗菌活性を有するポリペプチドを合成する工程、
(B)上記in-vitro用翻訳鋳型分子から上記抗菌活性を有するポリペプチドを翻訳する工程、
(C)上記形質転換体を培養する工程、または
(D)受託番号NITE BP-03198、NITE BP-03200およびNITE BP-03201からなる群より選ばれる少なくとも1種の乳酸菌を培養する工程、
を含む、抗菌活性を有するポリペプチドの製造方法である。
【0064】
本実施形態に係る抗菌活性を有するポリペプチドの組み合わせの製造方法は、
(A)化学合成法によって上記ポリペプチドの組み合わせにおけるポリペプチドそれぞれを合成する工程、
(B)上記in-vitro用翻訳鋳型分子から上記ポリペプチドの組み合わせにおけるポリペプチドそれぞれを翻訳する工程、
(C)上記形質転換体を培養する工程、または
(D)受託番号NITE BP-03200の乳酸菌を培養する工程、
を含む、抗菌活性を有するポリペプチドの組み合わせの製造方法である。
【0065】
本実施形態に係るポリペプチド、またはポリペプチドの組み合わせにおけるポリペプチドそれぞれは、一般的なタンパク質の化学合成法を用いて製造することができる。タンパク質の化学合成法としては、例えば、液相法および固相法が挙げられる。
【0066】
本実施形態に係るポリペプチド、またはポリペプチドの組み合わせにおけるポリペプチドそれぞれは、一般的な無細胞タンパク質合成系を用いて、in-vitro用翻訳鋳型分子から当該ポリペプチドポリペプチドを翻訳することで製造することができる。無細胞タンパク質合成系としては、例えば、コムギ胚芽無細胞タンパク質合成系が挙げられる。
【0067】
本実施形態に係るポリペプチド、またはポリペプチドの組み合わせにおけるポリペプチドそれぞれは、上記形質転換体を培養することで製造することができる。
【0068】
形質転換体の培養は、由来となる宿主細胞を培養する方法によって行えばよい。形質転換体が微生物である場合には、例えば微生物における培養に通常使用される炭素源、窒素源、有機および無機塩等を適宜含む各種の培地を用いて培養することができる。ここで、炭素源としては、例えばグルコース、デキストリン、可溶性澱粉、ショ糖などが挙げられる。窒素源としては、例えばアンモニウム塩類、および硝酸塩類等の無機物質、並びに、コーンスチープ・リカー、ペプトン、カゼイン、肉エキス、大豆粕、およびバレイショ抽出液などの有機物質が挙げられる。無機物としては、例えば塩化カルシウム、リン酸二水素ナトリウム、および塩化マグネシウムなどが挙げられる。培地には、酵母エキス、ビタミン類、生長促進因子などを更に添加してもよい。
【0069】
形質転換体を培養することにより、本実施形態に係るポリペプチドを含有する培養物が得られる。本実施形態に係るポリペプチドは、例えば形質転換体の中および/または外(例えば形質転換体の培養上清中)に蓄積し得る。本実施形態に係るポリペプチドは、形質転換体および/またはその培養上清から取得できる。本実施形態に係るポリペプチドは、形質転換体を適宜破砕、溶解、抽出および精製したポリペプチドであってもよい。破砕、溶解、抽出等は、公知の方法により行うことができる。このような方法としては、例えば超音波破砕法、ダイノミル法、ビーズ破砕、フレンチプレス破砕、リゾチーム処理が挙げられる。これらの方法は、1種を単独で用いてもよく、2種またはそれ以上を適宜組み合わせて用いてもよい。精製は、ポリペプチドの精製に用いられる公知の方法により行うことができる。そのような方法としては、例えば硫安分画、イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、等電点沈殿が挙げられる。これらの方法は、1種を単独で用いてもよく、2種またはそれ以上を適宜組み合わせて用いてもよい。形質転換体は、遠心分離等により培養物から回収してもよい。培養上清中に本発明に係るポリペプチドが蓄積する場合、遠心分離等により培養上清を取得し、培養上清から本発明に係るポリペプチドを回収することができる。本実施形態に係るポリペプチドは、形質転換体の培養上清の任意の画分であってもよい。
【0070】
本実施形態に係るポリペプチドは、受託番号NITE-BP-03198、NITE BP-03200およびNITE BP-03201からなる群より選ばれる少なくとも1種の乳酸菌をMRS液体培地等の適切な培地で培養して得ることもできる。本実施形態に係るポリペプチドは、形質転換体の培養物と同様の方法によって、上記乳酸菌の培養物から回収、抽出および精製してもよい。
【0071】
本実施形態に係るポリペプチドの遺伝子を有する細菌として、NITE-BP-03198、NITE-BP-03200、およびNITE-BP-03201が挙げられる。NITE-BP-03198、NITE-BP-03200、およびNITE-BP-03201は、それぞれ受託番号NITE BP-03198(原寄託日:2020年4月9日)、受託番号NITE BP-03200(原寄託日:2020年4月9日)、受託番号NITE BP-03201(原寄託日:2020年4月9日)として、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(NPMD、住所:〒292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)にブダペスト条約に基づいて国際寄託されている細菌である。上記細菌は、いずれも乳酸菌の一種であるラクチプランチバチルス・プランタラム(Lactiplantibacillus plantarum)に属する細菌である。
【実施例0072】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0073】
[実験1:乳酸菌Lactiplantibacillus plantarum (NITE BP-03198、BP-03200、またはNITE BP-03201)のゲノム解析による抗菌ペプチドの推定]
3種の乳酸菌Lactiplantibacillus plantarum (NITE BP-03198、BP-03200、またはNITE BP-03201)それぞれについて、PacBio RSIIシーケンサー(Pacific Biosciences社)によるロングリードシーケンスデータの取得とNovaSeq6000シーケンサー(Illumina社)によるショートリードシーケンスの取得を行った。取得したショートシーケンスデータおよびロングシーケンスデータをUnicyclerでハイブリッドアセンブリ処理して、3種の乳酸菌それぞれのゲノム配列を得た。その後、得られたゲノム配列についてDFASTで遺伝子予測を行い、HMMERによる既知抗菌ペプチド相同配列の検索およびantiSMASHによる二次代謝物関連遺伝子の検索を行い、抗菌ペプチドの候補となる塩基配列およびアミノ酸配列を得た。結果を表1に示す。表1中、(y=c)および(y=t)との表記は、それぞれ塩基配列中yで示される塩基がシトシンおよびチミンであることを意味する。表1中、(X=A)および(X=V)との表記は、それぞれアミノ酸配列中Xで示されているアミン酸残基が、アラニンおよびバリンであることを意味する。
【0074】
【表1】
【0075】
[実験2:相同性検索結果(アミノ酸配列)]
ゲノム解析から推測された抗菌ペプチドが新規ペプチドかどうかを判断するため、BLASTに収録される既知ペプチドのアミノ酸配列との相同性検索を行った。(Queryはリーダーペプチドの配列を含まないアミノ酸配列。DatabaseにAll non-redundant GenBank CDS translations+PDB+SwissProt+PIR+PRF excluding environmental samples from WGS projects)。その結果、ゲノム解析から推測された抗菌ペプチドは、hypothetical proteinと類似するものが多くその相同性は65%~100%であった。Locus_29660,Locus_03310,Locus_03320に関しては、遺伝子配列からbacteriosinと推察されていたが、該当ペプチドについての報告例は見られなかった。Locus_32840についてはmutacin1140と4アミノ酸残基の違いであった。これらの結果から、ゲノム解析により推定されたペプチドは新規な抗菌ペプチドと考えられる。
【0076】
[実験3:抗菌性物質の単離・精製]
活性成分の精製
活性成分の精製は以下の手順で行った。MRS培地に上述した3種の乳酸菌それぞれを植菌し24時間、30℃の条件で培養して各培養液を得た。得られた各培養液を6000gで10分間遠心分離して各培養上清を得た。得られた各培養上清液を更にポアサイズ0.22μmのセルロースアセテート膜で濾過して菌体を除去した。乳酸菌培養上清液500mLに対して、終濃度が80%となるように硫酸アンモニウムを添加して6℃で一晩攪拌することで、抗菌ペプチドを含むタンパク質を沈殿させた。沈殿させたタンパク質を13000gで60分間遠心分離することで回収し、50mLの50mM sodium phosphate buffer(pH 5.6;buffer A)で再溶解した。続いて、再溶解したタンパク質の溶液を、Hitrap SP FF 1mL(GE ヘルスケア)を接続したAKTA pure Fraction Collecter(GE ヘルスケア)に適用して、分画を行った。移動相は移動相Aにbuffer A、移動相Bに1M NaCl含有50mM sodium phosphate buffer(pH 5.6)を用いた。分画中の流速は、1mL/minとした。グラジエント条件として初期移動相組成を移動相B0%、最終組成を移動相B100%とし、グラジエント時間を10分に設定した。フラクションは1mLずつ回収した。
【0077】
このうち活性画分を、1mL RESOURCE PRC(GE ヘルスケア)を接続したAKTA pure Fraction Collecter(GE ヘルスケア)に適用してさらに精製した。移動相は移動相Aに0.1%ギ酸水溶液、移動相Bに0.1%ギ酸、エタノールを用いた。精製中の流速は、1mL/minとした。グラジエント条件として初期移動相組成を移動相B0%、最終組成を移動相B100%とし、グラジエント時間を10分に設定した。フラクションは1mLずつ回収した。精製した活性画分は-30℃で保存した。各精製工程で得られた画分の抗菌活性は下記のように評価した。
【0078】
抗菌活性試験
抗菌ペプチドの抗菌活性は、10μLの試験液13を検定菌の芝生の上(軟寒天培地11の上)にスポットするspot-on-lawn)法を用いて評価した(図1)。検定菌には、Lactobacillus sakei(NBRC15893)を用いた。具体的な手順は、以下の通りである。まず、2% agar含有MRSプレート(寒天培地12)上に、一晩培養した検定菌を4×10CFU/mLの密度になるようにLactobacilli AOAC agar(軟寒天培地11)に混釈して重層した。試験液13をスポットし、30℃で一晩インキュベーションした後、生育阻止円14の大きさを評価した(図1)。生育阻止円の大きさが大きい程抗菌活性が高いと判断できる。上記抗菌活性試験において、抗菌活性が最も高かった画分を精製活性画分として、後述する実験4および実験5で用いた。
【0079】
[実験4:抗菌ペプチドの構造決定1]
目的とする抗菌ペプチドを含むと考えられるエタノール溶液(精製活性画分)を30μlとり蒸発乾固させた後、50%メタノール溶液で10μlになるように再溶解した。再溶解した精製活性画分の測定は、インターフェイスにエレクトロスプレーイオン化法を用いた液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析(LC/MS/MS)により実施した。液体クロマトグラフとオートサンプラーにはUltimate3000 RSLCnano(Thermo Fisher Scientific)を使用した。移動相Aに0.5%ギ酸および0.05%トリフルオロ酢酸(TFA)の水溶液、移動相Bに0.5%ギ酸および0.05%TFAのアセトニトリル溶液を用いた。分析中の流速は、400nL/minであった。グラジエント条件として初期移動相組成を移動相B5%、最終組成を移動相B90%とし、グラジエント時間を40分と設定した。分析用カラムとして、NTCC-360/100-3-125 (Nikkyo technos)を用いた。質量分析計にはorbitrap elite (Thermo Fisher Scientific)を使用し、full-scanモードにてペプチド全長のMSスペクトルを取得した。別に、上記実験1より計算されたペプチドの質量(理論値)を、MS分析により取得されたスペクトルデータ(測定値)と照合し、存在が確認されたものについて推定配列を表記した。結果を表2の「決定方法1」の欄に示す。
【0080】
[実験5:抗菌性物質の構造決定2]
トリプシン消化
目的とするペプチドの消化については常法に従い行った。つまり抗菌活性を有する画分(精製活性画分)10μlを2×sample buffer 10μlと混合し、Tris-Tricin SDS Pageで分離したのち(ともにinvitrogen)、分子量3000付近のバンドを切り出した。このとき、上述の2×sample bufferは、「Novex Tricine SDS Sample Buffer」を用いた。SDS Pageのゲルは、「Novex 10to20%,Tricine,1.0mm,Mini Protein Gels 15well」を用いた。切り出したゲルに対して、Iodoacetamide(Thermo Fisher Scientific)を使用して還元アルキル化ののち、37℃で16時間トリプシン消化を行った。消化にはSequencing Grade Modified Trypsin(promega)を用いた。その後、アセトニトリルで上記ゲルを収縮させることにより、消化後のペプチドを抽出した。抽出物は脱塩してMSでの分析を行った。MS分析は上記実験4と同様の条件で行ったが、グラジエント時間を30分に変更し、データ取得方法をData Dependent Acquisition(DDA)モードに変更し、MSスペクトルおよびMS/MSスペクトルを取得した。
【0081】
Mascot search
ゲノム解析の結果得られたタンパク質フレームをFASTAファイルに変換してMASCOT(Matrix Science)に菌株ごとに読み込んだ。そのデータベースを測定の結果得られたMS/MSスペクトルデータおよびMSスペクトルデータと照合させた(tolerance: precursor 30ppm, fragment0.8Da, maximum charge 2+)。Proteome discoverer (Thermo Fisher Scientific)にて計算されるスコアから信頼性の高いもの、かつペプチドである条件を満たすもの(おおよそ50アミノ酸残基以下)、核タンパク質でないもの、等の条件から抗菌ペプチド候補を選抜した。結果を表2の「決定方法2」の欄に示す。内部配列が一致した抗菌ペプチドが検出された場合については+と表記し、検出されなかった場合については空欄とした。検出されなかった場合であっても、精製活性画分に当該ペプチドが含まれていることを否定するものではない。
【0082】
【表2】
【0083】
[実験6:合成ペプチドの抗菌活性]
本実験で用いた化学合成ペプチド(全長配列および部分配列)は、固相合成法によって合成したものを北海道システムサイエンスから購入した。化学合成ペプチドそれぞれについて、上記実験3と同様の方法で抗菌活性試験を行い、生育阻止円が形成される最小濃度を求めた(図2)。このとき試験液は、目的の濃度となるように水で溶解して調製した。結果を表3に示す。表3において、「単独」の欄は、対象の抗菌ペプチドを単独で用いたときにおける抗菌活性を示す最小濃度を示している。「組み合わせ」の欄は、対象となる2種類の抗菌ペプチドを等モル量で組み合わせたときにおける抗菌活性を示す2種類の抗菌ペプチドそれぞれの最小濃度を示している。
【0084】
表3の結果から、配列番号3のポリペプチドおよび配列番号4のポリペプチドは、それぞれ単独で用いるときよりも、組み合わせて用いた方がより強い抗菌活性を示すことが分かった。配列番号13のポリペプチドおよび配列番号14のポリペプチドは、それぞれ単独で用いたときよりも組み合わせて用いることで抗菌活性が増大することが分かった。
【0085】
【表3】
【0086】
[実験7:広pH域安定性試験]
表3における配列番号1~5、13及び14のポリペプチドについて、広範なpH域において抗菌活性を有しているかを評価した。比較例として、市販品のナイシンA(シグマアルドリッチ社製)を用いた。まず、各ペプチドを表3に示される最小濃度の10倍の濃度になるように次のbufferで再溶解して調製した:sodium phosphate buffer(50mM、pH4)、1x phosphate buffer saline(pH7.4),ammonium chloride-ammonia buffer(50mM、pH10.0)。それぞれのpHに調製した試験溶液それぞれを27℃で24時間インキュベーションした。次いで、検定菌としてLactobacillus sakei(NBRC15893)株を使用し、実験3と同様方法で抗菌活性試験を行い、各pHでインキュベーションした試験溶液それぞれの抗菌活性を測定した。コントロールとして対象のペプチドを水に希釈した試験溶液を用いた。抗菌活性はスポットの大きさ(生育阻止円の大きさ)によって評価した。コントロールのスポットの大きさと比較して、同等であるもの(スポットの直径が80%以上)をA、小さくはなるが抗菌活性が残るものをBとして表記した。生育阻止円が確認されなかったものをCとして表記した。AまたはBで評価されたペプチドは、対応するpHにおいて安定性を有していると判断できる。結果を表4に示す(pH安定性の欄)。表4の「ペプチドの配列番号または物質名」の欄において「配列番号3&配列番号4」および「配列番号13&配列番号14」は、それぞれ対象となる2種類のペプチドを等モル量で組み合わせて用いたことを意味している。表4の結果から、配列番号1~5、13及び14のポリペプチドは、広範なpH域において安定であり抗菌活性を有していることが分かった。
【0087】
[実験8:熱安定性試験]
表3における配列番号1~5、13及び14のポリペプチドについて、熱処理後においても抗菌活性を有しているかを評価した。比較例として、市販品のナイシンA(シグマアルドリッチ社製)を用いた。まず、各ペプチドを表3に示される最小濃度の10倍の濃度になるように水で再溶解して調製した。調製した試験溶液それぞれを80℃で30分間、100℃で30分間、または121℃で15分間、熱処理した。121℃での熱処理は、株式会社トミー精工製のオートクレーブ「LSX-700」を使用して行った。次いで、検定菌としてLactobacillus sakei(NBRC15893)株を使用し、実験3と同様方法で抗菌活性試験を行い、各熱処理後における試験溶液の抗菌活性を測定した。熱処理を実施しない試料溶液をコントロールとした。抗菌活性をスポットの大きさ(生育阻止円の大きさ)により評価し、コントロールのスポットの大きさと比較して、同等であるもの(スポットの直径が80%以上)をA、小さくはなるが活性が残るものをBとして表記した。スポットが確認されなかったものをCとして表記した。AまたはBで評価されたペプチドは、対応する温度において安定性を有していると判断できる。結果を表4に示す(熱安定性の欄)。表4の「ペプチドの配列番号または物質名」の欄において「配列番号3&配列番号4」および「配列番号13&配列番号14」は、それぞれ対象となる2種類のペプチドを等モル量で組み合わせて用いたことを意味している。表4の結果から、配列番号1~5、13及び14のポリペプチドは、80℃~121℃の温度範囲において抗菌活性を有していることが分かった。
【0088】
【表4】
【0089】
[実験9:新規抗菌ペプチドの抗菌活性試験]
表3における配列番号1~5、13及び14のポリペプチドについて、どのような種類の微生物に対して抗菌活性を示すか試験した。比較例として、市販品のナイシンA(シグマアルドリッチ社製)を用いた。まず、各ペプチドを20μMから1000μMの濃度になるようにMRS培地に溶解して調製した。そのうち10μlを取り出し各種検定菌ならびに90μlの検定菌培養用培地と混合し24時間から48時間培養した。培養後に細菌の数についてOD630を測定した。培養前の培養液と比較して、OD630が増加または目視で濁りがみとめられる場合、検定菌が増殖していると判断できる。結果を表5に示す。検定菌が増殖していない場合に抗菌活性があると判断し表5に+と表記した。表5の「ペプチドの配列番号または物質名」の欄において「配列番号3&配列番号4」および「配列番号13&配列番号14」は、それぞれ対象となる2種類のペプチドを等モル量で組み合わせて用いたことを意味している。表5の結果から、配列番号1~5、13及び14のポリペプチドはグラム陽性細菌に効果があり、一部のポリペプチドはE.coliのようなグラム陰性細菌、C.albicansのような真菌にも効果があった。
【0090】
【表5】
図1
図2
【配列表】
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