(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024093989
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】化粧料組成物、角層改善剤及び保湿機能改善剤
(51)【国際特許分類】
A61K 8/31 20060101AFI20240702BHJP
A61Q 19/08 20060101ALI20240702BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20240702BHJP
A61K 8/06 20060101ALI20240702BHJP
A61K 8/34 20060101ALI20240702BHJP
A61K 8/44 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
A61K8/31
A61Q19/08
A61Q19/00
A61K8/06
A61K8/34
A61K8/44
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022210674
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】相見 牧子
(72)【発明者】
【氏名】宇田 謙
(72)【発明者】
【氏名】山下 典子
【テーマコード(参考)】
4C083
【Fターム(参考)】
4C083AB032
4C083AC011
4C083AC012
4C083AC121
4C083AC122
4C083AC172
4C083AC302
4C083AC482
4C083AC711
4C083AC712
4C083AD041
4C083AD042
4C083AD221
4C083AD222
4C083AD532
4C083AD572
4C083AD642
4C083CC04
4C083DD33
4C083EE12
(57)【要約】
【課題】角層水分量を増大させ、水分蒸散量を抑制し、角層の厚みを増大させ、かつ、ワセリンの角層への浸透性が高い化粧料組成物、及びその応用の提供。
【解決手段】ワセリンを含む乳化粒子と、ワセリンを含む乳化粒子が分散する連続相とを含む化粧料組成物であって、連続相がグリセリン及びベタインを含み、ワセリンを含む乳化粒子の平均粒子径が50nm~200nmであり、グリセリン及びベタインの含有率が、化粧料組成物の全質量に対して、それぞれ10質量%以上である化粧料組成物、及びその応用。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワセリンを含む乳化粒子と、前記ワセリンを含む乳化粒子が分散する連続相とを含む化粧料組成物であって、
連続相がグリセリン及びベタインを含み、
前記ワセリンを含む乳化粒子の平均粒子径が50nm~200nmであり、
グリセリン及びベタインの含有率が、化粧料組成物の全質量に対して、それぞれ10質量%以上である化粧料組成物。
【請求項2】
ベタインの含有量の割合が、ワセリンの質量に対して、質量基準で2~50である、請求項1に記載の化粧料組成物。
【請求項3】
グリセリンの含有量の割合が、ワセリンの質量に対して、質量基準で2~50である、請求項1に記載の化粧料組成物。
【請求項4】
さらに、PEGを含む、請求項1に記載の化粧料組成物。
【請求項5】
さらに、ショ糖脂肪酸エステルを含む、請求項1に記載の化粧料組成物。
【請求項6】
前記ワセリンを含む乳化粒子の平均粒子径が50nm~150nmである、請求項1に記載の化粧料組成物。
【請求項7】
ワセリンの含有率が、化粧料組成物の総量に対して、0.3質量%~5質量%である、請求項1に記載の化粧料組成物。
【請求項8】
ワセリンの含有率が、化粧料組成物中に含まれる油性成分の総量に対して、60質量%以上である、請求項1に記載の化粧料組成物。
【請求項9】
請求項1~請求項8のいずれか1項に記載の化粧料組成物からなる肌の角層の厚みを改善するための角層改善剤。
【請求項10】
請求項1~請求項8のいずれか1項に記載の化粧料組成物からなる肌の角層水分量の増加及び経皮水分蒸散量を抑制するための保湿機能改善剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、化粧料組成物、角層改善剤及び保湿機能改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ワセリンは、皮膚の乾燥に起因する症状の予防、治療、及び改善において、皮膚の閉塞性を向上させ、皮膚からの水分の蒸散を低減する基材として、使用されてきた。このような背景から、近年、ワセリンを配合した化粧料が販売されている。ワセリンを配合した化粧料については、これまで種々の報告がなされている。
【0003】
特許文献1には、レシチンとベタイン類を併用することにより、保存安定性の良好なワセリンの微細エマルション組成物が開示されている。特許文献2には、レシチン、ワセリン、グリセリン、水、水溶性高分子を含有することにより、良好な保湿性を有し、ダニ忌避作用を有する乳化組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003-95956号公報
【特許文献2】特開2009-256377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1及び2に記載の乳化粒子は、平均粒子径が400nm以上であり、特許文献1及び2には、200nm以下のワセリンを含む乳化粒子とグリセリン、ベタインを併用することにより、相乗的に、角層水分量が多くなり、水分蒸散量を下げることができることについての着目はない。また、特許文献1及び2には、角層の厚みが増大し、ワセリンの角層への浸透性が飛躍的に向上することについての着目はない。
【0006】
本開示は、上記事情に鑑みてなされたものである。
本開示の一実施形態が解決しようとする課題は、角層水分量を増大させ、水分蒸散量を抑制し、角層の厚みを増大させ、かつ、ワセリンの角層への浸透性が高い化粧料組成物を提供することにある。
本開示の他の実施形態が解決しようとする課題は、上記の化粧料組成物からなる角層改善剤又は保湿機能改善剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための具体的な手段には、以下の実施態様が含まれる。
[1] ワセリンを含む乳化粒子と、上記ワセリンを含む乳化粒子が分散する連続相とを含む化粧料組成物であって、連続相がグリセリン及びベタインを含み、ワセリンを含む乳化粒子の平均粒子径が50nm~200nmであり、グリセリン及びベタインの含有率が、化粧料組成物の全質量に対して、それぞれ10質量%以上である化粧料組成物。
[2] ベタインの含有量の割合が、ワセリンの質量に対して、質量基準で2~50である、[1]に記載の化粧料組成物。
[3] グリセリンの含有量の割合が、ワセリンの質量に対して、質量基準で2~50である、[1]又は[2]に記載の化粧料組成物。
[4] さらに、PEGを含む、[1]~[3]のいずれか1つに記載の化粧料組成物
[5] さらに、ショ糖脂肪酸エステルを含む、[1]~[4]のいずれか1つに記載の化粧料組成物。
[6] 上記ワセリンを含む乳化粒子の平均粒子径が50nm~150nmである、[1]~[5]のいずれか1つに記載の化粧料組成物。
[7] ワセリンの含有率が、化粧料組成物の総量に対して、0.3質量%~5質量%である、[1]~[6]のいずれか1つに記載の化粧料組成物
[8] ワセリンの含有率が、化粧料組成物中に含まれる油性成分の総量に対して、60質量%以上である、[1]~[7]のいずれか1つに記載の化粧料組成物。
[9] [1]~[8]のいずれか1つに記載の化粧料組成物からなる肌の角層の厚みを改善するための角層改善剤。
[10] [1]~[8]のいずれか1つに記載の化粧料組成物からなる肌の角層水分量の増加及び経皮水分蒸散量を抑制するための保湿機能改善剤。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一実施形態によれば、ワセリンを含む乳化粒子の平均粒子径が50~200nmであり、グリセリン及びベタインの含有率を、化粧料組成物の全質量に対して、それぞれ10質量%以上含むことで、角層水分量が多くなり、経皮水分蒸散量を抑制することができ、角層の厚みを増大させ、かつ、ワセリンの角層への浸透性が高い化粧料組成物が提供される。
本開示の他の実施形態によれば、上記の化粧料組成物からなる角層改善剤又は保湿機能改善剤が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施例1の化粧料組成物、比較例8の化粧料組成物及びワセリンを角層シートに塗布し、静置後の薄層切片の光学顕微鏡画像を示す。
【
図2】実施例1の化粧料組成物、比較例8の化粧料組成物及びワセリンを角層シートに塗布し、
図2は、静置した後の角層厚を測定した結果を示す。
【
図3】
図3は、3次元培養皮膚モデルを用いた実施例1の化粧料組成物及び比較例8のワセリンの皮膚浸透性試験の測定結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の化粧料組成物について詳細に説明する。以下に記載する要件の説明は、本開示の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本開示はそのような実施態様に限定されるものではなく、本開示の目的の範囲内において、適宜、変更を加えて実施できる。
【0011】
本開示において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本開示に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0012】
本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
本開示において、組成物中の各成分の量は、各成分に該当する物質が組成物中に複数存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する複数の物質の合計量を意味する。
【0013】
本開示において「水相」との語は、溶剤の種類にかかわらず、「油相」に対応する語として使用する。
【0014】
[化粧料組成物]
本開示の化粧料組成物は、ワセリンを含む乳化粒子と、上記ワセリンを含む乳化粒子が分散する連続相とを含む化粧料組成物であって、連続相がグリセリン及びベタインを含み、ワセリンを含む乳化粒子の平均粒子径が50nm~200nmであり、グリセリン及びベタインの含有率が、化粧料組成物の全質量に対して、それぞれ10質量%以上である。
【0015】
〔ワセリン〕
本開示の化粧料組成物は、ワセリンを含む。ワセリンは、乳化粒子に含まれることで、化粧料組成物に含まれる。即ち、本開示の化粧料組成物の分散相は、ワセリンを含む乳化粒子を含む。
ワセリンは、石油から得られる炭化水素の混合物(所謂、石油系炭化水素)を精製することにより得られる半固体状のものであり、例えば、化粧料の分野(詳細には、化粧品及び医薬部外品の分野)において、通常使用されているものであることが好ましい。
【0016】
ワセリンとしては、黄色ワセリン及び白色ワセリンが挙げられる。
ワセリンは、例えば、不純物の割合が少なく、低刺激性であるという観点から、白色ワセリンであることが好ましい。
【0017】
ワセリンの示差走査熱量測定(DSC)により測定される発熱ピーク温度(以下、「DSC発熱ピーク温度」ともいう。)は、45℃未満であることが好ましく、35℃未満であることがより好ましい。
本開示の化粧料組成物に含まれるワセリンのDSC発熱ピーク温度が45℃未満であると、室温(25℃;以下、同じ。)でのワセリンの析出が良好に抑制され、室温環境下におけるワセリンを含む乳化粒子の経時安定性がより向上する傾向がある。
本開示の化粧料組成物に含まれるワセリンのDSC発熱ピーク温度の下限は、特に限定されないが、例えば、20℃以上であることが好ましい。
【0018】
本開示において、ワセリンのDSC発熱ピーク温度は、以下の方法により測定される。
示差走査熱量測定(DSC)装置の測定パンに、ワセリンを8mg入れ、窒素気流中において、冷却速度1℃/分にて100℃から4℃まで冷却した際に現れた発熱ピークの温度を読み取り、ワセリンのDSC発熱ピーク温度とする。
DSC装置としては、例えば、ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン(株)製の示差走査熱量計である「DSC Q2000」(商品名)を好適に使用できる。但し、DSC装置は、これに限定されない。
【0019】
ワセリンとしては、市販品を使用できる。
ワセリンの市販品の例としては、日興リカ(株)製の「サンホワイト(登録商標) P-200」、「サンホワイト(登録商標) P-150」、及び「サンホワイト(登録商標) Y-445」、クローダジャパン(株)製の「クロラータム V」及び「クロラータム VL」、並びに、Sonneborn社製の「WHITE PROTOPET(登録商標) 1S」、「SUPER WHITE PROTOPET(登録商標)」、及び「PERFECTA(登録商標)」が挙げられる。
ワセリンの市販品としては、例えば、ワセリンを含む乳化粒子の経時安定性の観点から、クローダジャパン(株)製の「クロラータム V」、並びに、Sonneborn社製の「WHITE PROTOPET(登録商標) 1S」及び「SUPER WHITE PROTOPET(登録商標)」が好ましい。より好ましくは、Sonneborn社製の「SUPER WHITE PROTOPET(登録商標)」である。
【0020】
本開示の化粧料組成物は、ワセリンを1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0021】
本開示の化粧料組成物におけるワセリンの含有率は、特に限定されないが、例えば、化粧料組成物の全質量に対して、0.1質量%~20質量%であることが好ましく、0.1質量%~15質量%であることがより好ましく、0.3質量%~10質量%であることが更に好ましく、0.3質量%~5質量%であることが特に好ましい。
【0022】
本開示の化粧料組成物におけるワセリンの含有率は、特に限定されないが、例えば、化粧料組成物中に含まれる油性成分の総量に対して、60質量%以上であることが好ましい。油性成分とは、水と相分離する疎水性の成分であって、25℃の水に対する溶解度が1質量%未満である成分を指す。
【0023】
-乳化粒子の平均粒子径-
本開示の化粧料組成物におけるワセリンを含む乳化粒子の平均粒子径は、例えば、角層水分量、経皮水分蒸散量及び角層浸透性の観点から、200nm以下であることが好ましく、150nm以下であることがより好ましく、100nm以下であることが更に好ましい。
本開示の化粧料組成物における乳化粒子の平均粒子径の下限は、乳化安定性の観点から、50nm以上であり、60nm以上であることが好ましい。
一態様において、ワセリンを含む乳化粒子の平均粒子径は、50nm~200nmとすることができる。
【0024】
本開示において、乳化粒子の「平均粒子径」とは、体積平均粒子径を意味する。
本開示において、乳化粒子の平均粒子径は、以下の方法により測定される。
雰囲気温度25℃の環境下において、化粧料組成物に含まれるワセリンを含む乳化粒子の体積平均粒子径を、粒度分布計を用いて、動的光散乱法により測定する。
粒度分布計としては、例えば、大塚電子(株)製の濃厚系粒径アナライザーFPAR-1000(商品名)を好適に使用できる。但し、粒度分布計は、これに限定されない。
【0025】
〔ベタイン〕
本開示の化粧料組成物は分散相を有し、連続相にベタインを含む。
ベタインは、アミノ酸のN-トリアルキル置換体であり、トリメチルグリシンとも呼ばれる。
ベタインは、例えば、化粧料において、通常使用されているものであれば、特に制限なく、使用できる。
【0026】
ベタインとしては、市販品を使用できる。
ベタインの市販品の例としては、旭化成ファインケム(株)製のアミノコート(商品名)が挙げられる。
【0027】
本開示の化粧料組成物におけるベタインの含有率は、特に限定されないが、例えば、化粧料組成物の全質量に対して、10質量%以上であることが好ましく、10質量%~50質量%であることがより好ましく、10質量%~40質量%であることが更に好ましく、10質量%~30質量%であることが特に好ましい。
【0028】
本開示の化粧料組成物におけるベタインの含有量の割合は、特に限定されないが、例えば、ワセリンの質量に対して、質量基準で2~50であることが好ましい。
【0029】
〔グリセリン〕
本開示の化粧料組成物は連続相を有し、連続相にグリセリンを含む。
グリセリンは、例えば、化粧料において、通常使用されているものであれば、特に制限なく、使用できる。
【0030】
グリセリンとしては、市販品を使用できる。
グリセリンの市販品の例としては、花王(株)製の化粧品用濃グリセリン(商品名)が挙げられる。
【0031】
本開示の化粧料組成物におけるグリセリンの含有率は、特に限定されないが、例えば、化粧料組成物の全質量に対して、10質量%以上であり、10質量%~60質量%であることが好ましく、10質量%~50質量%であることがより好ましく、10質量%~40質量%であることが特に好ましい。
【0032】
本開示の化粧料組成物におけるグリセリンの含有量の割合は、特に限定されないが、例えば、ワセリンの質量に対して、質量基準で2~50であることが好ましい。
【0033】
〔PEG〕
本開示の化粧料組成物は、さらに、PEGを含むことが好ましい。PEGは、化粧料組成物の連続相にもワセリンを含む乳化粒子(即ち分散相、以下同じ)にも含むことができるが、連続相に含むことがより好ましい。
本開示の化粧料組成物は、PEGを含むことにより、角層水分量を増大させる傾向と、ワセリンによるべたつきを軽減する傾向を示す。
PEGは、ポリエチレングリコールとも呼ばれ、化粧料において、通常使用されているものであれば、特に制限なく、使用できる。PEGとしては、例えば、PEG-6、PEG-8、PEG-12、PEG-20、PEG-32、PEG-40、PEG-75、PEG-150、PEG-240、PEG-400等が挙げられ、これらより1種又は2種以上を選択して用いる。
これらのPEGの中でも、PEG-6、PEG-8、PEG-12、PEG-20、PEG-32、PEG-40、及びPEG-75が好ましく、PEG-6、PEG-12、PEG-32、及びPEG-75がより好ましい。
【0034】
PEGとしては、市販品を使用できる。
PEGの市販品の例としては、日油(株)製のPEG#300、PEG#400、PEG#600、PEG#1000、PEG#1500、PEG#1540、PEG#2000、PEG#4000、PEG#6000、及びPEG#20000(商品名)が挙げられる。
【0035】
本開示の化粧料組成物がPEGを含む場合、PEGの含有率は、特に限定されないが、例えば、化粧料組成物の全質量に対して、0.5質量%~20質量%であることが好ましく、1質量%~10質量%であることがより好ましく、2質量%~5質量%であることが特に好ましい。
【0036】
〔ショ糖脂肪酸エステル〕
本開示の化粧料組成物は、ショ糖脂肪酸エステルを含むことが好ましい。ショ糖脂肪酸エステルは、化粧料組成物の連続相にもワセリンを含む乳化粒子にも含むことができるが、ワセリンを含む乳化粒子に含むことがより好ましい。ワセリンを含む乳化粒子がショ糖脂肪酸エステルを含むと、ワセリンを含む乳化粒子の粒子サイズを維持しやすい傾向を示す。
【0037】
ショ糖脂肪酸エステルの親水性-親油性バランスの値(即ち、HLB値)は、15以上であることが好ましく、16以上であることがより好ましく、19以上であることが更に好ましい。
ショ糖脂肪酸エステルのHLB値の上限は、特に限定されないが、例えば、市販品を入手しやすい点において、20以下であることが好ましい。
本開示におけるHLB値は、個々のショ糖脂肪酸エステルのHLB値を意味する。
【0038】
本開示において、HLB値は、以下に示す川上式を用いて計算する。なお、市販品を使用する場合には、HLB値は、市販のカタログデータを優先して採用する。
【0039】
HLB=7+11.7log(Mw/Mo)
「Mw」は、親水基の分子量を示し、「Mo」は、疎水基の分子量を示す。
【0040】
ショ糖脂肪酸エステルは、例えば、化粧料の分野(詳細には、化粧品及び医薬部外品の分野)において、通常使用されているものであることが好ましい。
【0041】
ショ糖脂肪酸エステルに含まれる脂肪酸構造の炭素数は、特に限定されないが、例えば、12以上であることが好ましく、12~20であることがより好ましい。
ショ糖脂肪酸エステルの具体例としては、ショ糖ジオレイン酸エステル、ショ糖ジステアリン酸エステル、ショ糖ジパルミチン酸エステル、ショ糖ジミリスチン酸エステル、ショ糖ジラウリン酸エステル、ショ糖モノオレイン酸エステル、ショ糖モノステアリン酸エステル、ショ糖モノパルミチン酸エステル、ショ糖モノミリスチン酸エステル、及びショ糖モノラウリン酸エステルが挙げられる。
ショ糖脂肪酸エステルとしては、ショ糖モノパルミチン酸エステル(脂肪酸構造の炭素数:16、化粧品の成分表示名称:パルミチン酸スクロース)、及び、ショ糖モノステアリン酸エステル(脂肪酸構造の炭素数:18、化粧品の成分表示名称:ステアリン酸スクロース)から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、ステアリン酸スクロースを含むことがより好ましい。
【0042】
ショ糖脂肪酸エステルにおけるモノエステル体の含有率は、特に限定されないが、例えば、ショ糖脂肪酸エステルの全質量に対して、70質量%以上であることが好ましく、75質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることが更に好ましい。
ショ糖脂肪酸エステルにおけるモノエステル体の含有率の上限は、特に限定されず、例えば、ショ糖脂肪酸エステルの全質量に対して100質量%であってもよい。
【0043】
本開示において、ショ糖脂肪酸エステルにおけるモノエステル体の含有率は、以下の方法により求められる値である。
【0044】
<<ショ糖脂肪酸エステルにおけるモノエステル体の含有率の求め方>>
-試料の調製-
ショ糖脂肪酸エステルをテトラヒドロフランに溶解し、濃度1mg/mLの試料溶液を調製する。調製した試料溶液を用いて、下記の測定条件により、クロマトグラムを得る。
【0045】
-測定条件-
使用装置:高速液体クロマトグラフィー〔商品名:Prominence、(株)島津製作所製〕
検出方法:コロナ荷電化粒子検出法
カラム:CAPCELL PAK(登録商標) C18〔商品名、タイプ:UG120、内径4.6mm×長さ150mm、(株)大阪ソーダ製〕
カラム温度:40℃
溶離液:水/メタノール=50/50(v/v)に対して、10mMの濃度となるように酢酸アンモニウムを添加して溶解した溶液
流量:1mL/分
注入量:10μL
【0046】
-算出方法-
得られたクロマトグラムにおいて検出された、保持時間15分~30分におけるピークの総面積に対する保持時間17分~22分におけるピーク面積の割合を算出する。得られた値の小数点以下1桁目を四捨五入し、モノエステル体の含有率とする。
【0047】
ショ糖脂肪酸エステルとしては、市販品を使用できる。
ショ糖脂肪酸エステルの市販品の例としては、第一工業製薬(株)製の「DKエステル(登録商標) SS」〔脂肪酸の種類:ステアリン酸、HLB値(カタログ値):19、モノエステル体(カタログ値):97質量%〕、並びに、三菱ケミカル(株)製の「サーフホープ(登録商標) SE COSME C-1816」〔脂肪酸の種類:ステアリン酸、HLB値(カタログ値):16、モノエステル体(カタログ値):75質量%〕、「リョートー(登録商標) シュガーエステル S-1570」〔脂肪酸の種類:ステアリン酸、HLB値(カタログ値):15、モノエステル体(カタログ値):70質量%〕、及び「リョートー(登録商標) シュガーエステル P-1670」〔脂肪酸の種類:パルミチン酸、HLB値(カタログ値):16、モノエステル体(カタログ値):75質量%〕が挙げられる。
【0048】
本開示の化粧料組成物は、ショ糖脂肪酸エステルを1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0049】
本開示の化粧料組成物におけるショ糖脂肪酸エステルの含有率は、特に限定されないが、例えば、ワセリンを含む乳化粒子の経時安定性の観点から、ワセリンを含む乳化粒子の全質量に対して、3質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、7質量%以上であることが更に好ましく、9質量%以上であることが特に好ましい。また、本開示のワセリンを含む乳化粒子におけるショ糖脂肪酸エステルの含有率の上限は、例えば、ワセリンを含む乳化粒子の全質量に対して、15質量%以下であることが好ましい。
【0050】
本開示のワセリンの含有量に対するショ糖脂肪酸エステルの含有量の割合(ショ糖脂肪酸エステルの含有量/ワセリンの含有量)は、特に限定されないが、例えば、質量基準で、0.20以上であることが好ましく、0.40以上であることがより好ましく、0.50以上であることが更に好ましく、0.60以上であることが特に好ましい。
本開示の化粧料組成物におけるワセリンの含有量に対するショ糖脂肪酸エステルの含有量の割合が、質量基準で、0.20以上であると、ワセリンを含む乳化粒子の粒子サイズを維持しやすい傾向を示す。
本開示の化粧料組成物におけるワセリンの含有量に対するショ糖脂肪酸エステルの含有量の割合の上限は、例えば、ワセリンを含む乳化粒子の安定性の観点から、150以下であることが好ましい。
【0051】
〔レシチン〕
本開示の化粧料組成物は、レシチンを含むことが好ましい。レシチンは、化粧料組成物の連続相にもワセリンを含む乳化粒子にも含むことができるが、ワセリンを含む乳化粒子に含むことがより好ましい。レシチンを含むと、ワセリンを含む乳化粒子の粒子サイズを維持しやすい傾向を示す。
レシチンは、例えば、化粧料の分野(詳細には、化粧品及び医薬部外品の分野)において、通常使用されているものであることが好ましい。
本開示において、レシチンとは、ホスファチジルコリン自体、又は、少なくともホスファチジルコリンを含む混合物を指す。
少なくともホスファチジルコリンを含む混合物とは、一般に、ホスファチジルコリンの他に、ホスファチジルセリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、N-アシルホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジン酸、リゾホスファチジルコリン、リゾホスファチジン酸、スフィンゴミエリン、スフィンゴエタノールアミン等を含み得る混合物である。
【0052】
レシチンは、酵素分解レシチン(所謂、リゾレシチン)であってもよい。
酵素分解レシチンは、ホスホリパーゼ等の酵素により、ホスファチジルコリン分子が持つ1つの脂肪酸が失われたリゾホスファチジルコリンを含む組成物である。なお、本開示における「酵素分解レシチン」には、水素添加処理を行い、結合脂肪酸を飽和脂肪酸にすることで酸化安定性を向上させた、所謂、水素添加された酵素分解レシチンが含まれる。
好ましい態様としては、水素添加されていないレシチンである。
【0053】
レシチンの純度は、例えば、ワセリンを含む乳化粒子の乳化分散性の観点から、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。
レシチンの純度は、レシチンがトルエンに溶解しやすく、アセトンに溶解しない性質を利用して、トルエン不溶物の質量とアセトン可溶物の質量とから求められる。
【0054】
レシチンとしては、市販品を使用できる。
レシチンの市販品の例としては、辻製油(株)製のSLP-ホワイト(商品名)、及び理研ビタミン(株)製のレシオンP(商品名)が挙げられる。
【0055】
本開示の化粧料組成物は、レシチンを1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0056】
本開示の化粧料組成物におけるレシチンの含有率は、特に限定されないが、例えば、ワセリンを含む乳化粒子の経時安定性の観点から、ワセリンを含む乳化粒子の全質量に対して、0.1質量%~7質量%であることが好ましく、0.2質量%~5.5質量%であることがより好ましく、0.3質量%~4質量%であることが更に好ましく、0.5質量%~2質量%であることが特に好ましい。
【0057】
〔水〕
本開示の化粧料組成物は、水を含むことが好ましい。水は、化粧料組成物の分散相にもワセリンを含む乳化粒子にも含むことができる。
水は、例えば、化粧料に使用可能な水であれば、特に限定されない。
水の具体例としては、天然水、精製水、蒸留水、イオン交換水、純水、及び超純水(例えば、Milli-Q水)が挙げられる。
水としては、例えば、不純物が少ないという観点から、精製水、蒸留水、イオン交換水、純水、又は超純水が好ましい。
【0058】
本開示の化粧料組成物における水の含有率は、特に限定されないが、例えば、化粧料組成物の全質量に対して、10質量%~80質量%であることが好ましい。
【0059】
〔抗酸化剤〕
本開示の化粧料組成物は、さらに、抗酸化剤を含むことが好ましい。
抗酸化剤は、例えば、化粧料において、通常使用されているものであれば、特に制限なく、使用できる。
【0060】
抗酸化剤の具体例としては、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、パルミチン酸アスコルビル、ジパルミチン酸アスコルビル、ジブチルヒドロキシトルエン、トコフェロール、δ-トコフェロール、及びピロ亜硫酸ナトリウムが挙げられる。
【0061】
抗酸化剤は、ジブチルヒドロキシトルエン、トコフェロール、及びδ-トコフェロールからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、ジブチルヒドロキシトルエンであることがより好ましい。ここでトコフェロールは、α-トコフェロール、β-トコフェロール、γ-トコフェロール及びδ-トコフェロールのうち2種以上の混合を意味する。
【0062】
このような抗酸化剤を含む本開示の化粧料組成物によれば、例えば、カロテノイド等の酸化されやすい成分を含む化粧料に配合した際に、化粧料中の上記成分の酸化が良好に抑制され、化粧料中の上記成分の安定性がより高まる傾向がある。
カロテノイドには、カロテン類及びキサントフィル類がある。
カロテン類の具体例としては、カロテン及びリコピンが挙げられる。
キサントフィル類の具体例としては、アスタキサンチン、クリプトキサンチン、ルテイン、及びゼアキサンチンが挙げられる。
【0063】
抗酸化剤としては、市販品を使用できる。
ジブチルヒドロキシトルエンの市販品の例としては、オクサリスケミカルズ(株)製の「アイオノール(登録商標) CP」、及び本州化学工業(株)製の「H-BHT(商品名)」が挙げられる。
トコフェロールの市販品の例としては、理研ビタミン(株)製の「理研Eオイル800(商品名)」が挙げられる。
δ-トコフェロールの市販品の例としては、タマ生化学(株)製の「d-δ-トコフェロール(商品名)」が挙げられる。
【0064】
本開示の化粧料組成物が抗酸化剤を含む場合、抗酸化剤の含有率は、特に限定されないが、例えば、化粧料組成物の全質量に対して、0.01質量%~5質量%であることが好ましく、0.3質量%~3質量%であることがより好ましい。
【0065】
〔その他の成分〕
本開示の化粧料組成物は、本開示の効果を損なわない範囲において、必要に応じて、既述の成分以外の成分(所謂、その他の成分)を含んでいてもよい。
その他の成分としては、例えば、化粧料において通常用いられる添加成分(以下、単に「添加成分」ともいう。)が挙げられる。
【0066】
添加成分としては、例えば、化粧料(所謂、化粧品及び薬用化粧品)に使用した際に有用な美容効果(保湿効果、美白効果、整肌効果等)を示す機能性成分が挙げられる。
このような機能性成分としては、パルミチン酸L-アスコルビル、リン酸アスコルビルマグネシウム等のアスコルビン酸誘導体;β-カロテン、アスタキサンチン、ゼアキサンチン、リコピン、ルテイン等のカロテノイド;トコフェロール、トコトリエノール等のビタミンE;パルミチン酸レチノール等のレチノール誘導体;コエンザイムQ10等のユビキノン;1,3-ブチレングリコール、ジプロピレングリコール等の多価アルコール;ヒアルロン酸、エリスリトール、キシリトール、グルコース、ソルビトール、トレハロース等の多糖類;グルコシルセラミド、ガラクトシルセラミド等のスフィンゴ糖脂質;加水分解コラーゲン、水溶性コラーゲン等のコラーゲン;アセチルヒドロキシプロリン等のアミノ酸;加水分解シロバナルーピンタンパク;ニコチン酸アミド;ポリエチレングリコール;アセンヤクエキス;ヒオウギエキス;グリチルリチン酸ジカリウムなどが挙げられる。
上記以外の添加成分としては、緩衝剤(クエン酸、リン酸等)、pH調整剤(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、塩酸等)、防腐剤(フェノキシエタノール、エチルへキシルグリセリン等)、紫外線吸収剤、抗炎症剤、着色剤、香料等が挙げられる。
これらの添加成分は、1つの成分が2つ以上の機能を担うものであってもよい。
【0067】
本開示の化粧料組成物は、その他の成分を含む場合、その他の成分を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0068】
本開示の化粧料組成物がその他の成分を含む場合、その他の成分の含有率は、特に限定されず、目的に応じて、適宜設定できる。
【0069】
[化粧料組成物の製造方法]
本開示の明化粧料組成物の製造方法は、特に限定されない。
本開示の水性透明化粧料は、例えば、ワセリンを含む乳化粒子と、グリセリン、ベタイン及びその他の任意成分とを用いて、公知の化粧料組成物の製造方法に従って、製造できる。
【0070】
[ワセリンを含む乳化粒子の製造方法]
ワセリンを含む乳化粒子の製造方法は、特に限定されない。
ワセリンを含む乳化粒子は、例えば、ワセリンと、レシチンと、ショ糖脂肪酸エステルと、水と、必要に応じて、既述の添加成分と、を用いて、公知の水中油型の乳化組成物の製造方法に従って、製造できる。
【0071】
ワセリンを含む乳化粒子は、例えば、少なくとも、ワセリンと、レシチンと、ショ糖脂肪酸エステルと、水と、を含む混合物に対し、50MPa以上の圧力による乳化分散処理を施す工程を含む製造方法(以下、「製造方法X」ともいう。)により製造することが好ましい。製造方法Xによれば、微細な乳化粒子を得ることができる。
以下、製造方法Xについて詳細に説明する。なお、既述のワセリンを含む乳化粒子と共通する事項、例えば、乳化粒子の成分及びその量については、説明を省略する。
【0072】
製造方法Xは、少なくとも、ワセリンと、レシチンと、ショ糖脂肪酸エステルと、水と、を含む混合物に対し、50MPa以上の圧力による乳化分散処理(所謂、高圧乳化分散処理)を施す工程(以下、「乳化分散処理工程」ともいう。)を含む。
混合物は、少なくともワセリン及びレシチンを含む油相組成物と、少なくともショ糖脂肪酸エステル及び水を含む水相組成物と、を混合して得ることが好ましい。
【0073】
油相組成物は、例えば、ワセリンと、レシチンと、所望により配合される添加成分のうち油性の添加成分と、を混合することにより調製できる。
油相組成物の調製に際しては、油相組成物に配合される全ての成分を一度に混合してもよく、油相組成物に配合される各成分をいくつかに分けて混合してもよい。
油相組成物に配合される成分は、油相組成物中において、単に混合されていればよいが、均一に混合されていることが好ましい。
混合方法は、特に限定されない。
混合方法としては、例えば、撹拌により混合する方法が挙げられる。
撹拌には、一般的な撹拌器具又は撹拌装置を使用できる。
【0074】
撹拌温度は、特に限定されないが、例えば、50℃~90℃に設定することが好ましい。
温度を調整する手段は、特に限定されない。
温度を調整する手段としては、一般的な加熱装置(例えば、ウォーターバス)を使用できる。
撹拌時間は、特に限定されず、撹拌器具又は撹拌装置の種類、油相組成物の組成等に応じて、適宜設定できる。
撹拌温度及び撹拌時間の好ましい態様の一例としては、撹拌温度が70℃であり、かつ、撹拌時間が1時間である態様が挙げられる。
【0075】
水相組成物は、例えば、ショ糖脂肪酸エステルと、水と、所望により配合される添加成分のうち水性の添加成分(例えば、グリセリン)と、を混合することにより調製できる。
水相組成物の調製に際しては、水相組成物に配合される全ての成分を一度に混合してもよく、水相組成物に配合される各成分をいくつかに分けて混合してもよい。
水相組成物に配合される成分は、水相組成物中において、単に混合されていればよいが、均一に混合されていることが好ましい。
混合方法は、特に限定されない。
混合方法としては、例えば、撹拌により混合する方法が挙げられる。
撹拌には、一般的な撹拌器具又は撹拌装置を使用できる。
【0076】
撹拌温度は、特に限定されないが、例えば、突沸を防ぐ観点から、100℃以下に設定することが好ましく、50℃~90℃に設定することがより好ましい。
温度を調整する手段は、特に限定されない。
温度を調整する手段としては、一般的な加熱装置(例えば、ウォーターバス)を使用できる。
撹拌時間は、特に限定されず、撹拌器具又は撹拌装置の種類、水相組成物の組成等に応じて、適宜設定できる。
撹拌温度及び撹拌時間の好ましい態様の一例としては、撹拌温度が70℃であり、かつ、撹拌時間が1時間である態様が挙げられる。
【0077】
油相組成物と水相組成物との混合に際しては、油相組成物と水相組成物とを一度に混合してもよく、一方に他方を少しずつ添加しながら混合してもよい。
混合方法は、特に限定されない。
混合方法としては、例えば、撹拌により混合する方法が挙げられる。
撹拌には、一般的な撹拌器具又は撹拌装置を使用できる。
【0078】
水相組成物と混合する際の油相組成物の温度は、例えば、突沸を防ぐ観点から、100℃以下に設定することが好ましく、20℃~90℃に設定することがより好ましい。
油相組成物と混合する際の水相組成物の温度は、例えば、20℃~90℃に設定することが好ましい。
撹拌時間は、特に限定されず、撹拌器具又は撹拌装置の種類、油相組成物及び水相組成物の組成等に応じて、適宜設定できる。
【0079】
乳化分散処理工程では、上記混合物に対し、50MPa以上の圧力による乳化分散処理を施す。
乳化分散処理には、高圧乳化装置を使用できる。
高圧乳化装置としては、例えば、高圧ホモジナイザーが挙げられる。
高圧ホモジナイザーとしては、例えば、チャンバー型高圧ホモジナイザー、及び均質バルブ型高圧ホモジナイザーが挙げられる。
高圧乳化装置としては、例えば、(株)スギノマシン製の高圧ホモジナイザー〔商品名:スターバーストミニ(SBM)〕を好適に使用できる。
【0080】
上記混合物に対し、乳化分散処理を施す際の圧力は、50MPa以上であり、50MPa~250MPaであることが好ましく、100MPa~250MPaであることがより好ましく、150MPa~250MPaであることが更に好ましく、200MPa~250MPaであることが特に好ましい。
上記混合物に対し、50MPa以上の圧力による乳化分散処理を施すと、微細な乳化粒子を得ることができる。
【0081】
乳化分散処理の時間及び温度は、特に限定されず、例えば、高圧乳化装置の種類、油相組成物及び水相組成物の組成、上記混合物の量等に応じて、適宜設定できる。
乳化分散処理は、例えば、圧力条件を変えて複数回行ってもよい。
【0082】
乳化分散処理工程では、上記混合物に対し、例えば、高圧乳化装置を用いた50MPa以上の圧力による乳化分散処理を施す前に、例えば、通常の乳化分散装置(例えば、超音波ホモジナイザー及びホモミキサー)を用いた予備乳化分散処理を施すことが好ましい。
上記混合物に対し、予備乳化分散処理を施すと、微細な乳化粒子をより得やすくなる。
【0083】
通常の乳化分散装置としては、例えば、(株)日本精機製作所製の超音波ホモジナイザー(型番:US600-AT)、及びプライミスク(株)製のホモミクサー(型番:MARK II 2.5型)を好適に使用できる。
【0084】
油相組成物と水相組成物との比率(油相組成物/水相組成物)は、特に限定されないが、例えば、質量基準で、0.1/99.9~50/50とすることが好ましく、1/99~40/60とすることがより好ましく、5/95~40/60とすることが更に好ましく、10/90~35/65とすることが特に好ましい。
【0085】
製造方法Xは、必要に応じて、乳化分散処理工程以外の工程(所謂、その他の工程)を含んでいてもよい。その他の工程としては、例えば、濾過工程が挙げられる。
【実施例0086】
以下、本開示の化粧料組成物を実施例により更に具体的に説明する。但し、本開示の化粧料組成物は、その主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0087】
1.ワセリン乳化物の調製
〔調製液1〕
下記の組成を有する油相組成物を構成する各成分を容器に入れ、70℃のウォーターバス中で、スターラーを用いて、1時間撹拌することにより、油相組成物を得た。
次に、下記の組成を有する水相組成物を構成する各成分を容器に入れ、70℃のウォーターバス中で、スターラーを用いて、1時間撹拌することにより、水相組成物を得た。
<組成>
=油相組成物=
・ワセリン 14.0質量%
・レシチン 13.0質量%
=水相組成物=
・グリセリン 52.5質量%
・ショ糖脂肪酸エステル 10.0質量%
・水 残部
【0088】
次に、70℃のウォーターバス中で、水相組成物を、スターラーを用いて撹拌し、撹拌中の水相組成物に、油相組成物を徐々に添加して混合液を得た。得られた混合液に対し、超音波ホモジナイザー〔型番:US600-AT、(株)日本精機製作所製〕を用いて、1分間分散処理を行い、粗分散液を得た。次いで、得られた粗分散液に対し、高圧乳化装置〔製品名:スターバーストミニ、(株)スギノマシン製〕を用いて、乳化処理(圧力:245MPa、パス方式にて3パス)を行い、水中油型の乳化組成物を得た。
【0089】
〔調製液2〕
下記の組成を有する油相組成物を構成する各成分を容器に入れ、70℃のウォーターバス中で、スターラーを用いて、1時間撹拌することにより、油相組成物を得た。
次に、下記の組成を有する水相組成物を構成する各成分を容器に入れ、70℃のウォーターバス中で、スターラーを用いて、1時間撹拌することにより、水相組成物を得た。
<組成>
=油相組成物=
・ワセリン 14.0質量%
・レシチン 13.0質量%
=水相組成物=
・グリセリン 52.5質量%
・ショ糖脂肪酸エステル 10.0質量%
・水 残部
【0090】
次に、70℃のウォーターバス中で、水相組成物を、スターラーを用いて撹拌し、撹拌中の水相組成物に、油相組成物を徐々に添加して混合液を10分間攪拌して、水中油型の乳化組成物を得た。
【0091】
2.化粧水の製造〔実施例1~8、並びに比較例1~8〕
下記の表1に記載の組成を有する化粧水を、常法により製造した(全量100質量%)。
【0092】
【0093】
[評価]
1.ワセリン乳化物
(1)乳化粒子の平均粒子径
実施例1の化粧料組成物に含まれる乳化粒子の平均粒子径を測定した。具体的には、以下のようにして測定した。
雰囲気温度25℃の環境下において、化粧料組成物に含まれる乳化粒子の体積平均粒子径を、大塚電子(株)製の濃厚系粒径アナライザーFPAR-1000(商品名)を用いて、動的光散乱法により測定したところ、平均粒子径は97nmであった。
【0094】
同様に、比較例8の化粧料組成物に含まれる乳化粒子の平均粒子径を測定したところ、平均粒子径は6112nmであった。
【0095】
2.角層水分量・経皮水分蒸散量
次に、実施例1~8、比較例1~8の化粧料組成物について、コルネオメーター(Corneometer、登録商標)を用いたインビボ測定を行うことで、角水分量に与える影響を調べた。コルネオメーターは、角層のキャパシタンス(静電容量:電気エネルギー貯蔵容量)を測定することにより、角中に含まれる水分量を非侵襲的に求める方法である。また、テヴァメーター(Tewameter、登録商標)を用いたインビボ測定を行うことで、経皮水分蒸散量に与える影響を調べた。テヴァメーターは、温湿度センサーで皮膚からの水分蒸散による湿度濃度をモニタリングし、濃度勾配から経皮水分蒸散量(TEWL)を非侵襲的に算出する方法である。
【0096】
以下に、解析方法の詳細を示す。
20~50歳までの健常な男女6名を被験者とし、上腕内側に以下の8領域を設定した。塗布部位(8部位)、各2cm×7cm
【0097】
・塗布腕に対する処置
被験者に上腕を洗顔フォーム及びぬるま湯で洗浄し、水気をよく拭き取ってもらった。次に、温度25±1℃・相対湿度50±5℃の環境で15分間過ごしてもらい、被験者の環境調整を行った。被験者の左右前腕の塗布部位として設定した箇所に印をつけ、角層水分量はコルネオメーター(コルネオメーターCM825;Courage and Khazaka Electronics社製、ドイツ)による測定を行い、塗布前のキャパシタンス(=T0)をそれぞれにおいて計測した。経皮水分蒸散量はテヴァメーター(Tewameter TM HEX;Courage+Khazaka社、ドイツ)による測定を行い、塗布前のTEWL(=V0)をそれぞれにおいて計測した。
次に、評価サンプルとする化粧料組成物を各領域あたり20μlずつ塗布した。
被験者には、塗布から3時間後に、温度25±1℃・相対湿度50±5℃の環境で15分間過ごしてもらい、被験者の環境調整を行った。前述と同様の測定を行い、キャパシタンス(=T3)とTEWL(=V3)を計測した。角層水分量測定は各領域あたり5回ずつ行い、5回の平均値を算出した。結果を表1に示す。
表1中、「〇」、「△」及び「×」は、評価結果のランクを示し、最も優れた評価結果は「〇」である。表1中、評価結果の欄に示す斜線は、該当する評価を行わなかったことを示す。
【0098】
3.角層厚の測定
摘出ヒト皮膚から単離した角層シート(STR002,Biopredic International社)に、実施例1、比較例8、ワセリン(Sonneborn社製SUPER WHITE PROTOPET(登録商標))を塗布し、3時間静置した後、OCTコンパウンドに包埋して、薄層切片を作製した。作製した薄層切片を光学顕微鏡(オールインワン蛍光顕微鏡 BZ-X710,キーエンス社)で観察し、
図1の画像を撮影した。さらに、前記画像より、塗布後の角層厚を算出した結果を
図2に示す。
【0099】
4.ワセリンの皮膚浸透性
ワセリンの角層浸透性を、以下の方法で評価した。
温度37℃の環境で3次元培養皮膚モデル(EPI-200,MatTek社)の角層側に、実施例1と比較例8を適用した(100μL)。3時間後、皮膚モデルの一部を切り出し、THF溶媒(テトラヒドロフラン,富士フイルム和光純薬社)を用いて抽出し、溶出したワセリンをGC-MSで測定した。結果を、
図3に示す。
【0100】
表1では、「グリセリンの含有量と乳化物からの持込みのグリセリンの含有量(質量基準)」を「化粧料中のグリセリンの含有量」と表記し、併せて「化粧料中のベタインの含有量」及び「化粧料中のワセリンの含有量」も表記した。
表1中、各成分の欄に記載の「-」は、その欄に該当する成分を含んでいないことを意味する。また、表1中、含有量の割合の欄に記載の「-」は、その欄に該当する値がないことを意味する。
【0101】
調製液1、2、表1に記載の各成分の詳細は、以下のとおりである。
【0102】
<ワセリン>(調製液1、2に記載)
・ワセリン〔商品名:SUPER WHITE PROTOPET(登録商標)、DSC発熱ピーク温度:31℃、Sonneborn社製〕
【0103】
<レシチン>(調製液1、2に記載)
・レシチン〔商品名:SLP-ホワイト、辻製油(株)製〕
【0104】
<グリセリン>(調製液1、2、表1に記載)
・グリセリン〔商品名:化粧品用濃グリセリン、花王(株)製〕
【0105】
<ショ糖脂肪酸エステル>(調製液1、2に記載)
・ステアリン酸スクロース〔商品名:DKエステル(登録商標) SS、HLB値(カタログ値):19、モノエステル体(カタログ値):97質量%、第一工業製薬(株)製〕
【0106】
<水>(調製液1、2、表1に記載)
・水〔精製水〕
【0107】
<ベタイン>(表1に記載)
・ベタイン〔商品名:アミノコート、旭化成ファインケム(株)製〕
【0108】
<グリチルリチン酸2K>(表1に記載)
・グリチルリチン酸2K〔商品名:外原規グリチルリチン酸ジカリウム、丸善製薬(株)製〕
【0109】
<リン酸アスコルビルMg>(表1に記載)
・リン酸アスコルビルMg〔商品名:NIKKOL VC-PMG、日光ケミカルズ(株)製〕
【0110】
<PEG-32>(表1に記載)
・PEG-32〔商品名:PEG#1540、日油(株)製〕
【0111】
<クエン酸Na>(表1に記載)
・クエン酸Na〔商品名:クエン酸(無水)、富士フイルム和光純薬(株)製〕
【0112】
<フェノキシエタノール>(表1に記載)
・フェノキシエタノール〔商品名:フェノキシエタノール、富士フイルム和光純薬(株)製〕
【0113】
<メチルパラベン>(表1に記載)
・メチルパラベン〔商品名:メッキンス-M、上野製薬(株)製〕
【0114】
表1に示す結果から、実施例の化粧料組成物は、高い角層水分量を示し、経皮水分蒸散量の抑制効果も優れることが明らかとなった。また、
図1~3に示す結果から、実施例の化粧料組成物は、角層の厚みを増大させ、ワセリンの角層への浸透性が高いことが明らかとなった。
【0115】
一方、比較例1~4に示すように、ワセリンを含む乳化粒子を配合しない場合には、十分な角層水分量を達成できない。また、比較例5、6に示すように、グリセリン又はベタインを含まない場合、比較例7に示すように、グリセリンやベタインの量が10%に満たない場合も、十分な角層水分量を達成できないことが分かる。
これは、本開示の化粧料組成物の構成が、特に顕著な角層水分量増加効果を発揮することを示している。
また、比較例8に示すように、グリセリン、ベタイン、ワセリンの含有量が実施例1と同じであっても、粒子サイズが大きい場合は、十分な角層水分量を達成できないし、経皮水分蒸散量の抑制効果も不十分である。さらに、角層の厚みを増大する効果、角層への浸透性も大きく異なる。
これは、本開示の化粧料組成物が、単にワセリンを配合することにより角層水分量を高めるものではないこと、そして、本開示の化粧料組成物が特定の粒子サイズのワセリンを含む乳化粒子を含む場合に、特に顕著に効果が発揮されることを示している。