(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094106
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】エポキシ樹脂組成物およびその硬化物
(51)【国際特許分類】
C08G 59/30 20060101AFI20240702BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
C08G59/30
C08L63/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022210873
(22)【出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 宏記
【テーマコード(参考)】
4J002
4J036
【Fターム(参考)】
4J002CD05X
4J002CD13W
4J002EJ006
4J002EJ036
4J002EJ046
4J002ET006
4J002ET016
4J002EU116
4J002EV016
4J002EV286
4J002EW016
4J002EW176
4J002FD146
4J002GF00
4J002GH01
4J002GJ01
4J002GQ00
4J036AD01
4J036AD03
4J036AD08
4J036AJ17
4J036AJ19
4J036DB05
4J036DB15
4J036DC21
4J036DC25
4J036DC31
4J036DC40
4J036DD05
4J036DD07
4J036HA12
4J036JA01
4J036JA06
4J036JA11
(57)【要約】 (修正有)
【課題】機械物性に優れ、且つ透明性にも優れた硬化物を得ることができるエポキシ樹脂組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】下記成分(A)、(B)及び(C)を含むエポキシ樹脂組成物。
成分(A):下記式(1)で表されるエポキシ樹脂
成分(B):ビスフェノール型エポキシ樹脂
成分(C):硬化剤
(R
1~R
5は独立してH又はC数1~4のアルキル基を、nは0~5の整数を表す。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分(A)、(B)及び(C)を含むエポキシ樹脂組成物。
成分(A):下記式(1)で表されるエポキシ樹脂
成分(B):ビスフェノール型エポキシ樹脂
成分(C):硬化剤
【化1】
(上記式(1)中、R
1~R
5はそれぞれ独立して水素又は炭素数1~4のアルキル基を表し、nは0~5の整数を表す。)
【請求項2】
前記成分(A)の25℃でのE型粘度が50Pa・s以下である、請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
前記成分(A)のエポキシ当量が135~300g/eqである、請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
前記エポキシ樹脂組成物に含まれるエポキシ樹脂の合計を100重量部とした時、前記成分(A)の含有量が1~99重量部である、請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物の硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂組成物、及びその硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ化合物は、機械物性、耐熱性、耐湿性、及び電気特性等に優れた硬化物を与えるために、電気・電子部品の封止材料、成形材料、注型材料、積層材料、複合材料、接着剤及び塗料等の幅広い分野に利用されている。
【0003】
炭素繊維強化樹脂(CFRP)などの複合材料には、容易に炭素繊維に含侵させる為に、低粘度で、且つ硬化物の曲げ強度や弾性率などの機械物性に優れたエポキシ化合物が求められている。また近年では、CFRPの意匠性を求める用途において、また、一般複合容器の作製時に巻き込まれる標章の視認性を確保するなどの理由により、より透明性の高い硬化物を得ることができるエポキシ化合物が求められている。また、取り扱いの簡便さから低粘度であり、且つ電気・電子部品の薄型化に伴い高強度な硬化物を得ることができる、特に光学用途にはより透明性の高い硬化物を得ることができるエポキシ化合物が求められている。従来、液状エポキシ樹脂としては、ビスフェノールAのジグリシジルエーテルが最も一般的に使用されているが、硬化物の機械物性において十分であるとは言えない。
【0004】
一方、繊維強化複合材料の硬化物の機械物性を上げる為に、配合するエポキシ化合物として例えばアミン型グリシジル化合物を使用する方法が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし本発明者の詳細な検討により、先述の様なアミン型グリシジル化合物を用いて作製した硬化物は、機械物性は向上するものの、褐色に着色するため、視認性や意匠性を求める用途では使いづらいという欠点があることが判明した。
【0007】
本発明は上記従来技術の問題点を解決し、機械物性に優れ、且つ透明性にも優れた硬化物を得ることができるエポキシ樹脂組成物を提供することを目的とする。また、本発明はこのエポキシ樹脂組成物を硬化してなる硬化物を提供することも目的とする。
【0008】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定構造のエポキシ樹脂と、ビスフェノール型エポキシ樹脂及び硬化剤が任意の割合で存在するエポキシ樹脂組成物は、機械物性及び透明性が優れることを見出し、本発明を完成したものである。即ち、本発明の要旨は以下の[1]~[5]の通りである。
【0009】
[1] 下記成分(A)、(B)及び(C)を含むエポキシ樹脂組成物。
成分(A):下記式(1)で表されるエポキシ樹脂
成分(B):ビスフェノール型エポキシ樹脂
成分(C):硬化剤
【化1】
(上記式(1)中、R
1~R
5はそれぞれ独立して水素又は炭素数1~4のアルキル基を表し、nは0~5の整数を表す。)
[2] 前記成分(A)の25℃でのE型粘度が50Pa・s以下である、[1]に記載のエポキシ樹脂組成物。
[3] 前記成分(A)のエポキシ当量が135~300g/eqである、[1]又は[2]に記載のエポキシ樹脂組成物。
[4] 前記エポキシ樹脂組成物に含まれるエポキシ樹脂の合計を100重量部とした時、前記成分(A)の含有量が1~99重量部である、[1]~[3]のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
[5] [1]~[4]のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物の硬化物。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、機械物性に優れ、且つ透明性にも優れた硬化物を得ることができるエポキシ樹脂組成物が提供される。また、これらの優れた効果を奏するため、塗料、電気・電子材料、接着剤、又は繊維強化樹脂(FRP)等の分野において好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下の説明は本発明の実施の形態の一例であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の記載内容に限定されるものではない。なお、本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後の数値又は物性値を含む表現として用いるものとする。
【0012】
[エポキシ樹脂組成物]
本発明の一実施形態に係るエポキシ樹脂組成物(以下、単に「エポキシ樹脂組成物」と称することがある。)は、以下で説明する成分(A)、(B)及び(C)を含むエポキシ樹脂組成物である。
【0013】
〔成分(A)〕
エポキシ樹脂組成物に含まれる成分(A)は、下記式(1)で表されるエポキシ樹脂(以下、「エポキシ樹脂A」と称することがある。)である。該エポキシ樹脂Aとともに、後述する成分(B)および硬化剤が含まれることにより、機械物性に優れ、且つ透明性にも優れた硬化物を得ることができるエポキシ樹脂組成物を得ることができる。
【0014】
【0015】
上記式(1)中、R1~R5はそれぞれ独立して水素又は炭素数1~4のアルキル基を表し、nは0~5の整数を表す。
【0016】
エポキシ樹脂組成物100重量%中に含まれるエポキシ樹脂Aの含有量は、1~99重量%であることが好ましい。該含有量は、より好ましくは5~95重量%であり、更に好ましくは10~90重量%であり、特に好ましくは10~70重量%であり、殊更特に好ましくは10~50重量%である。
エポキシ樹脂Aの含有量の含有量が上記範囲の上限以下であることにより、靭性とのバランスに優れた硬化物を得る事が出来る。また、エポキシ樹脂Aの含有量の含有量が上記範囲の下限以上であることにより、弾性率とのバランスに優れた硬化物を得る事が出来る。
【0017】
エポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂Aとして、上記式(1)で表される化合物を1種で含んでいてもよいが、上記式(1)で表される化合物を2種以上で含んでいてもよい。エポキシ樹脂Aの製造において1種のみを製造することは難しいため、通常、エポキシ樹脂組成物には上記式(1)で表される化合物が2種以上で含まれる。例えば、n=0の化合物を製造しようとした場合、通常、主成分としてn=0の化合物が得られるものの、n=1以上の化合物も得られる。
エポキシ樹脂組成物が上記式(1)で表される化合物を2種以上含む場合、上記のエポキシ樹脂Aの含有量は、上記式(1)で表される化合物の合計含有量を表すものとする。
【0018】
[化学構造]
前記式(1)中、R1~R5はそれぞれ独立して水素、または炭素数1~4のアルキル基である。R1~R5は取扱い性の観点から、それぞれ独立して水素、メチル基、またはエチル基が特に好ましい。
式(1)中のR1~R5のうち、炭素数1~4のアルキル基である基の数は特段制限されないが、通常0~4であり、0~2であることが好ましく、0~1であることがより好ましく、0であることがさらに好ましい。
炭素数1~4のアルキル基である基の数が上記範囲の上限以下であることにより、ハンドリング性に優れる粘度の樹脂を得る事が出来る。また、炭素数1~4のアルキル基である基の数が上記範囲の下限以上であることにより、耐熱性に優れた樹脂を得る事が出来る。
【0019】
また取扱い性の観点から、nは0~3の整数が好ましく、0~2の整数が特に好ましい。
【0020】
[エポキシ当量]
エポキシ樹脂Aは、通常、エポキシ当量が135g/eq以上である。一方、粘度が良好な範囲で取り扱い性を良好なものとする観点から、300g/eq以下であることが好ましく、250g/eq以下であることがより好ましい。なお、本明細書において「エポキシ当量」とは、「1当量のエポキシ基を含むエポキシ化合物の質量」と定義され、JIS K7236に準じて測定することができる。
【0021】
[E型粘度]
エポキシ樹脂Aは、取扱い性の観点から、25℃でのE型粘度が50Pa・s以下であることが好ましく、30Pa・s以下であることがより好ましい。一方、25℃でのE型粘度の下限値については特に制限はないが、通常、0.10Pa・s以上である。
【0022】
[エポキシ樹脂Aの製造方法]
エポキシ樹脂Aの製造方法は特に制限されないが、通常、下記式(2)で表されるベンゼンスルホンアミド化合物とエピハロヒドリンとを反応させて得ることができる。また、本発明の他の態様にかかるエポキシ樹脂組成物は、下記式(2)で表されるベンゼンスルホンアミド化合物とエピハロヒドロリンとを反応させて得られ、エポキシ当量が135~300g/eqであるものである。
【0023】
【0024】
前記式(2)中、R1~R5はそれぞれ独立して水素、または炭素数1~4のアルキル基である。R1~R5は取扱い性の観点から、水素、メチル基、またはエチル基が好ましく、水素、またはメチル基が特に好ましい。
【0025】
原料として用いる上記式(2)で表されるスルホンアミド化合物はそのスルホンアミド基の活性水素1当量当たり、通常、0.8~30当量、好ましくは0.9~20当量、より好ましくは1~10当量に相当する量のエピハロヒドリンに溶解させて溶液とする。エピハロヒドリンの量が上記下限以上であると反応を制御しやすく、適切な粘度とすることができるために好ましい。一方、エピハロヒドリンの量が上記上限以下であると生産効率が向上する傾向にあるために好ましい。なお、この反応におけるエピハロヒドリンとしては、通常、エピクロルヒドリン又はエピブロモヒドリン等が用いられる。
【0026】
次いで、この溶液に撹拌しながら、これに原料のスルホンアミド基の活性水素1当量当たり通常、0.5~3.0当量、より好ましくは0.7~2.0当量、更に好ましくは0.9~1.5当量に相当する量のアルカリ金属水酸化物を固体又は水溶液の状態で加えて反応させる。アルカリ金属水酸化物の量が上記下限以上であると、未反応の水酸基と生成したエポキシ化合物が反応しにくく、反応を制御しやすいために好ましい。また、アルカリ金属水酸化物の量が上記上限以下であると、副反応による不純物が生成しにくいために好ましい。ここで用いられるアルカリ金属水酸化物としては通常、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムが挙げられる。
【0027】
この反応は、常圧下又は減圧下で行うことができ、反応温度は、好ましくは20~150℃であり、より好ましくは20~100℃であり、更に好ましくは30~90℃である
。反応温度が上記下限以上であると反応を進行させやすく、かつ反応を制御しやすいために好ましい。また、反応温度が上記上限以下であると副反応が進行しにくく、特に塩素不純物を低減しやすいために好ましい。
【0028】
この反応において、必要に応じて所定の温度を保持しながら反応液を共沸させ、揮発する蒸気を冷却して得られた凝縮液を油相と水相に分離し、水分を除いて油分を反応系へ戻す方法により脱水する。アルカリ金属水酸化物の添加は、急激な反応を抑えるために、好ましくは0.1~8時間、より好ましくは0.1~7時間、更に好ましくは0.5~6時間かけて少量ずつを断続的又は連続的に添加する。添加時間が上記下限以上であると急激に反応が進行するのを防ぐことができ、反応温度の制御がしやすくなるために好ましい。添加時間が上記上限以下であると塩素不純物が生成しにくくなるために好ましく、また、経済性の観点からも好ましい。全反応時間は通常、1~15時間である。反応終了後、不溶性の副生塩を濾別して除くか、水洗により除去した後、未反応のエピハロヒドリンを減圧留去して除くと、目的のエポキシ化合物を得ることができる。
【0029】
また、この反応においては、テトラメチルアンモニウムクロリド、もしくはテトラエチルアンモニウムブロミド等の第四級アンモニウム塩;ベンジルジメチルアミン、もしくは2,4 ,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール等の第三級アミン;2-エチ
ル-4-メチルイミダゾール、もしくは2-フェニルイミダゾール等のイミダゾール類;エチルトリフェニルホスホニウムアイオダイド等のホスホニウム塩;またはトリフェニルホスフィン等のホスフィン類等の触媒を用いてもよい。
【0030】
更に、この反応においては、エタノール、もしくはイソプロパノール等のアルコール類;アセトン、もしくはメチルエチルケトン等のケトン類;ジオキサン、もしくはエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類;メトキシプロパノール等のグリコールエーテル類;ジメチルスルホキシド、もしくはジメチルホルムアミド等の非プロトン性極性溶媒等の不活性な有機溶媒、または水を使用してもよい。
【0031】
なお、上記のようにして得られたエポキシ化合物の全塩素含有量を低減する必要がある場合には、再処理して十分に全塩素含有量が低下した精製エポキシ化合物を得ることができる。つまり、その粗製エポキシ化合物を、イソプロピルアルコール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、キシレン、ジオキサン、メトキシプロパノール、又はジメチルスルホキシド等の不活性な有機溶媒に再溶解し、アルカリ金属水酸化物の固体又は水溶液を加え、好ましくは20~120℃、より好ましくは30~110℃、更に好ましくは30~100℃の温度で、好ましくは0.1~15時間、より好ましくは0.3~12時間、更に好ましくは0.5~10時間再閉環反応を行った後、水洗等の方法で過剰のアルカリ金属水酸化物や副性塩を除去し、更に有機溶媒を減圧留去及び/又は水蒸気蒸留を行うと、加水分解性ハロゲン量が低減されたエポキシ化合物を得ることができる。また、粗製エポキシ化合物を溶解する有機溶媒は単一溶媒でもよいし、2種以上の混合溶媒であってもよい。反応温度が上記下限以上であり、また、反応時間が上記下限以上であると再閉環反応が進行しやすいために好ましい。また、反応温度が上記上限以下であり、また、反応時間が上記上限以下であると反応を制御しやすいために好ましい。
【0032】
〔成分(B)〕
エポキシ樹脂組成物に含まれる成分(B)は、ビスフェノール型エポキシ樹脂(以下、「エポキシ樹脂B」と称することがある。)である。
【0033】
エポキシ樹脂Bを含むことにより、エポキシ樹脂組成物は、その粘度を適切な範囲に容易に制御することができる。従って、当該エポキシ樹脂組成物を含むプリプレグ等のタック性を容易に調整することができ、また、繊維強化プラスチック等の製造時にボイドの少
ない成形品を得ることができる。またエポキシ樹脂Bを含むことで、靭性に優れた硬化物を得る事が出来る。
【0034】
エポキシ樹脂Bとしては、ビスフェノール型エポキシ樹脂であれば特に限定されないが、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、又は水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂等が挙げられる。
前記ビスフェノールA型エポキシ樹脂としては、例えば市販品であれば、jER825、jER827、又はjER828(商品名、以上、三菱ケミカル(株)製)等が挙げられる。
前記ビスフェノールF型エポキシ樹脂としては、例えば市販品であれば、エピクロン830(商品名、又はDIC(株)製)、jER806、jER807(商品名、以上、三菱ケミカル(株)製)等が挙げられる。
前記水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂としては、例えば市販品であれば、YX8000(商品名、以上、三菱ケミカル(株)製)等が挙げられる。
【0035】
前記エポキシ樹脂Bは、単官能のエポキシ樹脂であってもよく、2官能以上(多官能)のエポキシ樹脂であってもよい。
【0036】
また、前記エポキシ樹脂Bは、1種類(1製品)のみを用いてもよく、2種類以上を併用することもできる。
中でも、エポキシ樹脂Bとして、ビスフェノールA型の2官能のエポキシ樹脂を用いることにより、エポキシ樹脂組成物の硬化物が耐熱性に優れ、かつ、硬化温度に達してもエポキシ樹脂組成物の急激な粘度上昇が生じず、硬化物の成形時に生じるボイドを抑制する効果に優れるため好ましい。また、エポキシ樹脂Bの全部または一部がビスフェノールF型エポキシ樹脂の場合には、エポキシ樹脂組成物の硬化物が樹脂曲げ弾性率に優れるため特に好ましい。また、エポキシ樹脂Bの全部または一部が水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂の場合には、芳香環骨格を持つエポキシを使用したものに比べて、エポキシ樹脂組成物の硬化物の着色が起きにくいため特に好ましい。
【0037】
また、エポキシ樹脂Bのエポキシ当量は、特に限定されないが、粘度が良好な範囲で取り扱い性を良好なものとする観点から、150~300g/eqの範囲であることが好ましく、160~200g/eqの範囲であることがより好ましい。
【0038】
エポキシ樹脂組成物に含まれる全エポキシ化合物成分の合計量100重量部に占める、前記エポキシ樹脂Bの含有量は、エポキシ樹脂組成物に求める粘度に応じて適宜設定すればよいが、例えば、1重量部~99重量部であることが好ましく、5重量部~95重量部であることがより好ましく、10重量部~90重量部であることがさらに好ましい。10~80重量部であることが特に好ましく、10~70重量部であることが殊更特に好ましい。
エポキシ樹脂Bの含有量の含有量が上記範囲の上限以下であることにより、弾性率とのバランスに優れた硬化物を得る事が出来る。また、エポキシ樹脂Bの含有量の含有量が上記範囲の下限以上であることにより、靭性とのバランスに優れた硬化物を得る事が出来る。
【0039】
〔成分(C)〕
エポキシ樹脂組成物に含まれる成分(C)はエポキシ樹脂硬化剤である。硬化剤はエポキシ化合物のエポキシ基間の架橋反応及び/又は鎖長延長反応に寄与する物質である。なお、本明細書においては通常、「硬化促進剤」と呼ばれるものであってもエポキシ化合物のエポキシ基間の架橋反応及び/又は鎖長延長反応に寄与する物質であれば、硬化剤とみなすこととする。
【0040】
エポキシ樹脂組成物における成分(C)の含有量は、固形分としてのエポキシ樹脂の合計100重量部に対して好ましくは0.1~300重量部である。また、該含有量は、より好ましくは1重量部以上であり、更に好ましくは1.5重量部以上であり、特に好ましくは3重量部以上であり、また、より好ましくは250重量部以下であり、更に好ましくは200重量部以下であり、特に好ましくは150重量部以下である。これらの含有量は、成分(A)および成分(B)の合計を100重量部とした場合に満たされることが好ましい。
成分(C)の含有量の含有量が上記範囲の上限以下であることにより、硬化反応時に成分(C)の残存による硬化不良を抑える事が出来る。また、成分(C)の含有量が上記範囲の下限以上であることにより、硬化反応時に十分な架橋構造を取ることが出来る為、機械物性及び熱物性に優れた硬化物を得る事が出来る。
【0041】
なお、本明細書において、「固形分」とは溶媒を除いた成分を意味し、固体のエポキシ化合物のみならず、半固形や粘稠な液状物をも含むものとする。また、「全エポキシ化合物成分」とは、エポキシ樹脂A、エポキシ樹脂B、及び後述する他のエポキシ化合物との合計を意味する。
【0042】
成分(C)における硬化剤としては、得られる硬化物が持つ物性の観点から、多官能フェノール類、アミン系化合物、酸無水物系化合物、イミダゾール系化合物、アミド系化合物、カチオン重合開始剤及び有機ホスフィン類からなる群のうちの少なくとも1つを用いることが好ましく、多官能フェノール類、アミン系化合物、酸無水物系化合物、イミダゾール系化合物、及びアミド系化合物からなる群のうちの少なくとも1つがより好ましい。
【0043】
多官能フェノール類の例としては、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ビスフェノールB、ビスフェノールAD、ビスフェノールZ、テトラブロモビスフェノールA等のビスフェノール類;4,4’-ビフェノール、3,3’,もしくは5,5’-テトラメチル-4,4’-ビフェノール等のビフェノール類;カテコール、レゾルシン、ヒドロキノン、もしくはジヒドロキシナフタレン類;又はこれらの化合物の芳香環に結合した水素原子がハロゲン基、アルキル基、アリール基、エーテル基、エステル基、硫黄、リン、もしくは珪素等のヘテロ元素を含む有機置換基等の非妨害性置換基で置換された化合物等が挙げられる。更に、これらのフェノール類又はフェノール、クレゾール、もしくはアルキルフェノール等の単官能フェノール類とアルデヒド類との重縮合物であるノボラック類、もしくはレゾール類等が挙げられる。これらは1種のみで用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
アミン系化合物の例としては、脂肪族の一級、二級、もしくは三級アミン、芳香族の一級、二級、もしくは三級アミン、環状アミン、グアニジン類、又は尿素誘導体等があり、具体的には、トリエチレンテトラミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン(例えば、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン(4,4’-DDS)、又は3,3’-ジアミノジフェニルスルホン(3,3’-DDS)等)、ジアミノジフェニルエーテル、メタキシレンジアミン、ジシアンジアミド、1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)-7-ウンデセン、1,5-ジアザビシクロ(4,3,0)-5-ノネン、ジメチル尿素(例えば、3-(3,4-ジクロロフェニル-1,1-ジメチル尿素(DCMU)等)、又はグアニル尿素等が挙げられ、硬化物の機械強度の観点から、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、ジシアンジアミド、ジメチル尿素、及びジエチルトルエンジアミンからなる群のうちの少なくとも1つが好ましい。これらは1種のみで用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
酸無水物系化合物の例としては、無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、無水トリ
メリット酸、又は無水マレイン酸と不飽和化合物との縮合物等が挙げられる。これらは1種のみで用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
イミダゾール系化合物の例としては、1-イソブチル-2-メチルイミダゾール、2-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、又はベンズイミダゾール等が挙げられる。これらは1種のみで用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、イミダゾール類は後述する硬化促進剤としての機能も果たすが、本明細書においては硬化剤に分類するものとする。
【0047】
アミド系化合物の例としては、ジシアンジアミドもしくはその誘導体、又はポリアミド樹脂等が挙げられる。これらは1種のみで用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
カチオン重合開始剤は、熱又は活性エネルギー線照射によってカチオンを発生するものであり、芳香族オニウム塩等が挙げられる。具体的には、SbF6
-、BF4
-、AsF6
-、PF6
-、CF3SO3
2-、又はB(C6F5)4
-等のアニオン成分と、ヨウ素、硫黄、窒素、又はリン等の原子を含む芳香族カチオン成分とからなる化合物等が挙げられる。特に、ジアリールヨードニウム塩、又はトリアリールスルフォニウム塩が好ましい。これらは1種のみで用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
有機ホスフィン類としては、トリブチルホスフィン、メチルジフェニルホスフイン、トリフェニルホスフィン、ジフェニルホスフィン、又はフェニルホスフィン等が例示され、ホスホニウム塩としては、テトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレート、テトラフェニルホスホニウム・エチルトリフェニルボレート、又はテトラブチルホスホニウム・テトラブチルボレート等が例示され、テトラフェニルボロン塩としては、2-エチル-4-メチルイミダゾール・テトラフェニルボレート、又はN-メチルモルホリン・テトラフェニルボレート等が例示される。これらは1種のみで用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0050】
多官能フェノール類、アミン系化合物、又は酸無水物系化合物を用いる場合は、エポキシ化合物含有組成物中の全エポキシ基に対する硬化剤中の官能基(多官能フェノール類の水酸基、アミン系化合物のアミノ基又は酸無水物系化合物の酸無水物基)の当量比で0.8~1.5の範囲となるように用いることが好ましい。イミダゾール系化合物を用いる場合、固形分としての全エポキシ化合物成分100重量部に対して0.5~10重量部の範囲で用いることが好ましい。アミド系化合物を用いる場合、固形分としての全エポキシ化合物成分とアミド系化合物との合計量に対して0.1~20重量%の範囲で用いることが好ましい。カチオン重合開始剤を用いる場合、固形分としての全エポキシ化合物成分100重量部に対し、0.01~15重量部の範囲で用いることが好ましい。有機ホスフィン類を用いる場合、固形分としての全エポキシ化合物成分と有機ホスフィン類との合計量に対して0.1~20重量%の範囲で用いることが好ましい。
【0051】
成分(C)には以上に挙げた硬化剤の他、例えば、メルカプタン系化合物、有機酸ジヒドラジド、又はハロゲン化ホウ素アミン錯体等も用いることができる。これらの硬化剤は1種のみで用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
エポキシ樹脂組成物中の成分(A)、成分(B)、および成分(C)の合計含有量は特段制限されないが、30重量%以上であることが好ましく、50重量%以上であることがより好ましく、70重量%以上であることがさらに好ましく、90重量%以上であることが特に好ましく、また、100重量%であってよく、100重量%以下であってもよく、
99重量%以下であってもよく、95重量%以下であってもよい。該合計含有量が上記範囲の下限以上であると、機械物性に優れ、且つ透明性にも優れた硬化物が得られやすい。
【0053】
[他のエポキシ化合物]
エポキシ樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、エポキシ樹脂A及びエポキシ樹脂B以外のエポキシ化合物(本明細書において、「他のエポキシ化合物」と称することがある。)を併用することができる。
【0054】
他のエポキシ化合物としては、例えば、ビフェニル型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、テトラブロモビスフェノールA型エポキシ樹脂、もしくはその他の多官能フェノール型エポキシ樹脂等のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、又は上記芳香族エポキシ樹脂の芳香環を水素添加したエポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、線状脂肪族エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、もしくは複素環式エポキシ樹脂等のエポキシ化合物が挙げられる。以上に挙げた他のエポキシ化合物は1種のみで用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0055】
また、その他エポキシ樹脂のエポキシ当量は、特に限定されない。
【0056】
前記その他エポキシ樹脂は、エポキシ樹脂組成物に必要に応じて含まれる。エポキシ樹脂組成物がその他エポキシ樹脂を含む場合において、当該その他エポキシ樹脂の配合量は、エポキシ樹脂組成物に含まれるエポキシ樹脂の合計量100重量部に対して、30重量部以下であることが好ましい。
【0057】
エポキシ樹脂組成物中の全エポキシ化合物成分の合計含有量は特段制限されないが、30重量%以上であることが好ましく、40重量%以上であることがより好ましく、50重量%以上であることがさらに好ましく、60重量%以上であることが特に好ましい。
該合計含有量が上記範囲の上限以下であると、耐熱性に優れた硬化物が得られやすい。また、該合計含有量が上記範囲の下限以上であると、機械物性に優れ、且つ透明性にも優れた硬化物が得られやすい。
【0058】
[溶剤]
エポキシ樹脂組成は取扱い性に優れるため、溶剤を必須に用いる必要はないが、粘度を調整したい場合等には溶剤を用いてもよい。なお、本明細書においては、「溶剤」という語と前述の「溶媒」という語をその使用形態により区別して用いるが、それぞれ独立して同種のものを用いても異なるものを用いてもよい。
【0059】
用いることのできる溶剤としては、例えばアセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン、もしくはシクロヘキサノン等のケトン類;酢酸エチル等のエステル類、ジオキサン、もしくはテトラヒドロフラン等のエーテル類;エチレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル類;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド類、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類、メタノール、もしくはエタノール等のアルコール類;又はヘキサン、シクロヘキサン等のアルカン類、トルエン、もしくはキシレン等の芳香族類等が挙げられる。以上に挙げた溶剤は、1種のみで用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で混合して用いてもよい。
【0060】
[その他の成分]
エポキシ樹脂組成物には以上に挙げた成分以外に、その他の成分を含有することができる。その他の成分としては例えば、硬化促進剤(ただし、前記硬化剤に該当するものを除
く。)、カップリング剤、難燃剤、酸化防止剤、光安定剤、可塑剤、反応性希釈剤、顔料、無機充填材、有機充填材、又は離型剤、等が挙げられる。以上に挙げたその他の成分はエポキシ樹脂組成物及びその硬化物に所望の物性により適宜組み合わせて用いることができる。
【0061】
〔硬化物〕
本発明の別の実施形態は、エポキシ樹脂組成物を硬化させることにより得ることができる硬化物である。ここでいう「硬化」とは熱及び/又は光等によりエポキシ樹脂組成物を意図的に硬化させることを意味するものであり、その硬化の程度は所望の物性、用途により制御すればよい。また、硬化の程度は完全硬化の状態であっても、半硬化の状態であってもよいが、エポキシ基と硬化剤との硬化反応の反応率として通常、5~95%である。反応率の算出方法は特に制限は無いが、例えばFT-IRで反応前後における反応に関与する吸収ピークの面積又は高さを比較する事で算出する事が出来る。
【0062】
エポキシ樹脂組成物の硬化方法は、エポキシ樹脂組成物中の配合成分や配合量によっても異なるが、通常、80~200℃で60~180分の加熱条件が挙げられる。硬化反応を十分に進行させたい場合には、80~160℃で10~60分の一次加熱と、一次加熱温度よりも40~120℃高い120~200℃で60~150分の二次加熱との二段処理で行うことが好ましい。
【0063】
硬化物を半硬化物として製造する際には、加熱等により形状が保てる程度にエポキシ樹脂組成物の硬化反応を進行させればよい。エポキシ樹脂組成物が溶剤を含んでいる場合には、加熱、減圧、又は風乾等の手法で大部分の溶剤を除去するが、半硬化物中に5重量%以下の溶剤を残留させてもよい。
【0064】
〔用途〕
上述したエポキシ樹脂組成物は機械物性及び透明性に優れたものである。上述したエポキシ樹脂組成物およびその硬化物はこれらの優れた効果を奏するため、塗料、電気・電子材料、接着剤、及び炭素繊維強化樹脂(CFRP)に代表される繊維強化樹脂(FRP)、等の分野において好適に用いることができる。具体的には、本実施形態に係るエポキシ樹脂組成物は、塗料;接着剤;プリプレグ;積層板;半導体封止剤;等に好適に使用することができ、該樹脂組成物の硬化物は、塗膜;接合体;繊維強化プラスチック(FRP);半導体封止剤;電気・電子材料;等に含まれることが好ましい。
【実施例0065】
以下、実施例を用いて本発明の内容を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例によって限定されるものではない。以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限又は下限の好ましい値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は前記した上限又は下限の値と、下記実施例の値又は実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
【0066】
〔エポキシ樹脂(A―1)の合成〕
撹拌装置、還流冷却管及び温度計を備えた容量5Lの4つ口フラスコにベンゼンスルホンアミド(東京化成株式会社製)250gと、エピクロルヒドリン1177g(ベンゼンスルホンアミドのスルホンアミド基の活性水素1当量当たり4.0当量に相当する量)と、水2.5Lとを仕込み、系内を減圧窒素置換した。この混合物を攪拌しながら40℃まで昇温し、次いで48.5重量%水酸化ナトリウム水溶液265g(水酸化ナトリウムの量:ベンゼンスルホンアミドのスルホンアミド基の活性水素1当量当たり1.0当量に相当する量)を、系内が45℃を越えない様に4時間掛けてゆっくり滴下した。滴下後、40℃で1時間保持して反応を完了した。生成物から過剰のエピクロルヒドリンを30℃減
圧下で水共沸物として留去した。留去分にエピクロルヒドリンが無い事を確認した後、この混合物にメチルイソブチルケトン(MIBK)を加え、分液して水層を除去し、粗エポキシ化合物の混合物を得た。
【0067】
この粗エポキシ化合物の混合物に、48.5重量%の水酸化ナトリウム水溶液35gを加え、40℃で1時間反応させた。反応液にリン酸水素ナトリウムを加えて過剰の水酸化ナトリウムを中和し、水洗して副生塩を除去した。次いで、加温減圧下でMIBKを完全に除去することにより目的のエポキシ樹脂A-1を400g得た。エポキシ当量は182
g/eq、25℃におけるE型粘度は5.6Pa・sであった。
得られたエポキシ樹脂A-1は、上述した式(1)において、R1~R5が水素であった。また、後述するLC分析から、得られたエポキシ樹脂A-1は、該式(1)のnが0の化合物を主成分(78重量%以上)として含む混合物であり、n=0~5で表される化合物の合計含有量は85質量%以上であった。
【0068】
〔エポキシ樹脂(A―2〕の合成〕
撹拌装置、還流冷却管及び温度計を備えた容量5Lの4つ口フラスコにp-トルエンスルホンアミド(東京化成株式会社製)300gと、エピクロルヒドリン1297g(ベンゼンスルホンアミドのスルホンアミド基の活性水素1当量当たり4.0当量に相当する量)と、水3.0Lとを仕込み、系内を減圧窒素置換した。この混合物を攪拌しながら40℃まで昇温し、次いで48.5重量%水酸化ナトリウム水溶液409g(水酸化ナトリウムの量:ベンゼンスルホンアミドのスルホンアミド基の活性水素1当量当たり1.0当量に相当する量)を、系内が45℃を越えない様に4時間掛けてゆっくり滴下した。滴下後、40℃で1時間保持して反応を完了した。生成物から過剰のエピクロルヒドリンを30℃減圧下で水共沸物として留去した。留去分にエピクロルヒドリンが無い事を確認した後、この混合物にメチルイソブチルケトン(MIBK)を加え、分液して水層を除去し、粗エポキシ化合物の混合物を得た。
【0069】
この粗エポキシ化合物の混合物に、48.5重量%の水酸化ナトリウム水溶液11gを加え、40℃で1時間反応させた。反応液にリン酸水素ナトリウムを加えて過剰の水酸化ナトリウムを中和し、水洗して副生塩を除去した。次いで、加温減圧下でMIBKを完全に除去することにより目的のエポキシ樹脂A-2を455g得た。エポキシ当量は202g/eq、25℃におけるE型粘度は11.8Pa・sであった。
得られたエポキシ樹脂A-2は、上述した式(1)において、R3がメチル基であり、R1~R2およびR4~R5が水素であった。また、後述するLC分析から得られたエポキシ樹脂A-1は、該式(1)のnが0の化合物を主成分(75重量%以上)として含む混合物であり、n=0~5で表される化合物の合計含有量は82重量%以上であった。
【0070】
[エポキシ当量]
エポキシ当量は「1当量のエポキシ基を含むエポキシ樹脂の質量」と定義され、JIS
K7236に準じて測定した。
【0071】
[取扱い性:E型粘度]
東機産業株式会社製の粘度計(商品名RE-85U)を用い、JIS-Z8803に従ってエポキシ化合物の25℃でのE型粘度(単位:mPa・s)を測定した。
【0072】
[エポキシ樹脂の組成:LC分析]
成分(A)中に含まれるエポキシ樹脂Aの割合については、JIS K0124に基づき、以下の装置及び条件によるLC分析を行い、LCチャートのAreaの面積%を、エポキシ樹脂Aの割合(質量%)とした。
装置:Waters社製 ACQUITY UPLC H-Class
カラム:Waters社製 Waters Acquity UPLC HSS T3(カラム寸法2.1mm×150mm)
溶離液:アセトニトリル/0.1%ギ酸水=20/80を8分で100/0にするグラジエント分析
流速:0.5ml/min
検出器:UV(254nm)
温度:40℃
試料濃度:1.0%
インジェクション量:1μl
ピーク面積の解析ソフト:Waters社製 MassLynx
【0073】
[実施例1]
成分(A)にエポキシ樹脂(A-1)、成分(B)にビスフェノールA型液状エポキシ樹脂(三菱ケミカル株式会社製 jER(登録商標)828)、成分(C)に4,4’-ジアミノジフェニルスルホン(東京化成株式会社製 4,4’-DDS)を表1に示す割合で混練し、エポキシ樹脂組成物を調製した。以下方法に従って樹脂板を作製し、曲げ強度、曲げ伸び、曲げ破断伸度、曲げ弾性率、及びYI値を測定した。これらの測定結果を表1に示す。
エポキシ樹脂組成物中の各成分の含有割合は、表1に示す含有割合と同様であった。以下、他の実施例および比較例においても、エポキシ樹脂組成物中の各成分の含有割合は、表1又は2に示す含有割合と同様であった。
【0074】
[樹脂板(硬化物)の作製]
ガラス板の片面に離型PETフィルムを貼り付けたものを2枚用意し、その内の1枚を、フィルムを貼り付けた側が上にくるように置いた。この上にシリコン製チューブをU字型にセットし、またガラス板の四隅に金属製スペーサーを置いた上で、もう1枚のフィルム付ガラス板をフィルム側が向かい合うようにして重ね合わせ、小型万力で2枚のガラス板を固定して硬化物作製用の型を準備した。なお樹脂板の厚みは曲げ試験用の4mm、黄色度試験用の2mmになる様に、金属スペーサーの厚みとシリコンチューブの径を変える事で硬化物作製用の型を作り分けした。次にエポキシ樹脂組成物を減圧下で脱泡した後、準備した型の中に流し入れ、セーフベンドライヤー中、180℃で120分間加熱して硬化させる事で樹脂板を得た。
【0075】
[機械物性評価:曲げ試験]
厚さ4mmの樹脂板を長さ100mm、幅10mmに切り出し、切り出した面をサンドペー パー#1200で処理して試験片を作製した。インストロン社製 精密万能試験機
「INSTRON 5582型」を使用し、JIS K7161に準じて、温度23℃、湿度50%RHの環境下、3点曲げ治具で曲げ試験を行い、曲げ強度、曲げ破断伸度及び曲げ弾性率を測定した。
【0076】
[黄色度:YI値測定]
厚さ2mmの樹脂板を100mm×100mmに切り出して試験片を作製した。測色色差計(日本電色工業社製 ZE6000)を用いてYI値(規格:ASTM E313)を測定した。本明細書の実施例では、YI値が低いほど透明であることを意味する。
【0077】
[実施例2]
成分(B)にビスフェノールF型液状エポキシ樹脂(三菱ケミカル株式会社製 jER(登録商標)807)、成分(C)に3,3’-ジアミノジフェニルスルホン(東京化成株式会社製 3,3’-DDS)を用いたこと以外は実施例1と同様にしてエポキシ樹脂組成物を調製し、樹脂板を作製して曲げ強度、曲げ伸び、曲げ破断伸度、曲げ弾性率、及
びYI値を測定した。これらの結果を表1に示す。
【0078】
[実施例3]
成分(A)にエポキシ樹脂(A-2)を用いたこと以外は実施例1と同様にしてエポキシ樹脂組成物を調製し、樹脂板を作製して曲げ強度、曲げ伸び、曲げ破断伸度、曲げ弾性率、及びYI値を測定した。これらの結果を表1に示す。
【0079】
[実施例4]
成分(A)にエポキシ樹脂(A-1)、成分(B)にjER828、成分(C)にジシアンジアミド(三菱ケミカル株式会社製 DICY7)と3-(3,4-ジクロロフェニル-1,1-ジメチル尿素(東京化成株式会社製 DCMU)を表2に示す割合で混練してエポキシ樹脂組成物を調製した。実施例1と同様に硬化物作製用の型を作製し、エポキシ樹脂組成物を減圧下で脱泡した後、準備した型の中に流し入れ、セーフベンドライヤー中、80℃で1時間加熱後、130℃で1.5時間加熱して樹脂板を作製し、曲げ強度、曲げ伸び、曲げ破断伸度、曲げ弾性率、及びYI値を測定した。これらの結果を表2に示す。
【0080】
[比較例1]
成分(A)には何も使用しないこと以外は実施例1と同様にエポキシ樹脂組成物を調製し、樹脂板を作製して曲げ強度、曲げ伸び、曲げ破断伸度、曲げ弾性率、及びYI値を測定した。これらの結果を表1に示す。
【0081】
[比較例2]
成分(A)の代わりにジグリシジルアニリン(日本化薬株式会社製 GAN)を用いたこと以外は実施例1と同様にエポキシ樹脂組成物を調製し、樹脂板を作製して曲げ強度、曲げ伸び、曲げ破断伸度、曲げ弾性率、及びYI値を測定した。これらの結果を表1に示す。
【0082】
[比較例3]
成分(A)の代わりにGANを用いたこと以外は実施例2と同様にエポキシ樹脂組成物を調製し、樹脂板を作製して曲げ強度、曲げ伸び、曲げ破断伸度、曲げ弾性率、及びYI値を測定した。これらの結果を表1に示す。
【0083】
[比較例4]
成分(A)の代わりにトリグリシジルp-アミノフェノール(三菱ケミカル株式会社製
jER(登録商標)630)を用いたこと以外は実施例1と同様にエポキシ樹脂組成物を調製し、樹脂板を作製して曲げ強度、曲げ伸び、曲げ破断伸度、曲げ弾性率、及びYI値を測定した。これらの結果を表1に示す。
【0084】
[比較例5]
成分(A)に何も使用しないこと以外は実施例4と同様にエポキシ樹脂組成物を調製し、樹脂板を作製して曲げ強度、曲げ伸び、曲げ破断伸度、曲げ弾性率、及びYI値を測定した。これらの結果を表2に示す。
【0085】
[比較例6]
成分(A)の代わりにGANを用いたこと以外は実施例4と同様にエポキシ樹脂組成物を調製し、樹脂板を作製して曲げ強度、曲げ伸び、曲げ破断伸度、曲げ弾性率、及びYI値を測定した。これらの結果を表2に示す。
【0086】
【0087】
【0088】
[評価結果]
表1に示すように、実施例1は比較例1及び比較例4より低いYI値でありながら、高い機械強度を持つことが分かる。さらに実施例1は比較例2と比べて同等の機械強度を持つにも関わらず、YI値が低い、つまり高い透明性を持つことが分かる。また実施例2と比較例3、実施例3と比較例2の比較や、表2に示すように、実施例4と比較例6の比較からも分かるように、その効果は成分(A)、成分(B)及び成分(C)の種類が変わっても同様の傾向を示す。つまり、本実施形態の範囲内の組成物であれば、硬化物の機械物性と透明性のバランスに優れたエポキシ樹脂組成物を提供できる事が分かる。
本実施形態に係るエポキシ樹脂組成物は、機械物性と透明性がバランス良く優れたものである。本実施形態に係るエポキシ樹脂組成物はこれらの優れた効果を奏するため、塗料、電気・電子材料、接着剤、又は繊維強化樹脂(FRP)等の分野において好適に用いることができる。