(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094261
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】ポリプロピレン系樹脂組成物及びその成形体
(51)【国際特許分類】
C08L 23/10 20060101AFI20240702BHJP
C08K 5/521 20060101ALI20240702BHJP
C08K 5/5399 20060101ALI20240702BHJP
C08L 1/02 20060101ALI20240702BHJP
C08L 23/26 20060101ALI20240702BHJP
【FI】
C08L23/10
C08K5/521
C08K5/5399
C08L1/02
C08L23/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023202804
(22)【出願日】2023-11-30
(31)【優先権主張番号】P 2022210544
(32)【優先日】2022-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】張 佳平
(72)【発明者】
【氏名】高橋 俊
(72)【発明者】
【氏名】瀬野 賢一
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AB01X
4J002BB14W
4J002BB15W
4J002BB21Y
4J002DH026
4J002EW046
4J002EW066
4J002FD01X
4J002FD136
4J002GC00
4J002GG01
4J002GG02
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】ポリプロピレン系樹脂組成物の耐熱性を高めるために、有機リン化合物を含有させた場合に生じる着色及び、降伏強度及び引張破断強度の低下を抑制する。
【解決手段】下記成分(A)、成分(B)、成分(C)及び成分(D)を含むポリプロピレン系樹脂組成物であって、
成分(A)、成分(B)、成分(C)及び成分(D)それぞれの質量の合計を100質量%として、
成分(A)ポリプロピレン系樹脂19.89質量%~99.79質量%と、
成分(B)変性ポリプロピレン0.1質量%~10質量%と、
成分(C)植物由来フィラー0.1質量%~80質量%と、
成分(D)有機リン化合物0.01質量%~10質量%を含み、
有機リン化合物(成分(D))の質量割合に対する植物由来フィラー(成分(C))の質量割合の比(C/D)が3以上1000以下である、ポリプロピレン系樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分(A)、成分(B)、成分(C)及び成分(D)を含むポリプロピレン系樹脂組成物であって、
成分(A)、成分(B)、成分(C)及び成分(D)それぞれの質量の合計を100質量%として、
成分(A)ポリプロピレン系樹脂19.89質量%~99.79質量%と、
成分(B)変性ポリプロピレン0.1質量%~10質量%と、
成分(C)植物由来フィラー0.1質量%~80質量%と、
成分(D)有機リン化合物0.01質量%~10質量%を含み、
有機リン化合物(成分(D))の質量割合に対する植物由来フィラー(成分(C))の質量割合の比(C/D)が3以上1000以下である、ポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項2】
成分(A)52.5質量%~94.49質量%と、成分(B)0.2質量%~8質量%と、成分(C)1質量%~75質量%と、成分(D)0.01質量%~4質量%を含み、有機リン化合物(成分(D))の質量割合に対する植物由来フィラー(成分(C))の質量割合の比(C/D)が3以上500以下である、請求項1に記載のポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項3】
成分(A)ポリプロピレン系樹脂が、下記から成る群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載のポリプロピレン系樹脂組成物:
プロピレン単独重合体;
プロピレン-エチレンランダム共重合体;
プロピレン-α-オレフィンランダム共重合体;
プロピレン-エチレン-α-オレフィン共重合体;並びに、
プロピレン単独重合体成分又は主にプロピレンからなる共重合体成分と、エチレン及びα-オレフィンから選択されるモノマーの少なくとも1種とプロピレンとを共重合して得られる共重合体とからなるヘテロファジックプロピレン重合材料。
【請求項4】
成分(B)変性ポリプロピレンが、下記から成る群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載のポリプロピレン系樹脂組成物:
(1)本発明で用いられる成分(A)ポリプロピレン系樹脂とは異なるオレフィンの単独重合体、少なくとも2種のオレフィンの共重合体、または、オレフィンを単独重合した後に少なくとも2種のオレフィンを共重合して得られるブロック共重合体に、不飽和カルボン酸および/またはその誘導体をグラフト重合したもの、並びに、
(2)少なくとも1種のオレフィンと、不飽和カルボン酸および/またはその誘導体を共重合したもの。
【請求項5】
成分(C)植物由来フィラーが、セルロース、木粉、木材繊維、及び、竹粉から成る群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載のポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項6】
成分(D)有機リン化合物が、ハロゲンを含まず、しかも、リン酸エステル化合物、リン酸アミン塩、及び、ポリリン酸アンモニウムから成る群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載のポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項7】
成分(A)及び成分(B)以外のポリマー、エラストマー又はオリゴマーを更に含む、請求項1に記載のポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項8】
下記から成る群から選択される少なくとも1種の成分を更に含む、請求項1に記載のポリプロピレン系樹脂組成物:
軟化剤、滑剤、酸化防止剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、光安定剤、顔料、造核剤、可塑剤、有機リン化合物以外の難燃剤、高輝度化剤、抗菌剤、光拡散剤、吸着剤、湿潤分散剤、VOC・臭気ストリッピング剤、貯水剤、耐擦り傷性向上剤、金属塩化物、架橋剤、及び、架橋助剤。
【請求項9】
成分(B)変性ポリプロピレンが、不飽和カルボン酸および/またはその誘導体に由来する単位を0.01質量%~0.80質量%含有する変性ポリプロピレンである、請求項1に記載のポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項10】
下記成分(A)、成分(B)、成分(C)及び成分(D)を含む請求項1に記載のポリプロピレン系樹脂組成物の製造方法であって、
成分(A)、成分(B)、成分(C)及び成分(D)それぞれの質量の合計を100質量%として、
成分(A)ポリプロピレン系樹脂19.89質量%~99.79質量%と、
成分(B)変性ポリプロピレン0.1質量%~10質量%と、
成分(C)植物由来フィラー0.1質量%~80質量%と、
成分(D)有機リン化合物0.01質量%~10質量%を、
有機リン化合物(成分(D))の質量割合に対する植物由来フィラー(成分(C))の質量割合の比(C/D)が3以上1000以下にして、
混練機に供給して、溶融混練する工程を有する、前記の製造方法。
【請求項11】
請求項1に記載のポリプロピレン系樹脂組成物を含む成形体。
【請求項12】
請求項1に記載のポリプロピレン系樹脂組成物を溶融し、成形して成形体を得る、請求項1に記載のポリプロピレン系樹脂組成物を含む成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリプロピレン系樹脂組成物に関し、特に着色が抑制され、機械的強度、特に降伏強度及び引張破断強度に優れるポリプロピレン系樹脂組成物及びその組成物を含む成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレンは成形が容易で、金属やセラミックスに比べて軽量であるため、袋、各種包装、各種容器、シート類等の生活用品の材料として利用されている。また、自動車部品、電気部品等の工業部品、及び日用品、雑貨用品等の材料としても利用されている。そして、ポリプロピレンの機械的強度等を高める方法として、ポリプロピレンにフィラーを混合することが知られている。フィラーとしては、タルクやシリカ等の無機系粉体、木粉や竹粉等のセルロース系粉体、及び天然繊維、ガラス繊維や炭素繊維等の繊維状フィラーをポリプロピレン中に分散させる方法が知られている。
また、ポリプロピレンの耐熱性を高める方法として、ポリプロピレンに有機リン化合物をポリプロピレン系樹脂組成物の成分として含有させることが知られている。
【0003】
近年、環境負荷低減やカーボンニュートラル等の観点から、植物由来のフィラーを用いる技術が注目されており、例えば、セルロース系フィラー、木粉や竹粉を用いる技術が注目されている。セルロース系フィラーを用いる方法としては、例えば、特許文献1には剛性、耐衝撃性、耐熱性に優れ、軽量であり、さらにサーマルリサイクルに適したポリオレフィン組成物及びその成形品を提供することを目的とするポリオレフィン組成物として、ポリオレフィン樹脂、セルロース繊維及び無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂からなるポリオレフィン組成物が記載されている。
また、特許文献2には、バイオマス材料の利用により環境特性に優れ、剛性、難燃性が高く、成形外観に優れた樹脂組成物として、熱可塑性樹脂、難燃剤及び難燃助剤より選ばれる難燃化成分、及びナノセルロースを含む樹脂組成物が記載されている。
【0004】
しかし、上記セルロース繊維を含むポリオレフィン組成物又はナノセルロースを含む樹脂組成物に、耐熱性を高めるために有機リン化合物を含有させた場合、その組成物からなる成形体に着色することがあり、またその組成物の機械的強度が低下することがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005-187524号公報
【特許文献2】国際公開公報2017/169494号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ポリプロピレン系樹脂組成物の耐熱性を高めるために、有機リン化合物を含有させた場合に生じる着色及び、機体的強度、特に降伏強度及び引張破断強度の低下を解決しようとするものである。すなわち、着色及び、降伏強度及び引張破断強度の低下を抑制しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、有機リン化合物を含有するポリプロピレン系樹脂組成物及びそれを含む成形体の着色及び、降伏強度及び引張破断強度の低下を抑制しようとして、植物由来フィラー及び有機リン化合物に注目し、これらが特定の要件を満たすことで上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
例えば、植物由来フィラーの質量割合に対する有機リン化合物の質量割合の比が特定の範囲にあるポリプロピレン系樹脂組成物が、着色及び、降伏強度及び引張破断強度の低下を抑制できることを見出した。
【0009】
他の記載と重複するが、本発明及び実施形態を以下の[1]~[11]に示す。
[1]
下記成分(A)、成分(B)、成分(C)及び成分(D)を含むポリプロピレン系樹脂組成物であって、
成分(A)、成分(B)、成分(C)及び成分(D)それぞれの質量の合計を100質量%として、
成分(A)ポリプロピレン系樹脂19.89質量%~99.79質量%と、
成分(B)変性ポリプロピレン0.1質量%~10質量%と、
成分(C)植物由来フィラー0.1質量%~80質量%と、
成分(D)有機リン化合物0.01質量%~10質量%を含み、
有機リン化合物(成分(D))の質量割合に対する植物由来フィラー(成分(C))の質量割合の比(C/D)が3以上1000以下である、ポリプロピレン系樹脂組成物。
[2]
成分(A)52.5質量%~94.49質量%と、成分(B)0.2質量%~8質量%と、成分(C)1質量%~75質量%と、成分(D)0.01質量%~4質量%を含み、有機リン化合物(成分(D))の質量割合に対する植物由来フィラー(成分(C))の質量割合の比(C/D)が3以上500以下である、[1]に記載のポリプロピレン系樹脂組成物。
[3]
成分(A)ポリプロピレン系樹脂が、下記から成る群から選択される少なくとも1種である、[1]または[2]に記載のポリプロピレン系樹脂組成物:
プロピレン単独重合体;
プロピレン-エチレンランダム共重合体;
プロピレン-α-オレフィンランダム共重合体;
プロピレン-エチレン-α-オレフィン共重合体;並びに、
プロピレン単独重合体成分又は主にプロピレンからなる共重合体成分と、エチレン及びα-オレフィンから選択されるモノマーの少なくとも1種とプロピレンとを共重合して得られる共重合体とからなるヘテロファジックプロピレン重合材料。
[4]
成分(B)変性ポリプロピレンが、下記から成る群から選択される少なくとも1種である、[1]~[3]のいずれかに記載のポリプロピレン系樹脂組成物:
(1)本発明で用いられる成分(A)ポリプロピレン系樹脂とは異なるオレフィンの単独重合体、少なくとも2種のオレフィンの共重合体、または、オレフィンを単独重合した後に少なくとも2種のオレフィンを共重合して得られるブロック共重合体に、不飽和カルボン酸および/またはその誘導体をグラフト重合したもの、並びに、
(2)少なくとも1種のオレフィンと、不飽和カルボン酸および/またはその誘導体を共重合したもの。
[5]
成分(C)植物由来フィラーが、セルロース、木粉、木材繊維、及び、竹粉から成る群から選択される少なくとも1種である、[1]~[4]のいずれかに記載のポリプロピレン系樹脂組成物。
[6]
成分(D)有機リン化合物が、ハロゲンを含まず、しかも、リン酸エステル化合物、リン酸アミン塩、及び、ポリリン酸アンモニウムから成る群から選択される少なくとも1種である、[1]~[5]のいずれかに記載のポリプロピレン系樹脂組成物。
[7]
成分(A)及び成分(B)以外のポリマー、エラストマー又はオリゴマーを更に含む、[1]~[6]のいずれかに記載のポリプロピレン系樹脂組成物。
[8]
下記から成る群から選択される少なくとも1種の成分を更に含む、[1]~[7]のいずれかに記載のポリプロピレン系樹脂組成物:
軟化剤、滑剤、酸化防止剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、光安定剤、顔料、造核剤、可塑剤、有機リン化合物以外の難燃剤、高輝度化剤、抗菌剤、光拡散剤、吸着剤、湿潤分散剤、VOC・臭気ストリッピング剤、貯水剤、耐擦り傷性向上剤、金属塩化物、架橋剤、及び、架橋助剤。
[9]
成分(B)変性ポリプロピレンが、不飽和カルボン酸および/またはその誘導体に由来する単位を0.01質量%~0.80質量%含有する変性ポリプロピレンである、[1]~[8]のいずれかに記載のポリプロピレン系樹脂組成物。
[10]
下記成分(A)、成分(B)、成分(C)及び成分(D)を含む[1]~[9]のいずれかに記載のポリプロピレン系樹脂組成物の製造方法であって、
成分(A)、成分(B)、成分(C)及び成分(D)それぞれの質量の合計を100質量%として、
成分(A)ポリプロピレン系樹脂19.89質量%~99.79質量%と、
成分(B)変性ポリプロピレン0.1質量%~10質量%と、
成分(C)植物由来フィラー0.1質量%~80質量%と、
成分(D)有機リン化合物0.01質量%~10質量%を、
有機リン化合物(成分(D))の質量割合に対する植物由来フィラー(成分(C))の質量割合の比(C/D)が3以上1000以下にして、
混練機に供給して、溶融混練する工程を有する、前記の製造方法。
[11]
[1]~[9]のいずれかに記載のポリプロピレン系樹脂組成物を含む成形体。
[12]
[1]~[9]のいずれかに記載のポリプロピレン系樹脂組成物を溶融し、成形して成形体を得る、[1]~[9]のいずれかに記載のポリプロピレン系樹脂組成物を含む成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
ポリプロピレン組成物が本発明の特徴を備えることによって、ポリプロピレン系樹脂組成物及びその組成物を含む成形体の着色及び、降伏強度及び引張破断強度の低下の抑制に成功した。
【発明を実施するための形態】
【0011】
定義
本明細書において開示されている全ての数は、「約」又は「概ね」という単語がそれと関連して使用されようとなかろうと、近似値である。それらは、プラスマイナス1%、2%、5%、又は時には10~20%の範囲で変動してもよい。下限RL及び上限RUを伴う数値の範囲が開示されている場合はいつも、範囲に含まれる任意の数も具体的に開示されているものと解すべきである。特に、範囲内の下記の数も具体的に開示されていると解釈される。R=RL+k*(RU-RL)(式中、kは、1%ずつ増加する1%~100%の範囲の変数であり、すなわち、kは、1%、2%、3%、4%、5%、...、50%、51%、52%、...、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%である)。さらに、上記に記載の2つのRの数によって定義される任意の数値の範囲もまた、具体的に開示されている。
数値範囲を表す「下限~上限」の記載は、「下限以上、上限以下」を表し、「上限~下限」の記載は、「上限以下、下限以上」を表す。すなわち、これらの記載は、下限及び上限を含む数値範囲を表す。
【0012】
以下、本発明のいくつかの実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0013】
ポリプロピレン系樹脂組成物
本発明は、
下記成分(A)、成分(B)、成分(C)及び成分(D)を含むポリプロピレン系樹脂組成物であって、
成分(A)、成分(B)、成分(C)及び成分(D)それぞれの質量の合計を100質量%として、
成分(A)ポリプロピレン系樹脂19.89質量%~99.79質量%と、
成分(B)変性ポリプロピレン0.1質量%~10質量%と、
成分(C)植物由来フィラー0.1質量%~80質量%と、
成分(D)有機リン化合物0.01質量%~10質量%を含み、
有機リン化合物(成分(D))の質量割合に対する植物由来フィラー(成分(C))の質量割合の比(C/D)が2以上1000以下である、ポリプロピレン系樹脂組成物である。
【0014】
上記の様に、本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、所定量の成分(A)ポリプロピレン系樹脂(単に(A)と称することもある)、成分(B)変性ポリプロピレン(単に(B)と称することもある)、成分(C)植物由来フィラー(単に(C)と称することもある)、及び成分(D)有機リン化合物(単に(D)と称することもある)を含有するか、又は製造において使用する。以下、これら各成分の詳細について説明する。
【0015】
成分(A)ポリプロピレン系樹脂
成分(A)ポリプロピレン系樹脂は、プロピレン由来の構成単位を実質的に含む重合体であればよく、それ以外の制限は特に存在しない。
成分(A)ポリプロピレン系樹脂の好ましい具体的形態としては、例えば、以下が挙げられる:
プロピレン単独重合体;
プロピレン-エチレンランダム共重合体;
プロピレン-α-オレフィンランダム共重合体;
プロピレン-エチレン-α-オレフィン共重合体;
プロピレン単独重合体成分又は主にプロピレンからなる共重合体成分(以下、重合体成分Iと称することもある)と、エチレン及びα-オレフィンから選択されるモノマーの少なくとも1種とプロピレンとを共重合して得られる共重合体(以下、重合体成分IIと称することもある)とからなるヘテロファジックプロピレン重合材料。
これらの成分(A)ポリプロピレン系樹脂は単独で使用してもよく、少なくとも2種を併用してもよい。
【0016】
プロピレン-α-オレフィンランダム共重合体等のポリプロピレン(A)に用いられるα-オレフィンとしては、好ましくは1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-デセンが挙げられ、より好ましくは1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテンが挙げられる。
【0017】
前記プロピレン-α-オレフィンランダム共重合体としては、例えば、プロピレン-1-ブテンランダム共重合体、プロピレン-1-ヘキセンランダム共重合体、プロピレン-1-オクテンランダム共重合体等が挙げられる。
【0018】
前記プロピレン-エチレン-α-オレフィン共重合体としては、例えば、プロピレン-エチレン-1-ブテン共重合体、プロピレン-エチレン-1-ヘキセン共重合体、プロピレン-エチレン-1-オクテン共重合体等が挙げられる。
【0019】
前記プロピレン-エチレンランダム共重合体、プロピレン-α-オレフィンランダム共重合体、プロピレン-エチレン-α-オレフィン共重合体に含有されるエチレン又はα-オレフィンの含有量は、通常0.01~30質量%であり、好ましくは0.1~20質量%である。ただし、前記共重合体の全量を100質量%とする。
【0020】
前記ヘテロファジックプロピレン重合材料に含有される前記重合体成分Iが主にプロピレンからなる共重合体成分である場合、前記重合体成分Iには、エチレン及び炭素原子数4~12のα-オレフィンから選択される少なくとも1種のオレフィンが含有され、その含有量は、通常0.01~30質量%である。ただし、前記重合体成分Iの全量を100質量%とする。
【0021】
前記重合体成分Iが主にプロピレンからなる共重合体成分である場合、その好ましい例として、プロピレン-エチレン共重合体成分、プロピレン-1-ブテン共重合体成分、プロピレン-1-ヘキセン共重合体成分等が挙げられる。
【0022】
前記ヘテロファジックプロピレン重合材料に含有される重合体成分Iの含有量は、通常30~99質量%であり、好ましくは50~95質量%、さらに好ましくは60~90質量%である。ただし、前記ヘテロファジックプロピレン重合材料の全量を100質量%とする。
【0023】
前記ヘテロファジックプロピレン重合材料の前記重合体成分IIとしては、例えば、プロピレン-エチレン共重合体成分、プロピレン-エチレン-1-ブテン共重合体成分、プロピレン-エチレン-1-ヘキセン共重合体成分、プロピレン-エチレン-1-オクテン共重合体成分、プロピレン-1-ブテン共重合体成分、プロピレン-1-ヘキセン共重合体成分、プロピレン-1-オクテン共重合体成分等が挙げられる。
【0024】
前記重合体成分IIに含有されるエチレン及び炭素原子数4~12のα-オレフィンから選択される少なくとも1種のオレフィンの含有量は、通常1~80質量%であり、好ましくは20~70質量%、さらに好ましくは30~60質量%である。ただし、前記重合体成分IIの全量を100質量%とする。
【0025】
前記ヘテロファジックプロピレン重合材料に含有される重合体成分IIの含有量は、通常1~70質量%であり、好ましくは5~50質量%、さらに好ましくは10~40質量%である。ただし、前記ヘテロファジックプロピレン重合材料の全量を100質量%とする。
【0026】
前記重合体成分Iと前記重合体成分IIからなるヘテロファジックプロピレン重合材料としては、例えば以下が挙げられる:
(プロピレン)-(プロピレン-エチレン)重合材料、
(プロピレン)-(プロピレン-エチレン-1-ブテン)重合材料、
(プロピレン)-(プロピレン-エチレン-1-ヘキセン)重合材料、
(プロピレン)-(プロピレン-1-ブテン)重合材料、
(プロピレン)-(プロピレン-1-ヘキセン)重合材料、
(プロピレン-エチレン)-(プロピレン-エチレン)重合材料、
(プロピレン-エチレン)-(プロピレン-エチレン-1-ブテン)重合材料、
(プロピレン-エチレン)-(プロピレン-エチレン-1-ヘキセン)重合材料、
(プロピレン-エチレン)-(プロピレン-1-ブテン)重合材料、
(プロピレン-エチレン)-(プロピレン-1-ヘキセン)重合材料、
(プロピレン-1-ブテン)-(プロピレン-エチレン)重合材料、
(プロピレン-1-ブテン)-(プロピレン-エチレン-1-ブテン)重合材料、
(プロピレン-1-ブテン)-(プロピレン-エチレン-1-ヘキセン)重合材料、
(プロピレン-1-ブテン)-(プロピレン-1-ブテン)重合材料、及び
(プロピレン-1-ブテン)-(プロピレン-1-ヘキセン)重合材料。
なお、上記において左側括弧内は、重合体成分Iの構成単位が由来するモノマー種を示し、右側括弧内は、重合体成分IIの構成単位が由来するモノマー種を示す。
【0027】
成分(A)ポリプロピレン系樹脂は、メルトフローレート(MFR)が、0.1~400g/10分のものが好適である。MFRは、1~300g/10分、10~200g/10分のものがさらに好適である。MFRが400以下であることで成形品の剛性の低下を抑制し、成形時における流動性が高くなり過ぎず、成形品が得られやすくなる。また、MFRが0.1以上であることで成形時における流動性が低くなり過ぎず、成形品が得られやすくなる。なお、本明細書におけるMFRは、JIS K 7210に準拠して、230℃、21.2N荷重下で測定したものである。
【0028】
好ましくは、成分(A)ポリプロピレン系樹脂の含有量は、(A)、(B)、(C)及び(D)の合計量に対して19.89質量%~99.79質量%の範囲内である。より好ましくは、52.5~94.49質量%である。ポリプロピレンの含有量が19.89質量%以上であることで、加工時の流動性の低下を抑制することができる。ポリプロピレンの含有量が99.79質量%以下であることで、石油由来の樹脂の使用量を減らすことが可能となる。
【0029】
成分(B)変性ポリプロピレン
本発明で用いられる変性ポリプロピレンは、
(1)本発明で用いられる成分(A)ポリプロピレン系樹脂とは異なるオレフィンの単独重合体、少なくとも2種のオレフィンの共重合体、または、オレフィンを単独重合した後に少なくとも2種のオレフィンを共重合して得られるブロック共重合体に、不飽和カルボン酸および/またはその誘導体をグラフト重合したもの、または、
(2)少なくとも1種のオレフィンと、不飽和カルボン酸および/またはその誘導体を共重合したものである。
【0030】
変性ポリプロピレンに用いられる不飽和カルボン酸としては、例えば、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、アクリル酸、メタクリル酸等が挙げられる。また、不飽和カルボン酸の誘導体としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸等の不飽和カルボン酸無水物;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸グリシジル、マレイン酸モノエチルエステル、マレイン酸ジエチルエステル、フマル酸モノメチルエステル、フマル酸ジメチルエステル等の不飽和カルボン酸エステル;アクリルアミド、メタクリルアミド、マレイン酸モノアミド、マレイン酸ジアミド、フマル酸モノアミド等の不飽和カルボン酸アミド;マレイミド、N-ブチルマレイミド等の不飽和カルボン酸イミド;メタクリル酸ナトリウム等の不飽和カルボン酸金属塩が挙げられる。
また、クエン酸やリンゴ酸のように、ポリプロピレンにグラフトする工程で脱水して不飽和カルボン酸を生じるものを用いてもよい。
不飽和カルボン酸および/またはその誘導体として、好ましくは無水マレイン酸、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジルである。
【0031】
本発明で用いられる変性ポリプロピレンとして、好ましくは、
(1)エチレンおよびプロピレンから選択される1以上のオレフィンに由来する単量体単位を70質量%以上、好ましくは80質量%以上含有するポリオレフィン樹脂に、無水マレイン酸をグラフト重合することによって得られる変性ポリプロピレン、
(2)エチレンおよびプロピレンから選択される1以上のオレフィンと、メタクリル酸グリシジルエステルまたは無水マレイン酸とを共重合することによって得られる変性ポリプロピレンである。
【0032】
また、本発明で用いられる変性ポリプロピレンとして、好ましくは、衝撃強度、疲労特性、剛性等の機械的強度の観点から、ポリマーの構成単位として、不飽和カルボン酸および/またはその誘導体に由来する単位を0.01~0.80質量%含有する変性ポリプロピレンであり、好ましくは0.01~0.60質量%含有する変性ポリプロピレンであり、より好ましくは0.10~0.60質量%含有する変性ポリプロピレンである(ただし、変性ポリプロピレンの全量を100質量%とする)。その際、不飽和カルボン酸および/またはその誘導体に由来する単位のポリマー中の位置は、鎖中にグラフトされた形、および/または、末端に結合された形のいずれでもよい。さらに、不飽和カルボン酸および/またはその誘導体を用いて、ランダム共重合あるいはブロック共重合によって得られる変性ポリプロピレンの場合には、不飽和カルボン酸および/またはその誘導体に由来する単位の含有量は0.05~0.50質量%が好ましく、グラフト重合によって得られる変性ポリプロピレンの場合には、不飽和カルボン酸および/またはその誘導体に由来する単位の含有量は0.05~0.50質量%が好ましい。
【0033】
不飽和カルボン酸および/またはその誘導体に由来する単位の含有量は、1H-NMRスペクトルにより算出することができる。不飽和カルボン酸および/またはその誘導体に由来する単位が無水マレイン酸の場合、2.40-3.40ppmの領域の、無水マレイン酸変性することによって生成する無水コハク酸部位のメチンプロトンおよび/若しくはメチレンプロトンのシグナルの積分値を、アルカン領域のプロトンのシグナルの積分値と比較し、無水マレイン酸変性ポリプロピレン中の無水コハク酸残基の含有量を算出できる。
【0034】
本発明で用いられる変性ポリプロピレンのASTM D 1238に準拠して230℃、荷重2.16kgの条件で測定したMFRは、好ましくは3~500g/10分であり、より好ましくは、5~200g/10分であり、さらに好ましくは10~100g/10分である。
【0035】
本発明で用いられる変性ポリプロピレンの製造方法としては、例えば、“実用ポリマーアロイ設計”(井出文雄著、工業調査会(1996))、Prog. Polym. Sci.,24,81-142(1999)、特開2002-308947号公報等に例示されている方法を用いることができ、溶液法、バルク法、溶融混練法のいずれの方法を用いてもよい。また、これらの方法を組み合わせて製造してもよい。
【0036】
好ましくは、成分(B)変性ポリプロピレンの含有量は、(A)、(B)、(C)及び(D)の合計量に対して0.1質量%~10質量%の範囲内である。より好ましくは、0.2~8質量%、さらに好ましくは、0.5~5質量%である。変性ポリプロピレンの含有量が0.1質量%以上であることで、降伏強度及び引張破断強度を高くすることができる。変性ポリプロピレンの含有量が10質量%以下であることで、着色を抑制することができる。
【0037】
成分(C)植物由来フィラー
植物由来フィラー(C)は、植物由来の成分を少なくとも一部含み、ポリプロピレン系樹脂(A)中に分散し得る成分であればよく、それ以外の制限は受けないが、従来公知の種々の植物由来のフィラーを使用することができる。具体的には、セルロース、木粉、木材繊維、竹粉等が挙げられる。植物由来フィラー(C)の大きさは700μm以下が好ましく、400μm以下がより好ましく、200μm以下が特に好ましい。
【0038】
セルロースとしては、粉末セルロース、セルロース繊維、リグノセルロース繊維等が挙げられる。これらの原料としては、木材(針葉樹、広葉樹)、コットンリンター、ケナフ、マニラ麻(アバカ)、サイザル麻、ジュート、サバイグラス、エスパルト草、バガス、稲わら、麦わら、葦、竹等の天然素材が挙げられる。また、酸若しくはアミン、エポキシ等を含む官能性単量体により変性したものを用いてもよい。
【0039】
木粉は主に木材を細かく砕いた木粉であって、原料の木材としては特に限定しないが例を挙げれば、桧、杉、松、栂、樅、カバ、楓、セン、タモ、楢、ブナ、カキ、桜、シデ、椿、シナ、椎、栃、ドロノキ、ホオノキ、ミズメ、ベイツガ、ベイマツ、メープル、アルダー、ゴムノキ、ラミン、ラワン、テレンタン、マンゴ、レンガス、ランシンボク、チャッチンモドキ、ヌルデ、ウルシ、ハゼノキ、ハリギリ、ハンノキ、カバノキ、アサダ、キササゲ、タベブヤ、イベ、ガヤカン、コルジア、カナリーウッド、カナリウム、カツラ、ターミナリア、イディグボ、アファラ、エリマ、メルサワ、パロサピス、チェンガル、レサック、アピトン、クルイン、ヤン、チュテール、ドナ、カプール、ヤカール、メランチ、ウプナ、カキノキ、コクタン、ブタブタ、クリ、ビンタンゴール、サンタマリア、カロフィルム、ゲロンガン、ガルシニア、マニール、イスノキ、クルミ、ノグルミ、楠、クインスランドウォルナット、ビリアン、タブノキ、グリンハートアカシア、コクロジュア、アフリカンチーク、アフゼリア、ネムノキ、アクレ、アルビジア、ニセアカシア、モクレン、ホオノキ、カヤ、クワ、ユーカリ、プラタナス、ナナカマド、ポプラ、モッコク、ケヤキ、ニレ、チーク、マフォガニー、銀杏、トドマツ、カラマツ、イチイ、カヤ等が挙げられる。
【0040】
セルロース、木粉、又は、竹粉は、成形品に剛性を付与し得る。これらは、公知のいかなる方法で得られたものでもよく、その製法は特に限定されない。一例として、木材類、パルプ類、紙類、植物茎・葉類及び植物殻類から選ばれる1種又は2種以上の原料を粉砕機で処理して得ることができる。セルロース含有原料を、必要により、シュレッダー等の裁断機を利用して粗粉砕を行ってから、衝撃式の粉砕機又は押出機による処理を行ったり、乾燥処理を行ったりする。その後、媒体式の粉砕機を用いて攪拌することで、微細化されたセルロース繊維を得ることができる。
【0041】
好ましくは、成分(C)植物由来フィラーの含有量は、(A)、(B)、(C)及び(D)の合計量に対して0.1~80質量%の範囲内である。より好ましくは1~75質量%、さらに好ましくは5~40質量%の範囲である。植物由来フィラー(C)の含有量が0.1質量%以上であることで、石油由来の樹脂の使用量を減らすことができる。植物由来フィラー(C)の含有量が80質量%以下であることで、加工時の流動性の低下を抑制することができる。
【0042】
成分(D)有機リン化合物
有機リン化合物は、ハロゲンを含まないものが好ましい。ハロゲンを含むと、樹脂組成物を成形する際、有害ガス発生や金型腐食の恐れがあり、また、成形品を焼却する際、有害物質を排出する恐れがあり、環境汚染、安全性の観点から好ましくない。
ハロゲンを含まない有機リン化合物としては、ハロゲン非含有有機リン化合物がある。有機リン化合物としては、リン原子を有し、ハロゲンを含まない有機化合物であれば特に制限なく用いることができる。例えば、リン酸エステル化合物、リン酸アミン塩、ポリリン酸アンモニウム等が挙げられる。中でも、リン原子に直接結合するエステル性酸素原子を1つ以上有するリン酸エステル化合物が好ましく用いられる。なお、本発明においては、ハロゲン非含有有機リン化合物としては、赤リン等を含むものとする。
【0043】
有機リン化合物としては、特に制限はなく、ハロゲンを含まないものが好ましく、例えば、下記一般式(I)で示される有機リン化合物が挙げられる。
【0044】
【0045】
(式中、R11、R12、R13及びR14は、それぞれ独立して、水素原子又は有機基を表し、Xは2価以上の有機基を表し、mは0又は1であり、nは1以上の整数であり、rは0以上の整数を表す。)
式(I)において、有機基とは、置換又は未置換のアルキル基、置換又は未置換のシクロアルキル基、置換又は未置換のアリール基等である。置換されている場合の置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、アリールチオ基等が挙げられ、さらに、これらの置換基を組み合わせた基であるアリールアルコキシアルキル基等、又はこれらの置換基を酸素原子、窒素原子、イオウ原子等により結合して組み合わせたアリールスルホニルアリール基等であってもよい。
【0046】
また、式(I)において、2価以上の有機基Xは、上記の有機基から、炭素原子に結合している水素原子の1個以上を除いてできる2価以上の基である。例えば、アルキレン基、(置換)フェニレン基、多核フェノール類であるビスフェノール類から誘導されるものである。好ましいものとしては、ビスフェノールA、ヒドロキノン、レゾルシノール、ジフェニルメタン、ジヒドロキシジフェニル及びジヒドロキシナフタレン等から誘導される2価以上の基が挙げられる。
【0047】
有機リン化合物は、モノマー、ダイマー、オリゴマー、又はポリマーであってもよく、あるいはこれらの混合物であってもよい。具体的には、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、トリ(2-エチルヘキシル)ホスフェート、ジイソプロピルフェニルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、トリス(イソプロピルフェニル)ホスフェート、トリナフチルホスフェート、ビスフェノールAビスジフェニルホスフェート、ヒドロキノンビスジフェニルホスフェート、レゾルシンビスジフェニルホスフェート、レゾルシノール-ジフェニルホスフェート、トリオキシベンゼントリホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、あるいはこれらの置換体、又は縮合物等が挙げられる。
【0048】
リン酸アミン塩(ピロリン酸塩、縮合リン酸塩も含む)としては、1,2-ジアミノエタン、1,3-ジアミノプロパン、1,4-ジアミノブタン、1,5-ジアミノペンタン、1,6-ジアミノヘキサン、尿素、N,N’-ジメチル尿素、チオ尿素、イソシアヌール酸、エチレン尿素、エチレンチオ尿素、ヒダントイン、ヘキサヒドロピリミジン-2-オン、パラバン酸、バルピツル酸、アンメリン、メロン、メラム、グアナゾール、グアナジン、グアニジン、エチレンイミン、ピロリジン、2-ピロリドン、3-ピロリドン、ピペリジン、モルホリン、チオモルホリン、α-ピペリドン、β-ピペリドン、γ-ピペリドン、ピペラジン、4-メチルピペラジン、2-メチルピペラジン、2,5-ジメチルピペラジン、2,3,5,6-テトラメチルピペラジン、2-エチルピペラジン、2,5-ジエチルピペラジン、メラミン、グアナミン、メチルグアナミン、エチルグアナミン、ベンゾグアナミン、ベンジルグアナミン、ジシアンジアミド、1,3-ジアミノベンゼン、1,4-ジアミノベンゼン、2,4-ジアミノトルエン、2,4-ジアミノ-6-モルホリノ-1,3,5-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-チオモルホリノ-1,3,5-トリアジン等のリン酸塩、ピロリン酸塩、縮合リン酸塩等が挙げられる。これらは、一種を単独で使用することができ、又は、二種以上を組み合わせて使用することができる。ここで、縮合リン酸とは、リン酸が3分子以上縮合したポリリン酸をいい、三リン酸、四リン酸、それ以上のリン酸の縮合体、これらの混合物であってもよい。また、縮合リン酸は線状構造が主であるが、分岐状構造及び環状構造を含んでもよい。
【0049】
市販のハロゲン非含有有機リン化合物としては、例えば、大八化学工業株式会社製の、TPP〔トリフェニルホスフェート〕、TXP〔トリキシレニルホスフェート〕、CR-733S〔レゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート)〕、CR741[フェノールAビス(ジフェニルホスフェート)]、PX200〔1,3-フェニレン-テトラキス(2,6-ジメチルフェニル)リン酸エステル〕、PX201〔1,4-フェニレン-テトラキス(2,6-ジメチルフェニル)リン酸エステル〕、PX202〔4,4’-ビフェニレン-テスラキス)2,6-ジメチルフェニル)リン酸エステル〕、株式会社ADEKA製のFP2010等を挙げることができる。
【0050】
ポリリン酸アンモニウムの市販品の例としては、AP-422(クラリアント社製)、TERRJU-S10(ブーデンハイム社製)、TERRJU-S20(ブーデンハイム社製)等が挙げられる。また、ポリリン酸アンモニウムは、加水分解を受けやすいため、ポリリン酸アンモニウムを熱硬化性樹脂でマイクロカプセル化したものや、メラミンモノマーや他の含窒素有機化合物で被覆等の処理を行ったもの、界面活性剤やシリコーン化合物で処理を行ったもの、ポリリン酸アンモニウムを製造する過程でメラミン等を添加し難溶化したもの、等のようにポリリン酸アンモニウムが主成分である化合物を使用することが好ましい。本発明においてはこれらの全てを使用することができる。このように加水分解性を低減したポリリン酸アンモニウムの市販品としては、AP-462(クラリアント社製)、TERRJU-C30(ブーデンハイム社製)、TERRJU-C60(ブーデンハイム社製)、TERRJU-C70(ブーデンハイム社製)、TERRJU-C80(ブーデンハイム社製)等が挙げられる。これらは、一種を単独で使用することができ、又は、二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0051】
好ましくは、成分(D)有機リン化合物の含有量は、(A)、(B)、(C)及び(D)の合計量に対して0.01~10質量%の範囲内である。より好ましくは0.01~4質量%、さらに好ましくは0.01~2.5質量%の範囲である。有機リン化合物(D)の含有量が0.01質量%以上であることで、着色を抑制することができる。有機リン化合物(D)の含有量が10質量%以下であることで、降伏強度及び引張破断強度を高くすることができる。
【0052】
好ましくは、有機リン化合物(成分(D))の質量割合に対する植物由来フィラー(成分(C))の質量割合の比(C/D)が3以上1000以下である。より好ましくは3以上500以下、さらに好ましくは4以上100以下の範囲である。比(C/D)が3以上であることで、降伏強度及び引張破断強度を高くすることができる。比(C/D)が1000以下であることで、着色を抑制することができる。
【0053】
その他のポリマー
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、本発明の目的に反しない限りにおいて、上記成分(A)ポリプロピレン系樹脂及び成分(B)変性ポリプロピレン以外のポリマー、エラストマー又はオリゴマーを含んでいてもよい。これらの成分は、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0054】
エラストマー
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物にエラストマーを含有することで、成形品に耐衝撃性を付与し得る。エラストマーは、熱硬化性エラストマーと熱可塑性エラストマーとに大別されるが、好ましくは熱可塑性エラストマーである。
【0055】
熱可塑性エラストマーは、加熱すると軟化して流動性を示し、冷却するとゴム状に戻る性質を持つエラストマーである。熱可塑性エラストマーの具体例として、SEBS等のスチレン系熱可塑性エラストマー(TPS)、EPR、EBR、EOR等のオレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)、塩化ビニル系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)、エステル系熱可塑性エラストマー(TPC)、アミド系熱可塑性エラストマー(TPA)及びブタジエン系熱可塑性エラストマーが挙げられる。
【0056】
熱可塑性エラストマーの中でも、低温物性に優れている点で、スチレン系熱可塑性エラストマー、又は、EORが好ましい。スチレン系熱可塑性エラストマーは、スチレン成分及びブタジエン成分を有するブロックコポリマーである。EORは、エチレン-オクテン共重合体である。
【0057】
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物に含まれるオレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)の含有量は、ポリプロピレン系樹脂組成物の総量を100質量%としたときに、0~40質量%であってよく、好ましくは0~30質量%であってよい。
【0058】
オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)は、例えば、エチレン単位と炭素原子数が4以上のα-オレフィン単位とを含むオレフィン共重合体である。以下、エチレン単位と炭素原子数が4以上のα-オレフィン単位とを含むオレフィン共重合体を、エチレン-α-オレフィン共重合体ともいう。
【0059】
エチレン-α-オレフィン共重合体における、エチレン単位及び炭素原子数が4以上のα-オレフィン単位の含有量は、エチレン-α-オレフィン共重合体の質量の総量に対して、95質量%以上であってよい。当該含有量は、好ましくは98質量%以上であってよく、より好ましくは99質量%以上であってよい。当該含有量は、通常100質量%以下であり、100質量%であってもよい。
【0060】
エチレン-α-オレフィン共重合体を構成しうる、炭素原子数が4以上のα-オレフィンとしては、炭素原子数が4~12のα-オレフィン(例えば、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン及び1-デセン)が挙げられる。好ましくは、エチレン-α-オレフィン共重合体を構成しうる、炭素原子数が4以上のα-オレフィンは、1-ブテン、1-ヘキセン、及び1-オクテンである。エチレン-α-オレフィン共重合体を構成しうる、炭素原子数が4以上のα-オレフィンは、環状構造を有しており、炭素原子数が4以上であるα-オレフィン(例えば、ビニルシクロプロパン、ビニルシクロブタン)であってもよい。
【0061】
好ましくは、エチレン-α-オレフィン共重合体は、エチレン-1-ブテン共重合体、エチレン-1-ヘキセン共重合体、エチレン-1-オクテン共重合体、エチレン-1-デセン共重合体、エチレン-(3-メチル-1-ブテン)共重合体、及びエチレンと環状構造を有するα-オレフィンとの共重合体らなる群から選ばれる少なくとも1種の重合体である。より好ましくは、エチレン-α-オレフィン共重合体は、エチレン-1-ブテン共重合体である。
【0062】
エチレン-α-オレフィン共重合体における、炭素原子数が4以上のα-オレフィン単位の含有量は、エチレン-α-オレフィン共重合体の総量に対して、1~49質量%であってよい。当該含有量は、好ましくは5~49質量%であってよく、より好ましくは24~49質量%であってよい。
【0063】
エチレン-α-オレフィン共重合体のMFRは、0.1g/10分~80g/10分である。当該MFRは190℃、荷重2.16kgfの条件で、JIS K7210-1:2014及びK7210-2:2014に準拠して測定される。
【0064】
プロピレン系樹脂組成物を成形した成形体の耐衝撃性を高める観点から、エチレン-α-オレフィン共重合体の密度は、0.850~0.890g/cm3であってよい。当該密度は、好ましくは0.850~0.880g/cm3であってよく、より好ましくは0.855~0.870g/cm3であってよい。
【0065】
エチレン-α-オレフィン共重合体は、通常用いられる方法で製造されることができる。例えば、重合触媒を用いてエチレン及び炭素原子数が4以上のα-オレフィンを重合することにより製造することができる。重合触媒は、既に説明したプロピレン系重合体を製造するための重合触媒を用いてもよい。
【0066】
エチレン-α-オレフィン共重合体は、市販品を用いてもよい。かかる市販品としては、例えば、エチレン-ブテン-1共重合体であるダウ・ケミカル日本社製「エンゲージ(登録商標)7447」、三井化学社製「タフマー(登録商標)」、プライムポリマー社製「ネオゼックス(登録商標)」及び「ウルトゼックス(登録商標)」、並びに、住友化学社製「エクセレンFX(登録商標)」、「スミカセン(登録商標)」、及び「エスプレンSPO(登録商標)」が挙げられる。
【0067】
それ以外の成分
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、本発明の目的に反しない限りにおいて、上記各必須成分に加えて、それ以外の成分を含んでいてもよい。
それ以外の成分の例として、鉱物油等の軟化剤、滑剤、酸化防止剤(フェノール系、イオウ系、燐系、ラクトン系、ビタミン系等)、耐候安定剤、紫外線吸収剤(ベンゾトリアゾール系、トリアジン系、アニリド系、ベンゾフェノン系等)、熱安定剤、光安定剤(ヒンダードアミン系、ベンゾエート系等)、顔料(無機顔料、有機顔料、顔料分散剤等)、造核剤、可塑剤、有機リン化合物以外の難燃剤、高輝度化剤、抗菌剤、光拡散剤、吸着剤(金属酸化物(酸化亜鉛、酸化マグネシウム等)、湿潤分散剤、VOC・臭気ストリッピング剤、貯水剤(両親媒性高分子を含む水性媒体等)、耐擦り傷性向上剤、金属塩化物(塩化鉄、塩化カルシウム等)、ハイドロタルサイト、アルミン酸塩等)、架橋剤(有機過酸化物等)、架橋助剤(トリメチロールプロパントリメタクリレート、N,N‘m-フェニレンビスマレイミド、ジビニルベンゼン、シランカップリング剤等)等を挙げることができるが、これらには限定されない。
これらの成分は、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0068】
溶融混練
本発明の一態様として、
ポリプロピレン系樹脂組成物の製造方法であって、
下記(A)、(B)、(C)及び(D)の合計を100質量%として、
ポリプロピレン系樹脂(A):19.89質量%~99.79質量%、
変性ポリプロピレン(B):0.1質量%~10質量%、
植物由来フィラー(C):0.1質量%~80質量%、及び
有機リン化合物(D):0.01質量%~10質量%を、
有機リン化合物(成分(D))の質量割合に対する植物由来フィラー(成分(C))の質量割合の比(C/D)を3以上1000以下にして、
混練機に供給して、溶融混練する工程を有する、ポリプロピレン系樹脂組成物の製造方法、並びに、
ポリプロピレン系樹脂組成物であって、
下記(A)、(B)、(C)及び(D)の合計を100質量%として、
ポリプロピレン系樹脂(A):19.89質量%~99.79質量%、
変性ポリプロピレン(B):0.1質量%~10質量%、
植物由来フィラー(C):0.1質量%~80質量%、及び
有機リン化合物(D):0.01質量%~10質量%を、
有機リン化合物(成分(D))の質量割合に対する植物由来フィラー(成分(C))の質量割合の比(C/D)を3以上1000以下にして、
混練機に供給して、溶融混練することにより得られる前記ポリプロピレン系樹脂組成物、が提供される。
【0069】
以下に、上記各態様において採用される溶融混練について詳細に説明する。
(A)、(B)、(C)及び(D)を溶融混練する方法としては、(A)、(B)、(C)及び(D)を同時に、又は逐次的に、例えば、ヘンシェルミキサー、V型ブレンダー、タンブラーブレンダー、リボンブレンダー等に装入して混練した後、単軸押出機、多軸押出機、ニーダー、バンバリーミキサー等で溶融混練する方法が例示できる。これらのうちでも、多軸押出機、ニーダー、バンバリーミキサー等の混練性能に優れた装置を使用すると、各成分がより均一に分散・反応されたポリプロピレン系樹脂組成物を得ることができるため好ましい。
【0070】
押出機を用いて溶融混練を行う場合、(A)、(B)、(C)及び(D)は、予め混合した後にホッパーから供給しても良いし、一部の成分をホッパーから供給し、ホッパー部付近から押出機先端の間の任意の部分に設置した供給口よりその他の成分を供給しても良い。
また、(A)、(B)、(C)及び(D)のいずれか2つ、または3つを選択し、予め溶融混練することでマスターバッチを作成した後にホッパーから供給することで、残り1つ、または2つの原料と溶融混練しても良い。
【0071】
(A)、(B)、(C)及び(D)の溶融混錬としては、A)、(B)、(C)及び(D)を混錬機に一括で供給して、同時に溶融混錬する態様が挙げられる。
【0072】
(A)、(B)、(C)及び(D)を分割して溶融混錬する態様としては、例えば、以下の態様が挙げられる。
(1)(A)を混錬機に供給して溶融混錬し、次いで(B)、(C)及び(D)を供給して溶融混錬する。
(2)(A)及び(B)を混錬機に一括で供給して溶融混錬し、次いで(C)及び(D)を一括で供給して溶融混錬する。
(3)(A)、(B)及び(C)を混錬機に一括で供給して溶融混錬し、次いで(D)を供給して溶融混錬する。
(4)(A)及び(C)を混錬機に一括で供給して溶融混錬し、次いで(B)及び(D)を一括で供給して溶融混錬する。
(5)(A)、(C)及び(D)を混錬機に一括で供給して溶融混錬し、次いで(B)を供給して溶融混錬する。
(6)(A)及び(D)を混錬機に一括で供給して溶融混錬し、次いで(B)及び(C)を一括で供給して溶融混錬する。
(7)(A)、(B)及び(D)を混錬機に一括で供給して溶融混錬し、次いで(B)を供給して溶融混錬する。
(8)(B)を混錬機に供給して溶融混錬し、次いで(A)、(C)及び(D)を供給して溶融混錬する。
(9)(B)及び(C)を混錬機に一括で供給して溶融混錬し、次いで(A)及び(D)を一括で供給して溶融混錬する。
(10)(B)及び(D)を混錬機に一括で供給して溶融混錬し、次いで(A)及び(C)を一括で供給して溶融混錬する。
(11)(B)、(C)及び(D)を混錬機に一括で供給して溶融混錬し、次いで(A)を供給して溶融混錬する。
【0073】
上記各成分を溶融混練する際の温度は、通常溶融混練が行われる温度の範囲であれば特に問わないが、一例として、150~230℃の範囲で溶融混練を行うことができる。
【0074】
こうして得られた本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、ポリプロピレン(A)、変性ポリプロピレン(B)、植物由来フィラー(C)及び有機リン化合物(D)、及びこれらに由来する化合物を含有する組成物であると考えられる。すなわち、本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、溶融混練によりポリプロピレン(A)、変性ポリプロピレン(B)、植物由来フィラー(C)及び有機リン化合物(D)の一部又は全部が変化した成分を含んでもよい。
【0075】
成形体
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、例えば、下記方法により成形体を製造するために使用される。
【0076】
成形体の製造方法としては、前記ポリプロピレン系樹脂組成物を溶融し、成形して成形体を得る工程を有する成形体の製造方法が挙げられる。
【0077】
成形方法としては、押出成形法、及び射出成形法が挙げられる。押出成形により、例えばシート状の成形体が得られる。射出成形により、射出成形体が得られる。
【0078】
射出成形法としては、例えば、一般的な射出成形法、射出発泡成形法、超臨界射出発泡成形法、超高速射出成形法、射出圧縮成形法、ガスアシスト射出成形法、サンドイッチ成形法、サンドイッチ発泡成形法、及びインサート・アウトサート成形法が挙げられる。
【0079】
成形する際の温度は、通常成形が行われる温度の範囲であれば特に問わないが、一例として、150~230℃の範囲で行うことができる。
【0080】
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物及びその成形体は、優れた着色抑制を示す。
【0081】
着色
ポリプロピレン系樹脂組成物の着色の度合いは、黄色度(YI)の測定により評価することができる。YIは、無色又は白色から色相が黄方向に離れる度合いであり、通常はプラス値であり,マイナスの値は,色相が青であることを示す。すなわち、YIの値が0に近いほど着色が抑制されていることを示す。
【0082】
用途
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物及びその成形体は、例えば、自動車内装部品及び外装部品等の自動車部材、家電筐体、建材として使用できる。
【実施例0083】
以下、本発明を具体的に説明する。なお、本発明はいかなる意味においても、以下の実施例によって限定されるものではない。
【0084】
使用した材料
実施例及び比較例では、以下の材料を使用し、ポリプロピレン系樹脂組成物を作成した。
【0085】
1.ポリプロピレン
ポリプロピレン単独重合体1(hPP-1、住友化学株式会社製ノーブレンHR100EG)
MFR(230℃、荷重21.2N):23~25g/10分
【0086】
2.植物由来フィラー
粉末セルロース(KCフロック、日本製紙株式会社製W-100GK)
【0087】
3.変性ポリプロピレン
MAH-1 無水マレイン酸変性ポリプロピレン
無水コハク酸残基の含有量:0.11質量%
WO2020/009090に記載の合成例2を用いた。
<無水マレイン酸変性ポリプロピレン中の無水コハク酸残基の導入量(単位:質量%)>
1H-NMRスペクトルについて、2.40-3.40ppmの領域の、無水マレイン酸変性することによって生成する無水コハク酸部位のメチンプロトンおよび/若しくはメチレンプロトンのシグナルの積分値を、アルカン領域のプロトンのシグナルの積分値と比較し、無水マレイン酸変性ポリプロピレン中の無水コハク酸残基の含有量を算出した。
【0088】
4.有機リン化合物
有機リン化合物1 (芳香族縮合リン酸エステル、大八化学工業株式会社製PX-200)
【0089】
5.添加剤
酸化防止剤1:BASFジャパン株式会社製 イルガノックス1010
酸化防止剤2:BASFジャパン株式会社製 イルガフォス168
【0090】
実施例1
88.4質量%のポリプロピレン単独重合体1、10質量%の粉末セルロース、1.5質量%のMAH-1、0.1質量%の有機リン化合物1を混合し、混合物を得た。得られた混合物100質量部に対して、0.2質量部の酸化防止剤1及び0.2質量部の酸化防止剤2を混合し、混合物を得た。得られた混合物を二軸押出機(テクノベル社製KZW12TW、L/D=75)に供給し、シリンダー温度180℃、スクリュー回転数300rpmにて溶融混練を行い、ペレット化し、ポリプロピレン系樹脂組成物を得た。
【0091】
実施例2及び比較例1~3
表1に示した材料を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例2及び比較例1~3のポリプロピレン系樹脂組成物を製造した。
【0092】
各実施例及び比較例で得られたポリプロピレン系樹脂組成物におけるYI(黄色度)、降伏強度及び引張り破断強度は、下記の方法で測定した。
【0093】
<黄色度(YI、単位:なし)の測定>
各実施例及び比較例で得られたポリプロピレン系樹脂組成物のペレットを用い、JIS K7210に規定された方法に従って、温度190℃、荷重21.18Nの条件にてメルトフローレイト(MFR)を測定することでYI測定用のストランドを得た。190℃における保持時間(滞留時間)は25分とした。MFR測定後のストランドを190℃下で5分間予熱し、圧力5MPaを2分間加えて厚みが1mmのサンプルをプレス成形により作製した。得られたサンプルのYI値をJIS K 7105に基づいて色差計(「カラーメーターSM-P45」、スガ試験機(株)製)を用いて、反射モードにて測定した。
【0094】
<降伏強度および引張破断強度用サンプルの成形方法>
東洋機械金属株式会社製SI-30III型射出成形機を用い、成形温度200℃、金型温度50℃で射出成形を行い、各実施例及び比較例で得られたポリプロピレン系樹脂組成物について、JIS K 7139に準拠した縮尺試験片(タイプA12、厚さ2mm)を得た。
【0095】
<降伏強度及び引張破断強度の測定>
得られた縮尺試験片を用いて、下記条件にて降伏強度及び引張破断強度を測定した。
測定温度:23℃
引張速度:50mm/分
【0096】
各実施例及び比較例の配合量、YI値、降伏強度および引張破断強度を表1に示す。
【0097】
【0098】
有機リン化合物(成分(D))の質量割合に対する植物由来フィラー(成分(C))の質量割合の比(C/D)が本発明の要件を満たす実施例1及び2は、着色抑制を示すYIの値が、本発明の要件を満たさない比較例1及び比較例2より極めて小さい。すなわち、本発明の要件を満たす実施例1及び2は、着色が抑制されていることを示す。
また、本発明の要件を満たす実施例1及び2の降伏強度及び引張破断強度は、本発明の要件を満たさない比較例1及び比較例3の降伏強度及び引張破断強度より大きい。すなわち、本発明の要件を満たす実施例1及び2は、降伏強度及び引張破断強度の低下が抑制されていることを示す。
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物及びその成形体の用途として、自動車内装部品及び外装部品等の自動車部材、家電筐体、又は建材等に利用可能であり、製造業、建築業をはじめとする産業の各分野において、高い利用可能性を有する。