(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094281
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】プリプレグ、繊維強化複合材料、および繊維強化複合材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 5/24 20060101AFI20240702BHJP
【FI】
C08J5/24 CFC
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023215714
(22)【出願日】2023-12-21
(31)【優先権主張番号】P 2022209975
(32)【優先日】2022-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100142309
【弁理士】
【氏名又は名称】君塚 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 隼人
【テーマコード(参考)】
4F072
【Fターム(参考)】
4F072AB10
4F072AB29
4F072AD27
4F072AD28
4F072AD37
4F072AD41
4F072AD42
4F072AE01
4F072AE02
4F072AE06
4F072AF06
4F072AF30
4F072AG03
4F072AG17
4F072AH04
4F072AH44
(57)【要約】
【課題】靭性を維持し、強度および弾性率が改善された繊維強化複合材料、ならびに靭性を維持し、強度および弾性率が改善された繊維強化複合材料を安定的に得るためのプリプレグを提供する。
【解決手段】少なくとも下記成分(A)~成分(D)を含むマトリクス樹脂組成物と、炭素繊維とを含む、プリプレグ。成分(A):エポキシ樹脂。成分(B):脂環式ポリカーボネート樹脂および脂環式ポリエステル樹脂の少なくとも一方。成分(C):硬化剤。成分(D):ホウ酸化合物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも下記成分(A)~成分(D)を含むマトリクス樹脂組成物と、炭素繊維とを含む、プリプレグ。
成分(A):エポキシ樹脂
成分(B):脂環式ポリカーボネート樹脂および脂環式ポリエステル樹脂の少なくとも一方
成分(C):硬化剤
成分(D):ホウ酸化合物
【請求項2】
前記成分(B)として、ガラス転移点(Tg)が50℃以上である樹脂を含む、請求項1に記載のプリプレグ。
【請求項3】
前記成分(B)として、還元粘度が0.2dL/g以上である脂環式ポリカーボネート樹脂を含む、請求項1または2に記載のプリプレグ。
【請求項4】
前記成分(B)として、下記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を有する樹脂を含む、請求項1または2に記載のプリプレグ。
【化1】
【請求項5】
前記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を有する樹脂が、さらに1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、ペンタシクロペンタデカンジメタノール、2,6-デカリンジメタノール、1,5-デカリンジメタノール、2,3-デカリンジメタノール、2,3-ノルボルナンジメタノール、2,5-ノルボルナンジメタノール、および1,3-アダマンタンジメタノールからなる群より選ばれる少なくとも一種の脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を有する、請求項4に記載のプリプレグ。
【請求項6】
前記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を有する樹脂が、さらにテレフタル酸、イソフタル酸、トリメリット酸、2,5-フランジカルボン酸、コハク酸、イソデシルコハク酸、ドデセニルコハク酸、マレイン酸、アジピン酸、グルタン酸、セバシン酸、エチレングリコール、2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、ソルビトール、エリスリトール、エリスリタン、およびグリセリンからなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物に由来する構造単位を有する、請求項4に記載のプリプレグ。
【請求項7】
前記成分(C)としてジシアンジアミド類、ウレア化合物、酸ヒドラジド化合物、およびイミダゾール類からなる群から選ばれる少なくとも一種を含む、請求項1に記載のプリプレグ。
【請求項8】
前記成分(C)としてイミダゾール類を含む、請求項1に記載のプリプレグ。
【請求項9】
前記成分(D)としてホウ酸エステルを含む、請求項1に記載のプリプレグ。
【請求項10】
前記マトリクス樹脂組成物が、全エポキシ樹脂100質量部に対して前記成分(B)を5質量部以上45質量部以下含む、請求項1に記載のプリプレグ。
【請求項11】
前記マトリクス樹脂組成物が、全エポキシ樹脂100質量部に対して前記成分(B)を8質量部以上40質量部以下含む、請求項1に記載のプリプレグ。
【請求項12】
前記成分(D)と前記成分(B)の質量比([成分(D)の質量]/[成分(B)の質量])が、0.001~1である、請求項1または2に記載のプリプレグ。
【請求項13】
一方向に引き揃えられた炭素繊維シートに前記マトリクス樹脂組成物が含浸された、請求項1または2に記載のプリプレグ。
【請求項14】
前記マトリクス樹脂組成物のバイオマス度が5%以上である、請求項1または2に記載のプリプレグ。
【請求項15】
請求項1に記載のプリプレグを硬化して得られる、繊維強化複合材料。
【請求項16】
請求項1に記載のプリプレグを100℃~160℃でプレスする、繊維強化複合材料の製造方法。
【請求項17】
炭素繊維基材がエポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂およびポリエステル樹脂の少なくとも一方、ならびにホウ酸化合物を含むマトリクス樹脂組成物で含侵されたプリプレグであって、
前記ポリカーボネート樹脂および前記ポリエステル樹脂が、下記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を有する、プリプレグ。
【化2】
【請求項18】
前記マトリクス樹脂組成物が前記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を有するポリカーボネート樹脂を含み、前記ポリカーボネート樹脂が、さらに1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、ペンタシクロペンタデカンジメタノール、2,6-デカリンジメタノール、1,5-デカリンジメタノール、2,3-デカリンジメタノール、2,3-ノルボルナンジメタノール、2,5-ノルボルナンジメタノール、および1,3-アダマンタンジメタノールからなる群より選ばれる少なくとも一種の脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を有する、請求項17に記載のプリプレグ。
【請求項19】
前記マトリクス樹脂組成物が前記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を有するポリエステル樹脂を含み、前記ポリエステル樹脂が、さらにテレフタル酸、イソフタル酸、トリメリット酸、2,5-フランジカルボン酸、コハク酸、イソデシルコハク酸、ドデセニルコハク酸、マレイン酸、アジピン酸、グルタン酸、セバシン酸、エチレングリコール、2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、ソルビトール、エリスリトール、エリスリタン、およびグリセリンからなる群より選ばれる少なくとも一種に由来する構造単位を有する、請求項17に記載のプリプレグ。
【請求項20】
前記ホウ酸化合物がホウ酸エステルを含む、請求項17に記載のプリプレグ。
【請求項21】
前記マトリクス樹脂組成物において、全エポキシ樹脂100質量部に対する前記ポリカーボネート樹脂およびポリエステル樹脂の合計が5質量部以上45質量部以下である、請求項17~20のいずれか一項に記載のプリプレグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として、プリプレグ、繊維強化複合材料、および繊維強化複合材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マトリクス樹脂と強化繊維とを組み合わせた繊維強化複合材料は、軽量性、剛性、耐衝撃性等に優れることから様々な用途に用いられている。特に炭素繊維強化複合材料は、軽量かつ高強度、高剛性であるため、釣り竿やゴルフシャフト等のスポーツやレジャー用途、自動車用途や航空機用途等の幅広い分野で用いられている。
【0003】
繊維強化複合材料のマトリクス樹脂としては、従来、炭素繊維への含浸性や硬化後の物性発現に優れることから、熱硬化性樹脂を含むマトリクス樹脂が用いられることが多い。特に、エポキシ樹脂とジシアンジアミド、イミダゾール、ウレア化合物等の硬化剤を組合せたマトリクス樹脂が広く使用されている。
【0004】
より高強度かつ高剛性である炭素繊維強化複合材料を実現するため、炭素繊維の特性(高強度や高弾性率)を効率的に発現できるマトリクス樹脂が求められている。
【0005】
特許文献1には、エポキシ樹脂、芳香族のポリカーボネート樹脂、ジシアンジアミドおよびその硬化促進剤を含むことで、補強繊維の有する引張強さを反映した複合材料が提案されている。
特許文献2には、エポキシ樹脂組成物の粘度調整を実用域に調整するため、少なくとも一部が結晶化した芳香族型のポリカーボネート樹脂を含むことで、実使用可能であり、剛性や靭性、柔軟性のバランスの取れたプリプレグが提案されている。
特許文献3には、特定の構造を含むジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を少なくとも含むポリカーボネート樹脂を使用することで、炭素繊維への樹脂の含浸性を改善させた炭素繊維強化熱可塑性プリプレグが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平2-92919号公報
【特許文献2】特開2012-21112号公報
【特許文献3】特開2014-133841号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的の一つは、靭性を維持し、強度および弾性率が改善された繊維強化複合材料、ならびに靭性を維持し、強度および弾性率が改善された繊維強化複合材料を安定的に得るための熱硬化性プリプレグを提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の実施形態を含む。
[1]少なくとも下記成分(A)~成分(D)を含むマトリクス樹脂組成物と、炭素繊維とを含む、プリプレグ。
成分(A):エポキシ樹脂
成分(B):脂環式ポリカーボネート樹脂および脂環式ポリエステル樹脂の少なくとも一方
成分(C):硬化剤
成分(D):ホウ酸化合物
[2]前記成分(B)として、ガラス転移点(Tg)が50℃以上である樹脂を含む、[1]に記載のプリプレグ。
[3]前記成分(B)として、還元粘度が0.2dL/g以上である脂環式ポリカーボネート樹脂を含む、[1]または[2]に記載のプリプレグ。
[4]前記成分(B)として、下記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を有する樹脂を含む、[1]~[3]のいずれかに記載のプリプレグ。
【0009】
【0010】
[5]前記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を有する樹脂が、さらに1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、ペンタシクロペンタデカンジメタノール、2,6-デカリンジメタノール、1,5-デカリンジメタノール、2,3-デカリンジメタノール、2,3-ノルボルナンジメタノール、2,5-ノルボルナンジメタノール、および1,3-アダマンタンジメタノールからなる群より選ばれる少なくとも一種の脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を有する、[4]に記載のプリプレグ。
[6]前記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を有する樹脂が、さらにテレフタル酸、イソフタル酸、トリメリット酸、2,5-フランジカルボン酸、コハク酸、イソデシルコハク酸、ドデセニルコハク酸、マレイン酸、アジピン酸、グルタン酸、セバシン酸、エチレングリコール、2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、ソルビトール、エリスリトール、エリスリタン、およびグリセリンからなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物に由来する構造単位を有する、[4]に記載のプリプレグ。
[7]前記成分(C)としてジシアンジアミド類、ウレア化合物、酸ヒドラジド化合物、およびイミダゾール類からなる群から選ばれる少なくとも一種を含む、[1]~[6]のいずれかに記載のプリプレグ。
[8]前記成分(C)としてイミダゾール類を含む、[1]~[7]のいずれかに記載のプリプレグ。
[9]前記成分(D)としてホウ酸エステルを含む、[1]~[8]のいずれかに記載のプリプレグ。
[10]前記マトリクス樹脂組成物が、全エポキシ樹脂100質量部に対して前記成分(B)を5質量部以上45質量部以下含む、[1]~[9]のいずれかに記載のプリプレグ。
[11]前記マトリクス樹脂組成物が、全エポキシ樹脂100質量部に対して前記成分(B)を8質量部以上40質量部以下含む、[1]~[10]のいずれかに記載のプリプレグ。
[12]前記成分(D)と前記成分(B)の質量比([成分(D)の質量]/[成分(B)の質量])が、0.001~1である、[1]~[11]のいずれかに記載のプリプレグ。
[13]一方向に引き揃えられた炭素繊維シートに前記マトリクス樹脂組成物が含浸された、[1]~[12]のいずれかに記載のプリプレグ。
[14]前記マトリクス樹脂組成物のバイオマス度が5%以上である、[1]~[13]のいずれかに記載のプリプレグ。
[15][1]~[14]のいずれかに記載のプリプレグを硬化して得られる、繊維強化複合材料。
[16][1]~[15]のいずれかに記載のプリプレグを100℃~160℃でプレスする、繊維強化複合材料の製造方法。
[17]炭素繊維基材がエポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂およびポリエステル樹脂の少なくとも一方、ならびにホウ酸化合物を含むマトリクス樹脂組成物で含侵されたプリプレグであって、
前記ポリカーボネート樹脂および前記ポリエステル樹脂が、下記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を有する、プリプレグ。
【0011】
【0012】
[18]前記マトリクス樹脂組成物が前記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を有するポリカーボネート樹脂を含み、前記ポリカーボネート樹脂が、さらに1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、ペンタシクロペンタデカンジメタノール、2,6-デカリンジメタノール、1,5-デカリンジメタノール、2,3-デカリンジメタノール、2,3-ノルボルナンジメタノール、2,5-ノルボルナンジメタノール、および1,3-アダマンタンジメタノールからなる群より選ばれる少なくとも一種の脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を有する、[17]に記載のプリプレグ。
[19]前記マトリクス樹脂組成物が前記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を有するポリエステル樹脂を含み、前記ポリエステル樹脂が、さらにテレフタル酸、イソフタル酸、トリメリット酸、2,5-フランジカルボン酸、コハク酸、イソデシルコハク酸、ドデセニルコハク酸、マレイン酸、アジピン酸、グルタン酸、セバシン酸、エチレングリコール、2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、ソルビトール、エリスリトール、エリスリタン、およびグリセリンからなる群より選ばれる少なくとも一種に由来する構造単位を有する、[17]に記載のプリプレグ。
[20]前記ホウ酸化合物がホウ酸エステルを含む、[17]~[19]のいずれかに記載のプリプレグ。
[21]前記マトリクス樹脂組成物において、全エポキシ樹脂100質量部に対する前記ポリカーボネート樹脂およびポリエステル樹脂の合計が5質量部以上45質量部以下である、[17]~[20]のいずれかに記載のプリプレグ。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一態様によれば、靭性を維持し、強度および弾性率が改善された繊維強化複合材料、ならびに靭性を維持し、強度および弾性率が改善された繊維強化複合材料を安定的に得るためのプリプレグを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[プリプレグ]
本発明の一実施形態はプリプレグに関する。実施形態に係るプリプレグは、少なくとも下記成分(A)~成分(D)を含むマトリクス樹脂組成物と、炭素繊維とを含むものである。
成分(A):エポキシ樹脂
成分(B):脂環式ポリカーボネート樹脂および脂環式ポリエステル樹脂の少なくとも一方
成分(C):硬化剤
成分(D):ホウ酸化合物
別実施形態にかかるプリプレグは、炭素繊維基材がエポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂およびポリエステル樹脂の少なくとも一方、ならびにホウ酸化合物を含むマトリクスで含侵されたものである。また前記ポリカーボネート樹脂および前記ポリエステル樹脂は、下記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を有する。
【化3】
【0015】
[マトリクス樹脂組成物]
マトリクス樹脂組成物は、上述の成分(A)~成分(D)を少なくとも含む。マトリクス樹脂組成物は、さらにその他の熱可塑性樹脂や添加剤を含んでいてもよい。プリプレグに含まれるマトリクス樹脂組成物は、熱硬化性マトリクス樹脂組成物とすることができ、熱硬化性マトリクス樹脂組成物は加熱により架橋構造を形成する。
マトリクス樹脂組成物のバイオマス度は、5%以上であることが好ましく、10%以上であることがより好ましく、20%以上であることがさらに好ましい。
マトリクス樹脂組成物のバイオマス度は、原料のバイオマス度と、配合時の仕込み比率、合成反応や重合反応時の仕込み比率から算出してもよく、得られた樹脂組成物を14C測定法で直接分析してもよい。
14C測定法によるバイオマス度の測定は、ASTM-D6866に準拠した放射性炭素(14C)測定法によって得られた14C含有量の値から算出することによって行うことができる。大気中の二酸化炭素には、14Cが一定割合で含まれているため、大気中の二酸化炭素を取り入れて成長する植物にも一定量の14Cが含まれることが知られている。一方、化石燃料には14Cは殆ど含まれていないことも知られている。したがって、全炭素原子中に含まれる14Cの割合を測定することにより、バイオマス度を算出することができる。
【0016】
[成分(A)]
成分(A)のエポキシ樹脂はエポキシ基を有する化合物であれば特に制限されない。このようなエポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂;ビスフェノールF型エポキシ樹脂;複素環型エポキシ樹脂(例えば、イソソルビドから誘導される環構造、トリイソシアヌレート環、オキサゾリドン環を分子内に含むエポキシ樹脂);例えば、クレゾールノボラック、フェノールノボラック、ビスフェノールAノボラックから誘導されるノボラック型エポキシ樹脂;グリシジルアミン型エポキシ樹脂(例えば、トリグリシジルアミノフェノール、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、ジグリシジルアニリン、ジグリシジルトルイジン、テトラグリシジルキシレンジアミン);ポリカルボン酸(例えば、ダイマー酸、トリマー酸、イソフタル酸、テレフタル酸、フタル酸、ヒドロフタル酸)から誘導されるグリシジルエステル型エポキシ樹脂;ビスフェノールS型エポキシ樹脂;例えば、レゾルシノール、カテコール、ヒドロキノン、ジヒドロアントラセンから誘導されるベンゼンジオール型エポキシ樹脂;例えば、ジヒドロアントラヒドロキノン、ジヒドロキシジフェニルエーテル、チオジフェノール、ジヒドロキシナフタレン、トリスヒドロキシフェニルメタン、テトラフェニロールエタンから誘導される芳香族型エポキシ樹脂;ビスフェノキシエタノールフルオレン型エポキシ樹脂;ビスフェノールフルオレン型エポキシ樹脂;ビスクレゾールフルオレン型エポキシ樹脂が挙げられる。その他、例えば、アリル基の酸化により製造されるオキシラン環を有する樹脂を使用することもできる。エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、複素環型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂が好ましい。
【0017】
成分(A)としては、液状のエポキシ樹脂や固形のエポキシ樹脂を配合することができる。液状のエポキシ樹脂は、25℃で液状のエポキシ樹脂である。液状のエポキシ樹脂は主に、成分(B)やその他の熱可塑性樹脂の溶解性向上とマトリクス樹脂組成物の硬化物の強度や弾性率、耐熱性の向上に寄与する。
【0018】
液状のエポキシ樹脂の25℃における粘度は、500Pa・s以下であることが好ましく、300Pa・s以下であることがより好ましい。また、0.01Pa・s以上とすることができ、0.1Pa・s以上であることが好ましい。粘度をこの範囲にすると、エポキシ樹脂組成物に他の成分を分散・溶解させやすい。
粘度の測定は回転式レオメーターで試料に周期的な変形(歪み)を与え、それによって生じる応力と位相差を検出することで測定できる。
【0019】
液状のエポキシ樹脂の配合量は、マトリクス樹脂組成物に含まれる全エポキシ樹脂100質量部に対して5質量部以上とすることが好ましい。液状のエポキシ樹脂の配合量の下限は、より好ましくは8質量部であり、さらに好ましくは15質量部であり、特に好ましくは25質量部であり、最も好ましくは28質量部である。また、液状のエポキシ樹脂の配合量の上限は、好ましくは98質量部であり、より好ましくは95質量部であり、さらに好ましくは85質量部であり、特に好ましくは80質量部であり、最も好ましくは75質量部である。液状のエポキシ樹脂の配合量が下限値以上であれば、成分(B)やその他の熱可塑性樹脂成分の溶解が容易となり、得られる樹脂硬化物の強度、弾性率が優れる。一方、液状のエポキシ樹脂の配合量が上限値以下であれば、靱性に優れた樹脂硬化物を得ることができる。
【0020】
また、固形のエポキシ樹脂を配合することで、室温における粘度を上げることができ、プリプレグが取り扱いやすくなる。固形エポキシ樹脂とは、常温で固体であり加熱によって液状化するエポキシ樹脂である。固形のエポキシ樹脂は、軟化点50℃以上のエポキシ樹脂であることが好ましい。軟化点は、樹脂硬化物が優れた靱性を有することから、好ましくは55℃以上、より好ましくは60℃以上である。一方、樹脂硬化物の耐熱性が適正に保たれ、ドレープ性(型形状追従性)に優れたプリプレグを得ることができるとともに、ボイドの無い繊維強化複合材料を得ることができることから、好ましくは150℃以下、より好ましくは145℃以下である。
【0021】
固形のエポキシ樹脂の配合量は、マトリクス樹脂組成物に含まれる全エポキシ樹脂100質量部に対して95質量部以下とすることが好ましい。固形のエポキシ樹脂の配合量の上限は、より好ましくは90質量部であり、さらに好ましくは80質量部である。また、固形のエポキシ樹脂の配合量の下限は、好ましくは5質量部であり、より好ましくは8質量部であり、さらに好ましくは10質量部である。上記の上限及び下限は任意に組み合わせることができる。固形のエポキシ樹脂の配合量が前記範囲内であれば、プリプレグのタック性、ドレープ性(型形状追従性)、および含浸不良に伴うプリプレグ内のボイドの無い、強度および弾性率と耐熱性、ならびに靭性に優れた繊維強化複合材料を得ることができる。
【0022】
成分(B)やその他の熱可塑性樹脂を予めエポキシ樹脂に溶解させる場合は、エポキシ樹脂としてビスフェノール型エポキシ樹脂、またはグリシジルアミン型エポキシ樹脂を用いることで、溶解がスムーズに進み、得られる溶解物の粘度も調整しやすい。これらのエポキシ樹脂は、単独または組み合わせて使用できる。
繊維強化複合材料の耐熱性を向上させたい場合は、ノボラック型エポキシ樹脂やグリシジルアミン型エポキシ樹脂を用いることができる。
繊維強化複合材料のバイオマス度を向上させたい場合は、バイオマス由来の酸から誘導したグリシジルエステル型エポキシ樹脂、天然物や非可食バイオマスから製造されるグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、バイオマス由来のイソソルビドから誘導される複素環型エポキシ樹脂を用いることができる。また、バイオ燃料の副生物であるグリセリンから誘導されるエピクロロヒドリンを用いたエポキシ樹脂も好適に使用できる。バイオ由来のエピクロロヒドリンは、天然物やバイオマス由来の骨格であっても非天然物や非バイオマス由来の骨格であっても好適に付加させて使用できる。
繊維強化複合材料の靭性を向上させたい場合は、オキサゾリドン環やイソソルビド構造等を含む複素環型エポキシ樹脂用いることができる。一方、前述の液状のエポキシ樹脂と後述のポリアミンを予め予備反応させたエポキシ樹脂を使用してもよい。このようなエポキシ樹脂はエポキシ樹脂中に3級アミン構造を有するため、反応性に優れる傾向を示す。さらに、ポリアミンとして芳香族ポリアミンを用いることにより、強度や弾性率および反応性を両立したエポキシ樹脂が得られるため、求めるプリプレグ特性に合わせて使用できる。
【0023】
[成分(B)]
成分(B)は、脂環式ポリカーボネート樹脂および脂環式ポリエステル樹脂の少なくとも一方である。マトリクス樹脂組成物は、脂環式ポリカーボネート樹脂および脂環式ポリエステル樹脂のいずれか一方を含んでいてもよく、両方を含んでいてもよい。脂環式ポリカーボネート樹脂と脂環式ポリエステル樹脂とを共重合した共重合体を含んでいてもよい。マトリクス樹脂組成物が成分(B)を含むことで、靭性を維持し、かつ強度や弾性率に優れた繊維強化複合材料を得ることができる。また、マトリクス樹脂組成物に含まれる塩基性硬化剤による加水分解等による粘度低下を抑制することができる。
成分(B)としては、ガラス転移点(Tg)が50℃以上である樹脂を含むことが好ましく、ガラス転移点(Tg)は60℃以上であることがより好ましく、70℃以上であることがさらに好ましく、80℃以上であることが特に好ましく、90℃以上であることが最も好ましい。ガラス転移点(Tg)が50℃以上であれば、プリプレグを成形する際に、昇温中に急激に粘度が低下してしまうことによる樹脂のはみだしを抑制し、繊維強化複合材料のガラス転移点の低下や、加熱環境下での機械物性の低下を抑制することができる。またガラス転移点(Tg)は、エポキシ樹脂に溶解する工程を鑑みて、180℃以下とすることができる。ガラス転移点(Tg)の測定は、実施例に記載の方法を適用し得る。なお、成分(B)が結晶性の場合は、ガラス転移点は軟化点を意味するものとする。
ガラス転移点(Tg)は、成分(B)の製造時に使用するモノマーの種類やその配合割合を調整する、重合温度を調整する、添加剤の添加量を調整する等の方法により、上記範囲に調整することができる。
脂環式ポリカーボネート樹脂のガラス転移点(Tg)と相関する物性として重合度(具体的には、分子量)があり、重合度が一定以上高くなれば還元粘度で表すことができる事が知られている。低ガラス転移点であり、低重合度(低分子量)であるポリカーボネートジオール等の例外を除き、成分(B)の重合度(具体的には、分子量)は、還元粘度により測定される。
脂環式ポリカーボネート樹脂としては、還元粘度が0.2dL/g以上であることが好ましく、還元粘度の下限は0.3dL/gがより好ましく、0.35dL/gがさらに好ましい。これにより、得られるマトリクス樹脂組成物の常温でのタック性や耐熱性の低下が抑制される他、硬化後のマトリクス樹脂組成物の破壊靭性や機械物性が向上する。また還元粘度の上限は、通常1.2dL/gであり、1dL/gが好ましく、0.8dL/gがより好ましい。これにより、液状樹脂への溶解が容易となる。還元粘度の測定は、実施例に記載の方法を適用し得る。
成分(B)としては、塩基性硬化剤による加水分解を抑制できる観点から、下記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を有する樹脂を含むことが好ましい。
【0024】
【0025】
成分(B)は、一般公知の分析方法で、もしくはこれらの分析方法を組み合わせることにより高精度で分析できる。例えば、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)分析や凍結粉砕後の溶媒抽出を組み合わせてもよい。
赤外吸収分光法によれば、カーボネート結合由来のカルボニル基の吸収として1760~1780cm-1近傍にピークが観測される。
NMR分析によれば、成分(B)の構造単位のシグナルが得られるため、シグナルのパターンやシフトなどからポリマー構造に組み込まれているか否かが分かる。
反応熱分解GC-MSによれば、構造単位を検出できるため、構造単位に相当する化合物を標品として、NMRのシグナルを比較することで確度を高めることができる。
また、カーボネート基に隣接するHのシグナルのブロードニングによって、成分(B)の分子量、還元粘度およびガラス転移点が得られる。なおこの際、類似物質を標品とすることで精度を高めることができる。
【0026】
<脂環式ポリカーボネート樹脂>
脂環式ポリカーボネート樹脂は、従来公知の方法で製造することができる。例えば、ホスゲンを用いた溶液重合法、炭酸ジエステルと反応させる溶融重合法が挙げられ、重合触媒の存在下に、ジヒドロキシ化合物を、より毒性の低い炭酸ジエステルと反応させる溶融重合法が好ましい。
【0027】
炭酸ジエステルとしては、一般公知の材料を使用することができるが、例えば、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等の置換ジフェニルカーボネート;ジメチルカーボネート;ジエチルカーボネート;ジ-t-ブチルカーボネートが例示される。ジフェニルカーボネート、置換ジフェニルカーボネートが好ましく、ジフェニルカーボネートがさらに好ましい。ジフェニルカーボネートを用いた場合は、フェノールが樹脂に残存し得る。しかし、フェノールは成分(A)と成分(C)の促進作用により定量的に反応し得るため、プリプレグを成形する工程で微量に残存したフェノールは定量的に反応し、繊維強化複合材料中には未反応フェノールは残存しなくなる。そのため、プリプレグ中にフェノールや炭酸ジエステルが残存していてもよい。
【0028】
溶融重合法における重合触媒(エステル交換触媒)としては、従来公知の材料を使用することができ、例えば、アルカリ金属化合物およびアルカリ土類金属化合物の一方又は両方が使用される。アルカリ金属化合物およびアルカリ土類金属化合物の一方又は両方と共に補助的に、例えば、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物等の塩基性化合物を併用してもよい。アルカリ金属化合物およびアルカリ土類金属化合物の一方又は両方のみを使用することが特に好ましい。
【0029】
ジヒドロキシ化合物としては、下記式(1)で表される構造を有する化合物、脂環式ジヒドロキシ化合物、その他のジヒドロキシ化合物を使用することができる。繊維強化複合材料のTgを低下させない観点から、脂環式ポリカーボネート樹脂が、下記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むことが好ましい。
【0030】
【0031】
脂環式ポリカーボネート樹脂を構成する構造単位の成分比(モル比)は任意の割合で選択できるが、その割合は、「式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位:式(1)で表されるジヒドロキシ化合物以外のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位」として、1:99~99:1(モル%)が好ましく、10:90~90:10(モル%)がより好ましい。式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を用いることにより、Tgが高くなり、さらに樹脂の分子量を上げやすくなるため繊維強化複合材料の靭性を向上させることができる。式(1)で表されるジヒドロキシ化合物以外のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を用いることにより、着色や吸水を抑制して繊維強化複合材料の寸法変化による機械物性低下を抑制できる。
なお、大きく性能を損なうことのない範囲において、例えば、可撓性向上、粘度低減、極性調整の意図でその他のジヒドロキシ化合物を含んでもよい。
【0032】
式(1)で表されるジヒドロキシ化合物としては、その異性体も含めイソソルビド、イソマンニド、イソイデットが挙げられ、一種を単独で使用してもよく、二種以上を組み合わせてもよい。資源として豊富に存在し、容易に入手可能なデンプンから製造されるソルビトール由来のイソソルビドが、経済性や入手の容易さから好ましい。
【0033】
脂環式ジヒドロキシ化合物としては、従来公知の原料を使用することができ、例えば、5員環構造や6員環構造を含む化合物を用いることができる。シクロヘキサンジメタノール類、トリシクロデカンジメタノール類、ペンタシクロペンタデカンジメタノール類、デカリンジメタノール類、ノルボルナンジメタノール類、アダマンタンジオール類等が例示できる。6員環構造は共有結合によって椅子形もしくは舟形に固定されていてもよい。
脂環式ジヒドロキシ化合物としては、例えば、1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、ペンタシクロペンタデカンジメタノール、2,6-デカリンジメタノール、1,5-デカリンジメタノール、2,3-デカリンジメタノール、2,3-ノルボルナンジメタノール、2,5-ノルボルナンジメタノール、1,3-アダマンタンジメタノール等が挙げられ、これらは各種置換基が修飾された化合物であってもよい。置換基としては、アリール基、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子などが挙げられる。着色や吸水を抑制して繊維強化複合材料の寸法変化による機械物性低下を抑制できることから、脂環式ポリカーボネート樹脂が、前記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位とともに、1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、ペンタシクロペンタデカンジメタノール、2,6-デカリンジメタノール、1,5-デカリンジメタノール、2,3-デカリンジメタノール、2,3-ノルボルナンジメタノール、2,5-ノルボルナンジメタノール、および1,3-アダマンタンジメタノールからなる群より選ばれる少なくとも一種の脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を有することが好ましい。
【0034】
さらに、脂環式ジヒドロキシ化合物としては、例えば、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジエチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-(3,5-ジフェニル)フェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジブロモフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,4’-ジヒドロキシ-ジフェニルメタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4-ヒドロキシ-5-ニトロフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、3,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、2,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジクロロジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシ-2,5-ジエトキシジフェニルエーテル、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ-2-メチル)フェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシエ-2-メチルフェニル)フルオレン等の芳香族ビスフェノール類を水素添加して芳香核を水添したジヒドロキシ化合物を使用してもよい。なお、芳香核の水添時のプロセス経済性を鑑みて、ジヒドロキシ化合物は、未水添の芳香族ビスフェノール類を含んでもよい。その場合は、未水添の芳香族ビスフェノール類の含有割合は、ジヒドロキシ化合物100質量%中10質量%以下が好ましく、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下である。
脂環式ジヒドロキシ化合物は、一種を単独で使用してもよく、二種以上を組み合わせてもよい。シクロヘキサンジメタノール類、トリシクロデカンジメタノール類、アダマンタンジオール類、ペンタシクロペンタデカンジメタノール類が好ましく、入手のしやすさ、取り扱いのしやすさから、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,2-シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノールが好ましい。
【0035】
他のジヒドロキシ化合物としては、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,2-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,12-ドデカンジオール、水素化ジリノレイルグリコール,水素化ジオレイルグリコール等の直鎖脂肪族ジヒドロキシ化合物や、1,3-ブチレングリコール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、2-エチル-1,6-ヘキサンジオール、2,2,4-トリメチル-1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-n-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、1,2-ヘキサングリコール、1,2-オクチルグリコール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2,3-ジイソブチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジイソアミル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-2-プロピル-1,3-プロパンジオール等の分岐脂肪族ジヒドロキシ化合物、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコールなどのオキシアルキレングリコール類が挙げられる。
直鎖脂肪族ジヒドロキシ化合物としては、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオールが好ましく、分岐脂肪族ジヒドロキシ化合物としては、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-n-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオールが好ましい。
【0036】
<脂環式ポリエステル樹脂>
脂環式ポリエステル樹脂は、従来公知の方法で製造することができる。例えば、下記の方法が挙げられる。まず多価カルボン酸成分および多価アルコール成分を含む単量体混合物を反応容器に投入し、加熱昇温して、エステル化反応またはエステル交換反応を行い、反応で生じた水または多価アルコールを除去する。その後引き続き重縮合反応を実施する。このとき反応装置内を徐々に減圧し、150mmHg(20kPa)以下、好ましくは15mmHg(2kPa)以下の真空下で多価アルコールを留出除去しながら重縮合を行う。脂環式ポリエステル樹脂の原料となる多価カルボン酸は、通常、遊離酸の形態で用いられるが、これらの多価カルボン酸は、炭素数1~4程度のアルキルエステル、ハロゲン化物、およびアルカリ金属塩などの誘導体としても用いることができる。これら多価カルボン酸とその誘導体とをまとめて「多価カルボン酸成分」とも称する。
【0037】
エステル化反応、エステル交換反応、重縮合反応時に用いる触媒としては、例えば、チタン系触媒;酢酸カルシウム;酢酸カルシウム水和物;ジブチルスズオキシド、酢酸スズ、二硫化スズ、酸化スズ、2-エチルヘキサンスズ等のスズ系触媒;酢酸亜鉛;三酸化アンチモン;二酸化ゲルマニウムが挙げられる。反応性が良好な点からチタン系触媒が好ましい。
【0038】
多価カルボン酸成分のうち、2価のカルボン酸成分としては、例えば、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸の異性体(具体的には1,4-、1,5-、1,6-、1,7-、2,5-、2,6-、2,7-、2,8-)等の芳香族ジカルボン酸;コハク酸、セバシン酸、イソデシルコハク酸、ドデセニルコハク酸、マレイン酸、アジピン酸、フランジカルボン酸、マロン酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、ブラシル酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、タプシン酸、ヘプタデカン二酸、ジプロピルマロン酸、3-エチル-3-メチルグルタル酸、3,3-テトラメチレングルタル酸、ダイマー酸、水添ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸類;1,1-シクロプロパンジカルボン酸、1,2-シクロプロパンジカルボン酸、1,1-シクロブタンジカルボン酸、1,2-シクロブタンジカルボン酸、1,2-シクロペンタンジカルボン酸、1,3-シクロペンタンジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、デカヒドロ-1,4-ナフタレンジカルボン酸、2,3-ノルボルナンジカルボン酸、1,3-アダマンタンジカルボン酸、2,5-フランジカルボン酸、3,4-フランジカルボン酸、ポリフランジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;およびこれらの誘導体が挙げられる。
【0039】
多価カルボン酸成分のうち、3価以上のカルボン酸成分としては、例えば、トリメリット酸、ピロメリット酸、1,2,4-シクロヘキサントリカルボン酸、2,5,7-ナフタレントリカルボン酸、1,2,4-ナフタレントリカルボン酸、1,2,5-ヘキサントリカルボン酸、1,2,7,8-オクタンテトラカルボン酸、およびこれらの誘導体が挙げられる。これらの多価カルボン酸成分は単独で用いてもよいし、複数種用いてもよい。
【0040】
成分(A)に溶解させる観点から、多価カルボン酸成分としては2価カルボン酸成分を用いることが好ましい。得られる脂環式ポリエステル樹脂の機械物性やTg向上の観点から、環状構造を有する2価カルボン酸成分が好ましい。環境負荷低減の観点では、天然物やバイオマス由来の成分として、イソフタル酸、テレフタル酸、コハク酸、セバシン酸、イソデシルコハク酸、ドデセニルコハク酸、マレイン酸、アジピン酸、フランジカルボン酸を用いることが好ましい。フランジカルボン酸が環境負荷低減に加え、得られる脂環式ポリエステル樹脂の機械物性やTg向上の観点からより好ましい。
【0041】
多価アルコール成分のうち、2価アルコール成分、すなわちジヒドロキシ化合物としては、式(1)で表される構造を有する化合物を除くと、例えば、エチレングリコール、2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-プロパンジオール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、ポリテトラメチレングリコール、1,5-ペンタンジオール、ポリペンタメチレングリコール、1,6-ヘキサンジオール、ポリヘキサメチレングリコール、1,7-ヘプタンジオール、ポリヘプタメチレングリコール、1,8-オクタンジオール、1,10-デカンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール等の鎖状構造を有するジオール類や、1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、ペンタシクロペンタデカンジメタノール、2,6-デカリンジメタノール、1,5-デカリンジメタノール、2,3-デカリンジメタノール、2,3-ノルボルナンジメタノール、2,5-ノルボルナンジメタノール、1,3-アダマンタンジメタノール、エリスリタン等の脂環式ジオール類が挙げられる。
【0042】
多価アルコール成分のうち、3価以上のアルコール成分としては、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、キシリトール、スクロース、グルコース、ソルビトール、エリスリトール等が挙げられる。これらの多価アルコールは単独で用いてもよいし複数種用いてもよい。
【0043】
成分(A)に溶解させる観点から、多価アルコール成分としてはジヒドロキシ化合物を用いることが好ましい。環境負荷低減の観点から天然物やバイオマス由来の成分として、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、グリセリン、イソソルビド、イソマンニド、エリスリタン、ソルビトール、エリスリトールを用いることが好ましく、イソソルビド、エリスリタン等の環状構造を有するアルコールを用いることがより好ましい。
ジヒドロキシ化合物としては、下記式(1)で表される構造を有する化合物、脂環式ジヒドロキシ化合物、その他のジヒドロキシ化合物を使用することができる。繊維強化複合材料のTgを低下させない観点から、脂環式ポリエステル樹脂が、下記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むことが好ましい。すなわち、2価アルコール成分として下記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物を用いることが好ましい。
【0044】
【0045】
脂環式ポリエステル樹脂を構成する構造単位の成分比(モル比)は任意の割合で選択できるが、その割合は、式(1)で表される化合物と多価アルコールおよび多価カルボン酸成分の総和に対する式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する成分比が1~50(モル%)であることが好ましく、10~45(モル%)であることがより好ましい。式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を用いる上記範囲で有することにより、Tgの向上、樹脂硬度の向上が生じることで、繊維強化複合材料の靭性を維持しながら、強度および弾性率を向上させることができるため好ましい。
なお、大きく性能を損なうことのない範囲において、例えば、可撓性向上、粘度低減、極性調整の意図でその他のジヒドロキシ化合物を含んでもよい。
式(1)で表されるジヒドロキシ化合物としては、その異性体も含めイソソルビド、イソマンニド、イソイデットが挙げられ、一種を単独で使用してもよく、二種以上を組み合わせてもよい。資源として豊富に存在し、容易に入手可能なデンプンから製造されるソルビトール由来のイソソルビドが、経済性や入手の容易さから好ましい。
硬化剤を含むマトリクス樹脂組成物としての熱安定性、機械物性や耐熱性に優れる点から、脂環式ポリエステル樹脂が、前記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位とともに、テレフタル酸、イソフタル酸、トリメリット酸、2,5-フランジカルボン酸、コハク酸、イソデシルコハク酸、ドデセニルコハク酸、マレイン酸、アジピン酸、グルタン酸、セバシン酸、エチレングリコール、2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、ソルビトール、エリスリトール、エリスリタン、およびグリセリンからなる群より選ばれる少なくとも一種に由来する構造単位を有することが好ましい。
【0046】
脂環式ポリエステル樹脂の末端基は、多価アルコール由来の水酸基でも、多価カルボン酸由来のカルボン酸でもよい。マトリクス樹脂組成物中での安定性の観点から、多価アルコール由来の水酸基末端が好ましい。水酸基末端であれば、脂環式ポリエステル樹脂が成分(A)への溶解時に成分(A)と無触媒では容易に反応しない上、塩基性硬化剤との反応も起こさないためプリプレグ品質への影響を少なくすることができる。
【0047】
脂環式ポリエステル樹脂は、カルボン酸末端のポリエステル樹脂を成分(A)で例示したエポキシ樹脂やエピクロロヒドリンを付加させて得られる末端変性ポリエステル樹脂であってもよい。
【0048】
<配合量>
成分(B)全体の配合量は、繊維強化複合材料の靭性向上や強度弾性率向上の観点から、全エポキシ樹脂100質量部に対して、1質量部以上が好ましく、5質量部以上がより好ましく、8質量部以上が特に好ましい。成分(B)全体の配合量は、炭素繊維への含浸性やプリプレグを積層する場合の取扱性の観点から、全エポキシ樹脂100質量部に対して、45質量部以下が好ましく、40質量部以下がより好ましく、35質量部以下がさらに好ましく、30質量部以下が特に好ましい。
また成分(B)全体の配合量は、繊維強化複合材料の靭性向上や強度弾性率向上の観点から、マトリクス樹脂組成物100質量%中、0.5質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、10質量%以上がさらに好ましい。成分(B)全体の配合量は、強化繊維への含浸性やプリプレグを積層する場合の取扱性の観点から、マトリクス樹脂組成物の総質量に対して、35質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、25質量%以下がさらに好ましく、20質量%以下が特に好ましい。
スポーツ用途や自動車部材等に繊維強化複合材料を使用する場合には、破壊靭性、衝撃吸収、加工時のねばり特性等の向上の観点から、マトリクス樹脂組成物の総質量に対して、成分(B)全体の配合量を8質量%以上45質量%以下とすることもできる。
プリプレグ中の成分(B)全体の含有量は、プリプレグの総質量に対して、1~50質量%や10~40質量%とすることができる。
【0049】
[成分(C)]
成分(C)は硬化剤であり、この成分(C)は成分(A)のエポキシ樹脂の硬化に寄与する化合物であれば特に制限されない。硬化剤は、ジシアンジアミド類、ウレア化合物、酸ヒドラジド化合物、およびイミダゾール類からなる群から選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましい。硬化物や成形板のガラス転移点が高くなる点や成形時間の短縮化の観点から、イミダゾール類が特に好ましい。また以上の硬化剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。その他の硬化剤としてアミン類を含んでもよい。
【0050】
ジシアンジアミド類は、例えばジシアンジアミドや、成分(A)で上げたエポキシ樹脂と予備反応させたものを用いることができる。シアンジアミド類は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0051】
ウレア化合物としては、例えばウレイド基が芳香環に結合した芳香族ウレア、ウレイド基が脂肪族鎖に結合した脂肪族ウレアが挙げられる。
【0052】
脂肪族ウレアとしては、下記式(2)で表されるウレアが挙げられる。
R1-NH-CO-NR2R3 …(2)
(式(2)中、R1は水素原子または炭素数1~6のアルキル基、R2およびR3はそれぞれ独立して炭素数1~6のアルキル基を表す。)
アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソプロピル基、t-ブチル基が挙げられ、メチル基、エチル基が特に好ましい。
脂肪族ウレアとしては、例えば、イソホロンジイソシアネートとジメチルアミンとから得られるジメチルウレア、m-キシリレンジイソシアネートとジメチルアミンとから得られるジメチルウレア、ヘキサメチレンジイソシアネートとジメチルアミンとから得られるジメチルウレアが挙げられる。
【0053】
芳香族ウレアとしては、例えば、フェニルジメチルウレア、メチレンビス(フェニルジメチルウレア)、トリレンビス(ジメチルウレア)などの芳香族ジメチルウレアが挙げられる。芳香族ジメチルウレアの具体例としては、例えば、4,4’-メチレンビス(フェニルジメチルウレア)(MBPDMU)、3-フェニル-1,1-ジメチルウレア(PDMU)、3-(3,4-ジクロロフェニル)-1,1-ジメチルウレア(DCMU)、3-(3-クロロ-4-メチルフェニル)-1,1-ジメチルウレア、2,4-ビス(3,3-ジメチルウレイド)トルエン(TBDMU)が挙げられる。硬化促進能力や樹脂硬化物への耐熱性付与といった点から、フェニルジメチルウレア、メチレンビス(フェニルジメチルウレア)、トリレンビス(ジメチルウレア)がより好ましく、調達の容易さや、短時間で硬化させやすい点、樹脂硬化物の高い耐熱性を発現できる点から、DCMU、PDMU、TBDMUが特に好ましい。ウレア化合物は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
酸ヒドラジド化合物としては、芳香族ヒドラジド化合物と脂肪族ヒドラジド化合物が挙げられる。
芳香族ヒドラジド化合物としては、例えば、サリチル酸ヒドラジド、安息香酸ヒドラジド、1-ナフトエ酸ヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、2,6-ナフトエ酸ジヒドラジド、2,6-ピリジンジヒドラジド、1,2,4-ベンゼントリヒドラジド、1,4,5,8-ナフトエ酸テトラヒドラジド、ピロメリット酸テトラヒドラジドが挙げられる。
脂肪族ヒドラジド化合物としては、例えば、ホルムヒドラジド、アセトヒドラジド、プロピオン酸ヒドラジド、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、ピメリン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、1,4-シクロヘキサンジヒドラジド、酒石酸ジヒドラジド、リンゴ酸ジヒドラジド、イミノジ酢酸ジヒドラジド、N,N’-ヘキサメチレンビスセミカルバジド、クエン酸トリヒドラジド、ニトリロ酢酸トリヒドラジド、シクロヘキサントリカルボン酸トリヒドラジド、1,3-ビス(ヒドラジノカルボノエチル)-5-イソプロピルヒダントイン等のヒダントイン骨格、好ましくはバリンヒダントイン骨格(ヒダントイン環の炭素原子がイソプロピル基で置換された骨格)を有するジヒドラジド化合物、トリス(1-ヒドラジノカルボニルメチル)イソシアヌレート、トリス(2-ヒドラジノカルボニルエチル)イソシアヌレート、トリス(3-ヒドラジノカルボニルプロピル)イソシアヌレート、ビス(2-ヒドラジノカルボニルエチル)イソシアヌレートが挙げられる。
酸ヒドラジド化合物は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0054】
イミダゾール類としては、例えば、イミダゾール誘導体、イミダゾールアダクト、包接イミダゾール、マイクロカプセル型イミダゾール、安定化剤を配位させたイミダゾール化合物を用いることができる。イミダゾール類がその構造中に有する非共有電子対を有する窒素原子がエポキシ基を活性化するため、硬化を促進することができる。
イミダゾール誘導体としては、例えば、2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、2-ヘプタデシルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-フェニルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾリウムトリメリテイト、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾリウムトリメリテイト、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾリウムトリメリテイト、2,4-ジアミノ-6-(2’-メチルイミダゾリル-(1’))-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-(2’-ウンデシルイミダゾリル-(1’))-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-(2’-エチル-4-メチルイミダゾリル-(1’))-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-(2’-メチルイミダゾリル-(1’))-エチル-s-トリアジン イソシアヌル酸付加物、2-フェニルイミダゾール イソシアヌル酸付加物、2-メチルイミダゾール イソシアヌル酸付加物、1-シアノエチル-2-フェニル-4,5-ジ(2-シアノエトキシ)メチルイミダゾール、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾールが挙げられる。
イミダゾールアダクト、包接イミダゾール、マイクロカプセル型イミダゾール、あるいは安定化剤を配位させたイミダゾール化合物は、これらのイミダゾール誘導体にアダクト処理、異分子による包接処理、マイクロカプセル処理、あるいは安定化剤を配位させることで活性を抑制し、低温領域で優れたポットライフを発現しつつも硬化や硬化促進能力が高い。
イミダゾール類は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0055】
アミン類としては、特に限定されるものではないが、例えば、鎖状脂肪族ポリアミン(例えば、ジエチレントリアミン、テトラエチレンペンタミン、ヘキサメチレンジアミン、1,3-ペンタンジアミン、2-メチルペンタメチレンジアミン)、脂環式ポリアミン(例えば、イソホロンジアミン、4,4’-メチレンビスシクロヘキシルアミン、4,4’-メチレンビス(2-メチルシクロヘキシルアミン)、ビス(アミノメチル)ノルボルナン、1,2-シクロヘキサンジアミン、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン)、芳香族ポリアミン(例えば、m-キシリレンジアミン、4,4’-メチレンジアニリン、4,4’-メチレンビス(2-メチルアニリン)、4,4’-メチレンビス(2-エチルアニリン)、4,4’-メチレンビス(2-イソプロピルアニリン)、4,4’-メチレンビス(2-クロロアニリン)、4,4’-メチレンビス(2,6-ジメチルアニリン)、4,4’-メチレンビス(2,6-ジエチルアニリン)、4,4’-メチレンビス(2-イソプロピル-6-メチルアニリン)、4,4’-メチレンビス(2-エチル-6-メチルアニリン)、4,4’-メチレンビス(2-ブロモ-6-エチルアニリン)、4,4’-メチレンビス(N-メチルアニリン)、4,4’-メチレンビス(N-エチルアニリン)、4,4’-メチレンビス(N-sec-ブチルアニリン)、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-シクロヘキシリデンジアニリン、4,4’-(9-フルオレニリデン)ジアニリン、4,4’-(9-フルオレニリデン)ビス(N-メチルアニリン)、4,4’-ジアミノベンズアニリド、4,4’-オキシジアニリン、2,4-ビス(4-アミノフェニルメチル)アニリン、4-メチル-m-フェニレンジアミン、2-メチル-m-フェニレンジアミン、N,N’-ジ-sec-ブチル-p-フェニレンジアミン、2-クロロ-p-フェニレンジアミン、2,4,6-トリメチル-m-フェニレンジアミン、2,4-ジエチル-6-メチル-m-フェニレンジアミン、4,6-ジエチル-2-メチル-m-フェニレンジアミン、4,6-ジメチル-m-フェニレンジアミン、トリメチレンビス(4-アミノベンゾエート))が挙げられる。
これらのアミン類は、アダクトやブロック体として使用してもよい。
【0056】
成分(C)全体の配合量としては、エポキシ樹脂を十分に硬化させることができることから、全エポキシ樹脂100質量部に対して、0.5質量部以上が好ましく、1.0質量部以上がより好ましい。また、貯蔵安定性に優れることから、全エポキシ樹脂100質量部に対して、40質量部以下が好ましく、20質量部以下がより好ましく、15質量部以下が特に好ましい。
ジシアンジアミド類を用いる場合は、成形時の取り扱い性の観点からウレア化合物やイミダゾール類を併用してもよい。
ジシアンジミド類とウレア化合物を併用する場合の質量比(ジシアンジミド類/ウレア化合物)は、例えば1.0~2.0とすることができる。
ジシアンジミド類とイミダゾール類を併用する場合の質量比(ジシアンジミド類/イミダゾール類)は、例えば0.01~1.0とすることができる。
ジシアンアミド類、ウレア化合物およびイミダゾール類を併用する場合の質量比(イミダゾール類/ウレア化合物)は、0.01~10とすることができる。
酸ヒドラジド化合物を用いる場合は、ウレア化合物やイミダゾール類を併用してもよい。
酸ヒドラジド化合物とウレア化合物を併用する場合の質量比(酸ヒドラジド化合物/ウレア化合物)は、例えば1.0~2.0とすることができる。
酸ヒドラジド化合物とイミダゾール類を併用する場合の質量比(酸ヒドラジド化合物/イミダゾール類)は、例えば0.01~1.0とすることができる。
【0057】
[成分(D)]
成分(D)は、ホウ酸化合物である。マトリクス樹脂組成物が成分(B)を含む場合に、ホウ酸化合物を含むことでカーボネートやエステルの加水分解に伴うマトリクス樹脂組成物の粘度低下を抑えることができる。その結果、プリプレグ製造時の品質斑を低減できることから、性能や品質に優れたプリプレグ、および繊維強化複合材料を提供することができる。
ホウ酸化合物は、樹脂単体において末端官能基による分子量低下や着色を抑制することや、エポキシ樹脂と硬化剤との反応に伴い貯蔵安定性を向上させることが知られている。しかしながら、マトリクス樹脂組成物が成分(B)を含む場合は、ホウ酸化合物は成分(B)に由来する加水分解等による粘度低下を抑制する。すなわち本発明におけるホウ酸化合物の作用効果は、従来知られているものとは異なる。
【0058】
ホウ酸化合物としては、例えば、ホウ酸エステル、ホウ酸、ハロゲン化ホウ酸塩、フェニルホウ酸塩が挙げられる。ホウ酸化合物は、水との親和性に優れるためプリプレグの貯蔵時等の吸湿により変性する懸念がある。そのため、塩構造と異なり、予めアルキル基や芳香族骨格を導入したホウ酸エステルが好ましい。
ホウ酸エステルとしては、例えば、1価のアルコールが3分子ホウ素原子に付加したアルキルホウ酸エステル、1価の芳香族水酸基を有する化合物がホウ素原子に3分子付加した芳香族ホウ酸エステル、多価アルコールがホウ素原子に少なくとも1分子付加した環状ホウ酸エステルを使用することができる。
【0059】
アルキルホウ酸エステルとしては、例えば、トリメチルボレート、トリエチルボレート、トリブチルボレート、トリ-n-オクチルボレート、トリ(トリエチレングリコールメチルエーテル)ホウ酸エステル、トリシクロヘキシルボレート、トリメンチルボレートが挙げられる。
【0060】
芳香族ホウ酸エステルとしては、例えば、トリフェニルボレート、トリ-o-クレジルボレート、トリ-m-クレジルボレート、トリ-p-クレジルボレート、トリフェニルボレート、トリ(1,3-ブタンジオール)ビボレート、トリ(2-メチル-2,4-ペンタンジオール)ビボレート、トリオクチレングリコールジボレートが挙げられる。
【0061】
環状ホウ酸エステルとしては、例えば、トリス-o-フェニレンビスボレート、ビス-o-フェニレンピロボレート、ビス-2,3-ジメチルエチレンフェニレンピロボレート、ビス-2,2-ジメチルトリメチレンピロボレート、5、5ジメチル-2-フェニル-1,3,2-ジオキサボリナン、2-イソプロポキシ-4,4,6-トリメチル-1,3,2-ジオキサボリナン、トリメトキシシクロトリボロキサン、2-メトキシ-4,4,5,5,-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン、2-エトキシ-4,4,5,5,-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン、2-イソプロポキシ-4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン、2,4,4,5,5-ペンタメチル-1,3,2-ジオキサボロランが挙げられる。
以上のホウ酸化合物は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
ホウ酸化合物自体の耐加水分解性や揮発性等を鑑みて、芳香族ホウ酸エステルや環状ホウ酸エステルが好ましい。これらのホウ酸化合物を用いることで、プリプレグ中のホウ酸エステル濃度を維持しやすく、その結果プリプレグの製造プロセス中での品質変化を抑制できる。
【0062】
ホウ酸エステルを含む製品としては、キュアダクトL-07N(四国化成工業社製)が挙げられる。
【0063】
成分(D)の配合量は、全エポキシ樹脂100質量部に対し、0.01~20質量部であることが好ましい。前記範囲内とすることで、マトリクス樹脂組成物の熱安定性を維持しながら、成形加工時の成形性を低下させずに、優れた繊維強化複合材料を得ることができる。成分(D)の配合量の下限は0.02質量部がより好ましい。また上限は15質量部がより好ましく、10質量部がさらに好ましく、5質量部が特に好ましく、1質量部が最も好ましい。
成分(D)と成分(B)の質量比([成分(D)の質量]/[成分(B)の質量])は、加熱時の粘度低下抑制の観点から、0.001~1であることが好ましく、0.005~0.8がより好ましい。
【0064】
[成分(E)]
成分(E)は、フェノール樹脂である。マトリクス樹脂組成物はフェノール樹脂を含んでもよく、フェノール樹脂を含むことで、成分(D)による加水分解抑制の効果をより向上させることができる。
【0065】
フェノール樹脂としては、例えば、カテコール、4-t-ブチルカテコール、ピロガロール、レゾルシノール、ハイドロキノン、フロログルシノール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ジヒドロキシビフェニル、ジヒドロキシナフタレン、1,1,1-トリス(4-ヒドロキシフェニル)エタンおよびビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン等の化合物、ノボラック型あるいはレゾール型のフェノール樹脂ならびにポリビニルフェノール等のフェノール系重合体が挙げられる。
結晶性や安定性に優れ、分子量の制御によって粘度や軟化点の制御を行いやすい点から、ノボラック型のフェール樹脂が好ましく、成分(A)へ分散させる観点から、軟化点が100℃以下であるフェノール樹脂がより好ましい。
マトリクス樹脂組成物が成分(E)を含む場合の配合量は、全エポキシ樹脂100質量部に対し、0.01~10質量部であることが好ましい。また、成分(E)と成分(D)の質量比([成分(E)の質量]/[成分(D)の質量])は、0.5~2であることが好ましい。前記範囲内とすることで、エポキシ樹脂と硬化剤との反応を阻害することなく、加水分解を抑制することができる。その結果、マトリクス樹脂組成物の反応性や耐熱性を維持したまま、粘度低下を抑えることができる。
【0066】
[熱可塑性樹脂]
マトリクス樹脂組成物は、その他の成分として熱可塑性樹脂(成分(B)以外の樹脂を意味する。)を含んでもよく、熱可塑性樹脂を含むことで極性を制御し、相分離の抑制や相分離の誘起、溶融引力の制御による成形性の向上が可能である。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアミド、成分(B)以外のポリカーボネートまたはポリエステル、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテル、ポリオレフィン、ポリアリレート、ポリスルフォン、ポリアクリロニトリルスチレン、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリメチルメタクリレート、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体)、AES(アクリロニトリル・エチレンプロピレンゴム・スチレン共重合体)、ASA(アクリロニトリル・アクリルゴム・スチレン共重合体)、ポリ塩化ビニル、ポリビニルホルマール樹脂、フェノキシ樹脂、およびこれらの熱可塑性樹脂をブロック共重合して得られる樹脂が挙げられる。
なお、大きく性能を損なうことのない範囲において芳香族ポリカーボネート樹脂を含んでもよいが、得られる繊維強化複合材料の強度および弾性率の観点から、芳香族ポリカーボネート樹脂を含まないことが好ましい。
【0067】
成形時の樹脂のはみだしを抑制できることから、ポリエーテルスルホン、ポリビニルホルマール樹脂、フェノキシ樹脂がより好ましい。
熱可塑性樹脂は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0068】
マトリクス樹脂が熱可塑性樹脂を含む場合、その含有量としては、全エポキシ樹脂100質量部に対して1質量部以上45質量部以下の範囲内で調整することができる。成形時の樹脂のはみだしを抑制できる観点から、成分(B)と熱可塑性樹脂との合計値が、全エポキシ樹脂100質量部に対して1質量部以上45質量部以下となるように調整されることが好ましく、2質量部以上40質量部以下がより好ましい。また成形時の樹脂のはみだしを抑制できる観点から、成分(B)と熱可塑性樹脂との合計値が、マトリクス樹脂組成物の総質量に対して1質量%以上45質量%以下となるように調整されることが好ましく、2質量%以上40質量%以下がより好ましい。
【0069】
[添加剤]
マトリクス樹脂に含まれうる添加剤としては、難燃剤、離型剤、無機質充填剤、有機質充填材、有機顔料、無機顔料が挙げられる。
難燃剤としては、リン系難燃剤(例えば、リン含有エポキシ樹脂、赤燐、ホスファゼン化合物、リン酸塩類、リン酸エステル類)、無機系難燃剤として水和金属化合物系(例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム)、無機酸化物(例えば、アンチモン化合物、硼酸亜鉛,錫酸亜鉛,Mo化合物,ZrO,硫化亜鉛,ゼオライト,酸化チタンナノフィラー系)が挙げられる。
離型剤としては、例えば、シリコーンオイル、湿潤分散剤、消泡剤、脱泡剤、天然ワックス類、合成ワックス類、直鎖脂肪酸の金属塩、酸アミド、エステル類、パラフィン類等が挙げられる。
無機質充填剤としては、例えば、結晶質シリカ、非晶質シリカ、溶融シリカ、ケイ酸カルシウム、アルミナ、炭酸カルシウム、タルク、硫酸バリウム等の粉体;ガラス繊維;短尺炭素繊維が挙げられる。
有機質充填剤としては、例えば、セルロース繊維、フラックス繊維、ラミー繊維、ヘンプ繊維、木質粉が挙げられる。有機質充填剤の繊維は、連続繊維形態、ナノファイバー形態、またはミルドファイバー形態であってもよく、表面親水性処理や疎水性処理を施されていてもよい。
添加剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
成形時の樹脂のはみだしを抑制したい場合は、結晶性シリカ、非晶質シリカを用いうる。結晶性シリカもしくは非晶質シリカの粒子径が小さいほど樹脂のはみだしの抑制効果が向上する。安全性の観点から非晶質シリカがより好ましい。また、バイオマス度を向上させたい場合は天然原料から製造される非晶質シリカを用いることができる。
添加剤として結晶性シリカまたは非晶性シリカを用いる場合の配合量は、結晶性シリカまたは非晶性シリカの粒子径に応じて適宜調整でき、例えば、全エポキシ樹脂100質量部に対して0.1~30質量部であることが好ましい。前記範囲内とすることで、成形時の樹脂のはみだしの抑制と、プリプレグおよび繊維強化複合材料の質量増加の抑制を両立することができる。
結晶性シリカまたは非晶性シリカを用いる場合の粒子径は、メディアン径D50において、10μm以下が好ましく、1μm以下がより好ましく、0.1μm以下がさらに好ましい。前記範囲内とすることで、成形時の樹脂のはみだしの抑制と、マトリクス樹脂組成物の機械物性低下の抑制を両立することができる。
【0070】
[マトリクス樹脂組成物の製造方法]
マトリクス樹脂組成物は、例えば、上述した各成分を混合することにより得られる。各成分の混合方法としては、混合機(例えば、三本ロールミル、プラネタリミキサー、ニーダー、ホモジナイザー、ホモディスパー)を用いる方法が挙げられる。
具体的には、50~220℃で成分(A)と成分(B)を混合して30℃~80℃に徐冷した後、成分(C)と成分(D)を加えることが好ましい。成分(A)と成分(B)の混合物に対して、成分(D)を加え、さらに別途調整した成分(C)と成分(A)の予備混合物を加えてもよいし、成分(A)と成分(B)の混合物に対して、成分(D)と成分(C)と成分(A)を含む予備混合物を加えてもよい。
マトリクス樹脂組成物は、例えば、後述するように、炭素繊維基材に含浸させてプリプレグの製造に用いることができる。30℃におけるマトリクス樹脂組成物の粘度は、100~1,000,000Pa・sとすることができる。
【0071】
[炭素繊維]
炭素繊維は、プリプレグ中で炭素繊維基材(炭素繊維の集合体)として存在する。炭素繊維は、単一方向に配列したものであってもよく、ランダムに配列したものであってもよい。
炭素繊維基材の形態としては、例えば、炭素繊維の織物、炭素繊維の不織布、炭素繊維の長繊維が一方向に引き揃えられたシート(UDシート)が挙げられる。炭素繊維は、比強度や比弾性率が高い繊維強化複合材料を成形することができるという観点からは、UDシートであることが好ましく、取り扱いが容易であるという観点からは、炭素繊維の織物であることが好ましい。
炭素繊維基材の目付は、10g/m2以上4000g/m2以下とすることができる。UDシートであれば、目付は10g/m2以上300g/m2以下とすることができる。
【0072】
プリプレグには炭素繊維以外の強化繊維を含んでいてもよく、例えば、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維などを用いることができる。
炭素繊維以外の強化繊維を含む場合の配合量は、用途や求める性能に応じて適宜調整でき、例えば、全強化繊維100質量部に対して0.1~50質量部であることが好ましい。前記範囲内とすることで、炭素繊維由来の良好な物性を維持しながら、マトリクス樹脂組成物の含浸性を向上させられる。
炭素繊維の繊維径は、3~15μmとすることができる。
炭素繊維基材に用いる炭素繊維束における炭素繊維の本数は、1,000~70,000本が好ましい。
繊維強化複合材料の剛性の観点から、炭素繊維のストランド引張強度は1.5~9GPaが好ましく、炭素繊維のストランド引張弾性率は150~260GPaが好ましい。炭素繊維のストランド引張強度およびストランド引張弾性率は、JISR7601:1986に準拠して測定される値である。
【0073】
[プリプレグの製造方法]
プリプレグは、例えば、上述したマトリクス樹脂組成物を炭素繊維基材に含浸させることで得られる。マトリクス樹脂組成物を炭素繊維基材に含浸させる方法としては、以下に限定されるものではないが、例えば、マトリクス樹脂組成物を溶媒(例えば、メチルエチルケトン、メタノール)に溶解して低粘度化してから、炭素繊維基材に含浸させるウェット法;マトリクス樹脂組成物を加熱により低粘度化してから、炭素繊維基材に含浸させるホットメルト法(ドライ法)が挙げられる。
【0074】
ウェット法は、炭素繊維基材をマトリクス樹脂組成物の溶液に浸漬した後、引き上げ、オーブン等を用いて溶媒を蒸発させる方法である。
ホットメルト法には、加熱により低粘度化したマトリクス樹脂組成物を直接、炭素繊維基材に含浸させる方法と、一旦マトリクス樹脂組成物を離型紙等の基材の表面に塗布してフィルムを作製しておき、次いで炭素繊維基材の両側または片側から作製したフィルムを重ね、加熱加圧することにより炭素繊維基材に樹脂を含浸させる方法がある。離型紙等の基材の表面に塗布して得られる塗布層は、未硬化のままでホットメルト法に用いてもよいし、塗布層を硬化させた後にホットメルト法に用いてもよい。
ホットメルト法によれば、プリプレグ中に残留する溶媒が実質上存在しないため好ましい。
マトリクス樹脂組成物を炭素繊維基材に含浸させるときの温度は、50~120℃とすることができるが、成分(B)の劣化を抑制する観点からは、成分(B)のガラス転移点より10℃以上低い温度であることが好ましい。
【0075】
プリプレグ中のマトリクス樹脂組成物の含有量は、繊維強化複合材料の機械物性と炭素繊維との接着性向上の観点から、プリプレグの総質量に対して、15~50質量%が好ましく、20~45質量%がより好ましく、25~40質量%がさらに好ましい。
【0076】
[繊維強化複合材料]
繊維強化複合材料は、プリプレグを硬化することで得られる。すなわち、繊維強化複合材料は、プリプレグに含まれるマトリクス樹脂組成物の硬化物と、炭素繊維とを含む。繊維強化複合材料としては、2枚以上のプリプレグが積層された積層体の硬化物とすることもできる。繊維強化複合材料は、例えば、前述のプリプレグを2枚以上積層した後、得られた積層体に圧力を付与しながら、マトリクス樹脂組成物を加熱硬化させる方法により成形して得られる。
【0077】
成形方法としては、以下に限定されるものではないが、例えば、プレス成形法、オートクレーブ成形法、バッギング成形法、ラッピングテープ法、内圧成形法、シートラップ成形法、強化繊維のフィラメントやプリフォームにエポキシ樹脂組成物を含浸させて硬化し成形品を得るRTM(Resin Transfer Molding)、VaRTM(Vacuum assisted Resin Transfer Molding:真空樹脂含浸製造法)、フィラメントワインディング、RFI(Resin Film Infusion)が挙げられる。
マトリクス樹脂組成物の特徴を最大限に活かす成形法としてオートクレーブ成形法が好ましい。マトリクス樹脂組成物の特徴を生かしながらも、生産性が高く、良質な繊維強化複合材料が得られやすいという観点から、プレス成形法が好ましい。
【0078】
プレス成形法で繊維強化複合材料を製造する場合、プリプレグ、またはプリプレグを積層して作製したプリフォームを、予め硬化温度に調整した金型に挟んで加熱加圧して、プリプレグまたはプリフォームを硬化することが好ましい。プレス成形時の金型内の温度は、100~160℃が好ましい。また、1~15MPaの条件下で1~20分間、プリプレグまたはプリフォームを硬化させることが好ましい。
【実施例0079】
実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
【0080】
(使用原料)
[成分(A)]
・jER828:液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量189g/eq、三菱ケミカル社製。
・SR GreenPoxy28:液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量180g/eq、バイオマス度28%、Sicomin社製。
・EPICLON N-670:固形クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、エポキシ当量210g/eq、DIC株式会社。
・EPICLON N-695A-4:固形クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、エポキシ当量214g/eq、DIC株式会社。
・EPPN-502H:固形トリスフェノール型エポキシ樹脂、エポキシ当量169g/eq、DIC株式会社。
【0081】
[成分(B)]
・B-1:イソソルビドに由来する構造単位/トリシクロデカンジメタノールに由来する構造単位=70/30モル%である脂環式ポリカーボネート樹脂、Tg:124℃、還元粘度0.35dl/g、バイオマス度53%、三菱ケミカル社製DURABIO T7430IR。
・B-2:下記製造例B-3で得られた、フランジカルボン酸とイソソルビドを含む脂環式ポリエステル樹脂、Tg64℃、バイオマス度100%。
【0082】
<製造例B-2>
蒸留塔を備えた反応容器に、酸成分100モルに対して、コハク酸30モル、2,5フランジカルボン酸70モル、エチレングリコール40モル、プロピレングリコール20モル、グリセリン5モル、イソソルビド45モル、触媒としてテトラブトキシチタンを酸成分に対して500ppm投入した。
次いで、反応容器中の攪拌翼の回転数を200rpmに保ち、昇温を開始し、反応容器内の温度が265度になるように加熱し、この温度を保持してエステル化反応を行った。反応系から水の流出が無くなった時点で、エステル化反応を終了した。次いで、反応系内の温度を下げて235℃に保ち、反応容器内を約20分かけて減圧しながら重縮合反応を行い、所定のトルクを示した時点で攪拌を停止し、窒素により加圧しながら反応物を反応容器から取り出し、脂環式ポリエステル樹脂B-3を得た。得られた脂環式ポリエステル樹脂のTgは64℃で、軟化温度は137℃であった。
【0083】
[熱可塑性樹脂]
・YP-70:ビスフェノールA型・F型共重合フェノキシ樹脂、日鉄ケミカル&マテリアル社製。
【0084】
[成分(C)]
・DICY:ジシアンジアミド、三菱ケミカル社製jER キュア DICY15。
・DCMU:3-(3,4-ジクロロフェニル)-1,1-ジメチルウレア、保土ヶ谷化学社製DCMU-99。
・2MZA-PW:2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン、四国化成工業社製。
・2MAOK-PW:2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル-(1’)]-エチル-s-トリアジン イソシアヌル酸付加物、四国化成工業社製。
[成分(D)]
・D-1:ホウ酸エステルを含む組成物、四国化成工業社製キュアダクトL-07N。
・D-2:5,5-ジメチル-2-フェニル-1,2,3-ジオキサボリナン、東京化成社製。
[成分(E)]
・PSM-4261:フェノール樹脂、群栄化学工業社製レヂトップ PSM-4261。
[添加剤]
・エシカルシリカ:非晶質シリカ、M.I.T社製モミ殻エシカルシリカ。
[炭素繊維]
・炭素繊維:PAN系炭素繊維、三菱ケミカル株式会社製、パイロフィルTR50S15L。
【0085】
(樹脂板の製造)
マトリクス樹脂組成物をガラス板で挟み、熱風炉中に配置した後、室温から130℃まで2℃/minで昇温させ、130℃に到達してからさらに120分保持をすることで厚み2mmの樹脂板を得た。
(プリプレグおよび成形板の製造)
マトリクス樹脂組成物を、ロールコーターを用いて離型紙上に所定の目付で塗工した樹脂フィルムを製造した後、所定の目付に調整した炭素繊維からなる炭素繊維シートの両面に、得られた樹脂フィルムを重ね、加熱ロールにより樹脂を炭素繊維に含浸させ、一方向のプリプレグを得た。
得られたプリプレグを300mm×300mmにカットし、繊維方向がすべて同じ方向を向くように積層することで積層体を得た。この積層体をオートクレーブで圧力0.04MPa下で2℃/分で昇温し、80℃で60分保持後、圧力0.6MPa下で2℃/分で昇温し、130℃で90分保持して加熱硬化させて、厚さ2.0~2.2mmの成形板を得た。
【0086】
(ガラス転移点(Tg)の測定)
成分(B)および熱可塑性樹脂のガラス転移点は、示差走査熱量計(DSC)(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン株式会社製、「Q-1000」)を用いて、窒素雰囲気下で測定した。昇温速度は10℃/分とし、測定温度範囲は-50℃から400℃とした。JIS K 7121に記載の方法に基づき、DSC曲線が階段状変化を示す部分の中間点をガラス転移温度(Tg)とした。
【0087】
(軟化温度測定)
ポリエステル樹脂の軟化温度は、フローテスター(株式会社島津製作所製、CFT-500D)を用いて、1mmφ×10mmのノズル、荷重294N、昇温速度3℃/分の条件で、ポリエステル樹脂が1g中1/2量が流出した時の温度を測定し、その温度を軟化温度とした。
【0088】
(還元粘度の測定)
脂環式カーボネート樹脂の還元粘度は、下記の方法で測定した。
溶媒を用いて脂環式カーボネート樹脂を溶解させ、濃度0.60g/dlの脂環式カーボネート樹脂溶液を作製した。溶媒としては、塩化メチレンを用いた。
還元粘度の測定は、中央理化社製のウベローデ型粘度計「DT-504型自動粘度計」を用い、温度20.0℃±0.1℃で行った。溶媒の通過時間t0と溶液の通過時間tとから、次式(α)により相対粘度ηrelを算出し、相対粘度ηrelから次式(β)より比粘度ηsp(単位:g・cm-1・sec-1)を算出した。なお、式(β)中のη0は溶媒の粘度である。そして、比粘度ηspをポリカーボネート溶液の濃度c(g/dL)で割って、還元粘度η(η=ηsp/c)を算出した。この値が高いほど、分子量が大きいことを意味する。
【0089】
ηrel=t/t0・・・(α)
ηsp=(η-η0)/η0=ηrel-1・・・(β)
【0090】
(加水分解性評価)
マトリクス樹脂加水分解性評価は、以下の測定方法で粘度測定を行い、10分後の粘度V0と、360分後の粘度V1とからなる増減比(V1/V0)を算出した。通常、加熱することで、時間と共にマトリクス樹脂の粘度は増加するため、V1/V0の値が1より小さい場合は、成分(B)の加水分解が生じたことを意味する。
【0091】
<粘度測定方法>
装置:レオメーター(サーモフィッシャー・サイエンティフィック社製、「MARS 40」)
使用プレート:25φパラレルプレート
プレートギャップ:0.5mm
測定周波数:10rad/秒
測定温度:55~65℃
測定時間:0分~360分
応力:300Pa
【0092】
(樹脂板の曲げ試験)
厚み2mmの樹脂板から幅8mm、長さ60mmの試験片を6枚切り出し、万能試験機(インストロン社製、インストロン5965)を用い、下記条件にて強度、弾性率を測定し、6枚の平均値を求めた。なお、一部の試験においては破断伸度と降伏伸度も測定した。ここで、破断伸度と降伏伸度の値が高いことは靭性に優れていることを示す。
クロスヘッドスピード;2mm/分、スパン間距離:硬化樹脂板の厚さを実測し、(厚さ×16)mmとした。
【0093】
(成形板の曲げ試験)
得られた成形板を、以下の形状にカットして試験片とした。
・0°曲げ試験用試験片:長さ127mm×幅12.7mm、L/d=40
・90°曲げ試験用試験片:長さ60mm×幅12.7mm、L/d=16
なお、0°曲げ試験用試験片は、試験片の長手方向に対して炭素繊維が平行となるように加工し、90°曲げ試験用試験片は、試験片の長手方向に対して炭素繊維が略直交するように加工した。
得られた試験片を、インストロン社製の万能試験機を用い、温度23℃、湿度50%RHの環境下、3点曲げ治具(圧子R=5mm、サポートR=3.2mm)を用い、サポート間距離(L)は0°曲げ試験では40とし、90°曲げ試験では16とした。またサポート間距離(L)と試験片の厚み(d)の比をL/dとして、クロスヘッドスピード(分速)=(L2×0.01)/(6×d)の条件で曲げ試験を行い、0°および90°における強度、弾性率および破断歪を得た。
【0094】
(実施例1~4、6~18、および比較例1~9)
表1~5の組成に従い、jER828またはSR GreenPoxy28と、硬化剤とを、固形成分と液状成分の質量比が1:2となるよう容器に計量し、攪拌して混合物を得た。得られた混合物を、三本ロールミル(株式会社井上製作所)を用いてさらに細かく混合し、硬化剤マスターバッチを得た。
続けて、表1~5に記載の組成の内、硬化剤マスターバッチに用いた成分を除いたjER828またはSR GreenPoxy28と、成分(B)または熱可塑性樹脂をフラスコに計量し、オイルバスを用いて段階的に180℃まで昇温して均一混合した。その後100℃まで徐冷し、表1~5に記載の未配合の成分(A)を計量して均一混合した。最後に、60℃程度まで徐冷し、表1~5に記載の成分(D)および硬化剤マスターバッチを加えて混合均一しマトリクス樹脂組成物を得た。該マトリクス樹脂組成物について加水分解性評価を行った結果を表1~5に示す。
【0095】
得られたマトリクス樹脂組成物を用い、樹脂板の製造方法に従って樹脂板を得た。得られた樹脂板について曲げ試験およびガラス転移点(Tg)の測定を行った結果を表1~5に示す。なお、比較例4の樹脂板の曲げ試験による破断伸度と降伏伸度は順に7.7%と7.5%であり、実施例6の同伸度は順に7.9%と7.6%であった。
【0096】
次いで、プリプレグおよび成形板の製造方法に従って、プリプレグおよび成形板を得た。なお、プリプレグ製造時の繊維目付、樹脂目付、得られたプリプレグの樹脂含有率および成形板の積層枚数を表6に示す。得られた成形板について曲げ試験およびガラス転移点(Tg)測定を行った結果を表6に示す。なお、比較例1、3は繊維体積含有率(Vf)を50%となるように換算し、比較例4、7および実施例6、8、18はVfを60%となるように換算した。
【0097】
(実施例5)
表2の組成に従い、jER828と、EPICLON N-670と、硬化剤とを、固形成分と液状成分の質量比が1:2となるよう容器に計量し、攪拌して混合物を得た。得られた混合物を、三本ロールミル(株式会社井上製作所)を用いてさらに細かく混合し、硬化剤マスターバッチを得た。
同様に、jER828と、フェノール樹脂とを、質量比で1:8となるように140℃で溶解した後、得られた混合物と成分(D)とを質量比で9:1となるように混合し、ホウ酸エステル組成物を得た。
続けて、表2に記載の組成の内、硬化剤マスターバッチとホウ酸エステル組成物に用いた成分を除いたjER828と、EPICLON N-670と、成分(B)をフラスコに計量し、オイルバスを用いて段階的に180℃まで昇温して均一混合した。その後100℃まで徐冷し、表2に記載の未配合の成分(A)を計量して均一混合した。最後に、60℃程度まで徐冷し、ホウ酸エステル組成物を配合して均一混合した後、硬化剤マスターバッチを加えて均一混合しマトリクス樹脂組成物を得た。該マトリクス樹脂組成物について加水分解性評価を行った結果を表1に示す。
得られたマトリクス樹脂組成物を用い、樹脂板の製造方法に従って樹脂板を得た。得られた樹脂板について曲げ試験およびガラス転移点(Tg)の測定を行った結果を表2に示す。
【0098】
【0099】
【0100】
【0101】
【0102】
【0103】
【0104】
比較例2~3と実施例1~2との比較から、比較例2~3では成分(B)の加水分解による大きな粘度減少が生じているのに対し、実施例1~2ではホウ酸化合物含有により粘度低下が抑えられた。従来、ホウ酸化合物含有により硬化剤の安定性が向上し、加熱保持した際の粘度上昇が抑制されることが知られている。この点を踏まえると、他の原因で粘度上昇して加水分解の粘度低下と打ち消し合ったものではなく、ホウ酸化合物含有により成分(B)の加水分解が抑制できたといえる。
【0105】
比較例5のように成分(C)がイミダゾール類を含む場合は、イミダゾール類を含まない比較例1~2以上に、低温時であっても大きな粘度低下が生じた。比較例5と実施例3~5の比較から、実施例3~5はホウ酸化合物含有により、粘度低下が抑えられた。加えて、ホウ酸化合物の種類やフェノール樹脂の有無に関わらず粘度低下を抑えられた。さらに、実施例6~8の結果から、成分(B)の配合量を増加したり加熱温度を上げた場合であっても、同様にホウ酸化合物含有により粘度低下を抑えられた。
【0106】
比較例6と実施例9との比較から、実施例3~8とは異なるイミダゾール硬化剤であっても、ホウ酸化合物含有により粘度低下が抑えられた。また、実施例10~12の結果から、成分(B)の配合量を増加したり、加熱温度を上げたり、硬化剤の配合量を増加した場合であっても粘度低下を抑えられた。また実施例13~16の結果から、異なる硬化剤を組合せて、成分(B)の配合量を増加したり加熱温度を上げた場合であっても、依然としてホウ酸化合物含有により粘度低下を抑えられた。
【0107】
比較例8~9と実施例17~18との比較から、成分(B)の種類を変更した場合であっても、同様に粘度低下を抑えられたことが分かる。
また表1~3に示す通り、比較例1と実施例1との比較、比較例4と実施例6および8との比較、比較例7と実施例18との比較から、マトリクス樹脂組成物が成分(B)を含むことで、樹脂板の強度および弾性率が向上した。また比較例4に対する実施例6の破断伸度と降伏伸度の比較から、樹脂板の靭性を維持しながら強度および弾性率が向上したことが分かる。なお、成分(C)がイミダゾール類を含む実施例3~16は樹脂板のガラス転移点が高く、成形時の取り扱い性に優れていた。
さらに表4に示す通り、比較例4と実施例6および8との比較、比較例7と実施例18との比較から、マトリクス樹脂組成物が成分(B)を含むことで、得られた成形板は靭性を維持しながら強度および弾性率が向上した。特に90°曲げ試験において、マトリクス樹脂組成物が成分(B)を含むことで強度および弾性率が顕著に向上していた。90°曲げ試験はマトリクス樹脂組成物の性能だけでなく、炭素繊維とマトリクス樹脂の界面の密着性に依存する。すなわちマトリクス樹脂組成物が成分(B)を含むことで、マトリクス樹脂組成物の強度および弾性率に加え、炭素繊維とマトリクス樹脂の密着性が向上したと言える。なお、成分(C)がイミダゾール類を含む実施例6および8は成形板のガラス転移点が高く、成形時の取り扱い性に優れていた。
なお、実施例にて使用したjER828を例えばSR GreenPoxy29(液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量186g/eq、バイオマス度30%、Sicomin社製)に置き換える事で、実施例1~7、9~11、13、17~18のバイオマス度を15~20%向上させることができる。