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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094315
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】分析装置、及び、分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/02 20060101AFI20240702BHJP
   G01N 23/2252 20180101ALI20240702BHJP
【FI】
G01N1/02 G
G01N23/2252
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023221700
(22)【出願日】2023-12-27
(31)【優先権主張番号】P 2022210665
(32)【優先日】2022-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000155023
【氏名又は名称】株式会社堀場製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100094145
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 由己男
(74)【代理人】
【識別番号】100221372
【弁理士】
【氏名又は名称】岡崎 信治
(72)【発明者】
【氏名】宮原 晃平
(72)【発明者】
【氏名】川口(松本) 絵里佳
【テーマコード(参考)】
2G001
2G052
【Fターム(参考)】
2G001AA03
2G001AA11
2G001BA04
2G001CA01
2G001CA03
2G001KA01
2G001MA04
2G001QA02
2G001RA01
2G052AA04
2G052AC02
2G052AC23
2G052AD15
2G052AD24
2G052AD55
2G052BA22
2G052EA03
2G052GA18
2G052JA09
(57)【要約】
【課題】粒子状物質を均一に捕集する。
【解決手段】分析装置100は、粒子状物質FPを捕集するための捕集面12を有する捕集フィルタ1と、サンプルガスGsを捕集面12に通過させて捕集面12に粒子状物質FPを捕集させるノズル31と、捕集面12の法線方向Dに対して傾斜した位置に設けられ、捕集面12に捕集された粒子状物質に照射する放射線を出力する放射線源5と、粒子状物質FPに放射線を照射することで発生した放射線を検出する検出器7と、を備える。ノズル31は、捕集面12の法線方向Dに延びサンプルガスGsが流れるガス流路31aを有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプルガスに含まれる粒子状物質を分析する分析装置であって、
前記粒子状物質を捕集するための捕集面を有する捕集フィルタと、
前記サンプルガスを前記捕集面に通過させて前記捕集面に前記粒子状物質を捕集させるノズルと、
前記捕集面の法線方向に対して傾斜した位置に設けられ、前記捕集面に捕集された前記粒子状物質に照射する放射線を出力する放射線源と、
前記粒子状物質に放射線を照射することで発生した放射線を検出する検出器と、
を備え、
前記ノズルは、前記捕集面の法線方向に延び、前記捕集面に通過させる前記サンプルガスが流れるガス流路を有する、
分析装置。
【請求項2】
前記ノズルの内部には、前記放射線源が設けられる線源設置空間が形成される、請求項1に記載の分析装置。
【請求項3】
前記ノズルは、前記放射線源から出力された放射線及び前記サンプルガスの出口である出口開口を有する、請求項1又は2に記載の分析装置。
【請求項4】
前記出口開口は、前記ガス流路と、前記放射線源が設けられる線源設置空間とが合流する合流部分を含むように、前記捕集面と対向し前記捕集面の法線方向に対して垂直となっている前記ノズルの面上に形成される、請求項3に記載の分析装置。
【請求項5】
前記放射線源から照射される放射線が外部に漏れないように遮蔽する遮蔽シャッタをさらに備える、請求項1~4のいずれかに記載の分析装置。
【請求項6】
前記遮蔽シャッタは、
前記放射線源からの放射線を遮蔽する遮蔽部材と、
前記遮蔽部材を回動可能に支持するヒンジ部と、
を有する、請求項5に記載の分析装置。
【請求項7】
前記捕集フィルタを挟んで前記ノズルと対向するように設けられ、前記捕集フィルタを通過後のサンプルガスを吸引する吸引部をさらに備え、
前記遮蔽シャッタは、
前記放射線源からの放射線を遮蔽する遮蔽部材と、
前記遮蔽部材を前記吸引部と前記ノズルとの間の空間に突出させるよう付勢する付勢部材と、
を有する、請求項5に記載の分析装置。
【請求項8】
前記検出器の放射線の検出面は、前記捕集フィルタの前記捕集面の法線方向に対して垂直に配置される、請求項1~7のいずれかに記載の分析装置。
【請求項9】
前記放射線源からの放射線の照射方向は、前記捕集フィルタの前記捕集面に対して20°~70°の角度で傾斜している、請求項1~8のいずれかに記載の分析装置。
【請求項10】
前記放射線源はβ線を出力するβ線源である、請求項1~9のいずれかに記載の分析装置。
【請求項11】
前記ガス流路は重力方向に延びる、請求項1~10のいずれかに記載の分析装置。
【請求項12】
サンプルガスに含まれる粒子状物質を分析する分析方法であって、
前記粒子状物質を捕集するための捕集面を有する捕集フィルタの法線方向に前記サンプルガスを流すことで、前記サンプルガスを前記捕集面に通過させて前記捕集面に前記粒子状物質を捕集させるステップと、
前記法線方向に対して傾斜した位置から前記捕集面に捕集された前記粒子状物質に放射線を照射するステップと、
前記粒子状物質に放射線を照射することで発生した放射線を検出するステップと、
を備える、分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の領域に存在するガスに含まれる粒子状物質を分析する分析装置に関する。特に、当該ガスに含まれる粒子状物質を所定の表面に捕集し、捕集した粒子状物質を通過後のβ線に基づいて粒子状物質を分析する分析装置に関する。また、本発明は、粒子状物質の分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、所定の環境雰囲気中のガスに含まれる粒子状物質を分析する分析装置が知られている。この分析装置では、ガスに含まれる粒子状物質を所定の表面に捕集し、当該表面に捕集した粒子状物質を通過した後のβ線の強度に基づいて、ガスに含まれる粒子状物質の濃度(質量濃度)を測定できる(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
上記分析装置では、粒子状物質を含むガスを所定の表面に通過させることで、当該ガスに含まれる粒子状物質を所定の表面に捕集している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-102008号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の分析装置では、粒子状物質を含むガスを所定の表面に通過させることで、当該フィルタに粒子状物質を捕集する。従来の分析装置では、所定の表面に通過させるガスの流路内にβ線源が設けられていた。この構成の分析装置は、β線をフィルタの真上から照射することができる一方で、β線源が流路内部にあることにより粒子状物質がフィルタに均一に捕集されない可能性があった。
【0006】
本発明の目的は、所定の表面に均一に粒子状物質を捕集することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下に、課題を解決するための手段として複数の態様を説明する。これら態様は、必要に応じて任意に組み合せることができる。
本発明の一見地に係る分析装置は、サンプルガスに含まれる粒子状物質を分析する分析装置である。分析装置は、捕集フィルタと、ノズルと、放射線源と、検出器と、を備える。捕集フィルタは、粒子状物質を捕集するための捕集面を有する。ノズルは、サンプルガスを捕集面に通過させて捕集面に粒子状物質を捕集させる。放射線源は、捕集面の法線方向に対して傾斜した位置に設けられ、捕集面に捕集された粒子状物質に照射する放射線を出力する。検出器は、粒子状物質に放射線を照射することで発生した放射線を検出する。
【0008】
上記の分析装置において、ノズルは、ガス流路を有する。ガス流路は、捕集面の法線方向に延び、捕集面に通過させるサンプルガスが流れる流路である。
【0009】
上記の分析装置では、サンプルガスが流れるガス流路が捕集面の法線方向と平行である一方、放射線源が捕集面の法線方向に対して傾斜した位置に設けられる。これにより、放射線源がガス流路と重複しないので、放射線源がサンプルガスの流れを妨げない。放射線源がサンプルガスの流れを妨げない(つまり、放射線源とガス流路とが重複しない)ことで、捕集フィルタの捕集面全体にサンプルガスを均一に通過できる。この結果、捕集フィルタの捕集面に粒子状物質をむらなく均一に捕集できる。
【0010】
上記の分析装置において、ノズルの内部には、放射線源が設けられる線源設置空間が形成されてもよい。これにより、ノズルの内部に放射線源を設置できるので、捕集フィルタの捕集面に近い位置から放射線を出力できる。
【0011】
上記の分析装置において、ノズルは、放射線源から出力された放射線及びサンプルガスの出口である出口開口を有してもよい。これにより、サンプルガスの出口と放射線の出口とが出口開口で共通できるので、捕集面における粒子状物質の捕集領域と放射線の照射領域とを一致させることができる。この結果、捕集された粒子状物質全体に放射線を照射できるので、サンプルガスに含まれる粒子状物質をより正確に分析できる。
【0012】
上記の分析装置において、出口開口は、ガス流路と線源設置空間とが合流する合流部分を含むように、捕集フィルタの捕集面と対向し捕集面の法線方向に対して垂直となっているノズルの面上に形成されてもよい。線源設置空間は、放射線源が設けられる空間である。これにより、粒子状物質の捕集領域と放射線の照射領域とを一致させることができる。
【0013】
上記の分析装置は、遮蔽シャッタをさらに備えてもよい。遮蔽シャッタは、放射線源から照射される放射線が外部に漏れないように遮蔽する。これにより、放射線が不必要に外部に漏れ出なくなるので、分析装置のメンテナンス時などに、作業者等が放射線に被曝しない。
【0014】
上記の分析装置において、遮蔽シャッタは、遮蔽部材と、ヒンジ部と、を有してもよい。遮蔽部材は、放射線源からの放射線を遮蔽する。ヒンジ部は、遮蔽部材を回動可能に支持する。これにより、電気的な機構を用いない簡易な構成により、遮蔽部材の位置を必要に応じて変更できる。
【0015】
上記の分析装置は、吸引部をさらに備えてもよい。吸引部は、捕集フィルタを挟んでノズルと対向するように設けられ、捕集フィルタを通過後のサンプルガスを吸引する。この場合、遮蔽シャッタは、遮蔽部材と、付勢部材と、を有してもよい。遮蔽部材は、放射線源から照射される放射線を遮蔽する。付勢部材は、遮蔽部材を吸引部とノズルとの間の空間に突出させるよう付勢する。これにより、例えば、ノズルと吸引部との間に隙間が空いて放射線が外部に漏れる場合に、電気的な機構を用いない簡易な構成により、遮蔽部材をノズルと吸引部との間の隙間に突出させることができる。
【0016】
上記の分析装置において、検出器の放射線の検出面は、捕集フィルタの捕集面の法線方向に対して垂直に配置されてもよい。これにより、捕集フィルタと検出器の検出面との間の距離を短くできるので、検出面における放射線の照射領域の形状と、捕集フィルタの捕集面における放射線の照射領域の形状と、を一致させることができる。その結果、捕集面に捕集された粒子状物質を通過した放射線全体を検出でき、粒子状物質をより正確に分析できる。また、検出面と捕集フィルタとの間の距離を短くできることで、捕集面に捕集された粒子状物質を通過した放射線が検出器で検出されるまでに大きく減衰することを防止できる。この結果、粒子状物質をより正確に分析できる。
【0017】
上記の分析装置において、放射線源からの放射線の照射方向は、捕集フィルタの捕集面に対して20°~70° の角度で傾斜していてもよい。これにより、放射線源がガス流路と重複することを回避しつつ、捕集面に捕集された粒子状物質に十分な放射線が照射されなくなることを防止できる。
【0018】
上記の分析装置において、放射線源は、β線を出力するβ線源であってもよい。これにより、β線を用いた粒子状物質の分析を実行できる。
【0019】
上記の分析装置において、ガス流路は重力方向に延びてもよい。これにより、粒子状物質がガス流路に堆積せず、より多くの粒子状物質を捕集フィルタの捕集面に捕集できるので、粒子状物質の分析精度を向上できる。
【0020】
本発明の他の見地に係る分析方法は、サンプルガスに含まれる粒子状物質を分析する方法である。分析方法は、以下のステップを有する。
◎粒子状物質を捕集するための捕集面を有する捕集フィルタの法線方向にサンプルガスを流すことで、サンプルガスを捕集面に通過させて捕集面に粒子状物質を捕集させるステップ。
◎法線方向に対して傾斜した位置から捕集面に捕集された粒子状物質に放射線を照射するステップ。
◎粒子状物質に放射線を照射することで発生した放射線を検出するステップ。
【0021】
上記の分析方法では、サンプルガスが流れる方向が捕集面の法線方向と平行である一方、放射線の照射方向が捕集面の法線方向に対して傾斜している。これにより、放射線を照射する部材(すなわち、放射線源)がサンプルガスの流れを妨げなくなる。また、放射線源がサンプルガスの流れを妨げないことで、捕集フィルタの捕集面全体にサンプルガスを均一に通過できる。この結果、捕集フィルタ上の捕集面に粒子状物質をむらなく均一に捕集できる。
【発明の効果】
【0022】
分析装置が上記の構成を有することで、捕集フィルタの捕集面に粒子状物質をむらなく均一に捕集できるので、サンプルガスに含まれる粒子状物質を正確に分析できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】分析装置の構成を示す図。
図2】捕集装置の正面断面図。
図3】ノズルが吸引部から離反したときの遮蔽シャッタの状態を示す図。
図4】ノズルの内部におけるサンプルガスの流れを示す図。
図5】ノズルの内部における放射線の進行経路を示す図。
図6】第2実施形態の遮蔽シャッタの構成を示す図。
図7】ノズルを吸引部から離間させたときの遮蔽シャッタの状態を示す図。
図8】遮蔽部材を外方向に回動させた状態を示す図。
図9】遮蔽部材を内方向に回動させた状態を示す図。
図10】第3実施形態の分析システムの構成を示す図。
図11】第3実施形態の分析システムを用いた粒子状物質の分析動作を示すフローチャート。
図12】第3実施形態の粒子状物質の分析方法の詳細を示すフローチャート。
図13】第3実施形態の粒子状物質の他の分析方法の詳細を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0024】
1.第1実施形態
(1)分析装置の概要
以下、分析装置100を説明する。分析装置100は、粒子状物質FPを含むガス(サンプルガスGsと呼ぶ)を所定のフィルタに通過させて粒子状物質FPを捕集させ、当該フィルタに捕集された粒子状物質FPに放射線を照射し、粒子状物質FPを通過後の放射線に基づいて粒子状物質FPの分析を行う。
【0025】
この分析装置100は、大気中に含まれる粒子状物質FP、又は、各種プロセスで生じるガス中に含まれる粒子状物質FPを分析対象とする。すなわち、サンプルガスGsは、例えば、大気、各種プロセスで生じるガスである。具体的には、例えば、各種プロセス(例えば、火力発電における燃焼プロセス、製鉄プラントにおける燃焼プロセス、焼却炉の燃焼プロセス、又は、石炭の燃焼プロセス、重油の燃焼プロセス、製紙プロセス、ガラス製造プロセス、精錬プロセス等)で生じる粒子状物質FPを分析対象とする。すなわち、分析対象である粒子状物質FPは、例えば、石炭の燃焼プロセスで生じる灰中未燃分、各種燃焼プロセスで生じる飛灰などである。
【0026】
また、例えば、各種の輸送装置(自動車又は船舶等)から生じるダスト(ブレーキ、タイヤ、内燃機関、蒸気機関、又は、排ガス浄化装置やモータからのダスト)などを分析装置100の測定対象である粒子状物質FPとできる。さらに、火山の噴火といった自然災害により生じるダスト(例えば、火山灰)、又は、鉱山開発において生じるダストなども粒子状物質FPとできる。例えば、銀(Ag)、スズ(Sn)などを含む粒子状物質FPを分析対象とできる。
【0027】
(2)分析装置の構成
以下、図1及び図2を用いて、分析装置100の構成を説明する。図1は、分析装置の構成を示す図である。図2は、捕集装置の正面断面図である。分析装置100は、捕集フィルタ1と、捕集装置3と、放射線源5と、検出器7と、を備える。
【0028】
捕集フィルタ1は、捕集装置3を流れるサンプルガスGsに含まれる粒子状物質FPを捕集する。具体的には、捕集フィルタ1は、例えば、高分子材料(ポリエチレンなど)の不織布にて形成された補強層上に、粒子状物質FPを捕集可能な孔を有する多孔質のフッ素樹脂系材料にて形成された捕集層を積層して形成された部材である。上記の構成により、捕集フィルタ1は、捕集フィルタ1の厚み方向にガス流通可能となると同時に、その強度を向上できる。また、捕集フィルタ1を帯電しにくくできる。捕集フィルタ1としては、例えば、1層のガラスフィルタ、又は、1層のフッ素樹脂系材料のフィルタなどの他のフィルタを用いることもできる。
【0029】
例えば、捕集フィルタ1の長さ方向の一端は巻き取りリール11aに接続され、他端は送り出しリール11bに接続されている。巻き取りリール11aは、例えば、モータ(図示せず)などにより所定方向に回転可能となっている。この構成により、巻き取りリール11aを回転することにより、捕集フィルタ1は、送り出しリール11bから送り出され、巻き取りリール11aに巻き取られる。すなわち、捕集フィルタ1は、巻き取りリール11aの回転により、捕集フィルタ1の長さ方向(図1では太矢印にて示す方向)に移動できる。
【0030】
なお、捕集フィルタ1を移動させる機構は、上記の機構に限られない。例えば、捕集フィルタ1の長さ方向にピンを設け、ピンを通過する前後で捕集フィルタ1の移動方向が変更されるような構成となっていてもよい。また、捕集フィルタ1にその張力を調整するテンションコントローラを設けてもよい。
【0031】
なお、粒子状物質FPが捕集される捕集フィルタ1の捕集層側の面を、捕集面12と呼ぶ。
【0032】
捕集装置3は、サンプルガスGsに含まれる粒子状物質FPを捕集フィルタ1に捕集させる。捕集装置3は、ノズル31を有する。ノズル31は、捕集フィルタ1の捕集面12と対向する位置に設けられる。ノズル31は、捕集フィルタ1の捕集面12にサンプルガスGsを通過させて、サンプルガスGsに含まれる粒子状物質FPを捕集面12に捕集させる。ノズル31は、アルミニウムなどの金属製の本体を有する。
【0033】
ノズル31は、ガス流路31aを有する。ガス流路31aは、ノズル31の内部において、ノズル31の長手方向(捕集フィルタ1の法線方向D)に延びて形成された流路である。ガス流路31aが捕集フィルタ1の法線方向Dに延びて形成されることで、サンプルガスGsに含まれる粒子状物質FPがガス流路内に堆積することを防止できる。この結果、粒子状物質FPの捕集フィルタ1への捕集効率を高めることができる。
【0034】
なお、法線方向Dは、捕集フィルタ1の面(捕集面12)となす角度が90°である方向に限られず、捕集フィルタ1の面(捕集面12)となす角度が90°から若干ずれていてもよい。例えば、法線方向Dは、捕集フィルタ1の面となす角度が80°~100°である方向と定義できる。
【0035】
ガス流路31aの捕集フィルタ1の配置側の端部は、出口開口31bに接続されている。出口開口31bは、ガス流路31aを流れてきたサンプルガスGsの出口である。出口開口31bは、捕集フィルタ1の捕集面12と対向し捕集面12の法線方向Dに対して垂直となっている面31eに形成された開口である。ここで、「開口」とは、所定の面に形成された平面的な穴と、この穴を所定箇所と接続する空間と、から構成されたものと定義する。すなわち、出口開口31bは、面31eに設けられた平面的な穴と、この穴をガス流路31aに接続するための空間と、から構成される。
【0036】
一方、ガス流路31aの捕集フィルタ1の配置側とは反対側の端部は、サンプルガスGsの取り入れ口(図示せず)に接続されている。なお、分析装置100は、サンプルガスGsを空気などの気体で希釈する希釈器を備えてもよい。希釈器は、例えば、ガス流路31aとサンプルガスGsの取り入れ口との間に設けられる。サンプルガスGsには高濃度の粒子状物質FPが含まれる場合がある。サンプルガスGsを希釈することで、希釈後のサンプルガスGsに含まれる粒子状物質FPの濃度を低下できる。この結果、ノズル31(の内部のガス流と31a、出口開口31bなど)が汚染する、及び/又は、捕集フィルタ1の目詰まりの発生の可能性を低減できる。
【0037】
また、分析装置100は、サンプルガスGsに含まれる粒子状物質FPを分級する分級器を備えてもよい。分級器は、例えば、ガス流路31aとサンプルガスGsの取り入れ口との間に設けられる。これにより、分級された後の大きさの粒子状物質FPを捕集フィルタ1の捕集面12に捕集できる。
【0038】
ガス流路31aは、ノズル31の内部において、重力方向に延びていてもよい。これにより、粒子状物質FPがガス流路31aに堆積せず、より多くの粒子状物質FPを捕集フィルタ1の捕集面12に捕集できるので、粒子状物質FPの分析精度を向上できる。
【0039】
ノズル31は、放射線源5が設けられる線源設置空間31cを有してもよい。線源設置空間31cは、ノズル31の内部のガス流路31aから外れた位置において、捕集フィルタ1の法線方向Dに対して傾斜した方向に延びて形成された空間である。線源設置空間31cは、合流部分31dにおいてガス流路31aと合流し、合流部分31dを介して出口開口31bと接続される。すなわち、出口開口31bは、ガス流路31aと線源設置空間31cとが合流する合流部分31dを含むように、ノズル31の面31e上に形成される。合流部分31dを含むよう出口開口31bが形成されることで、ガス流路31aと線源設置空間31cは、共通の出口開口31bを介して、外部空間と連通する。つまり、ガス流路31aを流れるサンプルガスGsと、放射線源5から出力される放射線とは、共通の出口開口31bから捕集フィルタ1に向けて射出される。これにより、粒子状物質FPの捕集領域と放射線の照射領域とを一致させることができる。
【0040】
放射線源5を上記の線源設置空間31cに設けることにより、放射線源5を、捕集フィルタ1(の捕集面12)の法線方向Dに対して傾斜して配置できる。この結果、放射線源5がガス流路31aにおけるサンプルガスGsの流れの妨げとなることを防止し、捕集フィルタ1の捕集面12に粒子状物質FPをむらなく均一に捕集することができる。
【0041】
また、線源設置空間31cをノズル31の内部に設けることにより、ノズル31の内部に放射線源5を設置できるので、捕集フィルタ1の捕集面12に近い位置から放射線を出力できる。この結果、減衰が少ない強度の大きな放射線を捕集面12(粒子状物質FP)に照射できる。
【0042】
線源設置空間31cの捕集フィルタ1の捕集面12に対する傾斜角度θは、20°~70°に設定することが好ましく、25°~65°に設定することがより好ましく、30°~60°に設定することがさらに好ましい。つまり、放射線源5からの放射線の照射方向は、捕集フィルタ1の捕集面12に対して20°~70° の角度で傾斜していることが好ましく、25°~65°の角度で傾斜していることがより好ましく、30°~60°の角度で傾斜していることがさらに好ましい。例えば、上記の傾斜角度θは60°とできる。
【0043】
線源設置空間31cの傾斜角度θが20°よりも小さい場合には、放射線源5からの放射線の多くが、捕集フィルタ1の捕集面12に照射されることなく、ガス流路31aの壁面に照射される。この結果、捕集面12に捕集された粒子状物質FPに十分な放射線が照射されず、正確な分析を行うことができなくなる。一方、傾斜角度θが70°よりも大きい場合には、放射線源5の一部又は全部がガス流路31aと重複して、ガス流路31aにおけるサンプルガスGsの流れが放射線源5により妨げられる。この結果、ガス流路31aを流れるサンプルガスGsに含まれる粒子状物質FPの一部が捕集フィルタ1の捕集面12に捕集されないか、又は、捕集面12に捕集された粒子状物質FPに十分な放射線が照射されず、正確な分析を行うことができなくなる。
【0044】
このように、線源設置空間31cの傾斜角度θを上記の範囲で設定することで、放射線源5がガス流路31aと重複することを回避しつつ、放射線源5からの放射線の多くがガス流路31aの壁面に照射され、捕集面12に捕集された粒子状物質FPに十分な放射線が照射されなくなることを防止できる。
【0045】
捕集装置3は、吸引部33を有してもよい。吸引部33は、捕集フィルタ1を挟んでノズル31と対向するように設けられ、捕集フィルタ1を通過後のサンプルガスGsを吸引する。具体的には、吸引部33は、捕集フィルタ1の補強層側の面の直下において、ノズル31と対向する位置に配置されている。吸引部33には、吸引ポンプ35に接続された開口33aが形成されている。この場合、吸引ポンプ35の吸引により開口33aに発生した吸引力が出口開口31b及びそれに接続されたガス流路31aに及ぶ。この結果、サンプルガスGsが、ガス流路31aに吸引され、出口開口31bから排出される。出口開口31bから排出されたサンプルガスGsは、法線方向Dに捕集フィルタ1の捕集面12を通過し、吸引部33の開口33aに吸引される。開口33aに吸引されたサンプルガスGsは、吸引ポンプ35により排出される。
【0046】
ノズル31は、捕集フィルタ1の捕集面12に近づく方向、及び、捕集面12から離間する方向に移動可能であってもよい。この場合、捕集フィルタ1の捕集面12に粒子状物質FPを捕集し、捕集した粒子状物質FPに放射線を照射する場合、ノズル31は、捕集面12に近接して捕集フィルタ1を固定できる。一方、例えば、捕集フィルタ1を移動させる場合、捕集フィルタ1を交換する場合、分析装置100をメンテナンスする場合には、ノズル31を捕集面12から離間できる。
【0047】
図2及び図3に示すように、分析装置100は、遮蔽シャッタ20を有してもよい。遮蔽シャッタ20は、放射線源5から照射された放射線が吸引部33とノズル31との間から外部に漏れないように遮断する。本実施形態の遮蔽シャッタ20は、遮蔽部材21と、付勢部材23と、を有する。図3は、ノズルが吸引部から離反したときの遮蔽シャッタの状態を示す図である。
【0048】
遮蔽部材21は、放射線源5からの放射線を遮蔽する部材である。遮蔽部材21は、例えば、アルミニウムなどの金属製の板状部材である。本実施形態において、遮蔽部材21は、吸引部33のノズル31と対向する箇所に設けられた凹部OPに設けられる。具体的には、遮蔽部材21は、その一端が付勢部材23を介して吸引部33に設けられた凹部OPに固定されることで、凹部OPに収納される。
【0049】
付勢部材23は、遮蔽部材21を吸引部33とノズル31との間の空間に突出させるよう付勢する部材である。付勢部材23は、例えば、バネ、ゴムなどの弾性部材である。本実施形態において、付勢部材23は、吸引部33の凹部OPに設けられ、遮蔽部材21を吸引部33からノズル31の配置方向に付勢する。具体的には、付勢部材23は、その一端が吸引部33の凹部OPに固定される。付勢部材23の他端は、遮蔽部材21に固定される。ノズル31が吸引部33に近接しているとき、遮蔽部材21は、ノズル31により凹部OPの内部に押し込まれている。すなわち、ノズル31が吸引部33に近接しているとき、遮蔽部材21は、吸引部33の凹部OPの内部に収納される。
【0050】
一方、図3に示すように、ノズル31が吸引部33から離間したとき、付勢部材23が凹部OPの延長方向に沿って伸びることで、遮蔽部材21は、凹部OPの内部からノズル31に向けて突出する。凹部OPから突出した遮蔽部材21は、ノズル31と吸引部33との間の空間に配置されて、放射線源5から出力された放射線を遮蔽して、ノズル31と吸引部33との間から放射線が外部に漏れ出ることを防止する。
【0051】
ノズル31が吸引部33から離間したときに、遮蔽部材21がノズル31と吸引部33との間に配置されることで、放射線が不必要に外部に漏れ出なくなるので、例えば、捕集フィルタ1の交換などのメンテナンス時に、作業者等が放射線に被曝することを防止できる。
【0052】
このように、分析装置100の遮蔽シャッタ20は、電気的な機構などの複雑な機構を有することなく、遮蔽部材21を凹部OPに収納し、凹部OPから突出させることができる。すなわち、遮蔽シャッタ20は、単純な構成により、遮蔽部材21を凹部OPに収納し、凹部OPから突出させることができる。
【0053】
なお、図2及び図3に示すように、遮蔽部材21には、ストッパ部材21aと、シャフト21bと、が設けられてもよい。ストッパ部材21aは、遮蔽部材21から吸引部33の径方向に延び、吸引部33の凹部OPの側壁に設けられた溝(図示せず)に挿入される。ストッパ部材21aは、遮蔽部材21が凹部OPから突出するときに吸引部33の上端壁に当接して、遮蔽部材21が凹部OPから過剰に突出して凹部OPから抜け出ることを防止する。シャフト21bは、遮蔽部材21から下方に延び、コイル形状の付勢部材23に挿入される。シャフト21bは、凹部OPの内部における遮蔽部材21の動きを安定化させる。
【0054】
他の実施形態において、ノズル31に凹部を設け、この凹部に付勢部材23の一端を接続し他端を遮蔽部材21に接続してもよい。すなわち、ノズル31が吸引部33に近接しているときに遮蔽部材21をノズル31の内部に収納させる一方、ノズル31が吸引部33から離間しているときに遮蔽部材21をノズル31の内部から吸引部33の配置方向に突出させてもよい。
【0055】
放射線源5は、ノズル31の内部において、捕集面12の法線方向Dに対して傾斜した位置に設けられる。具体的には、放射線源5は、ノズル31の線源設置空間31cに配置される。放射線源5は、捕集フィルタ1に捕集された粒子状物質FPに照射する放射線を出力する。放射線源5は、例えば、炭素14(14C)、ストロンチウム90(90Sr)、プロメチウム147(147Pm)などのβ線を放射線として発生させるβ線源である。これらのβ線源は、単一エネルギーのβ線を放出しβ線以外(例えば、γ線)の放射線の放出も少ない。よって、これらをβ線源として用いることで、β線以外の不要な放射線の発生を抑制できる。
【0056】
放射線源5をβ線源とし、捕集面12に捕集された粒子状物質FPにβ線を照射することで、例えば、粒子状物質FPを通過したβ線の強度に基づいて、粒子状物質FPの質量濃度を測定できる。「粒子状物質FPの質量濃度」は、収集した気体の総体積中に含まれる粒子状物質の質量を、収集した気体の単位体積当たりの値として表したものとして定義され、例えば、μg/mを単位とする。また、粒子状物質FPにβ線を照射することで、粒子状物質FPから発生する蛍光X線に基づいて、粒子状物質FPの元素分析を実行できる。
【0057】
検出器7は、捕集フィルタ1の捕集面12とは反対側において出口開口31bと対向するよう配置され、放射線源5から出力され粒子状物質FPと捕集フィルタ1を通過後の放射線を検出する。検出器7は、放射線の検出面71が捕集フィルタ1の捕集面12の法線方向Dに対して垂直となるよう配置される。なお、法線方向Dに対して垂直とは、法線方向Dとのなす角度が90°(すなわち、捕集フィルタ1の面と平行)である場合に限られず、法線方向Dとなす角度が90°から若干ずれていることを意味してもよい。例えば、法線方向Dに対して垂直とは、法線方向Dとのなす角度が80°~100°であることを意味してもよい。
【0058】
検出面71を捕集面12の法線方向Dに対して垂直となるよう配置することで、捕集フィルタと検出器の検出面との間の距離を短くできるので、検出面71における放射線の照射領域の形状と、捕集フィルタ1の捕集面12における放射線の照射領域の形状と、を一致させることができる。その結果、粒子状物質を通過した放射線全体を検出でき、粒子状物質をより正確に分析できる。
【0059】
また、検出器7の検出面71を捕集フィルタ1の捕集面12の法線方向Dに対して垂直となるよう配置することにより、検出面71を捕集フィルタ1に最大限近づけることができる。その結果、粒子状物質FP以外の物質による放射線の減衰を抑制し、粒子状物質FPをより正確に分析できる。
【0060】
放射線源5をβ線源とした場合には、検出器7は、例えば、β線が入射したときに光を発生するシンチレータ(例えば、ポリビニルトルエン製のプラスチックシンチレータ)と、シンチレータで発生した光を検出するセンサ(例えば、SiPM(Silicon Photomultiplier、シリコン光電子増倍管)、光電子増倍管、シリコン半導体検出器など)と、を有する。
【0061】
分析装置100は、分析部9を備えてもよい。分析部9は、CPU、RAM、ROM、HDD、SSDなどの記憶装置、各種インターフェース、ディスプレイなどを有するコンピュータシステムである。分析部9は、分析装置100の各構成要素の制御と、分析装置100に関する各種情報処理とを実行する。分析部9は、演算部91を有する。
【0062】
演算部91は、分析部9のCPU、記憶装置、各種インターフェースにて構成され、分析装置100の各構成要素の制御と、分析装置100に関する各種情報処理とを実行する。演算部91は、分析装置100の各構成要素の制御、分析装置100に関する各種情報処理を、分析部9を構成するコンピュータシステムの記憶装置に記憶され、分析部9にて実行可能なソフトウェアによって実現する。演算部91は、上記制御及び情報処理の一部をハードウェア的に実現してもよい。
【0063】
分析部9は、表示部93を有してもよい。表示部93は、分析部9のディスプレイであり、分析装置100に関する各種情報、粒子状物質FPの分析結果(質量濃度に関する情報、元素に関する情報)を表示する。表示部93は、例えば、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイなどのディスプレイである。
【0064】
なお、分析部9が表示部93を有さない場合には、例えば、分析部9の記憶装置に分析結果などを記憶してもよい。また、記憶装置に記憶された分析結果などは、分析部9に接続された端末等に送信可能となっていてもよい。さらに、分析結果などは、分析部9に接続された端末等の表示部に表示されてもよい。
【0065】
(3)分析装置の動作
(3-1)粒子状物質の分析動作
以下、上記の構成を有する分析装置100の動作を説明する。まず、分析装置100を用いた粒子状物質FPの分析動作を説明する。分析装置100を用いた粒子状物質FPの分析動作では、まず、捕集フィルタ1の法線方向DにサンプルガスGsを流すことでサンプルガスGsを捕集面12に通過させて、サンプルガスGsに含まれる粒子状物質FPを捕集フィルタ1の捕集面12に捕集させる。具体的には、以下のようにして粒子状物質FPを捕集フィルタ1に捕集させる。以下では、捕集装置3に吸引部33が設けられている場合を例にとって説明する。
【0066】
最初に、演算部91は、ノズル31を吸引部33に向けて移動させて、捕集フィルタ1を吸引部33とノズル31の間に挟み込む。次に、演算部91が、吸引ポンプ35を動作させて、吸引部33の開口33aに吸引力を発生させる。
【0067】
出口開口31bは開口33aと対向しているので、開口33aに発生した吸引力が出口開口31b及びそれに接続されたガス流路31aに及ぶ。この結果、図4に示すように、取り入れ口からサンプルガスGsがガス流路31aに吸引される。ガス流路31aに吸引されたサンプルガスGsは、ガス流路31aを捕集フィルタ1に向けて流れ、出口開口31bから排出される。出口開口31bから排出されたサンプルガスGsは、捕集フィルタ1の捕集面12を通過する。この間、サンプルガスGsに含まれる粒子状物質FPが捕集面12に捕集される。捕集フィルタ1を通過後のサンプルガスGsは、吸引部33の開口33aに吸引され、吸引ポンプ35により排出される。図4は、ノズルの内部におけるサンプルガスの流れを示す図である。
【0068】
分析装置100においては、サンプルガスGsが流れるガス流路31aは捕集フィルタ1の法線方向Dに延びているので、捕集面12を通過するサンプルガスGsは、捕集面12に対して垂直に流れる。また、出口開口31bはノズル31の面31e(捕集フィルタ1の法線方向Dに対して垂直な面)に形成されており、粒子状物質FPの捕集中、ノズル31は捕集フィルタ1に近接している。このため、捕集フィルタ1の捕集面12における粒子状物質FPの捕集領域は、出口開口31bに対応した大きさ及び形状を有する。
【0069】
上記のようにして粒子状物質FPを捕集フィルタ1の捕集面12に捕集中に、演算部91は、放射線源5から放射線を発生させる。放射線源5からはあらゆる方向に放射線が出力されるが、線源設置空間31cの壁面によって、放射線源5から出力された放射線は、線源設置空間31cの延長方向に照射される。すなわち、図5に示すように、放射線源5から出力された放射線は、捕集フィルタ1の法線方向Dに対して傾斜した位置から、捕集面12に捕集された粒子状物質に照射される。具体的には、放射線源5から出力された放射線は、線源設置空間31cの延長方向に進み、その後、出口開口31bに到達する。図5は、ノズルの内部における放射線の進行経路を示す図である。
【0070】
出口開口31bに到達した放射線は出口開口31bから出て捕集フィルタ1に照射されるが、このときの放射線は、出口開口31bの壁面の延長方向に照射される。捕集面12に照射された放射線は、捕集面12に捕集された粒子状物質FP及び捕集フィルタ1を通過後、検出器7の検出面71に入射し、検出器7により検出される。
【0071】
演算部91は、検出器7により検出された放射線に基づいて、捕集フィルタ1に捕集された粒子状物質FPを分析する。放射線源5がβ線源の場合、具体的には、演算部91は、放射線源5から出力されたβ線の強度と検出器7により検出されたβ線の強度との比率又は差分に基づいて、サンプルガスGsに含まれる粒子状物質FPの質量濃度を算出する。
【0072】
その後、所定の時間(例えば、1時間)だけ粒子状物質FPを捕集フィルタ1の捕集面に捕集した後、さらに粒子状物質FPの分析を行う場合には、演算部91は、ノズル31を吸引部33から離間する方向に移動させて、捕集フィルタ1を移動可能とする。次に、演算部91は、巻き取りリール11aを回転させて捕集フィルタ1を長さ方向に移動させて、捕集面12に粒子状物質FPが捕集されていない部分をノズル31の出口開口31bの直下に配置させる。その後、上記に説明した動作を実行して、さらなる粒子状物質FPの分析を実行する。
【0073】
分析装置100においては、サンプルガスGsが流れるガス流路31aが、捕集フィルタ1の捕集面12の法線方向Dと平行である一方、放射線源5が捕集面12の法線方向Dに対して傾斜した位置に設けられる。これにより、放射線源5がガス流路31aと重複しないので、放射線源5がサンプルガスGsの流れを妨げない。また、放射線源5がサンプルガスGsの流れを妨げない(つまり、放射線源5とガス流路31aとが重複しない)ことで、捕集フィルタ1の捕集面12全体にサンプルガスGsを均一に通過できる。この結果、捕集フィルタ1の捕集面12に粒子状物質FPをむらなく均一に捕集できる。
【0074】
また、分析装置100においては、出口開口31bはノズル31の面31eに形成されており、放射線の照射中にノズル31は捕集フィルタ1に近接しているため、捕集フィルタ1の捕集面12における放射線の照射領域は、出口開口31bに対応した大きさ及び形状を有する。また、分析装置100においては、サンプルガスGsが排出される開口と放射線の出口となる開口とが出口開口31bとして共通となっているので、捕集面12における粒子状物質FPの捕集領域と、捕集面12における放射線の照射領域とが一致する。捕集面12において粒子状物質FPの捕集領域と放射線の照射領域とが一致することで、捕集面12に捕集された粒子状物質FP全体に放射線を照射できる。この結果、サンプルガスGsに含まれる粒子状物質をより正確に分析できる。
【0075】
さらに、検出器7の放射線の検出面71は、捕集フィルタ1の捕集面12の法線方向Dに対して垂直に配置されている。これにより、捕集フィルタ1と検出器7の検出面71との間の距離を短くできるので、検出面71における放射線の照射領域の形状と、捕集フィルタ1の捕集面12における放射線の照射領域の形状と、を一致させることができる。その結果、捕集面12に捕集された粒子状物質FPを通過した放射線全体を検出でき、粒子状物質FPをより正確に分析できる。また、検出面71と捕集フィルタ1との間の距離を短くできることで、捕集面12に捕集された粒子状物質FPを通過した放射線が検出器7で検出されるまでに大きく減衰することを防止できる。この結果、粒子状物質FPをより正確に分析できる。
【0076】
(3-2)メンテナンス動作
次に、分析装置100のメンテナンス動作を説明する。メンテナンスを行う際、演算部91は、ノズル31を吸引部33から離間させる。ノズル31を吸引部33から離間させると、図3に示すように、凹部OPに収納されていた遮蔽部材21が、付勢部材23の付勢力により凹部OPから突出する。これにより、放射線源5から放射線が出力されていても、凹部OPから突出した遮蔽部材21が出口開口31bから出てきた放射線を遮蔽するので、ノズル31と吸引部33との間から放射線が外部に漏れ出なくなる。この結果、メンテナンス作業を行う作業者等は放射線に被曝しない。
【0077】
2.第2実施形態
上記の第1実施形態の遮蔽シャッタ20においては、放射線を遮蔽する遮蔽部材21は、付勢部材23により、凹部OPから突出し、又は、凹部OPに収納可能とされていた。しかしながら、遮蔽シャッタ20の構成は、必要に応じて遮蔽部材21をノズル31と吸引部33との間に配置し又は配置しないようにできる構成であれば、第1実施形態で説明した構成に限られない。例えば、第2実施形態の遮蔽シャッタ20’は、図6に示すように、遮蔽部材21’と、ヒンジ部23’と、を有する。図6は、第2実施形態の遮蔽シャッタの構成を示す図である。
【0078】
遮蔽部材21’は、ノズル31と吸引部33との間の隙間に配置されて、放射線源5からの放射線を遮蔽する部材である。遮蔽部材21’は、例えば、アルミニウムなどの金属の板状部材である。本実施形態においては、遮蔽部材21’は、ノズル31の捕集フィルタ1と対向する側(すなわち、面31e)から捕集フィルタ1の配置方向に延びるよう配置されている。
【0079】
ヒンジ部23’は、遮蔽部材21’を回動可能に支持する。例えば、ヒンジ部23’は、固定部材25’を介して、ノズル31の面31eに対して垂直であり、線源設置空間31cが設けられた側とは反対側の面31fに固定される。
【0080】
上記の構成を有する遮蔽シャッタ20’においては、ノズル31を吸引部33から離間させたときに、図7に示すように、遮蔽部材21’が、ノズル31と吸引部33との間の空間に蓋をする。これにより、放射線源5から放射線が出力されていても、遮蔽部材21’が出口開口31bから出てきた放射線を遮蔽するので、ノズル31と吸引部33との間から放射線が外部に漏れ出なくなる。この結果、メンテナンス作業を行う作業者等は放射線に被曝しない。図7は、ノズルを吸引部から離間させたときの遮蔽シャッタの状態を示す図である。
【0081】
また、上記の構成を有する遮蔽シャッタ20’は、電気的な機構を用いない簡易な構成により、遮蔽部材21’の位置を必要に応じて変更できる。具体的には、例えば、捕集フィルタ1の交換などノズル31と吸引部33との間に空間を設ける必要がある場合には、図8に示すように、遮蔽部材21’を回動させることで、遮蔽部材21’と吸引部33との間に空間を形成できる。図8は、遮蔽部材を外方向に回動させた状態を示す図である。
【0082】
なお、遮蔽部材21’は、図8に示すように外方向に回動するだけでなく、図9に示すように内方向に回動可能となっていてもよい。図9は、遮蔽部材を内方向に回動させた状態を示す図である。例えば、捕集フィルタ1をノズル31と吸引部33との間から除去する場合には、遮蔽部材21’を外方向に回動させて、ノズル31と吸引部33との間に空間を形成できる。一方、捕集フィルタ1をノズル31と吸引部33との間に挿入する場合には、遮蔽部材21’を内方向に回動させて、遮蔽部材21’と吸引部33との間に空間を形成できる。
【0083】
なお、遮蔽部材21’及びヒンジ部23’は、ノズル31以外の任意の箇所に固定できる。例えば、ノズル31側に配置された分析装置100の他の部材に固定できる。また、遮蔽部材21’及びヒンジ部23’を、吸引部33側に配置することもできる。ヒンジ部23’は、固定部材25’を介してでなく、直接ノズル31(及び他の箇所)に固定されてもよい。
【0084】
3.第3実施形態
(1)概略
上記の分析装置100により粒子状物質FPを分析する場合、放射線源5から照射された放射線は、粒子状物質FPとだけ相互作用するだけでなく、サンプルガスGsに含まれる粒子状物質以外の他の物質とも相互作用する可能性がある。つまり、粒子状物質FPを通過した後の放射線は、粒子状物質FP以外の物質の影響も受けている可能性がある。このように、放射線が粒子状物質FP以外の物質の影響も受けており、この放射線に基づいて粒子状物質FPを分析すると、正確な粒子状物質FPの分析ができなくなる可能性がある。
【0085】
サンプルガスGsに含まれる放射線と相互作用する物質としては、例えば、二酸化炭素(CO)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NO)、硫黄酸化物(SO)、水分(HO)がある。例えば、各種燃焼プロセスで発生するガスは、10~25vol%(容量%)の二酸化炭素と、100~数千ppmのオーダーのその他の物質と、を含んでいる。また、セメント製造プロセスで発生するガスは、約100vol%の二酸化炭素と、数千ppmオーダーのその他の物質と、を含んでいる。以下の説明では、粒子状物質FP以外の放射線と相互作用する物質を、影響物質と呼ぶ。
【0086】
そこで、第3実施形態では、分析装置100を用いて粒子状物質FPを分析する場合に、検出器7により検出された放射線の検出結果だけでなく、放射線と相互作用する影響物質に関する情報も考慮して、粒子状物質FPを分析する。この目的のため、第3実施形態では、分析装置100に、影響物質に関する情報を提供する分析システム300を構築する。
【0087】
上記のように、各種プロセスにおいては、特に二酸化炭素(CO)の含有量が多い。従って、粒子状物質FPの分析においては、特に二酸化炭素の影響を考慮することが好ましい。
【0088】
(2)第3実施形態の分析システム300の構成
具体的には、図10に示すように、第3実施形態の分析システム300は、上記の第1実施形態、第2実施形態で説明した分析装置100と、サンプリングプローブ101と、取得部102と、を備える。図10は、第3実施形態の分析システム300の構成を示す図である。
【0089】
サンプリングプローブ101は、サンプルガスGsが流れる流路FL(例えば、煙道)の側壁の所定位置に固定され、流路FLからサンプルガスGsをサンプリングする。サンプリングプローブ101は、分析装置100の吸引ポンプ35によるガスの吸引量などにより決定される流量のサンプルガスGsを流路FLからサンプリングする。サンプリングプローブ101でサンプルされたサンプルガスGsは、第1ガスラインL1を通って、分析装置100に導入される。
【0090】
なお、流路FLを流れるサンプルガスGsには、高濃度の粒子状物質FPが含まれる場合がある。このような場合には、第1ガスラインL1に、流路FLからサンプリングしたサンプルガスGsを希釈する希釈器が設けられてもよい。これにより、分析装置100のノズル31(の内部のガス流路31a、出口開口31bなど)が汚染する、及び/又は、捕集フィルタ1の目詰まりの発生の可能性を低減できる。
【0091】
取得部102は、第1ガスラインL1に接続される。取得部102は、第1ガスラインL1を流れるサンプルガスGsに含まれる影響物質に関する情報を取得する。取得部102により取得された情報は、分析装置100に出力され、粒子状物質FPの分析に用いられる。サンプルガスSGに含まれる影響物質に関する情報は、影響物質に関する情報であればよい。当該情報は、例えば、影響物質の種類(例えば、物質名に関する情報、化学式など)、影響物質の特性、影響物質の特性値、サンプルガスSGにおける影響物質の含有量(例えば、濃度)などの少なくとも1つを含む。取得部102は、例えば、サンプルガスGsに含まれる影響物質の濃度を上記情報として取得するセンサ、ガス分析装置などである。
【0092】
なお、取得部102は、流路FLの側壁に設けられ、流路FLを流れるサンプルガスGsに含まれる影響物質に関する情報を取得してもよい。また、特に水分の含有量(すなわち湿度)を取得する取得部102は、分析装置100内に設けられてもよい。
【0093】
(3)第3実施形態の分析システムにおける粒子状物質の分析動作
以下、図11を用いて、上記の構成を有する分析システム300を用いた粒子状物質FPの分析動作を説明する。図11は、第3実施形態の分析システム300を用いた粒子状物質の分析動作を示すフローチャートである。まず、捕集フィルタ1の法線方向DにサンプルガスGsを流すことでサンプルガスGsを捕集面12に通過させて、サンプルガスGsに含まれる粒子状物質FPを捕集フィルタ1の捕集面12に捕集させる(ステップS1)。
【0094】
粒子状物質FPを捕集フィルタ1の捕集面12に捕集させている間に、演算部91は、放射線源5から出力される放射線を、捕集面12に捕集された粒子状物質FPに照射させる(ステップS2)。放射線源5から出力された放射線は、線源設置空間31cの延長方向に進み、その後、ガス流路31aを通り出口開口31bから出て捕集面12に捕集された粒子状物質FP及び捕集フィルタ1を通過後、検出器7の検出面71に入射し、検出器7により検出される。すなわち、放射線源5から出力された放射線は、粒子状物質FP(と捕集フィルタ1)と相互作用し(粒子状物質FPにより吸収され)、また、放射線源5から検出器7までの放射線の伝搬空間に存在する影響物質と相互作用し(例えば、影響物質により吸収され)、検出器7により検出される。
【0095】
粒子状物質FPを捕集フィルタ1に捕集させている間、演算部91は、所定の時間毎に、放射線の検出結果を検出器7から取得する(ステップS3)。例えば、演算部91は、1秒間に検出器7にて検出された放射線のカウント値を1秒ごとに取得する。
【0096】
また、演算部91は、放射線の検出結果を取得したときにサンプルガスGsに含まれる影響物質に関する情報を、取得部102から取得する(ステップS4)。
【0097】
次に、演算部91は、ステップS3で取得した放射線の検出結果と、ステップS4で取得した影響物質に関する情報と、に基づいて、捕集フィルタ1に捕集された粒子状物質FPを分析する(ステップS5)。放射線源5がβ線源の場合、具体的には、演算部91は、ステップS3で取得した放射線の検出結果と、ステップS4で取得した影響物質に関する情報と、に基づいて、サンプルガスGsに含まれる粒子状物質FPの質量濃度を算出する。
【0098】
具体的には、図12に示すフローチャートに従って、粒子状物質FPを分析できる。図12は、粒子状物質FPの分析方法の詳細を示すフローチャートである。この方法では、演算部91は、放射線の検出結果を影響物質に関する情報に基づいて補正し、補正した検出結果に基づいて粒子状物質FPを分析する。
【0099】
まず、演算部91は、検出器7により検出された放射線の検出結果を、影響物質に関する情報に基づいて補正して補正後検出結果を算出する(ステップS51)。例えば、放射線の検出結果を、1秒間に検出器7にて検出された放射線のカウント値とした場合には、演算部91は、以下の数1で示される式を用いて補正後検出結果を算出できる。
【数1】
【0100】
上記の数1において、Iは、検出器7にて検出された放射線のカウント値である。Iは、補正後検出結果である。μは吸収係数、ρは標準密度、Tは標準温度、Pは標準圧力である。ρ(標準密度)、T(標準温度)、P(標準圧力)は、予め決められた定数とできる。また、Sは捕集スポット径、VはサンプルガスGsが流れる箇所の上流側の容積、PはサンプルガスGsが流れる箇所の上流側の圧力、VはサンプルガスGsが流れる箇所の下流側の容積、PはサンプルガスGsが流れる箇所の下流側の圧力、Tは保持部材51の温度である。S(捕集スポット径)、V(上流側の容積)、P(上流側の圧力)、V(下流側の容積)、P(下流側の圧力)、T(サンプルガスGsの温度)は、分析装置100の寸法等に応じて決定される定数とできる。
【0101】
数1に含まれるパラメータのうち、吸収係数(μ)が、サンプルガスGsに含まれる影響物質に関する情報(例えば、サンプルガスGsにおける影響物質の含有量(濃度))に依存するパラメータである。従って、補正後検出結果(数1のI)を算出するときに、演算部91は、吸収係数(μ)として、ステップS4で取得した影響物質に関する情報に応じた値を用いる。取得した影響物質に関する情報に応じた吸収係数は、例えば、既知の濃度の影響物質を含むサンプルガスGsを流したときに実測された実測結果に基づいて、及び/又は、シミュレーション等の実行結果に基づいて決定できる。
【0102】
補正後検出結果を算出後、演算部91は、補正後検出結果に基づいて、粒子状物質FPを分析する(ステップS52)。具体的には、演算部91は、補正後検出結果(補正後のカウント値)から、粒子状物質FPの質量濃度を算出する。演算部91は、例えば、粒子状物質FPの分析を開始してから所定の時間(t秒とする)経過後の粒子状物質FPの捕集量を、以下の数2を用いて算出し、この捕集量をサンプルガスGsのt秒までの総流量で除算することで、粒子状物質FPの質量濃度を算出できる。
【数2】
【0103】
上記の数2において、Mは分析開始からt秒経過後に捕集フィルタ1に捕集された粒子状物質の捕集量である。I(0)は分析開始直後の補正後検出結果であり、I(t)は分析開始からt秒経過後の補正後検出結果である。μは吸収係数、kはスケール係数、Sは捕集スポット径である。数2の吸収係数(μ)は、影響物質に関する情報には依存しない(すなわち、影響物質に影響を受けない)定数である。また、k(スケール係数)、S(捕集スポット径)も定数とできる。
【0104】
その他、演算部91は、上記の捕集量を分析開始から所定の時間毎(例えば、1秒毎)に算出し、この捕集量から単位時間(例えば、1秒間)あたりの捕集量の増加量を算出し、この捕集量の増加量を累積加算することで、分析開始から長い時間(例えば、1時間)経過後の最終的な捕集量を算出してもよい。
【0105】
上記のように、各種プロセスで発生するサンプルガスSGには、特に二酸化炭素(CO)が多く含まれる。従って、粒子状物質FPを通過した放射線の検出結果を、特に、サンプルガスGsに含まれる二酸化炭素に関する情報(例えば、サンプルガスGsにおける二酸化炭素の濃度)に基づいて補正して補正後検出結果を算出することが好ましい。これにより、粒子状物質FPの分析結果に対して大きな影響を及ぼす二酸化炭素の影響を低減して、より正確な粒子状物質FPの分析結果を得られる。
【0106】
その他、演算部91は、図13に示すフローチャートに従って、粒子状物質FPを分析することもできる。図13は、粒子状物質FPの他の分析方法の詳細を示すフローチャートである。この方法では、演算部91は、放射線の検出結果に基づいて粒子状物質FPを分析し、この分析結果を影響物質に関する情報に基づいて補正する。
【0107】
まず、演算部91は、検出器7により検出された放射線の検出結果に基づいて、粒子状物質FPを分析して補正前分析結果を取得する(ステップS51’)。具体的には、演算部91は、上記の数1と数2を用いて、第1実施形態で説明したのと同様の方法で、放射線の検出結果から粒子状物質FPの分析結果(質量濃度)を算出する。ここでは、数1の吸収係数(μ)として、影響物質には依存しない定数を用いる。
【0108】
次に、演算部91は、ステップS51’で算出した補正前分析結果を、影響物質に関する情報に基づいて補正する(ステップS52’)。例えば、粒子状物質FPの分析結果を質量濃度とする場合には、以下のようにして補正前の質量濃度を補正できる。まず、演算部91は、サンプルガスGsに影響物質が含まれている場合に得られる放射線の検出結果(放射線のカウント値)を影響物質に関する情報(例えば、影響物質の濃度など)に基づいて算出し、この検出結果から、影響物質の影響に相当する粒子状物質FPの質量濃度を算出する。
【0109】
影響物質が含まれている場合の放射線の検出結果(放射線のカウント値)は、例えば、既知の濃度の影響物質を含むサンプルガスGsを流したときに実測された実測結果に基づいて、及び/又は、シミュレーション等の実行結果に基づいて決定できる。
【0110】
その後、演算部91は、ステップS51’で算出した補正前の質量濃度から、上記のように算出した影響物質の影響に相当する粒子状物質FPの質量濃度を差し引くことで、影響物質の影響を低減した粒子状物質FPの質量濃度(分析結果)を算出できる。
【0111】
上記のように、分析システム300では、放射線と相互作用する影響物質に関する情報を取得し、粒子状物質FPと相互作用することで生じた放射線だけでなく、影響物質に関する情報も考慮して粒子状物質FPを分析している。これにより、放射線の検出結果を用いた粒子状物質FPの分析結果に対する影響物質の影響を低減することができる。この結果、より正確な粒子状物質の分析結果を得られる。
【0112】
上記のように、各種プロセスで発生するサンプルガスSGには、特に二酸化炭素(CO)が多く含まれる。従って、上記の補正前分析結果を、特に、サンプルガスGsに含まれる二酸化炭素に関する情報(例えば、サンプルガスGsにおける二酸化炭素の濃度)に基づいて補正して最終的な分析結果を得ることが好ましい。これにより、粒子状物質FPの分析結果に対して大きな影響を及ぼす二酸化炭素の影響を低減して、より正確な粒子状物質FPの分析結果を得られる。
【0113】
4.他の実施形態
以上、本発明の一又は複数の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。特に、本明細書に書かれた複数の実施形態及び変形例は必要に応じて任意に組み合せ可能である。
【0114】
(A)分析装置100は、粒子状物質FPに関する他の分析を実行する機能を有してもよい。例えば、分析装置100は、粒子状物質FPから発生する蛍光X線に基づいて、粒子状物質FPに含まれる元素の特定と当該元素の含有量とを分析可能であってもよい。この場合、分析装置100は、粒子状物質FPにX線を照射する線源と、粒子状物質FPから発生する蛍光X線を検出する検出器と、をさらに備えてもよい。
【0115】
または、分析装置100は、粒子状物質FPに照射するX線の線源を別途設けることなく、粒子状物質FPに放射線源5からの放射線を照射することで発生する蛍光X線を検出するようにしてもよい。
【0116】
(B)上記の分析装置100の分析部9が出力する分析結果に基づいて、他の装置の制御を行ってもよい。例えば、ごみ焼却設備にて発生する粒子状物質FPを分析対象とした場合に、粒子状物質FPに有害な物質が含まれているか否かを分析結果として出力し、この分析結果が出力されたときに、ごみ焼却設備の所定の装置を動作させるようにしてもよい。
【0117】
(C)上記の分析装置100と他の分析装置(例えば、ガス分析装置)とを組み合わせて、分析対象についてより詳細な分析を行うためのシステムを構築できる。
【0118】
(D)上記の分析装置100では、吸引部33の吸引により、サンプルガスGsを捕集フィルタ1の捕集面12を通過させていた。しかしこれに限られず、サンプルガスGsを捕集面12に押し込む(すなわち、所定の圧力でサンプルガスGsを捕集面12に吹き付ける)ことにより、粒子状物質FPを捕集面12に捕集するようにしてもよい。この場合、吸引部33を省略してもよい。
【0119】
(E)上記の分析装置100では、放射線源5はノズル31の内部の線源設置空間31cに設けられていたが、これに限られない。放射線源5は、ノズル31の外部において、捕集面12の法線方向Dに対して傾斜した位置に設けられてもよい。
【0120】
(F)放射線源5は、β線源に限られず、粒子状物質FPの分析事項等に応じて、γ線源、X線源などの他の放射線源を用いることができる。
【0121】
5.実施形態の特徴
上記実施形態は下記のようにも説明できる。
(1)分析装置(例えば、分析装置100)は、捕集フィルタ(例えば、捕集フィルタ1)と、ノズル(例えば、ノズル31)と、放射線源(例えば、放射線源5)と、検出器(例えば、検出器7)を備える。捕集フィルタは、粒子状物質(例えば、粒子状物質FP)を捕集するための捕集面(例えば、捕集面12)を有する。ノズルは、サンプルガス(例えば、サンプルガスGs)を捕集面に通過させて捕集面に粒子状物質を捕集させる。放射線源は、捕集面の法線方向(例えば、法線方向D)に対して傾斜した位置に設けられ、捕集面に捕集された粒子状物質に照射する放射線を出力する。検出器は、粒子状物質に放射線を照射することで発生した放射線を検出する。
【0122】
上記の分析装置において、ノズルは、ガス流路(例えば、ガス流路31a)を有する。ガス流路は、捕集面の法線方向に延び、捕集面に通過させるサンプルガスが流れる流路である。
【0123】
上記の分析装置では、サンプルガスが流れるガス流路が捕集面の法線方向と平行である一方、放射線源が捕集面の法線方向に対して傾斜した位置に設けられる。これにより、放射線源がガス流路と重複しないので、放射線源がサンプルガスの流れを妨げない。放射線源がサンプルガスの流れを妨げない(つまり、放射線源とガス流路とが重複しない)ことで、捕集フィルタの捕集面全体にサンプルガスを均一に通過できる。この結果、捕集フィルタの捕集面に粒子状物質をむらなく均一に捕集できる。
【0124】
(2)上記(1)の分析装置において、ノズルの内部には、放射線源が設けられる線源設置空間(例えば、線源設置空間31c)が形成されてもよい。これにより、ノズルの内部に放射線源を設置できるので、捕集フィルタの捕集面に近い位置から放射線を出力できる。
【0125】
(3)上記(1)又は(2)の分析装置において、ノズルは、放射線源から出力された放射線及びサンプルガスの出口である出口開口(例えば、出口開口31b)を有してもよい。これにより、サンプルガスの出口と放射線の出口とが出口開口で共通できるので、捕集面における粒子状物質の捕集領域と放射線の照射領域とを一致させることができる。この結果、捕集された粒子状物質全体に放射線を照射できるので、サンプルガスに含まれる粒子状物質をより正確に分析できる。
【0126】
(4)上記(3)の分析装置において、出口開口は、ガス流路と線源設置空間とが合流する合流部分(例えば、合流部分31d)を含むように、捕集フィルタの捕集面と対向し捕集面の法線方向に対して垂直となっているノズルの面(例えば、面31e)上に形成されてもよい。線源設置空間は、放射線源が設けられる空間である。これにより、粒子状物質の捕集領域と放射線の照射領域とを一致させることができる。
【0127】
(5)上記(1)~(4)のいずれかの分析装置は、遮蔽シャッタ(例えば、遮蔽シャッタ20、20’)をさらに備えてもよい。遮蔽シャッタは、放射線源から照射される放射線が外部に漏れないように遮蔽する。これにより、放射線が不必要に外部に漏れ出なくなるので、分析装置のメンテナンス時などに、作業者等が放射線に被曝しない。
【0128】
(6)上記(5)の分析装置において、遮蔽シャッタは、遮蔽部材(例えば、遮蔽部材21’)と、ヒンジ部(例えば、ヒンジ部23’)と、を有してもよい。遮蔽部材は、放射線源からの放射線を遮蔽する。ヒンジ部は、遮蔽部材を回動可能に支持する。これにより、電気的な機構を用いない簡易な構成により、遮蔽部材の位置を必要に応じて変更できる。
【0129】
(7)上記(5)の分析装置は、吸引部(例えば、吸引部33)をさらに備えてもよい。吸引部は、捕集フィルタを挟んでノズルと対向するように設けられ、捕集フィルタを通過後のサンプルガスを吸引する。この場合、遮蔽シャッタは、遮蔽部材(例えば、遮蔽部材21)と、付勢部材(例えば、付勢部材23)と、を有してもよい。遮蔽部材は、放射線源から照射される放射線を遮蔽する。付勢部材は、遮蔽部材を吸引部とノズルとの間の空間に突出させるよう付勢する。これにより、例えば、ノズルと吸引部との間に隙間が空いて放射線が外部に漏れる場合に、電気的な機構を用いない簡易な構成により、遮蔽部材をノズルと吸引部との間の隙間に突出させることができる。
【0130】
(8)上記(1)~(7)のいずれかの分析装置において、検出器の放射線の検出面(例えば、検出面71)は、捕集フィルタの捕集面の法線方向に対して垂直に配置されてもよい。捕集フィルタと検出器の検出面との間の距離を短くできるので、検出面における放射線の照射領域の形状と、捕集フィルタの捕集面における放射線の照射領域の形状と、を一致させることができる。その結果、捕集面に捕集された粒子状物質を通過した放射線全体を検出でき、粒子状物質をより正確に分析できる。また、検出面と捕集フィルタとの間の距離を短くできることで、捕集面に捕集された粒子状物質を通過した放射線が検出器で検出されるまでに大きく減衰することを防止できる。この結果、粒子状物質をより正確に分析できる。
【0131】
(9)上記(1)~(8)のいずれかの分析装置において、放射線源からの放射線の照射方向は、捕集フィルタの捕集面に対して20°~70°の角度で傾斜していてもよい。これにより、放射線源がガス流路と重複することを回避しつつ、捕集面に捕集された粒子状物質に十分な放射線が照射されなくなることを防止できる。
【0132】
(10)上記(1)~(9)のいずれかの分析装置において、放射線源は、β線を出力するβ線源であってもよい。これにより、β線を用いた粒子状物質の分析を実行できる。
【0133】
(11)上記(1)~(10)のいずれかの分析装置において、ガス流路は重力方向に延びてもよい。これにより、粒子状物質がガス流路に堆積せず、より多くの粒子状物質を捕集フィルタの捕集面に捕集できるので、粒子状物質の分析精度を向上できる。
【0134】
(12)粒子状物質の分析方法は、以下のステップを有する。
◎粒子状物質を捕集するための捕集面を有する捕集フィルタの法線方向にサンプルガスを流すことで、サンプルガスを捕集面に通過させて捕集面に粒子状物質を捕集させるステップ。
◎法線方向に対して傾斜した位置から捕集面に捕集された粒子状物質に放射線を照射するステップ。
◎粒子状物質に放射線を照射することで発生した放射線を検出するステップ。
【0135】
上記の分析方法では、サンプルガスが流れる方向が捕集面の法線方向と平行である一方、放射線の照射方向が捕集面の法線方向に対して傾斜している。これにより、放射線を照射する部材(すなわち、放射線源)がサンプルガスの流れを妨げなくなる。また、放射線源がサンプルガスの流れを妨げないことで、捕集フィルタの捕集面全体にサンプルガスを均一に通過できる。この結果、捕集フィルタ上の捕集面に粒子状物質をむらなく均一に捕集できる。
【産業上の利用可能性】
【0136】
本発明は、粒子状物質を分析する分析装置に広く適用できる。
【符号の説明】
【0137】
100 :分析装置
1 :捕集フィルタ
11a :巻き取りリール
11b :送り出しリール
12 :捕集面
:法線方向
3 :捕集装置
31 :ノズル
31a :ガス流路
31b :出口開口
31c :線源設置空間
31d :合流部分
33 :吸引部
33a :開口
OP :凹部
35 :吸引ポンプ
5 :放射線源
7 :検出器
71 :検出面
9 :分析部
91 :演算部
93 :表示部
20、20’ :遮蔽シャッタ
21 :遮蔽部材
21a :ストッパ部材
21b :シャフト
23 :付勢部材
21’ :遮蔽部材
23’ :ヒンジ部
25’ :固定部材
FP :粒子状物質
Gs :サンプルガス
300 :分析システム
101 :サンプリングプローブ
102 :取得部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13