(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094337
(43)【公開日】2024-07-09
(54)【発明の名称】発光装置、照明装置、画像表示装置及び車両用表示灯
(51)【国際特許分類】
H01L 33/50 20100101AFI20240702BHJP
C09K 11/64 20060101ALI20240702BHJP
C09K 11/62 20060101ALI20240702BHJP
C09K 11/59 20060101ALI20240702BHJP
C09K 11/61 20060101ALI20240702BHJP
C09K 11/80 20060101ALI20240702BHJP
C09K 11/77 20060101ALI20240702BHJP
C09K 11/79 20060101ALI20240702BHJP
C09K 11/85 20060101ALI20240702BHJP
C09K 11/08 20060101ALI20240702BHJP
G02B 5/20 20060101ALI20240702BHJP
F21V 9/38 20180101ALI20240702BHJP
F21Y 115/10 20160101ALN20240702BHJP
【FI】
H01L33/50
C09K11/64
C09K11/62
C09K11/59
C09K11/61
C09K11/80
C09K11/77
C09K11/79
C09K11/85
C09K11/08 J
G02B5/20
F21V9/38
F21Y115:10
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024060243
(22)【出願日】2024-04-03
(62)【分割の表示】P 2022210188の分割
【原出願日】2022-12-27
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】稲田 悠平
(72)【発明者】
【氏名】来島 友幸
(72)【発明者】
【氏名】広崎 尚登
【テーマコード(参考)】
2H148
4H001
5F142
【Fターム(参考)】
2H148AA01
2H148AA07
4H001CA02
4H001CA07
4H001XA03
4H001XA07
4H001XA09
4H001XA11
4H001XA12
4H001XA13
4H001XA14
4H001XA17
4H001XA19
4H001XA20
4H001XA21
4H001XA30
4H001XA31
4H001XA35
4H001XA38
4H001XA39
4H001XA49
4H001XA53
4H001XA56
4H001XA57
4H001XA64
4H001YA58
4H001YA59
4H001YA63
4H001YA65
4H001YA66
5F142DA02
5F142DA43
5F142DA72
5F142DA73
5F142GA01
5F142GA28
5F142HA01
5F142HA05
(57)【要約】
【課題】演色性、色再現性、変換効率、安全性、コントラストのいずれか1つ以上が良好な発光装置、照明装置、画像表示装置及び/又は車両用表示灯を提供すること。
【解決手段】第1の発光体と、該第1の発光体からの光の照射によって可視光を発する第2の発光体とを備える発光装置であって、前記第2の発光体は少なくとも、以下(A)及び(B)を満たす赤色蛍光体を備える、発光装置。
(A)発光スペクトルが、ピーク半値幅(FWHM)が20nm以上65nm以下である少なくとも1つの発光ピークを含み、
(B)発光色の色度座標がCIE1931色度座標系において(x、y)で表される座標を基準に、それぞれ以下の式(a)及び式(b)で表される2本の直線の間に存在し、かつ、0.290≦y≦0.350である。
y=0.992-x ・・・(a)
y=1.000-x ・・・(b)
【選択図】
図2A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の発光体と、該第1の発光体からの光の照射によって可視光を発する第2の発光体とを備える発光装置であって、
前記第2の発光体は少なくとも、以下(A)及び(B)を満たす赤色蛍光体を備える、発光装置。
(A)発光スペクトルが、ピーク半値幅(FWHM)が20nm以上65nm以下である少なくとも1つの発光ピークを含み、
(B)発光色の色度座標がCIE1931色度座標系において(x、y)で表される座標を基準に、それぞれ以下の式(a)及び式(b)で表される2本の直線の間に存在し、かつ、0.290≦y≦0.350である。
y=0.992-x ・・・(a)
y=1.000-x ・・・(b)
【請求項2】
前記赤色蛍光体が発する赤色光の色度座標のyの値が0.300以上である、請求項1に記載の発光装置。
【請求項3】
前記赤色蛍光体が発する赤色光の色度座標のyの値が0.310以下である、請求項1又は2に記載の発光装置。
【請求項4】
前記赤色蛍光体が実質的にMnを含まない、請求項1又は2に記載の発光装置。
【請求項5】
前記赤色蛍光体の発光スペクトルは、発光ピーク波長が648nm以下の発光ピークを少なくとも1つ含む、請求項1又は2に記載の発光装置。
【請求項6】
前記赤色蛍光体の内部量子効率が30%以上である、請求項1又は2に記載の発光装置。
【請求項7】
前記赤色蛍光体の発光スペクトルにおけるピーク半値幅が57nm以下である、請求項1又は2に記載の発光装置。
【請求項8】
前記赤色蛍光体の発光ピーク波長x(nm)と発光スペクトルにおけるピーク半値幅y(nm)とが、y≦184-0.2xの関係を満たす、請求項1又は2に記載の発光装置。
【請求項9】
前記赤色蛍光体が少なくとも下記式[1]で表される組成を有する結晶相を含む蛍光体を含む、請求項1又は2に記載の発光装置。
RexMAaMBbMCcNdXe [1]
(上記式[1]中、
MAはSr、Ca、Ba、Na、K、Y、Gd、及びLaから成る群から選ばれる1種以上の元素を含み、
MBはLi、Mg、及びZnから成る群から選ばれる1種以上の元素を含み、
MCはAl、Si、Ga、In、及びScから成る群から選ばれる1種以上の元素を含み、
XはF、Cl、Br、及びIから成る群から選ばれる1種以上の元素を含み、
ReはEu、Ce、Pr、Tb、及びDyから成る群から選ばれる1種以上の元素を含み、
a、b、c、d、e、xは、それぞれ、下記式を満たす。
0.7≦a≦1.3
0.7≦b≦1.3
2.4≦c≦3.6
3.2≦d≦4.8
0.0≦e≦0.2
0.0<x≦0.2)
【請求項10】
前記赤色蛍光体が少なくとも下記式[2]で表される組成を有する結晶相を含む蛍光体を含む、請求項1又は2に記載の発光装置。
RexMAaMBb(MC’1-yMDy)cNdXe [2]
(上記式[2]中、
MAはSr、Ca、Ba、Na、K、Y、Gd、及びLaから成る群から選ばれる1種以上の元素を含み、
MBはLi、Mg、及びZnから成る群から選ばれる1種以上の元素を含み、
MC’はAlであり、
MDはSi、Ga、In、及びScから成る群から選ばれる1種以上の元素を含み、
XはF、Cl、Br、及びIから成る群から選ばれる1種以上の元素を含み、
ReはEu、Ce、Pr、Tb、及びDyから成る群から選ばれる1種以上の元素を含み、
a、b、c、d、e、x、yは、それぞれ、下記式を満たす。
0.7≦a≦1.3
0.7≦b≦1.3
2.4≦c≦3.6
3.2≦d≦4.8
0.0≦e≦0.2
0.0<x≦0.2
0.0<y≦1.0)
【請求項11】
前記第2の発光体が、更に黄色蛍光体及び/又は緑色蛍光体を備える、請求項1又は2に記載の発光装置。
【請求項12】
前記黄色蛍光体及び/又は緑色蛍光体は、ガーネット系蛍光体、シリケート系蛍光体、窒化物蛍光体、及び酸窒化物蛍光体のいずれか1種以上を含む、請求項11に記載の発光装置。
【請求項13】
請求項1又は2に記載の発光装置を光源として備える、照明装置。
【請求項14】
請求項1又は2に記載の発光装置を光源として備える、画像表示装置。
【請求項15】
請求項1又は2に記載の発光装置を光源として備える、車両用表示灯。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光装置、照明装置、画像表示装置及び車両用表示灯に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、省エネルギーの流れを受け、LEDを用いた発光装置、照明装置、画像表示装置及び/又は車両用表示灯の需要が増加している。このような装置に用いられるLEDは、例えば、青又は近紫外波長の光を発するLEDチップ上に、蛍光体を配置した白色発光LEDである。
【0003】
このようなタイプの白色発光LEDとしては、青色LEDチップ上に、青色LEDチップからの青色光を励起光として、赤色に発光する窒化物蛍光体と緑色に発光する蛍光体を用いたものが近年用いられている。演色性、色再現性、および/又は発光効率が高いLEDが求められている。
【0004】
発光装置が備える赤色蛍光体は、例えば一般式K
2(Si,Ti)F
6:Mn、K
2Si
1-xNa
xAl
xF
6:Mn(0<x<1)で表されるKSF蛍光体、一般式(Sr,Ca)AlSiN
3:Euで表されるS/CASN蛍光体(例えば、特許文献1を参照)、一般式Ca
2Si
5N
8:Euで表される2-5-8蛍光体等が知られている。
ところで、KSF蛍光体はMnで賦活されているため有害であり、より人体や環境に害のない蛍光体が求められている。別の観点から論ずれば、例えば非特許文献1の
図4等に示されるように、KSF蛍光体は蛍光減衰時間(Decay Time)が数ミリ秒と長い(例えば、非特許文献1を参照)。このことは、KSFを備える照明装置は、特に高出力の装置において、輝度飽和を起こして変換効率が低下する可能性があり、或いはKSFを備える画像表示装置(ディスプレイ)はコントラストが低下する可能性があることを意味する。
また、S/CASN蛍光体及び2-5-8蛍光体は発光スペクトルにおけるピーク半値幅(以下、「スペクトル半値幅」、或いは「A full width at half maximum」「FWHM」と記載する場合がある)が80nm~90nm程度と比較的広いものが多い(例えば非特許文献1及び非特許文献2を参照)。このため、赤色としてこれらの蛍光体を主として用いた発光装置は、例えば比視感度(relative visibility)が低い700nm以上の波長領域の発光強度が大きくなる場合が多く、発光効率の変換効率が低下する場合がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】J. Mater. Chem. C, 2015, Vol. 3, Issue 21, p. 5484-5489
【非特許文献2】Chemistry Letters, 2006, Vol. 35, No. 3, p. 334-335
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の課題を踏まえ、本発明は一つの観点において、演色性、色再現性、変換効率、安全性、コントラストのいずれか1つ以上が良好な発光装置、照明装置、画像表示装置及び/又は車両用表示灯を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は鋭意検討したところ、少なくとも光源と赤色蛍光体を備える発光装置であって、前記赤色蛍光体は発光色の色度座標が特定範囲にある赤色蛍光体を備え、かつ、該赤色蛍光体は、発光スペクトルにおける半値幅が一定範囲である発光装置が上記課題を解決しうることを見出し、本発明を完成させた。非限定的ないくつかの実施形態を以下に示す。
【0008】
本発明の態様1は、
第1の発光体と、該第1の発光体からの光の照射によって可視光を発する第2の発光体とを備える発光装置であって、
前記第2の発光体は少なくとも、以下(A)及び(B)を満たす赤色蛍光体を備える、発光装置である。
(A)発光スペクトルが、ピーク半値幅(FWHM)が20nm以上65nm以下である少なくとも1つの発光ピークを含み、
(B)発光色の色度座標がCIE1931色度座標系において(x、y)で表される座標を基準に、それぞれ以下の式(a)及び式(b)で表される2本の直線の間に存在し、かつ、0.290≦y≦0.350である。
y=0.992-x ・・・(a)
y=1.000-x ・・・(b)
【0009】
本発明の態様2は、態様1において、
前記赤色蛍光体が発する赤色光の色度座標のyの値が0.300以上である、発光装置である。
【0010】
本発明の態様3は、態様1又は2において、
前記赤色蛍光体が発する赤色光の色度座標のyの値が0.310以下である、発光装置である。
【0011】
本発明の態様4は、態様1~3のいずれか1つにおいて、
前記赤色蛍光体が実質的にMnを含まない、発光装置である。
【0012】
本発明の態様5は、態様1~4のいずれか1つにおいて、
前記赤色蛍光体の発光スペクトルは、発光ピーク波長が648nm以下の発光ピークを少なくとも1つ含む、発光装置である。
【0013】
本発明の態様6は、態様1~5のいずれか1つにおいて、
前記赤色蛍光体の内部量子効率が30%以上である、発光装置である。
【0014】
本発明の態様7は、態様1~6のいずれか1つにおいて、
前記赤色蛍光体の発光スペクトルにおけるピーク半値幅が57nm以下である、発光装置である。
【0015】
本発明の態様8は、態様1~7のいずれか1つにおいて、
前記赤色蛍光体の発光ピーク波長x(nm)と発光スペクトルにおけるピーク半値幅y(nm)とが、y≦184-0.2xの関係を満たす、発光装置である。
【0016】
本発明の態様9は、態様1~8のいずれか1つにおいて、
前記赤色蛍光体が少なくとも下記式[1]で表される組成を有する結晶相を含む蛍光体を含む、発光装置である。
RexMAaMBbMCcNdXe [1]
(上記式[1]中、
MAはSr、Ca、Ba、Na、K、Y、Gd、及びLaから成る群から選ばれる1種以上の元素を含み、
MBはLi、Mg、及びZnから成る群から選ばれる1種以上の元素を含み、
MCはAl、Si、Ga、In、及びScから成る群から選ばれる1種以上の元素を含み、
XはF、Cl、Br、及びIから成る群から選ばれる1種以上の元素を含み、
ReはEu、Ce、Pr、Tb、及びDyから成る群から選ばれる1種以上の元素を含み、
a、b、c、d、e、xは、それぞれ、下記式を満たす。
0.7≦a≦1.3
0.7≦b≦1.3
2.4≦c≦3.6
3.2≦d≦4.8
0.0≦e≦0.2
0.0<x≦0.2)
【0017】
本発明の態様10は、態様1~9のいずれか1つにおいて、
前記赤色蛍光体が少なくとも下記式[2]で表される組成を有する結晶相を含む蛍光体を含む、発光装置である。
RexMAaMBb(MC’1-yMDy)cNdXe [2]
(上記式[2]中、
MAはSr、Ca、Ba、Na、K、Y、Gd、及びLaから成る群から選ばれる1種以上の元素を含み、
MBはLi、Mg、及びZnから成る群から選ばれる1種以上の元素を含み、
MC’はAlであり、
MDはSi、Ga、In、及びScから成る群から選ばれる1種以上の元素を含み、
XはF、Cl、Br、及びIから成る群から選ばれる1種以上の元素を含み、
ReはEu、Ce、Pr、Tb、及びDyから成る群から選ばれる1種以上の元素を含み、
a、b、c、d、e、x、yは、それぞれ、下記式を満たす。
0.7≦a≦1.3
0.7≦b≦1.3
2.4≦c≦3.6
3.2≦d≦4.8
0.0≦e≦0.2
0.0<x≦0.2
0.0<y≦1.0)
【0018】
本発明の態様11は、態様1~10のいずれか1つにおいて、
前記第2の発光体が、更に黄色蛍光体及び/又は緑色蛍光体を備える、発光装置である。
【0019】
本発明の態様12は、態様11において、
前記黄色蛍光体及び/又は緑色蛍光体は、ガーネット系蛍光体、シリケート系蛍光体、窒化物蛍光体、及び酸窒化物蛍光体のいずれか1種以上を含む、発光装置である。
【0020】
本発明の態様13は、
態様1~12のいずれか1つに記載の発光装置を光源として備える、照明装置である。
【0021】
本発明の態様14は、
態様1~12のいずれか1つに記載の発光装置を光源として備える、画像表示装置である。
【0022】
本発明の態様15は、
態様1~12のいずれか1つに記載の発光装置を光源として備える、車両用表示灯である。
【発明の効果】
【0023】
本発明は複数の実施形態において、演色性、色再現性、変換効率、安全性、コントラストのいずれか1つ以上が良好な発光装置、照明装置、画像表示装置及び/又は車両用表示灯を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、各実施例に用いた蛍光体2~8及び比較例1,2に用いた蛍光体1のサンプルの色を、CIE色度座標における(x、y)で表される座標を基準にプロットした図である。
【
図2A】
図2Aは、蛍光体1の発光ピーク波長における発光強度を1としたときの蛍光体2~5の発光強度を示す図である。
【
図2B】
図2Bは、蛍光体1の発光ピーク波長における発光強度を1としたときの蛍光体6~8の発光強度を示す図である。
【
図3】
図3は、参考蛍光体、並びに、蛍光体1、2、5及び8の発光ピーク波長における発光強度をそれぞれ1としたときの相対発光強度を示す図である。
【
図4A】
図4Aは、CIE色度座標(0.437,0.404)、色温度3000Kにおける、比較例1、実施例1及び実施例2の白色LEDの相対発光強度のシミュレーション結果を示す図である。
【
図4B】
図4Bは、CIE色度座標(0.437,0.404)、色温度3000Kにおける、比較例1、実施例3及び実施例4の白色LEDの相対発光強度のシミュレーション結果を示す図である。
【
図4C】
図4Cは、CIE色度座標(0.437,0.404)、色温度3000Kにおける、比較例1、実施例5及び実施例6の白色LEDの相対発光強度のシミュレーション結果を示す図である。
【
図4D】
図4Dは、CIE色度座標(0.437,0.404)、色温度3000Kにおける、比較例1及び実施例7の白色LEDの相対発光強度のシミュレーション結果を示す図である。
【
図5】
図5は、CIE色度座標(0.437,0.404)、色温度3000Kにおける、実施例3、実施例7及び参考例1の白色LEDの発光ピーク波長における発光強度をそれぞれ1としたときの相対発光強度のシミュレーション結果を示す図である。
【
図6A】
図6Aは、CIE色度座標(0.380,0.377)、色温度4000Kにおける、比較例2、実施例8及び実施例9の白色LEDの相対発光強度のシミュレーション結果を示す図である。
【
図6B】
図6Bは、CIE色度座標(0.380,0.377)、色温度4000Kにおける、比較例2、実施例10及び実施例11の白色LEDの相対発光強度のシミュレーション結果を示す図である。
【
図6C】
図6Cは、CIE色度座標(0.380,0.377)、色温度4000Kにおける、比較例2、実施例12及び実施例13の白色LEDの相対発光強度のシミュレーション結果を示す図である。
【
図6D】
図6Dは、CIE色度座標(0.380,0.377)、色温度4000Kにおける、比較例2及び実施例14の白色LEDの相対発光強度のシミュレーション結果を示す図である。
【
図7】
図7は、CIE色度座標(0.380,0.377)、色温度4000Kにおける、実施例11、実施例13及び参考例2の白色LEDの発光ピーク波長における発光強度をそれぞれ1としたときの相対発光強度のシミュレーション結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明について実施形態や例示物を示して説明するが、本発明は以下の実施形態や例示物等に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変形して実施することができる。
【0026】
なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。また、本明細書中の蛍光体の組成式において、各組成式の区切りは読点(、)で区切って表わす。また、カンマ(,)で区切って複数の元素を列記する場合には、列記された元素のうち1種又は2種以上を任意の組み合わせ及び組成で含有していてもよいことを示している。例えば、「(Ca,Sr,Ba)Al2O4:Eu」という組成式は、「CaAl2O4:Eu」と、「SrAl2O4:Eu」と、「BaAl2O4:Eu」と、「Ca1-xSrxAl2O4:Eu」と、「Sr1-xBaxAl2O4:Eu」と、「Ca1-xBaxAl2O4:Eu」と、「Ca1-x-ySrxBayAl2O4:Eu」(但し、式中、0<x<1、0<y<1、0<x+y<1である。)とを全て包括的に示しているものとする。
【0027】
本発明は一実施形態において、第1の発光体と、該第1の発光体からの光の照射によって可視光を発する第2の発光体とを備える発光装置であって、
前記第2の発光体は少なくとも、以下(A)及び(B)を満たす赤色蛍光体を備える、発光装置である。
(A)発光スペクトルが、ピーク半値幅(FWHM)が20nm以上65nm以下である少なくとも1つの発光ピークを含み、
(B)発光色の色度座標がCIE1931色度座標系において(x、y)で表される座標を基準に、それぞれ以下の式(a)及び式(b)で表される2本の直線の間に存在し、かつ、0.290≦y≦0.350である。
y=0.992-x ・・・(a)
y=1.000-x ・・・(b)
【0028】
別の観点からいえば、本発明は一実施形態において、第1の発光体と、該第1の発光体からの光の照射によって可視光を発する第2の発光体とを備える発光装置であって、前記第2の発光体は少なくとも、以下(A)及び(B)を満たす赤色蛍光体を備える、発光装置である。
(A)発光スペクトルが、ピーク半値幅(FWHM)が20nm以上65nm以下である少なくとも1つの発光ピークを含み、
(B)前記赤色蛍光体が発する赤色光の色度座標はCIE1931色度座標系において(x、y)で表される座標を基準に、四つの頂点(0.710、0.290)、(0.650、0.350)、(0.642、0.350)、及び(0.702、0.290)によって囲まれた領域内にある。
【0029】
一実施形態において、前記赤色蛍光体が発する赤色光の色度座標におけるyの値は、好ましくは0.340以下、より好ましくは0.330以下、さらに好ましくは0.320以下、特に好ましくは0.310以下、殊更に好ましくは0.300以下である。前記色度座標におけるyの値が上記上限以下であることで、赤色における演色性または色再現性の良好な発光装置を提供することができ、例えば画像常時装置(ディスプレイ)に用途に好適である。
【0030】
言い換えると、特定の実施形態において、前記赤色蛍光体が発する赤色光の色度座標はCIE1931色度座標系において(x、y)で表される座標を基準に、四つの頂点(0.710、0.290)、(0.660、0.340)(0.652、0.340)及び(0.702、0.290)によって囲まれた領域内にある。
【0031】
一実施形態において、前記赤色蛍光体が発する赤色光の色度座標におけるyの値は、好ましくは0.295以上、より好ましくは0.300以上、さらに好ましくは0.310以上、特に好ましくは0.315以上である。前記色度座標におけるyの値が上記下限以上であることで、赤色領域の比視感度が高く、変換効率の良好な発光装置を提供することができ、例えば照明用途に好適である。
【0032】
言い換えると、特定の実施形態において、前記赤色蛍光体が発する赤色光の色度座標はCIE1931色度座標系において(x、y)で表される座標を基準に、四つの頂点(0.705、0.295)、(0.660、0.340)(0.652、0.340)及び(0.697、0.295)によって囲まれた領域内にある。
【0033】
一実施形態において、発光装置が備える前記赤色蛍光体は、実質的にMnを含まない蛍光体を含み、特定の実施形態においては、実質的にMnを含まない蛍光体のみから成る。発光装置が備える赤色蛍光体の一部または全部がMnを実質的に含まない蛍光体であることで、有害なMn化合物を低減し或いは除外し、人体及び環境に良い発光装置を提供することができる。
なお、本明細書において特定成分を「実質的に含まない」蛍光体とは、蛍光体の結晶相の組成を構成する元素として特定成分を含まず、また添加元素、賦活剤などとして特定成分が加えられていない蛍光体を意味する。特定成分を「実質的に含まない」蛍光体は、不純物等の形で特定成分が意図せず微量混入することを許容する。
【0034】
<赤色蛍光体>
一実施形態において、前記赤色蛍光体は少なくとも、下記式[1]で表される組成を有する結晶相を含む蛍光体を含む。
RexMAaMBbMCcNdXe [1]
(上記式[1]中、
MAはSr、Ca、Ba、Na、K、Y、Gd、及びLaから成る群から選ばれる1種以上の元素を含み、
MBはLi、Mg、及びZnから成る群から選ばれる1種以上の元素を含み、
MCはAl、Si、Ga、In、及びScから成る群から選ばれる1種以上の元素を含み、
XはF、Cl、Br、及びIから成る群から選ばれる1種以上の元素を含み、
ReはEu、Ce、Pr、Tb、及びDyから成る群から選ばれる1種以上の元素を含み、
a、b、c、d、e、xは、それぞれ、下記式を満たす。
0.7≦a≦1.3
0.7≦b≦1.3
2.4≦c≦3.6
3.2≦d≦4.8
0.0≦e≦0.2
0.0<x≦0.2)
【0035】
式[1]中、Reにはユーロピウム(Eu)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)及びイッテルビウム(Yb)等を用いることができるが、発光波長および発光量子効率を向上する観点から、Reは好ましくはEu、Ce、Pr、Tb、及びDyから成る群から選ばれる1種以上の元素を含み、より好ましくはEuを含み、更に好ましくはReの80モル%以上はEuであり、より更に好ましくはReはEuである。
【0036】
式[1]中、MAはカルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、イットリウム(Y)、ガドリニウム(Gd)、及びランタン(La)から成る群から選ばれる1種以上の元素を含み、好ましくはCa、Sr、Baから成る群より選ばれる1種以上の元素を含み、より好ましくはMAはSrを含む。また、好ましくは、MAの80モル%以上は上記好ましい元素から成り、より好ましくはMAは上記好ましい元素から成る。
【0037】
式[1]中、MBはリチウム(Li)、マグネシウム(Mg)、及び亜鉛(Zn)から成る群から選ばれる1種以上の元素を含み、好ましくはLiを含み、より好ましくはMBの80モル%以上はLiであり、更に好ましくはMBはLiである。
【0038】
式[1]中、MCはアルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、及びスカンジウム(Sc)から成る群から選ばれる1種以上の元素を含み、好ましくはAl、Ga又はSiを含み、より好ましくはAl及びGaから成る群より選ばれる1種以上の元素を含み、更に好ましくはMCの80モル%以上はAl及びGaから成る群より選ばれる1種以上の元素から成り、特に好ましくはMCの90モル%以上はAl及びGaから成る群より選ばれる1種以上の元素から成り、最も好ましくはMCはAl及びGaから成る群より選ばれる1種以上の元素から成る。
【0039】
一実施形態において、MCの80モル%以上はAlであり、好ましくは90モル%以上、より好ましくは95モル%以上、さらに好ましくは98モル%以上がAlである。MCの80モル%以上がAlであることで、S/CASN等の既存の赤色蛍光体と同程度の発光ピーク波長および発光強度を示し、かつスペクトル半値幅が狭い赤色蛍光体を提供することができ、この様な赤色蛍光体を備える発光装置は、従来と同程度かそれ以上の変換効率(Conversion Efficiensy、Lm/W)を維持しつつ、演色性又は色再現性が良好である。
【0040】
式[1]中、Nは窒素を表す。結晶相全体の電荷バランスを保つため、又は発光ピーク波長を調整するため、Nは一部が酸素(O)で置換されていてもよい。
【0041】
式[1]中、Xはフッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、及びヨウ素(I)から成る群から選ばれる1種以上の元素を含む。すなわち、特定の実施形態においては、結晶構造安定化及び蛍光体全体の電荷バランスを保つ観点から、Nは、その一部がXで表した上記ハロゲン元素で置換されていてもよい。
【0042】
前記式[1]は、明記した以外の成分が、不可避的に、或いは意図せず、微量に含まれる場合を含む。
明記した以外の成分としては、人為的に加えた元素と元素番号1つ異なる元素、人為的に加えた元素の同族元素、人為的に加えた希土類元素と別の希土類元素、及びRe原料にハロゲン化物を用いた際のハロゲン元素、その他各種原料に不純物として一般的に含まれ得る元素などが挙げられる。
本明細書において特定成分を「人為的に加える」とは、蛍光体の結晶相の組成を構成する元素として意図的に特定成分を加えることを意味し、不純物等の形で特定成分が意図せず微量混入した場合は「人為的に加える」ことには当たらない。特定成分が人為的に加えられた蛍光体は、特定成分を実質的に含むということができる。
明記した以外の成分が不可避的に、又は意図せず含まれる場合としては、例えば原料の不純物由来、及び粉砕工程、合成工程等の製造プロセスにおいて導入される場合が考えられる。また、微量添加成分としては反応助剤、及びRe原料などが挙げられる。
【0043】
上記式[1]中、a、b、c、d、e、xはそれぞれ蛍光体に含まれるMA、MB、MC、N、X及びReのモル含有量を示す。
【0044】
aの値は、通常0.6以上、好ましくは0.7以上、より好ましくは0.8以上、更に好ましくは0.9以上であり、通常1.4以下、好ましくは1.3以下、より好ましくは1.2以下、更に好ましくは1.1以下である。
bの値は、通常0.6以上、好ましくは0.7以上、より好ましくは0.8以上、更に好ましくは0.9以上であり、通常1.4以下、好ましくは1.3以下、より好ましくは1.2以下、更に好ましくは1.1以下である。
cの値は、通常2.1以上、好ましくは2.4以上、より好ましくは2.6以上、更に好ましくは2.8以上であり、通常3.9以下、好ましくは3.6以下、より好ましくは3.4以下、更に好ましくは3.2以下である。
dの値は、通常3以上、好ましくは3.2以上、より好ましくは3.4以上、更に好ましくは3.6以上、より更に好ましくは3.8以上であり、通常5以下、好ましくは4.8以下、より好ましくは4.6以下、更に好ましくは4.4以下、より更に好ましくは4.2以下である。
eの値は特に制限されないが、通常0以上であり、通常0.2以下、好ましくは0.1以下、より好ましくは0.06以下、更に好ましくは0.04以下、より更に好ましくは0.02以下である。
xの値は、通常0より大きい値であり、好ましくは0.0001以上、より好ましくは0.001以上であり、通常0.2以下、好ましくは0.15以下、より好ましくは0.12以下、更に好ましくは0.1以下、より更に好ましくは0.08以下である。xの値が上記下限以上又は上記下限より大きい値であることで、良好な発光強度の蛍光体を得ることができ、xの値が上記上限以下であることで、Reが良好に結晶内に取り込まれ、発光中心として機能しやすい蛍光体を得ることができ、このような赤色蛍光体を備えることで、変換効率が良好な発光装置を提供することができる。
【0045】
b、c、d、eが上記範囲にあることで、結晶構造が安定化する。また、d、eの値は蛍光体全体の電荷バランスを保つ目的で適度に調節できる。
【0046】
また、aの値が上記範囲にあることで、結晶構造が安定化し、異相の少ない蛍光体が得られ、このような赤色蛍光体を備えることで、励起光の吸収効率が良く、赤色および全体の変換効率が良好な発光装置を提供することができる。
【0047】
b+cの値は、通常3.1以上、好ましくは3.4以上、より好ましくは3.7以上であり、通常4.9以下、好ましくは4.6以下、より好ましくは4.3以下である。
b+cの値が上記範囲であることで、結晶構造が安定化する。
【0048】
d+eの値は、通常3.2以上、好ましくは3.4以上、より好ましくは3.7以上であり、通常5.0以下、好ましくは4.6以下、より好ましくは4.3以下である。
d+eの値が上記範囲であることで、結晶構造が安定化する。
【0049】
いずれの値も上記した範囲であると得られる赤色蛍光体の発光ピーク波長及び発光スペクトルにおける半値幅が良好である点で好ましい。
【0050】
なお、前記赤色蛍光体の元素組成の特定方法は特に限定されず、常法で求めることができ、例えばGD-MS、ICP分光分析法、又はエネルギー分散型X線分析装置(EDX)等により特定できる。
【0051】
一実施形態において、前記赤色蛍光体は少なくとも、下記式[2]で表される組成を有する結晶相を含む蛍光体を含む。
RexMAaMBb(MC’1-yMDy)cNdXe [2]
(上記式[2]中、
MAはSr、Ca、Ba、Na、K、Y、Gd、及びLaから成る群から選ばれる1種以上の元素を含み、
MBはLi、Mg、及びZnから成る群から選ばれる1種以上の元素を含み、
MC’はAlであり、
MDはSi、Ga、In、及びScから成る群から選ばれる1種以上の元素を含み、
XはF、Cl、Br、及びIから成る群から選ばれる1種以上の元素を含み、
ReはEu、Ce、Pr、Tb、及びDyから成る群から選ばれる1種以上の元素を含み、
a、b、c、d、e、x、yは、それぞれ、下記式を満たす。
0.7≦a≦1.3
0.7≦b≦1.3
2.4≦c≦3.6
3.2≦d≦4.8
0.0≦e≦0.2
0.0<x≦0.2
0.0<y≦1.0)
【0052】
前記式[2]におけるMA、MB、N、X、Re元素の種類及び構成は、前記式[1]と同様とすることができる。
前記MC’はAlである。
前記MDはSi、Ga、In、及びScから成る群から選ばれる1種以上の元素を含み、結晶安定性および発光強度を向上する観点から、好ましくはGa及びSiから成る群から選ばれる1種以上の元素を含み、より好ましくはGaを含む。
更に好ましい特定の実施形態においては、MDの80モル%以上はGaであり、MDはGaから成る構成としてもよい。
【0053】
前記式[2]におけるa、b、c、d、e及びxの値及び好ましい範囲は、前記式[1]と同様とすることができる。
【0054】
前記式[2]におけるyの値は、0.0より大きく、通常0.01以上、好ましくは0.015以上、より好ましくは0.03以上、更に好ましくは0.05以上、特に好ましくは0.10以上であり、通常1.00以下、好ましくは0.70以下、より好ましくは0.50以下、更に好ましくは0.30以下、特に好ましくは0.25以下である。
【0055】
yの値が上記下限以上であることで、蛍光体の発光ピーク波長が短波長化し、この様な赤色蛍光体を用いることで、演色性又は色再現性の良好な発光装置を提供できる。また、yの値が上記上限以下であることで、発光強度が良好な蛍光体を得ることができ、この様な赤色蛍光体を用いることで変換効率の良好な発光装置を提供できる。目的に応じて好ましい発光強度と発光ピーク波長を得るため、yの値は適宜調整することができる。
【0056】
[結晶相の粒径]
本実施形態の赤色蛍光体の結晶相の粒径は、体積基準の中央粒径(体積メジアン粒径)で通常2μm以上40μm以下であり、下限値は、好ましくは3μm、より好ましくは4μm、更に好ましくは5μmであり、また上限値は、好ましくは35μm、より好ましくは30μm、更に好ましくは25μm、特に好ましくは20μmである。
体積基準の中央粒径(体積メジアン粒径)が上記下限以上であると結晶相がLEDパッケージ内で示す発光特性を向上する観点から好ましく、上記上限以下であると結晶相がLEDパッケージの製造工程においてノズルの閉塞を回避できる点から好ましい。
蛍光体の結晶相の体積基準の中央粒径(体積メジアン粒径)は、当業者に周知の測定技術により測定できるが、好ましい実施形態においては、例えばレーザー粒度計により測定できる。本明細書における実施例において、体積基準の中央粒径(体積メジアン粒径、(d50))とは、レーザー回折・散乱法を測定原理とする粒度分布測定装置を用いて、試料を測定し、粒度分布(累積分布)を求めたときの体積基準の相対粒子量が50%になる粒子径と定義される。
【0057】
{赤色蛍光体の物性など}
[空間群]
本実施形態の赤色蛍光体における結晶系(空間群)は、P-1であることがより好ましい。本実施形態の赤色蛍光体における空間群は、粉末X線回折又は単結晶X線回折にて区別しうる範囲において統計的に考えた平均構造が上記の長さの繰り返し周期を示していれば特に限定されないが、「International Tables for Crystallography(Third,revised edition),Volume A SPACE-GROUP SYMMETRY」に基づく2番に属するものであることが好ましい。
上記の空間群であることで、発光スペクトルにおけるピーク半値幅(FWHM)が狭くなり、発光効率の良い赤色蛍光体が得られる。
ここで、空間群は常法に従って求めることができ、例えば電子線回折や粉末又は単結晶を用いたX線回折構造解析及び中性子線回折構造解析等により求めることができる。
【0058】
本実施形態の赤色蛍光体の粉末X線回析スペクトルにおいて2θ=38~39度の領域に現れるピークの強度をIx、2θ=37~38度の領域に現れるピークの強度をIyとして、Iyを1としたときのIxの相対強度であるIx/Iyは好ましくは0.140以下であり、より好ましくは0.120以下、更に好ましくは0.110以下、より更に好ましくは0.080以下、特に好ましくは0.060以下、とりわけ好ましくは0.040以下であり、また通常0以上であるが、小さければ小さいほど良い。
【0059】
2θ=37~38度の領域のピークは結晶系(空間群)がP-1である際に観察される特徴的なピークの1つであり、Iyが相対的に高いことで、よりP-1の相純度が高い赤色蛍光体が得られる。Ix/Iyが上記上限以下であることで、相純度が高く、発光スペクトルにおける半値幅(FWHM)の狭い蛍光体を得られるため、発光装置の発光効率が向上する。
【0060】
[赤色蛍光体の内部量子効率]
一実施形態において、赤色蛍光体の内部量子効率が30%以上である。前記内部量子効率は好ましくは35%以上、より好ましくは40%以上、さらに好ましくは45%以上、特に好ましくは50%以上、殊更好ましくは55%以上であり、上限は制限されず高いほど好ましいが、通常100%以下である。
赤色蛍光体の内部量子効率は常法で求めることができ、例えば分光光度計を用いて測定した発光スペクトルから算出できる。
【0061】
[発光スペクトルの特性]
本実施形態の赤色蛍光体は、適切な波長を有する光を照射することで励起し、発光スペクトルにおいて良好な発光ピーク波長および発光スペクトルにおけるピーク半値幅(FWHM)を示す赤色光を放出する。以下、上記発光スペクトル及び励起波長、発光ピーク波長および発光スペクトルにおけるピーク半値幅(FWHM)について記載する。
【0062】
(励起波長)
本実施形態の赤色蛍光体は、通常270nm以上、好ましくは300nm以上、より好ましくは320nm以上、更に好ましくは350nm以上、特に好ましくは400nm以上、また、通常550nm以下、好ましくは520nm以下、より好ましくは500nm以下の波長範囲に励起ピークを有する。即ち、近紫外から青色領域の光で励起される。
なお、発光スペクトルの形状、及び下記発光ピーク波長および発光スペクトルにおけるピーク半値幅の記載は励起波長によらず適用できるが、量子効率を向上させる観点からは、吸収及び励起の効率が良い上記範囲の波長を有する光を照射することが好ましい。
【0063】
(発光ピーク波長)
一実施形態において、前記赤色蛍光体の発光スペクトルは、発光ピーク波長が通常620nm以上660nm以下の発光ピークを少なくとも1つ含む。
特定の実施形態において、前記赤色蛍光体の発光スペクトルは、発光ピーク波長が好ましくは625nm以上、より好ましくは630nm以上、さらに好ましくは640nm以上、極めて好ましくは645nm以上の発光ピークを少なくとも1つ含む。発光ピーク波長が前記下限以上の発光ピークを少なくとも1つ含む赤色蛍光体を備える発光装置は、赤色の演色性または色再現性が良好である。或いは、鮮明な赤色発光が可能となり、ブレーキランプなどの用途に好適である。
【0064】
別の特定の実施形態において、前記発光スペクトルは、発光ピーク波長が好ましくは648nm以下、より好ましくは645nm以下、さらに好ましくは640nm以下、極めて好ましくは637nm以下の発光ピークを少なくとも1つ含む。発光ピーク波長が前記上限以下の発光ピークを少なくとも1つ含む赤色蛍光体を備える発光装置は、比視感度の低い700nm付近の波長領域の発光強度が低く、変換効率が良好である。
【0065】
前記発光ピーク波長を調整する方法は特に制限されないが、例えばMC元素の構成を調整することで、発光スペクトルにおけるピーク半値幅を狭く保ったまま発光ピーク波長を調整することができる。特定の実施形態においては、MCのうちAlの占める割合を高くすることで発光ピーク波長を長波長側に調整し、また前記式[1]におけるMCの一部におけるAl以外の元素、或いは式[2]におけるMD元素の割合を高めることで、発光ピーク波長を短波長側に調整することができる。
【0066】
(発光スペクトルにおけるピーク半値幅)
本実施形態の赤色蛍光体は、発光スペクトルにおけるピーク半値幅が、通常70nm以下、好ましくは65nm以下、より好ましくは60nm以下、さらに好ましくは57nm以下、特に好ましくは55nm以下、最も好ましくは50nm以下であり、また通常10nm以上である。
発光スペクトルにおけるピーク半値幅が上記範囲内である赤色蛍光体を用いることで、液晶ディスプレイなどの画像表示装置において色純度を低下させずに色再現範囲を広くすることができる。
また、発光ピーク波長および発光スペクトルにおけるピーク半値幅が上記上限以下にあることで、発光波長領域の視感度が相対的に高い赤色蛍光体を提供でき、このような赤色蛍光体を発光装置に用いることで、変換効率の高い発光装置を提供することができる。
【0067】
なお、前記赤色蛍光体を波長450nm前後の光で励起するには、例えば、GaN系LEDを用いることができる。また、前記赤色蛍光体の発光スペクトルの測定、並びにその発光ピーク波長、ピーク相対強度及び発光スペクトルにおけるピーク半値幅の算出は、例えば、市販のキセノンランプ等300~400nmの発光波長を有する光源と、一般的な光検出器を備える蛍光測定装置など、市販のスペクトル測定装置を用いて行うことができる。
【0068】
前記発光装置は一実施形態において、赤色蛍光体の発光ピーク波長x(nm)と発光スペクトルにおけるピーク半値幅y(nm)とが、y≦184-0.2xの関係を満たす。
蛍光体の発光ピーク波長とピーク半値幅が上記式を満たす蛍光体を用いることで、発光装置の変換効率を向上させることができる。
【0069】
<発光装置>
本発明は一実施態様において、第1の発光体と、該第1の発光体からの光の照射によって可視光を発する第2の発光体とを備える発光装置であって、
前記第2の発光体は少なくとも、以下(A)及び(B)を満たす赤色蛍光体を備える、発光装置である。
(A)発光スペクトルが、ピーク半値幅(FWHM)が20nm以上65nm以下である少なくとも1つの発光ピークを含み、
(B)発光色の色度座標がCIE1931色度座標系を基準に、それぞれ以下の式(a)及び式(b)で表される2本の直線の間に存在し、かつ、0.290≦y≦0.350である。
y=0.992-x ・・・(a)
y=1.000-x ・・・(b)
【0070】
本発明は別の一実施形態において、前記第2の発光体として、少なくとも前記式[1]又は[2]で表される組成を有する結晶相を含む赤色蛍光体を含む発光装置である。ここで、第2の発光体は、1種の蛍光体を単独で使用してもよく、2種以上の蛍光体を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0071】
本実施形態における発光装置は、該第2の発光体として、少なくとも前記(A)及び(B)を満たす赤色蛍光体を備えるほか、更に、励起光源からの光の照射下において、黄色の蛍光を発する黄色蛍光体、緑色の蛍光を発する緑色蛍光体、ないし赤色領域(橙色ないし赤色)の蛍光を発する赤色蛍光体(前記(A)及び(B)の少なくとも一方を満たさない赤色蛍光体)を使用することができる。
また、特定の実施形態において、本発明に係る発光装置は、第2の発光体が、更に黄色蛍光体及び/又は緑色蛍光体を備える発光装置である。
具体的には、発光装置を構成する場合、黄色蛍光体としては、550nm以上600nm以下の波長範囲に発光ピークを有するものが好ましく、緑色蛍光体としては、500nm以上560nm以下の波長範囲に発光ピークを有するものが好ましい。また、橙色ないし赤色蛍光体は、通常615nm以上、好ましくは620nm以上、より好ましくは625nm以上、更に好ましくは630nm以上で、通常660nm以下、好ましくは650nm以下、より好ましくは645nm以下、更に好ましくは640nm以下の波長範囲に発光ピークを有するものである。
【0072】
上記の波長領域の蛍光体を適切に組み合わせることで、優れた色再現性を示す発光装置を提供できる。尚、励起光源については、420nm未満の波長範囲に発光ピークを有するものを用いてもよい。
【0073】
以下、赤色蛍光体として、少なくとも前記(A)及び(B)を満たす蛍光体を用いる場合の発光装置の態様について記載するが、本実施形態はこれらに限定されるものではない。
【0074】
上記の場合、本実施形態の発光装置は、例えば、次の(X)、(Y)又は(Z)の態様とすることができる。
(X)第1の発光体と、第2の発光体とを備え、
第2の発光体は少なくとも前記(A)及び(B)を満たす赤色蛍光体と、更に、550nm以上600nm以下の波長範囲に発光ピークを有する少なくとも1種の蛍光体(黄色蛍光体)とを備える態様。
(Y)第1の発光体と、第2の発光体とを備え、
第2の発光体は少なくとも前記(A)及び(B)を満たす赤色蛍光体と、更に、500nm以上560nm以下の波長範囲に発光ピークを有する少なくとも1種の蛍光体(緑色蛍光体)とを備える態様。
(Z)第1の発光体と、第2の発光体とを備え、
第2の発光体は少なくとも前記(A)及び(B)を満たす赤色蛍光体と、更に、550nm以上600nm以下の波長範囲に発光ピークを有する少なくとも1種の蛍光体(黄色蛍光体)と、500nm以上560nm以下の波長範囲に発光ピークを有する少なくとも1種の蛍光体(緑色蛍光体)とを備える態様。
【0075】
上記の態様における黄色蛍光体及び/又は緑色蛍光体としては市販のものを用いることができ、例えば、ガーネット系蛍光体、シリケート系蛍光体、窒化物蛍光体、酸窒化物蛍光体などを用いることができる。
【0076】
(黄色蛍光体)
黄色蛍光体に用いることができるガーネット系蛍光体としては、例えば、(Y,Gd,Lu,Tb,La)3(Al,Ga)5O12:(Ce,Eu,Nd)、シリケート系蛍光体としては、例えば、(Ba,Sr,Ca,Mg)2SiO4:(Eu,Ce)、窒化物蛍光体及び酸窒化物蛍光体としては、例えば、(Ba,Ca,Mg)Si2O2N2:Eu(SION系蛍光体)、(Li,Ca)2(Si,Al)12(O,N)16:(Ce,Eu)(α-サイアロン蛍光体)、(Ca,Sr)AlSi4(O,N)7:(Ce,Eu)(1147蛍光体)、(La,Ca,Y、Gd)3(Al,Si)6N11:(Ce、Eu)(LSN蛍光体)などが挙げられる。
これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
黄色蛍光体としては、上記蛍光体においてガーネット系蛍光体が好ましく、中でも、Y3Al5O12:Ceで表されるYAG系蛍光体が最も好ましい。
【0077】
(緑色蛍光体)
緑色蛍光体に用いることができるガーネット系蛍光体としては、例えば、(Y,Gd,Lu,Tb,La)3(Al,Ga)5O12:(Ce,Eu,Nd)、Ca3(Sc,Mg)2Si3O12:(Ce,Eu)(CSMS蛍光体)、シリケート系蛍光体としては、例えば、(Ba,Sr,Ca,Mg)3SiO10:(Eu,Ce)、(Ba,Sr,Ca,Mg)2SiO4:(Ce,Eu)(BSS蛍光体)、酸化物蛍光体としては、例えば、(Ca,Sr,Ba,Mg)(Sc,Zn)2O4:(Ce,Eu)(CASO蛍光体)、窒化物蛍光体及び酸窒化物蛍光体としては、例えば、(Ba,Sr,Ca,Mg)Si2O2N2:(Eu,Ce)、Si6-zAlzOzN8-z:(Eu,Ce)(β-サイアロン蛍光体)(0<z≦1)、(Ba,Sr,Ca,Mg,La)3(Si,Al)6O12N2:(Eu,Ce)(BSON蛍光体)、(La,Ca,Y、Gd)3(Al,Si)6N11:(Ce、Eu)(LSN蛍光体)などが挙げられる。
これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0078】
(赤色蛍光体)
赤色蛍光体としては、少なくとも前記(A)及び(B)を満たす本実施形態の蛍光体を用いるが、本実施形態の蛍光体に加えて、例えばガーネット系蛍光体、硫化物蛍光体、ナノ粒子蛍光体、窒化物蛍光体、酸窒化物蛍光体などの他の橙色ないし赤色蛍光体を用いることができる。他の橙色ないし赤色蛍光体としては、例えば下記の蛍光体を用いることができる。
硫化物蛍光体としては、例えば、(Sr,Ca)S:Eu(CAS蛍光体)、La2O2S:Eu(LOS蛍光体)、ガーネット系蛍光体としては、例えば、(Y,Lu,Gd,Tb)3Mg2AlSi2O12:Ce、ナノ粒子としては、例えば、CdSe、窒化物又は酸窒化物蛍光体としては、例えば、(Sr,Ca)AlSiN3:Eu(S/CASN蛍光体)、(CaAlSiN3)1-x・(SiO2N2)x:Eu(CASON蛍光体)、(La,Ca)3(Al,Si)6N11:Eu(LSN蛍光体)、(Ca,Sr,Ba)2Si5(N,O)8:Eu(258蛍光体)、(Sr,Ca)Al1+xSi4-xOxN7-x:Eu(1147蛍光体)、Mx(Si,Al)12(O,N)16:Eu(Mは、Ca,Srなど)(αサイアロン蛍光体)、Li(Sr,Ba)Al3N4:Eu(上記のxは、いずれも0<x<1)などが挙げられる。
これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0079】
[発光装置の構成]
本実施形態に係る発光装置は、第1の発光体(励起光源)を有し、且つ、第2の発光体として少なくとも前記(A)及び(B)を満たす赤色蛍光体を使用することができ、その構成は制限されず、公知の装置構成を任意にとることが可能である。
【0080】
前記第1の発光体としてはGaN系半導体、ZnO系半導体、SiC系半導体など、各種の半導体で発光構造を形成したLED素子を用いることができる。
【0081】
装置構成及び発光装置の実施形態としては、例えば、特開2007-291352号公報に記載のものが挙げられる。
そのほか、LED素子は、砲弾型パッケージ、SMD型パッケージなどのパッケージに固定してもよいし、チップ・オン・ボード型発光装置の場合のように回路基板上に直接固定してもよい。LED素子と蛍光体との光学的な結合の形態に限定はなく、両者の間は単に透明な媒体(空気を含む)で充たされているだけであってもよいし、あるいは、レンズ、光ファイバ、導光板、反射ミラーのような光学素子が両者の間に介在していてもよい。蛍光体粒子が透光性マトリックス中に分散された構造は、典型的には、粒子状の蛍光体を分散させた樹脂ペーストを硬化させることにより形成される。このようなペーストの硬化物がLED素子を埋め込んだ構造の他、かかる硬化物がLED素子の表面の一部を膜状に覆った構造、かかる硬化物からなるフィルムがLED素子から離れた場所に配置された構造など、種々の構造が採用可能である。
【0082】
{発光装置の用途}
発光装置の用途は特に制限されず、通常の発光装置が用いられる各種の分野に使用することが可能であるが、演色性が高い発光装置は、中でも照明装置や画像表示装置の光源として、とりわけ好適に用いることができる。
また、発光波長が良好な赤色蛍光体を備える発光装置は、赤色の車両用表示灯、又は該赤色を含む白色光の車両用表示灯に用いることもできる。
【0083】
[照明装置]
本発明は一実施形態において、前記発光装置を光源として備える照明装置とすることができる。
前記発光装置を照明装置に適用する場合、その照明装置の具体的構成に制限はなく、前述のような発光装置を公知の照明装置に適宜組み込んで用いればよい。例えば、保持ケースの底面に多数の発光装置を並べた面発光照明装置等を挙げることができる。
【0084】
[画像表示装置]
本発明は一実施形態において、前記発光装置を光源として備える画像表示装置とすることができる。
前記発光装置を画像表示装置の光源として用いる場合、その画像表示装置の具体的構成に制限はないが、カラーフィルターとともに用いることが好ましい。例えば、画像表示装置として、カラー液晶表示素子を利用したカラー画像表示装置とする場合は、前記発光装置をバックライトとし、液晶を利用した光シャッターと赤、緑、青の画素を有するカラーフィルターとを組み合わせることにより画像表示装置を形成することができる。
【0085】
[車両用表示灯]
本発明は一実施形態において、前記発光装置を光源として備える車両用表示灯とすることができる。
車両用表示灯に用いる発光装置は、特定の実施形態においては、白色光を放射する発光装置であることが好ましい。白色光を放射する発光装置は、発光装置から放射される光が、光色の黒体輻射軌跡からの偏差duv(Δuvとも言う)が-0.0200~0.0200であり、かつ色温度が5000K以上30000K以下であることが好ましい。
車両用表示灯に用いる発光装置は、特定の実施形態においては、赤色光を放射する発光装置であることが好ましい。該実施形態においては、例えば、発光装置が青色LEDチップから照射される青色光を吸収して赤色に発光することで、赤色光の車両用表示灯としてもよい。
車両用表示灯は、車両のヘッドランプ、サイドランプ、バックランプ、ウインカー、ブレーキランプ、フォグランプなど、他の車両や人等に対して何らかの表示を行う目的で車両に備えられた照明を含む。
【実施例0086】
以下、本発明のいくつかの具体的な実施形態を実施例により説明するが、本発明はその要旨を逸脱しない限り、下記のものに限定されるものではない。
【0087】
{測定方法}
[発光スペクトルの測定]
発光スペクトルは、分光蛍光光度計FP8500(日本分光株式会社製)にて以下の測定条件のとおり測定した。
・光源:キセノンランプ
・励起波長:455nm
・測定波長範囲:380~780nm
・測定間隔:1.0nm
色度座標の値は、発光スペクトルデータ480nm~780nmから、CIE1931
XYZ等式関数を用いて算出した。
【0088】
[量子効率の測定]
量子効率は、分光蛍光光度計FP8500(日本分光株式会社製)にて以下の測定条件のとおり測定した発光スペクトルに基づいて算出した。
・光源:キセノンランプ
・励起波長:455nm
・測定波長範囲:380~780nm
・測定間隔:1.0nm
【0089】
[蛍光体配合シミュレーション]
測定された各蛍光体の励起発光スペクトル、内部量子効率および励起光の吸収効率の情報などから449nmの光を放出する青色LEDチップスペクトルと任意の蛍光体を組み合わせた際に特定の色度座標点を満たすような白色スペクトルを仮想的に作成し、その際の蛍光体配合比を見積もるシミュレーションを行った。
得られた白色スペクトルから、発光スペクトルのエネルギー(Wopt)あたりの光束(Lm)であるスペクトル効率(LER)およびR1~R15の演色指数を算出した。
【0090】
<蛍光体の製造>
[蛍光体1]
本発明の一実施形態または比較例に係る発光装置に用いる例示的赤色蛍光体を製造した。
特開2017-008130号公報ならびにChemistry of Materials 2019 31 (12), 4614-4618等を参考に、Sr:Li:Alが約1:1:3となるように各元素の窒化物を混合し、窒化ホウ素製るつぼに収め、容器を密封した上で、窒素ガス雰囲気下1000℃で5時間加熱し、蛍光体1を得た。
【0091】
[蛍光体2~8]
蛍光体の組成が表1に示す組成となるように適宜Gaを含む窒化物原料を用い、また焼成温度を845℃としたほかは、蛍光体1と同様にして蛍光体2~8を得た。
蛍光体1~8の特性を表1に示す。
【0092】
蛍光体1~8のサンプルの発光色を、CIE色度座標における(x、y)で表される座標を基準にプロットしたものを
図1に示す。
蛍光体1はCIE色度座標が式(a)及び式(b)で表される2本の直線間に存在しない点で前記(B)を満たさない赤色蛍光体であることが分かる。他方、蛍光体2~8は、前記(A)及び(B)を満たす赤色蛍光体であることが分かる。
【0093】
蛍光体1~8の発光強度と波長との関係を
図2A~2Bに示す。
図2A~
図2Bからわかる様に、蛍光体2~8は、蛍光体1と比較して、発光強度が飛躍的に向上していることが分かる。
また、蛍光体1、2、5及び8の規格化した発光スペクトルと、参考蛍光体として発光ピーク波長646nmのCASN蛍光体(三菱ケミカル株式会社製、BR-101/J)の規格化発光スペクトルを
図3に示す。
図3より、本発明に係る蛍光体が半値幅の狭い良好な発光スペクトルを有していること、及び、蛍光体5及び8は蛍光体1と比較して発光ピーク波長が短波長化していることが分かる。
【0094】
なお、粉末X線回折により結晶構造を特定した結果、蛍光体1~8の空間群はいずれもP-1であることを確認した。
【0095】
【0096】
<比較例1,実施例1~7>
第一の赤色蛍光体として、前記(A)及び(B)のいずれも満たさない、発光ピーク波長620nmのSCASN蛍光体(三菱ケミカル株式会社製、BR2/620)と、第二の赤色蛍光体として表1に示した各蛍光体と、緑色蛍光体としてLuAG蛍光体(三菱ケミカル株式会社製、BG-801/B4)とを用いる想定で、各蛍光体の発光スペクトル、内部量子効率(iQE)等の情報を元に、各蛍光体を備える白色LEDの発光スペクトルを導出した。全てのシミュレーションは、449nmの光を放出する青色LEDチップを仮定して実施した。また、平均演色評価数Raが90以上、赤色の演色評価数R9が50以上となるうえで、CIE色度座標がプランク曲線上の3000Kの白色光の座標(0.437、0.404)と一致するように緑色蛍光体及び第一、第二の赤色蛍光体の量を調整し、特性を比較した。
比較例1及び実施例1~7の白色LEDについて、相対発光強度のシミュレーション結果を
図4A~4Dに示す。また、各スペクトルから平均演色評価数Ra、赤色の演色評価数R9、並びに、発光スペクトルのエネルギー(Wopt)あたりの光束(Lm)であるスペクトル効率(LER)を求めた結果を、表2に示す。
【0097】
<比較例2,実施例8~14>
比較例2及び実施例8~14として、CIE色度座標がプランク曲線上の4000Kの白色光の座標(0.380、0.377)と一致する様にしたほかは、比較例1及び実施例1~7と同様にしてシミュレーションを行った。
比較例2及び実施例8~14の白色LEDについて、相対発光強度のシミュレーション結果を
図6A~6Dに示す。また、各スペクトルから平均演色評価数Ra、赤色の演色評価数R9、並びに変換効率(LER)を求めた結果を、表3に示す。
【0098】
なお、表2及び表3における蛍光体の「比率/wt%」とは、各蛍光体の合計重量を100%とした際の、各蛍光体の重量割合であり、「緑」は前記LuAG蛍光体、「赤1」は前記第一の赤色蛍光体、「赤2」は前記第二の赤色蛍光体である。
【0099】
【0100】
【0101】
Ra≧90、R9≧50の仕様において、赤色蛍光体の色度座標が本発明の要件を満たさない蛍光体1を用いた比較例1及び比較例2と比べて、実施例1~7及び実施例8~14はスペクトル効率LERが大幅に向上していた。
なお、第二の赤色蛍光体に発光ピーク波長が650nmを超える蛍光体1及び蛍光体2を用いた比較例1、2及び実施例1、8については、Ra及び色温度を満たすには多量の第二の赤色蛍光体が必要となり、R9が必要以上に高くなっていた。
【0102】
<参考例1、2>
また、
図5及び
図7における参考例1及び参考例2は、それぞれ、実施例1~7及び実施例8~14と同じ条件のシミュレーションにおいて、第二の赤色蛍光体に代えて発光ピーク波長646nmのCASN蛍光体(三菱ケミカル株式会社製、BR-101/J)を用いた場合の白色LEDの相対発光強度を示す。
図5には、参考例1における相対発光強度と、各実施例における相対発光強度を規格化したものを示している。また、
図7には、480nm~780nmの波長領域における最大発光強度を1としたときの、参考例2における相対発光強度と、各実施例における相対発光強度を規格化したものを示している。
これらの図から明らかなように、本発明に係る発光装置は、赤色領域に鋭いピークを有し、かつ比視感度の低い680nm以上の波長領域の発光強度を低く抑えることができており、演色性または赤色の色再現性が高く、かつ変換効率の高い発光装置を提供できることが分かる。
【0103】
以上示すとおり、本実施形態によれば、発光ピーク波長が良好で、発光スペクトルにおけるピーク半値幅が狭く、及び/又は発光強度の高い蛍光体を提供することができ、また、該蛍光体を備えることで、演色性又は色再現性が良好であり、かつ変換効率が良好な発光装置、照明装置、画像表示装置及び/又は車両用表示灯を提供することができる。
【0104】
以上、図面を参照しながら各種の実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。また、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上記実施の形態における各構成要素を任意に組み合わせてもよい。
本発明の発光装置は、演色性、色再現性、変換効率、安全性、コントラストのいずれか1つ以上が良好であるため、照明装置、画像表示装置、車両用表示灯等に利用することができる。