(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094587
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】極低温冷凍機用の冷媒漏洩防止システム
(51)【国際特許分類】
F25B 49/02 20060101AFI20240703BHJP
F25B 9/00 20060101ALI20240703BHJP
F25B 41/40 20210101ALI20240703BHJP
【FI】
F25B49/02 520H
F25B9/00 311
F25B49/02 570Z
F25B41/40 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022211224
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】弁理士法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】目黒 凌平
(57)【要約】 (修正有)
【課題】冷媒の漏洩を簡便に検知できるようにした極低温冷凍機用の冷媒漏洩防止システムを提供する。
【解決手段】ガス循環路Gc内に封入された冷媒の圧縮・膨張により寒冷を発生させて、被冷却対象物との熱交換部5を極低温に冷却する極低温冷凍機Pr用の冷媒漏洩防止システムは、ガス循環路内に封入された冷媒の状態量を測定する測定手段6と、定常時の状態量を基準値として、この基準値と測定手段での測定値との差分から冷媒の漏洩の有無を判定する判定手段Cuと、判定手段での判定結果に応じてガス循環路の特定部分15
1~15
2,16
1~16
2をその他の部分から縁切りして特定部分での冷媒封入状態を維持する縁切手段17
1~17
4とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス循環路内に封入された冷媒の圧縮・膨張により寒冷を発生させて、被冷却対象物との熱交換部を極低温に冷却する極低温冷凍機用の冷媒漏洩防止システムであって、
前記ガス循環路内に封入された冷媒の状態量を測定する測定手段と、定常時の状態量を基準値として、この基準値と測定手段での測定値との差分から冷媒の漏洩の有無を判定する判定手段と、当該判定手段での判定結果に応じて前記ガス循環路の特定部分をその他の部分から縁切りして当該特定部分での冷媒封入状態を維持する縁切手段とを備えることを特徴とする極低温冷凍機用の冷媒漏洩防止システム。
【請求項2】
前記測定手段が前記熱交換部または前記被冷却対象物の温度を測定する温度センサであり、
前記基準値が前記極低温冷凍機の到達温度であり、
前記判定手段は、予め設定される時間内に前記差分の絶対値が予め設定される閾値以下にならない場合、または、前記差分の絶対値が前記閾値以下に一旦なった後に再度閾値を超えると、前記冷媒が漏洩したと判定することを特徴とする請求項1記載の極低温冷凍機用の冷媒漏洩防止システム。
【請求項3】
前記冷媒を圧縮する圧縮機を備える極低温冷凍機用の冷媒漏洩防止システムであって、
前記縁切手段が、前記圧縮機の高圧側に接続される高圧側配管と、前記圧縮機の低圧側に接続される低圧側配管とに夫々介設されるセルフシール機能を持つ継手で構成されることを特徴とする請求項1または請求項2記載の極低温冷凍機用の冷媒漏洩防止システム。
【請求項4】
前記判定手段によって冷媒が漏洩したと判定されたときに、冷媒の漏洩を報知する報知手段を備えることを特徴とする請求項1または2記載の極低温冷凍機用の冷媒漏洩防止システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス循環路内に封入された冷媒の圧縮・膨張により寒冷を発生させて、被冷却対象物との熱交換部を極低温に冷却する極低温冷凍機用の冷媒漏洩防止システムに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の極低温冷凍機としてパルス管冷凍機が例えば特許文献1で知られている。このものは、ヘリウムガスを冷媒とし、圧縮機(コンプレッサー)を有して冷媒に対し圧力振動を発生させる圧力振動発生手段と、圧力振動させた冷媒が流入するパルス管と、圧力振動発生手段とパルス管との間に設けられてパルス管に流入する冷媒を予冷する蓄冷器と、パルス管の高温端に連通するバッファタンクを有して冷媒の圧力振動の位相を制御して、パルス管の低温端にて冷媒の膨張に伴う寒冷を発生させる位相制御手段とを備える。パルス管の低温端と蓄冷器とは冷却ステージを介して接続され、この冷却ステージが被冷却対象物との熱交換部を構成する。冷媒は、圧力振動発生手段、蓄冷器、冷却ステージ及びパルス管を通り、位相制御手段のバッファタンクに通じる、一連の系としてのガス循環路内で往復動流として圧力振幅を伴って流れる。そして、冷媒の圧力変化と流量変化の間に位相差が発生し、この一定の位相差によってパルス管の低温端において冷媒の膨張に伴う寒冷が発生し、冷却ステージが極低温(数K~数十K)に冷却される。
【0003】
この種の極低温冷凍機においては、極低温でも気体状態の物質が冷媒として採用され、一般的にヘリウムが用いられる。このヘリウムガスが微量に漏洩した場合、その漏洩量に応じて圧縮機の仕事は増加するものの、熱交換部の冷却性能は一般的に維持され、且つヘリウムガス自体は安全であることから(例えば冷媒として水素を用いる場合、爆発の危険が生じる)、従来は、ヘリウムガスの漏洩の積極的な検知はなされておらず、例えば、圧縮機の異常検知によって、ヘリウムガス漏れが確認できるまでの間は、極低温冷凍機としては十分な機能が保持されると認識されていた。また、ヘリウムガスの漏洩を積極的に検知する場合には、ヘリウムガスの漏洩を検知する検知手段を別途設ける必要があった。然し、例えば、国連の持続可能な開発のための国際目標(SDGs)の観点や、世界情勢によるヘリウムガスの供給不足及び価格高騰といった事情から、希少な資源であるヘリウムガスを有効活用する必要性が検討され、また冷媒漏れによる不要な仕事を防止するといった観点からも、この種の極低温冷凍機においても、冷媒の漏洩検知機能を持たずに簡便に冷媒の漏洩を検知することが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上の点に鑑み、冷媒の漏洩を簡便に検知できるようにした極低温冷凍機用の冷媒漏洩防止システムを提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、ガス循環路内に封入された冷媒の圧縮・膨張により寒冷を発生させて、被冷却対象物との熱交換部を極低温に冷却する極低温冷凍機用の冷媒漏洩防止システムであって、前記ガス循環路内に封入された冷媒の状態量を測定する測定手段と、定常時の状態量を基準値として、この基準値と測定手段での測定値との差分から冷媒の漏洩の有無を判定する判定手段と、当該判定手段での判定結果に応じて前記ガス循環路の特定部分をその他の部分から縁切りして当該特定部分での冷媒封入状態を維持する縁切手段とを備えることを特徴とする。
【0007】
本発明において、前記測定手段が、例えば前記熱交換部または前記被冷却対象物の温度を測定する温度センサであり、前記基準値が例えば前記極低温冷凍機の到達温度であり、前記判定手段は、予め設定される時間内に前記差分の絶対値が予め設定される閾値以下にならない場合、または、前記差分の絶対値が前記閾値以下に一旦なった後に再度閾値を超えると、前記冷媒が漏洩したと判定する構成を採用することができる。
【0008】
また、本発明において、前記冷媒を圧縮する圧縮機を備え、前記縁切手段が、前記圧縮機の高圧側に接続される高圧側配管と、前記圧縮機の低圧側に接続される低圧側配管とに夫々介設されるセルフシール機能を持つ継手である構成を採用することができる。他方で、前記判定手段によって冷媒が漏洩したと判定されたときに、冷媒の漏洩を報知する報知手段を備える構成を採用してもよい。
【0009】
ここで、冷媒を圧縮する圧縮機は、一般に、ガス循環路内の冷媒の圧力(低圧側の絶対圧力、または高圧側と低圧側との差圧)が設定圧力以下になると停止に至るインターロック機構を有している。例えば、低圧側の絶対圧力が設定圧力以下となり停止に至る場合に設定される圧力値は、圧縮機の安定動作を考慮して大気圧と同様の圧力(0.1MPa以下、ゲージ圧力で設定する場合は0Pa以下)に設定されることが実情である。このような条件で停止に至った場合は、圧縮機内を含めガス循環路内の冷媒の多くが大気中へと漏洩した状態となっている。また、例えば、ガス循環路の冷媒漏洩に伴い低圧側圧力が低下する(圧縮機で高圧側圧力が目標圧力に自動制御されることで、冷媒が漏洩することにより低圧側圧力がより変動する)ことで、高圧側と低圧側との差圧が圧縮機の定格より過大となることで停止に至る場合がある。このような場合、例えば、ガス循環路に冷媒を再充填する作業(所謂、工場戻し)が必要になり、その間、極低温冷凍機を使用できない事態が発生する。また、ガス循環路内に大気が入り込み、大気成分が冷媒に混入した場合、圧縮機に利用される潤滑油に大気成分が吸着することが避けられず、潤滑油の交換作業や脱気処理を施す工程が必要となり、装置の復旧までに更なる期間を要する。
【0010】
ところで、極低温冷凍機の定常状態は、例えば熱交換部や被冷却対象物に着目すると、熱流束(抜熱と入熱)がバランスする安定点であるため、これを観測(測定)することで把握することができる。即ち、仮に冷媒の漏洩が発生し、この結果により熱交換部の冷却性能が低下すると、定常状態が崩れ(バランスしていた安定点が崩れ)、次の定常状態へと遷移する。よって熱交換部や被冷却対象物にて状態量として顕在化する温度変化を測定すれば、抜熱と入熱即ち熱流束の状況が把握でき、その結果として定常または非定常(遷移)状態であるかの判定が可能となる。また、熱交換部や被冷却対象物といったものには、機器の正常動作の確認のため、温度センサが取り付けられることが通常である。このことに着目して、本発明では、定常時の状態量を基準値として、この基準値と測定手段での測定値との差分から冷媒の漏洩の有無を類推的に判定することで、多くの冷媒が漏洩(枯渇)した状態で作動するインターロックと比較して、可及的速やかに冷媒の漏洩を簡便に判定することができる。なお、本発明における「状態量」としては、冷媒の漏洩に伴い顕在化するものであれば、所定位置の温度に限定されるものではない。例えば、ガス循環路内における冷媒の圧力変動や、冷媒圧縮用の圧縮機の運転時間による監視が挙げられる。ただし、熱交換部や被冷却対象物の温度変化は、その他の状態量の変化に比べ、その感度が高くなるため(系として熱量変化が最も支配的な要素であるため)、冷媒の漏洩を類推的に判定するのに適している。
【0011】
冷媒の漏洩が判定された後には、縁切手段によってガス循環路の特定部分をその他の部分から縁切りすれば、当該部分に残留する冷媒が大気へ漏洩することを防止できる。このとき、縁切手段によりガス循環路を複数の特定部分(漏洩の確率が高い複数の部分)に縁切りできるように構成することが好ましい。また、特定部分の冷媒を公知の手法で回収すれば、冷媒を有効に活用することができる。この場合、ガス循環路に例えばアキュムレータを介設するとともに、その前後に縁切手段を設けておき、アキュムレータに冷媒を留めるようにしてもよい。また、例えば、圧縮機が冷媒の漏洩発生源ではないような場合、圧縮機の前後で縁切りしておけば、圧縮機内に留まる冷媒の枯渇を防止できるため、極低温冷凍機を早期に復旧させることもできる。また、これにより、圧縮機が潤滑油を利用するもの(給油式容積型圧縮機)である場合でも、潤滑油への大気成分の吸着を防ぐことができる。なお、報知手段を備えておけば、使用者が特定部分における冷媒の回収を早期に実施でき、有利である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態の極低温冷凍機用の冷媒漏洩防止システムを示す模式図。
【
図2】測定手段で測定した熱交換部の到達温度付近の温度変動を示すグラフ。
【
図3】本実施形態の冷媒漏洩防止システムの冷媒漏洩の判定のフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、極低温冷凍機をパルス管冷凍機、冷媒をヘリウムガス、そして、状態量を温度(K)として、ヘリウムガスの漏洩を検知・防止する場合を例に、本発明の極低温冷凍機用の冷媒漏洩防止システムの実施形態を説明する。以下において、「上」、「下」といった方向を示す用語は、
図1の姿勢を基準とする。
【0014】
図1を参照して、Prは、本発明の冷媒漏洩防止システムLSが適用されるパルス管冷凍機である。パルス管冷凍機Prは、ヘリウムガスに対し圧力振動を発生させる圧力振動発生手段1と、圧力振動させたヘリウムガスが流入するパルス管2と、圧力振動発生手段1とパルス管2との間に設けられて、パルス管2に流入するヘリウムガスを予冷する蓄冷器3と、ヘリウムガスの圧力振動の位相を制御してパルス管2の低温端2bにて、ヘリウムガスの膨張に伴う寒冷を発生させる位相制御手段4とを備える。
【0015】
圧力振動発生手段1は、ヘリウムガスを圧縮する圧縮機11を備える。圧縮機11の高圧ガスの出力側には高圧弁12が、圧縮機11のガス回収側には低圧弁13が夫々設けられ、後述の制御ユニットCuにより、高圧弁12及び低圧弁13の開弁、閉弁が周期的に切り換えられるようになっている。また、圧縮機11からの第1配管14が、蓄冷器3の高温端3aに接続されている。
【0016】
蓄冷器3は、筒状の蓄冷器本体31を有する。蓄冷器本体31内には、蓄冷材32が充填されている。また、パルス管2は、筒状のパルス管本体21を有する。また、位相制御手段4は、パルス管2の高温端2aに連通するバッファタンク41を有し、バッファタンク41は、第2配管42を介してパルス管本体21上部の高温端2aに接続され、第2配管42にはオリフィス43が介設されている。また、第2配管42には、パルス管2の高温端2aと蓄冷器3の高温端3aとを連通するバイパス管44が接続され、このバイパス管44にはオリフィス45が介設されている。
【0017】
パルス管2の低温端2bと蓄冷器3の低温端3bとは、冷却ステージ5を介して接続され、冷却ステージ5が図外の被冷却対象物との熱交換部を構成する。冷却ステージ5は、銅や銅合金等の熱伝導に優れた金属製の部材で構成され、冷却ステージ5内には左右方向にのびるガス通路51が設けられている。
【0018】
そして、ヘリウムガスが、圧力振動発生手段1、蓄冷器3、冷却ステージ5及びパルス管2を通り、位相制御手段4のバッファタンク41に通じる、一連の系としてのガス循環路Gc内で往復動流として圧力振幅を伴って流れることで、ヘリウムガスの圧力変化と流量変化の間に位相差が発生し、この一定の位相差によってパルス管2の低温端2bにおいてヘリウムガスの膨張に伴う寒冷が発生し、熱交換部である冷却ステージ5が極低温(数K~数十K)に冷却される。
【0019】
また、冷却ステージ5には、その表面温度を測定する温度センサ6が取り付けられている。冷却ステージ5は熱伝導に優れた金属製であり、冷却ステージ5の温度は、ガス通路51内を流れるヘリウムガス(即ち、ガス循環路Gc内に封入されたヘリウムガス)と略等温になる。これを利用して、本実施形態では、温度センサ6が、ガス循環路Gc内に封入されたヘリウムガスの温度を測定する測定手段を構成する。また、本実施形態では、冷却ステージ5に温度センサ6を取り付けたものを例に説明するが、温度センサ6の取り付け位置は、熱交換部と略等温の箇所であればよく、例えばパルス管2の低温端2bに温度センサ6を取り付けてもよい。また、図外の被冷却対象物の温度を測定するための温度センサを利用することもでき、これら複数の温度センサにより、熱交換部5の温度を測定するように構成してもよい。
【0020】
上記パルス管冷凍機Prは、マイクロコンピュータ、シーケンサやメモリ等を有する制御ユニットCuを備え、制御ユニットCuは、圧縮機11の作動、高圧弁12と低圧弁13の開弁及び閉弁、温度センサ6を統括制御するようになっている。本実施形態では、制御ユニットCuが冷媒漏洩防止システムLSの構成要素となり、ガス循環路Gc内に封入されたヘリウムガスの定常時の状態量を基準値として、この基準値と温度センサ6で測定された熱交換部5の温度との差分から、ヘリウムガスの漏洩の有無を判定する判定手段の役割も兼用する。なお、本実施形態では、判定手段としてパルス管冷凍機Prの制御ユニットCuを利用するものを例に説明するが、パルス管冷凍機Prの制御ユニットCuとは別に判定手段としてマイクロコンピュータ、シーケンサやメモリ等を設けてもよい。
【0021】
また、制御ユニットCuには、ハザードランプやブザー等の報知手段7が接続され、制御ユニットCuが、ヘリウムガスが漏洩したと判定したときに、報知手段7によってヘリウムガスの漏洩を報知することができる。制御ユニットCuに、パルス管冷凍機Prの作動状態を示すディスプレイ(図示せず)が接続されているような場合、ディスプレイ上にヘリウムガスの漏洩を表示して報知するようにしてもよい。
【0022】
ここで、パルス管冷凍機Prの使用時、熱交換部5や図外の被冷却対象物といったものは熱流束(抜熱と入熱)がバランスする安定点であるため、ヘリウムガスの漏洩に伴い熱交換部5の冷却性能が低下すると、熱交換部5(または被冷却対象物)の温度変化として顕在化する。
図2に示すように、定常時のパルス管冷凍機Prの熱交換部5の到達温度を基準値とすると、ヘリウムガスの漏洩がない場合には、到達温度と熱交換部5の温度との差分との絶対値は、予め設定される閾値以下になった後、略一定となり、再度閾値を超えることはない(一点鎖線、二点鎖線及び三点鎖線で示すもの)。
【0023】
他方、ヘリウムガスの漏洩がある場合には、到達温度と熱交換部5の温度との差分の絶対値が閾値以下にならないか(実線で示すもの)、到達温度と熱交換部5の温度との差分の絶対値が一旦閾値以下になったとしても、その後再度閾値を超えてしまう(破線で示すもの)。そこで、本実施形態は、制御ユニットCuが、予め設定される時間内に到達温度と熱交換部5の温度との差分の絶対値が予め設定される閾値以下にならない場合、または、この差分の絶対値が上記閾値以下に一旦なった後に再度閾値を超える場合には、ヘリウムガスが漏洩したと判定する。なお、このような場合、ヘリウムガスの漏洩以外にもパルス管冷凍機Prに何らかの異常が発生している可能性があり、そのような異常発生の判定に利用することもできる。
【0024】
また、圧縮機11の高圧側に接続される高圧側配管15と、圧縮機11の低圧側に接続される低圧側配管16とには、縁切手段としてのセルフシール継手17
1~17
4が夫々介設されている。セルフシール継手17
1~17
4は、例えば、両継手部分が連結されたとき自動的に開弁し、両継手部分が分離されると自動的に閉弁する弁体を内蔵したセルフシール機能を有するものである。そして、例えば手動で各セルフシール継手17
1~17
4の両継手部分を分離すれば、各セルフシール継手17
1~17
4で挟まれる高圧側配管15や低圧側配管16の配管部分15
1~15
2,16
1~16
2がガス循環路Gcの特定部分となって、各配管部分15
1~15
2,16
1~16
2がその他の部分から縁切され、各配管部分15
1~15
2,16
1~16
2のヘリウムガスの封入状態が維持される。なお、ガス循環路Gcに縁切手段を介設する位置は、上記に限定されるものではなく、例えば、蓄冷器3、冷却ステージ5またはパルス管2のみを縁切りするように配置することもできる。また、各セルフシール継手17
1~17
4に代えてまたは加えて、ガス循環路Gcに制御ユニットCuからの出力で自動的に開閉する電磁安全弁等の遮断手段を更に設けるようにしてもよい。以下に、
図3を参照して、上記冷媒漏洩防止システムLSを用いて、ヘリウムガスの漏洩を判定するフローの一例を具体的に説明する。
【0025】
パルス管冷凍機Prの使用を開始して、予め設定された時間の経過後、ヘリウムガス漏洩の判定が開始されると、温度センサ6により熱交換部5の温度が測定される(STEP1)。次に、判定手段Cuが、到達温度と熱交換部5の温度との差分の絶対値が予め設定された閾値以下であるかを判定する(STEP2)。これらの差分の絶対値が上記閾値より大きい場合には、ヘリウムガスが漏洩したと判定され、報知手段7によりヘリウムガスの漏洩を報知するとともに、各セルフシール継手171~174を分離する(STEP3)。
【0026】
また、これらの差分の絶対値が上記閾値以下である場合には、更に所定時間の経過後、再度、温度センサ6により熱交換部5の温度が測定され(STEP1)、判定手段Cuが、到達温度と熱交換部5の温度との差分の絶対値が上記閾値以下であるかを判定する(STEP2)。これらの差分の絶対値が上記閾値より大きい場合には、ヘリウムガスが漏洩したと判定され、STEP3でヘリウムガス漏洩の報知及び各セルフシール継手171~174が分離される。また、これらの差分の絶対値が上記閾値以下である場合には、更に所定時間の経過後、温度センサ6による熱交換部5の温度測定を繰り返す(STEP1)。
【0027】
判定手段Cuによりヘリウムガスが漏洩したと判定された場合、STEP3で制御ユニットCuは、ハザードランプやブザー等によりヘリウムガスの漏洩を報知し、この報知により、作業者が手動で各セルフシール継手171~174の両継手部分を分離することで、各配管部分151~152,161~162が縁切され、各配管部分151~152,161~162のヘリウムガスの封入状態が維持される(STEP3)。
【0028】
以上の冷媒漏洩防止システムLSの実施形態によれば、定常時の状態量を基準値として、この基準値と温度センサ6での測定値との差分からヘリウムガスの漏洩の有無を判定することで、上記インターロックと比較して、可及的速やかにヘリウムガスの漏洩を簡便に判定することができる。また、ヘリウムガスの漏洩を判定した後には、セルフシール継手171~174によってガス循環路Gcの各配管部分151~152,161~162をその他の部分から縁切りすれば、各配管部分151~152,161~162に残留するヘリウムガスの大気への漏洩を防止することができる。このとき、セルフシール継手171~174によりガス循環路Gcを複数の配管部分151~152,161~162に縁切りできるように構成することが好ましい。そして、各配管部分151~152,161~162の冷媒を公知の手法で回収すれば、冷媒を有効に活用することができる。また、例えば、圧縮機11がヘリウムガスの漏洩発生源ではないような場合、圧縮機11の前後171,172で縁切りしておけば、圧縮機11内に留まるヘリウムガスの枯渇を防止できるため、パルス管冷凍機Prを早期に復旧させることもできる。また、ハザードランプやブザー等の報知手段7を備えることで、使用者が特定部分におけるヘリウムガスの回収を早期に実施でき、有利である。
【0029】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態のものに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限り、種々の変形が可能である。上記実施形態では、ヘリウムガスの状態量として熱交換部5の温度を測定するものを例に説明したが、本発明の「状態量」としては、ヘリウムガスの漏洩に伴い顕在化するものであれば、これに限定されない。例えば、ガス循環路Gc内におけるヘリウムガスの圧力変動や、ヘリウムガス圧縮用の圧縮機の運転時間による監視が挙げられ、これらは単独でまたは複数個を組み合わせて利用することができる。
【0030】
なお、冷媒漏洩防止システムLSを簡便に構成する上では、パルス管冷凍機Prや被冷却対象物またはパルス管冷凍機Prを用いて被冷却対象物を冷却するときの設備に予め設置されている装置構成を用いることが好ましい。このような装置構成としては、冷媒の変化が状態量として観測(測定)できるものであればよく、例えば高圧側配管15や低圧側配管16を利用することもできる。高圧側配管15や低圧側配管16を利用して、冷媒の漏洩を簡便に検知できるようにする場合、高圧側配管15や低圧側配管16にガス循環路Gc内の冷媒の圧力が作用していることを利用し、その配管の膨張量をゲージ圧として測定できるようにして、冷媒の状態量を測定する測定手段として用いればよい。この場合、その検出感度を増大させる目的で各配管15,16の弾性率を調整してもよく、例えば樹脂製チューブの外表面を金属製のメッシュで保護したものが用いられるような場合、金属製のメッシュの一部を取り除く等、ベローズ(伸縮)効果を付与することにより、外部から視認できる樹脂製チューブの収縮を用いてヘリウムガスの漏洩を検知することもできる。また、この場合、弾性率は線形的変化ではなく非線形的な変化が発生するように設けるのが好ましく、公知の手法により、特に閾値前後で膨張量が大きく変化するように弾性率を変化させるようにすることが好ましい。これにより、測定が容易になるとともに、目視で漏洩を確認することができ、有利である。
【0031】
また、上記実施形態では、セルフシール継手171~174によりガス循環路Gcを特定部分としての複数の配管部分151~152,161~162に縁切りし、ヘリウムガスの漏洩が判定されたときには、当該配管部分151~152,161~162にヘリウムガスを留めることを例に説明したが、これに限定されるものではない。例えば、セルフシール継手171~174の代わりに電磁弁を設けて、判定手段Cuがヘリウムガスの漏洩を判定した後に、自動で配管部分151~152,161~162を縁切りするようにしてもよい。
【0032】
また、例えば、ガス循環路Gcにアキュムレータを介設するとともに、その前後に縁切手段を設けておき、アキュムレータにヘリウムガスを留めるようにしてもよい。また、アキュムレータを高圧側配管15に設け、且つ高圧側配管15に設けられた縁切手段172,174により高圧側配管15を縁切ることで、圧縮機11の冷媒をアキュムレータに留めるようにしてもよい。その後、低圧側配管16を縁切手段171,173で縁切ることで、縁切り作業と冷媒の回収を効率的に実施することができる。
【0033】
ところで、圧縮機11として給油式容積型圧縮機を用いる場合、その潤滑油に大気成分が吸着された後、大気成分が潤滑油から離脱して冷媒に混入することで、大気成分もガス循環路Gc内を循環してしまう。このような場合、冷凍機の作動による冷却によって凝縮又は凝固した大気成分がパルス管冷凍機Pr内部(例えば蓄冷器3の蓄冷材32)に付着することで、熱交換部5の冷却性能が低下する虞がある。このため、潤滑油への大気成分の吸着を防ぐため、例えば圧縮機11側の各配管部分151,161を縁切りする縁切手段171,172より圧縮機11側に油分離器やアブソーバを備えることが好ましい。
【0034】
更に、上記実施形態では、一段冷却式のパルス管冷凍機Prを例に説明したが、2段以上の多段冷却式のパルス管冷凍機にも本発明を適用することができる。また、冷媒としてヘリウムガスがガス循環路内に封入される極低温冷凍機であれば、GM冷凍機等にも本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0035】
LS…冷媒漏洩防止システム、Cu…制御ユニット(判定手段)、Gc…ガス循環路、Pr…パルス管冷凍機、11…圧縮機、15…高圧側配管、16…低圧側配管、151~152,161~162…ガス循環路の特定部分、171~174…セルフシール継手(縁切手段)、5…冷却ステージ(熱交換部)、6…温度センサ(測定手段),7…報知手段。