(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024009472
(43)【公開日】2024-01-23
(54)【発明の名称】筋炎/皮膚筋炎に伴うリスクを検出する方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/53 20060101AFI20240116BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20240116BHJP
C07K 16/42 20060101ALI20240116BHJP
C07K 17/00 20060101ALI20240116BHJP
C07K 14/705 20060101ALI20240116BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20240116BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20240116BHJP
【FI】
G01N33/53 N ZNA
G01N33/543 515A
C07K16/42
C07K17/00
C07K14/705
C12M1/34 F
C12N15/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022111018
(22)【出願日】2022-07-11
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100110456
【弁理士】
【氏名又は名称】内山 務
(74)【代理人】
【識別番号】100117813
【弁理士】
【氏名又は名称】深澤 憲広
(72)【発明者】
【氏名】五島 直樹
(72)【発明者】
【氏名】福田 枝里子
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 伸一
(72)【発明者】
【氏名】吉崎 歩
(72)【発明者】
【氏名】深澤 毅倫
【テーマコード(参考)】
4B029
4H045
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029BB15
4B029BB17
4B029CC03
4B029CC08
4B029FA12
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA60
4H045CA40
4H045DA50
4H045DA75
4H045DA86
4H045EA50
4H045EA54
4H045FA74
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本発明は、筋炎/皮膚筋炎に併発する間質性肺炎の真の原因を明らかにし、筋炎/皮膚筋炎に併発する間質性肺炎を発症するリスクまたは急速進行性間質性肺炎に移行するリスクについてより確度の高い診断を可能にすることを課題とする。
【解決手段】本発明においては、筋炎/皮膚筋炎に併発する間質性肺炎の発症または急速進行性間質性肺炎への移行の真の原因を特定し、その原因となる自己抗体を検出することにより、筋炎/皮膚筋炎に伴うリスクを検出する方法を提供することにより、上記課題を解決することができることを示した。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト個体から採取された試料中において、SEQ ID NO: 1のアミノ酸配列、SEQ ID NO: 1のアミノ酸配列において1または複数個のアミノ酸の欠失・置換・付加を有するアミノ酸配列、あるいはSEQ ID NO: 1のアミノ酸配列とのあいだで80%以上のアミノ酸配列同一性を有するタンパク質、の全長またはその一部、であるタンパク質Xまたはその改変体に対して結合する抗体を検出する工程を含む、筋炎/皮膚筋炎に伴うリスクを検出する方法。
【請求項2】
試料が血液由来の試料である、請求項1の方法。
【請求項3】
筋炎/皮膚筋炎に伴うリスクが、筋炎/皮膚筋炎を発症するリスク、筋炎/皮膚筋炎に付随する間質性肺炎を発症するリスク、筋炎/皮膚筋炎に付随する間質性肺炎から急速進行性間質性肺炎に移行するリスク、からなる群から選択される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
タンパク質Xまたはその改変体に対して結合する抗体が、IgG抗体またはIgM抗体である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
試料中において、タンパク質Xまたはその改変体に対して結合する抗体が検出可能である場合に、筋炎/皮膚筋炎に伴うリスクありと判断する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項6】
ELISA法、ウエスタンブロット法、間接蛍光抗体法、二重免疫拡散法、化学発光酵素免疫測定法、または化学発光免疫測定法により、試料中のヒトタンパク質Xまたはその改変体に対して結合する自己抗体を検出する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項7】
SEQ ID NO: 1のアミノ酸配列、SEQ ID NO: 1のアミノ酸配列において1または複数個のアミノ酸の欠失・置換・付加を有するアミノ酸配列、あるいはSEQ ID NO: 1のアミノ酸配列とのあいだで80%以上のアミノ酸配列同一性を有するタンパク質、の全長またはその一部、であるタンパク質Xまたはその改変体を固定化した固相、タンパク質Xまたはその改変体に対して結合するヒト抗体を検出するための抗ヒト抗体を含む、ヒト個体から採取された試料中に存在するタンパク質Xまたはその改変体に対して結合する抗体を検出することにより、筋炎/皮膚筋炎に伴うリスクを検出するためのキット。
【請求項8】
試料が血液由来の試料である、請求項7のキット。
【請求項9】
タンパク質Xまたはその改変体を固定化した固相が、タンパク質Xまたはその改変体を固定化したELISAプレート、スライドグラス、粒子、タンパク質Xまたはその改変体を滴下したアガロースゲル、またはタンパク質Xまたはその改変体を固定化した膜である、請求項7または8に記載のキット。
【請求項10】
筋炎/皮膚筋炎に伴うリスクが、筋炎/皮膚筋炎を発症するリスク、筋炎/皮膚筋炎に付随する間質性肺炎を発症するリスク、筋炎/皮膚筋炎に付随する間質性肺炎から急速進行性間質性肺炎に移行するリスク、からなる群から選択される、請求項7または8に記載のキット。
【請求項11】
タンパク質Xまたはその改変体に対して結合する抗体が、IgG抗体またはIgM抗体である、請求項7または8に記載のキット。
【請求項12】
試料中において、タンパク質Xまたはその改変体に対して結合する抗体が検出可能である場合に筋炎/皮膚筋炎に伴うリスクありと判断する、請求項7または8に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筋炎/皮膚筋炎に伴うリスクを検出する方法、その方法を実施するためのキットに関する発明である。
【背景技術】
【0002】
筋炎/皮膚筋炎(Dermatomyositis:DM)は、自己免疫機序により筋肉に炎症を生じる特発性炎症性筋疾患の一つであり、骨格筋の炎症に伴う筋力低下や筋痛を主症状として呈することが知られているが、浮腫性の紅斑などの典型的な皮疹も呈することが知られている。筋炎/皮膚筋炎の予後を決定する重要な病態として、間質性肺炎(Interstitial Lung Disease:ILD)や悪性腫瘍があり、このうち筋炎/皮膚筋炎の約50%に発症する間質性肺炎は重要な病態である。
【0003】
筋炎/皮膚筋炎に併発する間質性肺炎には、急性型の急速進行性間質性肺炎と慢性型の間質性肺炎とが存在し、このうち急速進行性間質性肺炎はもっとも予後不良な病態である。臨床的には、数日から数週間で急速に呼吸困難が進行し、短期間で死亡に至る頻度が高い。
【0004】
これまでの検討の結果、筋炎/皮膚筋炎に併発する間質性肺炎の予後と治療反応性との関係は、筋炎の病型、画像所見(胸部高分解能CT)、病理組織所見、自己抗体の種類などによって識別されるが、これらのうち、抗MDA5自己抗体は、無筋症性皮膚筋炎(Clinical Amyopathic DM:CADM)患者に多く認められ、急速進行性間質性肺炎を高頻度に併発することが知られている(非特許文献1)。そのため、抗MDA5抗体の有無を調べる抗体検査を行うことが、急速進行性間質性肺炎を併発する筋炎/皮膚筋炎の診断・治療のために重要と考えられている。
【0005】
MDA5は、140 kDaのメラノーマ分化関連遺伝子(Melanoma Differentiation Associated gene 5:MDA5)として見つかったタンパク質であるが、細胞内ではRNAヘリカーゼの機能を有し、RNAウイルスが感染した際にウイルスに由来する2本鎖RNAを認識して、I型インターフェロンを産生させ、自然免疫応答を誘導する機能を持つことが知られている。このタンパク質は、細胞内の主に核および細胞質に局在しているものであることから、皮膚筋炎の患者体内で産生される抗MDA5抗体は結合することができないタンパク質であり、抗MDA5抗体は、筋炎/皮膚筋炎に併発する間質性肺炎の有力なマーカーではあるものの、MDA5が、筋炎/皮膚筋炎に併発する間質性肺炎の疾患発生機序に関連しているのかについては、現時点においては確認されていない。
【0006】
また、抗MDA5抗体陽性の筋炎/皮膚筋炎において、約50%程度で急速進行性間質性肺炎を発症していることが報告されている(非特許文献1)。しかしながら、抗MDA5抗体が急速進行性間質性肺炎のマーカーとはなっていないという報告もある(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Sato et al., Arthritis Rheum., 2005, 52, 1571-1576
【非特許文献2】佐藤慎二、呼吸臨床、2017年10月号(第1巻第1号)、
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、筋炎/皮膚筋炎に併発する間質性肺炎の真の原因を明らかにし、筋炎/皮膚筋炎に併発する間質性肺炎を発症するリスクまたは急速進行性間質性肺炎に移行するリスクについてより確度の高い診断を可能にすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明においては、筋炎/皮膚筋炎に併発する間質性肺炎の発症または急速進行性間質性肺炎への移行の真の原因を特定し、その原因となる自己抗体を検出することにより、筋炎/皮膚筋炎に伴うリスクを検出する方法を提供することにより、上記課題を解決することができることを示した。
【0010】
より具体的には、本件出願は、前述した課題を解決するため、以下の態様を提供する:
[1-1]: ヒト個体から採取された試料中において、SEQ ID NO: 1のアミノ酸配列、SEQ ID NO: 1のアミノ酸配列において1または複数個のアミノ酸の欠失・置換・付加を有するアミノ酸配列、あるいはSEQ ID NO: 1のアミノ酸配列とのあいだで80%以上のアミノ酸配列同一性を有するタンパク質、の全長またはその一部、であるタンパク質Xまたはその改変体に対して結合する抗体を検出することを含む、筋炎/皮膚筋炎に伴うリスクを検出する方法;
[1-2]: 試料が血液由来の試料である、[1-1]の方法;
[1-3]: 筋炎/皮膚筋炎に伴うリスクが、筋炎/皮膚筋炎を発症するリスク、筋炎/皮膚筋炎に付随する間質性肺炎を発症するリスク、筋炎/皮膚筋炎に付随する間質性肺炎から急速進行性間質性肺炎に移行するリスク、からなる群から選択される、[1-1]または[1-2]に記載の方法;
[1-4]: タンパク質Xまたはその改変体に対して結合する抗体が、IgG抗体またはIgM抗体である、[1-1]または[1-2]に記載の方法;
[1-5]: 試料中において、タンパク質Xまたはその改変体に対して結合する抗体が検出可能である場合に筋炎/皮膚筋炎に伴うリスクありと判断する、[1-1]または[1-2]に記載の方法;
[1-6]: ELISA法、ウエスタンブロット法、間接蛍光抗体法、二重免疫拡散法、化学発光酵素免疫測定法、または化学発光免疫測定法により、試料中のヒトタンパク質Xまたはその改変体に対して結合する自己抗体を検出する、[1-1]または[1-2]に記載の方法;
[1-7]: SEQ ID NO: 1のアミノ酸配列、SEQ ID NO: 1のアミノ酸配列において1または複数個のアミノ酸の欠失・置換・付加を有するアミノ酸配列、あるいはSEQ ID NO: 1のアミノ酸配列とのあいだで80%以上のアミノ酸配列同一性を有するタンパク質、の全長またはその一部、であるタンパク質Xまたはその改変体を固定化した固相、タンパク質Xまたはその改変体に対して結合するヒト抗体を検出するための抗ヒト抗体を含む、ヒト個体から採取された試料中に存在するタンパク質Xまたはその改変体に対して結合する抗体を検出することにより筋炎/皮膚筋炎に伴うリスクを検出するためのキット;
[1-8]: 試料が血液由来の試料である、[1-7]のキット;
[1-9]: タンパク質Xまたはその改変体を固定化した固相が、タンパク質Xまたはその改変体を固定化したELISAプレート、スライドグラス、粒子、タンパク質Xまたはその改変体を滴下したアガロースゲル、またはタンパク質Xまたはその改変体を固定化した膜である、[1-7]または[1-8]に記載のキット;
[1-10]: 筋炎/皮膚筋炎に伴うリスクが、筋炎/皮膚筋炎を発症するリスク、筋炎/皮膚筋炎に付随する間質性肺炎を発症するリスク、筋炎/皮膚筋炎に付随する間質性肺炎から急速進行性間質性肺炎に移行するリスク、からなる群から選択される[1-7]または[1-8]に記載のキット;
[1-11]: タンパク質Xまたはその改変体に対して結合する抗体が、IgG抗体またはIgM抗体である、[1-7]または[1-8]に記載のキット;
[1-12]: 試料中において、タンパク質Xまたはその改変体に対して結合する抗体が検出可能である場合に筋炎/皮膚筋炎に伴うリスクありと判断する、[1-7]または[1-8]に記載のキット;
[2-1]: SEQ ID NO: 1のアミノ酸配列、SEQ ID NO: 1のアミノ酸配列において1または複数個のアミノ酸の欠失・置換・付加を有するアミノ酸配列、あるいはSEQ ID NO: 1のアミノ酸配列とのあいだで80%以上のアミノ酸配列同一性を有するタンパク質、の全長またはその一部、であるタンパク質Xまたはその改変体に対して結合する抗体を血液中に存在させることによる、筋炎/皮膚筋炎やそれに併発する間質性肺炎を発症する非ヒトモデル動物;
[2-2]: 非ヒトモデル動物が、筋炎/皮膚筋炎、筋炎/皮膚筋炎に付随する間質性肺炎、または筋炎/皮膚筋炎に付随する間質性肺炎から移行する急速進行性間質性肺炎を発症する、[2-1]に記載の非ヒトモデル動物;
[2-3]: タンパク質Xまたはその改変体に対して結合する抗体が、ヒト抗体、マウス抗体、ラット抗体、ウサギ抗体、ヤギ抗体からなる群から選択される、[2-1]または[2-2]に記載の方法;
[2-4]: 非ヒト動物が、マウス、ラット、ウサギ、ヤギからなる群から選択される、[2-1]または[2-2]に記載の非ヒトモデル動物;
[2-5]: タンパク質Xまたはその改変体に対して結合する抗体を非ヒト動物の血液中に投与することによる、[2-1]または[2-2]に記載の非ヒトモデル動物;
[2-6]: タンパク質Xまたはその改変体を非ヒト動物の血液中に投与して非ヒト動物の血液中にタンパク質Xまたはその改変体に対して結合する抗体を産生させることによる、[2-1]または[2-2]に記載の非ヒトモデル動物。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、筋炎/皮膚筋炎に併発する間質性肺炎の発症または急速進行性間質性肺炎への移行の真の原因を特定するとともに、その原因となる自己抗体を検出することにより、筋炎/皮膚筋炎に伴うリスクを検出する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、抗MDA5抗体または抗MDA5抗体を産生する細胞を用いて、筋炎/皮膚筋炎に併発する間質性肺炎の発症の機序を解析したスキームを示す図である。
【
図2】
図2は、プロテインアレイCWPAを使用して、筋炎/皮膚筋炎に併発する間質性肺炎を発症した被検体の体内で発生する抗MDA5抗体の真の標的を探索した結果を示す図である。
【
図3】
図3は、MDA5タンパク質でモデル動物を免疫化し、体内で抗MDA5抗体を産生させることにより、筋炎/皮膚筋炎に併発する間質性肺炎の発症の機序を解析したスキームを示す図である。
【
図4】
図4は、MDA5タンパク質で免疫化した非ヒト動物モデルにおいて発生した間質性肺炎の肺組織像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明においては、筋炎/皮膚筋炎の発症、筋炎/皮膚筋炎に併発する間質性肺炎の発症、または間質性肺炎から急速進行性間質性肺炎への移行の真の原因を特定し、その原因となる自己抗体を検出することにより、筋炎/皮膚筋炎に伴うリスクを検出する方法を提供することにより、上記課題を解決することができることを示した。
【0014】
これまで、抗MDA5抗体陽性の筋炎/皮膚筋炎において、約50%程度で急速進行性間質性肺炎を発症していることが報告されており、抗MDA5抗体の存在の有無が、急速進行性間質性肺炎のマーカーとして検査されてきた。しかし、抗MDA5抗体は、急速進行性間質性肺炎の有力なマーカーではあるものの、MDA5タンパク質が、細胞内の主として核および細胞質に局在しているものであることから、本発明の発明者らは、MDA5タンパク質が筋炎/皮膚筋炎やそれに付随して発生する急速進行性間質性肺炎の真の発生機序に関与していないと考えた。
【0015】
本発明者らは、間質性肺炎を発症した抗MDA5抗体陽性の個体から血液を採取し、ヒトプロテオームの約80%に相当するタンパク質を提示するプロテインアレイCWPA(comprehensive wet protein array)(Fukuda et al., Genes to Cells, 2021)に添加することで、血中抗MDA5抗体が結合するMDA5タンパク質以外のタンパク質を探索した。その結果、抗MDA5抗体が、膜貫通領域を12個持つ細胞膜貫通型のタンパク質であることが知られているタンパク質Xに対して結合することが明らかになった。このタンパク質Xは、SEQ ID NO: 1のアミノ酸配列を有するタンパク質であり、Na非依存性有機アニオントランスポーター、甲状腺ホルモントランスポーター活性を持つことが推測された。
【0016】
抗MDA5抗体により検出されたタンパク質Xは、マクロファージや胎盤の細胞の細胞膜表面に発現しているタンパク質であり、血中に存在する抗体がアプローチできるタンパク質である。このタンパク質Xでマウスを免疫化し、抗タンパク質X抗体をマウス体内において生成させたところ、このマウスが間質性肺炎を発症することが明らかになった。この結果から、筋炎/皮膚筋炎や筋炎/皮膚筋炎に併発する間質性肺炎、さらにはそこから移行する急速進行性間質性肺炎の真の原因として、細胞膜表面のタンパク質Xに対して抗体が結合することが関与していることが明らかになった。
【0017】
第一の態様:方法の発明
この知見に基づいて、本発明は、一態様において、ヒト個体から採取された試料中において、タンパク質Xまたはその改変体に対して結合する抗体を検出する工程を含む、筋炎/皮膚筋炎に伴うリスクを検出する方法を提供することができる。本発明の知見によれば、筋炎/皮膚筋炎や筋炎/皮膚筋炎に併発する間質性肺炎、さらにはそこから移行する急速進行性間質性肺炎の患者の血液中には、タンパク質Xまたはその改変体に対して結合する抗体が形成されていることから、タンパク質Xまたはその改変体に対して結合する抗体の存在を検出する工程により、筋炎/皮膚筋炎に伴うリスクを検出することができる。
【0018】
本発明のこの態様においてタンパク質Xまたはその改変体に対して結合する抗体を検出するために使用されるタンパク質Xは、ヒトのタンパク質Xであることが好ましく、その全体(SEQ ID NO: 1)であっても、その一部であってもよい。また、本発明において検出対象である抗体が結合するタンパク質Xの改変体は、SEQ ID NO: 1のアミノ酸配列において1または複数個のアミノ酸の欠失・置換・付加を有するアミノ酸配列を有するタンパク質、あるいはSEQ ID NO: 1のアミノ酸配列とのあいだで80%以上のアミノ酸配列同一性を有するタンパク質、もしくはこれらの一部であってもよい。タンパク質Xまたはその改変体の一部を使用する場合、タンパク質Xまたはその改変体の細胞外ドメインを使用することができる。
【0019】
ここで、タンパク質Xの改変体において、「SEQ ID NO: 1のアミノ酸配列において1または複数個のアミノ酸の欠失・置換・付加を含むアミノ酸配列を有するタンパク質」において、「1または複数個」のアミノ酸とは、タンパク質Xの立体構造における各アミノ酸残基の位置や種類によっても異なるが、具体的には、例えば、1~50個の範囲に含まれるアミノ酸残基数を意味し、好ましくは1~20個、より好ましくは1~10個、さらに好ましくは1~5個を意味する。また、当該用語において、「アミノ酸の欠失・置換・付加」は、本発明のこの態様において検出対象となる抗体の、タンパク質Xに対する結合が維持される限りにおいてどのような変異であってもよい。
【0020】
また、タンパク質Xの改変体において、「SEQ ID NO: 1のアミノ酸配列とのあいだで80%以上のアミノ酸配列同一性を有するタンパク質」において、タンパク質Xの改変体は、タンパク質Xが有している機能を維持している限りにおいて、タンパク質X(SEQ ID NO: 1)のアミノ酸配列に対して、例えば、80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、特に好ましくは99%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有するタンパク質であってもよい。
【0021】
本発明において、ヒト個体から採取された試料という場合、タンパク質Xまたはその改変体に対して結合する抗体が含まれる試料のことであり、血液由来の試料が含まれる。血液由来の試料としては、血漿、または血清を本発明の方法の対象とすることができる。
【0022】
本発明において検出することができる筋炎/皮膚筋炎に伴うリスクは、筋炎/皮膚筋炎を発症するリスク、筋炎/皮膚筋炎に付随する間質性肺炎を発症するリスク、筋炎/皮膚筋炎に付随する間質性肺炎から急速進行性間質性肺炎に移行するリスク、を挙げることができる。本発明における検討において、血液試料中のタンパク質Xまたはその改変体に対して結合する抗体の濃度に由来するシグナル強度が強いほど、筋炎/皮膚筋炎に伴うリスクは高くなることが明らかになっている。
【0023】
本発明において検出対象となる抗体は、タンパク質Xまたはその改変体に対して結合するIgG抗体またはIgM抗体とすることができる。タンパク質Xの体内分布を考慮すると、試料としては血液を使用することが好ましく、その場合にはIgG抗体またはIgM抗体を検出することが好ましい。この抗体は、無筋症性皮膚筋炎(Clinical Amyopathic DM:CADM)のマーカーとして、特に急速進行性間質性肺炎を併発する筋炎/皮膚筋炎のマーカーとして、診断、治療法の選択、予後の予測(例えば、筋炎/皮膚筋炎や間質性肺炎の発症や、病勢の悪化の予測)において、使用することができる。
【0024】
本発明において筋炎/皮膚筋炎に伴うリスクを検出する方法を実行する場合、試料中におけるタンパク質Xまたはその改変体に結合する抗体の有無を検出する工程を行う。試料中において当該抗体が検出可能である場合に、試料中にタンパク質Xまたはその改変体に結合する抗体が陽性であり筋炎/皮膚筋炎を発症するリスクを有すると判断することができ、筋炎/皮膚筋炎に付随する間質性肺炎を発症するリスクを有すると判断することができ、さらに筋炎/皮膚筋炎に付随する間質性肺炎が急速進行性間質性肺炎に移行するリスクを有すると判断することができる。
【0025】
本発明において試料中におけるタンパク質Xまたはその改変体に結合する抗体を検出する工程において使用する方法としては、酵素免疫測定法(EIA法、ELISA法)、ウエスタンブロット法、間接蛍光抗体法、二重免疫拡散法、化学発光酵素免疫測定法、または化学発光免疫測定法を使用することができる。特に、タンパク質Xまたはその改変体に結合する抗体の濃度まで測定する場合には、酵素免疫測定法(EIA法、ELISA法)、ウエスタンブロット法を使用することが好ましい。
【0026】
酵素免疫測定法(EIA法、ELISA法)により試料中におけるタンパク質Xまたはその改変体に結合する抗体を検出する工程を実行する場合、
・固相上にタンパク質Xまたはその改変体の全長またはその一部(抗原)を固定化する工程、
・試料を抗原と反応させる工程、
・抗原と結合した抗体を、検出用のマーカーを付けた抗ヒト抗体(二次抗体に相当)で検出・定量する工程
を実行することにより、抗体の検出またはその濃度の測定を行うことができる。
【0027】
ウエスタンブロット法により試料中におけるタンパク質Xまたはその改変体に結合する抗体を検出する工程を実行する場合、
・規定量のタンパク質Xまたはその改変体の全長またはその一部(抗原)をSDS-PAGEなどで電気泳動して分子量の差で分子を展開する工程、
・その後、ニトロセルロース膜などに転写する工程、
・その後、膜に転写された抗原を試料と反応させる工程、
・膜上の抗原と結合した抗体を、検出用のマーカーを付けた抗ヒト抗体(二次抗体に相当)で検出・定量する工程
を実行することにより、抗体の検出またはその濃度の測定を行うことができる。
【0028】
間接蛍光抗体法により試料中におけるタンパク質Xまたはその改変体に結合する抗体を検出する場合、
・規定量のタンパク質Xまたはその改変体の全長またはその一部(抗原)を固定したスライドグラスをはじめとする固相上に、試料を添加する工程、
・スライドグラス上の抗原と試料中の抗体とのあいだで反応させる工程(一次反応)、
・洗浄後、検出用の標識抗ヒト抗体を添加して反応させる工程(二次反応)、
・抗原・抗体・標識抗体の複合物を形成させ、標識を検出・定量する工程
により試料中の抗体の検出またはその濃度の測定を行うことができる。
【0029】
二重免疫拡散法により試料中におけるタンパク質Xまたはその改変体に結合する抗体を検出する場合、
・アガロースゲルにあけた3つの孔に、タンパク質Xまたはその改変体の全長またはその一部(抗原)、陽性血清、および試料をそれぞれ入れる工程、
・抗原と陽性血清、抗原と試料中抗体がそれぞれアガロース中を拡散させる工程、
・抗原抗体反応が起きた結果としての沈降線の形態から、抗体の特異性を検出同定する工程
により実行できる方法である。この場合、沈降線の形態が融合(fuse)型である場合、参照抗体と試料中の抗体とが、同一抗原を認識することを示し、沈降線の形態が分岐(spur)型である場合、参照抗体と試料中の抗体とが、部分的に同一抗原を認識することを示し、そして沈降線の形態が交叉(cross)型である場合、参照抗体と試料中の抗体とが、2種の異なる抗原を認識することを示す。
【0030】
化学発光酵素免疫測定法(CLEIA)により試料中におけるタンパク質Xまたはその改変体に結合する抗体を検出する場合、
・磁性粒子などの固相上に規定量のタンパク質Xまたはその改変体の全長またはその一部(抗原)を固定化する工程、
・試料を抗原と反応させる工程、
・洗浄して抗原結合抗体以外の未反応物を除去したのち、酵素標識抗体を反応させる工程、
・さらに洗浄して未反応物を除去したのち、化学発光性酵素基質を加え、標識抗体の酵素により化学発光性酵素基質が加水分解され発生する発光量を測定する工程
により、試料中の抗体の検出またはその濃度の測定を行うことができる。
【0031】
化学発光免疫測定法(CLIA)により試料中におけるタンパク質Xまたはその改変体に結合する抗体を検出する場合、原理的には前述した化学発光酵素免疫測定法(CLEIA)と同様であり、検出用の抗体に対して結合させる標識として化学発光性化合物を使用することにより発生する化学発光の発光量を測定することにより、試料中の抗体の検出またはその濃度の測定を行うことができる。すなわち、
・磁性粒子などの固相上に規定量のタンパク質Xまたはその改変体の全長またはその一部(抗原)を固定化する工程、
・試料を抗原と反応させる工程、
・洗浄して抗原結合抗体以外の未反応物を除去したのち、化学発光性化合物標識抗体を反応させる工程、
・さらに洗浄して未反応物を除去したのち、化学発光性酵素基質を加え、標識抗体の化学発光性化合物から発生する発光量を測定する工程
により、試料中の抗体の検出またはその濃度の測定を行うことができる。
【0032】
タンパク質Xまたはその改変体に結合する抗体を検出するための抗ヒト抗体(二次抗体に相当)には、検出用または濃度測定用の標識物質を結合させることができる。標識物質として使用することができるものとしては、前述した各種方法に適したものを当業者であれば適宜選択することができ、そのような標識物質としては、例えば、ビオチン、酵素(例えば、アルカリフォスファターゼ(AP)、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP))、蛍光色素(例えば、Alexa Fluor(登録商標)、DyLight(登録商標)、FITC、PEなど)、など、当該技術分野において一般的に使用可能なものを挙げることができる。
【0033】
第二の態様:キットの発明
本発明は、別の態様として、試料中のタンパク質Xまたはその改変体に結合する抗体を検出するためのキットもまた提供することができる。具体的には、本発明は、タンパク質Xまたはその改変体の全長またはその一部(抗原)を固定化した固相、タンパク質Xまたはその改変体に対して結合するヒト抗体を検出するための抗ヒト抗体を含む、ヒト個体から採取された試料中に存在するタンパク質Xまたはその改変体に対して結合する抗体を検出するためのキットを提供することができる。このキットは、筋炎/皮膚筋炎に伴うリスクを検出するために使用することができる。
【0034】
本発明のキットは、ELISA法のためのキット、ウエスタンブロット法のためのキット、間接蛍光抗体法のためのキット、二重免疫拡散法のためのキット、化学発光酵素免疫測定法のためのキット、または化学発光免疫測定法のためのキットなどであってもよく、
・ELISA法のためのキットとする場合には、タンパク質Xまたはその改変体の全長またはその一部(抗原)を固定化したELISAプレートを、
・ウエスタンブロット法のためのキットとする場合には、抗原を固定化した膜を、
・間接蛍光抗体法のためのキットとする場合には、抗原を固定化したスライドグラスをはじめとする固相を、
・二重免疫拡散法のためのキットとする場合には、抗原、陽性血清、および試料を入れるための孔を有するアガロースゲル(使用時に抗原、陽性血清、および試料をアガロースゲルのそれぞれの孔に滴下して使用する)を、
・化学発光酵素免疫測定法または化学発光免疫測定法のためのキットとする場合には、抗原を固定化した磁性粒子を、
それぞれ使用することができる。
【0035】
本発明のキットにより検出することができる筋炎/皮膚筋炎に伴うリスクは、筋炎/皮膚筋炎を発症するリスク、筋炎/皮膚筋炎に付随する間質性肺炎を発症するリスク、筋炎/皮膚筋炎に付随する間質性肺炎から急速進行性間質性肺炎に移行するリスク、を挙げることができる。本発明における検討において、血液試料中のタンパク質Xまたはその改変体の濃度に由来するシグナル強度が強いほど、筋炎/皮膚筋炎に伴うリスクは高くなることが明らかになっている。
【0036】
本発明のキットを用いてタンパク質Xまたはその改変体に対して結合する抗体の試料中における濃度を定量した場合、試料中における当該抗体が検出可能である場合に、試料中にタンパク質Xまたはその改変体に結合する抗体が陽性であり筋炎/皮膚筋炎を発症するリスクを有すると判断することができ、筋炎/皮膚筋炎に付随する間質性肺炎を発症するリスクを有すると判断することができ、さらに筋炎/皮膚筋炎に付随する間質性肺炎が急速進行性間質性肺炎に移行するリスクを有すると判断することができる。
【0037】
第三の態様:モデル動物
本発明において、実施例において後述するように、筋炎/皮膚筋炎やそれに併発する間質性肺炎を発症する機序を解明する過程で、MDA5を欠損させたMDA5ノックアウトマウスに対して抗ヒトMDA5抗体または抗ヒトMDA5抗体を産生する細胞を投与した場合にそのMDA5ノックアウトマウスが間質性肺炎を発症すること、そして本発明において特定したタンパク質Xまたはその改変体でマウス個体を免疫化した場合にその個体において間質性肺炎を発症すること、を明らかにした。これらの間質性肺炎を発症したマウスの肺組織は、組織学的にヒトにおける筋炎/皮膚筋炎に付随する間質性肺炎の患者の肺組織像と酷似していることを明らかにした。
【0038】
この結果に基づいて、本発明は、さらに別の態様として、タンパク質Xまたはその改変体に対して結合する抗体を血液中に存在させることによる、筋炎/皮膚筋炎やそれに併発する間質性肺炎を発症する非ヒトモデル動物を提供することができる。ここで「タンパク質Xまたはその改変体に対して結合する抗体を血液中に存在させる」とは、結果的に血液中にタンパク質Xまたはその改変体に対して結合する抗体が存在する状態となっていることが必要であることを意味しており、例えば、
・タンパク質Xまたはその改変体に対して結合する抗体を、対外から非ヒト動物の血液中に投与する方法、
・タンパク質Xまたはその改変体に対して結合する抗体を産生する細胞を、体外から非ヒト動物に静脈内注射により投与して、その細胞からタンパク質Xまたはその改変体に対して結合する抗体を産生させる方法、
・タンパク質Xまたはその改変体を非ヒト動物の血液中に投与して免疫化して、その体内血液中においてタンパク質Xまたはその改変体に対して結合する抗体を産生する細胞を発生させ、タンパク質Xまたはその改変体に対して結合する抗体を産生させる方法、
などのいずれの方法を採用してもよい。
【0039】
本発明の非ヒトモデル動物は、筋炎/皮膚筋炎、筋炎/皮膚筋炎に付随する間質性肺炎、または筋炎/皮膚筋炎に付随する間質性肺炎から移行する急速進行性間質性肺炎を発症することを特徴とする。病態を発症したマウスの肺組織切片を確認したところ、ヒトにおける間質性肺炎の組織像と同様の組織像を示したことから、本発明の動物は、タンパク質Xまたはその改変体が関与して発症する筋炎/皮膚筋炎に付随する間質性肺炎のモデル動物として機能することが示された。この非ヒトモデル動物は、ヒトにおける筋炎/皮膚筋炎に付随する間質性肺炎の治療方法の開発や治療薬の開発に際して有用なものである。
【0040】
本発明の非ヒトモデル動物を作出する際に、血液中に存在させるタンパク質Xまたはその改変体に結合する抗体は、タンパク質Xの全長配列(SEQ ID NO: 1)またはその改変体、あるいはそれらの一部に対して結合するものを使用することができる。ここで、タンパク質Xまたはその改変体の一部という場合、タンパク質Xまたはその改変体の細胞外ドメインを使用することができる。
【0041】
本発明の非ヒトモデル動物を作出する際に、血液中に存在させるタンパク質Xまたはその改変体に結合する抗体は、ヒト抗体、マウス抗体、ラット抗体、ヤギ抗体のいずれであってもよい。例えば、タンパク質Xまたはその改変体に対して結合する抗体を対外から投与する方法の場合、またはタンパク質Xまたはその改変体に対して結合する抗体を産生する細胞を対外から投与してその細胞からタンパク質Xまたはその改変体に対して結合する抗体を産生させる方法の場合、非ヒトモデル動物体内において存在させる抗体の起源はどの動物種であってもよい。一方、タンパク質Xまたはその改変体で免疫化してその体内においてタンパク質Xまたはその改変体に対して結合する抗体を産生する細胞を発生させタンパク質Xまたはその改変体に対して結合する抗体を産生させる方法の場合、非ヒトモデル動物の個体内で抗体が新たに産生されることから、その動物の抗体を血液中に存在させることになる。
【0042】
本発明の非ヒトモデル動物は、ヒト以外の動物であればどの動物種であってもよく、例えば、マウス、ラット、ウサギ、ヤギなどの動物を使用して作出することができる。どの動物種を使用するかは、使用の目的や扱いやすさなどに基づいて、使用者が決定することができる。
【0043】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に示す。下記に示す実施例はいかなる方法によっても本発明を限定するものではない。
【実施例0044】
実施例1:MDA5ノックアウトマウスにおける、抗ヒトMDA5抗体の作用の解析
本実施例は、MDA5ノックアウトマウスにおける、抗ヒトMDA5抗体の作用を解析し、血液中における抗MDA5抗体の意義を解明することを目的として実験を行った。
【0045】
抗MDA5抗体のレシピエント側のマウスとして、体内におけるMDA5を欠損させたMDA5ノックアウトマウス(n=5~7)を使用した(B6.Cg-Ifih1
tm1.1Cln、The Jackson Laboratory)。このマウスは、体内におけるMDA5を有さない動物であるが、自然経過においては間質性肺炎を発症する性質は有していないことが明らかになった(
図1)。
【0046】
一方、野生型マウス(C57/BL6)に対してヒトMDA5で免疫化し、抗体を産生させた。100μgのMDA5タンパク質をアジュバントtiter max gold(フナコシ)と1:1に混合し、柔和した後、毎週、計5回(day0、7、14、21、28)、背部に皮下注射を行い、day35に間質性肺炎を発症しているかどうかについて解析を行った。その結果、ヒトMDA5で免疫化したマウスでは間質性肺炎を発症することが示された。
【0047】
次に、ヒトMDA5で免疫化したマウスの脾臓からB細胞を採取し、このB細胞を前述したMDA5ノックアウトマウスに対して10
6個、静脈注射投与し(day0)、静脈投与後day28に間質性肺炎を発症しているかどうかについて解析したところ、MDA5ノックアウトマウスが間質性肺炎を発症したことが示された(
図1)。
【0048】
このことから、MDA5が体内に存在しなくても間質性肺炎を発症することから、ヒトMDA5で免疫化したマウスで産生された抗MDA5抗体が、MDA5以外の未知の標的に結合し、その結果として間質性肺炎を発症していることが示唆された。
【0049】
実施例2:抗MDA5抗体の真の標的物質の探索
本実施例においては、抗MDA5抗体により間質性肺炎を発症する機序として、血清中の抗MDA5抗体の、MDA5タンパク質以外の標的物質を同定することを目的として実験を行った。
【0050】
実施例1において、間質性肺炎を発症したマウスの血清中の抗体を、19,446種のヒトタンパク質を小麦胚芽無細胞発現系で調製し、各タンパク質のN末端側に[FLAG-tag]-[GST-tag]-を付加したもので構成される、プロテインアレイCWPAを用いて検出した。
【0051】
このプロテインアレイにおいて、各ヒトタンパク質のN末端に付加したGST-tagと、アレイ用基板に修飾したグルタチオンの親和性を利用し、ヒトタンパク質を基板表面に結合したCWPAを作製した。
【0052】
マウス血清は抗体希釈液を用いて333倍希釈し、CWPAに対して添加して、室温で1時間反応させた。反応後の液体を捨て、CWPAを洗浄した後に、抗体希釈液を用いて1000倍希釈した二次抗体(ヤギ抗-マウスIgG (H+L) Alexa Flour(登録商標)647複合体)をCWPAに添加し、室温で1時間反応させた。反応後の液体を捨て、CWPAを洗浄し、風乾させた後、蛍光イメージャでAlexa Flour(登録商標)647由来の蛍光画像を取得した。
【0053】
蛍光画像から、二次抗体が結合したタンパク質を解析し、マウス血清中に含まれる抗体の抗原を同定した。その結果、抗MDA5抗体は、MDA5のほかに、膜貫通型のタンパク質Xに対して結合することが明らかになった(
図2)。このタンパク質は、細胞内のタンパク質であるMDA5タンパク質とは異なり、SEQ ID NO: 1のアミノ酸配列:
【0054】
【0055】
を有する細胞膜貫通型のタンパク質であり、生体内においても抗MDA5抗体がアプローチできるものであることが示された。
【0056】
このことから、筋炎/皮膚筋炎に付随する間質性肺炎を発症した個体からこれまで検出されていた抗MDA5抗体は、実際には細胞表面のタンパク質Xに対して結合する抗体であり、この抗体が生体内に存在することにより、タンパク質Xとそれに対する抗体(これまでは抗MDA5抗体と呼ばれていた抗体)との結合に基づいて、筋炎/皮膚筋炎に付随する間質性肺炎を発症することが示唆された。
【0057】
次に、血清中の抗MDA5抗体が陽性であった皮膚筋炎の患者における血清中抗体の解析を、以下の様に行った。まず、CWPAを用いた解析で陽性となったヒトタンパク質(すなわちMDA5および膜貫通型のタンパク質X)の各ヒトタンパク質を、N末端にGST-tagを融合する形で調製した。グルタチオンを表面修飾したELISAプレートのそれぞれに、上述のヒトタンパク質、MDA5または膜貫通型のタンパク質Xを結合させた。
【0058】
このELISAプレートに、抗体希釈液で100倍程度に希釈した患者血清を添加し、室温で1時間反応させた。反応後の液体を捨て洗浄した後に、抗体希釈液で希釈した二次抗体(HRP標識抗ヒトIgG抗体)を添加し、室温で1時間反応させた。反応後の液体を捨て、ELISAプレートを洗浄した後に、発色基質(3,3',5,5'-テトラメチルベンジジン;TMB)を添加して30分程室温で反応させた後、反応停止液を添加することで発色反応を停止した。
【0059】
プレートリーダーで吸光度測定を行い、TMBの吸光波長である450 nmでの測定値(OD(450 nm))から、レファレンス波長である570 nmでの測定値(OD(570 nm))を差し引き、患者血清中に含まれる抗ヒトMDA5抗体が結合する抗原を同定した。
【0060】
各タンパク質はn=8で測定を行い、ネガティブコントロール(タグのみ)との有意差はマン・ホイットニーのU検定で評価した。
【0061】
解析の結果、患者における血清中の抗MDA5抗体は、MDA5(ポジティブコントロール)に対して結合するが、膜貫通型のタンパク質Xに対しても結合することが示された(表1)。
【0062】
【0063】
実施例3:タンパク質Xの筋炎/皮膚筋炎に付随する間質性肺炎に対する作用
本実施例においては、実施例2で特定されたタンパク質Xが、実際に筋炎/皮膚筋炎に付随する間質性肺炎を発症する際に関与しているかどうかを明らかにすることを目的として実験を行った。
【0064】
100μgの実施例2で調製したタンパク質Xを、アジュバントtiter max gold(フナコシ)とともに、野生型マウス(C57/BL6)に皮下投与した(n=6)。
【0065】
陰性対照としては、膜貫通型のタンパク質Xの合成の際に生成の目的で組み合わされているタグのみを、同様に投与した(n=6)。
【0066】
この結果、タンパク質X投与群では、全例で間質性肺炎を発症したが、タグのみで免疫化した陰性対照群では、全例で間質性肺炎を発症しなかった(
図3)。
【0067】
この結果から、実施例2で示唆されたように、タンパク質Xが、実際に筋炎/皮膚筋炎に付随する間質性肺炎を発症する際に原因となっていることが示された。
【0068】
さらに、タンパク質Xの投与の結果間質性肺炎を発症したマウス個体の肺組織切片を
図4に示す。この組織像から、間質性肺炎を発症したマウス個体の肺は、ヒトの個体における間質性肺炎を発症した肺の組織像と同様に、炎症細胞浸潤および肺胞隔壁の肥厚を伴っていた。これに対して、タグのみで免疫化したマウス個体の肺は、上記の特徴を全く示さず、正常な肺胞構造を有していることが示された。
本発明により、筋炎/皮膚筋炎に併発する間質性肺炎の発症または急速進行性間質性肺炎への移行の真の原因を特定するとともに、その原因となる自己抗体を検出することにより、筋炎/皮膚筋炎に伴うリスクを検出する方法を提供することができる。