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特開2024-94753プロセッサシステム、補正方法、および補正プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094753
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】プロセッサシステム、補正方法、および補正プログラム
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/244 20060101AFI20240703BHJP
   H01J 37/22 20060101ALI20240703BHJP
【FI】
H01J37/244
H01J37/22 502H
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022211504
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大崎 真由香
(72)【発明者】
【氏名】坪谷 春輝
(72)【発明者】
【氏名】川野 源
【テーマコード(参考)】
5C101
【Fターム(参考)】
5C101AA03
5C101EE03
5C101EE19
5C101EE48
5C101FF02
5C101GG04
5C101GG05
5C101GG10
5C101GG32
5C101GG34
5C101GG36
5C101GG49
5C101HH03
5C101HH04
5C101HH13
5C101HH25
5C101HH28
5C101HH63
5C101HH66
5C101HH68
5C101JJ06
5C101JJ09
5C101KK01
5C101KK15
5C101KK19
(57)【要約】
【課題】マルチビーム型荷電粒子顕微鏡装置に関するクロストークの影響を低減できる技術を提供する。
【解決手段】マルチビーム型の荷電粒子顕微鏡装置100は、複数のビームを試料9面上の複数の領域に照射する照射系104と、試料9面からの放出電子を検出する検出系125(補正用検出器132、撮像用検出器131)と、マルチ検出器123の第1検出器の第1信号に基づいて第1領域内の第1画素の第1輝度を生成し、第2検出器の第2信号に基づいて前記第2領域内の第2画素の第2輝度を生成するコントローラ102とを備える。荷電粒子顕微鏡装置100と通信可能なプロセッサシステム103のプロセッサは、荷電粒子顕微鏡装置100から取得した第1輝度と補正用検出器132の出力とに基づいて、第1信号に対する第2放出電子からの第1クロストーク量を特定し、第1クロストーク量に基づいて第1輝度を補正する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子顕微鏡装置と通信可能なプロセッサシステムであって、
前記荷電粒子顕微鏡装置は、
少なくとも1以上の荷電粒子源を有し、当該荷電粒子源を用いて生成された第1荷電粒子ビームを試料面上の第1領域に照射しつつ、当該荷電粒子源を用いて生成された第2荷電粒子ビームを前記試料面上の第2領域に照射する、荷電粒子ビーム照射系と、
以下を含む検出系と:
前記第1領域から放出される第1放出電子と前記第2領域から放出される第2放出電子とを検出する、補正用検出器と、
前記第1放出電子を、前記補正用検出器の一部を介して検出し、第1信号を出力する第1検出器と、
前記第2放出電子を、前記補正用検出器の一部を介して検出し、第2信号を出力する第2検出器と、
前記第1信号に基づいて、前記第1領域内の第1位置に対応する第1画素の第1輝度を生成し、かつ、前記第2信号に基づいて、前記第2領域内の第2位置に対応する第2画素の第2輝度を生成する、コントローラと、
を備え、
前記プロセッサシステムは、1以上のメモリ資源と、1以上のプロセッサとを有し、
前記プロセッサは、
(A)前記荷電粒子顕微鏡装置から取得した、前記第1輝度と、前記補正用検出器の出力と、を前記メモリ資源に格納し、
(B)前記補正用検出器の出力に基づいて、前記第1検出器によって検出される量に関する、前記第1信号に対する前記第2放出電子からの第1クロストーク量を特定し、
(C)前記第1クロストーク量に基づいて、前記第1輝度を補正する、
プロセッサシステム。
【請求項2】
請求項1記載のプロセッサシステムにおいて、
前記コントローラは、前記第1画素の前記第1輝度の生成として、前記第1画素を含む第1画像を生成し、前記第2画素の前記第2輝度の生成として、前記第2画素を含む第2画像を生成する、
プロセッサシステム。
【請求項3】
請求項1記載のプロセッサシステムにおいて、
前記補正用検出器は、
前記第1放出電子との衝突位置および前記第2放出電子との衝突位置が発光する発光素子と、
前記発光素子を撮像する撮像素子と、
を含み、
前記補正用検出器の出力は、前記撮像素子を用いて撮像された補正用撮像画像を含み、
前記第1検出器は、前記第1放出電子の検出のために、前記発光素子の第1検出範囲の発光を検出する素子を含み、
前記第2検出器は、前記第2放出電子の検出のために、前記発光素子の第2検出範囲の発光を検出する素子を含み、
前記(B)の前記第1クロストーク量の特定は、前記補正用撮像画像に基づいて、前記第1検出範囲に含まれる前記第2放出電子の量を特定することを含む、
プロセッサシステム。
【請求項4】
請求項3記載のプロセッサシステムにおいて、
前記荷電粒子ビーム照射系は、さらに、第3荷電粒子ビームを前記試料面上の第3領域に照射し、
前記検出系は、前記第3領域から放出される第3放出電子を、前記補正用検出器の一部を介して検出し、第3信号を出力する第3検出器を、さらに含み、
前記第3検出器は、前記第3放出電子の検出のために、前記発光素子の第3検出範囲の発光を検出する素子を含み、
前記プロセッサは、
(D)前記補正用検出器の出力に基づいて、前記第1検出器によって検出される量に関する、前記第1信号に対する前記第3放出電子からの第2クロストーク量を特定し、
(E)前記第2クロストーク量に基づいて、前記第1輝度を補正し、
前記(D)の前記第2クロストーク量の特定は、前記補正用撮像画像に基づいて、前記第1検出範囲に含まれる前記第3放出電子の量を特定することを含む、
プロセッサシステム。
【請求項5】
請求項4記載のプロセッサシステムにおいて、
前記補正用撮像画像は、
前記発光素子の前記第1検出範囲に対応する第1画像領域と、
前記発光素子の前記第2検出範囲に対応する第2画像領域と、
前記発光素子の前記第3検出範囲に対応する第3画像領域と、
を有し、
前記プロセッサは、
前記(B)として、前記第2画像領域から前記第1画像領域内に延びる第1発光領域がある場合には、前記第1クロストーク量を、0より多い値に特定し、
前記(D)として、前記第3画像領域から前記第1画像領域内に延びる第2発光領域がある場合には、前記第2クロストーク量を、0より多い値に特定する、
プロセッサシステム。
【請求項6】
請求項5記載のプロセッサシステムにおいて、
前記プロセッサは、
(F)前記荷電粒子顕微鏡装置から取得した前記第2輝度を前記メモリ資源に格納し、
(G)少なくとも前記第1クロストーク量に基づいて、前記第2輝度を補正する、
プロセッサシステム。
【請求項7】
請求項3記載のプロセッサシステムにおいて、
前記コントローラは、前記第1画素の前記第1輝度の生成として、前記第1画素を含む第1画像を生成し、前記第2画素の前記第2輝度の生成として、前記第2画素を含む第2画像を生成し、
前記補正用検出器の前記撮像素子による前記補正用撮像画像の撮像の期間は、前記第1検出器による前記第1画像に対応する前記第1信号の期間、または、前記第1画素に対応する前記第1信号の検出の期間、に合わせた期間である、
プロセッサシステム。
【請求項8】
荷電粒子顕微鏡装置と通信可能なプロセッサシステムにおける補正方法であって、
前記荷電粒子顕微鏡装置は、
少なくとも1以上の荷電粒子源を有し、当該荷電粒子源を用いて生成された第1荷電粒子ビームを試料面上の第1領域に照射しつつ、当該荷電粒子源を用いて生成された第2荷電粒子ビームを前記試料面上の第2領域に照射する、荷電粒子ビーム照射系と、
以下を含む検出系と:
前記第1領域から放出される第1放出電子と前記第2領域から放出される第2放出電子とを検出する、補正用検出器と、
前記第1放出電子を、前記補正用検出器の一部を介して検出し、第1信号を出力する第1検出器と、
前記第2放出電子を、前記補正用検出器の一部を介して検出し、第2信号を出力する第2検出器と、
前記第1信号に基づいて、前記第1領域内の第1位置に対応する第1画素の第1輝度を生成し、かつ、前記第2信号に基づいて、前記第2領域内の第2位置に対応する第2画素の第2輝度を生成する、コントローラと、
を有し、
前記プロセッサシステムは、1以上のメモリ資源と、1以上のプロセッサとを有し、
前記プロセッサによって実行される補正方法は、
(A)前記荷電粒子顕微鏡装置から取得した、前記第1輝度と、前記補正用検出器の出力と、を前記メモリ資源に格納し、
(B)前記補正用検出器の出力に基づいて、前記第1検出器によって検出される量に関する、前記第1信号に対する前記第2放出電子からの第1クロストーク量を特定し、
(C)前記第1クロストーク量に基づいて、前記第1輝度を補正する、
補正方法。
【請求項9】
請求項8記載の補正方法において、
前記コントローラは、前記第1画素の前記第1輝度の生成として、前記第1画素を含む第1画像を生成し、前記第2画素の前記第2輝度の生成として、前記第2画素を含む第2画像を生成する、
補正方法。
【請求項10】
請求項8記載の補正方法において、
前記補正用検出器は、
前記第1放出電子との衝突位置および前記第2放出電子との衝突位置が発光する発光素子と、
前記発光素子を撮像する撮像素子と、
を含み、
前記補正用検出器の出力は、前記撮像素子を用いて撮像された補正用撮像画像を含み、
前記第1検出器は、前記第1放出電子の検出のために、前記発光素子の第1検出範囲の発光を検出する素子を含み、
前記第2検出器は、前記第2放出電子の検出のために、前記発光素子の第2検出範囲の発光を検出する素子を含み、
前記(B)の前記第1クロストーク量の特定は、前記補正用撮像画像に基づいて、前記第1検出範囲に含まれる前記第2放出電子の量を特定することを含む、
補正方法。
【請求項11】
請求項10記載の補正方法において、
前記荷電粒子ビーム照射系は、さらに、第3荷電粒子ビームを前記試料面上の第3領域に照射し、
前記検出系は、前記第3領域から放出される第3放出電子を、前記補正用検出器の一部を介して検出し、第3信号を出力する第3検出器を、さらに含み、
前記第3検出器は、前記第3放出電子の検出のために、前記発光素子の第3検出範囲の発光を検出する素子を含み、
前記プロセッサによって実行される補正方法は、
(D)前記補正用検出器の出力に基づいて、前記第1検出器によって検出される量に関する、前記第1信号に対する前記第3放出電子からの第2クロストーク量を特定し、
(E)前記第2クロストーク量に基づいて、前記第1輝度を補正し、
前記(D)の前記第2クロストーク量の特定は、前記補正用撮像画像に基づいて、前記第1検出範囲に含まれる前記第3放出電子の量を特定することを含む、
補正方法。
【請求項12】
請求項11記載の補正方法において、
前記補正用撮像画像は、
前記発光素子の前記第1検出範囲に対応する第1画像領域と、
前記発光素子の前記第2検出範囲に対応する第2画像領域と、
前記発光素子の前記第3検出範囲に対応する第3画像領域と、
を有し、
前記プロセッサによって実行される補正方法は、
前記(B)として、前記第2画像領域から前記第1画像領域内に延びる第1発光領域がある場合には、前記第1クロストーク量を、0より多い値に特定し、
前記(D)として、前記第3画像領域から前記第1画像領域内に延びる第2発光領域がある場合には、前記第2クロストーク量を、0より多い値に特定する、
補正方法。
【請求項13】
請求項12記載の補正方法において、
前記プロセッサによって実行される補正方法は、
(F)前記荷電粒子顕微鏡装置から取得した前記第2輝度を前記メモリ資源に格納し、
(G)少なくとも前記第1クロストーク量に基づいて、前記第2輝度を補正する、
補正方法。
【請求項14】
請求項11記載の補正方法において、
前記コントローラは、前記第1画素の前記第1輝度の生成として、前記第1画素を含む第1画像を生成し、前記第2画素の前記第2輝度の生成として、前記第2画素を含む第2画像を生成し、
前記補正用検出器の前記撮像素子による前記補正用撮像画像の撮像の期間は、前記第1検出器による前記第1画像に対応する前記第1信号の期間、または、前記第1画素に対応する前記第1信号の検出の期間、に合わせた期間である、
補正方法。
【請求項15】
請求項8に記載の補正方法をプロセッサシステムに実行させる補正プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、荷電粒子顕微鏡装置に接続されたプロセッサシステムの技術に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば半導体ウェハなどの試料についての高速な観察、計測、評価、検査などを行う機能を有する装置として、複数の荷電粒子ビーム(典型的には電子ビーム)をマルチビームとして試料に照射する、マルチビーム型の荷電粒子顕微鏡装置が登場した。マルチビーム型の荷電粒子顕微鏡装置では、マルチビームに基づいた検出信号に関して、いわゆるクロストークと呼ばれる現象が発生し得る。
【0003】
マルチビーム型荷電粒子顕微鏡装置では、マルチビームの各々の電子ビームに基づいて試料から発生する二次電子や後方散乱電子などの各々の放出電子を、複数の検出器の各々の検出器で検出する。特に、走査型の場合のマルチビーム型荷電粒子顕微鏡装置では、マルチビームの各々の電子ビームを、試料面上の複数の領域の各々の領域に走査するように照射し、複数の領域からの複数の放出電子を複数の検出器で検出する。
【0004】
その際、従来のマルチビーム型荷電粒子顕微鏡装置では、本来、すなわちクロストークが無い場合では、ある電子ビーム(例えば第1ビーム)の照射に基づいてある領域(例えば第1領域)の画素から発生する放出電子を、その電子ビームに対応したある検出器(例えば第1検出器)で第1信号として検出し、別のある電子ビーム(例えば第2ビーム)の照射に基づいてある領域(例えば第2領域)の画素から発生する放出電子を、その電子ビームに対応した別のある検出器(例えば第2検出器)で第2信号として検出する。これに対し、クロストークがある場合では、例えば、第2ビームに基づいた放出電子が、第2検出器で検出されるべきところ、軌道がずれて、第1検出器の検出範囲内に混入し、第1ビームに基づいた放出電子とともに、第1信号として検出される場合がある。このような現象をクロストークと記載する場合がある。
【0005】
先行技術例として、特表2020-511733号公報(特許文献1)が挙げられる。特許文献1には、荷電粒子ビームシステムおよび方法として、「第1の荷電粒子ビームを生成するように構成された荷電粒子源と、入来する第1の荷電粒子ビームから複数の荷電粒子ビームレットを生成するように構成されたマルチビーム生成器であって、複数の荷電粒子ビームレットの各個別のビームレットは、複数の荷電粒子ビームレットの他のビームレットから空間的に分離される、マルチビーム生成器と、複数の荷電粒子ビームレットの第1の個別のビームレットが第1の平面において衝突する第1の領域が、複数の荷電粒子ビームレットの第2の個別のビームレットが第1の平面において衝突する第2の領域から空間的に分離される方法で、第1の平面において入来荷電粒子ビームレットを集束させるように構成された対物レンズと、投射システムと、複数の個別の検出器を備えた検出器システムとを備えた荷電粒子ビームシステムに関し、投射システムは、衝突する荷電粒子に起因して第1の平面内の第1の領域を出る相互作用生成物を複数の個別の検出器のうちの第1の1つの検出器上に結像し、衝突する荷電粒子に起因して第1の平面内の第2の領域を出る相互作用生成物を複数の個別の検出器のうちの第2の1つの検出器上に結像するように構成される」旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2020-511733号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記マルチビーム型荷電粒子顕微鏡装置では、マルチビームに基づいた放出電子間でクロストークが発生し得るという本質的な課題がある。そのため、マルチビーム型荷電粒子顕微鏡装置では、そのクロストークへの対策を要する。
【0008】
マルチビーム型荷電粒子顕微鏡装置におけるクロストークの発生の要因としては、試料帯電や光学調整不足などが挙げられる。試料帯電の場合、ステージ上の試料面における帯電の状態は、経時的および局所的に変化し得る。試料帯電の状態に応じて、電子ビームに基づいて試料面から発生する放出電子の軌道が変化し、放出電子が検出器の検出範囲で検出される際の検出位置などが変化し得る。このような変化がクロストークとして表れる。言い換えると、マルチ検出器の複数の検出器の複数の検出信号をみた場合に、それらの検出信号間で、経時的および局所的にクロストークの影響が生じる場合がある。
【0009】
また、マルチビーム型荷電粒子顕微鏡装置では、複数の検出器の複数の検出信号に基づいて、画像が生成される。すなわち、複数の検出信号により得られる複数の撮像画像が合成されることで1つの撮像画像が生成される。この生成された画像(実像と記載する場合がある)は、上記クロストークがあった場合には、クロストークが無い場合の像(理想像と記載する場合がある)から画像内容がずれた像となる。このように、クロストークの影響により、理想像からずれた像を、ゴースト像と記載する場合がある。このゴースト像は、クロストークの影響により、マルチビームおよび複数の検出器によって同時に撮像している複数の撮像画像間において生じる現象である。このゴースト像は、例えば、第2検出器による第2撮像画像またはその一部が、第1検出器による第1撮像画像に重畳されていることやその重畳部分を指す。
【0010】
上記クロストークの影響によってゴースト像が生じる場合には、対策として、なるべく理想像に近い像を得ることが求められる。
【0011】
なお、特許文献1では、荷電粒子ビームシステムの装置内において、マルチビーム生成器からマルチ検出器までの間に設けられた共通の素子(例えば図4の素子250~281)によって、複数の荷電粒子ビームに対応する複数の放出電子の軌道を制御している。特許文献1は、マルチ検出器からの検出信号に基づいてクロストークに対処する技術ではない。そのため、特許文献1のような技術では、局所的な試料帯電等の要因によってマルチビームのうちの特定のビームに対応した放出電子に対しクロストークが発生する場合には、対処が困難である。
【0012】
本開示の目的は、マルチビーム型荷電粒子顕微鏡装置に関するクロストークの影響を低減できる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本開示のうち代表的な実施の形態は以下に示す構成を有する。実施の形態は、荷電粒子顕微鏡装置と通信可能なプロセッサシステムであって、前記荷電粒子顕微鏡装置は、少なくとも1以上の荷電粒子源を有し、当該荷電粒子源を用いて生成された第1荷電粒子ビームを試料面上の第1領域に照射しつつ、当該荷電粒子源を用いて生成された第2荷電粒子ビームを前記試料面上の第2領域に照射する、荷電粒子ビーム照射系と、以下を含む検出系と:前記第1領域から放出される第1放出電子と前記第2領域から放出される第2放出電子とを検出する、補正用検出器と、前記第1放出電子を、前記補正用検出器の一部を介して検出し、第1信号を出力する第1検出器と、前記第2放出電子を、前記補正用検出器の一部を介して検出し、第2信号を出力する第2検出器と、前記第1信号に基づいて、前記第1領域内の第1位置に対応する第1画素の第1輝度を生成し、かつ、前記第2信号に基づいて、前記第2領域内の第2位置に対応する第2画素の第2輝度を生成する、コントローラと、を備え、前記プロセッサシステムは、1以上のメモリ資源と、1以上のプロセッサとを有し、前記プロセッサは、(A)前記荷電粒子顕微鏡装置から取得した、前記第1輝度と、前記補正用検出器の出力と、を前記メモリ資源に格納し、(B)前記補正用検出器の出力に基づいて、前記第1検出器によって検出される量に関する、前記第1信号に対する前記第2放出電子からの第1クロストーク量を特定し、(C)前記第1クロストーク量に基づいて、前記第1輝度を補正する。
【発明の効果】
【0014】
本開示のうち代表的な実施の形態によれば、マルチビーム型の荷電粒子顕微鏡装置に関するクロストークの影響を低減できる。上記した以外の課題、構成および効果等については、発明を実施するための形態において示される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】マルチビーム型の荷電粒子顕微鏡装置と、実施の形態1のプロセッサシステムとを含む、システムの構成を示す。
図2】実施の形態1のプロセッサシステムの主な処理フローを示す。
図3】実施の形態1のプロセッサシステムを含むシステムでの処理動作のシーケンスを示す。
図4】実施の形態1で、試料面の複数領域に対するマルチビームの照射、発生する放出電子、シンチレータでの検出などに関する模式説明図を示す。
図5】実施の形態1で、補正用検出器のシンチレータの面での検出範囲および放出電子光量分布に関する模式説明図を示す。
図6】実施の形態1で、撮像用検出器のシンチレータおよびマルチ検出器の構成例を示す。
図7】実施の形態1で、試料面に局所的に仮想レンズが発生した場合の放出電子の軌道や検出に関する模式説明図を示す。
図8】実施の形態1で、仮想レンズが発生した場合の、シンチレータの面での放出電子光量分布の例に関する模式説明図を示す。
図9】実施の形態1で、試料面に局所的に仮想レンズが発生した場合の他の例に関する模式説明図を示す。
図10】他の例の仮想レンズが発生した場合の、シンチレータの面での放出電子光量分布の例に関する模式説明図を示す。
図11】実施の形態1で、クロストーク影響補正の計算式を示す。
図12】実施の形態1で、試料面の複数の領域に対するマルチビームの走査に対応して、マルチ検出器の複数の検出器の複数の信号に基づいて生成される複数の画像についての模式説明図を示す。
図13】実施の形態1で、補正前後の画像を画面に表示する例を示す。
図14】実施の形態1の変形例1における、試料面の複数の画素に対するマルチビームの照射や、生成される複数の画素画像についての模式説明図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら本開示の実施の形態を詳細に説明する。図面において、同一部には原則として同一符号を付し、繰り返しの説明を省略する。図面において、構成要素の表現は、発明の理解を容易にするために、実際の位置、大きさ、形状、範囲等を表していない場合がある。以下の実施の形態(実施例ともいう)は一例であり、限定して解釈されるものではなく、本開示の思想や趣旨から逸脱しない範囲で具体的構成を様々に変更し得る。
【0017】
説明上、プログラムによる処理について説明する場合に、プログラムや機能や処理部等を主体として説明する場合があるが、それらについてのハードウェアとしての主体は、プロセッサ、あるいはそのプロセッサ等で構成されるコントローラ、装置、計算機、システム等である。計算機は、プロセッサによって、適宜にメモリや通信インタフェース等の資源を用いながら、メモリ上に読み出されたプログラムに従った処理を実行する。これにより、所定の機能や処理部等が実現される。プロセッサは、例えばCPU/MPUやGPU等の半導体デバイス等で構成される。処理は、ソフトウェアプログラム処理に限らず、専用回路でも実装可能である。専用回路は、FPGA、ASIC、CPLD等が適用可能である。
【0018】
プログラムは、対象計算機に予めデータとしてインストールされていてもよいし、プログラムソースから対象計算機にデータとして配布されてもよい。プログラムソースは、通信網上のプログラム配布サーバでもよいし、非一過性のコンピュータ読み取り可能な記憶媒体、例えばメモリカードやディスクでもよい。プログラムは、複数のモジュールから構成されてもよい。コンピュータシステムは、複数台の装置によって構成されてもよい。コンピュータシステムは、クライアント・サーバシステム、クラウドコンピューティングシステム、IoTシステム等で構成されてもよい。各種のデータや情報は、例えばテーブルやリスト等の構造で構成されるが、これに限定されない。識別情報、識別子、ID、名前、番号等の表現は互いに置換可能である。
【0019】
[課題等の補足]
マルチビーム型荷電粒子顕微鏡装置において発生し得るクロストークの要因の1つとして、前述の試料帯電がある。試料帯電は、経時的および局所的に発生や変化し得る。試料帯電の現象は、例えば対象試料の材料やパターン構造、加工プロセス、顕微鏡装置の構造や環境等に応じて異なり得る。また、他の要因として、光学調整不足、例えばアライメントやフォーカスの調整のずれ等もある。クロストークは、複数の要因の複合によっても発生し得る。そのため、クロストークの発生の事前予測は難しい。例えば、マルチビーム型荷電粒子顕微鏡装置内部において、試料帯電に起因する放出電子の軌道の変化を事前に把握して調整・対処することは難しい。
【0020】
それに対し、実施の形態のプロセッサシステム103(図1)は、マルチビーム型荷電粒子顕微鏡装置100から出力されて受信・入力した画像等(データ143)に対し、荷電粒子顕微鏡装置内部で生じたクロストーク影響を低減する補正を行い、補正後の画像等を得るものである。
【0021】
実施の形態では、マルチビーム型荷電粒子顕微鏡装置100(図1)の内部において、マルチビームの照射に基づいて試料面から発生する複数の放出電子が、共通の素子である補正用検出器132のシンチレータ122の面に入射して光子に変換される際の状態を、観測装置124によって撮像して観測する。観測装置124の出力として、補正用撮像画像が得られる。その補正用撮像画像内には、マルチ検出器123の複数の検出器の複数の検出範囲に対応した複数の画像領域が含まれている。
【0022】
シンチレータ122(図1)の後ろには、マルチ検出器123としての複数の検出器が配置されている。各検出器は、検出範囲に入射した放出電子に対応した光子を、電気信号(検出信号や出力信号とも記載する)に変換して検出する素子、例えばホトマルである。マルチ検出器123の出力として、複数の検出信号141が得られる。マルチビーム型荷電粒子顕微鏡装置100のコントローラ102は、マルチ検出器123の出力である複数の検出信号141から、マルチビームに基づいた撮像画像を得る。
【0023】
プロセッサシステム103(図1)は、マルチビーム型荷電粒子顕微鏡装置100のコントローラ102から、上記撮像画像と上記補正用撮像画像とを含むデータ・情報(データ143)を得る。プロセッサシステム103は、上記補正用撮像画像での放出電子光量分布から、マルチ検出器123の複数の検出器間でのクロストーク影響を計算する。プロセッサシステム103は、マルチ検出器123に基づいた撮像画像である実像に対し、クロストーク影響を低減するための補正を行うことで、補正結果として、理想像に近い画像、少なくとも実像よりクロストーク影響が低減された像を得る。補正は、計算したクロストーク影響を反映する演算である。
【0024】
実施の形態のプロセッサシステム103によるクロストーク影響補正によれば、マルチビームに基づいた放出電子および撮像画像に対し、例えば経時的・局所的な試料帯電を要因とするクロストークが発生・影響していたとしても、最終出力結果である画像として、クロストーク影響が解消または低減された画像を得ることができる。撮像画像である実像ではゴースト像が生じていたとしても、補正後の画像ではそのゴースト像が解消または低減された画像が得られる。
【0025】
[解決手段等]
課題の解決手段等として、以下のような実施の形態のプロセッサシステム等を有する。
【0026】
(1) 実施の形態のプロセッサシステムは、マルチビーム型の荷電粒子顕微鏡装置100と通信可能なプロセッサシステム103(図1)である。荷電粒子顕微鏡装置100は、少なくとも1以上の荷電粒子源を有し、当該荷電粒子源を用いて生成された第1荷電粒子ビームを試料面上の第1領域に照射しつつ、当該荷電粒子源を用いて生成された第2荷電粒子ビームを試料面上の第2領域に照射する、荷電粒子ビーム照射系104と、検出系125と、コントローラ102とを有する。検出系125は、第1領域から放出される第1放出電子と第2領域から放出される第2放出電子とを含む複数の放出電子を検出する補正用検出器132(シンチレータ122と観測装置124とのセット)と、第1放出電子を、補正用検出器132の一部(シンチレータ122)を介して検出し、第1信号を出力する第1検出器(マルチ検出器123のうちの1つの検出器)、および、第2放出電子を、補正用検出器132の一部(シンチレータ122)を介して検出し、第2信号を出力する第2検出器(マルチ検出器123のうちの他の1つの検出器)、を含むマルチ検出器123と、を有する。
【0027】
コントローラ102は、検出信号141のうちの、第1信号に基づいて、第1領域内の第1位置に対応する第1画素の第1輝度を生成し、かつ、第2信号に基づいて、第2領域内の第2位置に対応する第2画素の第2輝度を生成する。プロセッサシステム103は、1以上のメモリ資源(例えばメモリ303)と、1以上のプロセッサ(例えばプロセッサ302)とを有する。プロセッサ302は、(A)荷電粒子顕微鏡装置100から取得した、第1輝度と、補正用検出器132の出力である補正用撮像画像とを含むデータ143を、メモリ資源に格納し、(B)補正用検出器132の出力に基づいて、第1検出器によって検出される量に関する、第1信号に対する第2放出電子からの第1クロストーク量を特定し、(C)第1クロストーク量に基づいて、第1輝度を補正する。
【0028】
上記(1)の構成によれば、例えば画像内の第1画素と第2画素に着目した場合に、第2画素から第1画素へのクロストーク量を計算し、そのクロストーク量に基づいて第1画素の信号の輝度を補正する。上記(1)の構成によれば、第1輝度の補正を第2輝度の補正とは独立に行えるため、クロストークの影響を低減するように精度よく補正を行うことができる。上記(1)の構成によれば、マルチビームの個々のビームごとに、クロストークの影響を低減できる。よって、個々のビームごとにクロストークの影響が異なる場合にも、対処が可能である。例えば試料面において試料帯電の状態が一様ではなく、試料帯電の状態が経時的および局所的に発生および変化している場合でも、その試料帯電を要因としたクロストークの影響を低減可能である。
【0029】
なお、試料帯電の経時的な変化の例としては、一次荷電粒子ビームの照射によってその照射された領域での帯電量が増加することが挙げられる。試料帯電の局所的な変化の例としては、試料面における材質やパターン形状、加工プロセス等に応じて、局所的な領域ごとに帯電量が異なることが挙げられる。
【0030】
(2) 上記(1)のプロセッサシステム103において、コントローラ102は、第1画素の第1輝度の生成として、第1画素を含む第1画像を生成し、第2画素の第2輝度の生成として、第2画素を含む第2画像を生成する。言い換えると、第1画素は、第1領域に対応して作成される第1画像の一部であり、第2画素は、第2領域に対応して作成される第2画像の一部である。
【0031】
(3) 上記(1)のプロセッサシステムにおいて、補正用検出器132は、第1放出電子との衝突位置および第2放出電子との衝突位置が発光する発光素子である例えばシンチレータ122と、発光素子を撮像する撮像素子である例えば観測装置124とを含む。補正用検出器132の出力は、撮像素子を用いて撮像された補正用撮像画像を含む。マルチ検出器123の第1検出器は、第1放出電子の検出のために、発光素子の第1検出範囲の発光を検出する素子を含み、第2検出器は、第2放出電子の検出のために、発光素子の第2検出範囲の発光を検出する素子を含む。上記(B)の第1クロストーク量の特定は、補正用撮像画像に基づいて、第1検出範囲に含まれる第2放出電子の量を特定することを含む。
【0032】
上記(3)の構成によれば、補正用検出器132と、第1検出器および第2検出器とでシェアされる、いわば放出電子のメインパス上に存在する発光素子の発光を用いることで、より精度良くクロストーク量の特定が可能となる。また、上記(3)の構成によれば、補正用の検出を行うシンチレータを、撮像用のシンチレータとは別に用意する必要が無いため、よりシンプルな構造であり、放出電子を2つの用途のシンチレータに分けるような仕組みも必要が無い。また、上記(3)の構成によれば、荷電粒子顕微鏡装置100の内部でクロストーク影響を補正する構成ではなく、荷電粒子顕微鏡装置100の出力の画像等を用いてプロセッサシステム103側でクロストーク影響を補正する構成である。そのため、上記(3)の構成によれば、プロセッサシステム103側で、撮像画像に対し、豊富に存在する画像処理ライブラリソフトの活用が容易であり、低開発コストで、継続的なクロストーク量特定の精度向上等が可能となる。
【0033】
(4) 上記(3)のプロセッサシステム103において、荷電粒子ビーム照射系104は、さらに、第3荷電粒子ビームを試料面上の第3領域に照射する。検出系125は、第3領域から放出される第3放出電子を、補正用検出器132の一部を介して検出し、第3信号を出力する第3検出器をさらに含む。第3検出器は、第3放出電子の検出のために、発光素子の第3検出範囲の発光を検出する素子を含む。プロセッサ302は、(D)補正用検出器132の出力に基づいて、第1信号に対する第3放出電子からの第2クロストーク量を特定し、(E)第2クロストーク量に基づいて第1輝度を補正し、上記(D)の第2クロストーク量の特定は、補正用撮像画像に基づいて、第1検出範囲に含まれる第2放出電子の量を特定することを含む。
【0034】
上記(4)の構成によれば、第1領域に対し、第2領域および第3領域の両方からのクロストーク影響が生じたとしても、補正することができる。
【0035】
(5) 上記(3)のプロセッサシステム103において、補正用撮像画像は、発光素子の第1検出範囲に対応する第1画像領域と、発光素子の第2検出範囲に対応する第2画像領域と、発光素子の第3検出範囲に対応する第3画像領域とを有する。プロセッサ302は、上記(B)として、第2画像領域から第1画像領域内に延びる第1発光領域がある場合には、第1クロストーク量を、0より多い値に特定し、上記(D)として、第3画像領域から第1画像領域内に延びる第2発光領域がある場合には、第2クロストーク量を、0より多い値に特定する。
【0036】
なお、上記(5)の構成で、マルチ検出器123の第1、第2、第3検出範囲に対してそれぞれ対応付けられる補正用撮像画像での第1、第2、第3画像領域がどの位置・領域にあるか等については、事前にプロセッサシステム103等において設計・設定されている。例えば補正プログラム304においてそれらの情報がパラメータやアルゴリズムとして設定されている。
【0037】
(6) 上記(5)のプロセッサシステム103において、コントローラ102は、第1画素の第1輝度の生成として、第1画素を含む第1画像を生成し、第2画素の第2輝度の生成として、第2画素を含む第2画像を生成する。そして、補正用検出器132の撮像素子による補正用撮像画像の撮像の期間は、マルチ検出器123の第1検出器の第1画像の撮像の期間、または、第1画素の撮像の期間に合わせた期間である。
【0038】
実施の形態としては、画像単位(後述の検出範囲の画像の画像間)でのクロストーク影響補正を行う方式と、画素単位(後述の検出範囲の画像のうちの画素の画素間)でのクロストーク影響補正を行う方式とのいずれの方式(方法や装置などを含む総称)も可能である。前者の画像単位とは、試料面の複数の領域に対するマルチビームの照射(特に走査)に基づいたマルチ検出器123の複数の検出器(対応する複数の検出範囲)の複数の検出信号による複数の画像の間で処理を行うことを指す。後者の画素単位とは、試料面の複数の領域(特に複数の画素)に対するマルチビームの照射に基づいたマルチ検出器123の複数の検出器(対応する複数の検出範囲)の複数の検出信号による複数の画素の画像の間で処理を行うことを指す。前者の画像単位の中には複数の画素が含まれている。
【0039】
実施の形態1では、主に、画像単位でのクロストーク影響補正を行う方式を説明する。使用する方式に合わせて、補正用検出器132の撮像素子である観測装置124で補正用撮像画像を撮像する期間(例えば露光の期間)は、マルチ検出器123の各検出器で画像を検出する期間と対応させた期間として設計される。
【0040】
(7) 上記(5)のプロセッサシステム103において、プロセッサ302は、(F)荷電粒子顕微鏡装置100から取得した第2輝度をメモリ資源に格納し、(G)少なくとも第1クロストーク量に基づいて第2輝度を補正する。上記(G)の第2輝度の補正は、上記(C)の第1クロストーク量に基づいた第1輝度の補正の補正量に基づいた第2輝度の補正量も含む。
【0041】
上記(7)の構成によれば、上記(1)の第1輝度の補正だけでなく、第2輝度の補正を行うことができる。
【0042】
上記(1)~(7)のような各実施の形態のプロセッサシステムに対応した補正方法や補正プログラムを有する。補正方法は、プロセッサシステムにより実行される方法である。補正プログラムは、プロセッサシステムに補正処理を実行させるコンピュータプログラムであり、例えば非一過性のコンピュータ読み取り可能な記憶媒体に格納される。
【0043】
<実施の形態1>
図1図13を用いて、本開示の実施の形態1のプロセッサシステム等について説明する。
【0044】
[実施の形態1の概要]
実施の形態1のプロセッサシステム103(図1)は、マルチ検出器123の複数の検出器の出力である複数の信号141に基づいた撮像画像に対し、クロストーク影響を低減するための補正を行い、補正後の画像を得る。この補正では、マルチビーム116(図4)である複数の荷電粒子ビーム116の照射に基づいて試料9の領域126から発生した複数の放出電子119(この複数とはマルチビームの複数と対応している)は、補正用検出器の一部であるシンチレータ122の面に入射・衝突する。入射・衝突した放出電子は、シンチレータ122の作用によって光子に変換される。変換された光子は、位置に応じて、シンチレータ122の後ろにあるマルチ検出器123のうちの対応する検出器の検出範囲127(図5)に入射する。それぞれの検出器は、検出範囲127に入射した光子を、電気信号(言い換えると検出信号、出力信号)に変換して検出・出力する。
【0045】
シンチレータ122は、マルチ検出器123に対し共通の素子である。シンチレータ122の面には、複数の検出器に対応した複数の検出範囲127が含まれている。観測装置124である例えばCCDカメラは、そのシンチレータ122の面における、複数の放出電子の入射・出射の光量分布の状態を、補正用撮像画像として撮像する。
【0046】
それぞれの検出範囲127は、補正用撮像画像内でそれぞれの画像領域が対応付けられる。例えば、クロストークが無い理想状態では、第1荷電粒子ビームの照射に基づいて発生した第1放出電子は、第1検出器に対応した第1検出範囲内に入射し、補正用撮像画像内での第1画像領域を形成する。第1検出器は、第1検出範囲内に入射した放出電子に基づいて得られた第1信号を出力する。同様にして、マルチ検出器123の複数の検出器からの複数の信号141が得られ、コントローラ102でそれらの信号141が合成されることで、撮像画像が生成される。
【0047】
プロセッサシステム103は、コントローラ102から得たデータ143に基づいて、シンチレータ122の面における複数の検出範囲127の各々の検出範囲127を通る放出電子の光子についての、検出範囲127間、すなわち検出器間での、混入の度合いなどのクロストーク影響を、補正用撮像画像に基づいて判断・計算する。
【0048】
実施の形態1では、クロストーク影響として、マルチ検出器123の各検出器の検出範囲127ごとに、言い換えると、それに対応する画像領域ごとに、自分の検出範囲127(例えば第1領域や第1画素)に対する、他の検出範囲127(例えば第2領域や第2画素)からの放出電子の混入や、自分の検出範囲から他の検出範囲への放出電子の流出、ないしはその流出分を差し引いた自分の検出範囲内の放出電子の残留、などを考えることができる。後述の計算式(F=ΣAR等)は、そのようなクロストーク影響の概念を反映したものである。
【0049】
プロセッサシステム103は、例えば、複数の検出範囲127における混入率や残留率の考えに基づいて、クロストーク影響をクロストーク影響係数として定量化し、そのクロストーク影響係数を用いて、クロストーク影響を低減するように、撮像画像の補正を行うことが可能である。
【0050】
コントローラ102は、マルチ検出器123の出力として検出器ごとの信号141を含む複数の信号141に基づいて、試料9面の複数の領域126および複数の検出範囲127に対応した複数の画像信号(言い換えると撮像画像)を生成し、それに対応するデータをプロセッサシステム103へ伝送する。プロセッサシステム103は、それらの複数の画像信号(言い換えると撮像画像)に対し、クロストーク影響低減のための補正処理を行って、補正後画像を得る。
【0051】
実施の形態1では、クロストーク影響の判断の手段、言い換えるとクロストーク影響係数を計算するための手段の例として、マルチ検出器123の前段のシンチレータ122の面での複数の放出電子の発光分布の状態を、観測装置124によって撮像する。プロセッサシステム103は、観測装置124による補正用撮像画像を用いて、複数の検出範囲127における放出電子の発光の位置や強度分布を定量化する。
【0052】
そして、プロセッサシステム103は、その補正用撮像画像の内容として放出電子発光分布などの定量化の結果から、クロストーク影響係数を計算する。例えば、ある第1検出範囲に対応する第1画像領域と他の第2検出範囲に対応する第2画像領域との間で、第2画像領域内から第1画像領域内へと放出電子の光が伸びて分布している場合、第2検出範囲(それに対応する第2放出電子など)から第1検出範囲へのクロストーク影響がある、言い換えると、第1検出範囲への余分な光量の混入がある等と判断できる。あるいは、逆に、第1画像領域内から第2画像領域内へと放出電子の光が伸びて分布している場合、第1検出範囲から第2検出範囲へのクロストーク影響がある、言い換えると、第1検出範囲からの光量の流出がある等と判断できる。第1検出範囲を自分の領域として考えた場合、第1検出範囲内には、第1検出範囲外へ流出した分を除いた残留分があると判断できる。他のそれぞれの検出範囲127間、画像領域間でも、同様である。マルチ検出器123の撮像画像に関して、それらのすべてのクロストーク影響を総合することで、検出範囲127ごとにクロストーク影響を定量化できる。
【0053】
プロセッサシステム103は、補正用撮像画像の処理に基づいて、マルチ検出器123の各検出器の検出範囲127の画像信号について、検出範囲127の画像ごとに、クロストーク影響係数として、自分の検出範囲127と他の検出範囲127との間での放出電子の混入や流出の度合いを評価する。この際に、プロセッサシステム103は、補正用撮像画像における、それぞれの検出範囲127の画像領域の位置や形状、放出電子光量分布128の位置や形状、光量(光量に対応した輝度)などを計算し、検出範囲127間での混入率や残留率などを計算する。
【0054】
プロセッサシステム103は、マルチ検出器123の出力に基づいた撮像画像と、計算で得たクロストーク影響係数とを用いて、クロストーク影響を低減するための補正処理を行う。例えば、第2検出範囲から第1検出範囲への光の混入の混入率に基づいて、第2検出範囲から第1検出範囲への光の混入がゼロに近付くように、第1検出範囲の第1検出器の第1画像信号を補正する。これにより、第1検出範囲の第1検出器の第1画像信号は、クロストーク影響が無い場合の理想像に近い像が得られる。他の検出範囲127の画像についても同様である。
【0055】
プロセッサシステム103のメモリ資源には、上記補正処理のための補正プログラム304が格納されている。プロセッサ302は、補正プログラム304に従った補正処理を実行する。プロセッサは、荷電粒子顕微鏡装置100のコントローラ102から、少なくとも、観測装置124の出力の補正用撮像画像と、マルチ検出器123の出力の信号141またはその信号141に基づいて生成された撮像画像とを入力・取得する。マルチ検出器123の出力の信号141は、少なくとも、第1検出範囲を持つ第1検出器の出力の第1画像信号(第1信号)と、第2検出範囲を持つ第2検出器の出力の第2画像信号(第2信号)とを含む。
【0056】
コントローラ102またはプロセッサシステム103は、マルチ検出器123の信号141から、それぞれの画像を生成する。コントローラ102またはプロセッサシステム103は、第1検出器の第1信号に基づいて、試料9面上の第1領域の第1位置の第1画素の第1輝度を生成し、第2検出器の第2信号に基づいて、試料9面上の第2領域の第2位置の第2画素の第2輝度を生成する。
【0057】
プロセッサシステム103のプロセッサ302は、補正用撮像画像の内容の解析に基づいて、検出範囲127間でのクロストーク影響をクロストーク影響係数(例えば混入率や残留率)として計算する。その際、プロセッサ302は、クロストーク影響係数として、第1信号に対する第2放出電子からのクロストーク量(例えば混入量)を特定する。そして、プロセッサシステム103は、実像である撮像画像(例えば第1画素の第1輝度、第2画素の第2輝度)に対し、クロストーク影響係数を用いた補正処理を行って、クロストーク影響が低減された、補正後の画像(例えば補正後の第1輝度および第2輝度)を得る。例えば、プロセッサ302は、特定したクロストーク量に基づいて、第1画素の第1輝度を補正する。この結果、補正後の第1画素の第1輝度は、第2放出電子からの混入量が除かれるように余分な輝度が減少した輝度となる。
【0058】
[走査型について]
荷電粒子顕微鏡装置は、試料面に対し荷電粒子ビームの走査を行うタイプのものも、走査を行わないタイプのものもあるが、実施の形態1では、荷電粒子顕微鏡装置100は、試料9面に対しマルチビーム116の走査を行う走査型の構成である場合を説明する。荷電粒子顕微鏡装置100は、走査電子顕微鏡である。
【0059】
この走査電子顕微鏡は、照射系104により生成したマルチビーム116の各々の荷電粒子ビーム116を、試料9の面における各々の領域126(図4)に対し走査するように照射する。その照射に応じて、試料9の面の各々の領域126から、各々の荷電粒子ビーム116に対応付けられた各々の放出電子119が発生する。それらの各々の放出電子119は、収束レンズ120を介して収束された放出電子121となって、撮像用検出器131のうちのシンチレータ122の面に入射・衝突して光子に変換され、シンチレータ122の後段にあるマルチ検出器123の各々の検出器に入射して、信号141(言い換えると画像信号、検出信号、出力信号)として検出される。
【0060】
コントローラ102は、撮像用検出器131のマルチ検出器123の出力である複数の信号141から、それぞれの領域126の撮像画像を生成する。走査型では、時系列上で領域126内の画素群に対する走査が行われているため、時系列上の画素群に対する複数の信号141を合成することで、領域126に対応する撮像画像が得られる。その撮像画像は、試料9面の領域126のデバイス構造などが反映されて写っている画像となる。
【0061】
実施の形態1では、マルチビーム型の荷電粒子顕微鏡装置100に通信で接続されるプロセッサシステム103が、荷電粒子顕微鏡装置100から出力される撮像画像等のデータ143に基づいて、荷電粒子顕微鏡装置100内部で発生するクロストークに関するクロストーク量を特定し、言い換えるとクロストーク影響を評価、定量化等し、撮像画像に対し、クロストーク影響を低減するように輝度を補正する例を説明する。
【0062】
実施の形態1では、走査型の荷電粒子顕微鏡装置100から出力される、領域126ごと、検出器ごとの信号141および撮像画像に対する、検出範囲127間でのクロストーク影響を計算し、画像単位の補正として、それらの検出範囲127間でのクロストーク影響を補正する場合を説明する。
【0063】
説明上、各領域126から放出される放出電子の数が豊富な場合を想定して説明する。この場合、「収束された放出電子121」は収束された放出電子ビーム121となる。同様に「放出電子119」は放出電子ビーム119となる。また、説明上、クロストークが無い状態を、理想や標準の状態とする。その上で、理想や標準の状態における各種存在の数は以下を前提として説明する。
*マルチビーム116における複数の荷電粒子ビーム116の数をNとする。
*これに対応して、試料9面におけるマルチビーム116が照射される領域126の数もNとする。
*マルチ検出器123の複数の検出器の数や、シンチレータ122の面での複数の検出範囲127の数や、複数の検出器からの複数の信号141の数もNとする。
*放出電子ビーム119の数と、収束された放出電子ビーム121の数もNとする。なお、図1では図示の簡略化のために、当該放出電子ビーム119は1本のように記載している。
【0064】
なお、以後の説明では、クロストークの影響として、放出電子ビーム119の収束レンズ120上の行先(照射位置)が変化してしまう場合を例として説明する。つまりクロストークが発生しても放出電子ビーム119の本数は変化しない場合を例とする。ただし、本発明はこれに限定されない。個々の放出電子が意図しない検出器で検出されるという共通点でとらえれば、クロストークの影響として、1つの領域126からの放出電子ビーム119が複数本となった場合でも本発明は適用できる。同様に、1つの放出電子ビーム119の太さが想定外の太さとなった場合でも本発明は適用できる。
【0065】
[マルチビーム型の荷電粒子顕微鏡装置]
図1は、マルチビーム型の荷電粒子顕微鏡装置100と、実施の形態1のプロセッサシステム103とが接続された、システムの構成を示す。図1のシステムの各構成要素は、電気的に接続されており、例えば相互に通信や入出力が可能である。
【0066】
マルチビーム型の荷電粒子顕微鏡装置100は、特に走査顕微鏡装置100である。この走査顕微鏡装置100は、荷電粒子撮像系101とコントローラ102とを備える。荷電粒子撮像系101は、マルチビーム116を生成して試料9に照射する機構と、試料9からの放出電子を検出する機構とを含む。それらの機構として、荷電粒子撮像系101は、荷電粒子ビーム照射系104と、検出系125とを含む。コントローラ102には、プロセッサシステム103が接続されている。
【0067】
荷電粒子照射系104は、電子銃111、コリメーターレンズ113、マルチビーム形成素子115、ステージ118等を有する。ステージ118上には試料9が載置される。電子銃111からマルチビーム形成素子115を通じてマルチビーム116である荷電粒子ビーム116が形成されるまでの構成を、荷電粒子ビーム照射系104と記載する。
【0068】
検出系125は、収束レンズ120、撮像用検出器131、補正用検出器132等を有する。撮像用検出器131は、シンチレータ122とマルチ検出器123とを含む。補正用検出器132は、シンチレータ122と観測装置124とを含む。
【0069】
電子銃111は、マルチビーム116の源となる電子ビーム112を発生して、図示のZ軸方向(下方向)へ照射する。本例では1つの電子銃111を有する。コリメーターレンズ113は、電子銃111から照射された電子ビーム112を平行光114にする。マルチビーム形成素子115は、平行光114を、少なくとも1つ以上の荷電粒子ビーム116(従来技術のビームレットに相当)にする。マルチビーム形成素子115は、例えば、多孔プレート、又は当該プレートを含む素子である。マルチビーム形成素子115によって複数の荷電粒子ビーム116を形成する。なお、荷電粒子ビーム116の荷電粒子の例は電子である。
【0070】
実施の形態1の例では、マルチビーム116は、複数(N)の荷電粒子ビームを含む。マルチビーム116が照射された試料9の面(X-Y面)からは、複数(N)の放出電子ビーム119、が発生する。放出電子は、二次電子(SE)や後方散乱電子(BSE)などの粒子である。
【0071】
荷電粒子ビーム照射系104の各構成要素には、図示しない駆動制御系(駆動回路等を含む)が接続されており、コントローラ102から駆動制御される。
【0072】
ステージ118は、撮像対象の試料9を載置・保持するための試料台、移動ステージであり、例えば水平方向(図示のX軸方向やY軸方向)や鉛直方向(Z軸方向)などの移動や、回転軸での回転が可能な機構である。ステージ118には図示しないステージ駆動制御系(駆動回路等を含む)が接続されており、コントローラ102から駆動制御される。
【0073】
マルチビーム116のそれぞれの荷電粒子ビーム116は、試料9の面の例えばそれぞれの領域126(後述の図4)を走査するように照射される。
【0074】
収束レンズ120は、マルチビーム116が照射された試料9から発生した放出電子ビーム119を、シンチレータ122へ向けて収束させる。収束された放出電子ビーム121は、複数(N)の荷電粒子ビーム116に対応した複数(N)の放出電子ビーム119に1:1に対応する。
【0075】
収束レンズ120以降の構成要素は、検出系125を構成している。シンチレータ122は、撮像用検出器131の一部、かつ、補正用検出器132の一部であり、撮像用と補正用とで兼用の構成要素である。シンチレータ122は、後段に配置されたマルチ検出器123の複数(N)の検出器に対し、共通の1つの素子として構成されている。シンチレータ122は、収束レンズ120で収束された放出電子ビーム121を入射して発光させるデバイスである。シンチレータ122は、面に入射・衝突した放出電子ビーム121を光子に変換するデバイスである。シンチレータ122は、マルチビーム116に基づいた複数の放出電子ビーム121の各々の放出電子ビーム121との衝突位置が発光する発光素子である。
【0076】
シンチレータ122は、マルチ検出器123とのセットで、マルチビーム116に基づいた放出電子ビーム121の信号の検出に使用される。シンチレータ122とマルチ検出器123とのセットを、撮像用検出器131(破線枠で示す)とも記載する。また、シンチレータ122は、観測装置124とのセットで、クロストーク影響の補正、具体的にはクロストーク影響係数の定量化のためにも使用される。すなわち、シンチレータ122は、撮像用と補正用との両方に使用される。シンチレータ122と観測装置124とのセットを、補正用検出器132(破線枠で示す)とも記載する。
【0077】
マルチ検出器123は、複数(N)の検出器(後述の図6での検出器123-1~123-7)を有し、各々の検出器は、シンチレータ122で反応した放出電子ビーム119ごとの収束された放出電子ビーム121に対応する光子を検出する。検出器は、各々の放出電子ビーム121に対応する光子の検出に対応した信号141(言い換えると検出信号、出力信号、画像信号)を出力する。マルチ検出器123の出力の信号141は、それらの複数の検出器からの複数の検出信号である。
【0078】
観測装置124は、シンチレータ122の面上の放出電子ビーム121の発光の状態を観測する装置である。観測装置124は、例えばシンチレータ122の面を撮像する撮像素子(例えばCCDカメラ)である。観測装置124は、シンチレータ122の入射面における複数(N)の放出電子ビーム121の光量の分布を撮像する。観測装置124は、撮像した画像(補正用撮像画像と記載する場合がある)に対応する信号142を出力する。なお、観測装置124による補正用撮像画像においては、画素(言い換えると位置座標)毎に輝度値の情報を有する。
【0079】
荷電粒子ビーム照射系104は、試料9にマルチビーム116を照射できる構成であればよく、詳細な実装については限定しない。例えば、コリメーターレンズ113は、電子ビーム112を平行光114にするものには限らない。また、本例では1つの電子銃111を備える構成としたが、複数の電子銃によってマルチビーム116を生成する構成としてもよい。
【0080】
また、実施の形態1の例では、荷電粒子ビーム照射系104は、走査型としており、試料9面に対し複数(N)の荷電粒子ビーム116をマルチビーム116として走査するように照射できる構成としている。この走査型の荷電粒子ビーム照射系104は、図示しないが、偏向器などを備えており、その偏向器などの駆動制御によって、マルチビーム116の照射の方向を変えて走査を実現することができる。
【0081】
荷電粒子ビーム照射系104は、電子銃111から試料9までの間、荷電粒子ビームの軌道上に、図示しないが、各種の偏向器が配置されていてもよい。各種の偏向器は、例えば荷電粒子ビームの走査に使用される偏向器である走査偏向器を含む。走査偏向器の構成は、各種が可能であり、限定しない。
【0082】
マルチ検出器123の各々の検出器は、後述の検出範囲127(図5)に入射した放出電子に対応する光子を、電気信号であるアナログ信号として検出する。各々の検出器の出力の信号141は、検出した放出電子に対応する光子の量に基づいて生成される信号である。各々の検出器は、例えばホトマル(光電子倍増管:photomultiplier tube)で構成される。各々のホトマルは、自分の検出範囲127に入射した光子の量(例えば単位時間あたりの数)に応じた検出信号を生成する。ホトマルでは、検出範囲127(言い換えると入射窓)に入射した光子が、光電陰極に衝突して電子(言い換えると光電子)に変換され、この電子が複数のダイノードに衝突することで増幅され、増幅された電子が電極から信号電流として出力される。マルチ検出器123の検出器は、ホトマルに限らずに、SiPM(Silicon Photomultiplier)なども適用可能である。
【0083】
シンチレータ122、マルチ検出器123、および観測装置124の各デバイスの詳細な構成についても限定しない。
【0084】
コントローラ102は、プロセッサ204、メモリ203、検出回路201、インタフェース回路202、通信インタフェース207、入出力インタフェース208等を備える。
【0085】
マルチ検出器123で検出され出力された信号141は、コントローラ102の検出回路201に入力される。マルチ検出器123と検出回路201とは信号線で接続されている。検出回路201は、アナログ-デジタル変換回路等を含む。アナログ信号である信号141は、検出回路201のアナログ-デジタル変換回路でデジタル信号に変換される。変換後のデジタル信号は、インタフェース回路202を通じて、一旦、メモリ203に格納される。
【0086】
一方、観測装置124では、シンチレータ122およびマルチ検出器123の側の検出・撮像とタイミングおよび期間を合わせて、シンチレータ122の面での放出電子ビーム121の発光分布の状態に関する観測・撮像が行われており、信号141と対応して、放出電子発光分布128(図5)を表す信号142が出力されている。観測装置124からの信号142は、信号線を通じて、コントローラ102に入力され、インタフェース回路202での受信を通じて、一旦、メモリ203にデータ206の一部として格納される。
【0087】
メモリ203には、予め、画像生成プログラム205などが格納されている。また、メモリ203に格納されるデータ206は、マルチ検出器123から出力された信号141に関するデータと、観測装置124から出力された信号142に関する補正用撮像画像のデータとを含む。
【0088】
プロセッサ204は、メモリ203の画像生成プログラム205に従った処理として画像生成処理などを行う。これにより、信号141に基づいた、検出回路201からのデジタル信号は、撮像画像の画像データに変換され、メモリ203にデータ206の一部として格納される。また、信号142は、補正用撮像画像の画像データに変換され、メモリ203にデータ206の一部として格納される。
【0089】
プロセッサ204は、メモリ203に保存されたデータ206として、信号141に基づいた撮像画像のデータ、および信号142に基づいた補正用撮像画像のデータを、伝送プログラムによる処理、および通信インタフェース207を通じて、プロセッサシステム103へ伝送する。
【0090】
プロセッサシステム103は、プロセッサ302、メモリ303、通信インタフェース301、入出力インタフェース310等を備える。プロセッサシステム103等において、各構成要素はバス等で相互に接続されており、図示しない電源から電力が供給される。入出力インタフェース310には入力デバイス311や出力デバイス312が外部接続されている。
【0091】
プロセッサ302は、メモリ303に記憶されている補正プログラム304等のプログラムを読み込んでプログラムに対応した処理を実行する演算装置である。プロセッサ302は、例えばCPU,MPU,GPU等のいずれかで構成されてもよいし、FPGA等の専用回路を用いて構成されてもよいし、量子プロセッサ等の他の種類の演算機能を持つ半導体デバイスで構成されてもよい。
【0092】
コントローラ102から送信されたデータ143は、プロセッサシステム103で通信インタフェース301を通じて受信され、一旦、メモリ303にデータ305として格納される。データ305は、補正前の撮像画像と、補正用撮像画像とを含むデータである。
【0093】
プロセッサ302は、メモリ303の補正プログラム304に従った補正処理を行う。補正プログラム304は、プロセッサ302に、クロストークに関する補正処理を実行させるコンピュータプログラムである。
【0094】
プロセッサ302は、その補正処理の際には、まず、データ305のうちの補正用撮像画像に基づいてクロストーク影響係数を計算する処理を行う。そして、プロセッサ302は、データ305のうちの補正前の撮像画像に対し、そのクロストーク影響係数を用いた計算式での補正処理を行うことで、補正後の撮像画像を得る。この後段の補正処理は、複数の検出範囲127に対応した複数の検出器の複数の画像信号の間において、それぞれ、例えば混入率が0%に近付き、残留率が100%に近付くように、信号量を補正する処理である。これにより、クロストーク影響が低減された、理想像に近い像が、補正後の撮像画像として得られる。
【0095】
プロセッサ302は、得られた補正後の撮像画像を、メモリ303にデータ306として保存する。この後、プロセッサ302は、データ306に基づいて、補正後の撮像画像を出力可能である。例えば、プロセッサ302は、入出力インタフェース310を介して、外部接続されている出力デバイス312、例えば表示装置の画面に、補正後の撮像画像を表示してもよい。プロセッサシステム103を利用するユーザは、その画面で、補正後の撮像画像を確認できる。ユーザは、出力デバイス312の出力情報としてグラフィカル・ユーザ・インタフェース(GUI)を含む情報を見ながら、入力デバイス311を操作して、プロセッサシステム103に指示や設定を入力することができる。
【0096】
例えば、画面に対するユーザの操作に基づいて、対象の撮像画像や、補正実行指示が入力された場合に、プロセッサシステム103は、対象の撮像画像に対するクロストーク影響補正を実行してもよい。あるいは、予め、プロセッサシステム103の設計またはユーザ設定として、クロストーク影響補正に関するオン/オフが設定されてもよく、オンの設定の場合に、プロセッサシステム103は、クロストーク影響補正を自動的に実行してもよい。
【0097】
入力デバイス311は、例えばキーボード、マウス、タッチパネル、マイク等でもよい。出力デバイス312は、例えばタッチパネル、プリンタ、スピーカ等でもよい。入力デバイス311と出力デバイス312の一方のみがあってもよい。プロセッサシステム103に入出力デバイスが内蔵されていてもよい。
【0098】
また、プロセッサ302は、通信インタフェース301を通じて、補正後の撮像画像などのデータを、外部装置へ送信してもよい。外部装置の例は、データベースサーバ、他の種類の検査装置、ユーザのクライアント端末装置などが挙げられる。
【0099】
プロセッサシステム103は、例えばPC、サーバ計算機、タブレット端末、スマートフォンなどのコンピュータで構成されてもよい。プロセッサシステム103は、それらのコンピュータを1台以上含むコンピュータシステムで構成されてもよい。サーバ計算機は、通信網上のサーバ、例えばクラウドコンピューティングシステムのクラウドサーバでもよい。
【0100】
プロセッサシステム103がサーバとして構成される場合、ユーザは、クライアント端末装置からそのサーバにアクセスして機能を利用してもよい。その場合、ユーザのクライアント端末装置は、ユーザインタフェースや画面表示の機能を担う。クライアント端末装置は、指示等をサーバに送信し、サーバは、その指示等に応じて、処理を実行し、処理結果情報または処理結果情報を含む画面データ(ユーザに対する出力のために必要なデータ)を生成し、クライアント端末装置へ送信する。画面データは、例えばWebページでもよいし、クライアント端末装置で処理結果情報を出力させるためのプログラム等のデータででもよい。クライアント端末装置は、受信した処理結果情報または画面データに基づいて表示装置に画面を表示し、ユーザは、その画面を見て処理結果等を確認できる。
【0101】
プロセッサシステム103は、1つ以上のプロセッサ、および1つ以上のメモリ資源を有する。図1では1つのプロセッサ302や1つのメモリ303を図示しているが、これに限らず、複数のプロセッサや複数のメモリがあってもよい。メモリ303は例えば不揮発性記憶装置または揮発性記憶装置で構成される。メモリ303は、例えばROM、RAM等の記憶デバイス、フラッシュメモリやSSD等の記憶デバイスで構成されてもよい。メモリ303は外部記憶装置の記憶領域として構成されてもよい。
【0102】
補正プログラム304等のプログラムは、非一過性のコンピュータ読み取り可能な記憶媒体に格納されていてもよいし、通信網上のプログラム配信サーバ等に格納されていてもよい。プロセッサシステム103は、必要な時にその記憶媒体やプログラム配信サーバからプログラムを読み込んでメモリ303に格納してもよい。
【0103】
メモリ303に格納される画像データは、例えばファイルで構成され、プロセッサ302がファイルシステムのファイルとして管理するが、これに限定されない。
【0104】
プロセッサシステム103等のシステムは、所定のハードウェアとソフトウェアとの協働で実現されている。実施の形態1では、クロストーク影響補正の機能について、プロセッサ302による補正プログラム304に従ったプログラム処理で実現・実装する場合を示したが、これに限らず、機能の少なくとも一部について、集積回路などのハードウェアで実現してもよい。
【0105】
なお、コントローラ102においても、入出力インタフェース208を介して、図示しない入力デバイスや出力デバイスが接続されており、荷電粒子顕微鏡装置100を使用するオペレータ等の人は、それらの入出力デバイスを通じて、コントローラ102に対し指示や設定を入力することができる。コントローラ102に対するオペレータとプロセッサシステム103に対するユーザとは同じ人でもよい。また、コントローラ102に対するそれらの入出力は、プロセッサシステム103による入出力として1つに統合されてもよい。
【0106】
[プロセッサシステムの処理フロー]
図2は、実施の形態1のプロセッサシステム103での主な処理フローを示し、ステップS1~S4を有する。本フローは、前述のプロセッサ302が補正プログラム304に従った処理を実行することで実現される。
【0107】
ステップS1で、プロセッサシステム103は、図1の走査型の荷電粒子顕微鏡装置100のコントローラ102から、通信で、前述のマルチ検出器123による出力の信号141に基づいた撮像画像(Fとする)のデータと、前述の観測装置124による出力の信号142に基づいた補正用撮像画像(Gとする)のデータと、を含むデータ143を取得し、メモリ303でのデータ305として格納する。
【0108】
ステップS2で、プロセッサシステム103は、補正用撮像画像(G)における放出電子の光量分布128(図5図8)の解析に基づいて、クロストーク影響係数(Aとする)を計算する。詳細は後述する。クロストーク影響係数(A)は、シンチレータ122の面での複数の検出範囲127に対応した複数の画像領域の間におけるクロストークの影響の度合いを表すパラメータであり、実施の形態1でのクロストーク影響補正のために定義して用いるパラメータである。なお、計算して得たクロストーク影響係数(A)の情報も、メモリ303内に保存される。
【0109】
ステップS3で、プロセッサシステム103は、後述の所定の計算式(F=ΣAR)に基づいて、撮像画像(F)に対し、クロストーク影響係数(A)を用いた補正処理を行い、結果として、補正後画像(Rとする)を得る。補正後画像(R)は、前述のデータ306と対応し、クロストーク影響が低減された画像、ゴースト像が低減された理想像に近い画像となる。
【0110】
ステップS4で、プロセッサシステム103は、補正後画像(R)のデータ306をメモリ303に保存し、ユーザに対し出力する。
【0111】
[処理シーケンス]
図3は、図1のシステムにおいて行われるクロストーク補正処理を含む処理動作のシーケンスを示し、クロストーク量の計算と画像の補正とを含んでおり、ステップS301~S314を有する。
【0112】
はじめに、ステップS301で、荷電粒子顕微鏡装置100の撮像系101は、コントローラ102による駆動制御に基づいて、荷電粒子ビーム照射系104によって、マルチビーム116を生成して、それらの複数(N)の荷電粒子ビーム116を走査しながら、試料9面上の複数(N)の領域126(図4)に照射する。
【0113】
次に、ステップS302,S303では、試料9面における各領域126、例えば第1領域と第2領域から、それぞれ放出電子ビーム119が放出される。図3では、説明の便宜上、複数(N)の荷電粒子ビーム116や複数(N)の領域126等のうち、特に、2つの部分に着目して、第1領域や第2領域等として記載している。2つの部分は、クロストーク影響を考える場合の単純な例であり、後述の第1検出範囲に対する第2検出範囲からのクロストーク量などを考える場合と対応している。
【0114】
ステップS304,S305では、各領域126からの放出電子ビーム119が、収束レンズ120を介して収束された放出電子ビーム121(例えば第1放出電子ビームと第2放出電子ビーム)となって、シンチレータ122面上の各検出範囲127(例えば第1検出範囲と第2検出範囲)に結像され、光子に変換される。
【0115】
ステップS306,S307では、それぞれの光子が、マルチ検出器123の対応するそれぞれの検出器(例えば第1検出器と第2検出器)で、信号141(例えば第1信号と第2信号)として検出される。
【0116】
一方、ステップS308では、撮像用検出器131での検出・撮像とタイミングを合わせて、補正用検出器132の観測装置124が、シンチレータ122の面での結像の際に発生する、放出電子ビーム121の衝突による放出電子光量分布128(図5等)を撮像する。
【0117】
ステップS309,S310では、コントローラ102は、マルチ検出器123からのそれぞれの信号141を受信し、それらの信号141に基づいて、それぞれの撮像画像、すなわち、荷電粒子ビーム116ごと、領域126ごと、検出器ごと等に対応するそれぞれの画像を生成する。
【0118】
ステップS311では、コントローラ102は、観測装置124からの補正用撮像画像の信号142を受信する。
【0119】
ステップS312では、プロセッサシステム103は、コントローラ102から、伝送された画像(撮像画像および補正用撮像画像)等のデータを受信する。
【0120】
ステップS313では、プロセッサ302は、補正プログラム304に従った補正処理を実行することで、まず、補正用撮像画像の解析に基づいて、クロストーク影響係数(混入率など)を計算する。そして、ステップS314では、プロセッサ302は、ステップS313で得たクロストーク影響係数を用いて、所定の計算式により、撮像画像に対応する実像から、クロストーク影響を低減するように画像を補正することで、補正後の画像を得る。クロストーク影響を低減する補正は、検出範囲127に対応した画像信号ごとに、混入率を0%に近づけるような信号量の補正、および残留率を100%に近付けるような信号量の補正である。信号量は、輝度等である。
【0121】
これにより、複数の荷電粒子ビーム116、複数の領域126、マルチ検出器123の複数の検出器、複数の信号141に関する、複数の画像として、それぞれ、クロストーク影響が低減された、理想像に近い画像が得られる。その後、プロセッサシステム103は、例えば補正後の画像をユーザに対し画面で表示する。
【0122】
[試料面およびシンチレータ]
図4は、試料9(例えば円形のウェハ)の面9aに対するマルチビーム116として複数(N)の荷電粒子ビーム116の照射(実線矢印で示す)と、その照射に応じて発生する放出電子ビーム119として複数(N)の放出電子ビーム119と、その放出電子ビーム119が収束レンズ120を通じて放出電子ビーム121としてシンチレータ122の面に収束する様子とを示す模式説明図である。図4では、複数(N)の荷電粒子ビーム116に応じて、試料9の面を複数(N)の領域126に分けた場合の、領域126群から発生した複数(N)の放出電子ビーム119を、シンチレータ122の面で検出する際の模式構成を示している。本例では、複数(N)をN=7とするが、これに限定されない。
【0123】
試料9の上面である面9aにおいて、複数(N)の領域126が含まれている。本例では、領域126は矩形である。図4の下部に示しているように、複数の領域126の各々の領域126は、対応付けられる各々の荷電粒子ビーム116が走査しながら照射される領域である。走査は、例えば線順次走査である。
【0124】
各々の領域126から放出される放出電子ビーム119を破線矢印で示している。放出電子ビーム119は、収束レンズ120を通じて収束された複数(N)の放出電子ビーム121となって、その複数(N)の放出電子ビーム121がシンチレータ122の面に入射する。本例では、シンチレータ122の入射面は円形である。
【0125】
[シンチレータおよび検出範囲]
図5は、シンチレータ122の入射面を平面視した場合に、その入射面における、マルチ検出器123の複数(N)の検出器(後述の図6)の複数(N)の検出範囲127と、それらの検出範囲127に対応付けられた補正用撮像画像での画像領域での放出電子光量分布128とを示す。補正用撮像画像での画像領域とは、補正用撮像画像で検出範囲127をみた場合の画像領域である。
【0126】
図5では、クロストークが無い理想の状態において、図4の試料9の各領域126から発生した放出電子ビーム121が、マルチ検出器123の各検出器の検出範囲127で検出されるタイミングでの、観測装置124による補正用撮像画像での放出電子光量分布128の観測の状態を、模式構成で示している。理想状態では、図示のように、各々の検出範囲127の中に、各々の放出電子ビーム121の光量分布128が、位置を合わせて、収まっている。
【0127】
なお、図5での大きな矩形500は、シンチレータ122の面のすべてをカバーする場合の補正用撮像画像の撮像範囲500の例を示す。また、放出電子光量分布128は、それぞれの荷電粒子ビーム116に基づいたそれぞれの放出電子ビーム119,121に対応した光量分布である。放出電子光量分布128は、光量のグラデーションを持っている。図面では、便宜上、放出電子光量分布128を、中心が黒で、径方向で外側になるにつれてグレーになる楕円として模式で図示している。この黒は、光量としては相対的に明るい、高いことを表し、グレーは、光量としては相対的に暗い、低いことを表す。
【0128】
また、図4での複数(N)の領域126と、図5での複数(N)の検出範囲127とは、数Nが対応しており、寸法や光学系の構成に応じて、1つの円形の検出範囲127の中に、1つの矩形の領域126からの1つの放出電子光量分布128が楕円として収まるように、予め設計されている。1つの光量分布128の楕円は、図4のような、ある1つの荷電粒子ビーム116のある走査時点での、ある領域126内のある画素に関して発生した光量分布である。荷電粒子ビーム116や放出電子ビーム119,121は、3次元空間内で軌道として構成されるので、検出範囲127では楕円として結像する。
【0129】
また、説明上、N=7個の検出範囲127や検出器などを識別するため、図5の下部に示すように、番号#を付けて、例えば#1~#7で示している。例えば、シンチレータ122の面の中央に検出範囲#1があり、それに対し左側に検出範囲#2がある。以下では、適宜に番号#を用いて、各々の検出範囲127等を、例えば検出範囲#1等と記載する場合がある。
【0130】
[シンチレータおよびマルチ検出器]
図6は、上部に、撮像用検出器131におけるシンチレータ122およびマルチ検出器123の概要構成の斜視図を示し、下部に、マルチ検出器123の機能ブロックを示す。図6の上部の斜視図では、マルチ検出器123のうち、#4,#5,#6に対応した検出器123-4,123-5,123-6が見えている。例えば#5で示す検出範囲127に入射した放出電子ビーム121の光子は、検出器123-5で検出され、信号141-5として出力される。
【0131】
図示していないが、シンチレータ122の出射面と各検出器の入射面との間は離間していてもよい。
【0132】
図1の観測装置124であるカメラによって、図5のようなシンチレータ122の入射面を撮像した場合、図5の撮像範囲500と同様の内容の補正用撮像画像の信号142が得られる。なお、図1では観測装置124の撮像の光軸がシンチレータ122の面に対し斜めになるように構成要素が配置されており、観測装置124で撮像した画像は、平面視ではない画像となるが、撮像画像に画像処理を施すことで図5のような平面視になる画像を得てもよい。
【0133】
理想状態では、例えば、図4の領域#1から発生した放出電子ビーム#1は、図5の検出範囲#1に入射し、図6の検出器123-1である検出器#1で検出され、検出信号である信号141-1が出力される。同様に、図4の領域#2から発生した放出電子ビーム#2は、図5の検出範囲#2に入射し、図6の検出器123-2である検出器#2で検出され、検出信号である信号141-2が出力される。
【0134】
上記撮像用検出器131での検出・撮像とタイミングを合わせて、補正用検出器132の観測装置124によって撮像された補正用撮像画像では、図5と同様の放出電子光量分布128が含まれている。また、補正用撮像画像内では、複数の検出範囲127も、対応する画像領域として含まれている。もしくは、補正用撮像画像内に複数の検出範囲127が画像領域として含まれていない場合でも、予めシンチレータ122の面における複数の検出範囲127の位置や形状が規定されているので、その規定の情報から、補正用撮像画像内での複数の検出範囲127の位置や形状がわかる。
【0135】
すなわち、プロセッサシステム103は、補正用撮像画像から、シンチレータ122の入射面における複数の検出範囲127の位置や形状と、複数の放出電子ビーム121に関する複数の放出電子光量分布128の位置や形状との関係がわかる。
【0136】
[試料帯電によるクロストークの発生]
図7は、試料帯電によるクロストークの発生についての説明図である。図7では、図4図5を理想状態での放出電子ビーム121の発生とした場合に、例えば、試料9の面における一部の領域126、例えば領域#2に、帯電による仮想レンズ129が発生した状態を、模式構成として示している。この仮想レンズ129の作用によって、この領域#2からの放出電子ビーム119,121(#2)は、グレーの点線矢印で示すように、軌道が変化してしまい、シンチレータ122の面における入射する位置や形状が変わってしまう。
【0137】
局所的にある領域#2で帯電が起きることで、あるいは、領域#2での帯電の状態が他の領域での帯電の状態と差が大きくなることで、電場が変化し、領域#2に仮想レンズ129が発生する。説明上、仮想レンズ129とは、マルチビーム116が照射される試料9面において、局所的な領域での電界の変化により、当該領域からの放出電子ビーム119,121の軌道の状態が変化することを指す。
【0138】
領域#2の仮想レンズ129により、領域#2から発生した放出電子ビーム119,121(#2)は、理想状態の軌道からずれて、シンチレータ122面上で、検出範囲#2(図5)から外に逸脱して、他の検出範囲127内まで延びる場合(後述の図8)がある。このような現象は、クロストークに相当する。
【0139】
図7の例では、1つの仮想レンズ129は、ちょうど1つの領域126に合わせて生じた例を示しているが、これに限らず、仮想レンズ129は、試料9面に対し様々に発生し得る。例えば、領域126に対しずれた位置に仮想レンズ129が発生する場合がある。領域126内に小さなサイズの複数の仮想レンズ129が発生する場合もある。複数の領域126にまたがって大きなサイズの仮想レンズ129が発生する場合もある。
【0140】
図8は、図7のような仮想レンズ129が発生した場合での、シンチレータ122の面での放出電子光量分布128の例を示す。本例では、検出範囲#2に入射する放出電子ビーム121(#2)の光量分布は、理想状態では図5の光量分布128(#2A)であるのに対し、光量分布128(#2B)となっている。図8の下部には、拡大で、左側の検出範囲#2と中央の検出範囲#1との2つの部分のみを示す。本例では、図7の領域#2からの放出電子ビーム119,121(#2)に関する光量分布128(#2B)は、図示のように、左側の検出範囲127(#2)内から外に特に右に逸脱して、中央の検出範囲127(#1)内にまで延びた光量分布128(#2B)となっている。
【0141】
図8の例では、検出範囲127間での放出電子光量分布128は、図7の仮想レンズ129の影響によって、左側の検出範囲#2から放出電子光量分布128(#2B)が中央の検出範囲#1内へ延びている場合を示している。これに限らず、検出範囲127間での放出電子光量分布128は、仮想レンズ129の状態に応じた方向などで、様々に生じる場合がある。
【0142】
プロセッサシステム103は、図8のような補正用撮像画像での、放出電子光量分布128(#2B)をみることで、領域#2,#1間でクロストーク影響があることがわかる。また、プロセッサシステム103は、この放出電子光量分布128(#2B)の輝度や形状から、この光量分布128(#2B)のクロストーク影響の元と先がわかる。すなわち、元は、流出元などであり、例えば左側の検出範囲127(#2)であり、先は、混入先などであり、例えば中央の検出範囲127(#1)である。
【0143】
放出電子光量分布128(#2B)は、より詳しく説明すると、検出範囲#2内に収まっている残留の部分128aと、よその検出範囲#1内に入っている混入の部分128bと、検出範囲#2の外であるがよその検出範囲#1内には入っていない中間の部分128cとを有する。放出電子光量分布128(#2B)は、部分128aと部分128bと部分128cとの和である。混入の部分128bは、検出範囲#1にとってのクロストークの成分、余分な光量となる。残留の部分128aは、検出範囲#2にとっての正規の成分となる。部分128cと部分128bは、検出範囲#2にとって外に流出した成分である。光量分布128(#2B)から流出の部分(128c,128b)を差し引いたものが、残留の部分128aである。
【0144】
この場合、検出範囲#1では、領域#1から検出範囲#1に入射する光量以外に、領域#2から検出範囲#2に入射すべき光量の一部(部分128b)が混入することとなる。この混入は、クロストークに該当する。また、検出範囲#2では、領域#2からの放出電子の光量のうちの一部が外に流出し、一部(部分128a)の光量のみが残留して検出されることとなる。
【0145】
検出範囲#1を持つ第1検出器である検出器123-1(図6)の検出信号141-1は、理想状態の画像に対し、余分な光量が混入して輝度が増加した画像となる。検出範囲#2を持つ第2検出器である検出器123-2の検出信号141-2は、理想状態の画像に対し、一部の光量が流出して輝度が減少した画像となる。
【0146】
図8の例は、2つの検出範囲127(#1,#2)間での放出電子光量分布128およびクロストークの例であるが、これに限らず、それぞれの検出範囲127で、様々に、クロストークが発生し得る。また、図8の例では、光量分布#2Bのうちの混入の部分128bは、検出範囲#1内の光量分布#1と一部が重なっているが、このように重なる場合もあるし、重ならない場合もある。
【0147】
後述の混入率は、例えば、検出範囲#1に対する検出範囲#2からの混入率を考える場合に、光量分布#2Bの全体を母量とし、検出範囲#1内に混入した部分128bをクロストーク量(言い換えると混入量)とし、[混入率]=[クロストーク量(混入量)]/[母量]として計算できる。同様に、それぞれの検出範囲127で混入率が計算できる。
【0148】
また、後述の残留率は、例えば、検出範囲#2での残留率を考える場合に、光量分布#2Bの全体を母量とし、検出範囲#2内に残留した部分128aを残留量とし、検出範囲#2外に流出した部分128cおよび部分128bを流出量とすると、[残留率]=[残留量]/[母量]=([母量]-[流出量])/[母量]として計算できる。同様に、それぞれの検出範囲127で残留率が計算できる。
【0149】
上記のような混入率と残留率を考慮した計算を、複数(N)のすべての検出範囲127に関して総合することで、それぞれの検出範囲127の検出器に関するクロストーク影響係数を計算できる。
【0150】
なお、図8の下部の例のように、ある検出範囲127(例えば#1)内において、出自が異なる複数の放出電子光量分布128が一部重なっている場合でも、補正用撮像画像の画像処理、例えば輝度や形状の解析に基づいて、その重なりの把握はある程度可能である。そのため、その場合でも、クロストーク影響の定量化は可能である。
【0151】
図5のように、クロストークが無い場合、第1荷電粒子ビームが衝突する第1領域(領域126)から放出された第1放出電子ビームは、第1検出器の第1検出範囲(検出範囲127)に入射・結像して第1信号(信号141)として検出される。その際の様子は、補正用撮像画像では、第1検出範囲に対応した第1画像領域での、第1放出電子ビームに対応した第1光量分布として観測できる。他の検出、例えば、第2荷電粒子ビーム、第2領域、第2放出電子ビーム、第2検出器、第2検出範囲、第2画像領域、および第2信号についても同様である。
【0152】
クロストーク現象としては、例えば図8のように、第1荷電粒子ビームが衝突する第1領域から放出される第1放出電子ビームが、第1検出器の第1検出範囲に入射・結像して第1信号として検出される際に、第2荷電粒子ビームが衝突する第2領域から放出される第2放出電子ビームが、軌道の変化によって、第1検出範囲内に混入する場合がある。このようなクロストーク現象の場合、第1検出器の第1信号の第1画像でみると、よそからの光の混入によって、輝度が増加した内容、一部の信号が重畳したような内容となる。第2検出器の第2信号の第2画像でみると、よそへの光の流出によって、輝度が減少した内容、一部の信号が欠如したような内容となる。言い換えると、第1信号の第1画像では、第2信号の第2画像で写るべき画像内容がゴースト像として重畳したような内容になる場合がある(後述の図13)。
【0153】
プロセッサシステム103は、上記のようなマルチビーム116に基づいた放出電子ビーム121の検出に関するクロストーク現象について、補正用撮像画像を用いて、検出範囲127間でのクロストーク影響を定量化する。例えば、プロセッサシステム103は、第1検出範囲に対する第2検出範囲からのクロストーク量を特定する。プロセッサシステム103は、そのクロストーク量に基づいて、マルチ検出器123の出力の信号141に基づいた画像を補正することで、クロストーク影響を低減した画像を得る。
【0154】
[複数のクロストーク影響]
図9は、(A)や(B)で、試料帯電による仮想レンズ129の発生の他の例を示している。(A)は、試料9の面9aの領域#2,#3,#4にそれぞれ仮想レンズ129(129-2,129-3,129-4)が発生した場合を示す。(B)は、領域#2,#3,#4にまたがって大きな仮想レンズ129が発生した場合を示す。図示の例のような仮想レンズ129の詳細は、クロストーク影響補正の際にはわからなくてもよい。
【0155】
図10は、さらに、シンチレータ122の面において、複数の領域126からの複数の放出電子ビーム119,121について、複数の検出範囲127間で、クロストーク影響を生じている場合を示す。本例では、検出範囲#1を自分(説明上の第1検出範囲)として着目し、検出範囲#1に関するクロストーク量を特定・計算する場合に、他の検出範囲127(説明上の第2検出範囲)として、検出範囲#2からの混入、検出範囲#3からの混入、および検出範囲#4からの混入、といった3つの混入が、クロストークとして発生している場合を示している。クロストークの発生の要因としては、図9での領域#2,#3,#4に、帯電による仮想レンズ129が発生した場合が考えられる。
【0156】
図10の下部には、拡大で、検出範囲#1内の放出電子光量分布128を示している。検出範囲#1内には、まず、領域#1からの放出電子ビーム119,121(#1)による放出電子光量分布128(#1)が含まれている。また、検出範囲#1内には、領域#2からの放出電子ビーム#2の光量分布128(#2B)のうちの一部が、混入の部分b2として入っている。また、検出範囲#1内には、領域#3からの放出電子ビーム#3の光量分布128(#3B)のうちの一部が、混入の部分b3として入っている。また、検出範囲#1内には、領域#4からの放出電子ビーム#4の光量分布128(#4B)のうちの一部が、混入の部分b4として入っている。これらの3つの混入の部分b2,b3,b4は、検出範囲#1にとっての外からのクロストークの成分となる。
【0157】
図10では、図9の仮想レンズ129の作用によって、複数(例えば3つ)の放出電子光量分布128(#2,#3,#4)が、理想時の検出範囲127(#2,#3,#4)内から逸脱し、他の検出範囲128、例えば検出範囲#1内にまで延びて存在している。これにより、検出範囲#1内には、複数の放出電子光量分布128(#1,b2,b3,b4)が混在している。検出範囲#1を持つ検出器123-1の信号141-1による画像では、本来検出すべき放出電子光量分布#1に、それ以外のよそから混入した光量の成分(b2,b3,b4)を含めて結像した画像となる。これにより、信号141-1による画像、特に領域126(#1)を走査することで構成される画像では、本来の像として領域126(#1)の構造などが写った像に対し、よその領域126(#2,#3,#4)からの像がゴースト像として混じった像となる。
【0158】
実施の形態1では、観測装置124による撮像および画像認識によって、上記のようなシンチレータ122面上の複数の検出範囲127に対する複数の放出電子光量分布128の状態が、補正用撮像画像として、定量化される。プロセッサシステム103は、その補正用撮像画像に基づいて、検出範囲127の放出電子光量分布128間でのクロストーク影響を、混入率などのクロストーク影響係数として定量化する。
【0159】
本例では、図10の検出範囲#1に関しては、クロストーク影響として、よそからの、光量分布#2、光量分布#3、および光量分布#4といった3つの光量分布が及ぼすクロストーク量がある。プロセッサシステム103は、前述のステップS2の計算の際に、観測装置124からの補正用撮像画像の解析に基づいて、このようなクロストーク量を、クロストーク影響係数として計算する。
【0160】
プロセッサシステム103は、例えば図10のような補正用撮像画像の内容から、それぞれの検出範囲127に含まれる放出電子光量分布128の光量を計算する。この光量は、補正用撮像画像が有する輝度値に基づいて計算できる。この光量は、マルチ検出器123の検出器での検出電子量ないし検出光子量と対応する量である。プロセッサシステム103は、そのような検出電子量ないし検出光子量を計算してもよい。
【0161】
また、プロセッサシステム103は、例えば図10のような補正用撮像画像の内容から、それぞれの検出範囲127に対するそれぞれの放出電子光量分布128の位置、形状、輪郭、面積、輝度、輝度の変化の方向、分布が伸びる方向(元と先)などを解析する。これにより、どの検出範囲127(対応する荷電粒子ビーム116や放出電子ビーム119等)からどの検出範囲127へのクロストークであるか、どの程度の量のクロストークであるか等がわかる。具体的には、検出範囲127ごとに、後述の混入率や残留率などが計算できる。
【0162】
なお、図10の例では、検出範囲#5,#6,#7については、それぞれ理想の検出範囲127内に光量分布128が収まっており、他の検出範囲127との間でのクロストークが無い。これらの部分については、残留率が100%、混入率が0%として扱うことができる。
【0163】
[クロストーク影響係数の計算]
クロストーク影響係数の計算について説明する。上記シンチレータ122の面における複数の検出範囲127において、それぞれの検出範囲127ごとに、他の検出範囲127(対応する放出電子ビーム121)から自分の検出範囲127への光量の混入のクロストーク影響と、自分の検出範囲127(対応する放出電子ビーム121)から他の検出範囲127への光量の流出のクロストーク影響とを考えることができる。実施の形態1の例では、このようなクロストーク影響を、混入率と残留率として計算する。
【0164】
プロセッサシステム103は、例えば図10のような7個のすべての検出範囲127の間でのクロストーク影響を計算する。図10の例では、検出範囲#1の光量分布#1と、検出範囲#2の光量分布#2Bと、検出範囲#3の光量分布#3Bと、検出範囲#4の光量分布#4Bとの間で、それぞれの光量の混入や流出が計算される。
【0165】
ある検出範囲127に着目して自分を第1検出範囲とし、自分以外の他の検出範囲127を第2検出範囲とした場合に、第1検出範囲に対する第2検出範囲からの混入率を計算でき、また、第1検出範囲から外(第2検出範囲を含む)への流出による第1検出範囲内の残留率を計算できる。
【0166】
図10の例では、検出範囲#1の光量分布#1に着目した場合、検出範囲#1の光量分布#1に対する、検出範囲#2,#3,#4の光量分布#2B,#3B,#4Bの3つからの混入率を計算できる。検出範囲#5,#6,#7からの混入率は0%である。また、検出範囲#1での光量分布#1に関する残留率は、外への流出が無いので、100%である。それら混入率と残留率とを総合することで、検出範囲#1でのクロストーク量が特定できる。
【0167】
同様に、検出範囲#2の光量分布#2Bに着目した場合、よその検出範囲127からの混入率は0%であり、残留率としては、図8で示したように残留の部分128aを用いて残留率が計算できる。検出範囲#3,#4についても同様である。検出範囲#5,#6,#7については、混入率が0%、残留率が100%である。
【0168】
クロストーク影響を表す値を、クロストーク影響係数とする。実施の形態1では、例として、このクロストーク影響係数は、混入率と残留率とを用いる。混入率は、着目する第1検出範囲に対し、他の第2検出範囲からクロストーク量として混入する光量の割合である。残留率は、着目する第1検出範囲内での、外に流出する光量を除いて残留する光量の割合である。すべての検出範囲のそれぞれについて、同様の計算が行われる。
【0169】
図11は、クロストーク影響補正の計算式として、クロストーク影響係数を用いて実像から補正によって理想像を求める計算式を示す。上述のような考え方の計算を一般化し、計算式としては、F=ΣAijとして定義できる。Fは、クロストークがある場合に、マルチ検出器123の各々の検出器によって得られる実像としての画像である(図2での撮像画像、補正前画像に相当する)。Rは、クロストークが無い理想状態で、マルチ検出器123の各々の検出器によって得られる理想像としての画像である(図2での補正後画像に相当する)。添え字iや添え字jは、ある領域126、ある検出範囲127の検出器、ある検出信号141などを示す。i=1~N、j=1~Nである。例えばN=7である。
【0170】
ijは、クロストーク影響係数である。クロストーク影響係数Aijは、例えば、ある検出範囲i(第1検出範囲)と、他の検出範囲j(第2検出範囲)との関係で考えた場合の、検出範囲iに対する検出範囲j(それに対応する放出電子光量分布128)からのクロストーク影響を表す値である。ΣAijは、検出範囲iに対する他のすべての検出範囲jからのクロストーク影響の総合である。Σは、jについての総和である。
【0171】
上記計算式:F=ΣAijは、ある荷電粒子ビーム116に基づいた領域126からの放出電子ビーム121に基づいて検出器で検出された実像(F)が、理想像(R)に対しクロストーク影響が反映された結果であることを表している。
【0172】
上記計算式:F=ΣAijは、図示のように、行列式:F=ARとして表現できる。その場合、クロストーク影響係数Aijは、クロストーク影響行列Aである。
【0173】
クロストーク影響の補正では、上記計算式:F=ΣAij、または、行列式:F=ARに基づいて、理想像(R)を求めればよい。F=ΣAijを変形した連立方程式から、解として理想像(R)が得られる。また、行列式:F=ARを変形して、R=A-1Fとし、この行列式から、解として理想像(R)が得られる。例えば、行列式:R=A-1Fに、クロストーク影響行列Aの逆行列A-1と、検出器の撮像画像である実像(F)とを代入すれば、理想像(R)が得られる。
【0174】
仮に、図7図8の例のように、領域#2から領域#1へのクロストーク影響として、放出電子光量分布#2Bのうちの20%が領域#1内に混入しているとする。この場合、行列式は、例えば領域#1、検出範囲#1に関しては、F=A11×R+A12×R+……+A1N×Rである。クロストーク影響行列Aでは、A11は、検出範囲#1に光量が残留する割合であり、A12は、検出範囲#1に対し検出範囲#2からの光量分布が混入する割合である。クロストーク影響行列Aでの対角成分は、検出範囲127内に光量分布128が残留する成分の割合である。クロストーク影響行列Aでの対角成分以外の成分は、検出範囲iに対し検出範囲jからの光量分布128が混入する割合である。クロストーク影響行列Aの非対角成分(A12等)の値は、1未満である。
【0175】
クロストーク影響行列Aは、混入率の行列(Mとする)と、残留率の行列(Eとする)とに分けて考えることができる。その場合、A=(M+E)である。行列式は、F=(M+E)R、R=(M+E)-1Fとなる。混入率の行列Mでは、成分をmijとすると、mijは、検出範囲iに対する検出範囲jからの光量分布128の混入の割合(図8での#2Bの母量のうちの混入の部分128b)であり、対角成分は0である。残留率の行列Eでは、非対角成分は0であり、対角成分をeiiとすると、eiiは、検出範囲i内での光量分布128の残留の割合であり、検出範囲iの外へ流出した成分を差し引いた成分の割合(図8での#2Bの母量のうちの残留の部分128a)である。
【0176】
荷電粒子ビーム116ごと、領域126ごと、検出器ごとの、画像単位でのクロストーク影響補正は、例えば上記のようなクロストーク影響係数Aを用いた計算式で実現できる。
【0177】
なお、領域126ごとの画像内の画素単位(例えば後述の図12での画素p1等)に着目する場合、実像(F)のうちの画素(言い換えると画素単位の画像、画素画像)は、Fi(x,y)と表現でき、理想像(R)のうちの画素(言い換えると画素単位の理想像)は、Ri(x,y)と表現できる。Fi(x,y)は、複数(N)のうちのi番目の検出器の出力信号141から作成された画像のうちの位置座標(x,y)の位置の画素の輝度に相当する。(x,y)は2次元画像内での位置座標である。このような画素単位の画像についても、同様に、上記計算式を用いて、クロストーク影響補正が実現できる(後述の変形例1)。
【0178】
[走査による画像]
走査型の荷電粒子顕微鏡装置100の場合の、走査による画像について補足する。コントローラ102は、マルチ検出器123の各検出器の出力の信号141に、マルチビーム116に関する走査情報(例えば線順次走査などの走査パターン)を加味して、試料9面の領域126ごとの、言い換えると検出器ごとの、二次元画像を生成する。生成された複数(N)の画像は、上記F=ΣARの式での実像Fに相当する。
【0179】
図12は、図4の複数(N=7)の領域126(#1~#7)に対応した複数(N=7)の画像1201(g1~g7)を示す。1つの領域126ごとに、1つの検出器の信号141を通じて、1つの画像1201が得られる。例えば、領域#3からは画像g3が得られる。1つの領域126は、図12の例では、X,Y方向で、8×8の画素を有する。図12では、領域126ごとに、荷電粒子ビーム116によって、線順次走査が行われる場合を示している。ある走査時点では、それぞれの領域126のうち1つの画素1200(例えば同じ位置の画素p1)に荷電粒子ビーム116が照射される。例えば、第1走査時点では、各領域126の左上の画素p1に各荷電粒子ビーム116が照射される。各領域126は、荷電粒子ビーム116によって例えば線順次走査され、複数の画素1200について、画素1200ごとに画像信号(言い換えると画素画像)が得られる。
【0180】
図12のような、ある走査時点での各領域126内の1つの画素1200の画像は、図4図5で示したように、マルチ検出器123の複数の検出器の複数の信号141を通じて得られる。例えば1つの荷電粒子ビーム116の走査に対応する1つの領域126(例えば8×8画素)からの放出電子ビーム119,121は、1つの検出器の検出範囲127(図5)の中に含まれるように結像される。コントローラ102は、時系列上の複数の走査時点の複数(例えば8×8)の画素1200の画像信号を合成することで、領域126ごとの画像1201として、図12のような複数(N=7)の領域126の複数の画像1201(g1~g7)を得る。
【0181】
実施の形態1での画像単位でのクロストーク影響の補正とは、例えば図12のような画像1201(g1~g7)間でのクロストーク影響の補正である。後述の変形例1での画素単位でのクロストーク影響の補正とは、例えば画素1200間でのクロストーク影響の補正である。画像単位での補正の場合、観測装置124による撮像の期間は、画像1201の撮像の期間に合わせた期間とされる。変形例1での画素単位での補正の場合、観測装置124による撮像の期間は、画素1200の撮像の期間に合わせた期間とされる。
【0182】
なお、走査型の場合、同じ画像領域を複数回繰り返して走査する場合もある。その場合、画像単位の補正における、観測装置124による撮像の期間は、そのような同じ画像領域の複数回の走査を1つにした期間に合わせた期間とされる。
【0183】
[画面表示例]
図13は、プロセッサシステム103が、補正前後の画像を画面に表示する例を示す。図13の上部には、補正前の画像を表示する例を示し、下部には、補正後の画像を表示する例を示している。例として、試料9面の領域126(#1~#7)にそれぞれの領域を表す番号が形成されている。補正前の画像は、例えば前述の図10のようなクロストーク影響がある場合に、検出信号141に基づいて生成された撮像画像である。この画像の場合では、領域#1に対応する検出範囲#1に対し、領域#2,#3,#4に対応する検出範囲#2,#3,#4からの光量の混入がある。そのため、領域#1に対応する画像1301では、番号2,3,4のゴースト像が重畳している。また、領域#2,#3,#4に対応する画像では、それぞれ、光量の流出があるので、番号2,3,4の像は輝度が低くなっている。補正後の画像では、例えば領域#1に対応する画像1302は、領域#2,#3,#4からのクロストーク影響が低減されており、番号1の像が明瞭に写っている。
【0184】
プロセッサシステム103は、画面に補正前の画像を表示し、ユーザが補正ボタンを押した場合に、補正処理を実行し、補正後の画像を表示してもよい。あるいは、プロセッサシステム103は、画面に、補正前後の画像を並べて表示してもよい。また、プロセッサシステム103は、観測装置124による補正用撮像画像を画面に表示してもよい。
【0185】
[実施の形態1の効果等]
実施の形態1によれば、以下のような効果が得られる。マルチビーム型の荷電粒子顕微鏡装置100では、試料帯電や光学調整不足などの要因によって、マルチビーム116に基づいた放出電子ビーム119の軌道が変化することで、撮像用検出器131のマルチ検出器123での検出・撮像の際にクロストークが発生し得る。例えば、第2検出範囲に入射すべき放出電子の光量の一部が第1検出範囲内に混入してしまうこと等が発生し得る(図8)。これに対し、実施の形態1のプロセッサシステムによれば、コントローラ102から得た撮像画像に対する補正によって、そのクロストーク影響を低減でき、すなわちクロストーク影響が低減された理想像に近い画像を得ることができる。実施の形態1によれば、荷電粒子顕微鏡装置100の内部でのクロストークの発生の要因が不明であっても、例えば事前の把握が困難な経時的・局所的な試料帯電などがあったとしても、荷電粒子顕微鏡装置100の出力の撮像画像に対するクロストーク影響の補正が可能である。
【0186】
<変形例>
実施の形態1に関する変形例として少なくとも以下が可能である。
【0187】
[変形例1]
実施の形態1では、荷電粒子ビーム116ごと、領域126ごと、検出器ごとに得られる画像の画像単位で、クロストーク影響の補正、例えば、クロストーク影響係数の計算などを行った。これに限らず、変形例では、その画像のうちの画素の画素単位で、クロストーク影響の補正、例えば、クロストーク影響係数の計算などを行ってもよい。この変形例では、それぞれの画素単位で、すなわち画素間で、クロストーク影響係数が計算され、それぞれの係数は異なる値となる場合がある。それぞれの画素単位の画像間において、クロストーク影響が低減される。
【0188】
図14は、変形例1における、画素単位でのクロストーク影響補正に関する概念の説明図を示す。図14の上部には、試料9面での複数の画素1400に対するマルチビーム116の照射や、複数の画素1400からの複数の放出電子ビーム119の発生などを示している。図14の下部には、複数の領域126に対する複数の画素1400の配置例や、複数の画素1400に対応して得られる複数の画素画像1401を示している。複数の画素1400の各々の画素1400は、前述の各々の領域126の中に含まれている画素(例えば領域126内での同じ位置の画素)であり、画素ごとに対応した画像信号(信号141)として画素画像1401(例えばh1~h7)が得られる。図示しないが、シンチレータ122の面での放出電子光量分布は、図5等と同様の概念となる。
【0189】
変形例1での、画素単位でのクロストーク影響補正は、これらの画素1400間、対応する複数の検出器間、複数の信号141間、複数の画素画像1401間でのクロストーク影響の補正である。観測装置124の補正用撮像画像の撮像の期間は、検出器による画素1400の検出の期間に対応させた期間とされる。
【0190】
変形例1によれば、画素単位での詳細なクロストーク影響補正が可能である。他の変形例としては、複数の画素から成る画素ブロック(例えば2×2画素ブロック、4×4画素ブロックなど)を単位として、同様に、クロストーク影響補正を行ってもよい。また、他の変形例としては、まず画素単位でのクロストーク影響の評価を行った後、その評価結果(例えば仮のクロストーク影響係数)を、領域126の画像単位で例えば平均値などの統計をとり、その統計から領域126の画像単位でのクロストーク影響係数を計算し、そのクロストーク影響係数を用いて領域126の画像単位でのクロストーク影響補正を行う、といったことも可能である。
【0191】
[変形例2]
実施の形態1では、プロセッサシステム103は、補正用撮像画像での実際の放出電子光量分布128に基づいて実際の混入率などを評価して、クロストーク影響係数を計算した。クロストーク影響係数の計算(図2でのステップS2)で、プロセッサシステム103は、さらに、荷電粒子顕微鏡装置100の撮像対象の試料9の材質やパターン形状、撮像条件など(例えば光学系のパラメータ値、一次電子ビームの加速電圧、走査の方式や時間など)の情報を考慮して、そのクロストーク影響係数を計算してもよい。例えば試料9の面のパターン形状などに応じて、クロストークの要因となる帯電状態が変わり、その帯電状態がクロストークの詳細に反映され得る。
【0192】
変形例2におけるプロセッサシステム103は、撮像画像のデータ143(図1)のみならず、そのような試料情報や撮像条件情報などの関連情報を、コントローラ102から取得し、補正プログラム304に基づいて、図2のステップS2のクロストーク影響係数の計算を行う。計算の一例としては、パターン形状の情報から、試料9面の凹凸の度合いが大きいほど、帯電量が大きいと推定して、その凹凸の箇所に関するクロストーク影響係数を大きくすることが挙げられる。変形例2によれば、クロストークの発生の要因を考慮して、より高精度に補正が可能である。
【0193】
[変形例3]
実施の形態1では、コントローラ102が生成した撮像画像のデータ143(図1)に基づいて、その撮像画像に対し、プロセッサシステム103が補正を行った。これに限らず、変形例3としては、プロセッサシステム103が、マルチ検出器123の検出信号141を取得・入力し、その検出信号141に基づいて、クロストーク影響係数を用いた補正を行いながら、撮像画像を生成してもよい。この変形例3では、コントローラ102は、検出信号141および補正用撮像画像の信号142と、検出に関連する走査情報などを、データ143として、プロセッサシステム103に伝送する。プロセッサシステム103は、そのデータ143に基づいて、クロストーク影響を補正しながら、撮像画像を生成する処理を、実施の形態1と同様に行う。
【0194】
[付記]
実施の形態1では、図1のように、プロセッサシステム103と荷電粒子顕微鏡装置100とが別のハードウェアである構成とした。これに限定されず、プロセッサシステム103が荷電粒子顕微鏡装置100に含まれる構成、例えば、コントローラ102とプロセッサシステム103が共通である構成としてもよい。
【0195】
これまでの説明では、荷電粒子ビーム116の荷電粒子は電子の場合を説明したが、イオン等、他の荷電粒子を用いてもよい。この場合、電子銃111は、荷電粒子を発生させる電子銃及びイオン銃等を例とする、荷電粒子を発生させる荷電粒子源111と読み替えられる。
【0196】
これまでの説明では、電子銃111は1つで、マルチビーム形成素子115で複数の荷電粒子ビーム116を形成する例を例示したが、本発明は複数の荷電粒子ビーム116を生成できるのであれば他の構成であってもよい。例えば、個々の荷電粒子ビーム116に対応する電子銃111を各々備えてもよい(つまり複数の電子銃111を備えてもよい)。
【0197】
以上、本開示の実施の形態について具体的に説明したが、前述の実施の形態に限定されず、要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。各実施の形態は、必須構成要素を除き、構成要素の追加・削除・置換などが可能である。特に限定しない場合、各構成要素は、単数でも複数でもよい。各実施の形態や変形例を組み合わせた形態も可能である。
【符号の説明】
【0198】
100…荷電粒子顕微鏡装置、102…コントローラ、103…プロセッサシステム、116…マルチビーム(荷電粒子ビーム)、9…試料、122…シンチレータ、123…マルチ検出器、124…観測装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14