(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094761
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】Ni基自溶合金
(51)【国際特許分類】
C22C 19/05 20060101AFI20240703BHJP
C22C 19/03 20060101ALI20240703BHJP
C22F 1/10 20060101ALN20240703BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20240703BHJP
【FI】
C22C19/05 B
C22C19/03 G
C22F1/10 H
C22F1/10 A
C22F1/00 614
C22F1/00 613
C22F1/00 611
C22F1/00 630B
C22F1/00 640A
C22F1/00 630D
C22F1/00 621
C22F1/00 681
C22F1/00 687
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 692A
C22F1/00 650A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022211516
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000180070
【氏名又は名称】山陽特殊製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】廣野 友紀
(72)【発明者】
【氏名】澤田 俊之
(57)【要約】
【課題】溶性に優れており、かつ靱性に優れた皮膜6が得られうるNi基合金の提供。
【解決手段】皮膜6のためのNi基自溶合金は、
P:0.10質量%以上10.00質量%以下、
B:0.00質量%以上5.00質量%以下、
Si:0.00量%以上5.00質量%以下、
C:0.0質量%以上3.0質量%以下、
Cr:0.0質量%以上30.0質量%以下、
Cu:0.0質量%以上10.0質量%以下、
Mn:0.0質量%以上10.0質量%以下、
Fe:0.0質量%以上10.0質量%以下、
及び
Co:0.0質量%以上10.0質量%以下、
を含有する。この合金はさらに、Mo、W、Al、Ti、Zr及びHfを含みうる。下記数式(3)で算出される比R1は、7.00以下である。
R1 = (B% + Si%) / P% (3)
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
P:0.10質量%以上10.00質量%以下、
B:0.00質量%以上5.00質量%以下、
Si:0.00量%以上5.00質量%以下、
C:0.0質量%以上3.0質量%以下、
Cr:0.0質量%以上30.0質量%以下、
Mo:0.0質量%以上9.0質量%以下、
W:0.0質量%以上18.0質量%以下、
Cu:0.0質量%以上10.0質量%以下、
Mn:0.0質量%以上10.0質量%以下、
Fe:0.0質量%以上10.0質量%以下、
Co:0.0質量%以上10.0質量%以下、
Al:0.00質量%以上0.20質量%以下、
Ti:0.00質量%以上0.20質量%以下、
Zr:0.00質量%以上0.20質量%以下、
及び
Hf:0.00質量%以上0.20質量%以下
を含有しており、残部がNi及び不可避的不純物であり、下記数式(1)及び(2)を満たし、
下記数式(3)で算出される比R1が7.00以下であるNi基自溶合金。
Mo% + W% / 2 ≦ 9.0 (1)
Al% + Ti% + Zr% + Hf% ≦ 0.20 (2)
R1 = (B% + Si%) / P% (3)
(これらの数式において、Mo%はMoの質量含有率を表し、W%はWの質量含有率を表し、Al%はAlの質量含有率を表し、Ti%はTiの質量含有率を表し、Zr%はZrの質量含有率を表し、Hf%はHfの質量含有率を表し、B%はBの質量含有率を表し、Si%はSiの質量含有率を表し、P%はPの質量含有率を表す。)
【請求項2】
Bを実質的に含まない、請求項1に記載の合金。
【請求項3】
Siを実質的に含まない、請求項1又は2に記載の合金。
【請求項4】
その材質がNi基自溶合金であり、
上記Ni基自溶合金が、
P:0.10質量%以上10.00質量%以下、
B:0.00質量%以上5.00質量%以下、
Si:0.00量%以上5.00質量%以下、
C:0.0質量%以上3.0質量%以下、
Cr:0.0質量%以上30.0質量%以下、
Mo:0.0質量%以上9.0質量%以下、
W:0.0質量%以上18.0質量%以下、
Cu:0.0質量%以上10.0質量%以下、
Mn:0.0質量%以上10.0質量%以下、
Fe:0.0質量%以上10.0質量%以下、
Co:0.0質量%以上10.0質量%以下、
Al:0.00質量%以上0.20質量%以下、
Ti:0.00質量%以上0.20質量%以下、
Zr:0.00質量%以上0.20質量%以下、
及び
Hf:0.00質量%以上0.20質量%以下
を含有しており、残部がNi及び不可避的不純物であり、下記数式(1)及び(2)を満たし、
下記数式(3)で算出される比R1が7.00以下である粉末。
Mo% + W% / 2 ≦ 9.0 (1)
Al% + Ti% + Zr% + Hf% ≦ 0.20 (2)
R1 = (B% + Si%) / P% (3)
(これらの数式において、Mo%はMoの質量含有率を表し、W%はWの質量含有率を表し、Al%はAlの質量含有率を表し、Ti%はTiの質量含有率を表し、Zr%はZrの質量含有率を表し、Hf%はHfの質量含有率を表し、B%はBの質量含有率を表し、Si%はSiの質量含有率を表し、P%はPの質量含有率を表す。)
【請求項5】
その材質がNi基自溶合金であり、
上記Ni基自溶合金が、
P:0.10質量%以上10.00質量%以下、
B:0.00質量%以上5.00質量%以下、
Si:0.00量%以上5.00質量%以下、
C:0.0質量%以上3.0質量%以下、
Cr:0.0質量%以上30.0質量%以下、
Mo:0.0質量%以上9.0質量%以下、
W:0.0質量%以上18.0質量%以下、
Cu:0.0質量%以上10.0質量%以下、
Mn:0.0質量%以上10.0質量%以下、
Fe:0.0質量%以上10.0質量%以下、
Co:0.0質量%以上10.0質量%以下、
Al:0.00質量%以上0.20質量%以下、
Ti:0.00質量%以上0.20質量%以下、
Zr:0.00質量%以上0.20質量%以下、
及び
Hf:0.00質量%以上0.20質量%以下
を含有しており、残部がNi及び不可避的不純物であり、下記数式(1)及び(2)を満たし、
下記数式(3)で算出される比R1が7.00以下である皮膜。
Mo% + W% / 2 ≦ 9.0 (1)
Al% + Ti% + Zr% + Hf% ≦ 0.20 (2)
R1 = (B% + Si%) / P% (3)
(これらの数式において、Mo%はMoの質量含有率を表し、W%はWの質量含有率を表し、Al%はAlの質量含有率を表し、Ti%はTiの質量含有率を表し、Zr%はZrの質量含有率を表し、Hf%はHfの質量含有率を表し、B%はBの質量含有率を表し、Si%はSiの質量含有率を表し、P%はPの質量含有率を表す。)
【請求項6】
主部と、この主部の表面を覆う皮膜とを有しており、
上記皮膜の材質がNi基自溶合金であり、
上記Ni基自溶合金が、
P:0.10質量%以上10.00質量%以下、
B:0.00質量%以上5.00質量%以下、
Si:0.00量%以上5.00質量%以下、
C:0.0質量%以上3.0質量%以下、
Cr:0.0質量%以上30.0質量%以下、
Mo:0.0質量%以上9.0質量%以下、
W:0.0質量%以上18.0質量%以下、
Cu:0.0質量%以上10.0質量%以下、
Mn:0.0質量%以上10.0質量%以下、
Fe:0.0質量%以上10.0質量%以下、
Co:0.0質量%以上10.0質量%以下、
Al:0.00質量%以上0.20質量%以下、
Ti:0.00質量%以上0.20質量%以下、
Zr:0.00質量%以上0.20質量%以下、
及び
Hf:0.00質量%以上0.20質量%以下
を含有しており、残部がNi及び不可避的不純物であり、下記数式(1)及び(2)を満たし、
下記数式(3)で算出される比R1が7.00以下である金属製品。
Mo% + W% / 2 ≦ 9.0 (1)
Al% + Ti% + Zr% + Hf% ≦ 0.20 (2)
R1 = (B% + Si%) / P% (3)
(これらの数式において、Mo%はMoの質量含有率を表し、W%はWの質量含有率を表し、Al%はAlの質量含有率を表し、Ti%はTiの質量含有率を表し、Zr%はZrの質量含有率を表し、Hf%はHfの質量含有率を表し、B%はBの質量含有率を表し、Si%はSiの質量含有率を表し、P%はPの質量含有率を表す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、自溶性を有する合金を開示する。詳細には、本明細書は、ベース金属がNiである自溶合金を開示する。
【背景技術】
【0002】
種々のNi基自溶合金が、「JIS H8303 2010」に規定されている。それぞれのNi基自溶合金は、B及びSiを含有する。B及びSiは、酸化物を還元する。B及びSiはさらに、合金の固相線温度又は液相線温度を下げうる。このNi基自溶合金が溶射法、肉盛溶接法、遠心鋳造法等に供されて、皮膜が得られる。この皮膜によって、金属製品の主部が覆われる。この金属製品は、耐食性、耐摩耗性等に優れる。
【0003】
皮膜に、再溶融処理がなされることがある。再溶融処理では、皮膜が加熱され、皮膜に液相が出現する。この液相は、冷却によって凝固する。再溶融処理は、皮膜の緻密性を高めうる。固相線温度又は液相線温度が低いので、Ni基自溶合金は、再溶融処理に適している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献1】JISハンドブック2010 H8303
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
皮膜の形成や、その後の再溶融処理では、主部が高温に曝される。この熱履歴は、主部に損傷を生じさせる。この熱履歴はさらに、金属製品の特性を劣化させる。従来の合金の自溶性は、不十分である。
【0006】
金属製品が過酷な環境で使用されると、皮膜が損傷しやすい。損傷の抑制の観点から、皮膜には靱性が要求される。従来の合金から得られる皮膜の靱性は、不十分である。
【0007】
本発明者らの意図するところは、自溶性に優れており、かつ靱性に優れた皮膜が得られうるNi基合金の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書が開示するNi基自溶合金は、
P:0.10質量%以上10.00質量%以下、
B:0.00質量%以上5.00質量%以下、
Si:0.00量%以上5.00質量%以下、
C:0.0質量%以上3.0質量%以下、
Cr:0.0質量%以上30.0質量%以下、
Mo:0.0質量%以上9.0質量%以下、
W:0.0質量%以上18.0質量%以下、
Cu:0.0質量%以上10.0質量%以下、
Mn:0.0質量%以上10.0質量%以下、
Fe:0.0質量%以上10.0質量%以下、
Co:0.0質量%以上10.0質量%以下、
Al:0.00質量%以上0.20質量%以下、
Ti:0.00質量%以上0.20質量%以下、
Zr:0.00質量%以上0.20質量%以下、
及び
Hf:0.00質量%以上0.20質量%以下
を含有する。残部は、Ni及び不可避的不純物である。この合金は、下記数式(1)及び(2)を満たす。下記数式(3)で算出される比R1は、7.00以下である。
Mo% + W% / 2 ≦ 9.0 (1)
Al% + Ti% + Zr% + Hf% ≦ 0.20 (2)
R1 = (B% + Si%) / P% (3)
これらの数式において、Mo%はMoの質量含有率を表し、W%はWの質量含有率を表し、Al%はAlの質量含有率を表し、Ti%はTiの質量含有率を表し、Zr%はZrの質量含有率を表し、Hf%はHfの質量含有率を表し、B%はBの質量含有率を表し、Si%はSiの質量含有率を表し、P%はPの質量含有率を表す。
【0009】
好ましくは、この合金は、Bを実質的に含まない。好ましくは、この合金は、Siを実質的に含まない。
【0010】
本明細書が開示する粉末の材質は、Ni基自溶合金である。このNi基自溶合金は、
P:0.10質量%以上10.00質量%以下、
B:0.00質量%以上5.00質量%以下、
Si:0.00量%以上5.00質量%以下、
C:0.0質量%以上3.0質量%以下、
Cr:0.0質量%以上30.0質量%以下、
Mo:0.0質量%以上9.0質量%以下、
W:0.0質量%以上18.0質量%以下、
Cu:0.0質量%以上10.0質量%以下、
Mn:0.0質量%以上10.0質量%以下、
Fe:0.0質量%以上10.0質量%以下、
Co:0.0質量%以上10.0質量%以下、
Al:0.00質量%以上0.20質量%以下、
Ti:0.00質量%以上0.20質量%以下、
Zr:0.00質量%以上0.20質量%以下、
及び
Hf:0.00質量%以上0.20質量%以下
を含有する。残部は、Ni及び不可避的不純物である。この合金は、下記数式(1)及び(2)を満たす。下記数式(3)で算出される比R1は、7.00以下である。
Mo% + W% / 2 ≦ 9.0 (1)
Al% + Ti% + Zr% + Hf% ≦ 0.20 (2)
R1 = (B% + Si%) / P% (3)
これらの数式において、Mo%はMoの質量含有率を表し、W%はWの質量含有率を表し、Al%はAlの質量含有率を表し、Ti%はTiの質量含有率を表し、Zr%はZrの質量含有率を表し、Hf%はHfの質量含有率を表し、B%はBの質量含有率を表し、Si%はSiの質量含有率を表し、P%はPの質量含有率を表す。
【0011】
本明細書が開示する皮膜の材質は、Ni基自溶合金である。このNi基自溶合金は、
P:0.10質量%以上10.00質量%以下、
B:0.00質量%以上5.00質量%以下、
Si:0.00量%以上5.00質量%以下、
C:0.0質量%以上3.0質量%以下、
Cr:0.0質量%以上30.0質量%以下、
Mo:0.0質量%以上9.0質量%以下、
W:0.0質量%以上18.0質量%以下、
Cu:0.0質量%以上10.0質量%以下、
Mn:0.0質量%以上10.0質量%以下、
Fe:0.0質量%以上10.0質量%以下、
Co:0.0質量%以上10.0質量%以下、
Al:0.00質量%以上0.20質量%以下、
Ti:0.00質量%以上0.20質量%以下、
Zr:0.00質量%以上0.20質量%以下、
及び
Hf:0.00質量%以上0.20質量%以下
を含有する。残部は、Ni及び不可避的不純物である。この合金は、下記数式(1)及び(2)を満たす。下記数式(3)で算出される比R1は、7.00以下である。
Mo% + W% / 2 ≦ 9.0 (1)
Al% + Ti% + Zr% + Hf% ≦ 0.20 (2)
R1 = (B% + Si%) / P% (3)
これらの数式において、Mo%はMoの質量含有率を表し、W%はWの質量含有率を表し、Al%はAlの質量含有率を表し、Ti%はTiの質量含有率を表し、Zr%はZrの質量含有率を表し、Hf%はHfの質量含有率を表し、B%はBの質量含有率を表し、Si%はSiの質量含有率を表し、P%はPの質量含有率を表す。
【0012】
本明細書が開示する金属材料は、主部とこの主部の表面を覆う皮膜とを有する。この皮膜の材質は、Ni基自溶合金である。このNi基自溶合金は、
P:0.10質量%以上10.00質量%以下、
B:0.00質量%以上5.00質量%以下、
Si:0.00量%以上5.00質量%以下、
C:0.0質量%以上3.0質量%以下、
Cr:0.0質量%以上30.0質量%以下、
Mo:0.0質量%以上9.0質量%以下、
W:0.0質量%以上18.0質量%以下、
Cu:0.0質量%以上10.0質量%以下、
Mn:0.0質量%以上10.0質量%以下、
Fe:0.0質量%以上10.0質量%以下、
Co:0.0質量%以上10.0質量%以下、
Al:0.00質量%以上0.20質量%以下、
Ti:0.00質量%以上0.20質量%以下、
Zr:0.00質量%以上0.20質量%以下、
及び
Hf:0.00質量%以上0.20質量%以下
を含有する。残部は、Ni及び不可避的不純物である。この合金は、下記数式(1)及び(2)を満たす。下記数式(3)で算出される比R1は、7.00以下である。
Mo% + W% / 2 ≦ 9.0 (1)
Al% + Ti% + Zr% + Hf% ≦ 0.20 (2)
R1 = (B% + Si%) / P% (3)
これらの数式において、Mo%はMoの質量含有率を表し、W%はWの質量含有率を表し、Al%はAlの質量含有率を表し、Ti%はTiの質量含有率を表し、Zr%はZrの質量含有率を表し、Hf%はHfの質量含有率を表し、B%はBの質量含有率を表し、Si%はSiの質量含有率を表し、P%はPの質量含有率を表す。
【発明の効果】
【0013】
このNi基自溶合金の固相線温度又は液相線温度は、低い。このNi基自溶合金から、比較的低温での処理により、緻密な皮膜が形成されうる。この処理では、主部が高温に曝されない。この皮膜は、低硬度であって靱性に優れる。この皮膜を有する金属製品は、諸性能に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る金属製品の一部が模式的に示された断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態が説明される。
【0016】
図1に示された金属製品2は、主部4と皮膜6とを有している。皮膜6は、主部4の表面を覆っている。皮膜6が、主部4の表面の全体を覆ってもよく、一部を覆ってもよい。主部4の材質は、金属材料である。種々の金属材料が、主部4に適している。典型的な金属材料は、Fe基合金及びCu基合金である。皮膜6は、溶射法、肉盛溶接法、遠心鋳造法等によって得られる。これらの方法では、粉末が用いられる。
【0017】
この粉末は、多数の粒子の集合である。これらの粒子の材質は、Ni基自溶合金である。このNi基自溶合金は、
P:0.10質量%以上10.00質量%以下、
B:0.00質量%以上5.00質量%以下、
Si:0.00量%以上5.00質量%以下、
C:0.0質量%以上3.0質量%以下、
Cr:0.0質量%以上30.0質量%以下、
Mo:0.0質量%以上9.0質量%以下、
W:0.0質量%以上18.0質量%以下、
Cu:0.0質量%以上10.0質量%以下、
Mn:0.0質量%以上10.0質量%以下、
Fe:0.0質量%以上10.0質量%以下、
Co:0.0質量%以上10.0質量%以下、
Al:0.00質量%以上0.20質量%以下、
Ti:0.00質量%以上0.20質量%以下、
Zr:0.00質量%以上0.20質量%以下、
及び
Hf:0.00質量%以上0.20質量%以下
を含有する。残部は、Ni及び不可避的不純物である。
【0018】
従来のNi基自溶合金では、B及びSiが自溶性に寄与する。本実施形態に係るNi基自溶合金では、主としてPが自溶性に寄与する。この合金は、自溶性に極めて優れている。以下、このNi基自溶合金の組成が詳説される。
【0019】
[リン(P)]
Pは、本実施形態に係る合金において、重要な役割を果たす。Pは、固相線温度を低下させる。Pの添加により、従来のNi基自溶合金では達成され得なかった、低い固相線温度が達成されうる。Pの添加により、1000℃以下、さらには950℃以下の条件での再溶融処理であっても、皮膜6の緻密が達成されうる。NiとBとの2元系平衡状態図における固相線温度は、約1093℃である。NiとSiとの2元系平衡状態図における固相線温度は、約1143℃である。一方、NiとPとの2元系平衡状態図における固相線温度は、約870℃であり、著しく低い。このような、Niに対するPの特性が、本実施形態に係るNi基自溶合金の低い固相線温度に寄与していると、推測される。
【0020】
金属製品2では、皮膜6の特性だけでなく、その下の基材の特性も重要視される。通常、高い高温強度や耐食性を必要とする部材ではステンレス鋼の母材が用いられるが、皮膜を緻密化させるために必要な1000℃以上での再溶融処理を行った場合、ステンレス鋼基材の結晶粒が粗大化し強度低下を起こす。また、高い熱伝導性や電気伝導性を必要とする部材ではCu合金の母材が用いられるが、Cuの融点は1083℃程度であり、1000℃以上の再溶融処理により基材が溶融したり、過度に変形したりするなどの問題が起こる。一方、このNi基自溶合金から、低い処理温度で、皮膜6が形成されうる。さらにこの皮膜6には、低い温度での再溶融処理が採用されうる。従って、この金属製品2では、熱履歴による主部4へのダメージが、抑制されうる。例えば、主部4の材質がステンレス鋼である場合、結晶粒の粗大化が抑制される。微細な結晶粒は、金属製品2の強度に寄与しうる。主部4の材質が銅合金である場合、この主部4の溶融及び変形が、抑制されうる。
【0021】
さらに、ステンレス鋼は一般的な鉄鋼材(SS400)に比べて熱の伝わり方が3倍程度遅いため、基材の形状やガスバーナーを用いたフュージングなど、加熱ムラがある場合に変形しやすい。一方、このNi基自溶合金の固相線温度は低いので、高出力な加熱手段によっても再溶融処理が達成されうる。この加熱手段による再溶融処理では、加熱ムラは生じにくい。従って、加熱ムラに起因する主部4の変形が、抑制されうる。この皮膜6は、熱伝導率が低い主部4にも適している。熱伝導率が低い主部4の材質として、ステンレス鋼が例示される。
【0022】
従来のNi基自溶合金からなる皮膜6では、この皮膜6から主部4にBが拡散し、金属製品2の特性を損なうおそれがある。例えば、硬質で粗大な硼化物を晶出させ,基材と皮膜の密着性を損なうことやそれに伴う耐食性劣化が考えられる。特に、主部4の材質がFe基合金である場合に、金属製品2の特性が損なわれやすい。例えば、主部4の材質がSUS304(オーステナイト系ステンレス鋼)である場合、主部4の粒界に過度に拡散したBがCrと反応してクロムホウ化物が生成される。この生成により、周囲のSUS304基地のCr濃度が下がり、いわゆるステンレス鋼の鋭敏化に類似の現象が見られ、皮膜6との界面の近くにおいて主部4の耐食性が阻害される。主部4の材質がSUS316(Mo含有オーステナイト系ステンレス鋼)である場合、主部4の粒界に過度に拡散したBがCr及びMoと反応してクロムホウ化物及びモリブデンホウ化物が生成される。これらの生成により、主部4の基地のCr及びMoが欠乏し、皮膜6との界面の近くにおいて主部4の耐食性が阻害される。本発明者らは、主部4と皮膜6との界面のミクロ組織観察により、従来のNi基自溶合金における耐食性阻害の原因を解明した。そして、耐食性阻害を抑制すべく鋭意検討し、Bの全部又は一部がPで置換されたNi基自溶合金に到達した。この合金では、Pが主部4に拡散する。Pの拡散は、Bの拡散を抑制すると推測される。Bの拡散が抑制された主部4では、耐食性阻害が生じにくい。
【0023】
皮膜6は、粉末が用いられた溶射法によって形成されうる。Ni基自溶合金がPを含むので、この皮膜6は緻密である。その理由は、以下の通りであると推測される。溶射法では、高温の粒子(溶融金属)が空間を飛翔する。この飛翔において粒子に、わずかではあるが酸化物が生成する。Ni基自溶合金がPを含んでいるので、粒子に生成する酸化物の一部は、Pを含有する。P含有酸化物の昇華温度が低いので、このP含有酸化物の一部は飛翔中に気化する。従って、皮膜6に含まれる酸化物の量は、少ない。この皮膜6では、酸化物による緻密性阻害が、抑制される。
【0024】
これらの観点から、Pの含有率は0.10質量%以上が好ましく、0.20質量%以上がより好ましく、0.50質量%以上が特に好ましい。過剰のPは、皮膜6における粗大なリン化物の析出を招来する。粗大なリン化物は、皮膜6の脆化を招来し、かつ皮膜6の機械加工性を阻害する。皮膜6の靱性及び加工性の観点から、この含有率は10.00質量%以下が好ましく、7.00質量%以下がより好ましく、5.00質量%以下が特に好ましい。
【0025】
[ホウ素(B)]
Bは、Ni基自溶合金の固相線温度を低下させる。さらにBは、皮膜6中の酸化物を還元しうる。一方、過剰のBは、皮膜6における粗大なホウ化物の析出を招来する。粗大なホウ化物は、皮膜6の液相線温度を上昇させ、この皮膜6の再溶融処理の困難を招く。さらに、このホウ化物を含む皮膜6は、高硬度であって靱性に劣る。再溶融処理の容易の観点、及び皮膜6の優れた靱性の観点から、Bの含有率は5.00質量%以下が好ましく、4.00質量%以下がより好ましく、2.00質量%以下が特に好ましい。
【0026】
このNi基自溶合金では、固相線温度を低下の役割をPが担う。従って、Bは、必須の元素ではない。再溶融処理の容易の観点、及び皮膜6の優れた靱性の観点から、この合金がBを実質的に含まないことが好ましい。換言すれば、Bの含有率が検出限界未満である合金、及びBが不可避的不純物として検出される合金が、好ましい。
【0027】
[ケイ素(Si)]
Siは、Ni基自溶合金の固相線温度を低下させる。さらにSiは、皮膜6中の酸化物を還元しうる。一方、過剰のSiは、皮膜6の脆化を招来し、かつ皮膜6の機械加工性を阻害する。皮膜6の靱性及び加工性の観点から、この含有率は5.00質量%以下が好ましく、4.0質量%以下がより好ましく、3.00質量%以下が特に好ましい。
【0028】
このNi基自溶合金では、固相線温度を低下の役割をPが担う。従って、Siは、必須の元素ではない。皮膜6の靱性及び加工性の観点から、この合金がSiを実質的に含まないことが好ましい。換言すれば、Siの含有率が検出限界未満である合金、及びSiが不可避的不純物として検出される合金が、好ましい。
【0029】
[炭素(C)]
Cは、皮膜6の高硬度に寄与する。Cは、皮膜6に高硬度が必要な場合に、Ni基自溶合金に添加される。従って、Cは必須の元素ではない。高硬度の観点から、Cの含有率は0.10質量%以上が好ましく、0.20質量%以上がより好ましく、0.40質量%以上が特に好ましい。過剰のCは、皮膜6の脆化を招来し、かつ皮膜6の機械加工性を阻害する。皮膜6の靱性及び加工性の観点から、この含有率は3.00質量%以下が好ましく、2.50質量%以下がより好ましく、2.00質量%以下が特に好ましい。
【0030】
[クロム(Cr)]
Crは、皮膜6の耐食性に寄与する。Crは、皮膜6に耐食性が必要な場合に、Ni基自溶合金に添加される。従って、Crは必須の元素ではない。耐食性の観点から、Crの含有率は2.0質量%以上が好ましく、8.0質量%以上がより好ましく、10.0質量%以上が特に好ましい。過剰のCrは、皮膜6の液相線温度を上昇させ、この皮膜6の再溶融処理の困難を招来する。再溶融処理の容易の観点から、この含有率は30.0質量%以下が好ましく、20.0質量%以下がより好ましく、18.0質量%以下が特に好ましい。
【0031】
[モリブデン(Mo)]
Moは、皮膜6の耐食性に寄与する。Moは、皮膜6に耐食性が必要な場合に、Ni基自溶合金に添加される。従って、Moは必須の元素ではない。耐食性の観点から、Moの含有率は0.5質量%以上が好ましく、0.8質量%以上がより好ましく、1.0質量%以上が特に好ましい。過剰のMoは、皮膜6の液相線温度を上昇させ、この皮膜6の再溶融処理の困難を招来する。過剰のMoはさらに、粗大なモリブデン含有リン化物の析出を招来する。粗大なリン化物は、皮膜6の脆化を招来し、かつ皮膜6の機械加工性を阻害する。再溶融処理の容易、靱性及び加工性の観点から、この含有率は9.0質量%以下が好ましく、5.0質量%以下がより好ましく、4.0質量%以下が特に好ましい。
【0032】
[タングステン(W)]
Wは、皮膜6の耐食性に寄与する。Wは、皮膜6に耐食性が必要な場合に、Ni基自溶合金に添加される。従って、Wは必須の元素ではない。耐食性の観点から、Wの含有率は1.0質量%以上が好ましく、1.5質量%以上がより好ましく、2.0質量%以上が特に好ましい。過剰のWは、皮膜6の液相線温度を上昇させ、この皮膜6の再溶融処理の困難を招来する。過剰のWはさらに、粗大なタングステン含有リン化物の析出を招来する。粗大なリン化物は、皮膜6の脆化を招来し、かつ皮膜6の機械加工性を阻害する。再溶融処理の容易、靱性及び加工性の観点から、この含有率は18.0質量%以下が好ましく、10.0質量%以下がより好ましく、8.0質量%以下が特に好ましい。
【0033】
[Mo及びW]
このNi基自溶合金は、下記の数式(1)を満たす。
Mo% + W% / 2 ≦ 9.0 (1)
この数式において、Mo%はMoの質量含有率を表し、W%はWの質量含有率を表す。Ni基自溶合金においてWは、Moと同等の役割を果たす。しかし、Wの添加で得られる効果は、同量のMoの添加で得られる効果の、約半分である。従って本実施形態では、Wの含有率に対する係数として1/2が採用されて、モリブデン当量(Mo%+W%/2)が算出される。上記数式を満たすNi基自溶合金では、モリブデン当量は9.0質量%以下である。このNi基自溶合金から、再溶融処理が容易であり、靱性及び加工性に優れた皮膜6が得られうる。これらの観点から、モリブデン当量は5.0質量%以下がより好ましく、4.0質量%以下が特に好ましい。前述の通り、Mo及びWは、必須の元素ではない。従って、モリブデン当量がゼロであってもよい。耐食性の観点から、モリブデン当量は0.5質量%以上が好ましく、0.8質量%以上がより好ましく、1.0質量%以上が特に好ましい。
【0034】
[銅(Cu)]
Cuは、皮膜6の耐食性に寄与する。Cuは、皮膜6に耐食性が必要な場合に、Ni基自溶合金に添加される。従って、Cuは必須の元素ではない。耐食性の観点から、Cuの含有率は0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、1.0質量%以上が特に好ましい。過剰のCuは、かえって皮膜6の耐食性を阻害する。耐食性の観点から、この含有率は10.0質量%以下が好ましく、5.0質量%以下がより好ましく、4.0質量%以下が特に好ましい。
【0035】
[マンガン(Mn)]
Mnは、本実施形態に係るNi基自溶合金の特性に、大きな影響を与えない。Mnは、Ni基自溶合金の必須成分ではない。従って、このNi基自溶合金におけるMnの含有が、ゼロであってもよい。過剰のMnは、必須元素の含有率の低下を招く。従って、Mnの含有率は10.0質量%以下が好ましい。
【0036】
[鉄(Fe)]
Feは、本実施形態に係るNi基自溶合金の特性に、大きな影響を与えない。Feは、Ni基自溶合金の必須成分ではない。従って、このNi基自溶合金におけるFeの含有が、ゼロであってもよい。過剰のFeは、必須元素の含有率の低下を招く。従って、Feの含有率は10.0質量%以下が好ましい。
【0037】
[コバルト(Co)]
Coは、本実施形態に係るNi基自溶合金の特性に、大きな影響を与えない。Coは、Ni基自溶合金の必須成分ではない。従って、このNi基自溶合金におけるCoの含有が、ゼロであってもよい。過剰のCoは、必須元素の含有率の低下を招く。従って、Coの含有率は10.0質量%以下が好ましい。
【0038】
[アルミニウム(Al)]
本実施形態においてAlは、不純物である。過剰のAlは強固な酸化皮膜を生成し、皮膜6の緻密性を阻害する。緻密性の観点から、Alの含有率は0.20質量%以下が好ましく、0.15質量%以下がより好ましく、0.10質量%以下が特に好ましい。Alの理想的な含有率は、ゼロである。
【0039】
[チタン(Ti)]
本実施形態においてTiは、不純物である。過剰のTiは強固な酸化皮膜を生成し、皮膜6の緻密性を阻害する。緻密性の観点から、Tiの含有率は0.20質量%以下が好ましく、0.15質量%以下がより好ましく、0.10質量%以下が特に好ましい。Tiの理想的な含有率は、ゼロである。
【0040】
[ジルコニウム(Zr)]
本実施形態においてZrは、不純物である。過剰のZrは強固な酸化皮膜を生成し、皮膜6の緻密性を阻害する。緻密性の観点から、Zrの含有率は0.20質量%以下が好ましく、0.15質量%以下がより好ましく、0.10質量%以下が特に好ましい。Zrの理想的な含有率は、ゼロである。
【0041】
[ハフニウム(Hf)]
本実施形態においてHfは、不純物である。過剰のHfは強固な酸化皮膜を生成し、皮膜6の緻密性を阻害する。緻密性の観点から、Hfの含有率は0.20質量%以下が好ましく、0.15質量%以下がより好ましく、0.10質量%以下が特に好ましい。Hfの理想的な含有率は、ゼロである。
【0042】
[Al、Ti、Zr及びHf]
このNi基自溶合金は、下記の数式(2)を満たす。
Al% + Ti% + Zr% + Hf% ≦ 0.20 (2)
この数式において、Al%はAlの質量含有率を表し、Ti%はTiの質量含有率を表し、Zr%はZrの質量含有率を表し、Hf%はHfの質量含有率を表す。この数式を満たすNi基自溶合金では、Al、Ti、Zr及びHfの合計含有率は、0.20質量%以下である。このNi基自溶合金では、強固な酸化皮膜の生成が抑制される。従ってこのNi基自溶合金では、緻密な皮膜6が形成されうる。この観点から、この合計含有率は0.20質量%以下が好ましく、0.15質量%以下がより好ましく、0.10質量%以下が特に好ましい。理想的な合計含有率は、ゼロである。
【0043】
[比R1]
本実施形態では、下記数式(3)によって比R1が算出される。
R1 = (B% + Si%) / P% (3)
この数式において、B%はBの質量含有率を表し、Si%はSiの質量含有率を表し、P%はPの質量含有率を表す。前述の通り、P、B及びSiのそれぞれは、固相線温度を低下させうる。比R1は、固相線温度低下に対する、B及びSiの寄与度と、Pの寄与度との比である。比R1は、7.00以下が好ましい。比R1が7.00以下である粉末では、固相線温度低下に対するPの寄与度が十分に大きい。この粉末から、緻密で、耐食性、耐割れ性及び靭性に優れた皮膜6が得られうる。この観点から、比R1は4.50以下がより好ましく、3.50以下が特に好ましい。比R1がゼロであってもよい。
【0044】
[粉末の製造]
粉末は、好ましくは、アトマイズ法によって得られる。ガスアトマイズ法、ディスクアトマイズ法、水アトマイズ法、遠心アトマイズ法等が、採用される。好ましいアトマイズは、ガスアトマイズ法及びディスクアトマイズ法である。アトマイズによって得られた粉末に、メカニカルミリング等が施されてもよい。
【0045】
[皮膜の形成]
典型的は、皮膜6は、溶射法によって形成される。溶射法では、その材質がNi基自溶合金である粒子が加熱されて溶融し、主部4に吹き付けられる。主部4に衝突した溶融金属は凝固し、凝固層を形成する。粒子の吹きつけが連続的に行われるので、凝固層にも溶融粒子が衝突して凝固し、凝固層が成長する。こうして、皮膜6が形成される。本実施形態に係るNi基自溶合金はPを含有しているので、比較的低い温度での加熱により粒子が溶融しうる。この溶融金属の温度は、低くたり得る。従って、熱に起因する主部4の損傷が、抑制されうる。主部4の材質が低融点材料(例えばCu合金)であっても、主部4の溶融及び変形が、抑制されうる。前述の通り、溶融金属の飛翔中にP含有酸化物の一部が気化する。従って、皮膜6に含まれる酸化物の量は、少ない。この皮膜6は、緻密である。皮膜6が、溶射法以外の方法で形成されてもよい。溶射法以外の方法として、肉盛溶接法及び遠心鋳造法が例示される。Ni基自溶合金の固相線温度が低いので、いずれの方法においても、主部4へのダメージが抑制されうる。
【0046】
[再溶融処理]
皮膜6に、再溶融処理が施されてもよい。再溶融処理では、固相線温度以上の温度に達するまで、皮膜6が熱される。この加熱により、皮膜6に液相が発生する。皮膜6は、固液混合状態となる。この液相が凝固して、皮膜6が再形成される。再溶融処理により、皮膜6の緻密性が高められる。本実施形態に係るNi基自溶合金はPを含有しているので、比較的低い加熱温度にて、液相が生じうる。従って、熱に起因する主部4の損傷が、抑制されうる。
【実施例0047】
以下、実施例に係るNi基自溶合金の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本明細書で開示された範囲が限定的に解釈されるべきではない。
【0048】
[実施例1]
表1に示された組成の金属を溶解し、溶湯を得た。この溶湯を、アルミナ製坩堝に投入した。この坩堝のノズルから溶湯を出し、これに高圧窒素ガスを噴霧して、粉末を得た。この粉末を篩によって分級し、粒子径を45μm以上125μm以下に調整した。一方、材質がSUS304であり、サイズが「100×100×10mm」である板状の主部を準備した。この主部の表面を研磨し、平面に仕上げた。粉末をガスフレーム溶射法に供し、主部の表面の上に、厚さが1mmである皮膜を形成した。この主部及び皮膜を電気炉に投入し、940℃の温度下に30分間保持した。この皮膜を空冷し、実施例1の金属製品を得た。
【0049】
[実施例2、4、7及び9-23並びに比較例3-4、6-8及び10]
組成を下記の表1及び2に示される通りとした他は実施例1と同様にして、実施例2、4、7及び9-23並びに比較例3-4、6-8及び10の金属製品を得た。
【0050】
[実施例3及び6並びに比較例2及び9]
組成を下記の表1及び2に示される通りとし、かつその材質がSUS316Lである主部を用いた他は実施例1と同様にして、実施例3及び6並びに比較例2及び9の金属製品を得た。
【0051】
[実施例5及び8並びに比較例1及び5]
組成を下記の表1及び2に示される通りとし、かつその材質がSS400である主部を用いた他は実施例1と同様にして、実施例5及び8並びに比較例1及び5の金属製品を得た。
【0052】
[残留ポア及び残留酸化物]
再溶融処理前の皮膜から試験片を切り出し、断面を研磨した。この試験片の、皮膜の厚さ方向中心付近を、光学顕微鏡で、100倍の倍率で撮影した。得られた画像を観察し、500×500μmの範囲における、サイズ(長径)が20μm以上の残留ポア及び残留酸化物個数をカウントした。以下の基準に従って、格付けした。
A:5個以下
B:6個以上30個未満
C:30個以上
再溶融処理後の皮膜からも同様に試験片を採取し、同様の方法でこれを格付けした。この結果が、下記の表3及び4に示されている。
【0053】
[耐食性]
再溶融処理後の皮膜から試験片を切り出し、断面を研磨した。この試験片に、耐食性試験を施した。実施例1-4、6-7及び9-23並びに比較例2-4及び6-10の試験片には、塩水噴霧試験を施した。実施例5及び8並びに比較例1及び5の試験片には、高温高湿試験を施した。それぞれの試験条件は、以下のとおりである。
塩水噴霧試験
塩水成分:5%NaCl水溶液
温度:35℃
時間:96時間
高温高湿試験
温度:70℃
湿度:95%RH
時間:96時間
試験後の皮膜と、皮膜及び主部の界面とを観察し、以下の基準に従って格付けした。
A:発銹が一部に見られる
B:発銹が全体に見られる
この結果が、下記の表3及び4に示されている。
【0054】
[変形]
土台を準備し、この土台に、再溶融処理後の金属製品を、この土台に皮膜が当接するように載せた。金属製品のがたつきを観察し、以下の基準に従って格付けした。
A:がたつきなし(主部の変形なし)
B:がたつきあり(主部の変形あり)
この結果が、下記の表3及び4に示されている。
【0055】
【0056】
【表2】
各合金は、表1及び2に示された元素以外に、不可避的不純物を含有しうる。
【0057】
【0058】
【0059】
表3及び4に示される通り、各実施例に係る金属製品は、諸性能に優れている。これらの評価結果から、このNi基自溶合金の優位性は明らかである。