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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024094811
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】SiCエピタキシャルウェハ
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/36 20060101AFI20240703BHJP
   C30B 25/20 20060101ALI20240703BHJP
   C23C 16/42 20060101ALI20240703BHJP
   H01L 21/20 20060101ALI20240703BHJP
   H01L 21/205 20060101ALI20240703BHJP
【FI】
C30B29/36 A
C30B25/20
C23C16/42
H01L21/20
H01L21/205
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022211619
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100137017
【弁理士】
【氏名又は名称】眞島 竜一郎
(72)【発明者】
【氏名】西原 禎孝
(72)【発明者】
【氏名】塩野 翼
【テーマコード(参考)】
4G077
4K030
5F045
5F152
【Fターム(参考)】
4G077AA03
4G077AB01
4G077AB09
4G077BE08
4G077DB01
4G077EF02
4G077HA12
4G077TA04
4G077TK01
4G077TK08
4K030AA06
4K030AA09
4K030BA37
4K030BB02
4K030BB13
4K030CA04
4K030CA12
4K030JA01
4K030JA06
4K030JA10
5F045AA03
5F045AB06
5F045AD18
5F045CB02
5F045DA52
5F152LL03
5F152LM08
5F152LN03
5F152NN05
5F152NQ02
(57)【要約】
【課題】SiCエピタキシャル層内における基底面転位の数が少ないSiCエピタキシャルウェハを提供することを目的とする。
【解決手段】本実施形態にかかるSiCエピタキシャルウェハは、SiC基板と、前記SiC基板の一面にあるSiCエピタキシャル層と、を備える。前記SiCエピタキシャル層は、バッファ層とドリフト層とを有する。前記バッファ層は、前記ドリフト層と前記SiC基板との間にあり、不純物濃度が前記ドリフト層より高い。基底面転位のうち前記SiC基板と前記SiCエピタキシャル層との界面から前記バッファ層内に向かって延びる長さが1μm以下である第1基底面転位の数は、20個以下である。SiCエピタキシャルウェハの直径は149mm以上である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiC基板と、前記SiC基板の一面にあるSiCエピタキシャル層と、を備え、
前記SiCエピタキシャル層は、バッファ層とドリフト層とを有し、
前記バッファ層は、前記ドリフト層と前記SiC基板との間にあり、不純物濃度が前記ドリフト層より高く、
基底面転位のうち前記SiC基板と前記SiCエピタキシャル層との界面から厚み方向の高さが1μm以下である第1基底面転位の数が20個以下であり、
直径が149mm以上である、SiCエピタキシャルウェハ。
【請求項2】
SiC基板と、前記SiC基板の一面にあるSiCエピタキシャル層と、を備え、
前記SiCエピタキシャル層は、バッファ層とドリフト層とを有し、
前記バッファ層は、前記ドリフト層と前記SiC基板との間にあり、不純物濃度が前記ドリフト層より高く、
基底面転位のうち前記SiC基板と前記SiCエピタキシャル層との界面から厚み方向の高さが1μm以下である第1基底面転位の数が35個以下であり、
直径が199mm以上である、SiCエピタキシャルウェハ。
【請求項3】
前記SiCエピタキシャル層の外周から5mm以内の除外領域を除く測定領域を5mm角に区分した全区域のうち98%以上の区域は、前記第1基底面転位の数が3個未満である、請求項1に記載のSiCエピタキシャルウェハ。
【請求項4】
前記バッファ層は、不純物濃度が5.0×1017cm-3以上である、請求項1に記載のSiCエピタキシャルウェハ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SiCエピタキシャルウェハに関する。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素(SiC)は、シリコン(Si)に比べて絶縁破壊電界が1桁大きく、バンドギャップが3倍大きい。また、炭化珪素(SiC)は、シリコン(Si)に比べて熱伝導率が3倍程度高い等の特性を有する。そのため炭化珪素(SiC)は、パワーデバイス、高周波デバイス、高温動作デバイス等への応用が期待されている。このため、近年、上記のような半導体デバイスにSiCエピタキシャルウェハが用いられるようになっている。
【0003】
SiCエピタキシャルウェハは、SiC基板の表面にSiCエピタキシャル層を積層することで得られる。以下、SiCエピタキシャル層を積層前の基板をSiC基板と称し、SiCエピタキシャル層を積層後の基板をSiCエピタキシャルウェハと称する。SiC基板は、SiCインゴットから切り出される。
【0004】
SiCエピタキシャルウェハにおいて、SiCデバイスに致命的な欠陥を引き起こすデバイスキラー欠陥の一つとして、基底面転位(Basal plane dislocation:BPD)が知られている。たとえば、バイポーラデバイスに順方向に電流を流した際に、流れるキャリアの再結合エネルギーによって、SiC基板からSiCエピタキシャル層に引き継がれた基底面転位の部分転位が移動、拡張し、高抵抗な積層欠陥が形成される。このデバイス内に生じた高抵抗部は、デバイスの信頼性低下を引き起こす(順方向劣化)原因となる。
【0005】
SiCエピタキシャル層に引き継がれる基底面転位を低減する検討が行われている。例えば、特許文献1及び特許文献2には、基底面転位がSiCエピタキシャル層に含まれないようにするSiCエピタキシャルウェハの製造方法が記載されている。
【0006】
また基底面転位の評価方法にも注目が集まっている。特許文献3~特許文献5には、基底面転位を測定する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2018-199595号公報
【特許文献2】特開2018-113303号公報
【特許文献3】特開2021-88469号公報
【特許文献4】特許第6986944号公報
【特許文献5】特許第6037673号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
バッファ層の途中で基底面転位が貫通刃状転位(Threading edge dislocation:TED)に変換されることで、バッファ層内に長さの短い基底面転位が存在する場合がある。この基底面転位は、ドリフト層に高電圧が印加された際に、積層欠陥の原因となりうる。しかしながら、バッファ層内における長さの短い基底面転位は、特許文献1~5に記載の方法では検査することができなかった。そのため、特許文献1~5において、基底面転位密度が0と記載されていたとしても、上記のような長さの短い基底面転位を見落としている可能性が高い。このように、長さの短い基底面転位は十分検出できなかったため、これを低減する試みも十分検討が進んでいない。
【0009】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、SiCエピタキシャル層内における基底面転位の数が少ないSiCエピタキシャルウェハを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示は、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
【0011】
(1)第1の態様に係るSiCエピタキシャルウェハは、SiC基板と、前記SiC基板の一面にあるSiCエピタキシャル層と、を備える。前記SiCエピタキシャル層は、バッファ層とドリフト層とを有する。前記バッファ層は、前記ドリフト層と前記SiC基板との間にあり、不純物濃度が前記ドリフト層より高い。基底面転位のうち前記SiC基板と前記SiCエピタキシャル層との界面から厚み方向の高さが1μm以下である第1基底面転位の数は、20個以下である。SiCエピタキシャルウェハの直径は、149mm以上である。
【0012】
(2)第2の態様に係るSiCエピタキシャルウェハは、SiC基板と、前記SiC基板の一面にあるSiCエピタキシャル層と、を備える。前記SiCエピタキシャル層は、バッファ層とドリフト層とを有する。前記バッファ層は、前記ドリフト層と前記SiC基板との間にあり、不純物濃度が前記ドリフト層より高い。基底面転位のうち前記SiC基板と前記SiCエピタキシャル層との界面から厚み方向の高さが1μm以下である第1基底面転位の数は、35個以下である。SiCエピタキシャルウェハの直径は、199mm以上である。
【0013】
(3)上記態様に係るSiCエピタキシャルウェハにおいて、前記SiCエピタキシャル層の外周から5mm以内の除外領域を除く測定領域を5mm角に区分した全区域のうち98%以上の区域は、前記第1基底面転位の数が3個未満であってもよい。
【0014】
(4)上記態様に係るSiCエピタキシャルウェハにおいて、前記バッファ層は、不純物濃度が5.0×1017cm-3以上であってもよい。
【発明の効果】
【0015】
上記態様にかかるSiCエピタキシャルウェハは、SiCエピタキシャル層内における基底面転位の数が少ない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】第1実施形態に係るSiCエピタキシャルウェハの断面図である。
図2】SiC基板とSiCエピタキシャル層との界面における基底面転位の状態を示す図である。
図3】近紫外(NUV)フィルターを用いて、バッファ層に相当する不純物濃度を有するSiC層を測定した結果である。
図4】高倍率PLを用いて、バッファ層に相当する不純物濃度を有するSiC層を測定した結果である。
図5】基底面転位の高さと基底面転位の長さの関係を説明するための図である。
図6】本実施形態に係る基底面転位又は第1基底面転位の数の測定方法を説明するための図である。
図7】参考例1の基底面転位の測定結果である。
図8】比較例2のSiCエピタキシャルウェハの基底面転位の分布を示す図である。
図9】参考例1のSiCエピタキシャルウェハの基底面転位の分布を示す図である。
図10】NIRフィルターを用いたフォトルミネッセンス法で測定されたSiCエピタキシャルウェハの基底面転位の分布を示す図である。
図11】NUVフィルターを用いたフォトルミネッセンス法で測定されたSiCエピタキシャルウェハの基底面転位の分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本実施形態について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、本実施形態の特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材質、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0018】
まず方向について規定する。SiC基板の広がる面内の一方向をx方向とし、同じ面内でx方向と直交する方向をy方向とする。x方向は、例えば、<11-20>方向である。y方向は、例えば、<1-100>方向である。z方向は、SiC基板に対して垂直な方向であり、x方向及びy方向と直交する。z方向は、SiC基板の厚み方向と一致する。
【0019】
図1は、第1実施形態に係るSiCエピタキシャルウェハ100の断面図である。SiCエピタキシャルウェハ100は、SiC基板10とSiCエピタキシャル層20とを有する。
【0020】
SiC基板10は、SiCからなる。SiCの結晶構造は、4H、6H、3C、15Rのうちから選択されるいずれでもよい。SiC基板10は、n型でも、p型でも、半絶縁性基板でもよい。SiC基板10は、例えば、不純物として窒素がドーピングされたn型-SiC基板である。SiC基板10の窒素濃度は、例えば、1.0×1018cm-3以上2.0×1019cm-3以下である。
【0021】
またSiC基板10は、オフセット基板でもよい。オフセット基板は、SiC基板10の表面に対して結晶面が傾いた基板である。結晶面と表面とがなす角は、オフセット角と言われる。オフセット角θは、例えば、0.5°以上10°以下である。
【0022】
SiC基板10の平面視形状は略円形である。SiC基板10は、結晶軸の方向を把握するためのオリエンテーションフラットOFもしくはノッチを有してもよい。
【0023】
SiC基板10の直径は、特に問わない。SiC基板10の直径は、例えば、140mm以上である。SiC基板10の直径は、例えば、149mm以上151mm以下でもよい。またSiC基板10の直径は、例えば、190mm以上でもよく、199mm以上201mm以下でもよい。SiC基板10の直径は、例えば、240mm以上でもよく、249mm以上251mm以下でもよいし、290mm以上でもよく、299mm以上301mm以下でもよい。
【0024】
SiCエピタキシャル層20は、SiC基板10の一面に接する。SiCエピタキシャル層20は、SiC基板10の一面に、全面に亘って積層されている。
【0025】
SiCエピタキシャル層20は、バッファ層21とドリフト層22とを有する。バッファ層21は、ドリフト層22とSiC基板10との間にある。バッファ層21は、SiC基板10上に成膜され、ドリフト層22はバッファ層21上に成膜されている。
【0026】
バッファ層21の不純物濃度は、ドリフト層22の不純物濃度より高い。不純物濃度は、中心を通る線に沿って10cm間隔に配置されたそれぞれの測定点での測定結果の平均値である。不純物濃度の測定は、水銀プローブ(Hg-CV)法や二次イオン質量分析法(SIMS)によって行うことができる。
【0027】
バッファ層21の不純物濃度は、例えば5×1017/cm以上であり、好ましくは1×1018/cm以上である。バッファ層21の不純物濃度は、例えば、2×1019/cm以下である。
【0028】
バッファ層21は、SiC基板に存在する基底面転位を貫通刃状転位(Threading edge dislocation:TED)に変換することを目的とした層である。またバッファ層21は、基底面転位を有するバイポーラデバイスの順方向に電流を流した場合に、その少数キャリアがSiC基板10に存在する基底面転位まで到達することを防ぐ機能も有する。バッファ層21は、SiCエピタキシャル層20内にショックレイ型の積層欠陥が形成され、その欠陥が拡大することを防ぐ。
【0029】
バッファ層21の厚みは、例えば、0.1μm以上であり、好ましくは1μm以上であり、より好ましくは3μm以上である。バッファ層21の厚みは、例えば、10μm以下である。
【0030】
ドリフト層22は、ドリフト電流が流れ、デバイスとして機能する層である。ドリフト電流とは、半導体に電圧が印加された際に、キャリアの流れにより生じる電流である。
【0031】
ドリフト層22の不純物濃度は、例えば1×1014cm-3以上である。ドリフト層22の不純物濃度は、例えば1×1018cm-3以下である。ドリフト層22の不純物濃度は、好ましくは、1×1015cm-3以上1×1017cm-3以下である。ドリフト層22の厚みは、例えば、5μm以上である。
【0032】
SiCエピタキシャルウェハ100は、基底面転位を有する。SiCエピタキシャルウェハ100内において起こりえる基底面転位の伸展のパターンには、いくつかのパターンがある。図2は、SiC基板10とSiCエピタキシャル層20との界面における基底面転位の状態を示す図である。
【0033】
第1パターンは、SiCエピタキシャル層20を成膜する際に、SiC基板10内の基底面転位1Aが、SiC基板10とSiCエピタキシャル層20との界面で、貫通刃状転位2Aに変換されるパターンである。
【0034】
第2パターンは、SiCエピタキシャル層20を成膜する際に、SiC基板10からバッファ層21内に引き継がれた基底面転位1Bが、バッファ層21の途中で、貫通刃状転位2Bに変換されるパターンである。
【0035】
第3パターンは、SiCエピタキシャル層20を成膜する際に、SiC基板10からバッファ層21内に引き継がれた基底面転位1Cが、バッファ層21とドリフト層22との界面で、貫通刃状転位2Cに変換されるパターンである。
【0036】
第4パターンは、SiCエピタキシャル層20を成膜する際に、SiC基板10内からエピタキシャル層20内に基底面転位1Dがそのまま引き継がれるパターンである。
【0037】
SiC基板10には、基底面転位が(0001)面(c面)に沿って存在する。SiC基板10の成長面に露出している基底面転位の個数は、少ない方が好ましいが、特に限定するものではない。例えば、6インチのSiC基板の表面(成長面)に存在する基底面転位の個数は、1cmあたり1個以上5000個以下である。
【0038】
SiC基板10内の基底面転位の95%以上は、第1パターンで貫通刃状転位に変換可能である。またSiCエピタキシャル層20の成長条件を調整することで、第4パターンとなる基底面転位の比率を0.01%以下とすることが可能である。一方で、一定の割合で、第2パターン、第3パターンとなる基底面転位もある。
【0039】
第2パターンの基底面転位1B及び第3パターンの基底面転位1Cを同定するためには、バッファ層21内における基底面転位を評価する必要がある。SiCエピタキシャル層20内の基底面転位を観測する方法の一つとして、フォトルミネッセンス法(PL法)が知られている。
【0040】
しかしながら、PL法を用いて不純物濃度が高いバッファ層21内の基底面転位を観測しようとすると、周囲の発光が基底面転位の発光よりも強くなり、バッファ層21内の基底面転位を特定することが難しい。
【0041】
例えば、フィルターを近赤外(NIR)フィルターから近紫外(NUV)フィルターに変えることで、PL法を用いても、バッファ層21内の基底面転位の一部を観測することはできる。図3は、近紫外(NUV)フィルターを用いて、バッファ層に相当する不純物濃度を有するSiC層を測定した結果である。図3において四角に囲まれた領域内に基底面転位が観測される。図3に示すように、この方法では、短い基底面転位を評価するのに十分な解像度が得られていない。つまり、NUVフィルターを用いた場合でも、基底面転位の長さが短い場合(例えば第2パターンの基底面転位1B、バッファ層21の厚みが薄い場合の第3パターンの基底面転位)は、他の欠陥、転位との区別が難しい。
【0042】
また図4は、通常より対物レンズの倍率をさらに約2倍高くした高倍率PLを用いて、バッファ層に相当する不純物濃度を有するSiC層を測定した結果である。高倍率PLを用いて観察される基底面転位は、近紫外(NUV)フィルターを用いて撮像された基底面転位より鮮明に観察される。図4で撮像された基底面転位の長さは90μm以上100μm以下が多い。この長さをもつ基底面転位は、厚み方向の高さが6.3μm以上7μm以下となる。基底面転位の長さと基底面転位の厚み方向の高さとの関係は後述する。
【0043】
もし厚み方向の高さが0.3μm相当の基底面転位を測定しようとすると、基底面転位の長さは短くなり、基底面転位は黒点として観察される。そのため、基底面転位を他の欠陥等と区別することが難しく、基底面転位か否かの判別が難しい。上記のような事情から、PL法を用いた評価では、バッファ層21内の短い基底面転位を観察することは難しく、十分な評価はされていなかった。すなわち、これまで第2パターンの基底面転位1B及び第3パターンの基底面転位1Cは見落とされている可能性がある。
【0044】
本実施形態では、反射式電子投影顕微鏡を用いて、SiCエピタキシャル層20を評価する。反射式電子投影顕微鏡は、例えば、日立ハイテク社製のミラー電子検査装置(Mirelis VM1000)である。反射式電子投影顕微鏡は、その光学系により入射電子線を試料にあてずに、試料直上の電位面で跳ね返った電子線から電位ポテンシャル変化を捕らえ、欠陥、転位を観測する。
【0045】
反射式電子投影顕微鏡を用いると、バッファ層21内の基底面転位であっても観測できる。また反射式電子投影顕微鏡は、基底面転位の長さが短い場合であっても観測できる。
【0046】
例えば、反射式電子投影顕微鏡を用いると、SiC基板10とSiCエピタキシャル層20との界面から厚み方向の高さが1μm以下である基底面転位も観測できる。以下、SiC基板10とSiCエピタキシャル層20との界面から厚み方向の高さが1μm以下である基底面転位を第1基底面転位と称する。
【0047】
基底面転位の厚み方向の高さは、オフセット角と反射式電子投影顕微鏡で測定した基底面転位の長さから求められる。図5は、基底面転位の高さと基底面転位の長さの関係を説明するための図である。図5の上図は、反射式電子投影顕微鏡で測定される基底面転位の平面図であり、図5の下図は基底面転位の断面図である。
【0048】
図5に示すように、反射式電子投影顕微鏡で測定される基底面転位1Bの長さLは、基底面転位1Bをxy平面に投影した際の長さである。基底面転位は、結晶面に沿って伸展する。基底面転位は、基板の一面に対してオフセット角θの角度で伸展する。そのため、基底面転位1Bの厚み方向の高さhは、基底面転位1Bの長さLとオフセット角θからh=Ltanθで求めることができる。第1基底面転位は、反射式電子投影顕微鏡を用いることで分類でき、上述のようにPL法では検出することは難しい。例えば、オフセット角θが4°の時、基底面転位1Bの厚み方向の高さhは1μm、基底面転位1Bの長さLは約14μmとなる。
【0049】
本実施形態に係るSiCエピタキシャル層20は、SiCエピタキシャルウェハの直径が149mm以上の場合は、反射式電子投影顕微鏡で測定した際に測定される基底面転位の数が20個以下である。また本実施形態に係るSiCエピタキシャル層20は、SiCエピタキシャルウェハの直径が199mm以上の場合は、反射式電子投影顕微鏡で測定した際に測定される基底面転位の数が35個以下である。
【0050】
また本実施形態に係るSiCエピタキシャル層20は、SiCエピタキシャルウェハの直径が149mm以上の場合は、基底面転位のうちSiC基板10とSiCエピタキシャル層20との界面から厚み方向の高さが1μm以下である第1基底面転位の数が20個以下である。また本実施形態に係るSiCエピタキシャル層20は、SiCエピタキシャルウェハの直径が199mm以上の場合は、基底面転位のうちSiC基板10とSiCエピタキシャル層20との界面から厚み方向の高さが1μm以下である第1基底面転位の数が35個以下である。
【0051】
本実施形態では、基底面転位又は第1基底面転位の数は、以下の手順で求める。図6は、本実施形態に係る基底面転位又は第1基底面転位の数の測定方法を説明するための図である。まず図6に示すように、まずSiCエピタキシャルウェハ100を測定領域A1と除外領域A2とに区分する。除外領域A2は、SiCエピタキシャル層20の外周から5mm以内の領域である。そして、測定領域A1を所定のサイズに区分する。区分されたそれぞれの領域を、以下、疑似チップA3と称する。疑似チップA3は、測定領域A1にまんべんなく敷き詰められる。
【0052】
基底面転位又は第1基底面転位の数は、疑似チップA3の16カ所を測定して求める。疑似チップA3のサイズが小さい程、SiCエピタキシャル層20のうちサンプリングされる領域が大きくなる。一方で、疑似チップA3のサイズが小さくなる程、基底面転位の数の測定に時間が悪化するため、スループットが悪化する。一例として疑似チップA3のサイズを5mm角とする。サンプリング領域を増やすのであれば、疑似チップA3の一辺の長さを2mmとしてもよいし、スループットを改善したいのであれば、疑似チップA3の一辺の長さを10mmとしてもよい。疑似チップA3のサイズを5mm角とすると、SiCエピタキシャルウェハ全体の0.33%の面積を検査範囲としてカバーする。SiCエピタキシャルウェハ全体の0.15%~0.85%の範囲内の面積を検査すれば、SiCエピタキシャルウェハ全体の傾向は十分確認できる。またSiCエピタキシャル層20の全面を検査するのではなく、本手順で行うことで、ウェハマッピングを現実的な時間範囲内で行うことができる。
【0053】
またSiCエピタキシャル層20のうちのドリフト層22の厚みが厚く、バッファ層21を評価しにくい場合は、ドリフト層22を研削して薄くしてから上記測定を行ってもよい。
【0054】
SiCエピタキシャルウェハ20は、第1基底面転位の数が3個未満である区域(疑似チップA3)が全ての区域(疑似チップA3)のうち98%以上であることが好ましい。
【0055】
次いで、本実施形態に係るSiCエピタキシャルウェハ20の製造方法について説明する。
【0056】
まずSiC基板10を準備する。SiC基板10は、昇華法によって作製されたSiCインゴットを切り出して作製できる。
【0057】
次いで、SiC基板10の一面に、化学気相成長(CVD)法でSiCエピタキシャル層20を成膜する。成膜条件は、事前検討で設定される。
【0058】
成膜条件の事前検討は、以下の手順で行う。第1手順では、成膜初期の温度を決定する。成長初期とは、成長開始からSiCエピタキシャル層20が0.5μmの厚さ積層されるまでの間の期間である。まず成長初期の区間内における5秒ごとの温度変化幅が±50℃以内となる条件で、SiCエピタキシャル層20を成膜する。そして、SiCエピタキシャル層20における第1基底面転位の分布を評価する。第1基底面転位の分布が多い箇所は設定温度を上げ、第1基底面転位の分布が少ない箇所は設定温度を維持する又はさげる。設定温度は、5℃ずつ調整する。このような、設定温度の変更と、第1基底面転位の分布測定とを繰り返し、その結果をフィードバックすることで、最適な成膜初期の温度条件を決定する。成膜初期の温度範囲は、1500℃以上1800℃以下である。ここでは、温度変化幅が±50℃以内となる条件を5秒で設定したが、SiCエピタキシャル層20の成長速度が速い場合は、より短い時間で設定してもよい。
【0059】
次いで、第2手順では、成膜初期のC/Si比を決定する。C/Si比は、成膜される膜の近傍におけるカーボンガスとシリコンガスとの比率である。成長初期の区間内における5秒ごとのC/Si比が±0.5以内となる条件で、SiCエピタキシャル層20を成膜する。そして、SiCエピタキシャル層20における第1基底面転位の分布を評価する。第1基底面転位の分布が多い箇所はC/Si比を変更する。各箇所のC/Si比は、成長条件をもとにシミュレーションで求めることができる。たとえば、Ansys Fluentというソフトウェアを用いて、C/Si比をシミュレーションすることができる。C/Si比は、高くしてもよいし、低くしてよい。C/Si比は、0.01ずつ調整する。このような、C/Si比の変更と、第1基底面転位の分布測定とを繰り返し、その結果をフィードバックすることで、最適な成膜初期のC/Si比を決定する。成膜初期のC/Si比の範囲は、0.5以上2.5以下である。
【0060】
次いで、第3手順では、成膜初期のSiCエピタキシャル層20の成長速度を決定する。成長初期の区間内における5秒ごとの成長速度の変化幅が±20μm/h以内となる条件で、SiCエピタキシャル層20を成膜する。そして、SiCエピタキシャル層20における第1基底面転位の分布を評価する。第1基底面転位の分布が多い箇所は成長速度を速める。成長速度は、ガス流量を増やすことで早くすることができる。このような、成長速度の変更と、第1基底面転位の分布測定とを繰り返し、その結果をフィードバックすることで、最適な成膜初期の成長速度を決定する。成膜初期の成長速度の範囲は、5μm/h以上80μm/h以下である。
【0061】
この第1手順から第3手順を繰り返しながら、最適な成膜条件を事前検討で求める。そして、事前検討で求められた最適な成膜条件で、SiCエピタキシャル層20を成膜することで、第1基底面転位の少ないSiCエピタキシャルウェハ100を作製することができる。
【0062】
本実施形態に係るSiCエピタキシャルウェハ100は、第1基底面転位の数が少ない。第1基底面転位は、高電圧をデバイスに印加した際に、積層欠陥を生み出す原因の一つとなりえる。そのため、第1基底面転位が少ないSiCエピタキシャルウェハ100は高品質であり、当該SiCエピタキシャルウェハ100を用いたデバイスは、不良が発生しにくい。
【0063】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は特定の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【実施例0064】
「実施例1」
直径が150mm(6インチ)でオフセット角が4°のSiC基板を準備し、事前に最適化した成膜条件で、SiC基板10上に、厚さ0.5μmのバッファ層21を成膜した。バッファ層21の不純物濃度は、1.0×1018cm-3とした。そして、ミラー電子式検査装置を用いて、上述の手順で作製したバッファ層21を測定した。実施例1のバッファ層21の基底面転位の数は、0個であった。
【0065】
「実施例2」
実施例2は、バッファ層21の厚みを1.0μmとした点を除き、実施例1と同様の条件でバッファ層21を成膜した。実施例2のバッファ層21の基底面転位の数は、0個であった。
【0066】
「実施例3」
実施例3は、バッファ層21の厚みを1.5μmとした点を除き、実施例1と同様の条件でバッファ層21を成膜した。実施例3のバッファ層21の基底面転位の数は、3個であった。
【0067】
「比較例1」
比較例1は、バッファ層21の成膜条件を最適化せずに、バッファ層21を成膜した点が実施例1と異なる。比較例1のバッファ層21の基底面転位の数は、75個であった。
【0068】
「比較例2」
比較例2は、バッファ層21の成膜条件を最適化せずに、バッファ層21を成膜した点が実施例2と異なる。比較例2のバッファ層21の基底面転位の数は、49個であった。
【0069】
「比較例3」
比較例3は、バッファ層21の成膜条件を最適化せずに、バッファ層21を成膜した点が実施例3と異なる。比較例3のバッファ層21の基底面転位の数は、22個であった。
【0070】
実施例1~3及び比較例1~3の結果を表1にまとめた。
【0071】
【表1】
【0072】
実施例1~3と比較例1~3を比較すると、SiCエピタキシャル層の成膜条件を事前検討で最適化することで、確認される基底面転位の数が大幅に少なくなることが確認された。またこの測定方法で確認された基底面転位の数が20個以下のウェハを用いてデバイスを作製し、デバイスに対して通電を行ったところ、デバイスの劣化は確認されなかった。
【0073】
(参考例1)
比較例2と異なるSiC基板を用いて、比較例2と同条件で、バッファ層21を成膜した。バッファ層21の基底面転位の数は、61個であった。そして、それぞれの基底面転位の長さを測定し、基底面転位の高さを求めた。図7は、参考例1の基底面転位の測定結果である。図7に示すように、基底面転位の多くは高さが1μm以下であり、ミラー電子式検査装置を用いることで、このような長さの短い基底面転位も検出できている。
【0074】
(参考例2)
参考例2では、比較例2の条件で成膜されたバッファ層21上に、厚さ5μmのドリフト層22を成膜した。図8は、比較例2のSiCエピタキシャルウェハの基底面転位の分布を示す図である。図9は、参考例1のSiCエピタキシャルウェハの基底面転位の分布を示す図である。
【0075】
図8及び図9に示すように、バッファ層21で確認されていた基底面転位の多くは、ドリフト層22を成膜することで確認できなくなった。これは、バッファ層21とドリフト層22との界面で、基底面転位が貫通刃状転位に変換されたためと考えられる。
【0076】
(参考例3)
参考例3では、比較例2のSiCエピタキシャルウェハをPL法で検査した。図10は、NIRフィルターを用いたフォトルミネッセンス法で測定されたSiCエピタキシャルウェハの基底面転位の分布を示す図である。図11は、NUVフィルターを用いたフォトルミネッセンス法で測定されたSiCエピタキシャルウェハの基底面転位の分布を示す図である。
【0077】
図10に示すように、NIRフィルターを用いたPL法では、基底面転位を十分に検出できていない。これは、不純物濃度が高いバッファ層21では、周囲の発光が基底面転位の発光よりも強くなり、バッファ層21内の基底面転位を特定できなかったためと考えらえる。他方、図11に示すように、NUVフィルターを用いたPL法では、基底面転位以外の欠陥又は転位も検出された。これは、長さの短い基底面転位は、PL法では、基底面転位以外の欠陥又は転位との区別が難しく、基底面転位以外の欠陥又は転位が長さの短い基底面転位と誤認されたためと考えられる。
【0078】
(参考例4)
参考例4では、参考例2と同構造のSiCエピタキシャルウェハを、NIRフィルターを用いたPL法でドリフト層表面のウェハ全面の基底面転位密度を測定したところ、4.4cm-2であった。そのウェハをSiCエピタキシャルウェハ全体の0.15%~0.85%の範囲内の面積を検査範囲としてミラー電子式検査装置で測定すると基底面転位密度は4.0cm-2であり、値がほぼ一致することを確認した。
【符号の説明】
【0079】
10…SiC基板、20…SiCエピタキシャル層、21…バッファ層、22…ドリフト層、100…SiCエピタキシャルウェハ、1A,1B,1C,1D…基底面転位、2A,2B,2C…貫通刃状転位、A1…測定領域、A2…除外領域、A3,A4…区域、P1…撮像点
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
図11