(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024095032
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】イムノクロマトストリップ、イムノクロマトキット及び検出方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/543 20060101AFI20240703BHJP
G01N 33/545 20060101ALI20240703BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20240703BHJP
【FI】
G01N33/543 521
G01N33/545 A
G01N33/53 D
G01N33/543 541Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022212026
(22)【出願日】2022-12-28
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】505155528
【氏名又は名称】公立大学法人横浜市立大学
(71)【出願人】
【識別番号】503056964
【氏名又は名称】トラストメディカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】榎本 靖
(72)【発明者】
【氏名】松村 康史
(72)【発明者】
【氏名】新田 龍三
(72)【発明者】
【氏名】神内 康久
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 原蔵
(72)【発明者】
【氏名】梁 明秀
(72)【発明者】
【氏名】宮川 敬
(57)【要約】
【課題】新規なイムノストリップを提供する。
【解決手段】試料中に含まれるSARS-CoV-2由来のアナライトを検出又は定量するためのイムノクロマトテストストリップであって、
アナライトと特異的に結合する捕捉リガンドを備えた判定部と、
試料が展開する方向において、判定部よりも上流側に、アナライトに特異的に結合する抗体を、樹脂粒子に複数の金属粒子が固定化された構造を有する樹脂-金属複合体で標識した標識抗体を備えた反応部と、を含み、
抗体が、SARS-CoV-2由来ヌクレオカプシドを構成するタンパク質に結合する抗体またはその断片であって、該抗体またはその断片の認識するエピトープが、配列番号1で表されるアミノ酸配列の208~222番目又は332~351番目にあり、
捕捉リガンドが、SARS-CoV-2由来ヌクレオカプシドを構成するタンパク質に結合する抗体またはその断片であって、該抗体またはその断片の認識するエピトープが、配列番号1で表されるアミノ酸配列の374~397番目にある、
テストストリップ、とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中に含まれるSARS-CoV-2由来のアナライトを検出又は定量するためのイムノクロマトテストストリップであって、
アナライトと特異的に結合する捕捉リガンドを備えた判定部と、
試料が展開する方向において、判定部よりも上流側に、アナライトに特異的に結合する抗体を、樹脂粒子に複数の金属粒子が固定化された構造を有する樹脂-金属複合体で標識した標識抗体を備えた反応部と、を含み、
抗体が、SARS-CoV-2由来ヌクレオカプシドを構成するタンパク質に結合する抗体またはその断片であって、該抗体またはその断片の認識するエピトープが、配列番号1で表されるアミノ酸配列の208~222番目又は332~351番目にあり、
捕捉リガンドが、SARS-CoV-2由来ヌクレオカプシドを構成するタンパク質に結合する抗体またはその断片であって、該抗体またはその断片の認識するエピトープが、配列番号1で表されるアミノ酸配列の374~397番目にある、
テストストリップ。
【請求項2】
試料中に含まれるSARS-CoV-2由来のアナライトを検出又は定量するためのイムノクロマトテストストリップであって、
アナライトと特異的に結合する捕捉リガンドを備えた判定部と、
試料が展開する方向において、判定部よりも上流側に、アナライトに特異的に結合する抗体を、樹脂粒子に複数の金属粒子が固定化された構造を有する樹脂-金属複合体で標識した標識抗体を備えた反応部と、を含み、
抗体が、SARS-CoV-2由来ヌクレオカプシドを構成するタンパク質に結合する抗体またはその断片であって、該抗体またはその断片の認識するエピトープが、配列番号1で表されるアミノ酸配列の208~222番目又は332~351番目にあり、
捕捉リガンドが、SARS-CoV-2由来ヌクレオカプシドを構成するタンパク質に結合する抗体またはその断片であって、該抗体またはその断片の認識するエピトープが、配列番号1で表されるアミノ酸配列の374~397番目にある、
テストストリップを用いた、キット。
【請求項3】
試料中に含まれるSARS-CoV-2由来のアナライトを検出又は定量するためのイムノクロマトテストストリップであり、
アナライトと特異的に結合する捕捉リガンドを備えた判定部を含む、テストストリップと、
アナライトに特異的に結合する抗体を、樹脂粒子に複数の金属粒子が固定化された構造を有する樹脂-金属複合体で標識した標識抗体と、を用いたキットであって、
抗体が、SARS-CoV-2由来ヌクレオカプシドを構成するタンパク質に結合する抗体またはその断片であって、該抗体またはその断片の認識するエピトープが、配列番号1で表されるアミノ酸配列の208~222番目又は332~351番目にあり、
捕捉リガンドが、SARS-CoV-2由来ヌクレオカプシドを構成するタンパク質に結合する抗体またはその断片であって、該抗体またはその断片の認識するエピトープが、配列番号1で表されるアミノ酸配列の374~397番目にある、
キット。
【請求項4】
試料中に含まれるSARS-CoV-2由来のアナライトを検出又は定量する方法であって、
アナライトと特異的に結合する捕捉リガンドを備えた判定部と、
試料が展開する方向において、判定部よりも上流側に、アナライトに特異的に結合する抗体を、樹脂粒子に複数の金属粒子が固定化された構造を有する樹脂-金属複合体で標識した標識抗体を備えた反応部と、を含む、イムノクロマトテストストリップを用い、下記工程(I)~(III);
工程(I):試料に含まれるアナライトと、標識抗体とを接触させる工程、
工程(II):工程(I)において形成された、アナライトと標識抗体とを含む複合体を、捕捉リガンドに接触させる工程、
工程(III):樹脂-金属複合体の発色強度を測定する工程、
を含み、
抗体(標識抗体における抗体)が、SARS-CoV-2由来ヌクレオカプシドを構成するタンパク質に結合する抗体またはその断片であって、該抗体またはその断片の認識するエピトープが、配列番号1で表されるアミノ酸配列の208~222番目又は332~351番目にあり、
捕捉リガンドが、SARS-CoV-2由来ヌクレオカプシドを構成するタンパク質に結合する抗体またはその断片であって、該抗体またはその断片の認識するエピトープが、配列番号1で表されるアミノ酸配列の374~397番目にある、
方法。
【請求項5】
試料中に含まれるSARS-CoV-2由来のアナライトを検出又は定量する方法であって、
アナライトと特異的に結合する捕捉リガンドを備えた判定部を含む、イムノクロマトテストストリップを用い、
下記工程(I)~(III);
工程(I):試料に含まれるアナライトと、アナライトに特異的に結合する抗体を、樹脂粒子に複数の金属粒子が固定化された構造を有する樹脂-金属複合体で標識した標識抗体とを接触させる工程、
工程(II):工程(I)において形成された、アナライトと標識抗体とを含む複合体を、捕捉リガンドに接触させる工程、
工程(III):樹脂-金属複合体の発色強度を測定する工程、
を含み、
抗体が、SARS-CoV-2由来ヌクレオカプシドを構成するタンパク質に結合する抗体またはその断片であって、該抗体またはその断片の認識するエピトープが、配列番号1で表されるアミノ酸配列の208~222番目又は332~351番目にあり、
捕捉リガンドが、SARS-CoV-2由来ヌクレオカプシドを構成するタンパク質に結合する抗体またはその断片であって、該抗体またはその断片の認識するエピトープが、配列番号1で表されるアミノ酸配列の374~397番目にある、
方法。
【請求項6】
抗体及び捕捉リガンドが、モノクローナル抗体である、請求項1~5のいずれかに記載のテストストリップ、キット又は方法。
【請求項7】
金属粒子が、銀、ニッケル、銅、金、白金又はパラジウムの単体又はこれらの合金である、請求項1~5のいずれかに記載のテストストリップ、キット又は方法。
【請求項8】
樹脂-金属複合体において、
金属粒子が、樹脂粒子外に露出した部位を有する第1の粒子と、
全体が樹脂粒子に内包されている第2の粒子と、
を含んでおり、
第1の粒子及び第2の粒子のうち、少なくとも一部の粒子が、樹脂粒子の表層部において三次元的に分布しているものである、請求項1~5のいずれかに記載のテストストリップ、キット又は方法。
【請求項9】
樹脂粒子が、金属イオンを吸着することが可能な置換基を構造に有するポリマー粒子である、請求項1~5のいずれかに記載のテストストリップ、キット又は方法。
【請求項10】
金属粒子の平均粒子径が1~100nmの範囲内である、請求項1~5のいずれかに記載のテストストリップ、キット又は方法。
【請求項11】
樹脂-金属複合体の平均粒子径が30~1000nmの範囲内である、請求項1~5のいずれかに記載のテストストリップ、キット又は方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なイムノクロマトストリップ(テストストリップ)等に関する。
【背景技術】
【0002】
イムノアッセイは、免疫学的測定法とも呼ばれ、抗原-抗体間における特異的な反応を利用し、微量成分を定性的、定量的に分析する方法である。抗原-抗体反応は感度や反応の選択性が高いため、医薬等の分野で広く用いられている。イムノアッセイは、その測定原理により、様々な測定法が知られており、例えば、酵素免疫測定法(EIA)、放射性免疫測定法(RIA)、化学発光免疫測定法(CLIA)、蛍光免疫測定法(FIA)、ラテックス等の凝集法(LIA、PA)、イムノクロマトグラフィー法(ICA)、赤血球凝集法(HA)、赤血球凝集抑制法(HI)等が挙げられる。
【0003】
イムノアッセイは、抗原及び抗体が反応し複合体を形成した際の変化(抗原、抗体または複合体の濃度変化)から、抗原または抗体を定性的または定量的に検出する。
【0004】
一方、SARS-CoV-2(いわゆる新型コロナウイルス)に関して、エピトープが、配列番号1で表されるアミノ酸配列の121~419番目にあることを特徴とするSARS-CoV-2由来ヌクレオカプシドを構成するタンパク質に結合する抗体またはその断片が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2022/004622号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、新規なイムノクロマトストリップ(テストストリップ)等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
抗原及び抗体が反応し複合体を形成する際の反応性や特異性は、イムノアッセイにおける検出能力を左右する重要な要素である。
そのため、反応性や特異性に優れた抗原及び抗体を選択し用いることで、イムノアッセイの検出感度を増大させることができる。
換言すれば、抗原及び抗体が反応し複合体を形成する際の反応性や特異性が不十分な場合、イムノアッセイの感度を十分に高めることができない。
【0008】
一方、抗原または抗体を検出する際に、抗体、抗原または複合体に標識物質を結合させることで、検出感度が増大する。そのため、標識物質の標識能力もまた、イムノアッセイにおける検出能力を左右する重要な要素であるといえる。
【0009】
これらの点は、新型コロナウイルスに関しても例外ではなく、とりわけ、抗原検査など微量な新型コロナウイルス抗原を検出するには、イムノアッセイの高い検出能力が必要とされる。
【0010】
ここで、前記特許文献1のように、新型コロナウイルスを検出するための抗体(またはその断片、以下、単に、抗体等ということがある)が開発されつつあるが、本発明者の検討によれば、このような抗体によっても、標識物質の種類やこれらの組み合わせ(構成条件)等の条件によっては、検出感度の点で不十分であるか、又は検出感度は十分であるが偽陰性ないし偽陽性が生じる恐れがあった。
このような中、本発明者は、鋭意研究を行った結果、イムノアッセイ(イムノクロマトストリップ)において、特定の標識物質(すなわち、樹脂粒子に金属粒子が固定化された構造を有する金属-樹脂複合体)と、特定の抗体[すなわち、エピトープが、配列番号1で表されるアミノ酸配列の121~419番目にある(又は121~419番目の中でも特定のものにある)抗体]を特定の態様(構成要件)にて組み合わせることで、十分な検出感度を実現しうる、または偽陽性(さらには偽陰性)を抑えうること等を見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の発明等に関する。
[1]
試料中に含まれるアナライト(SARS-CoV-2由来のアナライト)を検出又は定量するためのイムノクロマトテストストリップ(例えば、ラテラルフロー型クロマトテストストリップ)であって、
アナライトと特異的に結合する捕捉リガンドを備えた(含む)判定部(例えば、メンブレンと、メンブレンにアナライトと特異的に結合する捕捉リガンドが固定されてなる判定部)と、
試料が展開する方向において、判定部よりも上流側に、アナライトに特異的に結合する抗体を、樹脂粒子に複数の金属粒子が固定化された構造を有する樹脂-金属複合体(金属粒子と樹脂粒子とのコンポジット)で標識した標識抗体を備えた(含む)反応部と、を含み、
抗体(標識抗体における抗体)が、SARS-CoV-2由来ヌクレオカプシドを構成するタンパク質に結合する抗体またはその断片であって、該抗体またはその断片の認識するエピトープが、配列番号1で表されるアミノ酸配列の208~222番目又は332~351番目にあり、
捕捉リガンドが、SARS-CoV-2由来ヌクレオカプシドを構成するタンパク質に結合する抗体またはその断片であって、該抗体またはその断片の認識するエピトープが、配列番号1で表されるアミノ酸配列の374~397番目にある、
テストストリップ。
【0012】
[2]
試料中に含まれるアナライト(SARS-CoV-2由来のアナライト)を検出又は定量するためのイムノクロマトテストストリップ(例えば、ラテラルフロー型クロマトテストストリップ)であって、
アナライトと特異的に結合する捕捉リガンドを備えた(含む)判定部(例えば、メンブレンと、メンブレンにアナライトと特異的に結合する捕捉リガンドが固定されてなる判定部)と、
試料が展開する方向において、判定部よりも上流側に、アナライトに特異的に結合する抗体を、樹脂粒子に複数の金属粒子が固定化された構造を有する樹脂-金属複合体(金属粒子と樹脂粒子とのコンポジット)で標識した標識抗体を備えた(含む)反応部と、を含み、
抗体(標識抗体における抗体)が、SARS-CoV-2由来ヌクレオカプシドを構成するタンパク質に結合する抗体またはその断片であって、該抗体またはその断片の認識するエピトープが、配列番号1で表されるアミノ酸配列の208~222番目又は332~351番目にあり、
捕捉リガンドが、SARS-CoV-2由来ヌクレオカプシドを構成するタンパク質に結合する抗体またはその断片であって、該抗体またはその断片の認識するエピトープが、配列番号1で表されるアミノ酸配列の374~397番目にある、
テストストリップを用いた(備えた、含む)、キット。
【0013】
[3]
試料中に含まれるアナライト(SARS-CoV-2由来のアナライト)を検出又は定量するためのイムノクロマトテストストリップ(例えば、ラテラルフロー型クロマトテストストリップ)であり、
アナライトと特異的に結合する捕捉リガンドを備えた(含む)判定部(例えば、メンブレンと、メンブレンにアナライトと特異的に結合する捕捉リガンドが固定されてなる判定部)を含む、テストストリップと、
アナライトに特異的に結合する抗体を、樹脂粒子に複数の金属粒子が固定化された構造を有する樹脂-金属複合体(金属粒子と樹脂粒子とのコンポジット)で標識した標識抗体と、を用いた(含む、組み合わせた、備えた)キットであって、
抗体(標識抗体における抗体)が、SARS-CoV-2由来ヌクレオカプシドを構成するタンパク質に結合する抗体またはその断片であって、該抗体またはその断片の認識するエピトープが、配列番号1で表されるアミノ酸配列の208~222番目又は332~351番目にあり、
捕捉リガンドが、SARS-CoV-2由来ヌクレオカプシドを構成するタンパク質に結合する抗体またはその断片であって、該抗体またはその断片の認識するエピトープが、配列番号1で表されるアミノ酸配列の374~397番目にある、
キット。
【0014】
[4]
試料中に含まれるアナライト(SARS-CoV-2由来のアナライト)を検出又は定量する方法(免疫測定方法)であって、
アナライトと特異的に結合する捕捉リガンドを備えた(含む)判定部(例えば、メンブレンと、メンブレンにアナライトと特異的に結合する捕捉リガンドが固定されてなる判定部)と、
試料が展開する方向において、判定部よりも上流側に、アナライトに特異的に結合する抗体を、樹脂粒子に複数の金属粒子が固定化された構造を有する樹脂-金属複合体(金属粒子と樹脂粒子とのコンポジット)で標識した標識抗体を備えた(含む)反応部と、を含む、イムノクロマトテストストリップ(又は該テストストリップを用いたキット)を用い、下記工程(I)~(III);
工程(I):試料に含まれるアナライト(試料、前記アナライトを含む試料)と、標識抗体とを接触(反応部において接触)させる工程、
工程(II):工程(I)において形成された、アナライトと標識抗体とを含む複合体を、捕捉リガンドに接触(判定部において接触)させる工程、
工程(III):樹脂-金属複合体の発色強度(局在型表面プラズモン共鳴及び電子遷移による光エネルギー吸収に由来する発色強度)を測定する工程、
を含み、
抗体(標識抗体における抗体)が、SARS-CoV-2由来ヌクレオカプシドを構成するタンパク質に結合する抗体またはその断片であって、該抗体またはその断片の認識するエピトープが、配列番号1で表されるアミノ酸配列の208~222番目又は332~351番目にあり、
捕捉リガンドが、SARS-CoV-2由来ヌクレオカプシドを構成するタンパク質に結合する抗体またはその断片であって、該抗体またはその断片の認識するエピトープが、配列番号1で表されるアミノ酸配列の374~397番目にある、
方法(免疫測定方法)。
【0015】
[5]
試料中に含まれるアナライト(SARS-CoV-2由来のアナライト)を検出又は定量する方法(免疫測定方法)であって、
アナライトと特異的に結合する捕捉リガンドを備えた(含む)判定部(例えば、メンブレンと、メンブレンにアナライトと特異的に結合する捕捉リガンドが固定されてなる判定部)を含む、イムノクロマトテストストリップ(又は該テストストリップを用いたキット)を用い、
下記工程(I)~(III);
工程(I):試料に含まれるアナライト(試料、前記アナライトを含む試料)と、アナライトに特異的に結合する抗体を、樹脂粒子に複数の金属粒子が固定化された構造を有する樹脂-金属複合体(金属粒子と樹脂粒子とのコンポジット)で標識した標識抗体とを接触させる工程、
工程(II):工程(I)において形成された、アナライトと標識抗体とを含む複合体を、捕捉リガンドに接触(判定部において接触)させる工程、
工程(III):樹脂-金属複合体の発色強度(局在型表面プラズモン共鳴及び電子遷移による光エネルギー吸収に由来する発色強度)を測定する工程、
を含み、
抗体(標識抗体における抗体)が、SARS-CoV-2由来ヌクレオカプシドを構成するタンパク質に結合する抗体またはその断片であって、該抗体またはその断片の認識するエピトープが、配列番号1で表されるアミノ酸配列の208~222番目又は332~351番目にあり、
捕捉リガンドが、SARS-CoV-2由来ヌクレオカプシドを構成するタンパク質に結合する抗体またはその断片であって、該抗体またはその断片の認識するエピトープが、配列番号1で表されるアミノ酸配列の374~397番目にある、
方法(免疫測定方法)。
【0016】
[6]
抗体及び捕捉リガンドが、モノクローナル抗体である、[1]~[5]のいずれかに記載のテストストリップ、キット又は方法。
【0017】
[7]
金属粒子が、銀、ニッケル、銅、金、白金又はパラジウムの単体又は合金である、[1]~[6]のいずれかに記載のテストストリップ、キット又は方法。
【0018】
[8]
樹脂-金属複合体において、
金属粒子が、樹脂粒子外に露出した部位を有する第1の粒子と、
全体が樹脂粒子に内包されている第2の粒子と、
を含んでおり、
第1の粒子及び第2の粒子のうち、少なくとも一部の粒子が、樹脂粒子の表層部において三次元的に分布しているものである、[1]~[7]のいずれかに記載のテストストリップ、キット又は方法。
【0019】
[9]
樹脂粒子が、金属イオンを吸着することが可能な置換基を構造に有するポリマー粒子である、[1]~[8]のいずれかに記載のテストストリップ、キット又は方法。
【0020】
[10]
金属粒子の平均粒子径が1~100nmの範囲内である、[1]~[9]のいずれかに記載のテストストリップ、キット又は方法。
【0021】
[11]
樹脂-金属複合体の平均粒子径が30~1000nmの範囲内である、[1]~[10]のいずれかに記載のテストストリップ、キット又は方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明では、新規なイムノクロマトストリップ(テストストリップ)、キット及び検出(又は定量)方法等を提供できる。
このようなストリップ(キット、方法)によれば、試料中に含まれるアナライト(SARS-CoV-2由来のアナライト)を検出(又は定量)できる。
特に、本発明の一態様では、特定の標識物質と特定の抗体とを特定の態様にて組み合わせることで、十分な検出感度を実現しうる。
その他、本発明の他の態様では、偽陽性(さらには偽陰性)を抑えうる。
そのため、抗原検査など微量な新型コロナウイルス抗原であっても、検出(定量)可能であり、極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の一実施の形態に用いる金属-樹脂複合体の断面の構造を示す模式図である。
【
図2】本発明の一実施の形態に用いるイムノクロマトストリップを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本明細書において別様に定義されない限り、本明細書で用いる全ての技術用語および科学用語は、当業者が通常理解しているものと同じ意味を有する。本明細書中で参照する全ての特許、出願および他の出版物や情報は、その全体を参照により本明細書に援用する。
【0025】
<イムノクロマトストリップ>
本発明のイムノクロマトストリップ(テストストリップ)は、試料中に含まれるアナライト(SARS-CoV-2由来のアナライト)を検出又は定量するために用いることができ、特に、ラテラルフロー型クロマトストリップ(テストストリップ)であってもよい。
【0026】
このようなイムノクロマトストリップは、アナライトと特異的に結合する捕捉リガンドを備えた(含む)判定部を少なくとも備えており、さらに、標識抗体(標識物質)を備えた(含む)反応部を備えていてもよい。
【0027】
判定部及び反応部は、それぞれ、捕捉リガンド及び標識抗体を備えて(含んで)いればよく、捕捉リガンド及び標識抗体の存在形態は特に限定されない。例えば、判定部及び反応部が、それぞれ、捕捉リガンド及び標識抗体であってもよく、捕捉リガンド及び標識抗体が、それぞれ、添加(含有)ないし固定(位置決め)されていてもよい。
【0028】
具体的な反応部(標識抗体)の形態としては、例えば、メンブレンに、直接的に、標識抗体を含有(付着、添加)させて(反応部を形成して)もよいし、メンブレンに設けた(固定した)固定手段[例えば、セルロース濾紙、グラスファイバー、不織布等で形成されたパッド(後述のコンジュゲートパッド)等]に標識抗体を含有(付着、添加)させて(反応部を形成して)もよい。
【0029】
具体的な判定部(捕捉リガンド)の形態としては、例えば、メンブレンに、直接的に、捕捉リガンドを固定して(判定部を形成して)いてもよいし、メンブレンに設けた(固定した)固定手段に捕捉リガンドを固定して(判定部を形成して)もよい。
【0030】
なお、添加ないし固定方法としては、存在形態等に応じて適宜選択でき、特に限定されない。例えば、標識抗体や捕捉リガンドを含む分散液を、メンブレンや固定手段に付着ないし塗布(含浸)させる等により、添加ないし固定して(判定部や反応部を形成して)もよい。
【0031】
なお、反応部は、試料が展開する方向(試料の展開方向)において判定部よりも上流(側)に位置する[又は判定部は試料の展開方向の下流(側)に位置する]。
【0032】
本発明では、後で詳述するように、捕捉リガンド及び標識抗体として特定のものを使用することに特徴を有する。
【0033】
イムノクロマトストリップは、通常、メンブレンを備えていてもよい。このようなメンブレンにおいて、判定部(テスト部、テストライン)および反応部を固定化(位置決め)してもよい。
【0034】
メンブレンは、例えば、毛管現象を示し、試料を添加すると同時に、試料が展開するような微細多孔性物質からなる不活性物質(アナライト、各種リガンドなどと反応しない物質)で形成されているものである。
【0035】
メンブレン(メンブレンの材質)としては、例えば、ポリウレタン、ポリエステル、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ナイロン、セルロース誘導体等で構成される繊維状又は不織繊維状マトリクス、膜、濾紙、ガラス繊維濾紙、布、綿等が挙げられる。これらの中でも、好ましくはセルロース誘導体やナイロンで構成される膜、濾紙、ガラス繊維濾紙等が用いられ、より好ましくはニトロセルロース膜、混合ニトロセルロースエステル(ニトロセルロースと酢酸セルロースの混合物)膜、ナイロン膜、濾紙等が挙げられる。
【0036】
イムノクロマトストリップは、さらに必要に応じて、支持部[メンブレンを支持するための支持部(支持体)、例えば、プラスチック製の支持体等]、試料添加部[判定部及び反応部よりも上流側に位置し、アナライトを含む試料を添加するための試料添加部(試料添加パッド、サンプルパッド)、例えば、セルロース濾紙、ガラス繊維、ポリウレタン、ポリアセテート、酢酸セルロース、ナイロン、綿布などの材料で構成された試料添加部]、吸液部[判定部及び反応部よりも下流側に位置する吸液部(吸収部、吸液(吸収)パッド)、例えば、セルロ-ス濾紙、不織布、布、セルロースアセテート等の吸水性材料のパッド]、コンジュゲート部[例えば、試料添加部とメンブレンとの間に介在するコンジュゲート部(コンジュゲートパッド)]、コントロール部(コントロールライン)等の他の部位(部材、部品)を備えていてもよい。
【0037】
図2に、本発明の一実施の形態に係るイムノクロマトストリップ[ラテラルフロー型クロマトストリップ(テストストリップ)]の例を挙げて説明する。
【0038】
このテストストリップは、メンブレン4を備えている。メンブレン4には、試料の展開方向において順に、試料添加部2、コンジュゲート部(反応部)3、テストライン(判定部)5、コントールライン(コントロール部)6、及び吸液部7が設けられている。
【0039】
テストストリップは、操作をより簡便にするため、メンブレン4を支持する支持体1を備えていることが好ましい。支持体としては、例えば、プラスチック等を用いることができる。
【0040】
テストストリップは、アナライトを含む試料を添加するための試料添加部2を有していてもよい。試料添加部2は、テストストリップに、アナライトを含む試料を受け入れるための部位である。試料添加部2は、試料が展開する方向において、判定部6よりも上流側のメンブレン4に直接ないしコンジュゲート部3を介して形成されていてもよい。
【0041】
ここでコンジュゲート部(コンジュゲートパッド)3には、アナライトと特異的に結合する特定の標識抗体が、テストライン5にはアナライトと特異的に結合する特定の捕捉リガンドが、それぞれ、固定され(反応部及び判定部を形成し)ている。
【0042】
テストストリップは、試料が展開する方向において、判定部よりも下流側に、標識抗体と特異的に結合する捕捉リガンドが固定されてなるコントロール部が形成されていてもよい。
【0043】
テストライン(判定部)5とともに、コントロール部(コントロールライン)6でも発色強度が測定されることにより、テストストリップに供した試料が展開して、反応部及び判定部に到達し、検査が正常に行われたことを確認することができる。
【0044】
吸液部7は、例えば、セルロ-ス濾紙、不織布、布、セルロースアセテート等の吸水性材料のパッドにより形成してもよい。添加された試料の展開前線(フロントライン)が吸液部7に届いてからの試料の移動速度は、吸液部7の材質、大きさなどにより異なるものとなる。従って、吸液部7の材質、大きさなどの選定により、アナライトの検出・定量に最適な速度を設定することができる。
【0045】
[SARS-CoV-2由来ヌクレオカプシドを構成するタンパク質に結合する抗体またはその断片]
本発明では、標識抗体及び捕捉リガンドにおいて、SARS-CoV-2由来ヌクレオカプシドを構成するタンパク質に結合する抗体またはその断片を使用する。
【0046】
該抗体またはその断片の認識するエピトープは、代表的には、配列番号1で表されるアミノ酸配列の121~419番目にある、前記抗体またはその断片(以下、「本発明の抗体またはその断片」と記す場合がある)であってもよい。
【0047】
本発明の抗体またはその断片の認識するエピトープは、好ましくは、配列番号1で表されるアミノ酸配列の208~222番目、332~351番目、374~397番目、または398~419番目にある。
【0048】
特に、本発明では、標識抗体及び捕捉リガンドのそれぞれにおける抗体(またはその断片)として、特定のものを選択するのが好ましい。
【0049】
具体的には、標識抗体においては、SARS-CoV-2由来ヌクレオカプシドを構成するタンパク質に結合する抗体またはその断片であって、該抗体またはその断片の認識するエピトープが、配列番号1で表されるアミノ酸配列の208~222番目及び/又は332~351番目にあるものを選択するのが好ましい。
【0050】
なお、このような抗体またはその断片は、配列番号1で表されるアミノ酸配列の208~222番目及び332~351番目以外の配列(例えば、374~397番目の配列)を認識(エピトープとして認識)してもよく、認識しないものであってもよく、特に認識しないものであってもよい。
【0051】
また、捕捉リガンドにおいては、SARS-CoV-2由来ヌクレオカプシドを構成するタンパク質に結合する抗体またはその断片であって、該抗体またはその断片の認識するエピトープが、配列番号1で表されるアミノ酸配列の374~397番目にあるものが好ましい。
【0052】
なお、このような抗体またはその断片は、配列番号1で表されるアミノ酸配列の374~397番目以外の配列(例えば、208~222番目、332~351番目の配列)を認識(エピトープとして認識)してもよく、認識しないものであってもよく、特に認識しないものであってもよい。
【0053】
このような本発明の抗体またはその断片は、SARS-CoV-2由来ヌクレオカプシドを構成するタンパク質に特異的に結合する。
【0054】
本発明において、「SARS-CoV-2」は、中国武漢市付近で2019年に発生が初めて確認された、SARS関連コロナウイルスに属するコロナウイルスを指し、「2019新型コロナウイルス」と互換的に用いられる。SARS-CoV-2は、ヒトに対して病原性があり、急性呼吸器疾患(COVID-19)を引き起こす。SARS-CoV-2は、他のコロナウイルスと同様に、スパイク、ヌクレオカプシド、内在性膜タンパク質、エンベロープタンパク質、およびRNAより構成されている。このうちヌクレオカプシドがRNAと結合してNPを形成し、脂質と結合したスパイク、内在性膜タンパク質、エンベロープタンパク質がその周りを取り囲んでエンベロープを形成する。
【0055】
なお、SARS-CoV-2のゲノム配列はGenBankアクセッション番号MN908947.3で公開されている。
【0056】
本発明において、「ヌクレオカプシドを構成するタンパク質」は、ヌクレオカプシドおよびRNAからなる複合体を構成するタンパク質を指し、「NP」と互換的に用いられる。SARS-CoV-2由来NPのアミノ酸配列は配列番号1で表される。
【0057】
本発明において、「SARS-CoV-2由来NPの断片」は、SARS-CoV-2由来NPのアミノ酸配列(配列番号1)における、SARS-CoV-2由来NPのアミノ酸配列と他のコロナウイルス由来NPのアミノ酸配列との間で同一性が低い領域(配列番号1で表されるアミノ酸配列の121~419番目の領域)からなるタンパク質の断片を指す。SARS-CoV-2由来NPの断片は、配列番号2で表されるアミノ酸配列に対して、90%以上の配列同一性を有する。
【0058】
正確、簡便、かつ迅速にSARS-CoV-2由来NPを検出する観点から、SARS-CoV-2由来NPの断片は、配列番号2で表されるアミノ酸配列に対して、95%以上の配列同一性を有することが好ましく、98%以上の配列同一性を有することが特に好ましく、100%の配列同一性を有することがさらに好ましい。
【0059】
一態様において、SARS-CoV-2由来NPの断片は、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるものである。SARS-CoV-2由来NPの断片は、SARS-CoV-2由来NPのアミノ酸配列と他のコロナウイルス由来NPのアミノ酸配列との間で同一性が低い領域に対応することから、該断片を作製し、これを免疫原として常法に従って本発明の抗体またはその断片を得ることができる。
【0060】
本発明の抗体は、例えば、完全な免疫グロブリン分子、好ましくはIgM、IgD、IgE、IgAまたはIgGであり、より好ましくはIgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3またはIgG4である。また、本発明の抗体は、キメラのおよびヒト化した抗体等の、修飾および/または変化した抗体で有り得る。
【0061】
また、本発明の抗体は、モノクローナルまたはポリクローナル抗体、修飾または変化したモノクローナルまたはポリクローナル抗体、または組換えもしくは合成的に産生したまたは合成した抗体であり得る。本発明の抗体は、正確、簡便、かつ迅速にSARS-CoV-2由来NPを検出する観点から、モノクローナル抗体であることが好ましい。
【0062】
本発明の抗体の断片は、FabフラグメントまたはVL-、VH-またはCDR-領域等の、かかる免疫グロブリン分子の部分であり得るが、本発明の抗体の断片も、本発明の抗体と同程度にSARS-CoV-2由来NPを特異的に認識し結合し得るものである。
【0063】
本発明の抗体の断片は、抗体フラグメント、ならびに、分離した軽鎖および重鎖、Fab、Fab/c、Fv、Fab’、F(ab’)2等の、それらの部分であり得る。一態様において、本発明の抗体の断片は、Fabフラグメント、Fab/cフラグメント、Fvフラグメント、Fab’フラグメントまたはF(ab’)2フラグメントである。
【0064】
また、本発明の抗体またはその断片は、二機能性抗体等の抗体派生物、または、単鎖Fv(scFv)、二重特異性scFvまたは抗体融合タンパク質等の抗体構築物であり得る。
【0065】
なお、抗体またはその断片の詳細は、特許文献1(国際公開第2022/004622号パンフレット)を参照でき、当該文献に記載の方法に従って合成(製造)してもよく、市販品を利用してもよい。
【0066】
[標識抗体]
本発明では、標識抗体(標識、標識物質)として、アナライトに特異的に結合する抗体を、樹脂-金属複合体(金属粒子と樹脂粒子とのコンポジット)で標識した標識抗体を使用する。
【0067】
(樹脂-金属複合体)
樹脂-金属複合体(金属-樹脂複合体)は、金属粒子と樹脂粒子とを含むもの(コンポジット)であり、通常、樹脂粒子に金属粒子(複数の金属粒子)が固定化された構造を有する。
【0068】
図1は、金属-樹脂複合体100の一例を示す断面模式図であり、この図も参照しながら金属-樹脂複合体について説明する。金属-樹脂複合体100は、樹脂粒子10と、金属粒子20とを備えている。
【0069】
(金属-樹脂複合体の構造)
金属-樹脂複合体100(又は金属樹脂複合体、以下、
図1に示された符号を有するものについて同じ)は、樹脂粒子10に金属粒子20が分散または固定化されている。また、
図1の例では、金属-樹脂複合体100は、金属粒子20の一部が樹脂粒子10の表層部60において三次元的に分布し、かつ三次元的に分布した金属粒子20の一部が部分的に樹脂粒子10外に露出しており、残りの一部が樹脂粒子10に内包されていることが好ましい。
【0070】
ここで、「表層部」とは、樹脂粒子10の表面から、深さ方向に粒子半径の50%の範囲を意味する。また、「三次元的に分布」とは、金属粒子20が、樹脂粒子10の面方向だけでなく、深さ方向にも分散されていることを意味する。
【0071】
ここで、金属粒子20は、樹脂粒子10に完全に内包された金属粒子(以下、「内包金属粒子30」、「第2の粒子」ともいう。)、樹脂粒子10内に埋包された部位及び樹脂粒子10外に露出した部位を有する金属粒子(以下、「一部露出金属粒子40」、「第1の粒子」ともいう。)及び樹脂粒子10の表面に吸着している金属粒子(以下、「表面吸着金属粒子50」ともいう。)から選ばれる1種以上を含んでいてもよい。
【0072】
内包金属粒子30は、その表面の全てが、樹脂粒子10を構成する樹脂に覆われているものである。
【0073】
一部露出金属粒子40は、例えば、その表面積の5%以上100%未満が、樹脂粒子10を構成する樹脂に覆われているものである。標識物質としての耐久性の観点から、その下限は、表面積の20%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましい。
表面吸着金属粒子50は、例えば、その表面積の0%を超えて5%未満が、樹脂粒子10を構成する樹脂に覆われているものである。
【0074】
例えば、金属-樹脂複合体100を本発明において使用する場合、樹脂粒子10の表面、一部露出金属粒子40の表面または表面吸着金属粒子50の表面に、抗体を固定化して使用する。その際、例えば、一部露出金属粒子40及び表面吸着金属粒子50には、抗体が固定化される一方で、内包金属粒子30には固定化されなくてもよい。しかし、内包金属粒子30を含む金属粒子20の全てが局在型表面プラズモン吸収を発現することから、一部露出金属粒子40及び表面吸着金属粒子50のみならず、内包金属粒子30も、標識物質としての視認性向上に寄与する。
【0075】
さらに、一部露出金属粒子40及び内包金属粒子30は、表面吸着金属粒子50と比較して樹脂粒子10との接触面積が大きいことに加え、埋包状態によるアンカー効果等の物理的吸着力が強く、樹脂粒子10から脱離しにくい。そのため、金属-樹脂複合体100を使用した標識物質としての耐久性、安定性を優れたものにすることができる。
【0076】
また、金属-樹脂複合体100への金属粒子20(内包金属粒子30、一部露出金属粒子40及び表面吸着金属粒子50の合計)の担持量は、金属-樹脂複合体100の重量に対して、5重量%~70重量%の範囲内であることが好ましい。この範囲内であれば、金属-樹脂複合体100は、標識物質としての視認性、目視判定性及び検出感度に特に優れる。金属粒子20の担持量は、より好ましくは、15重量%~70重量%の範囲内である。
【0077】
また、金属粒子20の10重量%~90重量%の範囲内が、一部露出金属粒子40及び表面吸着金属粒子50であることが好ましい。この範囲内であれば、金属粒子20上への抗体の固定化量が充分確保できるため、標識物質としての感度が高い。金属粒子20の20重量%~80重量%の範囲内が一部露出金属粒子40及び表面吸着金属粒子50であることがより好ましい。
【0078】
また、金属粒子20の60重量%~100重量%の範囲内が、表層部60に存在していることが好ましく、表層部60に存在する金属粒子20の5重量%~90重量%の範囲内が、一部露出金属粒子40または表面吸着金属粒子50であることが、金属粒子20上への抗体の固定化量が充分確保できるため、標識物質としての感度が高くなり好ましい。換言すれば、表層部60に存在する金属粒子20の10重量%~95重量%の範囲内が内包金属粒子30であることがよい。
【0079】
(樹脂粒子)
樹脂粒子(樹脂粒子を構成する樹脂)10は、特に限定されず、公知の樹脂[例えば、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、ポリ(p-スチレンスルホン酸ナトリウム)、メラミン樹脂、尿素樹脂、アクリル樹脂、セルロース等)]を適用しうる。
樹脂粒子10は、金属イオンを吸着することが可能な置換基を構造に有するポリマー粒子であることが好ましい。特に、含窒素ポリマー粒子であることが好ましい。含窒素ポリマー中の窒素原子は、視認性に優れ、抗体の固定化が容易な銀、ニッケル、銅、金、白金、パラジウムなどの金属粒子の前駆体であるアニオン性金属イオンを化学吸着しやすいために好ましい。含窒素ポリマー中に吸着した金属イオンを還元し、金属ナノ粒子を形成する場合、生成した金属粒子20の一部は、内包金属粒子30または一部露出金属粒子40となる。
【0080】
また、例えばアクリル酸重合体のようにカルボン酸等の官能基を有するポリマーは、カチオン性金属イオンを吸着することができるため、銀、ニッケル、銅、金、白金、パラジウムなどの金属粒子の前駆体であるカチオン性金属イオンを吸着しやすいため、銀、ニッケル、銅、金、白金、パラジウムなどの金属粒子20を形成することが可能であり、上記のいずれかの金属との合金を作ることも可能である。また、側鎖にカチオン性金属イオンを吸着する置換基を有する場合は、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、セルロース樹脂、メラミン樹脂等幅広く利用することが可能である。
【0081】
上記含窒素ポリマーは、主鎖または側鎖に窒素原子を有する樹脂であり、例えば、ポリアミン、ポリアミド、ポリペプチド、ポリウレタン、ポリ尿素、ポリイミド、ポリイミダゾール、ポリオキサゾール、ポリピロール、ポリアニリン等がある。好ましくは、ポリ-2-ビニルピリジン、ポリ-3-ビニルピリジン、ポリ-4-ビニルピリジン等のポリアミンである。また、側鎖に窒素原子を有する場合は、例えば、アクリル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、セルロース樹脂、メラミン樹脂等幅広く利用することが可能である。
【0082】
なお、無置換のポリスチレン粒子等の金属イオンを吸着することが可能な置換基を構造に有さない樹脂粒子の場合、粒子表面への超音波又は電離放射線の照射、樹脂粒子表面の金属めっき等により、粒子表面に金属粒子を固定化することができる。
【0083】
(金属粒子)
金属粒子20の構造は特に限定されないが、樹脂粒子10に固定化された金属-樹脂複合体100の状態で発色を呈するものは、標識物質としての検出感度(目視判定性)が向上するので好ましい。
【0084】
金属粒子20の材質としては、例えば、銀、ニッケル、銅、金、白金、パラジウムが適用できる。これらの金属は、単体もしくは合金等の複合体で使用することが可能である。
【0085】
好ましくは、視認性に優れ、抗体の固定化が容易な金、白金、パラジウムであり、これらは、局在型表面プラズモン共鳴に由来する吸収によって発色する。より好ましくは、保存安定性がよい金及び白金である。
【0086】
また、抗体と結合させた場合に優れた発色性が得られるという観点でも、金、白金、金合金又は白金合金が最も好ましい金属種である。
【0087】
ここで、金合金とは、例えば金と金以外の金属種からなり、金を10重量%以上、好ましくは50重量%以上、より好ましくは60重量%以上含有する合金を意味する。また、白金合金とは、例えば白金と白金以外の金属種からなり、白金を10重量%以上、好ましくは50重量%以上、より好ましくは60重量%以上含有する合金を意味する。
【0088】
また、走査型電子顕微鏡(SEM)観察により測長される金属粒子20の平均粒子径は、例えば1~100nmの範囲内であることが好ましい。金属粒子20の平均粒子径が、小さすぎたり大きすぎたりする場合(例えば、1nm未満の場合や100nmを超える場合)は、局在型表面プラズモンが発現しにくくなるため感度が低下する傾向がある。金属粒子20の平均粒子径は、好ましくは、1nm以上80nm未満(例えば、1nm以上70nm未満)の範囲内であり、より好ましくは、1nm以上50nm未満の範囲内である。
【0089】
また、金属-樹脂複合体100の平均粒子径は、例えば30~1000nm(例えば、50~1000nm、100~1000nm)の範囲内である。平均粒子径が小さすぎる場合(例えば、30nm未満である場合)、例えば、金属粒子20として金粒子又は白金粒子を使用する場合に、金属粒子20の担持量が少なくなる傾向がある為、同サイズの金粒子より着色が弱くなる傾向にあり、大きすぎる(例えば、1000nmを超える)と、標識抗体とした際に、メンブランフィルター等のクロマトグラフ媒体の細孔内に詰まりやすい傾向や、分散性が低下する傾向がある。
【0090】
金属-樹脂複合体100の平均粒子径は、好ましくは、100nm以上700nm未満の範囲内であり、より好ましくは、100nm以上650nm未満の範囲内である。ここで、金属-樹脂複合体100の粒子径は、樹脂粒子10の粒子径に、一部露出金属粒子40又は表面吸着金属粒子50の突出部位の長さを加えた値を意味し、レーザー回折/散乱法、動的光散乱法、または遠心沈降法により測定することができる。
【0091】
金属-樹脂複合体100の製造方法は、特に限定されない。例えば、乳化重合法により製造した樹脂粒子10の分散液に、金属イオンを含有する溶液を加えて、金属イオンを樹脂粒子10に吸着させる(以下、「金属イオン吸着樹脂粒子」という。)。次に、金属イオン吸着樹脂粒子を還元剤溶液中に加えることで、金属イオンを還元して金属粒子20を生成させることによって、金属-樹脂複合体100を得ることができる。ここで、例えば、金属粒子20として金粒子を使用する場合、金属イオンを含有する溶液として、例えば塩化金酸(HAuCl4)水溶液等を用いることが好ましい。また、金属粒子20として白金粒子を使用する場合、金属イオンを含有する溶液として、例えば塩化白金酸(H2PtCl6)水溶液等を用いることが好ましい。なお、金属イオンの代わりに金属錯体を用いてもよい。
【0092】
また、金属イオンを含有する溶液の溶媒として、水の代わりに、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、sec-ブタノール、t-ブタノール等の含水アルコールもしくはアルコール、塩酸、硫酸、硝酸等の酸等を用いてもよい。
【0093】
また、金属イオンを含有する溶液に、必要に応じて、例えば、ポリビニルアルコール等の水溶性高分子化合物、界面活性剤、アルコール類;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等のエーテル類;アルキレングリコール、ポリアルキレングリコール、これらのモノアルキルエーテル又はジアルキルエーテル、グリセリン等のポリオール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類等の各種水混和性有機溶媒等の添加剤を添加してもよい。このような添加剤は、金属イオンの還元反応速度を促進し、また、生成される金属粒子20の大きさを制御するのに有効となる。
【0094】
また、還元剤としては、特に制限はないが、例えば、水素化ホウ素ナトリウム、ジメチルアミンボラン、クエン酸、次亜リン酸ナトリウム、抱水ヒドラジン、塩酸ヒドラジン、硫酸ヒドラジン、ホルムアルデヒド、ショ糖、ブドウ糖、アスコルビン酸、ホスフィン酸ナトリウム、ハイドロキノン、硫酸ヒドラジン、ホルムアルデヒド、ロッシェル塩等を使用することが好ましい。これらの中でも、水素化ホウ素ナトリウム、ジメチルアミンボラン、クエン酸がより好ましい。還元剤溶液には、必要に応じて界面活性剤を添加したり、溶液のpHを調整したりすることが出来る。pH調整にはホウ酸やリン酸等の緩衝剤、塩酸や硫酸などの酸、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどのアルカリにより調整することが出来る。
さらに還元剤溶液の温度により、金属イオンの還元速度を調整することによって、形成する金属粒子20の粒径をコントロールすることが出来る。
【0095】
また、金属イオン吸着樹脂粒子中の金属イオンを還元して金属粒子20を生成させる際、金属イオン吸着樹脂粒子を還元剤溶液に添加してもよいし、還元剤を金属イオン吸着樹脂粒子に添加してもよいが、内包金属粒子30及び一部露出金属粒子40の生成しやすさの観点から、前者が好ましい。
【0096】
また、金属-樹脂複合体100の水への分散性を保持するために、例えば、クエン酸、ポリ-L-リシン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルピリジン、ポリビニルアルコール、DISPERBYK194、DISPERBYK180、DISPERBYK184(ビッグケミージャパン社製)等の分散剤を添加してもよい。さらに、ホウ酸やリン酸等の緩衝剤、塩酸や硫酸などの酸、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどのアルカリによりpHを調整し、分散性を保持することが出来る。
【0097】
(標識抗体の態様、製造方法等)
標識抗体は、アナライトに特異的に結合する抗体を、樹脂-金属複合体(金属粒子と樹脂粒子とのコンポジット)で標識したものである。
【0098】
このような標識抗体は、具体的には、金属-樹脂複合体(例えば、樹脂粒子及び/又は金属粒子)の表面に抗体を吸着(結合)させた(固定した)ものであってもよい。
【0099】
ここで、抗体としては、前述の通り、SARS-CoV-2由来ヌクレオカプシドを構成するタンパク質に結合する抗体またはその断片を使用できるが、特に、標識抗体においては、SARS-CoV-2由来ヌクレオカプシドを構成するタンパク質に結合する抗体またはその断片であって、該抗体またはその断片の認識するエピトープが、配列番号1で表されるアミノ酸配列の208~222番目及び/又は332~351番目にあるものを好適に使用してもよい。
【0100】
標識抗体は、慣用の方法にて製造できるが、以下、代表的な方法等について説明する。
【0101】
・抗体結合工程
まず、抗体と金属-樹脂複合体とを混合することで、抗体を金属-樹脂複合体に結合(吸着、固定、付着)させてもよい(抗体結合工程)。
【0102】
このような抗体結合工程では、抗体と金属-樹脂複合体とを溶媒[水等、特に、緩衝液(結合用緩衝液)]の存在下で混合してもよい。
【0103】
本工程での金属-樹脂複合体と抗体との結合は、いわゆる物理的結合であってもよく、金属-樹脂複合体における金属粒子の表面及び/又は樹脂粒子の表面に物理的な相互作用によって抗体を結合させてもよい。ここで、物理的な相互作用による結合とは、例えば、静電気的結合、水素結合、親-疎水性相互作用、ファンデルワールス力を挙げることができる。
【0104】
結合用緩衝液を使用する場合、結合用緩衝液の種類は、特に限定されないが、例えば、ホウ酸、炭酸塩、リン酸塩などの無機系の緩衝剤、Tris、Good’s Bufferなどの有機系の緩衝剤などを用いることができる。緩衝液のpHは抗体を結合させるため、例えば、pH5~10程度が好ましい。
【0105】
抗体結合工程では、抗体と金属-樹脂複合体とを溶媒(特に結合用緩衝液)の存在下で混合し、十分に攪拌することによって、標識抗体分散液を得ることができる。
【0106】
本工程では、例えば、抗体と金属-樹脂複合体とを溶媒(特に結合用緩衝液)中で結合させればよいため、溶媒(特に結合用緩衝液)に予め金属-樹脂複合体を分散させておき、そこに抗体を添加してもよいし、溶媒(特に結合用緩衝液)に予め抗体を分散させておき、そこに金属-樹脂複合体を添加してもよい。分散は、公知の方法で行うことができるが、例えば超音波処理、ローテーターによる撹拌、ボルテックスミキサーなどの分散手段を用いることが好ましい。このようにして得られた標識抗体分散液は、例えば遠心分離などの固液分離手段により、固形部分として標識抗体のみを分取できる。
【0107】
本実施の形態の標識抗体の製造方法は、さらに、必要に応じて、下記の工程を含むことができる。
【0108】
・ブロッキング工程
ブロッキング工程は、標識抗体をブロック用緩衝液中に分散させる工程である。ブロッキング工程では、抗体結合工程で得られた標識抗体をブロック用緩衝液(Blocking Buffer)中に分散させることによって、標識抗体への非特異的な吸着を抑制するブロッキングを行う。
【0109】
ブロック用緩衝液としては、例えば、被検出物と結合しない蛋白質の溶液を用いることが好ましい。ブロック用緩衝液に使用可能な蛋白質としては、例えば牛血清アルブミン(BSA)、卵白アルブミン、カゼイン、ゼラチンなどを挙げることができる。より具体的には、所定濃度に調整した牛血清アルブミン溶液などを用いることが好ましい。ブロック用緩衝液のpHの調整は、例えば塩酸、水酸化ナトリウムなどを用いて行うことができる。標識抗体の分散には、公知の方法が使用できるが、例えば超音波処理、ローテーターによる撹拌などの分散手段を用いることが好ましい。このようにして標識抗体が均一分散した標識抗体分散液が得られる。この標識抗体分散液から、例えば遠心分離などの固液分離手段により、固形部分として標識抗体のみを分取できる。
また、必要に応じて、洗浄処理工程、保存処理工程など任意の工程を実施することができる。以下、洗浄処理、保存処理について説明する。
【0110】
・洗浄処理
洗浄処理は、固液分離手段によって分取した標識抗体に洗浄用緩衝液を添加し、洗浄用緩衝液中で標識抗体を均一に分散させる処理である。分散には、例えば超音波処理などの分散手段を用いることが好ましい。洗浄用緩衝液としては、特に限定されるものではないが、例えばpH6~9の範囲内に調整した所定濃度のトリス(Tris)緩衝液(トリスヒドロキシメチルアミノメタン緩衝液)、グリシンアミド緩衝液、アルギニン緩衝液などを用いることができる。洗浄用緩衝液のpHの調整は、例えば塩酸、水酸化ナトリウムなどを用いて行うことができる。標識抗体の洗浄処理は、必要に応じて複数回を繰り返し行うことができる。
【0111】
・保存処理
保存処理は、固液分離手段によって分取した標識抗体に保存用緩衝液を添加し、保存用緩衝液中で標識抗体を均一に分散させる処理である。分散には、例えば超音波処理などの分散手段を用いることが好ましい。保存用緩衝液としては、例えば、上記洗浄用緩衝液に、所定濃度の凝集防止剤及び/又は安定剤を添加した溶液を用いることができる。凝集防止剤としては、例えば、スクロース、マルトース、ラクトース、トレハロースに代表される糖類や、グリセリン、ポリビニルアルコールに代表される多価アルコールなどを用いることができる。安定剤としては、特に限定されるものではないが、例えば牛血清アルブミン、卵白アルブミン、カゼイン、ゼラチンなどの蛋白質を用いることができる。このようにして標識抗体の保存処理を行うことができる。
【0112】
以上の各工程では、さらに必要に応じて、界面活性剤や、アジ化ナトリウム、パラオキシ安息香酸エステルなどの防腐剤を用いることができる。
【0113】
なお、イムノクロマトストリップに反応部(標識抗体)を設ける場合、反応部(標識抗体)の形態や形成方法等は、特に限定されず、前述の通りである。
【0114】
[捕捉リガンド]
捕捉リガンドは、アナライトに特異的に結合する抗体(またはその断片)である。
【0115】
ここで、抗体(またはその断片)としては、前述の通り、SARS-CoV-2由来ヌクレオカプシドを構成するタンパク質に結合する抗体またはその断片を使用できるが、特に、捕捉リガンドにおいては、SARS-CoV-2由来ヌクレオカプシドを構成するタンパク質に結合する抗体またはその断片であって、該抗体またはその断片の認識するエピトープが、配列番号1で表されるアミノ酸配列の374~397番目にあるものを好適に使用[とりわけ、前述の標識抗体、すなわち、SARS-CoV-2由来ヌクレオカプシドを構成するタンパク質に結合する抗体またはその断片であって、該抗体またはその断片の認識するエピトープが、配列番号1で表されるアミノ酸配列の208~222番目及び/又は332~351番目にあるものを抗体とする標識抗体との組み合わせにおいて使用]してもよい。
【0116】
なお、判定部(捕捉リガンド)の形態や形成方法等は、特に限定されず、前述の通りである。
【0117】
<キット及びアナライトの検出方法>
【0118】
本発明のキットは、イムノクロマトストリップ(テストストリップ)[上記イムノクロマトストリップ(テストストリップ)](又はイムノクロマトストリップの構成要素)を用いたものであればよく、特に限定されない。
【0119】
キットは、一態様としては、標識抗体(さらには反応部)を含まないテストストリップと、標識抗体とを含む(組み合わせた)ものであってもよい。なお、標識抗体は、標識抗体を含む試薬(検出試薬)の形態であってもよい。
【0120】
キットの一態様(他の態様)としては、テストストリップ(前記テストストリップ)と、その他の構成要素(検出のための構成要素、例えば、展開液など)とを含む(組み合わせた)ものであってもよい。
【0121】
また、本発明のイムノクロマトストリップ(テストストリップ)(又はキット)を用いることで、アナライト(SARS-CoV-2由来のアナライト)を検出又は定量できる。
【0122】
そのため、本発明には、当該検出又は定量方法(免疫測定方法)も含まれる。
【0123】
このような方法は、特に限定されず、テストストリップ(又はキット)の態様に応じて慣用の方法を利用できるが、例えば、下記工程(I)~(III)を含んでいてもよい。
工程(I):試料に含まれるアナライト(試料、前記アナライトを含む試料)と、標識抗体とを接触(例えば、反応部において接触)させる工程
工程(II):工程(I)において形成された、アナライトと標識抗体とを含む複合体を、捕捉リガンドに接触(例えば、判定部において接触)させる工程
工程(III):樹脂-金属複合体の発色強度(例えば、局在型表面プラズモン共鳴及び電子遷移による光エネルギー吸収に由来する発色強度)を測定する工程
【0124】
なお、テストストリップ(又はキット)として、標識抗体(さらには反応部)を含まないテストストリップを使用する場合、工程(I)はテストストリップ内で行ってもよく、テストストリップ外で行ってもよい。
【0125】
例えば、試料中のアナライトと検出試薬中の標識抗体とを接触させて工程(I)を実施した後、テストストリップの適当な部位(標識抗体を含まない反応部、試料添加部等)に試料を供して、工程(II)、工程(III)を順次実施してもよい。
【0126】
このような方法によれば、試料(アナライト)が、SARS-CoV-2由来のアナライト(抗原)を含む場合、アナライト(SARS-CoV-2由来のアナライト)を検出又は定量できる。
【0127】
このような試料において、SARS-CoV-2由来のアナライト(抗原)の濃度は、特に限定されないが、例えば組換えタンパクの抗原濃度0.1ng/ml以下、ウイルス量500コピー/テスト以下といった濃度(低濃度)であってもよい。
本発明では、このような低濃度であっても、効率よく検出ないし定量しうる。
【実施例0128】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。以下の実施例、比較例において特にことわりのない限り、各種測定、評価は下記によるものである。
【0129】
<抗体>
以下の抗体を使用した。
【0130】
・抗体A:抗新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)抗体A、関東化学、製品番号02125-96、該抗体の認識するエピトープが、配列番号1で表されるアミノ酸配列の208~222番目にある。
【0131】
・抗体B:抗新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)抗体B、関東化学、製品番号02126-67、該抗体の認識するエピトープが、配列番号1で表されるアミノ酸配列の332~351番目にある。
【0132】
・抗体D:抗新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)抗体D、関東化学、製品番号02128-67、該抗体の認識するエピトープが、配列番号1で表されるアミノ酸配列の374~397番目にある。
【0133】
<金属-樹脂複合体粒子の吸光度測定>
金属-樹脂複合体粒子の吸光度は、石英ガラス製セル(光路長10mm)に0.01wt%(重量%)に調製した金属-樹脂複合体粒子分散液(分散媒:水)を入れ、分光光度計(島津製作所社製、UV3600)を用いて、金-樹脂複合体の場合570nm、白金-樹脂複合体の場合400nmの吸光度を測定した。
【0134】
<固形分濃度測定及び金属担持量の測定>
磁製るつぼに濃度調整前の分散液1gを入れ、70℃、3時間乾燥を行った。乾燥前後の重量を測定し、下記式により固形分濃度を算出した。
固形分濃度(wt%)=
[乾燥後の重量(g)/ 乾燥前の重量(g)]× 100
また、上記乾燥処理後のサンプルを、さらに500℃、5時間熱処理を行い、熱処理前後の重量を測定し、下記式より金属担持量を算出した。
金属担持量(wt%)=
[熱処理後の重量(g)/熱処理前の重量(g)]×100
【0135】
<金属粒子の平均粒子径の測定>
金属-樹脂複合体粒子分散液をカーボン支持膜付き金属性メッシュへ滴下して作成した基板を、電界放出形走査電子顕微鏡(FE-SEM;日立ハイテクノロジーズ社製、SU-9000)により観測した画像から、任意の100個の金属粒子の面積平均径を測定し平均粒子径とした。
【0136】
<樹脂粒子及び樹脂複合体粒子の平均粒子径の測定>
ディスク遠心式粒度分布測定装置(CPS Disc Centrifuge DC24000 UHR、CPS instruments, Inc.社製)を用いて測定した。測定は、樹脂粒子又は樹脂複合体粒子(金属-樹脂複合体粒子)を水に分散させた状態で行った。
【0137】
[作製例1]
<樹脂粒子の合成>
トリオクチルアンモニウムクロリド(1.3g)及びポリエチレングリコールメチルエチルエーテルメタクリレート(10.00g)を300gの純水に溶解した後、2-ビニルピリジン(48.00g)及びジビニルベンゼン(2.00g)を加え、窒素気流下において30℃で50分、次いで60℃で30分間撹拌した。撹拌後、18.00gの純水に溶解した2,2-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩(0.25g)を滴下し、60℃で3.5時間撹拌することで、平均粒子径349nmの樹脂粒子A-1を得た。遠心分離(9000rpm、40分)により沈殿させ、上澄みを除去した後、純水に再度分散させた後、透析処理により不純物を除去した。その後、濃度調整を行い10wt%の樹脂粒子分散液B-1を得た。
【0138】
[作製例2]
<金-樹脂複合体粒子の合成>
樹脂粒子分散液B-1 30.0gに純水78.0gを加えた後、7wt%塩化金酸水溶液42.9gを加え、室温で3時間撹拌した。この混合液を遠心分離(3000rpm、30分)により樹脂粒子を沈殿させ、上澄みを除去することで余分な塩化金酸を除去した。その後、濃度を調整して、5wt%の金イオン吸着樹脂粒子分散液C-3を得た。
【0139】
次に、純水4725gにC-3を65g加え、3℃で撹拌しながら、528mMのジメチルアミンボラン水溶液15gを滴下した後、室温で3時間撹拌することで、平均粒子径357nmの金-樹脂複合体粒子D-3を得た。D-3を遠心分離により濃縮した後、透析処理により精製し、濃度を調整して、1wt%の金-樹脂複合体粒子分散液(AuNCP)E-3を得た。E-3中の金-樹脂複合体粒子F-3の吸光度は、1.38であった。また、F-3における金粒子の平均粒子径は21nm、金の担持量は48.0wt%であった。
【0140】
[作製例3]
<白金-樹脂複合体粒子の合成>
樹脂粒子分散液B-1 30.0gに純水85.0gを加えた後、7wt%塩化白金酸水溶液31.0gを加え、室温で3時間撹拌した。この混合液を遠心分離(3000rpm、30分)により樹脂粒子を沈殿させ、上澄みを除去することで余分な塩化白金酸を除去した。その後、濃度を調整して、5wt%の白金イオン吸着樹脂粒子分散液C-4を得た。
【0141】
次に、純水4725gにC-4を70.5g加え、3℃で撹拌しながら、132mMのジメチルアミンボラン水溶液137gを滴下した後、室温で3時間撹拌することで、平均粒子径360nmの白金-樹脂複合体粒子D-4を得た。D-4を遠心分離により濃縮した後、透析処理により精製し、濃度を調整して、1wt%の白金-樹脂複合体粒子分散液(PtNCP)E-4を得た。E-4中の白金-樹脂複合体粒子F-4の吸光度は、1.75であった。また、F-4における白金粒子の平均粒子径は3.5nm、白金の担持量は39.1wt%であった。
【0142】
[実施例1]
(抗体結合工程)
抗体A{抗新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)抗体A、関東化学、製品番号02125-96}25μgと50mM ホウ酸緩衝液(pH6)0.45mlを混合した後、1wt%の金-樹脂複合体粒子分散液E-3を0.05ml添加し、室温で1時間かけて転倒撹拌を行い、金-樹脂複合体粒子F-3で標識した抗体Aを含む標識抗体分散液J-1を得た。
【0143】
(ブロック工程)
次に、標識抗体分散液J-1を3000rpm5分間で遠心分離を行い、上澄み液を除去した後、沈降堆積物に1wt%BSAを含む5mMのTris水溶液(pH5)0.5mlを添加し、超音波分散した後、さらに、室温で1時間かけて転倒撹拌を行い、標識抗体分散液K-1を得た。
【0144】
(洗浄処理)
次に、標識抗体分散液K-1を3000rpm5分間で遠心分離を行い、上澄みを除去した後、沈降堆積物に0.1wt%未満の界面活性剤を含む5mMのTris水溶液(pH8.5)0.5mlを添加し、超音波分散した。この操作を3回繰り返し、洗浄処理とした。
【0145】
(保存処理)
次に、氷冷後、3000rpm5分間で遠心分離を行い、上澄みを除去した後、沈降堆積物に0.1wt%未満の界面活性剤および、10wt%のスクロースを含む5mMのTris水溶液(pH8.5)0.5mlを添加し、超音波分散して、標識抗体分散液L-1を得た。
【0146】
(コンジュゲートパッド作製)
0.12mlの標識抗体分散液L-1を3000rpm5分間で遠心分離を行い、上澄みを除去した後、沈降堆積物に5wt%のスクロースと2.5wt%のBSAを含む水溶液(pH8.0)0.333mlを添加し、超音波分散して、標識抗体分散液M-1を得た。ガラスファイバー不織布に標識抗体分散液M-1を均一に含浸させた後、50℃1時間で乾燥を行い、コンジュゲートパッドN-1を作製した。この時、コンジュゲートパッドN-1における金-樹脂複合体粒子F-3の含有量が、後述のイムノクロマト法による評価1テスト当たり3μgとなるように標識抗体分散液M-1の液量を調節した。
【0147】
(イムノクロマトストリップの作製)
図2に示す構造のイムノクロマトストリップを作製した。まず、幅25mmのニトロセルロースメンブレン4に、抗体D{抗新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)抗体D、関東化学、製品番号02128-67}を塗布してテストライン5を描画した。また、テストライン5の下流側に抗マウスIgG抗体を塗布してコントロールライン6を描画した。このニトロセルロースメンブレン4を50℃で1時間かけて乾燥した後、
図2に示すイムノクロマトストリップの断面図の通りに、ラミネートフィルム1、コンジュゲートパッド3としてのコンジュゲートパッドN-1、サンプルパッド2(ガラスファイバー不織布)および吸収パッド7(コットン不織布)を積層した。最後に、3.5mm幅にカットしてイムノクロマトストリップP-1を作成した。
【0148】
(展開液の調製)
50mMのTris、150mMのNaCl、1.0wt%のBSA、1.0wt%の界面活性剤Triton X―100を含有する水溶液(pH7.1)を調製し、展開液1とした。
【0149】
(イムノクロマト法による評価)
展開液1を用いて抗原(SARS-CoV-2由来NP 組換えタンパク)を希釈することにより、陽性コントロール(抗原濃度10ng/ml)及び陰性コントロール(抗原非含有)の検体液を調製した。検体液50μlをイムノクロマトストリップP-1のサンプルパッド2に滴下した。その後、30分経過後のテストライン5の発色強度をイムノクロマトリーダー(浜松ホトニクス C10066-10)で測定した。イムノクロマト法による評価結果を表1に示す。
【0150】
[実施例2~4、比較例1~12]
表1に示すように、粒子として白金-樹脂複合体粒子分散液E-4、Auコロイド(E-1、田中貴金属工業、Auコロイド溶液-SC、粒径50nm)および黒色ラテックス(E-2、メルクミリポア、Estapor Black、K1 040D、粒径400nm)を用いること、および粒子と結合させる抗体とメンブレンに塗布する抗体として抗体A、抗体B{抗新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)抗体B、関東化学、製品番号02126-67}、抗体Dを異なる組み合わせで使用すること以外は実施例1と同様にして、結合工程、ブロック工程、洗浄処理、保存処理、コンジュゲートパッド作製、イムノクロマトストリップ作製、イムノクロマト評価を行った。表1にイムノクロマト評価結果を示す。
【0151】
[比較例13、14]
結合用緩衝液として5mM Tris水溶液(pH9.5)およびブロック用緩衝液として1wt%BSAを含む5mMのTris水溶液(pH9.5)を用いること以外は比較例1、2と同様にして、結合工程、ブロック工程、洗浄処理、保存処理、コンジュゲートパッド作製、イムノクロマトストリップ作製、イムノクロマト評価を行った。表1にイムノクロマト評価結果を示す。
【0152】
[比較例15、16]
結合用緩衝液として50mM MES水溶液(pH6)を用いてEDC-NHS カップリング法による化学結合処理をおこない、ブロック用緩衝液として1wt%カゼインナトリウムを含む5mMのTris水溶液(pH7)を用いること以外は比較例3、4と同様にして、結合工程、ブロック工程、洗浄処理、保存処理、コンジュゲートパッド作製、イムノクロマトストリップ作製、イムノクロマト評価を行った。表1にイムノクロマト評価結果を示す。
【0153】
実施例1~4、比較例1~16の試験結果から、粒子(標識物質)として金-樹脂複合体粒子もしくは白金-樹脂複合体粒子を使用し、かつ粒子に結合させる抗体として抗体Aもしくは抗体B、メンブレンに塗布する抗体として抗体Dを使用することにより、イムノクロマト評価における、陽性検体でのテストラインの発色強度が増大し、陰性検体での擬陽性を抑制できることから、他の粒子や他の抗体の組み合わせを用いた場合と比較してイムノクロマトの感度が向上していることが判る。さらに、実施例1~4のうち実施例4の条件が最もイムノクロマトの感度が高く、白金-樹脂複合体粒子を使用し、抗体Bを粒子に結合させ、抗体Dをメンブレンに塗布する条件が最良の組み合わせであった。
【0154】
【0155】
[実施例5]
(結合工程)
抗体B 12.5μgと50mM HEPES緩衝液(pH7)0.45mlを混合した後、1wt%の白金-樹脂複合体粒子分散液E-4を0.05ml添加し、室温で1時間かけて転倒撹拌を行い、白金-樹脂複合体粒子F-4で標識した抗体Bを含む標識抗体分散液J-5を得た。
【0156】
(ブロック工程)
次に、標識抗体分散液J-5を3000rpm5分間で遠心分離を行い、上澄み液を除去した後、沈降堆積物に1wt%カゼインナトリウムを含む5mMのTris水溶液(pH7)0.5mlを添加し、超音波分散した後、さらに、室温で1時間かけて転倒撹拌を行い、標識抗体分散液K-5を得た。
【0157】
(洗浄処理、保存処理、コンジュゲートパッド作製、イムノクロマトストリップの作製)
標識抗体分散液K-5を用いること以外は実施例1と同様にして、洗浄処理、保存処理、コンジュゲートパッド作製、イムノクロマトストリップの作製を行い、イムノクロマトストリップP-5を作製した。
【0158】
(展開液の調製)
50mMのTris、150mMのNaCl、0.5wt%のカゼインナトリウム、1.0wt%のTritonX100を含有する水溶液(pH7.5)を調製し、展開液2とした。
【0159】
(イムノクロマト法による評価)
展開液2を用いて抗原(SARS-CoV-2由来NP 組換えタンパク)を希釈することにより、陽性コントロール(抗原濃度10、1、0.1、0.025ng/ml)及び陰性コントロール(抗原非含有)の検体液を調製した。検体液100μlをイムノクロマトストリップP-5のサンプルパッド2に滴下した。その後、10分経過後のテストライン5の発色強度をイムノクロマトリーダー(浜松ホトニクス C10066-10)で測定した。イムノクロマト法による評価結果を表2に示す。
【0160】
実施例5の試験結果から、実施例4と同じ粒子及び抗体の組み合わせであれば、同様の傾向を示すものの、さらに抗体処理条件やイムノクロマト評価条件などイムノアッセイの構成条件を最適化することにより、より一層、テストラインの発色強度が増大し、イムノクロマトの感度がさらに向上していることが判る。
【0161】
【0162】
以上、本発明の実施の形態を例示の目的で詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態により制約されることはない。
1…支持体(ラミネートフィルム)、2…サンプルパッド、3…コンジュゲートパッド、4…メンブレン(ニトロセルロースメンブレン等)、5…テストライン、6…コントロールライン、7…吸収パッド、10…樹脂粒子、20…金属粒子、30…内包金属粒子、40…一部露出金属粒子、50…表面吸着金属粒子、60…表層部、100…金属-樹脂複合体