(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024095074
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】ソースを含む容器詰め食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 23/00 20160101AFI20240703BHJP
【FI】
A23L23/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022212085
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】713011603
【氏名又は名称】ハウス食品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100196405
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 邦光
(72)【発明者】
【氏名】神田 直哉
(72)【発明者】
【氏名】濱洲 紘介
(72)【発明者】
【氏名】南 可奈子
(72)【発明者】
【氏名】橋本 わかな
(72)【発明者】
【氏名】赤坂 優太
(72)【発明者】
【氏名】木村 涼子
【テーマコード(参考)】
4B036
【Fターム(参考)】
4B036LC04
4B036LE05
4B036LF03
4B036LH12
4B036LH13
4B036LH15
4B036LH22
4B036LH50
4B036LP01
4B036LP18
4B036LP19
(57)【要約】
【課題】本発明は、高温での炊き上げ工程がなくても油脂が分離しないソースの製造方法を提供することを目的としている。
【解決手段】本発明のソースを含む容器詰め食品の製造方法は、
(1)常温固体油脂、油脂吸着粉体、及び水を含む第1の原料を、前記常温固体油脂の融点以上の温度で、かつ前記油脂吸着粉体が澱粉質原料を含んでいる場合には前記澱粉質原料の糊化温度未満の温度で攪拌混合し、油脂分散液を調製する工程と、
(2)前記油脂分散液を、追加の原料を含む第2の原料と攪拌混合して、ソースを調製する工程と、
(3)前記ソースを容器に充填する工程と
を含んでいる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソースを含む容器詰め食品の製造方法であって、
(1)常温固体油脂、油脂吸着粉体、及び水を含む第1の原料を、前記常温固体油脂の融点以上の温度で、かつ前記油脂吸着粉体が澱粉質原料を含んでいる場合には前記澱粉質原料の糊化温度未満の温度で攪拌混合し、油脂分散液を調製する工程と、
(2)前記油脂分散液を、追加の原料を含む第2の原料と攪拌混合して、ソースを調製する工程と、
(3)前記ソースを容器に充填する工程と
を含む製造方法。
【請求項2】
前記常温固体油脂(F)の前記油脂吸着粉体(P)に対する配合比(F/P)が、質量比で10以下である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
- 前記常温固体油脂の配合量が、前記第1の原料の全質量に対して5質量%~50質量%であり、及び/又は、
- 前記第1の原料が、前記常温固体油脂、前記油脂吸着粉体、及び前記水のみから実質的になる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記常温固体油脂の融点が、15℃を超える、請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
前記油脂分散液に含まれる全油滴数のうち、90%以上の油滴の直径が500μm以下である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
前記油脂吸着粉体が、タンパク質を含み、及び/又は、多孔質構造を有している、請求項1に記載の製造方法。
【請求項7】
前記油脂吸着粉体が、澱粉質原料及び/又は香辛料を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項8】
前記澱粉質原料が、小麦粉を含む、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
工程3の後に、前記容器に充填したソースを加熱殺菌する工程をさらに含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記容器詰め食品が、レトルト食品である、請求項1~8のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソースを含む容器詰め食品の製造方法に関しており、特に高温での炊き上げ工程を必要としない製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レトルトカレーなどのレトルトパウチ食品(単に「レトルト食品」ともいう。)は、当初は常温で保存可能で簡便に食することのできるインスタント食品の一種として開発されたが、現在では本格的な料理を家庭でも手軽に楽しむための食品としても見直され、その商品のバリエーションも広がっている。レトルト食品の製造工程においては、ソースを容器に充填する前に、小麦粉などの澱粉質原料、油脂、及び水などを含むソースの原料を、90℃以上の高温で炊き上げることが行われている(例えば、特許文献1及び2などを参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10-23874号公報
【特許文献2】特開2002-101842号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
澱粉は水と一緒に加熱されると糊化して粘性を生じるところ、高温での炊き上げ工程は澱粉の糊化温度よりも高い温度で実施されるため、ソースの粘度が上昇し、それを容器に詰めるまでに、製造設備や配管にソースが付着することで歩留まりが下がり、さらに製造設備の洗浄作業が煩雑になることで作業時間が長くなる。他方、澱粉の糊化温度よりも低い温度で原料を攪拌すると、粘性が生じないことでソース中の油脂の分散が悪くなり、油脂が分離するという問題が生じる。そこで、本発明は、高温での炊き上げ工程がなくても油脂が分離しないソースの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、常温固体油脂、油脂吸着粉体、及び水を含む第1の原料を粘性の生じない温度条件で攪拌混合して油脂分散液を調製すれば、製造したソースの粘度が高くなくても、当該ソースにおける油脂の分離を防ぐことができることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、以下に示すソースを含む容器詰め食品の製造方法を提供するものである。
〔1〕ソースを含む容器詰め食品の製造方法であって、
(1)常温固体油脂、油脂吸着粉体、及び水を含む第1の原料を、前記常温固体油脂の融点以上の温度で、かつ前記油脂吸着粉体が澱粉質原料を含んでいる場合には前記澱粉質原料の糊化温度未満の温度で攪拌混合し、油脂分散液を調製する工程と、
(2)前記油脂分散液を、追加の原料を含む第2の原料と攪拌混合して、ソースを調製する工程と、
(3)前記ソースを容器に充填する工程と
を含む製造方法。
〔2〕前記常温固体油脂(F)の前記油脂吸着粉体(P)に対する配合比(F/P)が、質量比で10以下である、前記〔1〕に記載の製造方法。
〔3〕- 前記常温固体油脂の配合量が、前記第1の原料の全質量に対して5質量%~50質量%であり、及び/又は、
- 前記第1の原料が、前記常温固体油脂、前記油脂吸着粉体、及び前記水のみから実質的になる、前記〔1〕に記載の製造方法。
〔4〕前記常温固体油脂の融点が、15℃を超える、前記〔1〕に記載の製造方法。
〔5〕前記油脂分散液に含まれる全油滴数のうち、90%以上の油滴の直径が500μm以下である、前記〔1〕に記載の製造方法。
〔6〕前記油脂吸着粉体が、タンパク質を含み、及び/又は、多孔質構造を有している、前記〔1〕に記載の製造方法。
〔7〕前記油脂吸着粉体が、澱粉質原料及び/又は香辛料を含む、前記〔1〕に記載の製造方法。
〔8〕前記澱粉質原料が、小麦粉を含む、前記〔7〕に記載の製造方法。
〔9〕工程3の後に、前記容器に充填したソースを加熱殺菌する工程をさらに含む、前記〔1〕~〔8〕のいずれか1項に記載の製造方法。
〔10〕前記容器詰め食品が、レトルト食品である、前記〔1〕~〔8〕のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明に従えば、常温固体油脂、油脂吸着粉体、及び水を含む原料を粘性の生じない温度条件で攪拌混合して油脂分散液を調製することで、粘度を上げずに油脂の分離が抑制されたソースを製造することができる。したがって、製造設備や配管へのソースの付着を防ぐことで歩留まりが向上でき、また設備の洗浄作業も容易になることで作業時間も短縮できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】試験例1の試料1のソースの顕微鏡画像を示す。
【
図2】試験例1の試料2のソースの顕微鏡画像を示す。
【
図3】試験例1の試料3のソースの顕微鏡画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明は、ソースを含む容器詰め食品の製造方法に関している。前記容器詰め食品に含まれるソースの種類は、特に限定されないが、例えば、カレー、シチュー、ハヤシライスソース、ハッシュドビーフ、チャウダー、パスタなどの麺用ソース、スープ、肉野菜炒め及び回鍋肉などの炒めもの料理用ソース、及びその他各種ソースであってもよい。ある態様では、前記容器詰め食品は、レトルト食品である。
【0009】
本発明の製造方法は、常温固体油脂、油脂吸着粉体、及び水を含む第1の原料を、前記常温固体油脂の融点以上の温度で、かつ前記油脂吸着粉体が澱粉質原料を含んでいる場合には前記澱粉質原料の糊化温度未満の温度で攪拌混合し、油脂分散液を調製する工程(工程1)を含んでいる。
【0010】
本明細書に記載の「常温固体油脂」とは、少なくとも常温の温度範囲のいずれかで固体で存在し得る油脂のことをいい、具体的には、約15℃を超える融点(例えば、約25℃以上、約30℃以上、又は、約35℃以上の融点)を有しており、食用に供される天然油脂又は加工油脂などのことをいう。前記常温固体油脂としては、当技術分野で通常使用されるものを特に制限されることなく採用することができるが、例えば、前記常温固体油脂は、バター、牛脂、及び豚脂などの動物油脂、マーガリン、ココナッツ油などの植物油脂、これらの硬化油脂、並びにこれらの混合油脂などからなる群から選択される少なくとも1種を含んでもよい。前記常温固体油脂の配合量は、特に限定されないが、例えば、前記第1の原料の全質量に対して約5質量%~約50質量%又は約15質量%~約30質量%であってもよく、あるいは、前記ソースの全質量に対して約1質量%~約20質量%又は約3質量%~約10質量%であってもよい。
【0011】
本明細書に記載の「油脂吸着粉体」とは、両親媒性の性質又は多孔質構造などにより油脂を吸着し得る、食用に供される粉体原料のことをいう。前記油脂吸着粉体としては、当技術分野で通常使用されるものを特に制限されることなく採用することができるが、例えば、前記油脂吸着粉体は、タンパク質などの両親媒性成分及び/又は多孔質構造を有する原料を含んでもよく、具体的には、澱粉質原料及び/又は香辛料を含んでもよい。
【0012】
本明細書に記載の「澱粉質原料」とは、澱粉を主成分とするが、前記油脂吸着粉体として機能し得る食品原料のことをいう。前記澱粉質原料は、前記ソースを製造できる限り特に限定されないが、例えば、小麦粉、コーンフラワー、米粉、ライ麦粉、蕎麦粉、あわ粉、きび粉、はと麦粉、及びひえ粉などの穀粉、並びに、多孔質構造を有する澱粉加工品などからなる群から選択される少なくとも1種を含んでもよい。
【0013】
前記香辛料は、植物に由来する乾燥粉粒状物であって、その表面から内部にかけて多数の微細な凹凸又は多孔、すなわち多孔質構造を有している。前記香辛料は、前記ソースを製造できる限り特に限定されないが、例えば、カレーパウダー、ガーリックパウダー、コリアンダー、クミン、キャラウェー、タイム、セージ、胡椒、唐辛子、マスタード、ターメリック、及びパプリカなどからなる群から選択される1種以上を含んでもよい。
【0014】
前記油脂吸着粉体の配合量は、前記常温固体油脂の配合量に応じて適宜調整することができ、例えば、前記常温固体油脂(F)の前記油脂吸着粉体(P)に対する配合比(F/P)が、質量比で約10以下となる量であってもよい。ある態様では、F/Pは、約0.01以上であり、又は、約0.05~約9若しくは約0.1~約7である。また、前記油脂吸着粉体の配合量は、例えば、前記第1の原料の全質量に対して約2.5質量%~約50質量%又は約7.5質量%~約30質量%であってもよく、あるいは、前記ソースの全質量に対して約0.5質量%~約20質量%又は約1.5質量%~約10質量%であってもよい。
【0015】
本発明の製造方法の工程1での攪拌温度は、前記常温固体油脂が融解して前記油脂吸着粉体と結合し得る温度であって、前記油脂吸着粉体が澱粉質原料を含んでいる場合には前記澱粉質原料が糊化しない温度であればよく、例えば、約15℃~約60℃又は約30℃~約50℃であってもよい。
【0016】
本発明の製造方法の工程1で調製される油脂分散液は、微細な油滴の周囲を前記油脂吸着粉体が取り囲むことで形成されたものであると考えられる。特定の理論に拘束されるものではないが、例えば、両親媒性の性質を有する成分は、その親油性部分及び親水性部分を利用して前記油滴と分散媒の水との間に介在し、多孔質構造を有する原料は、表面上の微細な凹凸又は多孔において吸油又は吸水しつつ、内部も吸油又は吸水した状態となって油脂と水に介在するため、安定な油脂分散液が形成されるものと考えられる。前記油脂分散液に含まれる油滴の直径は、特に限定されないが、例えば、全油滴数のうち、約90%以上の油滴の直径が約500μm以下であってもよく、約1~約200μm又は約1~約100μmであってもよい。なお、油滴の直径は、前記油脂分散液又はそれから調製したソースの顕微鏡画像に基づいて測定することができる。
【0017】
ある態様では、本発明の製造方法の工程1で使用される第1の原料は、前記常温固体油脂、前記油脂吸着粉体、及び前記水のみから実質的になる。ここでいう「から実質的になる」とは、前記第1の原料を構成する主たる成分が、前記常温固体油脂、前記油脂吸着粉体、及び前記水のみであることをいう。
【0018】
ある態様では、本発明の製造方法は、工程1の前に、前記常温固体油脂及び前記澱粉質原料を含むが水を実質的に含まない混合物を加熱処理して、加熱処理混合物を調製する工程をさらに含む。ここでいう「水を実質的に含まない」とは、前記混合物の原料に含まれる水分以外の水を添加しないことをいう。前記澱粉質原料が小麦粉である場合には、それから調製される加熱処理混合物は小麦粉ルウと呼ばれることもある。前記加熱処理混合物中の前記澱粉質原料の割合は、特に限定されないが、例えば、約25質量%~約70質量%又は約30質量%~約55質量%である。前記澱粉質原料は、続く工程1において前記油脂吸着粉体として機能し得る。
【0019】
前記加熱処理混合物を調製するときの加熱条件は、最終的に製造するソースの種類や前記常温固体油脂及び前記澱粉質原料の種類などに応じて適宜調整され得るものであるが、例えば、前記常温固体油脂及び前記澱粉質原料の混合物を、到達品温が約70℃~約150℃になるように約1~約100分間昇温加熱してもよい。なお、前記混合物は水を実質的に含んでいないため、その加熱処理工程においては、前記澱粉質原料は糊化しない。
【0020】
本発明の製造方法は、前記油脂分散液を、追加の原料を含む第2の原料と攪拌混合して、ソースを調製する工程(工程2)を含んでいる。前記第2の原料は、工程2を実施する前に、前記追加の原料を適宜混合及び/又は加熱するなどして調製しておいてもよい。
【0021】
前記追加の原料は、当技術分野で通常使用される任意の食品原料又は任意の添加剤などであってもよく、例えば、粉体原料(デキストリンなど)、水系原料、調味料、香辛料、乳化剤、増粘剤、酸化防止剤(ビタミンC、及びビタミンEなど)、香料、甘味料、着色料、及び/又は、酸味料などを含んでもよい。なお、前記油脂吸着粉体と前記追加の原料とは重複し得るが、前者が前記油脂分散液を調製するために用いられるのに対して、後者はソースの風味の調整などのために用いられるものであるから、それぞれの用途は異なっており、添加のタイミングも区別される。
【0022】
前記水系原料は、ある程度の水分を含有する食品原料のことをいい、固体、液状、又はペースト状であり得る。前記水系原料の水分量は、特に限定されないが、例えば、当該水系原料の全質量に対して約10質量%以上であってもよい。前記水系原料は、前記ソースを製造することができる限り特に限定されないが、例えば、果実(リンゴ、バナナ、チャツネなど)のペースト又はエキス、畜肉(ビーフ、チキン、ポークなど)のペースト又はエキス、野菜(オニオン、ガーリックなど)のペースト又はエキス、チーズ及び生クリームなどからなる群より選択される少なくとも1種であってもよい。
【0023】
本発明の製造方法の工程2での攪拌温度は、前記第2の原料が前記澱粉質原料を含んでいる場合には前記澱粉質原料が糊化しない温度であればよく、前記第2の原料が前記澱粉質原料を含んでいない場合には特に制限されず、例えば、約1℃~約90℃又は約20℃~約60℃であってもよい。ある態様では、工程2は、追加の加熱をせずに(すなわち工程1からの余熱で)実施してもよい。
【0024】
本発明の製造方法は、前記ソースを容器に充填する工程(工程3)を含んでいる。前記容器としては、当技術分野で通常使用されるものを特に制限されることなく採用することができるが、例えば、前記容器は、レトルトパウチ、瓶、又は缶などであってもよい。
【0025】
本発明の製造方法によれば、工程1~工程3の間では、水の存在下でその沸点付近の温度で加熱する工程、すなわち炊き上げ工程は必須とされておらず、むしろ澱粉質原料を含む原料をその糊化温度以上の温度で炊き上げる態様は排除されているため、前記澱粉質原料による粘性が生じないだけでなく、炊き上げ工程用の設備も必要とされず、燃料の節約につながり、製造工程全体を効率化することができる。
【0026】
本発明の製造方法は、食品の製造において通常採用され得る工程をさらに含んでもよい。ある態様では、工程3の後に、前記容器に充填したソースを加熱殺菌(例えば、加圧加熱殺菌)する工程をさらに含む。この加熱殺菌工程は常法により行うことができ、前記澱粉質原料の糊化温度を超える温度で加熱してもよい。そのため、前記ソースが前記澱粉質原料を含んでいる場合、それが前記加熱殺菌工程によって糊化し、前記容器から取り出した後のソースが粘性を有したものとなる。
【0027】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例0028】
〔試験例1〕
後掲の表1に記載の原料及び条件で各ソースを調製した。具体的には、試料1の場合は、(1)まず常温固体油脂(調製ラード、融点36℃)及び小麦粉を質量比1:1で混合して加熱することで小麦粉ルウを作製し、次に溶融状態の小麦粉ルウに温水を添加し、45℃(油脂の融点以上かつ小麦澱粉の糊化温度以下)で攪拌(5000rpm、2分間)して油脂分散液を調製した。そして、(2)予め混合攪拌(3000rpm、2分間)しておいた残りの原料を当該油脂分散液に添加して、追加の加熱をせずに(およそ30℃~40℃で)攪拌し、試料1のソースを調製した。
【0029】
その他の調味料及び添加剤の配合量並びに温水添加後の攪拌速度を変更した以外は試料1と同様にして、試料2のソースを調製した。また、工程(1)において、常温固体油脂(調製ラード)、小麦粉、及び水を、20℃で攪拌(3000rpm、2分間)して油脂分散液を調製した以外は試料2と同様にして、試料3のソースを調製した。
【0030】
【0031】
調製したソースの油脂浮きを目視で観察した。また、各ソースに油溶性のパプリカ色素を添加して油滴部分を着色し、デジタルマイクロスコープVHX6000(株式会社キーエンス)で油滴径を測定して、以下の基準に従って評価した。顕微鏡画像を
図1~3に示し、試験結果を表2に示す。
<油脂浮き>
◎:製造終了時に油脂浮きが全く確認されない
〇:製造終了時に油脂浮きがほとんど確認されない
×:製造終了時に油脂浮きがかなり確認される
<油滴径>
◎:90%以上の油滴の油滴径が0~100μm
〇:90%以上の油滴の油滴径が0~500μm(ただし、◎には該当しない)
×:90%以上の油滴の油滴径が500μmを超える
【0032】
【0033】
試料1及び2は、従来の炊き上げ工程を経ずに製造したソースであり、澱粉の糊化による粘性が発現しておらず、さらさらした性状であったが、油脂浮きがほとんど確認されず、細かい油滴が均一に分散されていた。これに対して、試料3は、工程(1)における攪拌温度が低すぎたため、油脂が凝集して分離してしまった。したがって、常温固体油脂を、その融点以上の温度で油脂吸着粉体である小麦粉及び水と攪拌混合すれば、たとえ炊き上げ工程を実施しなくても、製造したソースにおいて油脂を均一に分散できることが示された。
【0034】
〔試験例2〕
後掲の表3に記載の原料及び条件で各ソースを調製した。具体的には、(1)常温固体油脂(調製ラード、融点36℃)と、カレーパウダー又は浮粉(小麦澱粉)と、温水とを混合し、45℃で攪拌(5000rpm、2分間)して油脂分散液を調製した。そして、(2)予め混合攪拌(3000rpm、2分間)しておいた残りの原料を、当該油脂分散液に添加して攪拌し、試料4及び5のソースを調製した。
【0035】
【0036】
調製したソースの外観を目視により観察すると、油脂を吸着し得るカレーパウダーを試料1の小麦粉に代えて使用した試料4では、さらさらした性状であるにもかかわらず、油脂の分離が抑えられていた。他方、油脂を吸着しない浮粉を試料1の小麦粉に代えて使用した試料4では、油脂の分離が引き起こされてしまった。したがって、試料1における油脂の分離抑制効果は、小麦粉の澱粉成分ではなく両親媒性のタンパク質成分によるものであると考えられ、また、多孔質粉体を含む香辛料でも油脂の分離抑制効果が発揮されることが示された。
【0037】
〔製造例〕
試料1のソースを用意し、レトルト食品用パウチに200gずつ充填し密封した。そして、当該ソースの中心部に120℃4分間相当以上の熱がかかるよう加熱殺菌処理を施して、レトルトソースを調製した。このパウチを開封して中のソースを皿に出すと、油脂が分離していないことが確認され、また、小麦粉由来の澱粉が糊化したことにより良好な粘性を有していることが確認された。
【0038】
以上より、常温固体油脂、油脂吸着粉体、及び水を含む原料を粘性の生じない温度条件で攪拌混合して油脂分散液を調製することで、粘度を上げずに油脂の分離が抑制されたソースを製造することができることが分かった。したがって、製造設備や配管へのソースの付着を防ぐことで歩留まりが向上でき、また設備の洗浄作業も容易になることで作業時間も短縮できる。