(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024095138
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】クラスレート化合物、熱電変換材料およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H10N 10/851 20230101AFI20240703BHJP
H10N 10/01 20230101ALI20240703BHJP
【FI】
H10N10/851
H10N10/01
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022212200
(22)【出願日】2022-12-28
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「未利用熱エネルギーの革新的活用技術研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】517018101
【氏名又は名称】公立大学法人山陽小野田市立山口東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【弁理士】
【氏名又は名称】来間 清志
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 竜太
(72)【発明者】
【氏名】山本 潔
(72)【発明者】
【氏名】山本 貴博
(72)【発明者】
【氏名】阿武 宏明
(72)【発明者】
【氏名】橋國 克明
(57)【要約】
【課題】高温(例えば450℃以上)にしても熱電変換性能の低下が起こり難く、特に高温で優れた熱電変換性能を有する、p型の熱電変換材料として用いることが可能なBa-Au-Ge系のクラスレート化合物と、それを用いた熱電変換素子およびその製造方法を提供する。
【解決手段】クラスレート化合物は、化学式BaaAubFecGed(7.60≦a≦8.40、5.50<b≦7.00、0<c≦1.00、a+b+c+d=54.00を満たす。)で表される組成を有する。また、熱電変換材料は、このクラスレート化合物を含み、p型の半導体特性を有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式BaaAubFecGed(7.60≦a≦8.40、5.50<b≦7.00、0<c≦1.00、a+b+c+d=54.00を満たす。)で表される組成を有する、クラスレート化合物。
【請求項2】
化学式BaaAubFecGed(7.60≦a≦8.20、6.00≦b≦6.70、0.20≦c≦0.60、a+b+c+d=54.00を満たす。)で表される組成を有する、クラスレート化合物。
【請求項3】
請求項1または2に記載のクラスレート化合物を含み、p型の半導体特性を有する、熱電変換材料。
【請求項4】
請求項3に記載の熱電変換材料の製造方法であって、
Ba、Au、FeおよびGeの各原料を秤量して原料組成物を得る原料秤量工程と、
前記原料秤量工程で得られる原料組成物を溶融した後に凝固させてバルク状のクラスレート化合物を得る溶融凝固工程と、
溶融凝固工程で得られる前記バルク状のクラスレート化合物から微粒子状のクラスレート化合物を形成する微粒子化工程と、
前記微粒子状のクラスレート化合物を焼結して前記熱電変換材料を得る焼結工程と、
を有する、熱電変換材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラスレート化合物、熱電変換材料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゼーベック効果を利用した熱電変換モジュールは、熱エネルギーを電気エネルギーに変換することが可能な性質を有する。その性質を利用することで、産業用および民生用のプロセスや移動体から排出される排熱を、有効な電力に変換することができるため、熱電変換は環境問題に配慮した省エネルギー技術として注目されている。
【0003】
一般に、熱電変換モジュールは、p型の半導体特性を有する熱電変換材料からなるp型熱電変換素子と、n型の半導体特性を有する熱電変換材料からなるn型熱電変換素子とを用いて、複数のp型およびn型の熱電変換素子を交互に電気的に直列に接続する構造を有する。
【0004】
熱電変換モジュールに用いられる熱電変換材料の熱電変換性能を示す無次元性能指数ZTは、下記の式(1)で表すことができる。
ZT=S2T/(ρκ) ・・・式(1)
ここで、式(1)のうち、Sはゼーベック係数であり、ρは電気抵抗率であり、κは熱伝導率であり、Tは測定温度である。
【0005】
式(1)から明らかなように、熱電変換材料における熱電変換性能を向上させるためには、ゼーベック係数Sを大きくすること、電気抵抗率ρを小さくすること、および熱伝導率κを小さくすることが重要である。高い無次元性能指数ZTを示す熱電変換材料として、クラスレート化合物が注目されている。
【0006】
熱電変換材料の主体となるクラスレート化合物にはいくつかの種類が報告されているが、優れた熱電変換性能を得るなどの観点で、金およびゲルマニウムを含有させたBa-Au-Ge系のクラスレート化合物が知られている。
【0007】
例えば、特許文献1には、熱電変換素子に好適な新規なクラスレート化合物として、化学式Ba8AuaGe46-a(ここで、0<a<16/3を満たす。)で表される組成を有する、クラスレート化合物およびその焼結体である熱電変換素子が開示されている。
【0008】
また、非特許文献1には、化学式Ba8-δAuχGe46-χ(ここで、δ=0のとき5.20≦χ≦5.51、δ=0.1のとき5.25≦χ≦6.05)で表される組成を有するクラスレート化合物の熱電変換性能が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Michael Baitinger, Hong Duong Nguen, Appl. Phys. Lett. 119, 063902 (2021)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1は、化学式Ba8AuaGe46-a(ここで、0<a<16/3を満たす。)で表される組成を有するクラスレート化合物のうち、特に5≦a<16/3を満たすクラスレート化合物が、p型半導体の特性を呈するとしている。しかし、特許文献1には、原料の組成比がBa8Au5.25Ge40.75のときに、p型半導体の特性を呈するクラスレート化合物の例は記載されているものの、この原料から得られるクラスレート化合物の組成については示されておらず、また、無次元性能指数ZTが最大となる温度が約400℃と低く、それ以上の高温ではZTが低下するため、廃熱発電のような高温の使用環境での熱電変換性能が十分に得られないという問題がある。
【0012】
また、非特許文献1には、化学式Ba8-δAuχGe46-χ(ここで、δ=0のとき5.20≦χ≦5.51、δ=0.1のとき5.25≦χ≦6.05)で表される組成を有するクラスレート化合物の例は記載されているが、427℃(700K)以上の高温における無次元性能指数ZTについては開示されていない。
【0013】
本発明は、高温(例えば450℃以上)にしても熱電変換性能の低下が起こり難く、特に高温で優れた熱電変換性能を有する、p型の熱電変換材料として用いることが可能なBa-Au-Ge系のクラスレート化合物と、それを用いた熱電変換素子およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、Ba-Au-Ge系のクラスレート化合物において、Ba、AuおよびGeの組成比を特定の範囲に設定するとともに、Feを特定の組成比で含有させることによって、高温(例えば450℃以上)にしても熱電変換性能の低下が起こり難く、特に高温において優れた熱電変換性能が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
上記目的を達成するため、本発明の要旨構成は、以下のとおりである。
(1)化学式BaaAubFecGed(7.60≦a≦8.40、5.50<b≦7.00、0<c≦1.00、a+b+c+d=54.00を満たす。)で表される組成を有する、クラスレート化合物。
(2)化学式BaaAubFecGed(7.60≦a≦8.20、6.00≦b≦6.70、0.20≦c≦0.60、a+b+c+d=54.00を満たす。)で表される組成を有する、クラスレート化合物。
(3)上記(1)または(2)に記載のクラスレート化合物を含み、p型の半導体特性を有する、熱電変換材料。
(4)上記(3)に記載の熱電変換材料の製造方法であって、Ba、Au、FeおよびGeの各原料を秤量して原料組成物を得る原料秤量工程と、前記原料秤量工程で得られる原料組成物を溶融した後に凝固させてバルク状のクラスレート化合物を得る溶融凝固工程と、溶融凝固工程で得られる前記バルク状のクラスレート化合物から微粒子状のクラスレート化合物を形成する微粒子化工程と、前記微粒子状のクラスレート化合物を焼結して前記熱電変換材料を得る焼結工程と、を有する、熱電変換材料の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高温(例えば450℃以上)にしても熱電変換性能の低下が起こり難く、特に高温で優れた熱電変換性能を有する、p型の熱電変換材料として用いることが可能なBa-Au-Ge系のクラスレート化合物と、それを用いた熱電変換素子およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本発明に従う熱電変換材料の製造方法の各工程を行なう順番を示したフローチャートである。
【
図2】
図2は、本発明例1、2および比較例3の熱電変換材料について、温度[℃]を横軸に、無次元性能指数ZTを縦軸にしたときの、600℃以下の温度範囲における無次元性能指数ZTを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0019】
<クラスレート化合物および熱電変換材料>
本発明に従うクラスレート化合物は、化学式BaaAubFecGed(7.60≦a≦8.40、5.50<b≦7.00、0<c≦1.00、a+b+c+d=54.00を満たす。)で表される組成を有する化合物であり、Ba、Au、FeおよびGeを含有する化合物である。より好ましくは、化学式BaaAubFecGed(7.60≦a≦8.20、6.00≦b≦6.70、0.20≦c≦0.60、a+b+c+d=54.00を満たす。)で表される組成を有する。
【0020】
本発明のクラスレート化合物では、Ba-Au-Ge系のクラスレート化合物において、Ba、AuおよびGeの組成比を特定の範囲に設定するとともに、Feを特定の組成比で含有させることによって、無次元性能指数ZTが最高値を示す温度が高められ、または無次元性能指数ZTの最高値が高められることで、熱電変換性能の低下が始まる温度を高めることができ、高温(例えば450℃以上)における熱電変換性能を高めることができる。それとともに、クラスレート化合物をBa-Au-Ge系の組成により構成することで、Feを含有させたとしても、鉛やテルルなどの環境負荷物質を含まないことができるため、クラスレート化合物の材料による環境負荷を少なくすることができる。
【0021】
その結果、本発明に従うクラスレート化合物によることで、環境負荷の小さい熱電変換素子に好適に用いることができるとともに、高温(例えば450℃以上)にしても熱電変換性能の低下が起こり難く、特に高温で優れた熱電変換性能を有する、p型の熱電変換材料として用いることが可能なクラスレート化合物を提供することができる。
【0022】
なお、本明細書における「高温」とは、450℃以上の温度を指すが、490℃以上の温度としてもよい。また、「高温」が指している温度範囲の上限は特に限定されないが、例えば700℃を上限としてもよい。
【0023】
[1]クラスレート化合物の組成
本発明のクラスレート化合物は、化学式BaaAubFecGed(7.60≦a≦8.40、5.50<b≦7.00、0<c≦1.00、a+b+c+d=54.00を満たす。)で表される組成を有する。このクラスレート化合物では、主にGeによって構成される籠状骨格構造(ホスト)を有するクラスレート格子が形成され、その中にBa原子(ゲスト)が内包されるとともに、クラスレート格子を構成するGeの一部がAuおよびFeで置換された構造を有する。
【0024】
以下、化学式BaaAubFecGedで表されるクラスレート化合物の組成比を示すa~dを、特定の範囲に設定する理由について説明する。ここで、化学式BaaAubFecGedにおける原子数を表すa、b、cおよびdは、いずれもa+b+c+d=54.00を満たすときの相対値である。
【0025】
Baは、クラスレート化合物の構造を形成し、籠状骨格構造のなかで、ゲスト元素として大きく振動すること(ラットリング)による熱伝導率の低減に寄与する作用を有する元素であり、化学式BaaAubFecGedにおける原子数aは、7.60以上にする。他方で、Baの含有量が多すぎると、Baを含む異相として析出することで、無次元性能指数ZTの最高値が低くなる。このため、化学式BaaAubFecGedにおける原子数aは、8.40以下にし、好ましくは8.20以下にする。このため、原子数aの範囲は、7.60以上8.40以下の範囲にし、好ましくは7.60以上8.20以下の範囲にし、より好ましくは7.60以上8.00以下の範囲にする。
【0026】
Auは、熱電変換材料の極性と無次元性能指数ZTを決定するとともに、無次元性能指数ZTの最高値を示す温度を高めるとともに、特に高温(例えば450℃以上)における熱電変換性能を高める作用を有する元素である。この作用を発揮するには、化学式BaaAubFecGedにおける原子数bは、5.50より大きくし、好ましくは6.00以上にする。他方で、Auの含有量が多すぎると、Auを含む異相として析出することになる。このため、化学式BaaAubFecGedにおける原子数bは、7.00以下にし、好ましくは6.70以下にする。このため、原子数bの範囲は、5.50より大きく7.00以下の範囲にし、好ましくは6.00以上6.57以下の範囲にし、さらに好ましくは6.00以上6.50以下の範囲にする。
【0027】
Feは、熱電変換材料の極性と無次元性能指数ZTを決定するとともに、無次元性能指数ZTの最高値を示す温度を高めるとともに、特に高温(例えば450℃以上)における熱電変換性能を高める作用を有する元素である。この作用を発揮するには、化学式BaaAubFecGedにおける原子数cは、0より大きくし、好ましくは0.20以上にする。他方で、Feの含有量が多すぎると、Feを含む異相として析出することになる。このため、化学式BaaAubFecGedにおける原子数cは、1.00以下にし、好ましくは0.60以下にする。このため、原子数cの範囲は、0より大きく1.00以下の範囲にし、好ましくは0.20以上0.60以下の範囲にする。
【0028】
Geは、クラスレート格子の籠状骨格構造(ホスト)を構成する元素である。原子数dは、a+b+c+dの合計である54.00から、上述の原子数a、bおよびcを引いた数値により求めることができるため、原子数dの範囲は特に限定されない。なお、原子数a、bおよびcの範囲が上述の範囲であるとき、原子数dの取りうる範囲は、37.60以上40.90未満の範囲になる。
【0029】
上述の原子数b、cおよびdの合計は、46.00前後の数値、より具体的には45.60以上46.40以下の範囲であることが好ましい。この関係を満たすことで、クラスレート化合物は、Geによって構成される籠状骨格構造(ホスト)が主体になるため、理想的な結晶構造をとることができる。
【0030】
本発明のクラスレート化合物では、上述したBa、Au、FeおよびGe以外に、他の添加元素が含まれてもよい。ここで、「他の添加元素」としては、クラスレート化合物の特性を微調製するために添加する元素を挙げることができ、より具体的に、ゲスト元素としてはSrなどが挙げられ、また、ホスト元素としてはSi、Sn、Al、Ga、Cu、Ag、Ni、Pd、Ptなどが挙げられる。クラスレート化合物における他の添加元素の含有量は、a+b+c+d=54.00を満たすときの相対値で表すと、上記成分ごとに0.1以下、上記成分の総量で6以下とすることができる。
【0031】
また、本発明のクラスレート化合物では、不可避不純物を含有しても差し支えない。ここでいう「不可避不純物」は、原料中に存在するものや、製造工程において不可避的に混入するもので、本来は不要なものであるが、微量であり、クラスレート化合物の特性に影響を及ぼさないため許容されている不純物である。不可避不純物として挙げられる成分としては、例えば、C、O、S、Nなどが挙げられる。なお、不可避不純物の含有量の上限は、a+b+c+d=54.00を満たすときの相対値で表すと、上記成分ごとに0.01以下、上記成分の総量で0.1以下とすることができる。
【0032】
本発明のクラスレート化合物を含み、かつp型の半導体特性を有する熱電変換材料は、主にGeによって構成されるクラスレート格子を有する化合物相の割合が高いことが好ましいが、所望の高い無次元性能指数ZTが損なわれない範囲で、クラスレート格子を有しない他の化合物相が含まれていてもよい。その中でも、本発明のクラスレート化合物を含み、かつp型の半導体特性を有する熱電変換材料は、クラスレート化合物の単相によって構成されることがより好ましい。
【0033】
[2]無次元性能指数ZT
本発明のクラスレート化合物は、例えば450℃以上の高温にしても熱電変換性能の低下が起こり難く、特に高温において高い無次元性能指数ZTを有する。より具体的に、本発明のクラスレート化合物は、無次元性能指数ZTが最大値になる温度(℃)が450℃以上の高温にあるとともに、無次元性能指数ZTの最大値が0.70以上であることが好ましい。ここで、無次元性能指数ZTの最大値は、0.80以上であることがより好ましく、0.90以上であることがさらに好ましい。これにより、高温(例えば450℃以上)にしても熱電変換性能が下がり難くなるとともに、このような高温において優れた熱電変換性能が得られるため、クラスレート化合物を、廃熱発電などにおける高温の使用環境の中でも、熱電変換材料として好適に用いることができる。
【0034】
クラスレート化合物の無次元性能指数ZTは、ゼーベック係数S[V/K]、電気抵抗率ρ[Ωm]、熱伝導率κ[W/m・K]および絶対温度T[K]の測定値から、式(1)を用いて求めることができる。
ZT=S2T/(ρκ) ・・・式(1)
【0035】
ここで、式(1)におけるゼーベック係数Sおよび電気抵抗率ρは、例えば四端子法により測定することができる。また、式(1)における熱伝導率κは、比熱c[J/(kg・K)]、密度δ[kg/m3]、熱拡散率α[m2/s]の測定結果から、下記の式(2)により算出することができる。
κ=cδα ・・・式(2)
【0036】
式(2)における比熱cは、レーザーフラッシュ法(キセノンフラッシュ法)またはDSC(Differential Scanning Calorimetry)法により測定することができる。また、式(2)における密度δは、アルキメデス法により測定することができる。また、式(2)における熱拡散率αは、レーザーフラッシュ法(キセノンフラッシュ法)により測定することができる。
【0037】
[3]熱電変換材料
本発明の熱電変換材料は、上述するクラスレート化合物を含むとともに、p型の半導体特性を有する。上述するクラスレート化合物を含むことで、高温(例えば450℃以上)にしても熱電変換性能の低下が起こり難く、特に高温において優れた熱電変換性能が得られるため、クラスレート化合物を、廃熱発電などにおける高温の使用環境の中でも、熱電変換材料として好適に用いることができる。
【0038】
ここで、本発明の熱電変換材料は、ゼーベック係数Sが正の値をとり、それにより極性がp型の半導体特性を有する。そのため、本発明の熱電変換材料は、例えばn型の熱電変換材料と交互に電気的に直列に接続することで、優れた熱電変換性能を有する熱電変換モジュールを構成することができる。
【0039】
[4]熱電変換材料の製造方法の一例
上述した熱電変換材料を得ることが可能な、製造方法の一例として、以下の方法を挙げることができる。
【0040】
図1は、本発明に従う熱電変換材料の製造方法の各工程を行なう順番を示したフローチャートである。
図1に示すように、本実施形態に係る熱電変換材料の製造方法は、Ba、Au、FeおよびGeの各原料を秤量して原料組成物を得る原料秤量工程S1と、原料秤量工程S1で得られる原料組成物を溶融した後に凝固させてバルク状のクラスレート化合物を得る溶融凝固工程S2と、溶融凝固工程S2で得られるバルク状のクラスレート化合物から微粒子状のクラスレート化合物を形成する微粒子化工程S3と、微粒子状のクラスレート化合物を焼結して熱電変換材料を得る焼結工程S4と、を有する。これらの工程を経ることで、所望の組成を有するクラスレート化合物を多く含有し、ポア(空隙)が少なく、かつ組成が均一な熱電変換材料を得ることができる。
【0041】
(i)原料秤量工程S1
原料秤量工程S1は、Ba、Au、FeおよびGeの各原料を所望のクラスレート化合物の組成となるように、所定量を秤量して原料組成物を得る工程である。各原料は、単体であってもよく、合金や化合物であってもよい。
【0042】
各原料の形状は、特に限定されず、粉末であってもよく、片状や塊状であってもよい。他方で、Baの原料の形状は、酸化を防ぐ観点から、塊状であることが好ましい。
【0043】
また、原料秤量工程S1は、原料の酸化を防止する観点から、Ar(アルゴン)などの不活性ガス雰囲気中や、減圧下で行うことが好ましい。
【0044】
(ii)溶融凝固工程S2
溶融凝固工程S2は、原料秤量工程S1で得られる原料組成物を溶融した後に凝固させてバルク状のクラスレート化合物を得る工程である。溶融凝固工程S2は、原料組成物を溶融して融液を得る溶融工程S21と、原料組成物の融液を凝固させてバルク状のクラスレート化合物を得る凝固工程S22に分かれていてもよく、溶融工程S21および凝固工程S22を複数回にわたり繰り返し行なってもよい。
【0045】
溶融工程S21に関して、原料組成物を溶融する具体的な手段は特に限定されず、種々の手段を用いることができる。その一例として、ルツボに供給した原料組成物を加熱することで、ルツボ内に供給した原料組成物を溶融する手段を用いることができる。ここで、原料組成物を加熱する手段としては、抵抗発熱体による加熱や、高周波誘導加熱、アーク溶解、プラズマ加熱、電子ビーム加熱などの手段を用いることができる。また、原料組成物を溶融するルツボとしては、グラファイトまたはアルミナからなるものや、水冷銅ハースなどのコールドクルーシブルなどを用いることができる。また、原料組成物を溶融する際は、原料や融液の酸化を防止する観点から、不活性ガス雰囲気中または減圧下で行うことが好ましい。また、原料組成物を溶融するのに要する時間を短くする観点から、ルツボ内にある原料組成物または融液に対して、機械的または電磁的な攪拌を行なってもよい。
【0046】
溶融工程S21において原料組成物を溶融する時間は、上記原料を構成するすべての成分が液体の状態になって均質に混ざり合うための時間が必要である。他方で、原料組成物の溶融工程S21に要するエネルギーコストを考慮すると、原料組成物を溶融する時間は、できるだけ短時間であることが望ましい。そのため、原料組成物を溶融する時間は、好ましくは1分以上120分以下の範囲であり、より好ましくは1分以上70分以下の範囲である。
【0047】
また、凝固工程S22に関して、原料組成物の融液からバルク状のクラスレート化合物を得る手段は特に限定されず、種々の手段を用いることができる。その一例として、溶融工程S21で得られた原料組成物の融液から、鋳型を用いて鋳造することで、バルク状のクラスレート化合物としてインゴットを形成してもよい。また、他の一例として、溶融工程S21で得られた原料組成物の融液を、ルツボ中で凝固させることで、バルク状のクラスレート化合物を形成してもよい。
【0048】
凝固工程S22を行なった後のバルク状のクラスレート化合物は、再び溶融工程S21を行なってもよい。このとき、クラスレート化合物の内部における組成の不均一を解消する観点から、得られたバルク状のクラスレート化合物を上下反転させた状態で、再び溶融工程S21に供してもよい。
【0049】
溶融凝固工程S2で得られたバルク状のクラスレート化合物に対して、アニール処理を行なってもよい。これにより、バルク状のクラスレート化合物を、より均質なものにすることができる。
【0050】
ここで、バルク状のクラスレート化合物に対するアニール処理の処理時間は、クラスレート化合物をより均質なものにする観点では、1時間以上であることが好ましい。他方で、アニール処理の処理時間は、アニール処理におけるエネルギーコストの観点からは、できるだけ短時間であることが望ましい。そのため、アニール処理の処理時間は、1時間以上100時間以下の範囲であることがより好ましい。
【0051】
また、アニール処理の処理温度は、好ましくは400℃以上900℃以下の範囲であり、より好ましくは700℃以上900℃以下の範囲である。ここで、処理温度が400℃未満であると、クラスレート化合物の均質化が不十分になる恐れが生じる。他方で、アニール処理の処理温度が900℃を超えると、再溶融によってクラスレート化合物のバルクに濃度偏析が生じる恐れが生じる。
【0052】
(iii)微粒子化工程S3
微粒子化工程S3は、溶融凝固工程S2で得られるバルク状のクラスレート化合物から微粒子状のクラスレート化合物を形成する工程である。
【0053】
ここで、微粒子化工程S3においてバルク状のクラスレート化合物を形成する手段としては、特に限定されず、種々の手段を用いることができる。その中でも、細かい粒径の微粒子を容易に得られる観点では、ボールミル等を用いて、バルク状のクラスレート化合物を粉砕することで、微粒子状のクラスレート化合物を形成することが好ましい。
【0054】
また、溶融凝固工程S2と微粒子化工程S3を合わせて行なってもよく、その場合、ガスアトマイズ法などの各種アトマイズ法などを用いて、微粒子状のクラスレート化合物を形成してもよい。
【0055】
微粒子化工程S3によって得られる微粒子は、焼結工程S4における焼結性を向上させる観点では、平均粒径が小さいことが好ましい。ここで、微粒子化工程S3で得られる微粒子の平均粒径は、好ましくは150μm以下であり、より好ましくは1μm以上90μm以下の範囲である。
【0056】
微粒子の平均粒径の調整は、ボールミルなどの粉砕手段や、アトマイズ法などの他の手段によって形成された微粒子に対して、公知のふるい分けなどの手段を用いることで、行なうことができる。
【0057】
(iv)焼結工程S4
焼結工程S4は、微粒子化工程S3で得られる微粒子状のクラスレート化合物を焼結して熱電変換材料を得る工程である。これにより、クラスレート化合物の微粒子が焼結されるため、所望の形状を有するとともに、均質性が高く空隙の少ない固体の熱電変換材料を得ることができる。
【0058】
焼結工程S4で用いる加熱手段としては、特に限定されるものではなく、種々の手段を用いることができる。その一例として、放電プラズマ焼結法、ホットプレス焼結法、熱間等方圧加圧焼結法などの、加圧または非加圧の焼結法を用いることができる。
【0059】
例えば、放電プラズマ焼結法を用いて焼結工程S4を行なう場合、焼結工程S4における加熱温度は、600℃以上860℃以下の範囲とすることが好ましく、700℃以上845℃以下の範囲とすることがより好ましい。また、放電プラズマ焼結法を用いる場合の、焼結工程S4における加熱時間は、1分以上90分以下の範囲とすることが好ましく、30分以上60分以下の範囲とすることがより好ましい。また、放電プラズマ焼結法を用いる場合、微粒子状のクラスレート化合物に対して加圧しながら加熱を行なうことが好ましく、その際の圧力は、20MPa以上80MPaの範囲とすることが好ましく、25MPa以上40MPa以下の範囲とすることがより好ましい。
【0060】
ここで、焼結工程S4における加熱温度が600℃未満であると、焼結が十分に行なわれなくなり、この加熱温度が860℃を超えると、クラスレート化合物が溶解する恐れがある。また、焼結工程S4における加熱時間が1分未満であると、得られる熱電変換材料の密度が低くなり過ぎて破損しやすくなり、この加熱時間が90分を超えると、焼結が飽和することでほとんど進行しなくなるため、熱電変換材料の生産性を阻害する。
【0061】
焼結工程S4では、微粒子状のクラスレート化合物を加熱温度まで加熱した後、その加熱温度の近傍で上記加熱時間にわたって保持し、その後、加熱前の温度まで冷却する。その際、微粒子状のクラスレート化合物を加熱温度まで加熱する際と、その加熱温度でクラスレート化合物を保持する際は加圧状態にするとともに、クラスレート化合物を冷却する際に加圧状態を解除することが好ましい。このような圧力操作を行うことで、焼結工程S4で得られる熱電変換材料の割れを抑制することができる。
【0062】
また、焼結工程S4で得られる熱電変換材料の酸化を抑制する観点では、焼結工程S4のうち、少なくともクラスレート化合物の温度が500℃以上の温度にあるときは、クラスレート化合物を、Ar(アルゴン)などの不活性ガス雰囲気中や、減圧下におくことが好ましい。
【0063】
[5]熱電変換材料におけるクラスレート化合物の生成の確認
例えば上述の製造方法によって得られた熱電変換材料が、本発明のクラスレート化合物を含むものであるか否かの確認を行うための分析手段には、種々の組成分析の手段を用いることができる。その一例として、粉末X線回折(XRD)を用いて本発明のクラスレート化合物を含むことを確認する方法について説明する。
【0064】
XRD測定の具体的な手順としては、焼結工程S4で得られた熱電変換材料を再度粉砕して粉砕物を作製し、この粉砕物についてJIS K0131で規定されるXRD測定を行ない、得られたピークがクラスレート化合物(タイプ1クラスレート化合物:空間群Pm-3n(No.223))を示すものか否かを確認することによって、得られた熱電変換材料がタイプ1クラスレート化合物を含むものであるか否かの確認を行なうことができる。
【0065】
しかし、XRD測定の対象となる熱電変換材料は、タイプ1クラスレート化合物以外に不純物相を含む場合がある。このため、上記XRD測定で得られたX線回折ピークには、不純物相のピークも観察される場合がある。本発明では、Baなどを含む異相をはじめとする不純物相の割合が多くなると、無次元性能指数ZTの最高値が低くなることで性能が劣化する原因となるため、全ての化合物相に由来する最大ピーク強度の合計に対する、タイプ1クラスレート化合物に由来する最大ピーク強度の割合(最大ピーク強度比)は、85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、93%以上であることがさらに好ましく、95%以上であることが特に好ましい。
【0066】
本明細書における、XRD測定における「ピーク強度」とは、熱電変換材料のXRD測定で得られた、タイプ1クラスレート化合物や不純物相に由来する各ピークにおける、ピーク高さと半値幅の積である。
【0067】
また、本明細書における「最大ピーク強度」とは、XRD測定で得られた「ピーク強度」のうち、由来する化合物ごとに選ばれる、最大のピーク強度である。
【0068】
また、本明細書における「最大ピーク強度比」とは、全ての化合物相に由来する最大ピーク強度の合計に対する、タイプ1クラスレート化合物に由来する最大ピーク強度の割合のことであり、より具体的には、熱電変換材料のXRD測定において得られるタイプ1クラスレート化合物に由来する最大ピーク強度をIHSとし、不純物相に由来する最大ピーク強度を不純物ごとにIA、IB、・・・としたときに、以下の式(3)を用いて求められる百分率(%)である。
「最大ピーク強度比」=IHS/(IHS+IA+IB+・・・)×100(%)
・・・式(3)
【0069】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の概念および特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含み、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【実施例0070】
次に、本発明の効果をさらに明確にするために、本発明例および比較例について説明するが、本発明はこれらの本発明例に限定されるものではない。
【0071】
<熱電変換材料の作製>
[本発明例1~3および比較例1~3]
表1に示す配合比率(元素比)で、純度2N以上の高純度のBaと、純度3N以上の高純度のAu、Fe、GeとをAr(アルゴン)雰囲気中で秤量して原料組成物を得る原料秤量工程S1を行った。ここで、比較例3の原料組成物の配合比率は、上述の非特許文献1に記載されるクラスレート化合物と同じ原料組成物の配合比率を有するものである。
【0072】
ルツボとして水冷銅ハースを用い、原料秤量工程S1で得られる原料組成物を水冷銅ハースに供給して、Ar(アルゴン)雰囲気中でアーク溶解により20分間にわたり溶融する溶融工程S21を行なった。その後、得られた原料組成物の融液を、水冷銅ハースを鋳型として用いて常温まで冷却することで鋳造し、バルク状のクラスレート化合物であるインゴットを形成する凝固工程S22を行なった。凝固工程S22を行なった後のバルク状のクラスレート化合物は、上下反転させた状態で、再び溶融工程S21に供した。このようにして、溶融工程S21および凝固工程S22を5回繰り返す溶融凝固工程S2を行なうことで、微粒子化工程S3に供するインゴットを得た。
【0073】
微粒子化工程S3では、得られたインゴットを、ボールミルを用いてAr(アルゴン)雰囲気中で粉砕することで、微粒子状のクラスレート化合物を形成した。このとき、得られた微粒子の平均粒径が90μm以下となるように、微粒子の粒度を調整した。
【0074】
得られた微粒子状のクラスレート化合物について、放電プラズマ焼結法(SPS法)を用いて焼結工程S4を行なった。焼結工程S4では、圧力30MPaまで加圧した後で790℃の加熱温度まで加熱し、その後、790℃以上845℃以下の温度範囲で60分間にわたりクラスレート化合物を焼結させた。その後、加圧状態を解除して、室温までクラスレート化合物を冷却することで、焼結体からなる熱電変換材料を作製した。焼結体を冷却する際、500℃以上の温度にあるときは、クラスレート化合物の酸化を防ぐためにAr(アルゴン)雰囲気中で冷却させた。
【0075】
[各種測定および評価方法]
上記本発明例および比較例で得られた熱電変換材料を用いて、下記に示す特性評価を行なった。各特性の評価条件は下記のとおりである。
【0076】
[1]組成分析
本発明例および比較例で得られた熱電変換材料に対して、電子線マイクロアナライザーを用いて組成分析を行ない、結果を表1の「熱電変換材料に含まれるクラスレート化合物の組成」欄に記載した。ここで、表1の「熱電変換材料に含まれるクラスレート化合物の組成」欄は、Ba+Au+Fe+Ge=54.00としたときの元素比の相対値を示した。
【0077】
[2]熱電変換材料においてクラスレート化合物が生成する割合
本発明例および比較例で得られた熱電変換材料に対して、粉末X線回折(XRD)を用いて本発明のクラスレート化合物が生成する割合を求めた。より具体的に、得られた熱電変換材料を再度粉砕して粉砕物を作製し、この粉砕物についてJIS K0131で規定されるXRD測定を行なった。その結果、得られたピークがクラスレート化合物(タイプ1クラスレート化合物:空間群Pm-3n(No.223))を示すものであることを確認し、それにより、得られた熱電変換材料がタイプ1クラスレート化合物を含むものであることを確認した。その上で、タイプ1クラスレート化合物と、タイプ1クラスレート化合物以外の全ての不純物相について、化合物ごとに最大ピーク強度を求めた。次いで、全ての化合物相に由来する最大ピーク強度の合計に対する、タイプ1クラスレート化合物に由来する最大ピーク強度の割合を算出し、この値を最大ピーク強度比とした。結果を表1に示す。
【0078】
[3]無次元性能指数ZTおよび熱電変換材料の極性
本発明例および比較例で得られた熱電変換材料に対して、400℃の測定温度において、四端子法によりゼーベック係数S[V/K]をそれぞれ測定し、ゼーベック係数Sが正の数である例については、表1の「熱電変換材料の極性」が「p型」であると評価した。また、ゼーベック係数Sが負の数である例については、表1の「熱電変換材料の極性」が「n型」であると評価した。結果を表1に示す。
【0079】
また、本発明例および比較例で得られた熱電変換材料について、30℃~700℃の温度範囲で100℃ごとの測定温度で、それぞれ、レーザーフラッシュ法(キセノンフラッシュ法)により、比熱c[J/(kg・K)]および熱拡散率α[m2/s]を測定するとともに、アルキメデス法により密度δ[kg/m3]を測定し、上述の式(2)を用いて、各測定温度における熱伝導率κ[W/m・K]をそれぞれ算出した。さらに、各測定温度において、四端子法によりゼーベック係数S[V/K]および電気抵抗率ρ[Ωm]を測定し、算出された熱伝導率κ[W/m・K]と、絶対温度で表した測定温度T[K]から、上述の式(1)を用いて、各測定温度における無次元性能指数ZTをそれぞれ算出した。このとき得られる、測定した温度範囲内における無次元性能指数ZTの最大値と、無次元性能指数ZTがその最大値になる温度(℃)を、それぞれ表1に示す。
【0080】
【0081】
表1の結果から、本発明例1~3の熱電変換材料は、クラスレート化合物の組成が化学式BaaAubFecGed(7.60≦a≦8.40、5.50<b≦7.00、0<c≦1.00、a+b+c+d=54.00を満たす。)で表され、本発明の範囲内であるとともに、極性がp型であり、かつ、無次元性能指数ZTが最大値になる温度(℃)が450℃以上の高温にあるとともに、無次元性能指数ZTの最大値が0.90以上の高い値であった。
【0082】
他方で、比較例1の熱電変換材料は、クラスレート化合物の組成を表す化学式BaaAubFecGedのうち原子数aが小さく、本発明の適正範囲外であった。それにより、比較例1の熱電変換材料は、測定した温度範囲内における無次元性能指数ZTの最大値が低いため、高温(例えば450℃以上)における熱電変換性能も劣っていた。
【0083】
また、比較例2の熱電変換材料は、クラスレート化合物の組成を表す化学式BaaAubFecGedのうち原子数cが0であり、本発明の適正範囲外であった。それにより、比較例2の熱電変換材料は、測定した温度範囲内における無次元性能指数ZTの最大値が低いため、高温(例えば450℃以上)における熱電変換性能も劣っていた。
【0084】
また、比較例3の熱電変換材料は、クラスレート化合物の組成を表す化学式BaaAubFecGedのうち、原子数bが小さく、かつ原子数cが0であり、本発明の適正範囲外であった。それにより、比較例3の熱電変換材料は、無次元性能指数ZTが最大値になる温度(℃)が低いため、特に高温(例えば450℃以上)においては、無次元性能指数ZTの値が低く、それにより熱電変換性能も劣っていた。
【0085】
この結果から、本発明例の熱電変換材料は、クラスレート化合物の組成が本発明の適正範囲内であるときに、極性がp型であり、かつ、無次元性能指数ZTが最大値になる温度(℃)が450℃以上の高温にあるとともに、無次元性能指数ZTの最大値も大きいことが確認された。そのため、本発明例の熱電変換材料は、高温(例えば450℃以上)にしても熱電変換性能の低下が起こり難く、特に高温において優れた熱電変換性能を有することがわかる。
【0086】
また、
図2に、本発明例1、2および比較例3の熱電変換材料について、温度[℃]を横軸に、無次元性能指数ZTを縦軸にしたときの、600℃以下の温度範囲における無次元性能指数ZTについてのグラフを示す。このグラフから、本発明例1、2の熱電変換材料は、ZTが最大値になる温度が450℃以上であり、無次元性能指数ZTの最大値も高い値であるのに対し、比較例3の熱電変換材料は、ZTが最大値になる温度が425℃と低く、それにともない高温(例えば450℃以上)における無次元性能指数ZTも低くなっていることがわかる。
【0087】
さらに、本発明例1~3の熱電変換材料は、全ての化合物相に由来する最大ピーク強度の合計に対する、タイプ1クラスレート化合物(Pm-3n、No.223)に由来する最大ピーク強度の割合(最大ピーク強度比)は93%以上であり、不純物相が少ないことも確認された。