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特開2024-95173界面近傍の強度が増強された有機層を有する積層体、その積層体を用いた接合体、その製造方法、及びその確認方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024095173
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】界面近傍の強度が増強された有機層を有する積層体、その積層体を用いた接合体、その製造方法、及びその確認方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 7/12 20060101AFI20240703BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20240703BHJP
   B32B 27/38 20060101ALI20240703BHJP
   C09J 163/00 20060101ALI20240703BHJP
   C09J 175/00 20060101ALI20240703BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20240703BHJP
【FI】
B32B7/12
B32B27/00 D
B32B27/38
C09J163/00
C09J175/00
C09J11/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022212270
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100137017
【弁理士】
【氏名又は名称】眞島 竜一郎
(72)【発明者】
【氏名】新林 良太
(72)【発明者】
【氏名】沼尾 臣二
【テーマコード(参考)】
4F100
4J040
【Fターム(参考)】
4F100AB01A
4F100AB10A
4F100AD00A
4F100AG00A
4F100AK51B
4F100AK51G
4F100AK53B
4F100AK53G
4F100AL05B
4F100AL05G
4F100AR00B
4F100AR00G
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA04
4F100BA31A
4F100BA31B
4F100BA42B
4F100BA42G
4F100BA43B
4F100BA43G
4F100CA02B
4F100CA02H
4F100CB02B
4F100CB02G
4F100CB10B
4F100CB10G
4F100EC182
4F100EJ652
4F100EJ65A
4F100EJ672
4F100EJ67A
4F100GB90
4F100JL11
4F100YY00B
4J040EC061
4J040EF281
4J040GA05
4J040GA14
4J040GA24
4J040KA16
4J040PA30
(57)【要約】
【課題】基材と有機層からなる積層体の界面の結合力が高く、且つ基材との界面付近の有機層の強度が高く優れた耐水性を有する積層体、及びそれを確認する方法を提供する。
【解決手段】本発明の積層体は、基材と、基材の少なくとも1面(第一面)の上に、重合型組成物を重合してなる有機層と、を含む。前記有機層において、MSE試験で評価したエロージョン率は、前記基材と前記有機層の界面近傍が有機層内部より3%以上少ないことを特徴とする。前記MSE試験で評価したエロージョン率は、MSEで測定したエロージョン深さ(μm)及び投射粒子量(g)の比である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
基材の少なくとも1面(第一面)の上に、重合型組成物を重合してなる有機層と、を含み、
前記有機層において、MSE試験で評価したエロージョン率は、前記基材と前記有機層の界面近傍が有機層内部より3%以上少ないことを特徴とする積層体であって、
前記基材と前記有機層の界面近傍とは、前記基材の第一面と前記有機層の界面を0nm面とし、前記界面から400nm離れる有機層の面を400nm面とする場合、前記有機層の0nm面から400nm面までの間の部分であり、
前記有機層内部とは、前記界面から前記基材より1000nm以上離れる前記有機層の内部の部分であり、
前記MSE試験で評価したエロージョン率は、下記式(I)に示す、マイクロスラリーエロージョン試験で測定したエロージョン深さ(μm)及び投射粒子量(g)の比であることを特徴とする積層体。
エロージョン率(μm/g)=エロージョン深さ(μm)/投射粒子量(g) (I)
【請求項2】
前記重合型組成物が以下(1)~(4)からなる群から選択される組み合わせであり、
前記有機層が、前記重合型組成物を重付加反応して得られたものである、請求項1に記載の積層体。
(1)エポキシ化合物とジオール化合物
(2)エポキシ化合物とチオール化合物
(3)イソシアネート化合物とジオール化合物
(4)イソシアネート化合物とアミノ化合物
【請求項3】
前記基材の前記第一面は、前記重合型組成物が重付加反応するときに、前記重合型組成物の少なくとも1成分と結合可能な官能基を有することを特徴とする、請求項2記載の積層体。
【請求項4】
前記基材が、金属、樹脂、FRP、ガラス、及びセラミックスからなる群から選ばれる1種である、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項5】
樹脂と、
請求項1に記載の積層体と、を有し、
前記積層体の前記有機層の上に、前記樹脂が溶着で接合された接合体。
【請求項6】
請求項1に記載の積層体の有機層同士が溶着で接合された接合体。
【請求項7】
請求項2に記載の積層体を製造する方法であって、
前記基材の第一面上にて、前記重合型組成物を、バルク重合物のTg+20℃以上の温度まで加熱して重付加反応して積層体を得る工程を含み、
前記バルク重合物は、前記重合型組成物をバルク重合の条件で重合した付加重合物であることを特徴とする積層体の製造方法。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の積層体の前記有機層の上に、樹脂を溶着法を用いて接合し、接合体を製造する方法であって、
前記溶着法が、超音波溶着、高周波誘導溶着、高周波誘電溶着、射出溶着、レーザー溶着、熱溶着から選ばれる方法であることを特徴とする接合体の製造方法。
【請求項9】
基材の少なくとも1面(第一面)の上に、重合型組成物を重合してなる有機層において、
前記基材と前記有機層の界面近傍の強度が、有機層内部の強度より増加することを確認する方法であって、
前記強度が、MSE試験で評価したエロージョン率を用いて評価され、
前記有機層において、MSE試験で評価したエロージョン率は、前記基材と前記有機層の界面近傍が有機層内部より3%以上少ないことを判断基準とし、
前記基材と前記有機層の界面近傍とは、前記基材と前記有機層の界面を0nm面とし、前記界面から400nm離れる有機層の面を400nm面とする場合、前記有機層の0nm面から400nm面までの間の部分であり、
前記有機層内部とは、前記界面から前記基材より1000nm以上離れる前記有機層の内部の部分であり、
前記MSE試験で評価したエロージョン率は、下記式(I)に示す、マイクロスラリーエロージョン試験で測定したエロージョン深さ(μm)及び投射粒子量(g)の比であることを特徴とする確認方法。
エロージョン率(μm/g)=エロージョン深さ(μm)/投射粒子量(g) (I)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、界面近傍の強度が増強された有機層を有する積層体、その積層体を用いた接合体、その製造方法、及びその確認方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、製品の軽量化及び高性能化等の観点より、自動車部品、医療機器、家電製品等、各種分野では部品のマルチマテリアル化が進んでいる。そのことから例えば樹脂、金属、CFRP等の異材接合技術が必要とされている。
【0003】
このような異材接合を行う手段として、機械的接合、接着剤接合、溶着などが使用されている。このうち、溶着は特に信頼性が高く生産性の面で有用な接合法である。溶着は、樹脂部材を加熱する方法によって様々な方法があり、具体的には、超音波溶着や振動溶着、熱溶着、熱風溶着、誘導溶着、射出溶着等がある。
【0004】
金属等の無機材料と有機材料の界面の結合力を上げるためには、無機材料側の表面処理が重要である。
例えば、アルミニウム材の表面に被膜を形成した後、エッチング溶液と接触させて材料表面に多孔質エッチング層を形成させる化学的な表面処理方法(特許文献1)が知られている。また、アルミニウム合金からなる基材の表面に設けられた下地処理皮膜の上に、極性基が導入された変性ポリプロピレン樹脂を含有する接着層を形成する方法(特許文献1)が知られている。また、アルミニウム材をリン酸又は水酸化ナトリウムの電解浴に浸漬して、直流電気分解により、表面に開口する孔の少なくとも85%が直径25~90nmである孔を有する陽極酸化皮膜を形成し、この陽極酸化皮膜形成面に溶融合成樹脂を射出成形してアンカー効果により接合強度を向上させる方法(特許文献2)等が知られている。
【0005】
また、アルミニウム材の表面をエッチング処理して形成された微細凹凸面に、金属酸化物又は金属リン酸化物の凹凸薄層を形成させる方法も提案されている(特許文献3)。
【0006】
以上のようなアンカー効果に頼る方法では、例えば樹脂を接合したい場合、樹脂が孔の中にしっかりと侵入しないと効果が発現できないため、金属材の表面にシランカップリング剤により樹脂と反応が可能な官能基を付ける官能基処理方法も提案されている。例えば、水溶性アルコキシシラン含有トリアジンジチオール金属塩を含有する溶液に金属材、セラミックス材等の固体を浸漬して、固体表面に該水溶性アルコキシシラン含有トリアジンジチオール金属塩を付着させてなる表面反応性固体(金属材等)を用いることが提案されている(特許文献4)。
【0007】
また、アルミニウム材の表面を粗面化した後にアルコキシシラン含有トリアジンチオール誘導体をシランカップリング剤として被覆処理を行う方法が提案されており(特許文献5)、エポキシシラン、アミノシランメタクリロイルシランを使用する方法も提案されている(特許文献6、7)。
さらに、無機材料などへの接着性を向上させるために所定のシラン化合物とともにメルカプト基を有する有機化合物を含むプライマー組成物が提案されている(特許文献8)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2016-16584号公報
【特許文献2】特許第4541153号公報
【特許文献3】特開2010-131888号公報
【特許文献4】特開2006-213677号公報
【特許文献5】特開2011-52292号公報
【特許文献6】特開2016―089261号公報
【特許文献7】特開2014―218050号公報
【特許文献8】特開平2―152915号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
金属などの無機材料と有機材料との異材接合を行う場合、接合界面の強度を高めるだけでは限界があり、より強度を上げるには界面付近の有機材料自体の強度アップも必要であったが、界面付近の有機材料自体の強度を高める方法や確かめる方法は確立されてなかった。特に特許文献8のように、接合強度を高めるために、無機材料の表面にプライマー組成物などのプライマー層を形成する方法でも、プライマー層と無機材料との接合界面の強度を高めるだけでは限界があり、より強度を上げるにはプライマー層自体の強度アップも必要であった。しかし、無機材料界面付近のプライマー層自体の強度を高める方法や確かめる方法は確立されてなかった。
【0010】
本発明は、金属などの無機材料とプライマー層の接合界面の強度を高めるだけでなく、界面付近のプライマー層自体の強度を高め、耐水性を向上させる方法や確かめる方法を確立することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、前記目的を達成するために、以下の手段を提供する。
【0012】
〔1〕 基材と、
基材の少なくとも1面(第一面)の上に、重合型組成物を重合してなる有機層と、を含み、
前記有機層において、MSE試験で評価したエロージョン率は、前記基材と前記有機層の界面近傍が有機層内部より3%以上少ないことを特徴とする積層体であって、
前記基材と前記有機層の界面近傍とは、前記基材の第一面と前記有機層の界面を0nm面とし、前記界面から400nm離れる有機層の面を400nm面とする場合、前記有機層の0nm面から400nm面までの間の部分であり、
前記有機層内部とは、前記界面から前記基材より1000nm以上離れる前記有機層の内部の部分であり、
前記MSE試験で評価したエロージョン率は、下記式(I)に示す、マイクロスラリーエロージョン試験で測定したエロージョン深さ(μm)及び投射粒子量(g)の比であることを特徴とする積層体。
エロージョン率(μm/g)=エロージョン深さ(μm)/投射粒子量(g) (I)
〔2〕 前記重合型組成物が以下(1)~(4)からなる群から選択される組み合わせであり、
前記有機層が、前記重合型組成物を重付加反応して得られたものである、〔1〕に記載の積層体。
(1)エポキシ化合物とジオール化合物
(2)エポキシ化合物とチオール化合物
(3)イソシアネート化合物とジオール化合物
(4)イソシアネート化合物とアミノ化合物
〔3〕 前記基材の前記第一面は、前記重合型組成物が重付加反応するときに、前記重合型組成物の少なくとも1成分と結合可能な官能基を有することを特徴とする、〔2〕記載の積層体。
〔4〕 前記基材が、金属、樹脂、FRP、ガラス、及びセラミックスからなる群から選ばれる1種である、〔1〕又は〔2〕に記載の積層体。
〔5〕 樹脂と、
〔1〕~〔4〕の何れかに記載の積層体と、を有し、
前記積層体の前記有機層の上に、前記樹脂が溶着で接合された接合体。
〔6〕 〔1〕~〔4〕の何れかに記載の積層体の有機層同士が溶着で接合された接合体。
〔7〕 〔2〕に記載の積層体を製造する方法であって、
前記基材の第一面上にて、前記重合型組成物を、バルク重合物のTg+20℃以上の温度まで加熱して重付加反応して積層体を得る工程を含み、
前記バルク重合物は、前記重合型組成物をバルク重合の条件で重合した付加重合物であることを特徴とする積層体の製造方法。
〔8〕 〔1〕~〔4〕の何れかに記載の積層体の前記有機層の上に、樹脂を溶着法を用いて接合し、接合体を製造する方法であって、
前記溶着法が、超音波溶着、高周波誘導溶着、高周波誘電溶着、射出溶着、レーザー溶着、熱溶着から選ばれる方法であることを特徴とする接合体の製造方法。
〔9〕 基材の少なくとも1面(第一面)の上に、重合型組成物を重合してなる有機層において、
前記基材と前記有機層の界面近傍の強度が、有機層内部の強度より増加することを確認する方法であって、
前記強度が、MSE試験で評価したエロージョン率を用いて評価され、
前記有機層において、MSE試験で評価したエロージョン率は、前記基材と前記有機層の界面近傍が有機層内部より3%以上少ないことを判断基準とし、
前記基材と前記有機層の界面近傍とは、前記基材と前記有機層の界面を0nm面とし、前記界面から400nm離れる有機層の面を400nm面とする場合、前記有機層の0nm面から400nm面までの間の部分であり、
前記有機層内部とは、前記界面から前記基材より1000nm以上離れる前記有機層の内部の部分であり、
前記MSE試験で評価したエロージョン率は、下記式(I)に示す、マイクロスラリーエロージョン試験で測定したエロージョン深さ(μm)及び投射粒子量(g)の比であることを特徴とする確認方法。
エロージョン率(μm/g)=エロージョン深さ(μm)/投射粒子量(g) (I)
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、基材と有機層からなる積層体の界面の結合力が高く、且つ基材との界面付近の有機層の強度が高く優れた耐水性を有する積層体、及びそれを確認する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態における基材上の有機層の構成を示す説明図である。
図2】本発明の一実施形態における基材-樹脂接合体の構成を示す説明図である。
図3】本発明の一実施形態における基材-基材接合体の構成を示す説明図である。
図4】実施例2、比較例2において、接合強度評価の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(積層体)
図1に示すように、本発明の一実施形態の積層体(10)(本実施形態の積層体ともいうことがある。)が、基材(1)と、前記基材の少なくとも1面(第一面とする)の上に、重合型組成物を重合してなる有機層(2)と、を含む。
本実施形態の積層体(10)は、前記有機層(2)において、マイクロスラリーエロージョン試験(MSE試験)で評価したエロージョン率は、前記基材と前記有機層の界面近傍が有機層内部より3%以上少ないことを特徴とする。
前記有機層において、MSE試験で評価したエロージョン率は、前記基材と前記有機層の界面近傍が有機層内部より3%以上少ないことを特徴とする積層体であって、
前記基材と前記有機層の界面近傍とは、前記基材と前記有機層の界面を0nm面とし、前記界面から400nm離れる有機層の面を400nm面とする場合、前記有機層の0nm面から400nm面までの間の部分であり、
前記有機層内部とは、前記界面から前記基材より1000nm以上離れる前記有機層の内部の部分であり、
前記MSE試験で評価したエロージョン率は、下記式(I)に示す、マイクロスラリーエロージョン試験で測定したエロージョン深さ(μm)及び投射粒子量(g)の比であることを特徴とする積層体。
【0016】
エロージョン率(μm/g)=エロージョン深さ(μm)/投射粒子量(g) (I)
【0017】
前記エロージョン率は、前記基材と前記有機層の界面近傍が有機層内部より3%以上少ないとは、前記界面近傍付近のMSE試験から、前記界面近傍の強度が前記有機層内部より増大することが確認できる意味である。
【0018】
MSE試験は、固体粒子の投射による表面の微細な破壊現象(エロージョンという)を利用した評価方法である。薄膜試料の強度を評価する方法として、良く使用されている(例えば、下記の文献A)。
文献A:特許第6963817号
【0019】
前記重合型組成物とは、特定の化合物の組み合わせを、触媒存在下で重付加反応することにより、熱可塑構造、すなわち、主にリニアポリマー構造を形成する組成物を意味する。重合型組成物は、重合すると架橋構造による3次元ネットワークを構成する熱硬化性樹脂とは異なり、架橋構造による3次元ネットワークをほとんど構成せず、熱可塑性を有する。
前記基材が例えば、金属、ガラス、セラミックなどの無機材料、樹脂などの有機材料の場合、本実施形態の積層体に用いる有機層は、他の異種材料との接合するためにプライマー層(下地層、下塗り層)として、使用することができる。その場合、前記重合型組成物がプライマー組成物(下塗り塗料)ということがある。
【0020】
[有機層]
本実施形態の積層体の有機層を作るためには、共有結合や水素結合が可能な官能基を有する基材の表面上で重合反応を行って有機層を形成することが好ましい。この方法により有機層のリニア構造の分子鎖の末端は基材表面の官能基と共有結合させ、リニア構造の分子鎖の途中に存在する官能基が基材表面の官能基と水素結合している構造とすることができるこのような構造であればリニア構造の分子鎖は基材の表面に横たわった配置となり、基材との結合力が高い緻密な面を作ることができると考えられる。結合力を高めるためには、前記基材は、共有結合や水素結合が可能な官能基を付与するため、官能基付与処理などの前処理を施したものであることが好ましい。
【0021】
前記基材表面において有機層を形成するために、前記重合型組成物の重合反応を行う場合、バルク重合物のTgより20℃以上高い温度で重合反応を行うことが好ましい。前記バルク重合物のTgとは、前記重合型組成物をバルク重合の条件で重合した付加重合物のTgである。前記バルク重合物のTgより20℃以上高い温度で重合反応を行うことで有機層を形成する分子が動きやすくなるため、界面付近において有機層のリニア構造の分子鎖が基材表面に対して横たわった配置で、基材表面の官能基との共有結合と水素結合による結合力の高い緻密な構造を形成しやすくなると考えられる。その結果、有機層の基材界面近傍では有機層内部より緻密な構造となり、高強度になる。界面の結合力も高く、且つ有機層全体でみればより界面近傍が強固な構造となる。
【0022】
前記有機層が、重合型組成物で重付加反応して得られたものが好ましい。前記重合型組成物として、例えば、以下の組み合わせ(1)~(4)が挙げられる。
(1)エポキシ化合物とジオール化合物
(2)エポキシ化合物とチオール化合物
(3)イソシアネート化合物とジオール化合物
(4)イソシアネート化合物とアミノ化合物
【0023】
<エポキシ化合物>
上記エポキシ化合物が、2官能エポキシ化合物であることが好ましい。前記2官能エポキシ化合物は、1分子中に2個のエポキシ基を有する化合物である。例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビフェノール型エポキシ樹脂、ナフタレン型2官能エポキシ樹脂等の芳香族エポキシ樹脂や1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル等脂肪族エポキシ化合物が挙げられる。
これらのうち、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
具体的には、三菱ケミカル株式会社製「jER(登録商標)828」、同「jER(登録商標)834」、同「jER(登録商標)1001」、同「jER(登録商標)1004」、同「jER(登録商標) YX-4000」等が挙げられる。その他2官能であれば特殊な構造のエポキシ化合物でも使用可能である。これらのうち、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、熱可塑性の性質を留める範囲で、フェノールノボラック型エポキシ樹脂及び/またはクレゾールノボラック型エポキシ樹脂を併用してもよい。具体的にはノボラック型エポキシ樹脂としては、例えばYDPN-638(日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製)、N-740(DIC株式会社製)等、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂としてo-クレゾールノボラック型エポキシ樹脂としてYDCN-700-7、YDCN-700-10、YDCN-704、YDCN-704L(以上日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製)、N-680(DIC株式会社製)、CNE-202(長春グループ製)等が挙げられる。
【0024】
<ジオール>
前記ジオールは、ヒドロキシ基を2個有する化合物であり、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、1,6ヘキサンジオール等の脂肪族グリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS等のビスフェノール類が挙げられる。なかでもプライマーの強靭性の観点から、プロピレングリコール、ジエチレングリコール等が好ましい。また、熱可塑性の性質を留める範囲で、フェノールノボラック樹脂やクレゾールノボラック樹脂を加えてもよい。具体的には、前記フェノールノボラック樹脂としては、BRG-555、BRG-556、BRG-557、BRG-558、CRG-951(以上、アイカ工業株式会社製)等、クレゾールノボラック樹脂としては、例えばメタパラクレゾールノボラック:LF-100、LF-110、LF-120、オルトクレゾールノボラック:LF-200、パラクレゾールノボラック:LF-400(以上、リグナイト株式会社製)等が挙げられる。
【0025】
<チオール化合物>
前記チオール化合物は、分子内にメルカプト基を2つ有する化合物が望ましく、例えば、2官能2級チオール化合物の1,4-ビス(3-メルカプトブチリルオキシ)ブタン(例えば、昭和電工株式会社製「カレンズMT(登録商標) BD1」)が挙げられる。
【0026】
(イソシアネート化合物)
前記イソシアネート化合物が2官能イソシアネート化合物であることが好ましい。前記2官能イソシアネート化合物は、イソシアナト基を2個有する化合物であり、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、テトラメチレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート、2,4-または2,6-トリレンジイソシアネート(TDI)またはその混合物、p-フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)等のジイソシアネート化合物が挙げられる。
【0027】
(アミノ化合物)
前記アミノ化合物は、アミノ基を2個有する化合物であり、例えば、2官能の脂肪族ジアミン、芳香族ジアミンが挙げられる。脂肪族ジアミンとしては、エチレンジアミン、1,2-プロパンジアミン、1,3-プロパンジアミン、1,4-ジアミノブタン、1,6-ヘキサメチレンジアミン、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジアミン、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、イソホロンジアミン、ビス(4-アミノ-3-メチルシクロヘキシル)メタン、1,3-ジアミノシクロヘキサン、N-アミノエチルピペラジンなどが挙げられ、芳香族ジアミンとしては、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルプロパン等が挙げられる。なかでもプライマーの強靭性の観点から、1,3-プロパンジアミン、1,4-ジアミノブタン、1,6-ヘキサメチレンジアミン等が好ましい。
【0028】
前記組み合わせ(1)における2官能エポキシ化合物とジオールとの配合量比は、水酸基に対するエポキシ基のモル当量比が、0.7~1.5となるように設定されることが好ましく、より好ましくは0.8~1.4、さらに好ましくは0.9~1.3とする。
前記組み合わせ(2)における2官能エポキシ化合物と2官能チオール化合物との配合量比は、チオール基に対するエポキシ基のモル当量比が、0.7~1.5となるように設定されることが好ましく、より好ましくは0.8~1.4、さらに好ましくは0.9~1.3とする。
前記組み合わせ(3)における2官能イソシアネート化合物とジオールとの配合量比は、水酸基に対するイソシアネート基のモル当量比が、0.7~1.5となるように設定されることが好ましく、より好ましくは0.8~1.4、さらに好ましくは0.9~1.3とする。
前記組み合わせ(4)における2官能イソシアネート化合物と2官能アミノ化合物との配合量比は、アミノ基に対するイソシアネート基のモル当量比が、0.7~1.5となるように設定されることが好ましく、より好ましくは0.8~1.4、さらに好ましくは0.9~1.3とする。
【0029】
<重合触媒>
前記重合型組成物が更に、重合触媒を含むことが好ましい。
前記有機層は、前記組み合わせ(1)~(4)の少なくとも一種を含有する重合型組成物を触媒存在下で重付加反応させて得ることが好ましい。重付加反応のための触媒としては、例えば、トリエチルアミン、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール等の3級アミン-トリフェニルホスフィン等のリン系化合物等が好適に用いられる。前記重付加反応は、組成物の組成にもよるが、バルク重合物のTg+20℃以上の温度で、5~120分間加熱して行うことが好ましい。前記バルク重合物のTgと、前記重合型組成物をバルク重合の条件で重合した重合物のTgである。
【0030】
[基材]
本実施形態の積層体に使用される基材は、樹脂、金属、ガラス、セラミックスから選ばれる1種以上である。
<樹脂>
前記基材の材料としての樹脂は、熱可塑性樹脂であっても、熱硬化性樹脂であってもよく、特に限定されるものではない。
前記樹脂としては、一般的な合成樹脂でよく、熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリ塩化ビニル等の汎用樹脂;ポリカーボネート、ナイロン6(ポリアミド6)やナイロン66(ポリアミド66)等のポリアミド樹脂、ポリアセタール、変性ポリフェニレンエーテル等の汎用エンジニアリングプラスチック;ポリエーテルイミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアミドイミド、液晶ポリマー等のスーパーエンジニアリングプラスチック等が挙げられる。
【0031】
熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ウレタン(メタ)アクリレート樹脂等が挙げられる。
【0032】
前記樹脂は、樹脂のみで構成されているものであっても、ガラス繊維や炭素繊維で強化された繊維強化プラスチック(FRP)であってもよい。
前記樹脂は、予め成形された成形体であることが好ましく、また、塗膜として形成されたものであってもよい。前記樹脂の形態としては、例えば、バルク、フィルム、シート、FRP成形体等が挙げられる。これらのうちからなる群より選ばれる1種であっても、2種以上の複合体であってもよい。
前記形態の樹脂の製造方法や成形方法は、特に限定されるものではなく、本実施形態では、公知の方法で得られる樹脂を適用することができる。前記樹脂は、例えば、顔料等の着色剤、充填剤、酸化防止剤、紫外線防止剤等の添加剤を含んでいてもよい。
【0033】
<金属>
前記基材の材料としての金属としては、例えば、アルミニウム、鉄、銅、マグネシウム、鋼等が挙げられる。これらのうち、得られる接合体の軽量化の観点からは、アルミニウムが好ましい。
【0034】
<ガラス>
前記基材の材料としてのガラスとしては、特に限定されるものではなく、一般的なガラスの他、耐熱ガラス、防火ガラス、耐火ガラス、スマートフォンの保護等に用いられる化学強化ガラス等であってもよい。具体的には、ソーダ石灰ガラス、鉛ガラス、ホウケイ酸ガラス、石英ガラス等が挙げられる。
【0035】
<セラミックス>
前記基材の材料としてのセラミックスとしては、特に限定されるものではく、例えば、半導体、自動車、産業用機器等に用いられるファインセラミックス等が挙げられる。具体的には、アルミナ、ジルコニア、チタン酸バリウム等の酸化物系セラミックス;ハイドロキシアパタイト等の水酸化物系セラミックス、炭化ケイ素等の炭化物系セラミックス;窒化ケイ素等の窒化物系セラミックス等が挙げられる。
【0036】
<基材に対する官能基付与処理>
本実施形態の積層体において、前記有機層が形成された、前記基材の前記第一面が、前記重合型組成物が重付加反応するときに、前記重合型組成物の少なくとも1成分と結合可能な官能基を有することが好ましい。前記基材は前処理として官能基付与処理を施したものであることが好ましい。本処理の目的は、有機層を構成する分子と共有結合や水素結合できる官能基を基材表面に多数付与することである。
【0037】
前記組み合わせ(1)の重合型組成物からなる有機層(1)では、有機層の末端のエポキシ基や水酸基と共有結合可能な官能基として基材側にはアミノ基、エポキシ基、メルカプト基、イソシアネート基等があればよく、有機層の分子鎖の途中にある水酸基と水素結合可能な基材側の官能基としてはアミノ基、水酸基、メルカプト基等があればよい。
【0038】
前記組み合わせ(2)の重合型組成物からなる有機層(2)では、有機層の末端のエポキシ基やメルカプト基と共有結合可能な官能基として基材側にはアミノ基、エポキシ基、イソシアネート基、(メタ)アクリロイル基等があればよく、有機層の分子鎖の途中にある水酸基と水素結合可能な基材側の官能基としてはアミノ基、水酸基、メルカプト基等があればよい。
【0039】
前記組み合わせ(3)の重合型組成物からなる有機層(3)では、有機層の末端のイソシアネート基や水酸基と共有結合可能な官能基として基材側にはアミノ基、エポキシ基、イソシアネート基、水酸基等があればよく、有機層の分子鎖の途中にあるウレタン結合と水素結合可能な基材側の官能基としてはアミノ基、水酸基、メルカプト基等があればよい。
【0040】
前記組み合わせ(4)の重合型組成物からなる有機層(4)では、有機層の末端のイソシアネート基やアミノ基と共有結合可能な官能基として基材側にはアミノ基、エポキシ基、イソシアネート基、水酸基等があればよく、有機層の分子鎖の途中にあるウレア結合と水素結合可能な基材側の官能基としてはアミノ基、水酸基、メルカプト基等があればよい。
【0041】
〔官能基付与処理方法〕
前記官能基付与処理方法としては、特に限定されないが、例えば、シランカップリング剤による処理方法、官能基を有する化合物による処理方法など挙げあれる。
【0042】
「シランカップリング剤による処理方法」
具体的には有機層と基材間の共有結合、水素結合に必要とされる官能基を有するシランカップリング剤で基材の表面を処理するやり方がある。
エポキシ基を有するシランカップリング剤としては、例えば、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
アミノ基を有するシランカップリング剤としては、例えば、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
(メタ)アクリロイル基を有するシランカップリング剤としては、例えば、3-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
メルカプト基を有するシランカップリング剤としては3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0043】
シランカップリング剤による処理方法は、特に限定されるものではなく、例えば、浸漬法、スプレー法等を用いることができる。
浸漬法の場合は、例えば、エタノール等の溶媒中に濃度0.5~50質量%程度の溶液を作り、20~100℃の前記溶液中に、基材1を1分~5日間浸漬し、引き上げた後、常温~100℃で1分~5時間乾燥させることにより、官能基付与処理面を形成することができる。
スプレー法の場合は、例えば、濃度0.5~50質量%程度の前記溶液を、基材1に吹き付けた後、常温~100℃で1分~5時間乾燥させることにより、官能基付与処理面を形成することができる。
【0044】
「官能基を有する化合物による処理方法」
基材の表面に必要とされる官能基を有する化合物で基材表面を処理してもよい。例えば、(メタ)アクリロイル基とイソシアネート基を有する化合物、(メタ)アクリロイル基とエポキシ基を有する化合物、(メタ)アクリロイル基とアミノ基を有する化合物、チオール基を2個以上有する可能物、イソシアネート基を2個以上有する化合物を直接基材上に存在する水酸基等の官能基と反応させてもよいし、前記シランカップリング剤で導入した官能基とさらに反応させて分子鎖を伸ばした形にしてもよい。
官能基含有層の形成方法としては、浸漬法やスプレー塗布法が挙げられる。
浸漬法では、3級アミン等の触媒を共存させたイソシアネート化合物、チオール化合物、エポキシ化合物、アミノ化合物の低濃度の有機溶剤溶液を25℃~120℃で基材表面やシランカップリング剤処理を施した基材の表面に接触させることで、一層目のシランカップリング剤処理末端の官能基に、二層目として反応させ三次元方向に延ばした官能基構造とすることができる。
スプレー塗布法では、基材表面やシランカップリング剤処理を施した基材の表面に3級アミン等の触媒を共存させたイソシアネート化合物、チオール化合物、エポキシ化合物、アミノ化合物の有機溶剤溶液を吹き付け、常温~100℃で1分~5時間乾燥処理を行う。この様な処理を行うことで、基材に直接または一層目のシランカップリング剤処理末端の官能基に、二層目として反応させ三次元方向に延ばした官能基構造とすることができる。
【0045】
具体的には、(メタ)アクリロイル基とイソシアネート基を有する化合物としては、2-イソシアナトエチルメタクリレート(例えば昭和電工株式会社製「カレンズMOI」(登録商標))、2-イソシアナトエチルアクリレート(例えば昭和電工株式会社製「カレンズAOI(登録商標)」)、1,1-(ビスアクリロイルオキシエチル)エチルイソシアネート(例えば昭和電工株式会社製「カレンズBEI(登録商標)」)、2-イソシアナトエチルアクリレート(例えば昭和電工株式会社製「カレンズAOI(登録商標))等が挙げられる。(メタ)アクリロイル基とエポキシ基を有する化合物としては、グリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル、3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレート(株式会社ダイセル製サイクロマーM100)、またアリル基でもよくアリルグリシジルエーテル等が挙げられる。(メタ)アクリロイル基とアミノ基を有する化合物としては、(メタ)アクリルアミドが挙げられる。チオール基を2個以上有する可能物としては、1,4-ビス(3-メルカプトブチリルオキシ)ブタン(例えば昭和電工株式会社製「カレンズMT(登録商標) BD1」(商品名))、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトブチレート)(例えば昭和電工株式会社製「カレンズMT(登録商標) PE1」(商品名))、1,3,5-トリス(3-メルカプトブチルオキシエチル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン(例えば昭和電工株式会社製「カレンズMT(登録商標) NR1」(商品名))等が挙げられる。イソシアネート基を2個以上有する化合物としては、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)等が挙げられる。
【0046】
(接合体)
本発明の第一実施形態の接合体は、例えば、図2に示すように、樹脂3と、上記本実施形態の積層体10(基材1と有機層2)と、を有し、前記積層体の前記有機層の上に、前記樹脂を溶着で接合してなるものである。
前記樹脂としては、PA6(ナイロン(登録商標)6)、PA66(ナイロン(登録商標)66)などが挙げられる。
【0047】
図3に示すように、本発明の第二実施形態の接合体(25)は、上記本実施形態の積層体(10)(基材1と有機層2)の前記有機層同士を溶着で接合してなるものである。図3の有機素4は、2つの図1に示す有機層2からなるものである。
【0048】
前記第一実施形態及び第二実施形態の接合体の接合強度が15MPa以上であることが好ましい。
上記接合強度は、例えば、後述の実施例で測定した引張せん断接合強度であっても良い。引張せん断接合強度の評価方法は、実施例で詳細に説明する。
【0049】
前記第一実施形態及び第二実施形態の接合体の耐水性評価は、後述の実施例で詳細に説明したように、耐水性暴露試験後の接合強度を評価することで行う。耐水性評価値が、12MPa以上であること好ましい。上記耐水性評価値は、例えば、後述の実施例で測定した耐水性暴露試験後の引張せん断接合強度であっても良い。接合体の耐水性評価方法は、実施例で説明する。
【0050】
[接合体の具体例]
上記第二実施形態の接合体の具体例として、前記積層体の基材として100mm×45mmの金属板を用い、2つの積層体は、それぞれの有機層が結合するように重ね合わせて、後述の溶着方法で接合してなる接合体が挙げられる。得られた接合体は、100mm×45mmの金属板同士を45mm×12.5mmの面積で重ね合わせ、当該重ね合わせ部に有機層を有する。
この接合体を55~65℃の水中に暴露し、一定期間経過後に水から取り出し、任意の温度条件下において引張せん断試験を実施したとき、暴露に供していない状態の積層体の引張せん断強度と比較して60%以上の強度保持率を有することが好ましい。
【0051】
(接合体の製造方法)
本発明の一実施形態の、接合体の製造方法は、上記本実施形態の積層体の前記有機層の上に、樹脂を溶着法を用いて接合し、接合体を製造する方法である。
前記溶着法としては、例えば、超音波溶着法、高周波誘導溶着法、高周波誘電溶着法、射出溶着法、レーザー溶着法、熱溶着法が挙げられる。
【0052】
(積層体の製造方法)
本発明の一実施形態の、積層体の製造方法は、前記組み合わせ(1)~(4)の重合型組成物を、バルク重合物のTg+20℃以上の温度まで加熱して重付加反応して積層体を得る工程を含む。前記バルク重合物のTgが、前記重合型組成物をバルク重合の条件で重合した重合物のTgである。
【0053】
(強度増強の確認方法)
本発明の一実施形態の、強度増大の確認方法(本実施形態の確認方法)は、本実施形態の積層体の前記有機層において、前記基材と前記有機層の界面近傍の強度が、有機層内部の強度より増加することを確認する方法であって、
前記強度が、MSE試験で評価したエロージョン率を用いて評価され、
前記有機層において、MSE試験で評価したエロージョン率は、前記基材と前記有機層の界面近傍が有機層内部より3%以上少ないことを判断基準とし、
前記基材と前記有機層の界面近傍とは、前記基材と前記有機層の界面を0nm面とし、前記界面から400nm離れる有機層の面を400nm面とする場合、前記有機層の0nm面から400nm面までの間の部分であり、
前記有機層内部とは、前記界面から前記基材より400nm以上離れる前記有機層の内部の部分であり、
前記MSE試験で評価したエロージョン率は、下記式(I)に示す、マイクロスラリーエロージョン試験で測定したエロージョン深さ(μm)及び投射粒子量(g)の比であることを特徴とする確認方法。
エロージョン率(μm/g)=エロージョン深さ(μm)/投射粒子量(g) (I)
本実施形態の確認方法は、前記界面近傍付近のエロージョン率から、前記界面近傍が前記有機層内部より3%以上増すことを確認する工程を含む。
【実施例0054】
次に、本発明の具体的実施例について説明するが、本発明はこれら実施例のものに特に限定されるものではない。
【0055】
(原料)
[試験片用材料]
基材として、18mm×45mm×1.5mmのアルミニウムA6063(25mm×100mm)を用意した。
【0056】
[評価方法]
<バルク重合物のTgの測定>
後述の実施例1と同様な方法で有機層形成-アミノ基付与アルミニウムを作製した。アルミニウムを除いた有機層からなる試料を2~10mg秤量し、アルミ製パンに入れ、示差走査熱量計(DSC:株式会社リガク製DSC8231)で23℃から10℃/minで200℃以上まで昇温し、DSCカーブを得る。このときのガラス転移温度の値をTgとして取得した。
【0057】
<MSE試験>
装置:MSE-A(株式会社パルメソ製)
ノズル径:1mm×1mm
投射距離:4mm
形状測定機:触針式形状測定機PU-EU1(株式会社パルメソ製)
触針子先端R:2μm
荷重:100μN
計測倍率:20000
測長:3mm
計測速度:0.2mm/sec
砥粒:多角アルミナGA03、0.3μm、1mass%(切削モード)
【0058】
(実施例1)
[表面処理]
アルミニウム(A6063)を、濃度5質量%の水酸化ナトリウム水溶液中に1.5分間浸漬した後、濃度5質量%の硝酸水溶液で中和し、水洗、乾燥を行うことにより、エッチング処理を行った。
【0059】
[官能基付与処理-シランカップリング剤処理]
前記表面処理アルミニウム(A6063)を、3-アミノプロピルトリメトキシシラン(信越シリコーン株式会社製 KBM-903;シランカップリング剤)2gを工業用エタノール1000gに溶解させた70℃のシランカップリング剤含有溶液中に20分間浸漬した。該各材料を取り出して乾燥させ、官能基(アミノ基)層を形成したアミノ基付与アルミニウムを用意した。
【0060】
[有機層形成用の現場重合型樹脂組成物-1の作製]
エポキシ樹脂(三菱ケミカル株式会社製「jER(登録商標)1007」)100g、ビスフェノールS6.2g、及びトリフェニルホスフィン0.4gを、MEK197g中に溶解してなる現場重合型樹脂組成物-1(現場重合型熱可塑性エポキシ樹脂組成物)を得た。
【0061】
[有機層形成-アミノ基付与アルミニウムの作製]
アミノ基付与アルミニウムの表面に現場重合型樹脂組成物-1を厚さが30μmになるように塗布して、常温で30分放置してMEKを揮発させた後、160℃で1時間放置してアルミニウム上で重合反応を行い、有機層形成-アミノ基付与アルミニウムを作製した。
現場重合型樹脂組成物-1のバルク重合物のTgが110℃であった。
【0062】
「MSE試験」
上記説明したMSE試験法を用いて、Alと有機層の界面(以後、単に「Al界面」をいう。)近傍(界面から400nmの間)のエロージョン率(エロージョン深さ(μm)/投射粒子量(g))、Al界面から1000nm離れた有機層内部(以後、単に「Al界面から1000nm内部」をいう。)のエロージョン率を測定した。その結果を表1に示す。その結果から、Al界面近傍のエロージョン率が18.75%少なくなったことが確認された。強度が増大したことが示唆された。
【0063】
【表1】
【0064】
(比較例1)
[表面処理]
アルミニウム(A6063)を、濃度5質量%の水酸化ナトリウム水溶液中に1.5分間浸漬した後、濃度5質量%の硝酸水溶液で中和し、水洗、乾燥を行うことにより、エッチング処理を行った。
【0065】
[有機層形成-エッチング処理アルミニウムの作製]
エッチング処理アルミニウムの表面に実施例1で使用した現場重合型樹脂組成物-1を厚さが30μmになるように塗布して、常温で30分放置してMEKを揮発させた後、160℃で1時間放置してアルミニウム上で重合反応を行い、有機層形成-エッチング処理アルミニウムを作製した。
【0066】
「MSE試験」
上記説明したMSE試験法を用いて、Alと有機層の界面(以後、単に「Al界面」をいう。)近傍(界面から400nmの間)のエロージョン率(エロージョン深さ(μm)/投射粒子量(g))、Al界面から1000nm離れた有機層内部(以後、単に「Al界面から1000nm内部」をいう。)のエロージョン率を測定した。その結果を表2に示す。Al界面近傍のエロージョン率が測定不能であった。
【0067】
【表2】
【0068】
(実施例2)
「引張りせん断試験片の作製」
[表面処理]
アルミニウム(A6063)を、実施例1と同様にしてエッチング処理を行った。
【0069】
[官能基付与処理_シランカップリング剤処理]
前記表面処理アルミニウム(A6063)を、実施例1と同様の処理を行い、官能基(アミノ基)層を形成したアミノ基付与アルミニウムを用意した。
【0070】
[有機層形成-アミノ基付与アルミニウムの作製]
アミノ基付与アルミニウムの表面に実施例1で使用した現場重合型樹脂組成物-1を厚さが30μmになるように塗布して、常温で30分放置してMEKを揮発させた後、160℃で1時間放置してアルミニウム上で重合反応を行い、有機層形成-アミノ基付与アルミニウムー2を作製した。
【0071】
[引張せん断試験片の作製]
有機層形成-アミノ基付与アルミニウムの有機層同士を、貼り合せてJISK6850に準拠した引張試験用の試験片1:有機層形成-アミノ基付与アルミニウム接合体(アルミニウム:100mm×45mm×1.6mm、重ね合わせ面積:45mm×12.5mm)を作製した。
作製した試験片について、初期強度評価用の試験体と耐水性暴露試験体とに分けた。耐水性暴露試験体においては、イオン交換水に浸漬した状態で60℃条件下で4週間の水浸漬を実施した。
【0072】
<接合強度評価>
前記初期強度評価用有機層形成-アミノ基付与アルミニウム接合体について、常温で1日間放置後、JISK6850に準拠して、引張試験機(株式会社島津製作所製 万能試験機オートグラフ「AG-IS」;ロードセル10kN、引張速度1mm/min、温度23℃、50%RH)にて引張せん断接合強度試験を行い、引張せん断接合強度を測定した。結果は表3、図4に示す通りであった。
【0073】
<耐水性評価値>
前記耐水性評価値用有機層形成-アミノ基付与アルミニウム接合体(耐水性暴露試験体)について、常温で1日間放置後、JISK6850に準拠して、引張試験機(株式会社島津製作所製 万能試験機オートグラフ「AG-IS」;ロードセル10kN、引張速度1mm/min、温度23℃、50%RH)にて引張せん断接合強度試験を行い、引張せん断接合強度を測定した。結果は表3、図4に示す通りであった
【0074】
【表3】
【0075】
(比較例2)
比較例1と同様にして作製した試験片について、実施例2と同様な評価を行った。結果を表3、図4を示す。
【0076】
(考察)
上記表1と2の結果から、シランカップリング処理を実施した実施例1においては、シランカップリング処理を実施しなかった比較例1と比較して、より顕著にAl界面近傍の有機層(プライマー層)のエロージョン率の低下が認められ、シランカップリング剤によりAlと有機層(プライマー層)の強固な相互作用が示唆された。
上記表3と図4の結果から、Al表面において、界面近傍のエロージョン率が有機層内部より3%以上少ない場合、接合強度の向上が認められた。このように接合強度を高める理由は不明だが、エロージョン率の低下と接合強度には相関があることが推定できる。
上記表3と図4の結果から、Al表面において、界面近傍のエロージョン率が有機層内部より3%以上少ない場合、耐水性の向上が認められた。これらのことから、有機層(プライマー層)がAl表面と強固に相互作用することでエロージョン率の低下としても顕現する強固な接合強度を発揮し、水の界面付近への侵入を阻むことで、耐水性向上につながったと考える。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明に係る有機層(プライマー)付き積層体は、他の熱可塑性樹脂材と接合一体化されて、例えば、ドアサイドパネル、ボンネットルーフ、テールゲート、ステアリングハンガー、Aピラー、Bピラー、Cピラー、Dピラー、クラッシュボックス、パワーコントロールユニット(PCU)ハウジング、電動コンプレッサー部材(内壁部、吸入ポート部、エキゾーストコントロールバルブ(ECV)挿入部、マウントボス部等)、リチウムイオン電池(LIB)スペーサー、電池ケース、LEDヘッドランプ等の自動車用部品や、スマートフォン、ノートパソコン、タブレットパソコン、スマートウォッチ、大型液晶テレビ(LCD-TV)、屋外LED照明の構造体等として用いられるが、特にこれら例示の用途に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0078】
1:基材
2、4:有機層
3:樹脂
10:積層体
20、25:接合体
図1
図2
図3
図4