(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024095175
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】撚線導体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01B 5/08 20060101AFI20240703BHJP
H01B 13/02 20060101ALI20240703BHJP
【FI】
H01B5/08
H01B13/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022212273
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小又 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 保
(72)【発明者】
【氏名】折本 誠一
【テーマコード(参考)】
5G307
5G325
【Fターム(参考)】
5G307EA01
5G307EC03
5G307EF02
5G325BC05
(57)【要約】
【課題】めっき試験に合格でき、かつ導体抵抗の上昇を抑制可能な軽圧縮された撚線導体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】表面にめっきを有する複数本の金属素線2が軽圧縮された撚線導体1であって、金属素線2は、めっきの厚さが1.0μm以下であり、かつ、3層以上の多層構造に撚り合わされており、多層構造において、最外層3に配置された金属素線2を最外層線21、最外層3よりも一層内側の内層4に配置された金属素線2を内層線22、内層4よりも内側に配置された金属素線2を中心線23としたとき、最外層線21、内層線22、及び中心線23に対してJISC3002 8(2)項のめっき試験を行い、当該めっき試験で得られた試験液の色が、いずれもめっき試験における標準液の色よりも薄く、かつ、内層線22の試験液の色が最外層線21の試験液の色よりも薄い。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面にめっきを有する複数本の金属素線が軽圧縮された撚線導体であって、
前記複数本の金属素線は、前記めっきの厚さが1.0μm以下であり、かつ、3層以上の多層構造に撚り合わされており、
前記多層構造において、最外層に配置された前記金属素線を最外層線、前記最外層よりも一層内側の内層に配置された前記金属素線を内層線、前記内層よりも内側に配置された前記金属素線を中心線としたとき、
前記最外層線、前記内層線、及び前記中心線に対してJISC3002 8(2)項のめっき試験を行い、当該めっき試験で得られた試験液の色が、いずれも前記めっき試験における標準液の色よりも薄く、かつ、前記内層線の試験液の色が前記最外層線の試験液の色よりも薄い、
撚線導体。
【請求項2】
前記試験液の色が、前記中心線、前記内層線、前記最外層線の順次に濃くなる、
請求項1に記載の撚線導体。
【請求項3】
前記内層線の表面で測定される銅の濃度が20mass%未満である、
請求項1に記載の撚線導体。
【請求項4】
前記内層線を構成する前記金属素線の表面で測定される銅の濃度が、前記最外層線を構成する前記金属素線の表面で測定される銅の濃度よりも小さく、
前記中心線を構成する前記金属素線の表面で測定される銅の濃度が、前記内層線を構成する前記金属素線の表面で測定される銅の濃度よりも小さい、
請求項1に記載の撚線導体。
【請求項5】
表面にめっきを有する複数本の金属素線を撚り合わせる撚合工程と、
撚り合わせた前記金属素線を軽圧縮して撚線導体を形成する軽圧縮工程と、を備え、
前記複数本の金属素線は、前記めっきの厚さが1.0μm以下であり、かつ、3層以上の多層構造に撚り合わされており、
前記多層構造において、最外層に配置された前記金属素線を最外層線、前記最外層よりも一層内側の内層に配置された前記金属素線を内層線、前記内層よりも内側に配置された前記金属素線を中心線としたとき、
前記撚合工程で前記最外層線と前記内層線に付与する張力が等しい、
撚線導体の製造方法。
【請求項6】
前記撚合工程で前記最外層線と前記内層線と前記中心線に付与する張力が等しい、
請求項5に記載の撚線導体の製造方法。
【請求項7】
前記金属素線の外径が0.18mm以上0.26mm以下であり、
前記張力が、前記金属素線の外径に応じて0.69N(70gf)以上1.47N(150f)以下の範囲で決定される、
請求項5に記載の撚線導体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撚線導体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両等の電線として、軽圧縮撚線導体の周囲に絶縁体を被覆したものが用いられている。軽圧縮撚線導体は、例えば、複数本の金属素線を撚り合わせした撚線導体を、中心に開口孔を有する金属製ダイス内に挿通させることで、撚線導体の外表面を軽圧縮して形成される。
【0003】
なお、この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、特許文献1がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、軽圧縮撚線導体に用いる金属素線としては、表面にめっきを施しためっき線が用いられている。そして、軽圧縮撚線導体では、軽圧縮後の状態において、めっき試験に合格すること、および導体抵抗が規格値の範囲内であることが求められる。
【0006】
しかしながら、軽圧縮撚線導体では、特に圧縮率が大きい(例えば、圧縮率≧10%)場合に、金属素線同士の擦れによってめっきに損傷が生じてしまい、めっき試験に不合格となってしまう場合があった。めっき試験を合格させるために、金属素線のめっきの厚さを厚くすること(例えば、1.0μmよりも厚くすること)が考えられるが、この場合、導体のサイズやめっきの種類によっては導体抵抗が高くなってしまい、導体抵抗が規格値(=上限値)から外れてしまったり、あるいは規格値に対して十分な尤度が得られなかったりするおそれがある。
【0007】
そこで、本発明は、めっき試験に合格でき、かつ導体抵抗の上昇を抑制可能な軽圧縮された撚線導体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決することを目的として、表面にめっきを有する複数本の金属素線が軽圧縮された撚線導体であって、前記複数本の金属素線は、前記めっきの厚さが1.0μm以下であり、かつ、3層以上の多層構造に撚り合わされており、前記多層構造において、最外層に配置された前記金属素線を最外層線、前記最外層よりも一層内側の内層に配置された前記金属素線を内層線、前記内層よりも内側に配置された前記金属素線を中心線としたとき、前記最外層線、前記内層線、及び前記中心線に対してJISC3002 8(2)項のめっき試験を行い、当該めっき試験で得られた試験液の色が、いずれも前記めっき試験における標準液の色よりも薄く、かつ、前記内層線の試験液の色が前記最外層線の試験液の色よりも薄い、撚線導体を提供する。
【0009】
また、本発明は、上記課題を解決することを目的として、表面にめっきを有する複数本の金属素線を撚り合わせる撚合工程と、撚り合わせた前記金属素線を軽圧縮して撚線導体を形成する軽圧縮工程と、を備え、前記複数本の金属素線は、前記めっきの厚さが1.0μm以下であり、かつ、3層以上の多層構造に撚り合わされており、前記多層構造において、最外層に配置された前記金属素線を最外層線、前記最外層よりも一層内側の内層に配置された前記金属素線を内層線、前記内層よりも内側に配置された前記金属素線を中心線としたとき、前記撚合工程で前記最外層線と前記内層線に付与する張力が等しい、撚線導体の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、めっき試験に合格でき、かつ導体抵抗の上昇を抑制可能な軽圧縮された撚線導体及びその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】(a)は、本発明の一実施の形態に係る撚線導体の長手方向に垂直な断面を示す断面図であり、(b)はめっき試験の結果を示す写真である。
【
図2】本発明の一実施の形態に係る撚線導体の製造方法のフロー図である。
【
図3】(a),(b)は、本発明の比較対象となる比較例のめっき試験の結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[実施の形態]
以下、本発明の実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0013】
(撚線導体1)
図1(a)は、本実施の形態に係る撚線導体1の長手方向に垂直な断面を示す断面図であり、(b)はめっき試験の結果を示す写真である。
【0014】
図1(a)に示すように、撚線導体1は、表面にめっきを施した複数本の金属素線2を撚り合わせ軽圧縮された軽圧縮撚線導体である。撚線導体1は、その長手方向に垂直な断面において、中心から外側にかけて3層以上の多層構造となるように、複数本の金属素線2を撚り合わせて構成されている。
【0015】
本実施の形態では、表面にめっきが施された状態での外径が0.18mmの金属素線2を用い、撚線導体1の長手方向に垂直な断面における中心から外側にかけて、3本、9本、16本、22本の金属素線2が積層配置されるように50本の金属素線2を撚り合わせて、4層構造の撚線導体1を形成した。以下、撚線導体1の最外層3に配置された22本の金属素線2を最外層線21と呼称し、最外層3よりも一層内側(中心側)の内層4に配置された16本の金属素線2を内層線22と呼称し、内層4よりも内側(中心側)の中心層5に配置された3本および9本(合計12本)の金属素線2を中心線23と呼称する。中心層5は、内層4よりも内側の全ての層を含んでおり、複数の層(
図1の例では22層)を含んでよい。
【0016】
なお、撚線導体1に用いる金属素線2の本数は図示の例に限らず、例えば、撚線導体1の長手方向に垂直な断面における中心から外側にかけて、1本、6本、12本、18本の合計37本の金属素線2を積層配置させた4層構造としてもよい。また、撚線導体1の層数も図示のものに限らず、3層構造としてもよいし、5層以上の構造としてもよい。また、金属素線2の外径は、0.15mm以上0.30mm以下(例えば、0.18mm、0.23mm、または0.26mm)であるとよい。なお、金属素線2の外径は、表面にめっきが施された状態での外径であり、例えば、JISC3002に準拠する構造試験の方法によって求めることができる。
【0017】
金属素線2は、銅または銅合金からなる芯材の表面にめっきが施されている。本実施の形態では、めっきとして錫めっきを用いた。金属素線2のめっきの厚さは、1.0μm以下とする。金属素線2のめっきの厚さは、より好ましくは、0.5μm以上1.0μm以下である。本実施の形態では、金属素線2のめっきの厚さは、平均値で約0.8μmである。これにより、めっきの影響で撚線導体1の導体抵抗が高くなってしまうことを抑制でき、十分な尤度をもって導体抵抗を規格値の範囲内とすることが可能になる。ここでいう規格値とは、例えば、JRISJ1001等の規格で規定される導体抵抗の値であって、表面にめっきを有する外径が0.18mmの金属素線2を50本撚り合わせした撚線導体1の規格値は、15.5Ω/kmである。本実施の形態では、上記規格値(15.5Ω/km)の98%(15.2Ω/km)以下となる場合に、尤度を持って規格値の範囲内となっていると判断した。
【0018】
(めっき試験の結果)
図1(b)は、圧縮率が10%以上(12.5%)で軽圧縮された撚線導体1の各層に配置された金属素線2、すなわち最外層線21、内層線22、及び中心線23に対してJISC3002 8(2)項に規定される過硫酸アンモン法によるめっき試験を行った結果を示す写真である。このめっき試験では、長さが1667mmの金属素線2を試験片として用い、試験片の両端部で銅が露出しないように密封した後に規定の試験液に所定時間浸して色の変化を観察する。そして、所定時間経過後の試験液の色が、基準となる標準液(比色標準液)より濃いかどうか(暗いかどうか)を目視によって比較する。試験液の色が濃いほど、試験片表面の銅の量が多く(濃度が高く)、めっきの損傷が大きくなっていることを意味している。そのため、試験液の色が標準液の色よりも薄い場合に、めっき試験が合格となり、試験液の色が標準液の色よりも濃い場合には、めっき試験は不合格となる。なお、
図1(b)に示すめっき試験で用いた試験片では、めっきの厚さが1.0μm以下(平均値で約0.8μm)である金属素線2を用いた。また、
図1(b)では、上述した撚線導体1から採取した2つの試験片のそれぞれに対して、上述しためっき試験を行った結果を示しており、上段が1つ目の試験片の結果、下段が2つ目の試験片の結果を示している。
【0019】
図1(b)に示すように、本実施の形態に係る撚線導体1では、最外層線21、内層線22、及び中心線23に対してめっき試験を行ったところ、当該めっき試験で得られた試験液の色が、いずれも標準液の色よりも薄くなっており、めっき試験に合格している。そして、内層線22の試験液の色が、最外層線21の試験液の色よりも薄くなっている。さらには、試験液の色が、中心線23、内層線22、最外層線21の順に濃くなっている。
【0020】
この結果から、撚線導体1は、導体中心に近づくほどめっきの損傷が少なくなっていることがわかる。
図1(a)からも分かるように、導体中心に近づくほど軽圧縮による金属素線2の変形度合が小さくなっており、より円形状に近い状態となっていることが分かる。すなわち、導体中心に近づくほど軽圧縮による金属素線2同士の摩擦等の影響が小さくなり、めっきの損傷が小さくなって、金属素線2の表面で測定される銅の濃度が小さくなっている。換言すると、本実施の形態に係る撚線導体1では、内層線22を構成する金属素線2の表面で測定される銅の濃度が、最外層線21を構成する金属素線2の表面で測定される銅の濃度よりも小さくなっており、中心線23を構成する金属素線2の表面で測定される銅の濃度が、内層線22を構成する金属素線2の表面で測定される銅の濃度よりも小さくなっている。これにより、本実施の形態に係る撚線導体1では、10%以上の圧縮率で軽圧縮されている場合であっても、めっき試験に合格でき、かつ導体抵抗の上昇を抑制できる。
【0021】
本実施の形態では、金属素線2を撚り合わせる際に金属素線2に付与する張力を調整することで、このようなめっきの損傷度合の分布を実現している。この点の詳細について、以下に述べる。
【0022】
(撚線導体1の製造方法)
図2に示すように、撚線導体1を製造する際には、まず、表面にめっきを施した複数本の金属素線2を撚り合わせる撚合工程(ステップS1)を行う。この際、金属素線2に適宜な張力を付与しつつ撚り合わせる。その後、撚り合わせた金属素線2を、当該撚り合わせた金属素線2の標準外径よりも小さい内径を有する金属製のダイスに通すことで軽圧縮する軽圧縮工程(ステップS2)を行う。これにより、
図1の撚線導体1が得られる。軽圧縮工程における圧縮率は、例えば10%以上である。
【0023】
(めっきの損傷を抑制するための検討)
軽圧縮時には、撚り合わせた金属素線2を狭いダイスに通すために、金属素線2同士が擦れたり、金属素線2とダイスとが擦れたりして、めっきに損傷が発生してしまう。本発明者らがめっき試験を行い検討したところ、従来の撚線導体では、内層線22で最もめっきの損傷が大きくなっていることが確認された。
【0024】
従来、撚合工程では、撚線導体1の形状を安定させるために、径方向における内側の層から外側の層にかけて徐々に張力が大きくなるように張力を設定するのが一般的であった。しかし、このような方法では、最外層線21に付与する張力が大きくなり過ぎ、内層線22が最外層線21と擦れて内層線22のめっきが損傷していたと考えられる。
【0025】
一例として、
図1(a)に示した撚線導体1と同様の構造とし、1層目の中心線23に付与する張力を80gf、2層目の中心線23に付与する張力を100gf、内層線22に付与する張力を120gf、最外層線21に付与する張力を140gfとして比較例1の撚線導体を作成した。比較例1の中心線23、内層線22、及び最外層線21のめっき試験の結果を
図3(a)に示す。
図3(a)では、3つの試験片のそれぞれに対してめっき試験を行った結果を示しており、上段が1つ目の試験片の結果、中段が2つ目の試験片の結果、下段が3つ目の試験片の結果を示している。
図3(a)に示すように、比較例1では、内層線22の試験液の色が最も濃くなっており、標準液よりも濃くなっているために、めっき試験は不合格となった。すなわち、比較例1では、内層線22を構成する金属素線2の表面で測定される銅の濃度が、最外層線21を構成する金属素線2の表面で測定される銅の濃度よりも大きくなっている。
【0026】
そこで、本実施の形態では、撚合工程で最外層線21と内層線22に付与する張力を等しくした。これにより、内層線22と最外層線21との擦れを抑制して、内層線22におけるめっきの損傷を大幅に抑制することが可能になる。より具体的には、内層線22の表面で測定される銅の濃度を20mass%未満にすることができる。なお、内層線22の表面の銅の濃度は、エネルギー分散型X線分析(EDX分析(Energy dispersive X-ray spectroscopy))を用いて内層線22の表面を測定することで得ることができる。
【0027】
金属素線2同士の擦れを抑制するために、金属素線2に付与する張力はなるべく小さくすることが望ましいといえる。本実施の形態では、撚合工程で中心線23、内層線22、及び最外層線21の全ての金属素線2に付与する張力を等しくした。なお、本明細書において、張力が等しいとは、張力が完全に等しい場合のみならず、実質的に同等と考えられる程度の誤差(例えば、±10%程度の誤差)がある場合も含むものとする。
【0028】
なお、金属素線2に付与する張力を小さくし過ぎると、送出装置から送り出した金属素線2にぶれが生じて撚線導体1の外形が安定しなくなり、逆にめっきの損傷が大きくなってしまう。そのため、送り出し時にぶれが生じない程度の適宜な張力とする必要がある。
【0029】
ここで、撚合工程で金属素線2に付与する張力の具体的な値について検討する。本実施の形態のように、外径0.18mmの金属素線2を50本用いて
図1(a)に示した構造の撚線導体1を形成する場合について、金属素線2に付与する張力を50gfから100gfまで10gf刻みで変化させて撚線導体1を作成し、
図1(b)と同様にめっき試験を行った。その結果、張力を60gf以下とした場合、及び100gf以上とした場合にはめっき試験が不合格となった。張力を60gf以下とした場合は撚線導体1の形状が不安定となり、張力を100gf以上とした場合は金属素線2同士の摩擦が大きくなったためであると考えられる。よって、外径0.18mmの金属素線2を50本用いて
図1(a)の構造の撚線導体1を形成する場合、金属素線2に付与する張力は、70gf(0.69N)以上90gf(0.88N)以下であるとよい。
【0030】
また、外径0.26mmの金属素線2を37本用い、1本、6本、12本、18本の4層構造とした場合についても同様に検討したところ、金属素線2に付与する張力を150gf(1.47N)としたときにめっき試験に合格することが分かった。これらの結果から、金属素線2の外径が0.18mm以上0.26mm以下である場合には、金属素線2に付与する張力を70gf(0.69N)以上150gf(1.47N)以下の範囲で調整することで、めっきの損傷を抑制してめっき試験に合格することが可能である。
【0031】
この結果から、金属素線2の外径が0.18mm以上0.26mm以下であるとき、撚線工程で最外層線21および内層線22に付与する張力は、最外層線21および内層線22を構成する金属素線2の外径に応じて、0.69N(70gf)以上1.47N(150f)以下の範囲で等しくするよう決定されることがよい。なお、金属素線2に付与する張力は、撚線工程において、複数の金属素線2を撚り合わせするための撚線機等に設置されている張力計によって測定することができる。
【0032】
めっきの厚さを1.0μm超とした場合についても検討した。
図1(a)に示した撚線導体1と同様の構造とし、めっきの厚さを約1.2μm(平均値)とした比較例2の撚線導体を作成し、めっき試験を行った。各層で金属素線2に付与する張力は80gfで一定とした。めっき試験の結果を
図3(b)に示す。
図3(b)では、3つの試験片のそれぞれに対してめっき試験を行った結果を示しており、上段が1つ目の試験片の結果、中段が2つ目の試験片の結果、下段が3つ目の試験片の結果を示している。
図3(b)に示すように、めっき試験の結果は、中心線23、内層線22、最外層線21の何れにおいても標準液よりも薄くなっており、合格となった。しかし、比較例2の撚線導体では、導体抵抗が高くなっており、規格の上限値である15.5Ω/kmの99.3%以上となり、規格値に対して十分な尤度が得られなかった。
【0033】
(実施の形態の作用及び効果)
以上説明したように、本実施の形態に係る撚線導体1では、金属素線2は、めっきの厚さが1.0μm以下であり、かつ、3層以上の多層構造に撚り合わされており、最外層線21、内層線22、及び中心線23に対してJISC3002 8(2)項のめっき試験を行い、当該めっき試験で得られた試験液の色が、いずれもめっき試験における標準液の色よりも薄く、かつ、内層線22の試験液の色が最外層線21の試験液の色よりも薄い。
【0034】
これにより、金属素線2のめっきの厚さが1.0μm以下と薄くし、圧縮率を10%以上とした場合であっても、めっきの損傷を抑制してめっき試験を合格することができる。その結果、導体抵抗の上昇を抑制しつつも、めっき試験を合格することが可能になる。
【0035】
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号等は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0036】
[1]表面にめっきを有する複数本の金属素線(2)が軽圧縮された撚線導体(1)であって、前記複数本の金属素線(2)は、前記めっきの厚さが1.0μm以下であり、かつ、3層以上の多層構造に撚り合わされており、前記多層構造において、最外層(3)に配置された前記金属素線(2)を最外層線(21)、前記最外層(3)よりも一層内側の内層(4)に配置された前記金属素線(2)を内層線(22)、前記内層(4)よりも内側に配置された前記金属素線(2)を中心線(23)としたとき、前記最外層線(21)、前記内層線(22)、及び前記中心線(23)に対してJISC3002 8(2)項のめっき試験を行い、当該めっき試験で得られた試験液の色が、いずれも前記めっき試験における標準液の色よりも薄く、かつ、前記内層線(22)の試験液の色が前記最外層線(21)の試験液の色よりも薄い、撚線導体(1)。
【0037】
[2]前記試験液の色が、前記中心線(23)、前記内層線(22)、前記最外層線(21)の順次に濃くなる、[1]に記載の撚線導体(1)。
【0038】
[3]前記内層線(22)の表面で測定される銅の濃度が20mass%未満である、[1]に記載の撚線導体(1)。
【0039】
[4]前記内層線(22)を構成する前記金属素線(2)の表面で測定される銅の濃度が、前記最外層線(21)を構成する前記金属素線(2)の表面で測定される銅の濃度よりも小さく、前記中心線(23)を構成する前記金属素線(2)の表面で測定される銅の濃度が、前記内層線(22)を構成する前記金属素線(2)の表面で測定される銅の濃度よりも小さい、[1]に記載の撚線導体(1)。
【0040】
[5]表面にめっきを有する複数本の金属素線(2)を撚り合わせる撚合工程と、撚り合わせた前記金属素線(2)を軽圧縮して撚線導体(1)を形成する軽圧縮工程と、を備え、前記複数本の金属素線(2)は、前記めっきの厚さが1.0μm以下であり、かつ、3層以上の多層構造に撚り合わされており、前記多層構造において、最外層(3)に配置された前記金属素線(2)を最外層線(21)、前記最外層(3)よりも一層内側の内層(4)に配置された前記金属素線(2)を内層線(22)、前記内層(4)よりも内側に配置された前記金属素線(2)を中心線(23)としたとき、前記撚合工程で前記最外層線(21)と前記内層線(22)に付与する張力が等しい、撚線導体の製造方法。
【0041】
[6]前記撚合工程で前記最外層線(21)と前記内層線(22)と前記中心線(23)に付与する張力が等しい、[5]に記載の撚線導体の製造方法。
【0042】
[7]前記金属素線(2)の外径が0.18mm以上0.26mm以下であり、前記張力が、前記金属素線の外径に応じて0.69N(70gf)以上1.47N(150f)以下の範囲で決定される、[5]に記載の撚線導体の製造方法。
【0043】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0044】
1…撚線導体
2…金属素線
21…最外層線
22…内層線
23…中心線
3…最外層
4…内層
5…中心層