(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024095210
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】樹脂組成物、フィルム、積層体、合わせガラス用中間膜および合わせガラス
(51)【国際特許分類】
C08L 29/14 20060101AFI20240703BHJP
C08F 265/04 20060101ALI20240703BHJP
C08L 33/04 20060101ALI20240703BHJP
C03C 27/12 20060101ALI20240703BHJP
【FI】
C08L29/14
C08F265/04
C08L33/04
C03C27/12 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022212324
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】倉橋 洵一郎
(72)【発明者】
【氏名】川北 展史
【テーマコード(参考)】
4G061
4J002
4J026
【Fターム(参考)】
4G061AA03
4G061BA01
4G061BA02
4G061CB03
4G061CB16
4G061CB18
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4G061CD18
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4J026GA09
(57)【要約】
【課題】樹脂本来が有する透明性を維持したまま、硬度低下を抑え、より優れた耐衝撃性を付与できる樹脂組成物、それを用いたフィルム、積層体、合わせガラス用中間膜および合わせガラスの提供。
【解決手段】ポリビニルアセタールと、多層構造粒子とを含み、前記多層構造粒子は、外表面に向かって、第1硬質層、軟質層および第2硬質層をこの順で含む多層構造を有し、前記第1硬質層および前記第2硬質層はいずれも、ガラス転移温度が25℃以上である重合体を含み、前記軟質層は、ガラス転移温度が25℃未満である重合体を含む樹脂組成物。ならびに、それを用いたフィルム、積層体、合わせガラス用中間膜および合わせガラス。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアセタールと、多層構造粒子とを含み、
前記多層構造粒子は、外表面に向かって、第1硬質層、軟質層および第2硬質層をこの順で含む多層構造を有し、
前記第1硬質層および前記第2硬質層はいずれも、ガラス転移温度が25℃以上である重合体を含み、
前記軟質層は、ガラス転移温度が25℃未満である重合体を含む、
ことを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
前記第1硬質層および前記第2硬質層のうちの少なくとも一方または両方が、メタクリル酸エステル単量体に由来する構造単位を有する重合体を含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記軟質層が、アクリル酸エステル単量体に由来する構造単位を有する重合体を含む、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記第1硬質層および前記第2硬質層のうちの少なくとも一方または両方が、メタクリル酸エステル単量体に由来する構造単位を有する架橋体を含み、
前記軟質層が、アクリル酸エステル単量体に由来する構造単位を有する架橋体を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記多層構造粒子が、前記第1硬質層を5~55質量%、前記軟質層を20~50質量%、前記第2硬質層を5~65質量%の割合で含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記ポリビニルアセタールと、前記多層構造粒子との含有質量比が、50:50~90:10である、請求項1~5のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記ポリビニルアセタールが、ポリビニルブチラールである、請求項1~6のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
さらに、前記多層構造粒子100質量部に対して、(メタ)アクリル酸エステル系重合体を10~100質量部含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の樹脂組成物を含むことを特徴とするフィルム。
【請求項10】
請求項9に記載のフィルムを備えることを特徴とする積層体。
【請求項11】
請求項1~8のいずれか一項に記載の樹脂組成物を含むことを特徴とする合わせガラス用中間膜。
【請求項12】
請求項11に記載の合わせガラス用中間膜を備えることを特徴とする合わせガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、樹脂組成物、ならびに、前記樹脂組成物を用いたフィルム、積層体、合わせガラス用中間膜および合わせガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
車両や建築用の窓ガラスに使用される合わせガラスとしては、少なくとも一対のガラス間に、合わせガラス用中間膜を介在させ、これらを一体化させたものが広く知られている。合わせガラスには、その使用用途から、透明性や耐衝撃性等の性質を備えることが求められている。
【0003】
従来、耐衝撃性を確保するために、耐衝撃性能を有するポリビニルアセタールを含む樹脂組成物を用いた合わせガラス用中間膜が知られている。特許文献1では、ポリビニルアセタールと、特定の内層および外層を有する多層構造重合体とからなる樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の樹脂組成物を用いた合わせガラスは、耐衝撃性が向上する一方で、樹脂組成物の硬度及びヘイズ値は明確でなく、これらの性能群(耐衝撃性・硬度・ヘイズ)のバランスが不十分な場合があった。したがって、より優れた性能を有する樹脂組成物の開発が望まれていた。
本開示は、樹脂本来が有する透明性を維持したまま、硬度低下を抑え、より優れた耐衝撃性を付与できる樹脂組成物、それを用いたフィルム、積層体、合わせガラス用中間膜および合わせガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る樹脂組成物、フィルム、積層体、合わせガラス用中間膜および合わせガラスは、下記[1]~[12]の構成を有する。
[1]ポリビニルアセタールと、多層構造粒子とを含み、前記多層構造粒子は、外表面に向かって、第1硬質層、軟質層および第2硬質層をこの順で含む多層構造を有し、前記第1硬質層および前記第2硬質層はいずれも、ガラス転移温度が25℃以上である重合体を含み、前記軟質層は、ガラス転移温度が25℃未満である重合体を含む樹脂組成物。
[2]前記第1硬質層および前記第2硬質層のうちの少なくとも一方または両方が、メタクリル酸エステル単量体に由来する構造単位を有する重合体を含む、[1]に記載の樹脂組成物。
[3]前記軟質層が、アクリル酸エステル単量体に由来する構造単位を有する重合体を含む、[1]または[2]に記載の樹脂組成物。
[4]前記第1硬質層および前記第2硬質層のうちの少なくとも一方または両方が、メタクリル酸エステル単量体に由来する構造単位を有する架橋体を含み、前記軟質層が、アクリル酸エステル単量体に由来する構造単位を有する架橋体を含む、[1]~[3]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[5]前記多層構造粒子が、前記第1硬質層を5~55質量%、前記軟質層を20~50質量%、前記第2硬質層を5~65質量%の割合で含む、[1]~[4]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[6]前記ポリビニルアセタールと、前記多層構造粒子との含有質量比が、50:50~90:10である、[1]~[5]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[7]前記ポリビニルアセタールが、ポリビニルブチラールである、[1]~[6]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[8]さらに、前記多層構造粒子100質量部に対して、(メタ)アクリル酸エステル系重合体を10~100質量部含む、[1]~[7]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[9][1]~[8]のいずれかに記載の樹脂組成物を含む、フィルム。
[10][9]に記載のフィルムを備える、積層体。
[11][1]~[8]のいずれかに記載の樹脂組成物を含む、合わせガラス用中間膜。
[12][11]に記載の合わせガラス用中間膜を備える、合わせガラス。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、樹脂本来が有する透明性を維持したまま、硬度低下を抑え、より優れた耐衝撃性を付与できる樹脂組成物、それを用いたフィルム、積層体、合わせガラス用中間膜および合わせガラスを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本開示に係る樹脂組成物に含まれる多層構造粒子の一例の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
耐衝撃性能を有するポリビニルアセタールとともに、可塑剤や金属成分等の他の成分を併用することが知られている。しかしながら、これらの他の成分を使用すると、白化が生じたり、強度が低下したりするなど、ポリビニルアセタール樹脂単体のみを用いた場合と比較して、透明性や耐衝撃性が低下することがあった。そこで、特許文献1では、特定の内層および外層を有する多層構造重合体(2層コアシェルゴム)を用いることで耐衝撃性を向上させているが、透明性と硬度との性能バランスは不十分である可能性があった。
【0010】
一方、本開示に係る樹脂組成物(以降、本樹脂組成物とも記す)では、従来使用されてきた可塑剤および金属成分以外の成分である、特定の第1硬質層、軟質層および第2硬質層を有する多層構造粒子を用いる。その結果、本樹脂組成物は、樹脂本来が有する透明性を確保したまま、硬度低下を抑え、ポリビニルアセタールが有する優れた耐衝撃性を発揮できる。したがって、本樹脂組成物により、透明性および硬度を確保したまま、より高性能化したフィルム、積層体、合わせガラス用中間膜および合わせガラスを提供することができる。本樹脂組成物のように、ポリビニルアセタールと、特定の3層を含む多層構造粒子とを併用した例はこれまでになく、当該樹脂組成物により得られる効果は予想をはるかに上回るものであった。
【0011】
以下に、本樹脂組成物の実施形態について、図面を参照しつつ詳しく説明するが、本開示はこの実施形態に限定されるものではない。また、本開示の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施できる。
【0012】
<樹脂組成物>
本樹脂組成物は、ポリビニルアセタールと、多層構造粒子とを含む。ここで、
図1に示すように、多層構造粒子4は、当該粒子の外表面に向かって、第1硬質層1、軟質層2および第2硬質層3をこの順で含む多層構造を有する。また、第1硬質層および第2硬質層はいずれも、ガラス転移温度が25℃以上である重合体(ポリマー)を含む。軟質層は、ガラス転移温度が25℃未満である重合体を含む。多層構造粒子の各層のガラス転移温度は、多層構造粒子の各層を分離した後、それぞれを示差走査熱量計(DSC)で測定することで特定できる。その際の温度や昇温速度は、対象となる試料に応じて適宜設定できる。また、多層構造粒子の各層のガラス転移温度は、JIS K7121:2012に準拠した測定条件により特定できる。具体的には、試料(例えば、各層を構成する材料)を室温(例えば、25℃)~200℃まで一度昇温し、次いで、-70℃以下まで冷却し、その後、-70℃~200℃までを10℃/分で昇温させる条件にて、示差走査熱量測定法にてDSC曲線を測定する。そして、2回目の昇温時に測定されるDSC曲線から求められる中間点ガラス転移温度を、当該試料のガラス転移温度とする。
このように、本樹脂組成物は、ポリビニルアセタールに多層構造粒子(例えば、
図1に示すような三層構造重合体)を配合することで、樹脂組成物の透明性を維持しながら、硬度低下を抑え、耐衝撃性能を向上でき、上述した課題を解決できる。
【0013】
以下、本樹脂組成物が含有する各成分について、詳しく説明する。
なお、本明細書において、数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
また、本明細書において、「(メタ)アクリル酸エステル」とは、メタクリル酸エステルおよびアクリル酸エステルのいずれか一方または両方を意味する。なお、「(メタ)アクリレート」および「(メタ)アクリル樹脂」に関しても同様の解釈とする。
【0014】
[ポリビニルアセタール]
ポリビニルアセタールは、上述したように、耐衝撃性を向上させるために、樹脂組成物中に含有される。
本樹脂組成物におけるポリビニルアセタールの含有割合は、40質量%以上であることが好ましい。ポリビニルアセタールの含有割合が40質量%以上であれば、適度な耐腐食性および接着性を容易に付与することができる。同様の観点から、ポリビニルアセタールの含有割合は、50質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上であることがさらに好ましい。また、ポリビニルアセタールの含有割合は96質量%以下であることが好ましい。ポリビニルアセタールの含有割合が96質量%以下であれば、添加成分による破断ひずみの向上が期待できる。同様の観点から、ポリビニルアセタールの含有割合は、90質量%以下であることがより好ましく、80質量%以下であることがさらに好ましい。
【0015】
ポリビニルアセタールは、ポリビニルアルコールをアセタール化したものであり、より具体的には、触媒存在下、ポリビニルアルコールのヒドロキシ基をアルデヒド類と反応させたものである。
ここで、ポリビニルアセタールとしては、平均アセタール化度40~90モル%のものを用いることが好ましい。平均アセタール化度が40モル%以上であれば、適度な吸水率を容易に付与することができる。また、平均アセタール化度が90モル%以下であれば、ポリビニルアセタールを得るための反応時間を適度な範囲に収めやすく、反応プロセス上、好ましい。平均アセタール化度は、これらの観点から、60~85モル%であることがより好ましく、耐水性の観点から、65~80モル%であることがさらに好ましい。なお、上記平均アセタール化度は、後述のポリビニルアセタールにおけるビニルアセタール成分に基づく値である。
【0016】
ポリビニルアセタールは、通常、ビニルアセタール成分、ビニルアルコール成分およびビニルアセテート成分から構成されている。これらの各成分量は、例えば、JIS K 6728:1977年「ポリビニルブチラール試験方法」や核磁気共鳴法(NMR)に基づいて測定することができる。
【0017】
ポリビニルアセタールは、ポリビニルアセタール中のビニルアセテート成分の配合割合が20モル%以下のものが好ましい。ビニルアセテート成分の配合割合が20モル%以下であれば、ポリビニルアセタールの製造時にブロッキングが生じることを容易に防ぎ、高温高湿下において、アセテート基が加水分解してカルボキシル基に変性されるのを容易に防ぐことができる。同様の観点から、ビニルアセテート成分の配合割合は、5モル%以下がより好ましく、2モル%以下がさらに好ましく、1.5モル%以下が特に好ましい。
【0018】
ポリビニルアセタールの原料となるポリビニルアルコールは、例えば、ビニルエステル系単量体を重合し、得られた重合体をけん化することによって得ることができる。ビニルエステル系単量体を重合する方法は、特に限定されず、溶液重合法、塊状重合法、懸濁重合法、乳化重合法など、従来公知の方法を適用することができる。重合時に使用する重合開始剤としては、使用する重合方法に応じて適宜選択でき、アゾ系開始剤、過酸化物系開始剤、レドックス系開始剤などを用いることができる。けん化反応は、従来公知のアルカリ触媒又は酸触媒を用いる加アルコール分解、加水分解などが適用できる。この中でも、メタノールを溶剤とし、苛性ソーダ(NaOH)触媒を用いる、けん化反応が簡便であり、最も好ましい。
【0019】
ポリビニルアセタールのビニルアセテート成分の配合割合を、上述した範囲内にする観点から、原料となるポリビニルアルコールのけん化度は、80モル%以上が好ましく、95モル%以上がより好ましく、98モル%以上がさらに好ましい。ポリビニルアルコールのけん化度は、JIS K 6726-1994の「ポリビニルアルコール試験方法」に準拠した方法により測定することができる。
【0020】
上記ビニルエステル系単量体としては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、ラウリン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、オレイン酸ビニル、安息香酸ビニルなどが挙げられる。また、上記ビニルエステル系単量体を重合する場合、本開示の主旨を損なわない範囲で、α-オレフィン等の他の単量体と共重合させることもできる。
【0021】
原料となるポリビニルアルコールの平均重合度は、100~5000であることが好ましい。ポリビニルアルコールの平均重合度が100以上であれば、本樹脂組成物を用いて得られるフィルムの耐貫通性、耐クリープ物性、特に85℃、85%RH(相対湿度)のような高温高湿条件下での耐クリープ物性をより向上させやすい。一方、平均重合度が5000以下であれば、本樹脂組成物を用いて得られるフィルムがより成形しやすくなる。これらの観点から、ポリビニルアルコールの平均重合度は、400~3000がより好ましく、600~2500がさらに好ましく、700~2300が特に好ましく、750~2000が最も好ましい。ポリビニルアルコールの平均重合度は、例えば、JIS K 6726「ポリビニルアルコール試験方法」に基づいて測定することができる。
なお、本樹脂組成物では、ポリビニルアセタールとともに、特定の多層構造粒子を用いているため、可塑剤や金属成分等の他の成分を使用しなくてもよいが、これらの他の成分を使用してもよい。また、本樹脂組成物では、これらの他の成分を使用する際も、従来と比較して、それらの使用量を低く抑えることができる。このため、本樹脂組成物では、従来課題とされていた、これらの他の成分に由来する白化現象や強度低下の発生を容易に防ぐことができる。
【0022】
なお、本樹脂組成物を用いて得られるフィルムのラミネート適性を向上させ、外観に一層優れたフィルムを得る観点から、ポリビニルアセタールの平均重合度は、以下とすることが好ましい。すなわち、可塑剤を添加しない系においては、ポリビニルアセタールの平均重合度は、1500以下が好ましく、1100以下がより好ましい。また、可塑剤を添加する系においては、添加しない系と比較して、より高い平均重合度のポリビニルアセタールを使用することが好ましい。具体的には、ポリビニルアセタールの平均重合度は、2500以下が好ましく、2000以下がより好ましい。
【0023】
ポリビニルアセタールの製造に用いる溶媒は特に制限されないが、工業的に大量に製造する観点から、水を用いることが好ましい。その際、原料となるポリビニルアルコールを、反応前に予め高い温度、例えば90℃以上の温度で十分に溶解しておくことが好ましい。また、ポリビニルアルコールを溶解させた水溶液(ポリビニルアルコール水溶液)の濃度は、5~40質量%とすることが好ましい。ポリビニルアルコール水溶液の濃度が5質量%以上であれば、生産性が向上しやすい。一方、ポリビニルアルコール水溶液の濃度が40質量%以下であれば、反応中の撹拌が容易となり、また、ポリビニルアルコールの分子間水素結合によるゲル化を抑制しやすく、反応にむらが生じることを容易に防ぐことができる。これらの観点から、ポリビニルアルコール水溶液の濃度は、6~20質量%とすることがより好ましく、7~15質量%とすることが特に好ましい。
【0024】
上述したように、ポリビニルアルコールの水溶液に、アルデヒド類を添加して反応させることにより、ポリビニルアセタールを製造することができるが、その際に用いられる触媒としては、有機酸及び無機酸のいずれを用いてもよい。触媒としては、例えば、酢酸、p-トルエンスルホン酸、塩酸、硝酸、硫酸、炭酸等が挙げられる。これらの中でも、十分な反応速度が達成され、反応後の洗浄が容易であることから、塩酸、硝酸および硫酸から選ばれる酸を触媒として用いることが好ましい。また、取り扱い性が容易なことから、塩酸を触媒として用いることがより好ましい。
触媒を添加した後のポリビニルアルコール水溶液における触媒の濃度は、用いる触媒の種類に応じて適宜調節できるが、塩酸、硫酸および硝酸の場合、0.01~5mol/Lであることが好ましい。触媒の濃度が0.01mol/L以上であれば、適度な反応速度を容易に維持でき、所望のアセタール化度、および、所望の物性を有するポリビニルアセタールを短時間で容易に得ることができる。また、触媒の濃度が5mol/L以下であれば、アセタール化反応を制御しやすく、アルデヒドの3量体の生成を容易に防ぐことができる。これらの観点から、上記触媒の濃度は、0.1~2mol/Lであることがより好ましい。
【0025】
ここで、上記アルデヒド類としては、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、ヘキシルアルデヒド、ベンズアルデヒドなどが使用できる。これらの中でも、炭素数1~12のアルデヒド化合物が好ましく、炭素数1~6の飽和アルキルアルデヒド化合物がさらに好ましく、炭素数1~4の飽和アルキルアルデヒド化合物が特に好ましい。本樹脂組成物を用いて得られるフィルムの力学物性の観点から、アルデヒド類としては、ブチルアルデヒドが最も好ましい。すなわち、ポリビニルアセタールとしては、ポリビニルブチラールを用いることが最も好ましい。
また、アルデヒド類は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。特に、ポリビニルアセタールのガラス転移温度を制御することができる点で、ブチルアルデヒドとアセトアルデヒドを併用することが好ましい。さらに、多官能アルデヒド類やその他の官能基を有するアルデヒド類などを全アルデヒド類の20質量%以下の範囲で少量併用してもよい。
【0026】
アセタール化反応の手順としては、公知の方法を採用することができる。例えば、ポリビニルアルコールの水溶液に上述した触媒を添加してから上記アルデヒド類を添加する方法、上記アルデヒド類を先に添加した後に上記触媒を添加する方法が挙げられる。また、添加するアルデヒド類または触媒を、一括添加、逐次添加または分割添加する方法や、触媒またはアルデヒド類を含む溶液に、ポリビニルアルコール水溶液と、アルデヒド類または触媒との混合溶液を添加する方法も挙げられる。
【0027】
アセタール化反応の反応温度は、適宜選択することができ、特に制限はない。しかしながら、本樹脂組成物を用いて得られるフィルムの耐腐食性を向上させるために、反応後に洗浄しやすい多孔質状のポリビニルアセタールを生成させる観点から、反応の途中でポリビニルアセタール粒子が析出するまでは0~40℃の比較的低温で反応を行うことが好ましく、5~20℃で反応を行うことがより好ましい。反応温度が40℃以下であれば、ポリビニルアセタールが融着することを容易に防ぐことができ、多孔質形状のポリビニルアセタールを生成しやすくなる。反応温度が0℃以上であれば、反応系の取り扱いが容易となり好ましい。また、0~40℃の比較的低温で反応を行った後は、反応を追い込んで生産性を上げるため、反応温度を50~80℃とすることが好ましく、65~75℃とすることがより好ましい。
【0028】
アセタール化反応を行った後に残存するアルデヒド類および触媒を除去する方法としては、公知の方法を適宜用いることができる。反応により得られたポリビニルアセタールは、アルカリ化合物により中和されるが、中和前に、ポリビニルアセタール中に残存するアルデヒド類をできるだけ除去しておくことが好ましい。このため、アルデヒド類の反応率が高くなる条件で反応を追い込む方法、水または水/アルコール混合溶媒等により十分に洗浄する方法、化学的にアルデヒドを処理する方法が有用である。中和に使用されるアルカリ化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物やアンモニア、トリエチルアミン、ピリジン等のアミン系化合物が挙げられる。これらの中でも、ガラスとの接着性への影響が小さいアルカリ金属の水酸化物が特に好ましい。
【0029】
[多層構造粒子]
多層構造粒子は、透明性を維持したまま、硬度低下を抑え、優れた耐衝撃性を付与するために使用される。
本樹脂組成物における多層構造粒子の含有割合は、60質量%以下であることが好ましい。多層構造粒子の含有割合が60質量%以下であれば、耐衝撃性および耐破断性を容易に向上させることができる。同様の観点から、多層構造粒子の含有割合は、40質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることがさらに好ましい。また、多層構造粒子の含有割合は4質量%以上であることが好ましい。多層構造粒子の含有割合が4質量%以上であれば、組成物の耐衝撃性および耐破断性の向上に寄与できる。同様の観点から、多層構造粒子の含有割合は、10質量%以上であることがより好ましく、15質量%以上であることがさらに好ましい。
【0030】
本樹脂組成物に用いられる多層構造粒子4は、当該粒子4の外表面に向かって、第1硬質層1、軟質層2および第2硬質層3をこの順で含む多層構造(
図2では、3層構造)を有する架橋ゴム粒子(コアシェルゴム粒子)であることができる。なお、多層構造粒子は、本開示の効果が得られる範囲で、上記3層以外の他の層を有していてもよいし、上記3層から構成されていてもよい。なお、多層構造粒子としては、2層構成のものも考えられるが、本開示では、特定の3層を含む多層構造粒子を樹脂組成物に用いることで、2層構成の粒子を用いた場合よりも、硬度および耐衝撃性のバランスに優れたフィルムや合わせガラス等を製造できる。
【0031】
・第1硬質層
多層構造粒子の内層(芯)となる第1硬質層は、ガラス転移温度が25℃以上である重合体(I)を含む。重合体(I)は、ガラス転移温度が25℃以上であれば、特に限定されず、従来公知の重合体を用いることができる。
しかしながら、第1硬質層は、硬度の観点から、メタクリル酸エステル単位(詳しくは、メタクリル酸エステル単量体に由来する構造単位)を有する重合体(例えば、ポリメタクリレート)を含むことが好ましい。
より具体的には、重合体(I)は、重合体(I)の全質量(100質量%)に対して、メタクリル酸アルキル単位を、80~99.95質量%含むことが好ましく、85~98質量%含むことがより好ましく、90~96質量%含むことが更に好ましい。これらの含有量範囲を満たすことによって、硬度がより良好となり好ましい。なお、メタクリル酸アルキルとしては、本開示の効果を得られる範囲で適宜選択できるが、硬度の観点から、アルキル基の炭素原子数が1~8であるメタクリル酸アルキルが好ましく、メタクリル酸メチルが特に好ましい。また、硬度の向上の観点から、重合体(I)は架橋構造を有することが好ましい。より具体的には、第1硬質層は、硬度の向上の観点から、メタクリル酸エステル単位を有する架橋体(例えば、メタクリレート架橋ポリマー)を含むことが好ましい。
【0032】
また、重合体(I)は、良好な硬度を有する観点から、重合体(I)の全質量に対して、以下の構造単位を有することが好ましい。すなわち、アルキル基の炭素原子数が1~8であるアクリル酸アルキル単位(詳しくはアクリル酸アルキル単量体に由来する構造単位)を0~19.95質量%、および架橋性単量体に由来する構造単位を0.05~2質量%含むことが好ましい。さらに、同様の観点から、アルキル基の炭素原子数が1~8であるアクリル酸アルキル単位を2~15質量%、および、架橋性単量体に由来する構造単位を0.05~1.5質量%含むことがより好ましい。また、同様の観点から、アルキル基の炭素原子数が1~8であるアクリル酸アルキル単位を4~10質量%、および、架橋性単量体に由来する構造単位を0.1~1質量%含むことが更に好ましい。
上記架橋性単量体としては、例えば、メタクリル酸アリルなどのジビニル単量体を用いることができる。
また、重合体(I)は、本開示の効果が得られる範囲で、上述した以外の成分を含むこともできる。
【0033】
・軟質層
多層構造粒子の中間層(内殻)となる軟質層は、ガラス転移温度が25℃未満である重合体(II)を含む。重合体(II)は、ガラス転移温度が25℃未満であれば、特に限定されず、従来公知の重合体(例えば、架橋ゴム重合体)を用いることができる。
しかしながら、軟質層は、柔軟性を付与し耐衝撃性を向上させる観点から、アクリル酸エステル単位(詳しくは、アクリル酸エステル単量体に由来する構造単位)を有する重合体(例えば、ポリアクリレート)を含むことが好ましい。
より具体的には、重合体(II)は、重合体(II)の全質量(100質量%)に対して、アクリル酸アルキル単位を、70~98質量%含むことが好ましく、75~90質量%含むことがより好ましく、80~85質量%含むことが更に好ましい。上記含有量範囲を満たすことによって、軟質層を構成する重合体がより柔軟なゴム材料となり、耐衝撃性を容易に付与できる。なお、アクリル酸アルキル単位が有するアルキル基の炭素原子数は、1~8であることが好ましい。また、耐衝撃性向上の観点から、重合体(II)は架橋構造を有することが好ましい。より具体的には、軟質層は、耐衝撃性向上の観点から、アクリル酸エステル単位を有する架橋体(例えば、アクリレート架橋ポリマー)を含むことが好ましい。
【0034】
また、重合体(II)は、重合体(II)の全質量に対して、ビニル単量体(例えば、芳香族ビニル単量体)に由来する構造単位を、2~30質量%含むことが好ましく、10~25質量%含むことがより好ましく、15~20質量%含むことが更に好ましい。上記含有量範囲を満たすことによって、重合体(II)の屈折率を樹脂マトリクスと合うように容易に調整でき、高い透明性を容易に付与できる。
上記ビニル単量体としては、例えば、スチレン等の芳香族ビニル単量体、ブタジエン等の脂肪族ジエン単量体を用いることができる。
【0035】
さらに、重合体(II)は、重合体(II)の全質量に対して、架橋性単量体に由来する構造単位を、1~5質量%含むことが好ましく、1~3質量%含むことがより好ましい。上記含有量範囲を満たすことによって、適度な架橋密度を容易に得ることができ、ゴム材料としての振る舞いがより良好となる。
上記架橋性単量体としては、例えば、メタクリル酸アリルなどのジビニル単量体を用いることができる。
また、重合体(II)は、本開示の効果が得られる範囲で、上述した以外の成分を含むこともできる。
【0036】
・第2硬質層
多層構造粒子の外層(外殻)となる第2硬質層は、ガラス転移温度が25℃以上である重合体(III)を含む。重合体(III)は、ガラス転移温度が25℃以上であれば、特に限定されず、従来公知の重合体(例えば、熱可塑性重合体)を用いることができる。
しかしながら、第2硬質層は、樹脂マトリクスとの相溶性の観点から、メタクリル酸エステル単位を有する重合体(例えば、ポリメタクリレート)を含むことが好ましい。
より具体的には、重合体(III)は、重合体(III)の全質量(100質量%)に対して、メタクリル酸アルキル単位を、80~100質量%含むことが好ましく、85~97質量%含むことがより好ましく、90~96質量%含むことが更に好ましい。これらの含有量範囲を満たすことによって、樹脂マトリクスとの相溶性がより良好となり好ましい。なお、メタクリル酸アルキル単量体としては、本開示の効果を得られる範囲で適宜選択できるが、硬度の観点から、アルキル基の炭素原子数が1~8であるメタクリル酸アルキルが好ましく、メタクリル酸メチルが特に好ましい。また、硬度向上の観点から、重合体(III)は架橋構造を有することが好ましい。より具体的には、第2硬質層は、硬度向上の観点から、メタクリル酸エステル単位を有する架橋体(例えば、メタクリレート架橋ポリマー)を含むことが好ましい。
【0037】
また、重合体(III)は、重合体(III)の全質量に対して、アルキル基の炭素原子数が1~8であるアクリル酸アルキル単位を、0~20質量%含むことが好ましく、3~15質量%含むことがより好ましく、4~10質量%含むことが更に好ましい。上記含有量範囲を満たすことによって、樹脂マトリクスとの相容性が一層向上する。
【0038】
多層構造粒子は、透明性の観点から、隣り合う層の屈折率の差が、好ましくは0.005未満であり、より好ましくは0.004未満、更に好ましくは0.003未満になるように各層に含有される重合体を選択することが好ましい。
【0039】
多層構造粒子は、組成物の硬度と衝撃性の両立の観点から、第1硬質層を5~55質量%、軟質層を20~50質量%、第2硬質層を5~65質量%の割合で含むことが好ましい。
多層構造粒子において、組成物の硬度と衝撃性の両立の観点から、第1硬質層および軟質層と、第2硬質層との質量割合((第1硬質層+軟質層):第2硬質層)は、30:70~95:5が好ましく、70:30~90:10がより好ましい。
また、第1硬質層と、軟質層との質量割合は、組成物の硬度と衝撃性の両立の観点から、80:20~30:70が好ましく、70:30~50:50がより好ましい。
【0040】
多層構造粒子の平均粒子径は、好ましくは0.05~1μmであり、より好ましくは0.07~0.5μmであり、更に好ましくは0.1~0.4μmであり、特に好ましくは0.15~0.3μmである。このような範囲内の平均粒子径を有する多層構造粒子を用いると、少量の配合で、靭性を容易に発現できるとともに、適度な剛性や表面硬度を容易に付与できる。なお、本明細書における平均粒子径は、光散乱法によって測定される体積基準の粒径分布における算術平均値である。
【0041】
多層構造粒子の製造方法は特に制限されず、公知の方法で行うことができる。しかしながら、粒子径制御の観点から、乳化重合法を用いることが好ましい。具体的には、芯となる第1硬質層を構成する単量体の乳化重合を行ってシード粒子を得た後、このシード粒子の存在下で、各層(例えば、軟質層および第2硬質層)を構成する単量体を逐次添加して、最外層(第2硬質層)までの重合を行うことによって多層構造粒子を得ることができる。
【0042】
乳化重合法に用いられる乳化剤としては、例えば、アニオン系乳化剤であるジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ジラウリルスルホコハク酸ナトリウム等のジアルキルスルホコハク酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、ドデシル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸塩;ノニオン系乳化剤であるポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルなど;ノニオン・アニオン系乳化剤であるポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレントリデシルエーテル酢酸ナトリウム等のアルキルエーテルカルボン酸塩;が挙げられる。これらは、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、ノニオン系乳化剤およびノニオン・アニオン系乳化剤の例示化合物におけるエチレンオキシド単位の平均繰り返し単位数は、適度な乳化剤の発泡性を維持するために、30以下であることが好ましく、20以下であることがより好ましく、10以下であることが更に好ましい。
【0043】
乳化重合に用いられる重合開始剤は特に限定されず、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩系開始剤;パースルホキシレート/有機過酸化物、過硫酸塩/亜硫酸塩等のレドックス系開始剤を用いることができる。
【0044】
乳化重合で得られるポリマーラテックスからの多層構造粒子の分離取得は、塩析凝固法、凍結凝固法、噴霧乾燥法などの公知の方法によって行うことができる。これらの中でも、多層構造粒子に含まれる不純物を水洗により容易に除去できる点から、塩析凝固法および凍結凝固法が好ましく、凍結凝固法がより好ましい。凍結凝固法は凝集剤を用いないので、耐水性に優れたフィルムが得られやすい。凝固工程前にポリマーラテックスに混入した異物を除去するため、目開き50μm以下の金網などでポリマーラテックスを濾過することが好ましい。樹脂マトリクスとの溶融混練において均一に分散させ易いという観点から、多層構造粒子を1,000μm以下の凝集粒子として取り出すことが好ましく、500μm以下の凝集粒子として取り出すことがより好ましい。なお、凝集粒子の形態は特に限定されず、例えば、最外層部分で相互に融着した状態のペレット状でもよいし、パウダー状やグラニュー状の粉体でもよい。
【0045】
[その他成分]
本樹脂組成物は、本開示の効果を損なわない範囲で、必要に応じて各種の添加剤、例えば、高分子加工助剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、帯電防止剤、着色剤、耐衝撃助剤など、上述した成分以外の他の添加剤を添加してもよい。なお、本樹脂組成物を用いて作製されるフィルムの力学物性および表面硬度の観点から、本樹脂組成物には、発泡剤、充填剤、艶消し剤、光拡散剤、軟化剤、可塑剤の添加量は少量(例えば、樹脂組成物中、0.1~10質量%)であることが好ましい。
【0046】
さらに、本樹脂組成物は、本開示の効果を損なわない範囲で、上述した成分以外の他の重合体を含むことができる。当該他の重合体としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン-1、ポリ-4-メチルペンテン-1、ポリノルボルネン等のポリオレフィン樹脂;エチレン系アイオノマー;ポリスチレン、スチレン-無水マレイン酸共重合体、ハイインパクトポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂、AES樹脂、AAS樹脂、ACS樹脂、MBS樹脂等のスチレン系樹脂;ポリメタクリレート、ポリアクリレート、(メタ)アクリレート共重合体、メチルメタクリレート-スチレン共重合体等の(メタ)アクリル酸エステル系重合体;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂;ナイロン6、ナイロン66、ポリアミドエラストマー等のポリアミド;ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリアセタール、ポリフッ化ビニリデン、ポリウレタン、変性ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、シリコーン変性樹脂;アクリルゴム、シリコーンゴム;SEPS、SEBS、SIS等のスチレン系熱可塑性エラストマー;IR、EPR、EPDM等のオレフィン系ゴムなどが挙げられる。
これらの中でも、本樹脂組成物を用いて得られるフィルムの耐破断性を向上させる観点から、ポリメタクリレート、ポリアクリレートおよび(メタ)アクリレート共重合体等の(メタ)アクリル酸エステル系重合体を用いることが好ましい。本樹脂組成物中の(メタ)アクリル酸エステル系重合体の配合量は適宜設定できるが、耐破断性を向上させる観点から、多層構造粒子100質量部に対して、(メタ)アクリル酸エステル系重合体を10~100質量部含むことが好ましい。
ここで、(メタ)アクリル酸エステル系重合体とは、メタクリル酸エステル単独重合体(ホモポリマー)、アクリル酸エステル単独重合体(ホモポリマー)、(複数種のメタクリル酸エステルを用いた)メタクリル酸エステル共重合体、(複数種のアクリル酸エステルを用いた)アクリル酸エステル共重合体、アクリル酸エステル-メタクリル酸エステル共重合体(例えば、メタクリル酸メチル-アクリル酸メチルの共重合体)、アクリル酸エステルと他の成分との共重合体、メタクリル酸エステルと他の成分との共重合体等を含むものである。
【0047】
[樹脂組成物の組成]
本樹脂組成物において、ポリビニルアセタールと、多層構造粒子の配合割合(含有質量比)は、ポリビニルアセタール自体の特性を損なわない範囲で特に制限されず、適宜設定できる。各成分の好ましい含有割合に関しては、上述の説明を参照されたい。
【0048】
[混練方法]
本樹脂組成物を調製する方法は特に制限されず、公知の方法を適宜用いることができるが、各成分を溶融混練して混合する方法が好ましい。混合操作は、例えば、ニーダールーダー、押出機、ミキシングロール、バンバリーミキサーなどの既知の混合または混練装置を使用して行うことができる。特に、混練性、生産性の観点から、二軸押出機を使用することが好ましい。溶融混練する際のせん断速度は10~1,000/秒であることが好ましい。混合・混練時の温度は、通常、150~320℃であり、好ましくは、200~300℃である。二軸押出機を使用し溶融混練する場合、着色抑制の観点から、ベントを使用し、減圧下での溶融混練または窒素気流下での溶融混練を行うことが好ましい。このようにして、本樹脂組成物を、例えばペレット状の形態で得ることができる。
【0049】
<フィルム、積層体、合わせガラス用中間膜および合わせガラス>
本開示に係るフィルム(以降、本フィルムとも記す)は、上述した本開示に係る樹脂組成物を含む。本フィルムは、本樹脂組成物を成形することにより得られ、本樹脂組成物から構成されることができる。本フィルムの製造方法は、特に限定されず、公知の方法を適宜使用できる。例えば、本フィルムは、Tダイ法、インフレーション法、溶融流延法、カレンダー法等の公知の方法を用いて作製できる。良好な表面平滑性、低ヘイズのフィルムが得られる観点から、本樹脂組成物を溶融混練してTダイから溶融状態で押し出し、その両面を鏡面ロール表面または鏡面ベルト表面に接触させて成形する工程を含むことが好ましい。
【0050】
本樹脂組成物を用いて作製される本フィルムは、透明性、耐荷重特性、耐候性、耐衝撃性、さらには耐腐食性に優れる。
本フィルムは、これらの優れた特性を活かして、単独で用いてもよいし、積層体を構成する各層(内層や最外層)またはそれらの層の一部として用いてもよい。本開示に係る積層体(以降、本積層体とも記す)は、本フィルムを備えていればよく、その形状や構成、用途等は特に限定されない。本積層体は、本フィルムとともに熱可塑性樹脂層を有することが好ましい。この熱可塑性樹脂層を構成する熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ABS樹脂、エチレン-ビニルアルコール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、スチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、アクリル系熱可塑性エラストマーなどが挙げられる。
【0051】
また、本樹脂組成物は、上述した優れた特徴を活かして、合わせガラス用中間膜にも好適に使用できる。具体的には、無機ガラスまたは有機ガラスからなる2枚以上のガラスの間に、本樹脂組成物を用いて作製されるフィルムを挿入して積層することで、合わせガラス用中間膜を作製できる。このような合わせガラス用中間膜は、その少なくとも一部を機能性材料と接触させた合わせガラスに好適に用いることができる。
【0052】
上記機能性材料は、金属を含むものが好ましい。機能性材料としては、例えば、熱センサー、光センサー、圧力センサー、薄膜静電容量センサー、液晶表示フィルム、エレクトロクロミック機能膜、遮熱材料、エレクトロルミネッセンス機能膜、発光ダイオード、カメラ、ICタグ、アンテナ、およびそれらを接続するための電極、配線等が挙げられる。
【実施例0053】
以下に、複数の例により本発明をさらに詳しく説明するが、本開示はこれらの例により何ら限定されるものではない。
まず、各例により得られたフィルムの評価方法を以下に説明する。
【0054】
[ヘイズ]
各例で得たフィルムを50mm×50mmに切り出して試験片とし、JIS K 7136に準拠した方法にて、温度23℃でヘイズ(%)を測定した。
【0055】
[耐衝撃性]
各例で得たフィルムをインパクトテスター(安田精機製作所製、商品名:No.181フィルムインパクトテスター)に設置した。そして、当該フィルムを破壊したときのエネルギーを測定し、そのエネルギー(J)をフィルム厚み(mm)で割った数値(J/mm)から耐衝撃性を評価した。
【0056】
[弾性率]
各例で得たフィルムを10mm×60mmの短冊片に切り出し、オートグラフ(島津製作所製、商品名:AG-IS 5kN)を用いて20mm/minの速度で引張試験を行った。チャック間距離は30mmとした。得られた応力-歪曲線の初期弾性変形領域における傾きから弾性率(MPa)を算出し、硬度評価の指標とした。
【0057】
[製造例1]
(ポリビニルブチラール(PVB)の合成)
撹拌機を取り付けた2m3反応器に、PVA(ポリビニルアルコール;平均重合度1000、けん化度99モル%)の7.5質量%水溶液1700kg、ブチルアルデヒド74.6kg及び2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール0.13kgを仕込み、全体を14℃に冷却した。ここに、濃度20質量%の塩酸水溶液160.1Lを添加して、PVAのブチラール化を開始した。添加終了後から10分後に昇温を開始し、90分かけて65℃まで昇温し、さらに120分反応を行った。その後、室温まで冷却して析出したPVBをろ過した後、PVBに対して10倍量のイオン交換水で10回洗浄した。その後、0.3質量%水酸化ナトリウム水溶液を用いて十分に中和を行い、さらにPVBに対して10倍量のイオン交換水で10回洗浄し、脱水した後、乾燥させ、PVBを得た。得られたPVBについて、JIS K 7142のA法に基づき屈折率を測定したところ、1.491であった
【0058】
[実施例1]
(多層構造粒子の調整)
撹拌機、温度計、窒素ガス導入管、単量体導入管および還流冷却器を備えた反応器内に、イオン交換水1050質量部、ポリオキシエチレントリデシルエーテル酢酸ナトリウム0.3質量部および炭酸ナトリウム0.7質量部を仕込み、反応器内を窒素ガスで十分に置換した。次いで、内温を80℃にした。そこに、過硫酸カリウム0.25質量部を投入し、5分間撹拌した。これに、メタクリル酸メチル95.4質量%、アクリル酸メチル4.4質量%およびメタクリル酸アリル0.2質量%からなる単量体混合物245質量部を60分間かけて連続的に滴下した。滴下終了後、重合転化率が98%以上になるようにさらに30分間重合反応を行った(第1硬質層の合成)。
次いで、同反応器内に、過硫酸カリウム0.32質量部を投入して5分間撹拌した。その後、アクリル酸ブチル80.5質量%、スチレン17.5質量%およびメタクリル酸アリル2質量%からなる単量体混合物315質量部を60分間かけて連続的に滴下した。滴下終了後、重合転化率が98%以上になるようにさらに30分間重合反応を行った(軟質層の合成)。
次に、同反応器内に、過硫酸カリウム0.14質量部を投入して5分間撹拌した。その後、メタクリル酸メチル95.2質量%、アクリル酸メチル4.4質量%およびn-オクチルメルカプタン0.4質量%からなる単量体混合物140質量部を30分間かけて連続的に滴下した。滴下終了後、重合転化率が98%以上になるようにさらに60分間重合反応を行い(第2硬質層の合成)、多層構造粒子を含むラテックス(A)を得た。係るエマルジョンを凍結することで、多層構造粒子を凝固させた。次いで凝固物を水洗するとともに、乾燥することで多層構造粒子の粉体を得た。なお、当該多層構造粒子に含まれる、第1硬質層および第2硬質層の上述した方法で測定したガラス転移温度は25℃以上であり、軟質層のガラス転移温度は25℃未満であった。また、当該多層構造粒子における、各層の質量割合(質量%)は、第1硬質層:35質量%、軟質層:45質量%、および第2硬質層:20質量%であった。
【0059】
(共重合体粒子(分散剤)の調整)
攪拌機、温度計、窒素ガス導入管、単量体導入管及び還流冷却器を備えた反応器を用いた。反応器内を窒素雰囲気にした。係る反応器内に、イオン交換水2,700質量部を投入した。さらに、ポリオキシエチレン(EO=3)トリデシルエーテル酢酸ナトリウム(日光ケミカルズ社製;商品名:ニッコールECT-3NEX)1.8質量部及び炭酸ナトリウム2.1質量部を投入した。これらを攪拌しながら混合溶解することで、pH=8の水性媒体を得た。水性媒体の温度を、75℃を目標に昇温させた。
上記とは別に、所定の容器に、メタクリル酸メチル92質量%、アクリル酸メチル7質量%、アクリル酸ベンジル1質量%、n-オクチルメルカプタン0.42質量%からなる単量体混合物2,000質量部及びポリオキシエチレン(EO=3)トリデシルエーテル酢酸ナトリウム4.5質量部を計量した。これらをビーカー中で混合溶解することで、乳化剤の添加された単量体混合物を調製した。
反応器内の水性媒体の温度が75℃になった段階で、反応器中に、過硫酸カリウム1.8質量部を投入した。その後、上記単量体混合物を1.43質量%/分の速度で連続的に供給することで、重合反応を行った。ここで単量体混合物全量を100質量%とする。単量体混合物の全量の供給が終了したのち、水性媒体を攪拌しながら75℃に60分間保持することで、重合反応を完遂させた。重合の完遂後、重合反応物を40℃まで冷却したのち、325メッシュの金網で濾過することで、共重合体粒子(分散剤)を含むラテックス(B)を得た。係るエマルジョンを凍結することで、共重合体粒子を凝固させた。次いで凝固物を水洗するとともに、乾燥することで(メタ)アクリル系共重合体の粉体を得た。得られた(メタ)アクリル樹脂は、メタクリル酸メチル単位の含有量が92質量%、アクリル酸メチルとアクリル酸ベンジル単位の含有量が8質量%、数平均分子量が38,000、ガラス転移温度は108℃であった。
【0060】
(混合粉体の調整)
得られたラテックス(A)及び(B)を混合した後、凍結させることで凝固させた。次いで水洗および乾燥して、多層構造粒子を含む混合粉体を得た。混合比率は、多層構造粒子67質量部に対して、共重合体粒子を33質量部とした。多層構造粒子の平均粒子径は0.23μm、共重合体粒子の平均粒子径は0.13μmであった。
【0061】
(混合粉体とPVBの混練およびプレス)
ポリビニルアセタールとして、製造例1で得られたPVBを用いた。そして、このPVB70質量部に対し、上記多層構造粒子を含む混合粉体を30質量部(多層構造粒子:共重合体粒子=20:10(質量比))加えて、温度:210℃で3分間溶融混練した後、プレス成形機を用いて、温度:210℃でプレス成形して、平均膜厚0.1mmのフィルムを得た。
【0062】
[実施例2]
実施例1において、混合粉体の調整を行わず、凍結、凝固、水洗、乾燥して多層構造粒子の粉体を得て、混練時の比率をPVB80質量部、多層構造粒子の粉体20質量部にしたことを除いて、実施例1と同様に実施し、フィルムを作製した。
【0063】
[比較例1]
混合粉体の調整と、PVBの混練とを行わず、PVB樹脂単体のみを用いたことを除き、実施例1と同様に実施し、フィルムを作製した。
【0064】
各例の評価結果を表1に示す。なお、下記樹脂組成は、各成分(PVB、多層構造粒子および共重合体粒子)の質量基準の配合割合(配合比)を示すものである。
【0065】
【0066】
実施例及び比較例で得られたフィルムのヘイズ、耐衝撃性および弾性率を測定したところ、実施例1~2におけるヘイズ値(%)、弾性率(MPa)は、比較例1と比較してほぼ同等であり、適度な透明性および硬度を維持していた。一方、実施例1~2における耐衝撃性は、比較例1と比較して約1.5倍向上しており、多層構造粒子の添加効果が見られた。
【0067】
以上のことより、多層構造粒子の添加によって、可塑剤及び金属塩を用いずとも、ポリビニルアセタール樹脂組成物の透明性を維持したまま、硬度低下を抑え、耐衝撃性を向上できることが分かった。また、本樹脂組成物は、加工性が良好であり、製膜した際の安定性に優れる可能性が高い。
本開示によれば、樹脂本来が有する透明性を維持したまま、硬度低下を抑え、より優れた耐衝撃性を付与できる樹脂組成物を提供できる。さらに、これらの特性を有する、当該樹脂組成物を用いたフィルム、積層体、合わせガラス用中間膜および合わせガラスを提供できる。