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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024095311
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】光アイソレータ
(51)【国際特許分類】
   G02B 27/28 20060101AFI20240703BHJP
   G02B 5/30 20060101ALI20240703BHJP
   C09J 201/00 20060101ALN20240703BHJP
【FI】
G02B27/28 A
G02B5/30
C09J201/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022212506
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 聡明
【テーマコード(参考)】
2H149
2H199
4J040
【Fターム(参考)】
2H149AA22
2H149AA24
2H149AB01
2H149BA02
2H149BA17
2H149EA22
2H149EA23
2H149FA41Z
2H149FA42W
2H149FA42Z
2H149FA68
2H149FD03
2H149FD28
2H199AA13
2H199AA23
2H199AA33
2H199AA64
2H199AA66
2H199AA93
4J040NA17
4J040NA19
(57)【要約】
【課題】
発熱の影響を効果的に低減可能で、耐光性の高い光アイソレータを提供することを目的とする。
【解決手段】
光の進行方向に1個以上の金属粒子分散型ガラス偏光子と1個以上のファラデー回転子を備えた光アイソレータであって、前記金属粒子分散型ガラス偏光子の光透過面の少なくとも一方に、前記金属粒子分散型ガラス偏光子よりも熱伝導性が高く、かつ、使用波長における屈折率が2.5以下である光透過板が、有機系接着剤を介さずに接合されたものである光アイソレータ。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光の進行方向に1個以上の金属粒子分散型ガラス偏光子と1個以上のファラデー回転子を備えた光アイソレータであって、
前記金属粒子分散型ガラス偏光子の光透過面の少なくとも一方に、前記金属粒子分散型ガラス偏光子よりも熱伝導性が高く、かつ、使用波長における屈折率が2.5以下である光透過板が、有機系接着剤を介さずに接合されたものであることを特徴とする光アイソレータ。
【請求項2】
前記金属粒子分散型ガラス偏光子の前記ファラデー回転子側の光透過面に前記光透過板を備え、該光透過板と前記ファラデー回転子とが有機系接着剤を介して接合されたものであることを特徴とする請求項1に記載の光アイソレータ。
【請求項3】
前記光アイソレータは光ファイバの端部に取り付けられるものであり、
前記金属粒子分散型ガラス偏光子の前記ファラデー回転子とは反対側の光透過面に前記光透過板を備え、該光透過板に前記光ファイバの端部が取り付けられるものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の光アイソレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば光通信や光計測などで用いられる光アイソレータに関する。
【背景技術】
【0002】
光通信や光計測において、半導体レーザから出た光が、伝送路途中に設けられた部材表面で反射し、その反射光が半導体レーザに戻ってくると、レーザ発振が不安定になってしまう。この反射戻り光を遮断するために、偏光面を非相反で回転させるファラデー回転子を用いた光アイソレータが用いられる。
【0003】
光アイソレータは、通常、光透過方向に配置される1個以上の偏光子と、1個以上のファラデー回転子と、これらの周囲に配置され、透過光の進行方向に対して平行な磁界を印加する磁石等から構成される。
【0004】
例えば、ファラデー回転子と、その光透過方向の両側に配置される2枚の偏光子と、ファラデー回転子の周囲に配置され、透過光の進行方向に対して平行な磁界を印加する磁石等から構成される光アイソレータの場合、入射した光は、第一偏光子によって直線偏光にされ、ファラデー回転子を透過する。入射直線偏光は、このファラデー回転子によって偏光面が45°回転され、透過偏光面を鉛直から45°傾けて配置された第二偏光子を通って出射する。戻り光はさまざまの偏光成分を持っているが、このうち鉛直から45°傾いた偏光成分のみが第二偏光子を透過する。この偏光成分は、ファラデー回転子によって45°の旋光を受けて、第一偏光子の透過偏光面から垂直に傾いた偏光となるため、第一偏光子を透過することができず、光源側には光が戻らない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7-281129号公報
【特許文献2】特開2005-43853号公報
【特許文献3】特開2007-108344号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
光アイソレータにおいては、近年、光源となるレーザ光の高出力化に対応することが求められている。高出力レーザ光源に対応するための課題として、ファラデー回転子の光吸収による温度上昇が挙げられる。ファラデー回転子の温度が上昇すると、ファラデー回転角が変化し、光アイソレータの消光比等の特性が劣化してしまう。
【0007】
このような課題を解決するため、種々の提案がなされている。例えば、特許文献1では、磁気光学結晶をガーネット基板で挟んだ構成を提案している。しかしながら、ガーネット基板の熱伝導率は十分ではなく、100mWを超える出力においては、ファラデー回転子の温度上昇を抑えることは難しい。
【0008】
また、特許文献2では、ファラデー回転子に高い熱伝導率を示すサファイア単結晶を接触させて放熱効果を高めている。しかしながら、サファイア単結晶は複屈折性結晶であるため、光の入射角度によっては消光比が劣化してしまうという問題がある。
【0009】
特許文献3では、楔型複屈折結晶板とサファイア単結晶板の結晶軸の方向を一致させることで消光比の劣化を防いでいる。しかしながら、透明な結晶板の結晶軸を考慮しながらの製造工程は、非常に煩雑なものとなってしまう。
【0010】
光通信では、高速・光密度・長距離で行うため、また中継器の台数を削減するため、用いるLD(Laser Diode)チップ単体の光出力を高める取り組みがなされている。光アイソレータ等の光学部品点数を削減するため、前記LDチップからの信号光は更に4波又は8波等と合波した後に光アイソレータを透過する。結果的に光アイソレータを透過する信号光は、従来の数~20mW程度が150~500mW程度と増大している。
【0011】
入射光は偏光したLD光なので消光比20dB(100:1)程度の偏光が透過することになり、光アイソレータの入射偏波を揃えることで0.07~0.1dB程度(透過率97.7~98.4%:信号光から計算すると最大12mW程度の光吸収となる)の損失にて透過する。一方、ファイバ等のガラス端での反射4%が発生すると仮定すると20mW相当の光量となり、その光が光アイソレータで吸収され熱に変換される。また、他にプリズム等の反射媒体や増幅器が介在して30%程度の高光反射が発生すると仮定すると150mW程度の光量となり、その光が光アイソレータで吸収され熱に変換されることとなる。
【0012】
近端のレーザー光反射折り返し実験では、偏光光がそのまま光アイソレータに戻るため、第2偏光子ではそのまま光透過し、第1偏光子で光遮断となり偏光子表面からの後方散乱光(戻り光量に対して5~8%程度)と偏光子による完全な光遮断(戻り光の残りの92~95%)吸収され熱に変換される。その伝熱集中結果として、第1偏光子とファラデー回転子界面の接着層が破断する。または戻り光の偏光状態が円偏光に近い状態では、第2偏光子で戻り光の3dB相当(50%相当)の光が吸収され熱に変換されることによる熱集中で第2偏光子とファラデー回転子間の接着層が破断する。
【0013】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、発熱の影響を効果的に低減可能で、耐光性の高い光アイソレータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上記目的を達成するためになされたものであり、光の進行方向に1個以上の金属粒子分散型ガラス偏光子と1個以上のファラデー回転子を備えた光アイソレータであって、前記金属粒子分散型ガラス偏光子の光透過面の少なくとも一方に、前記金属粒子分散型ガラス偏光子よりも熱伝導性が高く、かつ、使用波長における屈折率が2.5以下である光透過板が、有機系接着剤を介さずに接合されたものである光アイソレータを提供する。
【0015】
このような光アイソレータによれば、発熱の影響を効果的に低減可能で、かつ、耐光性の高い光アイソレータとなる。
【0016】
このとき、前記金属粒子分散型ガラス偏光子の前記ファラデー回転子側の光透過面に前記光透過板を備え、該光透過板と前記ファラデー回転子とが有機系接着剤を介して接合されたものである光アイソレータとすることができる。
【0017】
これにより、材料間の熱膨張係数差に伴う歪が光学特性に影響を及ぼすことをより有効に抑制でき、かつ、偏光子の設定が容易なものとなる。
【0018】
このとき、前記光アイソレータは光ファイバの端部に取り付けられるものであり、前記金属粒子分散型ガラス偏光子の前記ファラデー回転子とは反対側の光透過面に前記光透過板を備え、該光透過板に前記光ファイバの端部が取り付けられるものである光アイソレータとすることができる。
【0019】
これにより、光ファイバからの光の拡がりがより大きくなることで、光アイソレータ材料に到達するビーム径が大きくなり、さらに効果的に熱の影響を低減できるものとなる。
【発明の効果】
【0020】
以上のように、本発明の光アイソレータによれば、発熱の影響を効果的に低減可能で、耐光性の高いものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】光透過板が接合された偏光子とファラデー回転子を用いた光アイソレータの一例(断面図)を示す。
図2】光ファイバの端部に取り付けられた光アイソレータの一例を示す。
図3】金属粒子分散型ガラス偏光子の一例(断面図)を示す。
図4】金属粒子分散型ガラス偏光子の金属粒子還元層面に本発明に係る光透過板を接合した例(断面図)を示す。
図5】従来例(比較例1)に係る光アイソレータの一例(断面図)を示す。
図6】光ファイバの端部に取り付けられた従来例(比較例2)に係る光アイソレータの一例(断面図)を示す。
図7】光透過板を厚さ0.2mmと想定し、光ファイバ(SMファイバ)のNA=0.14とした時に、光透過板を通過する光の拡がり面積と光ファイバのコア端での面積との対比の屈折率依存性を示す。
図8】光透過板の厚さを変えた時の光ファイバ端面積対比を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0023】
上述のように、発熱の影響を効果的に低減可能で、耐光性の高い光アイソレータが求められていた。
【0024】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、光の進行方向に1個以上の金属粒子分散型ガラス偏光子と1個以上のファラデー回転子を備えた光アイソレータであって、前記金属粒子分散型ガラス偏光子の光透過面の少なくとも一方に、前記金属粒子分散型ガラス偏光子よりも熱伝導性が高く、かつ、使用波長における屈折率が2.5以下である光透過板が、有機系接着剤を介さずに接合されたものである光アイソレータにより、発熱の影響を効果的に低減可能で、耐光性の高いものとなることを見出し、本発明を完成した。以下、図面を参照して説明する。
【0025】
[光アイソレータ]
まず、本発明に係る光アイソレータについて説明する。図1に、光透過板が接合された金属粒子分散型ガラス偏光子とファラデー回転子を用いた光アイソレータ100の一例を示す。図1に示されるように、本発明に係る光アイソレータ100は、光の進行方向に1個以上の金属粒子分散型ガラス偏光子2(第1ガラス偏光子8、第2ガラス偏光子9)と1個以上のファラデー回転子1を備えるものである。そして、金属粒子分散型ガラス偏光子2の光透過面の少なくとも一方に、光透過板4が、有機系接着剤を介さずに接合されたものである。光透過板4としては、金属粒子分散型ガラス偏光子2よりも熱伝導性が高く、かつ、使用波長における屈折率が2.0以下のものを用いる。このような光アイソレータでは、後方散乱光が光透過板4で拡がると共に、金属粒子分散型ガラス偏光子の光吸収で発生した熱も光透過板4で伝熱し、光透過板4とファラデー回転子間の接着層への熱破断ダメージが低減できる。発熱の影響を効果的に低減可能で、耐光性の高いものとなる。
【0026】
光透過板4とファラデー回転子1との接合は有機系接着剤を用いなくても(直接的な接合でも)可能である。しかしながら、材料間の熱膨張係数差に伴う歪が光学特性に影響を及ぼすこと(アイソレーション劣化、及び、挿入損失増大)、偏光子の相対角度45degを精密に合わせ込むことが難しくなること等の問題も生じることが判明している。アイソレーションを高く設定するには、レーザ光を透過させた状態で2種の材料の相対角度を合わせ込む必要がある一方で、接着剤レスの接合形態では真空下での材料表面のプラズマ活性化処理等で接合力を確保する必要があり、両者は相反する工程となる。
【0027】
そこで、金属粒子分散型ガラス偏光子2のファラデー回転子1側の光透過面に光透過板4を設置し、光透過板4とファラデー回転子1とを有機系接着剤である接着層5を介して接合することが好ましい。このような光アイソレータは、材料間の熱膨張係数差に伴う歪が光学特性に影響を及ぼすことをより有効に抑制でき、かつ、偏光子の設定が容易なものである。さらに、偏光子の相対角度合わせ込みでは、有機的な接着剤を用いた接合工程がレーザ光を透過させながら高精度に合わせ込みが行えること、及び、材料どうしの接合歪を接着剤層で吸収できることなどの観点で容易である。
【0028】
さらに、図2に示したように、本発明に係る光アイソレータは、光ファイバの端部に取り付けられるものとし、金属粒子分散型ガラス偏光子2のファラデー回転子1とは反対側の光透過面に光透過板4を備えるものとし、この光透過板4に光ファイバ7の端部が取り付けられるものとすることも好ましい。このような光アイソレータは、光ファイバからの光の拡がりがより大きくなることで、光アイソレータ材料に到達するビーム径が大きくなり、さらに効果的に熱影響を低減できるものである。図7には、光透過板を厚さ0.2mmと想定し、光ファイバ(SMファイバ)のNA=0.14とした時に、光透過板を通過する光の拡がり面積と光ファイバのコア端での面積との対比の屈折率依存性を示した。熱影響を低減させるため、光ファイバ端面積対比で5倍以上を得るには屈折率2.5以下が望ましいことが解る。また図8には、光透過板の厚さを変えた時の光ファイバ端面積対比を示す。厚さが厚いと拡散面積は大きくなるが、アイソレータの透光部長が長くなりアイソレータ自体が大きくなるといったことにつながる。
【0029】
なお、本発明に係る光アイソレータの使用波長は特に限定されないが、例えば1100nm以上2500nm以下とすることができる。以下、本発明に係る光アイソレータの各要素についてさらに詳細に説明する。
【0030】
(金属粒子分散型ガラス偏光子)
まず、金属粒子分散型ガラス偏光子について説明する。本発明において用いる金属粒子分散型ガラス偏光子2は、金属微粒子を分散させたガラス偏光子であれば特に限定されない。その偏光機構は、金属微粒子内の伝導電子の共鳴吸収によるものである。このような金属粒子分散型ガラス偏光子2として、例えばCorning社製Polarcor、HOYA社製CUPO、CODIXX社製colorPol等を用いることができる。
【0031】
金属粒子分散型ガラス偏光子2は、例えば全体厚さが0.2mm~0.5mmのものを使用することができ、表面層0.05~0.10mm程度がガラス材還元処理によってハロゲン化金属が還元されて金属粒子が形成される還元層3となっている(図3図4(a))。この還元層3の配向部で透過偏光を制御する機構である。遮断される光は金属粒子に当り後方に5~8%程度散乱される光と、金属粒子に当たり吸収され熱に変換される光に大別される。なお、金属粒子分散型ガラス偏光子2の厚さが薄い場合(例えば0.15mm以下)、全体が還元層3である構造の金属粒子分散型ガラス偏光子2もありうる(図4(b))。
【0032】
金属粒子分散型ガラス偏光子2の一方には対空気ARコート、もう一方には後述の光透過板の屈折率にあわせて反射防止膜を形成することが好ましい。
【0033】
(光透過板)
次に、光透過板について説明する。上記の通り、本発明に係る光透過板は、金属粒子分散型ガラス偏光子よりも熱伝導性(熱伝導率)が高く、かつ、使用波長における屈折率が2.5以下のものである。また、使用する光波長域で透過率が高いもの、消光性能が35dB以上と高いもの(材料内歪が小さいこと)であることが好ましい。
【0034】
表1に、金属粒子分散型ガラス偏光子、ファラデー回転子の例と共に、光透過板として使用可能な材料の例を示す。なお、使用波長が1100nm以上2500nm以下での特性例である。
【0035】
【表1】
【0036】
本発明に係る光アイソレータの光透過板に使用できる具体的な材料としては、表1に記載した材料のうち、石英(SiO)、YAG、GGG、Y、CaF、Al、MgOなどが挙げられる。金属粒子分散型ガラス偏光子の熱膨張係数を基準として±30%以内のものがより好ましい。実際の使用環境では-40~+100℃までの温度変動が考えられ、さらに加工の容易性等も考慮すると、光透過板には金属粒子分散型ガラス偏光子の熱膨張係数により近いYAG、GGG等が特に、好ましい。
【0037】
光透過板4を金属粒子分散型ガラス偏光子2の光透過面に接合する方法は、有機系接着剤を介した接合でなければ特に限定されない。例えば、真空中で材料表面をプラズマ活性化した後に接合する方法、材料表面の原子拡散する方法、材料表面を親水化処理した後に接合をする方法、陽極接合等で接合する方法などが可能である。
【0038】
図3に金属粒子分散型ガラス偏光子の一例(断面図)を示す。平板状の金属粒子分散型ガラス偏光子2の一方には対空気ARコート、もう一方には透光性熱拡散板の屈折率にあわせて反射防止膜を形成することができる。反射防止膜を形成した平板状の金属粒子分散型ガラス偏光子2と0.2mm厚の光透過板4を、有機系接着剤を介することなく接合する。
【0039】
0.5mm厚の金属粒子分散型ガラス偏光子2(一部が還元層3)と光透過板4を接合する例が図4(a)、0.12mm厚の金属粒子分散型ガラス偏光子2(全体が還元層3)と光透過板4を接合する例が図4(b)である。
【0040】
(ファラデー回転子)
次に、ファラデー回転子について説明する。ファラデー回転子は、磁界を印加すると光の偏光方向を回転させる特性(磁気光学効果=ファラデー効果)を有するものである。本発明に係る光アイソレータおいて用いるファラデー回転子は特に限定されないが、例えば、ビスマス置換希土類鉄ガーネット、YFe12(YIG)、TbGa12(TGG)等が挙げられる。接着剤(接着層5)とファラデー回転子1の界面には対エポキシARコーティング等の接着剤に対する反射防止コーティング(対接着剤ARコーティング)が施されていてもよい。
【0041】
(その他)
図1、2に示すように、ファラデー回転子1に磁界を印加する手段として永久磁石6などを備えることができる。永久磁石6は特に限定されないが、例えば、SmCo系磁石、NdFeB系磁石等を用いることができる。永久磁石6の形状は、中空形状であり、円筒形状であることが好ましい。このとき、所望の形状である一つの磁石を用いてもよいし、複数の磁石から所望の形状にしてもよい。また、金属粒子分散型ガラス偏光子2、光透過板4、ファラデー回転子1と永久磁石6は接触していることが好ましい。このように構成することにより、金属粒子分散型ガラス偏光子2から生じた熱を、光透過板4及び永久磁石6を通してより効果的に放熱することができる。
【0042】
さらに、金属粒子分散型ガラス偏光子2、光透過板4、ファラデー回転子1と永久磁石6の間には、永久磁石6よりも高い熱伝導率を有する放熱部材を設け、金属粒子分散型ガラス偏光子2、光透過板4、ファラデー回転子1と放熱部材が接触するように構成することも好ましい。このようにすれば、さらに効果的に金属粒子分散型ガラス偏光子2から生じた熱を放熱することができる。放熱部材としては、例えば、ステンレス鋼(SUS304,SUS430)、炭素鋼、アルミニウム、真鍮、銅、アルミナ等を用いることができ、熱伝導率が20W/(m・K)以上の材料を用いることが好ましい。
【実施例0043】
以下、実施例を挙げて本発明について具体的に説明するが、これは本発明を限定するものではない。
【0044】
(比較例1)
図5に、ガラス偏光子を用いた光アイソレータ300の構成例を示した。第1ガラス偏光子8、第2ガラス偏光子9は、金属粒子(Ag粒子)を配向させた平板型の金属粒子分散型ガラス偏光子2(Corning社Polacor)である。第1ガラス偏光子8、第2ガラス偏光子9は、熱硬化型エポキシ接着剤である接着層5を介してファラデー回転子1と固定している。外部には磁場印加用の永久磁石6を配置した構成である。ファラデー回転子1は(GdBi)(FeGa)12を用いた。
【0045】
作製方法は以下の通りである。第1及び第2ガラス偏光子8、9(11mm□、厚さ0.2mm、消光性能52dB)の表面には1550nmの対空気ARコートを施した。1550nmにおける45.0degファラデー回転子1(11mm□、厚さ0.54mm)には対エポキシコートを両面に施し、エポキシ接着剤を介して、第1及び第2ガラス偏光子8、9のARコート無し面と貼り合せ、第1及び第2ガラス偏光子8、9は相対角度が45.0degになるように接合固定した。その後、2mm□に切断加工し、永久磁石(外径φ5.0mm×内径φ2.9mm×長さ1.2mm)中に挿入し接合固定した。
【0046】
第2ガラス偏光子9の出射側から、ビーム径φ0.2mm、150mWの偏光CW光を第2ガラス偏光子の透過偏光軸に合わせて入射させたところ、約30分で第1ガラス偏光子8とファラデー回転子1の界面の接着層5のビーム透過部に穴があく破損現象が見られた。同様にビーム径φ0.2mm、150mWの偏光CW光を第2ガラス偏光子9の透過偏光軸から約45degずらした方向で入射させると、約40分で第2ガラス偏光子9とファラデー回転子1の界面接着層5に穴があく破損現象が見られた。いずれの場合も、ファラデー回転子やガラス偏光子内には損傷は見られないことから、金属粒子分散型ガラス偏光子の金属粒子還元層部で吸収された光が熱に変わることによる発生熱の影響で接着層がダメージを受けたと考えられる。
【0047】
(比較例2)
図6に、光アイソレータの他の構成例として、光ファイバの端部に取り付けられた従来例(比較例2)に係る光アイソレータ400の一例を示した。図5と異なる点は、第2ガラス偏光子9の出射面にはARコートが施されていない状態であること、及び、フェルール等の光ファイバ固定部材10と光ファイバ7の固定面にエポキシ接着剤(接着層5)で固定している点である。光ファイバ7側から150mWの偏光CW光を光アイソレータ400に入射しその偏光方向を回転させたところ、第2ガラス偏光子9の透過偏光軸と直交する場合は光ファイバ出射端部の接着層5部がまず破損し、次にファラデー回転子1と第2ガラス偏光子9の接着層5が損傷することが確認でき、第2ガラス偏光子9の透過偏光軸と合わせた場合は第1ガラス偏光子8とファラデー回転子1の接合界面が破断することが確認された。これはファイバ固定部無しとした図5の比較例1の構成例の場合と同じような結果となった。
【0048】
(実施例1)
【0049】
図3に金属粒子分散型ガラス偏光子の構造を示した。平板状の金属粒子分散型ガラス偏光子2の一方には対空気ARコート、もう一方には透光性熱拡散板の屈折率にあわせて反射防止膜を形成した。
【0050】
反射防止膜を形成した平板状の金属粒子分散型ガラス偏光子2と0.2mm厚の光透過板4を、有機系接着剤を介することなく接合した。本実施例では、真空中で材料表面をプラズマ活性化した後に接合する手法を用いた。
【0051】
実際に作製した0.5mm厚の金属粒子分散型ガラス偏光子2とY製の光透過板4を接合した例が図4(a)、0.12mm厚の金属粒子分散型ガラス偏光子2とYAG製の光透過板4を接合した例が図4(b)である。
【0052】
実施例1として、作製した図4(b)に示す構造のものとファラデー回転子を用い、偏光子の相対角度が45degになるよう調整しながらエポキシ接着剤を用いて接合固定した。偏光子に接合した光透過板4側がファラデー回転子と向かいあう構成で固定した(図1)。
【0053】
第2ガラス偏光子9の出射側から、ビーム径φ0.2mm、150mWの偏光CW光を第2ガラス偏光子9の透過偏光軸に合わせて入射させた。約60分経過後では、光透過板4が石英、YAG、GGG、Al、MgOのいずれの材料でも変化が見られなかった。10時間を超えるところで石英材の接着剤周辺に変色が見られ始めたが、他の材料では異常が見られなかった。また同様にビーム径φ0.2mm、150mWの偏光CW光を第2ガラス偏光子の透過偏光軸から約45degずらした方向で入射させても、約60分経過後ではいずれの材料での接着層の異常は観察されなかった。
【0054】
次に耐熱耐光テストを行った。-40~+100の範囲で光アイソレータの温度を変化させると、石英、Al、MgOではチップ4隅において中央部よりアイソレーションが3~5dB低い値を示すようになった。これは放熱板とホウケイ酸ガラス製の偏光子の接合部が熱膨張係数差異に起因する歪を持ち、結果的にガラス偏光子の消光性能を劣化させ、アイソレータションの劣化につながったと考えている。
【0055】
(比較例3)
比較例3として、光透過板4としてSiを用いたこと以外は実施例1と同様の材料、構造の光アイソレータを用い耐熱耐光テストを行った。-40~+100℃迄光アイソレータの温度を変化させると、チップ4隅において中央部よりアイソレーションが5~7dB低い値を示すようになった。これは光透過板とホウケイ酸ガラス製の偏光子の接合部が熱膨張係数差異に起因する歪を持ち、結果的にガラス偏光子の消光性能を劣化させ、アイソレーションの劣化につながったと考えている。さらに同チップ構造を、光ファイバ端に取り付けファイバ側から光を戻す耐光試験を実施した。実施例1のチップではチップ内接合界面異常は見られなかったが、Siを用いたチップでは接合(接着)界面に異常(剥離するような現象)が見られた。光透過板の屈折率が高い為、光集中したままで結果的に熱拡散が不十分で、接着界面がダメージを受けた物と考えられる。(これは光透過板の屈折率が2.5を超えているため、光アイソレータに到達するビーム径が大きくならず、熱影響の低減効果が低くなったものと考えられる。)
【0056】
(実施例2)
実施例1と同様の材料を用い、図2に示す光アイソレータ200の構成例を用いて試験を行った。図1の光アイソレータと異なる点は、第2ガラス偏光子9の出射面にはARコートは施されていない状態であること、及び、第2ガラス偏光子9の出射面を光ファイバ7の固定面にエポキシ接着剤で固定している点である。光ファイバ7側から150mWの偏光CW光を光アイソレータ200に入射しその偏光方向を回転させたところ、第2ガラス偏光子9の透過偏光軸と直交する場合では光ファイバ7の出射端部の接着層部異常は見られなかった。次にファラデー回転子1と第2ガラス偏光子9の接着層5が損傷しなかったことが確認でき、第2ガラス偏光子の透過偏光軸と合わせた場合でも第1ガラス偏光子とファラデー回転子接合界面に異常は見られなかった。
【0057】
以上のとおり、本発明の実施例によれば、発熱の影響を効果的に低減可能で、かつ、耐光性の高い光アイソレータを得ることができた。
【0058】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0059】
1…ファラデー回転子、 2…金属粒子分散型ガラス偏光子、 3…還元層、
4…光透過板、 5…接着層、 6…永久磁石、 7…光ファイバ、
8…第1ガラス偏光子(平板型の金属粒子分散型ガラス偏光子)、
9…第2ガラス偏光子(平板型の金属粒子分散型ガラス偏光子)、
10…光ファイバ固定部品、
100…光アイソレータ、
200…光ファイバ端部に取り付けた光アイソレータ、
300…光アイソレータ、
400…光ファイバ端部に取り付けた光アイソレータ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【手続補正書】
【提出日】2023-12-13
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0025
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0025】
[光アイソレータ]
まず、本発明に係る光アイソレータについて説明する。図1に、光透過板が接合された金属粒子分散型ガラス偏光子とファラデー回転子を用いた光アイソレータ100の一例を示す。図1に示されるように、本発明に係る光アイソレータ100は、光の進行方向に1個以上の金属粒子分散型ガラス偏光子2(第1ガラス偏光子8、第2ガラス偏光子9)と1個以上のファラデー回転子1を備えるものである。そして、金属粒子分散型ガラス偏光子2の光透過面の少なくとも一方に、光透過板4が、有機系接着剤を介さずに接合されたものである。光透過板4としては、金属粒子分散型ガラス偏光子2よりも熱伝導性が高く、かつ、使用波長における屈折率が2.5以下のものを用いる。このような光アイソレータでは、後方散乱光が光透過板4で拡がると共に、金属粒子分散型ガラス偏光子の光吸収で発生した熱も光透過板4で伝熱し、光透過板4とファラデー回転子間の接着層への熱破断ダメージが低減できる。発熱の影響を効果的に低減可能で、耐光性の高いものとなる。