(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024095329
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】光アイソレータ及び光アイソレータの製造方法
(51)【国際特許分類】
G02B 27/28 20060101AFI20240703BHJP
G02B 5/30 20060101ALI20240703BHJP
【FI】
G02B27/28 A
G02B5/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022212535
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 聡明
【テーマコード(参考)】
2H149
2H199
【Fターム(参考)】
2H149AA22
2H149AA24
2H149AB23
2H149BA02
2H149DB38
2H149EA02
2H149FA41Y
2H149FA42W
2H199AA02
2H199AA13
2H199AA23
2H199AA64
2H199AA66
2H199AA92
(57)【要約】 (修正有)
【課題】光学特性を損ねることなく大きなビームシフト量を得ることが可能な、小サイズの光アイソレータを提供する。
【解決手段】偏光子とファラデー回転子を有し、かつ、偏光子とファラデー回転子が接合一体化された光アイソレータチップを備えた光軸シフト型の光アイソレータであって、光アイソレータチップの入射面は光アイソレータへの入射光の光軸に対して40°(deg)以下の角度で傾斜した面であり、光アイソレータチップの入射面は光アイソレータチップの光の進行方向の中心軸に対して傾斜した面であり、光アイソレータチップの中心軸は光アイソレータへの入射光の光軸に対して傾斜しており、光アイソレータへの入射光の光軸に対する出射光の光軸のシフト長ΔT(mm)と光アイソレータチップの入射面側に対する出射面側の傾斜ズレ長ΔC(mm)が、
|ΔT-ΔC|≦0.10(mm)
を満たす光アイソレータ。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光の進行方向に対して1個以上の偏光子と1個以上のファラデー回転子を有し、かつ、前記偏光子と前記ファラデー回転子が接合一体化されてなる光アイソレータチップを備えた光軸シフト型の光アイソレータであって、
前記光アイソレータにおける前記光アイソレータチップの入射面は、前記光アイソレータへの入射光の光軸に対して40°(deg)以下の角度で傾斜した面であり、
前記光アイソレータチップの入射面は、前記光アイソレータチップの前記光の進行方向の中心軸に対して傾斜した面であり、
前記光アイソレータチップの前記光の進行方向の中心軸は、前記光アイソレータへの前記入射光の光軸に対して傾斜しており、
前記光アイソレータへの前記入射光の光軸に対する前記光アイソレータからの出射光の光軸のシフト長ΔT(mm)と、前記光アイソレータチップの前記光の進行方向の中心軸の傾斜による前記光アイソレータチップの入射面側に対する出射面側の傾斜ズレ長ΔC(mm)が、
| ΔT - ΔC | ≦ 0.10(mm)
を満たすものであることを特徴とする光軸シフト型の光アイソレータ。
【請求項2】
前記光アイソレータにおける前記光アイソレータチップの入射面は、前記光アイソレータへの入射光の光軸に対して8°(deg)以上の角度で傾斜した面であることを特徴とする請求項1に記載の光軸シフト型の光アイソレータ。
【請求項3】
前記光アイソレータチップの一側面を、磁石を含む平面状の基台上に傾斜して配置したものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の光軸シフト型の光アイソレータ。
【請求項4】
光の進行方向に対して1個以上の偏光子と1個以上のファラデー回転子を有し、かつ、前記偏光子と前記ファラデー回転子が接合一体化されてなる光アイソレータチップを備えた光軸シフト型の光アイソレータの製造方法であって、
前記光アイソレータチップの入射面を、前記光アイソレータチップの前記光の進行方向の中心軸に対して傾斜した面とし、
前記光アイソレータチップを、前記光アイソレータチップの前記光の進行方向の中心軸が、前記光アイソレータへの前記入射光の光軸に対して傾斜するように設置し、
前記光アイソレータチップの入射面が、前記光アイソレータへの入射光の光軸に対して40°(deg)以下の角度で傾斜した面とし、かつ、前記光アイソレータへの前記入射光の光軸に対する前記光アイソレータからの出射光の光軸のシフト長ΔT(mm)と、前記光アイソレータチップの前記光の進行方向の中心軸の傾斜による前記光アイソレータチップの入射面側に対する出射面側の傾斜ズレ長ΔC(mm)が、
| ΔT - ΔC | ≦ 0.10(mm)
を満たすものとすることを特徴とする光軸シフト型の光アイソレータの製造方法。
【請求項5】
前記光アイソレータチップの入射面が、前記光アイソレータへの入射光の光軸に対して8°(deg)以上の角度で傾斜した面とすることを特徴とする請求項4に記載の光軸シフト型の光アイソレータの製造方法。
【請求項6】
前記光アイソレータチップの一側面を、磁石を含む平面状の基台上に傾斜して配置することにより、前記光アイソレータチップの前記光の進行方向の中心軸が前記光アイソレータへの入射光の光軸に対して傾斜したものとすることを特徴とする請求項4又は5に記載の光軸シフト型の光アイソレータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば光通信や光計測で用いられる光アイソレータ及び光アイソレータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光通信・光計測で、レーザから出た光が伝送路途中に設けられた部材表面からの反射光がレーザ光源に戻ってくると、レーザ発振が不安定になる。この反射戻り光を遮断するために、偏光面を非相反で回転させるファラデー回転子を用いた光アイソレータが用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
光通信のレーザーモジュール内に光アイソレータが用いられる。その配置時の入射面の傾斜角度は、入射光軸に対して2~6°(deg)となるように配置される。入射角度を設定するため、
図5のように入射面6を光アイソレータチップ30の軸に対して垂直加工した光アイソレータチップ30を所望の角度θ
A=2~6°(deg)傾けて配置する(
図6)、又は、入射面6を予め光アイソレータチップ40の軸に対してθ
B=2~6°(deg)の角度で傾斜加工したアイソレータチップ40の側面を磁石を含む基台12に設置する(
図7)ことで、入射光8の光軸10に対する入射面6の傾斜角度を設定している。しかしながらこれらの方法では、大型化などの問題があった。以下、さらに詳しく説明する。
【0005】
図5は第1の従来例に係る光アイソレータを説明する図面であり、入射面6を、光アイソレータチップの光の進行方向の中心軸5に対して垂直な面とした光アイソレータチップ30を示す。この光アイソレータチップ30は直方体の形状の例である。
図6は、
図5に記載されるような光アイソレータチップ30を、角度θ
A=2~6°(deg)傾けて配置して得られる、第1の従来例の光アイソレータ200である。
図6の光アイソレータ200では、入射光8を光アイソレータチップの入射面6の中心においた場合、出射光9の光軸11の光軸シフト(シフト長ΔT相当)の発生により、出射光9の出射面7における中心位置が下方に位置することとなる。光軸部から見ると、
図6のようにチップ高さをCHとした場合、出射面7における光軸11(ビーム中心)位置から上方のチップ端迄の距離はCH/2+ΔT、下方のチップ端迄の距離はCH/2-ΔTとなる。この場合、透過ビーム径に対応した必要有効径を確保するために、CHを大きくする、又は、入射光の光軸中心を上方にシフトさせて出射光の光軸中心の位置を上方にずらし、有効径を確保する手法がとられている。
【0006】
また、
図7に示す第2の従来例に係る光アイソレータ300では、アイソレータチップ40の入射面6を予め傾斜加工したものを用い、アイソレータチップ側面を光アイソレータ組立時に基台12に保持させることができる。入射光8をチップの入射面6の中心においた場合、出射光9の光軸11のシフト(シフト長ΔT相当)の発生により、出射光9は出射面7の中心より上方に位置することとなる。光軸部から見ると光軸11(ビーム中心)位置から上方のチップ端迄の距離はCH/2-ΔT、下方はチップ端迄の距離CH/2+ΔTとなる。この場合、透過ビーム径に対応した必要有効径を確保するために、CHを大きくする、又は、入射光の光軸中心を下方にシフトさせて出射光軸中心の位置を下方にずらし、有効径を確保する手法がとられている。
【0007】
直方体形状の光アイソレータチップ30(
図5)を用い、傾けて設置する場合(
図6)は、入射面6を大きく傾けると、チップ長Lが傾斜したことに対応して、高さ方向がL×sinθ
A(=ΔC)に相当する分だけ、光アイソレータチップ30の高さが高くなってしまう。なお、ΔCを「傾斜ズレ長」という。また、
図6、
図7の形状のいずれの場合も、入射面6と出射面7と有効ビーム径を勘案すると、チップ高さ(高さ方向長さ)CHを高く(長く)する必要がある。この場合、高価な光学素子の面積を大きくすることによるコストアップとなる。また、光学素子の面積を大きくしても、光ビーム透過エリアが相対的に小さくなり材料の無駄も大きくなる。
【0008】
また、近年、光通信では高密度な実装が行われている。その中で、モジュール内の光軸を調整するための部品を挿入する試みがなされている(例えば特許文献1)。
【0009】
しかしながら、さらに省スペースを考えた場合、特許文献1に記載されるような光軸調整用の部品を入れることが難しくなってきている。光アイソレータの光学特性を損ねることなく、大きなビームシフト量を得ながら、小さな光学素子サイズの光アイソレータが求められている。
【0010】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、光アイソレータの光学特性を損ねることなく、大きなビームシフト(光軸シフト)量を得ることが可能な、小さな光学素子サイズの光アイソレータ及びそのような光アイソレータの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記目的を達成するためになされたものであり、光の進行方向に対して1個以上の偏光子と1個以上のファラデー回転子を有し、かつ、前記偏光子と前記ファラデー回転子が接合一体化されてなる光アイソレータチップを備えた光軸シフト型の光アイソレータであって、前記光アイソレータにおける前記光アイソレータチップの入射面は、前記光アイソレータへの入射光の光軸に対して40°(deg)以下の角度で傾斜した面であり、前記光アイソレータチップの入射面は、前記光アイソレータチップの前記光の進行方向の中心軸に対して傾斜した面であり、前記光アイソレータチップの前記光の進行方向の中心軸は、前記光アイソレータへの前記入射光の光軸に対して傾斜しており、前記光アイソレータへの前記入射光の光軸に対する前記光アイソレータからの出射光の光軸のシフト長ΔT(mm)と、前記光アイソレータチップの前記光の進行方向の中心軸の傾斜による前記光アイソレータチップの入射面側に対する出射面側の傾斜ズレ長ΔC(mm)が、
| ΔT - ΔC | ≦ 0.10(mm)
を満たすものである光軸シフト型の光アイソレータを提供する。
【0012】
このような光アイソレータによれば、光アイソレータの光学特性を損ねることなく、大きなビームシフト(光軸シフト)量を得ながら、小さな光学素子サイズであり、最大限の有効径を確保することができる光アイソレータとなる。
【0013】
このとき、前記光アイソレータにおける前記光アイソレータチップの入射面は、前記光アイソレータへの入射光の光軸に対して8°(deg)以上の角度で傾斜した面である光軸シフト型の光アイソレータとすることができる。
【0014】
これにより、より大きなビームシフト量を得ることができる光軸シフト型の光アイソレータとなる。
【0015】
このとき、前記光アイソレータチップの一側面を、磁石を含む平面状の基台上に傾斜して配置したものである光軸シフト型の光アイソレータとすることができる。
【0016】
これにより、より簡単な構造なものとなる。
【0017】
本発明は、上記目的を達成するためになされたものであり、光の進行方向に対して1個以上の偏光子と1個以上のファラデー回転子を有し、かつ、前記偏光子と前記ファラデー回転子が接合一体化されてなる光アイソレータチップを備えた光軸シフト型の光アイソレータの製造方法であって、前記光アイソレータチップの入射面を、前記光アイソレータチップの前記光の進行方向の中心軸に対して傾斜した面とし、前記光アイソレータチップを、前記光アイソレータチップの前記光の進行方向の中心軸が、前記光アイソレータへの前記入射光の光軸に対して傾斜するように設置し、前記光アイソレータチップの入射面が、前記光アイソレータへの入射光の光軸に対して40°(deg)以下の角度で傾斜した面とし、かつ、前記光アイソレータへの前記入射光の光軸に対する前記光アイソレータからの出射光の光軸のシフト長ΔT(mm)と、前記光アイソレータチップの前記光の進行方向の中心軸の傾斜による前記光アイソレータチップの入射面側に対する出射面側の傾斜ズレ長ΔC(mm)が、
| ΔT - ΔC | ≦ 0.10(mm)
を満たすものとする光軸シフト型の光アイソレータの製造方法を提供する。
【0018】
このような光アイソレータの製造方法によれば、光アイソレータの光学特性を損ねることなく、大きなビームシフト(光軸シフト)量を得ながら、小さな光学素子サイズであり、最大限の有効径を確保することができる光アイソレータを製造することができる。
【0019】
このとき、前記光アイソレータチップの入射面が、前記光アイソレータへの入射光の光軸に対して8°(deg)以上の角度で傾斜した面とする光軸シフト型の光アイソレータの製造方法とすることができる。
【0020】
これにより、より大きなビームシフト量を得ることができる光軸シフト型の光アイソレータを製造することができる。
【0021】
このとき、前記光アイソレータチップの一側面を、磁石を含む平面状の基台上に傾斜して配置することにより、前記光アイソレータチップの前記光の進行方向の中心軸が前記光アイソレータへの入射光の光軸に対して傾斜したものとする光軸シフト型の光アイソレータの製造方法とすることができる。
【0022】
これにより、より簡便に光軸シフト型の光アイソレータを製造することができる。
【発明の効果】
【0023】
以上のように、本発明の光アイソレータによれば、光アイソレータの光学特性を損ねることなく、大きなビームシフト(光軸シフト)量を得ながら、小さな光学素子サイズであり、最大限の有効径を確保することができる光アイソレータとなる。本発明の光アイソレータの製造方法によれば、上記のような光アイソレータを製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図2】本発明に係る光アイソレータにおける光アイソレータチップを示す。
【
図5】第1の従来例に係る光アイソレータを説明する図面である。
【
図6】第1の従来例に係る光アイソレータを説明する図面である。
【
図7】第2の従来例に係る光アイソレータを説明する図面である。
【
図8】光アイソレータの順方向挿入損失(dB)の入射面角度依存性を示す。
【
図9】光アイソレータの逆方向挿入損失(dB)の入射面角度依存性を示す。
【
図10】ガラス偏光子の消光比の入射面角度依存性を示す。
【
図11】ガラス偏光子の挿入損失の入射面角度依存性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0026】
上述のように、光アイソレータの光学特性を損ねることなく、大きなビームシフト(光軸シフト)量を得ながら、小さな光学素子サイズの光アイソレータ及びそのような光アイソレータの製造方法が求められていた。
【0027】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、光の進行方向に対して1個以上の偏光子と1個以上のファラデー回転子を有し、かつ、前記偏光子と前記ファラデー回転子が接合一体化されてなる光アイソレータチップを備えた光軸シフト型の光アイソレータであって、前記光アイソレータにおける前記光アイソレータチップの入射面は、前記光アイソレータへの入射光の光軸に対して40°(deg)以下の角度で傾斜した面であり、前記光アイソレータチップの入射面は、前記光アイソレータチップの前記光の進行方向の中心軸に対して傾斜した面であり、前記光アイソレータチップの前記光の進行方向の中心軸は、前記光アイソレータへの前記入射光の光軸に対して傾斜しており、前記光アイソレータへの前記入射光の光軸に対する前記光アイソレータからの出射光の光軸のシフト長ΔT(mm)と、前記光アイソレータチップの前記光の進行方向の中心軸の傾斜による前記光アイソレータチップの入射面側に対する出射面側の傾斜ズレ長ΔC(mm)が、
| ΔT - ΔC | ≦ 0.10(mm)
を満たすものである光軸シフト型の光アイソレータによれば、光アイソレータの光学特性を損ねることなく、大きなビームシフト量(光軸シフト)を得ながら、小さな光学素子サイズであり、最大限の有効径を確保することができる光アイソレータとなることを見出し、本発明を完成した。
【0028】
また、光の進行方向に対して1個以上の偏光子と1個以上のファラデー回転子を有し、かつ、前記偏光子と前記ファラデー回転子が接合一体化されてなる光アイソレータチップを備えた光軸シフト型の光アイソレータの製造方法であって、前記光アイソレータチップの入射面を、前記光アイソレータチップの前記光の進行方向の中心軸に対して傾斜した面とし、前記光アイソレータチップを、前記光アイソレータチップの前記光の進行方向の中心軸が、前記光アイソレータへの前記入射光の光軸に対して傾斜するように設置し、前記光アイソレータチップの入射面が、前記光アイソレータへの入射光の光軸に対して40°(deg)以下の角度で傾斜した面とし、かつ、前記光アイソレータへの前記入射光の光軸に対する前記光アイソレータからの出射光の光軸のシフト長ΔT(mm)と、前記光アイソレータチップの前記光の進行方向の中心軸の傾斜による前記光アイソレータチップの入射面側に対する出射面側の傾斜ズレ長ΔC(mm)が、
| ΔT - ΔC | ≦ 0.10(mm)
を満たすものとする光軸シフト型の光アイソレータの製造方法により、光アイソレータの光学特性を損ねることなく、大きなビームシフト(光軸シフト)量を得ながら、小さな光学素子サイズであり、最大限の有効径を確保することができる光アイソレータを得ることができることを見出し、本発明を完成した。
【0029】
以下、図面を参照して説明する。
【0030】
まず、通常使用とは異なる条件であるが、光アイソレータの入射面角度を大きくした場合について確認した。光アイソレータの光学特性は入射光の入射面角度に依存しており、入射角度を0~50°(deg)迄変化させた場合、光アイソレータの逆方向挿入損失、順方向挿入損失はそれぞれ
図8、9のように変化することがわかった。また、ガラス偏光子単体では
図10、11のような特性を示すことがわかった。
【0031】
図8に示すように、光アイソレータの入射面の傾斜角度を大きくすると、順方向挿入損失は入射面角度が15°(deg)以降緩やかに増加していくこと、
図9に示すように、逆方向挿入損失は入射面角度が10°(deg)以降緩やかに低下することがわかった。一般的に、
図3に示すような1段構成(偏光子2枚とファラデー回転子1枚)では順方向挿入損失は0.3dB以下、逆方向挿入損失は30dB以上が求められている。このような光学特性の観点から、入射面の傾斜角度は40°(deg)以下とする必要があることがわかった。
【0032】
そして本発明者は、
図2に示すように光アイソレータチップ20の入射面6を傾斜加工(角度θ
C°)し、さらに、この光アイソレータチップ20を
図1に示すように傾斜(角度θ
A°)して配置し、光アイソレータチップ20の傾斜(傾斜角:θ
A°)及びその底面の長さ(=チップ長L)とから導かれる傾斜ズレ長ΔC=L×sinθ
A(mm)とシフト長ΔT(mm)との間を、
| ΔT - ΔC | ≦ 0.1mm
とすることで、光アイソレータチップ20のチップ高さCHを必要以上に大きく(長く)することなく、且つ、大きくビームシフトする機能を付与させながら、入射面6と出射面7の透過エリアバランスも損なうことがないこと、さらに、入射面6の入射光8に対する傾斜角度を40°(deg)以下にすることで光アイソレータに要求される光学特性を充足することができることを見出した。
【0033】
すなわち、本発明に係る光軸シフト型の光アイソレータは、光の進行方向に対して1個以上の偏光子と1個以上のファラデー回転子を有し、かつ、偏光子とファラデー回転子が接合一体化されてなる光アイソレータチップ(例えば
図3、4)を備えるものである。
【0034】
また、
図2に示すように、光アイソレータチップ20の入射面6は、光アイソレータチップ20の光の進行方向の中心軸5に対して傾斜(傾斜角:θ
C°)した面とされている。さらに、
図1に示すように、光アイソレータチップ20の光の進行方向の中心軸5が、光アイソレータ100への入射光8の光軸10に対して傾斜するように配置されている(傾斜角:θ
A°)。本発明に係る光軸シフト型の光アイソレータ100は、これら光アイソレータチップ20の入射面6の傾斜加工(傾斜角:θ
C°)と光アイソレータチップ20の傾斜配置(傾斜角:θ
A°)により、光アイソレータ100における光アイソレータチップ20の入射面6が、光アイソレータ100への入射光8の光軸10に対して40°(deg)以下の角度で傾斜した面となるように設定されたものである。なお、光アイソレータ100への入射光8の光軸10に対する光アイソレータチップ20の入射面6の傾斜角度は0°(deg)より大であればよい。
【0035】
さらに、光アイソレータ100への入射光8の光軸10に対する光アイソレータ100からの出射光9の光軸11のシフト長ΔT(mm)と、光アイソレータチップ20の光の進行方向の中心軸5の傾斜による光アイソレータチップ20の入射面6側に対する出射面7側の傾斜ズレ長ΔC(mm)が、
| ΔT - ΔC | ≦ 0.10(mm)
を満たすものである。
【0036】
このような光軸シフト型の光アイソレータ100は、出射面7からの出射光9が、出射面7の中心により近い場所から出射することとなるため、大きなビームシフト(光軸シフト)量を得ながら、小さな光学素子サイズであり、最大限の有効径を確保することができるものとなる。また、光アイソレータの光学特性を損ねることもない。
【0037】
光アイソレータ100における光アイソレータチップ20の入射面6は、光アイソレータ100への入射光8の光軸10に対して8°(deg)以上の角度で傾斜した面であることが好ましい。これにより、より大きなビームシフト量を得ることができる光アイソレータ100となる。
【0038】
また、
図1に示すように、光アイソレータチップ20の一側面を、磁石を含む平面状の基台12上に傾斜して配置したものであれば、より簡単な構造のものとなるため好ましい。
【0039】
次に、本発明に係る光アイソレータの製造方法について説明する。
【0040】
まず、光の進行方向に対して1個以上の偏光子と1個以上のファラデー回転子を有し、かつ、偏光子とファラデー回転子が接合一体化されてなる光アイソレータチップ(例えば、
図3、4)を準備する。そして、
図2に示すように、光アイソレータチップ20の入射面6を、光アイソレータチップ20の光の進行方向の中心軸5に対して傾斜(角度θ
C°)した面となるように切断、研磨等により傾斜加工する。
【0041】
次に、傾斜加工した光アイソレータチップ20を、光アイソレータチップ20の光の進行方向の中心軸5が、光アイソレータ100への入射光8の光軸10に対して傾斜(角度θA°)するように設置する。
【0042】
また、光アイソレータチップ20の入射面6が、光アイソレータ100への入射光8の光軸10に対して40°(deg)以下の角度で傾斜した面となるように、かつ、光アイソレータ100への入射光8の光軸10に対する光アイソレータ100からの出射光9の光軸11のシフト長ΔT(mm)と、光アイソレータチップ100の光の進行方向の中心軸5を傾斜させたことにより生じる光アイソレータチップ20の入射面6側に対する出射面7側の傾斜ズレ長ΔC(mm)が、
| ΔT - ΔC | ≦ 0.10(mm)
を満たすものとなるように、光アイソレータチップ20を配置する。これは、上述の角度θC°、角度θA°を調整することで設定可能である。
【0043】
このように光アイソレータチップ20を配置する方法は特に限定されないが、例えば接着剤などを用い、磁石を含む平面状の基台12上に配置することができ、チップを取り付ける角度を調節すること(接着剤硬化前に予め治具等で特定の角度になるように保持して接着剤を硬化させる事で実現出来る。)で、傾斜角度を調節できる。
【0044】
また、光アイソレータへの入射光の光軸に対する光アイソレータチップの入射面の傾斜の角度の下限値は特に限定されないが、例えば8°(deg)以上の傾斜角度とすることができる。これにより、より大きなビームシフト量を得ることができる光軸シフト型の光アイソレータを製造することができる。
【実施例0045】
以下、実施例を挙げて本発明について具体的に説明するが、これは本発明を限定するものではない。
【0046】
(実施例1、比較例1-1、1-2)
図3に本実施例1で用いた1段型光アイソレータの構成例を示す。第1偏光子1及び第2偏光子2には、Ag粒子を分散配向させた平板型ガラス偏光子(Corning社:Polarcor)、ファラデー回転子(第1ファラデー回転子13)には(TbEuBi)
3(FeGa)
5O
12や(GdBi)
3(FeGa)
5O
12を用いた。
【0047】
第1偏光子1及び第2偏光子2(11mm□、厚さ0.2mm、消光性能52dB)の表面には1550nmの対空気ARコートを施した。1550nmにおける45.0degファラデー回転子(第1ファラデー回転子13)(11mm□、厚さ0.54mm)には対エポキシコートを両面に施し、エポキシ接着剤を介して、偏光子のARコート無し面と貼り合せた。第1偏光子1及び第2偏光子2は相対角度が45.0degになるように接合固定した。その後、光アイソレータチップ入射面が所定角度になるよう1mm□に切断加工し、基台12としての永久磁石(高さ1.4mm×幅0.8mm×光軸方向長さ1.5mm)に接合固定した(同様に個々の傾斜角度に接合配置した)。なお、エポキシ接着剤の接着層厚さは概ね0.005~0.008mmである。
【0048】
表1には、各々の入射面傾斜角度、光軸のシフト長ΔT(ビームシフト量)、有効径等の結果を記載した。実施例1の光アイソレータでは、光アイソレータの光学特性を損ねることなく(入射面傾斜角度が40°以下)、大きなビーム光軸のシフト長を得ながら、最大限の有効径を確保することができることがわかる。なお、チップ加工時は切断加工時のチッピング影響を考慮し、切断端近傍(例えばチップ切断端から0.02mm)は有効径から除外して考える必要がある。
【0049】
【0050】
表1に示されるように、表1中で[参考]として示すような、単純に
図7のようにチップ入射面の傾斜加工角度=入射光の光軸との傾斜角度(入射面の傾斜角度)とした場合や、
図6のように直方体のチップを傾斜配置して傾斜配置角度=入射光の光軸との傾斜角度(入射面の傾斜角度)とした場合と対比して、実施例1においては、チップ面積に近い大きな有効径(φ0.85mm)が安定して確保できていることがわかる。
【0051】
(実施例2、比較例2-1、2-2)
第1偏光子1及び第2偏光子2の厚さを0.12mmとした点以外は実施例1と同様の構成で評価を行った。結果を表2に示した。
【0052】
【0053】
(実施例3、比較例3-1、3-2)
図4に本実施例3で用いた1.5段型光アイソレータの構成例を示す。第1偏光子1、第2偏光子2及び第3偏光子3には、Ag粒子を分散配向させた平板型ガラス偏光子、第1ファラデー回転子13、第2ファラデー回転子14には(TbEuBi)
3(FeGa)
5O
12や(GdBi)
3(FeGa)
5O
12を用いた。
【0054】
第1偏光子1及び第3偏光子3(11mm□、厚さ0.12mm、消光性能52dB)の表面には1550nmの対空気ARコートを施した。1550nmにおける45.0degファラデー回転子(11mm□、厚さ0.54mm)には対エポキシコートを両面に施し、エポキシ接着剤を介して、偏光子のARコート無し面と貼り合せた。第1、第2、第3偏光子は、第1-第2偏光子間、及び第2-第3偏光子間の相対角度が45.0degになるように接合固定した。その後、チップ入射面が所定角度になるよう1mm□に切断加工し、永久磁石(高さ1.4mm×幅0.8mm×光軸方向長さ2.0mmに接合固定した(同様に個々の傾斜角度に接合配置した)。結果を表3に示した。
【0055】
【0056】
表2、3に示すとおり、実施例2、3の光アイソレータでも、光アイソレータの光学特性を損ねることなく(入射面傾斜角度が40°以下)、大きなビーム光軸のシフト長を得ながら、最大限の有効径を確保することができることがわかる。また、切断端近傍を有効径から除外して考えた場合についても、実施例1と同様に、チップ面積に近い大きな有効径(φ0.85mm)が安定して確保できていることがわかる。
【0057】
以上のとおり、本発明の実施例によれば、光アイソレータの光学特性を損ねることなく、大きなビームシフト量を得ながら、小さな光学素子サイズであり、最大限の有効径を確保することができる光アイソレータを得ることができた。
【0058】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。