(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024095346
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】容器詰め食品及び容器詰め食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 5/00 20160101AFI20240703BHJP
A23L 3/015 20060101ALI20240703BHJP
A23L 3/00 20060101ALI20240703BHJP
A23L 35/00 20160101ALI20240703BHJP
A23L 19/00 20160101ALI20240703BHJP
【FI】
A23L5/00 G
A23L3/015
A23L3/00 101A
A23L35/00
A23L19/00 Z
A23L19/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022212566
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000001421
【氏名又は名称】キユーピー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】510299503
【氏名又は名称】デリア食品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 希
(72)【発明者】
【氏名】中根 麗
(72)【発明者】
【氏名】上地 利征
【テーマコード(参考)】
4B016
4B021
4B035
4B036
【Fターム(参考)】
4B016LC06
4B016LE04
4B016LG01
4B016LG06
4B016LK04
4B016LK06
4B016LK07
4B016LK08
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4B016LK20
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4B016LP13
4B021LA01
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4B021MQ05
4B035LC03
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4B036LC05
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4B036LH09
4B036LH10
4B036LH29
4B036LH30
4B036LK01
4B036LP06
4B036LP19
4B036LP21
(57)【要約】
【課題】アボカドと澱粉質の野菜とを含む食品において、製造から時間が経過しても、より良好な食感を有する食品を提供する。
【解決手段】本発明の容器詰め食品は、アボカド、澱粉質の野菜及び調味液を含み、製造から冷蔵条件下にて20日後における常温での粘度が、前記アボカドが容器詰めされる前に高圧処理されていないアボカドであること以外は実質的に同じ組成である食品の製造から冷蔵条件下にて20日後における常温での粘度に比べて、高い。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アボカド、澱粉質の野菜及び調味液を含み、
製造から冷蔵条件下にて20日後における常温での粘度が、前記アボカドが容器詰めされる前に高圧処理されていないアボカドであること以外は実質的に同じ組成である食品の製造から冷蔵条件下にて20日後における常温での粘度に比べて、高く、
前記粘度は、容器から回収した内容物から1cm以上の長さを有する具材を取り除き、残った成分について、テクスチャーアナライザー及び直径3.5cmの円柱状プランジャーを用いて、測定速度1mm/secで、当該成分を載せた容器の底面に対して垂直となるように前記プランジャーを進入させた時の荷重である、
容器詰め食品。
【請求項2】
容器詰めされる前に高圧処理されたアボカド、澱粉質の野菜及び調味液を含む、
容器詰め食品。
【請求項3】
前記調味液は、有機酸及び植物性油脂を含む、
請求項1又は2に記載の容器詰め食品。
【請求項4】
前記アボカドの含有量が、10質量%以上、30質量%以下である、
請求項1又は2に記載の容器詰め食品。
【請求項5】
前記澱粉質の野菜の含有量が、30質量%以上、60質量%以下である、
請求項1又は2に記載の容器詰め食品。
【請求項6】
製造から冷蔵条件下にて20日後の一般生菌数が、1×106CFU/g未満である、
請求項1又は2に記載の容器詰め食品。
【請求項7】
高圧処理されたアボカド、澱粉質の野菜及び調味液を容器に詰める容器詰め工程と、
前記容器詰め工程後の容器に対して高圧処理する容器高圧処理工程と、を含む、
容器詰め食品の製造方法。
【請求項8】
アボカドを高圧処理する原料高圧処理工程を含み、
前記容器詰め工程で混合する、前記高圧処理されたアボカドとして、前記原料高圧処理工程で高圧処理されたアボカドを用いる、
請求項7に記載の容器詰め食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は容器詰め食品及び容器詰め食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、生鮮野菜に高圧処理を施すことが記載されており、生鮮野菜としてアボカドが用いられている(特許文献1の〔0055〕を参照。)。特許文献2には、生の青果物を含む容器を高圧処理する工程を含む容器詰め食品の製造方法が記載されており、青果物としてアボカドが例示されている(特許文献2の〔0014〕を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-212001号公報
【特許文献2】特開2022-63091号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、アボカドと澱粉質の野菜とを含む食品において、製造から時間が経過すると、食品が本来の口当たり等の食感を有していない場合があることを見出した。
【0005】
そこで、本発明の一態様は、アボカドと澱粉質の野菜とを含む食品において、製造から時間が経過しても、より良好な食感の食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、アボカドと澱粉質の野菜とを含む食品の食感の劣化について検討した結果、当該野菜の澱粉由来の粘性が製造後に時間が経過すると失われていることを見出した。そして、粘性の劣化を防ぐことで、より良い食感が維持されることを見出した。
【0007】
さらに、本発明者らは、粘性の劣化を防ぐために、アボカドと澱粉質の野菜とを含む食品において、当該アボカドとして超高圧処理されたアボカドを用いることにより、粘性の低下を抑制することができるという、驚くべき知見を見出した。この知見が驚くべきものである理由は次の通りである。特許文献1は、生鮮野菜に高圧処理を施すことで、生鮮野菜の有する酵素と基質の反応を促進することが記載されている。特許文献2は、高圧処理によって生の青果物の持つ澱粉分解酵素の作用を促進させて、調味液に含まれる澱粉の分解を促進させることが記載されている。そのため、アボカド及び澱粉質の野菜を含有させる食品を製造するとき、当該野菜の澱粉由来の粘性を保持するため、当業者は、特許文献1及び2の知見から、アボカドに高圧処理を施すべきではないと考える。しかし、本発明者らは、上記の知見を見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1)アボカド、澱粉質の野菜及び調味液を含み、製造から冷蔵条件下にて20日後における常温での粘度が、前記アボカドが容器詰めされる前に高圧処理されていないアボカドであること以外は実質的に同じ組成である食品の製造から冷蔵条件下にて20日後における常温での粘度に比べて、高く、前記粘度は、容器から回収した内容物から1cm以上の長さを有する具材を取り除き、残った成分について、テクスチャーアナライザー及び直径3.5cmの円柱状プランジャーを用いて、測定速度1mm/secで、当該成分を載せた容器の底面に対して垂直となるように前記プランジャーを進入させた時の荷重である、容器詰め食品、
(2)容器詰めされる前に高圧処理されたアボカド、澱粉質の野菜及び調味液を含む、容器詰め食品、
(3)前記調味液は、有機酸及び植物性油脂を含む、(1)又は(2)に記載の容器詰め食品、
(4)前記アボカドの含有量が、10質量%以上、30質量%以下である、(1)~(3)に記載の容器詰め食品、
(5)前記澱粉質の野菜の含有量が、30質量%以上、60質量%以下である、(1)~(4)のいずれかに記載の容器詰め食品、
(6)製造から冷蔵条件下にて20日後の一般生菌数が、1×106CFU/g未満である、(1)~(5)のいずれかに記載の容器詰め食品、
(7)高圧処理されたアボカド、澱粉質の野菜及び調味液を容器に詰める容器詰め工程と、前記容器詰め工程後の容器に対して高圧処理する容器高圧処理工程と、を含む、容器詰め食品の製造方法、
(8)アボカドを高圧処理する原料高圧処理工程を含み、前記容器詰め工程で混合する、前記高圧処理されたアボカドとして、前記原料高圧処理工程で高圧処理されたアボカドを用いる、(7)に記載の容器詰め食品の製造方法、
である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、アボカドと澱粉質の野菜とを含む食品において、製造から時間が経過しても、より良好な食感を有する食品を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施例の粘度の測定結果を示す図である。
【
図2】本発明の実施例の粘度の測定結果を示す図である。
【
図3】本発明の実施例の粘度の測定結果を示す図である。
【
図4】本発明の実施例のグルコース濃度の測定結果を示す図である。
【
図5】本発明の実施例のグルコース濃度の変化量を算出した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本発明において、格別に断らない限り、単に「%」と記載されている場合は「質量%」を、「部」は「質量部」を意味する。
【0012】
<本発明の容器詰め食品の特徴>
本発明の一態様に係る容器詰め食品は、アボカド、澱粉質の野菜及び調味液を含み、製造から冷蔵条件下にて20日後の粘度が、前記アボカドが容器詰めされる前に高圧処理されていないアボカドであること以外は実質的に同じ組成である食品の製造から冷蔵条件下にて20日後の粘度に比べて、高い。
【0013】
本発明の一態様によれば、次の作用によって、アボカドと澱粉質の野菜とを含む食品において、製造から時間が経過しても当該食品の粘度が、より高い状態となる。つまり、特許文献1および2によれば、澱粉分解酵素(アミラーゼ)がアボカドの細胞外に露出されると、活性が高まると考えられる。本発明においても、アボカドが高圧処理されることによって、澱粉分解酵素が細胞外に露出される。しかし、露出された酵素の活性は失われると考えられ、アボカドが澱粉質の野菜が有する澱粉を分解することを抑制できる。
【0014】
また、本発明の一態様によれば、澱粉質の野菜に由来する粘性を長期間維持できるため、食品の品質を維持しつつ、長期に保存できる。このような効果は、例えば、国連が提唱する持続可能な開発目標(SDGs)の目標2「飢餓を終わらせ、食糧安全保障及び栄養改善を実現し、持続可能な農業を促進する」等の達成にも貢献するものである。
【0015】
<容器詰め食品>
本発明における容器詰め食品の具体的な態様は限定されない。容器詰め食品としては、例えば、ポテトサラダ等のサラダ類、フィリング類、ソース類等が挙げられる。
【0016】
<アボカド>
本発明の一態様に係る容器詰め食品が含むアボカドは、食品の種類に応じて適宜加工されていてもよい。例えば、皮、種子が取り除かれた状態であると好ましい。また、アボカドはカットされていてもよい。カットの態様としては、例えば、角切り、くし切り、ダイスカット等が挙げられる。また、カットする場合の大きさは食品の種類に応じて適宜設定すればよい。アボカドの大きさは、食べ応えの観点から、短辺が1cm以上であることが好ましく、短辺が2cm以上であることがより好ましい。また、食べ易さ及び味の染み込み易さの観点から、長辺が4cm以下であることが好ましく、長辺が3cm下であることがより好ましい。また、アボカドは、ペースト状、スライス状、半割されたもの等の形態であってもよい。
【0017】
また、本発明の一態様に係る容器詰め食品が含むアボカドは、容器詰めされる前に高圧処理されたものである。これにより、製造から20日後における常温での粘度が、当該アボカドが容器詰めされる前に高圧処理されていないアボカドであること以外は実質的に同じ組成である食品の製造から20日後における常温での粘度に比べて、高くなる。換言すれば、本発明の一態様に係る容器詰め食品は、容器詰めされる前に高圧処理されたアボカド、澱粉質の青果物及び調味液を含む、容器詰め食品であるといえる。高圧処理の詳細については後述する。
【0018】
<不可能・非実際的事情>
上述のように、本発明の一態様に係る容器詰め食品は、容器詰めされる前に高圧処理されたアボカドを含む。また、後述する本発明の一態様に係る容器詰め食品の製造方法は、容器詰めされる前に高圧処理されたアボカドを用いる。容器詰めされる前に高圧処理されたアボカドを含む容器詰め食品には、その構造又は特性によって直接特定することが不可能、またはおよそ実際的でないという事情が存在する。容器詰めされる前に高圧処理されたアボカドは、澱粉由来の粘性が低下することを抑制するという機能を有する。この機能は、高圧処理後のアボカドの構造、例えば、細胞の構造によって実現されている可能性はあるが、細胞の構造がどのような状態であれば、この機能をもたらすのかを一概に文言にて特定することは不可能である。また、この機能をもたらす細胞の構造を特定する作業は、多数且つ多様な状態のアボカドの構造及び状態(例えば、細胞の構造、高圧処理されることによって分泌される成分等)を比較検討することによって可能かもしれないが、膨大な時間とコストを要し、特許出願の性質上、迅速性等を必要とすることに鑑みてもおよそ実際的ではない。
【0019】
<アボカドの含有量>
本発明の一態様に係る容器詰め食品に含まれるアボカドの含有量は、特に限定されず、例えば、食品の種類等に応じて適宜設定すればよい。例えば、アボカドの風味、食感をより良くする観点から、アボカドの含有量は、10質量%以上であることがより好ましく、また、食品の粘度をより高くする観点から、30質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましい。
【0020】
<澱粉質の野菜>
澱粉質の野菜とは、水分を除く食品成分のうち、澱粉が主成分(最も多く含まれる成分)である野菜を指す。澱粉質の野菜としては、例えば、芋類、豆類、果菜類等が挙げられる。芋類としては、ジャガイモ、サツマイモ、サトイモ、長イモ等が挙げられる。豆類としては、ソラマメ、インゲンマメ、エンドウマメ、ひよこ豆等が挙げられる。果菜類としては、カボチャ等が挙げられる。澱粉質の野菜は、1種類であってもよく、2種類以上の組み合わせであってもよい。
【0021】
本発明の一態様に係る容器詰め食品に含まれる澱粉質の野菜の含有量は、特に限定されず、例えば、食品の種類等に応じて適宜設定すればよい。例えば、澱粉質の野菜の含有量は、食品全体の粘度をより良好なものとする観点から30質量%以上がより好ましく、また、アボカド等の他の具材の風味をより良好にする観点から、60質量%以下がより好ましく、50質量%以下であることがさらに好ましい。
【0022】
澱粉質の野菜の大きさは、野菜の種類、食品の種類等に応じて適宜設定すればよい。例えば、野菜をカットする場合、そのカット方法は適宜選択すればよく、角切りや輪切り等から選択すればよい。野菜類の大きさは、食べ応えの観点から、短辺が1cm以上であることが好ましく、短辺が2cm以上であることがより好ましい。また、食べ易さ及び味の染み込み易さの観点から、長辺が4cm以下であることが好ましく、長辺が3cm下であることがより好ましい。また、澱粉質の野菜は、ペースト状、スライス状等の形態であってもよい。
【0023】
<澱粉質の野菜以外の具材>
本発明の一態様に係る容器詰め食品は、澱粉質の野菜以外の具材を含んでもよい。澱粉質の野菜以外の具材としては、例えば、澱粉質の野菜以外の葉菜類、果菜類、根菜類及び花菜類等の野菜類、穀物類、肉類、魚類、乳製品等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0024】
葉菜類としては、例えば、キャベツ、玉ねぎ、ホウレン草、白菜、バジル、ブロッコリー、にんにく等を挙げられる。果菜類としては、例えば、トマト、ズッキーニ、コーン、ヤングコーン、りんご、バナナ、マンゴー等が挙げられる。根菜類としては、例えば、レンコン、人参、ゴボウ、生姜等が挙げられる。肉類としては、例えば、鶏肉、豚肉、牛肉等が挙げられる。魚類としては、例えば、白身魚、ツナ、サーモン、アサリ、ホタテ、イカ、エビ、タコ等が挙られる。乳製品としては、例えば、チーズ等が挙げられる。澱粉質の野菜類以外の具材は、1種類であってもよく、2種類以上の組み合わせであってもよい。
【0025】
<調味液>
本発明の一態様に係る容器詰め食品が含む調味液の種類は、特に限定されず、例えば、食品の種類等に応じて適宜選択すればよい。調味液としては、例えば、油脂、有機酸、食塩水、卵黄、糖液、ブイヨン、アミノ酸液等が挙げられる。有機酸としては、例えば、酢酸が挙げられる。油脂としては、植物性油脂、動物性油脂等が挙げられる。植物性油脂としては、例えば、菜種油、オリーブ油、ごま油、えごま油、大豆油、グレープシードオイル、コーン油、亜麻仁油、米油、綿実油、サフラワー油、落花生油、パーム分別油等が挙げられる。調味液は、1種類であってもよく、2種類以上の組み合わせであってもよく、例えば、有機酸及び植物性油脂を含んでもよく、卵黄等の乳化剤によって、有機酸及び植物性油脂のエマルジョンを含んでもよい。
【0026】
<その他の成分>
本発明の一態様に係る容器詰め食品は、これまで説明した成分以外の成分を含んでもよい。このような成分としては、例えば、着色料、着香料、増粘剤、酸化防止剤、保存料、静菌剤等が挙げられる。これらは、1種類でもよく、2種類以上を組み合わせてもよい。
【0027】
<一般生菌数>
本発明の一態様に係る容器詰め食品は、製造から冷蔵条件下にて20日後の一般生菌数は1×106CFU/g未満の範囲にあることがより好ましい。このような態様の容器詰め食品は、食用により適した状態といえる。ここで、一般生菌数は、食品衛生検査指針(2007年)に従い、容器詰め食品から採取した試料液を35℃で48時間培養したときの菌数である。なお、一般生菌数は少なければ少ない方がよいが、例えば、本発明の一態様に係る容器詰め食品の一般生菌数は1×102CFU/g以上である。
【0028】
<冷蔵条件>
本明細書において、冷蔵条件とは、一般に食品を冷蔵保存する条件をいい、例えば、1℃以上、10℃以下である。
【0029】
<粘度>
本発明の一態様に係る容器詰め食品は、製造から20日後の粘度が、前記アボカドが容器詰めされる前に高圧処理されていないアボカドであること以外は実質的に同じ組成である食品(以下、「非圧力処理食品」という。)の製造から20日後の粘度に比べて、高い。これにより、本発明の一態様に係る容器詰め食品は、製造から時間が経過してもより良好な食感を有する。
【0030】
製造から20日後における、本発明の一態様に係る容器詰め食品の粘度と、非圧力処理食品との粘度の差は、本発明の一態様に係る容器詰め食品の方が高ければよく、当該非圧力処理食品の粘度に比べて、本発明の一態様に係る容器詰め食品の粘度が10%高いことがより好ましい。
【0031】
なお、本明細書における容器詰め食品の粘度の測定方法は、次の通りである。まず、容器から内容物を回収する。回収した内容物から1cm以上の長さを有する具材を取り除く。残った調味液等の成分について、テクスチャーアナライザー及び直径3.5cmの円柱状プランジャーを用いて、測定速度1mm/secで、当該成分を載せた容器の底面に対して垂直となるように前記プランジャーを進入させた時の荷重を測定する。
【0032】
<容器>
本発明における容器詰め食品の容器としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン等の熱可塑性樹脂で製造された容器が挙げられる。容器の材質は、単層でもよく、複層でもよい。容器の形態としては、例えば、パウチ、カップ等が挙げられる。
【0033】
<本発明の容器詰め食品の製造方法の特徴>
本発明の一態様に係る容器詰め食品の製造方法は、高圧処理されたアボカド、澱粉質の野菜及び調味液を容器に詰める容器詰め工程と、前記容器詰め工程後の容器に対して高圧処理する容器高圧処理工程と、を含む。本発明の一態様によれば、澱粉質の野菜と混合される前にアボカドが高圧処理されている。これにより、アボカドの有する澱粉分解酵素の少なくとも一部がアボカドの細胞外に露出する。細胞外に露出された当該分解酵素は、活性を失う。高圧処理されたアボカドを澱粉質の野菜と混合することによって、当該野菜の澱粉が分解されることを防ぐことができる。よって、本発明の一態様に係る容器詰め食品の製造方法によれば、製造から時間が経過することによって、粘度が低下することを抑制できる。その結果、製造から時間が経過しても、より良好な食感を有する食品を提供できる。
【0034】
<容器詰め工程>
容器詰め工程は、高圧処理されたアボカド、澱粉質の野菜及び調味液を容器に詰める工程である。高圧処理されたアボカド、澱粉質の野菜及び調味液は、容器に詰める前に予め混合されていてもよく、それぞれを任意の順番で容器に詰めてもよい。容器に詰める前に予め混合する場合、混合する具体的な方法は特に限定されない。例えば、従来公知の撹拌機等を用いればよい。また、容器詰めを行なった後、常法によって密封してもよい。容器内の気体は、空気でもよく、窒素ガスで置換してもよい。また、容器詰め食品の保存性を向上させる観点から容器内の酸素を除去することが好ましく、脱気することがより好ましい。
【0035】
高圧処理されたアボカドとしては、予め高圧処理されたアボカドを用いてもよく、本発明の一態様に係る容器詰め食品の製造方法が、アボカドを高圧処理する原料高圧処理工程を含み、前記容器詰め工程で混合する、前記高圧処理されたアボカドとして、前記原料高圧処理工程で高圧処理されたアボカドを用いてもよい。
<原料高圧処理工程>
以下に、原料高圧処理工程について説明するが、容器詰め工程において予め高圧処理されたアボカドを準備して用いるときの高圧処理についても、原料高圧処理工程の説明を準用できる。アボカドを高圧処理する具体的な方法は、特に限定されず、例えば、従来公知の高圧処理用の機器を用いればよい。
【0036】
<高圧処理における圧力>
原料高圧処理工程における高圧処理の圧力は、例えば、所望する食品の粘度に応じて適宜設定すればよい。例えば、澱粉の分解能をより抑制する観点から、50MPa以上がより好ましく、400MPa以上がさらに好ましく、500MPa以上が特に好ましい。また、圧力の上限は特に制限されないが、製造効率の観点から、700MPa以下が好ましい。
【0037】
<高圧処理の時間>
原料高圧処理工程における高圧処理を行う時間は、例えば、所望する食品の粘度、圧力の大きさ等に応じて適宜設定すればよい。例えば、粘度の低下をより抑制する観点から、保持時間は、30秒以上がより好ましく、1分以上がさらに好ましく、2分以上がさらに好ましく、また、製造効率の観点から、10分以下が好ましい。また、高圧処理は、冷蔵条件下にて20日後の粘度をより高くする観点から、複数回に分けて行うことがより好ましい。例えば、高圧の保持時間が6分の場合、3分ずつ2回行うことがより好ましい。
【0038】
<高圧処理のその他の条件>
原料高圧処理工程における高圧処理を行なうときの温度は特に限定されない。例えば、0℃以上、40℃以下で行ってもよく、常温(25℃)で行ってもよい。
【0039】
<容器高圧処理工程>
容器高圧処理工程では、容器詰め工程後の容器に対して高圧処理する。容器高圧処理工程における高圧処理の態様は、原料高圧処理工程の高圧処理工程の説明を準用できるため、説明を繰り返さない。
【0040】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例0041】
本発明の一実施例について以下に説明する。
【0042】
<容器詰め食品の製造>
〔実施例1〕
アボカドをカット後、水あめと混合して、ミキサーにかけて、ペースト状にした(以下、当該ペースト状のアボカドであって、サラダの他の具材と混合される前のアボカドを「原料アボカド」という。)。原料アボカドをパウチに詰めて密封して、高圧処理装置(株式会社神戸製鋼所製、装置名Dr.CHEF)を用いて、高圧処理を行なった。圧力は600MPaとし、保持時間は1分間とした。高圧処理後、原料アボカド10質量%、ジャガイモ40質量%、ブロッコリー及びたまねぎを合わせて25質量%、マヨネーズ18質量%、ドレッシング2.0質量%、砂糖1.0質量%、キサンタンガム0.1質量%、清水3.9質量%を混合して、サラダを得た。
【0043】
なお、ジャガイモは、15mm角にダイスカットし、95℃で55分蒸した後、冷ましたものを使用した。
【0044】
次に、混合物をパウチ(140mm×170mm、ナイロンと直鎖状低密度ポリエチレンの複層)に詰めて、バキュームシーラー(株式会社古川製作所製、型式FVC-2-G)を用いて密封した。次に、高圧処理装置(株式会社神戸製鋼所製、装置名Dr.CHEF)を用いて、高圧処理を行なった。圧力は600MPaとし、保持時間は3分間とした。これにより、容器詰め食品を得た。得られた容器詰め食品について、次の評価等を行なった。結果を表1、
図1~
図3に示す。
図1~
図3は本発明の実施例の粘度の測定結果を示す図である。各図において、各例の棒の上に付した数値が、各例の粘度の測定結果である。
【0045】
<粘度の測定>
製造から冷蔵条件下(10℃)で20日保管した後の粘度を測定した。具体的な測定方法は次の通りである。まず、容器から内容物を回収した。次に回収した内容物から1cm以上の長さを有する具材を取り除いた。残った調味液等の成分について、テクスチャーアナライザー(Stable Micro Systems製、Text ure Analyzer TA. XT. Plus)及び直径3.5cmの円柱状プランジャーを用いて、測定速度1mm/secで、当該成分を載せた容器の底面に対して垂直となるように前記プランジャーを進入させた時の荷重を測定した。
【0046】
<一般生菌数>
一般生菌数は、厚生労働省監修の食品衛生検査指針(微生物編、116~123頁、2004年:発行所:社団法人日本食品衛生協会、発行人;玉木武)に準拠して測定した。
【0047】
<官能評価>
製造から20日後の容器詰め食品について官能評価を行なった。官能評価では、訓練されたパネラーが喫食して、次の評価基準に基づいて評価した。
【0048】
2:口当たりが良好である。
1:口当たりが優れない。
0:口当たりが悪い。
【0049】
【0050】
〔実施例2~13、比較例1〕
表1に示す条件以外は実施例1と同じ操作を行ない、実施例2~13及び比較例1の容器詰め食品を得た。実施例3では、原料アボカドに対する高圧処理を表1に示す条件で2回行なった。つまり、圧力600MPa、保持時間3分間で一度高圧処理を行なった後、容器詰め食品に加わる圧力を大気圧に戻し、その後、圧力600MPa、保持時間3分間で高圧処理を行なった。実施例7では、装置に対して圧力700Mpaとする設定をしたが、実際に加わった圧力は680Mpaであった。
【0051】
また、原料アボカドに対する高圧処理の保持時間の比較のために実施例2~4、原料アボカドに対する圧力の比較のために実施例5~8、容器詰め後の高圧処理の圧力の比較のために実施例9~13の容器詰め食品を製造した。製造した容器詰め食品について、実施例1と同じ評価を行なった。実施例2と実施例7と実施例12とは、同じ条件となるが、それぞれの比較のために製造し直したため、後述の通り、若干結果が異なるが、ほぼ同様の結果であった。また、混合物をパウチに詰めた後の高圧処理の圧力を400MPa以上とした実施例1~8、11~13では、製造から冷蔵条件下にて20日後の一般生菌数が、1×106CFU/g未満であったことが確認できた。
【0052】
表1及び
図1~
図3に示されるように、実施例1~13から、アボカド、澱粉質の野菜及び調味液を含み、製造から冷蔵条件下にて20日後の一般生菌数が、1×10
6CFU/g未満であり、製造から20日後における常温での粘度が、前記アボカドが容器詰めされる前に高圧処理されていないアボカドであること以外は実質的に同じ組成である食品(比較例1)の製造から20日後における常温での粘度に比べて高いことによって、口当たりが良好な容器詰め食品が得られることが示された。また、容器詰め食品が、容器詰めされる前に高圧処理されたアボカド、澱粉質の野菜及び調味液を含むことによって、食品の粘度の低下が抑制されること、また、これによって、口当たりが良好であることが示された。また、容器詰め食品の製造方法が、高圧処理されたアボカド、澱粉質の野菜及び調味液を容器に詰める容器詰め工程と、前記容器詰め工程後の容器に対して高圧処理する容器高圧処理工程と、を含むことによって、食品の粘度の低下が抑制された容器詰め食品を得られること、また、これによって、口当たりが良好な容器詰め食品が得られることが示された。また、
図1に示すように、原料アボカドの圧力処理は、保持時間が長いほど粘度が高くなる傾向にあることが示された。また、実施例3及び4から、合計の保持時間が同じ場合、複数回に分けて圧力を加えることによって、粘度がより高くなることが示された。
図2に示すように、原料アボカドに加える圧力は高い方が、粘度が高くなることが示された。
【0053】
〔グルコース濃度の測定〕
実施例2、実施例3、比較例1、比較例2について、製造直後、製造から冷蔵条件下(10℃)で9日後、20日後のグルコース濃度を測定した。澱粉が分解されるとグルコースが生成する。グルコースの量を調べることで、澱粉がどの程度分解されたかを確認することができる。なお、比較例2は、高圧処理の保持時間を6分間にした以外は比較例1と同じ操作を行なって得た容器詰め食品である。
【0054】
グルコース濃度の測定は次の通り行なった。まず、容器から内容物を回収した。次に回収した内容物から1cm以上の長さを有する具材を取り除いた。残った調味液等の成分について、超純水を用いて50倍希釈を行い、ろ紙(アドバンテック東洋株式会社製、定性ろ紙 No.2)を用いてろ液を得た。ろ液の成分について、バイオセンサー(王子計測機器株式会社製、BF-9)及びグルコース電極を用いて、グルコース濃度を測定した。
【0055】
結果を
図4及び
図5に示す。
図4は、グルコース濃度の測定結果を示しており、
図5は、グルコースの変化量を示す。グルコースの変化量は、製造から冷蔵条件下(10℃)で20日後のグルコース濃度と製造直後のグルコース濃度との差である。
図4から、本発明によれば、グルコースの濃度の上昇を、比較例に比べて、約13%抑えることができていることが分かる。つまり、製造から20日後のグルコース濃度について、実施例の13.3~13.4g/Lは、比較例の15.1~15.4g/Lに比べて約2g/L低い。約2g/Lは、比較例の値の約13%である。また、
図5に示すように、本発明によれば、グルコースの変化量を、比較例に比べて、約19%抑えることができていることが分かる。つまり、製造から20日後のグルコース変化量について、実施例の8.0~8.1は、比較例の10.0~10.2に比べて約2低い。約2は、比較例の値の約19%である。以上のことから、本発明によれば、高圧処理されたアボカドを使用することにより、澱粉質の野菜由来の澱粉が分解されて、粘度が低下することを抑制できたことが示された。