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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024095357
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】光学ガラスおよび紫外線発光装置
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/068 20060101AFI20240703BHJP
   C03C 3/15 20060101ALI20240703BHJP
   C03C 3/155 20060101ALI20240703BHJP
   H01L 33/58 20100101ALI20240703BHJP
【FI】
C03C3/068
C03C3/15
C03C3/155
H01L33/58
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022212585
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】白井 大地
(72)【発明者】
【氏名】白鳥 誠
【テーマコード(参考)】
4G062
5F142
【Fターム(参考)】
4G062AA04
4G062BB01
4G062BB08
4G062CC10
4G062DA01
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4G062DA03
4G062DA04
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4G062EE01
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4G062HH20
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4G062KK01
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4G062MM02
4G062NN02
4G062NN03
4G062NN16
4G062NN30
5F142DB12
5F142GA31
(57)【要約】
【課題】紫外線透過率に優れ、低熱膨張であり、かつ高屈折率である光学ガラスを提供することを目的とする。
【解決手段】厚み1.0mmに換算したときの、波長270nmにおける光の透過率が50%以上であり、50~400℃の範囲における平均熱膨張係数が4.4~7.2ppm/℃であり、屈折率ndが1.55以上であり、アッベ数νdが50~60である、光学ガラス。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚み1.0mmに換算したときの、波長270nmにおける光の透過率が50%以上であり、
50~400℃の範囲における平均熱膨張係数が4.4~7.2ppm/℃であり、
屈折率ndが1.55以上であり、
アッベ数νdが50~60である、光学ガラス。
【請求項2】
酸化物基準のモル%表示で、
:40~80%、
SiO:0~25%、
Al:0~30%、
La:3~27%、
ZrO:0~10%、
+SiO+Al:73%以上、
La+ZrO:8%以上
を含有する、請求項1に記載の光学ガラス。
【請求項3】
Bi、TiO、WO、Nb、V、CeO、Tb3、MoO、In、GeO、Eu及びPbOのいずれも実質的に含有しない、請求項1または2に記載の光学ガラス。
【請求項4】
アルカリ金属酸化物を実質的に含有しない、請求項1または2に記載の光学ガラス。
【請求項5】
アルカリ土類金属酸化物およびZnOを実質的に含有しない、請求項1または2に記載の光学ガラス。
【請求項6】
Feの含有量が5質量ppm以下である、請求項1または2に記載の光学ガラス。
【請求項7】
ソラリゼーション評価での波長450nmにおける分光透過率の劣化量が3%以下である、請求項1または2に記載の光学ガラス。
【請求項8】
ガラス転移温度が600℃以上である、請求項1または2に記載の光学ガラス。
【請求項9】
基板と、前記基板の一方の主面に備えられる請求項1または2に記載の光学ガラスと、前記基板のもう一方の主面に備えられる発光層と、を含む紫外線発光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学ガラスおよび紫外線発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、紫外線発光装置における光源として、環境保全等の観点から、従来の水銀ランプに代えて、半導体発光素子の紫外線LED素子(発光ダイオード素子)が注目されている。特に発光波長200nm~280nm程度の深紫外LED素子は、例えば、ウイルスや病原菌の殺菌などに利用できる。
【0003】
紫外線LED素子の基板には、サファイアまたは窒化アルミニウムが用いられ、窒化アルミニウム基板はサファイア基板よりも低波長の光を高出力で取り出すことが可能である。
【0004】
紫外線LED素子は、LED素子の発光層で発生した光がLED素子の内部にて反射することにより損失が発生するため、LED素子の外部への光の取出し効率が低いことがあげられる。これに対して、特許文献1では、半導体発光素子上に樹脂層を介して無機ガラスを設ける技術が開示されている。
【0005】
LED素子上に光学ガラスを設ける場合には、光の取出し効率を向上させる観点から、優れた紫外透過性および基板と近い屈折率を有し、また継続使用による剥がれを抑制する耐久性の観点から基板と近い熱膨張を有するガラスが必要となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2022-117119号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、熱膨張と屈折率はトレードオフの関係であるため、低熱膨張と高屈折率を両立させることは技術的な難易度が高く、加えて優れた紫外透過性を示すガラスを実現することは困難であった。
【0008】
また、特許文献1に記載の技術では、無機ガラスの屈折率がサファイア基板に近い1.74であるが、熱膨張係数については言及されていない。
【0009】
本発明は、このような背景に基づいてなされたものであり、紫外線透過率に優れ、高屈折率であり、かつ低熱膨張である光学ガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下の構成を有する光学ガラス、および該光学ガラスを備える紫外線発光装置を提供する。
[1]厚み1.0mmに換算したときの、波長270nmにおける光の透過率が50%以上であり、
50~400℃の範囲における平均熱膨張係数が4.4~7.2ppm/℃であり、
屈折率ndが1.55以上であり、
アッベ数νdが50~60である、光学ガラス。
[2]酸化物基準のモル%表示で、
:40~80%、
SiO:0~25%、
Al:0~30%、
La:3~27%、
ZrO:0~10%、
+SiO+Al:73%以上、
La+ZrO:8%以上
を含有する、[1]に記載の光学ガラス。
[3]Bi、TiO、WO、Nb、V、CeO、Tb、MoO、In、GeO、Eu及びPbOのいずれも実質的に含有しない、[1]または[2]に記載の光学ガラス。
[4]アルカリ金属酸化物を実質的に含有しない、[1]または[2]に記載の光学ガラス。
[5]アルカリ土類金属酸化物およびZnOを実質的に含有しない、[1]または[2]に記載の光学ガラス。
[6]Feの含有量が5質量ppm以下である、[1]または[2]に記載の光学ガラス。
[7]ソラリゼーション評価での波長450nmにおける分光透過率の劣化量が3%以下である、[1]または[2]に記載の光学ガラス。
[8]ガラス転移温度が600℃以上である、[1]または[2]に記載の光学ガラス。
[9]基板と、前記基板の一方の主面に備えられる[1]または[2]に記載の光学ガラスと、前記基板のもう一方の主面に備えられる発光層と、を含む紫外線発光装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、紫外線透過率に優れ、高屈折率であり、かつ低熱膨張である光学ガラスを提供できる。また、該光学ガラスを備える紫外線発光装置を提供できる。
本発明の光学ガラスは、上記の特性を有するため、窒化アルミニウム基板を有する紫外線発光装置にも好適に用い得る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、Feの含有量と、厚さ1.0mmのガラスにおける波長270nmの光の透過率との関係を示すグラフである。
図2図2は、本発明の一実施形態に係る紫外線発光装置の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
また、数値範囲を示す「~」とは、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0014】
<光学ガラス>
本実施形態の光学ガラスは、厚み1.0mmに換算したときの、波長270nmにおける光の透過率が50%以上である。波長270nmにおける光の透過率が50%以上であることで、紫外領域、特に深紫外領域の波長の光に対して優れた透過性を示す。波長270nmにおける光の透過率は、60%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、75%以上がさらに好ましく、80%以上が特に好ましい。また、波長270nmにおける光の透過率の上限は特に限定されないが、例えば、88%以下である。
【0015】
なお、透過率は紫外可視分光光度計によって測定できる。
【0016】
本実施形態の光学ガラスは、50~400℃の範囲における平均熱膨張係数が4.4~7.2ppm/℃である。50~400℃の範囲における平均熱膨張係数が上記範囲内であれば、本実施形態の光学ガラスを紫外線発光装置に用いた時に、光学ガラスとLED素子との接合面における剥がれを抑制でき、継続使用時における耐久性を向上できる。特に、基板が窒化アルミニウムである紫外線発光装置に対しても好適に用い得る。50~400℃の範囲における平均熱膨張係数は、下限値については、4.6ppm/℃以上が好ましい。また、上限値については、7.0ppm/℃以下が好ましく、6.5ppm/℃以下がより好ましく、6.3ppm/℃以下がさらに好ましい。
【0017】
平均熱膨張係数は、示差熱膨張計(例えば、Rigaku製、Thermo plus EVO2)を用いて測定できる。
【0018】
本実施形態の光学ガラスは、屈折率ndが1.55以上である。光学ガラスの屈折率ndを紫外線発光装置の基板の屈折率に近づけることで、本実施形態の光学ガラスを紫外線発光装置に用いた時に、LED素子から発光した光がLED素子の内部で反射することによる損失の発生を抑制できる。
本実施形態においては、光学ガラスの屈折率ndが1.55以上であれば、例えば、窒化アルミニウム基板(屈折率:1.9~2.2)を備える紫外線発光装置に用いる場合であっても、上記損失の発生を十分に抑制でき、光の取り出し効率が向上する。屈折率ndは1.60以上がより好ましく、1.65以上がさらに好ましい。また、屈折率ndの上限は、通常2.00以下である。
屈折率ndは、屈折率計を用いて測定でき、詳しくは後述する実施例に記載の方法にて測定できる。
【0019】
本実施形態の光学ガラスは、アッベ数νdが50~60である。アッベ数νdを50~60とすることで、光の分散が抑えられ、光を均一な出力で取り出すことができる。アッベ数νdは、51以上が好ましく、53以上がより好ましい。アッベ数νdは、58以下が好ましく、57以下がより好ましい。
アッベ数νdは、屈折率計を用いて測定でき、詳しくは後述する実施例に記載の方法にて測定できる。
【0020】
本実施形態の光学ガラスの、ソラリゼーション評価での波長450nmにおける分光透過率の劣化量は、3%以下であることが好ましい。分光透過率の劣化量が3%以下であることにより、長期使用においても安定した光の取り出し効率を維持できる。分光透過率の劣化量は、より好ましくは2%以下、さらに好ましくは1.5%以下である。
なお、本明細書において「ソラリゼーション評価での波長450nmにおける分光透過率の劣化量」とは、ガラスに紫外線を照射した場合の450nmにおける分光透過率の劣化量を表す。具体的には、両面研磨した厚さ1mmの光学ガラスを400Wの高圧水銀ランプから20cmの位置に対向配置し、120時間照射した前後の透過率をそれぞれ測定して求められる。
【0021】
本実施形態の光学ガラスのガラス転移温度は、600℃以上であることが好ましい。ガラス転移温度が600℃以上であれば、LED基板とレンズ加熱接合時にレンズに歪みを生じさせることなく接合できる。ガラス転移温度の上限は特に限定されないが、例えば、800℃以下である。
【0022】
また、本実施形態の光学ガラスの形状は特に限定されないが、例えば板状、レンズ、レンズアレイ、回折格子、回折光学素子、グレーティングセルズアレイが挙げられる。特に、本実施形態の光学ガラスを紫外線発光装置に用いる場合は、光学ガラスの形状は、球状や半球状、非球面の凸レンズ形状であることが好ましく、半球状がより好ましい。
【0023】
(ガラス組成)
次に、本発明の光学ガラスが含有し得る各成分の組成範囲の一実施形態について詳細に説明する。なお、各成分の組成範囲について、%またはppmと記載する場合、特にことわりがない限りは、それぞれ酸化物基準のモル%、質量ppmを意味する。また、各成分について「実質的に含有しない」とは、原料等から混入する不可避的不純物以外には含有しないこと、すなわち、意図的に含有させないことを意味する。
【0024】
本実施形態の光学ガラスにおける上記特性を満たす組成としては、例えば、酸化物基準のモル%表示で、
:40~80%、
SiO:0~25%、
Al:0~30%、
La:3~27%、
ZrO:0~10%、
+SiO+Al:73%以上、
La+ZrO:8%以上
を含有する。
【0025】
はガラスの網目構造を形成する成分である。本実施形態の光学ガラスは、Bを40~80%含有することが好ましい。Bの含有量が40%以上であれば、ガラスが安定化し、さらに平均熱膨張係数が大きくなることを抑制できる。Bの含有量は、より好ましくは45%以上である。また、Bの含有量が80%以下であれば、ガラスの失透を抑制できる。Bの含有量は、より好ましくは75%以下であり、さらに好ましくは70%以下であり、特に好ましくは65%以下であり、最も好ましくは60%以下である。
【0026】
SiOはガラスの網目構造を形成する成分である。そのため、本実施形態の光学ガラスは、SiOを0~25%含有することが好ましい。SiOを含有することで、ガラスが安定化し、さらに平均熱膨張係数が大きくなることを抑制できる。SiOを含有する場合、その含有量は、好ましくは5%以上であり、より好ましくは10%以上であり、さらに好ましくは13%以上である。また、SiOの含有量が25%以下であれば、屈折率の低下を抑制し、さらにガラスの溶解温度を下げることができる。SiOの含有量は、より好ましくは20%以下であり、さらに好ましくは15%以下である。
【0027】
Alはガラスの網目構造を形成する成分である。そのため、本実施形態の光学ガラスは、Alを0~30%含有することが好ましい。Alを含有することで、ガラスが安定化し、さらに平均熱膨張係数が大きくなることを抑制できる。加えて、ガラスの化学的耐久性を向上させる。Alを含有する場合、その含有量は、好ましくは5%以上であり、より好ましくは10%以上であり、さらに好ましくは15%以上であり、特に好ましくは20%以上であり、最も好ましくは25%以上である。また、Alの含有量が30%以下であれば、ガラスが失透することを抑制できる
【0028】
Laは、ガラスの屈折率を増大させ、平均熱膨張係数を増大させる成分である。そのため、本実施形態の光学ガラスは、Laを3~27%含有することが好ましい。Laの含有量が3%以上であれば、ガラスの屈折率を増大できる。Laの含有量は、より好ましくは5%以上であり、さらに好ましくは8%以上であり、特に好ましくは10%以上である。また、Laの含有量が27%以下であれば、平均熱膨張係数が大きくなりすぎることを抑制できる。Laの含有量は、より好ましくは24%以下であり、さらに好ましくは20%以下である。
【0029】
ZrOは、ガラスの平均熱膨張係数を抑えつつ、屈折率を増大させる成分である。そのため、本実施形態の光学ガラスは、ZrOを0~10%含有することが好ましい。ZrOを含有する場合、その含有量は、好ましくは2%以上であり、より好ましくは5%以上である。また、ZrOの含有量が10%以下であれば、ガラスの失透を抑制できる。ZrOの含有量は、より好ましくは8.5%以下、さらに好ましくは7%以下である。
【0030】
また、本実施形態の光学ガラスは、B、SiOおよびAlの含有量の合計(B+SiO+Al)が73%以上であることが好ましい。B+SiO+Alが73%以上であることにより、平均熱膨張係数が大きくなりすぎることを抑制できる。B+SiO+Alは75%以上がより好ましく、76%以上がさらに好ましく、78%以上が特に好ましく、80%以上が最も好ましい。また、ガラスの失透を抑制する観点から、B+SiO+Alは95%以下が好ましく、92%以下がより好ましく、90%以下が特に好ましい。
【0031】
本実施形態の光学ガラスは、LaおよびZrOの含有量の合計(La+ZrO)が8%以上であることが好ましい。La+ZrOが8%以上であることにより、ガラスの屈折率を十分に大きくできる。La+ZrOは10%以上がより好ましく、15%以上がさらに好ましく、17%以上が特に好ましい。また、失透性の観点から、La+ZrOは25%以下が好ましく、20%以下がより好ましい。
【0032】
また、本実施形態の光学ガラスは、Yを0~5%含有することが好ましい。Yは、平均熱膨張係数を増加させるが、屈折率を増大させる成分である。Yを含有する場合、その含有量は、より好ましくは3%以下である。
【0033】
本実施形態の光学ガラスは、Taを0~10%含有することが好ましい。Taは、紫外線を吸収するが、平均熱膨張係数の増加を抑制する成分であるため、紫外透過性に影響がない範囲で添加することができる。Taを含有する場合、その含有量は、好ましくは5%以下であり、より好ましくは2.5%以下ある。
【0034】
本実施形態の光学ガラスは、HfOを0~20%含有することが好ましい。HfOは、紫外線を吸収するが、屈折率を増大させる成分であるため、紫外透過性に影響がない範囲で添加することができる。HfOを含有する場合、その含有量は、より好ましくは7%以下であり、さらに好ましくは5%以下である。
【0035】
本実施形態の光学ガラスは、La3、ZrO、Y、TaおよびHfOの含有量の合計(La+ZrO+Y+Ta+HfO)が8%以上であることが好ましい。La+ZrO+Y+Ta+HfOが8%以上であることにより、ガラスの屈折率を十分に大きくできる。La+ZrO+Y+Ta+HfOは10%以上がより好ましく、13%以上がさらに好ましく、15%以上が特に好ましい。また、失透性の観点から、La+ZrO+Y+Ta+HfOは25%以下が好ましい。
【0036】
本実施形態の光学ガラスは、Ptを100ppm以下含有してもよい。Ptはガラスの紫外線透過率を低下させる作用があるが、Ptの含有量が100ppm以下であれば、紫外線透過率の低下を十分に抑制できる。Ptの含有量は80ppm以下がより好ましく、60ppm以下がさらに好ましく、40ppm以下が特に好ましく、20ppm以下が最も好ましい。
Ptの含有量は、ICP質量分析法にて分析できる。
【0037】
本実施形態のガラスはFeを5ppm以下含有してもよい。Feはガラスの紫外線透過率を低下させる作用があり、図1に示すように、Feの含有量の増加に伴い、光学ガラスの厚み1.0mmに換算したときの波長270nmの光の透過率が低下する。しかしながら、ガラス原料や製造プロセスから、Feの混入を完全に回避することは困難である。本実施形態の光学ガラスにおいて、Feの含有量が5ppm以下であれば、紫外線透過率の低下を十分に抑制できる。Feの含有量は3ppm以下がより好ましく、2ppm以下がさらに好ましく、1ppm以下が特に好ましい。なお、ガラス中において鉄成分は、Fe3+又はFe2+の価数となってガラス中に存在するが、本明細書においてFeとは、ガラス中に含まれている鉄成分をFeとして算出した全鉄含有量である。
Feの含有量は、光学ガラスの原料として高純度原料を使用する、プラスチック製の保存容器・治具にて原料を管理することで低減できる。
Feの含有量は、ICP質量分析法にて分析できる。
【0038】
本実施形態の光学ガラスは、SnOまたはSnO、もしくはその両方を含有してもよい。SnOおよびSnOは還元剤として作用し、紫外領域の光を吸収するFe3+量を制御でき、紫外線透過率を向上できる。SnOおよびSnOの含有量の合計は、上記したガラス組成を100%としたときに、外割りで3%以下が好ましく、1%以下がより好ましく、0.5%以下が特に好ましい。Fe3+量の制御は、原料に還元剤(例えば、SnOやSnOなど)を添加してガラス融液の酸化還元度を制御する、原料の溶解を還元雰囲気下(例えば窒素雰囲気下)にて行う、などにより調整できる。
【0039】
本実施形態の光学ガラスは、任意成分として上記以外の成分(以下、「その他の成分」ともいう)を1%を超えない範囲で含んでいてもよい。その他の成分としては、清澄剤の添加で含有し得るものなどであり、例えば、SO、Clなどが挙げられる。その他の成分の含有量の合計は、紫外線吸収の観点から、好ましくは0.3%以下である。
【0040】
本実施形態の光学ガラスは、紫外領域の光を吸収する成分を含有しないことが好ましい。具体的には、本実施形態の光学ガラスは、Bi、TiO、WO、Nb、V、CeO、Tb、MoO、In、GeO、Eu及びPbOのいずれも実質的に含有しないことが好ましい。本実施形態において上記の成分のいずれも実質的に含有しないとは、例えば、上記成分の含有量の合計が、0.1%以下であることを意味する。
【0041】
本実施形態の光学ガラスは、アルカリ金属酸化物を実質的に含有しないことが好ましい。ここで、アルカリ金属酸化物とは、LiO、NaO、KO、RbO、およびCsOの5つを意味する。本実施形態の光学ガラスは、アルカリ金属酸化物を実質的に含有しないことで、平均熱膨張係数の増加を抑制できる。本実施形態においてアルカリ金属酸化物を実質的に含有しないとは、例えば、アルカリ金属酸化物の含有量の合計(LiO、NaO、KO、RbO、およびCsOの含有量の合計)が、0.1%以下であることを意味する。
【0042】
本実施形態の光学ガラスは、アルカリ土類金属酸化物およびZnOを実質的に含有しないことが好ましい。ここで、アルカリ土類金属酸化物とは、MgO、CaO、SrO、およびBaOの4つを意味する。本実施形態の光学ガラスは、アルカリ土類金属酸化物およびZnOを実質的に含有しないことで、平均熱膨張係数の増加を抑制できる。本実施形態においてアルカリ土類金属酸化物およびZnOを実質的に含有しないとは、例えば、アルカリ土類金属酸化物およびZnOの含有量の合計(MgO、CaO、SrO、BaO、およびZnOの含有量の合計)が、0.1%以下であることを意味する。
【0043】
<光学ガラスの製造方法>
本実施形態の光学ガラスは、例えば、溶融急冷法によって作製できる。溶融急冷法とは、原料を加熱することで溶融状態とし、その後、急冷することで非晶質ガラスを得る方法である。具体的には例えば、以下の工程を含む。まず上記組成範囲になるように原料を秤量、混合する(混合工程)。この原料混合物を白金ルツボに収容し、電気炉内において1300~1400℃の温度で加熱し、原料を溶解する(溶解工程)。十分に撹拌・清澄した後、金型内に鋳込み、所定の形状に成形する(成形工程)。
【0044】
上記溶解工程において、原料を1400℃以下で加熱することが好ましい。加熱の温度が1400℃以下であれば、白金ルツボからの白金の溶出を抑制できる。また、均質化の観点から、加熱する温度は、1200℃以上が好ましい。また、加熱時間は、特に制限されないが、白金の溶出を抑制する観点から、例えば1~120時間の範囲内であることが好ましい。
原料の加熱方法としては、例えば電気炉を用いる方法が挙げられる。
【0045】
また、光学ガラス中にFeが含まれる場合、Feはガラス中でFe2+もしくはFe3+として存在する。Fe2+は波長800~1400nmの光を吸収するが、Fe3+は波長200~300nmの光を吸収する。したがって、紫外線透過率を向上させる観点から、ガラス中においてFeはFe2+の状態で存在することが好ましい。よって、溶解工程は還元雰囲気下で行うことが好ましい。還元雰囲気としては、具体的には窒素雰囲気が挙げられる。
【0046】
<用途>
本実施形態の光学ガラスは、発光層を備える紫外線発光装置に用いられることが好ましい。紫外線発光装置10の構成としては、例えば、図1に示すように、基板2と、前記基板2の一方の主面に備えられる本実施形態の光学ガラス1と、前記基板2のもう一方の主面に備えられる発光層3と、を有する。
【0047】
発光層としては、例えば、波長域250~400nmにピーク波長を有する半導体発光素子の紫外線LED素子が挙げられる。
また、基板としては、例えば、窒化アルミニウム基板、サファイア基板が挙げられる。中でも、低波長の光を高出力で取り出すことが可能である点から、窒化アルミニウム基板が好ましい。
基板の平均熱膨張係数は、例えば4.5~7.0ppm/℃である。また、基板の屈折率ndは、例えば1.76~2.2である。本実施形態の光学ガラスは、基板の発光層が設けられていない主面に接合される。
【0048】
基板に本実施形態の光学ガラスを接合する場合、本実施形態の光学ガラスは半球レンズ等の形状であることが好ましい。半球レンズの形状であることで、発光素子から放出される光が光学ガラスを通り紫外線発光装置外へ出射される。本実施形態の光学ガラスは、優れた紫外線透過率を有し、屈折率が大きいため、発光層から放出される光の損失が抑えられ、光の取出し効率が向上する。さらに窒化アルミニウム基板に近い熱膨張係数を有するため、継続使用におけるレンズの剥がれを抑制できる。
【0049】
また、紫外線発光装置は、上記した光学ガラス、基板(第1基板とする)、及び発光層に加え、コンタクト層、第2基板等を備えていてもよい。例えば、紫外線発光装置は、第2基板、コンタクト層、発光層、第1基板、本実施形態の光学ガラスをこの順に積層して形成される。
【0050】
以上説明したように、本明細書には以下の構成が開示されている。
<1>厚み1.0mmに換算したときの、波長270nmにおける光の透過率が50%以上であり、
50~400℃の範囲における平均熱膨張係数が4.4~7.2ppm/℃であり、
屈折率ndが1.55以上であり、
アッベ数νdが50~60である、光学ガラス。
<2>酸化物基準のモル%表示で、
:40~80%、
SiO:0~25%、
Al:0~30%、
La:3~27%、
ZrO:0~10%、
+SiO+Al:73%以上、
La+ZrO:8%以上
を含有する、<1>に記載の光学ガラス。
<3>Bi、TiO、WO、Nb、V、CeO、Tb、MoO、In、GeO、Eu2及びPbOのいずれも実質的に含有しない、<1>または<2>に記載の光学ガラス。
<4>アルカリ金属酸化物を実質的に含有しない、<1>~<3>のいずれか1つに記載の光学ガラス。
<5>アルカリ土類金属酸化物およびZnOを実質的に含有しない、<1>~<4>のいずれか1つに記載の光学ガラス。
<6>Feの含有量が5質量ppm以下である、<1>~<5>のいずれか1つに記載の光学ガラス。
<7>ソラリゼーション評価での波長450nmにおける分光透過率の劣化量が3%以下である、<1>~<6>のいずれか1つに記載の光学ガラス。
<8>ガラス転移温度が600℃以上である、<1>~<7>のいずれか1つに記載の光学ガラス。
<9>基板と、前記基板の一方の主面に備えられる<1>~<8>のいずれか1つに記載の光学ガラスと、前記基板のもう一方の主面に備えられる発光層と、を含む紫外線発光装置。
【実施例0051】
以下、実施例について説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
なお、以下の例において、例1~23は実施例、例24~28は比較例である。
【0052】
[光学ガラスの作製]
表1、2に示す化学組成(酸化物基準のモル%)となるように原料を秤量した。原料は、いずれも、各成分の原料として各々相当する酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、フッ化物、水酸化物、メタリン酸化合物等の通常の光学ガラスに使用される高純度原料を選定して使用した。
なお、表中のSnOの値は、SnOを除いた成分の合計100モル%に対して外割りで添加した量(モル%)である。
【0053】
秤量した原料を均一に混合し、内容積約300mLの白金ルツボ内に入れて、電気炉内で、約1400℃で約2時間溶融、清澄、撹拌後、縦50mm×横100mmの長方形のモールドに鋳込み後、約1℃/分で徐冷して厚み30mmのサンプルとした。
なお、電気炉内の雰囲気(溶解雰囲気)は、表1に示す通り、大気雰囲気または窒素(N)雰囲気とした。
【0054】
上記で得られた各サンプルについて、下記の評価を行い、結果を下記表1~2に示した。なお、表中の空欄は未測定を示す。また、表中の[-]はガラスが失透したため未測定であることを示す。
【0055】
<透過率>
分光光度計(日本分光社製、V-570)を用いて波長300~2500nmの透過率を測定し、厚み1.0mmの値となるように換算を行った。換算された透過率から、波長270nmの光の透過率を求めた。
【0056】
<平均熱膨張係数(CTE)>
ガラスを一辺が5mm、高さが20mmの角柱形状に加工し、示差熱膨張計(Rigaku製、Thermo plus EVO2)を用いて昇温速度10℃/minにて50~400℃の範囲における熱膨張係数を測定した。
【0057】
<ガラス転移温度(Tg)>
ガラスを一辺が5mm、高さが20mmの角柱形状に加工し、示差熱膨張計(Rigaku製、Thermo plus EVO2)を用いて昇温速度10℃/minにて測定した値(℃)とした。
【0058】
<屈折率(nd)>
ガラスを一辺が30mm、厚さが10mmの四角形状プリズムに加工し、屈折率計(Kalnew社製、機器名:KPR-2000)により測定した。
【0059】
<アッベ数(νd)>
上記屈折率測定に使用したサンプルを用いて、νd=(nd-1)/(nF-nC)により算出した。ndはヘリウムd線、nFは水素F線、およびnCは水素C線に対する屈折率である。これらの屈折率も上記した屈折率計を使用して測定した。
【0060】
<ソラリゼーション評価>
両面研磨して厚さ1mmのガラス板とし、400Wの高圧水銀ランプから20cmの位置に対向配置し、120時間照射した前後の透過率をそれぞれ測定した際の分光透過率の劣化量を測定した。
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
【0063】
実施例である例1~例23の光学ガラスは、比較例である例24~28と比して、紫外線透過率に優れ、低熱膨張であり、かつ高屈折率であることがわかった。
一方、比較例である例24、25は光学ガラスが失透したため、測定ができなかった。また、比較例である例26は、波長270nmにおける透過率が50%未満であった。また比較例である例27は、平均熱膨張係数が7.2ppm/℃超であり、さらに、アッベ数が50未満であった。また、比較例である例27は、平均熱膨張係数が4.4ppm/℃未満であり、屈折率が1.55未満であり、さらに、アッベ数が60超であった。
図1
図2