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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024095390
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】金属加工油組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/04 20060101AFI20240703BHJP
   C10M 135/06 20060101ALN20240703BHJP
   C10M 159/22 20060101ALN20240703BHJP
   C10M 159/24 20060101ALN20240703BHJP
   C10M 129/10 20060101ALN20240703BHJP
   C10M 129/54 20060101ALN20240703BHJP
   C10M 135/10 20060101ALN20240703BHJP
   C10N 10/04 20060101ALN20240703BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20240703BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20240703BHJP
   C10N 40/24 20060101ALN20240703BHJP
   C10N 40/20 20060101ALN20240703BHJP
【FI】
C10M169/04
C10M135/06
C10M159/22
C10M159/24
C10M129/10
C10M129/54
C10M135/10
C10N10:04
C10N30:00 Z
C10N30:06
C10N40:24
C10N40:20 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022212663
(22)【出願日】2022-12-28
(71)【出願人】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 彰悟
(72)【発明者】
【氏名】谷野 順英
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BA02A
4H104BB05C
4H104BB24C
4H104BB31A
4H104BG04C
4H104BG06C
4H104DA02A
4H104DB06C
4H104DB07C
4H104EB09
4H104EB13
4H104FA02
4H104LA03
4H104LA20
(57)【要約】
【課題】動粘度が一定値以下に低く調整されつつも、極圧性に優れるとともに、油煙の発生の抑制性能に優れる金属加工油組成物を提供する。
【解決手段】基油(A)と、硫黄系極圧剤(B)と、塩基価が300mgKOH/g以上であるカルシウム系清浄剤(C)とを含有し、下記要件(1)、(2)、(3)、及び(4)を満たす、金属加工油組成物とした。
・要件(1):クリーブランド開放式測定法による引火点が260℃以上である。
・要件(2):前記硫黄系極圧剤(B)由来の硫黄含有量が、前記金属加工油組成物の全量基準で、0.45質量%以上である。
・要件(3):カルシウム含有量が、前記金属加工油組成物の全量基準で、1.0質量%以上である。
・要件(4):40℃における動粘度が150mm/s以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油(A)と、硫黄系極圧剤(B)と、塩基価が300mgKOH/g以上であるカルシウム系清浄剤(C)とを含有し、下記要件(1)、(2)、(3)、及び(4)を満たす、金属加工油組成物。
・要件(1):クリーブランド開放式測定法による引火点が260℃以上である。
・要件(2):前記硫黄系極圧剤(B)由来の硫黄含有量が、前記金属加工油組成物の全量基準で、0.45質量%以上である。
・要件(3):カルシウム含有量が、前記金属加工油組成物の全量基準で、1.0質量%以上である。
・要件(4):40℃における動粘度が150mm/s以下である。
【請求項2】
さらに、下記要件(5)を満たす、請求項1に記載の金属加工油組成物。
・要件(5):40℃における動粘度が50mm/s以上である。
【請求項3】
前記硫黄系極圧剤(B)が、硫化油脂(B1)及び硫化脂肪酸エステル(B2)からなる群から選択される1種以上を含む、請求項1又は2に記載の金属加工油組成物。
【請求項4】
前記カルシウム系清浄剤(C)が、カルシウムスルホネート(C1)、カルシウムフェネート(C2)、及びカルシウムサリシレート(C3)からなる群から選択される1種以上を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の金属加工油組成物。
【請求項5】
前記硫黄系極圧剤(B)由来の硫黄含有量が、前記金属加工油組成物の全量基準で、0.75質量%以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の金属加工油組成物。
【請求項6】
カルシウム含有量が、前記金属加工油組成物の全量基準で、3.5質量%以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の金属加工油組成物。
【請求項7】
前記カルシウム系清浄剤(C)が、カルシウムスルホネート(C1)を含み、
前記金属加工油組成物中の硫黄含有量が、前記金属加工油組成物の全量基準で、0.80質量%以上である、請求項1~6のいずれか1項に記載の金属加工油組成物。
【請求項8】
さらに、酸化防止剤及び消泡剤からなる群から選択される1種以上の添加剤を含有する、請求項1~7のいずれか1項に記載の金属加工油組成物。
【請求項9】
塑性加工に用いられる、請求項1~8のいずれか1項に記載の金属加工油組成物。
【請求項10】
前記塑性加工が、絞り加工である、請求項9に記載の金属加工油組成物。
【請求項11】
基油(A)と、硫黄系極圧剤(B)と、塩基価が300mgKOH/g以上であるカルシウム系清浄剤(C)とを、下記要件(1)、(2)、(3)、及び(4)を満たすように混合する工程を含む、金属加工油組成物の製造方法。
・要件(1):クリーブランド開放式測定法による引火点が260℃以上である。
・要件(2):前記硫黄系極圧剤(B)由来の硫黄含有量が、前記金属加工油組成物の全量基準で、0.45質量%以上である。
・要件(3):カルシウム含有量が、前記金属加工油組成物の全量基準で、1.0質量%以上である。
・要件(4):40℃における動粘度が150mm/s以下である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属加工油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
金属加工の分野においては、金属製の被加工物の加工部位を潤滑するために、金属加工油組成物が使用される。金属加工油組成物には、金属製の被加工物と工具との焼付きを抑制するために優れた極圧性が要求される。
そこで、特許文献1では、硫黄系極圧剤と、防錆剤と、カルシウム系添加剤とを、各々所定量含有する金属加工油組成物が提案されている。
また、特許文献2では、下記一般式(1)で表される化合物と硫黄系極圧剤とを含有する金属加工油組成物が提案されている。
【化1】

[式(1)中、X及びXはそれぞれ独立に酸素原子又は硫黄原子を表し、R~Rはそれぞれ独立にアルキル基を表す。]
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-119680号公報
【特許文献2】特開2018-080303号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、金属加工油組成物には、優れた極圧性だけでなく、作業環境の悪化の抑制の観点から、油煙の発生を抑制する性能も要求され得る。
しかしながら、特許文献1及び2では、金属加工油組成物の油煙の発生を抑制することについては何ら検討されていない。
また、金属加工油組成物には、ポンプ吸引性が求められることもある。そのため、金属加工油組成物の動粘度は、ポンプ吸引性が確保できる程度に低く調整する必要がある。しかしながら、金属加工油組成物の動粘度を低くすると、油煙の発生を抑制し難くなるという問題がある。そのため、動粘度が一定値以下に低く調整されつつも、極圧性と油煙の発生の抑制性能とに優れる金属加工油組成物とすることは困難であった。
【0005】
本発明は、動粘度が一定値以下に低く調整されつつも、極圧性に優れるとともに、油煙の発生の抑制性能に優れる金属加工油組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、下記[1]~[2]が提供される。
[1] 基油(A)と、硫黄系極圧剤(B)と、塩基価が300mgKOH/g以上であるカルシウム系清浄剤(C)とを含有し、下記要件(1)、(2)、(3)、及び(4)を満たす、金属加工油組成物。
・要件(1):クリーブランド開放式測定法による引火点が260℃以上である。
・要件(2):前記硫黄系極圧剤(B)由来の硫黄含有量が、前記金属加工油組成物の全量基準で、0.45質量%以上である。
・要件(3):カルシウム含有量が、前記金属加工油組成物の全量基準で、1.0質量%以上である。
・要件(4):40℃における動粘度が150mm/s以下である。
[2] 基油(A)と、硫黄系極圧剤(B)と、塩基価が300mgKOH/g以上であるカルシウム系清浄剤(C)とを、下記要件(1)、(2)、(3)、及び(4)を満たすように混合する工程を含む、金属加工油組成物の製造方法。
・要件(1):クリーブランド開放式測定法による引火点が260℃以上である。
・要件(2):前記硫黄系極圧剤(B)由来の硫黄含有量が、前記金属加工油組成物の全量基準で、0.45質量%以上である。
・要件(3):カルシウム含有量が、前記金属加工油組成物の全量基準で、1.0質量%以上である。
・要件(4):40℃における動粘度が150mm/s以下である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、動粘度が一定値以下に低く調整されつつも、極圧性に優れるとともに、油煙の発生の抑制性能に優れる金属加工油組成物を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本明細書に記載された数値範囲の上限値および下限値は任意に組み合わせることができる。例えば、数値範囲として「A~B」及び「C~D」が記載されている場合、「A~D」及び「C~B」の数値範囲も、本発明の範囲に含まれる。
また、本明細書に記載された数値範囲「下限値~上限値」は、特に断りのない限り、下限値以上、上限値以下であることを意味する。
また、本明細書において、実施例の数値は、上限値又は下限値として用いられ得る数値である。
【0009】
[金属加工油組成物の態様]
本実施形態の金属加工油組成物は、基油(A)と、硫黄系極圧剤(B)と、塩基価が300mgKOH/g以上であるカルシウム系清浄剤(C)とを含有し、下記要件(1)、(2)、(3)、及び(4)を満たす。
・要件(1):クリーブランド開放式測定法による引火点が260℃以上である。
・要件(2):前記硫黄系極圧剤(B)由来の硫黄含有量が、前記金属加工油組成物の全量基準で、0.45質量%以上である。
・要件(3):カルシウム含有量が、前記金属加工油組成物の全量基準で、1.0質量%以上である。
・要件(4):40℃における動粘度が150mm/s以下である。
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく、鋭意検討を重ねた。その結果、基油(A)と、硫黄系極圧剤(B)と、塩基価が300mgKOH/g以上であるカルシウム系清浄剤(C)とを含有し、上記要件(1)、(2)、(3)、及び(4)を満たす金属加工油組成物が、上記課題を解決し得ることを見出した。
【0011】
なお、以降の説明では、「基油(A)」、「硫黄系極圧剤(B)」、及び「塩基価が300mgKOH/g以上であるカルシウム系清浄剤(C)」を、それぞれ「成分(A)」、「成分(B)」、及び「成分(C)」ともいう。
【0012】
本実施形態の金属加工油組成物は、成分(A)、成分(B)、及び成分(C)のみから構成されていてもよいが、成分(A)、成分(B)、及び成分(C)以外の他の成分(以下、「その他成分」ともいう)をさらに含有していてもよい。
本実施形態の潤滑油組成物において、成分(A)、成分(B)、及び成分(C)の合計含有量は、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは70質量%以上、より更に好ましくは80質量%以上、更になお好ましくは85質量%以上、一層好ましくは90質量%以上、より一層好ましくは95質量%以上である。
【0013】
以下、要件(1)、(2)、(3)、及び(4)、さらには要件(5)について説明した後、本実施形態の金属加工油組成物が含有する各成分について、要件(1)、(2)、(3)、及び(4)、さらには要件(5)を調整するための観点も踏まえつつ、詳細に説明する。
【0014】
<要件(1)>
本実施形態の金属加工油組成物は、要件(1)を満たすことを要する。
すなわち、本実施形態の金属加工油組成物は、クリーブランド開放式測定法による引火点が260℃以上であることを要する。
要件(1)は、金属加工油組成物の油煙の発生の抑制性能の指標であり、金属加工油組成物が、要件(1)を満たさない場合(すなわち、クリーブランド開放式測定法による引火点が260℃未満である場合)、油煙の発生の抑制性能が低下しやすくなる。
ここで、金属加工油組成物の油煙の発生の抑制性能をより優れたものをしやすくする観点から、要件(1)に規定される引火点は、好ましくは262℃以上、より好ましくは265℃以上、更に好ましくは268℃以上である。なお、要件(1)に規定される引火点の上限値は特に制限されないが、通常、350℃以下である。
本実施形態において、要件(1)に規定される金属加工油組成物の引火点は、JIS K2265-4:2007に準拠し、クリーブランド開放式測定法により測定される値を意味する。
【0015】
<要件(2)>
本実施形態の金属加工油組成物は、要件(1)に加え、さらに要件(2)も満たすことを要する。
すなわち、本実施形態の金属加工油組成物は、硫黄系極圧剤(B)由来の硫黄含有量が、金属加工油組成物の全量基準で、0.45質量%以上であることを要する。
要件(2)は、金属加工油組成物の極圧性の指標であり、金属加工油組成物が、要件(2)を満たさない場合(すなわち、硫黄系極圧剤(B)由来の硫黄含有量が、金属加工油組成物の全量基準で、0.45質量%未満である場合)、極圧性を確保することが困難になる。
ここで、金属加工油組成物の極圧性をより優れたものとしやすくする観点から、要件(2)に規定される硫黄含有量は、金属加工油組成物の全量基準で、好ましくは0.48質量%以上、より好ましくは0.50質量%以上、更に好ましくは0.55質量%以上である。
また、金属加工油組成物の油煙の発生をより抑制しやすくする観点から、好ましくは0.75質量%以下、より好ましくは0.72質量%以下、更に好ましくは0.70質量%以下である。
これらの数値範囲の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。具体的には、好ましくは0.48質量%~0.75質量%、より好ましくは0.50質量%~0.72質量%、更に好ましくは0.55質量%~0.70質量%である。
【0016】
<要件(3)>
本実施形態の金属加工油組成物は、要件(1)及び(2)に加え、さらに要件(3)も満たすことを要する。
すなわち、本実施形態の金属加工油組成物は、カルシウム含有量が、金属加工油組成物の全量基準で、1.0質量%以上であることを要する。
要件(3)は、要件(2)と同様、金属加工油組成物の極圧性の指標であり、金属加工油組成物が、要件(3)を満たさない場合(すなわち、カルシウム含有量が、金属加工油組成物の全量基準で、1.0質量%未満である場合)、極圧性を十分に確保し難くなる。
ここで、金属加工油組成物の極圧性をより優れたものとしやすくする観点から、要件(3)に規定されるカルシウム含有量は、好ましくは1.5質量%以上、より好ましくは1.8質量%以上、更に好ましくは2.0質量%以上である。また、カルシウム含有量を抑えつつ極圧性の向上効果を十分に発揮させる観点等から、要件(3)に規定されるカルシウム含有量の上限値は、好ましくは3.5質量%以下である。
本実施形態において、金属加工油組成物のカルシウム含有量は、JPI-5S-38-03に準拠し、誘導結合プラズマ発光分光分析法により測定される値を意味する。
【0017】
なお、本実施形態の金属加工油組成物のカルシウム分の由来は、主にカルシウム系清浄剤(C)である。
本実施形態の金属加工油組成物において、カルシウム系清浄剤(C)由来のカルシウム分の含有量は、金属加工油組成物中のカルシウム分の全量基準で、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、更に好ましくは98質量%以上である。
【0018】
<要件(4)>
本実施形態の金属加工油組成物は、要件(1)、(2)、及び(3)に加え、さらに要件(4)も満たすことを要する。
すなわち、本実施形態の金属加工油組成物は、40℃における動粘度が150mm/s以下であることを要する。
40℃における動粘度が150mm/s以下であることで、金属加工油組成物のポンプ吸引性を確保しやすくすることができる。
ここで、金属加工油組成物の40℃における動粘度は、好ましくは120mm/s以下、より好ましくは110mm/s以下、更に好ましくは100mm/s以下である。
本実施形態の金属加工油組成物の40℃における動粘度は、JIS K2283:2000に準拠して測定される値を意味する。
【0019】
<要件(5)>
本実施形態の金属加工油組成物は、要件(1)、(2)、(3)、及び(4)に加え、さらに要件(5)も満たすことが好ましい。
すなわち、本実施形態の金属加工油組成物は、40℃における動粘度が50mm/s以上であることが好ましい。
40℃における動粘度が50mm/s以上であることで、金属加工油組成物の引火点をより向上させやすくすることができる。また、金属加工油組成物の粘性に由来する極圧性や潤滑性を良好なものとして加工(成型)不良を抑制しやすくすることができる。
ここで、金属加工油組成物の40℃における動粘度は、より好ましくは55mm/s以上、更に好ましくは60mm/s以上である。
【0020】
<基油(A)>
本実施形態の金属加工油組成物は、基油(A)を含有する。
基油(A)は、鉱油であってもよく、合成油であってもよい。
【0021】
鉱油としては、パラフィン基系、ナフテン基系、中間基系の原油を常圧蒸留して得られる常圧残油;該常圧残油を減圧蒸留して得られた留出油;該留出油を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製等のうちの1つ以上の処理を行って精製した鉱油、例えば、軽質ニュートラル油、中質ニュートラル油、重質ニュートラル油、ブライトストック等が挙げられる。
また、鉱油は、API(米国石油協会)の基油カテゴリーにおいて、グループI、II、IIIのいずれに分類されるものでもよいが、硫黄系極圧剤(B)及びカルシウム系清浄剤(C)の溶解性の観点、基油(A)を混合基油とする場合には基油どうしの相溶性の観点等から、グループIに分類されるものが好ましい。
【0022】
合成油としては、例えば、ポリブテン、エチレン-α-オレフィン共重合体、α-オレフィン単独重合体又は共重合体等のポリα-オレフィン類;ポリオールエステル、二塩基酸エステル、リン酸エステル等の各種エステル油;ポリフェニルエーテル等の各種エーテル;ポリグリコール;アルキルベンゼン;アルキルナフタレン;フィッシャー・トロプシュ法等により製造されるワックス(GTLワックス)を異性化することで得られるGLT基油等が挙げられる。
【0023】
基油(A)は、上記の鉱油を単独で、又は複数種を組み合わせて用いてもよく、上記合成油を単独で、又は複数種を組み合わせて用いてもよい。また、鉱油を1種以上と合成油を1種以上とを組み合わせて混合基油として用いてもよい。
【0024】
ここで、上記要件(1)を満たす金属加工油組成物を調製しやすくする観点から、基油(A)のクリーブランド開放式測定法による引火点は、好ましくは260℃以上、より好ましくは270℃以上、更に好ましくは278℃以上である。
本実施形態において、基油(A)の引火点は、JIS K2265-4:2007に準拠し、クリーブランド開放式測定法により測定される値を意味する。
【0025】
基油(A)のクリーブランド開放式測定法による引火点を上記範囲に調整するための方法としては、下記方法等が挙げられる。
・基油種の選択
・基油の動粘度の調整
・基油中の低蒸発成分の留去
本実施形態では、金属加工油組成物に求められる動粘度を考慮しつつ、基油(A)のクリーブランド開放式測定法による引火点を上記範囲に調整すべく、上記調製方法等を適宜採用することが好ましい。
【0026】
ここで、既述のように、本実施形態の金属加工油組成物は、上記要件(1)とともに上記要件(4)を満たす。また、好ましくは上記要件(5)を満たす。
本実施形態の金属加工油組成物において、上記要件(1)とともに上記要件(4)を満たす観点、上記要件(5)を満たしやすくする観点から、基油(A)は混合基油であることが好ましい。
具体的には、高粘度基油と、低粘度基油とを混合し、上記要件(1)を満たすとともに、金属加工油組成物の40℃における動粘度が上記要件(4)を満たす(好ましくは、さらに上記要件(5)を満たす)ように調整された混合基油を用いることが好ましい。
高粘度基油の40℃動粘度は、好ましくは80mm/s~500mm/s、より好ましくは90mm/s~470mm/s、更に好ましくは95mm/s~450mm/sである。
高粘度基油としては、例えば、重質ニュートラル油(例えば、500N鉱油)及びブライトストック等から選択される1種以上が挙げられる。
低粘度基油の40℃動粘度は、好ましくは20mm/s~80mm/s未満、より好ましくは25mm/s~70mm/s、更に好ましくは30mm/s~60mm/sである。
低粘度基油としては、上記40℃における動粘度の範囲を満たしつつ、上記要件(1)を満たす観点から、クリーブランド開放式測定法による引火点が260℃以上(好ましくは270℃以上、より好ましくは278℃以上)である基油を用いることが好ましい。このような基油としては、例えば、エステル油、GTL基油等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
<硫黄系極圧剤(B)>
本実施形態の金属加工油組成物は、硫黄系極圧剤(B)を含有する。
本実施形態の金属加工油組成物は、カルシウム系清浄剤(C)とともに、硫黄系極圧剤(B)を含有し、要件(2)及び(3)を満たすことで、極圧性に優れたものとすることができる。
硫黄系極圧剤(B)としては、硫化油脂、硫化脂肪酸、硫化脂肪酸エステル、硫化オレフィン、硫化エステル、及びヒドロカルビルサルファイド等が挙げられる。
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
ここで、上記要件(2)を満たす金属加工油組成物を調製しやすくする観点から、硫黄系極圧剤(B)は、硫化油脂(B1)及び硫化脂肪酸エステル(B2)からなる群から選択される1種以上を含むことが好ましい。
硫黄系極圧剤(B)中の硫化油脂(B1)及び硫化脂肪酸エステル(B2)からなる群から選択される1種以上の含有量は、硫黄系極圧剤(B)の全量基準で、好ましくは50質量%~100質量%、より好ましくは60質量%~100質量%、更に好ましくは70質量%~100質量%、より更に好ましくは80質量%~100質量%、更になお好ましくは90質量%~100質量%、一層好ましくは95質量%~100質量%である。
【0029】
(硫化油脂(B1))
硫化油脂(B1)としては、硫化動物油脂及び硫化植物油脂が挙げられる。
ここで、上記要件(1)を満たす金属加工油組成物を調製しやすくする観点から、硫化油脂(B1)としては、硫化植物油脂を含む硫化油脂を用いることが好ましく、硫化植物油脂を構成する植物油脂としては、特にリノール酸を主体とする植物油脂を用いることが好ましい。
本実施形態において、「リノール酸を主体とする植物油脂」とは、植物油脂を構成する脂肪酸全量に占めるリノール酸の量が、50質量%以上であるものを意味する。
リノール酸を主体とする植物油脂を用いた硫化植物油脂としては、例えば、硫化グレープシードオイル、硫化コーン油、硫化綿実油、及び硫化大豆油等が挙げられる。
硫化油脂(B1)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
(硫化脂肪酸エステル(B2))
硫化脂肪酸エステル(B2)としては、動物油脂由来の脂肪酸を含む硫化脂肪酸エステル及び植物油脂由来の脂肪酸を含む硫化脂肪酸エステルが挙げられる。
ここで、上記要件(1)を満たす金属加工油組成物を調製しやすくする観点から、硫化脂肪酸エステル(B2)としては、植物油脂由来の脂肪酸を含む硫化脂肪酸エステルを用いることが好ましく、特にリノール酸を主体とする植物油脂由来の脂肪酸を含む硫化脂肪酸エステルを用いることが好ましい。
リノール酸を主体とする植物油脂由来の脂肪酸を含む硫化脂肪酸エステルとしては、例えば、グレープシードオイル由来の脂肪酸を含む硫化脂肪酸エステル、コーン油由来の脂肪酸を含む硫化脂肪酸エステル、綿実油由来の脂肪酸を含む硫化脂肪酸エステル、及び大豆油由来の脂肪酸を含む硫化脂肪酸エステル等が挙げられる。
硫化脂肪酸エステル(B2)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
(硫黄系極圧剤(B)の引火点)
硫黄系極圧剤(B)の引火点は、上記要件(1)を満たす金属加工油組成物を調製しやすくする観点から、好ましくは150℃以上、より好ましくは160℃以上、更に好ましくは170℃以上である。
本実施形態において、硫黄系極圧剤(B)の引火点は、JIS K2265-4:2007に準拠し、クリーブランド開放式測定法により測定される値を意味する。
【0032】
<カルシウム系清浄剤(C)>
本実施形態の金属加工油組成物は、カルシウム系清浄剤(C)を含有する。
本実施形態の金属加工油組成物は、硫黄系極圧剤(B)とともに、カルシウム系清浄剤(C)を含有し、要件(2)及び(3)を満たすことで、極圧性に優れたものとすることができる。
なお、
ここで、カルシウム系清浄剤(C)としては、極圧性向上の観点から、カルシウムスルホネート(C1)、カルシウムフェネート(C2)、及びカルシウムサリシレート(C3)からなる群から選択される1種以上を含むことが好ましい。
カルシウム系清浄剤(C)中のカルシウムスルホネート(C1)、カルシウムフェネート(C2)、及びカルシウムサリシレート(C3)からなる群から選択される1種以上の含有量は、カルシウム系清浄剤(C)の全量基準で、好ましくは50質量%~100質量%、より好ましくは60質量%~100質量%、更に好ましくは70質量%~100質量%、より更に好ましくは80質量%~100質量%、更になお好ましくは90質量%~100質量%、一層好ましくは95質量%~100質量%である。
【0033】
カルシウムスルホネート(C1)としては、下記一般式(c1-1)で表される化合物が挙げられる。
カルシウムサリシレート(C2)としては、下記一般式(c1-2)で表される化合物が挙げられる。
カルシウムフェネート(C3)としては、下記一般式(c1-3)で表される化合物が挙げられる。
【0034】
【化2】

【0035】
上記一般式(c1-1)~(c1-3)中、Rc1、Rc2、Rc3、及びRc4は、各々独立に、水素原子又は炭素数1~18の炭化水素基である。qは、0以上の整数であり、好ましくは0~3の整数である。
c1、Rc2、Rc3、及びRc4として選択し得る炭化水素基としては、例えば、炭素数1~18のアルキル基、炭素数1~18のアルケニル基、環形成炭素数3~18のシクロアルキル基、環形成炭素数6~18のアリール基、炭素数7~18のアルキルアリール基、炭素数7~18のアリールアルキル基等が挙げられる。
【0036】
ここで、本実施形態の金属加工油組成物おいて用いられるカルシウム系清浄剤(C)は、少量の配合で金属加工油組成物中のカルシウム系清浄剤(C)由来のカルシウム含有量を高めて要件(3)を満たし、金属加工油組成物の極圧性をより向上させやすくする観点から、塩基価が300mgKOH/g以上であることを要する。
カルシウム系清浄剤(C)の塩基価は、極圧性のさらなる向上の観点から、好ましくは350mgKOH/g以上、より好ましくは400mgKOH/g以上、更に好ましくは450mgKOH/g以上である。カルシウム系清浄剤(C)の塩基価の上限値は、特に制限されないが、通常、600mgKOH/g以下である。
なお、本実施形態において、カルシウム系清浄剤(C)の塩基価は、JIS K2501:2003の9に準拠して、電位差滴定法(塩基価・過塩素酸法)により測定した値を意味する。
【0037】
また、高塩基価品の入手容易性の観点及び極圧性の向上の観点から、カルシウム系清浄剤(C)は、カルシウムスルホネート(C1)を含むことが好ましい。
カルシウムスルホネート(C1)の塩基価は、少量の配合で金属加工油組成物中のカルシウム系清浄剤(C)(カルシウムスルホネート(C1))由来のカルシウム含有量を高めて、金属加工油組成物の極圧性をより向上させやすくする観点から、300mgKOH/g以上であることを要し、好ましくは350mgKOH/g以上、より好ましくは400mgKOH/g以上、更に好ましくは450mgKOH/g以上である。カルシウムスルホネート(C1)の塩基価の上限値は、特に制限されないが、通常、600mgKOH/g以下である。
カルシウム系清浄剤(C)がカルシウムスルホネート(C1)を含む場合、カルシウム系清浄剤(C)中のカルシウムスルホネート(C1)の含有量は、カルシウム系清浄剤(C)の全量基準で、好ましくは50質量%~100質量%、より好ましくは60質量%~100質量%、更に好ましくは70質量%~100質量%、より更に好ましくは80質量%~100質量%、更になお好ましくは90質量%~100質量%、一層好ましくは95質量%~100質量%である。
【0038】
<成分(B)由来の硫黄分と成分(C)由来のカルシウム分との含有比率>
成分(B)由来の硫黄分と成分(C)由来のカルシウム分との含有比率[成分(B)由来の硫黄分/成分(C)由来のカルシウム分]は、油煙発生の抑制性能、極圧性能、並びに成分(B)及び成分(C)の溶解性のバランスの向上等の観点等から、質量比で、好ましくは0.19~0.29、より好ましくは0.20~0.28である。
なお、成分(B)由来の硫黄分と成分(C)由来のカルシウム分との含有比率[成分(B)由来の硫黄分/成分(C)由来のカルシウム分]は、金属加工油組成物に成分(C)以外のカルシウム含有成分が配合されていない場合には、成分(B)由来の硫黄分と金属加工油組成物中のカルシウム分との含有比率[成分(B)由来の硫黄分/金属加工油組成物中のカルシウム分]と同義である。
【0039】
<その他成分>
本実施形態の金属加工油組成物は、本発明の効果を大きく阻害することない範囲で、硫黄系極圧剤(B)及びカルシウム系清浄剤(C)以外の成分(その他成分)を含有していてもよく、含有していなくてもよい。
その他成分としては、酸化防止剤及び消泡剤等が挙げられる。
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
[金属加工油組成物の物性]
本実施形態の金属加工油組成物は、下記物性を満たすことが好ましい。
【0041】
<極圧性>
本実施形態の金属加工油組成物は、後述する実施例におけるシェルEP試験において測定される最大非焼付き荷重(LNL)が、好ましくは785N超、より好ましくは981N超である。
また、本実施形態の金属加工油組成物は、後述するシェルEP試験において測定される融着荷重(WL)が、好ましくは2452N超、より好ましくは3089N超である。
【0042】
<油煙発生>
本実施形態の金属加工油組成物は、後述する実施例における油煙確認試験において、油煙が確認されないことが好ましい。
【0043】
<亜鉛含有量>
本実施形態の金属加工油組成物は、ジチオリン酸亜鉛等のリン及び亜鉛含有化合物を用いなくても、十分な極圧性が発揮される。
したがって、本実施形態の金属加工油組成物は、亜鉛含有量が、金属加工油組成物の全量基準で、0.1質量%未満であってもよく、0.01質量%未満であってもよく、亜鉛を含まなくてもよい。
また、本実施形態の金属加工油組成物は、金属加工に用いる金型等の工具の疲労要因の低減の観点、製造した部品の疲労破壊や脆性破壊の防止の観点等から、リン含有量が、金属加工油組成物の全量基準で、好ましくは0.1質量%未満、より好ましくは0.01質量%未満、更に好ましくはリンを含まないことである。
本実施形態の金属加工油組成物の亜鉛含有量は、JPI-5S-28-27に準拠して測定される値を意味する。
また、本実施形態の金属加工油組成物のリン含有量は、JPI-5S-38-03に準拠して測定される値にて測定される値を意味する。
【0044】
<硫黄含有量>
本実施形態の金属加工油組成物が、カルシウム系清浄剤(C)として、カルシウムスルホネート(C1)を含む場合、当該金属加工油組成物の硫黄含有量は、極圧性のさらなる向上の観点から、金属加工油組成物の全量基準で、好ましくは0.80質量%以上、より好ましくは0.85質量%以上、更に好ましくは0.90質量%以上、より更に好ましくは0.95質量%以上である。
また、金属加工油組成物の油煙の発生をより抑制しやすくする観点から、好ましくは2.00質量%以下、より好ましくは1.50質量%以下、更に好ましくは1.10質量%以下である。
これらの数値範囲の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。具体的には、好ましくは0.80質量%~2.00質量%、より好ましくは0.85質量%~1.50質量%、更に好ましくは0.90質量%~1.10質量%、より更に好ましくは0.95質量%~1.10質量%である。
本実施形態において、金属加工油組成物中の硫黄含有量は、JIS K 2541-7:2013に準拠して、波長分散蛍光X線法により測定される値を意味する。
なお、カルシウム系清浄剤(C)がカルシウムスルホネート(B1)を含む場合、本実施形態の金属加工油組成物の硫黄分の由来は、主に硫黄系極圧剤(B)とカルシウム系清浄剤(C)である。
本実施形態の金属加工油組成物において、カルシウム系清浄剤(C)がカルシウムスルホネート(B1)を含む場合、硫黄系極圧剤(B)及びカルシウムスルホネート(B1)由来の硫黄分の合計含有量は、金属加工油組成物中の硫黄分の全量基準で、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは95質量%以上である。
なお、カルシウム系清浄剤(C)がカルシウムスルホネート(B1)を含まない場合、本実施形態の金属加工油組成物の硫黄分の由来は、主に硫黄系極圧剤(B)である。この場合、本実施形態の金属加工油組成物の硫黄含有量は、基油中に含まれ得る微量の硫黄分によって僅かに変動する可能性はあるものの、硫黄系極圧剤(B)由来の硫黄含有量(すなわち、上記要件(2))とほぼ一致し得る。
【0045】
[金属加工油組成物の製造方法]
本実施形態の金属加工油組成物の製造方法は、特に制限されない。
例えば、本実施形態の金属加工油組成物の製造方法は、基油(A)と、硫黄系極圧剤(B)と、塩基価が300mgKOH/g以上であるカルシウム系清浄剤(C)とを、下記要件(1)、(2)、(3)、及び(4)を満たすように混合する工程を含む。
・要件(1):クリーブランド開放式測定法による引火点が260℃以上である。
・要件(2):前記硫黄系極圧剤(B)由来の硫黄含有量が、前記金属加工油組成物の全量基準で、0.45質量%以上である。
・要件(3):カルシウム含有量が、前記金属加工油組成物の全量基準で、1.0質量%以上である。
・要件(4):40℃における動粘度が150mm/s以下である。
【0046】
本実施形態の金属加工油組成物の製造方法において、硫黄系極圧剤(B)と、カルシウム系清浄剤(C)とは、基油(A)に同時に配合してもよく、別々に配合してもよい。
また、その他成分は、硫黄系極圧剤(B)及びカルシウム系清浄剤(C)と同時に配合してもよく、別々に配合してもよい。
なお、各成分は、希釈油等を加えて溶液(分散体)の形態とした上で配合してもよい。
各成分を配合した後、公知の方法により、撹拌して均一に分散させることが好ましい。
なお、上記要件(1)、(2)、(3)、及び(4)の好ましい範囲、上記要件(1)、(2)、(3)、及び(4)の調整法、及び上記各成分の好ましい態様は、既述のとおりである。
また、本実施形態の金属加工油組成物の製造方法においても、さらに上記要件(5)も満たすことが好ましい。上記要件(5)の好ましい範囲も既述のとおりである。
【0047】
[金属加工油組成物の用途]
本実施形態の金属加工油組成物は、極圧性に優れながらも、油煙の発生の抑制性能に優れる。
したがって、本実施形態の金属加工油組成物は、金属製の被加工物と工具との焼付きを抑制しながらも、油煙の発生を抑制することが求められる金属加工用途全般に使用することができ、金属加工の中でも、塑性加工に好適に使用することができ、絞り加工により好適に使用することができる。
よって、本実施形態の金属加工油組成物によれば、下記(I)及び(II)が提供される。
(I)本実施形態の金属加工油組成物を、塑性加工に使用する、金属加工油組成物の使用方法。
(II)本実施形態の金属加工油組成物を、絞り加工に使用する、金属加工油組成物の使用方法。
また、本実施形態の金属加工油組成物は、塑性加工油として好適に使用することができ、圧造油としてより好適に使用することができる。
なお、本実施形態の金属加工油組成物は、意図的に水を配合して使用されるものではない。したがって、本実施形態の金属加工油組成物の水の含有量は、金属加工油組成物の全量基準で、好ましくは1.0質量%未満、より好ましくは0.1質量%未満、更に好ましくは0.01質量%未満である。
【0048】
[提供される本発明の一態様]
本発明の一態様では、下記[1]~[11]が提供される。
[1] 基油(A)と、硫黄系極圧剤(B)と、塩基価が300mgKOH/g以上であるカルシウム系清浄剤(C)とを含有し、下記要件(1)、(2)、(3)、及び(4)を満たす、金属加工油組成物。
・要件(1):クリーブランド開放式測定法による引火点が260℃以上である。
・要件(2):前記硫黄系極圧剤(B)由来の硫黄含有量が、前記金属加工油組成物の全量基準で、0.45質量%以上である。
・要件(3):カルシウム含有量が、前記金属加工油組成物の全量基準で、1.0質量%以上である。
・要件(4):40℃における動粘度が150mm/s以下である。
[2] さらに、下記要件(6)を満たす、上記[1]に記載の金属加工油組成物。
・要件(5):40℃における動粘度が50mm/s以上である。
[3] 前記硫黄系極圧剤(B)が、硫化油脂(B1)及び硫化脂肪酸エステル(B2)からなる群から選択される1種以上を含む、上記[1]又は[2]に記載の金属加工油組成物。
[4] 前記カルシウム系清浄剤(C)が、カルシウムスルホネート(C1)、カルシウムフェネート(C2)、及びカルシウムサリシレート(C3)からなる群から選択される1種以上を含む、上記[1]~[3]のいずれか1つに記載の金属加工油組成物。
[5] 前記硫黄系極圧剤(B)由来の硫黄含有量が、前記金属加工油組成物の全量基準で、0.75質量%以下である、上記[1]~[4]のいずれか1つに記載の金属加工油組成物。
[6] カルシウム含有量が、前記金属加工油組成物の全量基準で、3.5質量%以下である、上記[1]~[5]のいずれか1つに記載の金属加工油組成物。
[7] 前記カルシウム系清浄剤(C)が、カルシウムスルホネート(C1)を含み、
前記金属加工油組成物中の硫黄含有量が、前記金属加工油組成物の全量基準で、0.80質量%以上である、上記[1]~[6]のいずれか1つに記載の金属加工油組成物。
[8] さらに、酸化防止剤及び消泡剤からなる群から選択される1種以上の添加剤を含有する、上記[1]~[7]のいずれか1つに記載の金属加工油組成物。
[9] 塑性加工に用いられる、上記[1]~[8]のいずれか1つに記載の金属加工油組成物。
[10] 前記塑性加工が、絞り加工である、上記[9]に記載の金属加工油組成物。
[11] 基油(A)と、硫黄系極圧剤(B)と、塩基価が300mgKOH/g以上であるカルシウム系清浄剤(C)とを、下記要件(1)、(2)、(3)、及び(4)を満たすように混合する工程を含む、金属加工油組成物の製造方法。
・要件(1):クリーブランド開放式測定法による引火点が260℃以上である。
・要件(2):前記硫黄系極圧剤(B)由来の硫黄含有量が、前記金属加工油組成物の全量基準で、0.45質量%以上である。
・要件(3):カルシウム含有量が、前記金属加工油組成物の全量基準で、1.0質量%以上である。
・要件(4):40℃における動粘度が150mm/s以下である。
【実施例0049】
本発明について、以下の実施例により具体的に説明する。但し、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0050】
[各種物性値の測定方法]
各実施例及び各比較例で用いた各原料並びに各実施例及び各比較例の金属加工油組成物の各性状の測定は、以下に示す要領に従って行ったものである。
【0051】
(1)40℃における動粘度
JIS K2283:2000に準拠して測定した。
(2)引火点
JIS K2265-4:2007に準拠し、クリーブランド開放式測定法により測定した。
【0052】
[実施例1~4及び比較例1~5]
上記各成分を混合して表1に示す組成の金属加工油組成物を調製し、以下に説明する評価を行った。
なお、表1中の配合組成の数値単位は、「質量%」である。
表1に示す組成の金属加工油組成物の調製に用いた各成分の詳細を以下に説明する。
【0053】
<基油(A)>
・「GTL基油」:引火点262℃、40℃動粘度43.75mm/s、低粘度基油に該当する基油
・「高粘度鉱油」:ブライトストック、引火点324℃、40℃動粘度435.1mm/s、API分類グループI、高粘度基油に該当する基油
・「エステル基油」:ペンタエリスリトール飽和脂肪酸エステル、引火点280℃、40℃動粘度33.50mm/s、低粘度基油に該当する基油
・「500N鉱油」:引火点260℃、40℃動粘度102.5mm/s、API分類グループI、高粘度基油に該当する基油
・「150N鉱油」:引火点214℃、40℃動粘度29.5mm/s、API分類グループI、低粘度基油に該当する基油
【0054】
<硫黄系極圧剤(B)>
・「硫化油脂(B1-1)」:動物油脂、グリセリド油、及び植物油脂混合物の硫化物、引火点180℃
・「硫化油脂(B1-2)」:硫化ラード油を主体(97質量%)とする硫化油脂組成物、引火点145℃
・「硫化脂肪酸エステル(B2)」:植物油脂肪酸のメチルエステルの硫化物、引火点202℃
【0055】
<カルシウム系清浄剤(C)>
・「カルシウムスルホネート(C1)」:塩基価500mgKOH/g、高度水素化重質パラフィン系油蒸留物51.5質量%含有品を用いた。
・「カルシウムフェネート(C3)」:塩基価300mgKOH/g、高度水素化重質パラフィン系油蒸留物43質量%含有品を用いた。
【0056】
<カルシウム系清浄剤(C’)>
・「カルシウムスルホネート(C’1)」:塩基価150mgKOH/g、高度精製鉱物油(炭素数15~50)45~50質量%含有品を用いた。
【0057】
<その他成分>
アミン系酸化防止剤(ジフェニルアミン系酸化防止剤)、消泡剤
【0058】
[評価1:シェルEP試験]
実施例1~4及び比較例1~5の金属加工油組成物について、ASTM D2783に準拠して、四球試験機により回転数1,760±40rpm、油温(18.3~35.0℃)の条件でシェルEP試験を行い、最大非焼付荷重(LNL)及び融着荷重(WL)を測定した。これらの値が大きいほど、極圧性に優れるといえる。
本実施例では、最大非焼付荷重(LNL)が785N超であり、かつ融着荷重(WL)が2452N超であるものを合格とした。合格である場合は表1中に「A」と表記し、不合格である場合は表1中に「F」と表記した。
【0059】
[評価2:油煙発生評価試験]
実施例1~4及び比較例1~5の金属加工油組成物を、250℃まで昇温したアルミカップにそれぞれ0.5mL滴下し、直ちに300mL容のビーカーを被せた。そして、60秒経過後、ビーカー内に油煙が発生しているか否か、目視にて確認した。なお、試験中、アルミカップの温度は、250℃を維持するようにした。本実施例では、油煙が発生していないものを合格とした。合格である場合は表1中に「A」と表記し、不合格である場合は表1中に「F」と表記した。
【0060】
評価結果を表1に示す。
なお、金属加工油組成物のカルシウム含有量は、JPI-5S-38-03に準拠し、誘導結合プラズマ発光分光分析法により測定した。また、金属加工油組成物の硫黄含有量は、JIS K 2541-7:2013に準拠し、波長分散蛍光X線法により測定した。また、硫黄系極圧剤(B)由来の硫黄含有量は、硫黄を含まない基油に、硫黄系極圧剤(B)を所定量溶解した後、JIS K 2541-7:2013に準拠して測定し、その測定値と(B)の添加量から計算される硫黄系極圧剤(B)中の硫黄含有量に基づき算出した。
【0061】
【表1】

【0062】
表1より、以下のことがわかる。
上記成分(A)~(C)を含有し、上記要件(1)~(4)をすべて満たす実施例1~4の金属加工油組成物は、動粘度が一定値以下に低く調整されつつも、極圧性に優れるとともに、油煙の発生の抑制性能に優れることがわかる。
これに対し、上記要件(1)を満たさない、比較例1及び2の金属加工油組成物は、油煙の発生を抑制する性能が不十分であることがわかる。
また、上記要件(2)を満たさない、比較例3及び4の金属加工油組成物は、極圧性が不十分であることがわかる。
さらに、上記要件(3)を満たさない、比較例5の金属加工油組成物もまた、極圧性が不十分であることがわかる。