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  • 特開-多層フィルム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024009554
(43)【公開日】2024-01-23
(54)【発明の名称】多層フィルム
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/00 20060101AFI20240116BHJP
   C08L 45/00 20060101ALI20240116BHJP
   C08L 23/04 20060101ALI20240116BHJP
   B32B 27/28 20060101ALI20240116BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
B32B27/00 A
C08L45/00
C08L23/04
B32B27/00 H
B32B27/28 102
B65D65/40 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022111164
(22)【出願日】2022-07-11
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中尾 英誉
(72)【発明者】
【氏名】濱 晋平
(72)【発明者】
【氏名】開田 圭一
【テーマコード(参考)】
3E086
4F100
4J002
【Fターム(参考)】
3E086AC07
3E086BB05
3E086BB41
3E086BB51
3E086CA01
3E086CA28
4F100AK02A
4F100AK03B
4F100AK03D
4F100AK04A
4F100AK05A
4F100AK69C
4F100AL05A
4F100BA05
4F100BA07
4F100CB00E
4F100CB03A
4F100EH20
4F100GB16
4F100JA05A
4F100JA06A
4F100JA07A
4F100JA13A
4F100JD03
4F100JD03C
4F100JJ03D
4F100JK06
4F100JL12A
4F100JN18A
4F100YY00A
4J002BB03Y
4J002BB04X
4J002BK00W
4J002GB01
4J002GF00
4J002GG01
4J002GG02
(57)【要約】
【課題】 高い透明性が維持された環状ポリオレフィンおよびエチレン系重合体からなる樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 少なくともシーラント層および酸素バリア層を有する多層フィルムであり、シーラント層が、ガラス転移温度125℃以上、屈折率1.52~1.54である環状ポリオレフィン(A)5~95重量%、および屈折率が1.52~1.53、Mw/Mnが2~7の範囲であり、Mnが10万以上のフラクション中に炭素数6以上の長鎖分岐を主鎖1000炭素数あたり0.15個以上有するエチレン系重合体(B)5~95重量%を含む樹脂組成物からなり、酸素バリア層が、80℃のDMSO-dに不溶であるまたはFT-IR測定において1643cm-1、1550cm-1の吸収ピークを示すエチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)からなる多層フィルム。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともシーラント層および酸素バリア層を有する多層フィルムであり、シーラント層が、ガラス転移温度125℃以上、JIS K7142を準拠した屈折率が1.52~1.54である環状ポリオレフィン(A)5~95重量%、およびJIS K7142を準拠した屈折率が1.52~1.53、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーによる分子量測定において重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)が2~7の範囲であり、分子量分別した際のMnが10万以上のフラクション中に炭素数6以上の長鎖分岐を主鎖1000炭素数あたり0.15個以上有するエチレン系重合体(B)5~95重量%を含む樹脂組成物からなり、酸素バリア層が、80℃のDMSO-dに不溶であるまたはFT-IR測定において1643cm-1、1550cm-1の吸収ピークを示すエチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)からなる多層フィルム。
【請求項2】
シーラント層を最表面に有する請求項1に記載の多層フィルム。
【請求項3】
耐熱層、接着層1、酸素バリア層、接着層2、シーラント層をこの順で有する、請求項2に記載の多層フィルム。
【請求項4】
接着層2とシーラント層の間にさらに中間層を有する請求項3に記載の多層フィルム。
【請求項5】
耐熱層および中間層がポリオレフィン樹脂である請求項4に記載の多層フィルム。
【請求項6】
環状ポリオレフィン(A)が、
(i)ASTM D1238を準拠し、260℃、21.18Nにて測定したメルトマスフローレート(MFR)が10~30g/10分、
(ii)ISO 1133を準拠し、280℃、21.2Nにて測定したメルトマスフローレート(MFR)が10~60g/10分、または
(iii)ISO 1133を準拠し、230℃、21.18Nにて測定したメルトボリュームフローレート(MVR)では10~60cm/10minのいずれかを少なくとも一つ以上満たすものであり、
エチレン系重合体(B)がJIS K 6922-1に準拠し、190℃、荷重21.18Nで測定したメルトマスフローレート(MFR)が0.1~15g/10分である請求項1に記載の多層フィルム。
【請求項7】
環状ポリオレフィン(A)が、下記構造式(1)で示される単位を含む重合体である請求項1に記載の多層フィルム。
【化1】
(上記式(1)中、Ra、Rbは、水素原子又は有機基を表し、RaとRbはそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、互いに結合して環を形成してもよい。mは1以上の整数、nは0以上の整数である。)
【請求項8】
環状ポリオレフィン(A)が、下記構造式(3)で示される単位を30モル%以上含む重合体である請求項7に記載の多層フィルム。
【化2】
【請求項9】
環状ポリオレフィン(A)が、下記構造式(4)で示される単位を20モル%以上含む多元共重合体である請求項7に記載の多層フィルム。
【化3】
【請求項10】
環状ポリオレフィン(A)が、下記構造式(5)で示される単位を10モル%以上含む共重合体である請求項7に記載の多層フィルム。
【化4】
【請求項11】
環状ポリオレフィン(A)が、上記構造式(4)で示される単位として、その立体異性体であるエンド型が50モル%以上、エキソ型が50モル%未満を含む多元共重合体である、請求項9に記載の多層フィルム。
【請求項12】
エチレン系重合体(B)が、JIS K6922-1に準拠して密度勾配管法で測定した密度が930~960kg/mのエチレン系重合体である、請求項1に記載の多層フィルム。
【請求項13】
エチレン系重合体(B)が、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーによる分子量測定において2つのピークを示すものである、請求項1に記載の多層フィルム。
【請求項14】
シーラント層が、環状ポリオレフィン(A)が50~90重量%、およびエチレン系重合体(B)が10~50重量%を含む樹脂組成物からなる、請求項1に記載の多層フィルム。
【請求項15】
シーラント層が、環状ポリオレフィン樹脂(A)及びエチレン系重合体(B)100重量部に対して、分子量分別した際のMnが10万以上のフラクション中に炭素数6以上の長鎖分岐を主鎖1000炭素数あたり0.14個以下有する高密度ポリエチレン(C)20~300重量部をさらに含む樹脂組成物からなる、請求項1に記載の多層フィルム。
【請求項16】
高密度ポリエチレン(C)が、JIS K6922-1に準拠して密度勾配管法で測定した密度が940~970kg/m、JIS K 6922-1に準拠し、190℃、荷重21.18Nで測定したメルトマスフローレートが0.1~15g/10分のものである、請求項15に記載の多層フィルム。
【請求項17】
高密度ポリエチレン(C)が、Mw/Mnが2.0~3.5、Mnが25,000以上のものである、請求項15に記載の多層フィルム。
【請求項18】
請求項1~17に記載の多層フィルムからなり、シーラント層を接液面に有する容器。
【請求項19】
医療用又は食品用である請求項18に記載の容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルムに関する。さらに詳しくは、輸液や食品包装に用いられる医療用フィルムないし部材および食品用フィルムないし部材に好適なフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
薬液、血液等を包装する医療用フィルムないし部材および食品を包装する食品用フィルムには、異物の有無を目視確認するための透明性、内容液ないし内容物中の有効成分の散逸防止性ないし保存安定性などが要求される。
【0003】
従来、これらの性能を満たす医療用フィルムおよび食品用フィルムにポリオレフィン樹脂や環状ポリオレフィン樹脂が使用されるが、環状ポリオレフィン樹脂はガラス転移温度が室温以上であることから、環状ポリオレフィンのみからなるフィルムは衝撃によりひび割れるなど、耐衝撃性の点で課題がある。
【0004】
そこで、フィルムの材料である環状ポリオレフィンへポリエチレンやポリプロピレン等の線状ポリオレフィンないしスチレンブロック共重合体、イソブチレン共重合体等をブレンドした樹脂組成物が種々開発され、環状ポリオレフィンと線状ポリオレフィン等からなる樹脂組成物を用いた医療用フィルムが提案されている(例えば、特許文献1~6参照。)。
【0005】
しかし、環状ポリオレフィン樹脂とポリエチレン系樹脂の樹脂組成物からなるフィルムは、透明性等が低下するなどの課題がある。また、環状ポリオレフィン樹脂とポリプロピレンの樹脂組成物からなるフィルムは、低温下での耐衝撃性が低下するなどの課題がある。一方、環状ポリオレフィン樹脂とスチレンブロック共重合体ないしイソブチレン共重合体等の樹脂組成物からなるフィルムは、フィルムのコストが上昇するなどの課題がある。そのため、環状ポリオレフィン樹脂の耐衝撃性を改良する樹脂の開発が望まれていた。
【0006】
また、近年、医療用容器の分野において、複数成分の分離収容と、使用直前の上記複数成分を容器内で混合する処理とが可能な複室容器が多用されている。このような複室容器では、互いに隣接する収容部間を隔離するための易剥離シール部を形成できるヒートシール温度範囲が広い易剥離シール性を付与することが重要となっている。
【0007】
易剥離シール性を付与するために、多層フィルムが提案されている。多層フィルムには、易剥離シール性、透明性、加熱滅菌処理に対する耐熱性などの諸物性を満足する設計が求められる。
【0008】
このような多層フィルムおよびそれを用いた容器として、特許文献2には、環状ポリオレフィンと線状ポリオレフィンとを含有する組成物をシーラント層に用いた医療用複室容器が提案されている。
【0009】
特許文献3には、2種の密度の異なる直鎖状低密度ポリエチレンからなる組成物をシーラント層に用いた薬液バッグが提案されている。
【0010】
特許文献4には、直鎖状ポリエチレンとプロピレンホモポリマーからなる組成物をシーラント層に用いた薬剤容器が提案されている。
【0011】
しかし、環状ポリオレフィン樹脂とポリエチレン系樹脂の樹脂組成物からなるフィルムは、透明性等が低下するなどの課題がある。また、環状ポリオレフィン樹脂とビニル芳香族炭化水素重合体、スチレンブロック共重合体ないしイソブチレン共重合体等の樹脂組成物からなるフィルムは、フィルムのコストが上昇するなどの課題がある。一方、2種の密度の異なる直鎖状低密度ポリエチレンの樹脂組成物からなるフィルムは、加熱滅菌に対する耐熱性が不足するなどの課題がある。また、直鎖状ポリエチレンとプロピレンホモポリマーからなる樹脂組成物からなるフィルムは、透明性が不足するなどの課題がある。
【0012】
易剥離シール性を具備し、耐衝撃性と透明性を有するものとして、特許文献5,6には、環状ポリオレフィンに特定のエチレン系重合体を含んでなる樹脂組成物が提案されている。
【0013】
また、内容液ないし内容物の保存安定性を高めるため、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)からなる酸素バリア層を有する多層フィルムが提案されている(例えば特許文献7,8)。しかしながら、通常のEVOHを酸素バリア層に用いた場合では、水蒸気バリア性が劣るために、滅菌処理で加熱すると、酸素バリア性の低下やボイドの発生、フィルムの白化などの課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平8-192871号公報
【特許文献2】特開2000-70331号公報
【特許文献3】特開2009-248973号公報
【特許文献4】特許第5330240号公報
【特許文献5】特開2018-165360号公報
【特許文献6】特開2018-165361号公報
【特許文献7】特公平05-075586号公報
【特許文献8】特公平05-075587号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
特許文献5,6に提案の樹脂組成物からなるフィルムは、易剥離性、耐衝撃性、透明性という点においては効果が見られるものであり食品包装フィルム等への展開が可能なものではあったが、医療分野における薬液の安定性の改善を求められるものであった。
【0016】
そこで、本発明の目的は、環状ポリオレフィン樹脂よりなる医療用ないし食品用フィルムの更なる改善として、高い透明性が維持されたフィルムを提供することにある。
【0017】
さらに、医療用ないし食品用フィルムを用いた製品では、滅菌、調理などの加熱処理が行われるが、加熱処理後にも薬液、調理液や含有成分(以下、有効成分という場合がある)が安定して保持されたフィルムを提供することにある。
【0018】
また、本発明の目的は、多層フィルムの内層に求められる易剥離シール性を有する樹脂組成物を多層フィルムのシーラント層に用いたフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者は鋭意検討を行なった結果、特定の環状ポリオレフィン樹脂と特定のポリエチレン系樹脂を特定量配合として含む樹脂組成物からなるシーラント層を有し、特定の耐熱EVOHを酸素バリア層に有する多層フィルムにより上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0020】
すなわち、本発明の各態様は、以下に示す[1]~[19]である。
[1] 少なくともシーラント層および酸素バリア層を有する多層フィルムであり、シーラント層が、ガラス転移温度125℃以上、JIS K7142を準拠した屈折率が1.52~1.54である環状ポリオレフィン(A)5~95重量%、およびJIS K7142を準拠した屈折率が1.52~1.53、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーによる分子量測定において重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)が2~7の範囲であり、分子量分別した際のMnが10万以上のフラクション中に炭素数6以上の長鎖分岐を主鎖1000炭素数あたり0.15個以上有するエチレン系重合体(B)5~95重量%を含む樹脂組成物からなり、酸素バリア層が、80℃のDMSO-dに不溶であるまたはFT-IR測定において1643cm-1、1550cm-1の吸収ピークを示すエチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)からなる多層フィルム。
[2] シーラント層を最表面に有する上記[1]に記載の多層フィルム。
[3] 耐熱層、接着層1、酸素バリア層、接着層2、シーラント層をこの順で有する、上記[1]又は[2]に記載の多層フィルム。
[4] 接着層2とシーラント層の間にさらに中間層を有する上記[3]に記載の多層フィルム。
[5] 耐熱層および中間層がポリオレフィン樹脂である上記[4]に記載の多層フィルム。
[6] 環状ポリオレフィン(A)が、
(i)ASTM D1238を準拠し、260℃、21.18Nにて測定したメルトマスフローレート(MFR)が10~30g/10分、
(ii)ISO 1133を準拠し、280℃、21.2Nにて測定したメルトマスフローレート(MFR)が10~60g/10分、または
(iii)ISO 1133を準拠し、230℃、21.18Nにて測定したメルトボリュームフローレート(MVR)では10~60cm/10minのいずれかを少なくとも一つ以上満たすものであり、
エチレン系重合体(B)がJIS K 6922-1に準拠し、190℃、荷重21.18Nで測定したメルトマスフローレート(MFR)が0.1~15g/10分である上記[1]~[5]のいずれかに記載の多層フィルム。
[7] 環状ポリオレフィン(A)が、下記構造式(1)で示される単位を含む重合体である上記[1]~[6]のいずれかに記載の多層フィルム。
【0021】
【化1】
【0022】
(上記式(1)中、Ra、Rbは、水素原子又は有機基を表し、RaとRbはそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、互いに結合して環を形成してもよい。mは1以上の整数、nは0以上の整数である。)
[8] 環状ポリオレフィン(A)が、下記構造式(3)で示される単位を30モル%以上含む重合体である上記[7]に記載の多層フィルム。
【0023】
【化2】
【0024】
[9] 環状ポリオレフィン(A)が、下記構造式(4)で示される単位を20モル%以上含む多元共重合体である上記[8]に記載の多層フィルム。
【0025】
【化3】
【0026】
[10] 環状ポリオレフィン(A)が、下記構造式(5)で示される単位を10モル%以上含む共重合体である上記[7]に記載の多層フィルム。
【0027】
【化4】
【0028】
[11] 環状ポリオレフィン(A)が、上記構造式(4)で示される単位として、その立体異性体であるエンド型が50モル%以上、エキソ型が50モル%未満を含む多元共重合体である、上記[9]に記載の多層フィルム。
[12] エチレン系重合体(B)が、JIS K6922-1に準拠して密度勾配管法で測定した密度が930~960kg/mのエチレン系重合体である、上記[1]~[11]のいずれかに記載の多層フィルム。
[13] エチレン系重合体(B)が、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーによる分子量測定において2つのピークを示すものである、上記[1]~[12]のいずれかに記載の多層フィルム。
[14] シーラント層が、環状ポリオレフィン(A)が50~90重量%、およびエチレン系重合体(B)が10~50重量%を含む樹脂組成物からなる、上記[1]~[13]のいずれかに記載の多層フィルム。
[15] シーラント層が、環状ポリオレフィン樹脂(A)及びエチレン系重合体(B)100重量部に対して、分子量分別した際のMnが10万以上のフラクション中に炭素数6以上の長鎖分岐を主鎖1000炭素数あたり0.14個以下有する高密度ポリエチレン(C)20~300重量部をさらに含む樹脂組成物からなる、上記[1]~[14]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[16] 高密度ポリエチレン(C)が、JIS K6922-1に準拠して密度勾配管法で測定した密度が940~970kg/m、JIS K 6922-1に準拠し、190℃、荷重21.18Nで測定したメルトマスフローレートが0.1~15g/10分のものである、上記[15]に記載の多層フィルム。
[17] 高密度ポリエチレン(C)が、Mw/Mnが2.0~3.5、Mnが25,000以上のものである、上記[15]又は[16]に記載の多層フィルム。
[18] 上記[1]~[17]のいずれかに記載の多層フィルムからなり、シーラント層を接液面に有する容器。
[19] 医療用又は食品用である上記[18]に記載の容器。
【発明の効果】
【0029】
本発明の一態様である多層フィルムは、高い透明性を維持させることができ、高い透明性を維持し、有効成分である脂溶性ビタミンを安定して保持させる性能を発現し、滅菌処理後においても酸素バリア性および易剥離シール性を発現させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】実施例でヒートシールしたサンプルを121℃で20分間滅菌処理した後、シール強度を測定し、シール強度とシール温度の関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0032】
本発明の一態様である多層フィルムは、少なくともシーラント層及び酸素バリア層を有する。シーラント層は最表面に有することが好ましい。
【0033】
シーラント層は、ガラス転移温度125℃以上、JIS K7142を準拠した屈折率が1.52~1.54である環状ポリオレフィン(A)5~95重量%、およびJIS K7142を準拠した屈折率が1.52~1.53、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーによる分子量測定において重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)が2~7の範囲であり、分子量分別した際のMnが10万以上のフラクション中に炭素数6以上の長鎖分岐を主鎖1000炭素数あたり0.15個以上有するエチレン系重合体(B)5~95重量%を含む樹脂組成物からなるものである。
【0034】
環状ポリオレフィン(A)は、ガラス転移温度125℃以上、JIS K7142を準拠した屈折率が1.52~1.54である環状ポリオレフィンであり、環状オレフィン成分を重合成分として含むものであり、環状オレフィン成分を主鎖に含むポリオレフィン樹脂であり、ガラス転移温度125℃以上、JIS K7142を準拠した屈折率が1.52~1.54である環状ポリオレフィンであれば、特に限定されない。ここで、ガラス転移温度が125℃未満の環状ポリオレフィンである場合、得られる樹脂組成物は耐熱性に劣るものとなり、容器等とした場合の滅菌処理の際に有効成分の含有量の維持に課題を発生しやすいものとなる。また、屈折率が1.52~1.54の範囲を外れる環状ポリオレフィンである場合、得られる組成物は透明性に課題を発生しやすいものとなる。環状ポリオレフィンとしては、例えば下記構造式(1)で示される単位を有する重合体(以下「ポリマー(1)」と称す場合がある。)及び/又は下記構造式(2)で示される単位を有する共重合体(以下「ポリマー(2)」と称す場合がある。)が挙げられる。特にポリマー(1)を用いることがフィルムを成膜した際に外観不良を起こしにくいために好ましい。なお、ポリマー(2)を用いても、成形温度、スクリューの回転数、スクリューのデザインなどのフィルムを成膜する条件を適切な条件に設定すれば、外観不良を防止可能であることから、ポリマー(2)の使用を妨げるものではない。
【0035】
【化5】
【0036】
【化6】
【0037】
(上記式(1)中、Ra、Rbは水素原子又は有機基を表し、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、互いに結合して環を形成してもよい。nは0以上の整数である。
【0038】
上記式(2)中、Rc及びRdは水素原子又は有機基を表し、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、互いに結合して環を形成してもよい。nは0以上の整数である。)
なお、上記Ra、Rb、Rc、Rdの有機基としては、炭素数1~8の炭化水素残基、又はハロゲン、エステル、ニトリル、ピリジル等の極性基が挙げられる。
【0039】
ポリマー(1)は不飽和環状オレフィンモノマーの開環メタセシス重合体の水素添加物であり、該不飽和環状オレフィンモノマーとしては、例えばシクロブテン、シクロペンテン、シクロオクテン、シクロドデセンなどの単環シクロオレフィンおよび置換基を有するそれらの誘導体や、ノルボルネン環を有する置換および未置換の二環もしくは三環以上の多環環状オレフィンモノマー(以下、ノルボルネン系モノマーと記載することがある)が挙げられる。製造適性及び内容物適性の観点から、中でもノルボルネン系モノマーが好適に用いられる。
【0040】
一方、ポリマー(2)はエチレンと不飽和環状オレフィンモノマーとの共重合体である。
【0041】
ポリマー(1)及びポリマー(2)を構成する不飽和環状オレフィンモノマーとしては、上記のノルボルネン系モノマーであることが好ましく、該ノルボルネン系モノマーとしてより具体的には、例えば、ノルボルネン、ノルボルナジエン、メチルノルボルネン、ジメチルノルボルネン、エチルノルボルネン、塩素化ノルボルネン、クロロメチルノルボルネン、トリメチルシリルノルボルネン、フェニルノルボルネン、シアノノルボルネン、ジシアノノルボルネン、メトキシカルボニルノルボルネン、ピリジルノルボルネン、ナヂック酸無水物、ナヂック酸イミドなどの二環シクロオレフィン;ジシクロペンタジエン、ジヒドロジシクロペンタジエンやそのアルキル、アルケニル、アルキリデン、アリール置換体などの三環シクロオレフィン;ジメタノヘキサヒドロナフタレン、ジメタノオクタヒドロナフタレンやそのアルキル、アルケニル、アルキリデン、アリール置換体などの四環シクロオレフィン;トリシクロペンタジエンなどの五環シクロオレフィン;ヘキサシクロヘプタデセンなどの六環シクロオレフィンなどが挙げられる。また、ジノルボルネン、二個のノルボルネン環を炭化水素鎖又はエステル基などで結合した化合物、これらのアルキル、アリール置換体などのノルボルネン環を含む化合物等を用いることも可能である。
【0042】
ポリマー(1)の製造方法は特に限定されることなく、公知の種々の製造方法が採用可能である。ポリマー(1)は、例えば、上記の不飽和環状オレフィンモノマー、好ましくはノルボルネン系モノマーを開環重合した後、生成した重合体が有するオレフィン性不飽和結合部分を水素化することによって製造することができる。該開環重合は、例えば、不飽和環状オレフィンモノマーを、遷移金属化合物又は白金族金属化合物と有機アルミニウム化合物等の有機金属化合物を含む触媒系において、必要に応じて脂肪族又は芳香族の第三級アミン等の添加剤の存在下に、-20~100℃の範囲内の温度、0.01~50kg/cmGの範囲内の圧力で行うことができる。また該水素化は、通常の水素化触媒の存在下で行うことができる。
【0043】
ポリマー(1)としては、上記構造式(1)で示される単位であれば、異なる構造の単位を複数含む重合体であってもよい。また、上記構造式(1)で示される単位の中でも、嵩高い置換基を導入したことによる非晶性で無色透明となる点から、下記構造式(3)で表される単位を含むことが好ましく、より具体的には、分子中に下記構造式(3)で表される単位を30モル%以上含む重合体であることが好ましい。さらに分子中に下記構造式(3)で示される単位を30モル%以上、かつ、下記構造式(4)で示される単位を20モル%以上含む多元共重合体が好ましく、特に、下記構造式(3)よりもさらに嵩高い置換基を導入したことによりガラス転移温度が上昇する下記構造式(5)で示される単位を10モル%以上をも含む多元共重合体であることが好ましい。そして、下記構造式(4)で示される単位を含む際には、立体異性体としてエンド異性体及びエキソ異性体が存在し、その際には、耐熱性が優れ、高温時の変形を小さくすることが可能となることから、エンド-エキソ異性体の組成比は、エンド型が50モル%以上、好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上の多元共重合体であることが好ましい。
【0044】
【化7】
【0045】
【化8】
【0046】
【化9】
【0047】
一方、ポリマー(2)を構成する単位としてのエチレン残基単位と不飽和環状オレフィンモノマー残基単位、特にノルボルネン系モノマー残基単位の割合は、エチレン残基単位/不飽和環状オレフィンモノマー残基単位のモル比として、エチレン残基単位/不飽和環状オレフィンモノマー残基単位が80/20~30/70の範囲であることが好ましい。この範囲においてエチレン残基単位が少ないほどポリマー(2)のガラス転移温度が高くなり耐熱性に優れたものとなる傾向にあり、また、この範囲においてエチレン残基単位が多いほどポリマー(2)の成形性が良好となる傾向にあり、また靭性が優れたものとなる傾向にある。
【0048】
ポリマー(2)の製造方法は特に限定されることなく、公知の種々の製造方法を採用することができる。ポリマー(2)は、例えば、エチレン及び不飽和環状オレフィンモノマー、特にノルボルネン系モノマーを、液相で共重合させることによって製造することができる。該液相での共重合は、例えば、可溶性バナジウム化合物と有機アルミニウム化合物とからなる触媒の存在下、シクロヘキサン等の炭化水素溶媒中で、-50~100℃の範囲内の温度、0.01~50kg/cmGの範囲内の圧力で行うことができる。
【0049】
環状ポリオレフィン(A)は、成形性、靭性の観点から、(i)ASTM D1238 (260℃、21.18N)に準拠したメルトマスフローレート(MFR)では10~30g/10min、(ii)ISO 1133 (280℃、21.2N))に準拠したMFRでは10~60g/10min、または(iii)ISO 1133 (230℃、21.18N))に準拠したメルトボリュームフローレート(MVR)では10~60cm/10minのいずれかを1つ以上満たすことが好ましい。
【0050】
このような環状ポリオレフィン(A)は市販品として入手可能であり、ポリマー(1)としては、例えば、日本ゼオン(株)製の商品名「Zeonex(登録商標)」、「Zeonor(登録商標)」、JSR(株)製の商品名「ARTON(登録商標)」等が挙げられる。
【0051】
また、ポリマー(2)としては、例えば三井化学株式会社製の「アペル(登録商標)」、TOPAS Advanced Polymers社製の「TOPAS(登録商標)」等が挙げられる。
【0052】
環状ポリオレフィン(A)としては、ポリマー(1)の1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、ポリマー(2)の1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、ポリマー(1)の1種又は2種以上とポリマー(2)の1種又は2種以上を併用してもよい。
【0053】
環状ポリオレフィン(A)としては、フィルムを成膜する条件の設定幅が広く、外観不良を起こしにくいポリマー(1)が好ましい。環状ポリオレフィン(A)が、上記構造式(1)で示される単位を含むものの中でも、ガラス転移温度を高くすることが可能であることから、上記構造式(3)で示される単位を30モル%以上含む重合体であることが好ましく、特に上記構造式(3)で示される単位を30モル%以上、かつ、上記構造式(4)で示される単位を20モル%以上含む多元共重合体であることが好ましく、更に上記構造式(3)で示される単位30モル%以上、上記構造式(4)で示される単位20モル%以上、および、上記構造式(5)で示される単位10モル%以上含む多元共重合体であることであることが好ましい。また、環状ポリオレフィン(A)の上記構造(4)であらわされるものの中でも、耐熱性が優れ、高温時の変形を小さくすることが可能である、エンド型が50モル%以上、かつ、エキソ型が50モル%未満含むものであることが好ましい。
【0054】
エチレン系重合体(B)は、JIS K7142を準拠した屈折率が1.52~1.53、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーによる分子量測定において重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)が2~7の範囲であり、分子量分別した際のMnが10万以上のフラクション中に炭素数6以上の長鎖分岐を主鎖1000炭素数あたり0.15個以上有するエチレン系重合体であり、例えばエチレン単独重合体、エチレン-α-オレフィン共重合体等のポリマーである。このようなエチレン系重合体は、例えばメタロセン系触媒によるエチレンの重合又はコポリマーとの共重合により得ることができる低圧法エチレン系重合体を挙げることができ、より具体的には、特開2012-126862号公報、特開2012-126863号公報、特開2012-158654号公報、特開2012-158656号公報、特開2013-28703号公報等に記載の方法により得ることができる。ここで、屈折率が1.52~1.53の範囲を外れるものである場合やエチレン系重合体でない場合、得られる組成物は透明性に課題を発生しやすいものとなる。また、Mw/Mnが7を超えるものである場合、得られる組成物は耐熱性に劣るものとなる。
【0055】
該エチレン系重合体(B)は、得られる樹脂組成物の溶融張力が高くフィルムとする場合、成形加工性に優れるものとなることから分子量分別で得られたMnが10万以上のフラクションの炭素数6以上の長鎖分岐数が主鎖1000炭素数あたり0.15個以上有するものである。
【0056】
該エチレン系重合体(B)は、得られる樹脂組成物がフィルム、ラミネート等の成形加工性に優れるものとなることから、JIS K6922-1に準拠し、190℃、荷重21.18Nで測定したMFRが0.1~15g/10分であることが好ましく、特に0.5~10.0g/10分、更に1.0~5.0g/10分であることが好ましい。
【0057】
該エチレン系重合体(B)は、得られる樹脂組成物が特に耐熱性、透明性に優れるものとなることからJIS K6922-1に準拠した密度が930~960kg/mの範囲であることが好ましく、特に935~955kg/m、更に940~950kg/mの範囲であることが好ましい。
【0058】
該エチレン系重合体(B)は、特に透明性に優れるものとなることからGPCによる分子量測定において2つのピークを示すものであることが好ましい。ピークトップ分子量(Mp)はGPC測定によって得られた分子量分布曲線を後述の方法で2個のピークに分割し、高分子量側のピークと低分子量側のピークのトップ分子量を評価し、その差が100,000以上である場合を2つのMpを有するとした。100,000未満である場合は、実測された分子量分布曲線のトップ分子量を1つのMpとした。
【0059】
分子量分布曲線の分割方法は以下のとおりに行った。GPC測定によって得られた、分子量の対数であるLogMに対して重量割合がプロットされた分子量分布曲線のLogMに対して、標準偏差が0.30であり、任意の平均値(ピークトップ位置の分子量)を有する2つの対数分布曲線を任意の割合で足し合わせることによって、合成曲線を作成する。さらに、実測された分子量分布曲線と合成曲線との同一分子量(M)値に対する重量割合の偏差平方和が最小値になるように、平均値と割合を求める。偏差平方和の最小値は、各ピークの割合がすべて0の場合の偏差平方和に対して0.5%以下にした。偏差平方和の最小値を与える平均値と割合が得られた時に、2つの対数正規分布曲線に分割して得られるそれぞれの対数分布曲線のピークトップの分子量をMpとした。
【0060】
該エチレン系重合体(B)は、GPCにより測定した数平均分子量(Mn)が15,000以上であることが好ましく、さらに好ましくは15,000~100,000、特に15,000~50,000が好ましい。Mnが15,000以上である場合、得られたフィルムの強度が高くなる。
【0061】
また、該エチレン系重合体(B)は、成形加工時の押出負荷が小さく、得られたフィルムの外観(表面肌)が良好な樹脂組成物となることから分子量分別で得られたMnが10万以上のフラクションの割合が、エチレン系重合体(B)全体の40%未満であることが好ましい。
【0062】
シーラント層に用いる樹脂組成物は、該環状ポリオレフィン(A)5~95重量%及び該エチレン系重合体(B)5~95重量%を含むものであり、特に薬液の安定性に優れる樹脂組成物となることから該環状ポリオレフィン(A)50~90重量%及び該エチレン系重合体(B)10~50重量%を含むものであることが好ましい。ここで、環状ポリオレフィン(A)が5重量%未満である場合、得られる組成物は耐熱性に劣るものとなるとなる。一方、95重量%を超える場合、耐衝撃性に劣るものとなる。なお、上記の環状ポリオレフィン(A)及びエチレン系重合体(B)の含有量は、これらの合計を100重量%としたときの割合を示すものである。
【0063】
シーラント層に用いる樹脂組成物は、容器等とした際に加熱処理により変形しない等の耐熱性が高くなると共に、透明性を維持したものとなることから、さらに分子量分別した際のMnが10万以上のフラクション中に長鎖分岐を主鎖1000炭素数あたり0.14個以下有する、高密度ポリエチレン(C)を含んでいることが好ましい。高密度ポリエチレン(C)としては如何なるものであってもよく、例えば、エチレン単独重合体、またはエチレンとα-オレフィンの共重合体が挙げられる。該環状ポリオレフィンと該エチレン系重合体の合計100重量部に対し、高密度ポリエチレン(C)を20~300重量部、特に20~60重量部含むものであることが好ましい。中でも、成形加工時の押出機の負荷が低く、成形加工性に優れる樹脂組成物となることから、JIS K6922-1に準拠し、190℃、荷重21.18Nで測定したメルトマスフローレート(以下、MFRという)が0.1~15g/10分であることが好ましく、特に0.5~10.0g/10分、さらに0~5.0g/10分であることが好ましい。
【0064】
また、該高密度ポリエチレン(C)は、加熱処理により容器が変形しない等耐熱性が高くなると共に、透明性の低下が小さくなる樹脂組成物となることからJIS K6922-1に準拠した密度が940~970kg/mであることが好ましく、特に945~970kg/m、更に950~965kg/mであることが好ましい。さらに、成形時の膜揺れ等の成形性の課題が発生しにくく、透明性に優れる樹脂組成物となることから、Mw/Mnが2.0~3.5の範囲であることが好ましく、Mnが25000以上であることが好ましい。
【0065】
該高密度ポリエチレン(C)としては、市販品として入手したものであってもよく、例えば、東ソー(株)製(商品名)ニポロンハード 5700、8500、8022等や東ソー(株)製(商品名)ニポテック06S81H、YK47等を挙げることができる。
【0066】
また、本発明に関わる高密度ポリエチレン(C)は、例えばスラリー法、溶液法、気相法等の製造法により製造することが可能である。該高密度ポリエチレン(C)を製造する際には、一般的にマグネシウムとチタンを含有する固体触媒成分及び有機アルミニウム化合物からなるチーグラー触媒、シクロペンタジエニル誘導体を含有する有機遷移金属化合物と、これと反応してイオン性の錯体を形成する化合物及び/又は有機金属化合物からなるメタロセン触媒、バナジウム系触媒等を用いることができ、該触媒によりエチレンを単独重合またはエチレンとα-オレフィンを共重合することにより製造可能である。α-オレフィンとしては、一般にα-オレフィンと称されているものでよく、プロピレン、ブテン-1、ヘキセン-1、オクテン-1、4-メチル-1-ペンテン等の炭素数3~12のα-オレフィンであることが好ましい。エチレンとα-オレフィンの共重合体としては、例えばエチレン・ヘキセン-1共重合体、エチレン・ブテン-1共重合体、エチレン・オクテン-1共重合体等が挙げられる。
【0067】
シーラント層に用いる樹脂組成物は、前述の環状ポリオレフィン(A)、エチレン系重合体(B)、場合によっては、高密度ポリエチレン(C)を、従来公知の方法、例えばヘンシェルミキサー、V-ブレンダー、リボンブレンダー、タンブラーブレンダー等で混合する方法、あるいはこのような方法で得られた混合物をさらに一軸押出機、二軸押出機、ニーダー、バンバリーミキサー等で溶融混練することにより得ることができ、その際にはペレット等の造粒物として得ることができる。
【0068】
シーラント層に用いる樹脂組成物には、本発明の効果を著しく損なわない範囲において、通常用いられる公知の添加剤、例えば酸化防止剤、中和剤、帯電防止剤、滑剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、有機系あるいは無機系の顔料、紫外線吸収剤、分散剤等を適宜必要に応じて配合することができる。本発明に関わる樹脂組成物に上記の添加剤を配合する方法は特に制限されるものではないが、例えば、重合後のペレット造粒工程で直接添加する方法、また、予め高濃度のマスターバッチを作製し、これを成形時にドライブレンドする方法等が挙げられる。
【0069】
また、シーラント層に用いる樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない程度の範囲内で、高圧法低密度ポリエチレン、エチレン-プロピレン共重合体ゴム、ポリ-1-ブテン等の他の熱可塑性樹脂を配合して用いることもできる。
【0070】
酸素バリア層には、80℃の重ジメチルスルホキシド(DMSO-d)に不溶、またはFT-IR測定を行った場合にポリアミドに由来する吸収ピーク(1643cm-1、1550cm-1)を有する、EVOH(D)(以下、耐熱EVOHということがある。)を用いる。通常のEVOH(E)は、ポリアミド又は架橋促進剤を添加させずにエチレンと酢酸ビニルとを共重合した後、酢酸ビニル成分を加水分解してビニルアルコール基を生じさせることにより製造されるが、該耐熱EVOH(D)は、ポリアミド又は架橋促進剤を添加しながらエチレンと酢酸ビニルとを共重合した後、酢酸ビニル成分を加水分解してビニルアルコール基を生じさせることにより製造される。耐熱EVOH(D)を用いた酸素バリア層を設けることで、酸素バリア性が向上するとともに、通常のEVOH(E)を用いた場合に課題となる滅菌処理を行った場合の白化や酸素バリア性の低下を抑制できる。該耐熱EVOH(D)としては、市販品として入手したものであってもよく、例えば、クラレ(株)製(商品名)エバールFR101B、LR171B等を挙げることができる。
【0071】
多層フィルムは、シーラント層、酸素バリア層の他に、本発明の効果を損なわない範囲で酸素吸収層や紫外線吸収層等を有してもよい。
【0072】
本発明の一態様である多層フィルムは、その他の樹脂層、接着層1、酸素バリア層、接着層2、シーラント層をこの順に有するものが好まく、その他の樹脂層は耐熱層であることが好ましい。
【0073】
接着層1,2は、接着樹脂を用いた接着層であり、接着層を設けるとデラミの発生が防止されるために好ましい。接着層に用いる接着樹脂としては、本発明の効果を著しく損なわずデラミが防止できるものであれば特に限定されるものではない。接着樹脂としては、例えば、酸変性LLDPEである東京材料(株)製(商品名)オレバックOE825、三菱ケミカル(株)製(商品名)モディックM553、M512等が挙げられる。また、接着層に用いる樹脂は、前述の接着樹脂にポリエチレン樹脂等の熱可塑性樹脂を本発明の効果を損なわない範囲で配合して使用しても良い。
また、接着層2とシーラント層の間に中間層を有することが好ましい。
【0074】
耐熱層および中間層は、ポリオレフィン樹脂であることが好ましい。
【0075】
耐熱層は、ポリオレフィン樹脂であることが好ましく、121℃滅菌時に溶融または変形しない耐熱性を有することが好ましい。
【0076】
中間層は、ポリオレフィン樹脂であることが好ましく、透明性や柔軟性に優れた樹脂を用いることが好ましい。
【0077】
各層の層厚みは特に限定されず、必要に応じて適宜決定することができる。シーラント層、接着層1、酸素バリア層および接着層2は、本発明の効果を損なわない範囲で厚みを薄く設定することで、フィルムの耐衝撃性や柔軟性および製造コストが良好となるために好ましい。シーラント層の厚みは、例えば3~100μm、好ましくは5~50μm、更に好ましくは10~30μmである。接着層1および接着層2の厚みは、例えば3~50μm、好ましくは3~30μm、更に好ましくは5~20μmである。酸素バリア層の厚みは、例えば3~100μm、好ましくは3~50μm、更に好ましくは5~30μmである。
【0078】
多層フィルムは、特に耐衝撃性、透明性、耐熱性に優れる容器、包装材を構成するフィルムとして適したものである。その際のフィルムの厚みは特に限定されず、必要に応じて適宜決定することができ、例えば3~5000μm、好ましくは5~2000μmを挙げることができ、特に医療用ないし食品用として用いる場合、10~500μm、好ましくは20~300μmを挙げることができる。
【0079】
多層フィルムの製造方法としては、特に制限はなく、例えば押出成形法、ブロー成形法、射出成形法、カレンダー成形法、プレス成形法、インフレーション成形法等の一般的な方法が挙げられる。
【0080】
そして、多層フィルムの用途としては、医療関係全般に用いることができ、例えば輸液用フィルム、血液用フィルム、更には、輸液用容器、血液容器、医薬容器等が挙げられる。また、食品関係全般にも用いることができ、例えばレトルト容器用フィルム、シュリンクフィルムなどの食品用フィルムが挙げられる。
【実施例0081】
以下に、実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により制限されるものではない。
A.樹脂
実施例、比較例に用いた樹脂の諸性質は下記の方法により評価した。
【0082】
<分子量、分子量分布>
重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、重量平均分子量と数平均分子量の比(Mw/Mn)およびピークトップ分子量(Mp)は、GPCによって測定した。GPC装置(東ソー(株)製(商品名)HLC-8121GPC/HT)およびカラム(東ソー(株)製(商品名)TSKgel GMHhr-H(20)HT)を用い、カラム温度を140℃に設定し、溶離液として1,2,4-トリクロロベンゼンを用いて測定した。測定試料は1.0mg/mlの濃度で調製し、0.3ml注入して測定した。分子量の検量線は、分子量既知のポリスチレン試料を用いて校正した。なお、MwおよびMnは直鎖状ポリエチレン換算の値として求めた。
【0083】
<分子量分別>
分子量分別は、カラムとしてガラスビーズ充填カラム(直径:21mm、長さ:60cm)を用い、カラム温度を130℃に設定して、サンプル1gをキシレン30mLに溶解させたものを注入する。次に、キシレン/2-エトキシエタノールの比率が5/5のものを展開溶媒として用い、留出物を除去する。その後、キシレンを展開溶媒として用い、カラム中に残った成分を留出させ、ポリマー溶液を得る。得られたポリマー溶液に5倍量のメタノールを添加しポリマー分を沈殿させ、ろ過および乾燥することにより、Mnが10万以上である成分を回収した。
【0084】
<長鎖分岐>
長鎖分岐数は、日本電子(株)製JNM-GSX400型核磁気共鳴装置を用いて、13C-NMRによってヘキシル基以上の分岐数を測定した。溶媒はベンゼン-d6/オルトジクロロベンゼン(体積比30/70)である。主鎖メチレン炭素(化学シフト:30ppm)1000個当たりの個数として、α-炭素(34.6ppm)およびβ-炭素(27.3ppm)のピークの平均値から求めた。
【0085】
<密度>
密度は、JIS K6922-1に準拠して密度勾配管法で測定した。
【0086】
<MFR>
MFRは、JIS K6922-1に準拠して測定を行った。
【0087】
<溶融張力>
溶融張力の測定用試料は、サンプルに耐熱安定剤(チバスペシャリティケミカルズ社製、イルガノックス1010TM;1,500ppm、イルガフォス168TM;1,500ppm)を添加したものを、インターナルミキサー(東洋精機製作所製、商品名ラボプラストミル)を用いて、窒素気流下、190℃、回転数30rpmで30分間混練したものを用いた。
【0088】
溶融張力の測定は、バレル直径9.55mmの毛管粘度計(東洋精機製作所、商品名キャピログラフ)に、長さが8mm,直径が2.095mmのダイスを流入角が90°になるように装着し測定した。温度を160℃に設定し、ピストン降下速度を10mm/分、延伸比を47に設定し、引き取りに必要な荷重(mN)を溶融張力とした。最大延伸比が47未満の場合、破断しない最高の延伸比での引き取りに必要な荷重(mN)を溶融張力とした。
【0089】
<構造解析>
実施例に挙げたなか、一部の環状ポリオレフィンにおいて、一次構造を核磁気共鳴分光法(以下、単に「NMR」と記載することもある)により解析した。プロトンNMR(以下、単に「1H NMR」と記載することもある)測定では、BRUKER製 AVANCE III HD500型核磁気共鳴装置を用いて、観測核は1H(500.1MHz)、積算回数は128回、溶媒はトルエン-d8、濃度は2%(w/v)、温度は100℃に設定した。炭素13NMR(以下、単に「13C NMR」と記載することもある)測定では、BRUKER製 AVANCE III HD500型核磁気共鳴装置を用いて、観測核は13C(125.8MHz)、積算回数は1、024回、溶媒はトルエン-d8、濃度は10%(w/v)、温度は100℃に設定し、測定モードは逆ゲーテッドデカップリング法とした。また、構造の詳細な解析のために、二次元NMR(以下、単に「2D NMR」と記載することもある)の異種核一量子相関分光法(以下、単に「HSQC」と記載することもある)、異種核多量子相関分光法(以下、単に「HMBC」と記載することもある)、Total correlation spectroscopy(以下、単に「TOCSY」と記載することもある)も活用した。2D NMRでは、BRUKER製 AVANCE III HD500型核磁気共鳴装置を用いて、観測核は1H(500.1MHz)ないし13C(125.8MHz)、溶媒はトルエン-d8、濃度は10%(w/v)、温度は100℃に設定し、積算回数は、HSQCが8回、HMBCが16回、HSQC-TOCSYが16回とした。
【0090】
<屈折率>
屈折率の測定は、JIS K7142(A法)に準拠して、多波長アッベ屈折計((株)アタゴ、型式DR-M2)に、干渉フィルターを用いて基準波長589nmの屈折率を測定した。測定室温は、23℃に設定した。測定用フィルム試料は、幅が5~8mm、長さが20~40mm、厚みが約100μmの寸法のものを用いた。中間液には、1-ブロモナフタレンを用いた。なお、測定用フィルムは、樹脂に係るペレットを圧縮成形機 AWFA.50(神藤金属工業社製)にて、加熱温度を180~230℃までの任意の温度に設定し、加熱圧力10kgf/cm、加熱時間10分にて加熱圧縮後、冷却温度30℃、冷却圧力10kgf/cm、冷却時間4分で固化させて100μmのフィルムとしたものを用いた。
【0091】
実施例、比較例では、下記の方法により製造した樹脂および市販品を用いた。
【0092】
<DMSO-dへの溶解性>
EVOHペレットを40~45mg秤量し、DMSO-dを0.8mL加え、80℃で加熱溶解した。1時間の加熱溶解後にEVOHペレットが完全に溶解した場合に溶解したと評価した。また、1時間の加熱溶解後にEVOHペレットが完全に溶解しておらず、ペレットが変形あるいは縮小していても溶け残りが認められた場合に不溶と評価した。
<FT-IR>
EVOHペレットをマイクロローラーにより圧延、薄膜化した。作製した薄膜をBaF結晶板に密着させた試料を日本分光(株)製顕微FT-IR(IRT-3000、FT/IR-4100)を用いて、4000cm-1~650cm-1の範囲で測定し、1643cm-1、1550cm-1の吸収ピークの有無を評価した。
(1)環状ポリオレフィン
下記市販品を用いた。
【0093】
(A)-1:日本ゼオン(株)製 (商品名)Zeonex 690R([MFR(ISO 1133 (280℃、21.2N))]=17g/10min、[ガラス転移温度(JIS K7121)]=136℃)
(A)-2:日本ゼオン(株)製 (商品名)Zeonor 1430R([MFR(ISO 1133 (280℃、21.2N))]=30g/10min、[ガラス転移温度(JIS K7121)]=133℃)
(A)-3:日本ゼオン(株)製 (商品名)Zeonor 1020R([MFR(ISO 1133 (280℃、21.2N))]=20g/10min、[ガラス転移温度(JIS K7121)]=102℃)
(A)-4:TOPAS Advanced Polymers製 (商品名)TOP
AS 6013F-04 ([MVR(ISO 1133 (230℃、21.18N))]=12cm/10min、[ガラス転移温度(ISO 11357-1,-2,―3)]=138℃)
(A)-5:TOPAS Advanced Polymers製 (商品名)TOP
AS 8007F-04 ([MVR(ISO 1133 (230℃、21.18N))]=12cm/10min、[ガラス転移温度(ISO 11357-1,-2,―3)]=78℃)
(A)-6:三井化学(株) (商品名)アペル APL6013T([MFR(ASTM D1238 (260℃、21.18N))]=15g/10min、[ガラス転移温度(三井化学法)]=125℃)
表1に(A)-1、(A)-3に含まれる構造単位のモル%を示す。
【0094】
表2に環状ポリオレフィン(A)-1~(A)-6の屈折率を示す。
【0095】
【表1】
【0096】
【表2】
【0097】
(2)エチレン系重合体
下記の製造方法で得られたもの又は市販品を用いた。
【0098】
(B)-1:下記の製造方法で得られた。
[重合触媒の調製]
300mLのフラスコを窒素置換した後にメジアン径14μmを有するジメチルヘキサコシルアミン(MeN(C2653)変性合成ヘクトライト25.0gとヘキサンを108mL入れ、次いでジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)(2、4,7-トリメチル-1-インデニル)ジルコニウムジクロリドを0.4406g、及び20%トリイソブチルアルミニウム142mLを添加し、ヘキサンにて5回洗浄し、重合触媒懸濁液を得た(固形重量分:12.0重量%)。
[(B)-1の製造]
2Lのオートクレーブにヘキサンを1.2L、20%トリイソブチルアルミニウムを1.0mL、[重合触媒の調製]で得られた触媒懸濁液を75mg(固形分9.0mg相当)加え、80℃に昇温後、1-ブテンを8.3g加え、分圧が0.85MPaになるようにエチレン/水素混合ガスを連続的に供給した(エチレン/水素混合ガス中の水素の濃度:850ppm)。90分経過後58.5gの低圧法エチレン系重合体を得た。
【0099】
得られた低圧法エチレン系重合体のMFRは4.0g/10分、密度は941kg/mであった。また、数平均分子量は21200、重量平均分子量は74000であり、分子量41500および217100の位置にピークが観測された。また、分子量分別した際のMn10万以上のフラクション中に含まれる長鎖分岐数は、主鎖1000炭素数あたり0.18個であった。また、分子量分別した際のMn10万以上のフラクションの割合は、全ポリマーの14.8重量%であった。また、溶融張力(MS)は49mNであった。評価結果を表3に示す。
【0100】
(B)-2:下記の製造方法で得られた。
[重合触媒の調製]
300mLのフラスコを窒素置換した後にメジアン径15μmを有するジメチルヘベニルアミン変性合成ヘクトライト25.0gとヘキサンを108mL入れ、次いでジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)(2,4,7-トリメチルインデニル)ジルコニウムジクロリドを0.4406g、及び20%トリイソブチルアルミニウム142mLを添加して60℃で3時間攪拌した。ヘキサンにて5回洗浄後、重合触媒懸濁液を得た(固形重量分:12.4重量%)。
[(B)-2の製造]
2Lのオートクレーブにヘキサンを1.2L、20%トリイソブチルアルミニウムを1.0mL、[重合触媒の調製]で得られた重合触媒懸濁液を52mg(固形分6.4mg相当)加え、70℃に昇温後、1-ブテンを17.6g加え、分圧が0.80MPaになるようにエチレン/水素混合ガスを連続的に供給した(エチレン/水素混合ガス中の水素の濃度:590ppm)。90分経過後に脱圧し、スラリーを濾別後、乾燥することで61.8gの低圧法エチレン系重合体を得た。
【0101】
得られた低圧法エチレン系重合体のMFRは1.6g/10分、密度は930kg/mであった。また、数平均分子量は17600、重量平均分子量は86700であり、分子量30500および155,300の位置にピークが観測された。また、分子量分別した際のMn10万以上のフラクション中に含まれる長鎖分岐数は、主鎖1000炭素数あたり0.27個であった。また、分子量分別した際のMn10万以上のフラクションの割合は、全ポリマーの20.1重量%であった。また、溶融張力は75mNであった。評価結果を表3に示す。
【0102】
(B)-3:下記の製造方法で得られた。
[(B)-3の製造]
2Lのオートクレーブにヘキサンを1.2L、20%トリイソブチルアルミニウムを1.0mL、B-2で用いた重合触媒懸濁液を70mg(固形分8.4mg相当)加え、80℃に昇温後、1-ブテンを2.4g加え、分圧が0.90MPaになるようにエチレン/水素混合ガスを連続的に供給した(エチレン/水素混合ガス中の水素の濃度:720ppm)。90分経過後に脱圧し、スラリーを濾別後、乾燥することで63.0gの低圧法エチレン系重合体を得た。
【0103】
得られた低圧法エチレン系重合体のMFRは11.5g/10分、密度は954kg/mであった。また、数平均分子量は16200、重量平均分子量は58400であり、分子量28200および181000の位置にピークが観測された。また、分子量分別した際のMn10万以上のフラクション中に含まれる長鎖分岐数は、主鎖1000炭素数あたり0.16個であった。また、分子量分別した際のMn10万以上のフラクションの割合は、全ポリマーの6.8重量%であった。また、溶融張力は38mNであった。評価結果を表3に示す。
【0104】
(B)-4:下記の製造方法で得られた。
[(B)-4の製造]
2Lのオートクレーブにヘキサンを1.2L、20%トリイソブチルアルミニウムを1.0mL、B-2で用いた重合触媒懸濁液を74mg(固形分8.3mg相当)加え、65℃に昇温後、1-ブテンを17.5g加え、分圧が0.75MPaになるようにエチレン/水素混合ガスを連続的に供給した(エチレン/水素混合ガス中の水素の濃度:570ppm)。90分経過後に脱圧し、スラリーを濾別後、乾燥することで51.5gの低圧法エチレン系重合体を得た。
【0105】
得られた低圧法エチレン系重合体のMFRは0.8g/10分、密度は928kg/mであった。また、数平均分子量は17900、重量平均分子量は99300であり、分子量28100および229,100の位置にピークが観測された。また、分子量分別した際のMn10万以上のフラクション中に含まれる長鎖分岐数は、主鎖1000炭素数あたり0.26個であった。また、分子量分別した際のMn10万以上のフラクションの割合は、全ポリマーの25.4重量%であった。また、溶融張力は90mNであった。評価結果を表3に示す。
【0106】
(B)-5:下記の製造方法で得られた。
[(B)-5の製造]
2Lのオートクレーブにヘキサンを1.2L、20%トリイソブチルアルミニウムを1.0mL、B-2で用いた重合触媒懸濁液を90mg(固形分10.4mg相当)加え、65℃に昇温後、1-ブテンを17.5g加え、分圧が0.75MPaになるようにエチレン/水素混合ガスを連続的に供給した(エチレン/水素混合ガス中の水素の濃度:550ppm)。90分経過後に脱圧し、スラリーを濾別後、乾燥することで61.4gの低圧法エチレン系重合体を得た。
【0107】
得られた低圧法エチレン系重合体のMFRは0.08g/10分、密度は926kg/mであった。また、数平均分子量は21900、重量平均分子量は127000であり、分子量31300および247800の位置にピークが観測された。また、分子量分別した際のMn10万以上のフラクション中に含まれる長鎖分岐数は、主鎖1000炭素数あたり0.32個であった。また、分子量分別した際のMn10万以上のフラクションの割合は、全ポリマーの36.9重量%であった。また、溶融張力は140mNであった。評価結果を表3に示す。
【0108】
(B)-6:下記の製造方法で得られた。
[重合触媒の調製]
温度計と還流管が装着された300mLのフラスコを窒素置換した後にメジアン径15μmのジメチルベヘニアルミン変性合成ヘクトライト25.0gをヘキサン165mLに懸濁させ、ジメチルシランジイルビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド0.3485gおよびトリエチルアルミニウムのヘキサン溶液(1.18M)85mLを添加し、1%トリイソブチルアルミニウムのヘキサン溶液200mLにて2回洗浄した。洗浄後の上澄み液を抜き出し、5%トリイソブチルアルミニウムのヘキサン溶液にて全体を250mLとした。次いで、別途ジフェニルメチレン(1-シクロペンタジエニル)(2,7-ジ-tert-ブチル-9-フルオレニル)ジルコニウムジクロライド0.1165gのヘキサン10mL懸濁液に20%トリイソブチルアルミニウムのヘキサン溶液(0.71M)5mlを加えることにより調製した溶液を添加し、ヘキサン200mLにて2回洗浄後、ヘキサンを200mL加えて重合触媒懸濁液を得た(固形重量分:12.0重量%)。
[(B)-6の製造]
2Lのオートクレーブにヘキサンを1.2L、20%トリイソブチルアルミニウムを1.0mL、[重合触媒の調製]で得られた重合触媒懸濁液を125mg(固形分15.0mg相当)加え、85℃に昇温後、1-ブテンを2.4g加え、分圧が0.90MPaになるようにエチレンを連続的に供給した。90分経過後に脱圧し、スラリーを濾別後、乾燥することで45.0gの低圧法エチレン系重合体を得た。
【0109】
得られた低圧法エチレン系重合体のMFRは4.4g/10分であり、密度は951kg/mであった。数平均分子量は9100、重量平均分子量は77100であり、分子量10400および168400の位置にピークが観測された。また、分子量分別した際のMn10万以上のフラクション中に含まれる長鎖分岐数は、主鎖1000炭素数あたり0.24個であった。また、分子量分別した際のMn10万以上のフラクションの割合は、全ポリマーの15.7重量%であった。また、溶融張力210mNであった。評価結果を表3に示す。
(S)-1:下記市販品を用いた。
【0110】
東ソー(株)製、(商品名)ペトロセン 219(MFR=3.0g/10分、密度=934kg/m)(S)-1の基本特性評価結果を表3に示す。
【0111】
【表3】
【0112】
(3)高密度ポリエチレン
下記の製造方法で得られたものを用いた。
(C)-1:下記の製造方法で得られた。
[変性粘土の調製]
脱イオン水4.8L、エタノール3.2Lの混合溶媒に、ジメチルベヘニルアミン;(C2245)(CHN 354gと37%塩酸83.3mLを加え、ジメチルベヘニルアミン塩酸塩溶液を調製した。この溶液に合成ヘクトライト1,000gを加え終夜撹拌し、得られた反応液をろ過した後、固体分を水で十分洗浄した。固体分を乾燥させたところ、1,180gの有機変性粘土を得た。赤外線水分計で測定した含液量は0.8%であった。次に、この有機変性粘土を粉砕し、平均粒径を6.0μmに調製した。
[重合触媒の調製]
5Lのフラスコに、平均粒径を6.0μmのジメチルベヘニルアミン(C2245)(CHN)変性合成ヘクトライト450g、ヘキサン1.4kgを加え、その後トリイソブチルアルミニウムのヘキサン20重量%溶液1.78kg(1.8モル)、ビス(n-ブチル-シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロライド7.32g(18ミリモル)を加え、次に、トリイソブチルアルミニウムのヘキサン1重量%溶液1.78kg(0.09モル)を添加し、ヘキサンで再希釈して全量を4.5Lとし重合触媒を調製した。
[(C)-1の製造]
内容量300Lの重合器に、ヘキサンを135kg/時、エチレンを20.0kg/時、ブテン-1を0.3kg/時、水素5NL/時および[重合触媒の調製]の項で得られた重合触媒を連続的に供給した。また、助触媒として液中のトリイソブチルアルミニウムの濃度を0.93ミリモル/kgヘキサンとなるように、それぞれ連続的に供給した。重合温度は85℃に制御した。得られた高密度ポリエチレン((C)-1)はMFR=1.0g/10分、密度952kg/mであった。(C)-1の基本特性評価結果を表4に示す。
【0113】
(C)-2:下記の製造方法で得られた。
[変性粘土の調製]
(C)-1と同様の方法により変性粘土を調製した。
[重合触媒の調製]
(C)-1と同様の方法により重合触媒を調製した。
[(C)-2の製造]
内容量300Lの重合器に、ヘキサンを135kg/時、エチレンを20.0kg/時、ブテン-1を0.4kg/時、水素8NL/時および[重合触媒の調製]の項で得られた重合触媒を連続的に供給した。また、助触媒として液中のトリイソブチルアルミニウムの濃度を0.93ミリモル/kgヘキサンとなるように、それぞれ連続的に供給した。重合温度は85℃に制御した。得られた高密度ポリエチレン((C)-2)はMFR=3.0g/10分、密度945kg/mであった。(C)-2の基本特性評価結果を表4に示す。
【0114】
【表4】
【0115】
(4)直鎖状低密度ポリエチレン
下記市販品を用いた。
【0116】
(Q)-1:東ソー(株)製 (商品名)ニポロン-Z HF213K(MFR=2.0g/10分、密度=905kg/m、屈折率=1.51)
(5)耐熱EVOH
下記市販品を用いた。
【0117】
(D)-1:クラレ(株)製 (商品名)エバール FR101B(エチレン比率32mol%、融点220℃)
(D)-2:クラレ(株)製 (商品名)エバール LR171B(エチレン比率27mol%、融点220℃)
(D)-1、(D)-2の基礎特性評価結果を表5に示す。
【0118】
【表5】
【0119】
(6)通常EVOH
下記市販品を用いた。
【0120】
(E)-1:クラレ(株)製 (商品名)エバール F171B(エチレン比率32mol%、融点220℃)
(E)-1の基礎特性評価結果を表6に示す。
【0121】
【表6】
【0122】
実施例1乃至12、比較例1乃至12
表7,8に示す樹脂組成物を用いて、下記の方法でフィルムおよび医療容器を製造し、評価した。結果を表9乃至16に示す。
【0123】
【表7】
【0124】
【表8】
【0125】
<フィルム及び医療容器の作製>
水冷式の9層共押出インフレーション成形機(住友重機械モダン(株)製)を用いて、耐熱層および中間層のシリンダ温度180℃、接着層1および接着層2のシリンダ温度200℃、酸素バリア層のシリンダ温度230℃、シーラント層のシリンダ温度260℃、水槽温度15℃、引取速度16m/分でフィルム幅250mm、フィルム厚み250μmの6層フィルムを製造した。尚、各層の厚みは耐熱層/接着層1/酸素バリア層/接着層2/中間層/シーラント層=20μm/10μm/10μm/10μm/180μm/20μmとした。このとき、耐熱層に東ソー(株)製 (商品名)ニポロン-P FY13(MFR=1.1g/10分、密度=950kg/m)、接着層1および接着層2に東京材料(株)製(商品名)オレバックOE825/東ソー(株)製 (商品名)ニポロン-Z HM300K(MFR=1.1g/10分、密度=950kg/m)=80/20重量部でドライブレンドした樹脂組成物、酸素バリア層にEVOH、中間層に直鎖状低密度ポリエチレンである東ソー(株)製 (商品名)ニポロン-P FY12(MFR=1.5g/10分、密度=916kg/m)、シーラント層にシーラント層用樹脂組成物を使用した。次いで、上記6層フィルムから縦200mm×横135mmのサンプルを切出し、シーラント層同士が対向するように2枚重ねて三方の端をヒートシールして袋状にした後、超純水を300ml充填し、ヘッドスペースを50ml設けてヒートシールして滅菌処理用の医療容器を作製した。
<滅菌処理>
上記医療容器を、高温高圧調理殺菌装置((株)日阪製作所社製)を用いて、温度121℃で20分間滅菌処理を行なった。
<フィルム特性の評価>
フィルム特性は下記の方法により評価した。結果を表7乃至14に示した。
【0126】
<透明性>
滅菌処理後の上記6層フィルムからなる医療容器から、幅10mm×長さ50mmの試験片を切出し、紫外可視分光光度計(日本分光株式会社製 型式V-530)を用いて、純水中で波長450nmにおける光線透過率を測定した。滅菌処理後に70%以上の光線透過率が維持される場合を透明性が良好な容器の目安とした。
【0127】
<酸素バリア性>
上記6層フィルムおよび滅菌処理後の上記6層フィルムからなる医療容器から、101.6mm四方の試験片を切出し、MOCON社製酸素透過率測定装置(OX-TRAN 2/22L)を用いて、ISO15105-2に準拠して、20℃、65%RHの条件下で測定した。測定した酸素透過度が5.0cc/(m・d・atm)以下である場合を酸素バリア性が良好である目安とした。
【0128】
<脂溶性ビタミンの安定性試験>
上記6層フィルムの脂溶性ビタミンの吸着抑制性能を評価するために、脂溶性ビタミンとしてトコフェロール酢酸エステルを用いて、実験を行った。
【0129】
2枚の6層フィルムを重ねて、充填液が接する部分の寸法として縦が50mm、横が50mmとなるよう、3方をインパルス式シール機にてヒートシールした後、トコフェロール酢酸エステルが500ppm含有される参天製薬(株)製 サンテ40プラスを12ml充填して、ヒートシールにより密封した。高温高圧調理殺菌装置((株)日阪製作所社製)を用いて、温度121℃で20分間滅菌処理を行なった後、(株)生産日本社製のラミジップ平袋ALタイプ(品番:AL-G)に、三菱ガス化学(株)製のエージレス(品番:ZP-202)2個とエージレスアイ(品番:LSバラ(糸入))2個と同封した。その上で、25℃、60%RHの環境下ないし40℃、75%RHの環境下にて保管した。保管開始時(初期)、1か月および3か月後における容器内のトコフェロール酢酸エステル濃度を高速液体クロマトグラフィで測定し、充填時の濃度に対する割合を残存率として求めた。保管開始時(初期)にトコフェロール酢酸エステル濃度が70%以上に維持される場合を安定性が良好な容器の目安、トコフェロール酢酸エステル濃度が75%以上に維持される場合を安定性が特に良好な容器の目安とした。また、保管開始から1か月後ないし3ヶ月後に、トコフェロール酢酸エステル濃度の低下が60%以上である場合を、保管時の安定性が良好な容器の目安とした。
【0130】
充填液にサンテ40プラスを用いた理由は、以下の通りである。当該容器に、トコフェロール酢酸エステルをポリソルベートないしポリオキシエチレン硬化ヒマシ油の界面活性剤により超純水に溶解させた水溶液を充填して、滅菌などの前記の所定の処理を行った場合、容器および界面活性剤の種類に関わらずトコフェロール酢酸エステル濃度が滅菌処理後に95%以上に維持された。これは、トコフェロール酢酸エステルが界面活性剤のミセルに取り囲まれた状態で水に溶解していることから、トコフェロール酢酸エステルとフィルムの接触が阻まれていることによると考えられる。トコフェロール酢酸エステルとフィルムを接触させるためには、ミセル構造を乱す作用がある構造、具体的にはアルキル鎖のような疎水性部位の両端に、水酸基、スルホニル基、アミノ基などの親水性官能基が結合した化合物の添加が有効であると考えられ、その化合物としてはタウリン、イプシロン-アミノカプロン酸、塩化ベンザルコニウム、パンテノール、ピリドキシン塩酸塩、チアミン塩化物塩酸塩などが該当する。そのため、本願発明では、トコフェロール酢酸エステル、界面活性剤のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、および、当該化合物であるタウリン、イプシロンーアミノカプロン酸が含まれるサンテ40プラスを充填液に用いた。
【0131】
<外観>
滅菌処理後のフィルム表面のシワ、変形およびシーラント層間の融着等を目視により評価し、シワ、変形が見られない場合を4点、若干のシワ、変形が見られる場合を3点、顕著なシワ、変形が見られる場合を2点、内層同士が融着した場合または顕著な白化が認められた場合を1点とした。
【0132】
<滅菌後のシール安定性>
滅菌処理後のシール部の形状を目視により評価した。
○:シール面の形状の変化なし
△:シール面の一部が剥離(シール幅の減少等)
×:シール面が剥離(シール幅が消失)し、内用液の漏出が発生
<滅菌後のシール強度>
ヒートシール部を、シール方向に垂直に幅15mmの短冊形状に切り取り、200mm/分の速度で180°剥離を行い、剥離時に得られる最大値を剥離強度とした。(試験はn=5で行い、平均値を算出した。)滅菌後のシール強度が35N/15mm以上である場合を、容器周縁のヒートシール部の剥離等が起こらないための強シール性が得られる目安とした。
【0133】
<滅菌後のシール温度幅>
内層、すなわちシーラント層同士が対向した上記インフレーションフィルム(円筒状)を、シール圧力を2kg/cm、シール時間を2秒とし、シール温度を1~2℃刻みで変化させてヒートシールしたサンプルを作製した。次いで、各サンプルを121℃で20分間滅菌処理した後、上記<シール強度>の項に記載した方法でシール強度を測定し、シール強度とシール温度の関係を示す、図1のようなグラフ(ヒートシールカーブ)を作成した。このグラフを用いて、シール強度が5~20N/15mmとなるシール温度幅を算出した。シール温度幅が6℃以上である場合を、易剥離シール部のシール強度の変動が少なく、安定した易剥離性が得られる目安とした。
【0134】
【表9】
【0135】
【表10】
【0136】
【表11】
【0137】
【表12】
【0138】
【表13】
【0139】
【表14】
【0140】
【表15】
【0141】
【表16】
図1