(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024009555
(43)【公開日】2024-01-23
(54)【発明の名称】α-グルコシダーゼの一般酸塩基触媒変異酵素
(51)【国際特許分類】
C12N 15/56 20060101AFI20240116BHJP
C12N 9/24 20060101ALI20240116BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240116BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240116BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240116BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240116BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
C12N15/56
C12N9/24 ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】25
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022111170
(22)【出願日】2022-07-11
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100126778
【弁理士】
【氏名又は名称】品川 永敏
(74)【代理人】
【識別番号】100162695
【弁理士】
【氏名又は名称】釜平 双美
(74)【代理人】
【識別番号】100156155
【弁理士】
【氏名又は名称】水原 正弘
(72)【発明者】
【氏名】田上 貴祥
(72)【発明者】
【氏名】藤井 大河
(72)【発明者】
【氏名】楊 恵佳
(72)【発明者】
【氏名】奥山 正幸
(72)【発明者】
【氏名】木村 淳夫
【テーマコード(参考)】
4B050
4B065
【Fターム(参考)】
4B050CC04
4B050CC07
4B050DD03
4B050FF04E
4B050FF14E
4B050LL01
4B050LL02
4B050LL05
4B050LL10
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA62Y
4B065AA72X
4B065AA77X
4B065AA90X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA27
4B065CA41
4B065CA43
4B065CA44
4B065CA50
4B065CA60
(57)【要約】 (修正有)
【課題】糖転移反応を触媒することができる酵素の提供。
【解決手段】下記のいずれかのアミノ酸配列を含み、α-グルコシドに対する加水分解活性を有さず、かつ活性化糖を供与体基質とする糖転移反応を触媒する活性を有するタンパク質:Aspergillus niger由来α-グルコシダーゼ(ANG)のアミノ酸配列において、660位のアミノ酸残基が置換されているアミノ酸配列又はその変異配列、ANGのアミノ酸配列と60%以上の配列同一性を有するα-グルコシダーゼのアミノ酸配列において、前記アミノ酸配列をANGのアミノ酸配列とアライメントしたときのANGのアミノ酸配列における660位に対応する位置のアミノ酸残基が置換されているアミノ酸配列、又はその変異配列、ANGのアミノ酸配列と60%以上の配列同一性を有するα-グルコシダーゼのアミノ酸配列において、一般酸塩基触媒残基が置換されているアミノ酸配列、その変異配列。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)~(g)のいずれかのアミノ酸配列を含み、α-グルコシドに対する加水分解活性を有さず、かつ活性化糖を供与体基質とする糖転移反応を触媒する活性を有するタンパク質:
(a) 配列番号2のアミノ酸配列において、660位のアミノ酸残基が置換されているアミノ酸配列;
(b) 配列番号2のアミノ酸配列において、660位のアミノ酸残基が置換されていて、かつ、さらに1ないし複数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加されているアミノ酸配列;
(c) 配列番号2のアミノ酸配列と60%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列であって、前記アミノ酸配列を配列番号2のアミノ酸配列とアライメントしたときの配列番号2のアミノ酸配列における660位に対応する位置のアミノ酸残基がアスパラギン酸残基以外のアミノ酸残基であるアミノ酸配列;
(d) 配列番号2のアミノ酸配列と60%以上の配列同一性を有するα-グルコシダーゼのアミノ酸配列において、前記アミノ酸配列を配列番号2のアミノ酸配列とアライメントしたときの配列番号2のアミノ酸配列における660位に対応する位置のアミノ酸残基が置換されているアミノ酸配列;
(e) 配列番号2のアミノ酸配列と60%以上の配列同一性を有するα-グルコシダーゼのアミノ酸配列において、前記アミノ酸配列を配列番号2のアミノ酸配列とアライメントしたときの配列番号2のアミノ酸配列における660位に対応する位置のアミノ酸残基が置換されていて、かつ、さらに1ないし複数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加されているアミノ酸配列;
(f) 配列番号2のアミノ酸配列と60%以上の配列同一性を有するα-グルコシダーゼのアミノ酸配列において、一般酸塩基触媒残基が置換されているアミノ酸配列。
(g) 配列番号2のアミノ酸配列と60%以上の配列同一性を有するα-グルコシダーゼのアミノ酸配列において、一般酸塩基触媒残基が置換されていて、かつ、さらに1ないし複数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加されているアミノ酸配列。
【請求項2】
下記(a)~(g)のいずれかのアミノ酸配列を含み、α-グルコシドに対する加水分解活性を有さず、かつ活性化糖を供与体基質とする糖転移反応を触媒する活性を有するタンパク質:
(a) 配列番号2のアミノ酸配列において、660位のアミノ酸残基がアスパラギン残基、アラニン残基、セリン残基、グリシン残基、およびグルタミン残基からなる群から選択されるアミノ酸残基で置換されているアミノ酸配列;
(b) 配列番号2のアミノ酸配列において、660位のアミノ酸残基がアスパラギン残基、アラニン残基、セリン残基、グリシン残基、およびグルタミン残基からなる群から選択されるアミノ酸残基で置換されていて、かつ、さらに1ないし複数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加されているアミノ酸配列;
(c) 配列番号2のアミノ酸配列と60%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列であって、前記アミノ酸配列を配列番号2のアミノ酸配列とアライメントしたときの配列番号2のアミノ酸配列における660位に対応する位置のアミノ酸残基がアスパラギン残基、アラニン残基、セリン残基、グリシン残基、およびグルタミン残基からなる群から選択されるアミノ酸残基であるアミノ酸配列;
(d) 配列番号2のアミノ酸配列と60%以上の配列同一性を有するα-グルコシダーゼのアミノ酸配列において、前記アミノ酸配列を配列番号2のアミノ酸配列とアライメントしたときの配列番号2のアミノ酸配列における660位に対応する位置のアミノ酸残基がアスパラギン残基、アラニン残基、セリン残基、グリシン残基、およびグルタミン残基からなる群から選択されるアミノ酸残基で置換されているアミノ酸配列;
(e) 配列番号2のアミノ酸配列と60%以上の配列同一性を有するα-グルコシダーゼのアミノ酸配列において、前記アミノ酸配列を配列番号2のアミノ酸配列とアライメントしたときの配列番号2のアミノ酸配列における660位に対応する位置のアミノ酸残基がアスパラギン残基、アラニン残基、セリン残基、グリシン残基、およびグルタミン残基からなる群から選択されるアミノ酸残基で置換されていて、かつ、さらに1ないし複数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加されているアミノ酸配列;
(f) 配列番号2のアミノ酸配列と60%以上の配列同一性を有するα-グルコシダーゼのアミノ酸配列において、一般酸塩基触媒残基がアスパラギン残基、アラニン残基、セリン残基、グリシン残基、およびグルタミン残基からなる群から選択されるアミノ酸残基で置換されているアミノ酸配列。
(g) 配列番号2のアミノ酸配列と60%以上の配列同一性を有するα-グルコシダーゼのアミノ酸配列において、一般酸塩基触媒残基がアスパラギン残基、アラニン残基、セリン残基、グリシン残基、およびグルタミン残基からなる群から選択されるアミノ酸残基で置換されていて、かつ、さらに1ないし複数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加されているアミノ酸配列
である、請求項1に記載のタンパク質。
【請求項3】
配列番号3のアミノ酸配列を含む、請求項1また2に記載のタンパク質。
【請求項4】
下記(a)~(c)のいずれかのアミノ酸配列を含み、α-グルコシドに対する加水分解活性を有さず、かつ活性化糖を供与体基質とする糖転移反応を触媒する活性を有するタンパク質:
(a) 配列番号3のアミノ酸配列
(b) 配列番号3のアミノ酸配列において、1ないし複数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加されているアミノ酸配列であって、前記アミノ酸配列を配列番号3のアミノ酸配列とアライメントしたときの配列番号3のアミノ酸配列における635位に対応する位置のアミノ酸残基がアスパラギン酸残基以外のアミノ酸残基であるアミノ酸配列;
(c) 配列番号3のアミノ酸配列と60%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列であって、前記アミノ酸配列を配列番号3のアミノ酸配列とアライメントしたときの配列番号3のアミノ酸配列における635位に対応する位置のアミノ酸残基がアスパラギン酸残基以外のアミノ酸残基であるアミノ酸配列。
【請求項5】
下記(a)~(c)のいずれかのアミノ酸配列を含み、α-グルコシドに対する加水分解活性を有さず、かつ活性化糖を供与体基質とする糖転移反応を触媒する活性を有するタンパク質:
(a) 配列番号3のアミノ酸配列
(b) 配列番号3のアミノ酸配列において、1ないし複数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加されているアミノ酸配列であって、前記アミノ酸配列を配列番号3のアミノ酸配列とアライメントしたときの配列番号3のアミノ酸配列における635位に対応する位置のアミノ酸残基がアスパラギン残基、アラニン残基、セリン残基、グリシン残基、およびグルタミン残基からなる群から選択されるアミノ酸残基であるアミノ酸配列;
(c) 配列番号3のアミノ酸配列と60%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列であって、前記アミノ酸配列を配列番号3のアミノ酸配列とアライメントしたときの配列番号3のアミノ酸配列における635位に対応する位置のアミノ酸残基がアスパラギン残基、アラニン残基、セリン残基、グリシン残基、およびグルタミン残基からなる群から選択されるアミノ酸残基であるアミノ酸配列
である、請求項4に記載のタンパク質。
【請求項6】
該活性化糖がα-グルコース、α-マンノース、およびα-ガラクトースからなる群から選択される糖に由来する、請求項1~5のいずれか1項に記載のタンパク質。
【請求項7】
該活性化糖が、
1-フルオロ-1-デオキシ-α-グルコース、
1-ブロモ-1-デオキシ-α-グルコース、
1-クロロ-1-デオキシ-α-グルコース、
4-ニトロフェニル α-グルコシド、
2,4-ジニトロフェニル α-グルコシド、
α-グルコース-1-リン酸、
α-ウリジン二リン酸グルコシド、
4-メチルウンべリフェリル α-グルコシド、
1-フルオロ-1-デオキシ-α-マンノース、
1-ブロモ-1-デオキシ-α-マンノース、
1-クロロ-1-デオキシ-α-マンノース、
4-ニトロフェニル α-マンノシド、
2,4-ジニトロフェニル α-マンノシド、
α-マンノース-1-リン酸、
α-ウリジン二リン酸マンノシド、
4-メチルウンべリフェリル α-マンノシド、
1-フルオロ-1-デオキシ-α-ガラクトース
1-ブロモ-1-デオキシ-α-ガラクトース、
1-クロロ-1-デオキシ-α-ガラクトース、
4-ニトロフェニル α-ガラクトシド、
2,4-ジニトロフェニル α-ガラクトシド、
α-ガラクトース-1-リン酸、
α-ウリジン二リン酸ガラクトシド、および
4-メチルウンべリフェリル α-ガラクトシド
からなる群から選択される、請求項1~6のいずれか1項に記載のタンパク質。
【請求項8】
該活性化糖がα-マンノースおよびα-ガラクトースからなる群から選択される糖に由来する、請求項1~7のいずれか1項に記載のタンパク質。
【請求項9】
該α-グルコシダーゼがGlycoside Hydrolase Family 31に分類されるα-グルコシダーゼである、請求項1~3および6~8のいずれか1項に記載のタンパク質。
【請求項10】
該α-グルコシダーゼが、Aspergillus属、Sulfolobus属、Schwanniomyces属、Saccharomyces属、Schizosaccharomyces属、Bacteroides属、Acremonium属、またはPodospora属由来である、請求項1~3および6~9のいずれか1項に記載のタンパク質。
【請求項11】
配列番号1のアミノ酸配列のアミノ酸配列からなる、請求項1~10のいずれか1項に記載のタンパク質。
【請求項12】
該糖転移反応における受容体基質が、カルボン酸化合物、リン酸化合物、およびチオール基を有する化合物からなる群から選択される化合物である、請求項1~11のいずれか1項に記載のタンパク質。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載のタンパク質を含有する酵素剤。
【請求項14】
α-マンノースおよびα-ガラクトースからなる群から選択される糖に由来する活性化糖を供与体基質とする糖転移反応を触媒するための、請求項13に記載の酵素剤。
【請求項15】
請求項1~12のいずれか1項に記載のタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【請求項16】
請求項15に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項17】
請求項16に記載のベクターで形質転換された宿主細胞。
【請求項18】
請求項17に記載の宿主細胞を培養し、該培養物から請求項1~12のいずれか1項に記載のタンパク質を回収することを含む、請求項1~12のいずれか1項に記載のタンパク質の製造方法。
【請求項19】
請求項1~12のいずれか1項に記載のタンパク質または請求項13もしくは14に記載の酵素剤の存在下に、活性化糖である供与体基質と受容体基質とを反応させる工程を含む、該供与体基質から該受容体基質に糖を転移する方法。
【請求項20】
請求項1~12のいずれか1項に記載のタンパク質または請求項13もしくは14に記載の酵素剤の存在下に、活性化糖である供与体基質と受容体基質とを反応させる工程を含む、糖転移産物を製造する方法。
【請求項21】
該活性化糖がα-グルコース、α-マンノース、およびα-ガラクトースからなる群から選択される糖に由来する、請求項19または20に記載の方法。
【請求項22】
該活性化糖が、
1-フルオロ-1-デオキシ-α-グルコース、
1-ブロモ-1-デオキシ-α-グルコース、
1-クロロ-1-デオキシ-α-グルコース、
4-ニトロフェニル α-グルコシド、
2,4-ジニトロフェニル α-グルコシド、
α-グルコース-1-リン酸、
α-ウリジン二リン酸グルコシド、
4-メチルウンべリフェリル α-グルコシド、
1-フルオロ-1-デオキシ-α-マンノース、
1-ブロモ-1-デオキシ-α-マンノース、
1-クロロ-1-デオキシ-α-マンノース、
4-ニトロフェニル α-マンノシド、
2,4-ジニトロフェニル α-マンノシド、
α-マンノース-1-リン酸、
α-ウリジン二リン酸マンノシド、
4-メチルウンべリフェリル α-マンノシド、
1-フルオロ-1-デオキシ-α-ガラクトース
1-ブロモ-1-デオキシ-α-ガラクトース、
1-クロロ-1-デオキシ-α-ガラクトース、
4-ニトロフェニル α-ガラクトシド、
2,4-ジニトロフェニル α-ガラクトシド、
α-ガラクトース-1-リン酸、
α-ウリジン二リン酸ガラクトシド、および
4-メチルウンべリフェリル α-ガラクトシド
からなる群から選択される、請求項19~21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
該活性化糖がα-マンノースおよびα-ガラクトースからなる群から選択される糖に由来する、請求項19~22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
該受容体基質が、カルボン酸化合物、リン酸化合物、およびチオール基を有する化合物からなる群から選択される化合物である、請求項19~23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
請求項20~24のいずれか1項に記載の方法により糖転移産物を得る工程、および前記工程で得られた糖転移産物を用いて食品、飼料、餌料、化粧料、または医薬品を得る工程を含む、食品、飼料、餌料、化粧料、試薬、または医薬品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はα-グルコシダーゼの一般酸塩基触媒変異酵素、およびそれを用いた糖転移産物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
α-グルコシダーゼ(EC 3.2.1.20)はマルトオリゴ糖、デキストリン、およびスクロースなどのα-グルコシドを基質とし、非還元末端のα-グルコシド結合を加水分解してα-グルコースを生成する酵素である。また、水以外の受容体が存在する場合には受容体にα-グルコシル基を付加してα-グルコシドを生成する糖転移反応も触媒する。これまでにα-グルコシダーゼの糖転移反応を利用したα-グルコシドの合成法が報告されている(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3)。
一方で、α-グルコシダーゼのような加水分解活性と糖転移活性の両方を有する酵素を用いたグリコシド合成反応の場合、糖転移反応によって生成したグリコシドが酵素の基質となって加水分解されるため、糖転移反応生成物が多く蓄積しない場合がある。この問題点の解消法としてグライコシンターゼ反応が開発された(非特許文献1)。
グライコシンターゼ反応は、アノマー保持型糖質加水分解酵素の求核触媒残基をグリシン、アラニンおよびセリンなどの非求核性アミノ酸に置換した変異酵素を触媒とし、本来の基質とは逆アノマー型の活性化糖を糖供与体とする反応であり、適当な受容体が存在する場合には糖転移反応産物を合成する。求核触媒残基に変異が導入されているために加水分解活性は失われており、糖転移反応産物は加水分解されずに蓄積する。これまでに多くの糖質加水分解酵素に関するグライコシンターゼ反応が報告されている(非特許文献2、非特許文献3、非特許文献4等)。
求核触媒残基変異酵素による反応であっても、アジ化物イオンおよびギ酸イオンなどの求核剤の存在下では、これらの求核剤が求核触媒残基の働きを相補し(ケミカルレスキュー反応)、本来の基質と同じアノマー型の活性化糖を供与体として用いることが可能になって、高い収率で糖転移産物が得られることが報告されている。しかし、ケミカルレスキュー反応ではアジ化糖や糖ギ酸エステルが蓄積することが報告されている(非特許文献5、非特許文献6、非特許文献7、非特許文献8)。
[先行技術文献]
[特許文献]
【0003】
[特許文献1]特許第5992902号
[特許文献2]特許4197604号
[特許文献3]特許2832848号
[非特許文献]
【0004】
[非特許文献1]Mackenzie LF, Wang QP, Warren RAJ, Withers SG. Glycosynthases: Mutant glycosidases for oligosaccharide synthesis. J Am Chem Soc
. 1998;120(22):5583-5584. doi: 10.1021/ja980833d.
[非特許文献2]Hayes MR, Pietruszka J. Synthesis of Glycosides by Glycosynthases. Molecules. 2017;22(3):1434. doi: 10.3390/molecules22091434.
[非特許文献3]Okuyama M, Mori H, Watanabe K, Kimura A, Chiba S. Alpha-glucosidase mutant catalyzes ”alpha-glycosynthase”-type reaction. Biosci Biotechnol Biochem. 2002;66(4):928-33. doi: 10.1271/bbb.66.928.
[非特許文献4]Yamamoto K, Davis BG. Creation of an α-mannosynthase from a broad glycosidase scaffold. Angew Chem Int Ed Engl. 2012;51(30):7449-53. doi: 10.1002/anie.201201081.
[非特許文献5]Moracci M, Trincone A, Perugino G, Ciaramella M, Rossi M. Restoration of the activity of active-site mutants of the hyperthermophilic beta-glycosidase from Sulfolobus solfataricus: dependence of the mechanism on the action of external nucleophiles. Biochemistry. 1998;37(49):17262-70. doi: 10.1021/bi981855f.
[非特許文献6]Okuyama M, Matsunaga K, Watanabe KI, Yamashita K, Tagami T, Kikuchi A, Ma M, Klahan P, Mori H, Yao M, Kimura A. Efficient synthesis of α-galactosyl oligosaccharides using a mutant Bacteroides thetaiotaomicron retaining α-galactosidase (BtGH97b). FEBS J. 2017;284(5):766-783. doi: 10.1111/febs.14018.
[非特許文献7]カン ミンソン, 細菌由来糖質分解酵素の分子機構および応用に関する研究, 北海道大学博士論文 (2009)
[非特許文献8]Viladot JL, de Ramon E, Durany O, Planas A. Probing the mechanism of Bacillus 1,3-1,4-beta-D-glucan 4-glucanohydrolases by chemical rescue of inactive mutants at catalytically essential residues. Biochemistry. 1998;37(32):11332-42. doi: 10.1021/bi980586q.
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[非特許文献14]
[非特許文献15]Okuyama M, Okuno A, Shimizu N, Mori H, Kimura A, Chiba S. Carboxyl group of residue Asp647 as possible proton donor in catalytic reaction of alpha-glucosidase from Schizosaccharomyces pombe. Eur J Biochem. 2001;268(8):2270-80. doi: 10.1046/j.1432-1327.2001.02104.x.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
グライコシンターゼ反応に変わる糖転移反応産物の効率的な合成法として、グリコリガーゼ反応が開発された(非特許文献9)。グリコリガーゼ反応は、糖質加水分解酵素の一般酸塩基触媒残基をアラニンやアスパラギンやグルタミンなどに置換した変異酵素を触媒とし、本来の基質と同じアノマー型の1-フルオロ-1-デオキシ糖などの活性化糖を糖供与体とする反応であり、適当な受容体が存在する場合には糖転移反応産物を合成しうる。一般酸塩基触媒残基に変異が導入されているために加水分解活性は失われており,糖転移反応生成物は加水分解されずに蓄積する。Jahnらは、β-グルコシダーゼの一般酸塩基触媒残基変異酵素と2,4-ジニトロフェニル β-グルコシドを糖供与体としたグリコリガーゼ反応およびβ-マンノシダーゼの一般酸塩基触媒残基変異酵素と2,5-ジニトロフェニル β-マンノシドを糖供与体としたグリコリガーゼ反応により,それぞれβ-チオグルコシルオリゴ糖およびβ-チオマンノシルオリゴ糖の合成を報告している(非特許文献9)。Kimらは,Sulfolobus solfataricus由来α-グルコシダーゼの一般酸塩基触媒残基変異酵素と1-デオキシ-1-フルオロ-α-グルコースを糖供与体としたグリコリガーゼ反応およびα-キシロシダーゼの一般酸塩基触媒残基変異酵素と1-デオキシ-1-フルオロ-α-キシロースを糖供与体としたグリコリガーゼ反応により,それぞれα-チオグルコシルオリゴ糖およびα-チオキシロシルオリゴ糖の合成を報告している(非特許文献10)。これら4つの合成反応はいずれも求核性の高いチオ糖を受容体としており,グリコリガーゼ反応の中でも特にチオグリコリガーゼ反応と呼ばれる。他にも、グリコリガーゼ反応に関する報告があるものの(非特許文献11、非特許文献12、非特許文献13、非特許文献14)、これまでに知られるグライコシンターゼ反応およびグリコリガーゼ反応はいずれも、本来の基質と同じ糖由来の活性化糖を供与体とする。
本願の課題は、糖転移反応を触媒することができる酵素の提供であり、好ましくは本来の基質とは異なる糖由来の活性化糖を供与体とするできる酵素の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、Aspergillus niger由来α-グルコシダーゼの一般酸塩基触媒残基を置換した変異酵素が、驚くべきことに、本来の基質であるα-グルコース由来の活性化糖に加えて、本来の基質ではないα-マンノースおよびα-ガラクトース由来の活性化糖をも糖供与体とした糖転移反応を触媒する活性を有することを見出し、本願発明に至った。さらに驚くべきことに、当該変異酵素の糖転移反応は非常に広い範囲の化合物を受容体とすることができることを見出した。
以下に本願の発明の態様を詳説する。
【0007】
[項1]
下記(a)~(g)のいずれかのアミノ酸配列を含み、α-グルコシドに対する加水分解活性を有さず、かつ活性化糖を供与体基質とする糖転移反応を触媒する活性を有するタンパク質:
(a) 配列番号2のアミノ酸配列において、660位のアミノ酸残基が置換されているアミノ酸配列;
(b) 配列番号2のアミノ酸配列において、660位のアミノ酸残基が置換されていて、かつ、さらに1ないし複数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加されているアミノ酸配列;
(c) 配列番号2のアミノ酸配列と60%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列であって、前記アミノ酸配列を配列番号2のアミノ酸配列とアライメントしたときの配列番号2のアミノ酸配列における660位に対応する位置のアミノ酸残基がアスパラギン酸残基以外のアミノ酸残基であるアミノ酸配列;
(d) 配列番号2のアミノ酸配列と60%以上の配列同一性を有するα-グルコシダーゼのアミノ酸配列において、前記アミノ酸配列を配列番号2のアミノ酸配列とアライメントしたときの配列番号2のアミノ酸配列における660位に対応する位置のアミノ酸残基が置換されているアミノ酸配列;
(e) 配列番号2のアミノ酸配列と60%以上の配列同一性を有するα-グルコシダーゼのアミノ酸配列において、前記アミノ酸配列を配列番号2のアミノ酸配列とアライメントしたときの配列番号2のアミノ酸配列における660位に対応する位置のアミノ酸残基が置換されていて、かつ、さらに1ないし複数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加されているアミノ酸配列;
(f) 配列番号2のアミノ酸配列と60%以上の配列同一性を有するα-グルコシダーゼのアミノ酸配列において、一般酸塩基触媒残基が置換されているアミノ酸配列。
(g) 配列番号2のアミノ酸配列と60%以上の配列同一性を有するα-グルコシダーゼのアミノ酸配列において、一般酸塩基触媒残基が置換されていて、かつ、さらに1ないし複数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加されているアミノ酸配列。
[項2]
下記(a)~(g)のいずれかのアミノ酸配列を含み、α-グルコシドに対する加水分解活性を有さず、かつ活性化糖を供与体基質とする糖転移反応を触媒する活性を有するタンパク質:
(a) 配列番号2のアミノ酸配列において、660位のアミノ酸残基がアスパラギン残基、アラニン残基、セリン残基、グリシン残基、およびグルタミン残基からなる群から選択されるアミノ酸残基で置換されているアミノ酸配列;
(b) 配列番号2のアミノ酸配列において、660位のアミノ酸残基がアスパラギン残基、アラニン残基、セリン残基、グリシン残基、およびグルタミン残基からなる群から選択されるアミノ酸残基で置換されていて、かつ、さらに1ないし複数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加されているアミノ酸配列;
(c) 配列番号2のアミノ酸配列と60%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列であって、前記アミノ酸配列を配列番号2のアミノ酸配列とアライメントしたときの配列番号2のアミノ酸配列における660位に対応する位置のアミノ酸残基がアスパラギン残基、アラニン残基、セリン残基、グリシン残基、およびグルタミン残基からなる群から選択されるアミノ酸残基であるアミノ酸配列;
(d) 配列番号2のアミノ酸配列と60%以上の配列同一性を有するα-グルコシダーゼのアミノ酸配列において、前記アミノ酸配列を配列番号2のアミノ酸配列とアライメントしたときの配列番号2のアミノ酸配列における660位に対応する位置のアミノ酸残基がアスパラギン残基、アラニン残基、セリン残基、グリシン残基、およびグルタミン残基からなる群から選択されるアミノ酸残基で置換されているアミノ酸配列;
(e) 配列番号2のアミノ酸配列と60%以上の配列同一性を有するα-グルコシダーゼのアミノ酸配列において、前記アミノ酸配列を配列番号2のアミノ酸配列とアライメントしたときの配列番号2のアミノ酸配列における660位に対応する位置のアミノ酸残基がアスパラギン残基、アラニン残基、セリン残基、グリシン残基、およびグルタミン残基からなる群から選択されるアミノ酸残基で置換されていて、かつ、さらに1ないし複数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加されているアミノ酸配列;
(f) 配列番号2のアミノ酸配列と60%以上の配列同一性を有するα-グルコシダーゼのアミノ酸配列において、一般酸塩基触媒残基がアスパラギン残基、アラニン残基、セリン残基、グリシン残基、およびグルタミン残基からなる群から選択されるアミノ酸残基で置換されているアミノ酸配列。
(g) 配列番号2のアミノ酸配列と60%以上の配列同一性を有するα-グルコシダーゼのアミノ酸配列において、一般酸塩基触媒残基がアスパラギン残基、アラニン残基、セリン残基、グリシン残基、およびグルタミン残基からなる群から選択されるアミノ酸残基で置換されていて、かつ、さらに1ないし複数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加されているアミノ酸配列
である、[項1]に記載のタンパク質。
[項3]
配列番号3のアミノ酸配列を含む、[項1]また[項2]に記載のタンパク質。
[項4]
下記(a)~(c)のいずれかのアミノ酸配列を含み、α-グルコシドに対する加水分解活性を有さず、かつ活性化糖を供与体基質とする糖転移反応を触媒する活性を有するタンパク質:
(a) 配列番号3のアミノ酸配列
(b) 配列番号3のアミノ酸配列において、1ないし複数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加されているアミノ酸配列であって、前記アミノ酸配列を配列番号3のアミノ酸配列とアライメントしたときの配列番号3のアミノ酸配列における635位に対応する位置のアミノ酸残基がアスパラギン酸残基以外のアミノ酸残基であるアミノ酸配列;
(c) 配列番号3のアミノ酸配列と60%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列であって、前記アミノ酸配列を配列番号3のアミノ酸配列とアライメントしたときの配列番号3のアミノ酸配列における635位に対応する位置のアミノ酸残基がアスパラギン酸残基以外のアミノ酸残基であるアミノ酸配列。
[項5]
下記(a)~(c)のいずれかのアミノ酸配列を含み、α-グルコシドに対する加水分解活性を有さず、かつ活性化糖を供与体基質とする糖転移反応を触媒する活性を有するタンパク質:
(a) 配列番号3のアミノ酸配列
(b) 配列番号3のアミノ酸配列において、1ないし複数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加されているアミノ酸配列であって、前記アミノ酸配列を配列番号3のアミノ酸配列とアライメントしたときの配列番号3のアミノ酸配列における635位に対応する位置のアミノ酸残基がアスパラギン残基、アラニン残基、セリン残基、グリシン残基、およびグルタミン残基からなる群から選択されるアミノ酸残基であるアミノ酸配列;
(c) 配列番号3のアミノ酸配列と60%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列であって、前記アミノ酸配列を配列番号3のアミノ酸配列とアライメントしたときの配列番号3のアミノ酸配列における635位に対応する位置のアミノ酸残基がアスパラギン残基、アラニン残基、セリン残基、グリシン残基、およびグルタミン残基からなる群から選択されるアミノ酸残基であるアミノ酸配列
である、[項4]に記載のタンパク質。
[項6]
該活性化糖がα-グルコース、α-マンノース、およびα-ガラクトースからなる群から選択される糖に由来する、[項1]~[項5]のいずれか1項に記載のタンパク質。
[項7]
該活性化糖が、
1-フルオロ-1-デオキシ-α-グルコース、
1-ブロモ-1-デオキシ-α-グルコース、
1-クロロ-1-デオキシ-α-グルコース、
4-ニトロフェニル α-グルコシド、
2,4-ジニトロフェニル α-グルコシド、
α-グルコース-1-リン酸、
α-ウリジン二リン酸グルコシド、
4-メチルウンべリフェリル α-グルコシド、
1-フルオロ-1-デオキシ-α-マンノース、
1-ブロモ-1-デオキシ-α-マンノース、
1-クロロ-1-デオキシ-α-マンノース、
4-ニトロフェニル α-マンノシド、
2,4-ジニトロフェニル α-マンノシド、
α-マンノース-1-リン酸、
α-ウリジン二リン酸マンノシド、
4-メチルウンべリフェリル α-マンノシド、
1-フルオロ-1-デオキシ-α-ガラクトース
1-ブロモ-1-デオキシ-α-ガラクトース、
1-クロロ-1-デオキシ-α-ガラクトース、
4-ニトロフェニル α-ガラクトシド、
2,4-ジニトロフェニル α-ガラクトシド、
α-ガラクトース-1-リン酸、
α-ウリジン二リン酸ガラクトシド、および
4-メチルウンべリフェリル α-ガラクトシド
からなる群から選択される、[項1]~[項6]のいずれか1項に記載のタンパク質。
[項8]
該活性化糖がα-マンノースおよびα-ガラクトースからなる群から選択される糖に由来する、[項1]~[項7]のいずれか1項に記載のタンパク質。
[項9]
該α-グルコシダーゼがGlycoside Hydrolase Family 31に分類されるα-グルコシダーゼである、[項1]~[項3]および[項6]~[項8]のいずれか1項に記載のタンパク質。
[項10]
該α-グルコシダーゼが、Aspergillus属、Sulfolobus属、Schwanniomyces属、Saccharomyces属、Schizosaccharomyces属、Bacteroides属、Acremonium属、またはPodospora属由来である、[項1]~[項3]および[項6]~[項9]のいずれか1項に記載のタンパク質。
[項11]
配列番号1のアミノ酸配列のアミノ酸配列からなる、[項1]~[項10]のいずれか1項に記載のタンパク質。
[項12]
該糖転移反応における受容体基質が、カルボン酸化合物、リン酸化合物、およびチオール基を有する化合物からなる群から選択される化合物である、[項1]~[項11]のいずれか1項に記載のタンパク質。
[項13]
[項1]~[項12]のいずれか1項に記載のタンパク質を含有する酵素剤。
[項14]
α-マンノースおよびα-ガラクトースからなる群から選択される糖に由来する活性化糖を供与体基質とする糖転移反応を触媒するための、[項13]に記載の酵素剤。
[項15]
[項1]~[項12]のいずれか1項に記載のタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
[項16]
[項15]に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
[項17]
[項16]に記載のベクターで形質転換された宿主細胞。
[項18]
[項17]に記載の宿主細胞を培養し、該培養物から[項1]~[項12]のいずれか1項に記載のタンパク質を回収することを含む、[項1]~[項12]のいずれか1項に記載のタンパク質の製造方法。
[項19]
[項1]~[項12]のいずれか1項に記載のタンパク質または[項13]もしくは[項14]に記載の酵素剤の存在下に、活性化糖である供与体基質と受容体基質とを反応させる工程を含む、該供与体基質から該受容体基質に糖を転移する方法。
[項20]
[項1]~[項12]のいずれか1項に記載のタンパク質または[項13]もしくは[項14]に記載の酵素剤の存在下に、活性化糖である供与体基質と受容体基質とを反応させる工程を含む、糖転移産物を製造する方法。
[項21]
該活性化糖がα-グルコース、α-マンノース、およびα-ガラクトースからなる群から選択される糖に由来する、[項19]または[項20]に記載の方法。
[項22]
該活性化糖が、
1-フルオロ-1-デオキシ-α-グルコース、
1-ブロモ-1-デオキシ-α-グルコース、
1-クロロ-1-デオキシ-α-グルコース、
4-ニトロフェニル α-グルコシド、
2,4-ジニトロフェニル α-グルコシド、
α-グルコース-1-リン酸、
α-ウリジン二リン酸グルコシド、
4-メチルウンべリフェリル α-グルコシド、
1-フルオロ-1-デオキシ-α-マンノース、
1-ブロモ-1-デオキシ-α-マンノース、
1-クロロ-1-デオキシ-α-マンノース、
4-ニトロフェニル α-マンノシド、
2,4-ジニトロフェニル α-マンノシド、
α-マンノース-1-リン酸、
α-ウリジン二リン酸マンノシド、
4-メチルウンべリフェリル α-マンノシド、
1-フルオロ-1-デオキシ-α-ガラクトース
1-ブロモ-1-デオキシ-α-ガラクトース、
1-クロロ-1-デオキシ-α-ガラクトース、
4-ニトロフェニル α-ガラクトシド、
2,4-ジニトロフェニル α-ガラクトシド、
α-ガラクトース-1-リン酸、
α-ウリジン二リン酸ガラクトシド、および
4-メチルウンべリフェリル α-ガラクトシド
からなる群から選択される、[項19]~[項21]のいずれか1項に記載の方法。
[項23]
該活性化糖がα-マンノースおよびα-ガラクトースからなる群から選択される糖に由来する、[項19]~[項22]のいずれか1項に記載の方法。
[項24]
該受容体基質が、カルボン酸化合物、リン酸化合物、およびチオール基を有する化合物からなる群から選択される化合物である、[項19]~[項23]のいずれか1項に記載の方法。
[項25]
[項20]~[項24]のいずれか1項に記載の方法により糖転移産物を得る工程、および前記工程で得られた糖転移産物を用いて食品、飼料、餌料、化粧料、または医薬品を得る工程を含む、食品、飼料、餌料、化粧料、試薬、または医薬品の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、α-グルコシドに対する加水分解活性を有さず、かつ活性化糖を供与体基質とする糖転移反応を触媒する活性を有するタンパク質を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は脂肪酸との反応における薄層クロマトグラムを示す。標準: マンノース, 1-フルオロ-1-デオキシ-α-マンノース-: 陰性対照,+: 酵素反応星は糖転移反応生成物が検出されたことを示す。
【
図2-1】
図2-1は1-O-ギ酸マンノースの構造式と分子量を示す。
【
図2-2】
図2-2はギ酸との反応生成物をESI-MS分析結果を示す。
【
図3-1】
図3-1は1-O-アセチルマンノースの構造式と分子量を示す。
【
図3-2】
図3-2は酢酸との反応生成物のESI-MS分析結果を示す。
【
図4-1】
図4-1は1-O-酪酸マンノースの構造式と分子量を示す。
【
図4-2】
図4-2は酪酸との反応生成物のESI-MS分析結果を示す。
【
図5】
図5はpHの異なる酢酸との反応における薄層クロマトグラムを示す。標準: マンノース, 1-フルオロ-1-デオキシ-α-マンノース→は1-フルオロ-1-デオキシ-α-マンノース,星は1-O-アセチルマンノースと推定される生成物を示す。
【
図6-1】
図6-1はマンノシルオクタン酸の構造式と分子量を示す。
【
図6-2】
図6-2はオクタン酸との反応生成物のESI-MS分析結果を示す。
【
図7】
図7は植物ホルモンとの反応における薄層クロマトグラムを示す。標準: マンノース, 1-フルオロ-1-デオキシ-α-マンノース-: 陰性対照,+: 酵素反応星は糖転移反応生成物が検出されたことを示す。
【
図8-1】
図8-1はマンノシルアスコルビン酸の構造式と分子量を示す。
【
図8-2】
図8-2はアスコルビン酸との反応生成物のESI-MS分析結果を示す。
【
図9-1】
図9-1はマンノシルインドール酢酸の構造式と分子量を示す。
【
図9-2】
図9-2はインドール酢酸との反応生成物のESI-MS分析結果を示す。
【
図10-1】
図10-1はマンノシルジャスモン酸の構造式と分子量を示す。
【
図10-2】
図10-2はジャスモン酸との反応生成物のESI-MS分析結果を示す。
【
図11-1】
図11-1はマンノシルアブシジン酸の構造式と分子量を示す。
【
図11-2】
図11-2はアブシシン酸との反応生成物のESI-MS分析結果を示す。
【
図12】
図12はサリチル酸(pH 4.0)との反応における薄層クロマトグラムを示す。標準: マンノース, 1-フルオロ-1-デオキシ-α-マンノース-: 陰性対照,+: 酵素反応星は糖転移反応生成物が検出されたことを示す。
【
図13-1】
図13-1はマンノシルサリチル酸の構造式と分子量を示す。
【
図13-2】
図13-2はサリチル酸との反応生成物のESI-MS分析結果を示す。
【
図14】
図14は有機酸との反応における薄層クロマトグラムを示す。-: 陰性対照,+: 酵素反応反応時間は6時間。ただしピロリン酸のみ反応時間は96時間。星は糖転移反応生成物が検出されたことを示す。
【
図15】
図15は有機酸との反応の経時変化における薄層クロマトグラムを示す。標準: マンノース, 1-フルオロ-1-デオキシ-α-マンノース-: 陰性対照,+: 酵素反応星は糖転移反応生成物が検出されたことを示す。
【
図16-1】
図16-1はマンノシルマロン酸の構造式と分子量を示す。
【
図16-2】
図16-2はマロン酸との反応生成物のESI-MS分析結果を示す。
【
図17-1】
図17-1はマンノシル乳酸の構造式と分子量を示す。
【
図17-2】
図17-2はL-乳酸との反応生成物のESI-MS分析結果を示す。
【
図18-1】
図18-1はマンノシルグリセリン酸の構造式と分子量を示す。
【
図18-2】
図18-2はグリセリン酸との反応生成物のESI-MS分析結果を示す。
【
図19-1】
図19-1はマンノシルピロリン酸の構造式と分子量を示す。
【
図19-2】
図19-2はピロリン酸との反応生成物のESI-MS分析結果を示す。
【
図20-1】
図20-1はマンノシルフタル酸の構造式と分子量を示す。
【
図20-2】
図20-2はフタル酸との反応生成物のESI-MS分析結果を示す。
【
図21-1】
図21-1はマンノシルクエン酸の構造式と分子量を示す。
【
図21-2】
図21-2はクエン酸との反応生成物のESI-MS分析結果を示す。
【
図22-1】
図22-1はマンノシル酒石酸の構造式と分子量を示す。
【
図22-2】
図22-2は酒石酸との反応生成物のESI-MS分析結果を示す。
【
図23】
図23はアミノ酸との反応における薄層クロマトグラムを示す。-: 陰性対照,+: 酵素反応CysMeとの反応は96時間。星は糖転移反応生成物が検出されたことを示す。
【
図24-1】
図24-1はマンノシルセリンの構造式と分子量を示す。
【
図24-2】
図24-2はセリンとの反応生成物のESI-MS分析結果を示す。
【
図25-1】
図25-1はマンノシルスレオニンの構造式と分子量を示す。
【
図25-2】
図25-2はスレオニンとの反応生成物のESI-MS分析結果を示す。
【
図26-1】
図26-1はマンノシルシステインの構造式と分子量を示す。
【
図26-2】
図26-2はシステインとの反応生成物のESI-MS分析結果を示す。
【
図27-1】
図27-1はマンノシルアンジオテンシンIの配列と分子量を示す。「Asp-Arg-Val-Tyr-Ile-His-Pro-Phe-His-Leu」を配列番号10とする。
【
図27-2】
図27-2はアンジオテンシンIとの反応生成物のLC-MS分析結果を示す。
【
図28】
図28はグルコース誘導体カルボン酸との反応における薄層クロマトグラムを示す。-: 陰性対照,+: 酵素反応反応時間は48時間。星は糖転移反応生成物が検出されたことを示す。
【
図29】
図29は1-フルオロ-1-デオキシ-α-グルコースを糖供与体とした反応における薄層クロマトグラムを示す。標準: グルコース, 1-フルオロ-1-デオキシ-α-グルコース
【
図30】
図30は1-フルオロ-1-デオキシ-α-ガラクトースを糖供与体とした反応における薄層クロマトグラムを示す。標準: ガラクトース, 1-フルオロ-1-デオキシ-α-ガラクトース
【
図32】
図32は供試した脂肪酸の構造式と使用した溶媒を示す。星は糖転移産物が検出されたものを示す。
【
図33】
図32は供試した植物ホルモンの構造式と使用した溶媒を示す。星は糖転移産物が検出されたものを示す。
【
図34】
図34は供試した有機酸の構造式を示す。星は糖転移産物が検出されたものを示す。
【
図35】
図35は供試したアミノ酸の構造式を示す。星は糖転移産物が検出されたものを示す。
【
図36】
図36は供試したグルコース誘導体カルボン酸の構造式を示す。星は糖転移産物が検出されたものを示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1つの態様において本願は、
下記(a)~(g)のいずれかのアミノ酸配列を含み、α-グルコシドに対する加水分解活性を有さず、かつ活性化糖を供与体基質とする糖転移反応を触媒する活性を有するタンパク質(以下、「本発明のタンパク質」と称する場合がある)を提供する:
(a) 配列番号2のアミノ酸配列において、660位のアミノ酸残基が置換されているアミノ酸配列;
(b) 配列番号2のアミノ酸配列において、660位のアミノ酸残基が置換されていて、かつ、さらに1ないし複数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加されているアミノ酸配列;
(c) 配列番号2のアミノ酸配列と60%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列であって、前記アミノ酸配列を配列番号2のアミノ酸配列とアライメントしたときの配列番号2のアミノ酸配列における660位に対応する位置のアミノ酸残基がアスパラギン酸残基以外のアミノ酸残基であるアミノ酸配列;
(d) 配列番号2のアミノ酸配列と60%以上の配列同一性を有するα-グルコシダーゼのアミノ酸配列において、前記アミノ酸配列を配列番号2のアミノ酸配列とアライメントしたときの配列番号2のアミノ酸配列における660位に対応する位置のアミノ酸残基が置換されているアミノ酸配列;
(e) 配列番号2のアミノ酸配列と60%以上の配列同一性を有するα-グルコシダーゼのアミノ酸配列において、前記アミノ酸配列を配列番号2のアミノ酸配列とアライメントしたときの配列番号2のアミノ酸配列における660位に対応する位置のアミノ酸残基が置換されていて、かつ、さらに1ないし複数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加されているアミノ酸配列;
(f)配列番号2のアミノ酸配列と60%以上の配列同一性を有するα-グルコシダーゼのアミノ酸配列において、一般酸塩基触媒残基が置換されているアミノ酸配列。
(g)配列番号2のアミノ酸配列と60%以上の配列同一性を有するα-グルコシダーゼのアミノ酸配列において、一般酸塩基触媒残基が置換されていて、かつ、さらに1ないし複数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加されているアミノ酸配列。
【0011】
1つの態様において本願は、
下記(a)~(c)のいずれかのアミノ酸配列を含み、α-グルコシドに対する加水分解活性を有さず、かつ活性化糖を供与体基質とする糖転移反応を触媒する活性を有するタンパク質(以下、本態様のタンパク質も「本発明のタンパク質」と称する場合がある)を提供する:
(a) 配列番号3のアミノ酸配列
(b) 配列番号3のアミノ酸配列において、1ないし複数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加されているアミノ酸配列であって、前記アミノ酸配列を配列番号3のアミノ酸配列とアライメントしたときの配列番号3のアミノ酸配列におけるる635位に対応する位置のアミノ酸残基がアスパラギン酸残基以外のアミノ酸残基であるアミノ酸配列;
(c) 配列番号3のアミノ酸配列と60%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列であって、前記アミノ酸配列を配列番号3のアミノ酸配列とアライメントしたときの配列番号3のアミノ酸配列におけるる635位に対応する位置のアミノ酸残基がアスパラギン酸残基以外のアミノ酸残基であるアミノ酸配列。
【0012】
1つの態様において本願は、本発明のタンパク質を含有する酵素剤(以下、「本発明の酵素剤」と称する場合がある)を提供する。本発明の酵素剤において、本発明のタンパク質は、本発明のタンパク質を発現する微生物、又は該微生物の培養物として含有されていてもよい。
【0013】
本開示において「酵素剤」とは、活性化糖を供与体基質とする糖転移反応を触媒するために使用される剤を意味する。酵素剤はタンパク質そのもの、タンパク質を発現する微生物そのもの、または微生物の培養物そのものであってもよく、あるいはこれらに加えて他の成分(例えば、緩衝液、pH調整剤;酵素の安定化を目的にTriton X-100(界面活性剤)、DTT、TCEP(還元剤)、プロテアーゼインヒビター、防腐剤、グリセロール(抗凍結剤)など)が添加されていてもよい。
【0014】
1つの態様において本願は、本発明のタンパク質または本発明の酵素剤の存在下に、活性化糖である供与体基質と受容体基質とを反応させる工程を含む、該供与体基質から該受容体基質に糖を転移する方法を提供する。
【0015】
1つの態様において本願は、本発明のタンパク質または本発明の酵素剤の存在下に、活性化糖である供与体基質と受容体基質とを反応させる工程を含む、糖転移産物を製造する方法を提供する。
【0016】
1つの実施形態において、本発明のタンパク質は、配列番号2のアミノ酸配列において、660位のアミノ酸残基が置換されているアミノ酸配列を含み(または有し)、α-グルコシドに対する加水分解活性を有さず、かつ活性化糖を供与体基質とする糖転移反応を触媒する活性を有する。
1つの実施形態において、当該660位のアミノ酸残基はアスパラギン残基、アラニン残基、セリン残基、グリシン残基、およびグルタミン残基(例えばアスパラギン残基、アラニン残基およびセリン残基、例えばアスパラギン残基)からなる群から選択されるアミノ酸残基で置換されている。
【0017】
配列番号2はAspergillus niger由来α-グルコシダーゼ(UniProtID: A0PCH8)のアミノ酸配列である。このα-グルコシダーゼは660位に一般酸塩基触媒残基であるアスパラギン酸残基を有する。
Aspergillus niger由来α-グルコシダーゼ(UniProtID: A0PCH8)(配列番号2)と60%以上の配列同一性を有する近縁酵素では完全にアスパラギン酸が保存されていることが知られる。
【表1】
【0018】
1つの実施形態において、本発明のタンパク質は、配列番号2のアミノ酸配列において、660位のアミノ酸残基が置換されていて、かつ、さらに1ないし複数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加されているアミノ酸配列を含み(または有し)、α-グルコシドに対する加水分解活性を有さず、かつ活性化糖を供与体基質とする糖転移反応を触媒する活性を有する。
1つの実施形態において、当該660位のアミノ酸残基はアスパラギン残基、アラニン残基、セリン残基、グリシン残基、およびグルタミン残基(例えばアスパラギン残基、アラニン残基およびセリン残基、例えばアスパラギン残基)からなる群から選択されるアミノ酸残基で置換されている。
【0019】
本開示において、「660位のアミノ酸残基が置換されていて、かつ、さらに1ないし複数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加されている」とは、当該660位のアミノ酸残基が置換されていて、かつ、当該660位のアミノ酸残基以外の位置において、1ないし複数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加されていることを意味する。
【0020】
1つの実施形態において、本発明のタンパク質は、配列番号2のアミノ酸配列と60%以上(好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、さらにより好ましくは95%以上、さらにより好ましくは96%以上、さらにより好ましくは97%以上)の配列同一性を有するアミノ酸配列であって、前記アミノ酸配列を配列番号2のアミノ酸配列とアライメントしたときの配列番号2のアミノ酸配列における660位に対応する位置のアミノ酸残基がアスパラギン酸残基以外のアミノ酸残基であるアミノ酸配列を含み(または有し)、α-グルコシドに対する加水分解活性を有さず、かつ活性化糖を供与体基質とする糖転移反応を触媒する活性を有する。
1つの実施形態において、当該660位に対応する位置のアミノ酸残基はアスパラギン残基、アラニン残基、セリン残基、グリシン残基、およびグルタミン残基(例えばアスパラギン残基、アラニン残基およびセリン残基、例えばアスパラギン残基)からなる群から選択されるアミノ酸残基である。
【0021】
1つの実施形態において、本発明のタンパク質は、配列番号2のアミノ酸配列と60%以上(好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、さらにより好ましくは95%以上、さらにより好ましくは96%以上、さらにより好ましくは97%以上、さらにより好ましくは98%以上、さらにより好ましくは99%以上)の配列同一性を有するα-グルコシダーゼのアミノ酸配列において、前記アミノ酸配列を配列番号2のアミノ酸配列とアライメントしたときの配列番号2のアミノ酸配列における660位に対応する位置のアミノ酸残基が置換されているアミノ酸配列を含み(または有し)、α-グルコシドに対する加水分解活性を有さず、かつ活性化糖を供与体基質とする糖転移反応を触媒する活性を有する。
1つの実施形態において、当該660位に対応する位置のアミノ酸残基はアスパラギン残基、アラニン残基、セリン残基、グリシン残基、およびグルタミン残基(例えばアスパラギン残基、アラニン残基およびセリン残基、例えばアスパラギン残基)からなる群から選択されるアミノ酸残基で置換されている。
【0022】
1つの実施形態において、本発明のタンパク質は、配列番号2のアミノ酸配列と60%以上(好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、さらにより好ましくは95%以上、さらにより好ましくは96%以上、さらにより好ましくは97%以上、さらにより好ましくは98%以上、さらにより好ましくは99%以上)の配列同一性を有するα-グルコシダーゼのアミノ酸配列において、前記アミノ酸配列を配列番号2のアミノ酸配列とアライメントしたときの配列番号2のアミノ酸配列における660位に対応する位置のアミノ酸残基が置換されていて、かつ、さらに1ないし複数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加されているアミノ酸配列を含み(または有し)、α-グルコシドに対する加水分解活性を有さず、かつ活性化糖を供与体基質とする糖転移反応を触媒する活性を有する。
1つの実施形態において、当該660位に対応する位置のアミノ酸残基はアスパラギン残基、アラニン残基、セリン残基、グリシン残基、およびグルタミン残基(例えばアスパラギン残基、アラニン残基およびセリン残基、例えばアスパラギン残基)からなる群から選択されるアミノ酸残基で置換されている。
【0023】
本開示において、「配列番号2のアミノ酸配列における660位に対応する位置のアミノ酸残基が置換されていて、かつ、さらに1ないし複数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加されている」とは、当該660位に対応する位置のアミノ酸残基が置換されていて、かつ、当該660位のアミノ酸残基以外の位置において、1ないし複数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加されていることを意味する。
【0024】
本開示において、「配列番号2のアミノ酸配列とアライメントしたときの配列番号2のアミノ酸配列における660位に対応する位置のアミノ酸残基」とは、アライメントを配列番号2をベースに当該技術分野における通常の方法(例えばClustal Omega、T-coffee、MUSCLE,PROMALS等のプログラムを用いて)で行ったときに、配列番号2のアミノ酸配列における660位に対応する位置のアミノ酸残基を意味する。
活性中心のアミノ酸残基は機能的な制約が強く保存的であるため、配列番号2のアミノ酸配列と別のα-グルコシダーゼのアミノ酸配列をアライメントしたときに、当該α-グルコシダーゼにおいて配列番号2のアミノ酸配列における660位に対応する位置のアミノ酸残基は一般酸塩基触媒残基である蓋然性が高い。
【0025】
1つの実施形態において、本発明のタンパク質は、配列番号2のアミノ酸配列と60%以上(好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、さらにより好ましくは95%以上、さらにより好ましくは96%以上、さらにより好ましくは97%以上、さらにより好ましくは98%以上、さらにより好ましくは99%以上)の配列同一性を有するα-グルコシダーゼのアミノ酸配列において、一般酸塩基触媒残基が置換されているアミノ酸配列を含み(または有し)、α-グルコシドに対する加水分解活性を有さず、かつ活性化糖を供与体基質とする糖転移反応を触媒する活性を有する。
1つの実施形態において、一般酸塩基触媒残基はアスパラギン残基、アラニン残基、セリン残基、グリシン残基、およびグルタミン残基(例えばアスパラギン残基、アラニン残基およびセリン残基、例えばアスパラギン残基)からなる群から選択されるアミノ酸残基で置換されている。
【0026】
1つの実施形態において、本発明のタンパク質は、配列番号2のアミノ酸配列と60%以上(好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、さらにより好ましくは95%以上、さらにより好ましくは96%以上、さらにより好ましくは97%以上、さらにより好ましくは98%以上、さらにより好ましくは99%以上)の配列同一性を有するα-グルコシダーゼのアミノ酸配列において、一般酸塩基触媒残基が置換されていて、かつ、さらに1ないし複数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加されているアミノ酸配列を含み(または有し)、α-グルコシドに対する加水分解活性を有さず、かつ活性化糖を供与体基質とする糖転移反応を触媒する活性を有する。
1つの実施形態において、当該一般酸塩基触媒残基はアスパラギン残基、アラニン残基、セリン残基、グリシン残基、およびグルタミン残基(例えばアスパラギン残基、アラニン残基およびセリン残基、例えばアスパラギン残基)からなる群から選択されるアミノ酸残基で置換されている。
【0027】
本開示において、「一般酸塩基触媒残基が置換されていて、かつ、さらに1ないし複数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加されている」とは、当該一般酸塩基触媒残基が置換されていて、かつ、当該一般酸塩基触媒残基以外の位置において、1ないし複数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加されていることを意味する。
【0028】
α-グルコシダーゼの一般酸塩基触媒残基は当該技術分野における通常の方法により特定することができ、例えば、非特許文献15に記載の方法に従って行うことができる。
【0029】
1つの実施形態において、本発明のタンパク質は、配列番号3のアミノ酸配列を含み(または有し)、α-グルコシドに対する加水分解活性を有さず、かつ活性化糖を供与体基質とする糖転移反応を触媒する活性を有する。
【表2】
【0030】
1つの実施形態において、本発明のタンパク質は、配列番号3のアミノ酸配列において、1ないし複数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加されているアミノ酸配列であって、前記アミノ酸配列を配列番号3のアミノ酸配列とアライメントしたときの配列番号3のアミノ酸配列における635位に対応する位置のアミノ酸残基がアスパラギン酸残基以外のアミノ酸残基であるアミノ酸配列を含み(または有し)、α-グルコシドに対する加水分解活性を有さず、かつ活性化糖を供与体基質とする糖転移反応を触媒する活性を有する。
1つの実施形態において、当該635位に対応する位置のアミノ酸残基はアスパラギン残基、アラニン残基、セリン残基、グリシン残基、およびグルタミン残基(例えばアスパラギン残基、アラニン残基およびセリン残基、例えばアスパラギン残基)からなる群から選択されるアミノ酸残基である。
【0031】
1つの実施形態において、本発明のタンパク質は、配列番号3のアミノ酸配列と60%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列であって、前記アミノ酸配列を配列番号3のアミノ酸配列とアライメントしたときの配列番号3のアミノ酸配列における635位に対応する位置のアミノ酸残基がアスパラギン酸残基以外のアミノ酸残基であるアミノ酸配列を含み(または有し)、α-グルコシドに対する加水分解活性を有さず、かつ活性化糖を供与体基質とする糖転移反応を触媒する活性を有する。
1つの実施形態において、当該635位に対応する位置のアミノ酸残基はアスパラギン残基、アラニン残基、セリン残基、グリシン残基、およびグルタミン残基(例えばアスパラギン残基、アラニン残基およびセリン残基、例えばアスパラギン残基)からなる群から選択されるアミノ酸残基である。
【0032】
本明細書において、置換、欠失、挿入および/または付加されるアミノ酸残基の種類、数および位置は、本発明のタンパク質がα-グルコシドに対する加水分解活性を有さず、かつ活性化糖を供与体基質とする糖転移反応を触媒する活性を有するかぎり、特に限定されない。アミノ酸置換の例としては、保存的アミノ酸置換が挙げられるが、本発明のタンパク質がα-グルコシドに対する加水分解活性を有さず、かつ活性化糖を供与体基質とする糖転移反応を触媒する活性を有するかぎり、非保存的アミノ酸置換であってもよい。
【0033】
本開示において、「1ないし複数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加されているアミノ酸配列」における「1ないし複数個」の範囲は特には限定されないが、例えば、1から400個、1から300個、1から200個、1から100個、1から50個、1から40個、1から30個、1から25個、1から20個、1から10個、1から7個、1から5個、1から3個でありうる。
【0034】
本開示において、アミノ酸は、通常は天然アミノ酸であり、L-体であるが、β-アラニンなどの非天然アミノ酸、D-体アミノ酸、およびアルキル化、エステル化、ハロゲン化などの手法によって修飾された修飾アミノ酸を包含しうる。
【0035】
本開示において、アミノ酸配列の配列同一性は、比較する2本のアミノ酸配列を整列(アラインメント)させ、必要に応じてギャップを導入して、両者のアミノ酸一致度が最も高くなるようにしたときの、ギャップ部分も含んだアミノ酸配列において同一部位に同一のアミノ酸残基が出現する頻度を%で表示した値でありうる。アミノ酸の配列同一性は、例えばBLAST、BLAST-2、ALIGN、またはMegalign(DNASTAR)ソフトウェアなどの入手可能なコンピュータソフトウェアを使用することにより決定することができる。好ましい例として、アミノ酸配列の配列同一性は、Protein BLAST(BLAST(登録商標)、National Library of Medicine)プログラムを用いてデフォールトパラメータで評価することができる。
【0036】
「配列番号2のアミノ酸配列と60%以上の配列同一性を有するα-グルコシダーゼ」の例として、Glycoside Hydrolase Family 31に分類されるα-グルコシダーゼのうち配列番号2のアミノ酸配列と60%以上の配列同一性を有するα-グルコシダーゼが挙げられる。
Glycoside Hydrolase Family 31に分類されるα-グルコシダーゼはいずれも配列番号2のアミノ酸配列における660位に対応する位置に一般酸塩基触媒残基Aspを有する。
【0037】
1つの実施形態において、「配列番号2のアミノ酸配列と60%以上の配列同一性を有するα-グルコシダーゼ」は、Aspergillus属、Sulfolobus属、Schwanniomyces属、Saccharomyces属、Schizosaccharomyces属、Bacteroides属、Acremonium属、またはPodospora属由来である。好ましくはAspergillus属(例えばAspergillus niger)由来である。
【0038】
1つの実施形態において、本発明のタンパク質は配列番号1のアミノ酸配列を有する。配列番号1のアミノ酸配列は、本願実施例に記載のとおり得られた組換え酵素(ANG_D660N)のアミノ酸配列であり、Aspergillus niger由来α-グルコシダーゼ(UniProtID: A0PCH8)(配列番号2)の一般酸塩基触媒残基Asp660をアスパラギンに置換し、かつ、N末端の25アミノ酸残基が欠失したアミノ酸配列(すなわち配列番号3)を含み、前記配列番号3のアミノ酸配列のC末端に調製時に用いたプラスミドベクター由来のアミノ酸配列(配列番号4:23アミノ酸)が付加されている。
当該欠失したN末端の25アミノ酸残基はAspergillus nigerにおけるタンパク質の輸送シグナル配列と予想されている部分である。
当該C末側の付加配列(配列番号4:23アミノ酸)はmycエピトープおよびヒスタグ配列と呼ばれる配列で、それぞれ抗myc抗体による特異的な検出および金属アフィニティークロマトグラフィーによる精製のためのアミノ酸配列である。
本願実施例で記載されているとおり、本願発明者らは当該変異酵素(ANG_D660N)が活性化糖を供与体基質とする糖転移反応を触媒する活性を有することを確認した。当該変異酵素(ANG_D660N)は一般酸塩基触媒残基に変異を導入してるため、糖転移反応生成物は加水分解されずに蓄積しうる。
【表3】
【表4】
【0039】
1つの実施形態において、本発明のタンパク質は、配列番号2のアミノ酸配列におけるN末端の25アミノ酸残基に対応する位置のアミノ酸残基が欠失しているアミノ酸配列を含む(または有する)。
【0040】
本開示において「アミノ酸配列を有するタンパク質」とは当該タンパク質の一次構造が当該アミノ酸配列により構成されること意味する。「アミノ酸配列を有するタンパク質」は「当該アミノ酸配列からなるタンパク質」を意味しうる。
【0041】
本開示において「アミノ酸配列を含むタンパク質」とは、当該アミノ酸配列のN末端および/またはC末端に、1個~複数個のアミノ酸がアミノ酸配列付加されうることを意味する。本発明のタンパク質の「α-グルコシドに対する加水分解活性を有さず、かつ活性化糖を供与体基質とする糖転移反応を触媒する活性を有する」という性質は当該アミノ酸配列部分に起因しうるため、当該タンパク質がα-グルコシドに対する加水分解活性を有さず、かつ活性化糖を供与体基質とする糖転移反応を触媒する活性を有する限りにおいて、当該アミノ酸配列のN末端および/またはC末端にアミノ酸数1個~複数個のアミノ酸配列が付加されうる。例えば、当該タンパク質がα-グルコシドに対する加水分解活性を有さず、かつ活性化糖を供与体基質とする糖転移反応を触媒する活性を有する限りにおいて、当該アミノ酸配列に、製造時に利用したプラスミドベクター由来のアミノ酸配列が付加されている場合が挙げられる。このような付加配列の例として、タグ、分泌シグナルペプチド、細胞表層・オルガネラへの局在化シグナルペプチド等のアミノ酸配列が挙げられる。
当該付加されうるアミノ酸の数は、当該タンパク質がα-グルコシドに対する加水分解活性を有さず、かつ活性化糖を供与体基質とする糖転移反応を触媒する活性を有する限りにおいて、特に限定されないが、例えば例えば、1から400個、1から300個、1から200個、1から100個、1から50個、1から40個、1から30個でありうる。
【0042】
1つの実施形態において、本発明のタンパク質は、所定のアミノ酸配列(例えば配列番号3)のC末端に配列番号4が付加されている。
【0043】
1つの実施形態において、本発明のタンパク質は、所定のアミノ酸配列(例えば配列番号3または配列番号1)のN末端に配列番号5が付加されている。
【表5】
配列番号5はPichia pastorisを用いた発現系において分泌シグナル配列として機能しうる配列である。例えばPichia pastorisを用いた発現系において配列番号5は菌体外への分泌時に切断除去されうるが、本発明のタンパク質がα-グルコシドに対する加水分解活性を有さず、かつ活性化糖を供与体基質とする糖転移反応を触媒する活性を有する限り、付加されたままであってもよい。
【0044】
1つの実施形態において、本発明のタンパク質は配列番号6のアミノ酸配列を有する。
【表6】
【0045】
本開示において、タンパク質および/または酵素剤が「α-グルコシドに対する加水分解活性を有さない」ことを確認する方法は特に限定されず、当該技術分野で通常行われる方法により確認することができる。例えば、タンパク質および/または酵素剤をマルトースに作用させてグルコース生成の有無を検出することにより確認することができる。あるいは、α-グルコシダーゼの一般酸塩基触媒残基が一般酸塩基触媒残基となり得ないアミノ酸残基(例えば、アスパラギン残基、アラニン残基、セリン残基、グリシン残基、グルタミン残基)で置換されたα-グルコシダーゼ変異体は「α-グルコシドに対する加水分解活性を有さない」タンパク質とみなすことができる。
【0046】
本開示において、タンパク質および/または酵素剤が「活性化糖を供与体基質とする糖転移反応を触媒する活性を有する」ことを確認する方法は特に限定されず、例えば水、アルコールなどの適当な溶媒中で、タンパク質および/または酵素剤を、活性化糖である供与体基質と受容体基質を反応させ、予想される糖転移産物が検出されるかにより確認することができる。予想される糖転移産物の検出が少なくとも1つ確認できれば、当該タンパク質および/または酵素剤は「活性化糖を供与体基質とする糖転移反応を触媒する活性を有する」。
活性化糖である供与体基質自体が受容体基質としても働いて糖転移反応産物が生成する場合には、供与体基質と受容体基質は同一物質でありうる。
水、アルコールなどの溶媒分子が受容体基質としても働いて糖転移反応産物が生成する場合には、溶媒と受容体基質は同一物質でありうる。
具体的な例として、本願実施例(より具体的には合成反応例8)の方法が挙げられる。
【0047】
本開示において、活性化糖は特に限定されず、グライコシンターゼ反応またはグリコリガーゼ反応で通常用いられる活性化糖を用いることができるが、α-アノマー型の糖に由来する糖誘導体であることが好ましい。例えば、α-グルコース、α-マンノース、またはα-ガラクトースに由来する糖誘導体が挙げられる。さらに具体的な例として、α-グルコース、α-マンノース、およびα-ガラクトースからなる群から選択される糖の1位の―OHが脱離基(例えばフッ素、ヨウ素、塩素、ニトロフェノールおよびその誘導体、リン酸、ウリジン二リン酸、4-メチルウンべリフェロン)で置換された糖誘導体が挙げられる。
さらに具体的な例として、
α-グルコースに由来する活性化糖の例:1-フルオロ-1-デオキシ-α-グルコース、1-ブロモ-1-デオキシ-α-グルコース、1-クロロ-1-デオキシ-α-グルコース、4-ニトロフェニル α-グルコシド、2,4-ジニトロフェニル α-グルコシド、α-グルコース-1-リン酸、α-ウリジン二リン酸グルコシド、4-メチルウンべリフェリル α-グルコシド、
α-マンノースに由来する活性化糖の例:1-フルオロ-1-デオキシ-α-マンノース、1-ブロモ-1-デオキシ-α-マンノース、1-クロロ-1-デオキシ-α-マンノース、4-ニトロフェニル α-マンノシド、2,4-ジニトロフェニル α-マンノシド、α-マンノース-1-リン酸、α-ウリジン二リン酸マンノシド、4-メチルウンべリフェリル α-マンノシド、および
α-ガラクトースに由来する活性化糖の例:1-フルオロ-1-デオキシ-α-ガラクトース、1-ブロモ-1-デオキシ-α-ガラクトース、1-クロロ-1-デオキシ-α-ガラクトース、4-ニトロフェニル α-ガラクトシド、2,4-ジニトロフェニル α-ガラクトシド、α-ガラクトース-1-リン酸、α-ウリジン二リン酸ガラクトシド、および4-メチルウンべリフェリル α-ガラクトシド
が挙げられる。
好ましい活性化糖の例として、1-フルオロ-1-デオキシ-α-マンノースが挙げられる。
【0048】
本開示において、受容体基質特異性が広いため、受容体基質は特に限定されず、本発明のタンパク質が糖転移反応を触媒しうる化合物であれば特に限定されない。例えば、カルボン酸化合物、リン酸化合物、およびチオール基を有する化合物が挙げられる。
カルボン酸化合物の例としては、ギ酸、酢酸、酪酸、オクタン酸、カプリン酸、ラウリル酸、パルミチン酸、ジベリン酸、サリチル酸、インドール-3-酢酸、ジャスモン酸、アブシシン酸、マロン酸、L-乳酸、グリセリン酸、ギ酸、シュウ酸、フタル酸、クエン酸、酒石酸、アミノ酸、アスパラギン酸/グルタミン酸を含有するペプチド(例えばアンジオテンシンI)、グルコン酸、グルクロン酸等が挙げられ、アスコルビン酸のようなカルボン酸のビニローグもカルボン酸化合物の例として挙げられる。好ましいカルボン酸化合物の例として、ギ酸、酢酸、酪酸、オクタン酸、インドール-3-酢酸、ジャスモン酸、アブシシン酸、マロン酸、L-乳酸、ギ酸、フタル酸、クエン酸、酒石酸、アミノ酸、ペプチド(例えばアンジオテンシンI)、グルクロン酸、アスコルビン酸が挙げられる。
リン酸化合物の例としては、ピロリン酸、グルコース6-リン酸が挙げられる。
チオール基を有する化合物の例としては、システイン、2-メルカプトエタノール、6-デオキシ-6-メルカプトグルコースが挙げられる。
【0049】
本開示において、糖転移産物とは、供与体基質である活性化糖の糖部分が受容体基質に転移して得られた産物を意味する。
例えば、受容体基質がカルボン酸化合物であるときには、糖エステル化合物が得られうる。
例えば、受容体基質がリン酸化合物であるときには、糖リン酸エステル化合物が得られうる。
例えば、受容体基質がチオール基を有する化合物であるときには、チオグリコシド化合物が得られうる。
本開示において、糖転移産物における糖部分のアノマー型は特に限定されず、α-アノマー型であっても、β-アノマー型であってもよい。
α-アノマー型の糖に由来する活性化糖を供与体基質とする場合、糖転移産物における糖部分はα-アノマー型でありうるが、β-アノマー型の糖転移産物であっても本願発明の範囲に含まれうる。
【0050】
1つの実施形態において、本発明のタンパク質および/または本発明の酵素剤は、α-グルコース、α-マンノース、およびα-ガラクトースからなる群から選択される糖に由来する活性化糖を供与体基質とする糖転移反応を触媒する活性を有する。このとき、本発明のタンパク質および/または本発明の酵素剤は、α-グルコース、α-マンノース、およびα-ガラクトースからなる群から選択される糖に由来する活性化糖以外の活性化糖を供与体基質とする糖転移反応を触媒する活性を有していてもよい。
【0051】
1つの実施形態において、本発明のタンパク質および/または本発明の酵素剤は、α-マンノース、およびα-ガラクトースからなる群から選択される糖に由来する活性化糖を供与体基質とする糖転移反応を触媒する活性を有する。このとき、本発明のタンパク質および/または本発明の酵素剤は、α-マンノース、およびα-ガラクトースからなる群から選択される糖に由来する活性化糖以外の活性化糖を供与体基質とする糖転移反応を触媒する活性を有していてもよい。
【0052】
1つの実施形態において、本発明のタンパク質および/または本発明の酵素剤は、α-マンノースに由来する活性化糖を供与体基質とする糖転移反応を触媒する活性を有する。このとき、本発明のタンパク質および/または本発明の酵素剤は、α-マンノースに由来する活性化糖以外の活性化糖を供与体基質とする糖転移反応を触媒する活性を有していてもよい。
【0053】
1つの実施形態において、本発明のタンパク質および/または本発明の酵素剤は、1-フルオロ-1-デオキシ-α-マンノースに由来する活性化糖を供与体基質とする糖転移反応を触媒する活性を有する。このとき、本発明のタンパク質および/または本発明の酵素剤は、1-フルオロ-1-デオキシ-α-マンノースに由来する活性化糖以外の活性化糖を供与体基質とする糖転移反応を触媒する活性を有していてもよい。
【0054】
1つの実施形態において、本発明のタンパク質および/または本発明の酵素剤は、活性化糖(例えばα-グルコース、α-マンノース、およびα-ガラクトース(好ましくはα-マンノースおよびα-ガラクトース、さらに好ましくはα-マンノース)からなる群から選択される糖に由来する)である供与体基質とする糖転移反応を触媒するために使用される。
【0055】
1つの実施形態において、本発明のタンパク質および/または本発明の酵素剤は、活性化糖(例えばα-グルコース、α-マンノース、およびα-ガラクトース(好ましくはα-マンノースおよびα-ガラクトース、さらに好ましくはα-マンノース)からなる群から選択される糖に由来する)である供与体基質から受容体基質に糖を転移するために使用される。
【0056】
1つの実施形態において、本発明のタンパク質および/または本発明の酵素剤は、活性化糖(例えばα-グルコース、α-マンノース、およびα-ガラクトース(好ましくはα-マンノースおよびα-ガラクトース、さらに好ましくはα-マンノース)からなる群から選択される糖に由来する)である供与体基質と受容体基質とを反応させて糖転移産物を製造するために使用される。
【0057】
本発明のタンパク質および/または本発明の酵素剤を用いて得られた糖転移産物は、その性質に応じて、食品、飼料、餌料、化粧料、試薬または医薬品の製造に利用されうる。
【0058】
本開示において、本発明のタンパク質および/または本発明の酵素剤の存在下における供与体基質と受容体基質との反応条件は、糖転移反応が起りうる条件であれば特に限定されず、使用する本発明のタンパク質および/または本発明の酵素剤、供与体基質、および受容体基質に応じて適宜選択することができる。
本開示において、活性化糖である供与体基質自体が受容体基質としても働いて糖転移反応産物が生成する場合には、供与体基質と受容体基質は同一物質でありうる。
【0059】
当該反応は液体中で行われることが好ましい。糖転移反応が進む液体成分であれば液体成分の種類は特に限定されないが、両基質と酵素が接触しやすいように、例えばこれらが溶解できる液体成分であることが好ましい。
当該液体成分が受容体基質としても働いて糖転移反応産物が生成する場合には、溶媒と受容体基質は同一物質でありうる。
【0060】
当該反応は例えば、pH3~8で、温度10℃~45℃で、および/または反応時間1分~300時間の条件で行うことができる。
pHの例として、pH3.5~6.5、pH4~6.5、又はpH5.5~6.5が挙げられる。
反応温度の例として、15℃~40℃、25℃~39℃、30℃~38℃が挙げられる。
反応時間の例として、1分~200時間、1分~100時間、20分~100時間が挙げられる。
【0061】
1つの態様において本願は、前記の宿主細胞を培養し、該培養物から本発明のタンパク質をのタンパク質を回収することを含む、本発明のタンパク質の製造方法を提供する。
【0062】
本発明のタンパク質の製造方法は特に限定されず、通常の方法を用いて製造することができる。本発明のタンパク質は、Aspergillus属菌などの微生物により製造してもよいし、化学合成により合成したタンパク質であってもよいし、遺伝子組み換え技術により作製した組み換えタンパク質であってもよい。
例えば本願のタンパク質は、Kunkel法やPCR法を組み合わせた方法(例えばInverse PCR、QuikChange法)等の部位特異的変異導入法により、所定のα-グルコシダーゼをコードするポリヌクレオチドから本発明のタンパク質をコードするポリヌクレオチド得、これを通常の方法を用いてプラスミド、バクテリオファージ、コスミド等のベクターに組み込み、当該ベクターで宿主細胞を形質転換し、これを培養して、培養物から適宜精製することで得ることができうる。また、ゲノム編集(例えばCRISPR-Cas9)により、Aspergillus属菌などのゲノムDNAにコードされた所定のα-グルコシダーゼのポリヌクレオチドに変異を導入して本発明のタンパク質をコードするポリヌクレオチドに変換し、このゲノム編集済みのAspergillus属菌を培養して、培養物から適宜精製することで得ることができうる。
【0063】
1つの態様において本願は、本発明のタンパク質をコードするポリヌクレオチドを提供する。
1つの実施形態において本願は、配列番号7、8、または9を含む(またはからなる)ポリヌクレオチドを提供する。
配列番号7は配列番号1のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドの一例である。
配列番号8は配列番号3のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドの一例である。
配列番号9は配列番号6のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドの一例である。
【0064】
1つの態様において本願は、前記のポリヌクレオチドを含むベクターを提供する。ベクターとしては発現ベクターが好ましい。例えば、通常用いられる発現ベクターを、適宜選択して用いることができる。
【0065】
1つの態様において本願は、前記のベクターで形質転換された宿主細胞を提供する。宿主細胞を含む剤は本発明の酵素剤の実施形態として含まれうる。宿主細胞は特に限定されず、細菌、酵母、糸状菌、放線菌などの微生物細胞、植物細胞、動物細胞でありうる。
【0066】
本開示において、特に記載しない限り、「%」、「部」等は質量基準であり、数値範囲はその端点を含むものとして記載される。
【実施例0067】
以下の例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0068】
酵素の調製:Pichia pastoris GS115株を異種宿主としてANG_D660N組換え酵素(配列番号1)を生産した。プラスミドベクターにはThermoFischer Scientific社のpGAPZαAを用い,付属のプロトコールに従って菌体外分泌タンパク質としてANG_D660Nを生産した。
なお、当該異種宿主内ではANG_D660NのN末端に分泌シグナル配列が付加されているタンパク質(配列番号6)が産生され、当該分泌シグナル配列は菌体外への分泌時に切断除去されて、ANG_D660N(配列番号1)が菌体外に分泌される。
ANG_D660N組換え酵素(配列番号1)をコードするヌクレオチド配列を配列番号7に示す。
ANG_D660NのN末端に分泌シグナル配列が付加されているタンパク質(配列番号6)をコードするヌクレオチド配列を配列番号9に示す。
P. pastoris培養上清から硫酸アンモニウム沈殿によってANG_D660Nを沈殿させて回収した後,Ni-Chelating Sepharose FastFlowカラムクロマトグラフィーによって電気泳動的に単一になるまでANG_D660Nを精製した。精製酵素を20 mM 酢酸ナトリウム緩衝液 (pH 5.0)に対して透析した後,適宜濃縮した酵素溶液を合成反応に用いた。
【0069】
糖供与体の調製:1-フルオロ-1-デオキシ-α-マンノース,1-フルオロ-1-デオキシ-α-グルコース,および1-フルオロ-1-デオキシ-α-ガラクトースを既報の合成法(DOI: 10.1246/cl.1984.1747)に従って合成した。
【0070】
合成反応例1(短鎖脂肪酸との反応):ギ酸,酢酸または酪酸に水酸化ナトリウムを滴定してpH 4.0とした。3.12 uM ANG_D660N,25 mM 1-フルオロ-1-デオキシ-α-マンノースおよび40 mM ギ酸,酢酸または酪酸(pH 4.0)を混合し,37℃に24~72時間保持した。陰性対照として,ANG_D660Nを4 mM 酢酸ナトリウム緩衝液(pH 5.0)に置き換えた反応も実施した。時間経過後の反応液をTLCにより分析した。結果を
図1に示す。ギ酸,酢酸および酪酸を用いた場合に,陰性対照には見られない生成物が検出された。ギ酸,酢酸,および酪酸との反応生成物をESI-MS分析した結果、1-O-ギ酸マンノース,1-O-アセチルマンノースおよび1-O-酪酸マンノース由来と推定される分子イオン関連ピークが検出された(
図2~4)。
酢酸に水酸化ナトリウムを滴定してpH 4.0, 5.0または6.0とした。3.12 uM ANG_D660N,25 mM 1-フルオロ-1-デオキシ-α-マンノースおよび40 mM 酢酸(pH 4.0, 5.0または6.0)を混合し,37℃に1~72時間保持して生成物を経時的にTLCにより分析した。結果を
図5に示す。pH 6.0の反応において1-フルオロ-1-デオキシ-α-マンノースのスポットが最も速く消失し,1-O-アセチルマンノースと推定される生成物のスポットが最も強い強度を示した。全てのpHにおいて1-フルオロ-1-デオキシ-α-マンノースの消失が見られた反応72時間の反応液中のマンノースをD-Mannose/D-Fructose/D-Glucose Assay kit(Megazyme社製)を用いて定量した(表6)。それぞれのマンノース量は20.7±0.3 mM(pH 4.0),19.2±0.1 mM(pH 5.0)および18.6±0.1 mM(pH 6.0)であった。TLCの結果から反応生成物は1-O-アセチルマンノースと推定される生成物とマンノースのみであり,両者の和は基質濃度(25 mM)に等しくなることに基づいて転移産物濃度を算出した。それぞれのpHにおける転移産物の推定濃度および推定収率は4.3 mM(17.2%,pH 4.0),5.8 mM(23.1%,pH 5.0)および6.4 mM(25.6%,pH 6.0)であった。
【表6】
【0071】
合成反応例2(中鎖脂肪酸および長鎖脂肪酸との反応):オクタン酸(C8),カプリン酸(C10)またはラウリル酸(C12)を500 mMとなるようにエタノールに溶解させた。パルミチン酸(C16)は500 mMとなるようにジエチルエーテルに溶解させた。3.12 uM ANG_D660N,25 mM 1-フルオロ-1-デオキシ-α-マンノースおよび40 mM 酢酸ナトリウム緩衝液(pH 4.0)から成る反応液に対して1/5量の500 mM脂肪酸溶液を混合し,37℃に72時間保持した。陰性対照として,ANG_D660Nを4 mM 酢酸ナトリウム緩衝液(pH 5.0)に置き換えた反応も実施した。時間経過後の反応液をTLCにより分析した。結果を
図1に示す。オクタン酸を用いた場合に,陰性対照には見られない生成物が検出された。オクタン酸との反応生成物をESI-MS分析した結果、1-O-オクタン酸マンノース由来と推定される分子イオン関連ピークが検出された(
図6)。
【0072】
合成反応例3(植物ホルモンとの反応):アスコルビン酸を500 mMとなるように水に溶解させた。ジベリン酸、サリチル酸、インドール-3-酢酸、ジャスモン酸またはアブシシン酸は500 mMとなるようにエタノールに溶解させた。3.12 uM ANG_D660N,25 mM 1-フルオロ-1-デオキシ-α-マンノースおよび40 mM 酢酸ナトリウム緩衝液(pH 4.0)から成る反応液に対して1/5量の500 mM植物ホルモン溶液を混合し,37℃に72時間保持した。陰性対照として,ANG_D660Nを4 mM 酢酸ナトリウム緩衝液(pH 5.0)に置き換えた反応も実施した。時間経過後の反応液をTLCにより分析した。結果を
図7に示す。アスコルビン酸、インドール-3-酢酸、ジャスモン酸またはアブシシン酸を用いた場合に,陰性対照には見られない生成物が検出された。アスコルビン酸、インドール酢酸、ジャスモン酸またはアブシシン酸との反応生成物をESI-MS分析した結果、マンノースと植物ホルモンが縮合した化合物由来と推定される分子イオン関連ピークが検出された(
図8~11)。
サリチル酸を水酸化ナトリウム水溶液で溶解させた後に塩酸を滴定してpH 4.0に調整し,濃度を100 mMとなるように希釈した。3.12 uM ANG_D660N,25 mM 1-フルオロ-1-デオキシ-α-マンノースおよび40 mM サリチル酸-Na(pH 4.0)から成る反応液を37℃に72時間保持した。陰性対照として,ANG_D660Nを4 mM 酢酸ナトリウム緩衝液(pH 5.0)に置き換えた反応も実施した。時間経過後の反応液をTLCにより分析した。結果を
図12に示す。酵素反応において、陰性対照には見られない生成物が検出された。反応生成物をESI-MS分析した結果、マンノースとサリチル酸が縮合した化合物由来と推定される分子イオン関連ピークが検出された(
図13)。
【0073】
合成反応例4(有機酸との反応):マロン酸,L-乳酸,グリセリン酸,ギ酸,シュウ酸,ピロリン酸,フタル酸,クエン酸または酒石酸に水酸化ナトリウムを滴定してpH 4.0とした。3.12 uM ANG_D660N,25 mM 1-フルオロ-1-デオキシ-α-マンノースおよび40 mM 有機酸溶液(pH 4.0)を混合し,37℃に0.5~96時間保持した。陰性対照として,ANG_D660Nを4 mM 酢酸ナトリウム緩衝液(pH 5.0)に置き換えた反応も実施した。時間経過後の反応液をTLCにより分析した。結果を
図14と15に示す。マロン酸,L-乳酸,ギ酸,ピロリン酸,フタル酸,クエン酸または酒石酸を用いた場合に,陰性対照には見られない生成物が検出された。マロン酸,L-乳酸,グリセリン酸,ピロリン酸,フタル酸,クエン酸または酒石酸との反応生成物をESI-MS分析した結果、マンノースとフタル酸が縮合した化合物由来と推定される分子イオン関連ピークが検出された(
図16~22)。
【0074】
合成反応例5(アミノ酸との反応):3.12 uM ANG_D660N,25 mM 1-フルオロ-1-デオキシ-α-マンノースおよび100 mM アミノ酸(セリン(Ser),スレオニン(Thr),システイン(Cys)またはシステインメチルエステル(CysMe))を混合し,37℃に0.5~96時間保持した。陰性対照として,ANG_D660Nを4 mM 酢酸ナトリウム緩衝液(pH 5.0)に置き換えた反応も実施した。時間経過後の反応液をTLCにより分析した。結果を
図23に示す。セリン ,スレオニンまたはシステインを用いた場合に,陰性対照には見られない生成物が検出された。反応生成物をESI-MS分析した結果、マンノースと各アミノ酸が縮合した化合物由来と推定される分子イオン関連ピークが検出された(
図24~26)。
【0075】
合成反応例6(ペプチドとの反応):3.12 uM ANG_D660N,25 mM 1-フルオロ-1-デオキシ-α-マンノースおよび0.5 mg/mL アンジオテンシンI(DRVYIHPFHL)を混合し,37℃に72時間保持した。陰性対照として,ANG_D660Nを4 mM 酢酸ナトリウム緩衝液(pH 5.0)に置き換えた反応も実施した。時間経過後の反応液をLC-MSにより分析した。酵素反応液では陰性対照に見られないピークが検出され,当該ピークの精密質量分析の結果から推定される組成式(C
68H
99N
17O
19)は,マンノースとアンジオテンシンIが縮合した化合物の組成式と一致した(
図27)。
【0076】
合成反応例7(グルコース誘導体カルボン酸との反応):3.12 uM ANG_D660N,25 mM 1-フルオロ-1-デオキシ-α-マンノースおよび100 mM グルコン酸またはグルクロン酸を混合し,37℃に48時間保持した。陰性対照として,ANG_D660Nを4 mM 酢酸ナトリウム緩衝液(pH 5.0)に置き換えた反応も実施した。時間経過後の反応液をTLCにより分析した。結果を
図28に示す。グルクロン酸を用いた場合に,陰性対照には見られない生成物が検出された。
【0077】
合成反応例8(1-フルオロ-1-デオキシ-α-グルコースおよび1-フルオロ-1-デオキシ-α-ガラクトースを糖供与体とした反応):酢酸に水酸化ナトリウムを滴定してpH 4.0とした。3.12 uM ANG_D660N,25 mM 1-フルオロ-1-デオキシ-α-グルコースまたは1-フルオロ-1-デオキシ-α-ガラクトースおよび40 mM 酢酸(pH 4.0)を混合し,37℃に0.5~72時間保持した。陰性対照として,ANG_D660Nを4 mM 酢酸ナトリウム緩衝液(pH 5.0)に置き換えた反応も実施した。時間経過後の反応液をTLCにより分析した。結果を
図29および30に示す。どちらの1-フルオロ-1-デオキシ糖を糖供与体とした酵素反応においても,陰性対照には見られない生成物が検出された。
【0078】
上記の合成反応例で検証したとおり、ANG_D660Nは、1-フルオロ-1-デオキシ-α-マンノース,1-フルオロ-1-デオキシ-α-グルコース,または1-フルオロ-1-デオキシ-α-ガラクトースを糖供与体として、様々なカルボン酸化合物およびリン酸化合物を糖受容体とした糖転移反応を触媒することが示された。
上記の合成反応例において反応生成物が検出されなかった糖供与体があるが、これは単に当該合成反応例の反応条件では反応生成物が検出されなかったことを示すにすきず、反応条件を変えることで反応生成物は得られる可能性はある。