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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024095591
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】評価装置、評価方法及び船
(51)【国際特許分類】
   G08G 3/02 20060101AFI20240703BHJP
   B63B 79/40 20200101ALI20240703BHJP
【FI】
G08G3/02 A
B63B79/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023216955
(22)【出願日】2023-12-22
(31)【優先権主張番号】P 2022212394
(32)【優先日】2022-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】橋本 博公
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 舜
(72)【発明者】
【氏名】牧野 秀成
【テーマコード(参考)】
5H181
【Fターム(参考)】
5H181AA25
5H181BB04
5H181BB13
5H181FF03
5H181FF32
5H181FF35
5H181LL08
(57)【要約】
【課題】船の相対位置を考慮した計算を行う評価装置、評価方法及び船を提供する。
【解決手段】第1の船がある位置に到達したときの前記第1の船に対する第2の船の相対位置、前記第1の船が前記位置に到達するための針路に対する前記第2の船の針路である相対針路に基づき、前記第1の船が前記位置に到達したときの前記第1の船に対する前記第2の船の安全性又は危険性を示す値を算出する、評価装置。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の船がある位置に到達したときの前記第1の船に対する第2の船の相対位置、前記第1の船が前記位置に到達するための針路に対する前記第2の船の針路である相対針路に基づき、前記第1の船が前記位置に到達したときの前記第1の船に対する前記第2の船の安全性又は危険性を示す値を算出する、
評価装置。
【請求項2】
第1の船がある位置に到達したときの第2の船に対する前記第1の船の相対位置、前記第2の船の針路に対する前記第1の船が前記位置に到達するための針路である相対針路に基づき、前記第1の船が前記位置に到達したときの前記第2の船に対する前記第1の船の安全性又は危険性を示す値を算出する、
評価装置。
【請求項3】
前記第1の船が前記位置に到達したときの前記第2の船に対する前記第1の船の相対位置、前記第2の船の針路に対する前記第1の船が前記位置に到達するための針路である相対針路に基づき、前記第1の船が前記位置に到達したときの前記第2の船に対する前記第1の船の安全性又は危険性を示す値を算出し、
前記第1の船に対する前記第2の船の安全性又は危険性及び前記第2の船に対する前記第1の船の安全性又は危険性に基づいて、前記第1の船と前記第2の船との間の安全性又は危険性を算出する、
請求項1に記載の評価装置。
【請求項4】
前記第2の船の針路を選択する確率と、前記第2の船の針路が選択されたときの前記第1の船と前記第2の船との間の安全性又は危険性に基づき、前記第2の船の針路変更を考慮した前記第1の船と前記第2の船との間の安全性又は危険性を算出する、
請求項3に記載の評価装置。
【請求項5】
前記第2の船が前記選択された針路であるときの前記第1の船と前記第2の船との間の安全性又は危険性と、前記第1の船と前記第2の船との間の安全性又は危険性を考慮しない場合の前記第2の船が針路を選択する確率に基づき、前記第1の船と前記第2の船との間の安全性又は危険性を考慮する前記第2の船の針路を選択する確率を算出し、
前記第1の船と前記第2の船との間の安全性又は危険性を考慮する前記第2の船の針路を選択する確率と、前記第2の船の針路が選択されたときの前記第1の船と前記第2の船との間の安全性又は危険性に基づき、前記第2の船の針路変更を考慮した前記第1の船と前記第2の船との間の安全性又は危険性を算出する、
請求項4に記載の評価装置。
【請求項6】
前記第1の船が針路保持船であるか避航義務船であるかにより、異なる方法で前記第1の船と前記第2の船との間の安全性又は危険性を算出する、
請求項3から5のいずれか一項に記載の評価装置。
【請求項7】
前記第2の船の数は複数である、
請求項3から5のいずれか一項に記載の評価装置。
【請求項8】
前記安全性又は危険性は、衝突危険度である、
請求項1から5のいずれか一項に記載の評価装置。
【請求項9】
前記第1の船の前記第2の船との間の安全性又は危険性を、前記第1の船の前記第2の船との前記衝突危険度の分布として表示する表示部を備える、
請求項8に記載の評価装置。
【請求項10】
前記安全性又は前記危険性は、船の少なくとも1つの方向に対して異なる方法で算出される、
請求項1から5のいずれか一項に記載の評価装置。
【請求項11】
第1の船がある位置に到達したときの前記第1の船に対する第2の船の相対位置、前記第1の船が前記位置に到達するための針路に対する前記第2の船の針路である相対針路に基づき、前記第1の船が前記位置に到達したときの前記第1の船に対する前記第2の船の安全性又は危険性を示す値を算出する、
評価方法。
【請求項12】
第1の船がある位置に到達したときの第2の船に対する前記第1の船の相対位置、前記第2の船の針路に対する前記第1の船が前記位置に到達するための針路である相対針路に基づき、前記第1の船が前記位置に到達したときの前記第2の船に対する前記第1の船の安全性又は危険性を示す値を算出する、
評価方法。
【請求項13】
請求項1から5のいずれか一項に記載の評価装置を備える、
船。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、評価装置、評価方法及び船に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶同士の安全性を確保するために、船舶の衝突危険領域を計算する手法がいくつか開発されている。
船舶の衝突危険領域を計算する手法としてはOZT(Obstacle Zone by Target)やDAC(Dangerous Area of Collision)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2786809号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】今津 隼馬, 福戸 淳司, 沼野 正義, 相手船による妨害ゾーンとその表示について, 日本航海学会論文集, 2002, 107 巻, p. 191-197
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、OZTやDACにおいて計算される衝突危険領域は、自船の針路に応じて判定領域が回転することを考慮に入れていない。そのため、計算される衝突点が実際の衝突点と異なる場合がある。
本発明の目的は、船の相対位置を考慮した計算を行う評価装置、評価方法及び船を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、第1の船がある位置に到達したときの前記第1の船に対する第2の船の相対位置、前記第1の船が前記位置に到達するための針路に対する前記第2の船の針路である相対針路に基づき、前記第1の船が前記位置に到達したときの前記第1の船に対する前記第2の船の安全性又は危険性を示す値を算出する、評価装置である。
【0007】
本発明の一態様は、第1の船がある位置に到達したときの前記第1の船に対する第2の船の相対位置、前記第1の船が前記位置に到達するための針路に対する前記第2の船の針路である相対針路に基づき、前記第1の船が前記位置に到達したときの前記第1の船に対する前記第2の船の安全性又は危険性を示す値を算出する、評価方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、船の相対位置を考慮した計算を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態に係る第一の船1及び第二の船2を示す図である。
図2】本実施形態に係る評価装置100の構成の一例を示す図である。
図3】表示部160により表示される自船1と相手船2との間の安全性又は危険性(衝突可能性)や自船1の周囲の判定領域3の一例である。
図4】評価装置100の動作のフローチャートを示す図である。
図5】OZT及びDACにおける表示と、本実施形態における表示との比較図である。
図6】自船1が避航義務船である場合のOZT及びDACにおける表示と、本実施形態における表示との比較図である。
図7】自船1が進路保持船である場合のOZT及びDACにおける表示と、本実施形態における表示との比較図である。
図8】相手船2が進路保持船である場合の相手船2におけるRelItarget(x、y)の表示を示す図である。
図9】式(14)により算出されるCR(θ)の一例を示す図である。
図10】式(13)により算出されるDiff(θ)の一例を示す図である。
図11】式(12)により算出されるProb(θ)の一例を示す図である。
図12】RelI(x、y)の表示とRelI2(x、y)の表示を比較する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳しく説明する。
図1は、本実施形態に係る第一の船1及び第二の船2を示す図である。第一の船1と第二の船2はそれぞれ独立に水上を進行する。第一の船1と第二の船2とが衝突の危険性がある場合、どちらかの船が針路保持船、もう一方の船が避航義務船となり、衝突の危険性を回避する。
【0011】
第一の船1は、評価装置100を備える。評価装置100は、第一の船1に関する安全性又は危険性を示す値を算出する。以下、評価装置が備えられる第一の船1を自船1と呼び、第二の船2を相手船2と呼ぶ。第二の船2も第一の船1と同様に評価装置100を備えてもよい。
【0012】
図2は、本実施形態に係る評価装置100の構成の一例を示す図である。評価装置100は、自船情報取得部110、相手船情報取得部120、相対値算出部130、評価値算出部140、安全・危険領域判定部150、表示部160を備える。
【0013】
自船情報取得部110は、自船1に関する情報を取得する。自船1に関する情報は、自船1の位置、針路、速度を含む。自船情報取得部110は、自船1に備えられた位置情報取得システムなどから自船1に関する情報を取得する。
【0014】
相手船情報取得部120は、相手船2に関する情報を取得する。相手船2に関する情報は、相手船2の位置、針路、速度、識別符号を含む。相手船情報取得部120は、例えば、自船1に備えられたAIS(Automatic Identification System)などから相手船2に関する情報を取得する。
【0015】
相対値算出部130は、自船1及び相手船2に関する相対値を算出する。自船1の位置を(Xown、Yown)、自船1の速度をVown、自船1の針路をCOGown、相手船2の位置を(Xtarget、Ytarget)、相手船2の速度をVtarget、相手船2の針路をCOGtargetとする。自船1が座標(x、y)で表される位置に進行するまでにかかる時間dt(x、y)は自船1が一定の速度Vownで進行すると仮定すると式(1)で表される。
【数1】
【0016】
自船1が座標(x、y)で表される位置に到達するための自船1の針路COGown(x、y)は式(2)で表される。
【数2】
【0017】
自船1が座標(x、y)で表される位置に到達したときの相手船2の位置(Xtarget(x、y)、Ytarget(x、y))は、相手船2の速度Vtarget及び針路COGtargetが変化しないと仮定すると式(3)で表される。
【数3】
【0018】
自船1が座標(x、y)で表される位置に到達したときの自船1に対する相手船2の相対位置を(RelXtarget(x、y)、RelYtarget(x、y))、自船1が座標(x、y)で表される位置に到達するための針路COGown(x、y)に対する相手船2の針路COGtargetである相対針路をRelCOGtarget(x、y)とする。また、自船1が座標(x、y)で表される位置に到達したときの相手船2に対する自船1の相対位置を(RelXown(x、y)、RelYown(x、y))、相手船2の針路COGtargetに対する自船1が座標(x、y)で表される位置に到達するための針路に対する自船1が座標(x、y)で表される位置に到達するための針路COGown(x、y)である相対針路をRelCOGown(x、y)とする。
自船1が位置(x、y)に到達したときの自船1から見た相手船2の相対座標(RelXtarget(x、y)、RelYtarget(x、y))及び相対針路RelCOGtarget(x、y)は式(4)で表される。
【数4】
【0019】
自船1が位置(x、y)に到達したときの相手船2から見た自船1の相対座標(RelXown(x、y)、RelYown(x、y))及び相対針路RelCOGown(x、y)は式(5)で表される。
【数5】
【0020】
評価値算出部140は、自船1及び相手船2に関する評価値を算出する。評価値算出部140は、自船1が座標(x、y)で表される位置に到達したときの自船1に対する相手船2の評価値を算出する。評価値算出部140は、相対位置(RelXtarget(x、y)、RelYtarget(x、y))及び相対針路RelCOGtarget(x、y)に基づいて、自船1が位置(x、y)に到着したときの自船1に対する相手船2の安全性又は危険性を示す値Iown(x、y)を算出する。Iown(x、y)は式(6)で表される。
【数6】
【0021】
また、評価値算出部140は、自船1が位置(x、y)に到着したときの相手船2に対する自船1の評価値を算出する。評価値算出部140は、相対位置(RelXown(x、y)、RelYown(x、y))、相対針路RelCOGownに基づいて、自船1が位置(x、y)に到着したときの相手船2に対する自船1の安全性又は危険性を示す値Itarget(x、y)を算出する。値Itarget(x、y)は式(7)で表される。
【数7】
【0022】
式(6)及び(7)におけるEvaluationは、自船1がある位置に到達したときの自船1と相手船2との間の相対位置、自船1がある位置に到達するための針路と相手船2との間の相対針路を変数とする、任意の評価関数である。式(6)及び(7)におけるEvaluationは、例えば式(8)のように任意の判定領域を用いて定義される。
【数8】
【0023】
式(8)において、Axstbdは船(自船1又は相手船2)の右舷、Axportは船の左舷、Axforeは船の船首、Axaftは船の船尾における評価を決定する値である。式(8)においてはAxstbd、Axport、Axfore及びAxaftを変化させることでEvaluationを任意の判定領域を用いて定義することができる。例えば、Axstbdの値を大きくすると、式(8)において算出される右舷方向の距離に対する評価値は大きくなる。Axport、Axfore、Axaftについても同様に、それぞれ左舷方向、船首方向、船尾方向の距離に対する評価値が大きくなる。
評価関数は、船の少なくとも1つの方向に対して異なる方法で評価値を算出する関数である。例えば式(8)においては、Axstbd、Axport、Axfore、Axaftのうち少なくとも1つの値を異なる値にすることで、船の少なくとも1つの方向に対して異なる方法で評価値を算出することができる。例えば、式(8)においてAxforeの値を大きくすることで、船首方向の距離に対する評価値を大きくすることができる。式(8)において算出される評価値が危険性を示す値であるとき、Axforeの値を大きくすることで、船首方向の距離に対する危険性を示す値を大きくし、船首方向における危険性の度合を高めることができる。
【0024】
own(x、y)は、例えば自船1が相手船2に衝突する可能性を示し、Itarget(x、y)は、例えば相手船2が自船1に衝突する可能性を示す。
【0025】
評価値算出部140は、Iown(x、y)及びItarget(x、y)に基づいて自船1と相手船2との間の安全性又は危険性RelI(x、y)を算出する。RelI(x、y)は式(9)で表される。
【数9】
【0026】
式(9)において、Dmaxは、RelI(x、y)の位置(x、y)に対する最大値、Dminは、RelI(x、y)の位置(x、y)に対する最小値である。評価値算出部140は、自船1が針路保持船である場合(if own ship is a stand on vessel)と、自船1が避航義務船である場合(if own ship is a give way vessel)とにより異なる方法でRelI(x、y)を算出する。RelI(x、y)は例えば自船1と相手船2の衝突危険度を示す。
【0027】
また、評価値算出部140は、相手船2が複数であるとき、式(10)により自船1と相手船2との間の安全性又は危険性MultipleRelI(x、y)を算出する。
【数10】
【0028】
評価値算出部140は、自船1が位置(x、y)に到着したときの自船1に対する相手船2の安全性又は危険性を示す値Iown(x、y)を算出する。これにより、相手船2の安全性又は危険性を推定することができる。
評価値算出部140は、自船1が位置(x、y)に到着したときの相手船2に対する自船1の安全性又は危険性を示す値Itarget(x、y)を算出する。これにより、相手船2に対する自船1の安全性又は危険性を推定することができる。
また、評価値算出部140は、Iown(x、y)とItarget(x、y)に基づいて自船1と相手船2との間の安全性又は危険性RelI(x、y)を算出する。これにより、相手船2に対する自船1の安全性又は危険性を考慮した2つの船の間の安全性又は危険性を推定することができる。
【0029】
安全・危険領域判定部150は、評価値算出部140により算出された安全性又は危険性RelI(x、y)の値が所定の値以上又は以下であるとき、自船1が位置(x、y)に到着したときに安全又は危険であると判定する。
【0030】
表示部160は、自船1と相手船2との間の安全性又は危険性を表示する。図3は表示部160により表示される自船1と相手船2との間の危険性(衝突可能性)の一例である。衝突可能性は、例えば図3に示すように座標ごとに0から1までの値がヒートマップで示される。表示部160により表示される座標ごとの衝突可能性を確認することで、自船1の乗員が衝突リスクの少ない方向に進むように自船1を制御してもよい。
【0031】
表示部160は、自船1が現在の位置にいるときに、相手船2に対する安全性又は危険性の値が所定の値以上になる領域を示してもよい。例えば、図3において、領域3は、評価関数を定義する判定領域を示す。つまり、領域3は自船1が位置(x、y)に到着したときに、相手船2に対する危険性の値を定義するための自船1とともに移動する自船周りの領域を示す。自船1の乗員は表示部160により表示される領域3を見ることで、ヒートマップの算出基準となる判定領域の形状やサイズを理解することができる。これにより、自船1の乗員は判定領域が自船1の船速や周辺の混雑度に応じて適切に設定されているか否かを確認することができる。
【0032】
図4は、評価装置100の動作のフローチャートを示す図である。自船情報取得部110が自船1に関する情報を取得する(ステップS101)。相手船情報取得部120が相手船に関する情報を取得する(ステップS102)。相対値算出部130が自船1及び相手船2に関する相対値を算出する(ステップS103)。評価値算出部140が自船1及び相手船2に関する評価値を算出する(ステップS104)。安全・危険領域判定部150は、評価値に基づき自船1が安全であるか否かを判定する(ステップS105)。表示部160は、ヒートマップや安全・危険領域を表示する(ステップS106)。評価装置100は、ステップS101からS106の動作を一定時間ごとに繰り返すことで、その時点における評価値を算出し、自船1の安全性又は危険性を判定する。
【0033】
図5は、OZT及びDACにおける表示と、本実施形態における表示との比較図である。図5(a)はOZTにおける表示である。図5(b)はDACにおける表示である。OZT及びDACにおいては各相手船2に対する衝突危険領域20が示されている。これに対して図5(c)に示す本実施形態における表示においては、全ての相手船2に対する衝突可能性の分布が単一のヒートマップとして表示される。そのため、より精度高く衝突可能性を推定することができる。
例えば、図5(c)において衝突可能性が低い領域30は、図5(a)及び図5(b)においては各相手船2に対する衝突危険領域20が重複しているだけの領域であるため、図5(a)又は図5(b)に示す表示を以て衝突可能性が低いと判断することが難しい。
【0034】
また、OZT及びDACにおいて判定領域は安全航過領域であり、真円に近い形状をとる。これは、OZT及びDACにおいては自船1の針路の回転が考慮されておらず、判定領域が例えば楕円など真円ではない形状である場合、つまり、評価関数において自船1からの方向ごとに異なる評価基準を設けた場合、針路を変更した後、所定の位置に到着したときに判定領域に相手船2が含まれるか否かの判定を誤る可能性がある。
これに対して本実施形態においては、相手船2の座標を自船1に対する相対座標として算出している。そのため、自船1の針路の回転を考慮することができ、判定領域を任意形状にした場合、つまり、評価関数において自船1からの方向ごとに異なる評価基準を設けた場合であっても所定の位置に到着したときに判定領域に相手船が含まれるか否かを適切に判定することができる。
【0035】
図6は、自船1が避航義務船である場合のOZT及びDACにおける表示と、本実施形態における表示との比較図である。図7は、自船1が進路保持船である場合のOZT及びDACにおける表示と、本実施形態における表示との比較図である。図6(a)及び図7(a)はOZTにおける表示である。図6(b)及び図7(b)はDACにおける表示である。OZT及びDACにおいては衝突危険領域20を算出する際に自船1が避航義務船である場合と進路保持船である場合を考慮していないことから、左右対称である。また、点線で示された自船1の最短経路も左右対称である。
これに対して、図6(c)及び図7(c)に示す本実施形態における表示においては、ヒートマップが左右対称とはなっていない。また、点線で示された自船1の最短経路も左右対称ではなく、避航義務船である場合には直進して間もなく相手船2の後方へ避航し、進路保持船である場合には長く直進している。このように本実施形態においては、自船1と相手船2との関係に基づいてより適切な航行ができるようになる。
【0036】
評価値算出部140は、相手船2の針路変更を考慮して、自船1と相手船2との間の安全性又は危険性RelI2(x、y)を算出してもよい。RelI2(x、y)の算出においては、相手船2も自船1と同様に、RelI(x、y)を考慮して避航判断を行っていると仮定している。
安全・危険領域判定部150は、評価値算出部140により算出された相手船2の針路変更を考慮した安全性又は危険性RelI2(x、y)の値が所定の値以上又は以下であるとき、自船1が位置(x、y)に到着したときに安全又は危険であると判定してもよい。表示部160は、RelI2(x、y)に基づき自船1と相手船2との間の安全性又は危険性を表示してもよい。
【0037】
ここで自船1について算出したRelI(x、y)をRelIown(x、y)と定義し、相手船2について算出したRelI(x、y)をRelItarget(x、y)と定義する。RelIownは、式(9)により算出され、RelItarget(x、y)は、式(1)~(9)において、(Xown, Yown, Vown, COGown)と(Xtarget, Ytarget, Vtarget, COGtarget)を入れ替えることで算出される。すなわち、RelItarget(x、y)は、自船1を相手船2に置き換えたものである。図8は、相手船2が避航義務船である場合の相手船2におけるRelItarget(x、y)の表示を示す図である。
【0038】
評価値算出部140は、相手船2の針路が角度θであるときの自船1と相手船2との間の安全性又は危険性と、相手船2が針路として角度θを選択する確率に基づき、相手船2の針路変更を考慮した自船1と相手船2との間の安全性又は危険性RelI2(x、y)を算出する。評価値算出部140は、例えば式(11)により、相手船2の針路がθであるときのRelIown(x、y)と、相手船2が針路θを選択する確率Prob(θ)の積を積分することで、RelI2(x、y)を算出する。相手船2の針路がθであるときのRelIown(x、y)は、式(3)から式(9)においてCOGtargetにθを代入することで算出される。
【数11】
【0039】
評価値算出部140は、Prob(θ)を、相手船2が針路θであるときの自船1と相手船2との間の安全性又は危険性と、自船1と相手船2との間の安全性又は危険性を考慮しない場合に相手船2が針路θを選択する確率Diff(θ)に基づいて算出する。評価値算出部140は、Prob(θ)を例えば、危険性をCR(θ)で定義して式(12)により算出する。
【数12】
【0040】
式(12)により、CR(θ)の最大値が1となるようにmax(CR(θ))で除算し、Diff(θ)を重畳することで、Prob(θ)は相手船2の変針行動の総和が1となる確率分布として算出される。
【0041】
船舶の操船は衝突の危険がない場合には基本変針を行わず、避航時には必要最小限の変針を行うことが基本である。そのため、現在の針路と近い針路が操船手段として選択される可能性が高い。そのため、危険度を考慮しない場合に相手船2が針路θを選択する確率Diff(θ)は、現在の針路となる確率を最大として、変針角が大きいほど確率が減少する関数として表される。Diff(θ)は、例えば式(13)で表される分布関数により算出される。
【数13】
【0042】
式(13)において、θprefは、現在の針路を維持する意図の程度を表す係数である。
【0043】
安全性又は危険性は、相手船2からの距離に応じて変化する係数と、相手船2が針路θ上にあるときの安全性又は危険性RelItarget(rsinθ、rcosθ)の積を積分することで算出される。例えば、危険性CR(θ)は式(14)により算出される。式(14)においては、0から衝突危険を検知する最大距離Rmaxまでの範囲で積分を計算している。
【数14】
【0044】
以下、式(11)~(14)の算出例を示す。
図9は、式(14)により算出されるCR(θ)の一例を示す図である。図9に示す例は、(Xown、Yown)=(0[km]、0[km])、Vown=10[knot]、COGown=0[deg]、(Xtarget、Ytarget)=(-4.7[km]、4.7km)、Vtarget=10[knot]、COGtarget=90[deg]、Rmax=14[km]と設定した場合のCR(θ)である。
【0045】
図10は、式(13)により算出されるDiff(θ)の一例を示す図である。図10に示す例は、COGtarget図9に示す例と同じく90[deg]とし、θprefを20[deg]と設定した場合のDiff(θ)である。図11は、式(12)により算出されるProb(θ)の一例を示す図である。
図12は、RelI(x、y)の表示とRelI2(x、y)の表示を比較する図である。図12(a)は、自船1が進路保持船である場合のRelI(x、y)を示し、図7(c)と同じ図である。図12(b)は、自船1が進路保持船である場合のRelI2(x、y)を示し、式(11)から(14)により算出される。
図12(a)においては、自船1の前方に衝突危険度が高い領域が表れている。一方、図12(b)においては、相手船の避航行動を考慮することで、衝突危険度が左下と右上に広く分布しており、より操船者の感覚に近い衝突危険度の分布を視覚的に認識することができる。
【0046】
なお、相手船2が複数ある場合であっても、評価値算出部140は、RelIown(x、y)及びRelItarget(x、y)を式(10)のMultipleRelI(x、y)に基づき算出することで、相手船2の針路変更を考慮して、自船1と相手船2との間の安全性又は危険性RelI2(x、y)を算出することができる。
【0047】
〈他の実施形態〉
以上、図面を参照してこの発明の一実施形態について詳しく説明してきたが、具体的な構成は上述のものに限られることはなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内において様々な設計変更等をすることが可能である。
本実施形態において、評価装置100は、自船1や相手船2など船上に備えられるが他のところに備えられてもよい。評価装置100は、例えば陸地に設置され、1つの船を自船1として、相手船2の評価値を算出してもよい。
【0048】
例えば、安全・危険領域判定部150は、自船1がある位置に到達したときにRelI(x、y)又はMultipleRelI(x、y)の値が所定の値以上又は以下を維持するように、自船1を制御してもよい。
【0049】
評価装置100の少なくとも一部の機能をコンピュータで実現するようにしてもよい。その場合、評価装置100の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって実現してもよい。コンピュータシステムは、例えば、プロセッサや、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。評価装置100のプログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、例えばフレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置である。評価装置100のプログラムは、電気通信回線を介して送信されてもよい。
【符号の説明】
【0050】
1 第一の船(自船)、2 第二の船(相手船)、3 判定領域、100 評価装置、110 自船情報取得部、120 相手船情報取得部、130 相対値算出部、140 評価値算出部、150 安全・危険領域判定部、160 表示部
図1
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図12