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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024095620
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】ガラス物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 33/09 20060101AFI20240703BHJP
   C03B 33/04 20060101ALI20240703BHJP
   B23K 26/53 20140101ALI20240703BHJP
【FI】
C03B33/09
C03B33/04
B23K26/53
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023221127
(22)【出願日】2023-12-27
(31)【優先権主張番号】P 2022211710
(32)【優先日】2022-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤▲原▼ 卓磨
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 勲
【テーマコード(参考)】
4E168
4G015
【Fターム(参考)】
4E168AE01
4E168CB04
4E168DA02
4E168DA03
4E168DA04
4E168DA23
4E168DA24
4E168DA26
4E168DA28
4E168DA40
4E168DA45
4E168DA46
4E168DA47
4E168EA05
4E168EA13
4E168EA15
4E168JA14
4G015FA06
4G015FB01
4G015FC02
4G015FC05
(57)【要約】      (修正有)
【課題】端材部を適切に分離する。
【解決手段】本製造方法は、第1仮想線Aに沿って、ガラス母材10に第1仮想線Aに沿った改質部を形成することと、ガラス母材10に第2仮想線Bに沿った改質部を形成することと、第1仮想線A及び第2仮想線Bに沿った改質部を起点としてガラス母材を破断して、端材部10bを分離することと、を含む。第2仮想線Bは、第1向きに延在して端材部10bの内接円CIの半径以下かつ1mm以上の曲率半径を有する傾斜部Baと、傾斜部Baと第1向き側に接続されて端材部10bの内接円CIの半径よりも曲率半径が小さい曲線部Bbと、を含む。傾斜部Baと外周端Eとのなす角度θが70°以下であり、曲線部Bbと第1仮想線Aとの間の、第1向きにおける距離の最小値が、300μm以下である。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス母材から端材部を分離することで、ガラス物品を製造する製造方法であって、
前記ガラス母材と前記端材部との境界線となる第1仮想線に沿って、前記ガラス母材の主面上にレーザ光を照射して、前記ガラス母材に前記第1仮想線に沿った改質部を形成することと、
前記端材部内を通る第2仮想線に沿って、前記ガラス母材の主面上にレーザ光を照射して、前記ガラス母材に前記第2仮想線に沿った改質部を形成することと、
前記第1仮想線及び前記第2仮想線に沿った前記改質部を起点として前記ガラス母材を破断し前記端材部を分離することで、前記ガラス物品の外周の概形から内側に窪む凹部を形成することと、
を含み、
前記第2仮想線は、前記凹部の開口想定線を通過し、前記凹部の開口想定線に対し傾斜している傾斜部と、前記傾斜部と接続される曲線部を含み、
前記傾斜部は、曲率半径が前記端材部の内接円の半径よりも大きい曲線か直線であり、
前記曲線部は、曲率半径が1mm以上かつ前記端材部の内接円の半径以下であり、
前記傾斜部と前記曲線部の交点、および前記傾斜部と前記凹部の開口想定線の交点、とを結ぶ直線のなす鋭角の角度が70°以下であり、
前記曲線部と前記第1仮想線との間の、距離の最小値が、300μm以下である、
ガラス物品の製造方法。
【請求項2】
前記第1仮想線は、前記凹部を形成する部分において少なくとも3辺を有し、前記3辺は、前記凹部の外部から接続する第1縦線部、第1縦線部と接続する横線部、および前記横線部と接続し、前記凹部の外部へと接続する第2縦線部、とを含み、
前記第2仮想線は、前記曲線部の一方の端点から前記第1縦線部側に延びる第1傾斜部と、前記曲線部の他方の端点から前記第2縦線部側に延びる第2傾斜部とを含む、請求項1に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項3】
前記第1縦線部の中点と前記第2縦線部の中点の距離は、前記凹部の開口想定線と前記横線部の最大距離の5倍以下である、請求項2に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項4】
前記第1仮想線と前記第2仮想線とを接続する少なくとも1つの第3仮想線に沿って前記ガラス母材の主面上にレーザ光を照射して、前記ガラス母材に前記第3仮想線に沿った改質部を形成することを更に含む、請求項1又は請求項2に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項5】
複数の前記第3仮想線に沿って改質部を形成し、
前記第3仮想線と前記第1仮想線との交点における前記第1仮想線の法線を接続法線とした場合において、隣り合う前記接続法線同士のなす角度が、90°未満である、請求項4に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項6】
前記レーザ光は、パルス発振したレーザ光である、請求項1又は請求項2に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項7】
前記改質部を起点として前記ガラス母材を破断する際においては、780nm以上20000nm以下の波長の第2レーザ光を前記ガラス母材に照射する、請求項1又は請求項2に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項8】
前記改質部が形成される前の前記ガラス母材は、加熱成形により湾曲している、請求項1又は請求項2に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項9】
前記ガラス母材の厚みは、0.1mm以上3mm以下である、請求項1又は請求項2に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項10】
ガラス製の母材から、複数の前記ガラス母材を分ける区分仮想線を設定することと、
前記区分仮想線に沿って、前記母材の主面上にレーザ光を照射して、前記母材に前記区分仮想線に沿った改質部を形成することと、
前記第1仮想線及び前記第2仮想線に沿った前記改質部を起点として前記ガラス母材を破断する前に、前記区分仮想線に沿った前記改質部を起点として前記母材を破断して前記母材から前記ガラス母材を分離することとを、更に含む、請求項1又は請求項2に記載のガラス物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス母材から、不要な端材部分を分離して、所望の形状のガラス物品を製造する方法が知られている。例えば特許文献1に記載された方法においては、端材部と製品部との境界線となる境界スクライブラインを加工し、端材部を区分けするために、端材部内に三角形状の分割用スクライブラインを加工する。そして、分割用スクライブラインに沿って端材部の一部を分離した後、境界スクライブラインに沿って端材部の残りの部分を分離する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-104920号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のように、三角形状の分割用スクライブラインを形成した場合には、不連続となる三角形の頂点部分において、適切に分割用スクライブラインが加工されずに、端材部を適切に分離できなくなるおそれがある。また、スクライブラインを形成して端材部を分離する方法を適用した場合には、端材部を母材部から分離できなくなる懸念もある。
【0005】
本発明は、端材部を適切に分離可能なガラス物品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係るガラス物品の製造方法は、ガラス母材から端材部を分離することで、ガラス物品を製造する製造方法であって、前記ガラス母材と前記端材部との境界線となる第1仮想線に沿って、前記ガラス母材の主面上にレーザ光を照射して、前記ガラス母材に前記第1仮想線に沿った改質部を形成することと、前記端材部内を通る第2仮想線に沿って、前記ガラス母材の主面上にレーザ光を照射して、前記ガラス母材に前記第2仮想線に沿った改質部を形成することで、前記ガラス物品の外周の概形から内側に窪む凹部を形成することと、前記第1仮想線及び前記第2仮想線に沿った前記改質部を起点として前記ガラス母材を破断し前記端材部を分離することと、を含み、前記第2仮想線は、前記凹部の開口想定線を通過し、前記凹部の開口想定線に対し傾斜している傾斜部と、前記傾斜部と接続される曲線部を含み、前記傾斜部は、曲率半径が前記端材部の内接円の半径よりも大きい曲線か直線であり、前記曲線部は、曲率半径が1mm以上かつ前記端材部の内接円の半径以下であり、前記傾斜部と前記曲線部の交点、および前記傾斜部と前記凹部の開口想定線の交点を結ぶ直線のなす鋭角の角度が70°以下であり、前記曲線部と前記第1仮想線との間の、距離の最小値が、300μm以下である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、端材部を適切に分離できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、ガラス母材の模式的な断面図である。
図2図2は、ガラス母材の主面上の仮想線を説明するための模式図である。
図3図3は、図2の一部拡大図である。
図4図4は、第3仮想線の一例を説明するための模式図である。
図5図5は、破断部の分離を説明するための模式図である。
図6図6は、本実施形態に係るガラス物品の製造フローを説明するフローチャートである。
図7図7は、第2仮想線の他の例を示す模式図である。
図8A図8Aは、母材からガラス物品を切り出す場合を示す模式図である。
図8B図8Bは、母材からガラス物品を切り出す場合を示す模式図である。
図8C図8Cは、母材からガラス物品を切り出す場合を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態を詳細に説明する。なお、この実施形態により本発明が限定されるものではなく、また、実施形態が複数ある場合には、各実施形態を組み合わせて構成するものも含むものである。また、数値については四捨五入の範囲が含まれる。
【0010】
本実施形態においては、ガラス母材10にレーザ光Lを照射してガラス母材10に改質部Hを形成して、改質部Hを起点にガラス母材10を破断させることで、ガラス母材10から端材部10bを分離して、ガラス物品10aを得る。ガラス母材10、ガラス母材10からのガラス物品10aの製造方法について、以下で説明する。
なお、本実施形態におけるガラス物品10aは、車載用の表示装置に設けられ、車載用の表示装置の表面のカバー材として用いられる。すなわち、ガラス物品10aは、車載用の表示装置が有する表示パネルの表面(表示面)に設けられて、表示パネルの表示面を保護する。ただし、ガラス物品10aの用途は任意であり、車載用以外の用途の表示装置のカバー材として用いてもよいし、表示装置以外の装置のカバー材として用いてもよいし、カバー材以外の用途で用いてもよい。
【0011】
(ガラス母材)
図1は、ガラス母材の模式的な断面図である。図1に示すように、ガラス母材10は、透明なガラス製の板状部材である。なお、ここでの板状とは、平板状であることに限られず、主面の幅が厚みより長いものを指してよく、ここでの透明とは、可視光を透過することを指してよい。
以下、ガラス母材10の一方の主面を主面10Aとし、主面10Aの反対側の主面を主面10Bとし、ガラス母材10の厚み方向を、すなわち主面10Bと主面10Aとを結ぶ方向を、Z方向とする。また、Z方向と直交する一方向(図1の例では左右方向)を、X方向とし、Z方向及びX方向に直交する方向(図1の例では紙面に垂直な方向)をY方向とする。また、X方向に沿った一方の向き(図1の例では右方向)を向きX1とし、X方向に沿った他方の向き(図1の例では左方向)を向きX2とし、Y方向に沿った一方の向き(図1の例では紙面の奥側に向かう向き)を向きY1とし、Y方向に沿った他方の向き(図1の例では紙面の手前側に向かう向き)を向きY2とし、Z方向に沿った一方の向き(主面10Aから主面10Bに向かう方向)を向きZ1とし、Z方向に沿った他方の向き(主面10Bから主面10Aに向かう方向)を向きZ2とする。
なお、ここでのZ方向は、ガラス母材10の中心位置における、主面10Aに垂直な方向であってよい。
【0012】
図1の例では、ガラス母材10は、Z方向から見た場合に矩形の平板状であるが、ガラス母材10の形状は任意であってよい。例えば、ガラス母材10は、Z方向から見た場合に矩形であることに限られず、多角形、円形、又は楕円形などであってもよい。
【0013】
図1の例では、ガラス母材10は、主面10A、10Bが平坦な平板状であるが、それに限られず、平板が湾曲した形状であってもよい。すなわち、ガラス母材10は、主面10A、10BがZ方向に凸となる曲面状であってもよい。この場合例えば、改質部Hが形成される前のガラス母材10を加熱成形することで、ガラス母材10を湾曲させる。
ガラス母材10の主面10A、10BがZ方向に凸となる曲面状である場合、ガラス母材10の主面10A、10Bの曲率半径は、10000mm以下であることが好ましく、5000mm以下であることがより好ましく、3000mm以下であることが更に好ましい。ガラス母材10の主面10A、10BがZ方向に凸となる曲面状である場合、ガラス母材10の主面10A、10Bの曲率半径は、10mm以上が好ましく、50mm以上がより好ましく、100mm以上がさらに好ましく、200mm以上がさらに好ましい。言い換えれば、ガラス母材10の主面10A、10BがZ方向に凸となる曲面状である場合、ガラス母材10の主面10A、10Bの曲率半径は、10mm以上10000mm以下であることが好ましく、50mm以上5000mm以下であることがより好ましく、100mm以上3000mm以下であることが更に好ましく、200mm以上3000mm以下であることが更に好ましい。
【0014】
ガラス母材10の厚みDは、0.1mm以上が好ましく、0.7mm以上がより好ましく、1.1mm以上がより好ましい。また、ガラス母材10の厚みDは、5mm以下であることが好ましく、3mm以下であることがより好ましく、1.3mm以下であることがさらに好ましい。言い換えれば、ガラス母材10の厚みDは、0.7mm以上5mm以下であることが好ましく、1.1mm以上3mm以下であることがより好ましく、1.1mm以上1.3mm以下であることがさらに好ましい。本実施形態の製造方法によると、このように比較的厚いガラス母材10に対して、端材部10bを適切に分離できる。なお、ガラス母材10の厚みDとは、主面10Aから主面10BまでのZ方向における長さを指す。
【0015】
ガラス母材10は、破壊靭性値KICが、0.6(MPa・m0.5)以上であることが好ましく、0.6(MPa・m0.5)以上1.00(MPa・m0.5)以下であることがより好ましく、0.65(MPa・m0.5)以上0.70(MPa・m0.5)以下であることが更に好ましい。本製造方法によると、破壊靭性値KICがこの範囲となるガラス母材10に対して、端材部を適切に分離できる。破壊靭性値KICは、例えば非特許文献(NEW GASS Vol.15 No.2 2000 p18)に記載のDouble Cleavage Drilled Compression(DCDC)法により測定できる。
【0016】
ガラス母材10は、非晶質ガラスであってもよいし、表面や内部に結晶を含む結晶化ガラスであってもよい。ガラス母材10としては、例えば、無アルカリガラス、ソーダライムガラス、ソーダライムシリケートガラス、アルミノシリケートガラス、ボロシリケートガラス、リチウムアルミノシリケートガラス、ホウケイ酸ガラスなどを使用できる。ガラス母材10の材料は、化学強化を適切に行うために、アルカリガラスであることが好ましい。さらに言えば、ガラス母材10としては、厚さが薄くても強化処理によって大きな応力が入りやすく薄くても高強度なガラスが得られるアルミノシリケートガラスやリチウムアルミノシリケートガラスが好ましい。アルミノシリケートガラスをベースとする化学強化用ガラス(例えば、AGC社製「ドラゴントレイル(登録商標)」)も好適に用いられる。
【0017】
ガラス母材10は、酸化物基準のモル%で、SiOを50%~80%、Alを1%~20%、およびNaOを6%~20%含有するものであってよい。また、ガラス母材10は、酸化物基準のモル%で、SiO2を50~80%、Al23を0.1~25%、Li2O+Na2O+K2Oを3~30%、MgOを0~25%、CaOを0~25%およびZrO2を0~5%含有するものであってよい。また、ガラス母材10は、酸化物基準のモル%で、SiOを50%~80%、Alを1%~20%、NaOを6%~20%、KOを0%~11%、MgOを0%~15%、CaOを0%~6%、およびZrOを0%~5%含有するものであってよい。なお、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。また例えば、ここでの50%~80%とは、ガラス母材10の全量のモル%を100%とした場合に、50%以上80%以下であることを指し、他の数値範囲も同様である。また、例えばLi2O+Na2O+K2Oとは、Li2OとNa2OとK2Oとの合計含有量を指し、他で「+」を用いた場合も同様である。
【0018】
より具体的には、ガラス母材10のより好ましい組成として、以下のガラスの組成が挙げられる。なお、例えば、「MgOを0%~25%含む」とは、MgOは必須ではないが25%まで含んでもよい、の意である。(i)のガラスはソーダライムシリケートガラスに含まれ、(ii)および(iii)のガラスはアルミノシリケートガラスに含まれ、(iv)および(v)のガラスはリチウムアルミノシリケートガラスに含まれる。
(i)モル%で表示した組成で、SiO2を63%~73%、Al23を0.1%~5.2%、Na2Oを10%~16%、K2Oを0%~1.5%、Li2Oを0%~5%、MgOを5%~13%及びCaOを4%~10%含むガラス。
(ii)モル%で表示した組成が、SiO2を50%~74%、Al23を1%~10%、Na2Oを6%~14%、K2Oを3%~11%、Li2Oを0%~5%、MgOを2%~15%、CaOを0%~6%およびZrO2を0%~5%含有し、SiO2およびAl23の含有量の合計が75%以下、Na2OおよびK2Oの含有量の合計が12%~25%、MgOおよびCaOの含有量の合計が7%~15%であるガラス。
(iii)モル%で表示した組成が、SiO2を68%~80%、Al23を4%~10%、Na2Oを5%~15%、K2Oを0%~1%、Li2Oを0%~5%、MgOを4%~15%およびZrO2を0%~1%含有するガラス。
(iv)モル%で表示した組成が、SiO2を67%~75%、Al23を0%~4%、Na2Oを7%~15%、K2Oを1%~9%、Li2Oを0%~5%、MgOを6%~14%およびZrO2を0%~1.5%含有し、SiO2およびAl23の含有量の合計が71%~75%、Na2OおよびK2Oの含有量の合計が12%~20%であり、CaOを含有する場合その含有量が1%未満であるガラス。
(v)モル%で表示した組成が、SiO2を56%~73%、Al23を10%~24%、B23を0%~6%、P25を0%~6%、Li2Oを2%~7%、Na2Oを3%~11%、K2Oを0%~5%、MgOを0%~8%、CaOを0%~2%、SrOを0%~5%、BaOを0%~5%、ZnOを0%~5%、TiO2を0%~2%、ZrO2を0%~4%含有するガラス。
(vi)モル%で表示した組成が、SiOを58%~80%、Alを13%~18%、Bを0%~5%、Pを0.5%~4%、LiOを3%~10%、NaOを5%~20%、KOを0%~2%、MgOを0%~11%、CaOを0%~20%、SrOを0%~20%、BaOを0%~15%、ZnOを0%~10%、TiOを0%~1%、ZrOを0%~2%を含有するガラス。
【0019】
ガラス母材10は、化学強化処理が行われた場合には、圧縮応力層を含む。圧縮応力層は、ガラス母材10の表面全体に形成されている。なお、ガラス母材10は、表面全体に圧縮応力層が形成されることに限られず、表面全体のうちの少なくとも一部(好ましくは少なくとも主面10A及び主面10B)に、圧縮応力層が形成されていてよい。
【0020】
ガラス母材10は、表面圧縮応力CSが、500MPa以上1200MPa以下であることが好ましく、650MPa以上がより好ましく、750MPa以上がさらに好ましい。表面圧縮応力CSがこの範囲となることで、耐衝撃性の低下を適切に抑制できる。なお、表面圧縮応力CSの測定方法は任意であるが、例えば、光弾性解析法を利用して、ガラス母材10内の歪みを測定することにより、測定してよい。本実施形態においては、例えば、折原製作所製の表面応力計であるFSM-6000LEを用いて、表面圧縮応力CSを測定してよい。
【0021】
ガラス母材10は、圧縮応力層の深さDOLが、10μm以上100μm以下であることが好ましく、15μm以上がより好ましく、25μm以上がさらに好ましく、30μm以上がさらに好ましい。深さDOLとは、ガラス母材10における圧縮応力層の厚みを指す。すなわち、深さDOLとは、ガラス母材10の表面圧縮応力CSが作用している表面から、圧縮応力の値が0になる深さまでの、厚み方向における距離を指す。ガラス母材10は、深さDOLがこの範囲となることで、耐衝撃性の低下を適切に抑制できる。なお、深さDOLの測定方法は任意であるが、例えば、光弾性解析法を利用して、ガラス母材10内の歪みを測定することにより、測定してよい。本実施形態においては、例えば、折原製作所製の表面応力計であるFSM-6000LEを用いて、深さDOLを測定してよい。
【0022】
(ガラス物品の製造方法)
次に、ガラス母材10からガラス物品10aを製造する方法について説明する。図1に示すように、本製造方法においては、照射装置Mからガラス母材10の主面10Aにレーザ光Lを照射させて、ガラス母材10内に改質部Hを形成する。改質部Hは、ガラスの構造変化によって、又はガラスの溶融と再凝固によって、密度又は屈折率が変化した層である。改質部Hは、空隙を含んでもよい。なお、レーザ光Lは、例えば非線形吸収によって改質部Hを形成する。非線形吸収は、多光子吸収とも呼ばれる。多光子吸収が発生する確率は光子密度(レーザ光Lのパワー密度)に対して非線形であり、光子密度が高いほど確率が飛躍的に高くなる。例えば2光子吸収が発生する確率は、光子密度の自乗に比例する。
なお、ガラス母材10のうちで改質部Hが形成されていない部分(レーザ光Lが照射されていない部分)に対して、密度、屈折率、不対電子密度、仮想温度の少なくともいずれかが異なる箇所を、改質部Hとしてよい。なお、改質部Hが形成されていない部分は、例えば、Z方向から見て、後述する第1仮想線Aから10mm以上離れた位置を指してよい。
【0023】
(レーザ光の構成)
図1に示すように、レーザ光Lを照射する照射装置Mは、光源部M1と、光学系M2と、走査機構M3とを有する。光源部M1は、レーザ光Lを発生させる光源である。光源部M1は任意のものであってよいが、例えば、NdがドープされたYAG結晶(Nd:YAG)などを用いてよい。光学系M2は、光源部M1に対してレーザ光Lの進行方向側に設けられて、光源部M1からのレーザ光Lが入射する。光学系M2は、入射したレーザ光Lを主面10Aに向けて出射する。走査機構M3は、レーザ光Lを走査(掃引)する機構である。すなわち、走査機構M3は、レーザ光Lの主面10Aに照射される位置である照射位置を、主面10Aに平行な方向に走査(移動)させる。走査機構M3は、レーザ光Lを走査可能であれば任意の機構であってよいが、例えばガルバノミラーなどであってよい。なお、照射装置Mの構成は以上の説明に限られず、照射位置を主面10Aに平行な方向に走査しつつレーザ光Lを照射可能な任意の構成であってよい。例えば、光源部M1や光学系M2などのレーザ光Lが照射されるレーザヘッドの位置が固定され、レーザ光Lが照射されるガラス母材10を移動させることで、照射位置を走査する構成であってよい。すなわち、レーザ光Lのスポット位置とガラス母材10との相対位置を移動させることで、照射位置を走査してよいといえる。
レーザ光Lの走査は、主面10Aに平行な方向に限られず、主面10Aに垂直な方向、すなわちガラス物品10aの厚さ方向に実施しても良い。例えばガラス物品10aの厚さが3mm以上である場合、厚さ方向に走査することで、破断時に必要な応力を低減しやすい。
また、レーザ光Lは、光軸方向に線状のパワー分布をもつことが好ましい。また、レーザ光Lは、光軸方向に少なくとも一つのピークがあるパワー分布をもつレーザを用いてもよい。これにより、厚み方向に改質部Hを精度よく形成できる。
なお、レーザ光Lは、非線形のカー効果による自己集束で、線状に集束してもよいし、光学系M2によって線状に集束してもよい。この場合の具体的な光学系M2として、例えばアキシコン(Axicon)レンズを用いた光学系、複屈折材料を用いた光学系、回折光学素子を用いた光学系、又は光学収差を利用した光学系などが用いられてよい。
【0024】
レーザ光Lは、例えばパルス光(パルス発振したレーザ光)である。レーザ光Lとしては、波長域が250nm以上3000nm以下、かつ、パルス幅が10fs以上1000ns以下のパルスレーザ光を用いることが好ましい。波長域が250nm以上3000nm以下のレーザ光は、ガラス母材10をある程度透過するため、ガラス母材10の内部に非線形吸収を生じさせて改質部Hを適切に形成できる。波長域は、好ましくは260nm以上2500nm以下である。また、パルス幅が1000ns以下のパルスレーザ光であれば、光子密度を高め易く、ガラス母材10の内部に非線形吸収を生じさせて改質部Hを形成できる。パルス幅は、好ましくは100fs以上100ns以下である。レーザ光Lは、バーストと呼ばれるパルス群を出力してもよい。一のパルス群は、例えば、3~50の複数のパルス光を有し、各パルス光が10ns未満のパルス幅を有する。一のパルス群において、パルス光のエネルギーは徐々に減少してもよい。一つのパルス、または、一つのパルス群のエネルギーは、ガラス母材10の厚み方向に連続的に形成された点状または線状の改質部、或いは亀裂を形成出来る様に適切に設定する。例えば、10μJ~5000μJであり、好ましくは20μJ~3000μJであり、より好ましくは30μJ~2000μJである。
【0025】
本製造方法においては、照射位置を走査しつつレーザ光Lを照射することで、照射位置の走査方向(移動方向)に沿って、所定の間隔で複数の改質部Hを形成する。すなわち、本製造方法では、ガラス母材10の主面10Aに、レーザ光Lの照射位置の走査の軌跡である仮想線を設定する。そして、本製造方法では、ガラス母材10の主面10Aに、仮想線に沿って照射位置を走査(移動)させつつレーザ光Lを照射することで、仮想線に沿って所定の間隔で並ぶ複数の改質部Hを形成する。各改質部H同士の間隔は、例えば2μm~25μmであり、好ましくは3μm~20μmである。この範囲であると、後の工程で分断した後、分断面の品質を高くしやすい。
【0026】
(端材部)
図2は、ガラス母材の主面上の仮想線を説明するための模式図であり、図3は、図2の一部拡大図である。図2に示すように、本実施形態においては、仮想線(後述の第1仮想線A及び第2仮想線B)に沿って形成された改質部Hを起点として、ガラス母材10から端材部10bを分離して、端材部10bが分離されたガラス母材10であるガラス物品10aを製造する。以下、端材部10bについて説明する。
【0027】
図2に示すように、ガラス母材10の主面10Aと主面10Bとを接続する端面(側面)のうちで、向きY2側の部分を外周端E1とし、向きY1側の部分を外周端E2とし、向きX2側の部分を外周端E3とし、向きX1側の部分を外周端E4とする。外周端E1~E4を区別しない場合には、外周端Eと記載する。
本実施形態の例では、ガラス母材10はZ方向から見て矩形であり、外周端E1は、Z方向から見て矩形の向きY2側の辺を構成して、X方向に沿って延びている。ただし上述のようにガラス母材10のZ方向から見た形状は任意であってよく、外周端E1も、X方向に平行であることに限られず、X方向に対して交差してよい。
【0028】
端材部10bは、ガラス母材10のうちで、外周端E1から向きY1(第1向き)に延在する部分を指す。端材部10bは、外周端E1から向きY1に向けて、Y方向における外周端E1と外周端E2との間の位置まで延在する。図2の例では、端材部10bは、端材部10bの向きY2側の部分である第1部分10cと、第1部分10cから更に向きY1側に突出した領域である第2部分10dとを含む。
第1部分10cは、外周端E1から向きY1に向けて延在する。すなわち、第1部分10cの向きY2側の端部が外周端E1上にあり、向きY1側の端部が外周端E1と外周端E2との間にある。第1部分10cは、向きX2側の端部が外周端E3上にあり、向きX1側の端部が外周端E4上にある。
第2部分10dは、第1部分10cの向きY1側の端部から、向きY1に向けて延在する。第2部分10dは、X方向において外周端E3と外周端E4との間の任意の位置にあってもよい。
ただし、端材部10bは、このように第1部分10cと第2部分10dとを含む形状であることに限られず、例えば第2部分10dのみを有する形状であってもよい。この場合、端材部10b(第2部分10d)は、外周端E1から、向きY1に向けて延在することになる。
【0029】
端材部10bは、以上のような形状となっているため、端材部10bが分離されたガラス物品10aは、外周の概形から内側に窪む凹部を備えた形状となる。すなわち、ガラス物品10a向きY2側の端面の一部が、向きY1に向けて凹んだ形状となる。具体的には、端材部の第1部分10cが除去されることにより、ガラス物品10aの概形が形成され、第2部分10dが除去された領域が凹部となる。
【0030】
(仮想線)
本実施形態においては、ガラス母材10から端材部10bを分離するための仮想線として、第1仮想線A及び第2仮想線Bを設定する。以下、第1仮想線A及び第2仮想線Bについて説明する。
【0031】
(第1仮想線)
第1仮想線Aは、ガラス母材10の主面10Aに照射されるレーザ光Lの走査軌跡である。図2及び図3に示すように、第1仮想線Aは、ガラス物品10aと端材部10bとの境界線であり、端材部10bの輪郭を形成する仮想線であり、端材部10bの分離後の、ガラス物品10aの外周を形成する仮想線といえる。すなわち、Z方向から見て、ガラス母材10の全域のうちで、第1仮想線Aと外周端E1とに囲われた領域が、端材部10bであるといえる。
【0032】
第1仮想線Aは、ガラス物品10aで凹部を形成する部分において、少なくとも3辺を有する形状であることが好ましい。例えば図2および図3に示すように、第1仮想線Aは、向きY1に延在する縦線部Aaと、縦線部Aaの向きY1側の端点に接続されて方向Xに延在する横線部Abとを含んでいる。なお、図2および図3において、縦線部Aaと横線部Abは直交しているが、これに限られず、例えば縦線部Aaが傾斜していても良い。
【0033】
より詳細には、上記3辺は、凹部の外部から接続する第1縦線部と、第1縦線部と接続する横線部、および横線部と接続し、凹部の外部へと接続する第2縦線部を含むことが好ましい。すなわち、図2および図3に示すように、第1仮想線Aは、側線部Ac1と、向きX2側の縦線部Aaである第1縦線部Aa1と、横線部Abと、向きX1側の縦線部Aaである第2縦線部Aa2と、側線部Ac2とを含んでいてもよい。
側線部Ac1は、例えば外周端E3から、第1縦線部Aa1まで、向きX1に延在する。側線部Ac1は、本実施形態の例では方向X(外周端E1の延在方向)に沿って延在するが、それに限られず、方向X(外周端E1の延在方向)に交差して延在してもよい。また、側線部Ac1は、本実施形態では直線であるが、曲線であってもよい。
第1縦線部Aa1は、横線部Abの向きX2側の端部に接続される。第1縦線部Aa1は、側線部Ac1の向きX1側の端点から、向きY1に延在する。第1縦線部Aa1は、本実施形態の例では方向Y(外周端E1に直交する方向)に沿って延在するが、それに限られず、方向Yに交差して延在してもよい。また、第1縦線部Aa1は、本実施形態では直線であるが、曲線であってもよい。
横線部Abは、横線部Abの向きX1側の端部に接続される。横線部Abは、第1縦線部Aa1の向きY1側の端点から、第2縦線部Aa2まで、向きX1に延在する。横線部Abは、本実施形態の例では方向X(外周端E1の延在方向)に沿って延在するが、それに限られず、方向Xに交差して延在してもよい。また、横線部Abは、本実施形態では直線であるが、曲線であってもよい。
第2縦線部Aa2は、横線部Abの向きX1側の端点から、向きY2に延在する。第2縦線部Aa2は、本実施形態の例では方向Y(外周端E1に直交する方向)に沿って延在するが、それに限られず、方向Yに交差して延在してもよい。また、第2縦線部Aa2は、本実施形態では直線であるが、曲線であってもよい。
側線部Ac2は、第2縦線部Aa2の向きY2側の端点から、外周端E4まで、向きX1に延在する。側線部Ac2は、本実施形態の例では方向X(外周端E1の延在方向)に沿って延在するが、それに限られず、方向X(外周端E1の延在方向)に交差して延在してもよい。また、側線部Ac2は、本実施形態では直線であるが、曲線であってもよい。
【0034】
本実施形態では、図3に示すように、縦線部Aa(本例では第1縦線部Aa1及び第2縦線部Aa2)は、直線部Aaaと、R部Aabとを含んでいてもよい。直線部Aaaは、縦線部Aaのうちで、向きY1に向けて直線状に延在する区間である。R部Aabは、縦線部Aaのうちで、曲線状の区間であり、直線部Aaaに接続される。より詳しくは、R部Aabは、直線部AaaのY方向における両端部に設けられている。すなわち例えば、第1縦線部Aa1は、直線部Aaaと、直線部Aaaの向きY2側の端部と側線部Ac1の向きX1側の端部を接続するR部Aabと、直線部Aaaの向きY1側の端部と横線部Abの向きX2側の端部を接続するR部Aabとを含む。また例えば、第2縦線部Aa2は、直線部Aaaと、直線部Aaaの向きY2側の端部と側線部Ac2の向きX2側の端部を接続するR部Aabと、直線部Aaaの向きY1側の端部と横線部Abの向きX1側の端部を接続するR部Aabとを含む。R部を設けることで、端材部10bの端部が除去されやすくなるため好ましい。R部の曲率半径は、例えば0.5mm~25mmであり、好ましくは1mm~10mmである。
【0035】
なお、第1仮想線Aは、側線部Ac1、Ac2を含まなくてよい。この場合、第1仮想線Aは、第1縦線部Aa1、横線部Ab、第2縦線部Aa2を有し、第1縦線部Aa1が、外周端E1から向きY1に延在し、第2縦線部Aa2が、外周端E1まで向きY2に延在してよい。この場合、ガラス母材10の外周端E1の一部が、ガラス物品10aの外周として残ることになる。
【0036】
第1仮想線Aは、以上のような形状となっている。上述のように、第1仮想線Aは、端材部10bとガラス物品10aとの境界線であるため、ガラス母材10の第1仮想線Aよりも向きY2側の部分が、端材部10bとして除去され、ガラス母材10の第1仮想線Aよりも向きY1側の部分が、ガラス物品10aとして残る。
【0037】
ここで、第1縦線部Aa1の中点と、第2縦線部Aa2の中点との距離を、幅wとする。幅wは、端材部10bのうちの第2部分10dのX方向における長さを指す。本実施形態においては、幅wは第1縦線部Aa1から第2縦線部Aa2までのX方向における距離となる。また、凹部の開口想定線(後述する直線LP)と、横線部Abとの距離を、深さdとする。深さdは、端材部10bのうちの第2部分10dのY方向における長さを指す。本実施形態においては、深さdは、横線部Abから縦線部Aaの向きY2側の端部までの、Y方向における距離を指す。
幅wは、深さdの5倍以下であることが好ましく、4倍以下であることがより好ましく、3.5倍以下であることがさらに好ましい。深さdに対する幅wの比率(幅w/深さd)がこの範囲であることで、端材部10bが破断された際の、端材部10bとガラス物品10aとのY方向に沿った対向面の面積が大きくなり、摩擦力が大きくなる。しかし、本実施形態によれば、摩擦を有意に低減し、端材部10bを向きY2に適切に分離できる。なお、幅wは、深さdに対して、0.8倍以上が好ましく、0.9倍以上がより好ましく、1.0倍以上がさらに好ましい。なお、ここでの数値の上限値と下限値とは、適宜組み合わせ可能であり、他の記載でも同様である。
【0038】
(第2仮想線)
第2仮想線Bは、ガラス母材10の主面10Aに照射されるレーザ光Lの走査軌跡であり、端材部10bを適切に分離するために設定される。図2及び図3に示すように、第2仮想線Bは、第2部分10d内、すなわちガラス物品10aにおいて凹部となる領域内に形成される。すなわち、Z方向から見て、端材部10bの領域内を通り、より詳しくは、第2仮想線Bの全区間が、端材部10bの領域内に位置している。言い換えれば、第2仮想線Bは、第1仮想線Aよりも向きY2側に位置している。
【0039】
第2仮想線Bは、凹部の開口を通過して凹部の内部に向けて延在する。すなわち、第2仮想線Bは、主面10A上において、向きY1に向けて、Y方向における外周端E1と第1仮想線Aとの間の位置、又は第1仮想線Aに重なる位置まで延在する。第2仮想線Bは、凹部の開口想定線(後述する直線LP)に対して傾斜する傾斜部Baと、傾斜部Baの向きY1側に接続される曲線部Bbとを含む。曲線部Bbは、向きY1側に凸となる曲線である。
【0040】
傾斜部Baは、前記曲線部Bbの一方の端点から第1縦線部Aa1側に延びる第1傾斜部Ba1と、前記曲線部Bbの他方の端点から第2縦線部Aa2側に延びる第2傾斜部Ba2と、を含むことが好ましい。本実施形態においては、例えば、傾斜部Baは、向きX2側の傾斜部Baである第1傾斜部Ba1と、向きX1側の傾斜部Baである第2傾斜部Ba2とを含んでいる。
第1傾斜部Ba1は、外周端E1から凹部の開口を通過して、ガラス母材の内側に向かい延在する。より詳しくは、第1傾斜部Ba1は、外周端E1から、向きY1に向かうに従って、向きX1に傾斜して延在する。
曲線部Bbは、第1傾斜部Ba1に接続される。曲線部Bbは、第1傾斜部Ba1の向きY1側の端点から延在する曲線状の部分である。より詳しくは、曲線部Bbは向きY1側が凸となるような曲線状である。
第2傾斜部Ba2は、曲線部Bbの向きX1側の端点から、凹部の開口を通過して、外周端E1に向かい延在する。より詳しくは、第2傾斜部Ba2は、外周端E1から、向きY1に向かうに従って、向きX2に傾斜して延在する。すなわち、曲線部Bbは、第1傾斜部Ba1の外周端E1とは反対側の端部と、第2傾斜部Ba2の外周端E1とは反対側の端部とに接続される。
【0041】
(傾斜部)
傾斜部Baについてより具体的に説明する。
傾斜部Ba(本実施形態の例では第1傾斜部Ba1及び第2傾斜部Ba2)は、Z方向から見て、直線状であるが、それに限られず曲線状であってもよい。
ここで、図3に示すように、端材部10bの内接円を、内接円CIとする。なお、図3には、内接円CIの円周の一部を示す。内接円CIは、端材部10bの外周端E1以外の辺に、3点で内接する内接円である。言い換えれば、内接円CIは、第1仮想線A上の3点に接する内接円であり、本実施形態の例では、第1縦線部Aa1と、横線部Abと、第2縦線部Aa2とのそれぞれに接する内接円である。内接円CIは、第1縦線部Aa1及び第2縦線部Aa2上の任意の点と接してよいが、本実施形態の例では、第1縦線部Aa1及び第2縦線部Aa2のR部Aab上の点と接する。
この場合、傾斜部Baの曲率半径は、内接円CIの半径より大きい。また、傾斜部Baの曲率半径は、内接円CIの半径の1.5倍以上が好ましく、2倍以上がより好ましい。また、傾斜部Baの曲率半径は、長さdの1.5倍以上が好ましく、2倍以上がより好ましい。また、傾斜部Baの曲率半径は、5000mm以上であることが好ましく、10000mm以上であることがより好ましい。ここで、傾斜部Baの曲率半径が小さいと円弧状に近づくため、母材100において破断された部分である破断部分を向きY2に分離する際に、破断部分と残った部分との対向面において、Y方向のベクトル成分の摩擦力が高くなり、破断部分を向きY2に分離し難くなる。それに対して、傾斜部Baの曲率半径を上記のように大きくすることで、対向面のY方向に近い方向に延在する領域が大きくなることを抑制して、Y方向における摩擦力が過大とならず、破断部分を向きY2に適切に分離できる。
【0042】
また、凹部の開口想定線、すなわち第1縦線部Aa1の向きY2側の端点Pと、第2縦線部Aa2の向きY2側の端点Pとを結ぶ直線を、直線LPとする。この場合、Z方向から見た場合の、傾斜部Baと直線LPとのなす鋭角の角度θは、70°以下であり、20°以上65°以下が好ましく、25°以上60°以下がより好ましい。すなわち本例では、第1傾斜部Ba1と直線LPとのなす角度θが上記範囲となり、かつ、第2傾斜部Ba2と直線LPとのなす角度θが上記範囲となる。角度θがこの範囲となることで、第2仮想線Bからの破断部分を向きY2に分離する際に、破断部分と残った部分との対向面における、Y方向のベクトル成分の摩擦力を小さくして、破断部分を向きY2に適切に分離できる。
なお、Z方向から見て、直線LPは、切り出されたガラス物品10aの凹部の開口を結んだ開口想定線であり、角度θは、傾斜部Baと開口想定線とのなす角度のうち、鋭角のものということもできる。
また、第1縦線部Aa1の向きY2側の端点Pは、本実施形態では第1縦線部Aa1と側線部Ac1との境界点であるが、側線部Ac1が設定されない場合には、第1縦線部Aa1と外周端E1とが交わる点であってよい。同様に、第2縦線部Aa2の向きY2側の端点Pは、本実施形態では第2縦線部Aa2と側線部Ac2との境界点であるが、側線部Ac2が設定されない場合には、第2縦線部Aa2と外周端E1とが交わる点であってよい。また、本実施形態の例では、Z方向から見て傾斜部Baが直線状であるため、直線である傾斜部Baと直線LPとのなす角度を、角度θとする。
ただし、Z方向から見て傾斜部Baが曲線状である場合には、傾斜部Baの向きY2側の端点(傾斜部Baと直線LPが交わる点)と、傾斜部Baの向きY1側の端点(傾斜部Baと曲線部Bbとの境界点)とを結ぶ直線を、直線である傾斜部Baとして扱って、角度θを測定してもよい。なお、傾斜部Baと曲線部Bbとの境界点とは、傾斜部Baから曲線部Bbに亘る区間上の、曲率半径が所定値以上変化する位置であってよい。
【0043】
(曲線部)
曲線部Bbについてより具体的に説明する。
曲線部Bbは、上述のように、Z方向から見て曲線状である。曲線部Bbの曲率半径は、内接円CIの半径以下であり、内接円CIの半径よりも小さいことが好ましい。曲線部Bbの曲率半径は、内接円CIの半径の2/3以下が好ましく、1/2倍以下がより好ましい。また、曲線部Bbの曲率半径は、1mm以上であり、各改質部H同士の間隔の200倍以上が好ましく、300倍以上がより好ましい。
ここで、第2仮想線Bの向きY2側の端部が曲線状(R状)ではなくエッジ状となる場合、第2仮想線Bのうちの端部近傍を通る区間が短くなるため、端部近傍に改質部Hを滑らかに連続的に形成できなくなるおそれがある。そのためこの場合、端部近傍を適切に分離できず、端部近傍の不要な部分が残ってしまうおそれがある。それに対して、本実施形態のように、端部を曲線部Bbで形成することで、曲線部Bbに沿って端部近傍に連続的に改質部Hを形成できるため、端部近傍を適切に分離できる。
【0044】
曲線部Bbと第1仮想線Aとの間の、Y方向における距離の最小値を距離ΔHとする。この場合、距離ΔHは、0μm以上300μm以下であり、0μm以上200μm以下であることが好ましく、0μm以上100μm以下であることがより好ましく、0μm以上50μm以下であることがさらに好ましく、0μm以上20μm以下であることがさらに好ましい。距離ΔHがこのように小さいことで、端材部10bを適切に分離できる。なお、本実施形態の例では、距離ΔHは、曲線部Bbの最も向きY1側の位置と、第1仮想線Aの横線部Abとの間の、Y方向における距離を指す。なお、曲線部Bbと横線部Abとは、このように近い位置に設定され、接していること(すなわちΔH=0)がより好ましい。ただし、加工時の誤差などにより、曲線部Bbがガラス物品10aまではみ出してしまわないように、レーザ光L照射の精度などを考慮して、曲線部Bbと横線部Abとを適宜離してもよい。
【0045】
(第3仮想線)
図4は、第3仮想線の一例を説明するための模式図である。本実施形態においては、図4に示すように、第1仮想線A及び第2仮想線Bに加えて、第3仮想線Cも設定することが好ましい。本実施形態において、第3仮想線Cは、複数設定される。第3仮想線Cは、ガラス母材10の主面10A上に設定される仮想線である。第3仮想線Cは、ガラス母材10の主面10Aに照射されるレーザ光Lの走査軌跡であり、端材部10bを適切に分離するために設定される。
【0046】
第3仮想線Cは、Y方向において、第1仮想線Aと第2仮想線Bとの間に位置している。各第3仮想線Cは、第1仮想線Aと第2仮想線Bとを接続し、端点Caから端点Cbまで、第1仮想線Aと第2仮想線Bとの間を延在する。
なお、第3仮想線Cの端点Caと第1仮想線Aとは、なるべく近接することが好ましく、重なる位置にあることがより好ましい。ただし、加工時の誤差などにより、第3仮想線Cがガラス物品10aまではみ出してしまわないように、レーザ光L照射の精度などを考慮して、第3仮想線Cの端点Caと第1仮想線Aとを適宜離してもよい。この場合、第3仮想線Cの端点Caを、第1仮想線Aよりも第2仮想線B側(端材部10b側)に位置させる。なお、端点Caは、例えば、第3仮想線Cに沿ってレーザ光Lを照射させる際に装置にインプットする走査軌跡の端点であってもよいし、第3仮想線Cに沿って形成される改質部Hのうちで、最も第2仮想線Bと離れた位置にある改質部Hの位置であってもよい。
第3仮想線Cは、本実施形態では直線状であるが、それに限られず曲線状であってもよいし、その形状は任意である。また、第3仮想線Cの数は任意であってよく、少なくとも1つ設定されるものであってよい。
【0047】
それぞれの第3仮想線Cの端点Cbは、第2仮想線Bのうちの傾斜部Ba上にあることが好ましい。また、それぞれの第3仮想線Cのうちの少なくとも一部同士は、端点Cbが、傾斜部Ba上の同じ位置にあってもよい。
図4の例では、第3仮想線Cとして、第1傾斜部Ba1から延在する第3仮想線C1a、C2a、C3a、C4aと、第2傾斜部Ba2から延在する第3仮想線C1b、C2b、C3b、C4bとが例示されている。
第3仮想線C1a、C2a、C3aは、第1傾斜部Ba1上の同じ位置から分岐して延在する。第3仮想線C1aは、第1傾斜部Ba1から横線部Abまで延在する。第3仮想線C2aは、第1傾斜部Ba1から、第1縦線部Aa1の向きY1側のR部Aabまで延在する。第3仮想線C3aは、第1傾斜部Ba1から、第1縦線部Aa1の直線部Aaaまで延在する。また、第3仮想線C4aは、第1傾斜部Ba1上の、第3仮想線C1a、C2a、C3aの端点Cbよりも向きY2側の位置から、第1縦線部Aa1の向きY2側のR部Aabまで延在する。
同様に、第3仮想線C1b、C2b、C3bは、第2傾斜部Ba2上の同じ位置から分岐して延在する。第3仮想線C1bは、第2傾斜部Ba2から横線部Abまで延在する。第3仮想線C2bは、第2傾斜部Ba2から、第2縦線部Aa2の向きY1側のR部Aabまで延在する。第3仮想線C3bは、第2傾斜部Ba2から、第2縦線部Aa2の直線部Aaaまで延在する。また、第3仮想線C4bは、第2傾斜部Ba2上の、第3仮想線C1b、C2b、C3bの端点Cbよりも向きY2側の位置から、第2縦線部Aa2の向きY2側のR部Aabまで延在する。
【0048】
ここで、端点Ca(第3仮想線Cと第1仮想線Aとの交点)における、第1仮想線Aの第2仮想線Bに近づく方向の法線を、接続法線Lxとする。なお図4の例では、第3仮想線Cが、接続法線Lxと一致する方向に延在している。
Z方向から見て隣り合う接続法線Lx同士のなす角度θCは、90°未満(0°以上90°未満)が好ましく、20°以上70°以下がより好ましく、30°以上60°以下がさらに好ましい。角度θCがこのように90°未満となることで、第1仮想線A及び第3仮想線Cからの破断部分を分離する際に、破断部分と残った部分との対向面の長さ(すなわち隣り合う端点Ca同士の距離)を短くして、対向面の摩擦力を低減し、破断部分を適切に分離できる。例えば、このように第3仮想線Cを設定することで、後述のように第2のレーザ光L2の照射によりガラス母材10を破断した際に、破断部分が自然に分離されやすくなるため、分離の手間を削減できる。
ただし、曲線部Bbを介して隣り合う接続法線Lx同士のなす角度は、上記の角度θCとして扱わず、90°未満でなくてもよい。例えば図4の例では、第3仮想線C1a~C4aに対応する接続法線Lxのうち、隣り合う接続法線Lx同士のなす角度θCが、90°未満となっており、第3仮想線C1b~C4bに対応する接続法線Lxのうち、隣り合う接続法線Lx同士のなす角度θCが、90°未満となっている。一方で、曲線部Bbを介して隣り合う第3仮想線C1a、C1bに対応する接続法線Lx同士は、平行となっている。
【0049】
(仮想線に沿ったレーザ光の照射)
本製造方法においては、図1に示すように、ガラス母材10の主面10Aに、第1仮想線Aに沿ってレーザ光Lを照射し、第2仮想線Bに沿ってレーザ光Lを照射する。すなわち、レーザ光Lの照射位置を第1仮想線Aに沿って走査(移動)させつつパルス状のレーザ光Lを照射し、レーザ光Lの照射位置を第2仮想線Bに沿って走査(移動)させつつパルス状のレーザ光Lを照射する。これにより、ガラス母材10の主面10Aに、第1仮想線A及び第2仮想線Bに沿って並ぶ複数の改質部Hが形成される。なお、本実施形態では、上述のように第3仮想線Cも設定されているため、第3仮想線Cに沿ってもレーザ光Lを照射して、第3仮想線Cに沿って並ぶ複数の改質部Hも形成する。
【0050】
各仮想線に沿ってレーザ光Lを照射する際のレーザ光Lの出力は任意に設定してよい。例えば、第2仮想線Bに沿って照射する際のレーザ光Lの出力と、第1仮想線Aに沿って照射する際のレーザ光Lの出力とを、異ならせてよいし、第3仮想線Cに沿って照射する際のレーザ光Lの出力と、第1仮想線Aに沿って照射する際のレーザ光Lの出力とを、異ならせてよい。この場合例えば、第2仮想線Bに沿って照射する際のレーザ光Lの出力を、第1仮想線Aに沿って照射する際のレーザ光Lの出力より大きくしてよいし、同様に、第3仮想線Cに沿って照射する際のレーザ光Lの出力を、第1仮想線Aに沿って照射する際のレーザ光Lの出力より大きくしてよい。これにより、第2仮想線Bや第3仮想線Cに沿ってガラス母材10を適切に破断でき、かつ、第1仮想線Aで破断されたガラス物品10aの端面の品質を向上できる。なお、ここでのレーザ光Lの出力とは、ピーク出力(W)であってよい。
【0051】
(改質部を起点とした破断)
第1仮想線A及び第2仮想線Bに沿って改質部Hを形成したあと、第1仮想線A及び第2仮想線Bに沿った改質部Hを起点としてガラス母材10を破断して、ガラス母材10から端材部10bを分離する。これにより、端材部10bが分離されたガラス母材10であるガラス物品10aが得られる。なお本実施形態では、第3仮想線Cに沿って並ぶ複数の改質部Hも形成されているため、第3仮想線Cに沿った改質部Hも起点として、ガラス母材10を破断する。
なお、ここでの「破断」とは、部材同士が繋がっていない状態を指し、「分離」とは、部材同士の距離が所定距離以上離れていることを指す。すなわち、ガラス母材10と端材部10bとが繋がっていないが、所定距離の範囲内にある場合には、破断されているが分離されていないといえる。
【0052】
本実施形態では、各仮想線に沿って主面10Aに熱応力を発生させることで、改質部Hを起点としてガラス母材10を破断させてよい。例えば、各仮想線に沿って主面10Aに第2のレーザ光L2を照射することで、各仮想線に沿って主面10Aに応力を発生させて、改質部Hを起点としてガラス母材10を破断してよい。第2のレーザ光L2は、780nm以上の波長のレーザであることが好ましく、5000nm以上の波長がさらに好ましい。また、第2のレーザ光L2は、20000nm以下の波長のレーザであることが好ましい。例えば、半導体レーザやファイバーレーザ、COレーザ、COレーザを用いることができ、より好ましくはCOレーザを用いることができる。
【0053】
本実施形態では、第2仮想線Bに沿ってガラス母材10を破断した後、第1仮想線Aに沿ってガラス母材10を破断することが好ましい。以下、具体的に説明する。
【0054】
図5は、破断部の分離を説明するための模式図である。本製造方法においては、図5のステップS1のように各仮想線に沿ってレーザ光Lを照射して改質部Hを形成する。図5の例において、各仮想線は、第1仮想線A、第2仮想線B及び第3仮想線Cである。改質部Hを形成した後、ステップS2に示すように、例えば第2仮想線Bに沿って第2のレーザ光L2を照射することで、第2仮想線Bに沿ってガラス母材10を破断させる。第2仮想線Bに沿ってガラス母材10を破断させたあと、第2仮想線Bに沿って破断された端材部10bの一部(端材部10bのうちの第2仮想線Bより向きY2側の部分)を、分離する。破断された端材部10bの一部を分離する方法は任意であってよく、例えばステップS2のように破断することで自然に分離されてもよいし、破断された端材部10bの一部を、機械的手段により力を加えることで取り除いてもよい。
【0055】
第2仮想線Bに沿ってガラス母材10を破断させたあと、図5のステップS3に示すように、例えば第1仮想線Aに沿って第2のレーザ光L2を照射することで、第1仮想線Aに沿ってガラス母材10を破断させる。そして、図5のステップS4に示すように、端材部10bの残った部分(端材部10bのうちの第1仮想線Aと第2仮想線Bとの間の部分)を分離して、ガラス物品10aが得られる。さらに言えば、本実施形態では、第2仮想線Bに沿ってガラス母材10を破断させた後に、第3仮想線Cに沿ってガラス母材10を破断させる。これにより、端材部10bの残った部分(端材部10bのうちの第1仮想線Aと第2仮想線Bとの間の部分)が、第3仮想線Cにより複数個に破断されるため、容易に分離することができる。なお、破断された端材部10bの残った部分を分離する方法は任意であってよく、例えば破断することで自然に分離されてもよいし、破断された端材部10bの残った部分を、機械的手段により取り除いてもよい。
【0056】
なお、図5の例では、第2仮想線Bに沿って破断された端材部10bの一部を分離した後に、第1仮想線Aや第3仮想線Cに沿ってガラス母材10を破断させて、端材部10bの残った部分を分離していた。ただし、端材部10bを分離するタイミングはそれに限られず任意であってよい。例えば、第1仮想線Aや第3仮想線Cに沿ってガラス母材10を破断させた後に、端材部10bの一部と残った部分とを分離してもよい。
また、図5の例では、第1仮想線A、第2仮想線B、及び第3仮想線Cに沿って改質部Hを形成した後に、各仮想線に沿った破断及び分離を行っていた。ただしそれに限られず、例えば、第2仮想線Bに沿って改質部Hを形成し、第2仮想線Bに沿って破断を行い、その後に、第1仮想線Aや第3仮想線Cに沿って改質部Hを形成して、第1仮想線Aや第3仮想線Cに沿って破断を行ってもよい。
【0057】
(他の例)
図7は、第2仮想線の他の例を示す模式図である。以上の説明では、第2仮想線Bは、1つの曲線部Bbを有しているものであったが、曲線部Bbの数は1つに限られず複数であってもよい。例えば、第2仮想線Bは、X方向に並ぶ複数の曲線部Bbを有していてもよい。図7は、第2仮想線Bが、X方向に並ぶ2つの曲線部Bbを有する場合を例示している。図7に示すように、X方向に隣り合う曲線部Bbは、向きY1が凸となる曲線である。X方向に隣り合う曲線部Bb同士は、接続線Bcで接続されている。接続線Bcは、X方向において、隣り合う曲線部Bb同士の間に位置している。接続線Bcは、図7の例では、向きY2に凸となる曲線である。
【0058】
(製造フロー)
以上説明したガラス物品10aの製造方法の処理フローを説明する。図6は、本実施形態に係るガラス物品の製造フローを説明するフローチャートである。図6に示すように、本製造方法においては、第1仮想線A及び第2仮想線Bに沿って、ガラス母材10の主面10Aにレーザ光Lを照射して、第1仮想線A及び第2仮想線Bに沿って改質部Hを形成する(ステップS10)。その後、第2仮想線Bに沿って端材部10bの一部を破断し(ステップS12)、第1仮想線Aに沿って端材部10bの残った部分を破断する(ステップS14)。これにより、ガラス母材10から端材部10bを分離して、ガラス物品10aが得られる。なおステップS10において、第3仮想線Cも設定して、第3仮想線Cに沿った改質部Hも形成してよく、ステップS14において、第3仮想線Cに沿って端材部10bの残った部分を破断してよい。
【0059】
図8A図8Cは、母材からガラス物品を切り出す場合を示す模式図である。図8A図8Cに示すように、本製造方法においては、母材1から、複数のガラス物品10aを切り出してもよい。母材1は、ガラス母材10やガラス物品10aと同じ材料であり、ガラス母材10やガラス物品10aよりも主面の面積が大きい。
このような母材1から複数のガラス物品10aを切り出す場合には、図8Aに示すように、母材1の主面に母材1からガラス母材10を切り出すための区分仮想線L0(ガラス母材10同士を分ける仮想線)を設定し、区分仮想線L0に沿って、レーザ光Lを照射し、それぞれのガラス母材10に設定された各仮想線A、Bに沿って、レーザ光Lを照射する。これにより、それぞれのガラス母材10の区分仮想線L0及び各仮想線A、Bに沿って、改質部Hが形成される。改質部Hが形成されたあと、それぞれのガラス母材10の区分仮想線L0に沿って形成された改質部Hを起点として、母材1を破断する。区分仮想線L0に沿って破断する方法は、上述の各仮想線に沿った破断方法と同じであってよい。その後、各仮想線A、Bに沿って形成された改質部Hを起点として、それぞれのガラス母材10を破断して、ガラス物品10aが得られる。
なお、図8Aに示すように、区分仮想線L0は、ガラス母材10の外周端Eとなる輪郭に沿って形成されていてもよい。また、図8Bに示すように、更に区分仮想線L0”を有していてもよい。区分仮想線L0”は、ガラス母材10を区分するために、ガラス母材10の外周端Eよりも外側に形成されてもよい。また図8Cのように、区分仮想線L0”はガラス母材10を区分するためにガラス母材10の外周端Eよりも外側に形成されており、第1仮想線Aは、凹部を含むガラス物品10aの外周全体を一続きに形成していても良い。なお、図8A図8Cの例では1つの母材1から4つのガラス物品10aを切り出しているが、切り出すガラス物品10aの数は任意であってよい。
【0060】
(効果)
以上説明したように、本開示の第1態様に係るガラス物品10aの製造方法は、ガラス母材10から端材部10bを分離することで、ガラス物品10aを製造する。本製造方法は、ガラス母材10と端材部10bとの境界線となる第1仮想線Aに沿って、ガラス母材10の主面上にレーザ光を照射して、ガラス母材10に第1仮想線Aに沿った改質部Hを形成することと、端材部10b内を通る第2仮想線Bに沿って、ガラス母材10の主面上にレーザ光を照射して、ガラス母材10に第2仮想線Bに沿った改質部Hを形成することと、第1仮想線A及び第2仮想線Bに沿った改質部Hを起点としてガラス母材10を破断し端材部10bを分離することで、ガラス物品10aの外周の概形から内側に窪む凹部を形成することと、を含む。第2仮想線Bは、凹部の開口想定線を通過し、凹部の開口想定線に対し傾斜している傾斜部Baと、傾斜部Baと接続される曲線部Bbを含み、傾斜部Baは、曲率半径が端材部10bの内接円CIの半径よりも大きい曲線か直線であり、曲線部Bbは、曲率半径が1mm以上かつ端材部10bの内接円CIの半径以下であり、傾斜部Baと曲線部Bbの交点、および傾斜部Baと凹部の開口想定線の交点、とを結ぶ直線のなす鋭角の角度θが70°以下であり、曲線部Bbと第1仮想線Aとの間の、距離の最小値(ΔH)が、300μm以下である。
本開示によると、第2仮想線Bの傾斜部Baの曲率半径及びなす角度θが上記範囲であることで、第2仮想線Bに沿った破断部分と残った部分との対向面における、Y方向のベクトル成分の摩擦力を小さくして、破断部分を適切に分離できる。また、本開示によると、第2仮想線Bに曲線部Bbを設け、距離ΔHを上記範囲とすることで、第2仮想線Bの端部近傍を適切に分離できる。そのため、本開示によると、端材部10bを適切に分離できる。
【0061】
本開示の第2態様に係るガラス物品10aの製造方法は、第1態様に係るガラス物品10aの製造方法であって、第1仮想線Aは、凹部を形成する部分において少なくとも3辺を有し、3辺は、凹部の外部から接続する第1縦線部Aa1、第1縦線部Aa1と接続する横線部Ab、および横線部Abと接続し、凹部の外部へと接続する第2縦線部Aa2、とを含み、第2仮想線Bは、曲線部Bbの一方の端点から第1縦線部Aa1側に延びる第1傾斜部Ba1と、曲線部Bbの他方の端点から第2縦線部Aa2側に延びる第2傾斜部Ba2とを含むことが好ましい。本開示によると、端材部10bを適切に分離できる。
【0062】
本開示の第3態様に係るガラス物品10aの製造方法は、第2態様に係るガラス物品10aの製造方法であって、第1縦線部Aa1の中点と第2縦線部Aa2の中点の距離(幅w)は、凹部の開口想定線と横線部Abの最大距離(深さd)の5倍以下であることが好ましい。本開示によると、このように深さdが深い端材部10bを、適切に分離できる。
【0063】
本開示の第4態様に係るガラス物品10aの製造方法は、第1態様から第3態様のいずれかに係るガラス物品10aの製造方法であって、第1仮想線Aと第2仮想線Bとを接続する少なくとも1つの第3仮想線Cに沿って、ガラス母材10の主面10A上にレーザ光Lを照射して、ガラス母材10に第3仮想線Cに沿った改質部Hを形成することが好ましい。本開示によると、第3仮想線Cに沿った改質部Hを起点として端材部10bを複数個に破断することができるため、端材部10bを適切に分離できる。
【0064】
本開示の第5態様に係るガラス物品10aの製造方法は、第4態様に係るガラス物品10aの製造方法であって、複数の第3仮想線Cに沿って改質部Hを形成し、第3仮想線Cと第1仮想線Aとの交点(端点Ca)における第1仮想線Aの法線を接続法線Lxとした場合において、隣り合う接続法線Lx同士のなす角度θCが、90°未満であることが好ましい。角度θCを90°未満とすることで、破断部分を適切に分離できる。
【0065】
本開示の第6態様に係るガラス物品10aの製造方法は、第1態様から第5態様のいずれかに係るガラス物品10aの製造方法であって、レーザ光Lは、パルス発振したレーザ光であることが好ましい。パルスレーザであるレーザ光Lを用いることで、改質部Hを適切に形成できる。
【0066】
本開示の第7態様に係るガラス物品10aの製造方法は、第1態様から第6態様のいずれかに係るガラス物品10aの製造方法であって、改質部Hを起点としてガラス母材10を破断する際においては、780nm以上20000nm以下の波長の第2のレーザ光L2であることが好ましい。例えば、半導体レーザやファイバーレーザ、COレーザ、COレーザを用いることができ、より好ましくはCOレーザを用いることができる。第2のレーザ光L2を用いることで、改質部Hを起点としてガラス母材10を適切に破断できる。
【0067】
本開示の第8態様に係るガラス物品10aの製造方法は、第1態様から第7態様のいずれかに係るガラス物品10aの製造方法であって、改質部Hが形成される前のガラス母材10は、加熱成形により湾曲していることが好ましい。本開示によると、湾曲したガラス母材10から、端材部10bを適切に分離できる。
【0068】
本開示の第9態様に係るガラス物品10aの製造方法は、第1態様から第8態様のいずれかに係るガラス物品10aの製造方法であって、ガラス母材10の厚みは、0.1mm以上3mm以下であることが好ましい。本開示によると、このような厚みのガラス母材10から、端材部10bを適切に分離できる。
【0069】
本開示の第10態様に係るガラス物品10aの製造方法は、第1態様から第9態様のいずれかに係るガラス物品10aの製造方法であって、ガラス製の母材1から、複数のガラス母材10を分ける区分仮想線L0を設定することと、区分仮想線L0に沿って、母材1の主面上にレーザ光Lを照射して、母材1に区分仮想線L0に沿った改質部Hを形成することと、第1仮想線A及び第2仮想線Bに沿った改質部Hを起点としてガラス母材10を破断する前に、区分仮想線L0に沿った改質部Hを起点として母材1を破断して母材1からガラス母材10を分離することとを、更に含むことが好ましい。本開示によると、母材1から、ガラス物品10aを適切に切り出すことができる。
【0070】
(実施例)
次に、実施例について説明する。表1は、各例の製造条件及び評価結果を示す表である。
【0071】
【表1】
【0072】
(例1)
例1においては、厚さが1.3mmのガラス母材を準備した。ガラス母材としては、AGC社製、Dragontrail(登録商標)を用いた。
例1においては、図4に示すような形で、ガラス母材の主面に、Y方向に沿って延びる第1縦線部Aa1と、X方向に沿って延びる横線部Abと、Y方向に沿って延びる第2縦線部Aa2とを含むように、第1仮想線Aを設定した。第1仮想線Aにおける第1縦線部Aa1の中点と第2縦線部Aa2の中点との間の距離である幅w(端材部のX方向における長さ)は、20mmとし、横線部Abと開口想定線である直線LPとの距離である深さd(端材部のY方向における長さ)を、10mmとした。第1仮想線A(端材部)の内接円CIの半径は、10mmとなる。
また、例1においては、ガラス母材の主面に、第1傾斜部Ba1と、曲線部Bbと、第2傾斜部Ba2とを含むように、第2仮想線Bを設定した。第1傾斜部Ba1及び第2傾斜部Ba2は直線であり、すなわち、曲率半径は10000mmより大きく設定した。また、第1傾斜部Ba1と開口想定線である直線LPとのなす鋭角の角度θ、及び、第2傾斜部Ba2と直線LPとのなす鋭角の角度θを、45°とした。また、曲線部Bbの数(曲線部Bbと第1仮想線Aとの接点の数)を1つとし、曲線部Bbの曲率半径を3mmとし、第1仮想線Aと曲線部Bbとの距離ΔHを、0μmとした。
また、例1においては、ガラス母材の主面に、第1仮想線Aと第2仮想線Bとを接続する第3仮想線Cを設定した。第3仮想線Cの数は8つとした。また、第3仮想線Cは、第1仮想線Aの接続法線Lxと一致する方向を向くように設定し、隣り合う第3仮想線C同士のなす角度θC(隣り合う接続法線Lx同士のなす角度)を、45°とした。
【0073】
例1においては、上述のように設定した第1仮想線A、第2仮想線B、及び第3仮想線Cに沿って、Rofin社製StarPico3を用いて、以下の条件でレーザ光を照射して改質部を形成した。
・波長:1064nm
・光学系:Coherent Smart Cleave
・パルス幅:10ps
・バースト数:4バースト
・照射ピッチ:5μm
・パルスエネルギー:523μJ
・走査速度:187.5mm/s
・出力39.2W
【0074】
以上の条件でレーザ光を照射して改質部を形成したガラス母材に対して、COレーザを照射して、第1仮想線A、第2仮想線B、及び第3仮想線Cに沿ってガラス母材を破断させて、ガラス物品を製造した。COレーザの照射装置はRofin社製SR15iとし、照射条件は以下とした。
・波長:10600nm
・スポット径:6.58mm
・出力:112W
・走査速度:140mm/s
【0075】
(例2~例11)
例2~例11においては、第1仮想線A、第2仮想線B、第3仮想線Cの少なくとも1つを表1に示したものとした以外は、例1と同様の方法で、ガラス物品を製造した。なお、例2における第2仮想線Bは、曲線部を有さずに傾斜部同士が接続され、先端がとがった形状であった。例8においては第3仮想線Cを2本設定したが、各線は第2仮想線Bを挟んで設定した。
【0076】
(評価)
各例のガラス母材について、破断された部分(破断部分)が適切に分離されたかを評価した。COレーザの照射により破断した際に、破断部分が自然に分離された場合をA+、自然に分離されなかったが機械的手段により破断部分を分離できた場合をA、破断部分が分離できなかった場合をBとした。
表1に示すように、実施例である例1、例4~例5、例7~例11においては、傾斜部Baの曲率半径が内接円CIの半径より大きく、傾斜部Baと外周端E1とのなす角度θが70°以下であり、曲線部Bbの曲率半径が内接円CIの半径より小さく、第1仮想線Aと曲線部Bbとの距離ΔHが300μm以下であるため、破断部分を適切に分離できる。さらに、例1、例4~例5においては、第3仮想線Cを設定し、隣り合う第3仮想線C同士のなす角度θC(隣り合う接続法線Lx同士のなす角度)を90度未満としているため、破断部分を自然に分離でき、破断部分を分離するための手間を削減できることが分かる。一方、比較例である例2~例3、例6においては、上記の条件の少なくとも1つを満たさないため、破断部分を適切に分離できない。
【0077】
以上、本発明の実施形態を説明したが、この実施形態の内容により実施形態が限定されるものではない。また、前述した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、前述した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。さらに、前述した実施形態の要旨を逸脱しない範囲で構成要素の種々の省略、置換又は変更を行うことができる。
【符号の説明】
【0078】
10 ガラス母材
10a ガラス物品
10b 端材部
10A、10B 主面
E1 外周端
H 改質部
L レーザ光
A 第1仮想線
Aa 縦線部
Ab 横線部
B 第2仮想線
Ba 傾斜部
Bb 曲線部
C 第3仮想線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図8C