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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024095625
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】麺用組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/109 20160101AFI20240703BHJP
   A23L 7/113 20160101ALI20240703BHJP
【FI】
A23L7/109 A
A23L7/113
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023221667
(22)【出願日】2023-12-27
(31)【優先権主張番号】P 2022212262
(32)【優先日】2022-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(71)【出願人】
【識別番号】505024213
【氏名又は名称】小林生麺株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】梅本 貴之
(72)【発明者】
【氏名】小林 宏規
(72)【発明者】
【氏名】荒木 悦子
(72)【発明者】
【氏名】松木 順子
(72)【発明者】
【氏名】竹内 善信
【テーマコード(参考)】
4B046
【Fターム(参考)】
4B046LA02
4B046LA03
4B046LA04
4B046LA06
4B046LA07
4B046LA09
4B046LB01
4B046LB02
4B046LB03
4B046LB04
4B046LB05
4B046LB06
4B046LB08
4B046LB10
4B046LC01
4B046LC02
4B046LG16
4B046LG18
4B046LG30
(57)【要約】
【課題】本発明は、湯戻し時間を短縮しつつ、食感に優れた米粉麺を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、(A)成分:示差走査熱量計で測定される澱粉糊化開始温度が60℃以下である米粉を含む麺用組成物、乾麺又は即席麺用組成物、及びこれらを用いたカップ麺、並びに麺用組成物の製造方法を提供する。本発明の麺用組成物は、(B)成分として(A)成分以外の米粉をさらに含むことが好ましく、(C)成分として米粉以外の穀粉をさらに含むことがより好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)成分:示差走査熱量計で測定される澱粉糊化開始温度が60℃以下である米粉、を含む麺用組成物。
【請求項2】
米粉の、示差走査熱量計で測定される澱粉糊化ピーク温度が70℃以下である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
米粉の、示差走査熱量計で測定される澱粉終了温度が78℃以下である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
米粉の、示差走査熱量計で測定される糊化熱量が14.0J/g以下である米粉を含む、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項5】
米粉が、澱粉枝付け酵素1活性低減米の米粉を含む、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項6】
(B)成分:(A)成分以外の米粉をさらに含む、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項7】
(A)成分の量の(B)成分の量に対する比が、0.8~5である、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
(C)成分:米粉以外の穀粉をさらに含む、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項9】
(A)成分の量の(C)成分の量に対する比が、0.5~3である、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
(A)成分と(B)成分の合計量の(C)成分の量に対する比が、1~5である、請求項8に記載の組成物。
【請求項11】
乾麺又は即席麺用である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項12】
包装容器、及び、
包装容器に収納される、乾麺又は即席麺である請求項1又は2に記載の組成物、
を具備するカップ麺。
【請求項13】
示差走査熱量計で測定される澱粉糊化開始温度が60℃以下である米粉及び水を含む原料を混練し麺生地を調製すること、及び
麺生地を成形すること、
を含む、麺用組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、麺用組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
米粉を主原料とする食品は、小麦アレルギー、セリアック病、グルテン不耐症の代替食として国際的にもニーズが高いと推察される。このような食品の中で、米粉を利用する即席麺等の麺類の開発が進められている。
【0003】
特許文献1には、米粉を含む米麺に糖類、加工澱粉、増粘多糖等の添加物を添加することにより、湯戻り性が良好となることが記載されている。
【0004】
特許文献2には、湿熱処理した米粉を使用して米粉麺を製造することにより、茹で麺の煮崩れが減少し、米粉麺の食感が向上することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008-022790号公報
【特許文献2】特開2013-172674号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1は添加物を利用する技術であり、過度な添加物の使用を好まない消費者への訴求力が弱いことが予想される。
【0007】
また、特許文献2では、実施例において茹で時間を15分としている等、長時間を要するため、即席麺としての利用は難しいという問題があった。
【0008】
本発明は、添加物を利用しなくとも短時間で湯戻し可能であり即席麺としての利用に適した麺用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の〔1〕~〔13〕を提供する。
〔1〕(A)成分:示差走査熱量計で測定される澱粉糊化開始温度が60℃以下である米粉、を含む麺用組成物。
〔2〕米粉の、示差走査熱量計で測定される澱粉糊化ピーク温度が70℃以下である、〔1〕に記載の組成物。
〔3〕米粉の、示差走査熱量計で測定される澱粉終了温度が78℃以下である、〔1〕又は〔2〕に記載の組成物。
〔4〕米粉の、示差走査熱量計で測定される糊化熱量が14.0J/g以下である米粉を含む、〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載の組成物。
〔5〕米粉が、澱粉枝付け酵素1活性低減米の米粉を含む、〔1〕~〔4〕のいずれか1項に記載の麺用組成物。
〔6〕(B)成分:(A)成分以外の米粉をさらに含む、〔1〕~〔5〕のいずれか1項に記載の組成物。
〔7〕(A)成分の量の(B)成分の量に対する比が、0.8~5である、〔6〕に記載の組成物。
〔8〕(C)成分:米粉以外の穀粉をさらに含む、〔1〕~〔7〕のいずれか1項に記載の組成物。
〔9〕(A)成分の量の(C)成分の量に対する比が、0.5~3である、〔8〕に記載の組成物。
〔10〕(A)成分と(B)成分の合計量の(C)成分の量に対する比が、1~5である、〔8〕又は〔9〕に記載の組成物。
〔11〕乾麺又は即席麺用である、〔1〕~〔10〕のいずれか1項に記載の組成物。
〔12〕包装容器、及び、包装容器に収納される、乾麺又は即席麺である〔1〕~〔11〕のいずれか1項に記載の組成物、を具備するカップ麺。
〔13〕示差走査熱量計で測定される澱粉糊化開始温度が60℃以下である米粉及び水を含む原料を混練し麺生地を調製すること、及び麺生地を成形すること、を含む、麺用組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、添加物を添加せずとも短時間で湯戻し可能であり、即席麺として有用な麺用組成物が提供される。本発明の麺用組成物は、小麦アレルギー、セリアック病、グルテン不耐症患者向けの代替食として利用できる。また、昨今のコメ消費量の漸減の状況下、本発明は、米、米粉の新規用途を提供し、稲作の安定した維持にも貢献できるものと期待される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、試験例1におけるラピッド・ビスコ・アナライザー(RVA)を用いたやわらまる(関東287号)の米粉及びコシヒカリの米粉の糊化粘度測定グラフである。
図2図2は、試験例2における示差走査熱量計(DSC)を用いた、やわらまる(関東287号)の米粉及びコシヒカリの米粉の、糊化温度及び糊化熱量測定のグラフである。
図3図3は、実施例1~3、比較例1~3における食味官能試験(即席麺の湯戻し後の硬さ)に関する試験結果を示すグラフである。
図4図4は、実施例1~3、比較例1~3における食味官能試験(即席麺の湯戻し後の芯の残り)に関する試験結果を示すグラフである。
図5図5は、実施例1~3、比較例1~3における食味官能試験(即席麺の湯戻し後の麺の結着)に関する試験結果を示すグラフである。
図6図6は、実施例1~3、比較例1~3における食味官能試験(即席麺のなめらかさ)に関する試験結果を示すグラフである。
図7図7は、実施例1~3、比較例1~3における食味官能試験(即席麺のすすり具合)に関する試験結果を示すグラフである。
図8図8は、実施例1~3、比較例1~3における食味官能試験(即席麺の湯戻し時間)に関する試験結果を示すグラフである。
図9図9は、実施例4及び比較例4におけるDSCを用いたやわらまる(関東287号)を含む即席麺、及びコシヒカリを含む即席麺の粉砕粉の糊化温度及び糊化熱量測定のグラフである。
図10図10は、試験例10における、示差走査熱量計(DSC)を用いた、北海道産ななつぼしの米粉、北海道産きらら397の米粉、及び茨城県産コシヒカリの米粉の糊化温度及び糊化熱量測定のグラフである。
図11図11は、実施例11及び12、比較例8における、示差走査熱量計(DSC)を用いた、北海道産ななつぼしを含む即席麺、北海道産きらら397を含む即席麺、及び北海道産コシヒカリを含む即席麺の粉砕粉の糊化温度及び糊化熱量測定のグラフである。
図12図12は、実施例5~10、比較例5~7における、即席麺の食味官能試験結果(即席麺の湯戻し後の硬さ)に関する試験結果を示すグラフである。
図13図13は、実施例5~10、比較例5~7における、即席麺の食味官能試験結果(即席麺の湯戻し後の芯の残り)に関する試験結果を示すグラフである。
図14図14は、実施例5~10、比較例5~7における、即席麺の食味官能試験結果(即席麺の湯戻し後の麺の結着)に関する試験結果を示すグラフである。
図15図15は、実施例5~10、比較例5~7における、即席麺の食味官能試験結果(即席麺の湯戻し時間)に関する試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
〔1.麺用組成物〕
本発明の麺用組成物は、以下の(A)成分を含み、(B)成分及び/又は(C)成分をさらに含んでもよい。
【0013】
[(A)成分]
(A)成分は、示差走査熱量計で測定される澱粉糊化開始温度が60℃以下の米粉である。(A)成分を含むことにより、麺用組成物の糊化温度を低下させることができ、即席麺とした際の復元(湯戻し)時間を短縮できる。
【0014】
-糊化温度-
米粉の澱粉糊化開始温度は、通常、60℃以下、好ましくは57℃以下、より好ましくは55℃以下が好ましい。下限は、特段限定されないが、通常、45℃以上、好ましくは47℃以上である。従って、45~60℃又は45~57℃が好ましく、47~55℃がより好ましい。
【0015】
米粉の澱粉糊化ピーク温度は、通常、70℃以下、好ましくは69℃以下、より好ましくは68℃以下、更に好ましくは67℃以下である。これにより、湯戻し時間のより短い、食感に優れた即席麺の実現が可能となる。下限は、糊化開始温度を超えていればよく、通常、47℃超、好ましくは50℃以上であるが、特に限定されない。従って、澱粉糊化ピーク温度は、47~70℃、47~69℃、50~68℃、50~67℃である。
【0016】
米粉の糊化終了温度は、通常、78℃以下、好ましくは77℃以下、より好ましくは76℃以下、更に好ましくは75℃以下である。これにより、湯戻し時間のより短い、食感に優れた即席麺の実現が可能となる。下限は、澱粉糊化ピーク温度を超えていればよく、通常、50℃超、好ましくは55℃以上であるが、特に限定されない。従って、糊化終了温度は、50~78℃、50~77℃、50~76℃、55~75℃である。
【0017】
米粉の糊化熱量は、通常、14.0J/g以下、又は13.5J/g以下、好ましくは13.0J/g以下、より好ましくは12.5J/g以下、更に好ましくは12.0J/g以下である。これにより、湯戻し時間のより短い、食感に優れた即席麺の実現が可能となる。下限は、特に限定されないが、通常7.0J/g以上、好ましくは8.0J/g以上である。従って、糊化熱量は、7.0~14.0J/g、7.0~13.5J/g、7.0~13.0J/g、8.0~12.5J/g、又は8.0~12.0J/gが好ましい。
【0018】
本明細書において澱粉糊化開始温度、澱粉糊化ピーク温度、糊化終了温度、糊化熱量は、示差走査熱量計(DSC)を用いて(例えば、後述する試験例5の条件に従って)測定できる。糊化開始温度は、DSCの測定結果であるヒートフローが上昇し始めたときのサンプルの温度、澱粉糊化ピーク温度は、ヒートフローの最大値におけるサンプルの温度、糊化終了温度は、ヒートフローの低下が終了したときの温度である。糊化熱量は、吸熱曲線とベースラインによって囲まれる面積である。
【0019】
-粘度上昇開始温度-
米粉の粘度上昇開始温度は、通常、70℃以下、好ましくは68℃以下、より好ましくは66℃以下である。これにより、湯戻し時間のより短い、食感に優れた即席麺の実現が可能となる。下限は、特に限定されないが、通常60℃以上である。従って、60~70℃、60~68℃、又は60~66℃が好ましい。
【0020】
本明細書において粘度上昇開始温度は、ラピッドビスコアナライザー(RVA)を用いて(例えば、後述する試験例4の条件に従って)測定できる。
【0021】
澱粉糊化開始温度が60℃以下の米粉の原料米は、粳米、もち米のいずれでもよい。また、ジャポニカ種、インディカ種のいずれでもよく、高アミロース米、中アミロース米(例えば、アミロース含有量15%以上20%未満)、低アミロース米(例えば、アミロース含有量15%未満)のいずれでもよいが、ジャポニカ種、又は中アミロース米であることが好ましく、ジャポニカ種の中アミロース米であることがより好ましい。見かけのアミロース含有率は、ヨウ素呈色法によって求めることができる。
【0022】
-澱粉枝付け酵素1活性低減米-
澱粉糊化開始温度が60℃以下の米粉の原料米としては、例えば、品種本来の特性(例えば、遺伝的特性)として澱粉糊化開始温度が60℃以下の米粉をもたらす原料米が挙げられ、澱粉枝付け酵素1活性低減米を原料とする米粉が好ましい。本明細書において、澱粉枝付け酵素1(以下、「Sbe1」と記載する。)活性低減米とは、Sbe1活性が低減している米を意味する。Sbe1は、イネの第6染色体に位置する、長鎖のアミロペクチン側鎖を合成する酵素であり、Sbe1活性低減米ではSbe1活性の低減により長鎖の形成が低減し、比較的高い短鎖比率を示す。Sbe1をコードする遺伝子配列はすでに知られている。例えば、日本晴のSbe1の遺伝子配列は、RAP-DBに登録されており、Transcript ID:Os06t0726400-01でアクセス可能である(https://rapdb.dna.affrc.go.jp/search/?q=Os06t0726400-01&type=locus&fields=id%2Cdesc%2Csymbol%2Cname&results=lid%2Ctid%2Cdesc%2Cpos%2Crgss%2Ccgs%2Ccgss%2Crgns%2Ccgn%2Ccgns&dir=asc&nrow=10&offset=0)。
Sbe1活性の低減は、酵素発現の低下、及び消失のいずれでもよい。Sbe1活性低減方法としては、例えば、Sbe1遺伝子、Sbe1の発現又は活性を調節し得る因子(例えば、上流に位置する転写調節領域、翻訳調節領域等の発現調節領域(例、プロモーター、シャインダルガルノ(SD)配列))を破壊する方法が挙げられる。具体的には例えば、酵素の発現又は活性を低下又は完全消失させるように、上記の遺伝子又は領域に対応するゲノム領域を改変する方法(例:上記遺伝子又は領域の少なくとも一部の欠失、別のポリヌクレオチド(トランスポゾン等)の挿入、別のポリヌクレオチドへの交換)が挙げられるが、これらに限定されない。また、他の方法としては、例えば、Sbe1活性低減米を、Sbe活性を有する米と交配する方法も挙げられる。
【0023】
澱粉糊化開始温度が60℃以下の米粉としては、例えば、やわらまる(関東287号。以下、単に「やわらまる」と記載する。)、旱不知D、Kurnai、やわ恋もち、いばらき糯36号等のSbe1活性低減米、東京戦捷、秋田酒44号が挙げられ、Sbe1活性低減米が好ましく、やわらまるが好ましい。
【0024】
-低温栽培米-
澱粉糊化開始温度が60℃以下の米粉の原料米の他の例としては、栽培条件により澱粉糊化開始温度が60℃以下の米粉をもたらす能力を獲得した米が挙げられる。栽培条件としては、アミロペクチンの短鎖比率を向上させる条件であればよく、好ましくは、登熟期(出穂後30日間の日平均気温)に低温(好ましくは20~25℃、より好ましくは21~23℃)で栽培された原料米(以下、低温栽培米と言うことがある)から得られる米粉が挙げられる。低温栽培により、アミロペクチンの短い側鎖をつける酵素(例、Sbe3又はBEIIB)の活性が向上しSbe1を相対的に上回る結果、短鎖比率を高めることができる。品種は特に限定されないが、粳米が好ましく、中アミロース米がより好ましく、ななつぼし、きらら397等の寒冷地の品種(例えば、北海道産の品種)がより好ましい。
【0025】
澱粉糊化開始温度が60℃以下の米粉は、上記例示した原料米の米粉に限定されず、アミロペクチンの短鎖比率の高い原料米の米粉であって、澱粉糊化開始温度が60℃以下のものを利用できる。
【0026】
-米粉のサイズ及び製法-
澱粉糊化開始温度が60℃以下の米粉の製法は、通常の製法であればよく、例えば、粉砕(例、湿式又は乾式粉砕、具体的には、胴搗き製粉、ロール製粉、石臼製粉、気流粉砕製粉、ピンミル製粉)、乾燥(例、凍結乾燥、熱風乾燥、噴霧乾燥)を含む方法が挙げられる。粉砕は、気流粉砕によることが好ましい。気流粉砕米粉は、澱粉損傷度が適切な範囲(例えば、0.5~10%、好ましくは2~5%)であり、これにより、麺用組成物を即席麺とした際、得られる麺の食感等の品質も良好となり得る。また、米粉の平均粒度は、好ましくは10μm以上、より好ましくは20μm以上、さらに好ましくは30μm以上である。上限は、好ましくは75μm以下、より好ましくは60μm以下、さらに好ましくは50μm以下である。したがって、米粉の平均粒度は、好ましくは10~75μm、より好ましくは20~60μm、さらに好ましくは30~50μmである。これにより、麺帯の物性や得られる麺の食感を向上させることができる。平均粒度は、体積蓄積分布の積算値が50%となるときの粒子径分布(D50)であり、測定原理としてレーザー散乱法を用いて測定できる。また、澱粉損傷度は、損傷を受けた澱粉を特異的に分解する酵素(例えば、α-アミラーゼ)を作用させて生じるグルコースを定量することで測定できる。
【0027】
(A)成分は、上述の米粉1種単独でもよいし、2種以上のSbe1活性低減米から得られる米粉の組み合わせでもよい。
【0028】
[(B)成分]
(B)成分は、(A)成分以外の米粉である。
【0029】
(B)成分の米粉は、上述の(A)成分としての米粉以外の原料米の米粉であれば特に限定されず、原料米は例えば、温帯ジャポニカ米、熱帯ジャポニカ米等のジャポニカ米、インディカ米のいずれでもよく(好ましくは温帯ジャポニカ米等のジャポニカ米)、粳米及びもち米のいずれでもよい(好ましくは粳米)。また、原料米のアミロース含有量は特に制限されず、高アミロース米、中アミロース米、低アミロース米のいずれでもよい(それぞれの分類は、(A)成分の説明において例示したとおりである)が、好ましくは中アミロース米である。原料米の品種としては、例えば、(A)成分としての米粉の原料米以外の、コシヒカリ、ひとめぼれ、ヒノヒカリ、あきたこまち、ななつぼし、はえぬき、などの品種が挙げられ、コシヒカリが好ましい。米粉の製法の具体例、好ましい例は、(A)成分で例示したものと同様である。
(B)成分は、米粉1種単独でもよいし、2種以上の米粉(例えば、異なる2種の原料米から得られる米粉)の組み合わせでもよい。
【0030】
なお、米粉は、従来その製法、サイズから、上新粉(上用粉)、乳児粉(乳児穀粉)、微塵粉(みじん粉)及び白玉粉(寒ざらし粉)、餅粉(糯粉)、求肥粉、道明寺粉、寒梅粉(焼いた餅を砕いた粉)、落雁粉に分類される。また、小麦粉の代替として用途別基準が示され、「菓子・料理用」「パン用」「麺用」に分類される(https://www.maff.go.jp/j/seisan/keikaku/komeko/youto.html)。(A)及び(B)成分の米粉は、いずれに分類される米粉でもよい。
【0031】
[(C)成分]
(C)成分は、米粉以外の穀粉である。
米粉以外の穀粉の原料(穀物原料)としては、例えば、バレイショ粉、キャッサバ粉、トウモロコシ粉(コーンフラワー)、そば粉、甘藷粉、小麦粉(強力粉、中力粉、薄力粉、浮き粉、全粒粉、グラハム粉、セモリナ粉)、大麦粉、ライ麦粉、若しくは、これらから精製した澱粉、又は前記澱粉にα化、エーテル化、エステル化、アセチル化、架橋処理、酸化処理等を施した加工澱粉が挙げられ、これらのうち、グルテンを含まない穀物粉が好ましく、バレイショ粉及びキャッサバ粉がより好ましく、これらの澱粉(バレイショ澱粉(片栗粉)及びタピオカ澱粉)がさらに好ましい。
穀粉の製法の具体例、好ましい例は、(A)成分で例示したものと同様である。
(C)成分は、穀粉1種単独でもよいし、2種以上の穀粉(例えば、異なる2種の穀物原料から得られる穀粉)の組み合わせでもよい。
【0032】
(A)~(C)成分の米粉及び穀粉は、α化米粉及び穀粉でもよいし、未α化米粉及び穀粉でもよい。α化米粉の製造は、常法により行うことができ、例えば、加水した米粉を糊化温度以上で加熱する工程を含む方法が挙げられる。
【0033】
[穀粉の含有量比]
-(A)/(B)比-
(A)成分の量の(B)成分の量に対する比((A)/(B)比)は、好ましくは0.8以上であり、より好ましくは1以上であり、さらに好ましくは1.5以上である。これにより、乾麺又は即席麺の湯戻し時間を短縮することができる。上限は、好ましくは5以下であり、より好ましくは4以下であり、さらに好ましくは3以下である。これにより、本発明の効果をより好ましく発揮することができる。したがって、(A)/(B)比は、好ましくは0.8~5であり、より好ましくは1~4であり、さらに好ましくは1.5~3である。
【0034】
-(A)/(C)比-
(A)成分の量の(C)成分の量に対する比((A)/(C)比)は、米粉や澱粉の種類により異なり一義的に定めることは難しいが、一例をあげると、通常、0.5以上であり、好ましくは0.7以上であり、より好ましくは0.8以上である。上限は、通常、3以下であり、好ましくは2以下であり、より好ましくは1.5以下である。したがって、(A)/(C)比は、通常、0.5~3であり、好ましくは0.7~2であり、より好ましくは0.8~1.5である。
【0035】
-((A)+(B))/(C)比-
(A)成分と(B)成分の合計量の(C)成分の量に対する比(((A)+(B))/(C)比)も、米粉や澱粉の種類により異なり一義的に定めることは難しいが、一例をあげると、通常、1以上であり、好ましくは1.2以上であり、より好ましくは1.3以上である。上限は、通常5以下であり、好ましくは3以下であり、より好ましくは2以下である。したがって、((A)+(B))/(C)比は、通常1~5であり、好ましくは1.2~3であり、より好ましくは1.3~2である。
【0036】
[その他任意成分]
麺用組成物は、任意成分を含有してもよい。例えば、調味料(例、ソース、味噌、醤油、香辛料)、糖類(例、蔗糖、マルトース、ブドウ糖、ラクトース、ソルビトール、グルコース、転化糖、果糖、デキストリン)、油脂(例、菜種油(キャノーラ油、サラダ油)、オリーブ油、ゴマ油、牛脂、ラード、魚油)、水性原料(例、水、かんすい)、卵類(例、全卵、卵黄、卵紛)、その他の麺類に通常に用いられる添加剤(例、アルギン酸(アルギン酸塩、アルギン酸エステル)、グアーガム、ペクチン、カラギーナン、キサンタンガム、プルラン、及びアラビアガム等の増粘多糖類、賦形剤、pH調整剤、着色剤、安定剤、香料)及びこれらから選ばれる2以上の組み合わせが挙げられる。任意成分の含有量は、通常、本発明の麺用組成物の乾燥重量中10%以下であり、添加物の使用が少ない食品を好む消費者への訴求力を高める観点から、1%以下であることが好ましい。
【0037】
本発明の麺用組成物を含む、麺生地は、通常、上記水性原料を含む。その含有量は、特に限定されず、麺の種類、麺組成物の成形サイズにより適宜調整可能である。例えば、水性原料の含有量は、本発明の麺用組成物中の(A)~(C)成分総量に対し、通常0.5倍以上であり、好ましくは1倍以上である。上限は、通常2倍以下であり、好ましくは1.5倍以下である。したがって、水性原料の含有量は麺組成物中の(A)~(C)成分総量に対し、通常0.5~2倍であり、好ましくは1~1.5倍である。
【0038】
[麺用組成物の糊化粘度特性]
麺用組成物は、上述の(A)成分を含有することにより、以下の糊化粘度特性を示すことが好ましい。これにより、麺組成物の湯戻し時間を短縮し、食感を向上させることができる。
【0039】
麺用組成物の澱粉糊化開始温度は、通常、60℃以下、好ましくは55℃以下、より好ましくは49.5℃以下が好ましい。下限は、通常、45℃以上、好ましくは47℃以上であるが特段限定されない。従って、45~60℃、又は45~55℃が好ましく、47~49.5℃がより好ましい。上記数値範囲を満たすことにより、麺組成物の湯戻し時間を短縮できる。
【0040】
麺用組成物の澱粉糊化ピーク温度は、65℃以下であることが好ましく、62℃以下であることがより好ましい。下限は、糊化開始温度を超えていればよく、通常、47℃超、好ましくは50℃以上であるが、特に限定されない。従って、本発明の麺用組成物の澱粉糊化ピーク温度は、47℃超65℃以下であることが好ましく、50~62℃であることがより好ましい。本発明の麺用組成物の澱粉糊化ピーク温度が上記数値範囲を満たすことにより、麺組成物の湯戻し時間を短縮することができ、かつ、食感を向上させることができる。
【0041】
麺用組成物の糊化終了温度の下限は、澱粉糊化ピーク温度を超えていればよく、通常、65℃超、好ましくは70℃以上、より好ましくは80℃以上であるが、特に限定されない。これにより、湯戻し時間のより短い、食感に優れた即席麺の実現が可能となる。上限は、通常、93℃以下好ましくは91℃以下、より好ましくは89℃以下、さらに好ましくは87℃以下である。従って、糊化終了温度は、65℃超93℃以下、70~91℃、80~89℃、80~87℃である。
【0042】
麺用組成物の糊化熱量は、4.5J/g以下が好ましく、4.0J/g以下がより好ましい。下限は、通常2.5J/g以上、好ましくは3.0J/g以上であるが、特に限定されない。従って、2.5~4.5J/gであることが好ましく、3.0~4.0J/gであることがより好ましい。本発明の麺用組成物の糊化熱量が上記数値範囲を満たすことにより、麺組成物の湯戻し時間を短縮することができ、かつ、食感を向上させることができる。
【0043】
麺用組成物の澱粉糊化開始温度、澱粉糊化ピーク温度、糊化熱量は、即席麺としての麺用組成物の乾燥粉末をサンプルとして、示差走査熱量計を用いて(例えば、実施例(試験例5)記載の条件により)測定することができる。
【0044】
〔2.麺用組成物の態様、用途〕
麺用組成物の態様としては、例えば、麺生地の原料ミックス、麺生地、麺線、麺のいずれでもよい。
麺としては、例えば、うどん、素麺、冷麦、日本そば、麺皮(例えば、ライスペーパー、ぎょうざ、焼売、春巻き、ワンタンの皮)、平打ち麺、沖縄そば、ビーフン、フォー、パスタ、マカロニが挙げられ、特に限定されない。麺の形態としては、例えば、即席麺、乾麺、生麺、茹で麺、蒸麺、半乾燥麺、冷凍麺が挙げられ、即席麺又は乾麺が好ましく、即席麺がより好ましい。即席麺は、後述するとおり容器とともにカップ麺として提供され得る。
【0045】
麺用組成物が即席麺または乾麺の場合は、喫食前に通常の手順で湯戻しすることが可能である。例えば、包装容器等に入れた麺に熱湯を加えて静置させてもよく、麺を熱湯でゆでてもよく、容器に麺及び水を入れ、電子レンジで加熱してもよい。湯戻しに使用する水の温度は、通常、麺用組成物の澱粉糊化開始温度以上であり、80℃以上が好ましく、90℃以上がより好ましい。また、上限は、通常、100℃である。湯戻しの方法や温度条件を調整することで、湯戻し時間をより短縮することができる。
湯戻し時間、及び湯戻しに使用する水の量は、麺の種類、量、又は消費者の嗜好により適宜調整可能である。本発明の乾麺又は即席麺用組成物は、従来の米粉含有乾麺又は即席麺よりも短時間で湯戻しが可能である。本発明の乾麺又は即席麺用組成物を包装容器等に入れた麺に熱湯を加えて静置して湯戻しさせる場合、湯戻し時間は、通常、3分以上、好ましくは5分以上、より好ましくは6分以上、更に好ましくは7分以上である。上限は、通常、11分以下、好ましくは9分以下であるが、短いほど好ましいため特に限定されない。上記湯戻し時間であることにより、従来の米粉麺が実現できなかった、従来の小麦を原料とする即席麺に近い湯戻し時間で喫食でき、かつ、食感を楽しむことのできる、実用的な米粉の即席麺を提供できる。
湯戻しした乾麺又は即席麺は、喫食の前に湯切りをしてもよく、冷却してもよく、特に制限されない。
【0046】
-カップ麺-
本発明の麺用組成物は、即席麺として、これを収容する包装容器とともにいわゆるカップ麺として利用できる。
【0047】
包装容器の形状としては、例えば、カップ状、どんぶり状、袋状等の種々の形状が挙げられる。包装容器の開口部は、通常、蓋又はフィルムにより、使用時に開口可能な形態で密封されている。蓋又はフィルムは、通常、包装容器の開口端部にシール加工等の処理により接着される。
包装容器の材質としては、例えば、紙、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレンが挙げられ、複数層にラミネート加工したものでもよい。包装容器は、上述の麺用組成物の湯戻し方法に耐えられるよう、耐熱性であることが好ましい。
包装容器は、さらに、袋状包装、フィルム包装等により梱包されていてもよく、密封されていることが好ましい。乾麺又は即席麺を梱包する包装の材質は特に制限されないが、例えば、上述の包装容器の材質として例示したものが挙げられる。
【0048】
包装容器には、さらに、麺用組成物以外の副原料が収納されていてもよい。副原料としては、特に限定されないが、例えば、スープ類、具が挙げられる。
【0049】
スープ類とは、湯戻しした乾麺又は即席麺を調味するものであればよく、特に制限されない。スープ類としては、例えば、濃縮スープ、麺つゆ、パスタソース、これらの乾燥固形物又は乾燥粉末が挙げられる。具としては、例えば、野菜類(例、ネギ、ホウレンソウ、コーン)、魚介類(例、エビ、貝類、練り物)、肉類(例、牛、豚、鶏、これらの加工肉)、これらの乾燥固形物が挙げられる。
【0050】
なお、副材料は、麺用組成物とともに湯戻しされるものでもよいし、湯戻し後に加えられるものでもよい。
【0051】
〔3.麺用組成物の製造方法〕
麺用組成物は、示差走査熱量計で測定される澱粉糊化開始温度が60℃以下である米粉及び水を含む原料を混練し麺生地を調製すること、及び麺生地を成形することを含む方法により製造できる。
【0052】
Sbe1活性低減米の米粉に混練する水としては、上述の任意成分に挙げた水性原料が挙げられ、水には上述した増粘多糖類等の任意成分を添加してもよい。水を添加する量は特に制限されないが、通常、穀粉100重量部に対して35~75重量部である。
麺生地を成形する方法も、特に制限されず、常法により行うことができる。うどん、素麺等のような麺線状の麺用組成物の場合、例えば、麺生地(麺帯)の複合、生地(麺帯)の圧延、及び麺帯の切り出しをこの順に行った後、単位麺線へ成形する方法が挙げられる。成形後の麺生地のサイズは、特に制限されず、上述の麺用組成物の用途に応じて適宜調整可能である。例えば、麺線状に成形する場合、通常、幅2~7mm、厚さ1~2mm、長さ20~33cmに成形する。成形の方法又は条件(例えば、麺の巻き具合)を調整することにより、麺の湯戻し時間をより短縮することができる。
【0053】
成形後、必要に応じて乾燥を行う。乾燥方法としては、特に制限はなく、常法により行うことができる。例えば、熱風乾燥、高温で静置、油揚げ、フリーズドライ、マイクロウェーブ乾燥等の方法が挙げられる。乾燥条件としては、特に制限はなく、それぞれの方法における通常の条件に従えばよい。例えば、乾燥後の麺の水分量が14.5%以下となるまで乾燥を行えばよく、好ましくは水分量10%以下である。下限は、特に制限はないが、通常5%以上である。
【実施例0054】
以下、本発明を実施例により説明する。以下の実施例は、本発明を限定するものではない。
【0055】
以下の実施例では、原料米粉としてやわらまるの米粉(気流粉砕品)、ななつぼしの米粉(気流粉砕品)、きらら397の米粉(気流粉砕品)及びコシヒカリの米粉(気流粉砕品)を用いた。以下の試験例1~5にてこれらの米粉の物性の確認を行った(表1~3)。
【0056】
<やわらまるの米粉>
[試験例1:原料米粉のアミロース含有率]
やわらまるの米粉、又はコシヒカリの米粉100mgを100mL容量のメスシリンダーに秤量し、95%エタノールを1mL加えて懸濁した後、1M水酸化ナトリウムを9mL加え試料の糊化を行った。一晩、室温にて静置後、蒸留水を加えて100mLに定容し良く混合した。ブランクは試料米粉を省いて同様に調整した。調整した試料溶液0.2mLを試験管に分取し、蒸留水2mL、1M酢酸40μL、ヨウ素溶液(0.2%ヨウ素/2%ヨウ化カリウム水溶液)を加えて発色後、蒸留水1.7mLを加えて希釈した。分光光度計(UV-1800、島津製作所)を用いて本発色液の620nmにおける吸光度からアミロース含有率を求めた。アミロース含有率換算のための検量線は、もち米粉(アミロースを含まない)に一定比率の馬鈴薯アミロース(カタログ番号:A0512、シグマアルドリッチ社)を混合した標準試料を用いて作成した。馬鈴薯アミロースを用いた検量線では、米のアミロース含有率は低めに算出されるため、最終的に「日本晴」標品(アミロース含有率18.1%)を用いて換算した。
【0057】
[試験例2:原料米粉の澱粉損傷度]
測定は損傷澱粉分析キット(カタログ番号:K-SDAM、メガザイム社)を用い、キット添付の分析方法に準じて行った。すなわち、やわらまるの米粉、又はコシヒカリの米粉100mgにα-アミラーゼ溶液を加え10分間、40℃で加温することによって損傷澱粉をマルトオリゴ糖とα制限デキストリンに加水分解した。その後、希硫酸の添加によって反応を停止し、過剰量のアミログルコシダーゼ処理によりマルトオリゴ糖とα制限デキストリンをグルコースに分解した。生成したグルコースの量をグルコースオキシダーゼ/パーオキシダーゼ混合試薬により特異的に測定し、分析値をキット添付の小麦粉標準品(澱粉損傷度既知)の正味重量当たりの澱粉損傷度%として示した。
【0058】
[試験例3:原料米粉の粒度分布、平均粒度]
やわらまるの米粉、又はコシヒカリの米粉の粒度分布および平均粒度(D50)は、レーザー回折式粒度分布測定装置(HELOS&RODOS、Sympatec社)を用い、各試料の米粉約100mgを供して行った。計測は測定レンジ1.8μmから350μmの設定で行い、得られたデータの解析には機器付属の解析ソフトウェア(WINDOX5、Sympatec社)を用いた。
【0059】
【表1】
【0060】
[試験例4:原料米粉の糊化粘度特性(RVA測定)]
やわらまるの米粉、又はコシヒカリの米粉3.5g(水分14%換算)に、それぞれ25mLの水を加えてアルミ製測定容器内で撹拌混合後、にパドル型攪拌羽根をセットし、加熱中及び加熱後の粘度(回転時の抵抗値:cP)をラピッドビスコアナライザー(RVA RiceMaster、Newport Scientific社)を用いて測定した。結果を表2及び図1に示す。測定時のパドルの回転速度は160rpmとし、温度プログラムは50℃で1分間保持、4分間で93℃まで直線的に昇温、93℃で7分間保持、4分間で50℃まで直線的に降温、50℃で3分間保持の計19分間のプログラムとした。得られたデータは解析ソフトウェア(Thermocline for Windows Ver.2.4)を用い、測定開始後2分から10分の間の最高粘度値を最高粘度、測定開始後10分から16分の間の最低粘度値を最低粘度、最高粘度と最低粘度の差分をブレークダウン、測定終了時の粘度値を最終粘度、最終粘度と最低粘度の差分をセットバック、最高粘度を示した測定開始後時間をピーク時間、測定開始後2分から10分の間で4秒間に粘度が12cP上昇した時点の温度を粘度上昇開始温度とした。
【0061】
【表2】
【0062】
やわらまるは、コシヒカリと比較して、粘度上昇開始温度が約5℃低く、低温でも増粘することが分かった(表2及び図1)。
【0063】
[試験例5:糊化粘度特性(DSC測定)]
糊化温度・熱量特性は、示差走査熱量計(機種名:DSC8000、パーキンエルマー社製)を用いて行った。各米粉15mgを、70μL容量の密封試料容器(ステンレス製)(商品コード:0319-0029、パーキンエルマー社)に秤量し、蒸留水を加えて濃度30%(w/w)(乾物重換算)とした。密封試料容器を密閉後、空の密封試料容器をブランクとして、4℃から140℃まで10℃/minの昇温速度で糊化温度・熱量を測定した。得られたデータを上記示差走査熱量計に付属のソフトウェアで解析し、糊化温度ならびに糊化熱量を算出した。結果を表3及び図2に示す。
【0064】
【表3】
【0065】
[表3の脚注]
[ ]内の数値は、標準偏差である。
【0066】
コシヒカリの気流粉砕米粉に対し、やわらまるの気流粉砕米粉は、澱粉糊化開始温度が約10℃低く、澱粉糊化ピーク温度が約6℃低く、糊化終了温度が約5℃低く、糊化熱量が約2.5J/g少なかった。やわらまるの気流粉砕米粉は、コシヒカリの気流粉砕米粉よりも低い糊化温度を示した(表3及び図2)。
【0067】
試験例4及び5から、やわらまるは、コシヒカリに比べ、糊化しやすいことが明らかとなった。
【0068】
[実施例1~3、比較例1~3:米粉含有即席麺の食味官能試験]
上述の米粉を用いて以下のとおり米粉含有即席麺を製造し、食味官能試験を行った。
【0069】
-原料-
主原料:気流粉砕米粉(やわらまる(新規開発品、実施例1~3)/コシヒカリの米粉(現行製品、比較例1~3) 20000g
岐阜県産米粉 10000g
副原料:バレイショ澱粉 10000g
タピオカ澱粉 10000g
アルギン酸エステル 250g
水 68590g
【0070】
-製麺-
上述のとおり原料を計量し、ミキサーにてミキシング(混練)した。得られた混錬物を複合機に供給し、複数の粗麺帯に圧延しそれらの複合麺帯(複数の粗麺帯の積層体)を得た。これを、延伸ローラーを備える圧延装置に供給して圧延し、厚みが1.75mmの麺帯を得た。麺帯を幅3~5mmとなるよう切り出した後、定量切断装置に供して長さ20~30cmに切断、1食分(100g)に小分け・成形し、単位麺線を得た。熱風乾燥(乾燥後の麺の水分量が10%以下となるまで)を経て、即席麺を得た。
【0071】
-評価方法(食味試験)-
上述の方法により製麺した1食分の即席麺を、使い捨て麺容器(カップ状プラスチック製耐熱包装容器)に入れ、熱湯(約100℃)を注ぎ、蓋をした。一定時間(5分:実施例1及び比較例1、8分:実施例2及び比較例2、11分:実施例3及び比較例3)静置させ湯戻しをした後に、麺をザルに取り上げ湯切りし、流水で15秒、氷水で45秒冷やしてから試験に供した。
各パネラー(6名)が各例の麺を少量食べた後、下記の評価項目について評価した。
評価項目:
・硬さ(5段階:硬い、どちらかと言えば硬い、ちょうどよい、どちらかと言えば柔らかい、柔らかい)
・芯の残り(3段階:すごく気になる、少し気になる、気にならない)
・麺どうしの結着程度:(3段階:すごく気になる、少し気になる、気にならない)
・なめらかさ(5段階:なめらか、どちらかと言えばなめらか、どちらとも言えない、どちらかと言えばなめらかでない、なめらかでない)
・すすり具合(3段階:すすれる、どちらとも言えない、すすれない)
・戻し時間(4段階:5分が良い、8分が良い、11分が良い、(11分でも)戻し足りない)
但し、戻し時間に関しては、他の項目を評価後に総合的に判定した。
【0072】
図3~8より、コシヒカリを含む即席麺である比較例1~3と比較して、やわらまるを含む即席麺である実施例1~3では、硬さが適切であり、芯の残り、麺の結着が気にならず、なめらかさに優れ、すすり具合が良く、戻し時間が短いとするパネラーが多かった。これらの結果から、得られた即席麺は、従来の米粉麺よりも短い湯戻し時間で優れた食感を呈することが明らかとなった。麺の形状、米粉の種類、配合等の製造条件を調整することにより、湯戻し時間が約6~9分と小麦の即席麺に近い湯戻し時間で風味良好な米粉即席麺が得られることが期待される。
【0073】
[実施例4及び比較例4:米粉含有即席麺の粉砕粉の糊化温度・熱量特性(DSC測定)]
実施例1~3で用いたやわらまるを含む米粉含有即席麺(実施例4)、又は比較例1~3で用いたコシヒカリを含む米粉含有即席麺(比較例4)をそれぞれ粉砕(粉砕機器:静岡製機株式会社製、商品名:「サイクロンサンプルミル CSM-S1」)し、粉砕粉サンプルを得た。粉砕粉サンプルに、試験例2と同様に加水し、DSCによる測定を行った。結果を表4及び図9に示す。
【0074】
【表4】
【0075】
実施例4の粉砕粉サンプルでは、主たる糊化ピーク1が観察され、やわらまるに由来するピークであるものと推定された。一方、比較例4の粉砕粉サンプルでは、主たる糊化ピーク2と低温側にもう1つのピークが観察され、それぞれコシヒカリと副原料に由来するものと推定された。実施例4では、比較例4よりも米粉含有即席麺の主たる澱粉糊化ピーク温度が約10℃低く、糊化熱量も小さかったことから、やわらまるを含む即席麺は、コシヒカリを含む即席麺よりも糊化しやすいことが明らかとなった(表4及び図9)。
また、表4より、やわらまるを含む実施例の即席麺の糊化熱量は、コシヒカリを含む比較例の即席麺よりも小さいことが明らかとなった。
【0076】
実施例の結果は、本発明の麺組成物が糊化しやすく、従来の米粉を原料とする麺と比較して、即席麺とした場合にも湯戻しに要する時間が短く、食感が優れていることを示している。
【0077】
<ななつぼしの米粉、及びきらら397の米粉>
[試験例6:原料米粉のアミロース含有率]
やわらまるの米粉の代わりに北海道産ななつぼしの米粉、及び北海道産きらら397の米粉を用いたこと、コシヒカリは茨城県産のものを用いたことの他は、試験例1と同様にして行った。
【0078】
[試験例7:原料米粉の澱粉損傷度]
やわらまるの米粉の代わりに北海道産ななつぼしの米粉、及び北海道産きらら397の米粉を用いたこと、並びに、コシヒカリは茨城県産のものを用いたことの他は、試験例2と同様にして行った。
【0079】
[試験例8:原料米粉の平均粒径]
やわらまるの米粉の代わりに北海道産ななつぼしの米粉、及び北海道産きらら397の米粉を用いたこと、並びに、コシヒカリは茨城県産のものを用いたことの他は、試験例3と同様にして行った。
【0080】
[試験例9:原料米粉の糊化粘度特性(RVA測定)]
やわらまるの米粉の代わりに北海道産ななつぼしの米粉、及び北海道産きらら397の米粉を用いたこと、並びに、コシヒカリは茨城県産のものを用いたことの他は、試験例4と同様にして行った。
【0081】
各米粉の原料米の登熟期の平均気温、試験例6~8の結果、及び試験例9における粘度上昇開始温度の測定結果を表5に示す。
【0082】
【表5】
【0083】
[表5の注釈]
1)「登熟期の平均気温」とは、出穂後30日間の日平均気温のことを指す。
【0084】
北海道産の一般的な水稲粳品種である「ななつぼし」と「きらら397」は、茨城県産の「コシヒカリ」と比較して、ラピッドビスコアナライザー(RVA)で測定した粘度上昇開始温度が約5℃低く、米粉を水と共に加熱した際により低い温度で糊化が開始した(表5)。粘度上昇開始温度の違いの理由は定かではないが、発明者等は3品種共に一般的な粳品種であることから、北海道(札幌市)で栽培されたことにより登熟期の気温が低かったためと推察している。
【0085】
[試験例10:原料米粉の糊化粘度特性(DSC測定)]
やわらまるの米粉の代わりに北海道産ななつぼしの米粉、及び北海道産きらら397の米粉を用いたこと、並びに、コシヒカリは茨城県産のものを用いたことの他は、試験例5と同様にして行った。結果を表6及び図10に示す。
【0086】
【表6】
【0087】
示差走査熱量計(DSC)を用いた詳細な糊化特性の解析においても、北海道産の「ななつぼし」と「きらら397」は、共に糊化開始温度が60℃を下回り、茨城県産の「コシヒカリ」の糊化開始温度65.8℃より明らかに低い温度で糊化が始まることが示された(表6、図10)。このことから、米粉即席麺の生地を製造する際に水を加え加熱した場合、「ななつぼし」と「きらら397」において、「コシヒカリ」より糊化(アルファ化)が進んだ状態で麺が製造され、製造直後の乾燥によりアルファ化を保持したまま製品になると考えられる。
【0088】
[実施例5~10、比較例5~7:米粉含有即席麺の食味官能試験]
やわらまるの米粉の代わりに北海道産ななつぼしの米粉(実施例5~7)、及び北海道産きらら397の米粉(実施例8~10)を用いたこと、並びに、コシヒカリは茨城県産のもの(比較例5~7)を用いたことの他は、実施例1~3と同様にして米粉含有即席麺を製造し、食味官能試験を行った。
【0089】
このように製造された米粉即席麺の復元特性を官能試験によって評価した。官能試験においては、即席麺に熱湯を注ぎ、5分後、8分後、11分後にパネラー8名が試食し、麺の硬さ、麺の芯の残り具合、麺の結着程度(ほぐれの悪さ)、総合評価としての湯戻し時間について評価を行った。その結果、硬さ、芯の残り具合、麺の結着程度、いずれも「コシヒカリ」と比較して「ななつぼし」、「きらら397」において湯戻し時間11分の評価が高い傾向が認められた(図12、13、14)。また、総合的な評価においても茨城県産「コシヒカリ」は湯戻し11分においても「戻し足りない」の評価が多いのに対し、北海道産の「ななつぼし」と「きらら397」は「11分が良い」との評価が多かった(図15)。
【0090】
[実施例11~12及び比較例8:米粉含有即席麺の粉砕粉の糊化温度・熱量特性(DSC測定)]
やわらまるの米粉から製造した米粉含有即席麺の粉砕粉の代わりに、実施例5~7で用いたななつぼしの米粉、又はきらら実施例8~10で用いた397の米粉を含む米粉含有即席麺の粉砕粉(実施例11、12、実施例4と同様の条件で粉砕)を用いたこと、並びに、コシヒカリは茨城県産の米粉を含む米粉含有即席麺の粉砕粉(比較例8)を用いたことの他は、実施例4及び比較例4と同様にして行った。結果を表7及び図11に示す。
【0091】
【表7】
【0092】
製造した即席麺の粉砕粉を用いた示差走査熱量計(DSC)分析において、いずれの原料米粉を用いた場合においても、主たる糊化ピーク2とそれより低い温度において、もう一つピーク1(もしくはショルダー)が検出された。ピーク1については、そのピーク温度が試料米粉間に大きな違いは認められなかった。一方、ピーク2については、茨城県産の「コシヒカリ」が73.7℃であったのに対し、北海道産の「ななつぼし」では65.4℃、「きらら397」では66.1℃と「コシヒカリ」より約8℃低くなった(表7、図2)。
【0093】
これらの結果から、sbe1変異によらずとも糊化温度が低下した米粉を原料とすることで、復元時間が短い即席麺の製造が可能であることが示された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15