(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024095637
(43)【公開日】2024-07-10
(54)【発明の名称】有機無機ハイブリッド樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 79/08 20060101AFI20240703BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20240703BHJP
【FI】
C08L79/08 Z
C08K3/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023223351
(22)【出願日】2023-12-28
(31)【優先権主張番号】P 2022211360
(32)【優先日】2022-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】江原 和也
(72)【発明者】
【氏名】松山 由紀
(72)【発明者】
【氏名】中田 豪
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002CM041
4J002DJ016
4J002FB096
4J002FD016
4J002GF00
4J002GQ00
4J002HA08
(57)【要約】 (修正有)
【課題】耐熱性に優れるだけでなく、リタデーションが低いという特徴をも有する樹脂薄膜、特にフレキシブルデバイスの基板として好適な樹脂薄膜の製造方法、該樹脂薄膜及びそのような樹脂薄膜を与えるポリイミド/シリカハイブリッド樹脂組成物を提供する。
【解決手段】可溶性ポリイミド(A)成分、式(1)で表される溶媒(B)成分、及び溶媒(B)成分に透明分散可能なシリカゾル(C)成分、を含み、200℃以上での焼成物が、透明性を有する自己支持膜である、ポリイミド/シリカハイブリッド樹脂組成物。
[式中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、炭素数1~6のアルキル基であり、R
3は、炭素数1~6のアルキル基又は炭素数2~6のアルケニル基であり、R
1~R
3の炭素数の合計は4以上である。]
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
可溶性ポリイミド(A)成分、下記式(1)で表される溶媒(B)成分及び溶媒(B)成分に透明分散可能なシリカゾル(C)成分を含む、ポリイミド/シリカハイブリッド樹脂組成物であって、
該組成物の200℃以上での焼成物が、透明性を有する自己支持膜である、ポリイミド/シリカハイブリッド樹脂組成物。
【化1】
[式中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、炭素数1~6のアルキル基であり、R
3は、炭素数1~6のアルキル基又は炭素数2~6のアルケニル基であり、R
1~R
3の炭素数の合計は4以上である。]
【請求項2】
前記溶媒(B)成分を精製した後の溶媒(B)成分、水及びメタノールを其々1:1:1で混合したときに、混合物が酸性となる、請求項1に記載のポリイミド/シリカハイブリッド樹脂組成物。
【請求項3】
前記精製した後の溶媒(B)成分は、陽イオン交換樹脂と接触させて精製した後の溶媒(B)成分である、請求項2に記載のポリイミド/シリカハイブリッド樹脂組成物。
【請求項4】
前記シリカゾル(C)成分が粒子直径30nm以下で真球度が0.8以上のシリカ粒子を含有し、シリカゾル(C)成分内のナトリウムイオン濃度に対する、シリカゾル(C)成分内の硫酸イオンの濃度が20%以下である、請求項1に記載のポリイミド/シリカハイブリッド樹脂組成物。
【請求項5】
前記シリカゾル(C)成分内のシリカ粒子が、下記式(2)又は式(3)で表される基で表面修飾されている、請求項1に記載のポリイミド/シリカハイブリッド樹脂組成物。
【化2】
[式(2)及び式(3)中、R
4~R
11は、互いに独立して、炭素数1~3のアルキル基、ハロゲン、又は炭素数1~3のハロアルキル基を表し、Yは4価の無機の元素であり、Zは4価の無機の元素であり、Oは酸素原子を表し、*は結合手を表す。]
【請求項6】
前記式(2)で表される基がトリメチルシリルエーテル基であり、前記式(3)で表される基がフェニルトリメトキシシリル基である、請求項5に記載のポリイミド/シリカハ
イブリッド樹脂組成物。
【請求項7】
前記シリカゾル(C)成分の含有量がポリイミド/シリカハイブリッド樹脂組成物の全固形分に対し、30%重量部以上である、請求項1に記載のポリイミド/シリカハイブリッド樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれか一項に記載のポリイミド/シリカハイブリッド樹脂組成物を原料とした加工物である、透明ポリイミド/シリカハイブリッドフィルム。
【請求項9】
請求項1乃至請求項7のいずれか一項に記載のポリイミド/シリカハイブリッド樹脂組成物を焼成する工程を含み、該焼成工程が、温度の異なる2段階以上の工程である、透明ポリイミド/シリカハイブリッドフィルムの製造方法。
【請求項10】
可溶性ポリイミド(A)成分、下記式(1)で表される溶媒(B)成分及び溶媒(B)成分に透明分散可能なシリカゾル(C)成分を含む、ポリイミド/シリカハイブリッド樹脂組成物の200℃以上での焼成物が、透明性を有する自己支持膜を形成する、(C)成分のシリカゾル。
【化3】
[式中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、炭素数1~6のアルキル基であり、R
3は、炭素数1~6のアルキル基又は炭素数2~6のアルケニル基であり、R
1~R
3の炭素数の合計は4以上である。]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低毒性な有機溶媒を用いた有機/無機ハイブリッド樹脂組成物、それから得られる自己支持性のあるフィルム(樹脂薄膜)、及びその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の高性能化が急速に進展し、益々軽量化、薄型化、透明化、フレキシブル化の傾向にあり、これに伴い電子機器に用いられる部品やそれらを実装する基板に対しても、高性能化への対応要求が高まっており、汎用フィルム同等の柔軟性とガラス同等の透明性や寸法安定性が要求されている。例えば、太陽電池分野として、特許文献1では、化合物系有機薄膜太陽電池の基板に、製造時の高耐熱性、軽量化及びフレキシブル性の観点からポリイミド基板が用いられている。また、特許文献2では、両面にポリイミド樹脂を用いたフレキシブル太陽電池が提案されている。
【0003】
一方、タブレットPCやスマートフォン等の表示画面がある製品は、フレキシブル化の観点から、それらの表示画面部位に、ガラス基板に代わる透明樹脂基板が提案されている。例えば、特許文献3では、透明かつフレキシブル性を有するプラスチック基板を用いる事が要求され、ポリイミドフィルムの一方又は双方の面にウレタンアクリレート化合物の保護層を設けたポリイミドカバー基板が開示されている。また、特許文献4は、フレキシブルディスプレイ用プラスチック基板として有用なポリイミド、及びその前駆体に係る発明に関し、シクロへキシルフェニルテトラカルボン酸等の脂環式構造を含んだテトラカルボン酸類と各種ジアミンと反応させたポリイミドが透明性及び耐熱性に優れることを報告している。上記の様に、ポリイミドは耐熱性や寸法安定性に優れる点で、電子材料の高機能化の為の材料候補の一つである。
【0004】
一般的に透明ポリイミドは、ガラス基板と比較して線膨張係数が高い。また、その他の樹脂と比較してもリタデーションが高いことが知られている。この為、ポリイミドに無機微粒子、特にシリカ粒子を用いて、寸法安定性や透明性を付与することが知られている。例えば、特許文献5では、ポリイミドにシリカゾルを添加することで、従来プラスチック基板の欠点であった、線膨張係数、透明性、及び低複屈折率の両立を改善しており、フレキシブルディスプレイ用プラスチック基板への応用が十分期待できる。また、特許文献6はポリイミド、シリカゾル、架橋剤を添加することで、柔軟性を付与することが可能となり、シリカ粒子を用いる事は高機能を付与することで重要である。
【0005】
一般的に透明ポリイミド基板を用いる際、焼成時に着色が起きないようにする為、溶媒にγ―ブチロラクトン、又はジメチルアセトアミドが用いられている。しかし、γ―ブチロラクトンは、代謝され加水分解することで、ガンマヒドロキシ酪酸となり、中枢神経系
に対し抑制作用を示すことが知られている。また、ジメチルアセトアミドは、長期被ばくによるがん発生の疑いがあるため、労働安全衛生法第28条第3項(平成25年指針を改正)に基づき、規制されている。
【0006】
このような状況の為、弾性率に代表される高機能且つ高透明のポリイミド基板を作製する為には、無機微粒子とポリイミドが溶解しポリイミド上の分散を妨げず透明性を維持し、毒性の少ない、新たな高溶解性の溶媒を用いる必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第6247206号
【特許文献2】特許第5352824号
【特許文献3】特表2016-521216号公報
【特許文献4】特開2008-231327号公報
【特許文献5】国際公開第2015/152178号
【特許文献6】国際公開第2017/057741号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記に鑑みて開発されたものであり、本発明は、低毒性な有機溶媒を用いた有機/無機ハイブリッド樹脂組成物、フィルム、製造法を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち本発明は、「
1. 可溶性ポリイミド(A)成分、下記式(1)で表される溶媒(B)成分及び溶媒(B)成分に透明分散可能なシリカゾル(C)成分を含む、ポリイミド/シリカハイブリッド樹脂組成物であって、
該組成物の200℃以上での焼成物が、透明性を有する自己支持膜である、ポリイミド/シリカハイブリッド樹脂組成物。
【化1】
[式中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、炭素数1~6のアルキル基であり、R
3は、炭素数1~6のアルキル基又は炭素数2~6のアルケニル基であり、R
1~R
3の炭素数の合計は4以上である。]
2. 前記溶媒(B)成分を精製した後の溶媒(B)成分、水及びメタノールを其々1:1:1で混合したときに、混合物が酸性となる、1に記載のポリイミド/シリカハイブリッド樹脂組成物。
3. 前記精製した後の溶媒(B)成分は、陽イオン交換樹脂と接触させて精製した後の溶媒(B)成分である、2に記載のポリイミド/シリカハイブリッド樹脂組成物。
4. 前記シリカゾル(C)成分が粒子直径30nm以下で真球度が0.8以上のシリカ粒子を含有し、シリカゾル(C)成分内のナトリウムイオン濃度に対する、シリカゾル(C)成分内の硫酸イオンの濃度が20%以下である、1に記載のポリイミド/シリカハイブリッド樹脂組成物。
5. 前記シリカゾル(C)成分内のシリカ粒子が、下記式(2)又は式(3)で表される基で表面修飾されている、1に記載のポリイミド/シリカハイブリッド樹脂組成物。
【化2】
[式(2)及び式(3)中、R
4~R
11は、互いに独立して、炭素数1~3のアルキル基、ハロゲン、又は炭素数1~3のハロアルキル基を表し、Yは4価の無機の元素であり、Zは4価の無機の元素であり、Oは酸素原子を表し、*は結合手を表す。]
6. 前記式(2)で表される基がトリメチルシリルエーテル基であり、前記式(3)で表される基がフェニルトリメトキシシリル基である、5に記載のポリイミド/シリカハイブリッド樹脂組成物。
7. 前記シリカゾル(C)成分の含有量がポリイミド/シリカハイブリッド樹脂組成物の全固形分に対し、30%重量部以上である、1に記載のポリイミド/シリカハイブリッド樹脂組成物。
8. 上記1乃至7いずれかに記載のポリイミド/シリカハイブリッド樹脂組成物を原料とした加工物である、透明ポリイミド/シリカハイブリッドフィルム。
9. 上記1乃至7いずれかに記載のポリイミド/シリカハイブリッド樹脂組成物を焼成する工程を含み、該焼成工程が、温度の異なる2段階以上の工程である、透明ポリイミド/シリカハイブリッドフィルムの製造方法。
10. 可溶性ポリイミド(A)成分、下記式(1)で表される溶媒(B)成分及び溶媒(B)成分に透明分散可能なシリカゾル(C)成分を含む、ポリイミド/シリカハイブリッド樹脂組成物の200℃以上での焼成物が、透明性を有する自己支持膜を形成する、(C)成分のシリカゾル。
【化3】
[式中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、炭素数1~6のアルキル基であり、R
3は、炭素数1~6のアルキル基又は炭素数2~6のアルケニル基であり、R
1~R
3の炭素数の合計は4以上である。]」に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一の態様に係るポリイミド/シリカハイブリッド樹脂組成物によれば、低い線膨張係数を有し、耐熱性に優れ、低いリタデーションを有し、さらに柔軟性に優れる自己支持性のある樹脂薄膜(フィルム)を再現性よく形成することができる。
特に本発明の他の一の態様に係るポリイミド/シリカハイブリッド樹脂組成物を用いた、樹脂薄膜の製造方法によれば、低い線膨張係数を有し、耐熱性に優れ、高い透明性と低いリタデーションを有し、さらに柔軟性に優れる自己支持性のある樹脂薄膜を再現性よく形成することができる。
そして、本発明の一の態様に係る自己支持性のある樹脂薄膜は、低線膨張係数、高い透明性(高い光線透過率、低い黄色度)、低いリタデーションを示し、さらに柔軟性にも優
れることから、フレキシブルデバイス、特にフレキシブルディスプレイの基板として好適に用いることができる。
このような本発明の一の態様に係る製造方法、組成物、及び樹脂薄膜は、高い柔軟性、低い線膨張係数、高い透明性(高い光線透過率、低い黄色度)、低いリタデーション等の特性が求められるフレキシルデバイス用基板、特にフレキシブルディスプレイ用基板の分野における進展に十分対応し得るものである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一の態様について詳細に説明する。
本発明のポリイミド/シリカハイブリッド樹脂組成物は、下記特定の可溶性ポリイミド(A)成分、シリカゾル(C)成分及び特定の溶媒(B)成分を含有するものであり、当該ポリイミド/シリカハイブリッド樹脂組成物及びポリイミド/シリカハイブリッドフィルムも本発明の対象である。
【0013】
<可溶性ポリイミド(A)成分>
本発明に用いる可溶性ポリイミド(A)成分のポリイミドは、テトラカルボン酸及びその誘導体から選ばれる成分(以下、酸成分と言う)と、ジアミン成分とを反応させて得られるポリアミック酸をイミド化して得られるポリイミドである。
【0014】
本発明に用いる酸成分及びジアミン成分は特に限定されないが、得られるポリイミドの透明性の観点から、酸成分及びジアミン成分の少なくとも一方が、その少なくとも一部において、フッ素を有する有機基を持つ成分を含有することが好ましい。酸成分又はジアミン成分中のフッ素を有する有機基は、特に限定されないが、ベンゼン環に直接結合した、フルオロ基やフルオロアルキル基などが好ましい。中でも入手性や溶媒への溶解性の観点から、トリフルオロメチル基やヘキサフルオロイソプロピリデン基を有する酸成分又はジアミン成分が好ましい。また、これらの有機基には、フッ素原子が単数結合していても複数個結合していても構わない。
【0015】
本発明に用いる酸成分は、テトラカルボン酸及びその誘導体から選ばれる成分である。テトラカルボン酸及びその誘導体は、テトラカルボン酸、その酸二無水物及びそのジハライド等のテトラカルボン酸とそれから誘導される化合物であれば特に限定されない。これらの具体例を以下に挙げる。
【0016】
例えば、フッ素を有する有機基を持つ酸成分としては、トリフルオロメチル基やヘキサフルオロイソプロピリデン基を有する、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロイソプロピリデン、4,4’-ヘキサフルオロイソプロピリデンジフタル酸、それらの二無水物及びそのジハライド等の化合物が挙げられる。
【0017】
フッ素を有しない有機基を持つ酸成分としては、ピロメリット酸、3,3 ',4,4 '-ビフェニルテトラカルボン酸、3,3 ',4,4 '-ベンゾフェノンテトラカルボン酸、3,3 ',4,4 '-ジフェニルエーテルテトラカルボン酸、3,3 ',4,4 '-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸、3,4-ジカルボキシ-1,2,3,4-テトラヒドロ-1-ナフタレンコハク酸の様な芳香族テトラカルボン酸、それらの二無水物及びそのジハライド等や、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸、1,2-ジメチル-1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸、1,2,3,4-テトラメチル-1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフリル)-3-メチル-3-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸、2,3,5-トリカルボキシ-2-シクロペンタン酢酸、ビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸、2,3,4,5-テトラヒドロフランテ
トラカルボン酸、3,5,6-トリカルボキシ-2-ノルボルナン酢酸、ノルボルナン-2-スピロ-α-シクロペンタノン-α'-スピロ-2''-ノルボルナン-5,5''-6,6''-テトラカルボン酸の様な脂環式テトラカルボン酸、それらの二無水物及びそのジハライド等や、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸の様な脂肪族テトラカルボン酸、その二無水物及びそのジハライド等の化合物を挙げることができるが、それらに限定されるものではない。
【0018】
また、本発明における酸成分としては、テトラカルボン酸及びその誘導体から1種又は2種以上の化合物を組み合わせて用いることができる。
酸成分とジアミン成分を反応させて得られるポリアミック酸について、有機溶媒への高い溶解性が得られるという観点から、トリフルオロメチル基或いはヘキサフルオロイソプロピリデン基を有するところの、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロイソプロピリデン二無水物及び4,4’-ヘキサフルオロイソプロピリデンジフタル酸無水物から選ばれる少なくとも1種を酸成分に含有することが好ましい。更に、これらから選ばれる少なくとも1種を酸成分の30モル%以上含有すると、得られるポリアミック酸の有機溶媒への溶解性がより良好になるために好ましい。
【0019】
次に、本発明に用いるジアミン成分について述べる。ジアミン成分は、ジアミンであれば特に限定されず、その具体例を以下に挙げる。
例えば、フッ素を有する有機基を持つジアミン成分としては、トリフルオロメチル基或いはヘキサフルオロイソプロピリデン基を有するところの、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、3,3’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,6,2’,6’-テトラキス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,2-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4-アニリノ)ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(3-アニリノ)ヘキサフルオロプロパン又は2,2-ビス(3-アミノ-4-トルイル)ヘキサフルオロプロパン等の化合物が挙げられる。
【0020】
フッ素を有する有機基と酸性基を持つジアミン成分としては、2,2-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4-アミノ-3-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4-アミノ-3,5-ジヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス[4-(3-アミノ-4-ヒドロキシフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノ-3-カルボキシフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパンなどの化合物が挙げられる。
【0021】
フッ素を有する有機基を持たないジアミン成分としては、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、2,4,6-トリメチル-1,3-フェニレンジアミン、2,3,5,6-テトラメチル-1,4-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、4,4-メチレン -ビス(2-メチルアニリン)、4,4 '-メチレン -ビス(2,6-ジメチルアニリン)、4,4-メチレン -ビス(2,6-ジエチルアニリン)、4,4 '-メチレン-ビス(2-イソプロピル-6-メチルアニリン)4,4 '-メチレン -ビス(2,6-ジイソプロピルアニリン)、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、ベンジジン、o-トリジン、m-トリジン、3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(3-ア
ミノフェノキシ)フェニル]スルホン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン又は2,2-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパンが挙げられる。
【0022】
また、フッ素を有する有機基を持たないが、酸性基を持つジアミン成分としては、2,4-ジアミノフェノール、3,5-ジアミノフェノール、2,5-ジアミノフェノール、4,6-ジアミノレゾルシノール、2,5-ジアミノヒドロキノン、ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4-アミノ-3-ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4-アミノ-3,5-ジヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4-アミノ-3-ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4-アミノ-3,5-ジヒドロキシフェニル)メタン、ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4-アミノ-3-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4-アミノ-3,5-ジヒドロキシフェニル)スルホン、4,4 '-ジアミノ-3,3 '-ジヒドロキシビフェニル、4,4 '-ジアミノ-3,3 '-ジヒドロキシ-5,5 '-ジメチルビフェニル、4,4 '-ジアミノ-3,3 '-ジヒドロキシ-5,5
'-ジメトキシビフェニル、1,4-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノ-3-ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノ-3-ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン、ビス[4-(3-アミノ-4-ヒドロキシフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(3-アミノ-4-ヒドロキシフェノキシ)フェニル]プロパン、2,4-ジアミノ安息香酸、2,5-ジアミノ安息香酸、3,5-ジアミノ安息香酸、4,6-ジアミノ-1,3-ベンゼンジカルボン酸、2,5-ジアミノ-1,4-ベンゼンジカルボン酸、ビス(4-アミノ-3-カルボキシフェニル)エーテル、ビス(4-アミノ-3,5-ジカルボキシフェニル)エーテル、ビス(4-アミノ-3-カルボキシフェニル)スルホン、ビス(4-アミノ-3,5-ジカルボキシフェニル)スルホン、4,4 '-ジアミノ-3,3 '-ジカルボキシビフェニル、4,4 '-ジアミノ-3,3 '-ジカルボキシ-5,5 '-ジメチルビフェニル、4,4 '-ジアミノ-3,3 '-ジカルボキシ-5,5 '-ジメトキシビフェニル、1,4-ビス(4-アミノ-3-カルボキシフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノ-3-カルボキシフェノキシ)ベンゼン、ビス[4-(4-アミノ-3-カルボキシフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(4-アミノ-3-カルボキシフェノキシ)フェニル]プロパンなどが挙げられる。加えて、単量体のジアミン成分としては、1,6-ヘキサンジアミン、1,4-シクロヘキサンジアミン、1,3-シクロヘキサンジアミン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、4,4 '-ジアミノジシクロヘキシルメタン、4,4 '-ジアミノ-3,3 '-ジメチルジシクロヘキシルメタンなどの脂肪族ジアミンを挙げることができる。
本発明におけるジアミン成分としては、1種又は2種以上のジアミンを組み合わせて用いることができる。
【0023】
酸成分とジアミン成分を反応させて得られるポリアミック酸について、有機溶媒への高い溶解性及び得られるフィルムの透明性が高いという観点から、ジアミン成分は、フッ素を有する有機基を持つジアミンを含有するものであることが好ましい。
【0024】
本発明においては、フッ素を有する有機基を持つジアミンから選ばれる1種又は2種以上をジアミン成分に含有することが好ましい。更に、フッ素を有する有機基を持つジアミンから選ばれる少なくとも1種をジアミン成分の30モル%以上含有せしめると、得られるポリイミドの有機溶媒への溶解性及びフィルムの透明性がより良好になるため、本発明においては、ジアミン成分のうち、少なくとも1種のフッ素を有する有機基を持つ成分を30モル%以上含有するのがより好ましい。
【0025】
本発明に用いるポリアミック酸は、酸成分とジアミン成分を反応させて得られるが、通常、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとをN-メチルピロリドン、ジグライムなどの極性溶媒中で反応せしめることにより得られる。その際、使用する溶媒としては、得られるポリアミック酸を溶解しうる溶媒であれば特に限定されない。またテトラカルボン酸二無水物とジアミンの反応温度範囲の下限は通常-20℃以上、好ましくは-5℃以上であり、またその温度範囲の上限は通常150℃以下、好ましくは100℃以下であり、その上限と下限の範囲の中から任意の温度を選択することができる
【0026】
<ポリアミック酸の合成>
本発明で使用する可溶性ポリイミド(A)成分のポリイミドは、前述したように、酸成分とジアミン成分とを反応させて得られるポリアミック酸をイミド化して得られる。
上記二成分からポリアミック酸への反応は、有機溶媒中で比較的容易に進行させることができ、かつ副生成物が生成しない点で有利である。
【0027】
これら酸成分とジアミン成分との反応におけるジアミン成分の仕込み比(モル比)は、ポリアミック酸、さらにはその後イミド化させることにより得られるポリイミドの分子量等を勘案して適宜設定されるものではあるが、ジアミン成分1に対して、通常、テトラカルボン酸二無水物成分0.8~1.2程度とすることができ、例えば0.9~1.1程度、好ましくは0.95~1.02程度である。通常の重縮合反応同様、このモル比が1.0に近いほど生成するポリアミック酸の分子量は大きくなる。
【0028】
上記酸成分とジアミン成分との反応の際に用いる有機溶媒は、反応に悪影響を及ぼさず、また生成したポリアミック酸が溶解するものであれば特に限定されない。以下にその具体例を挙げる。
例えば、m-クレゾール、N,N-ジエチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N,N-ジメチルプロピオンアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジメチル-イソブチルアミド、N,N-ジメチル-t-ブチルアミド、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、N-ビニル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロピルアミド、3-エトキシ-N,N-ジメチルプロピルアミド、3-プロポキシ-N,N-ジメチルプロピルアミド、3-イソプロポキシ-N,N-ジメチルプロピルアミド、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロピルアミド、3-sec-ブトキシ-N,N-ジメチルプロピルアミド、3-tert-ブトキシ-N,N-ジメチルプロピルアミド、γ-ブチロラクトン、N-メチルカプロラクタム、ジメチルスルホキシド、テトラメチル尿素、ピリジン、ジメチルスルホン、ヘキサメチルスルホキシド、イソプロピルアルコール、メトキシメチルペンタノール、ジペンテン、エチルアミルケトン、メチルノニルケトン、メチルエチルケトン、メチルイソアミルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ブチルカルビトール、エチルカルビトール、エチレングリコール、エチレングリコールモノアセテート、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコール-tert-ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノアセテートモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノアセテートモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノアセテートモノプロピルエーテル、3-メチル-3-メトキシブチルアセテート、トリプロピレングリコールメチルエーテル、3-メチル-3-メトキシブタノール、ジイソプロピルエーテル、エチルイソブチルエーテル、ジイソブチレン、ア
ミルアセテート、ブチルブチレート、ブチルエーテル、ジイソブチルケトン、メチルシクロへキセン、プロピルエーテル、ジヘキシルエーテル、ジオキサン、n-へキサン、n-ペンタン、n-オクタン、ジエチルエーテル、シクロヘキサノン、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、乳酸メチル、乳酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n-ブチル、酢酸プロピレングリコールモノエチルエーテル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、3-メトキシプロピオン酸メチル、3-エトキシプロピオン酸メチルエチル、3-メトキシプロピオン酸エチル、3-エトキシプロピオン酸、3-メトキシプロピオン酸、3-メトキシプロピオン酸プロピル、3-メトキシプロピオン酸ブチル、ジグライム、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン等があげられるがこれらに限定されない。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
さらに、ポリアミック酸を溶解させない溶媒であっても、生成したポリアミック酸が析出しない範囲で、上記溶媒に混合して使用してもよい。また、有機溶媒中の水分は重合反応を阻害し、さらには生成したポリアミック酸を加水分解させる原因となるので、有機溶媒はなるべく脱水乾燥させたものを用いることが好ましい。
【0029】
上記テトラカルボン酸二無水物成分とジアミン成分とを有機溶媒中で反応させる方法としては、ジアミン成分を有機溶媒に分散させた分散液又は溶解させた溶液を撹拌し、撹拌後にテトラカルボン酸二無水物成分をそのまま添加するか、又はその成分を有機溶媒に分散あるいは溶解させたものを添加する方法、逆にテトラカルボン酸二無水物成分を有機溶媒に分散させた分散液又は溶解させた溶液にジアミン成分を添加する方法、そしてテトラカルボン酸二無水物成分とジアミン化合物成分とを交互に添加する方法などが挙げられ、これらのいずれの方法であってもよい。
また、テトラカルボン酸二無水物成分及び/又はジアミン成分が複数種の化合物からなる場合は、あらかじめ混合した状態で反応させてもよく、個別に順次反応させてもよく、さらに個別に反応させた低分子量体を混合反応させ高分子量体としてもよい。
【0030】
上記のポリアミック酸合成時の温度は、上述した使用する溶媒の融点から沸点までの範囲で適宜設定すればよく、例えば-20℃~150℃の任意の温度を選択することができるが、-5℃~100℃、通常0~100℃程度、好ましくは0~70℃程度であるのがよい。
反応時間は、反応温度や原料物質の反応性に依存するため一概に規定できないが、通常1~100時間程度である。
また、反応は任意の濃度で行うことができるが、濃度が低すぎると高分子量の重合体を得ることが難しくなり、濃度が高すぎると反応液の粘性が高くなり過ぎて均一な撹拌が困難となるので、テトラカルボン酸二無水物成分とジアミン成分との反応溶液中での合計濃度が、好ましくは1~50質量%、より好ましくは5~40質量%である。反応初期は高濃度で行い、その後、有機溶媒を追加することもできる。
【0031】
<ポリアミック酸のイミド化>
ポリアミック酸をイミド化させる方法としては、ポリアミック酸の溶液をそのまま加熱する熱イミド化、ポリアミック酸の溶液に触媒を添加する触媒イミド化が挙げられる。
ポリアミック酸を溶液中で熱イミド化させる場合の温度は、100℃~400℃、好ましくは120℃~250℃であり、イミド化反応により生成する水を系外に除きながら行う方が好ましい。
【0032】
ポリアミック酸の(化学)触媒イミド化は、ポリアミック酸の溶液に、塩基性触媒と酸無水物とを添加し、-20~250℃、好ましくは0~180℃での温度条件にて系内を撹拌することにより行うことができる。
塩基性触媒の量はポリアミック酸のアミド酸基の0.5~30モル倍、好ましくは1.5~20モル倍であり、酸無水物の量はポリアミック酸のアミド酸基の1~50モル倍、
好ましくは2~30モル倍である。
【0033】
塩基性触媒としてはピリジン、トリエチルアミン、トリメチルアミン、トリブチルアミン、トリオクチルアミン、1-エチルピペリジンなどを挙げることができ、中でもピリジンは反応を進行させるのに適度な塩基性を持つので好ましい。
酸無水物としては、無水酢酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸などを挙げることができ、中でも無水酢酸を用いると反応終了後の精製が容易となるので好ましい。
触媒イミド化によるイミド化率は、触媒量と反応温度、反応時間を調節することにより制御することができる。
【0034】
本発明に用いるポリイミド樹脂において、アミド酸基のイミド化率(脱水閉環率)は、必ずしも100%である必要はなく、用途や目的に応じて任意に調整して用いることができる。特に好ましくは50%以上である。
【0035】
本発明において、上記反応溶液をろ過した後、そのろ液をそのまま用い、又は、希釈若しくは濃縮し、これに後述するシリカゾル(C)成分等を配合してポリイミド/シリカハイブリッド樹脂組成物としてもよい。このようにろ過を経た場合、得られる樹脂薄膜の耐熱性、柔軟性あるいは線膨張係数特性の悪化の原因となり得る不純物の混入を低減できるだけでなく、効率よくポリイミド/シリカハイブリッド樹脂組成物を得ることができる。
【0036】
また、本発明に用いる可溶性ポリイミド(A)成分のポリイミドは、樹脂薄膜の強度、樹脂薄膜を形成する際の作業性、樹脂薄膜の均一性等を考慮してゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)のポリスチレン換算による重量平均分子量(Mw)が5,000乃至200,000であることが好ましい。
【0037】
<ポリマー回収>
ポリアミック酸及びポリイミドの反応溶液から、ポリマー成分を回収し、用いる場合には、反応溶液を貧溶媒に投入して沈殿させればよい。沈殿に用いる貧溶媒としてはメタノール、アセトン、ヘキサン、ブチルセロソルブ、ヘプタン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、エタノール、トルエン、ベンゼン、水などを挙げることができる。貧溶媒に投入して沈殿させたポリマーはろ過して回収した後、常圧あるいは減圧下で、常温あるいは加熱して乾燥することができる。
また、沈殿回収した重合体を、有機溶媒に再溶解させ、再沈殿回収する操作を2~10回繰り返すと、重合体中の不純物を少なくすることができる。この際の貧溶媒として例えばアルコール類、ケトン類、炭化水素など3種類以上の貧溶媒を用いると、より一層精製の効率が上がるので好ましい。
【0038】
再沈殿回収工程において樹脂成分を溶解させる有機溶媒は特に限定されない。具体例としては、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N,N-ジメチルプロピオンアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジメチル-イソブチルアミド、N,N-ジメチル-t-ブチルアミド、N-メチル-2-ピロリドン、N-メチルカプロラクタム、2-ピロリドン、N-エチルピロリドン、N-ビニルピロリドン、ジメチルスルホキシド、テトラメチル尿素、ピリジン、ジメチルスルホン、ヘキサメチルスルホキシド、γ-ブチロラクトン、1,3-ジメチル-イミダゾリジノン、ジペンテン、エチルアミルケトン、メチルノニルケトン、メチルエチルケトン、メチルイソアミルケトン、メチルイソプロピルケトン、シクロヘキサノン、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジグライム、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノンなどが挙げられる。これらの溶媒は2種類以上を混合して用いてもよい。
【0039】
なお、本願発明に用いる可溶性ポリイミド(A)成分としては、市販されているものを用いることもできる。そのような市販の可溶性透明ポリイミドとしては、KPI―MX300F(河村産業株式会社製)や、SPIXAREA(登録商標) GRシリーズ(ソマール株式会社製)等が挙げられる。
【0040】
<溶媒(B)成分>
本発明のポリイミド/シリカハイブリッド樹脂組成物は、前記可溶性ポリイミド(A)成分及びシリカゾル(C)成分に加えて、式(1)で表される溶媒(B)成分を含む。なお、溶媒(B)成分は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【化4】
[式中、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、炭素数1~6のアルキル基であり、R
3は、炭素数1~6のアルキル基又は炭素数2~6のアルケニル基であり、R
1~R
3の炭素数の合計は4以上である。]
式(1)で表される溶媒の好ましい例としては、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジメチル-t-ブチルアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N,N-ジブチルホルムアミド、N,N-ジメチル-イソブチルアミド、N,N-ジプロピルアセトアミド、N,N-ジメチルプロピオンアミド、N,N-ジエチルプロピオンアミド等が挙げられる。
特に好ましい式(1)で表される溶媒としては、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジメチル-t-ブチルアミド、N,N-ジメチル-イソブチルアミド等が挙げられる。
なお、特定溶媒は1種類ではなく、2種類以上混合して使用してもよい。
【0041】
また、精製した後の溶媒(B)成分は、水及びメタノールと1:1:1で混合した際に酸性を示すように精製されていることが好ましい。このような精製方法としては、式(1)で表される溶媒を陽イオン交換樹脂で処理する方法が挙げられる。
つまり、陽イオン交換樹脂と接触(精製)した、精製した後の溶媒(B)成分、水及びメタノールと1:1:1で混合した際に酸性を示すように、溶媒(B)成分を精製することが好ましい。
【0042】
<シリカゾル(C)成分>
本発明に用いるシリカゾル(C)成分中のシリカ(二酸化ケイ素)は特に限定されないが、粒子形態のシリカ(シリカ粒子)、例えば平均粒子径が100nm以下、例えば5nm~100nm、好ましくは5nm~55nmであり、より高透明の薄膜を再現性よく得る観点から、好ましくは5nm~50nm、より好ましくは5nm~45nm、より一層好ましくは5nm~35nm、さらに好ましくは5nm~30nmである。
本発明においてシリカ粒子の平均粒子径とは、シリカ粒子を用いて窒素吸着法により測定された比表面積値から算出される平均粒子径値である。
【0043】
特に本発明のシリカゾル(C)成分では、上記平均粒子径の値を有するコロイダルシリ
カを好適に使用でき、該コロイダルシリカとしては、シリカゾルを用いることができる。シリカゾルとしては、ケイ酸ナトリウム水溶液を原料として公知の方法により製造される水性シリカゾル及び該水性シリカゾルの分散媒である水を有機溶媒に置換して得られるオルガノシリカゾルを使用する事が出来る。
また、メチルシリケートやエチルシリケート等のアルコキシシランを、アルコール等の有機溶媒中で触媒(例えば、アンモニア、有機アミン化合物、水酸化ナトリウム等のアルカリ触媒)の存在下において加水分解し、縮合して得られるシリカゾル、又はそのシリカゾルを他の有機溶媒に溶媒置換したオルガノシリカゾルも用いることができる。
これらの中でも本発明は分散媒が有機溶媒であるオルガノシリカゾルを用いることが好ましい。
【0044】
上述のオルガノシリカゾルにおける有機溶媒の例としては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロパノール等の低級アルコール;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等の直鎖アミド類;N-メチル-2-ピロリドン等の環状アミド類;γ-ブチロラクトン等のエーテル類;エチルセロソルブ、エチレングリコール等のグリコール類、アセトニトリル等が挙げられる。この置換は、蒸留法、限外ろ過法等による通常の方法により行うことができる。
上記のオルガノシリカゾルの粘度は、20℃で、0.6mPa・s~100mPa・s程度である。
【0045】
上記オルガノシリカゾルの市販品の例としては、例えば商品名MA-ST-S(メタノール分散シリカゾル、日産化学(株)製)、商品名MT-ST(メタノール分散シリカゾル、日産化学(株)製)、商品名MA-ST-UP(メタノール分散シリカゾル、日産化学(株)製)、商品名MA-ST-M(メタノール分散シリカゾル、日産化学(株)製)、商品名MA-ST-L(メタノール分散シリカゾル、日産化学(株)製)、商品名IPA-ST-S(イソプロパノール分散シリカゾル、日産化学(株)製)、商品名IPA-ST(イソプロパノール分散シリカゾル、日産化学(株)製)、商品名IPA-ST-UP(イソプロパノール分散シリカゾル、日産化学(株)製)、商品名IPA-ST-L(イソプロパノール分散シリカゾル、日産化学(株)製)、商品名IPA-ST-ZL(イソプロパノール分散シリカゾル、日産化学(株)製)、商品名NPC-ST-30(n-プロピルセロソルブ分散シリカゾル、日産化学(株)製)、商品名PGM-ST(1-メトキシ-2-プロパノール分散シリカゾル、日産化学(株)製)、商品名DMAC-ST(ジメチルアセトアミド分散シリカゾル、日産化学(株)製)、商品名XBA-ST(キシレン・n-ブタノール混合溶媒分散シリカゾル、日産化学(株)製)、商品名EAC-ST(酢酸エチル分散シリカゾル、日産化学(株)製)、商品名PMA-ST(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート分散シリカゾル、日産化学(株)製)、商品名MEK-ST(メチルエチルケトン分散シリカゾル、日産化学(株)製)、商品名MEK-ST-UP(メチルエチルケトン分散シリカゾル、日産化学(株)製)、商品名MEK-ST-L(メチルエチルケトン分散シリカゾル、日産化学(株)製)及び商品名MIBK-ST(メチルイソブチルケトン分散シリカゾル、日産化学(株)製)等を挙げることができるが、これらに限定されない。
本発明においてシリカゾル(C)成分、例えばオルガノシリカゾルとして使用される上記製品に挙げたようなシリカゾルは、二種以上を混合して用いてもよい。
【0046】
本願発明に用いるシリカゾル(C)成分であるシリカゾルとしては、上記のシリカゾルを、前記式(1)で表される溶媒(B)成分に添加してもよい。
本発明の効果をより高めるためには、シリカゾル(C)成分は、水ガラス法で得られる水分散性シリカゾルを、蒸留法や限外ろ過法を用いて炭素数1~4のアルコールに溶媒置換した後、さらに、必要に応じて有機ケイ素化合物によるシリカ粒子の表面修飾を行い、そのあとで上記式(1)で表される溶媒(B)成分に置換して得られるオルガノシリカゾ
ルが好ましい。
【0047】
上記のオルガノシリカゾルの粘度は、20℃で、0.6mPa・s~100mPa・s程度である。
【0048】
<シリカゾル(C)成分の表面修飾>
さらに、シリカゾル(C)成分に含まれるシリカ粒子の表面の少なくとも一部は、有機ケイ素化合物又はその加水分解物で表面修飾(表面処理)されていてもよい。有機ケイ素化合物によって表面(改質)処理されることでシリカ粒子表面が疎水化され、非水溶性の有機溶媒への分散性にも優れたものとすることができる。該粒子は、例えばシリカ粒子表面のヒドロキシ基に、有機ケイ素化合物が結合した構造を有する。
【0049】
使用される有機ケイ素化合物としては、シランカップリング剤として知られている公知の有機ケイ素化合物やシラン化合物を用いることができ、その種類は、用途や溶媒の種類等に応じて適宜選択される。
【0050】
上記シランカップリング剤の具体例としては、メトキシトリメチルシラン、エトキシトリメチルシラン、メトキシトリエチルシラン、エトキシトリエチルシラン、メトキシトリ-n-プロピルシラン、エトキシトリ-n-プロピルシラン、メトキシトリ-i-プロピルシラン、エトキシトリ-i-プロピルシラン、メトキシトリ-n-ブチルシラン、エトキシトリ-n-ブチルシラン、メトキシトリ-i-ブチルシラン、エトキシトリ-i-ブチルシラン、メトキシトリ-t-ブチルシラン、エトキシトリ-t-ブチルシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ペンタフルオロフェニルトリメトキシシラン、ペンタフルオロフェニルトリエトキシシラン、ペンタフェニルトリメトキシシラン、ペンタフェニルトリエトキシシラン、4-ビフェニルトリメトキシシラン、4-ビフェニルトリエトキシシラン、3-ビフェニルトリメトキシシラン、3-ビフェニルトリエトキシシラン、トリメトキシ(p-トリル)シラン、トリエトキシ(p-トリル)シラン、トリメトキシ(p-メトキシフェニル)シラン、トリエトキシ(p-メトキシフェニル)シランが挙げられるが、これに限定されない。なお、製造の観点から、メトキシトリメチルシラン、フェニルトリメトキシシランが望ましい。これらを2種類以上併用しても構わない。
【0051】
また、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p-ビニルフェニルトリメトキシシラン、3-メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロイルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチルブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-[メトキシ-ポリ(エチレンオキシ)プロピル]トリメトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3-イソシアナートプロピルトリエトキシシラン等を併用しても良い。
【0052】
また上記シランの具体例としては、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシロキサン、ヘキサメチルジシラザン等が挙げられる。
【0053】
前記有機ケイ素化合物による表面修飾(表面処理)量、すなわち、シリカ粒子表面を被覆又は表面に結合した有機ケイ素化合物は、シリカ粒子の表面積1nm2当たり、例えば0.5個~6個程度の範囲とすることができる。
【0054】
表面修飾シリカ粒子の製造方法、すなわち、前記有機ケイ素化合物によるシリカ粒子表面の被覆(表面処理)方法は、特に制限はないが、例えば、シリカ粒子の有機溶媒分散液に、上記有機ケイ素化合物の少なくとも一種を添加し混合することで、有機ケイ素化合物の加水分解と縮合が生じてシリカ粒子を表面修飾することができる。
【0055】
有機ケイ素化合物の添加量は、シリカ粒子の表面積1nm2当たり、例えば有機ケイ素化合物が0.5個~6.0個程度の範囲で表面修飾されるように添加することができる。例えばシリカ粒子の表面積1nm2当たり0.5個~10.0個、又は1.0個~8.0個、又は1.0~6.0個にて添加することができる。なお表面修飾に寄与しない余剰の有機ケイ素化合物が系内に存在していてもよいが、好ましい有機ケイ素化合物の添加量はシリカ粒子が表面積1nm2当たり1.0~6.0個である。
【0056】
有機ケイ素化合物の加水分解は完全に加水分解を行うことでも、部分的に加水分解することでもよいが、水が必要であり、前記有機ケイ素化合物の加水分解性基又は[Si-O-Si]結合又は[Si-N-Si]結合の1モルに対して1モル程度以上の水を添加することが好ましい。また、有機溶媒中に含まれる水分を利用することもできる。
加水分解性基を有する有機ケイ素化合物を用いる場合は、完全に加水分解を行うことでも、部分的に加水分解することでもよいが、水が必要であり、前記有機ケイ素化合物の加水分解性基1モルに対して1モル程度以上の水を添加することが好ましい。また、有機溶媒中に含まれる水分を利用することもできる。
加水分解し縮合させる際に、触媒を用いることもできる。加水分解触媒としてはキレート化合物、有機酸、無機酸、有機塩基、又は無機塩基を単独で用い又は併用することができる。より具体的には、例えば、塩酸水溶液、酢酸、アンモニア水溶液等を用いることができる。
【0057】
なお、本発明のシリカゾル(C)成分であるシリカゾル中のシリカ粒子は、下記式(2)及び式(3)で表される基(構造)で表面修飾されていることが、ポリイミド樹脂との相溶性による透明性付与という点で好ましい。
【化5】
[式(2)及び式(3)中、R
4~R
11は、互いに独立して、炭素数1~4のアルキル基、ハロゲン、炭素数1~4のハロアルキル基、フェニル基を表し、Yは4価の無機の元素
であり、Zは4価の無機の元素であり、Oは酸素原子を表し、*は結合手を表す。]
【0058】
これらの基(構造)は、トリメチルシリルエーテル基、トリエチルシリルエーテル基、トリ-n-プロピルシリルエーテル基、トリ-i-プロピルシリルエーテル基、トリ-n-ブチルシリルエーテル基、トリ-i-ブチルシリルエーテル基、トリ-t-ブチルシリルエーテル基、フェニルシリルエーテル基、ペンタフルオロフェニルシリルエーテル基、ペンタフェニルシリルエーテル基、4-ビフェニルトリメトキシリル基、3-ビフェニルトリメトキシリル基、p-トリルシリル基、p-メトキシフェニルシリル基が挙げられるがこれに限定されない。なお、製造の観点から、メトキシトリメチルシリル基、フェニルシリルエーテル基、トリメチルシリルエーテル基及びフェニルトリメトキシシリル基を含むことが望ましい。これらを2種類以上併用しても構わない。
【0059】
上記シリカ粒子の表面修飾工程は、炭素数1~4のアルコールゾルの段階で行うことが、有機ケイ素化合物の溶解性や表面修飾率向上の観点から好ましい。その場合、表面修飾工程を行った後で、上記式(1)で表される溶媒(B)成分を添加し、炭素数1~4のアルコール及び表面修飾工程で添加したメチルエチルケトン等の溶媒を溜去することが好ましい。
【0060】
<ポリイミド/シリカハイブリッド樹脂組成物>
本発明は、前記可溶性ポリイミド(A)成分、溶媒(B)成分及びシリカゾル(C)成分を含有するポリイミド/シリカハイブリッド樹脂組成物である。ここで本発明のポリイミド/シリカハイブリッド樹脂組成物は、均一なものであって、相分離は認められないものである。
【0061】
本発明のポリイミド/シリカハイブリッド樹脂組成物において、前記可溶性ポリイミド(A)成分のポリイミドと前記シリカゾル(C)成分中のシリカ(二酸化ケイ素)の配合比は、質量比で、ポリイミド:二酸化ケイ素=10:1~1:10であることが好ましく、より好ましくは8:2~2:8、例えば7:3~3:7である。
また、シリカゾル(C)成分の含有量がポリイミド/シリカハイブリッド樹脂組成物の全固形分に対し、30%重量部以上であることが好ましい。
また、本発明のポリイミド/シリカハイブリッド樹脂組成物における固形分量の配合量は、通常0.5~30質量%程度、好ましくは5~25質量%程度である。固形分濃度が0.5質量%未満であると樹脂薄膜を作製する上において製膜効率が低くなり、またポリイミド/シリカハイブリッド樹脂組成物の粘度が低くなるため、表面が均一な塗膜を得られにくい。また固形分濃度が30質量%を超えると、ポリイミド/シリカハイブリッド樹脂組成物の粘度が高くなりすぎて、やはり製膜効率の悪化や塗膜の表面均一性に欠ける虞がある。なおここでいう固形分量とは、有機溶媒以外の成分の総質量を意味し、液状のモノマー等であっても固形分として重量に含めるものとする。
【0062】
なお、ポリイミド/シリカハイブリッド樹脂組成物の粘度は、作製する樹脂薄膜の厚み等を勘案し適宜設定するものである。特に5~50μm程度の厚さの樹脂薄膜を再現性よく得ること目的とする場合、通常、25℃で500~50,000mPa・s程度、好ましくは1,000~20,000mPa・s程度である。
【0063】
本発明のポリイミド/シリカハイブリッド樹脂組成物には、加工特性や各種機能性を付与するために、その他に様々な有機又は無機の低分子又は高分子化合物を配合してもよい。例えば、触媒、消泡剤、レベリング剤、界面活性剤、染料、可塑剤、微粒子、カップリング剤、増感剤等を用いることができる。例えば触媒は樹脂薄膜のリタデーションや線膨張係数を低下させる目的で添加され得る。さらに、触媒を含むポリイミド/シリカハイブリッド樹脂組成物も本発明の対象とすることができる。
【0064】
本発明のポリイミド/シリカハイブリッド樹脂組成物は、上述の方法で得られた可溶性ポリイミド(A)成分及びシリカゾル(C)成分を上述の溶媒(B)成分に溶解して得ることができ、可溶性ポリイミド(A)成分の調製後の反応溶液にシリカゾル(C)成分を添加し、所望により前記溶媒(B)成分を更に加えたものとしてもよい。また、溶媒(B)成分に分散させたシリカゾルに、可溶性ポリイミド(A)成分の粉末を添加したものでもよい。
【0065】
本発明のポリイミド/シリカハイブリッド組成物は、式(1)で表される溶媒にシリカ粒子が分散したシリカゾル(C)成分に、粉末の可溶性ポリイミド(A)成分を添加して調製することが好ましい。
【0066】
<樹脂薄膜(フィルム)>
以上説明した本発明のポリイミド/シリカハイブリッド樹脂組成物を基材に塗布して乾燥・加熱することで有機溶媒を除去し、高い耐熱性と、高い透明性と、適度な柔軟性と、適度な線膨張係数とを有し、しかもリタデーションの小さい自己支持性のある樹脂薄膜(自己支持膜とも称す)を得ることができる。
そして上記樹脂薄膜、すなわち上記可溶性ポリイミド(A)成分のと、上記シリカゾル(C)成分の無機シリカ化合物とを含有する樹脂薄膜も本発明の対象である。さらに前記ポリイミド及びシリカゾル(C)成分に加え、さらに触媒を含む樹脂薄膜も本発明の対象である。
【0067】
樹脂薄膜の製造に用いる基材としては、例えば、プラスチック(ポリカーボネート、ポリメタクリレート、ポリスチレン、ポリエステル、ポリオレフィン、エポキシ、メラミン、トリアセチルセルロース、ABS、AS、ノルボルネン系樹脂等)、金属、ステンレス鋼(SUS)、木材、紙、ガラス、シリコンウェハ、スレート等が挙げられる。
特に、電子デバイスの基板材料として適用する場合においては、既存設備を利用することができるという観点から、適用する基材がガラス、シリコンウェハであることが好ましく、また得られる樹脂薄膜が良好な剥離性を示すことからガラスであることがさらに好ましい。なお、適用する基材の線膨張係数としては塗工後の基材の反りの観点から、30ppm/℃以下、さらに好ましくは、20ppm/℃以下あることがさらに好ましい。
【0068】
基材へのポリイミド/シリカハイブリッド樹脂組成物の塗布法は、特に限定されるものではないが、例えば、キャストコート法、スピンコート法、ブレードコート法、ディップコート法、ロールコート法、バーコート法、ダイコート法、インクジェット法、印刷法(凸版、凹版、平版、スクリーン印刷等)等が挙げられ、目的に応じてこれらを適宜用いることができる。
【0069】
加熱温度は、300℃以下が好ましい。300℃を超えると、得られる樹脂薄膜が脆くなり、特にディスプレイ基板用途に適した樹脂薄膜を得ることができない場合がある。
また、加熱温度は200℃以上が樹脂薄膜内の溶媒を除去し、透明性を向上できるという点で好ましい。
得られる樹脂薄膜の耐熱性と線膨張係数特性を考慮すると、塗布したポリイミド/シリカハイブリッド樹脂組成物を40℃~100℃で5分間~2時間加熱した後に、そのまま段階的に加熱温度を上昇させ、最終的に175℃超~280℃で30分~2時間加熱することが望ましい。このように、溶媒を乾燥させる段階と分子配向を促進する段階の2段階以上の温度で加熱することにより、低熱膨張特性を発現させることができる。
特に、塗布したポリイミド/シリカハイブリッド樹脂組成物は、40℃~100℃で5分間~2時間加熱した後に、100℃超~175℃で5分間~2時間、次いで、175℃超~280℃で5分~2時間加熱することが好ましい。
加熱に用いる器具は、例えばホットプレート、オーブン等が挙げられる。加熱雰囲気は、空気下であっても窒素等の不活性ガス下であってもよく、また、常圧下であっても減圧下であってもよく、また加熱の各段階において異なる圧力を適用してもよい。
【0070】
樹脂薄膜の厚さは、特にフレキシブルディスプレイ用の基板として用いる場合、通常1~60μm程度、好ましくは5~50μm程度であり、加熱前の塗膜の厚さを調整して所望の厚さの樹脂薄膜を形成する。
【0071】
なお、このようにして形成された樹脂薄膜を基材から剥離する方法としては特に限定はなく、該樹脂薄膜を基材ごと冷却し、薄膜に切れ目を入れ剥離する方法やロールを介して張力を与えて剥離する方法等が挙げられる。
【0072】
このようにして得られる本発明の好ましい一の態様に係る樹脂薄膜は、波長400nmでの光透過率が75%以上という高い透明性を実現することができる。
更に、該樹脂薄膜は、例えば50℃乃至200℃における線膨張係数が60ppm/℃以下、特に10ppm/℃乃至35ppm/℃という低い値を有することができ、また例えば200℃乃至250℃における線膨張係数が80ppm/℃以下、特に15ppm/℃乃至55ppm/℃という低い値を有することができるものであり、加熱時の寸法安定性に優れたものである。
特に該樹脂薄膜は、入射光の波長を590nmとした場合における複屈折(面内の直交する2つの屈折率の差)と膜厚との積で表される面内リタデーションR0、及び、厚さ方向の断面からみたときの2つの複屈折(面内の2つの屈折率と厚さ方向の屈折率との夫々の差)にそれぞれ膜厚を掛けて得られる2つの位相差の平均値として表される厚さ方向リタデーションRthが、いずれも非常に小さいことを特長とする。本発明の樹脂薄膜は、平均膜厚が15μm~40μmの場合に、厚さ方向のリタデーションRthが700nm未満、例えば660nm以下、例えば10nm~660nmであり、面内リタデーションR0が4未満、例えば0.3~3.9nmであり、複屈折Δnが、0.02未満、例えば0.0003~0.019といった非常に低い値を有する。
このように、本発明のポリイミド/シリカハイブリッド樹脂組成物を用いて樹脂薄膜を形成することにより、当該樹脂薄膜のリタデーションを低減することができ、こうした樹脂薄膜のリタデーションを低減する方法も本発明の対象である。
【0073】
以上説明した本発明の樹脂薄膜は、上記の特性を有することから、フレキシブルディスプレイ基板のベースフィルムとして必要な各条件を満たすものであり、フレキシブルディスプレイ基板のベースフィルムとして特に好適に用いることができる。
【実施例0074】
以下、実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0075】
以下の実施例で用いる略記号の意味は、次のとおりである。
<ポリイミド>
KPI-MX300MF(登録商標):河村産業製溶媒可溶性透明ポリイミド
<有機溶媒>
DMAA:N,N-ジメチルアクリルアミド(東京化成(株)製)
DMIB:N,N-ジメチル-イソブチルアミド(東京化成(株)製)
MMPA:3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド(KJケミカル(株)製)
ACMO:N-アクロイルモルフォリン(KJケミカル(株)製)
<表面修飾(表面処理)剤>
HMDS:ヘキサメチルジシロキサン
PTMS:フェニルトリメトキシシラン
<シリカゾル>
ST-O:水ゾル(日産化学製、粒子径12nm)
【0076】
なお、実施例において、試料の調製及び物性の分析及び評価に用いた装置及び条件は、以下の通りである。
<試料調整>
・イオン交換樹脂:IR-120B―H(オルガノ製)をブフナーロートに20g入れた後、純水20gにて30回洗浄した。洗浄後、減圧ろ過にて脱水した。
【0077】
<分析>
・水分量測定:水分量は、MKA-610容量滴定方式カールフィッシャー水分計(京都電子工業製)を用いた。なお、測定液は、ケムアクア滴定液TR-3(京都電子製)とし、1g滴下した。
・粒子径測定:ゼータサイザーナノシリーズ(シスメックス株式会社製)を用いて粒子を測定し、散乱強度から粒子径を算出した。
・固形分測定:るつぼに、測定対象となるシリカゾルを2g入れ、150℃1時間ホットプレートで焼成後、オーブンで1000℃により焼成し、残存成分量から固形分を算出した。
・pH測定:溶媒、水、メタノールの比率をそれぞれ重量比で1:1:1に混合し、測定溶液を作製した後、センサーGST-5821C(東亜ディーケーケー株式会社製)付マルチ水質計MM-43X(東亜ディーケーケー株式会社製)で測定を実施した。
・ナトリウム(イオン)含有量の分析方法
シリカゾルを白金皿に採取し、超純水、塩酸、硫酸、フッ酸を加え、加熱することによってシリカ分を除去した。その後、超純水を加えて濃度調整し、測定原液とした。測定原液を所定の倍率に希釈し、原子吸光分光光度計(55B AA、スペクトル(Spectr)AA、アジレント・テクノロジー製)にてシリカゾル(C)成分中のNa含有量を測定した。その後、シリカゾル中のシリカ濃度で割り算することで、シリカゾル(C)成分に対するナトリウムイオン濃度(ppm)を算出した。
・粒子付着硫酸イオンの分析方法
シリカゾル25~50μLと酸化タングステン(WO3)0.1gを燃焼装置(AQF-2100H、GA-210、日東精工アナリテック製)で処理後、発生ガスを吸収液5mLに吸収させ、イオンクロマトグラフィー インテグリオン サーモフィッシャーサイエンティフィック(Integrion、Thermo Fisher Scientific)製及びでゾル中のS量を測定した。得られたS量から硫酸イオン濃度(ppm)を算出した。
・真球度測定方法
シリカゾルをTEM(日本電子製 JEM-1400Flash)でシリカ粒子の個数で500個以上測定し、画像解析装置(ニレコ製 LUZEX-AP)で測定を行った。そして、其々の粒子の最大径と最小径を測定し、最小径/最大径の平均を測定した。
<合成>
【0078】
<合成例1:原料メタノールゾル合成(原料ゾル)>
・2L4つ口フラスコにST-O 500gを入れた後、リフラックスをさせつつ溶媒量5kgの加熱蒸発したメタノール(感光化学製)をバブリングさせ、メタノールゾルを作製した。その後、得られたゾルの固形分と水分量を測定し、シリカ粒子濃度30wt%(水分量2wt%)に調整したメタノールゾルを作製した。なお、凝集は確認されず、DLS(粒子径)を測定した結果、約20nmであり、高い分散性を示した。また、ナトリウム(イオン)濃度と硫酸(イオン)濃度を測定した結果、それぞれ1250ppmと180ppmであった。したがって、原料ゾル内のナトリウムイオン濃度に対する、原料ゾル
内の硫酸イオンの濃度は、14.4%であった。また、真球度は0.89であった。
【0079】
<合成例2―1:溶媒精製(精製した後の溶媒(B)成分)>
・DMAA100gに対し、イオン交換樹脂20g添加後、3h攪拌した。その後、イオン交換樹脂をろ過し、pH測定を実施した。pHは5.8であり、酸性を示した。
〇合成例2―2~2-4:溶媒精製
それぞれ表1記載の溶媒に変更した以外は、合成例2-1と同様の操作を行った。表1に溶媒の洗浄結果を示した。なお、合成例2-1~2-3は酸性を示した。一方、合成例2-4は中性を示した。
【表1】
【0080】
<合成例3:応用ゾル作製>
・合成例3-1:DMAAゾルの合成
原料メタノールゾル100gにPTMS 6.72g(33.9mmol)を添加した500mLナスフラスコを加熱還流にて4h反応させた。その後、合成例2-1のDMAA70g添加後、エバポレータでメタノールを留去し、目的の30wt%のゾルを得た。
【0081】
・合成例3-2:DMIBゾルの合成
原料メタノールゾル100gにHMDS 4.59g(28.3mmol)とメチルエチルケトン100gを添加した500mLナスフラスコを加熱還流にて4h反応させた。その後、合成例2-2のDMB70g添加後、エバポレータでメタノールとメチルエチルケトンを留去し、目的の30wt%のゾルを得た。
【0082】
・合成例3-3:MMPAゾルの合成
原料メタノールゾル100gにHMDS4.59g(28.3mmol)とメチルエチルケトン100gを添加した500mLナスフラスコを加熱還流にて4h反応させた。その後、合成例2-3のMMPA70g添加後、エバポレータでメタノールとメチルエチルケトンを留去し、目的の30wt%のゾルを得た。
【0083】
・合成例3-4:ACMOゾルの合成
原料メタノールゾル100gにHMDS4.59g(28.3mmol)とメチルエチルケトン100gを添加した500mLナスフラスコを加熱還流にて4h反応させた。その後、合成例2-4のACMO70g添加後、エバポレータでメタノールとメチルエチルケトンを留去し、目的の30wt%のゾルを得た
【0084】
<合成例4:PI/シリカ樹脂液の作製>
・合成例4-1:DMAA使用PI/シリカ樹脂組成物の合成
合成例2-1のDMAA 17.6gに、KPI-MX300MF2.4g添加し、マグネチックスターラーで24時間攪拌した。その後、合成例3-1のDMAAゾル3.43gと合成例2-1のDMAA1.07g添加し、目的の樹脂組成物をえた。
【0085】
・合成例4-2:DMIB使用PI/シリカ樹脂組成物の合成
溶媒に合成例2-2のDMIBを17.6g、ゾルに合成例3-2のDMIBゾルを3.43g用いた以外は、合成例4-1と同様の作業を行い、目的のゾルを得た。
【0086】
・合成例4-3:DMIB使用PI/シリカ樹脂組成物の合成
溶媒に合成例2-3のMMPAを17.6g、ゾルに合成例3-3のMMPAゾルを3.43g用いた以外は、合成例4-1と同様の作業を行い、目的のゾルを得た。
【0087】
・合成例4-4:ACMO使用PI/シリカ樹脂組成物の合成
溶媒に合成例2-4のACMOを17.6g、ゾルに合成例3-4のACMOゾルを3.43g用いた以外は、合成例4-1と同様の作業を行い、目的のゾルを得た。
【0088】
<合成例5:製膜(フィルム作製)条件>
合成例4-1~4-4で得られた樹脂組成物を250ミクロンギャップのバーコータ―で無アルカリガラス上に製膜し、窒素中ホットプレートで100℃1時間焼成(する工程)後、更に230℃1時間で焼成(する工程)を行い、得られた膜(フィルム)を外観検査した。また、カッターにて端部をカットし、自己支持性の有無を確認した。
【0089】
<実施例1、2及び比較例1,2の結果>
合成例5の条件で実施例と比較例を作製した。結果を表2で示す。
【表2】
【0090】
表2記載のように、実施例は溶媒にヘテロ原子が無いため、得られるポリイミド/シリカハイブリッドフィルムは透明性と自己支持性を示すが、アミド結合部分以外にヘテロ原子(酸素原子)を含む溶媒を用いた比較例では、フィルムが白濁し、自己支持性もなかった。