(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024095861
(43)【公開日】2024-07-11
(54)【発明の名称】ニッケル酸化鉱石の高圧硫酸浸出における制御方法
(51)【国際特許分類】
C22B 23/00 20060101AFI20240704BHJP
C22B 3/08 20060101ALI20240704BHJP
【FI】
C22B23/00 102
C22B3/08
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022212820
(22)【出願日】2022-12-29
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067736
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100192212
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 貴明
(74)【代理人】
【識別番号】100200001
【弁理士】
【氏名又は名称】北原 明彦
(72)【発明者】
【氏名】田中 雄大
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA07
4K001AA08
4K001AA19
4K001AA38
4K001BA02
4K001CA02
4K001CA05
4K001DB03
4K001DB14
4K001DB16
4K001DB23
4K001DB24
(57)【要約】
【課題】鉱石種およびその混合割合が変化してもニッケル浸出率を高く維持しながら硫酸使用量を有効に低減させることができるニッケル酸化鉱石の高圧硫酸浸出における制御方法を提供する。
【解決手段】ニッケル酸化鉱石の高圧硫酸浸出における制御方法であって、ニッケル酸化鉱石を含む鉱石スラリーに硫酸を添加し、高温高圧条件下で硫酸浸出処理を施す浸出工程と、浸出工程に先立ってニッケル酸化鉱石のクロム品位とマグネシウム品位を測定する鉱石組成測定工程とを有し、鉱石組成測定工程におけるマグネシウム品位Mgに対するクロム品位Crの比Cr/Mgを指標として、該指標に基づいて浸出工程における硫酸の添加量を調整し、該調整は、指標が、あらかじめ設定した基準値を下回った場合に前記硫酸の添加量を増加させて浸出液中の遊離酸濃度を上昇させる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル酸化鉱石の高圧硫酸浸出における制御方法であって、
前記ニッケル酸化鉱石を含む鉱石スラリーに硫酸を添加し、高温高圧条件下で硫酸浸出処理を施す浸出工程と、
前記浸出工程に先立って前記ニッケル酸化鉱石のクロム品位とマグネシウム品位を測定する鉱石組成測定工程と
を有し、
前記鉱石組成測定工程におけるマグネシウム品位Mgに対するクロム品位Crの比Cr/Mgを指標として、該指標に基づいて前記浸出工程における硫酸の添加量を調整し、
該調整は、前記指標が、あらかじめ設定した基準値を下回った場合に前記硫酸の添加量を増加させて浸出液中の遊離酸濃度を上昇させることを特徴とするニッケル酸化鉱石の高圧硫酸浸出における制御方法。
【請求項2】
前記基準値は1.3以上1.5以下であることを特徴とする請求項1に記載のニッケル酸化鉱石の高圧硫酸浸出における制御方法。
【請求項3】
前記指標Cr/Mgが前記基準値以上となった場合は、前記浸出液中の遊離酸濃度が42~46g/Lとなるように前記硫酸を添加し、前記指標Cr/Mgが前記基準値未満となった場合は、前記浸出液中の遊離酸濃度が48~52g/Lとなるように前記硫酸を添加することを特徴とする請求項1に記載のニッケル酸化鉱石の高圧硫酸浸出における制御方法。
【請求項4】
前記ニッケル酸化鉱石のマグネシウム品位は、1.0~4.0質量%であることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載のニッケル酸化鉱石の高圧硫酸浸出における制御方法。
【請求項5】
前記鉱石スラリーはクロマイトを含有することを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載のニッケル酸化鉱石の高圧硫酸浸出における制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル酸化鉱石の高圧硫酸浸出における制御方法に関し、より詳しくは、鉱石クロム品位と鉱石マグネシウム品位との比を指標とし、遊離硫酸濃度を決定することで高いニッケル浸出率を得るニッケル酸化鉱石の高圧硫酸浸出における制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケル酸化鉱石の湿式製錬法として、硫酸を用いた高圧酸浸出(HPAL:High Pressure Acid Leaching)法がある。この方法は、乾燥及び焙焼工程等の乾式処理工程を含まず、一貫した湿式工程からなるので、エネルギー的及びコスト的に有利であるとともに、ニッケル品位を50質量%程度まで向上させたニッケルコバルト混合硫化物を得ることができるという利点を有している。
【0003】
HPAL法では、ニッケル等の有価金属を高い浸出率で浸出させるとともに、硫酸の使用量を有効に低減させる方法が求められている。HPAL法における浸出処理では、ニッケルのほか、マグネシウム、アルミニウム、鉄、クロムといった、鉱石中に含まれている不要な成分も浸出されることが知られており、特にマグネシウムは、そのほとんどが浸出されて多量の硫酸を消費してしまうため、経済的に好ましくない不純物である。
【0004】
このような課題に対して、例えば、特許文献1では、マグネシウムを含有するニッケル酸化鉱石のスラリー(鉱石スラリー)に対して硫酸を添加することによって浸出処理を施し、ニッケルを含む浸出液と浸出残渣とからなる浸出スラリーを得る浸出処理方法であって、硫酸の添加量を、浸出処理により得られる浸出スラリー中のマグネシウム濃度に応じて、浸出スラリー中の遊離硫酸濃度が所定の濃度となるように調整する浸出処理方法が記載されている。
【0005】
しかしながら、もしニッケル酸化鉱石の組成や性状、ニッケルやマグネシウムの形態などが反応性に影響すると、同じマグネシウム濃度であってもニッケルやマグネシウムの浸出率が変化し、硫酸使用量を十分に低減できない心配があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような状況を解決するためになされたものであり、鉱石種およびその混合割合が変化してもニッケル浸出率を高く維持しながら硫酸使用量を有効に低減させることができるニッケル酸化鉱石の高圧硫酸浸出における制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬の浸出工程において、ニッケル酸化鉱石のCr/Mg比率に応じて硫酸の添加量を調整することで、硫酸使用量を有効に低減させることができることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明の一態様は、ニッケル酸化鉱石の高圧硫酸浸出における制御方法であって、ニッケル酸化鉱石を含む鉱石スラリーに硫酸を添加し、高温高圧条件下で硫酸浸出処理を施す浸出工程と、浸出工程に先立ってニッケル酸化鉱石のクロム品位とマグネシウム品位を測定する鉱石組成測定工程とを有し、鉱石組成測定工程におけるマグネシウム品位Mgに対するクロム品位Crの比Cr/Mgを指標として、該指標に基づいて浸出工程における硫酸の添加量を調整し、該調整は、指標が、あらかじめ設定した基準値を下回った場合に前記硫酸の添加量を増加させて浸出液中の遊離酸濃度を上昇させる。
【0010】
本発明の一態様によれば、マグネシウム品位Mgに対するクロム品位Crの比Cr/Mgを指標とすることで、鉱石種の割合が変化した場合にも、マグネシウムの浸出率を予測することができ、高いニッケル浸出率を維持しながら硫酸使用量を有効に低減させることができる。
【0011】
このとき、本発明の一態様は、基準値は1.3以上1.5以下であるとすることができる。
【0012】
基準値を上記数値範囲として、該基準値を上回る場合は、硫酸の添加量を増加させる必要はなく、硫酸使用量を有効に低減させることができる。
【0013】
また、本発明の一態様では、指標Cr/Mgが基準値以上となった場合は、浸出液中の遊離酸濃度が42~46g/Lとなるように硫酸を添加し、指標Cr/Mgが基準値未満となった場合は、浸出液中の遊離酸濃度が48~52g/Lとなるように硫酸を添加するようにしてもよい。(本明細書中において「~」は、下限以上、上限以下を意味するものとする。以下同じ)
【0014】
このようにすることで、指標Cr/Mgの値に応じて硫酸の使用量を変化させることができ、高いニッケル浸出率を維持しながら硫酸使用量を有効に低減させることができる。
【0015】
また、本発明の一態様では、ニッケル酸化鉱石のマグネシウム品位は、1.0~4.0質量%であるとしてもよい。
【0016】
ニッケル酸化鉱石の湿式製錬においては、上記マグネシウム品位の鉱石スラリーを調製することが好ましい。
【0017】
また、本発明の一態様では、鉱石スラリーはクロマイトを含有するとしてもよい。
【0018】
クロマイトはクロム(Cr)を含有する鉱石であり、その混合割合に応じて本発明を有効に適用することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、鉱石種およびその混合割合が変化してもニッケル浸出率を高く維持しながら硫酸使用量を有効に低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】ニッケル酸化鉱石の高圧酸浸出法による湿式製錬方法のプロセスを示す工程図である。
【
図2】鉱石中のCr品位とMg品位との比(Cr/Mg)と、浸出工程におけるマグネシウム(Mg)の浸出率との関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係るニッケル酸化鉱石の高圧硫酸浸出における制御方法について図面を参照しながら以下の順序で説明する。なお、本発明は以下の例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更可能である。
1.ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法
2.ニッケル酸化鉱石の高圧硫酸浸出における制御方法
【0022】
<1.ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法>
先ず、本発明に関する具体的な説明に先立ち、本発明に係るニッケル酸化鉱石の高圧硫酸浸出における制御方法が適用されるニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法について簡単に説明する。このニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法は、高圧酸浸出法(HPAL法)を用いて、ニッケル酸化鉱石からニッケル及びコバルトを浸出させて回収する湿式製錬方法である。
図1に、ニッケル酸化鉱石の高圧酸浸出法による湿式製錬方法の工程(プロセス)図の一例を示す。
【0023】
スラリー調製工程S1では、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石を用いて、数種類のニッケル酸化鉱石を所定のNi品位、不純物品位となるように混合し、篩にかけて所定の分級点で分級してオーバーサイズの鉱石粒子を除去した後に、アンダーサイズの鉱石のみを水と混合してスラリー化する。
【0024】
浸出工程S2では、スラリー調整工程S1で得られたニッケル酸化鉱石のスラリーに対して、高圧酸浸出法を用いた浸出処理を施す。具体的には、原料となるニッケル酸化鉱石を混合等して得られた鉱石スラリーに硫酸を添加し、例えば耐熱耐圧容器(オートクレーブ)を用いて、220~280℃の高い温度条件下で3~5MPaに加圧することによって鉱石からニッケル、コバルト等を浸出し、浸出液と浸出残渣とからなる浸出スラリーを形成する。本発明に係るニッケル酸化鉱石の高圧硫酸浸出における制御方法は、この浸出工程S2において適用される。詳細については後述する。
【0025】
浸出工程S2では、浸出率を向上させる観点から過剰の硫酸を加えるようにしている。そのため、得られた浸出スラリーには浸出反応に関与しなかった余剰の硫酸が含まれていて、そのpHは非常に低い。
【0026】
このことから、予備中和工程S3では、次工程の固液分離工程S4における多段洗浄時に効率よく洗浄が行われるように、浸出工程S2にて得られた浸出スラリーのpHを高める。pHの調整方法としては、例えば石灰石(炭酸カルシウム)スラリー等の中和剤を添加することによって所定の範囲のpHに調整する。
【0027】
固液分離工程S4では、予備中和工程S3にてpH調整された浸出スラリーを多段洗浄して、ニッケル及びコバルトのほか不純物元素として亜鉛を含む浸出液と浸出残渣とを得る。
【0028】
中和工程S5では、固液分離工程S4にて分離された浸出液のpHを調整し、不純物元素を含む中和澱物を分離して、ニッケル及びコバルトと共に亜鉛を含む中和終液を得る。浸出液のpHは、石灰石(炭酸カルシウム)スラリー等の中和剤を添加することで調整される。
【0029】
脱亜鉛工程S6では、中和工程S5から得られた中和終液に硫化水素ガス等の硫化剤を添加して硫化処理を施すことにより亜鉛硫化物を生成させ、その亜鉛硫化物を分離除去してニッケル及びコバルトを含むニッケル回収用母液(脱亜鉛終液)を得る。
【0030】
その後、硫化工程S7では、脱亜鉛工程S6後のニッケル回収用母液である脱亜鉛終液を硫化反応始液として、その硫化反応始液に対して硫化剤としての硫化水素ガスを吹き込むことによって硫化反応を生じさせ、不純物成分の少ないニッケル及びコバルトの混合硫化物と、ニッケル及びコバルトの濃度を低い水準で安定させた貧液とを生成させる。硫化工程S7では加圧等により、脱亜鉛工程S6に比べると硫化水素ガス等の硫化剤の添加量が多い。
【0031】
最終中和工程S8は、上述した固液分離工程S4から移送された遊離硫酸を含む浸出残渣と、硫化工程S7から移送されたマグネシウムやアルミニウム、鉄等の不純物を含むろ液(貧液)の中和を行う。浸出残渣やろ液は、中和剤によって所定のpH範囲に調整され、廃棄スラリー(テーリング)となる。生成されたテーリングは、テーリングダム(廃棄物貯留場)に移送される。
【0032】
<2.ニッケル酸化鉱石の高圧硫酸浸出における制御方法>
次に、本発明に係るニッケル酸化鉱石の高圧硫酸浸出における制御方法について説明する。上述したように、HPAL法における浸出処理(浸出工程S2)では、ニッケルのほか、マグネシウム、アルミニウム、鉄、クロムといった、鉱石中に含まれている他の成分も浸出される。これらの反応は以下の(1)~(3)の反応式で示すことができ、遊離酸濃度が高いほど速やかかつ高濃度まで浸出反応が進行する。
MO+H2SO4=MSO4+H2O・・・(1)式
(M=Ni,Co,Cu,Mg,Zn)
H2SO4+H2O=H3O++HSO4
-・・・(2)式 Ka1=1.00×103
HSO4
-+H2O=H3O++SO4
2-・・・(3)式 Ka2=1.99×10-2
【0033】
ここで、遊離酸濃度の上昇は浸出率に有利に働くものの、硫酸使用量増加を意味する。したがって、経済的理由より過度に高い遊離酸濃度は好ましくなく、より低い遊離酸濃度で高いニッケル浸出率を得ることが望まれている。また、目的回収金属であるニッケルやコバルト以外の金属成分の浸出を抑制することができれば、遊離酸濃度を変えずに硫酸使用量の抑制が可能となるため、目的回収金属であるニッケル(やコバルト)のみを効率よく浸出する手段が求められている。
【0034】
ニッケルに限らず多くの金属成分はオートクレーブ内で(1)式に従い浸出される。したがって、硫酸濃度上昇により反応を右辺へ促進することができるため浸出率を向上させることができる。次に、硫酸の解離を示す(2)、(3)式について考えた場合、(2)式の平衡は右辺が十分に大きいが、(3)式の平衡は左向きの反応も右向きの反応に比肩する程度に大きいことから解離は浸出液中の硫酸塩濃度に依存する。そのため、浸出液中のSO4
2-濃度が高い場合には、つまり、不純物が多く溶解している場合には、(3)式の反応は阻害されるため、同じ硫酸添加量であってもニッケルの浸出率が低下してしまうことになる。
【0035】
また、上記(1)式~(3)式のうち、(2)式は(1)式を構成する反応過程となっており、(2)式の反応速度は相対的に速いため、残りの反応過程((1)式-(2)式=(4)式)が律速段階となる。
MO+H3O++HSO4
-=M2++SO4
2-+2H2O・・・(4)式
(M=Ni,Co,Cu,Mg,Zn)
【0036】
この(4)式は具体的には次の(4-1)~(4-5)式それぞれの反応が同時並行で進行する。
NiO+H3O++HSO4
-=Ni2++SO4
2-+2H2O・・・(4-1)式
Co2O3+3H3O++3HSO4
-=2Co2++3SO4
2-+6H2O・・・(4-2)式
CuO+H3O++HSO4
-=Cu2++SO4
2-+2H2O・・・(4-3)式
ZnO+H3O++HSO4
-=Zn2++SO4
2-+2H2O・・・(4-4)式
MgO+H3O++HSO4
-=Mg2++SO4
2-+2H2O・・・(4-5)式
【0037】
(4-1)~(4-5)式のうち(4-5)式は右辺がきわめて安定であり、言い換えれば鉱石中マグネシウムはその大部分がSO4
2-を発生させる。(4-5)式で生じたSO4
2-は、(4-1)~(4-4)式の逆反応(左向きの反応)を引き起こし、ニッケルやコバルトの浸出が妨げられてしまう。
【0038】
このため、上述したように浸出スラリー中のマグネシウム濃度に応じて硫酸添加量を調整する方法も提案されてきた(特許文献1等)。しかしながら、出願人内部の知見によりニッケル酸化鉱石からのマグネシウムの浸出率は、クロマイト(Fe, Mg)Cr2O4>滑石(Mg3Si4O10(OH)2)ということが分かり、低品位ニッケル酸化鉱のマグネシウム浸出は、鉱石種によって大きな差がでることが分かった。このため、鉱石スラリーに含まれる鉱石種およびその混合割合によっては、単にスラリー中のマグネシウム濃度のみを指標とした調整では浸出率の予測が十分ではない場合もあった。
【0039】
そこで、本発明はニッケル酸化鉱石の高圧硫酸浸出における制御方法であって、ニッケル酸化鉱石を含む鉱石スラリーに硫酸を添加し、高温高圧条件下で硫酸浸出処理を施す浸出工程と、浸出工程に先立ってニッケル酸化鉱石のクロム品位とマグネシウム品位を測定する鉱石組成測定工程とを有し、鉱石組成測定工程におけるマグネシウム品位Mgに対するクロム品位Crの比Cr/Mgを指標として、該指標に基づいて浸出工程における硫酸の添加量を調整し、該調整は、指標が、あらかじめ設定した基準値を下回った場合に前記硫酸の添加量を増加させて浸出液中の遊離酸濃度を上昇させる。
【0040】
図2は、鉱石中のCr品位とMg品位との比(Cr/Mg)と、浸出工程におけるマグネシウム(Mg)の浸出率との関係を示した図である。発明者は、鉱石中のCr/Mgと、マグネシウムの浸出率をプロットすると、
図2に示すように強い相関関係を有することを見出した。したがって、処理する鉱石のCr/Mgをモニターしておくことによって予めマグネシウムの浸出率を予想することが可能となり、鉱石種およびその混合割合が変化しても高いニッケル浸出率を維持しながら硫酸使用量を有効に低減させることができる。
【0041】
鉱石組成測定工程における、ニッケル酸化鉱石のクロム品位及びマグネシウム品位は、例えば、ICP発光分析法や原子吸光分析法により測定することができる。ニッケル浸出率を算出するために、併せてニッケル濃度を測定してもよい。このような測定方法によれば、ニッケル酸化鉱石の鉱石組成を迅速に測定することができ、好ましい。また、このように迅速に鉱石組成を測定できることから、ニッケル酸化鉱石のマグネシウム品位が変動した場合でも、その変動を速やかに検出することができ、鉱石中のCr品位とMg品位との比(Cr/Mg)に合わせて速やかに遊離硫酸濃度の調整を行うことができる。
【0042】
指標Cr/Mgに対してあらかじめ設定する基準値は、1.3以上1.5以下、より好ましくは、1.4にすることが望ましい。指標Cr/Mgが基準値を下回る場合、マグネシウム浸出率は高く、上記(4-1)~(4-4)式の反応が進行しにくいことで、マグネシウム以外の元素については(1)式も進行しにくい。従って、硫酸濃度を上昇させなければニッケル浸出反応が進みにくい状況にある。一方で、指標Cr/Mgが基準値を上回る場合、マグネシウム浸出率は低く、上記(4-1)~(4-4)式の反応が進行しやすいため、マグネシウム以外の元素については(1)式も進行しやすくなる。従って、硫酸濃度を低下させてもニッケル浸出反応が平衡に近い状態となり、遊離酸濃度を低下させてもニッケル浸出率を高く維持することができる。設定する基準値の具体的な数値は、ニッケル浸出率の推移や、指標Cr/Mgを変化させたときの、遊離酸濃度とニッケル浸出率をプロットしたときの相関関係などから適宜設定することができる。なおクロムのグラム当量は17.3gで、マグネシウムのグラム当量は12.2gであることから、鉱石中のマグネシウムは17.3÷12.2=1.4倍の質量のクロムに相当すると考えることができる。基準値を1.4に設定することは、Cr/Mg>1.4の鉱石はクロム多め、Cr/Mg<1.4の鉱石はマグネシウム多めとみなして取り扱うことに相当する。
【0043】
浸出処理に用いる硫酸の添加量は、遊離酸として硫酸が残存する程度、例えば鉱石1トン当り300kg~400kg程度を添加する。ニッケル酸化鉱石のマグネシウム品位が高い場合、このマグネシウムが浸出反応を起こすのに多くの硫酸を消費する。よって、ニッケルの浸出率を高く保つためには、浸出処理に用いる硫酸の添加量を増加させる必要がある。一方、ニッケル酸化鉱石のマグネシウム品位が低い場合には、浸出処理に用いる硫酸の添加量を抑制しながらも、ニッケルの浸出率を高く保つことが望ましい。
【0044】
一例として、指標Cr/Mgが基準値以上となった場合は、浸出液中の遊離酸濃度が42~46g/Lとなるように硫酸を添加し、指標Cr/Mgが基準値未満となった場合は、浸出液中の遊離酸濃度が48~52g/Lとなるように硫酸を添加するようにしてもよい。指標Cr/Mgが基準値未満の場合は、マグネシウム品位が高いため、硫酸添加量を増加させる必要があるが、指標Cr/Mgが基準値以上の場合は、硫酸添加量を必要以上に増加させる必要はなく、ニッケル浸出率を高く維持しながら硫酸使用量を有効に低減させることができる。
【0045】
ニッケル酸化鉱石のマグネシウム品位は、特に限定されるわけではないが、概ね1.0~4.0質量%のものが入手しやすい。HPAL法によるニッケル酸化鉱石の湿式製錬法では、ニッケル酸化鉱石のマグネシウム品位は上記数値範囲となることが多い。
【0046】
また、鉱石スラリーはクロマイト(Fe,Mg)Cr2O4を含有することが好ましい。クロマイトはクロム(Cr)を含有する鉱石であり、マグネシウム浸出反応(4-5)を生じにくい鉱石であることから、その混合割合に応じて本発明を有効に適用することができる。
【0047】
以上、本発明に係るニッケル酸化鉱石の高圧硫酸浸出における制御方法によれば、鉱石種およびその混合割合が変化してもニッケル浸出率を高く維持しながら硫酸使用量を有効に低減させることができる。
【実施例0048】
以下、本発明について、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0049】
(実施例1)
原料鉱石を分取して全量を溶解し、ICP発光分光法でクロム(Cr)品位とマグネシウム(Mg)品位とニッケル(Ni)品位を分析した。そのあと、残りの原料鉱石を少量の水とともにビーカーに入れて、原料鉱石の分析値に基づいて遊離酸濃度が概ね41~55g/Lの間の所定の数値となる量の硫酸を加えた。一定時間後に溶液中のNi濃度を測定し、ニッケル(Ni)浸出率を算出した。この操作を、複数のサンプルに対して複数回実施した。各遊離酸濃度(g/L)の数値範囲でのNi浸出率(%)を集計したものを表1に示す。なお、表1中のかっこ書きで示した数値は推定値を含むものである。
【0050】
【0051】
表1に示されているように、鉱石中のCr/Mgを指標とし、この値が1.4より大きい場合と小さい場合で分類した時に、大きな差が出ることが分かった。
【0052】
すなわち、Cr/Mg<1.4の場合は、マグネシウム浸出率が高くなるため、遊離酸濃度が41~45g/Lの硫酸添加量では、ニッケル浸出率が90%未満となってしまう。このため、Cr/Mg<1.4の場合には、高いニッケル浸出率を維持するためには遊離酸濃度を50g/L程度まで上昇させる(硫酸添加量を増加させる)必要がある。
【0053】
一方で、Cr/Mg>1.4の場合は、マグネシウム浸出率が低くなるため、遊離酸濃度を44g/L程度まで低下させてもニッケル浸出率は低下しない状態であることが分かる。以上より、Cr/Mg>1.4の場合は、遊離酸濃度を低下させてもニッケル浸出率を高く維持することができ、かつ、硫酸使用量の削減が可能となる。
【0054】
このように、マグネシウム品位Mgに対するクロム品位Crの比Cr/Mgを指標とすることで、鉱石種の混合割合が変化した場合にも、マグネシウムの浸出率を予測することができ、ニッケル浸出率を高く維持しながら硫酸使用量を有効に低減させることができることが実証された。
【0055】
(実施例2)
原料鉱石を分取して全量を溶解し、ICP発光分光法でクロム(Cr)品位とマグネシウム(Mg)品位とニッケル(Ni)品位を分析した。その後、残りの原料鉱石を少量の水とともにビーカーに入れて、原料鉱石の分析値に基づいて鉱石中のマグネシウム品位が1.0~4.0質量%となるようにそれぞれ調製し、遊離酸濃度が概ね43g/Lとなる量の硫酸を加えた。Ni濃度を定期的に分析しながら、Ni浸出率が92%以上となるまでビーカーに硫酸を追加した。Ni浸出率が92%以上となった時点のビーカー中に残存する硫酸濃度(=遊離酸濃度)を、水酸化ナトリウム水溶液で滴定して求めた。その結果を表2に示す。
【0056】
【0057】
表2に示すように、Cr/Mg>1.4の場合は遊離酸濃度を高くする(硫酸添加量を多くする)必要があり、Cr/Mg<1.4の場合は遊離酸濃度が低いままでもよい(硫酸添加量が少なくてもよい)ことが分かる。また、このような特性は、鉱石中のマグネシウム(Mg)品位が1.0~4.0質量%のどの含有量でも確認することができた。
【0058】
なお、上記のように本発明の一実施形態および各実施例について詳細に説明したが、本発明の新規事項および効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは、当業者には、容易に理解できるであろう。したがって、このような変形例は、全て本発明の範囲に含まれるものとする。
【0059】
例えば、明細書または図面において、少なくとも一度、より広義または同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書または図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。また、ニッケル酸化鉱石の高圧硫酸浸出における制御方法の構成も本発明の一実施形態および各実施例で説明したものに限定されず、種々の変形実施が可能である。