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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024095883
(43)【公開日】2024-07-11
(54)【発明の名称】抗ウイルス用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/352 20060101AFI20240704BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20240704BHJP
   A61P 31/16 20060101ALI20240704BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20240704BHJP
   A61K 36/752 20060101ALI20240704BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20240704BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20240704BHJP
【FI】
A61K31/352
A61P31/12
A61P31/16
A61P31/14
A61K36/752
A23L33/105
A23L33/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022212853
(22)【出願日】2022-12-29
(71)【出願人】
【識別番号】504145308
【氏名又は名称】国立大学法人 琉球大学
(71)【出願人】
【識別番号】598041566
【氏名又は名称】学校法人北里研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100184767
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々 健太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100098556
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々 紘造
(74)【代理人】
【識別番号】100137501
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々 百合子
(72)【発明者】
【氏名】照屋 俊明
(72)【発明者】
【氏名】石井 貴広
(72)【発明者】
【氏名】花木 秀明
(72)【発明者】
【氏名】片山 和彦
(72)【発明者】
【氏名】岩月 正人
(72)【発明者】
【氏名】戸高 玲子
(72)【発明者】
【氏名】久保 誠
【テーマコード(参考)】
4B018
4C086
4C088
【Fターム(参考)】
4B018MD08
4B018MD52
4B018ME14
4B018MF01
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA04
4C086BA08
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA52
4C086NA14
4C086ZB33
4C088AB62
4C088AC04
4C088BA09
4C088BA14
4C088CA02
4C088CA05
4C088CA11
4C088MA52
4C088NA14
4C088ZB33
(57)【要約】      (修正有)
【課題】抗ウイルス活性が知られていない化合物から抗ウイルス活性を見出し、抗ウイルス感染症の予防又は治療用、さらには食品用、衛生用品に使用できる、安全性が高い組成物を提供する。
【解決手段】式(1)で表される化合物を有効成分とする、抗ウイルス用組成物。

(式中、Rは、水素原子又はC1-6アルキル基を示し、R、R及びRは、相互に独立に、水素原子又はC1-6アルコキシ基を示し、R及びRは、相互に独立に、C1-6アルキル基を示す。)本発明によれば、天然物から探索された、抗ウイルス活性が高くかつ安全性も高い、化合物を提供でき、この化合物を有効成分として含む抗ウイルス用組成物を提供できる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表される化合物を有効成分とする、抗ウイルス用組成物。
【化1】
(式中、Rは、水素原子又はC1-6アルキル基を示し、R、R及びRは、相互に独立に、水素原子又はC1-6アルコキシ基を示し、R及びRは、相互に独立に、C1-6アルキル基を示す。)
【請求項2】
シークヮーサーから下記、工程(1-1)~(1-3)又は工程(2)、及び工程(3)、及び工程(4)、を含む方法で抽出された抽出物、又はこれを含む混合物であって、[化1]で表される化合物を有効成分とする、抗ウイルス用組成物。
(1-1)シークヮーサーを熱水で処理することにより熱水処理物を得る工程
(1-2)前記熱水処理物を乾燥することにより乾燥物を得る工程
(1-3)前記乾燥物をノビレチン及びタンゲレチン可溶性である溶媒で処理することによりノビレチン及びタンゲレチン溶解物を得る工程
(2)シークヮーサーをノビレチン及びタンゲレチン可溶性である温溶媒で処理することによりノビレチン及びタンゲレチン溶解物を得る工程
(3)前記ノビレチン及びタンゲレチン溶解物を濃縮及び/又は乾燥することにより、ノビレチン及びタンゲレチン濃縮物を得る工程
(4)前記ノビレチン及びタンゲレチン濃縮物を希アルカリで処理することにより、不溶性成分としてノビレチン及びタンゲレチン含有物を得る工程
【請求項3】
ノビレチン、タンゲレチン、シネンセチン、ナツダイダイン、デメチルノビレチンのうち、いずれか1又は2以上を有効成分とする、抗ウイルス用組成物。
【請求項4】
ノビレチン、タンゲレチンのうち、いずれか又は両方を有効成分とする、抗ウイルス用組成物。
【請求項5】
抗ウイルス用組成物が、新型コロナウイルス、インフルエンザウイルス、ジカウイルスのいずれか1又は2以上に対しての抗ウイルス用組成物である、請求項1の抗ウイルス用組成物。
【請求項6】
抗ウイルス用組成物が、新型コロナウイルス、インフルエンザウイルス、のいずれか又は両方に対しての抗ウイルス用組成物である、請求項1の抗ウイルス用組成物。
【請求項7】
抗ウイルス用組成物が、抗新型コロナウイルス用組成物である、請求項1の抗ウイルス用組成物。
【請求項8】
ノビレチン、タンゲレチンのうち、いずれか又は両方を有効成分とする、抗新型コロナウイルス用組成物。
【請求項9】
請求項2の抗ウイルス用組成物であって、ノビレチン、タンゲレチンのうち、いずれか又は両方を有効成分とする、抗新型コロナウイルス用組成物。
【請求項10】
前記組成物が医薬組成物である、請求項1~9のいずれか1項の組成物。
【請求項11】
前記組成物が食品用組成物である、請求項1~9のいずれか1項の組成物。
【請求項12】
請求項1~9のいずれか1項に記載の組成物を含む衛生用品。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗ウイルス用組成物に関する。さらに詳しくは、ポリアルコキシフラボノイドを有効成分とする抗ウイルス用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、中国湖北省武漢市で2019年12月に感染者が確認され、世界各地に感染が拡大している。原因となる新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)はコロナウイルス科のコロナウイルス亜科に属するプラス鎖RNAウイルスである。新型コロナウイルス感染症の主な症状は発熱や全身倦怠感、呼吸器症状で患者の多くは軽症のまま治癒する。しかし0.1%では肺炎症状が悪化し、人工呼吸管理などが必要な重症例となるとされる。
【0003】
2022年8月現在、新型コロナウイルス感染症に対する治療薬としてはレムデシビル、デキサメタゾン、バリシチニブ、カシリビマブ/イムデビマブ、ソトロビマブ、モルヌピラビル、トシリズマブ、ニルマトレビル/リトナビルが日本国内で使用されている。しかしながら、投薬の対象は原則として重症患者および重症化リスク因子を持つ軽症・中等症の患者であるほか、腎機能・肝機能障害などの副作用の報告もあり安全性に懸念がある。
一般的にウイルスの感染予防手段として効果的なワクチン接種については日本で2021年2月にファイザーとビオンテックのワクチン、5月にはアストラゼネカとモデルナの2つのワクチンも特例承認を取得した。しかし短期間にワクチンの複数回接種が必要な状況であり、変異株に対応も出来ていない。
こうした現状から、新型コロナウイルスに効果があり、なおかつ安全性が高く安定的に供給できる予防剤や治療剤の開発は喫緊の課題である。
【0004】
一方、天然由来成分と、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)タンパク質の相互作用について、分子ドッキング法を用いた報告があり、エピガロカテキンガレート(EGCG)などが抗新型コロナウイルス作用を有する可能性があるとして示されている(非特許文献1)。ただし、これらはコンピューターによるシミュレーションの結果であり、細胞や動物レベルで効果の実証はされていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Brahmaiah Pendyala, Ankit Patras,Preprint, DOI: 10.26434/chemrxiv 20 .12051927.v2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の通り、現時点で使用されている治療薬は安全性に懸念が残り、ワクチンのみで解決も難しいため、こうした課題を解決できる安全性の高い、予防又は治療用の組成物が望まれている。同様な食品組成物、衛生用品も望まれている。
【0007】
本発明の目的は、今までに抗ウイルス活性が知られていない化合物から、抗ウイルス活性を見出し、抗ウイルス感染症の予防又は治療用、さらには食品用、衛生用品に使用できる組成物を提供することである。加えて、安全性が高い、それらの組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決すべく、鋭意検討した結果、今まで抗ウイルス活性が知られていない植物抽出物に抗新型コロナウイルス活性を見出すことに成功し、さらにはその活性本体となる化合物を特定して、本発明に到達した。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
1.式(1)で表される化合物を有効成分とする、抗ウイルス用組成物。
【0009】
【化1】
【0010】
(式中、Rは、水素原子又はC1-6アルキル基を示し、R、R及びRは、相互に独立に、水素原子又はC1-6アルコキシ基を示し、R及びRは、相互に独立に、C1-6アルキル基を示す。)
2.シークヮーサーから下記、工程(1-1)~(1-3)又は工程(2)、及び工程(3)、及び工程(4)、を含む方法で抽出された抽出物、又はこれを含む混合物であって、[化1]で表される化合物を有効成分とする、抗ウイルス用組成物。
(1-1)シークヮーサーを熱水で処理することにより熱水処理物を得る工程
(1-2)前記熱水処理物を乾燥することにより乾燥物を得る工程
(1-3)前記乾燥物をノビレチン及びタンゲレチン可溶性である溶媒で処理することによりノビレチン及びタンゲレチン溶解物を得る工程
(2)シークヮーサーをノビレチン及びタンゲレチン可溶性である温溶媒で処理することによりノビレチン及びタンゲレチン溶解物を得る工程
(3)前記ノビレチン及びタンゲレチン溶解物を濃縮及び/又は乾燥することにより、ノビレチン及びタンゲレチン濃縮物を得る工程
(4)前記ノビレチン及びタンゲレチン濃縮物を希アルカリで処理することにより、不溶性成分としてノビレチン及びタンゲレチン含有物を得る工程
3.ノビレチン、タンゲレチン、シネンセチン、ナツダイダイン、デメチルノビレチンのうち、いずれか1又は2以上を有効成分とする、抗ウイルス用組成物。
4.ノビレチン、タンゲレチンのうち、いずれか又は両方を有効成分とする、抗ウイルス用組成物。
5.抗ウイルス用組成物が、新型コロナウイルス、インフルエンザウイルス、ジカウイルスのいずれか1又は2以上に対しての抗ウイルス用組成物である、前記1の抗ウイルス用組成物。
6.抗ウイルス用組成物が、新型コロナウイルス、インフルエンザウイルス、のいずれか又は両方に対しての抗ウイルス用組成物である、前記1の抗ウイルス用組成物。
7.抗ウイルス用組成物が、抗新型コロナウイルス用組成物である、前記1の抗ウイルス用組成物。
8.ノビレチン、タンゲレチンのうち、いずれか又は両方を有効成分とする、抗新型コロナウイルス用組成物。
9.前記2の抗ウイルス用組成物であって、ノビレチン、タンゲレチンのうち、いずれか又は両方を有効成分とする、抗新型コロナウイルス用組成物。
10.前記組成物が医薬組成物である、前記1~9のいずれか1の組成物。
11.前記組成物が食品用組成物である、前記1~9のいずれか1の組成物。
12.前記1~9のいずれか1に記載の組成物を含む衛生用品。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、天然物から探索された、抗ウイルス活性が高くかつ安全性も高い、化合物を提供でき、この化合物を有効成分として含む抗ウイルス用組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
1.本発明の抗ウイルス用組成物について
(1)本発明の抗ウイルス用組成物の有効成分となる化合物は式(1)で示すとおりで、ポリアルコキシフラボノイド化合物の一種である。
【0013】
【化2】
【0014】
本化合物は、全ての、あるいは大部分のフェノール性水酸基がマスキングされており、アルコキシ基となっている。Rは水素原子又は炭素の数が1~6のアルキル基がより好ましく、水素原子又は炭素の数が1~3のアルキル基がさらに好ましい。R、R、Rは相互に独立に、水素原子又は炭素数1~6のアルコキシ基がより好ましく、水素原子又は炭素数1~3のアルコキシ基がさらに好ましい。R、Rは相互に独立に、炭素数1~6のアルキル基がより好ましく、炭素数1~3のアルキル基がさらに好ましい。
本化合物として、例えば、ノビレチン、タンゲレン、シネンセチン、ナツダイダイン、デメチルノビレチンが挙げられ、より好ましくは、ノビレチン、タンゲレチン、特に好ましくはノビレチンが挙げられる。
ポリアルコキシフラボノイドは、天然物由来のものを用いてもよいし、化学合成したものを用いてもよい。
これら化合物を含有する組成物として、本発明のポリアルコキシフラボノイドを含有するシークヮーサー抽出物(以下、本発明のポリアルコキシフラボノイド含有シークヮーサー抽出物)、又はこれを含む混合物を使うことができる。特に原料にシークヮーサー残渣を使用すれば、残渣の有効利用につながる上、原料の供給も容易になり、さらに天然物由来という安心感が生じる。抗ウイルス活性に関して、ポリフェノール類との相乗効果も期待できる。これらのメリットから、特に食品用組成物、衛生用品に使うときは、上記シークヮーサー抽出物又はこれを含む混合物を使うことが多くなると考えられる。
【0015】
(2)後記実施例で示すように、本発明のポリアルコキシフラボノイド含有シークヮーサー抽出物、抽出物から精製されたノビレチン、タンゲレチンは、高い抗新型コロナウイルス活性を有する上に細胞毒性が低く、活性と安全性を兼ね備えている。また、市販されているノビレチン(東京化成工業 製品コード:N0871)、タンゲレチン(東京化成工業 製品コード:T2708)も同様の活性を有することを確認しており(データ省略)、化学合成されたノビレチン、タンゲレチンも同様の活性を有する。
ノビレチン、タンゲレチンはポリアルコキシフラボノイドの一種で、ポリアルコキシフラボノイドが抗ウイルス活性を有することを示したのは、本発明をもって嚆矢とするものである。ポリフェノール類の抗ウイルス活性は知られていて、フラボノイド類のポリフェノールは基本骨格は本発明と共通するが、その活性はフェノール系水酸基によるものとされており、フェノール系水酸基がマスキングされている本発明の化合物が抗ウイルス活性を有することは実に驚くべきことである。しかも、その活性はポリフェノール類よりも高い。
【0016】
(3)本発明の化合物及び抽出物は、抗新型コロナウイルス活性を有するが、様々なウイルスに対しても抗ウイルス活性を持つと考えられる。特に、新型コロナウイルスと同じエンベロープ型のRNAウイルスである、インフルエンザウイルス、ジカウイルスに対しては抗ウイルス活性を持つ可能性が高いと考えられる。実際に同じRNAウイルスにより引き起こされるエボラ出血熱の治療薬として開発されたレムデシビルが新型コロナウイルス感染症の治療薬として転用されている例からも本発明の化合物及び抽出物は、抗新型コロナウイルス活性だけでなく様々なウイルスに対しても抗ウイルス活性を持つことが期待される。
ここで、新型コロナウイルスとは、SARS-CoV-2のことである。インフルエンザウイルスには、A型、B型、C型インフルエンザが含まれる。ジカウイルスはジカウイルス感染症を引き起こすウイルスである。
なお、抗新型コロナウイルス用組成物といったときに、新型コロナウイルスに対する抗ウイルス活性を持ってさえいればよく、他のウイルスに対する抗ウイルス活性を持っていてもよいし、持っていなくてもよい。
【0017】
2.本発明の化合物、抽出物の製造方法について
本発明の抗ウイルス用組成物の製造方法は、下記の通りで、柑橘類をシークヮーサーと置き換えたうえで、参考文献1に従うものである。ただし矛盾する記載がある場合は、本願記載を優先する。
参考文献1:国際出願番号PCT/JP2013/071664
【0018】
(I)(1)シークヮーサーは、その全部を使用してもよいし、ノビレチン及びタンゲレチンを含む部位を使用してもよい。ノビレチン及びタンゲレチンは果肉よりも搾汁残渣に多く含まれており、さらに資源の有効利用という観点からも、シークヮーサー搾汁残渣を使うとより好ましい。搾汁方法は特に限定されないが、例えばシークヮーサーの果実を圧搾機で処理すればよい。得られた試料は適宜乾燥して使うとより好ましい。
乾燥したものを、熱水で加熱処理するが、50~80℃で、2~4時間熱処理するのがより好ましい。
熱水から、熱水処理した試料を回収する。回収手段は、例えば、保留粒子径5μm以下より好ましくは3μm以下のフィルターでろ過すればよい。
熱水処理後、水分が、より好ましくは数十%未満、さらに好ましくは10%未満になるように乾燥する。
乾燥後、ノビレチン及びタンゲレチン可溶性の溶媒を混合し放置する。溶媒は例えば20~100%(V/V)のエタノールがより好ましく、20~50%であればさらに好ましい。放置期間は1~5日間であるとより好ましい。さらに室温下で放置すればより好ましい。放置後、溶液をろ過などの固液分離手段で回収する。
(2)(1)の方法に変え、シークヮーサーを温溶媒で処理してもよい。温溶媒は、ノビレチン及びタンゲレチン可溶性の溶媒、例えば上記各エタノールを、50~70℃としたものである。処理時間は2時間以上、より好ましくは4~8時間である。処理後、溶液をろ過などの固液分離手段で回収する。
(3)(1)又は(2)により回収した溶液を、濃縮、乾燥、又はその両方をする。濃縮は例えばロータリーエバポレーターで、乾燥は凍結乾燥すればよい。
(4)ノビレチン及びタンゲレチン濃縮物を希アルカリで処理することにより、不溶性成分として、ノビレチン及びタンゲレチン含有物を得る。希アルカリは、ノビレチン及びタンゲレチンを分解しないものであれば特に制限はないが、例えば、0.1~20w/v%水酸化ナトリウム水溶液、より好ましくは0.5~20w/v%水酸化ナトリウム水溶液、さらに好ましくは1~3w/v%水酸化ナトリウム水溶液である。処理期間は1~6日間がより好ましい。また1~2日間撹拌することもより好ましい。
不溶性成分を回収し、本発明のポリアルコキシフラボノイド含有シークヮーサー抽出物とする。
なお、この抽出物は粗精製物であるので、ポリアルコキシフラボノイド以外にも、有機溶媒に可溶性の化合物が多数含まれていることが予想され、これらすべてを同定し、特定することは不可能・非実際的である。
【0019】
(II)ポリアルコキシフラボノイド含有シークヮーサー抽出物には、ポリアルコキシフラボノイド以外にも、ポリフェノールも含まれることが予想され、ポリアルコキシフラボノイドとの相乗効果が生じる可能性もある。
【0020】
(III)得られた、抽出物を、さらに、逆相クロマトグラフィーで精製することにより、ノビレチン、タンゲレチンを得ることができる。
【0021】
(IV)また、市販品と同様に、化学合成して製造してもよい(参考文献2)。
参考文献2:Tomohiro Asakawa, Chem Comm, DOI: 10.1039/c0cc04936k
【0022】
3.本発明の抗ウイルス用組成物の製品への応用について
(1)医薬組成物
本発明の抗ウイルス用組成物は医薬組成物として使うことが出来る。医薬組成物とするときの添加物は、医薬品添加物として認められるものであれば特に制限はないが、たとえば、グルコース、スクロース、ラクトース、セルロース類、D-マンニトール、マルチトール、デキストラン、デンプン類、寒天、キチン類、キトサン類、ペクチン類、トランガム類、アラビアゴム類、ゼラチン類、コラーゲン類、カゼイン、アルブミン、リン酸カルシウム、ソルビトール、グリシン、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、グリセリン、ポリエチレングリコール、炭酸水素ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク等が用いてもよい
さらに、オリーブ油、トウモロコシ油、ヒマシ油等、ワセリン、白色ワセリン、固形パラフィン等)、ロウ類(ホホバ油、カルナバロウ、ミツロウ等)、合成グリセリン脂肪酸エステル(ラウリル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸等)等が用いてもよい。
加えて、塩化ナトリウム、グリセリン、オリーブ油、プロピレングリコール、エチルアルコール等を用いてもよい。注射剤とする場合は、無菌の水溶液、たとえば生理食塩水、等張液、油性液、たとえばゴマ油、大豆油が用いてもよい。
【0023】
医薬組成物の剤型も特に制限はなく、例えば、錠剤、粉末剤、点眼剤などいずれでよい。
【0024】
(2)食品用組成物
本発明の抗ウイルス用組成物は、食品用組成物として、食品に混ぜて使うことができる。食品は、一般食品、健康食品(機能性飲食品)、保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品)のいずれでもよい。
本発明の食品用組成物は、例えば、原料に混合して、あめ、トローチを製造したり、粉末状にして食品に振りかけたり、添加物を加えて錠剤としサプリメントとして使用したりする。また、ペット用のえさに混ぜて使用してもよい
【0025】
(3)衛生用品への使用
衛生用品とは、感染症等からヒトや動物の健康を守るために、自分の体や、周囲の環境や清潔に保つための商品である。例えば、マスク、拭き掃除に使うシート、抗菌スプレーなどが挙げられる。これら衛生用品に、本発明の組成物を衛生用品に含ませたり、混合したりすればよい。たとえば、マスクに含侵させたり、抗菌スプレーの成分とすればよい。
【実施例0026】
実施例1 本発明のポリアルコキシフラボノイド含有シークヮーサー抽出物、ノビレチン、及びタンゲレチンの製造
本発明のポリアルコキシフラボノイド含有シークヮーサー抽出物の抽出は、既に報告されている方法(参考文献1)を参照して実施した。即ち、原料である沖縄県産シークヮーサーの搾汁残渣500g(湿重量)に1800mlの蒸留水を加えて、約70℃で3時間加熱処理した。自然冷却後に、保留粒子径3μmの濾紙を敷いたブフナーロートで吸引濾過することで残渣を濾別した。このようにして得られた残渣300gを、約60℃でドライヤーを用いて30分間乾燥させ、乾燥果皮150gを得た。ここに、重量の2倍容の300mlの30%(v/v)エタノールを加えて、室温で3日間抽出した。次いで、保留粒子径3μmの濾紙を敷いたブフナーロートで吸引濾過し、残渣を濾別し、濾液をロータリーエバポレータで約30℃にて約60分間濃縮することで3.2gの濃縮液を得た。得られた濃縮液に、10倍容の32mlの1%(w/v)水酸化ナトリウム水溶液を加えて、室温にて1日間、スターラーを用いて撹拌した。その後、保留粒子径3μmの濾紙を用いてロートで自然濾過することで可溶性成分と不溶性成分を分離し、得られた不溶性成分を2倍容の水で洗浄した。残った不溶性成分を5~10倍容のエタノールで溶出させた後、エタノール溶出部分をブフナーロートで吸引濾過し、残渣を濾別し、得られた濾液をロータリーエバポレータで約30℃にて約60分間濃縮することで主にノビレチン、タンゲレチンを含む不溶性成分としてポリアルコキシフラボノイド66mgを得た。これを、本発明のポリアルコキシフラボノイド含有シークヮーサー抽出物とした。
さらに、このポリアルコキシフラボノイド含有シークヮーサー抽出物を、高速液体カラムクロマトグラフィーに負荷し、カラムInertsil(登録商標) ODS-HL (20×250mm)、移動相 0.1%トリフルオロ酢酸含有75% メタノール水溶液、流速5.0ml/min、検出UV215nmの条件で、保持時間40分および55分のピークを分取して、さらに溶媒を濃縮乾固することでノビレチン(40min)34.0mgおよびタンゲレチン(55min)16.8 mgを製造した。ピークはシャープで化合物は純化されていた。分取した化合物の同定はNMRで行った。
【0027】
実施例2 ウイルスRNAを指標とした抗SARS-CoV-2活性、及び細胞毒性の測定
(1)実験材料と実験方法
サンプルとして実施例1で製造した、ポリアルコキシフラボノイド含有シークヮーサー抽出物、抽出物から精製したノビレチン、タンゲレチンを用いた。コントロールサンプルとして、抗ウイルス活性を持つエピガロカテキンガレート(EGCG)を用いた。
抗SARS-CoV-2活性の測定は藤井らの方法(参考文献3)に従って行った。ウイルス株はSARS-CoV-2:KUH003 (Accession number LC630936)を用いた。感染させる細胞はVero E6/TMPRSS2(JCRB Cell Bankより購入)を用い、ダルベッコ変法イーグル培地(500ml、4.5g/l グルコース、L-グルタミン含有、ピルビン酸不含)(ナカライテスク、08459-64)に5mlペニシリン-ストレプトマイシン(ナカライテスク、44284-24)を添加した培地を基本として、予め56℃、30分で非働化したFBS(Biosera、FB-1365/500、Lot10259)を通常培養時10%、感染時2%添加した培地で培養した。またウイルス由来核酸の検出・定量にはRT-qPCR:SARS-CoV-2 Detection Kit -N2 set-(東洋紡、NC V-302)を用いた。化合物の50%阻止濃度(IC50値)は化合物濃度作用曲線より求めた。
参考文献3:Ebisudani T, Sugimoto S, Haga K, Mitsuishi A, Takai-Todaka R, Fujii M, et al. Direct derivation of human alveolospheres for SARS-CoV-2 infection modeling and drug screening. Cell Rep. 2021:109218. Epub 2021/05/27. doi: 10.1016/j.celrep.2021.109218. PubMed PMID: 34038715.
【0028】
Vero/TMPRSS2細胞を96ウェルプレートに100%コンフルエント(1.2×10cell/well)となるように播種した。ウイルス感染前に2%FBS添加培地に交換しておいた。細胞にSARS-CoV-2ウイルスKUH003株をMOI=0.05で感染させた。37度、5%CO存在下で1時間培養後、ウイルスを含む上清を除き、2%FBS添加ダルベッコ変法イーグル培地200μlで細胞を1回洗浄した。サンプルを含む培地200μlを細胞に添加し、37度、5%CO存在下で24時間培養した。続いて上清中のウイルスRNA量をqPCR法により解析した。サンプル濃度を横軸に、培養後のウイルスRNA量を縦軸にとってグラフを作成し、ウイルスRNA量を、サンプルを添加しないときと比べ半減させるサンプル濃度を化合物の50%阻止濃度(IC50値)とした。
また上記の手順でウイルス感染させずにサンプルを含む培地を細胞に添加し、37度、5%CO存在下で24時間培養後、CellTiter-Gro2.0Cell Viability Assay kit(Promega,USA)を用いて細胞毒性も測定した。この場合もサンプル濃度を横軸に、サンプル添加直前の細胞数を分母とした細胞生存率を縦軸にとってグラフを作成し、細胞生存率が半減したときの、サンプル濃度を、IC50値とした。
【0029】
(2)結果
ポリアルコキシフラボノイド含有シークヮーサー抽出物、もしくはノビレチンもしくはタンゲレチンを含む培地で培養した細胞の上清中ウイルスRNA量は、サンプルが含まれない培地を使用した場合に比べ減少した。
カテキン類やポリフェノール類の中でも、抗ウイルス活性が高いエピガロカテキンガレート(EGCG)と比較し、ポリアルコキシフラボノイド含有シークヮーサー抽出物とノビレチンは2倍程度、タンゲレチンは同程度の抗新型コロナウイルス活性であった(表1)。
抗SARS-CoV-2活性および細胞毒性は下記表1に示す通りであった。
活性濃度と細胞毒性濃度の差が、EGCGは3倍程度なのに対し、シークヮーサー抽出物は7倍、ノビレチンは50倍以上、タンゲレチンは25倍以上で、大変に優れていることが分かった。
【0030】
【表1】
【0031】
実施例3 細胞変性を指標とした抗SARS-CoV-2活性の測定
上記実験で十分にポリアルコキシフラボノイドの抗新型コロナウイルス活性を示すことが出来たが、より高次の試験系でも活性を検討した。
(1)実験材料と実験方法
サンプルとして実施例1で製造したシークヮーサー抽出物から精製したノビレチン、タンゲレチンを用いた。
本発明に用いたポリアルコキシフラボノイドの抗SARS-CoV-2活性の測定は藤井らの方法(参考文献4)に従って行った。ウイルス株はSARS-CoV-2:JPN/TY/WK-521 (Accession number LC630936)を用いた。すなわち、宿主細胞のモデルとしてアフリカミドリザル腎臓上皮細胞Vero細胞及びTMPRSS2を遺伝子導入されたVeroE6/TMPRSS2細胞を5%牛胎児血清(FCS)及び抗生物質添加DMEM培地にて維持、継代培養を行ったものを用いた。
参考文献4:Ebisudani T, Sugimoto S, Haga K, Mitsuishi A, Takai-Todaka R, Fujii M, et al. Direct derivation of human alveolospheres for SARS-CoV-2 infection modeling and drug screening. Cell Rep. 2021:109218. Epub 2021/05/27. doi: 10.1016/j.celrep.2021.109218. PubMed PMID: 34038715.
【0032】
アフリカミドリザル腎臓上皮細胞Vero細胞を5%FCS-DMEMにて2×10cells/wellになる様に細胞浮遊液を調整し、96well平底プレートに播種した。37℃、5%CO存在下にて一晩培養し培養上清を除去した後に、各wellに2%FCS-DMEMで200pfu/mlに調整したSARS-CoV-2(JPN/TY/WK-521株)を100μl添加した。37℃、5%CO存在下にて1時間培養した後にウイルス液を除去し、2%FCS-DMEMを用いて各wellを洗浄した。その後、DMSOで調整したノビレチン溶液(5mg/ml)を用いて、DMSOと2%FCS-DMEMにより2倍階段希釈した溶液(0.1~0.0016mg/ml)を調整した。これらのノビレチン調整液を各wellに100μlずつ添加し、37℃、5%CO存在下にて48時間培養した。48時間経過後、培養上清を回収し2%FCS-DMEMで10倍階段希釈したウイルス液を調整、これらのウイルス液を96well平底プレートに播種した高感受性のVeroE6/TMPRSS2細胞に添加した。72時間後、プレートから培養上清を除去しメタノールで固定、細胞を0.5%メチレンブルー溶液により染色した。細胞変性効果(CPE)が観察されたwell数をカウントした。サンプル濃度を横軸に、細胞変性well数を縦軸にとって、グラフを作成し、細胞変性well数を98wellの半分の48wellに抑えたときのサンプル濃度を、感染性ウイルスの感染価(50% Tissue Culture Infectious Dose:TCID50/ml)として評価した。また、タンゲレチンについても同様の試験を行った。
【0033】
(2)結果
TICD50の値はともに、50μg/ml以下で、ノビレチン、タンゲレチンともに十分な抗ウイルス活性を有していた。
【0034】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明によれば、安全性が高く、抗ウイルス作用が高い、医薬品、食品、衛生用品を提供できるので、医薬品業界、食品業界、衛生用品業界に有用である。