(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024096205
(43)【公開日】2024-07-12
(54)【発明の名称】コンパウンド、成型体及び硬化物
(51)【国際特許分類】
C08L 63/00 20060101AFI20240705BHJP
C08K 3/08 20060101ALI20240705BHJP
C08K 5/04 20060101ALI20240705BHJP
【FI】
C08L63/00 C
C08K3/08
C08K5/04
【審査請求】有
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024070522
(22)【出願日】2024-04-24
(62)【分割の表示】P 2021524745の分割
【原出願日】2020-05-20
(31)【優先権主張番号】P 2019104677
(32)【優先日】2019-06-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(72)【発明者】
【氏名】井上 英俊
(72)【発明者】
【氏名】小野 雄大
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 由則
(57)【要約】
【課題】流動性及び充填性に優れたコンパウンドを提供すること。
【解決手段】コンパウンドは、金属粉とエポキシ樹脂とワックスとを含み、金属粉の含有量が、96質量%以上100質量%未満であり、ワックスが、ラウリン酸の金属塩、ステアリン酸の金属塩、及びケン化モンタン酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも一種を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属粉とエポキシ樹脂とワックスとを含み、
前記金属粉の含有量が、96質量%以上100質量%未満であり、
前記ワックスが、ラウリン酸の金属塩、ステアリン酸の金属塩、及びケン化モンタン酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも一種を含む、
コンパウンド。
【請求項2】
前記ワックスが、前記ラウリン酸の金属塩及び前記ケン化モンタン酸エステルを含む、
請求項1に記載のコンパウンド。
【請求項3】
前記ラウリン酸の金属塩、前記ステアリン酸の金属塩、及び前記ケン化モンタン酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも一種が、亜鉛を含む、
請求項1又は2に記載のコンパウンド。
【請求項4】
前記ラウリン酸の金属塩、前記ステアリン酸の金属塩、及び前記ケン化モンタン酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも一種が、アルカリ金属元素及びアルカリ土類金属元素からなる群より選ばれる少なくともいずれか一種を含む、
請求項1又は2に記載のコンパウンド。
【請求項5】
前記ケン化モンタン酸エステルが、カルシウムを含む、
請求項1又は2に記載のコンパウンド。
【請求項6】
前記ケン化モンタン酸エステルが、部分ケン化モンタン酸エステルである、
請求項1~5のいずれか一項に記載のコンパウンド。
【請求項7】
前記部分ケン化モンタン酸エステルのケン化価が、102mgKOH/g以上122mgKOH/g以下である、
請求項6に記載のコンパウンド。
【請求項8】
トランスファー成型に用いられる、
請求項1~7のいずれか一項に記載のコンパウンド。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載のコンパウンドを含む、
成型体。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか一項に記載のコンパウンドの硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンパウンド、成型体及び硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
金属粉及び熱硬化性樹脂を含むコンパウンドは、金属粉の諸物性に応じて、例えば、インダクタ、電磁波シールド、又はボンド磁石等の多様な工業製品の原材料として利用される(下記特許文献1参照。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
コンパウンドから工業製品を製造する場合、流路を通じてコンパウンドを型内へ供給及び充填したり、コイル等の部品を型内のコンパウンド中に埋め込んだりする。これらの工程ではコンパウンドの流動性が要求される。しかしながら、コンパウンド中の金属粉の含有量が96質量%以上である場合、コンパウンドの流動性が顕著に低減する。特にコンパウンドの流路の高さ(深さ)が1mm以下である場合、金属粉の含有量が大きいコンパウンドは流動し難い。またコンパウンド中の金属粉の含有量が96質量%以上である場合、コンパウンドは型内へ充填され難い。例えば、ミリメートル以下のスケールで微細なキャビティー(cavity)が型に形成されている場合、金属粉の含有量が大きいコンパウンドはキャビティー内へ均一に充填され難い。近年の電子機器の小型化に伴って、電子機器に搭載される素子(device)の寸法は小さくなっている。したがって、素子の製造にコンパウンドを用いる場合、コンパウンドが狭い流路内で流動し、狭い流路を経たコンパウンドが微細なキャビティーへ均一に充填されることが必要である。
【0005】
本発明の目的は、流動性(flowability)及び充填性(fillability)に優れたコンパウンド、コンパウンドを含む成型体、及びコンパウンドの硬化物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面に係るコンパウンド(cоmpоund)は、金属粉とエポキシ樹脂とワックスとを含み、金属粉の含有量が、96質量%以上100質量%未満であり、ワックスが、ラウリン酸の金属塩、ステアリン酸の金属塩、及びケン化(saponified)モンタン酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも一種を含む。
【0007】
ワックスが、ラウリン酸の金属塩及びケン化モンタン酸エステルを含んでよい。
【0008】
ラウリン酸の金属塩、ステアリン酸の金属塩、及びケン化モンタン酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも一種が、亜鉛を含んでよい。
【0009】
ラウリン酸の金属塩、ステアリン酸の金属塩、及びケン化モンタン酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも一種が、アルカリ金属元素及びアルカリ土類金属元素からなる群より選ばれる少なくともいずれか一種を含んでよい。
【0010】
ケン化モンタン酸エステルが、カルシウムを含んでよい。
【0011】
ケン化モンタン酸エステルが、部分ケン化モンタン酸エステルであってよい。
【0012】
部分ケン化モンタン酸エステルのケン化価(saponification value)が、102mgKOH/g以上122mgKOH/g以下であってよい。
【0013】
コンパウンドは、トランスファー成型に用いられてよい。
【0014】
本発明の一側面に係る成型体は、上記のコンパウンドを含む。
【0015】
本発明の一側面に係る硬化物は、上記のコンパウンドの硬化物である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、流動性及び充填性に優れたコンパウンド、コンパウンドを含む成型体、及びコンパウンドの硬化物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、コンパウンドの流動性を評価するためのフローテスタの模式的な断面図である。
【
図2】
図2中の(a)及び
図2中の(b)は、コンパウンドの充填性を評価するための金型の模式的な断面図である。
【
図3】
図3は、
図2中の(a)及び
図2中の(b)に示される金型の上面の模式図である。
【
図4】
図4は、
図2中の(a)、
図2中の(b)及び
図3に示される金型を用いて形成された成型体の上面の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施形態が説明される。ただし、本発明は下記実施形態に何ら限定されるものではない。
【0019】
<コンパウンドの概要>
本実施形態に係るコンパウンドは、少なくとも金属粉とエポキシ樹脂とワックスとを含む。金属粉は、複数(多数)の金属粒子から構成される。金属粉は、例えば、金属単体、合金、アモルファス粉及び金属化合物(metallic chemical cоmpоund)からなる群より選ばれる少なくとも一種を含有してよい。コンパウンドは、金属粉、エポキシ樹脂及びワックスに加えて、他の成分を更に含有してよい。例えば、コンパウンドは硬化剤を更に含有してよい。コンパウンドは硬化促進剤を更に含有してよい。コンパウンドは添加剤を更に含有してよい。添加剤は、例えば、カップリング剤、又は難燃剤等であってよい。以下に記載の「樹脂組成物」とは、エポキシ樹脂及びワックスを包含する成分である。樹脂組成物は、エポキシ樹脂、ワックス、硬化剤、硬化促進剤及び添加剤を包含し得る成分であって、金属粉と有機溶媒とを除く残りの成分(不揮発性成分)であってよい。
【0020】
樹脂組成物は、金属粉を構成する各金属粒子の表面に付着していてよい。樹脂組成物は、各金属粒子の表面の一部を覆っていてもよく、当該粒子の表面の全体を覆っていてもよい。コンパウンドは、金属粉と、未硬化の樹脂組成物と、を備えてよい。コンパウンドは、金属粉と、樹脂組成物の半硬化物(例えばBステージの樹脂組成物)と、を備えてよい。コンパウンドは、未硬化の樹脂組成物、及び樹脂組成物の半硬化物の両方を備えてもよい。コンパウンドは粉末であってよい。コンパウンドはタブレットであってもよい。コンパウンドはペーストであってもよい。
【0021】
コンパウンドに含まれるワックスは、ラウリン酸の金属塩、ステアリン酸の金属塩、及びケン化モンタン酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも一種を含む。ワックスは、コンパウンドの流動性を向上させる。またワックスは離型剤として機能する。ラウリン酸の金属塩及びステアリン酸の金属塩及びケン化モンタン酸エステル其々は、金属石鹸であってよい。コンパウンドは、ラウリン酸の金属塩、ステアリン酸の金属塩、及びケン化モンタン酸エステルからなる群より選ばれる一種のワックスのみを含んでよい。コンパウンドは、ラウリン酸の金属塩、ステアリン酸の金属塩、及びケン化モンタン酸エステルからなる群より選ばれる複数種のワックスを含んでもよい。
【0022】
コンパウンド中の金属粉の含有量は、96質量%以上100質量%未満である。コンパウンド中の金属粉の含有量は、好ましくは、96質量%以上99.8質量%以下、96質量%以上99質量%以下、96質量%以上98質量%以下、又は96.1質量%以上97.5質量%以下であってよい。金属粉の含有量の増加に伴い、コンパウンドにおける金属粉の充填率が増加し、コンパウンドの比透磁率が増加する。高い比透磁率を有するコンパウンドは、例えば、インダクタ用の封止材、又はインダクタの磁心の原料に適している。しかしながら、仮にワックスを含まないコンパウンド中の金属粉の含有量が96質量%以上である場合、コンパウンドの流動性は顕著に低減する。一方、本実施形態に係るコンパウンドは、ワックスとして、ラウリン酸の金属塩、ステアリン酸の金属塩、及びケン化モンタン酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも一種を含む。その結果、コンパウンド中の金属粉の含有量が96質量%以上であるにもかかわらず、本実施形態に係るコンパウンドは流動性において従来のコンパウンドによりも優れている。例えば、コンパウンドの流路の高さ(深さ)が1mm以下である場合であっても、本実施形態に係るコンパウンドは容易に流動することができる。仮に従来のコンパウンドが上記のワックスとは異なるワックスを含み、且つ従来のコンパウンド中のワックスの含有量の合計が本実施形態に係るコンパウンド中のワックスの含有量の合計と同じであったとしても、従来のコンパウンドは流動性において本実施形態に係るコンパウンドに著しく劣る。
【0023】
仮にワックスを含まないコンパウンド中の金属粉の含有量が96質量%以上である場合、コンパウンドは型内へ充填され難い。一方、本実施形態に係るコンパウンドは、ワックスとして、ラウリン酸の金属塩、ステアリン酸の金属塩、及びケン化モンタン酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも一種を含む。その結果、コンパウンド中の金属粉の含有量が96質量%以上であるにもかかわらず、本実施形態に係るコンパウンドは、充填性において従来のコンパウンドによりも優れている。例えば、ミリメートル以下のスケールで微細なキャビティーが型に形成されている場合、本実施形態に係るコンパウンドはキャビティー内へ均一に充填され易い。仮に従来のコンパウンドが上記のワックスとは異なるワックスを含み、且つ従来のコンパウンド中のワックスの含有量の合計が本実施形態に係るコンパウンド中のワックスの含有量の合計と同じであったとしても、従来のコンパウンドは充填性において本実施形態に係るコンパウンドに著しく劣る。
【0024】
コンパウンドの流動性の低下は、金属粉と樹脂組成物との間の摩擦、及び金属粉を構成する金属粒子間の摩擦に起因する。そして、コンパウンド中の金属粉の含有量が96質量%以上である場合、金属粒子間の摩擦が顕著になる。しかし、ラウリン酸の金属塩、ステアリン酸の金属塩、又はケン化モンタン酸エステルが、金属粒子間の摩擦を低減する。金属粒子間の摩擦が低減されるメカニズムは、以下の通りである、と推測される。ラウリン酸の金属塩、ステアリン酸の金属塩、及びケン化モンタン酸エステル其々の分子は金属を含むため、各分子内において分極が生じ易い。つまり、ラウリン酸の金属塩、ステアリン酸の金属塩、及びケン化モンタン酸エステル其々の分子は極性を有し易い。したがって、ラウリン酸の金属塩、ステアリン酸の金属塩、及びケン化モンタン酸エステルは、他のワックスに比べて、金属粒子の表面に吸着又は配位し易い。その結果、金属粒子間の摩擦が低減される。またラウリン酸の金属塩、ステアリン酸の金属塩、及びケン化モンタン酸エステル其々が有する比較的長い炭素鎖が、流動性に寄与する。これらの理由により、コンパウンドの流動性が向上する。流動性の向上に伴い、充填性も向上する。ただし、コンパウンドの流動性及び充填性が向上するメカニズムは、上記のメカニズムに限定されない。
【0025】
上述の通り、本実施形態に係るコンパウンドは流動性及び充填性において優れている。したがって、本実施形態に係るコンパウンドは、狭い流路内を流れた後、型に形成された微細なキャビティー内へ均一に充填され易い。
【0026】
<コンパウンドの組成の詳細>
(ワックス)
ケン化モンタン酸エステルは、部分ケン化モンタン酸エステルであってよい。部分ケン化モンタン酸エステルとは、モンタン酸エステル及びモンタン酸の金属塩の混合物と言い換えられてよい。部分ケン化モンタン酸エステルは更にアルコール(例えばグリセリン)を含んでよい。アルコールは、モンタン酸エステルのケン化によって生成する。モンタン酸エステルのケン化とは、アルカリによるモンタン酸エステルの加水分解と言い換えられてよい。ケン化モンタン酸エステル(特に部分ケン化モンタン酸エステル)は、金属粉の含有量が96質量%以上であるコンパウンドの流動性及び充填性を向上させる点において、ケン化されていないモンタン酸エステルよりも優れている。部分ケン化モンタン酸エステルのケン化価は、102mgKOH/g以上122mgKOH/g以下であってよい。ケン化価が上記の範囲内である部分ケン化モンタン酸エステルは、金属粉の含有量が96質量%以上であるコンパウンドの流動性及び充填性を向上させる点において、ケン化価が上記の範囲外である部分ケン化モンタン酸エステルよりも優れている。
【0027】
ケン化モンタン酸エステルは、カルシウムを含んでよい。つまり、ケン化モンタン酸エステルは、モンタン酸カルシウムを含んでよい。モンタン酸カルシウムを含むケン化モンタン酸エステルは、金属粉の含有量が96質量%以上であるコンパウンドの流動性及び充填性を向上させる点において、モンタン酸カルシウム以外の金属塩を含むケン化モンタン酸エステルによりも優れている。
【0028】
ワックスは、ラウリン酸の金属塩及びケン化モンタン酸エステルの両方を含んでよい。ラウリン酸の金属塩及びケン化モンタン酸エステルの両方を含むコンパウンドは、ラウリン酸の金属塩、ステアリン酸の金属塩、及びケン化モンタン酸エステルからなる群より選ばれる一種のみを含むコンパウンドに比べて、流動性に優れる傾向がある。
【0029】
コンパウンド中のラウリン酸の金属塩の質量がMLであり、コンパウンド中のケン化モンタン酸エステルの質量がMMであり、ML/MMが1/3以上6/1以下、好ましくは1/2以上4/1以下、より好ましくは1.0以上2.0以下であってよい。コンパウンド中の金属粉の含有量の増加に伴って、コンパウンドから形成された成型体の離型性が劣化する傾向がある。しかし、ML/MMが上記範囲内であることにより、成型体の離型性が向上する。
【0030】
ラウリン酸の金属塩、ステアリン酸の金属塩、及びケン化モンタン酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも一種は、亜鉛(Zn)を含んでよい。換言すれば、ラウリン酸の金属塩はラウリン酸亜鉛であってよい。ステアリン酸の金属塩はステアリン酸亜鉛であってよい。ケン化モンタン酸エステルに含まれるモンタン酸の金属塩は、モンタン酸亜鉛であってよい。ラウリン酸亜鉛及びステアリン酸亜鉛は、金属粉の含有量が96質量%以上であるコンパウンドの流動性及び充填性を向上させる点において、他の金属石鹸によりも優れている。
【0031】
ラウリン酸の金属塩、ステアリン酸の金属塩、及びケン化モンタン酸エステル(モンタン酸の金属塩)からなる群より選ばれる少なくとも一種は、アルカリ金属元素及びアルカリ土類金属元素からなる群より選ばれる少なくともいずれか一種を含んでよい。アルカリ金属元素は、例えば、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)及びセシウム(Ce)からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。アルカリ土類金属元素は、例えば、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)及びバリウム(Ba)のからなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。ラウリン酸の金属塩、ステアリン酸の金属塩、及びケン化モンタン酸エステル(モンタン酸の金属塩)からなる群より選ばれる少なくとも一種が、アルミニウム(Al)及びマグネシウム(Mg)のうち少なくとも一種を含んでもよい。
【0032】
コンパウンドにおけるラウリン酸の金属塩、ステアリン酸の金属塩、及びケン化モンタン酸エステルの含有量の合計は、エポキシ樹脂100質量部に対して、2質量部以上20質量部以下、又は2質量部以上15質量部以下であってよい。ラウリン酸の金属塩、ステアリン酸の金属塩、及びケン化モンタン酸エステルの含有量の合計が上記の範囲内である場合、コンパウンドの流動性及び充填性が向上し易く、コンパウンドから形成された成型体の機械的強度が増加し易く、成型体の離型性が向上し易い。
【0033】
コンパウンドは、ラウリン酸の金属塩、ステアリン酸の金属塩、及びケン化モンタン酸エステルからなる群より選ばれるワックスに加えて、他のワックスを更に含んでもよい。コンパウンドの流動性、充填性、離型性、成型時の温度及び圧力、並びにワックスの融点、滴点及び溶融粘度等に応じて、他のワックスが適宜選択されてよい。
【0034】
例えば、他のワックスは、カルナバワックス、パラフィンワックス、アマイドワックス、エステルワックス、マイクロワックス、ポリエチレン、ポリプロピレン、酸化ポリエチレン、グラフト型ポリオレフィン、コポリマー、ラウリン酸、ステアリン酸、モンタン酸、12-アセチルオキシステアリン酸、12-アセチルオキシステアリン酸エステル、12-アセチルオキシステアリン酸の金属塩、リノール酸、リノール酸エステル、リノール酸の金属塩、2-エチルヘキソイン酸亜鉛、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、ベヘン酸アミド、パルミチン酸アミド、ラウリン酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、ジステアリルアジピン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、ジオレイルアジピン酸アミド、N-ステアリルステアリン酸アミド、N-オレイルステアリン酸アミド、N-ステアリルエルカ酸アミド、メチロールステアリン酸アミド、メチロールベヘン酸アミド、エチレングリコール、ステアリルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、シリコーンオイル、シリコングリース、フッ素系オイル、及びフッ素系グリースからなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。
【0035】
(樹脂組成物)
樹脂組成物は、金属粉を構成する金属粒子の結合材(バインダ)としての機能を有し、コンパウンドから形成される成型体に機械的強度を付与する。例えば、コンパウンドに含まれる樹脂組成物は、金型を用いてコンパウンドが高圧で成型される際に、金属粒子の間に充填され、各金属粒子を互いに結着する。成型体中の樹脂組成物の硬化により、樹脂組成物の硬化物が金属粒子同士を更に強固に結着して、機械的強度に優れたコンパウンドの硬化物が得られる。
【0036】
コンパウンド中の樹脂組成物の含有量は、0質量%より大きく4質量%以下、好ましくは、0.2質量%以上4質量%以下、1質量%以上4質量%以下、2質量%以上4質量%以下、又は2.5質量%以上3.9質量%以下であってよい。
【0037】
樹脂組成物は、熱硬化性樹脂として、少なくともエポキシ樹脂を含有する。コンパウンドが、熱硬化性樹脂の中でも比較的に流動性に優れたエポキシ樹脂を含むことにより、コンパウンドの流動性、充填性、保存安定性、及び成型性が向上する。ただし、本発明の効果が阻害されない限りにおいて、コンパウンドはエポキシ樹脂に加えて他の樹脂を含んでもよい。例えば、樹脂組成物は、熱硬化性樹脂として、フェノール樹脂及びポリアミドイミド樹脂のうち少なくも一種を含んでもよい。樹脂組成物がエポキシ樹脂及びフェノール樹脂の両方を含む場合、フェノール樹脂はエポキシ樹脂の硬化剤として機能してもよい。樹脂組成物は、熱硬化性樹脂に加えて、熱可塑性樹脂を更に含んでもよい。熱可塑性樹脂は、例えば、アクリル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、及びゴム(エラストマ)からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。樹脂組成物は、シリコーン樹脂を含んでもよい。
【0038】
エポキシ樹脂は、例えば、1分子中に2個以上のエポキシ基を有する樹脂であってよい。エポキシ樹脂は、例えば、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニレンアラルキル型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、ジフェニルメタン型エポキシ樹脂、硫黄原子含有型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、サリチルアルデヒド型エポキシ樹脂、ナフトール類とフェノール類との共重合型エポキシ樹脂、アラルキル型フェノール樹脂のエポキシ化物、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ビスフェノール骨格を含有するエポキシ樹脂、アルコール類のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、パラキシリレン及び/又はメタキシリレン変性フェノール樹脂のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、テルペン変性フェノール樹脂のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、シクロペンタジエン型エポキシ樹脂、多環芳香環変性フェノール樹脂のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、ナフタレン環含有フェノール樹脂のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジル型又はメチルグリシジル型のエポキシ樹脂、脂環型エポキシ樹脂、ハロゲン化フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ハイドロキノン型エポキシ樹脂、トリメチロールプロパン型エポキシ樹脂、及びオレフィン結合を過酢酸等の過酸で酸化して得られる線状脂肪族エポキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。
【0039】
流動性に優れている観点において、エポキシ樹脂は、ビフェニル型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ビスフェノール骨格を有するエポキシ樹脂、サリチルアルデヒドノボラック型エポキシ樹脂、及びナフトールノボラック型エポキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。
【0040】
エポキシ樹脂は、結晶性のエポキシ樹脂であってよい。結晶性のエポキシ樹脂の分子量は比較的低いにもかかわらず、結晶性のエポキシ樹脂は比較的高い融点を有し、且つ流動性に優れる。結晶性のエポキシ樹脂(結晶性の高いエポキシ樹脂)は、例えば、ハイドロキノン型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、チオエーテル型エポキシ樹脂、及びビフェニル型エポキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。結晶性のエポキシ樹脂の市販品は、例えば、エピクロン860、エピクロン1050、エピクロン1055、エピクロン2050、エピクロン3050、エピクロン4050、エピクロン7050、エピクロンHM‐091、エピクロンHM‐101、エピクロンN‐730A、エピクロンN‐740、エピクロンN‐770、エピクロンN‐775、エピクロンN‐865、エピクロンHP‐4032D、エピクロンHP‐7200L、エピクロンHP‐7200、エピクロンHP‐7200H、エピクロンHP‐7200HH、エピクロンHP‐7200HHH、エピクロンHP‐4700、エピクロンHP‐4710、エピクロンHP‐4770、エピクロンHP‐5000、エピクロンHP‐6000、N500P‐2、及びN500P‐10(以上、DIC株式会社製の商品名)、NC‐3000、NC‐3000‐L、NC‐3000‐H、NC‐3100、CER‐3000‐L、NC‐2000‐L、XD‐1000、NC‐7000‐L、NC‐7300‐L、EPPN‐501H、EPPN‐501HY、EPPN‐502H、EOCN‐1020、EOCN‐102S、EOCN‐103S、EOCN‐104S、CER‐1020、EPPN‐201、BREN‐S、BREN‐10S(以上、日本化薬株式会社製の商品名)、YX‐4000、YX‐4000H、YL4121H、及びYX‐8800(以上、三菱ケミカル株式会社製の商品名)からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。
【0041】
コンパウンドの成型収縮率が低減され易い観点から、樹脂組成物は、エポキシ樹脂として、イソシアネート変性エポキシ樹脂を含んでよい。イソシアネート変性エポキシ樹脂の市販品は、例えば、旭化成株式会社(旧旭化成イーマテリアルズ株式会社)製のAER‐4001であってよい。
【0042】
樹脂組成物は、上記のうち一種のエポキシ樹脂を含有してよい。樹脂組成物は、上記のうち複数種のエポキシ樹脂を含有してもよい。
【0043】
硬化剤は、低温から室温の範囲でエポキシ樹脂を硬化させる硬化剤と、加熱に伴ってエポキシ樹脂を硬化させる加熱硬化型硬化剤と、に分類される。低温から室温の範囲でエポキシ樹脂を硬化させる硬化剤は、例えば、脂肪族ポリアミン、ポリアミノアミド、及びポリメルカプタン等である。加熱硬化型硬化剤は、例えば、芳香族ポリアミン、酸無水物、フェノールノボラック樹脂、及びジシアンジアミド(DICY)等である。
【0044】
低温から室温の範囲でエポキシ樹脂を硬化させる硬化剤を用いた場合、エポキシ樹脂の硬化物のガラス転移点は低く、エポキシ樹脂の硬化物は軟らかい傾向がある。その結果、コンパウンドから形成された成型体も軟らかくなり易い。一方、成型体の耐熱性を向上させる観点から、硬化剤は、好ましくは加熱硬化型の硬化剤、より好ましくはフェノール樹脂、さらに好ましくはフェノールノボラック樹脂であってよい。特に硬化剤としてフェノールノボラック樹脂を用いることで、ガラス転移点が高いエポキシ樹脂の硬化物が得られ易い。その結果、成型体の耐熱性及び機械的強度が向上し易い。
【0045】
フェノール樹脂は、例えば、アラルキル型フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン型フェノール樹脂、サリチルアルデヒド型フェノール樹脂、ノボラック型フェノール樹脂、ベンズアルデヒド型フェノールとアラルキル型フェノールとの共重合型フェノール樹脂、パラキシリレン及び/又はメタキシリレン変性フェノール樹脂、メラミン変性フェノール樹脂、テルペン変性フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン型ナフトール樹脂、シクロペンタジエン変性フェノール樹脂、多環芳香環変性フェノール樹脂、ビフェニル型フェノール樹脂、及びトリフェニルメタン型フェノール樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。フェノール樹脂は、上記のうちの2種以上から構成される共重合体であってもよい。フェノール樹脂の市販品としては、例えば、荒川化学工業株式会社製のタマノル758、又は日立化成株式会社製のHP‐850N等を用いてもよい。
【0046】
フェノールノボラック樹脂は、例えば、フェノール類及び/又はナフトール類と、アルデヒド類と、を酸性触媒下で縮合又は共縮合させて得られる樹脂であってよい。フェノールノボラック樹脂を構成するフェノール類は、例えば、フェノール、クレゾール、キシレノール、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、フェニルフェノール及びアミノフェノールからなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。フェノールノボラック樹脂を構成するナフトール類は、例えば、α‐ナフトール、β‐ナフトール及びジヒドロキシナフタレンからなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。フェノールノボラック樹脂を構成するアルデヒド類は、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ベンズアルデヒド及びサリチルアルデヒドからなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。
【0047】
硬化剤は、例えば、1分子中に2個のフェノール性水酸基を有する化合物(chemical cоmpоund)であってもよい。1分子中に2個のフェノール性水酸基を有する化合物(chemical cоmpоund)は、例えば、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、及び置換又は非置換のビフェノールからなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。
【0048】
樹脂組成物は、上記のうち一種のフェノール樹脂を含有してよい。樹脂組成物は、上記のうち複数種のフェノール樹脂を備えてもよい。樹脂組成物は、上記のうち一種の硬化剤を含有してよい。樹脂組成物は、上記のうち複数種の硬化剤を含有してもよい。
【0049】
エポキシ樹脂中のエポキシ基と反応する硬化剤中の活性基(フェノール性OH基)の比率は、エポキシ樹脂中のエポキシ基1当量に対して、好ましくは0.5~1.5当量、より好ましくは0.6~1.4当量、さらに好ましくは0.8~1.2当量であってよい。硬化剤中の活性基の比率が0.5当量未満である場合、得られる硬化物の充分な弾性率が得られ難い。一方、硬化剤中の活性基の比率が1.5当量を超える場合、コンパウンドから形成された成型体の硬化後の機械的強度が低下する傾向がある。
【0050】
硬化促進剤は、例えば、エポキシ樹脂と反応してエポキシ樹脂の硬化を促進させる組成物であれば限定されない。硬化促進剤は、例えば、アルキル基置換イミダゾール、又はベンゾイミダゾール等のイミダゾール類であってよい。樹脂組成物は、一種の硬化促進剤を備えてよい。樹脂組成物は、複数種の硬化促進剤を備えてもよい。樹脂組成物が硬化促進剤を含有することにより、コンパウンドの成型性及び離型性が向上し易い。また、樹脂組成物が硬化促進剤を含有することにより、コンパウンドを用いて製造された成型体(例えば、電子部品)の機械的強度が向上したり、高温・高湿な環境下におけるコンパウンドの保存安定性が向上したりする。イミダゾール系硬化促進剤の市販品としては、例えば、2MZ‐H、C11Z、C17Z、1,2DMZ、2E4MZ、2PZ‐PW、2P4MZ、1B2MZ、1B2PZ、2MZ‐CN、C11Z‐CN、2E4MZ‐CN、2PZ‐CN、C11Z‐CNS、2P4MHZ、TPZ、及びSFZ(以上、四国化成工業株式会社製の商品名)からなる群より選ばれる少なくとも一種を用いてよい。
【0051】
硬化促進剤の配合量は、硬化促進効果が得られる量であればよく、特に限定されない。ただし、樹脂組成物の吸湿時の硬化性及び流動性を改善する観点からは、硬化促進剤の配合量は、100質量部のエポキシ樹脂に対して、好ましくは0.1質量部以上30質量部以下、より好ましくは1質量部以上15質量部以下であってよい。硬化促進剤の含有量は、エポキシ樹脂及び硬化剤(例えばフェノール樹脂)の質量の合計100質量部に対して0.001質量部以上5質量部以下であることが好ましい。硬化促進剤の配合量が0.1質量部未満である場合、十分な硬化促進効果が得られ難い。硬化促進剤の配合量が30質量部を超える場合、コンパウンドの保存安定性が低下し易い。
【0052】
カップリング剤は、樹脂組成物と、金属粉を構成する金属粒子との密着性を向上させ、コンパウンドから形成される成型体の可撓性及び機械的強度を向上させる。カップリング剤は、例えば、シラン系化合物(シランカップリング剤)、チタン系化合物、アルミニウム化合物(アルミニウムキレート類)、及びアルミニウム/ジルコニウム系化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。シランカップリング剤は、例えば、エポキシシラン、メルカプトシラン、アミノシラン、アルキルシラン、ウレイドシラン、酸無水物系シラン及びビニルシランからなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。特に、アミノフェニル系のシランカップリング剤が好ましい。樹脂組成物は、上記のうち一種のカップリング剤を含有してよく、上記のうち複数種のカップリング剤を含有してもよい。市販のカップリング剤は、例えば、ビニルトリメトキシシラン(KBM-1003)、ビニルトリエトキシシラン(KBE-1003)、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン(KBM-303)、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン(KBM-402)、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(KBM-403)、p-スチリルトリメトキシシラン(KBM-1403)、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン(KBM-502)、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(KBM-503)、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン(KBE-502)、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン(KBE-503)、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン(KBM-5103)、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン(KBM-602)、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(KBM-603)、3-アミノプロピルトリメトキシシラン(KBM-903)、3-アミノプロピルトリエトキシシラン(KBE-903)、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン(KBE-9103)、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(KBM-573)、N-ビニルベンジル-2-アミノエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩(KBM-575)、トリス-(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート(KBM-9659)、3-ウレイドプロピルトリアルコキシシラン(KBE-585)、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン(KBM-802)、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン(KBM-803)、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン(KBM-9007)、オクテニルトリメトキシシラン(KBM-1083)、グリシドキシオクチルトリメトキシシラン(KBM-4803)、メタクリロキシオクチルトリメトキシシラン(KBM-5803)、メチルトリメトキシシラン(KBM-13)、メチルトリエトキシシラン(KBE-13)、ジメチルジメトキシシラン(KBM-22)、ジメチルジエトキシシラン(KBE-22)、フェニルトリメトキシシラン(KBM-103)、フェニルトリエトキシシラン(KBE-103)、n-プロピルトリメトキシシラン(KBM-3033)、n-プロピルトリエトキシシラン(KBE-3033)、ヘキシルトリメトキシシラン(KBM-3063)、ヘキシルトリエトキシシラン(KBE-3063)、オクチルトリエトキシシラン(KBE-3083)、デシルトリメトキシシラン(KBM-3103C)、1,6-(トリメトキシシリル)ヘキサン(KBM-3066)、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン(KBM-7103)、ヘキサメチルジシラザン(SZ-31)、及び加水分解性基含有シロキサン(KPN-3504)(以上、信越化学工業株式会社製の商品名)からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。カップリング剤は、シリコーンアルコキシオリゴマー(アルコキシ基を有するシリコーンオリゴマー)であってもよい。シリコーンアルコキシオリゴマーは、メトキシ基及びエトキシ基のうちの少なくとも一種のアルコキシ基を有してよい。シリコーンアルコキシオリゴマーは、エポキシ基、メチル基、メルカプト基、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、及びフェニル基からなる群より選ばれる少なくとも一種の有機置換基を有してよい。シリコーンアルコキシオリゴマーは、例えば、KR-517、X-41-1059A、X-24-9590、KR-516、X-41-1805、X-41-1818、X-41-1810、KR-513、X-40-9296、KR-511、KC-89S、KR-515、KR-500、X-40-9225、X-40-9246、X-40-9250、KR-41N、X-40-9227、KR-510、KR-9218、及びKR-213(以上、信越化学工業株式会社製の商品名)からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。
【0053】
コンパウンドの環境安全性、リサイクル性、成型加工性及び低コストのために、コンパウンドは難燃剤を含んでよい。難燃剤は、例えば、臭素系難燃剤、鱗茎難燃剤、水和金属化合物系難燃剤、シリコーン系難燃剤、窒素含有化合物、ヒンダードアミン化合物、有機金属化合物及び芳香族エンプラからなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。樹脂組成物は、上記のうち一種の難燃剤を含有してよく、上記のうち複数種の難燃剤を含有してもよい。
【0054】
(金属粉)
金属粉は、充填材(フィラー)と言い換えられてよい。金属粉は、例えば、金属単体、及び合金からなる群より選ばれる少なくとも一種を含有してよい。金属粉は、例えば、金属単体、合金、アモルファス粉及び金属化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種からなっていてよい。合金は、固溶体、共晶及び金属間化合物(intermetallic chemcial compound)からなる群より選ばれる少なくとも一種を含んでよい。合金とは、例えば、ステンレス鋼(Fe‐Cr系合金、Fe‐Ni‐Cr系合金等)であってよい。金属粉は、一種の金属元素又は複数種の金属元素を含んでよい。金属粉に含まれる金属元素は、例えば、卑金属元素、貴金属元素、遷移金属元素、又は希土類元素であってよい。コンパウンドは、一種の金属粉を含んでよく、複数種の金属粉を含んでもよい。
【0055】
金属粉に含まれる金属元素は、例えば、鉄(Fe)、銅(Cu)、チタン(Ti)、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、スズ(Sn)、クロム(Cr)、バリウム(Ba)、ストロンチウム(Sr)、鉛(Pb)、銀(Ag)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)及びジスプロシウム(Dy)からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。金属粉は、金属元素以外の元素を含んでもよい。例えば、金属粉は、酸素(О)、ベリリウム(Be)、リン(P)、ホウ素(B)、又はケイ素(Si)を含んでもよい。金属粉は、磁性粉であってよい。金属粉は、軟磁性合金、又は強磁性合金であってよい。金属粉は、例えば、Fe‐Si系合金、Fe‐Si‐Al系合金(センダスト)、Fe‐Ni系合金(パーマロイ)、Fe‐Cu‐Ni系合金(パーマロイ)、Fe‐Co系合金(パーメンジュール)、Fe‐Cr‐Si系合金(電磁ステンレス鋼)、Nd‐Fe‐B系合金(希土類磁石)、Sm‐Fe‐N系合金(希土類磁石)、及びAl‐Ni‐Co系合金(アルニコ磁石)からなる群より選ばれる少なくとも一種からなる磁性粉であってよい。金属粉は、Cu‐Sn系合金、Cu‐Sn‐P系合金、Cu-Ni系合金、又はCu‐Be系合金等の銅合金であってもよい。金属粉は、一種類の元素及び組成物のみからなっていてよい。金属粉は、複数種の元素又は組成物を含んでもよい。
【0056】
金属粉は、Fe単体であってもよい。金属粉は、鉄を含む合金(Fe系合金)であってもよい。Fe系合金は、例えば、Fe‐Si‐Cr系合金、又はNd‐Fe‐B系合金であってよい。金属粉は、アモルファス系鉄粉及びカルボニル鉄粉のうち少なくともいずれかであってもよい。金属粉がFe単体及びFe系合金のうち少なくともいずれかを含む場合、高い占積率を有し、且つ磁気特性に優れるコンパウンドを作製し易い。金属粉は、Feアモルファス合金であってもよい。Feアモルファス合金粉の市販品としては、例えば、AW2‐08、KUAMET‐6B2(以上、エプソンアトミックス株式会社製の商品名)、DAP MS3、DAP MS7、DAP MSA10、DAP PB、DAP PC、DAP MKV49、DAP 410L、DAP 430L、DAP HYBシリーズ(以上、大同特殊鋼株式会社製の商品名)、MH45D、MH28D、MH25D、及びMH20D(以上、神戸製鋼株式会社製の商品名)からなる群より選ばれる少なくとも一種が用いられてよい。
【0057】
金属粉の平均粒子径は、特に限定されないが、例えば、1μm以上300μm以下であってよい。平均粒子径は、例えば粒度分布計によって測定されてよい。金属粉を構成する個々の金属粒子の形状は限定されないが、例えば、球状、扁平形状、角柱状又は針状であってよい。コンパウンドは、平均粒子径が異なる複数種の金属粉を備えてよい。
【0058】
<コンパウンドの用途>
コンパウンドは、トランスファー成型(移送成型)に用いられてよい。トランスファー成型は、熱硬化性樹脂の射出成型法の一種である。トランスファー成型は、圧送成型と言い換えられてよい。トランスファー成型は、コンパウンドを加熱室内で加熱して流動化させるステップと、流動化したコンパウンドを、湯道(casting runner)を通じて加熱室から金型内へ供給(圧入)するステップとを備えてよい。トランスファー成型は、コンパウンドを加熱室内で加熱して流動化させるステップと、流動化したコンパウンド粉を、加熱室からプランジャー内へ供給し、コンパウンドを、湯道を通じてプランジャーから金型内へ供給(圧入)するステップとを備えてよい。本実施形態に係るコンパウンドは、加熱によって優れた流動性及び充填性を示すため、細い湯道内を流れ易く、また金型内の空間(キャビティー)へ斑なく充填され易い。したがって、コンパウンドをトランスファー成型によって加工することにより、空隙又はバリ(burr)等の欠陥の少ない成型体及び硬化物を製造することが可能になる。コンパウンドの成型方法は、コンプレッション成型であってもよい。
【0059】
コンパウンドに含まれる金属粉の組成又は組合せに応じて、コンパウンドから形成される成型体及び硬化物其々の諸特性(例えば、電磁気的特性又は磁気特性)を自在に制御することができる。したがって、成型体及び硬化物を様々な工業製品又はそれらの原材料に利用することができる。コンパウンドから形成された成型体は、未硬化の樹脂組成物、及びBステージの樹脂組成物(樹脂組成物の半硬化物)のうち少なくともいずれかを含んでよい。成型体は、コンパウンドのみからなっていてよい。コンパウンドの硬化物又は成型体の硬化物は、Cステージの樹脂組成物(樹脂組成物の硬化物)を含んでいてよい。
【0060】
コンパウンドを用いて製造される工業製品は、例えば、自動車、医療機器、電子機器、電気機器、情報通信機器、家電製品、音響機器、及び一般産業機器であってよい。例えば、コンパウンドが金属粉としてSm‐Fe‐N系合金又はNd‐Fe‐B系合金等の永久磁石を含む場合、コンパウンドは、ボンド磁石の材料として利用されてよい。コンパウンドが金属粉としてFe‐Si‐Cr系合金等の軟磁性体を含む場合、コンパウンドは、インダクタ(例えばEMIフィルタ)又はトランスの材料(例えば封止材又は磁芯)として利用されてよい。コンパウンドから形成された成型体(例えばシート)は、電磁波シールドとして利用されてよい。
【0061】
<コンパウンドの製造方法>
金属粉と樹脂組成物とを加熱しながら混合することにより、コンパウンドが得られる。例えば、金属粉と樹脂組成物とを加熱しながらニーダー、ロール、攪拌機などで混練してよい。金属粉及び樹脂組成物の加熱及び混合により、樹脂組成物が金属粉を構成する各金属粒子の表面の一部又は全体に付着して、各金属粒子を被覆する。混錬により、樹脂組成物中のエポキシ樹脂の一部又は全部が半硬化物になってよい。
【0062】
例えば、金属粉、エポキシ樹脂、ワックス、フェノール樹脂等の硬化剤、硬化促進剤、及びカップリング剤を一括して槽内で混練してよい。金属粉及びカップリング剤を槽内で混合した後、金属粉、カップリング剤、ワックス、エポキシ樹脂、硬化剤、及び硬化促進剤を槽内で更に混練してもよい。金属粉、エポキシ樹脂、ワックス、硬化剤、カップリング剤を槽内で混練した後、これらの混合物及び硬化促進剤を更に槽内で混練してもよい。予め、エポキシ樹脂、ワックス、硬化剤、及び硬化促進剤を混合して、樹脂混合粉を作製してよい。予め、金属粉とカップリング剤とを混合して、金属混合粉を作製してよい。金属混合粉と上記の樹脂混合粉とを混練して、コンパウンドを得てよい。
【0063】
混練時間は、混練機械の種類、混練機械の容積、コンパウンドの製造量にも依る。混練時間は、例えば、1分以上であることが好ましく、2分以上であることがより好ましく、3分以上であることがさらに好ましい。また混練時間は、20分以下であることが好ましく、15分以下であることがより好ましく、10分以下であることがさらに好ましい。混練時間が1分未満である場合、混練が不十分であり、コンパウンドの成型性が損なわれ、コンパウンドの硬化度にばらつきが生じる。混練時間が20分を超える場合、例えば、槽内で樹脂組成物(例えばエポキシ樹脂及びフェノール樹脂)の硬化が進み、コンパウンドの流動性、充填性及び成型性が損なわれ易い。槽内の原料を加熱しながらニーダーで混練する場合、加熱温度は、例えば、エポキシ樹脂の半硬化物(Bステージのエポキシ樹脂)が生成し、且つエポキシ樹脂の硬化物(Cステージのエポキシ樹脂)の生成が抑制される温度であればよい。加熱温度は、硬化促進剤の活性化温度よりも低い温度であってよい。加熱温度は、例えば、50℃以上であることが好ましく、60℃以上であることがより好ましく、70℃以上であることがさらに好ましい。加熱温度は、150℃以下であることが好ましく、120℃以下であることがより好ましく、110℃以下であることがさらに好ましい。加熱温度が上記の範囲内である場合、槽内の樹脂組成物が軟化して金属粉を構成する金属粒子の表面を被覆し易く、エポキシ樹脂の半硬化物が生成し易く、混練中のエポキシ樹脂の完全な硬化が抑制され易い。
【実施例0064】
以下では実施例及び比較例により本発明がさらに詳細に説明される。本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
【0065】
(実施例1)
[コンパウンドの作製]
100gのビフェニレンアラルキル型エポキシ樹脂、38gのフェノールノボラック樹脂(硬化剤)、2gの2-ウンデシルイミダゾール(硬化促進剤)、2gの2-エチル-4-メチルイミダゾール(硬化促進剤)、及び2.0gのラウリン酸亜鉛(ワックス)を、ポリ容器に容れた。ポリ容器の内容物を10分間混合することにより、樹脂混合物を作製した。樹脂混合物とは、樹脂組成物のうちカップリング剤を除く他の全成分に相当する。
ビフェニレンアラルキル型エポキシ樹脂としては、日本化薬株式会社製のNC‐3000(エポキシ当量200g/eq)を用いた。
フェノールノボラック樹脂(硬化剤)としては、日立化成株式会社製のHP‐850N(水酸基当量106g/eq)を用いた。
2-ウンデシルイミダゾール(硬化促進剤)としては、四国化成工業株式会社製のC11Zを用いた。
2-エチル-4-メチルイミダゾール(硬化促進剤)としては、四国化成工業株式会社製の2E4MZを用いた。
ラウリン酸亜鉛(ワックス)としては、日油株式会社製のパウダーベースLを用いた。下記表1中では、ラウリン酸亜鉛が「ZnLa」と表記される。
【0066】
アモルファス系鉄粉1とアモルファス系鉄粉2とを、加圧式2軸ニーダーで5分間均一に混合して、金属粉を作製した。アモルファス系鉄粉1の質量は、下記表1に示される。アモルファス系鉄粉2の質量は、下記表1に示される。金属粉全体の質量は、下記表1に示される。金属粉全体の質量とは、アモルファス系鉄粉1の質量及びアモルファス系鉄粉2の質量の合計である。
アモルファス系鉄粉1としては、エプソンアトミックス株式会社製の9A4‐II 075C03を用いた。アモルファス系鉄粉1の平均粒径は、24μmであった。
アモルファス系鉄粉2としては、エプソンアトミックス株式会社製のAW2‐08を用いた。アモルファス系鉄粉2の平均粒径は、5.3μmであった。
加圧式2軸ニーダーとしては、日本スピンドル製造株式会社製の加圧式2軸ニーダーを用いた。加圧式2軸ニーダーの容量は、5Lであった。
【0067】
7.5gのメタクリロキシオクチルトリメトキシシラン(カップリング剤)、及び30gのカプロラクトン変性ジメチルシリコーン(応力緩和剤)を2軸ニーダー内の金属粉へ添加した。続いて、2軸ニーダーの内容物を90℃になるまで加熱し、その温度を保持しながら、2軸ニーダーの内容物を10分間混合した。続いて、上記の樹脂混合物を2軸ニーダーの内容物へ添加した後、内容物の温度を120℃に保持しながら、内容物を15分間混練した。得られた混練物を室温まで冷却した後、混練物が所定の粒度を有するようになるまで、混練物をハンマーで粉砕した。
メタクリロキシオクチルトリメトキシシランとしては、信越化学工業株式会社製のKBM-5803を用いた。
カプロラクトン変性ジメチルシリコーン(応力緩和剤)としては、Gelest株式会社製のDBL‐C32を用いた。
【0068】
以上の方法により、実施例1のコンパウンドを作製した。コンパウンドにおける金属粉の含有量は96.5質量%であった。
【0069】
[流動性の評価]
フローテスタを用いた以下の方法により、実施例1のコンパウンドの流動性を評価した。フローテスタとしては、株式会社島津製作所製のCFT-100を用いた。
図1は、フローテスタ10の模式的な断面図である。フローテスタ10は、シリンダ2と、シリンダ2の側面を囲むヒーター5と、シリンダ2へ嵌合するプランジャー6と、を備える。プランジャー6は開口部3からシリンダ2へ挿入される。開口部3の反対側のシリンダ2の端部には、円形の排出穴4(オリフィス)が形成されている。排出穴4の内径は、1mmである。7gのコンパウンドの成型により、コンパウンドからなるタブレット状のコンパウンド1を作製した。コンパウンド1をシリンダ2内に設置した。ヒーター5を用いて、シリンダ2内のコンパウンド1を130℃で20秒予熱した。予熱に続いて、プランジャー6をシリンダ2内へ押し込み、シリンダ2内のコンパウンド1をプランジャー6で加圧した。プランジャー6がコンパウンド1に及ぼす荷重は、100kgであった。排出穴4からコンパウンドが流出し始めた時点は、t0と表される。排出穴4からのコンパウンドの流出が止まった時点は、t1と表される。フロータイムTは、t1-t0と定義される。フローストロークLは、フロータイムT中のプランジャー6の移動距離と定義される。
【0070】
以上の方法により、実施例1のコンパウンドのフロータイムT及びフローストロークLを測定した。測定結果は下記表1に示される。コンパウンドの優れた流動性は、フロータイムTが短く、且つフローストロークLが長いことを意味する。つまり、L/Tが大きいほど、コンパウンドは流動性に優れている。
【0071】
(充填性の評価)
以下の方法により、実施例1のコンパウンドの充填性を評価した。
図2中の(a)及び
図2中の(b)は、充填性の評価に用いた金型20の模式的な断面図である。
図3は、金型20の模式的な上面図である。
図2中の(a)及び
図2中の(b)に示される断面は、鉛直方向に平行である。金型20は、下型19と、下型19上に設置されるフレーム21と、フレーム21に重なる上型17と、を備えている。フレーム21の表面は銀(Ag)でコートされている。金型20内にはキャビティー14(空間)が形成される。キャビティー14の全体の寸法は、約49.4mm×43.4mmである。フレーム21に面する上型17の表面には、168個の円柱状の凸部15が格子状に形成されている。上型17の各凸部15の端面がフレーム21の表面に接することにより、168個の円柱状の凸部15がキャビティー14内に格子状に配置される。キャビティー14の横方向には、14個の凸部15が等間隔で配置され、キャビティー14の縦方向には、12個の凸部15が等間隔で配置されている。横方向に並ぶ一対の凸部15の間隔は、3.2mmである。縦方向に並ぶ一対の凸部15の間隔も、3.2mmである。一対の凸部15の間隔とは、円柱状の凸部15其々の中心軸間の距離と言い換えられる。各凸部15の太さ(直径)は、2.4mmである。各凸部15の高さは、約300μmである。つまりキャビティー14の深さは、約300μmである。キャビティー14の深さは、金型20を用いてコンパウンド1から形成される成型体1aの厚みに相当する。フレーム21の厚みは、200μmである。キャビティー14は、横方向(水平方向)に沿って並ぶ複数のゲート12(流路)を介して、収容室11と連通している。コンパウンド1は、収容室11内に収容される。各ゲート12の高さの最小値は、200μmである。つまり鉛直方向における各ゲート12の幅の最小値は、200μmである。水平方向における各ゲート12の幅は、800μmである。ゲート12の反対側に位置する金型20の側面には、キャビティー14と連通する複数のベント13(溝)が形成されている。各ベント13の深さは、10μmである。
【0072】
上記の金型20を用いてトランスファー成型を行った。トランスファー成型では、収容室11を含む金型20の全体を140℃で360秒加熱しながら、収容室11内のコンパウンド1を加圧した。コンパウンド1は、20MPaで加圧された。加熱及び加圧により、収容室11内のコンパウンド1は流動化した。流動化したコンパウンド1は、ゲート12内を流れた後、キャビティー14内へ充填された。以上のトランスファー成型により、成型体を得た。
図4は、コンパウンド1から形成された成型体1aの模式的な上面図である。トランスファー成型では、コンパウンド1がキャビティー14内の複数の凸部15の間に充填されたので、複数の貫通穴16が成型体1aに形成されていた。貫通穴16の形状、配置及び個数は、キャビティー14内の凸部15の形状、配置及び個数に対応する。つまり、成型体1aに形成された貫通穴16の総数Nは、キャビティー14内の凸部15の総数N’に等しい。貫通穴16の内壁及び縁において欠損がない貫通穴16の数nを数えた。コンパウンド1の充填率は、100×n/N%と定義される。キャビティー14内のコンパウンド1と金型20との間の隙間が少ないほど、成型体1aの欠損が少なく、100×n/N%は高い。つまり、100×n/N%は高いほど、コンパウンドは充填性に優れている。実施例1の充填率は、下記表1に示される。
【0073】
(離型性の評価)
以下の方法により、実施例1のコンパウンドの離型性を評価した。
【0074】
上記の方法で成型体1aを形成した後、成型体1aを金型20(フレーム21の表面)から剥離した。コンパウンドの離型性とは、成型体1aを金型20から剥離した後、成型体1aに由来するコンパウンド1がキャビティー14内に残存し難い性質である。換言すれば、コンパウンドの離型性とは、成型体1aをフレーム21から剥離した後、成型体1aに由来するコンパウンド1がフレーム21の表面に残存し難い性質である。実施例1の離型性の評価は、下記表1に示される。表1中のAは、成型体1aに由来するコンパウンド1がキャビティー14内に残存しなかったことを意味する。つまりAは、成型体1aが破損することなくキャビティー14から剥離されたことを意味する。表1中のBは、フレーム21の表面全体のうち、成型体1aに由来するコンパウンド1が残存した部分の面積の割合が0%よりも大きく50%以下であったことを意味する。
【0075】
(実施例2)
実施例2の樹脂混合物の作製に用いたラウリン酸亜鉛の質量は、4.0gであった。実施例2で用いたアモルファス系鉄粉1の質量は、下記表1に示される。実施例2で用いたアモルファス系鉄粉2の質量は、下記表1に示される。実施例2の金属粉全体の質量は、下記表1に示される。これらの事項を除いて実施例1と同様の方法で、実施例2のコンパウンドを作製した。実施例1と同様の方法で、実施例2のコンパウンドの流動性、充填性及び離型性を評価した。実施例2の評価結果は、下記表1に示される。
【0076】
(実施例3)
実施例3の樹脂混合物の作製では、ラウリン酸亜鉛の代わりに、ステアリン酸亜鉛を用いた。実施例3の樹脂混合物の作製に用いたステアリン酸亜鉛の質量は、4.0gであった。ステアリン酸亜鉛としては、日油株式会社製のジンクステアレートを用いた。下記表1中では、ステアリン酸亜鉛が「ZnSt」と表記される。実施例3で用いたアモルファス系鉄粉1の質量は、下記表1に示される。実施例3で用いたアモルファス系鉄粉2の質量は、下記表1に示される。実施例3の金属粉全体の質量は、下記表1に示される。これらの事項を除いて実施例1と同様の方法で、実施例3のコンパウンドを作製した。実施例1と同様の方法で、実施例3のコンパウンドの流動性、充填性及び離型性を評価した。実施例3の評価結果は、下記表1に示される。
【0077】
(実施例4)
実施例4の樹脂混合物の作製では、ラウリン酸亜鉛の代わりに、部分ケン化モンタン酸エステルを用いた。実施例4の樹脂混合物の作製に用いた部分ケン化モンタン酸エステルの質量は、4.0gであった。部分ケン化モンタン酸エステルとしては、クラリアントケミカルズ株式会社製のLicowaxOPを用いた。LicowaxOPは、水酸化カルシウムによって部分的にケン化されたモンタン酸エステルである。LicowaxOPのケン化価は、102mgKOH/g以上122mgKOH/g以下である。実施例4で用いたアモルファス系鉄粉1の質量は、下記表1に示される。実施例4で用いたアモルファス系鉄粉2の質量は、下記表1に示される。実施例4の金属粉全体の質量は、下記表1に示される。これらの事項を除いて実施例1と同様の方法で、実施例4のコンパウンドを作製した。実施例1と同様の方法で、実施例4のコンパウンドの流動性、充填性及び離型性を評価した。実施例4の評価結果は、下記表1に示される。
【0078】
(実施例5)
実施例5の樹脂混合物の作製に用いた部分ケン化モンタン酸エステルの質量は、8.0gであった。実施例5で用いたアモルファス系鉄粉1の質量は、下記表1に示される。実施例5で用いたアモルファス系鉄粉2の質量は、下記表1に示される。実施例5の金属粉全体の質量は、下記表1に示される。これらの事項を除いて実施例4と同様の方法で、実施例5のコンパウンドを作製した。実施例1と同様の方法で、実施例5のコンパウンドの流動性、充填性及び離型性を評価した。実施例5の評価結果は、下記表1に示される。
【0079】
(実施例6)
実施例6の樹脂混合物の作製では、ラウリン酸亜鉛に加えて、部分ケン化モンタン酸エステルを用いた。実施例6で用いた部分ケン化モンタン酸エステルは、上記のLicowaxOPであった。実施例6の樹脂混合物の作製に用いたラウリン酸亜鉛の質量は、4.0gであった。実施例6の樹脂混合物の作製に用いた部分ケン化モンタン酸エステルの質量は、2.0gであった。実施例6で用いたアモルファス系鉄粉1の質量は、下記表1に示される。実施例6で用いたアモルファス系鉄粉2の質量は、下記表1に示される。実施例6の金属粉全体の質量は、下記表1に示される。これらの事項を除いて実施例1と同様の方法で、実施例6のコンパウンドを作製した。実施例1と同様の方法で、実施例6のコンパウンドの流動性、充填性及び離型性を評価した。実施例6の評価結果は、下記表1に示される。
【0080】
(実施例7)
実施例7の樹脂混合物の作製に用いたラウリン酸亜鉛の質量は、4.0gであった。実施例7の樹脂混合物の作製に用いた部分ケン化モンタン酸エステルの質量は、4.0gであった。実施例7で用いたアモルファス系鉄粉1の質量は、下記表1に示される。実施例7で用いたアモルファス系鉄粉2の質量は、下記表1に示される。実施例7の金属粉全体の質量は、下記表1に示される。これらの事項を除いて実施例6と同様の方法で、実施例7のコンパウンドを作製した。実施例1と同様の方法で、実施例7のコンパウンドの流動性、充填性及び離型性を評価した。実施例7の評価結果は、下記表1に示される。
【0081】
(比較例1)
比較例1の樹脂混合物の作製では、ラウリン酸亜鉛の代わりに、モンタン酸エステル(天然ワックス)を用いた。比較例1の樹脂混合物の作製に用いたモンタン酸エステルの質量は、4.0gであった。モンタン酸エステルとしては、クラリアントケミカルズ株式会社製のLicowaxEを用いた。比較例1で用いたアモルファス系鉄粉1の質量は、下記表1に示される。比較例1で用いたアモルファス系鉄粉2の質量は、下記表1に示される。比較例1の金属粉全体の質量は、下記表1に示される。金属混合粉及び樹脂混合粉の配合比に依り、比較例1のコンパウンドにおける金属粉の含有量は95.5質量%に調整された。これらの事項を除いて実施例1と同様の方法で、比較例1のコンパウンドを作製した。実施例1と同様の方法で、比較例1のコンパウンドの流動性、充填性及び離型性を評価した。比較例1の評価結果は、下記表1に示される。
【0082】
(比較例2)
比較例2の樹脂混合物の作製に用いたモンタン酸エステル(LicowaxE)の質量は、8.0gであった。比較例2で用いたアモルファス系鉄粉1の質量は、下記表1に示される。比較例2で用いたアモルファス系鉄粉2の質量は、下記表1に示される。比較例2の金属粉全体の質量は、下記表1に示される。金属混合粉及び樹脂混合粉の配合比に依り、比較例2のコンパウンドにおける金属粉の含有量は96.0質量%に調整された。これらの事項を除いて比較例1と同様の方法で、比較例2のコンパウンドを作製した。実施例1と同様の方法で、比較例2のコンパウンドの流動性及び充填性を評価した。しかし、比較例2のコンパウンドは殆ど流動しなかった。流動性に乏しい比較例2のコンパウンドは金型へ充填されなかった。したがって、比較例2のコンパウンドのフロータイム、フローストローク及び充填率を測定することができなかった。比較例2のコンパウンドの離型性は評価されなかった。
【0083】
(比較例3)
比較例3で用いたアモルファス系鉄粉1の質量は、下記表1に示される。比較例3で用いたアモルファス系鉄粉2の質量は、下記表1に示される。比較例3の金属粉全体の質量は、下記表1に示される。金属混合粉及び樹脂混合粉の配合比に依り、比較例3のコンパウンドにおける金属粉の含有量は96.5質量%に調整された。これらの事項を除いて比較例2と同様の方法で、比較例3のコンパウンドを作製した。実施例1と同様の方法で、比較例3のコンパウンドの流動性及び充填性を評価した。しかし、比較例3のコンパウンドは殆ど流動しなかった。流動性に乏しい比較例3のコンパウンドは金型へ充填されなかった。したがって、比較例3のコンパウンドのフロータイム、フローストローク及び充填率を測定することができなかった。比較例3のコンパウンドの離型性は評価されなかった。
【0084】
(比較例4)
比較例4の樹脂混合物の作製では、ラウリン酸亜鉛の代わりに、カルナバワックス(天然ワックス)を用いた。比較例4の樹脂混合物の作製に用いたカルナバワックスの質量は、8.0gであった。カルナバワックスとしては、株式会社セラリカNODA製のカルナバNo.1を用いた。比較例4で用いたアモルファス系鉄粉1の質量は、下記表1に示される。比較例4で用いたアモルファス系鉄粉2の質量は、下記表1に示される。比較例4の金属粉全体の質量は、下記表1に示される。これらの事項を除いて実施例1と同様の方法で、比較例4のコンパウンドを作製した。実施例1と同様の方法で、比較例4のコンパウンドの流動性及び充填性を評価した。しかし、比較例4のコンパウンドは殆ど流動しなかった。流動性に乏しい比較例4のコンパウンドは金型へ充填されなかった。したがって、比較例4のコンパウンドのフロータイム、フローストローク及び充填率を測定することができなかった。比較例4のコンパウンドの離型性は評価されなかった。
【0085】
(比較例5)
比較例5の樹脂混合物の作製では、エポキシ樹脂として、ビフェニレンアラルキル型エポキシ樹脂(NC‐3000)に加えて、ビフェニル型エポキシ樹脂を用いた。ビフェニル型エポキシ樹脂としては、三菱ケミカル株式会社製のYX‐4000H(エポキシ当量192g/eq)を用いた。比較例5で用いたビフェニレンアラルキル型エポキシ樹脂(NC‐3000)の質量は、90gであった。比較例5で用いたビフェニル型エポキシ樹脂(YX‐4000H)の質量は、10gであった。比較例5の樹脂混合物の作製に用いた2-エチル-4-メチルイミダゾール(2E4MZ)の質量は、1.9gであった。比較例5の樹脂混合物の作製では、ラウリン酸亜鉛の代わりに、ポリエチレン(合成ワックス)を用いた。比較例5の樹脂混合物の作製に用いたポリエチレンの質量は、8.0gであった。ポリエチレンとしては、クラリアントケミカルズ株式会社製のリコセンPE3101TPを用いた。比較例5で用いたアモルファス系鉄粉1の質量は、下記表1に示される。比較例5で用いたアモルファス系鉄粉2の質量は、下記表1に示される。比較例5の金属粉全体の質量は、下記表1に示される。これらの事項を除いて実施例1と同様の方法で、比較例5のコンパウンドを作製した。実施例1と同様の方法で、比較例5のコンパウンドの流動性及び充填性を評価した。しかし、比較例5のコンパウンドは殆ど流動しなかった。流動性に乏しい比較例5のコンパウンドは金型へ充填されなかった。したがって、比較例5のコンパウンドのフロータイム、フローストローク及び充填率を測定することができなかった。比較例5のコンパウンドの離型性は評価されなかった。
【0086】
【0087】
比較例1の金属粉の含有量は96質量%未満であった。その結果、比較例1は、ラウリン酸の金属塩、ステアリン酸の金属塩、及びケン化モンタン酸エステルのいずれも含まないにもかかわらず、流動性及び充填性を有していた。
【0088】
実施例1~7及び比較例2~4のいずれも場合も、金属粉の含有量は96質量%以上であった。しかし、比較例2~4は、ワックスを含むにもかかわらず、流動性及び充填性を有していなかった。一方、実施例1~7は、ステアリン酸の金属塩、及びケン化モンタン酸エステルのいずれかを含んでいたため、流動性及び充填性を有していた。
1…コンパウンド、1a…成型体、2…シリンダ、3…開口部、4…排出穴、5…ヒーター、6…プランジャー、10…フローテスタ、11…収容室、12…ゲート(流路)、13…ベント、14…キャビティー、15…凸部、16…貫通穴、20…金型。
前記ラウリン酸の金属塩、前記ステアリン酸の金属塩、及び前記ケン化モンタン酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも一種が、アルカリ金属元素及びアルカリ土類金属元素からなる群より選ばれる少なくともいずれか一種を含む、
請求項1~9のいずれか一項に記載のコンパウンド。