(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024096249
(43)【公開日】2024-07-12
(54)【発明の名称】酸刺激抑制剤
(51)【国際特許分類】
A23L 27/00 20160101AFI20240705BHJP
C12J 1/00 20060101ALI20240705BHJP
A23L 2/68 20060101ALI20240705BHJP
A23L 2/38 20210101ALI20240705BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20240705BHJP
A23L 23/00 20160101ALI20240705BHJP
A23L 27/20 20160101ALI20240705BHJP
A23B 7/10 20060101ALN20240705BHJP
【FI】
A23L27/00 Z
C12J1/00 A
A23L2/00 D
A23L2/38 R
A23L2/52
A23L23/00
A23L27/20 D
A23B7/10 Z
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024072416
(22)【出願日】2024-04-26
(62)【分割の表示】P 2021174315の分割
【原出願日】2021-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】514057743
【氏名又は名称】株式会社Mizkan Holdings
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮本 可南子
(57)【要約】
【課題】酢酸を含有する飲食品を摂取した際の喉刺激を抑制することができる酸刺激抑制剤を提供すること。
【解決手段】カルダモニンを有効成分として含有する、酸刺激抑制剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酢酸を含有し、かつカルダモニンを含有する酢酸含有飲食品。
【請求項2】
酢酸を0.1w/v%以上含有し、かつカルダモニンを1×10-10ppm以上100ppm以下含有する酢酸含有飲食品。
【請求項3】
カルダモニンの含有量(ppm)に対する酢酸の含有量(w/v%)の比(酢酸の含有量(w/v%)/カルダモニンの含有量(ppm))が0.01~1×109である、請求項1又は2に記載の酢酸含有飲食品。
【請求項4】
カルダモニンを酢酸含有飲食品に添加することを含む、酸刺激が抑制された酢酸含有飲食品の製造方法。
【請求項5】
酸刺激が、酢酸による喉刺激である、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
カルダモニンの添加量が、酢酸含有飲食品に対して1×10-10ppm以上100ppm以下である、請求項4又は5に記載の製造方法。
【請求項7】
カルダモニンを有効成分として含有する喉刺激抑制剤を含有する酢酸含有飲食品。
【請求項8】
カルダモニンを有効成分として含有する刺激抑制剤を1×10-10~99.99質量%含有する酢酸含有飲食品。
【請求項9】
前記酸刺激が、酢酸による喉刺激である、請求項7又は8に記載の酢酸含有飲食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酢酸による喉刺激を緩和する酸刺激抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
酢酸は、調味成分として、またその静菌作用等を目的として飲食品に利用されている。また、近年では、健康志向の高まりと共に、内臓脂肪低減作用、血圧低下作用、食後の血糖値上昇抑制作用、疲労回復等の酢酸の健康上有用な作用を期待して、食酢を原料とする様々な飲食品やサプリメントなどを積極的に摂取するという意識が高まっている。
【0003】
しかしながら、酢酸を含有する飲食品には、酢酸に特有な鋭い酸味や刺激臭(酢酸臭)が感じられるため、酢酸は健康効果や静菌効果が得られる有用な成分でありながらも、その摂取が敬遠される場合もある。
【0004】
そこで酢酸を含有する飲食品において、酢酸に特有な鋭い酸味や刺激臭を低減する方法が提案されている。例えば、特許文献1には、酢酸を含有する飲食品にカンファー及び/又はオイゲノールを酢酸に対して一定の割合で含有させることによって、酢酸臭発生が低減され、風味に優れた飲食品が製造できることが記載されている。特許文献2には、βグルカンを酢酸に対して一定の割合で含有させることによって酢酸の酸味や刺激臭が抑制された食酢飲料が得られることが報告されている。特許文献3には、食用有機酸とともに3-ヒドロキシ4,5-ジメチル-2(5H)-フラノンを含有させることによって、鋭い酸味が抑制され、かつ、酸味がまろやかな酸含有調味料が得られることが報告されている。特許文献4には、(A)炭素数8の不飽和アルコール類、及び(B)モノテルペン類またはセスキテルペン類から選ばれる少なくとも1種の香気成分を含有することによって酸味及び酸臭の両方をともに抑制した酢酸含有飲食品が提案されている。しかし、従来の方法は、酸味や刺激臭の低減効果が満足できるものではなかったり、添加した物質自体の香りが飲食品に移行し、その飲食品の本来の呈味や風味のバランスが崩れ、嗜好性が低下するなどの問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011-217655号公報
【特許文献2】特開2008-245539号公報
【特許文献3】特開2001-69940号公報
【特許文献4】特開2019-129806号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、酢酸を含有する飲食品を摂取した際の喉刺激を抑制することができる酸刺激抑制剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究を進めた結果、カルダモニンが、酢酸を含有する飲食品を摂取した際の喉刺激を抑制する効果、また、酸味、ムレ臭、及び酸臭を抑制する効果を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の発明を包含する。
(1)カルダモニンを有効成分として含有する、酸刺激抑制剤。
(2)酢酸を含有する飲食品用である、(1)に記載の酸刺激抑制剤。
(3)酸刺激が、酢酸による喉刺激である、(1)又は(2)に記載の酸刺激抑制剤。
(4)カルダモニンを酢酸含有飲食品に添加することを含む、酸刺激が抑制された酢酸含有飲食品の製造方法。
(5)酸刺激が、酢酸による喉刺激である、(4)に記載の製造方法。
(6)カルダモニンの添加量が、酢酸含有飲食品に対して1×10-10ppm以上100ppm以下である、(4)又は(5)に記載の製造方法。
(7)カルダモニンを、酢酸含有飲食品に添加することを含む、酢酸含有飲食品の酸刺激を抑制する方法。
(8)酸刺激が、酢酸による喉刺激である、(7)に記載の方法。
(9)カルダモニンの添加量が、酢酸含有飲食品に対して1×10-10ppm以上100ppm以下である、(7)又は(8)に記載の方法。
(10)酢酸を含有し、かつカルダモニンを含有する酢酸含有飲食品。
(11)酢酸を0.1w/v%以上含有し、かつカルダモニンを1×10-10ppm以上100ppm以下含有する酢酸含有飲食品。
(12)カルダモニンの含有量(ppm)に対する酢酸の含有量(w/v%)の比(酢酸の含有量(w/v%)/カルダモニンの含有量(ppm))が0.01~1×109である、(10)又は(11)に記載の酢酸含有飲食品。
(13)(1)~(3)のいずれかに記載の酸刺激抑制剤を含有する酢酸含有飲食品。
(14)(1)~(3)のいずれかに記載の酸刺激抑制剤を1×10-10~99.99質量%含有する酢酸含有飲食品。
(15)酢酸含有飲食品中のカルダモニンの含有量が1×10-10ppm以上100ppm以下である、(13)又は(14)に記載の酸刺激抑制剤を含有する酢酸含有飲食品。
(16)カルダモニンの含有量(ppm)に対する酢酸の含有量(w/v%)の比(酢酸の含有量(w/v%)/カルダモニンの含有量(ppm))が0.01~1×109である、(13)~(15)のいずれかに記載の酸刺激抑制剤を含有する酢酸含有飲食品。
(17)酸刺激抑制剤中のカルダモニンの含有量が0.00001~99.9重量%である、(1)~(3)のいずれかに記載の酸刺激抑制剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、酢酸を含有する飲食品を摂取した際の喉刺激、酸味やムレ臭を抑制させることができる酸刺激抑制剤が提供される。よって、本発明の酸刺激抑制剤を配合した食酢飲料などの酢酸含有飲食品は、敬遠されがちな酢酸特有の酸味、ムレ臭、及び酸臭が抑制され、健康上有用な酢酸を摂取できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1.酸刺激抑制剤
本発明の酸刺激抑制剤は、カルダモニンを有効成分として含有する。
【0011】
本発明の酸刺激抑制剤に用いられるカルダモニン(体系名:(E)-2',4'-ジヒドロキシ-6'-メトキシカルコン、(2E)-1-(2,4-ジヒドロキシ-6-メトキシフェニル)-3-フェニルプロパ-2-エン-1-オン、英文表記:Cardamonin)は、カルコノイドの一種であり、分子式C16H14O4(分子量:270.284)を有し、CAS登録番号は19309-14-9である。
【0012】
上記カルダモニンは、経口摂取できるものであれば制限はなく、合成品であっても、カルダモニンを含む植物素材又はその抽出物であってもよい。ここで、カルダモニンを含む植物素材としては、例えば、カルダモン、ターメリック、月桃茶、海南ハナミョウガなどが挙げられ、これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。カルダモニンの抽出物は、上記のカルダモニンを含有する植物素材を溶媒に添加し、静置した後、ろ過を行うことによって調製できる。あるいは、上記のカルダモニンを含有する植物素材を添加した溶媒を特定の温度に加熱した後静置する、又は、攪拌しながら一定温度で保持することによっても調製できる。ここで、抽出に用いる溶媒としては、水、エタノール、又は水-エタノールの混合溶媒が挙げられるが、水が好ましい。溶媒の使用量については、特に限定はなく、例えば上記カルダモニンを含む植物素材(乾燥重量)に対し、10倍以上、好ましくは20倍以上であればよいが、抽出後に濃縮を行なったり、単離したりする場合の操作の便宜上100倍以下であることが好ましい。カルダモニンの抽出物は、そのまま本発明の酸刺激抑制剤として用いることができるが、必要に応じて濃縮処理、熱風乾燥、蒸気乾燥、凍結乾燥、噴霧乾燥等の乾燥処理、分離精製処理、脱色処理等に供して、濃縮物や乾燥物等にしたものを本発明の酸刺激抑制剤として用いてもよい。
【0013】
本発明の酸刺激抑制剤は、酢酸含有飲食品を摂取した際の喉刺激、酸味やムレ臭を抑制するために好適に用いられる。本発明において「喉刺激」とは、酢酸含有飲食品を飲み込んだ際、又は、飲み込んだ後に生じる、酢酸に起因する喉の痛み、違和感で、具体的にはイガイガ感、チクチク感をいう。また、喉刺激の抑制とは、喉刺激を部分的又は完全に感知されなくすることをいう。本発明において「酸味」とは、5つの基本味(酸味、甘味、塩味、苦味、旨味)の1つであり、飲食品中に含まれる酢酸、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、酒石酸等の酸味物質が舌の味蕾細胞にある酸味受容体を刺激することによって感知される特有のすっぱい味である。本発明において「ムレ臭」とは、酢酸発酵工程で生成されるアセトイン、アセトインの自動酸化により生成されるジアセチルの由来にする、チーズ臭、むれた靴下のような臭いで、「ムレ香」とも称する。
【0014】
本発明の酸刺激抑制剤におけるカルダモニンの含有量は、0.00001~99.9重量%の範囲であり、その剤形によって適宜変更すればよい。
【0015】
本発明の酸刺激抑制剤の形態は、液体状又は固体状のいずれであってもよい。固体状としては、例えば、粉末状、顆粒状、ブロック状、カプセル状等が挙げられる。本発明の酸刺激抑制剤の形態が液体状の場合の基剤としては、例えば、水、アルコール(例えば、エタノール)、液糖、油脂、グリセリン、プロピレングリコール等が挙げられる。本発明の酸刺激抑制剤の形態が固体状の場合の基剤としては、例えば、澱粉、デキストリン、シクロデキストリン、スクロース及びグルコース等の各種糖類、タンパク質、ペプチド、食塩、油脂、二酸化ケイ素、及びそれらの混合物、また酵母菌体や各種の粉末エキス類等が挙げられる。
【0016】
本発明の酸刺激抑制剤は、喉刺激、酸味やムレ臭の抑制効果の妨げとならない限り、カルダモニンに加えて、例えば、食品衛生上許容されうる添加物を使用してもよい。例えば、このような添加物としては、タンパク質類、ペプチド類、アミノ酸類、ビタミン類、ミネラル類(カルシウム、カリウム、ナトリウム等)、脂質類(植物油、魚油、動物脂等)、甘味成分(ブドウ糖、ショ糖、果糖、異性化液糖、アスパルテーム、ステビア等)、酸味料(クエン酸、リンゴ酸、酒石酸等)、賦形剤(デキストリン、澱粉等)、フレーバー類(エステル類、アルコール類、アルデヒド類、ケトン類、アセタール類、フェノール類、エーテル類、ラクトン類、フラン類、炭化水素類、含窒素化合物類、含硫化合物類等)、結合剤、希釈剤、着色料、緩衝剤、増粘剤、ゲル化剤、安定剤、保存剤、乳化剤、分散剤、懸濁化剤、防腐剤などが挙げられる。
【0017】
2.酢酸含有飲食品
本発明の酸刺激抑制剤は、酢酸含有飲食品に添加することにより、当該飲食品を摂取した際の喉刺激を緩和できるほか、酸味、ムレ臭、及び酸臭を抑制できるので、その飲食品の本来有する呈味や風味を所望の呈味や風味に改善、改質、又は向上させたり、所望のレベルに呈味や風味を増強したりする効果も期待できる。本発明の酸刺激抑制剤の酢酸含有飲食品への添加は、飲食品を製造する際に原材料の一部として添加してもよく、飲食品を喫食する際に添加してもよい。
【0018】
本発明において、酢酸とは、酢酸分子(CH3COOH)と酢酸イオン(CH3COO-)をいい、酢酸の含有量とは、これらを合計した濃度をいう。本発明の酢酸含有飲食品中の酢酸の含有量の下限は、本発明の酸刺激抑制剤の必要性がより高くなる点において、0.1w/v%が好ましく、0.2w/v%がより好ましく、0.5w/v%がさらに好ましい。また、含有量の上限は、酢酸含有飲食品の種類にもよるが、15w/v%が好ましく、10w/v%がより好ましく、7w/v%がさらに好ましく、5w/v%がさらにより好ましい。なお、本発明の酢酸含有飲食品における酢酸の由来は、飲食品に適する由来である限り特に限定されず、例えば、食品添加物由来(本発明の酢酸含有飲食品の酢酸が食品添加物に含まれる酢酸)であることもできるし、飲食品に配合される調味料、食品原料等の由来(本発明の酢酸含有飲食品の酢酸が調味料、食品原料等に含まれる酢酸)であることもできる。
【0019】
本発明の酸刺激抑制剤を添加する酢酸含有飲食品としては、食酢又は食酢を原料に用いて製造された飲食品であれば特に限定はされない。
【0020】
上記食酢には、米や麦などの穀物や果汁を主原料として生産される醸造酢と、氷酢酸や酢酸の希釈液に砂糖等の調味料を加えるか、又はそれに醸造酢を加えた合成酢があり、本発明においてはいずれも使用できる。醸造酢としては、例えば、穀物酢(米酢、玄米酢、黒酢、粕酢、麦芽酢、はと麦酢、大豆酢等)、果実酢(リンゴ酢、ブドウ酢、白ブドウ酢、柑橘(レモン、柚子、カボス、オレンジ、ミカン、シークワーサー、グレープフルーツ等)酢、マンゴー酢、イチゴ酢、ブルーベリー酢、ザクロ酢、モモ酢、ウメ酢、パイナップル酢、カシス酢、ラズベリー酢、ワイン酢、バルサミコ酢等)、エタノールを原料とした酢酸発酵によって製造される酒精酢、中国酢、シェリー酢などが挙げられ、また、合成酢としては、氷酢酸又は酢酸を水で適宜希釈したものなどが挙げられる。これらの食酢は、単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。
【0021】
食酢を原料に用いて製造される飲食品としては、例えば、食酢飲料(穀物酢飲料、果実酢飲料、果汁配合食酢飲料等)、調味酢(ポン酢、ポン酢醤油、甘酢、酢の物用調味酢、すし飯用調味酢、酢漬け(例えばピクルス等)用調味液等)、マヨネーズ、ドレッシング類(ノンオイルドレッシング、分離ドレッシング、乳化ドレッシング等)、たれ類(ゴマだれ等のゴマ含有調味料、焼肉だれ等)、ソース類(ウスターソース、ケチャップ、オイスターソース等)、つゆ類(めんつゆ、鍋つゆ等)、各種メニュー用調味料(米飯用調味料、中華用調味料、煮物用調味料、納豆用調味料等)、発酵飲食品(漬け物、キムチ、ヨーグルト、乳酸菌飲料、発酵乳飲料等)、食酢配合調理食品(寿司、酢の物、サラダ、酢豚、酢漬け等)、菓子類(ゼリー、プディング、ババロア、ムース等)、冷菓(アイスクリーム、シャーベット、スムージー等)等が挙げられる。
【0022】
上記のなかでも、簡便にかつ効率的に酢酸を摂取できる点において、食酢飲料が好ましく、嗜好性の向上から果汁含有食酢飲料がより好ましい。ここで使用される果汁とは、果実の搾汁液又は抽出等によって得られる果実の液部をいい、果実を裏ごし又はすりおろし処理したピューレ、おろしであっても良い。本発明の果汁含有食酢飲料に使用する果汁としては、例えば、りんご、モモ、ぶどう、アセロラ、ブルーベリー、ラズベリー、ナシ、レモン、ゆず、すだち、ライム、みかん、グレープフルーツ、ハッサク、カラマンシー、いちご、ザクロ、バナナ、メロン、スイカ、ウメ、キウイ、パイナップル、カシス、アプリコット、グアバ、プラム、マンゴー、パパイヤ、ライチ等に由来する果汁が挙げられる。これらの果汁は、一種又は二種以上を用いることができる。また、上記果汁は、凍結、濃縮、還元等の加工を行った後用いることもできる。
【0023】
本発明の対象となる酢酸含有飲食品としては、上記のような一般的な飲食品のほか、医薬品以外で健康の維持や増進を目的として摂取できる食品、例えば、健康食品、機能性食品、保健機能食品、又は特別用途食品を含む意味で用いられる。健康食品には、栄養補助食品、健康補助食品、サプリメント等の名称で提供される食品を含む。保健機能食品は食品衛生法又は健康増進法により定義され、特定の保健の効果や栄養成分の機能、疾病リスクの低減などを表示できる、特定保健用食品及び栄養機能食品、ならびに科学的根拠に基づいた機能性について消費者庁長官に届け出た内容を表示できる機能性表示食品が含まれる。また特別用途食品には、特定の対象者や特定の疾患を有する患者に適する旨を表示する病者用食品、高齢者用食品、乳児用食品、妊産婦用食品等が含まれる。ここで、飲食品に付される特定の保健の効果や栄養成分の機能等の表示は、製品の容器、包装、説明書、添付文書などの表示物、製品のチラシやパンフレット、新聞や雑誌等の製品の広告などにすることができる。
【0024】
飲食品の形態は、食用に適した形態、例えば、固形状、液状、顆粒状、粒状、粉末状、カプセル状、クリーム状、ペースト状のいずれであってもよい。特に、上記の健康食品等の場合の形状としては、例えば、液状(シロップ状、乳状、懸濁状を含む)、タブレット状、丸状、カプセル状、粉末状、顆粒状、細粒状、トローチ状等が好ましい。
【0025】
これらの酢酸含有飲食品は、本発明の酸刺激抑制剤を添加する以外は、通常行われる方法で製造することができる。例えば、果汁含有食酢飲料の場合は、食酢に本発明の酸刺激抑制剤とともに果汁や蜂蜜などを加え、適宜希釈することにより製造できる。また、ポン酢醤油の場合は、食酢に本発明の酸刺激抑制剤とともに醤油、砂糖、塩、柑橘果汁、香辛料などを加えることにより製造することができる。また、寿司酢の場合は、食酢に本発明の酸刺激抑制剤とともに砂糖、塩、みりんなどの調味料を適量加えることにより、製造することができる。
【0026】
本発明の酢酸含有飲食品中のカルダモニンの含有量は、本発明の酸刺激抑制剤が酸刺激の抑制効果を発揮できる限りにおいて、特に制限されないが、1.0×10-10ppm以上、好ましくは1.0×10-8ppm以上、より好ましくは1.0×10-6ppm以上、さらにより好ましくは1.0×10-4ppm以上であり、かつ、100ppm以下、好ましくは10ppm以下、より好ましくは1ppm以下である。また、本発明の酸刺激抑制剤の酢酸含有飲食品中の含有量は、酸刺激抑制剤中のカルダモニンの含有量及び酸刺激の抑制効果によって適宜調整できるが、1×10-10~99.99質量%、好ましくは1×10-5~99.99質量%、0.01~99.99質量%、より好ましくは0.01~50.00質量%、更により好ましくは0.01~10.00質量%、特に好ましくは0.05~10.00質量%とすることができる。
【0027】
本発明の酢酸含有飲食品における、カルダモニンの含有量(ppm)に対する酢酸の含有量(w/v%)の比(酢酸の含有量(w/v%)/カルダモニンの含有量(ppm))は、0.01~1.0×109、好ましくは0.01~1.0×107、より好ましくは0.01~1.0×106である。
【0028】
本発明の酢酸含有飲食品中のカルダモニンの濃度は、その配合量が明らかである場合(例えば、酢酸含有飲食品が精製されたカルダモニンを混合することにより得られたものである場合等)はその配合量及び酢酸含有飲食品の容量から算出することができ、カルダモニンの配合量が不明である場合は、後述の参考例に記載の方法に従って又は準じて算出することができる。なお、本明細書中の「ppm」は、質量濃度(w/w)である。
【0029】
本発明の酢酸含有飲食品は、飲食品の種類に応じて、他の原料を含有することができる。他の原料としては、水、糖類(高甘味度甘味料を含む)、果実や野菜を切削やすり潰す等の処理により得られる破砕物(搾汁液(果汁や野菜汁)、ピューレ、ペースト等)、フレーバー、食塩、アミノ酸系調味料、核酸系調味料、有機酸系調味料、酸味料、風味原料、旨味調味料、酒類、油脂類、香辛料、香辛料抽出物、香味オイル、粘度調整剤、安定剤、着色料、カルシウム塩、具材等が挙げられる。これら他の原料の組み合わせ及び含有量は、特に限定はされず、飲食品の種類に応じて適宜設定することができる。
【実施例0030】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0031】
(参考例)
下記の試験例において、評価サンプル中の酢酸の含有量、カルダモニンの含有量の測定は、以下の通り行った。
(1)酢酸の含有量の定量方法
サンプルは、酢酸の濃度が100mg%付近になるように超純水で希釈し、以下の条件に従って、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用い、酢酸のピーク面積を分析した。また、超純水で希釈した100mg%の酢酸を、標準サンプルとして同様に分析し、外部標準法により各サンプルの酢酸の含有量を算出した。
・測定機器:高速液体クロマトグラフィー(島津製作所社製、機種LC-10ADVP)・移動相(1)4mMp-トルエンスルホン酸水溶液、流速0.9mL/min
・移動相(2)4mMp-トルエンスルホン酸、80μMEDTAを含む16mMBis-Tris水溶液、流速0.9mL/min
・カラム:Shodex KC810P+KC-811×2(昭和電工社製)
・カラム温度:50℃
・検出:電気伝導度検出器CDD-10VP(島津製作所社製)
【0032】
(2)カルダモニンの含有量の定量方法
サンプルは、メタノールで希釈しても良く、以下の条件に従って、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用い、カルダモニンのピーク面積を分析した。また、メタノールで希釈した100mg%のカルダモニンを、標準サンプルとして同様に分析し、外部標準法により各サンプルのカルダモニンの含有量を算出した。
・測定機器:高速液体クロマトグラフィー(島津製作所社製、機種LC-10ADVP)・移動相:75%メタノール水溶液、0.5 ml/min
・カラム:Cadenza CD-C18 Prod#CD005 150mm×4.6mm(3μm)(Imtakt社製)
・カラム温度:30℃
・検出:フォトダイオードアレイ検出器 SPD-M30A(島津製作所社製、346nm)
【0033】
(試験例1)カルダモニン含有量の検討
(1)試験品の調製
カルダモニン粉末(Shaanxi Yuantai Biological Technology製、Specification:98%)をエチルアルコール中に1質量%になるよう分散した。この分散液を更にエチルアルコールにて希釈し、表1に記載のカルダモニン濃度の酸刺激抑制剤S1を調製した。玄米酢(酸度6.1%)8.5質量%に水91質量%、及び各酸刺激抑制剤S1を0.5質量%混合し、試験品1~7を調製した。また、玄米酢(酸度6.1%)8.5質量%に水91.5質量%を混合した液(酸刺激抑制剤S1添加なし)をコントロールとした。
【0034】
(2)官能評価試験
(1)で調製した各試験品について、下記分析型官能評価専門パネラー6名により、「飲み込んだ時の喉刺激」、「飲み込んだ後の喉刺激」、「ムレ臭」、「酸味」の4項目を評価した。
【0035】
(分析型官能評価専門パネラー)
分析型官能評価専門パネラーは、味や香りに関する判定能力が、下記の識別試験(I)及び識別試験(II)により担保された専門パネラーである。
識別試験(I):味質識別試験
五味(甘味:砂糖の味、酸味:酒石酸の味、旨味:グルタミン酸ナトリウムの味、塩味:塩化ナトリウムの味、苦味:カフェインの味)について、各成分の閾値に近い濃度の水溶液を各1つずつ作製し、これに蒸留水2つを加えた計7つのサンプルから、それぞれの味のサンプルを正確に識別する味質識別試験。
識別試験(II):
濃度がわずかに異なる5種類の食塩水溶液、酢酸水溶液の濃度差を正確に識別する濃度差識別試験。
【0036】
(評価方法)
官能評価は、(i)サンプルの提示、(ii)官能評価項目のすり合わせ、(iii)試し評価・キャリブレーション、(iv)本評価の順に行った。
(i)サンプルの提示
官能評価におけるパネラーのバイアス(偏り)を排除し、評価の精度を高めるために、サンプル提供を次の通りに設定した。100mL用ペットボトルに充填密閉したサンプルを常温(25℃)にし、評価毎に上記容器から20mLプラスチックカップに計量スプーンで小さじ1杯(約5mL)程度移し、各パネラーに提示した。その際、サンプルの試験区番号や内容物の情報はパネラーに知らせず、各試験区のサンプルをランダムに提示した。
【0037】
(ii)官能評価項目のすり合わせ
評価を実施するにあたり、パネラー全体で討議し、各評価項目の特性に対してすり合わせを行って、各パネラーが共通認識を持つようにした。総合評価についても、官能評価の結果をもとに基準化できるように、パネラー全体で事前に協議した上で設定した。
【0038】
(iii)試し評価・キャリブレーション
いくつかの酢酸濃度の異なるサンプルを用いて、各評価項目について評価基準の訓練を行った。訓練に際しては、パネラー自身の評価結果を伝えることで、繰り返し評価における再現性を確認させた。
【0039】
(iv)本評価
上記の訓練により各パネラーの評価基準の妥当性を担保した後、試験品及びコントロールを用いて官能評価を行った。評価は具体的には次のようにして行った。サンプルを100mLペットボトルに充填密閉し、上記容器から20mLプラスチックカップに評価毎に計量スプーンで小さじ1杯(約5mL)程度移し、直後にカップに直接鼻を近づけて臭いをかいでムレ臭を評価し、また、計量スプーンで小さじ1杯(約5mL)分程度液を口に含み、飲み込んだ時の喉刺激、飲み込んだ後の喉刺激、及び酸味を評価した。鼻腔から臭いが消えたら次のサンプルの評価を行った。また、サンプルを口に含んだ後は、蒸留水を口に含み、口内における風味を十分に消した後、次のサンプルの評価を行った。
【0040】
(評価基準)
評価項目毎の評価点の算出は、6名の評価を加重平均した。5点評価の3.3点を合格点(効果あり)とし、3.5点以上を良好な効果があるものとし、4点以上をより良好な効果があるものとし、4.5以上を最も良好な効果があるものとした。また、各評価項目の評価点で1項目でも評価点が3点未満となったものは不合格とした。
【0041】
<飲み込んだ時の喉刺激:サンプルを飲み込んだ際に感じる喉の痛みや違和感、イガイガ感、チクチク感>
5:コントロールと比較して喉刺激を弱く感じる。
4:コントロールと比較して喉刺激をやや弱く感じる。
3:コントロールと比較して同程度の喉刺激を感じる。
2:コントロールと比較して喉刺激をやや強く感じる。
1:コントロールと比較して喉刺激を強く感じる。
【0042】
<飲み込んだ後の喉刺激:サンプルを完全に飲み込んだ後に感じる喉の痛みや違和感、イガイガ感、チクチク感>
5:コントロールと比較して喉刺激を弱く感じる。
4:コントロールと比較して喉刺激をやや弱く感じる。
3:コントロールと比較して同程度の喉刺激を感じる。
2:コントロールと比較して喉刺激をやや強く感じる。
1:コントロールと比較して喉刺激を強く感じる。
【0043】
<酸味:舌で感じる酸っぱい味>
5:コントロールと比較して酸味を弱く感じる。
4:コントロールと比較して酸味をやや弱く感じる。
3:コントロールに比較して同程度の酸味を感じる。
2:コントロールと比較して酸味をやや強く感じる。
1:コントロールと比較して酸味を強く感じる。
【0044】
<ムレ臭:チーズ臭、むれた足や脱いだ靴下の臭いのような臭い>
5:コントロールと比較して、ムレ臭を弱く感じる。
4:コントロールと比較して、ムレ臭をやや弱く感じる。
3:コントロールと比較して、同程度のムレ臭を感じる。
2:コントロールと比較して、ムレ臭をやや強く感じる。
1:コントロールと比較して、ムレ臭を強く感じる。
【0045】
各試験品(評価サンプル)の官能評価結果を表1に示す。
【0046】
【0047】
表1に示されるように、酢酸含有量が0.5w/v%である試験品にカルダモニン(1.0×10-8~100ppm)を添加することにより、喉刺激、ムレ臭及び酸味の抑制効果が認められた。
【0048】
(試験例2)酢酸含有量の影響
(1)試験品の調製
カルダモニン粉末(Shaanxi Yuantai Biological Technology製、Specification:98%)をエチルアルコール中に1質量%になるように溶解し、酸刺激抑制剤S2を調製した。表2に示す酢酸含有量となるように玄米酢(酸度6.1%)を水と混合し、前記酸刺激抑制剤S2を表2に示すカルダモニン含有量となるように添加し、試験品8~11を調製した。また、酸刺激抑制剤を添加していないものをコントロールとした(以降の各試験例において同じ)。
【0049】
(2)官能評価試験
(1)で調製した各試験品について、官能評価を試験例1と同様に行った。結果を表2に示す。
【0050】
【0051】
表2に示されるように、酢酸含有量を0.25~2.00w/v%の範囲で変更した試験品についても、カルダモニンを添加することにより、喉刺激、ムレ臭及び酸味の抑制効果が認められた。
【0052】
(試験例3)食酢の種類による影響
(1)試験品の調製
カルダモニン粉末(Shaanxi Yuantai Biological Technology製、Specification:98%)をエチルアルコール中に1質量%になるように溶解し、酸刺激抑制剤S2を調製した。表3に示す各食酢(玄米酢、りんご酢、醸造酢)を酢酸含有量が0.5質量%となるように水と混合し、前記酸刺激抑制剤S2を表3に示すカルダモニン含有量となるよう添加し、試験品12~14を調製した。
【0053】
(2)官能評価試験
(1)で調製した各試験品について、官能評価を試験例1と同様に行った。結果を表3に示す。
【0054】
【0055】
表3に示されるように、食酢が、玄米酢、りんご酢、醸造酢のいずれであっても、カルダモニンを添加することにより、喉刺激、ムレ臭及び酸味の抑制効果が認められた。
【0056】
(試験例4)各種の酢酸含有飲食品におけるカルダモニンの添加効果
1.果汁含有食酢飲料
(1)試験品の調製
カルダモニン粉末(Shaanxi Yuantai Biological Technology製)をエチルアルコール中に0.01質量%になるように溶解し、酸刺激抑制剤S3を調製した。表4に示す配合量で、食酢(玄米酢、りんご酢、醸造酢)、果汁(りんご果汁、ブルーベリー果汁、ざくろ果汁、レモン果汁、ピーチ果汁、ピンクグレーブフルーツ果汁)、有機酸(クエン酸、リンゴ酸、アスコルビン酸)を水に混合した後、上記酸刺激抑制剤S3を添加し、試験品15~23を調製した。食酢及び酸刺激抑制剤S3の配合量は、それぞれ表4に示す酢酸含有量、カルダモニン含有量となるように設定した。
【0057】
(2)官能評価試験
(1)で調製した各試験品(評価サンプル)について、官能評価を試験例1と同様に行った。結果を表4に示す。
【0058】
【0059】
2.加工酢、ドレッシング、パスタソース、ピクルス
(1)試験品の調製
カルダモニン粉末(Shaanxi Yuantai Biological Technology製)をエチルアルコール中に0.01質量%又は0.1質量%になるように溶解し、其々、酸刺激抑制剤S3、酸刺激抑制剤S4を調製した。
【0060】
試験品24~27は、表5に示す配合量で、食酢、調味料等を水に混合した後、酸刺激抑制剤S3又は酸刺激抑制剤S4を其々添加することによって調製した。食酢及び酸刺激抑制剤の配合量は、それぞれ表5に示す酢酸含有量、カルダモニン含有量となるように設定した。
【0061】
試験品28は、みじん切りにしたニンニク6g、タマネギ115gをオリーブオイル33.7gで炒め、ざく切りにしたトマト840g、塩4g、及び1gを加えて煮込むことによってトマトソースを調製した。このトマトソース94質量%に醸造酢5.0質量%、水0.53質量%を加え混合し、前述の酸刺激抑制剤S3を0.47質量%添加することによって調製した。
【0062】
試験品29は、市販のピクルス(Branston ORIGINAL(Mizkan社製))99.85質量%に前述の酸刺激抑制剤S3を0.15質量%添加することによって調製した。
【0063】
(2)官能評価試験
(1)で調製した各試験品について、官能評価を試験例1と同様に行った。結果を表5に示す。
【0064】
【0065】
表4、5に示されるように、カルダモニンによる喉刺激、ムレ臭及び酸味の抑制効果は、種々の酢酸含有飲食品において認められた。
【0066】
(試験例5)カルダモニン抽出液の添加効果
(1)試験品の調整
カルダモン粉末(S&B社製)0.5重量部を醸造酢(酸度15%)99.5重量部に添加後常温(25℃)にて半日静置し、ろ紙(No.2)にてろ過を行った。ろ液に対し100倍又は10倍量の水を混合し、酸刺激抑制剤S5、酸刺激抑制剤S6を得た。
【0067】
表6に示す配合量で、酸刺激抑制剤S5又はS6を玄米酢(酸度6.1%)と水に混合し、試験品30~33を得た。
【0068】
(2)官能評価試験
(1)で調製した各試験品について、官能評価を試験例1と同様に行った。結果を表6に示す。
【0069】
【0070】
表6に示されるように、酸刺激抑制剤の添加によって、喉刺激、ムレ臭及び酸味の抑制効果が認められた。