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特開2024-96320フラボノイド配糖体の分解方法及びフラボノイドの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024096320
(43)【公開日】2024-07-12
(54)【発明の名称】フラボノイド配糖体の分解方法及びフラボノイドの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 311/30 20060101AFI20240705BHJP
   C07H 17/07 20060101ALI20240705BHJP
   A61K 36/752 20060101ALI20240705BHJP
   A61K 31/353 20060101ALI20240705BHJP
   A61P 39/06 20060101ALI20240705BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240705BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20240705BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20240705BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20240705BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240705BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20240705BHJP
【FI】
C07D311/30
C07H17/07
A61K36/752
A61K31/353
A61P39/06
A61P35/00
A61P31/04
A61P31/12
A61P37/08
A61P43/00 111
A61P3/10
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024074712
(22)【出願日】2024-05-02
(62)【分割の表示】P 2020532519の分割
【原出願日】2019-07-26
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2018/028287
(32)【優先日】2018-07-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(72)【発明者】
【氏名】有福 征宏
(72)【発明者】
【氏名】栗原 祥晃
(72)【発明者】
【氏名】金枝 雅人
(57)【要約】
【課題】酸を用いなくてもフラボノイド配糖体を効率的にフラボノイドに分解できるフラボノイド配糖体の分解方法を提供すること。
【解決手段】フラボノイド配糖体を含む原料を、アルコールの存在下、密閉した容器内で上記アルコールの常圧での沸点を超える温度で加熱処理することで、フラボノイド配糖体をフラボノイドに分解する、フラボノイド配糖体の分解方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フラボノイド配糖体を含む原料を、アルコールの存在下、密閉した容器内で前記アルコールの常圧での沸点を超える温度で加熱処理することで、前記フラボノイド配糖体をフラボノイドに分解する、フラボノイド配糖体の分解方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラボノイド配糖体の分解方法及びフラボノイドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フラボノイドは、天然に存在する有機化合物群であり、柑橘類及び豆類をはじめとして、様々な植物の花、葉、根、茎、果実、種子等に含まれている。フラボノイドは、種類によって特徴及び作用が異なるが、その多くが強い抗酸化作用を有している。例えば、柑橘類に含まれるフラボノイドであるポリメトキシフラボンは、抗酸化作用、発ガン抑制作用、抗菌作用、抗ウイルス作用、抗アレルギー作用、メラニン生成抑制作用、血糖値抑制作用等を有することが知られており、医薬品、健康食品、化粧品等の様々な用途への応用が期待されている。
【0003】
柑橘類からフラボノイドを製造する方法としては、例えば、柑橘類の果皮等からエタノール水溶液でフラボノイドを抽出し、抽出されたフラボノイドを溶液中から回収する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-145824号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のフラボノイドの製造方法では、フラボノイドの収率が低いという問題がある。そのため、フラボノイドの収率を向上できる製造方法の開発が求められている。
【0006】
例えば柑橘類の果皮には、フラボノイドの他に、それよりも多量のフラボノイド配糖体が含まれているが、これをフラボノイドとして回収できれば、フラボノイドの収率を向上させることが可能である。フラボノイド配糖体をフラボノイドに分解する方法としては、フラボノイド配糖体を塩酸等の酸と反応させる方法が挙げられる。しかしながら、この方法では、使用した酸が残存して製品中に混入するおそれがあること、酸とフラボノイドとの副反応生成物が生じる恐れがあるという問題がある。酸及び副生成物等の不純物を除去する方法としては、分解生成物中のフラボノイドを液体クロマトグラフィーにより分離・精製する方法が挙げられるが、高コストであり且つ生産効率が悪いという問題がある。そのため、酸を用いない新たなフラボノイド配糖体の分解方法が求められている。
【0007】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、酸を用いなくてもフラボノイド配糖体を効率的にフラボノイドに分解できるフラボノイド配糖体の分解方法、及び、フラボノイドの収率を向上できるフラボノイドの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、フラボノイド配糖体を含む原料を、アルコールの存在下、密閉した容器内で上記アルコールの常圧での沸点を超える温度で加熱処理することで、上記フラボノイド配糖体をフラボノイドに分解する、フラボノイド配糖体の分解方法を提供する。
【0009】
上記方法によれば、酸を用いることなく、フラボノイド配糖体を効率的にフラボノイドに分解することができる。なお、フラボノイド配糖体は、加水分解により分解されるため、通常、水を用いた水熱処理により分解することが考えられる。しかしながら、理由は定かではないが、水に代えてアルコールを用いた場合、フラボノイド配糖体の分解が促進され、高濃度のフラボノイドが得られることを本発明者らは見出した。そのため、上記方法を用いることで、フラボノイドを低コストで効率的に製造することが可能となる。
【0010】
上記方法において、上記フラボノイド配糖体はスダチチン配糖体及び/又はデメトキシスダチチン配糖体を含んでいてもよい。上記方法によれば、スダチチン配糖体及びデメトキシスダチチン配糖体を特に効率的に分解することができる。
【0011】
上記方法において、加熱処理温度は110~300℃の範囲内であってもよい。上記範囲内の温度であると、フラボノイド配糖体の分解をより促進することができる。
【0012】
本発明はまた、上記本発明の方法によりフラボノイド配糖体を分解する分解工程と、上記分解工程で得られた分解生成物からフラボノイドを抽出する抽出工程と、を含む、フラボノイドの製造方法を提供する。かかる製造方法によれば、フラボノイドを高い収率で、低コスト且つ効率的に製造することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、酸を用いなくてもフラボノイド配糖体を効率的にフラボノイドに分解できるフラボノイド配糖体の分解方法、及び、フラボノイドの収率を向上できるフラボノイドの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0015】
本明細書において、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値と任意に組み合わせることができる。本明細書に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。「A又はB」とは、A及びBのどちらか一方を含んでいればよく、両方とも含んでいてもよい。本明細書に例示する材料は、特に断らない限り、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0016】
(フラボノイド配糖体の分解方法)
本実施形態に係るフラボノイド配糖体の分解方法は、フラボノイド配糖体を含む原料を、アルコールの存在下、密閉した容器内で上記アルコールの常圧での沸点を超える温度で加熱処理することで、フラボノイド配糖体をフラボノイドに分解する方法である。なお、本実施形態において、常圧とは0.1MPa(大気圧)を意味する。
【0017】
フラボノイド配糖体は、フラボノイドと糖とがグリコシド結合により結合した構造を有する親水性の化合物である。フラボノイド配糖体の元となるフラボノイド(アグリコン)は、フェニルクロマン骨格を基本構造とする芳香族化合物であり、フラボン類、フラボノール類、フラバノン類、フラバノノール類、イソフラボン類、アントシアニン類、フラバノール類、カルコン類、オーロン類等が挙げられる。これらの中でも、フラボノイドは、フラボン類であるポリメトキシフラボンであってもよい。
【0018】
ポリメトキシフラボンとしては、スダチチン、デメトキシスダチチン、ノビレチン、タンゲレチン、ペンタメトキシフラボン、テトラメトキシフラボン、ヘプタメトキシフラボン等が挙げられる。これらの中でも、ポリメトキシフラボンは、スダチチン、又は、デメトキシスダチチンであってもよい。
【0019】
また、フラボノイドは、ケルセチン、ヘスペレチン、又は、アントシアニジンを含んでいてもよい。
【0020】
フラボノイド配糖体の元となる糖としては、特に限定されず、上述したフラボノイドとグリコシド結合により結合して配糖体を形成することができる公知の糖が挙げられる。
【0021】
加熱処理に供する原料は、フラボノイド配糖体以外の他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、例えば、フラボノイド、水溶性食物繊維、難溶性食物繊維、糖類等が挙げられる。原料におけるフラボノイド配糖体の含有量は、原料の固形分全量を基準として、0.1質量%以上であることが好ましく、0.25~30質量%であることがより好ましく、0.3~15質量%であることが更に好ましく、0.5~5質量%であることが特に好ましい。原料がフラボノイドを更に含む場合、フラボノイド配糖体の含有量は、フラボノイドの含有量1質量部に対して、0.25質量部以上であることが好ましく、0.5~100質量部であることがより好ましく、5~50質量部であることが更に好ましい。
【0022】
原料として具体的には、植物及び海草の花、葉、根、茎、果実、種子等を用いることができる。特に果皮はポリメトキシフラボン、及びそれらの配糖体を多く含有するため、柑橘果実の搾汁残渣を好適に用いることができる。また、原料は、柑橘類から得られた乾燥粉末であってもよく、柑橘類の果皮から得られた乾燥粉末であってもよい。柑橘類としては、スダチ、温州みかん、ポンカン、シークワサー等が挙げられる。柑橘類は、スダチチン及びデメトキシスダチチン等のポリメトキシフラボン、及びそれらの配糖体を多く含有するスダチであってもよい。
【0023】
加熱処理は、原料を、アルコールを含む溶媒と共に耐圧性の密閉容器内に封入し、密閉したまま上記アルコールの常圧での沸点を超える温度で加熱することで行うことができる。上記原料及び溶媒を含む反応液が密閉容器内で加熱されることで、密閉容器内が加熱及び加圧環境となり、フラボノイド配糖体の分解反応が生じることとなる。加熱処理は、反応液を撹拌しながら行ってもよい。耐圧性の密閉容器としては特に制限されないが、例えば、水を溶媒とする水熱処理に使用可能な公知の容器を用いることができる。耐圧性の密閉容器としては、例えば、オートクレーブを用いることができる。
【0024】
溶媒は、アルコールを単独で用いてもよく、アルコールと他の溶剤とを混合した混合溶媒を用いてもよい。アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、グリセリン等が挙げられる。これらの中でも、フラボノイド配糖体の分解をより促進させることができることから、メタノール及びエタノールが好ましい。他の溶剤としては、例えば、水、酢酸エチル、ヘキサン、アセトン等が挙げられる。
【0025】
溶媒は、水とアルコールとの混合溶媒であってもよい。水とアルコールとの混合溶媒を用いる場合、水とアルコールとの質量比(水/アルコール)は、1/99~99/1であることができ、分解する配糖体の溶解度によって適宜選定される。溶解度が高い混合比率を選択することで一度に効率よく反応させることができる。溶媒中の水とアルコールとの質量比(水/アルコール)は、1/99~50/50、1/99~20/80、1/99~10/90、2/98~6/94、又は、3/97~5/95であってもよい。水とアルコールとの質量比が上記範囲内であることで、フラボノイド配糖体の分解をより促進させることができる。
【0026】
溶媒中のアルコールの含有量は、溶媒全量を基準として、50質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、94質量%以上、又は、95質量%以上であってもよく、100質量%未満、99質量%以下、98質量%以下、又は、97質量%以下であってもよい。溶媒中のアルコールの含有量が上記下限値以上であると、フラボノイド配糖体の分解をより促進させることができる。
【0027】
溶媒中の水の含有量は、溶媒全量を基準として、0質量%超、1質量%以上、2質量%以上、又は、3質量%以上であってもよく、50質量%以下、20質量%以下、10質量%以下、6質量%以下、又は、5質量%以下であってもよい。溶媒中の水の含有量が上記下限値以上であると、溶媒へのフラボノイド配糖体の溶解性及び分散性を向上させることができ、フラボノイド配糖体の分解をより促進させることができる。一方、水の含有量が上記上限値を超えると、溶媒中のアルコールの含有量が相対的に低下し、フラボノイド配糖体の分解促進効果が低下する傾向があるため、水の含有量は上記上限値以下であることが好ましい。
【0028】
溶媒の量は、加熱処理を行うのに十分な量であればよく、特に限定されないが、溶媒100質量部に対して原料の固形分が1質量部以上、2質量部以上、4質量部以上、又は、5質量以上であってもよく、100質量部以下、33質量部以下、25質量部以下、18質量部以下、又は、11質量部以下であってもよい。また、反応液中の原料の固形分の含有量(原料濃度)としては、反応液全量を基準として1.0質量%以上、2.0質量%以上、3.8質量%以上、又は、4.8質量%以上であってもよく、50質量%以下、25質量%以下、20質量%以下、15質量%以下、又は、10質量%以下であってもよい。溶媒の量又は原料濃度が上記範囲内であると、フラボノイド配糖体の分解を効率的に行うことができる。また、溶媒に対する原料の固形分の割合又は原料濃度が上記上限値以下であると、本実施形態の分解方法で得られた分解生成物からフラボノイドを抽出した際に、フラボノイドの収率が向上する傾向がある。
【0029】
反応液は、酸を含まないことが好ましい。特に、反応液は、塩酸、硫酸、硝酸等の無機酸を含まないことが好ましい。反応液が無機酸を含む場合、密閉容器内での加熱処理により、毒性の高い有機塩素系化合物、有機窒素系化合物、有機硫黄系化合物が生成し易いため、好ましくない。また、反応液が無機酸を含む場合、製品中に残存するおそれがあると共に、製品中への残存を防ぐために無機酸を十分に除去する工程が必要となるため高コストになるという問題がある。反応液中の無機酸の含有量は、反応液全量を基準として1質量%以下、0.1質量%以下、又は、0.01質量%以下であることが好ましい。なお、クエン酸、酢酸、アスパラギン酸、アミノ酸、核酸等の生体由来の有機酸の含有は特に制限されない。本明細書中、反応液全量とは、加熱処理を行う前(密閉容器内で加熱加圧を行う前)の状態における反応液の全量を意味する。
【0030】
反応液中のフラボノイド配糖体の含有量は、反応液全量を基準として0.005質量%以上、0.01質量%以上、0.02質量%以上、又は、0.03質量%以上であってもよく、10質量%以下、5質量%以下、3質量%以下、1質量%以下、0.9質量%以下、0.5質量%以下、0.3質量%以下、又は、0.1質量%以下であってもよい。上記含有量が上記下限値以上であると、フラボノイドの製造効率が向上する傾向がある。一方、上記含有量が上記上限値以下であると、本実施形態の分解方法で得られた分解生成物からフラボノイドを抽出した際に、フラボノイドの収率が向上する傾向がある。これは、反応液中のフラボノイド配糖体の濃度が高いと、フラボノイド配糖体から分離した糖同士の重合(カラメル化反応)、及び、反応液中にアミノ酸が存在した場合には、糖とアミノ酸との重合(メイラード反応)が生じ易くなるためであると考えられる。糖の重合物(カラメル化反応生成物及びメイラード反応生成物)は、水にもアルコールにも溶解し難い。そして、糖の重合物が、分解したフラボノイドを取り込むことでフラボノイドの抽出を妨げ、フラボノイドの収率を低下させる要因となるものと推察される。
【0031】
加熱処理の反応条件は特に限定されないが、例えば、110~300℃で0.5~20時間とすることができる。反応温度は、120~190℃であることが好ましく、140~185℃であることがより好ましい。反応温度が110℃以上であると、反応がより良好に発生しやすい傾向があり、300℃以下であると、原料及びフラボノイドの炭化が進行しにくく、収率がより向上する傾向がある。反応時間は、0.5~20時間であることが好ましく、1~10時間であることがより好ましい。反応時間が0.5時間以上であると、反応がより進みやすくなる傾向があり、20時間以下であると、反応の進行とコストとのバランスがとりやすくなる傾向がある。
【0032】
加熱処理を行う際に混合溶媒を用いる場合、反応温度は、混合溶媒の状態で、混合溶媒中のアルコールが常温で蒸発する温度(すなわち、沸点上昇等を加味した沸点)を超える温度であればよい。溶媒に複数の種類のアルコールが含まれる場合、最も低沸点のアルコールを基準として反応温度を設定することができる。なお、フラボノイド配糖体の分解を効率的に行う観点から、反応温度は、複数の種類のアルコールからなる溶媒、又は、アルコールと他の溶媒との混合溶媒において、最も高沸点の溶媒が常温で蒸発する温度を超える温度とすることが好ましい。
【0033】
加熱処理は、低温(例えば200℃未満)且つ長時間(例えば1時間以上)の条件で行うことが、フラボノイドの収率を向上させる観点から好ましい。反応温度が高温であると、反応後の冷却時に反応液の突沸が生じ易く、突沸が生じると反応液が該反応液を収容した容器の外に飛散するため、収率が低下する傾向がある。また、上述した突沸が生じないように冷却する場合、冷却時間が長時間必要となるため、作業効率が低下することとなる。この冷却時間が長くなる問題は、特にフラボノイドを量産化する際のデメリットとなる。このような問題を改善する観点から、加熱処理は低温で長時間の条件で行うことが好ましい。加熱処理を低温で行った場合でも、反応時間を長くすることでフラボノイド配糖体を十分にフラボノイドに分解することができる。また、加熱処理を低温且つ長時間の条件で行った方が、加熱処理を高温且つ短時間の条件で行った場合よりも、加熱処理後の冷却時間を含めた全体の工程時間を短縮することができる。
【0034】
加熱処理時の容器内の圧力は、アルコール又はアルコールと他の溶剤との混合溶媒の、上記反応温度に対応する飽和蒸気圧又はそれ以上であればよいが、装置の耐圧性の観点から、飽和蒸気圧であることが好ましい。加熱処理時の密閉容器内の圧力は、例えば、0.2~1.6MPaとすることができる。
【0035】
上記条件で加熱処理を行うことで、フラボノイド配糖体をフラボノイドに(より具体的にはフラボノイドと糖に)、効率的に分解することができる。
【0036】
(フラボノイドの製造方法)
本実施形態に係るフラボノイドの製造方法は、フラボノイド配糖体を分解する分解工程と、分解工程で得られた分解生成物からフラボノイドを抽出する抽出工程と、を含む。分解工程は、上述した本実施形態に係るフラボノイド配糖体の分解方法によりフラボノイド配糖体を分解する工程である。
【0037】
抽出工程では、分解工程で得られた分解生成物からフラボノイドを抽出する。分解生成物には、フラボノイドの他に、糖、分解させずに残ったフラボノイド配糖体、水溶性及び難溶性セルロース並びにその分解物等が含まれている。ここで、フラボノイドは疎水性であるのに対し、糖、フラボノイド配糖体、水溶性セルロース及びその分解物は親水性である。そのため、加熱処理後、水に不溶な成分にはフラボノイドが高濃度で含まれており、加熱処理後に水溶液と水不溶分とを分離することで、フラボノイドを濃縮することができる。また、さらに水不溶分を、フラボノイドを溶解する溶媒、例えばエタノール、酢酸エチル、ヘキサン、トルエン等、及び、それらの混合溶媒に溶解し、不溶物をろ過等により除去することで、フラボノイドをさらに抽出・精製することができる。その後、ろ液を乾燥させることにより、高濃度フラボノイドを得ることができる。
【0038】
上記方法により、フラボノイドを高い収率で効率的に製造することができる。本実施形態の製造方法で製造されるフラボノイドは、ポリメトキシフラボンであってもよく、スダチチン及び/又はデメトキシスダチチンであってもよい。本実施形態の製造方法は、ポリメトキシフラボン、特にスダチチン及びデメトキシスダチチンの製造に好適であり、その収率を大きく向上させることができる。
【実施例0039】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0040】
(実施例1)
スダチチン含有量1000質量ppm、デメトキシスダチチン含有量1500質量ppm、配糖体由来スダチチン含有量8000質量ppm、配糖体由来デメトキシスダチチン含有量3000質量ppmであるスダチ果皮エキス粉(池田薬草株式会社製)2gを、溶媒としてエタノール(特級、純度99.5%、和光純薬工業株式会社製)50gに溶解/分散させ、容量100mlのテフロン(登録商標)容器に封入し、更にそのテフロン(登録商標)容器をステンレス製耐圧容器に収め、耐圧容器を密閉した。密閉した耐圧容器内で、テフロン(登録商標)容器内の溶液をマグネティックスターラーを用いて回転数600rpmで撹拌しながら、溶液の温度が180℃となるようにヒーターで加熱した。180℃到達後、撹拌を続けながら180℃で60分間加熱処理を行った。その後、加熱及び撹拌を止めて常温(25℃)まで自然冷却した。なお、加熱処理中の最高到達温度は181℃であった。冷却後、テフロン(登録商標)容器内の溶液及び固形分をビーカーに取り出し、60℃加温下でダイアフラムポンプを用いて真空乾燥し、粉末状の配糖体分解サンプル1を1.9g得た。
【0041】
(実施例2)
溶媒をメタノール(特級、純度99.5%、和光純薬工業株式会社製)50gに変更したこと以外は実施例1と同様にして、粉末状の配糖体分解サンプル2を1.8g得た。
【0042】
(実施例3)
溶媒をグリセリン(和光純薬工業株式会社製)50gに変更したこと以外は実施例1と同様にして、180℃で60分間の加熱処理を行った。その後、加熱及び撹拌を止めて常温(25℃)まで自然冷却した。冷却後、溶液中に1Lの水を投入し、攪拌してスダチチン及びデメトキシスダチチンを含む配糖体分解物を析出させた。この溶液について、0.2μmPTFEメッシュにてダイアフラムポンプを用いて減圧濾過を行い、析出固形分を分取して、それを粉末状の配糖体分解サンプル3として得た。
【0043】
(実施例4)
溶媒を水/エタノール混合溶媒(質量比5/95)50gに変更したこと以外は実施例1と同様にして、粉末状の配糖体分解サンプル4を1.85g得た。
【0044】
(実施例5)
溶媒を水/エタノール混合溶媒(質量比20/80)50gに変更したこと以外は実施例1と同様にして、粉末状の配糖体分解サンプル5を1.85g得た。
【0045】
(実施例6)
溶媒を水/エタノール混合溶媒(質量比50/50)50gに変更したこと以外は実施例1と同様にして、粉末状の配糖体分解サンプル6を1.7g得た。
【0046】
(実施例7)
溶媒を水/エタノール混合溶媒(質量比80/20)50gに変更したこと以外は実施例1と同様にして、粉末状の配糖体分解サンプル7を1.85g得た。
【0047】
(実施例8)
溶媒を水/エタノール混合溶媒(質量比95/5)50gに変更したこと以外は実施例1と同様にして、粉末状の配糖体分解サンプル8を1.85g得た。
【0048】
(実施例9~11)
加熱処理中の水の温度を160℃(実施例9)、140℃(実施例10)、120℃(実施例11)としたこと以外は実施例1と同様にして、粉末状の配糖体分解サンプル9(1.9g)、10(1.85g)、11(1.8g)を得た。
【0049】
(実施例12~15)
加熱処理の反応時間を600分(10時間)とし、処理中の温度を120℃(実施例12)、140℃(実施例13)、160℃(実施例14)、180℃(実施例15)としたこと以外は実施例1と同様にして、粉末状の配糖体分解サンプル12(1.75g)、13(1.8g)、14(1.8g)、15(1.8g)を得た。
【0050】
(比較例1)
実施例1で用いたものと同じスダチ果皮エキス粉(池田薬草株式会社製)2gを比較例1のサンプルとした。
【0051】
(比較例2)
実施例1で用いたものと同じスダチ果皮エキス粉(池田薬草株式会社製)2gを耐熱容器に入れ、熱風で粉が舞い散らないようφ3mm程度の穴を空けたアルミホイルで蓋をして、180℃のオーブンで1時間加熱処理し、スダチ果皮エキス粉加熱処理サンプル1.65gを得た。
【0052】
(参考例1)
実施例1で用いたものと同じスダチ果皮エキス粉(池田薬草株式会社製)2gを1N塩酸50gに溶解/分散させ、マグネティックスターラーを用いて回転数600rpmで撹拌しながら80℃で1時間加熱した後、加熱及び撹拌を止めて常温(25℃)まで自然冷却した。冷却後の反応液を1N水酸化ナトリウム水溶液で中和し、60℃加温下でダイアフラムポンプを用いて真空乾燥して、粉末状の配糖体塩酸分解サンプルを1.8g得た。
【0053】
<スダチチン濃度及びデメトキシスダチチン濃度の測定>
各実施例、比較例及び参考例で得られたサンプルのスダチチン濃度及びデメトキシスダチチン濃度は、以下の方法で測定した。まず、サンプル0.1gを希釈倍率500となるように、エタノールに溶解/分散させ、孔径0.1μmのPTFEフィルターでろ過して、エタノール溶液を得た。このエタノール溶液について、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により成分分析を行った。標準物質に市販のスダチチン標準精製試料及び市販のデメトキシスダチチン標準精製試料を用いてそれぞれ検量線を作成し、それを用いてサンプル中のスダチチン濃度及びデメトキシスダチチン濃度を概算した。HPLC装置には、日立ハイテク製「クロムマスター」を用いた。結果は表1にまとめて示した。
【0054】
【表1】
【0055】
表1に示すとおり、実施例1~15は全て、比較例1及び2と比較してスダチチン濃度及びデメトキシスダチチン濃度が上昇しており、スダチチン配糖体及びデメトキシスダチチン配糖体の分解によってポリメトキシフラボンであるスダチチン及びデメトキシスダチチンが新たに生成し、スダチチン及びデメトキシスダチチンの収率を向上させることができることが分かった。また、実施例1~15では、参考例1のように塩酸を用いることなくスダチチン濃度及びデメトキシスダチチン濃度を向上させることができ、条件によっては塩酸を用いた場合よりもスダチチン濃度及びデメトキシスダチチン濃度を向上させることができることが分かった。