(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024097084
(43)【公開日】2024-07-17
(54)【発明の名称】移動物標検知装置、移動物標検知システム、移動物標検知プログラム及び移動物標検知方法
(51)【国際特許分類】
G01S 13/34 20060101AFI20240709BHJP
【FI】
G01S13/34
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024074452
(22)【出願日】2024-05-01
(62)【分割の表示】P 2020118973の分割
【原出願日】2020-07-10
(71)【出願人】
【識別番号】000191238
【氏名又は名称】日清紡マイクロデバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【弁理士】
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100173716
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 優
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 理志
(72)【発明者】
【氏名】笹原 俊彦
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本開示は、FMCWレーダを用いて、移動物標の距離を検知するにあたり、可変スペクトル閾値を適切に設定し、FMCWレーダの感度を高くしたうえで、簡便、確実かつ高速に常時干渉(接近干渉)の誤報検知を回避することを目的とする。
【解決手段】本開示は、FMCWレーダの送受信信号間のビート信号を取得するビート信号取得部21と、異なる送受信周期のビート信号間の差分信号を算出する差分信号算出部22と、差分信号の周波数スペクトルを算出する周波数スペクトル算出部24と、周波数スペクトルと、自装置と干渉源との間の掃引周波数差にピークを有するスペクトル閾値と、の間の各周波数での大小関係を判定するスペクトル閾値判定部25と、周波数スペクトルがスペクトル閾値より大きい周波数に基づいて、掃引周波数差に影響されることなく、移動物標の距離を出力する移動物標出力部26と、を備える移動物標検知装置2である。
【選択図】
図16
【特許請求の範囲】
【請求項1】
FMCWレーダの送受信信号間のビート信号を取得するビート信号取得部と、
異なる送受信周期の前記ビート信号間の差分信号を算出する差分信号算出部と、
前記差分信号の周波数スペクトルを算出する周波数スペクトル算出部と、
前記周波数スペクトルと、自装置と干渉源との間の掃引周波数差にピークを有するスペクトル閾値と、の間の各周波数での大小関係を判定するスペクトル閾値判定部と、
前記周波数スペクトルが前記スペクトル閾値より大きい周波数に基づいて、前記掃引周波数差に影響されることなく、移動物標の距離を出力する移動物標出力部と、
を備えることを特徴とする移動物標検知装置。
【請求項2】
前記スペクトル閾値判定部は、前記移動物標の距離に対応し時間変化する周波数での前記周波数スペクトルの強度変化に追従せず、前記掃引周波数差に対応し時間変化しない周波数での前記周波数スペクトルの強度変化に追従して、前記スペクトル閾値を設定する
ことを特徴とする、請求項1に記載の移動物標検知装置。
【請求項3】
前記移動物標出力部は、前記周波数スペクトルが前記スペクトル閾値より大きいものの時間変化しない周波数に基づかず、前記周波数スペクトルが前記スペクトル閾値より大きいとともに時間変化する周波数に基づいて、前記移動物標の距離を出力する
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載の移動物標検知装置。
【請求項4】
前記スペクトル閾値判定部は、前記周波数スペクトルと、白色雑音に対応する周波数に平坦部を有する前記スペクトル閾値と、の間の各周波数での大小関係を判定し、
前記移動物標出力部は、前記周波数スペクトルが前記スペクトル閾値より大きい周波数に基づいて、スペクトル強度が前記白色雑音より高い前記移動物標の距離を出力する
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載の移動物標検知装置。
【請求項5】
前記スペクトル閾値判定部は、前記差分信号の信号強度についての各送受信周期内における時間積分の強度変化に追従して、又は、前記白色雑音に対応する全ての周波数での前記周波数スペクトルの強度変化に追従して、前記スペクトル閾値を設定する
ことを特徴とする、請求項4に記載の移動物標検知装置。
【請求項6】
請求項1に記載の移動物標検知装置と、前記FMCWレーダのレーダ送受信装置と、を備えることを特徴とする移動物標検知システム。
【請求項7】
FMCWレーダの送受信信号間のビート信号を取得するビート信号取得ステップと、
異なる送受信周期の前記ビート信号間の差分信号を算出する差分信号算出ステップと、
前記差分信号の周波数スペクトルを算出する周波数スペクトル算出ステップと、
前記周波数スペクトルと、自装置と干渉源との間の掃引周波数差にピークを有するスペクトル閾値と、の間の各周波数での大小関係を判定するスペクトル閾値判定ステップと、
前記周波数スペクトルが前記スペクトル閾値より大きい周波数に基づいて、前記掃引周波数差に影響されることなく、移動物標の距離を出力する移動物標出力ステップと、
を順にコンピュータに実行させるための移動物標検知プログラム。
【請求項8】
FMCWレーダの送受信信号間のビート信号を取得するビート信号取得ステップと、
異なる送受信周期の前記ビート信号間の差分信号を算出する差分信号算出ステップと、
前記差分信号の周波数スペクトルを算出する周波数スペクトル算出ステップと、
前記周波数スペクトルと、自装置と干渉源との間の掃引周波数差にピークを有するスペクトル閾値と、の間の各周波数での大小関係を判定するスペクトル閾値判定ステップと、
前記周波数スペクトルが前記スペクトル閾値より大きい周波数に基づいて、前記掃引周波数差に影響されることなく、移動物標の距離を出力する移動物標出力ステップと、
を順にコンピュータが実行することを特徴とする移動物標検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、FMCW(Frequency-Modulation Continuous-Wave)レーダを用いて、移動物標の距離を検知する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
FMCWレーダを用いて、移動物標の距離を検知する技術が、特許文献1等に開示されている。ここで、移動物標として、歩く人及び動く車等が挙げられる。そして、送受信信号間のビート信号を算出したうえで、ビート信号の周波数スペクトルを算出するとともに、周波数スペクトルのピーク周波数に基づいて、移動物標の距離を検知する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
周知技術のFMCWレーダでは、周波数スペクトルが白色雑音(自然雑音)に対する「固定」スペクトル閾値より大きい周波数に基づいて、移動物標の距離を検知する。しかし、FMCWレーダの経年変化又は温度変化に応じて、白色雑音(自然雑音)が時間変化する。そこで、周波数スペクトルが白色雑音(自然雑音)に対する「可変」スペクトル閾値より大きい周波数に基づいて、移動物標の距離を検知することが望ましいと考えられる。
【0005】
これに対して、従来技術のCWドップラレーダでは、低周波数の狭帯域の信号処理において、白色雑音(自然雑音)を検知することができる。よって、白色雑音(自然雑音)に対する可変スペクトル閾値を適切な小さな値に設定することができ、CWドップラレーダの感度を高くしたうえで、白色雑音(自然雑音)の誤報検知を回避することができる。
【0006】
その一方で、特許文献1のFMCWレーダでは、広帯域の信号処理において、白色雑音(自然雑音)を検知するのみならず、静止物標、瞬時干渉(クロス干渉)及び常時干渉(接近干渉)を検知することがある。ここで、静止物標として、静止物体及びグランドクラッタ等が挙げられる。そして、瞬時干渉(クロス干渉)として、周波数掃引のタイミングが大きく異なる他のFMCWレーダとの間の干渉、周波数掃引を行なわないCWドップラレーダとの間の干渉及びレーダに限られない無線機との間の干渉等が挙げられる。一方で、常時干渉(接近干渉)として、周波数掃引のタイミングがほぼ同じである他のFMCWレーダとの間の干渉等が挙げられる。よって、白色雑音(自然雑音)に対する可変スペクトル閾値を適切な小さな値に設定することができず、FMCWレーダの感度を高くしたうえで、白色雑音(自然雑音)の誤報検知を回避することができない。
【0007】
ここで、瞬時干渉(クロス干渉)及び常時干渉(接近干渉)の誤報検知を回避するために、以下の従来技術を採用することができる。第1の従来技術では、外来波が存在するときに送信波を出力しないことにより、瞬時干渉(クロス干渉)及び常時干渉(接近干渉)を回避するが、簡便にはこれらの誤報検知を回避することができない。第2の従来技術では、周波数掃引の間隔をランダムにすることにより、瞬時干渉(クロス干渉)及び常時干渉(接近干渉)を回避するが、確実にはこれらの誤報検知を回避することができない。第3の従来技術では、受信波を時間平均したうえで瞬時動作に反応しないことにより、瞬時干渉(クロス干渉)を回避するが、高速にはこの誤報検知を回避することができない。
【0008】
そこで、前記課題を解決するために、本開示は、FMCWレーダを用いて、移動物標の距離を検知するにあたり、白色雑音(自然雑音)に対する可変スペクトル閾値を適切に設定し、FMCWレーダの感度を高くしたうえで、簡便、確実かつ高速に瞬時干渉(クロス干渉)及び常時干渉(接近干渉)の誤報検知を回避することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、異なる送受信周期のビート信号間の差分信号を算出したうえで、差分信号の周波数スペクトルを算出するとともに、周波数スペクトルのピーク周波数に基づいて、移動物標の距離を検知する。ここで、周波数スペクトルでは、静止物標の周波数ピークが除去されたうえで、移動物標の周波数ピークが維持されるものの、白色雑音(自然雑音)の周波数成分及び常時干渉(接近干渉)の周波数ピークも維持される。
【0010】
そこで、常時干渉(接近干渉)の擬似距離に対応する周波数にピークを有する可変スペクトル閾値(常時干渉に応じて時間変化)と比べて、周波数スペクトルが大きい周波数に基づいて、常時干渉(接近干渉)に影響されることなく、移動物標の距離を出力する。
【0011】
そして、白色雑音(自然雑音)に対応する周波数に平坦部を有する可変スペクトル閾値(白色雑音に応じて時間変化)と比べて、周波数スペクトルが大きい周波数に基づいて、スペクトル強度が白色雑音(自然雑音)より高い移動物標の距離を出力する。
【0012】
具体的には、本開示は、FMCWレーダの送受信信号間のビート信号を取得するビート信号取得部と、異なる送受信周期の前記ビート信号間の差分信号を算出する差分信号算出部と、前記差分信号の周波数スペクトルを算出する周波数スペクトル算出部と、前記周波数スペクトルと、自装置と干渉源との間の掃引周波数差にピークを有するスペクトル閾値と、の間の各周波数での大小関係を判定するスペクトル閾値判定部と、前記周波数スペクトルが前記スペクトル閾値より大きい周波数に基づいて、前記掃引周波数差に影響されることなく、移動物標の距離を出力する移動物標出力部と、を備えることを特徴とする移動物標検知装置である。
【0013】
また、本開示は、FMCWレーダの送受信信号間のビート信号を取得するビート信号取得ステップと、異なる送受信周期の前記ビート信号間の差分信号を算出する差分信号算出ステップと、前記差分信号の周波数スペクトルを算出する周波数スペクトル算出ステップと、前記周波数スペクトルと、自装置と干渉源との間の掃引周波数差にピークを有するスペクトル閾値と、の間の各周波数での大小関係を判定するスペクトル閾値判定ステップと、前記周波数スペクトルが前記スペクトル閾値より大きい周波数に基づいて、前記掃引周波数差に影響されることなく、移動物標の距離を出力する移動物標出力ステップと、を順にコンピュータに実行させるための移動物標検知プログラムである。
【0014】
また、本開示は、FMCWレーダの送受信信号間のビート信号を取得するビート信号取得ステップと、異なる送受信周期の前記ビート信号間の差分信号を算出する差分信号算出ステップと、前記差分信号の周波数スペクトルを算出する周波数スペクトル算出ステップと、前記周波数スペクトルと、自装置と干渉源との間の掃引周波数差にピークを有するスペクトル閾値と、の間の各周波数での大小関係を判定するスペクトル閾値判定ステップと、前記周波数スペクトルが前記スペクトル閾値より大きい周波数に基づいて、前記掃引周波数差に影響されることなく、移動物標の距離を出力する移動物標出力ステップと、を順にコンピュータが実行することを特徴とする移動物標検知方法である。
【0015】
この構成によれば、移動物標の距離を検知するにあたり、常時干渉(接近干渉)に対する可変スペクトル閾値を適切な大きな値に設定し、FMCWレーダの感度を高くしたうえで、簡便、確実かつ高速に常時干渉(接近干渉)の誤報検知を回避することができる。
【0016】
また、本開示は、前記スペクトル閾値判定部は、前記移動物標の距離に対応し時間変化する周波数での前記周波数スペクトルの強度変化に追従せず、前記掃引周波数差に対応し時間変化しない周波数での前記周波数スペクトルの強度変化に追従して、前記スペクトル閾値を設定することを特徴とする移動物標検知装置である。
【0017】
この構成によれば、常時干渉(接近干渉)の周波数ピークの時間変化に応じて、常時干渉(接近干渉)に対する可変スペクトル閾値を適切な大きな値に設定することができる。
【0018】
また、本開示は、前記移動物標出力部は、前記周波数スペクトルが前記スペクトル閾値より大きいものの時間変化しない周波数に基づかず、前記周波数スペクトルが前記スペクトル閾値より大きいとともに時間変化する周波数に基づいて、前記移動物標の距離を出力することを特徴とする移動物標検知装置である。
【0019】
この構成によれば、常時干渉(接近干渉)に対する可変スペクトル閾値を適切な大きな値に設定完了するまでに、常時干渉(接近干渉)の誤報検知を回避することができる。
【0020】
また、本開示は、前記スペクトル閾値判定部は、前記周波数スペクトルと、白色雑音に対応する周波数に平坦部を有する前記スペクトル閾値と、の間の各周波数での大小関係を判定し、前記移動物標出力部は、前記周波数スペクトルが前記スペクトル閾値より大きい周波数に基づいて、スペクトル強度が前記白色雑音より高い前記移動物標の距離を出力することを特徴とする移動物標検知装置である。
【0021】
この構成によれば、移動物標の距離を検知するにあたり、白色雑音(自然雑音)に対する可変スペクトル閾値を適切な小さな値に設定し、FMCWレーダの感度を高くしたうえで、簡便、確実かつ高速に常時干渉(接近干渉)の誤報検知を回避することができる。
【0022】
また、本開示は、前記スペクトル閾値判定部は、前記差分信号の信号強度についての各送受信周期内における時間積分の強度変化に追従して、又は、前記白色雑音に対応する全ての周波数での前記周波数スペクトルの強度変化に追従して、前記スペクトル閾値を設定することを特徴とする移動物標検知装置である。
【0023】
この構成によれば、白色雑音(自然雑音)の強度の時間変化に応じて、白色雑音(自然雑音)に対する可変スペクトル閾値を適切な小さな値に設定することができる。
【0024】
また、本開示は、以上に記載の移動物標検知装置と、前記FMCWレーダのレーダ送受信装置と、を備えることを特徴とする移動物標検知システムである。
【0025】
この構成によれば、以上に記載の効果を有するシステムを提供することができる。
【0026】
なお、上記各開示の発明は、可能な限り組み合わせることができる。
【発明の効果】
【0027】
このように、本開示は、FMCWレーダを用いて、移動物標の距離を検知するにあたり、白色雑音(自然雑音)に対する可変スペクトル閾値を適切に設定し、FMCWレーダの感度を高くしたうえで、簡便、確実かつ高速に瞬時干渉(クロス干渉)及び常時干渉(接近干渉)の誤報検知を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】第1実施形態の移動物標検知システムの構成を示す図である。
【
図2】第1実施形態の静止物標の差分信号及び周波数スペクトルを示す図である。
【
図3】第1実施形態の移動物標の差分信号及び周波数スペクトルを示す図である。
【
図4】第1実施形態の瞬時干渉の発生メカニズムを示す図である。
【
図5】第1実施形態の瞬時干渉の発生メカニズムを示す図である。
【
図6】第1実施形態の干渉除去信号算出処理の手順を示す図である。
【
図7】第1実施形態の干渉除去信号算出処理の内容を示す図である。
【
図8】第1実施形態の干渉除去信号算出処理の原理を示す図である。
【
図9】第1実施形態の移動物標検知処理の手順を示す図である。
【
図10】第1実施形態の移動物標検知処理及びスペクトル閾値設定処理を示す図である。
【
図11】第1実施形態の移動物標の物標距離の出力処理を示す図である。
【
図12】第1実施形態のスペクトル閾値設定処理の手順を示す図である。
【
図13】第1実施形態の白色雑音に対するスペクトル閾値の設定処理を示す図である。
【
図14】第1実施形態の白色雑音に対するスペクトル閾値の更新処理を示す図である。
【
図15】第1実施形態の以上のスペクトル閾値の維持処理を示す図である。
【
図16】第2実施形態の移動物標検知システムの構成を示す図である。
【
図17】第2実施形態の常時干渉の発生メカニズムを示す図である。
【
図18】第2実施形態の常時干渉の差分信号及び周波数スペクトルを示す図である。
【
図19】第2実施形態の移動物標検知処理の手順を示す図である。
【
図20】第2実施形態の移動物標検知処理及びスペクトル閾値設定処理を示す図である。
【
図21】第2実施形態のいずれの物標距離の非検知処理を示す図である。
【
図22】第2実施形態の移動物標の物標距離の出力処理を示す図である。
【
図23】第2実施形態の常時干渉の擬似距離の非出力処理を示す図である。
【
図24】第2実施形態のスペクトル閾値設定処理の手順を示す図である。
【
図25】第2実施形態の白色雑音に対するスペクトル閾値の設定処理を示す図である。
【
図26】第2実施形態の白色雑音に対するスペクトル閾値の更新処理を示す図である。
【
図27】第2実施形態の常時干渉に対するスペクトル閾値の設定処理を示す図である。
【
図28】第2実施形態の以上のスペクトル閾値の維持処理を示す図である。
【
図29】第2実施形態のスペクトル閾値設定処理及び移動物標検知処理を示す図である。
【
図30】第1実施形態に対する比較例のスペクトル閾値設定処理を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
添付の図面を参照して本開示の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本開示の実施の例であり、本開示は以下の実施形態に制限されるものではない。
【0030】
(第1実施形態の移動物標検知システムの構成)
第1実施形態の移動物標検知システムの構成を
図1に示す。移動物標検知システムSは、FMCWレーダ送受信装置1及び移動物標検知装置2を備える。移動物標検知装置2は、ビート信号取得部21、差分信号算出部22、干渉除去信号算出部23、周波数スペクトル算出部24、スペクトル閾値判定部25及び移動物標出力部26を備え、
図6に示した干渉除去信号算出プログラム並びに
図9及び
図12に示した移動物標検知プログラムをコンピュータにインストールすることにより実現することができる。
【0031】
FMCWレーダ送受信装置1は、FMCWレーダの送信信号を物標Tへと照射し、FMCWレーダの反射信号を物標Tから受信する。ビート信号取得部21は、FMCWレーダの送受信信号間のビート信号を取得する(
図6でのステップS1)。差分信号算出部22は、異なる送受信周期(
図2及び
図3では、時間的に隣接する送受信周期)のビート信号間の差分信号を算出する(
図6でのステップS2)。周波数スペクトル算出部24は、干渉除去信号の周波数スペクトルを算出する(
図9でのステップS11)。移動物標出力部26は、周波数スペクトルのピーク周波数に基づいて、物標Tの距離を検知する。
【0032】
第1実施形態の静止物標の差分信号及び周波数スペクトルを
図2に示す。ここで、静止物標として、静止物体及びグランドクラッタ等が挙げられる。第1、2周期のビート信号は、周波数が同一であり、位相も同一である。第1、2周期間の差分信号は、キャンセルされる。第1、2周期間の周波数スペクトルは、いずれに周波数においてもピークを有さない。このように、異なる送受信周期間での周波数スペクトルでは、静止物標の周波数ピークが除去されるものの、白色雑音(自然雑音)の周波数成分は維持される。
【0033】
第1実施形態の移動物標の差分信号及び周波数スペクトルを
図3に示す。ここで、移動物標として、歩く人及び動く車等が挙げられる。第1、2(2、3)周期のビート信号は、周波数が異なる。第1、2(2、3)周期間の差分信号は、キャンセルされない。第1、2(2、3)周期間の周波数スペクトルは、ある(他の)周波数においてピークを有する。このように、異なる送受信周期間での周波数スペクトルでは、移動物標の周波数ピークが維持されるものの、白色雑音(自然雑音)の周波数成分も維持される。
【0034】
第1実施形態の瞬時干渉の発生メカニズムを
図4に示す。ここで、
図4で示した瞬時干渉(クロス干渉)として、周波数掃引のタイミングが大きく異なる他のFMCWレーダとの間の干渉等が挙げられる。送信周波数は、ほとんどの時間領域において大きく異なるが、ごく一部の時間領域においてほぼ同じになる。差分信号は、そのごく一部の時間領域において、IF周波数帯域外(移動物標の検出距離範囲外)のピーク信号となる。送信周波数の出力安定度に応じて、
図4で示した瞬時干渉(クロス干渉)の状態と、
図17で示す常時干渉(接近干渉)の状態と、の間で状態が数時間又は数日の周期で入れ替わる。
【0035】
第1実施形態の瞬時干渉の発生メカニズムを
図5にも示す。ここで、
図5で示した瞬時干渉(クロス干渉)として、周波数掃引を行なわないCWドップラレーダとの間の干渉及びレーダに限られない(CWドップラレーダと同様に周波数掃引を行なわない)無線機との間の干渉等が挙げられる。送信周波数は、ほとんどの時間領域において大きく異なるが、ごく一部の時間領域においてほぼ同じになる。差分信号は、そのごく一部の時間領域において、IF周波数帯域外(移動物標の検出距離範囲外)のピーク信号となる。
【0036】
そこで、差分信号にノイズ除去フィルタ処理を実行し、差分信号から自装置と干渉源との間の瞬時干渉(クロス干渉)の周波数成分を除去した干渉除去信号を算出する。
【0037】
そして、白色雑音(自然雑音)に対応する周波数に平坦部を有する可変スペクトル閾値(白色雑音に応じて時間変化)と比べて、周波数スペクトルが大きい周波数に基づいて、スペクトル強度が白色雑音(自然雑音)より高い移動物標の距離を出力する。
【0038】
(第1実施形態の干渉除去信号算出処理の手順)
第1実施形態の干渉除去信号算出処理の手順を
図6に示す。第1実施形態の干渉除去信号算出処理の内容を
図7に示す。第1実施形態の干渉除去信号算出処理の原理を
図8に示す。移動物標検知処理及びスペクトル閾値設定処理については、後に詳述する。
【0039】
干渉除去信号算出部23は、差分信号にノイズ除去フィルタ処理(メディアンフィルタ処理等)を実行し、差分信号から自装置と干渉源との間の瞬時干渉(クロス干渉)の周波数成分を除去した干渉除去信号を算出する。具体的には、以下の処理が実行される。
【0040】
干渉除去信号算出部23は、差分信号を取得する。
図7の「差分信号」では、瞬時干渉(クロス干渉)の周波数成分であるピーク信号が大きく出現する。
【0041】
干渉除去信号算出部23は、差分信号にノイズ除去フィルタ処理(メディアンフィルタ処理等)を実行する(ステップS3)。
図7の「ノイズ除去フィルタ結果」では、瞬時干渉(クロス干渉)の周波数成分であるピーク信号がほぼ除去される。
【0042】
干渉除去信号算出部23は、差分信号とノイズ除去フィルタ処理(メディアンフィルタ処理等)の実行結果との間の差分強度を算出する(ステップS4)。
図7の「差分強度」では、瞬時干渉(クロス干渉)の周波数成分であるピーク信号が大きく残存する。
【0043】
干渉除去信号算出部23は、差分強度が所定強度以上である時間領域が、ごく一部において存在すると判定する(ステップS5、YES)。
図7の「差分強度」では、瞬時干渉(クロス干渉)の周波数成分であるピーク信号が所定強度以上である。
【0044】
干渉除去信号算出部23は、当該時間領域において、差分信号をゼロ置換する(ステップS6)。
図7の「ゼロ置換」では、瞬時干渉(クロス干渉)の周波数成分であるピーク信号がゼロ置換される。ここで、
図8で示したように、差分信号の周波数スペクトルは、受信系の応答関数と比べて、ほぼ同様な周波数依存性を有する。そこで、干渉除去信号算出部23は、受信系の応答関数に基づいて、差分信号のゼロ置換幅を設定する。
【0045】
以上により、干渉除去信号算出部23は、干渉除去信号を算出する。
図7の「干渉除去信号」では、瞬時干渉(クロス干渉)の周波数成分であるピーク信号がゼロ置換される。
【0046】
このように、移動物標の距離を検知するにあたり、瞬時干渉(クロス干渉)の周波数成分を除去するノイズ除去フィルタ(メディアンフィルタ等)を用いて、簡便、確実かつ高速に瞬時干渉(クロス干渉)の誤報検知を回避することができる。
【0047】
具体的には、移動物標の距離を検知するにあたり、瞬時干渉(クロス干渉)の時間領域を検出したうえで、当該時間領域をゼロ置換することにより、簡便、確実かつ高速に瞬時干渉(クロス干渉)の誤報検知を回避することができる。
【0048】
(第1実施形態の移動物標検知処理の手順)
第1実施形態の移動物標検知処理の手順を
図9に示す。第1実施形態の移動物標検知処理及びスペクトル閾値設定処理を
図10に示す。第1実施形態の移動物標の物標距離の出力処理を
図11に示す。スペクトル閾値設定処理については、後に詳述する。
【0049】
周波数スペクトル算出部24は、干渉除去信号の周波数スペクトルを算出する(ステップS11)。ここで、
図7で示したように、干渉除去信号は、ごく一部の時間領域において、ゼロ置換されている。そこで、周波数スペクトル算出部24は、それ以外の時間領域において、別個の窓関数を干渉除去信号に乗算する。すると、周波数スペクトルは、それ以外の時間領域の寄与のみを含むものの、移動物標の物標距離の出力に問題はない。
【0050】
時刻t
0~t
2では、移動物標が出現しておらず、瞬時干渉(クロス干渉)は除去されている。周波数スペクトルは、周波数ピークを有さない(
図11の左欄を参照)。可変スペクトル閾値は、白色雑音(自然雑音)に対応する周波数に平坦部を有する(
図13及び
図14を参照)。スペクトル閾値判定部25は、可変スペクトル閾値と比べて、周波数スペクトルが大きい周波数が、連続n回出現しているわけではないと判定する(ステップS12、NO)。移動物標出力部26は、いずれの物標の距離も非検知とする(ステップS14)。
【0051】
時刻t
2~t
3では、移動物標が出現し始めたが、瞬時干渉(クロス干渉)は除去されている。周波数スペクトルは、移動物標の距離に対応する周波数ピークを有する(
図11の右欄を参照)。可変スペクトル閾値は、白色雑音(自然雑音)に対応する周波数に平坦部を有する(
図15を参照)。スペクトル閾値判定部25は、可変スペクトル閾値と比べて、周波数スペクトルが大きい周波数が、連続n回出現しているわけではないと判定する(ステップS12、NO)。移動物標出力部26は、瞬時的な移動物標の誤報検知を極力回避するため、いずれの物標の距離も非検知とする(ステップS14)。
【0052】
時刻t
3~t
5では、移動物標が出現しているが、瞬時干渉(クロス干渉)は除去されている。周波数スペクトルは、移動物標の距離に対応する周波数ピークを有する(
図11の右欄を参照)。可変スペクトル閾値は、白色雑音(自然雑音)に対応する周波数に平坦部を有する(
図15を参照)。スペクトル閾値判定部25は、可変スペクトル閾値と比べて、周波数スペクトルが大きい周波数が、連続n回出現していると判定する(ステップS12、YES)(なお、第1実施形態では不要であるが、時間変化の有無を判定してもよい)。移動物標出力部26は、移動物標の距離を出力してもよいと判定する(ステップS13)。
【0053】
時刻t5~t6では、時刻t0~t2と同様に、移動物標が出現しておらず、瞬時干渉(クロス干渉)は除去されている。そこで、時刻t0~t2と同様な処理が実行される。
【0054】
このように、移動物標の距離を検知するにあたり、白色雑音(自然雑音)に対する可変スペクトル閾値を適切な小さな値に設定し、FMCWレーダの感度を高くしたうえで、簡便、確実かつ高速に瞬時干渉(クロス干渉)の誤報検知を回避することができる。
【0055】
(第1実施形態のスペクトル閾値設定処理の手順)
第1実施形態のスペクトル閾値設定処理の手順を
図12に示す。第1実施形態の白色雑音に対するスペクトル閾値の設定処理を
図13に示す。第1実施形態の白色雑音に対するスペクトル閾値の更新処理を
図14に示す。第1実施形態の以上のスペクトル閾値の維持処理を
図15に示す。移動物標検知処理については、前に詳述した。
【0056】
時刻t0~t1では、スペクトル閾値判定部25は、白色雑音(自然雑音)に対応する周波数に平坦部を有する固定スペクトル閾値を初期設定する(ステップS21)。
【0057】
時刻t0~t3では、スペクトル閾値判定部25は、このスペクトル閾値と比べて、周波数スペクトルが大きい周波数が、連続n回出現しているわけではないと判定する(ステップS22、NO)。スペクトル閾値判定部25は、干渉除去信号の信号強度についての各送受信周期内における時間積分の強度変化に追従して、又は、白色雑音(自然雑音)に対応する全ての周波数での周波数スペクトルの強度変化に追従して、白色雑音(自然雑音)に対応する周波数に平坦部を有する可変スペクトル閾値を更新する(ステップS24)。
【0058】
図13の左欄では、スペクトル閾値判定部25は、干渉除去信号の信号強度についての各送受信周期内における時間積分を、複数の送受信周期において移動平均する。
図13の右欄では、スペクトル閾値判定部25は、上記の時間積分についての複数の送受信周期における移動平均に、時間領域から周波数領域への換算係数を乗算する。
【0059】
図13では、スペクトル閾値判定部25は、時間領域からの換算により、白色雑音(自然雑音)に対応する周波数に平坦部を有する可変スペクトル閾値を更新している。その他には、スペクトル閾値判定部25は、周波数領域において直接的に、白色雑音(自然雑音)に対応する周波数に平坦部を有する可変スペクトル閾値を更新してもよい。
【0060】
上記の時間積分の移動平均幅は、移動物標の速度が高いときには、短く設定されることが望ましく、移動物標の速度が低いときには、長く設定されることが望ましい。可変スペクトル閾値の周波数範囲は、ナイキスト周波数に応じて設定されることが望ましい。可変スペクトル閾値の大きさは、FMCWレーダの所望感度に応じて設定されることが望ましい。具体的には、可変スペクトル閾値の大きさは、移動物標が存在しないときには、時間領域からの換算値±x%(x:大)に設定されることが望ましく、移動物標が存在するときには、時間領域からの換算値±y%(y:小)に設定されることが望ましい。
【0061】
時刻t
3~t
5では、スペクトル閾値判定部25は、可変スペクトル閾値と比べて、周波数スペクトルが大きい周波数が、連続n回出現していると判定する(ステップS22、YES)(なお、第1実施形態では不要であるが、時間変化の有無を判定してもよい)。スペクトル閾値判定部25は、移動物標の距離に対応する周波数での周波数スペクトルの強度変化に追従せず、ステップS24の白色雑音(自然雑音)に対応する周波数に平坦部を有する可変スペクトル閾値を維持する(ステップS23、
図15を参照)。ここで、移動物標が出現したとしても、ピーク周波数及び周波数ピーク強度は、時間変化するものの、可変スペクトル閾値は、ピーク周波数及び周波数ピーク強度の時間変化に追従しない。
【0062】
時刻t
5~t
6では、スペクトル閾値判定部25は、可変スペクトル閾値と比べて、周波数スペクトルが大きい周波数が、連続n回出現しているわけではないと判定する(ステップS22、NO)。スペクトル閾値判定部25は、時間領域からの換算により、又は、周波数領域において直接的に、白色雑音(自然雑音)に対応する周波数に平坦部を有する可変スペクトル閾値を更新する(ステップS24、
図13及び
図14を参照)。具体的には、スペクトル閾値判定部25は、時刻t
4での白色雑音(自然雑音)の強度増加を検知して、時刻t
6での白色雑音(自然雑音)の可変スペクトル閾値を更新する。
【0063】
このように、白色雑音(自然雑音)の強度の時間変化に応じて、白色雑音(自然雑音)に対する可変スペクトル閾値を適切な小さな値に設定することができる。
【0064】
(第2実施形態の移動物標検知システムの構成)
第2実施形態の移動物標検知システムの構成を
図16に示す。移動物標検知システムSは、FMCWレーダ送受信装置1及び移動物標検知装置2を備える。移動物標検知装置2は、ビート信号取得部21、差分信号算出部22、周波数スペクトル算出部24、スペクトル閾値判定部25及び移動物標出力部26を備え、
図19及び
図24に示した移動物標検知プログラムをコンピュータにインストールすることにより実現することができる。
【0065】
FMCWレーダ送受信装置1は、FMCWレーダの送信信号を物標Tへと照射し、FMCWレーダの反射信号を物標Tから受信する。ビート信号取得部21は、FMCWレーダの送受信信号間のビート信号を取得する(
図19でのステップS31)。差分信号算出部22は、異なる送受信周期(
図18では、時間的に隣接する送受信周期)のビート信号間の差分信号を算出する(
図19でのステップS32)。周波数スペクトル算出部24は、差分信号の周波数スペクトルを算出する(
図19でのステップS33)。移動物標出力部26は、周波数スペクトルのピーク周波数に基づいて、物標Tの距離を検知する。
【0066】
第2実施形態の静止物標及び移動物標の差分信号及び周波数スペクトルは、第1実施形態の静止物標及び移動物標の差分信号及び周波数スペクトルと同様である。
【0067】
第2実施形態の常時干渉の発生メカニズムを
図17に示す。ここで、
図17で示した常時干渉(接近干渉)として、周波数掃引のタイミングがほぼ同じである他のFMCWレーダとの間の干渉等が挙げられる。送信周波数は、ほとんどの時間領域において、かなり近くなる。差分信号は、そのほとんどの時間領域において、掃引周波数差と等しい周波数を有する、IF周波数帯域内(移動物標の検出距離範囲内)のビート信号となる。送信周波数の出力安定度に応じて、
図17で示した常時干渉(接近干渉)の状態と、
図4で示した瞬時干渉(クロス干渉)の状態と、の間で状態が数時間又は数日の周期で入れ替わる。
【0068】
第2実施形態の常時干渉の差分信号及び周波数スペクトルを
図18に示す。第1、2(2、3)周期のビート信号は、周波数(=掃引周波数差)が同一であり、位相は異なる。第1、2(2、3)周期間の差分信号は、キャンセルされない。第1、2(2、3)周期間の周波数スペクトルは、ある(同じ)周波数(=掃引周波数差)においてピークを有する。このように、異なる送受信周期間での周波数スペクトルでは、常時干渉(接近干渉)の周波数ピークが維持されるものの、白色雑音(自然雑音)の周波数成分も維持される。
【0069】
そこで、常時干渉(接近干渉)の擬似距離に対応する周波数にピークを有する可変スペクトル閾値(常時干渉に応じて時間変化)と比べて、周波数スペクトルが大きい周波数に基づいて、常時干渉(接近干渉)に影響されることなく、移動物標の距離を出力する。
【0070】
そして、白色雑音(自然雑音)に対応する周波数に平坦部を有する可変スペクトル閾値(白色雑音に応じて時間変化)と比べて、周波数スペクトルが大きい周波数に基づいて、スペクトル強度が白色雑音(自然雑音)より高い移動物標の距離を出力する。
【0071】
(第2実施形態の移動物標検知処理の手順)
第2実施形態の移動物標検知処理の手順を
図19に示す。第2実施形態の移動物標検知処理及びスペクトル閾値設定処理を
図20に示す。第2実施形態のいずれの物標距離の非検知処理を
図21に示す。第2実施形態の移動物標の物標距離の出力処理を
図22に示す。第2実施形態の常時干渉の擬似距離の非出力処理を
図23に示す。スペクトル閾値設定処理については、後に詳述する。
【0072】
時刻t
0~t
2では、移動物標が出現しておらず、常時干渉(接近干渉)も出現していない。周波数スペクトルは、周波数ピークを有さない(
図21の左欄を参照)。可変スペクトル閾値は、白色雑音(自然雑音)に対応する周波数に平坦部を有する(
図25及び
図26を参照)。スペクトル閾値判定部25は、可変スペクトル閾値と比べて、周波数スペクトルが大きい周波数が、連続n回出現しているわけではないと判定する(ステップS34、NO)。移動物標出力部26は、いずれの物標の距離も非検知とする(ステップS38)。
【0073】
時刻t
2~t
3では、移動物標が出現し始めたが、常時干渉(接近干渉)は出現していない。周波数スペクトルは、移動物標の距離に対応する周波数ピークを有する(
図22の左欄を参照)。可変スペクトル閾値は、白色雑音(自然雑音)に対応する周波数に平坦部を有する(
図28の上段を参照)。スペクトル閾値判定部25は、可変スペクトル閾値と比べて、周波数スペクトルが大きい周波数が、連続n回出現しているわけではないと判定する(ステップS34、NO)。移動物標出力部26は、瞬時的な移動物標の誤報検知を極力回避するため、いずれの物標の距離も非検知とする(ステップS38)。
【0074】
時刻t
3~t
5では、移動物標が出現しているが、常時干渉(接近干渉)は出現していない。周波数スペクトルは、移動物標の距離に対応する周波数ピークを有する(
図22の左欄を参照)。可変スペクトル閾値は、白色雑音(自然雑音)に対応する周波数に平坦部を有する(
図28の上段を参照)。スペクトル閾値判定部25は、可変スペクトル閾値と比べて、周波数スペクトルが大きい周波数が、連続n回出現していると判定し(ステップS34、YES)、そして時間変化していると判定する(ステップS35、YES)。移動物標出力部26は、移動物標の距離を出力してもよいと判定する(ステップS36)。
【0075】
時刻t5~t7では、時刻t0~t2と同様に、移動物標が出現しておらず、常時干渉(接近干渉)も出現していない。そこで、時刻t0~t2と同様な処理が実行される。
【0076】
時刻t
7~t
8では、常時干渉(接近干渉)が出現し始めたが、移動物標は出現していない。周波数スペクトルは、常時干渉(接近干渉)の擬似距離に対応する周波数ピークを有する(
図23の左欄を参照)。可変スペクトル閾値は、白色雑音(自然雑音)に対応する周波数に平坦部を有する(
図27の左欄を参照)。スペクトル閾値判定部25は、可変スペクトル閾値と比べて、周波数スペクトルが大きい周波数が、連続n回出現しているわけではないと判定する(ステップS34、NO)。移動物標出力部26は、瞬時的な常時干渉(接近干渉)の誤報検知を極力回避するため、いずれの物標の距離も非検知とする(ステップS38)。
【0077】
時刻t
8~t
9では、常時干渉(接近干渉)が出現しているが、移動物標は出現していない。周波数スペクトルは、常時干渉(接近干渉)の擬似距離に対応する周波数ピークを有する(
図23の右欄を参照)。可変スペクトル閾値は、常時干渉(接近干渉)の擬似距離に対応する周波数にピークを有するが、常時干渉(接近干渉)のスペクトル強度に追従していない(
図23の右欄を参照)。スペクトル閾値判定部25は、可変スペクトル閾値と比べて、周波数スペクトルが大きい周波数が、連続n回出現していると判定し(ステップS34、YES)、しかし時間変化していないと判定する(ステップS35、NO)。移動物標出力部26は、常時干渉(接近干渉)の擬似距離を出力すべきでないと判定する(ステップS37)。
【0078】
時刻t
9~t
14では、常時干渉(接近干渉)が出現しており、移動物標は後に詳述する。周波数スペクトルは、常時干渉(接近干渉)の擬似距離に対応する周波数ピークを有する(
図21の右欄を参照)。可変スペクトル閾値は、常時干渉(接近干渉)の擬似距離に対応する周波数にピークを有して、常時干渉(接近干渉)のスペクトル強度に追従している(
図27の右欄を参照)。スペクトル閾値判定部25は、可変スペクトル閾値と比べて、周波数スペクトルが大きい周波数が、連続n回出現しているわけではないと判定する(ステップS34、NO)。移動物標出力部26は、いずれの物標の距離も非検知とする(ステップS38)。
【0079】
時刻t
10~t
11では、移動物標が出現し始めており、常時干渉(接近干渉)は前に詳述した。周波数スペクトルは、移動物標の距離に対応する周波数ピークを有する(
図22の右欄を参照)。可変スペクトル閾値は、常時干渉(接近干渉)の擬似距離に対応する周波数にピークを有する(
図28の下段を参照)。スペクトル閾値判定部25は、可変スペクトル閾値と比べて、周波数スペクトルが大きい周波数が、連続n回出現しているわけではないと判定する(ステップS34、NO)。移動物標出力部26は、瞬時的な移動物標の誤報検知を極力回避するため、いずれの物標の距離も非検知とする(ステップS38)。
【0080】
時刻t
11~t
12では、移動物標が出現しており、常時干渉(接近干渉)は前に詳述した。周波数スペクトルは、移動物標の距離に対応する周波数ピークを有する(
図22の右欄を参照)。可変スペクトル閾値は、常時干渉(接近干渉)の擬似距離に対応する周波数にピークを有する(
図28の下段を参照)。スペクトル閾値判定部25は、可変スペクトル閾値と比べて、周波数スペクトルが大きい周波数が、連続n回出現していると判定し(ステップS34、YES)、そして時間変化していると判定する(ステップS35、YES)。移動物標出力部26は、移動物標の距離を出力してもよいと判定する(ステップS36)。
【0081】
時刻t14~t15では、時刻t0~t2と同様に、移動物標が出現しておらず、常時干渉(接近干渉)も出現していない。そこで、時刻t0~t2と同様な処理が実行される。
【0082】
このように、FMCWレーダを用いて、移動物標の距離を検知するにあたり、常時干渉(接近干渉)に対する可変スペクトル閾値を適切な大きな値に設定し、FMCWレーダの感度を高くしたうえで、常時干渉(接近干渉)の誤報検知を回避することができる。
【0083】
そして、常時干渉(接近干渉)に対する可変スペクトル閾値を適切な大きな値に設定完了するまでに、常時干渉(接近干渉)の誤報検知を回避することができる。
【0084】
さらに、FMCWレーダを用いて、移動物標の距離を検知するにあたり、白色雑音(自然雑音)に対する可変スペクトル閾値を適切な小さな値に設定し、FMCWレーダの感度を高くしたうえで、白色雑音(自然雑音)の誤報検知を回避することができる。
【0085】
(第2実施形態のスペクトル閾値設定処理の手順)
第2実施形態のスペクトル閾値設定処理の手順を
図24に示す。第2実施形態の移動物標検知処理及びスペクトル閾値設定処理を
図20に示す。第2実施形態の白色雑音に対するスペクトル閾値の設定処理を
図25に示す。第2実施形態の白色雑音に対するスペクトル閾値の更新処理を
図26に示す。第2実施形態の常時干渉に対するスペクトル閾値の設定処理を
図27に示す。第2実施形態の以上のスペクトル閾値の維持処理を
図28に示す。第2実施形態のスペクトル閾値設定処理及び移動物標検知処理を
図29に示す。移動物標検知処理については、前に詳述した。
【0086】
時刻t0~t1では、スペクトル閾値判定部25は、白色雑音(自然雑音)に対応する周波数に平坦部を有する固定スペクトル閾値を初期設定する(ステップS41)。
【0087】
時刻t0~t3では、スペクトル閾値判定部25は、このスペクトル閾値と比べて、周波数スペクトルが大きい周波数が、連続n回出現しているわけではないと判定する(ステップS42、NO)。スペクトル閾値判定部25は、差分信号の信号強度についての各送受信周期内における時間積分の強度変化に追従して、又は、白色雑音(自然雑音)に対応する全ての周波数での周波数スペクトルの強度変化に追従して、白色雑音(自然雑音)に対応する周波数に平坦部を有する可変スペクトル閾値を更新する(ステップS46)。
【0088】
図25の左欄では、スペクトル閾値判定部25は、差分信号の信号強度についての各送受信周期内における時間積分を、複数の送受信周期において移動平均する。
図25の右欄では、スペクトル閾値判定部25は、上記の時間積分についての複数の送受信周期における移動平均に、時間領域から周波数領域への換算係数を乗算する。
【0089】
図25では、スペクトル閾値判定部25は、時間領域からの換算により、白色雑音(自然雑音)に対応する周波数に平坦部を有する可変スペクトル閾値を更新している。その他には、スペクトル閾値判定部25は、周波数領域において直接的に、白色雑音(自然雑音)に対応する周波数に平坦部を有する可変スペクトル閾値を更新してもよい。
【0090】
上記の時間積分の移動平均幅は、移動物標の速度が高いときには、短く設定されることが望ましく、移動物標の速度が低いときには、長く設定されることが望ましい。可変スペクトル閾値の周波数範囲は、ナイキスト周波数に応じて設定されることが望ましい。可変スペクトル閾値の大きさは、FMCWレーダの所望感度に応じて設定されることが望ましい。具体的には、可変スペクトル閾値の大きさは、移動物標が存在しないときには、時間領域からの換算値±x%(x:大)に設定されることが望ましく、移動物標が存在するときには、時間領域からの換算値±y%(y:小)に設定されることが望ましい。
【0091】
時刻t
3~t
5では、スペクトル閾値判定部25は、可変スペクトル閾値と比べて、周波数スペクトルが大きい周波数が、連続n回出現していると判定し(ステップS42、YES)、そして時間変化していると判定する(ステップS43、YES)。スペクトル閾値判定部25は、移動物標の距離に対応し時間変化する周波数での周波数スペクトルの強度変化に追従せず、ステップS46の白色雑音(自然雑音)に対応する周波数に平坦部を有する可変スペクトル閾値を維持する(ステップS44、
図28の上段を参照)。ここで、可変スペクトル閾値が周波数ピーク強度の時間変化に追従する時定数は、周波数ピーク強度の上昇時には周波数ピーク強度の下降時より長く設定される。よって、移動物標が出現したとしても、可変スペクトル閾値は、周波数ピーク強度の時間変化に追従しない。
【0092】
時刻t
5~t
8では、スペクトル閾値判定部25は、可変スペクトル閾値と比べて、周波数スペクトルが大きい周波数が、連続n回出現しているわけではないと判定する(ステップS42、NO)。スペクトル閾値判定部25は、時間領域からの換算により、又は、周波数領域において直接的に、白色雑音(自然雑音)に対応する周波数に平坦部を有する可変スペクトル閾値を更新する(ステップS46、
図25及び
図26を参照)。具体的には、スペクトル閾値判定部25は、時刻t
4での白色雑音(自然雑音)の強度増加を検知して、時刻t
6での白色雑音(自然雑音)の可変スペクトル閾値を更新する。
【0093】
時刻t
8~t
9では、スペクトル閾値判定部25は、可変スペクトル閾値と比べて、周波数スペクトルが大きい周波数が、連続n回出現していると判定し(ステップS42、YES)、しかし時間変化していないと判定する(ステップS43、NO)。スペクトル閾値判定部25は、常時干渉(接近干渉)の擬似距離に対応し時間変化しない周波数での周波数スペクトルの強度変化に追従して、常時干渉(接近干渉)に対応する周波数にピークを有する可変スペクトル閾値を設定する(ステップS45、
図27を参照)。ここで、可変スペクトル閾値が周波数ピーク強度の時間変化に追従する時定数は、周波数ピーク強度の上昇時には周波数ピーク強度の下降時より長く設定される。よって、常時干渉(接近干渉)が出現したときには、可変スペクトル閾値は、周波数ピーク強度の時間変化に追従する。
【0094】
時刻t
9~t
11、t
12~t
14(時刻t
11~t
12については、すぐ後に詳述する。)では、スペクトル閾値判定部25は、可変スペクトル閾値と比べて、周波数スペクトルが大きい周波数が、連続n回出現しているわけではないと判定する(ステップS42、NO)。スペクトル閾値判定部25は、ステップS45の常時干渉(接近干渉)に対応する周波数にピークを有する可変スペクトル閾値を維持する(ステップS47、
図27を参照)。
【0095】
時刻t
11~t
12では、スペクトル閾値判定部25は、可変スペクトル閾値と比べて、周波数スペクトルが大きい周波数が、連続n回出現していると判定し(ステップS42、YES)、そして時間変化していると判定する(ステップS43、YES)。スペクトル閾値判定部25は、移動物標の距離に対応し時間変化する周波数での周波数スペクトルの強度変化に追従せず、ステップS45の常時干渉(接近干渉)に対応する周波数にピークを有する可変スペクトル閾値を維持する(ステップS44、
図28の下段を参照)。ここで、可変スペクトル閾値が周波数ピーク強度の時間変化に追従する時定数は、周波数ピーク強度の上昇時には周波数ピーク強度の下降時より長く設定される。よって、移動物標が出現したとしても、可変スペクトル閾値は、周波数ピーク強度の時間変化に追従しない。
【0096】
時刻t
14~t
15では、スペクトル閾値判定部25は、可変スペクトル閾値と比べて、周波数スペクトルが大きい周波数が、連続n回出現しているわけではないと判定する(ステップS42、NO)。スペクトル閾値判定部25は、時間領域からの換算により、又は、周波数領域において直接的に、白色雑音(自然雑音)に対応する周波数に平坦部を有する可変スペクトル閾値を更新する(ステップS46、
図25及び
図26を参照)。具体的には、スペクトル閾値判定部25は、時刻t
13での白色雑音(自然雑音)の強度増加を検知して、時刻t
15での白色雑音(自然雑音)の可変スペクトル閾値を更新する。
【0097】
このように、常時干渉(接近干渉)の周波数ピークの時間変化に応じて、常時干渉(接近干渉)に対する可変スペクトル閾値を適切な大きな値に設定することができる。
【0098】
そして、白色雑音(自然雑音)の強度の時間変化に応じて、白色雑音(自然雑音)に対する可変スペクトル閾値を適切な小さな値に設定することができる。
【0099】
図29の上段では、白色雑音(自然雑音)のみが存在するときにおいて、スペクトル閾値設定処理及び移動物標検知処理を実験している。左欄では、白色雑音(自然雑音)に対応する周波数に平坦部を有する可変スペクトル閾値が、白色雑音(自然雑音)の強度算出値と比べて大きく設定されている。右欄では、いずれの物標距離も検知されていない。
【0100】
図29の中段では、常時干渉(接近干渉)の強度が低いときにおいて、スペクトル閾値設定処理及び移動物標検知処理を実験している。左欄では、常時干渉(接近干渉)に対応する周波数にピークを有する可変スペクトル閾値が、常時干渉(接近干渉)の強度算出値と比べて大きく設定されている。右欄では、移動物標の距離が検知・出力されているが、常時干渉(接近干渉)の擬似距離は検知されたとしても出力されていない。
【0101】
図29の下段では、常時干渉(接近干渉)の強度が高いときにおいて、スペクトル閾値設定処理及び移動物標検知処理を実験している。左欄では、常時干渉(接近干渉)の強度算出値が、常時干渉(接近干渉)に対応する周波数にピークを有する可変スペクトル閾値と比べて大きく算出されている。右欄では、可変スペクトル閾値の形成中及び形成後の両方において、常時干渉(接近干渉)の擬似距離が検知されたとしても出力されていない。
【0102】
(第1、2実施形態の移動物標検知処理の組み合わせ)
図1から
図15までで説明した第1実施形態の移動物標検知処理と、
図16から
図29までで説明した第2実施形態の移動物標検知処理と、を適宜組み合わせることができる。
【0103】
ただし、第1実施形態では、可変スペクトル閾値を用いて、瞬時干渉(クロス干渉)を除去することはできない。これは、瞬時干渉(クロス干渉)は、周波数領域では周波数依存性を示さないところ、瞬時干渉(クロス干渉)の強度が高くなるほど、可変スペクトル閾値が上昇するため、FMCWレーダの感度が低下するからである(
図30を参照)。
【0104】
そして、第2実施形態では、ノイズ除去フィルタを用いて、常時干渉(接近干渉)を除去することはできない。これは、常時干渉(接近干渉)は、時間領域ではビート信号を示すところ、ノイズ除去フィルタは、時間領域での瞬時ピークのみを除去するからである。
【産業上の利用可能性】
【0105】
第1実施形態の移動物標検知装置、移動物標検知システム、移動物標検知プログラム及び移動物標検知方法は、静止物標、白色雑音(自然雑音)及び瞬時干渉(クロス干渉)を除去したうえで、歩く人及び動く車等の移動物標の距離を検知することができる。
【0106】
第2実施形態の移動物標検知装置、移動物標検知システム、移動物標検知プログラム及び移動物標検知方法は、静止物標、白色雑音(自然雑音)及び常時干渉(接近干渉)を除去したうえで、歩く人及び動く車等の移動物標の距離を検知することができる。
【符号の説明】
【0107】
S:移動物標検知システム
T:物標
1:FMCWレーダ送受信装置
2:移動物標検知装置
21:ビート信号取得部
22:差分信号算出部
23:干渉除去信号算出部
24:周波数スペクトル算出部
25:スペクトル閾値判定部
26:移動物標出力部