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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024097095
(43)【公開日】2024-07-18
(54)【発明の名称】炎症性腸疾患を検査する方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/06 20060101AFI20240710BHJP
   C12Q 1/68 20180101ALI20240710BHJP
   C12N 9/99 20060101ALI20240710BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20240710BHJP
   C12Q 1/44 20060101ALI20240710BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20240710BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240710BHJP
   C12N 15/31 20060101ALN20240710BHJP
   C12N 15/55 20060101ALN20240710BHJP
【FI】
C12Q1/06 ZNA
C12Q1/68
C12N9/99
A23L33/10
C12Q1/44
A61P1/04
A61K45/00
C12N15/31
C12N15/55
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021048492
(22)【出願日】2021-03-23
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「革新的先端研究開発支援事業ユニットタイプ「微生物叢と宿主の相互作用・共生の理解と、それに基づく疾患発症のメカニズム解明」研究開発領域」「腸内微生物叢の宿主共生と宿主相互作用機構の解明」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【弁理士】
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【弁理士】
【氏名又は名称】大杉 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100163544
【弁理士】
【氏名又は名称】平田 緑
(72)【発明者】
【氏名】飯島 英樹
(72)【発明者】
【氏名】竹田 潔
(72)【発明者】
【氏名】香山 尚子
(72)【発明者】
【氏名】大竹 由利子
(72)【発明者】
【氏名】竹原 徹郎
【テーマコード(参考)】
4B018
4B063
4C084
【Fターム(参考)】
4B018MD79
4B018MD86
4B018MD87
4B018ME11
4B063QA18
4B063QA19
4B063QQ03
4B063QQ05
4B063QQ32
4B063QQ42
4B063QR12
4B063QR32
4B063QR39
4B063QR56
4B063QR62
4B063QR72
4B063QR74
4B063QS02
4B063QS25
4B063QS34
4B063QS36
4B063QX02
4C084AA17
4C084NA14
4C084ZA66
(57)【要約】      (修正有)
【課題】炎症性腸疾患の新たな検査方法を提供する。
【解決手段】被検体より得られた試料中のリゾホスファチジルセリン生成に関与する腸内微生物数を測定する工程を含む、炎症性腸疾患を検査する方法。前記腸内微生物がホスホリパーゼAを発現する腸内微生物であってよく、大腸菌であってよい。前記腸内微生物数を測定する工程が該腸内微生物由来遺伝子の量を測定する工程であってよく、前記腸内微生物由来遺伝子が、ホスホリパーゼAをコードする遺伝子であってよい。
【選択図】図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体より得られた試料中のリゾホスファチジルセリン生成に関与する腸内微生物数を測
定する工程を含む、炎症性腸疾患を検査する方法。
【請求項2】
前記腸内微生物がホスホリパーゼAを発現する腸内微生物である、請求項1に記載の方法
【請求項3】
前記腸内微生物が大腸菌である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記腸内微生物数を測定する工程が該腸内微生物由来遺伝子の量を測定する工程である、
請求項1~3のいずれか1に記載の方法。
【請求項5】
前記腸内微生物由来遺伝子が、ホスホリパーゼAをコードする遺伝子である、請求項4に
記載の方法。
【請求項6】
前記ホスホリパーゼAをコードする遺伝子が、ECSF_3660である請求項5に記載
の方法。
【請求項7】
前記腸内微生物数と対照試料中の腸内微生物数が比較される工程をさらに含む、請求項1
~6のいずれか1に記載の方法。
【請求項8】
前記対照試料が、健康な被検体から得られた試料または同一被検体から得られた試料であ
る、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
被検体より得られた試料中のリゾホスファチジルセリンの濃度を測定する工程を含む、炎
症性腸疾患を検査する方法。
【請求項10】
被検体より得られた試料中のホスホリパーゼAの活性を測定する工程を含む、炎症性腸疾
患を検査する方法。
【請求項11】
前記試料が糞便サンプルである、請求項1~10のいずれか1に記載の方法。
【請求項12】
リゾホスファチジルセリン生成に関与する腸内微生物数を測定する工程を含む、炎症性腸
疾患の予防用または治療用の物質または微生物のスクリーニング方法。
【請求項13】
ホスホリパーゼAの活性を測定する工程を含む、炎症性腸疾患の予防用または治療用の物
質のスクリーニング方法。
【請求項14】
リゾホスファチジルセリン生成に関与する腸内微生物を除去または減少させる物質または
微生物を含有する炎症性腸疾患の予防用または治療用組成物。
【請求項15】
ホスホリパーゼAの活性を抑制する物質を含有する炎症性腸疾患の予防用または治療用組
成物。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炎症性腸疾患の検査および治療に関する。
【背景技術】
【0002】
炎症性腸疾患(Inflammatory bowel disease:IBD)は腸
管における免疫の過剰な活性化が関与していると考えられている。腸管に生じる難病であ
るが、患者数が急速に増加しており問題となっている。IBDに対する治療薬として抗T
NF抗体製剤などの免疫抑制機序を持つ新規薬剤が多数登場しており、従来薬と比較して
高い治療効果が見られるが、治療薬の継続使用に伴い効果減弱をきたすなど、治療に難渋
する患者も少なくない。さまざまな研究が行われているが、未だ疾患の発症、増悪のメカ
ニズムが十分に解明されたとは言えず、根治治療法も開発されていない。
【0003】
炎症性腸疾患を発症すると、根治的治療法がないため症状が軽減し寛解になっても再燃す
ることが多く、寛解と再燃を繰り返す場合が多い。よって、発症前の発症リスクや発症後
の再燃を簡便に検査できることが望まれる。また、再燃の危険性から寛解期であっても定
期的な内視鏡検査が必要であるが、内視鏡検査を毎回繰り返し受けることを嫌がる患者も
少なくない。よって患者に負担の少ない検査が望まれる。
【0004】
腸内微生物叢はそのホストの免疫システムにおいて重要な役割を担っている。IBDの患
者の腸内微生物叢には、微生物叢の多様性の減少と構成の変化によって特徴付けられる異
常(Dysbiosis)が観察される(非特許文献1)。微生物叢は食物繊維を消化し
て短鎖脂肪酸(SCFA)を生成する。そのSCFAは、微生物叢自身やホストの腸上皮
細胞のエネルギー源になるだけでなく、T細胞などの免疫細胞を誘導することによって、
ホストの腸のホメオスタシスに寄与している(非特許文献2)。
【0005】
本発明者等は、16種類のホスファチジルセリン(PS)と18:0リゾホスファチジル
セリン(LysoPS)の血漿中濃度がクローン病患者では健常人に比較して2倍以上、
上昇していることを報告した(非特許文献3)。PSは細胞膜の脂質二重層の中に豊富に
存在し、LysoPSはホスホリパーゼA1/A2(PLA1/A2)の酵素の作用によ
ってPSから発生して脂質メディエーターとして作用すると考えられている(非特許文献
4)。しかし、LysoPSの生理学的、病理学的機能は不明である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Matsuoka, K. & Kanai, T. Semin Immunopathol 37, 47-55 (2015).
【非特許文献2】Rooks, M. G. & Garrett, W. S. Nat Rev Immunol 16, 341-352 (2016).
【非特許文献3】Iwatani, S. et al. J Gastroenterol Hepatol 35, 1355-1364 (2020).
【非特許文献4】Kimani, S. G. et al. Front Immunol 5, 566 (2014).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、炎症性腸疾患の新たな検査方法を提供すること、炎症性腸疾患の予防または治
療用の物質や微生物のスクリーニング方法を提供すること、および炎症性腸疾患の予防用
または治療用組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記課題を解決すべく研究を行った結果、リゾホスファチジルセリンがあ
る種の腸内微生物によって生成されること、及び腸内微生物によって生成されたリゾホス
ファチジルセリンが、疾患の増悪に直接関与していることを見出し、本発明を完成した。
即ち、本発明は以下の態様を含有する。
1.被検体より得られた試料中のリゾホスファチジルセリン生成に関与する腸内微生物数
を測定する工程を含む、炎症性腸疾患を検査する方法。
2.前記腸内微生物がホスホリパーゼAを発現する腸内微生物である、前項1に記載の方
法。
3.前記腸内微生物が大腸菌である、前項1または2に記載の方法。
4.前記腸内微生物数を測定する工程が該腸内微生物由来遺伝子の量を測定する工程であ
る、前項1~3のいずれか1に記載の方法。
5.前記腸内微生物由来遺伝子が、ホスホリパーゼAをコードする遺伝子である、前項4
に記載の方法。
6.前記ホスホリパーゼAをコードする遺伝子が、ECSF_3660である前項5に記
載の方法。
7.前記腸内微生物数と対照試料中の腸内微生物数が比較される工程をさらに含む、前項
1~6のいずれか1に記載の方法。
8.前記対照試料が、健康な被検体から得られた試料または同一被検体から得られた試料
である、前項7に記載の方法。
9.被検体より得られた試料中のリゾホスファチジルセリンの濃度を測定する工程を含む
、炎症性腸疾患を検査する方法。
10.被検体より得られた試料中のホスホリパーゼAの活性を測定する工程を含む、炎症
性腸疾患を検査する方法。
11.前記試料が糞便サンプルである、前項1~10のいずれか1に記載の方法。
12.リゾホスファチジルセリン生成に関与する腸内微生物数を測定する工程を含む、炎
症性腸疾患の予防用または治療用の物質または微生物のスクリーニング方法。
13.ホスホリパーゼAの活性を測定する工程を含む、炎症性腸疾患の予防用または治療
用の物質のスクリーニング方法。
14.リゾホスファチジルセリン生成に関与する腸内微生物を除去または減少させる物質
または微生物を含有する炎症性腸疾患の予防用または治療用組成物。
15.ホスホリパーゼAの活性を抑制する物質を含有する炎症性腸疾患の予防用または治
療用組成物。
16.リゾホスファチジルセリン生成に関与する腸内微生物を除去または減少させる物質
または微生物を投与することを含む炎症性腸疾患の予防または治療方法。
17.腸内微生物由来ホスホリパーゼAの活性を抑制する物質を投与することを含む炎症
性腸疾患の予防または治療方法。
18.炎症性腸疾患の予防用または治療用組成物の調製のためのリゾホスファチジルセリ
ン生成に関与する腸内微生物を除去または減少させる物質または微生物の使用。
19.炎症性腸疾患の予防用または治療用組成物の調製のための腸内微生物由来ホスホリ
パーゼAの活性を抑制する物質の使用。
【発明の効果】
【0009】
本発明の方法は、炎症性腸疾患に関わる腸内微生物の異常を検査できる。本発明の方法は
、炎症性腸疾患の診断のための検査、炎症性腸疾患発症前の発症高リスク者の判定のため
の検査、炎症性腸疾患患者の経過観察のための検査等、炎症性腸疾患に関わる検査全てに
使用できる。本発明の方法は、炎症性腸疾患患者または高リスク者の病状の変化を先んじ
て捉えることができる。また、本発明の方法は、簡便で患者に負担の少ない検査方法であ
る。
【0010】
本発明のスクリーニング方法は、炎症性腸疾患の原因となるリゾホスファチジルセリン、
それを生成するホスホリパーゼA、またはリゾホスファチジルセリン生成に関与する腸内
微生物を除去または減少させる物質または微生物をスクリーニングすることを可能にし、
炎症性腸疾患の治療薬、予防薬、および、治療もしくは予防用食品を提供することを可能
にする。
【0011】
本発明の組成物は、炎症性腸疾患の原因となるリゾホスファチジルセリン、それを生成す
るホスホリパーゼA、またはリゾホスファチジルセリン生成に関与する腸内微生物を除去
または減少させることにより炎症性腸疾患の発症および再燃を予防し、炎症性腸疾患の根
治療法を可能にする。本発明の組成物は、炎症性腸疾患の原因となるリゾホスファチジル
セリンの生成を抑制し、炎症性腸疾患の発症および再燃を予防し、炎症性腸疾患の根治療
法を可能にする。本発明の組成物は炎症性腸疾患の原因療法であることから、予防効果お
よび治療効果に優れ、多くの炎症性腸疾患患者の治療および再燃予防またはその予備軍の
発症予防に多大な貢献をするものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、TNBS誘導大腸炎モデルマウスにLysoPSまたはビークルを4日間腹腔内投与したときの体重の変化を示すグラフである。n = 9, * p < 0.05, ** p < 0.01, *** p < 0.001, Student's t-test
図2図2は、TNBS誘導大腸炎モデルマウスにLysoPSまたはビークルを4日間腹腔内投与した後の結腸の長さを示す写真(A)とグラフ(B)ある。n = 9, **** p < 0.0001, Student's t-test
図3図3は、TNBS誘導大腸炎モデルマウスにLysoPSまたはビークルを4日間腹腔内投与した後の結腸の病理組織像(H&E染色)(A)と組織学スコアのグラフ(B)である。n = 6, ** p < 0.01, Student's t-test
図4図4は、TNBS誘導大腸炎モデルマウスにLysoPSまたはビークルを4日間腹腔内投与した後の相対的サイトカイン発現量(結腸の粘膜固有層リンパ球中のサイトカインmRNA発現量)を示すグラフである。n = 9, n.s.: not significant, * p < 0.05, Student's t-test
図5図5は、T細胞依存的大腸炎モデルマウスにLysoPSまたはビークルを4日間腹腔内投与したときの体重の変化を示すグラフである。n = 4-5, * p < 0.05, Student's t-test
図6図6は、T細胞依存的大腸炎モデルマウスにLysoPSまたはビークルを4日間腹腔内投与した後の結腸の長さを示す写真(A)とグラフ(B)である。n = 4-5, ** p < 0.01, Student's t-test
図7図7は、T細胞依存的大腸炎モデルマウスにLysoPSまたはビークルを4日間腹腔内投与した後の結腸の病理組織像(H&E染色)(A)と組織学スコアのグラフ(B)である。n = 4-5, **** p < 0.0001, Student's t-test
図8図8は、T細胞依存的大腸炎モデルマウスにLysoPSまたはビークルを4日間腹腔内投与した後の結腸の粘膜固有層リンパ球中のIFN-γ細胞、IFN-γIL-17A細胞、IL-10細胞、IL-17A細胞の数を示すグラフである。n = 4-5, n.s.: not significant, * p < 0.05, Student's t-test
図9図9は、糞便サンプル中の全微生物のゲノム情報解析(メタゲノム解析)の結果であり、腸内微生物叢のα多様性(種多様性)を表すShannonインデックスを示すグラフである。HCは健常者(n=40)、CDはクローン病患者(n=43)を示す。*** p < 0.001, Student's t-test
図10図10は、糞便サンプル中の全微生物のゲノム情報解析(メタゲノム解析)の結果であり、β多様性を表すBray-Curtisインデックスを用いた2次元解析結果を示す。HCは健常者(n = 40)、CDはクローン病患者(n = 43)を示す。PERMANOVAによる解析
図11図11は、糞便サンプル中の全微生物のゲノム情報解析(メタゲノム解析)の結果であり、遺伝子ECSF_3660のFPKMを示すグラフである。HCは健常者(n=40)、CDはクローン病患者(n=43)を示す。** p < 0.01, Student's t-test検定
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書において、リゾホスファチジルセリン生成に関与する腸内微生物とは、リゾホス
ファチジルセリン生成に関与している腸内微生物であれば、特に限定されない。リゾホス
ファチジルセリン(以下、LysoPSともいう)はリン脂質であり、グリセロール骨格
にアシル基、リン酸基、セリンが結合している構造を有している。アシル基の脂肪酸種は
多様であり、結合位置はグリセロール骨格のsn-1位(1-アシル型)とsn-2位(
2-アシル型)の2種類がある。生体内では、細胞膜の脂質二重層を形成しているホスフ
ァチジルセリン(PS)がホスホリパーゼA1(PLA1)またはホスホリパーゼA2(
PLA2)の作用によって生成される。本明細書において、ホスホリパーゼA1(PLA
1)および/またはホスホリパーゼA2(PLA2)をホスホリパーゼA(PLA)と総
称する。LysoPSはTh1細胞を過剰活性化させて炎症性腸疾患を発症させ、または
症状を増悪させる。
【0014】
前記LysoPS生成に関与する腸内微生物は、好ましくは、ホスホリパーゼAを発現す
る腸内微生物である。ホスホリパーゼを発現する腸内微生物は、ホストの腸管上皮細胞の
細胞膜を破壊しLysoPSを生成する。
【0015】
前記ホスホリパーゼAを発現する腸内微生物は、好ましくは細菌であり、さらに好ましく
はグラム陰性菌であり、例えば大腸菌、エルシニアおよびセラチアが挙げられる。より好
ましくは大腸菌(Escherichia coli )であり、さらに好ましくは、ホスホリパーゼAを
コードする遺伝子ECSF_3660を有する大腸菌である。
【0016】
本明細書において、リゾホスファチジルセリン生成に関与する腸内微生物数を測定する方
法は、該腸内微生物量を測定できればその手法は特に限定されない。たとえば、該腸内微
生物由来遺伝子の量を測定する方法、該腸内微生物を培養した後にコロニー数を計測する
方法等が挙げられる。
【0017】
前記腸内微生物由来遺伝子の量を測定する好適な方法としては、PCRによる腸内微生物
由来遺伝子の量を測定する方法が挙げられ、例えば定量的リアルタイムPCR法を挙げる
ことができる。
【0018】
前記腸内微生物由来遺伝子として好ましくはホスホリパーゼAをコードする遺伝子が挙げ
られる。
【0019】
前記ホスホリパーゼAをコードする遺伝子として好ましくは、ECSF_3660が挙げ
られる。ECSF_3660は大腸菌(Escherichia coli)由来のホスホリパーゼAをコ
ードする遺伝子(配列番号1、2)である。ECSF_3660の遺伝子の量を測定する
方法として、例えば、定量的リアルタイムPCR法が挙げられる。
【0020】
本発明の方法の特に好ましい態様は、被検体から得られた試料中のホスホリパーゼAを発
現する大腸菌数を測定する工程を含む炎症性腸疾患を検査する方法であり、さらに好まし
くは、遺伝子ECSF_3660を定量的リアルタイムPCR法により定量して該大腸菌
数を測定する工程を含む炎症性腸疾患を検査する方法である。腸内微生物数は遺伝子量か
ら公知の方法(例えば、Petr Kralik et al. Front Microbiol 2017 Feb 2;8:108に記載
の方法)により求めることができる。
【0021】
本発明の炎症性腸疾患を検査する方法は、被検体より得られた試料中のLysoPSの濃
度を測定する工程を含む方法でもあり得る。
【0022】
LysoPSの濃度の測定方法は制限されるものではない。例えば、HPLCと質量分析
の組み合わせによる測定法、酵素定量法などが挙げられる。好ましくはLC/ESI-M
Sによる測定法が挙げられる。
【0023】
本発明の炎症性腸疾患を検査する方法は、被検体より得られた試料中のホスホリパ-ゼA
の活性を測定する工程を含む方法でもあり得る。
【0024】
ホスホリパーゼAの活性の測定方法は制限されるものではない。例えば酵素活性検出比色
法、蛍光発生脂質を基質とする方法(David Gonzalez-Bullon et al. Toxins 2018)が挙
げられる。
【0025】
被検体としては、ヒトおよびヒト以外の動物が挙げられる。ヒト以外の動物としては好ま
しくは哺乳類であり、例えばイヌ、ネコ、ハムスターなどの愛玩動物、牛等の家畜等が挙
げられる。好ましくはヒトである。
【0026】
被検体から得られた試料は、好適には糞便サンプルである。
【0027】
炎症性腸疾患は、腸に炎症を起こす疾患であり、本明細書において炎症性腸疾患には、ク
ローン病および潰瘍性大腸炎の他に腸管ベーチェット病、非特異性多発小腸潰瘍、家族性
地中海熱関連腸炎等も含まれる。炎症性腸疾患は、慢性的な下痢や血便、腹痛などの症状
を特徴とし、他にも発熱、肛門痛などの症状が含まれる。病理学的検査では、クローン病
では非乾酪性類上皮細胞肉芽腫、潰瘍性大腸炎では陰窩膿瘍が特徴とされる。
【0028】
本発明の方法は、Th1細胞の過剰活性化を伴う炎症性腸疾患の検査に好適に用いられ得
る。
【0029】
Th1細胞の過剰活性化は、Th1細胞からのIFN-γ等の炎症性サイトカインの分泌
量の上昇を特徴とする。Th1細胞の過剰活性化には、細胞あたりの炎症性サイトカイン
の分泌量上昇、活性酸素種(ROS)産生亢進、炎症性サイトカイン産生Th1細胞数の
増加、ナイーブCD4T細胞のTh1細胞への分化促進、およびTh1細胞の代謝促進
(特に解糖系の促進)を含む。
【0030】
クローン病と潰瘍性大腸炎は、ともに免疫細胞が関与する難治性腸管炎症性疾患であり、
本発明の方法は、クローン病と潰瘍性大腸炎の検査に好適に用いられ得る。特に好適には
、本発明の方法はクローン病の検査に用いられ得る。
【0031】
「炎症性腸疾患を検査する」の検査には、本明細書においては炎症性腸疾患と関連した全
ての検査を含み、炎症性腸疾患の診断時の検査、炎症性腸疾患発症リスクの検査、および
炎症性腸疾患発症後の経過観察のための検査等を含む。
【0032】
本発明の方法は、被検体より得られた試料中のリゾホスファチジルセリン生成に関与する
腸内微生物数と対照試料中の同一の腸内微生物数を比較する工程をさらに含んでいてもよ
い。手法としては、糞便サンプル中のDNAを用いた定量的リアルタイムPCR法、コロ
ニー数計測法が挙げられる。対照試料が健常者から得られた試料である場合、被検体より
得られた試料中の該腸内微生物数が対照試料より多い場合は、被検体は炎症性腸疾患であ
る、または炎症性腸疾患を発症するリスクが高いと判定され得る。対照試料が同一被検体
の過去の試料である場合は、被検体より得られた試料中の該腸内微生物数が対照試料より
多い場合は、被検体は病状が悪化している、または悪化するリスクが高いと判定され得る
。逆に被検体より得られた試料中の該腸内微生物数が対照試料より少ない場合は、被検体
は病状が改善している、または改善する可能性が高いと判定され得る。
【0033】
本発明の炎症性腸疾患の予防用または治療用の物質または微生物のスクリーニング方法に
おけるLysoPS生成に関与する腸内微生物数の測定方法は、特に限定されるものでは
ない。好ましい方法は、該腸内微生物の培養液と候補物質または候補微生物を接触させた
後に該腸内微生物数を測定する方法が挙げられる。また、ヒトまたはヒト以外の動物に候
補物質または微生物を経口摂取させて糞便サンプル中の該腸内微生物数を測定する方法が
挙げられ、その手法としては、定量的リアルタイムPCR法、コロニー数計測法等が挙げ
られる。
【0034】
本発明の炎症性腸疾患の予防用または治療用の物質のスクリーニング方法は、ホスホリパ
ーゼAの活性を測定する工程を含む方法であってもよい。好適には、該ホスホリパーゼA
は腸内微生物由来ホスホリパーゼAである。ホスホリパーゼAの活性の測定方法として好
ましい方法は、ホスホリパーゼAと候補物質を接触させた後にホスホリパーゼA活性を測
定する方法が挙げられる。または、前記腸内微生物の培養液と候補物質を接触させた後に
ホスホリパーゼA活性を測定する方法が挙げられる。該ホスホリパーゼAは、好ましくは
、ホスホリパーゼA1である。
【0035】
前記候補物質は、例えば化合物ライブラリーの化合物を用いることができる。化合物ライ
ブラリーは、公知のものでも公知でないものでもよい。公知の化合物ライブラリーとして
は、既に食品(例えば、米国食品医薬品局(FDA))または医薬品(例えば、欧州医薬
品審査庁(EMEA))の承認を得た化合物を集めた化合物ライブラリー(例えば、PR
ESTWICK CHEMICALライブラリー)(これは、特許期間が満了した化合物
を集めたものである)、および未だそれら食品または医薬品の承認を得ていない化合物を
集めた化合物ライブラリー等が挙げられる。
【0036】
本発明のスクリーニング方法は、物質または微生物を選別する工程をさらに含んでもよい
【0037】
本発明のスクリーニング方法で得られた物質または微生物は、炎症性腸疾患の予防または
治療に用いることができる。
【0038】
本発明の炎症性腸疾患の予防用または治療用組成物は、リゾホスファチジルセリン生成に
関与する腸内微生物を除去または減少させる物質または微生物を有効成分として含有する
。または、本発明の炎症性腸疾患の予防用または治療用組成物は、ホスホリパーゼAの活
性を抑制する物質を有効成分として含有する。
【0039】
前記予防用または治療用組成物には、薬剤、食品、飲料等が含まれる。
【0040】
前記リゾホスファチジルセリン生成に関与する腸内微生物を除去または減少させる物質ま
たは微生物は、前記スクリーニング方法で得られた物質または微生物であり得る。前記物
質としては、例えば抗菌剤および吸着剤が挙げられる。前記微生物としては、乳酸菌、ビ
フィズス菌、Xenorhabdus、Photorhabdusおよび標的微生物に感染するファージ(例えば
、Enterobacteria Phage P1 およびEnterobacteria phage μ)等が含まれ得る。
【0041】
前記ホスホリパーゼAの活性を抑制する物質は、前記スクリーニング方法で得られた物質
であり得る。前記ホスホリパーゼAの活性を抑制する物質は、好ましくは腸内微生物由来
ホスホリパーゼAの活性を抑制する物質である。前記ホスホリパーゼAの活性を抑制する
物質としては、例えば、ホスホリパーゼA阻害剤、ホスホリパーゼAに対する抗体、ホス
ホリパーゼA遺伝子のアンチセンスRNA、ホスホリパーゼAを阻害する細菌が挙げられ
る。ホスホリパーゼA阻害剤としては、例えば、グリチルリチン酸、グリチルレチン酸、
4-bromophenacyl bromide、darapladib、Anagr
elide、OBAA(3-(4-octadecyl)benzoylacrylic
acid)、PACOCF3(palmitoyl trifluoromethyl
ketone)、YM26734、LY315920(varespladib me
thyl)が挙げられる。
【0042】
本明細書において、炎症性腸疾患の治療には、炎症性腸疾患の症状の改善、軽減、増悪抑
制、進行の遅延、および再燃抑制等が含まれる。
【0043】
本発明の組成物は、Th1細胞の過剰活性化を伴う炎症性腸疾患の予防および治療に好適
に用いられ得る。
【0044】
LysoPSの作用により、LysoPS受容体を介してTh1細胞の過剰活性化が発生
し、炎症性腸疾患の症状が悪化する。このTh1細胞の過剰活性化には、細胞あたりの炎
症性サイトカインの分泌量上昇、炎症性サイトカイン産生Th1細胞数の増加、ROS産
生亢進、ナイーブCD4T細胞のTh1細胞への分化促進、およびTh1細胞の代謝促
進(特に解糖系の促進)を含む。本発明の組成物は、Th1細胞の過剰活性化を抑制する
ことができ、Th1細胞の過剰活性化を伴う炎症性腸疾患を好適に予防または治療するこ
とができる。
【0045】
クローン病と潰瘍性大腸炎は、ともに免疫細胞が関与する難治性腸管炎症性疾患であり、
本発明の組成物は、クローン病と潰瘍性大腸炎の予防および治療に好適に用いられ得る。
特に好適には、本発明の組成物はクローン病の予防および治療に用いられ得る。
【0046】
本発明の組成物は、2種以上の有効成分を含有していてもよい。他の炎症性腸疾患治療薬
を含有していてもよく、また、炎症性腸疾患治療薬以外の薬物を含有していてもよい。本
発明の組成物は他の炎症性腸疾患治療薬と併用されてもよい。
【0047】
本発明の組成物は医薬的に許容される担体を含むことができる。
【0048】
その様な担体としては、賦形剤(例えば、マンニトール、ソルビトールの如き糖誘導体;
トウモロコシデンプン、バレイショデンプンの如きデンプン誘導体;または、結晶セルロ
ースの如きセルロース誘導体等)、滑沢剤(例えば、ステアリン酸マグネシウムの如きス
テアリン酸金属塩;またはタルク等)、結合剤(例えば、ヒドロキシプロピルセルロース
、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、またはポリビニルピロリドン等)、崩壊剤(例
えば、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウムの如きセル
ロース誘導体等)、水、防腐剤(例えば、メチルパラベン、プロピルパラベンの如きパラ
オキシ安息香酸エステル類;またはクロロブタノール、ベンジルアルコールの如きアルコ
ール類等)、pH調整剤(例えば、塩酸、硫酸またはリン酸等の無機酸、酢酸、コハク酸
、フマル酸またはリンゴ酸等の有機酸、あるいはこれらの塩等)、ならびに希釈剤(例え
ば、注射用水等)等の通常使用される医薬製剤用担体を、単独または2種以上を混合して
配合することができる。本発明の組成物には有効成分を水に溶解させた液剤を含む。
【0049】
本発明の組成物は、食品、飲料である場合には、既存食品または飲料と混合された形態の
組成物でもよい。
【0050】
本発明の有効成分は、必要に応じて上記の担体と混合した後、錠剤、顆粒剤、カプセル剤
、粉末剤、溶液製剤、懸濁液製剤、もしくは乳化液剤等の剤形で経口投与することができ
る。また、坐剤、経腸剤、注射剤、静脈内点滴剤、経皮剤、経粘膜剤、もしくは吸入剤等
の剤形で非経口投与することができる。
【0051】
本発明の有効成分は、上記の剤形に製剤化した後、または食品や飲料に混合した後それを
必要とする対象、例えばヒトまたは動物、好ましくはヒトに投与される。
【0052】
本発明の有効成分の投与量および投与回数は、症状の重篤度、患者の年齢、体重、性別、
薬物の種類、剤形、投与経路等の条件によって適宜変化しうる。ヒトに投与する場合、有
効成分は、例えば非経口的には皮下、静脈内、腹腔内、筋肉内、または直腸内等に、1回
の投与当たり、約0.01~10mg/kg体重、好ましくは約0.1~5mg/kg体
重、特に好ましくは約0.3~3mg/kg体重、また経口的には約0.01~100m
g/kg体重、好ましくは約0.1~50mg/kg体重、特に好ましくは約1~30m
g/kg体重投与される。また、投与回数は、1日当たり1回または複数回、例えば1日
当たり1~3回、1~2回、または1回であってよい。
【0053】
本発明の有効成分は、公知の方法に従って製造できる。
【0054】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定され
るものではない。
【実施例0055】
試験例1から試験例3では以下の材料と試験方法を用いた。
【0056】
<マウス>
C57BL/6Jのマウスは日本クレア社(東京、日本)から購入した。C57BL/6
J RAG2欠損マウス(Rag2-/-)はTaconic Biosciences, Inc. (Hudson, NY,
USA)から購入した。8-15週齢の雄のマウスを使用し、すべてのマウスはSPF(spec
ific pathogen free)環境下で維持した。
【0057】
<試薬>
2、4、6‐トリニトロベンゼンスルホン酸ナトリウム(TNBS)はSigma‐Aldrich (St.
Louis, MO, USA) から購入した。18:0 LysoPS(1-stearoyl-2-hydroxy-sn-g
lycero-3-phospho-L-serine (sodium salt))、および18:1 LysoPS(1-oleoy
l-2-hydroxy-sn-glycero-3-phospho-L-serine (sodium salt))はAvanti Polar Lipids,
Inc (Alabaster, AL, USA) から購入し、70%エタノールに溶解して試験に用いた。
【0058】
<フローサイトメトリー>
Anti-mouse CD4-PerCP/Cy5.5 (GK1.5), anti-mouse IL-10-PE (JES5-16E3), anti-mouse
IFN-γ -FITC (XMG1.2), 7-AAD, anti-human CD4-APC (clone SK3), anti-human CD45RA-
Brilliant Violet 421 (HI100), anti-human CD4-Pacific Blue (RPA-T4), anti-human I
FN-γ (4S.B3)は、BioLegend (San Diego, CA, USA)から購入した。Anti-mouse CD3e-Pe/
Cy7 (145-2C11), anti-mouse IL-17A-Alexa Fluor 647 (TC11-18H10) はBD Biosciences
から購入した。マウスおよびヒトのCD4T細胞を、GolgiStop (BD Biosciences)存在
下、4h37℃で、完全RPMI1640中50ng/mlホルボールミリステートアセ
テート(PMA; Sigma-Aldrich)と5μMイオノマイシン(Sigma-Aldrich)によって
刺激した。細胞表面/細胞内を、Cytofix/Cytoperm Kit Plusを使って染色した。フロー
サイトメトリー分析はFlowJo software (Tree Star, Ashland, OR, USA)を使用したFACSC
anto II flow cytometer (BD Biosciences)によって実行した。
【0059】
<病理組織解析>
マウスの結腸と回腸のサンプルはホルムアルデヒドで固定し、パラフィン包埋し、4μm
の厚さの切片を作製し、ヘマトキシリンとエオジン(H&E)によって染色した。評価に
用いた組織学的スコアは、Iijima, H. et al. J Exp Med 199, 471-482に準じた。
【0060】
<統計分析>
結果は平均と標準偏差で表される。グループ間の平均値の差は、Student's t-test、また
はOne-way ANOVAによって検定した。
【0061】
<試験例1:クローン病患者の腸内LysoPS濃度>
クローン病患者(以下、「CD患者」ともいう)の腸管腔の脂質プロファイルの特徴を確
認した。クローン病患者と健常者からサンプル提供者を募集した。炎症性腸疾患研究の国
際機関によって定められた内視鏡的、放射線学的、組織学的、臨床診断基準に従ってIB
D患者を診断した。クローン病患者は、CDAIスコアが150より小さい場合に寛解期
と定義される。研究はヘルシンキ宣言に従って実行され、大阪大学医学部附属病院で倫理
審査委員会によって承認された。研究に参加する前に、すべての参加者に書面によるイン
フォームド・コンセントが行われた。クローン病患者43人(活動期19人、寛解期24
人)と健常者40人から糞便サンプルを収集し、直ちに凍結した。
【0062】
凍結した糞便サンプルをメタノール添加のうえホモジナイズし、UPLC-ESI-MS
/MSによって脂質量を測定したところ、糞便中の脂質組成は健常人とCD患者の間で明
確に相違していた。血漿中リン脂質濃度に類似して、全LysoPS、18:0 Lys
oPS、および18:1 LysoPSの濃度は、健常者よりCD患者で高かった。これ
は、LysoPS産生がCD患者の腸の中でアップレギュレートされていることを示す。
【0063】
<試験例2:LysoPSによる大腸炎の増悪>
LysoPSレベル上昇が腸炎の重症度に与える影響を2種類の大腸炎モデルマウスを用
いて解析した。
【0064】
A.TNBS誘導大腸炎モデルマウス(クローン病モデルマウス)
TNBS誘導大腸炎モデルマウスを以前報告した方法(Iijima, H. et al. J Exp Med 19
9, 471-482, (2004)) にわずかな修正を加えて作製した。すなわち、野生型C57BL
/6Jマウス(雄、8-10週齢)をday1に50%のエタノール中3.75%TNB
S溶液150μlを背皮膚へ塗布することにより感作した。day8に、50%エタノー
ル中2%TNBS溶液150μlを経肛門投与した。day8からday11まで毎日1
回18:1 LysoPSを2.5mg/kgの投与量で腹腔内投与し、day12にマ
ウスを解析に用いた。コントロールマウスにはビークル(70%エタノール)を投与した
【0065】
LysoPS投与マウスでは、コントロールマウスと比較して、体重減少と結腸の短縮が
観察され(図1図2)、病理組織解析においても悪化は明らかであった(図3)。結腸
の粘膜固有層リンパ球中のサイトカインmRNA発現量をqRT-PCRを用いて測定し
たところ、LysoPS投与マウスでは、コントロールマウスに比較して、IfngとI
l17aの発現量が高かったが、Il10、Il12b、およびIl23aの発現量に有
意差はなかった(図4)。
【0066】
B.T細胞依存的大腸炎モデルマウス(クローン病モデルマウス)
CD4T細胞依存的大腸炎モデルマウスを文献(Ostanin, D. V. et al. Am J Physiol
Gastrointest Liver Physiol 296, G135-146, (2009))に記載の方法にわずかな修正を
加えて作製した。単離したナイーブCD4T細胞を冷リン酸緩衝液(PBS)で終濃度
1×10cells/mlに希釈して、500μl(5×10cells)をRag
-/-マウス(雄、8-15週齢)に腹腔内投与した。ナイーブCD4T細胞を投与
した17日後、連続4日間18:1 LysoPS(2.5mg/kg)またはビークル
(70%エタノール)を腹腔内に投与した。
【0067】
LysoPS投与マウスで、結腸の短縮、体重減少が観察された(図5図6)。さらに
、病理組織解析ではLysoPSによる大腸組織病変の顕著な増悪が観察された(図7
。結腸の病理組織による重症度の評価は、Liu, Z. et al. J Immunol 164, 6005-6014に
記載の方法に準じて行った。大腸の粘膜固有層のCD4T細胞中のサイトカイン産生細
胞数をフローサイトメトリー法で解析したところ、コントロールマウスと比較して、Ly
soPS投与マウスでは大腸炎の増悪に伴いIFN-γ細胞およびIFN-γIL-
17A細胞が増加したが、IL-17A細胞およびIL-10細胞は増加しなかっ
た(図8)。
【0068】
これら結果は、LysoPSが粘膜固有層において免疫病理学的なTh1応答を呼び起す
ことによって大腸炎を悪化させることを示す。すなわち、LysoPSは腸粘膜において
Th1細胞の過剰活性化を引き起こして炎症性腸疾患を悪化させる。
【0069】
<試験例3:糞便サンプル中のメタゲノム解析>
試験例1で収集した糞便サンプル中の全微生物のゲノム情報を得るために次世代シーケン
サーを用いたメタゲノムのショットガンシーケンス(メタゲノム解析)を行った。α多様
性をshannonインデックスで表した結果を図9に示す。健常者に比較してクローン
病患者の糞便中では、腸内微生物叢の種多様性が減少していた。β多様性を表すBray
-Curtisインデックスを用いて二次元解析を行った結果、クローン病患者と健常者
では糞便サンプル中の微生物群プロファイルが明らかに相違した(図10)。クローン病
患者のdysbiosisが確認されたので、ホスホリパーゼA(PLA)をコードして
いる遺伝子を解析した。健常者のサンプルと比較してクローン病患者で顕著に増加してる
遺伝子として、大腸菌(Escherichia coli)のホスホリパーゼAをコードしている遺伝子
であるECSF_3660 が同定された(図11)。これら結果は、クローン病患者の
腸内では、dysbiosisによりPLAを産生する大腸菌が増加し、LysoPS濃
度の上昇を引き起こしていることを示す。
【0070】
実施例1
患者の糞便サンプルにメタノール添加のうえホモジナイズし、定量的リアルタイムPCR
法によりECSF_3660の量を測定する。健常者のECSF_3660の量と比較し
て遺伝子量が多い場合は、炎症性腸疾患のリスクが高いと判定する。
【0071】
実施例2
実施例1と同様に炎症性腸疾患患者の糞便サンプル中のECSF_3660の量を測定す
る。同一患者の過去の検査値と比較して患者の病状の変化を把握する。
【0072】
実施例3
クローン病患者と健常者から糞便サンプルを収集し、直ちに凍結した。凍結した糞便サン
プルをメタノール添加のうえホモジナイズし、UPLC-ESI-MS/MSによって全
LysoPS、18:0 LysoPS、および18:1 LysoPSの濃度を測定し
た。これらLysoPSの濃度は健常者よりクローン病患者の方が高かった。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、炎症性腸疾患の検査並びに炎症性腸疾患の予防および治療に貢献する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【配列表】
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