(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024097128
(43)【公開日】2024-07-18
(54)【発明の名称】室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 83/04 20060101AFI20240710BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20240710BHJP
C08L 71/02 20060101ALI20240710BHJP
C08K 5/541 20060101ALI20240710BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20240710BHJP
C08K 3/26 20060101ALI20240710BHJP
【FI】
C08L83/04
C08K3/013
C08L71/02
C08K5/541
C08K3/36
C08K3/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023000379
(22)【出願日】2023-01-05
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】弁理士法人牛木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】今坂 優大
(72)【発明者】
【氏名】片山 大樹
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 功
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BB122
4J002BC032
4J002BD032
4J002BN183
4J002CH023
4J002CP031
4J002DA036
4J002DE106
4J002DE116
4J002DE136
4J002DE216
4J002DE226
4J002DE236
4J002DJ016
4J002DJ026
4J002DJ056
4J002DL006
4J002EW158
4J002EX037
4J002EX078
4J002EZ008
4J002EZ048
4J002FD012
4J002FD016
4J002FD147
4J002FD158
4J002FD203
4J002GJ02
(57)【要約】
【課題】硬化前の組成物は低粘度かつ高いチキソトロピー性を有し、硬化後の硬化物は高伸長かつ基材との密着面からの剥離性に優れた室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物の安価な製造方法の提供。
【解決手段】
[i](A)分子鎖両末端がシラノール基で封鎖された直鎖状ジオルガノポリシロキサン、(B)充填剤及び(C)ポリエーテル化合物の配合量の5~95質量%を混合して、均一な混合物を調製する工程、次いで、
[ii]工程[i]で調製した混合物に、(C)ポリエーテル化合物の配合量の残部、(D)加水分解性オルガノシラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物並びに(E)硬化触媒を混合して均一な組成物を調製する工程
を含む室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)分子鎖両末端がシラノール基で封鎖された直鎖状ジオルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)充填剤:1~1,000質量部、
(C)ポリエーテル化合物:0.5~20質量部、
(D)加水分解性オルガノシラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物:0.1~30質量部、及び
(E)硬化触媒:0.001~15質量部
を含有する室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の製造方法であって、
[i](A)成分、(B)成分、及び(C)成分の上記配合量の5~95質量%を混合して、均一な混合物を調製する工程、次いで、
[ii]工程[i]で調製した混合物に、(C)成分の配合量の残部、(D)成分、及び(E)成分を混合して均一な組成物を調製する工程を含む室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の製造方法。
【請求項2】
(B)成分の充填剤が煙霧質シリカ及び/又は炭酸カルシウムを含むものである請求項1に記載の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、室温(23℃±15℃)において、大気中の湿気(水分)による加水分解・縮合反応により架橋・硬化してシリコーンエラストマー(ゴム状弾性体)となる室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の製造方法に関し、詳しくは、硬化前の組成物は低粘度かつ垂直面に塗布しても垂れない高いチキソトロピー性を有し、硬化後の硬化物は高いゴム弾性を有しかつ基材との密着面からの剥離性に優れたシリコーンゴム硬化物を与えるものである室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大気中の湿気(水分)により架橋・硬化してシリコーンエラストマーとなる室温硬化性シリコーンゴム組成物は、その取り扱いが容易な上、硬化物(シリコーンゴム)が耐候性や電気特性に優れているため、建材用のシーリング材、電気・電子分野での接着剤など様々な分野で使用されている。用途によっては、室温硬化性シリコーンゴム組成物を垂直面に塗布する場合もあり、塗布後の組成物が塗布面から垂れない高いチキソトロピー性も求められる。一方で、室温硬化性シリコーンゴム組成物を適用した物品の修理や部品交換時に該組成物の硬化物を基材との接着面から除去、剥離させる必要が生じる場合があり、この際には基材表面に硬化物が残存せず、界面剥離することが求められる。特にコンクリートへの用途に関しては屋外環境での使用や水平面だけではなく垂直面への塗布、個体によって表面の形状が異なる等の理由から硬化物を被着面から完全に剥離させることは難しい。
【0003】
特開2005-082734号公報(特許文献1)では電極コーティング材向けに、両末端がジアルコキシモノオルガノシリル基で封鎖されたジオルガノポリシロキサンあるいは両末端がトリアルコキシシリル基で封鎖されたポリオルガノシロキサンをベースポリマーとして使用し、これにシラノール基、トリアルコキシ基及びジアルコキシ基を含有しないポリオルガノシロキサン、充填剤として表面処理されたシリカ、架橋剤である2官能のアルコキシシラン又はその部分加水分解縮合物及びチタンキレート触媒を組み合わせることにより、室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の密着性と剥離性の両立を図っている。
【0004】
また、特開平6-329915号報(特許文献2)では、マスキング材またはパッキング材に有用な室温硬化性シリコーン組成物として、ポリオキシエチレン鎖および/またはポリオキシプロピレン鎖によって変性されたオルガノポリシロキサン化合物を配合した組成物が良好な剥離性を有することが記載されている。
【0005】
しかしながら、室温硬化性シリコーン組成物の垂直面への使用を考えた場合、硬化後の剥離性だけではなく、組成物の使用時(基材への適用時)には作業性(低粘度)と高いチキソトロピー性も求められる。組成物の低粘度化とチキソトロピー性付与の両立は難しく、ましてや硬化後の剥離性も付与するとなると極めて困難であり、これらの特性をすべて備える室温硬化性シリコーン組成物はなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005-082734号公報
【特許文献2】特開平6-329915号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明は、硬化前の組成物は低粘度かつ高いチキソトロピー性を有し、硬化後の硬化物は高伸長かつコンクリートのような個体によって表面の形状が異なる基材との密着面からの剥離性に優れた室温硬化性ポリオルガノシロキサン組成物の安価な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記した課題を解決するため鋭意研究を進めた結果、ポリエーテル化合物を配合することが有効であることを見出すとともに、更に、該ポリエーテル化合物を二回に分けて分割配合することが極めて有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、以下の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の製造方法を提供するものである。
[1]
(A)分子鎖両末端がシラノール基で封鎖された直鎖状ジオルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)充填剤:1~1,000質量部、
(C)ポリエーテル化合物:0.5~20質量部、
(D)加水分解性オルガノシラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物:0.1~30質量部、及び
(E)硬化触媒:0.001~15質量部
を含有する室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の製造方法であって、
[i](A)成分、(B)成分、及び(C)成分の上記配合量の5~95質量%を混合して、均一な混合物を調製する工程、次いで、
[ii]工程[i]で調製した混合物に、(C)成分の配合量の残部、(D)成分、及び(E)成分を混合して均一な組成物を調製する工程を含む室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の製造方法。
[2]
(B)成分の充填剤が煙霧質シリカ及び/又は炭酸カルシウムを含むものである[1]に記載の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法によって得られる室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、硬化前は低粘度かつ高いチキソトロピー性を有し、硬化後は高伸長かつコンクリートのような個体によって表面の形状が異なる基材との密着面からの剥離性に優れる。
したがって、本発明の製造方法によって得られる室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、屋外環境で使用したり、垂直面へ塗布したりする建材用のシーリング材などとして特に好適である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0012】
(A)成分
本発明の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の製造方法において、該室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物のベースポリマーとして用いられる(A)成分は、分子鎖両末端がシラノール基(ケイ素原子に結合した水酸基)で封鎖された基本的に直鎖状のジオルガノポリシロキサン(主剤)である。
【0013】
(A)成分の直鎖状ジオルガノポリシロキサンとして、具体的には、下記式(1)で表される分子鎖両末端がシラノール基で封鎖された直鎖状ジオルガノポリシロキサンが好ましいものとして挙げられる。
【化1】
(式(1)中、Rはそれぞれ独立して非置換もしくは置換の炭素原子数1~12のアルキル基又は非置換もしくは置換の炭素原子数6~10のアリール基であり、Yは互いに独立して酸素原子又は炭素原子数1~8の二価炭化水素基である。mはこのジオルガノポリシロキサンの23℃における粘度が100~1,000,000mPa・sとなる数であり、平均値として30~2,000、好ましくは50~1,200、より好ましくは100~800の数である。)
【0014】
上記式(1)で表されるジオルガノポリシロキサンの23℃における粘度は、100~1,000,000mPa・s、特に300~100,000mPa・sであることが好ましい。
【0015】
なお、粘度は回転粘度計(例えば、BL型、BH型、BS型、コーンプレート型等)による測定値である(以下、同じ。)。また、上記式(1)で示されるジオルガノポリシロキサン中におけるジオルガノシロキサン単位の繰り返し数(m)又は重合度は、トルエン等を展開溶媒としてゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)分析におけるポリスチレン換算の数平均重合度(又は数平均分子量)等として求めたものである。
【0016】
上記式(1)において、Rの非置換もしくは置換の炭素原子数1~12のアルキル基又は非置換もしくは置換の炭素原子数6~10のアリール基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、α-,β-ナフチル基等のアリール基;また、これらの基の水素原子の一部又は全部が、F、Cl、Br等のハロゲン原子やシアノ基等で置換された基、例えば、3-クロロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、2-シアノエチル基等を例示することができる。これらの中でも、メチル基、エチル基等のアルキル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0017】
上記式(1)において、Yは酸素原子又は炭素原子数1~8の二価炭化水素基であり、酸素原子、-(CH2CH2)q-、又は-(CH=CH)q-(qは1~4を表す)であることが好ましい。これらの中でも特に酸素原子、-CH2CH2-、又は-CH=CH-が好ましい。
【0018】
上記式(1)で表される直鎖状ジオルガノポリシロキサンの構造としては、例えば、分子鎖両末端シラノール基封鎖ジオルガノポリシロキサン、分子鎖両末端ジオルガノヒドロキシシリルエチル基封鎖ジオルガノポリシロキサン、分子鎖両末端ジオルガノヒドロキシシリルプロピル基封鎖ジオルガノポリシロキサン等が挙げられる。
【0019】
(A)成分の分子鎖両末端がシラノール基で封鎖された直鎖状ジオルガノポリシロキサンは、1種単独で使用しても構造や重合度の異なる2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0020】
(B)成分
本発明の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の製造方法において、該室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、硬化物に十分な機械的強度を与えるための充填剤((B)成分)を含むものである。この充填剤としては公知のものを使用することができ、例えば、焼成シリカ、粉砕シリカ、溶融シリカ、煙霧質シリカ(ヒュームドシリカ)、シリカエアロゲル等の乾式シリカ、ゾルゲルシリカ、沈降シリカ等の湿式シリカ、結晶性シリカ(微粉末石英)、けいそう土などのケイ素酸化物(シリカ系無機質充填剤);酸化鉄、酸化亜鉛、酸化チタンなどの金属酸化物、あるいはこれらの表面をシラン処理したもの;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛などの金属炭酸塩;アスベスト、ガラスウール、カーボンブラック、微粉マイカ、溶融シリカ粉末等の無機質充填剤;ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレンなどの合成樹脂粉末等が使用される。
(B)成分の充填剤は、1種単独で使用しても2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0021】
(B)成分の配合量は、上記(A)成分100質量部に対して1~1,000質量部であり、好ましくは5~200質量部である。(B)成分を1質量部以上配合することで、室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物から得られる硬化物が十分な機械的強度を有するものとなり、またその配合量が1,000質量部以下であれば、組成物の粘度が増大して作業性が悪くなったり、硬化物のゴム強度が低下してゴム弾性が悪化したりすることがない。
【0022】
(C)成分
本発明の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の製造方法において、該室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物は剥離性、チキソトロピー性を与えるためのポリエーテル化合物((C)成分)を含むものである。このポリエーテル化合物としては、ポリエチレンオキサイド(ポリオキシエチレン)、ポリプロピレンオキサイド(ポリオキシプロピレン)、エチレンオキサイド・プロピレンオキサイド共重合体(ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンコポリマー)に代表されるポリエーテル化合物;これらのポリエーテル化合物の末端水酸基の一部又は全部(片末端又は両末端の水酸基)をアルキルエーテルで変性(封鎖)した化合物(例えば、ポリオキシエチレンモノアルキルエーテル、ポリオキシプロピレンモノアルキルエーテル、(ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン)モノアルキルエーテル、ポリオキシエチレンジアルキルエーテル、ポリオキシプロピレンジアルキルエーテル、(ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン)ジアルキルエーテル);上記のポリエーテル化合物とオルガノポリシロキサンとのコポリマー(例えば、ポリエーテルとオルガノポリシロキサンとのブロック共重合体、ポリエーテル主鎖にオルガノポリシロキサン側鎖がグラフトしたグラフト共重合体、オルガノポリシロキサン主鎖にポリエーテル側鎖がグラフトしたグラフト共重合体など)等が例示される。
【0023】
(C)成分の配合量は、上記(A)成分100質量部に対して0.5~20質量部であり、好ましくは0.5~10質量部である。(C)成分を0.5質量部以上配合することで、室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物はチキソトロピー性を発現し、室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物から得られる硬化物は剥離性を有するものとなり、またその配合量が20質量部以下であれば極端に粘度が低下し、チキソトロピー性に悪影響を与えることはない。
【0024】
(C)成分の配合量に関し、本発明の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の製造方法の
[i](A)成分、(B)成分、及び(C)成分の上記配合量の5~95質量%を混合して、均一な混合物を調製する工程、及び
[ii]工程[i]で調製した混合物に、(C)成分の配合量の残部、(D)成分、及び(E)成分を混合して均一な組成物を調製する工程、
の工程[i]及び工程[ii]の両工程において、(C)成分は分割して配合されるものである。(C)成分の配合量を分割した際、1回(工程[i])の配合量が(C)成分全体の5~95質量%(即ち、2回(工程[ii])の配合量が(C)成分全体の95~5質量%であり、工程[i]、[ii]の合計で100質量%)であり、1回(工程[i])の配合量が(C)成分全体の7~90質量%(2回(工程[ii])の配合量が93~10質量%、工程[i]、[ii]の合計で100質量%)であることが好ましく、とりわけ1回(工程[i])の配合量が(C)成分全体の10~30質量%(2回(工程[ii])の配合量が90~70質量%、工程[i]、[ii]の合計で100質量%)であることがより好ましい。
(C)成分の配合量に関して、1回(工程[i])の配合量が(C)成分全体の5質量
%未満や95質量%を超えるなど、1回(工程[i])と2回(工程[ii])の配合量に極端な差があると、十分なチキソトロピー性と剥離性が発現しない場合がある。
【0025】
(C)成分のポリエーテル化合物は1種単独で使用しても構造や重合度の異なる2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0026】
(D)成分
本発明の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の製造方法において、該室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、(D)成分として、硬化物の架橋密度を向上させるための架橋剤(硬化剤)として作用する加水分解性オルガノシラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物、好ましくは、分子中に3個以上(特には3個又は4個)のケイ素原子に結合した加水分解性基を有する加水分解性オルガノシラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物を含むものである。本発明において「部分加水分解縮合物」とは、加水分解性オルガノシラン化合物を部分的に加水分解・縮合して生成する分子中に残存加水分解性基を3個以上有するオルガノシロキサンオリゴマーを意味する。
【0027】
(D)成分の加水分解性オルガノシラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物が有するケイ素原子に結合した加水分解性基としては、例えば、ジメチルケトオキシム基、メチルエチルケトオキシム基、ジエチルケトオキシム基等の炭素原子数3~7のケトオキシム基;メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基等の炭素原子数1~10のアルコキシ基;アセトキシ基、オクタノイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基等の炭素原子数2~10のアシロキシ基;ビニルオキシ基、アリルオキシ基、プロペノキシ基、イソプロペノキシ基等の炭素原子数2~4のアルケニルオキシ基などが挙げられ、炭素原子数1~4のアルコキシ基、ケトオキシム基、イソプロペノキシ基が好ましい。
【0028】
該加水分解性オルガノシラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物が有する上記加水分解性基以外のケイ素原子に結合したオルガノ基(1価炭化水素基)としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等の炭素原子数1~10のアルキル基;ビニル基、アリル基等の炭素原子数2~10のアルケニル基;フェニル基、トリル基等の炭素原子数6~10のアリール基などが挙げられ、炭素原子数1~4のアルキル基が好ましい。なお、(D)成分の加水分解性オルガノシラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物において、加水分解性基以外のケイ素原子に結合したオルガノ基(1価炭化水素基)には、窒素原子、硫黄原子、酸素原子等のヘテロ原子を有する官能性基を有さないものであることが好ましい。
【0029】
また、(D)成分の加水分解性オルガノシラン化合物としては、加水分解性基を有する複数(2個又は3個)のシリル基同士がアルキレン基などの2価炭化水素基で連結されたビスシリル型加水分解性シラン化合物、トリシリル型加水分解性シラン化合物などであってもよい。
【0030】
(D)成分の具体例としては、メチルトリス(メチルエチルケトオキシム)シラン、ビニルトリス(メチルエチルケトオキシム)シラン、フェニルトリス(メチルエチルケトオキシム)シラン、メチルトリス(ジメチルケトオキシム)シラン等のケトオキシム基含有シラン;メチルトリメトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、α-(ジメトキシメチルシリル)プロピオン酸2-エチルヘキシル等のアルコキシシラン;メチルトリイソプロペノキシシラン、エチルトリイソプロペノキシシラン、ビニルトリイソプロペノキシシラン、フェニルトリイソプロペノキシシラン等のイソプロペノキシ基含有シラン;メチルトリアセトキシシラン、エチルトリアセトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン等のアセトキシシラン;並びにこれらのシランの部分加水分解縮合物が挙げられる。これらは1種単独で使用しても2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0031】
(D)成分の配合量は、上記(A)成分100質量部に対して0.1~30質量部であり、0.2~20質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5~15質量部である。上記配合量が0.1質量部以上であれば、架橋(硬化)反応が十分に進行し、上記配合量が30質量部以下であれば、硬化物が硬くなり過ぎることがなく、また経済的であるため好ましい。
【0032】
(E)成分
本発明の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の製造方法において、該室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、速やかに架橋(硬化)反応を進行させるため(E)成分として硬化触媒を含むものである。(E)成分の硬化触媒として、非金属系有機触媒及び金属系触媒が例示できる。
【0033】
該硬化触媒の非金属系有機触媒としては、縮合硬化型オルガノポリシロキサン組成物の硬化促進剤として公知のものを使用することができ、特に制限されるものではない。例えば、N,N,N’,N’,N’’,N’’-ヘキサメチル-N’’’-(トリメチルシリルメチル)-ホスホリミディックトリアミド等のホスファゼン含有化合物、n-オクチルアミン、ヘキシルアミン、リン酸ドデシルアミン、テトラメチルグアニジン等のアミン化合物又はその塩、ベンジルトリエチルアンモニウムアセテート等の第4級アンモニウム塩、ジメチルヒドロキシルアミン、ジエチルヒドロキシルアミン等のジアルキルヒドロキシルアミン、テトラメチルグアニジルプロピルトリメトキシシラン、テトラメチルグアニジルプロピルメチルジメトキシシラン、テトラメチルグアニジルプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シラン等のグアニジル基を有する加水分解性シラン及びシロキサン等が例示されるが、非金属系有機触媒はこれらに限定されない。また、非金属系有機触媒は1種単独でも2種以上を混合して使用してもよい。
【0034】
該硬化触媒の金属系触媒としては、縮合硬化型オルガノポリシロキサンの硬化促進剤として公知のものを使用することができ、特に制限されるものではない。例えば、ジブチルスズジアセテート、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズジオクトエート、ジオクチルスズジネオデカノエート、ジオクチルスズジラウレート、ジ-n-ブチル-ジメトキシスズ等のアルキルスズエステル化合物、テトライソプロポキシチタン、テトラ-n-ブトキシチタン、テトラキス(2-エチルヘキソキシ)チタン、ジプロポキシビス(アセチルアセトナト)チタン、チタニウムイソプロポキシオクチレングリコール等のチタン酸エステル又はチタンキレート化合物、ナフテン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、亜鉛-2-エチルオクトエート、鉄-2-エチルヘキソエート、コバルト-2-エチルヘキソエート、マンガン-2-エチルヘキソエート、ナフテン酸コバルト、アルミニウムイソプロピレート、アルミニウムsec-ブチレートなどのアルコレートアルミニウム化合物、アルミニウムアルキルアセテート・ジイソプロピレート、アルミニウムビスエチルアセトアセテート・モノアセチルアセトネート等のアルミニウムキレート化合物、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、シュウ酸リチウム等のアルカリ金属の低級脂肪酸塩が例示されるが、金属系触媒はこれらに限定されない。また、金属系触媒は、1種類単独でも2種類以上を混合して使用してもよい。
【0035】
(E)成分の硬化触媒の配合量は、上記(A)成分100質量部に対して0.001~15質量部であり、好ましくは0.01~10質量部である。(E)成分の配合量が多すぎると硬化性が速すぎる結果、十分な作業時間が得られず、また経済的に不利となる場合がある。
【0036】
-その他の添加剤-
また、本発明の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の製造方法において、該室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物には、上述した(A)~(E)成分の他に、更に、添加剤として、顔料、染料、老化防止剤、酸化防止剤、帯電防止剤、酸化アンチモン、塩化パラフィン等の難燃剤、両末端トリメチルシリル基封鎖ジメチルポリシロキサン(無官能ジメチルシリコーンオイル)などの無官能性ジオルガノポリシロキサン等の粘度調整剤などから選ばれる少なくとも1種の公知の添加剤を本発明の目的を損なわない範囲において配合することができる。更に、防かび剤、抗菌剤等を本発明の目的を損なわない範囲において配合することもできる。
【0037】
〔室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の製造方法〕
本発明において、室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、以下の方法によって製造されるものである。即ち、上述した(A)~(E)成分について、
[i](A)成分、(B)成分、及び(C)成分の上記配合量の5~95質量%を混合して、均一な混合物を調製する工程、次いで、
[ii]工程[i]で調製した混合物に、(C)成分の配合量の残部、(D)成分、及び(E)成分を混合して均一な組成物を調製する工程
の、工程[i]、工程[ii]を含む製造方法によって製造されるものである。
【0038】
また必要に応じて配合される任意成分である-そのほかの添加剤-の配合順序は特に制限されるものはないが、工程[ii]において配合されることが好ましい。
【0039】
工程[i]において、(A)成分、(B)成分及び(C)成分の上記配合量の5~95質量%が均一になるまで十分に混合されていればよく、その混合条件としては湿気遮断下にて、常温(通常0~40℃、好ましくは10~30℃)で、通常10分~5時間、好ましくは30分~3時間程度である。また、混合は常圧下又は減圧下で行うことが好ましい。
【0040】
工程[ii]において、工程[i]で得られた上記(A)成分、(B)成分及び(C)成分の上記配合量の5~95質量%を混合してなる混合物に、(C)成分の配合量の残部、(D)成分及び(E)成分を混合する条件としては、湿気遮断下にて、常温又は必要に応じて40~120℃程度に加熱し、混合時間は上記成分が均一となるのに十分な時間であればよく、通常10分~3時間、好ましくは30分~3時間程度である。また、混合は常圧下又は減圧下で行うことが好ましい。
【0041】
以上のようにして製造された室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、室温(23℃±15℃)において大気中の湿気(水分)によって、短時間で容易に架橋(硬化)反応が進行してシリコーンゴム硬化物(エラストマー弾性体)やシリコーンゲル硬化物等のオルガノポリシロキサン硬化物を与えることができる。さらに、以上のようにして製造された室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、低粘度の為、作業性に優れ、垂直面に塗布しても垂れない高いチキソトロピー性を有し、硬化後の硬化物(シリコーンゴム硬化物又はシリコーンゲル硬化物)は高い剥離性を有し、個体によって表面形状が異なるコンクリート等に対しても高い剥離性を発現する。
【実施例0042】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記の例において、組成物の調製は23℃下にて行ったものであり、また粘度は23℃での回転粘度計による測定値を示したものである。また、室温は23℃を意味する。分子量は、トルエン又はTHFを展開溶媒として東ソー・テクノシステム株式会社製HLC-8320を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)分析におけるポリスチレン換算の数平均分子量を示す。
【0043】
[実施例1]
粘度5,000mPa・sの分子鎖両末端がケイ素原子に結合した水酸基(シラノール基)で封鎖されたジメチルポリシロキサン(上記式(1)において、R=メチル基、Y=酸素原子、m=約400に相当する)80質量部に、粘度1,500mPa・sの分子鎖両末端がケイ素原子に結合した水酸基(シラノール基)で封鎖されたジメチルポリシロキサン(上記式(1)において、R=メチル基、Y=酸素原子、m=約260に相当する)20質量部、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン共重合体のジブチルエーテル(分子量;2,000)0.5質量部及び煙霧質シリカ(MU-215、信越化学工業(株)製)10質量部を加え、湿気遮断下にて室温で40分間均一に混合し、混合物を調製した(工程[i])。
次いで、該混合物に、メチルトリス(メチルエチルケトオキシム)シラン5.0質量部、ビニルトリス(メチルエチルケトオキシム)シラン2.0質量部、ジオクチルスズジラウレート0.1質量部及びポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン共重合体のジブチルエーテル(分子量;2,000)4.5質量部を加え、室温で10分間混合した後、減圧下にて15分間混合し、組成物1を得た(工程[ii])。
【0044】
[実施例2]
実施例1の製造方法において、工程[i]でポリオキシエチレン・ポリオキシプロピ
レン共重合体のジブチルエーテル(分子量;2,000)0.5質量部に代えて、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン共重合体のモノブチルエーテル(分子量;2,000)0.5質量部を用い、工程[ii]でポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン共重合体のジブチルエーテル(分子量;2,000)4.5質量部に代えて、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン共重合体のモノブチルエーテル(分子量;2,000)4.5質量部を用いたこと以外は実施例1と同様にして組成物2を得た。
【0045】
[実施例3]
実施例1の製造方法において、工程[i]でポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン共重合体のジブチルエーテル(分子量;2,000)0.5質量部に代えて、ポリエーテル変性シリコーン(信越化学工業株式会社製;KF-6020)0.5質量部を用い、工程[ii]でポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン共重合体のジブチルエーテル(分子量;2,000)4.5質量部に代えて、ポリエーテル変性シリコーン(信越化学工業株式会社製;KF-6020)4.5質量部を用いたこと以外は実施例1と同様にして組成物3を得た。
【0046】
[比較例1]
実施例1の製造方法において、工程[i]でポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン共重合体のジブチルエーテル(分子量;2,000)0.5質量部、工程[ii]でポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン共重合体のジブチルエーテル(分子量;2,000)4.5質量部をそれぞれ用いなかったこと以外は実施例1と同様にして組成物4を得た。
【0047】
[比較例2]
実施例1の製造方法において、工程[i]でポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン共重合体のジブチルエーテル(分子量;2,000)0.5質量部に代えて、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン共重合体のジブチルエーテル(分子量;2,000)5.0質量部を使用し、工程[ii]でポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン共重合体のジブチルエーテル(分子量;2,000)4.5質量部を用いなかったこと以外は実施例1と同様にして組成物5を得た。
【0048】
[比較例3]
実施例1の製造方法において、工程[i]でポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン共重合体のジブチルエーテル(分子量;2,000)0.5質量部を用いず、工程[ii]でポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン共重合体のジブチルエーテル(分子量;2,000)4.5質量部に代えてポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン共重合体のジブチルエーテル(分子量;2,000)5.0質量部を使用したこと以外は実施例1と同様にして組成物6を得た。
【0049】
[比較例4]
実施例3の製造方法において、工程[i]でポリエーテル変性シリコーン(信越化学工業株式会社製;KF-6020)0.5質量部に代えて、ポリエーテル変性シリコーン(信越化学工業株式会社製;KF-6020)5.0質量部を使用し、工程[ii]でポリエーテル変性シリコーン(信越化学工業株式会社製;KF-6020)4.5質量部を用いなかったこと以外は実施例3と同様にして組成物7を得た。
【0050】
[比較例5]
実施例3の製造方法において、工程[i]でポリエーテル変性シリコーン(信越化学工業株式会社製;KF-6020)0.5質量部を用いず、工程[ii]でポリエーテル変性シリコーン(信越化学工業株式会社製;KF-6020)4.5質量部に代えて、ポリエーテル変性シリコーン(信越化学工業株式会社製;KF-6020)5.0質量部を使用したこと以外は実施例3と同様にして組成物8を得た。
【0051】
[比較例6]
実施例1の製造方法において、工程[i]及び工程[ii]で配合した全成分を工程[
i]において配合したこと以外は実施例1と同様にして組成物9を得た。組成物9におい
ては、配合した成分が均一に混合・分散せず、凝集体が多々見られ、正確に物性を評価することができなかった。
【0052】
〔物性評価試験〕
実施例1~3及び比較例1~5で調製した調製直後の各組成物の粘度は回転粘度計BS型で測定した。また、流動性(スランプ)はJIS A-1439に準拠して測定し、流動性を示さなかったものを○、流動性を示したものを×とした。それらの結果を表1に示す。
【0053】
【0054】
表1の結果より、実施例1~3、比較例5は粘度が低く、チキソトロピー性を発現した。一方、比較例1~3はチキソトロピー性の発現が確認できず、比較例4は同じポリエーテル成分を使用している実施例3と比べて、粘度が非常に高い値を示した。
【0055】
実施例1~3及び比較例1~5で調製した調製直後の各組成物を厚さ2mmのシート状に押し出し、23℃、50%RHの空気に曝し、次いで、該シートを同じ雰囲気下に7日間放置して得た硬化物の物性(初期物性;破壊点伸び率及び最大点強度)を、JIS K-6249に準拠して測定し、ゴム弾性を評価した。
また、剥離性はモルタル上に各組成物を塗布し、23℃、50%RHの空気に7日間曝した後に硬化物の端を手で引張り、確認した。剥離したものを○、一部接着または剥がれる前に破断したものを△、接着したものを×とした。それらの結果を表2に示す。
【0056】
【0057】
表2の結果より、実施例1~3、比較例4はゴム弾性と剥離性を示した。一方、比較例1~3、5は完全に剥離しなかった。