(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024097210
(43)【公開日】2024-07-18
(54)【発明の名称】エチレンで追熟が可能な農作物の新鮮さの管理方法
(51)【国際特許分類】
A23B 7/152 20060101AFI20240710BHJP
G01N 33/02 20060101ALI20240710BHJP
A23L 3/3409 20060101ALI20240710BHJP
【FI】
A23B7/152
G01N33/02
A23L3/3409
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023000608
(22)【出願日】2023-01-05
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業 共創の場形成支援(共創の場形成支援プログラム)「共創の場形成支援プログラム「革新的低フードロス共創拠点」に関する国立大学法人大阪大学による研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福▲崎▼ 英一郎
(72)【発明者】
【氏名】古野 正浩
(72)【発明者】
【氏名】サフィラ ラティファ エルランガ プトゥリ
(72)【発明者】
【氏名】勘角 航暉
【テーマコード(参考)】
4B021
4B169
【Fターム(参考)】
4B021LA41
4B021LT06
4B021LW02
4B021MC10
4B021MK05
4B021MK13
4B021MP10
4B169HA11
4B169HA13
4B169KA07
4B169KA10
4B169KB10
4B169KC05
4B169KD02
4B169KD03
(57)【要約】
【課題】農作物を破壊することなしに農作物の品質を予測することが可能な、エチレンで追熟が可能な農作物の品質を管理する方法、及び品質管理システムを提供する。
【解決手段】エチレンで追熟が可能な農作物の品質を管理する方法であって、(1)エチレンで追熟が可能な農作物から放出される揮発性成分の分析結果に基づいて、該農作物の状態を予測する工程を含む、方法、及びエチレンで追熟が可能な農作物の品質を管理するための品質管理システムであって、該品質管理システムは、エチレンで追熟が可能な農作物から放出される揮発性成分を分析する分析装置と、該農作物の状態を予測する予測装置とを備え、該予測装置は、該分析装置による揮発性成分の分析結果に基づき該農作物の状態の予測を行う、品質管理システム。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレンで追熟が可能な農作物の品質を管理する方法であって、
(1)エチレンで追熟が可能な農作物から放出される揮発性成分の分析結果に基づいて、該農作物の状態を予測する工程
を含む、方法。
【請求項2】
(0)前記農作物から放出される揮発性成分を分析する工程
を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
(2)工程(1)で得られた農作物の状態の予測結果に基づき保管条件を制御する工程
を更に含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記農作物が、エチレンで追熟が可能な熱帯産の農作物である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記農作物が、エチレンで追熟が可能な熱帯産の果物である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
前記農作物が、バナナ、マンゴスチン、マンゴ、アボガド、パパイア及びキウイからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項7】
前記農作物が、エチレンで追熟されたものである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項8】
前記工程(0)における分析が、質量分析計を用いて実施される、請求項2に記載の方法。
【請求項9】
前記農作物の状態が、熟成の状態、シュガースポットの発生及び腐敗の状態からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項10】
前記工程(1)の予測において、多変量解析予測モデルが使用される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項11】
リアルタイムに農作物の状態の予測が行われる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項12】
エチレンで追熟が可能な農作物の品質を管理するための品質管理システムであって、
該品質管理システムは、エチレンで追熟が可能な農作物から放出される揮発性成分を分析する分析装置と、該農作物の状態を予測する予測装置とを備え、
該予測装置は、該分析装置による揮発性成分の分析結果に基づき該農作物の状態の予測を行う、品質管理システム。
【請求項13】
エチレンで追熟が可能な農作物の品質を管理するための保管システムであって、
該保管システムは、エチレンで追熟が可能な農作物を保管する保管庫と、該農作物から放出される揮発性成分を分析する分析装置と、該農作物の状態を予測する予測装置とを備え、
該予測装置は、該分析装置による揮発性成分の分析結果に基づき該農作物の状態の予測を行う、保管システム。
【請求項14】
前記予測装置は、更に、前記農作物の状態の予測結果に基づき保管条件の制御を行う、請求項12又は13に記載のシステム。
【請求項15】
エチレンで追熟が可能な農作物の品質の予測に使用可能な物質の決定方法であって、
(I)エチレンで追熟が可能な農作物から放出される揮発性成分の分析結果を説明変数とし、該農作物の状態の情報を応答変数として回帰分析する工程、及び
(II)工程(I)の回帰分析の結果に基づき、該農作物の状態の予測に使用可能な揮発性成分を選択する工程
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレンで追熟が可能な農作物の品質を管理する方法、エチレンで追熟が可能な農作物の品質を管理するための品質管理システム及び保管システム、並びにエチレンで追熟が可能な農作物の品質の予測に使用可能な物質の決定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生鮮性の高い農作物の流通は、未だに様々な障害に直面している。病害虫の感染や農作物の自然な老化によって保存期間が短くなり、大きな経済的損失と世界市場への供給が損なわれてしまう。このような事態を防ぐため、農作物は通常、冷蔵貨物内に保管され、鮮度が保たれる。また、従来の技術では、湿度センサーや二酸化炭素センサーに加え、エチレンガスセンサーを組み合わせて、輸送中の農作物の品質を監視している。しかし、このような情報では、農作物の品質管理、特に菌の感染検出や生鮮品の保存日数の予測はできない。
【0003】
例えば、バナナはミバエ等の害虫侵入を防ぐ防疫上の理由等から、未熟な緑のまま低温、無酸素で冬眠状態にて輸入される。入港後、温度を上げ、熟成を促すエチレンガスで目覚めさせ、完熟直前に出荷する。
【0004】
収穫後も追熟可能な作物は、呼吸があり多くの酵素が働いている。酵素の働きにより食感・味・香りが最大になった時に賞味されるのが理想であり、その後は腐敗へと進む。消費者に最適なものを届け、食品ロスを最小にするための流通過程における品質管理の方法の開発という目的において、作用する酵素や代謝経路を知ることは意味のあることであるが、多大な費用と時間を必要とする。
【0005】
このようなフードロスや美味しさなどの作物の管理に関する報告は存在している。そのようなものとして、非特許文献1では、冷蔵コンテナによるバナナの海上輸送中又は輸送後に発生する品質問題は、主に不十分な冷却と最適でない雰囲気条件、さらに呼吸活動によって発生する熱によって引き起こされること、これらの影響を測定・評価するツールは、バナナのサプライチェーンに沿ったロスの削減に大きく貢献し、温度、相対湿度、CO2及びO2ガス濃度の変動がバナナの貯蔵安定性に及ぼす影響を予測するためのモデル、及び測定された温度曲線から冷却効率、包装や梱包の変化の影響、呼吸熱量を評価することができることが報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Jedermann Reiner, Praeger Ulrike, Geyer Martin and Lang Walter 2014 Remote quality monitoring in the banana chain. Phil. Trans. R. Soc. A 372: 20130303
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、農作物を破壊することなしに農作物の品質を予測することが可能な、エチレンで追熟が可能な農作物の品質を管理する方法、並びにエチレンで追熟が可能な農作物の品質を管理するための品質管理システム及び保管システムを提供することを目的とする。また、本発明は、農作物を破壊することなしに、エチレンで追熟が可能な農作物の品質の予測に使用可能な物質の決定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
生鮮品から排出される揮発性化合物(Volatile Organic Compounds:VOCs)は、呼吸を示す代謝活動の産物である。作物は流通過程において、温度、酸素濃度、相対湿度など、揮発性成分の放出に影響を与えるストレス条件がダイナミックに変化する。そのため、VOCsマーカーは特定の保存状態のシグナルとして機能する可能性がある。そこで、本発明者らは、メタボロミクスプラットフォームと多変量解析予測モデルとを組み合わせることで、1)低温・低酸素条件下での熟成、2)褐変斑点の発生、3)菌感染や過熟による品質劣化に相関するVOCsマーカーを特定することができることを見出した。
【0009】
このように、本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、エチレンで追熟が可能な農作物が放出する揮発性成分を分析することで、農作物の品質を(農作物を壊さずに)非破壊的に予測することができるという知見を得た。アミノ酸、油脂、ビタミンなどは代謝が進むと二次代謝産物であるVOCsとなる。本発明者らは、エチレンで追熟が可能な農作物が放出する揮発性成分の中から、農作物の状態を示すマーカー揮発性成分を発見した。また、これらの成分を用いることで農作物の状態の把握及び管理が効率的に進むことを確認した。この分析に質量分析計などを用いることにより、リアルタイムでの農作物の状態の把握が可能となる。
【0010】
本発明は、これら知見に基づき、更に検討を重ねて完成されたものであり、次のエチレンで追熟が可能な農作物の品質を管理する方法、エチレンで追熟が可能な農作物の品質を管理するための品質管理システム及び保管システム、並びに農作物を破壊することなしに、エチレンで追熟が可能な農作物の品質の予測に使用可能な物質の決定方法を提供するものである。
【0011】
項1.エチレンで追熟が可能な農作物の品質を管理する方法であって、
(1)エチレンで追熟が可能な農作物から放出される揮発性成分の分析結果に基づいて、該農作物の状態を予測する工程
を含む、方法。
項2.(0)前記農作物から放出される揮発性成分を分析する工程
を更に含む、項1に記載の方法。
項3.(2)工程(1)で得られた農作物の状態の予測結果に基づき保管条件を制御する工程
を更に含む、項1又は2に記載の方法。
項4.前記農作物が、エチレンで追熟が可能な熱帯産の農作物である、項1~3のいずれか一項に記載の方法。
項5.前記農作物が、エチレンで追熟が可能な熱帯産の果物である、項1~3のいずれか一項に記載の方法。
項6.前記農作物が、バナナ、マンゴスチン、マンゴ、アボガド、パパイア及びキウイからなる群から選択される少なくとも1種である、項1~3のいずれか一項に記載の方法。
項7.前記農作物が、エチレンで追熟されたものである、項1~6のいずれか一項に記載の方法。
項8.前記工程(0)における分析が、質量分析計を用いて実施される、項2~7のいずれか一項に記載の方法。
項9.前記農作物の状態が、熟成の状態、シュガースポットの発生及び腐敗の状態からなる群から選択される少なくとも1種である、項1~8のいずれか一項に記載の方法。
項10.前記工程(1)の予測において、多変量解析予測モデルが使用される、項1~9のいずれか一項に記載の方法。
項11.リアルタイムに農作物の状態の予測が行われる、項1~10のいずれか一項に記載の方法。
項12.エチレンで追熟が可能な農作物の品質を管理するための品質管理システムであって、
該品質管理システムは、エチレンで追熟が可能な農作物から放出される揮発性成分を分析する分析装置と、該農作物の状態を予測する予測装置とを備え、
該予測装置は、該分析装置による揮発性成分の分析結果に基づき該農作物の状態の予測を行う、品質管理システム。
項13.エチレンで追熟が可能な農作物の品質を管理するための保管システムであって、
該保管システムは、エチレンで追熟が可能な農作物を保管する保管庫と、該農作物から放出される揮発性成分を分析する分析装置と、該農作物の状態を予測する予測装置とを備え、
該予測装置は、該分析装置による揮発性成分の分析結果に基づき該農作物の状態の予測を行う、保管システム。
項14.前記予測装置は、更に、前記農作物の状態の予測結果に基づき保管条件の制御を行う、項12又は13に記載のシステム。
項15.エチレンで追熟が可能な農作物の品質の予測に使用可能な物質の決定方法であって、
(I)エチレンで追熟が可能な農作物から放出される揮発性成分の分析結果を説明変数とし、該農作物の状態の情報を応答変数として回帰分析する工程、及び
(II)工程(I)の回帰分析の結果に基づき、該農作物の状態の予測に使用可能な揮発性成分を選択する工程
を含む、方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、エチレンで追熟が可能な農作物の状態を予測するために、農作物を破壊する必要がなくなるため、農作物の非破壊予測が可能となる。結果として、サンプリングによる農作物の損失を防ぐこともできる。
【0013】
本発明の特定の実施態様では、農作物の状態をリアルタイムに予測できるため、熟成の状態、シュガースポットの発生及び腐敗の状態などをリアルタイムに判断することができる。リアルタイムに得られる情報は、効率的な品質管理をもたらすことができる。
【0014】
本発明の方法によれば、農作物の新鮮さを管理することができるため、近年問題になっている食品ロスを低減することが可能となる。特に収穫後の追熟が可能な果物や野菜などの作物の貯蔵、輸送、市場への供給前の熟成等に関して、農作物が熟成から腐敗に至る各ステップの状態の把握、カビ等の病原菌汚染などを、農作物が発する揮発性の代謝産物の情報を基に、適切な対処を可能にするものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係る保管システムを示す図である。
【
図2】実施例で得られたフレーバーホールを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0017】
エチレンで追熟が可能な農作物の品質を管理する方法
本発明のエチレンで追熟が可能な農作物の品質を管理する方法(以下、「本発明の管理方法」と称することもある)は、
(1)エチレンで追熟が可能な農作物から放出される揮発性成分の分析結果に基づいて、該農作物の状態を予測する工程
を含むことを特徴とする。
【0018】
本発明の管理方法の一実施形態では、工程(1)に加えて、(0)前記農作物から出される揮発性成分を分析する工程を更に含む。このように工程(0)及び(1)を含む場合、本発明の管理方法は、
(0)エチレンで追熟が可能な農作物から放出される揮発性成分を分析する工程、及び
(1)工程(0)で得られた揮発性成分の分析結果に基づいて、該農作物の状態を予測する工程
を含む、方法と記載することができる。
【0019】
本発明の管理方法の一実施形態では、工程(1)に加えて、(2)工程(1)で得られた農作物の状態の予測結果に基づき保管条件を制御する工程を更に含む。このように工程(1)及び(2)を含む場合、本発明の管理方法は、
(1)エチレンで追熟が可能な農作物から放出される揮発性成分の分析結果に基づいて、該農作物の状態を予測する工程、及び
(2)工程(1)で得られた農作物の状態の予測結果に基づき保管条件を制御する工程を含む、方法と記載することができる。
【0020】
また、工程(0)~(2)を含む場合、本発明の管理方法は、
(0)エチレンで追熟が可能な農作物から放出される揮発性成分を分析する工程、
(1)工程(0)で得られた揮発性成分の分析結果に基づいて、該農作物の状態を予測する工程、及び
(2)工程(1)で得られた農作物の状態の予測結果に基づき保管条件を制御する工程を含む、方法と記載することができる。
【0021】
本発明における「状態を予測する」、「状態の予測」とは、揮発性成分(説明変数)をモニターすることでエチレンで追熟が可能な農作物の状態(応答変数)を予測する操作を意味する。本発明における「品質を管理する」、「品質の管理」とは、品質を維持すること、品質をモニタリングすることなどの意味を含む。
【0022】
エチレンで追熟が可能な農作物としては、エチレンで追熟が可能な農作物であれば特に限定されず、好ましくはエチレンで追熟が可能な熱帯産の農作物が挙げられる。このような熱帯産の農作物としては、例えば、フィリピン、インドネシア、マレーシア、タイ、ベトナムなどの東南アジア、台湾、インド、中国、ブラジル、エクアドル、グアテマラ、コスタリカ、ペルー、コロンビア、メキシコ、アンゴラ、タンザニアなどで生産される農作物があげられる。
【0023】
エチレンで追熟が可能な熱帯産の農作物としては、例えば、エチレンで追熟が可能な熱帯産の果物及び野菜であり、より好ましくはエチレンで追熟が可能な熱帯産の果物である。このような熱帯産の果物としては、例えば、バナナ、マンゴスチン、マンゴ、アボガド、パパイア、キウイなどが挙げられる。バナナの種類としては、特に限定されず、例えば、キャベンディッシュ、北蕉バナナ、サバ、セニョリータ、島バナナ、ラカタン、モラード、グロスミチェルなどが挙げられる。
【0024】
本発明の管理方法において使用される農作物としては、エチレンで追熟された後の農作物を使用することができる。「追熟」は、農作物が未熟な状態で収穫され、その後の流通過程の中で熟成を進める処理である。この追熟処理に通常使用されているのがエチレンであり、収穫された未熟の農作物はコンテナなどに収納された状態でエチレンとの接触により追熟される。エチレンを使用した農作物の追熟は、公知の方法により行うことができる。エチレンを使用した農作物の追熟は、例えば、農作物をエチレンガスと密封し、15~35℃で約1~6日間保管熟成させることによっても可能である。
【0025】
本発明の管理方法において、エチレンで追熟が可能な農作物から放出される揮発性成分について分析を行う。分析には、農作物が保管されている保管庫内に存在するガスを使用することができる。
【0026】
本明細書において「揮発性成分」とは、揮発性を有し、保管庫内で気体状となる成分を意味する。揮発性成分の分析に用いる装置は、揮発性成分を分析できるものであれば特に限定されず、例えば、質量分析計、赤外分光計、近赤外分光計、ラマン分光計、ガスセンサー(例えば、半導体アレーセンサーなど)などが挙げられる。質量分析計、赤外分光計、近赤外分光計、ラマン分光計、ガスセンサーを分析に使用することにより、リアルタイムに農作物の状態の予測を行うことが可能となる。中でも、化合物の認識能の高い質量分析計が好ましい。
【0027】
質量分析計としては、揮発性成分を分析できるものであれば特に限定されず、例えば、一般的なシングルタイプの質量分析計、トリプル四重極型質量分析計、Q-TOF型質量分析計、TOF-TOF型質量分析計、イオントラップ質量分析計、イオントラップ飛行時間型質量分析計等を好適に用いることができる。質量分析で使用するイオン化としては、例えば、ハードイオン化法である電子イオン化法、ソフトイオン化法である光イオン化法、化学イオン化法などが挙げられる。
【0028】
電子イオン化法などのハードイオン化法を使用する場合は、揮発性成分のフラグメントイオンが生じるため、他の揮発性成分から生じるフラグメントイオンと重複しないm/zを使用して分析を行う必要がある。光イオン化法、化学イオン化法などのソフトイオン化法を使用する場合は、分子イオン由来のm/zを使用して分析を行うことができる。感度が足りない場合は、揮発性成分の濃縮を行った後に質量分析計に導入することにより感度を向上させることができる。濃縮を行う方法としては、吸着剤、捕集剤を用いて吸着及び捕集を行うことが挙げられる。吸着及び捕集法としては、例えば、Tenax TA、MonoTrap(登録商標)等を用いる方法、溶媒捕集法、固相マイクロ抽出(SPME)などが挙げられる。
【0029】
ソフトイオン化法を使用する場合は、同じm/zの分子イオンは分離することができないため、ハードイオン化法及びソフトイオン化法の両方を用いて定性及び定量分析を行うことにより、質量分析計での分析の信頼性を向上させることができる。イオン化法は、周期的に切り替えて使用してもよい。
【0030】
農作物から放出される揮発性成分の分析は、リアルタイム又は一定の時間毎に行われる。揮発性成分を分析する間隔は、特に限定されず、農作物の種類や保管条件などを考慮して適宜設定することができる。揮発性成分を分析する間隔としては、例えば、10分~50時間毎、10分~40時間毎、10分~30時間毎、10分~20時間毎、10分~10時間毎、10分~1時間毎、10~30分毎などが挙げられる。
【0031】
揮発性成分を分析は、農作物の状態の予測に使用されるデータの種類を考慮して、必要なデータが得られる分析を行い、具体的には定量分析である。
【0032】
揮発性成分を分析に、質量分析計、赤外分光計、近赤外分光計、ラマン分光計などを使用する場合には、クロマトグラフィーによる分離後に、これらの装置での分析を行ってもよい。クロマトグラフィーでの分離を予め行うことで、農作物の状態を予測するために使用するマーカーとなる物質を特定し易くなる。特に質量分析計においてハードイオン化法を用いる場合、複数の揮発性成分から生じるフラグメントイオンが重複することで物質を特定できないこともあるため、クロマトグラフィーでの分離を予め行うことで揮発性成分の特定を行うことが容易になる。クロマトグラフィーの種類としては、例えば、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、超臨界流体クロマトグラフィー(SFC)などが挙げられる。
【0033】
工程(1)では、揮発性成分の分析結果に基づいて、農作物の状態の予測を行う。このように農作物の状態の予測を行うことにより、農作物の状態をモニタリングすることができる。農作物の状態とは、農作物の状態を示すものであれば特に限定されず、例えば、(低酸素保存時、低温保存時などにおける)熟成の状態、シュガースポットの発生、(病原菌が要因である又は病原菌が要因でない)腐敗の状態、保存日数などが挙げられる。農作物の状態を予測する方法としては、農作物の状態を予測することが可能な方法であれば特に限定されない。農作物の状態の予測に使用する揮発性成分については、1種類の揮発性成分を用いることもできるし、又は2種以上の揮発性成分を組み合わせて用いることもできる。揮発性成分の具体例としては、後述する実施例に挙げるものに加えて、(2-クロロエチル)ホスホン酸、ジャスモン酸などが挙げられる。また、農作物の熟成の状態、シュガースポットの発生、腐敗の状態などの各状態における予測に使用する揮発性成分は、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0034】
農作物の状態の予測は、さらに、揮発性成分に加えて、温度、湿度、酸素及び窒素などのガス濃度、農作物の色、硬さ及び糖度などを組み合わせて実施することもできる。
【0035】
農作物の状態を予測する方法としては、例えば、多変量解析予測モデルを用いる方法、特に回帰分析により得られた予測モデルを用いる方法が挙げられ、具体的には、得られた揮発性成分の分析結果を予測モデルに入力し農作物の状態を求めることができる。その他、回帰分析により農作物の状態との相関関係が認められた揮発性成分を予測に用いる方法が挙げられ、具体的には、このような揮発性成分の定量値に基づいて農作物の状態を予測することができる。
【0036】
本発明の管理方法は、農作物の海上輸送中、保管中、陸上輸送中、追熟の前又は後などのいずれの段階でも実施することができる。また、本発明の管理方法は、例えば、段ボール、コンテナ、倉庫などに(冷蔵、常温などで)保管(貯蔵)されている農作物に対して実施される。
【0037】
このように、本発明では、エチレンで追熟が可能な農作物の状態の予測に当該農作物から放出される揮発性成分を使用するので、農作物を破壊する必要がなくなるため、農作物の状態の非破壊予測が可能となる。結果として、サンプリングによる農作物の損失を防ぐこともできる。
【0038】
本発明の特定の実施態様では、農作物の状態をリアルタイムに予測できるため、熟成の状態、シュガースポットの発生及び腐敗の状態などをリアルタイムに判断することができる。リアルタイムに得られる情報は、効率的な品質管理をもたらすことができる。
【0039】
本発明の管理方法によれば、海上輸送中や追熟行程での農作物の品質をモニターすることができるので農作物の新鮮さを管理することができるため、農作物の品質維持と保存期間延長が可能となる。結果として、近年問題になっている食品ロスを低減することが可能となる。特に収穫後の追熟が可能な果物や野菜などの作物の保管、輸送、市場への供給前の熟成等に関して、農作物が熟成から腐敗に至る各ステップの状態の把握、カビ等の病原菌汚染などを、農作物が発する揮発性の代謝産物の情報を基に、適切な対処を可能にするものである。
【0040】
工程(2)では、工程(1)で得られた農作物の状態の予測結果に基づき保管(貯蔵)条件の制御を行う。ここでの保管条件の制御としては、農作物の品質が低下することが予想される場合に、農作物の品質が向上するような保管条件となるように制御を行うことなどが挙げられる。そのような制御としては、例えば、温度、湿度、酸素濃度、二酸化炭素濃度、エチレン濃度などの制御が挙げられる。
【0041】
エチレンで追熟が可能な農作物の品質の予測に使用可能な物質の決定方法
本発明のエチレンで追熟が可能な農作物の品質の予測に使用可能な物質の決定方法(以下、「本発明の決定方法」と称することもある)は、
(I)エチレンで追熟が可能な農作物から放出される揮発性成分の分析結果を説明変数とし、該農作物の状態の情報を応答変数として回帰分析する工程、及び
(II)工程(I)の回帰分析の結果に基づき、該農作物の状態の予測に使用可能な揮発性成分を選択する工程
を含むことを特徴とする。
【0042】
本発明の決定方法では、上記の本発明の管理方法における農作物の状態の予測に使用できる揮発性成分を決定することができる。本発明の決定方法は、メタボロームを利用して多変量での解析を行い、農作物の状態の予測に使用可能なマーカーとなる揮発性成分を探索することを目的としている。
【0043】
工程(I)における農作物から放出される揮発性成分の分析は、上記工程(0)と同様の方法で実施することができる。中でも、本発明の決定方法では、クロマトグラフィーによる分離後に、質量分析計、赤外分光計、近赤外分光計、ラマン分光計を用いて分析を行うことが望ましい。中でも質量分析計を用いて分析を行うことが望ましい。本発明の決定方法では、揮発性成分の分析に加えて、好ましくは農作物の状態についても分析を行う。工程(I)での回帰分析としては、好ましくは線形回帰分析であり、線形回帰分析としては、例えば、PLS(Partial Least Squares)、OPLS(Orthogonal Partial Least Squares)などが挙げられる。このような回帰分析を行うことにより、揮発性成分の分析結果から予測モデルを作成することができる。
【0044】
応答変数としては、農作物の状態の情報を表すものであれば特に限定されず、例えば、(低酸素保存時、低温保存時などにおける)熟成の状態、シュガースポットの発生、(病原菌が要因である又は病原菌が要因でない)腐敗の状態等に関する指標の数値(インデックス)、保存日数などが挙げられる。
【0045】
工程(II)では、工程(I)の回帰分析の結果に基づき、該農作物の状態の予測に使用可能な揮発性成分の選択を行う。農作物の状態の予測に使用可能な揮発性成分の選択を行う方法としては、農作物の状態の予測に使用可能な揮発性成分の選択を行うことができる方法であれば特に限定されない。そのような選択を行う方法としては、例えば、工程(I)においてOPLS回帰分析を行い求めた各揮発性成分のVIP(Variable Importance in the Projection)値が、高い値を示した揮発性成分をマーカー候補となる揮発性成分として選択することができる。さらに係数を使用してもよい。ここで、マーカー候補となる揮発性成分は、1種類だけであってもよいし、2種類以上であってもよく、2種類以上のマーカーを組み合わせて用いるものであってもよい。
【0046】
エチレンで追熟が可能な農作物の品質を管理するための品質管理システム及び保管システム
本発明のエチレンで追熟が可能な農作物の品質を管理するための品質管理システムは、
該品質管理システムは、エチレンで追熟が可能な農作物から放出される揮発性成分を分析する分析装置と、該農作物の状態を予測する予測装置とを備え、
該予測装置は、該分析装置による揮発性成分の分析結果に基づき該農作物の状態の予測を行うことを特徴とする。
【0047】
また、本発明のエチレンで追熟が可能な農作物の品質を管理するための保管システムは、
該保管システムは、エチレンで追熟が可能な農作物を保管する保管庫と、該農作物から放出される揮発性成分を分析する分析装置と、該農作物の状態を予測する予測装置とを備え、
該予測装置は、該分析装置による揮発性成分の分析結果に基づき該農作物の状態の予測を行うことを特徴とする。
【0048】
本発明の品質管理システム及び保管システムは、前述する本発明の管理方法を実施するためのものであり、エチレンで追熟が可能な農作物、揮発性成分などは前述するものと同様である。
図1に示すものが、本発明の品質管理システム10及び保管システム20の例として挙げられる。
【0049】
保管庫3は、エチレンで追熟が可能な農作物を保管するためのものである。保管庫3としては、段ボール、コンテナ、倉庫などが挙げられる。なお、保管庫は静止しているものだけではなく、船やトラックなどに積み込まれて移動している状態のものも含む。保管庫3は、温度、湿度、酸素濃度、二酸化炭素濃度、エチレンガス濃度などの測定及び制御を行うための手段(例えば、ガスセンサー、酸素、二酸化炭素又はエチレンガスの供給装置)を備えていてもよい。
【0050】
保管庫3は、分析に使用するための揮発性成分を分析装置1に供給するための手段を備えていてもよい。そのような手段としては、保管庫3中の気体を分析装置1まで(必要によりポンプ等を使用して)供給するために、保管庫3と分析装置1とを連結する供給路(例えば、チューブ、金属パイプ、樹脂パイプ)などである。
【0051】
本発明の品質管理システム10及び保管システム20は、揮発性成分が分析装置1に供給される前に、揮発性成分の濃縮を行うための手段4を備えていてもよい。揮発性成分の濃縮を行った後に分析装置1に供給することにより感度を向上させることができる。濃縮を行う手段4としては、例えば、吸着剤、捕集剤などが挙げられる。
【0052】
本発明の揮発性成分を分析する分析装置1は、保管庫3内の揮発性成分を分析するためのものであり、リアルタイムに農作物の状態の予測を行うことが可能となる分析装置が望ましい。そのような分析装置1としては、例えば、質量分析計、赤外分光計、近赤外分光計、ラマン分光計、ガスセンサーなどが挙げられ、好ましくは質量分析計である。このような質量分析計、赤外分光計、近赤外分光計、ラマン分光計などの分析前に揮発性成分の分離を行うために、分析装置1はクロマトグラフィーを更に備えていてもよい。
【0053】
農作物の状態を予測する予測装置2は、分析装置1による保管庫3内の揮発性成分の分析結果に基づいて、農作物の状態の予測を行うためのものである。このような予測装置2としては、本発明の管理方法の項に記載されている、農作物の状態を予測する方法を行うプログラムをCPUにより実行するコンピュータが挙げられる。
【0054】
予測装置2は、更に、農作物の状態の予測結果に基づき保管条件の制御を行ってもよい。ここでの保管条件の制御としては、農作物の品質が低下することが予想される場合に、農作物の品質が向上するような保管条件となるように制御を行うことなどが挙げられる。そのような制御としては、例えば、温度、湿度、酸素濃度、二酸化炭素濃度、エチレン濃度などの制御が挙げられる。
【0055】
なお、本明細書において「含む」とは、「本質的にからなる」と、「からなる」をも包含する(The term “comprising” includes “consisting essentially of” and “consisting of.”)。また、本発明は、本明細書に説明した構成要件を任意の組み合わせを全て包含する。
【0056】
また、上述した本発明の各実施形態について説明した各種特性(性質、構造、機能等)は、本発明に包含される主題を特定するにあたり、どのように組み合わせられてもよい。すなわち、本発明には、本明細書に記載される組み合わせ可能な各特性のあらゆる組み合わせからなる主題が全て包含される。
【実施例0057】
以下、本発明を更に詳しく説明するため実施例を挙げる。しかし、本発明はこれら実施例等になんら限定されるものではない。
【0058】
本実施例では、市場価値が高くて年中入手可能である一方で腐敗しやすい果物の一つであるバナナをモデルサンプルとして使用した。
【0059】
バナナの品質をモニターするために、ストレス下又は好ましくない条件下で熟成過程が行われた。熟成過程を引き起こすために、バナナは次の手順でエチレンで処理した。
【0060】
エチレン処理:
(I)追熟処理されていない青いバナナ、例えば、台湾産北蕉バナナ、タイ産サババナナ、エクアドル産ウール―バナナ、インドネシア産オリジバナナ、フィリピン産キャベンディッシュ青バナナを13℃の冷蔵庫で保管した。
(II)バナナを一本ずつ切り離し箱の中に並べて、光が当たらないように、箱は新聞紙で覆った。
(III)パイプから0.1%のエチレンガスをボックス内へ封入した。最後に、ポリエチレンフィルムで箱を覆い、エチレンの漏れがないことを確認した。エチレン処理には最大2日かかり、追熟したバナナは常温で1週間もしないうちに黄色くなる。
【0061】
低温・低酸素条件下での熟成
理想的には、バナナは新鮮さを維持するために制御された低温及び低酸素レベルで保持される。しかしながら、そのような理想的な条件を完全に達成することは難しい。
【0062】
1.低温保存
急激な温度変化は、冷蔵貨物の外での初期の熟成の原因となるエチレンバーストをもたらす。この実験は、低温で熟成し続けるバナナの揮発性成分をモニターするためにデザインされた。低温保存の条件は次の通りである。
(a)エチレン処理したバナナを13℃のインキュベーター内で21日間保管した。
(b)80%以上の湿度と、3L容器の場合15~18ml/sで空気循環した。
【0063】
2.低酸素保存
低酸素レベルは、バナナの呼吸速度を低下させるために有効であり、それにより緑色の状態を維持し、保存可能期間を延長することができる。しかしながら、低酸素レベルはバナナの官能特性を変化させ得る。この実験条件は2~5%の酸素レベルで保存した後に熟成し続けるバナナの揮発性成分をモニターするためにデザインされた。
(a)エチレン処理バナナを13℃のインキュベーター内で18日間保存した。
(b)80%以上の湿度に設定した。
(c)インキュベーター内の酸素濃度が2~5%になるように窒素の流量を制御し、窒素処理の1日、2日及び3日後、インキュベーター内の雰囲気ガスの組成を空気に置換した(3Lコンテナの場合、流量15~18ml/秒の空気により)。
【0064】
2番目の実験条件は、異なるエチレン放出前のステージでの低酸素処理の効果をモニターするためにデザインされた。
【0065】
酸素レベルは、熟成に対してシュガースポットの発生を制御することも知られている。密閉保存で保持された熟成バナナはより多くの二酸化炭素を蓄積し、容器内の酸素レベルを減少させる。そのような状況下で、通常、皮の色の明らかな変化なしでバナナパルプのデンプン分解が生じる。この実験は、密閉保存で保存された市販のバナナの揮発性成分の変化をモニターすることを目的とする。
(a)13℃、湿度80%以上で、蓋に取り付けられたMonoTrapサンプリング装置を有する3Lの容器内でバナナを21日間保管した。
(b)窒素は流量20ml/sでインキュベーター内に流入させた。窒素処置は、異なるバナナの熟成段階で行った。
(c)1つのサンプルはエチレン処理の前に窒素で処理した。別のサンプルはエチレン処理の後に処理した。その他のサンプルはエチレン処理の前と後に処理した。窒素処理の1日後にインキュベーター内の雰囲気ガスの組成を流量15~18ml/秒で空気に置換した。
(d)サンプリングは、毎日行った。
【0066】
3.密閉保存I
バナナの皮上のシュガースポット(ブラウンスポット)は、老化の過程で避けることができない。老化のスポットは、バナナ輸出の開発及び市場の問題において決定的な要因となる。
(a)ステージ3~4のエクアドル産のキャベンディッシュバナナを1L密閉容器に入れ、25℃で5日間保管した。容器内の酸素レベルは50%より低くなった。
(b)揮発性成分のサンプリングは、2日目と4日目に行った。
【0067】
4.密閉保存II
バナナが最も所望される熟成の後期の段階で老化スポットが発生するので、バナナの市場価値が低下し、食品廃棄物につながる。この実験はシュガースポット発生があるものとシュガースポット発生が無いものの間で熟成バナナの揮発性成分を比較することを目的とする。
(a)ステージ3~4のエクアドル産のキャベンディッシュバナナを1L密閉容器に入れ、25℃で5日間保管した。
(b)(皮が茶色へ変色した)段階の3~4のバナナを、15~18ml/sの気流で25℃の1L容器内に保管した。
(c)揮発性成分のサンプリングは、2日目と4日目に行った。
【0068】
5.熟れすぎ
熟れすぎのカビが感染したバナナはその感覚的な品質を失っており、安全の問題のために更に消費することはできず、食品廃棄物となる。この実験は、熟れすぎて腐敗するまでに更なる老化プロセスを経るカビに感染した揮発性成分を調査することをデザインした。
(a)この実験は根頭腐敗病を示した市販のキャベンディッシュバナナを使用した。花柄のカビをカビの特定のために第三者機関に送った。ITS(Internal Transcribed Spacer)領域から、カビはcigar end rotを引き起こす主な病原菌であるMusicillium theobromaeであると特定された。
(b)感染したバナナは、IL密閉容器内に25℃で4日間保管した。
(c)バナナが腐敗し始めたら、サンプリング装置MonoTrapを容器の蓋に1日間取り付けた。
【0069】
6.真菌感染症
根頭腐敗病はバナナを収穫した時には検出されない。その症状は通常、海上輸送中に始まり、花柄でのカビの増殖はより明確になる。根頭腐敗病は果物の壊死の発生のため、果物の品質に影響を与える。それは、輸送中にバナナの初期の熟成をもたらす。この実験は、保存中のカビの感染の開始を調査することを目的とする。
(a)この実験は根頭腐敗病を示した市販のキャベンディッシュバナナ及び根頭腐敗病を示さなかったものを使用した。
(b)これらのサンプルは、容器の蓋にMonoTrapを取り付けたIL密閉容器内に25℃で4日間保管した。
(c)揮発性成分のサンプリングは、2日目と4日目に行った。
(d)4日目の終わりに、根頭腐敗病が無いバナナの花柄を薄い白い菌糸体で覆われていた。これは、カビの感染が感染したバナナから生じていたことを示している。
【0070】
卸売業者及び店頭で購入したバナナを実験当日まで13℃で保存した。バナナの成熟過程における揮発性成分の変化をガスクロマトグラフィー質量分析計(GC/MS)で分析した。回帰分析(OPLS-R)と組み合わせて、バナナの貯蔵日数を予測し、低温・低酸素貯蔵下でのバナナ熟成、糖斑の発生、老化斑、真菌感染などの揮発性マーカーを調査した。
【0071】
サンプリング装置:
容器にエチレン処理したバナナを投入し、これらの容器に、空気交換用の2つの穴と、サンプリング装置用の1つの穴を空けた。次に、サンプリング装置の穴を利用して、バナナから発生する揮発性化合物を捕集した。この実験では、捕集媒体としてMonoTrapを使用した。バナナのサンプルを含むすべての容器は、温度と湿度が制御されたインキュベーター内に保管された。バナナの保存期間は、実験形態によって異なっていた。保管期間中、MonoTrapを毎日交換し、VOCの変化を観察した。バナナが完全に黄色くなるか、熟れすぎたら、サンプリングを終了した。その後、MonoTrapをGC/MSで分析し、続いて、GC/MS分析から得られたデータマトリックスを前処理し、OPLSモデルを構築した。この回帰分析(OPLS)モデルは、バナナの揮発性化合物を使用して貯蔵日数を予測することが可能となり、また、保管日数と代謝物の相関関係が線形であることが証明された場合は、保管日数とともに増減する主要なVOCを予測することがでた。
【0072】
主な揮発性化合物:次の成分は、上記の解析により決定されたものであり、様々な保管条件で、バナナの保存日数と相関するマーカー成分として使用することができる。この結果をまとめたフレーバーホールを
図2に示す。
低温保存:3-メチルブチル2-メチルブタノエート;ブタン酸2-メチルプロピル;n-ヘキサン酸ビニル;2-ペンタノン;2-ヘプタノール;2-ペンタノール;1,2,3-トリメトキシ-5-((E)-1-プロペニル)-ベンゼン
低酸素保存:酢酸3-メチルブチル;ブタン酸2-エチルヘキシル;酪酸1,2-プロパンジオール;酪酸1,3-ジメチルブチル;ブタン酸3-メチルブチル;2,4-ジアセトキシペンタン;2-ヘプタノール;酢酸1,4-ジメチルペンタ-4-エニル
シュガースポット:酢酸エチル;1-プロパノール;1-ブタノール;エタノール;酢酸2-ペンタノール
密閉保管:ジメチルシクロヘキサノール;2,5-ジメチル-4-ヒドロキシ-3-ヘキサノン;トリデカノン;ブチルカルビトールアセテート;2-メトキシ-2,4,4-トリメチルペンタン;
熟れすぎ:亜硫酸ノニル2-ペンチル;2-ヘプタデカノール;ペンタデカ-8z-エン-2-オン;イソ酪酸フェネチル;酢酸Z-8-テトラデセン-1-イル
根頭腐敗病:ペンタン酸1-シクロペンチルエチル;Drim-7-en-11-ol;シトロネロール;酢酸5-オクテニル;ヘキサン酸エチル;2-ノナノール-2-メチルプロピオネート
バナナの熟成中の揮発性化合物の分析により、様々な保管条件でのバナナの保管日数を予測できる。様々な保管条件に由来する主要な揮発性化合物は、新しいタイプのガスセンサーを開発するために役立つ。このセンサーにより、海上輸送中の作物のリアルタイムモニタリングが可能になり、根頭腐敗病などの病気の早期発見によって、フードロスの防止、及び作物の官能品質の管理が可能になる。