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特開2024-97296カーボンナノチューブ複合体、ナノ粒子複合体の製造方法、およびナノ粒子複合体の製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024097296
(43)【公開日】2024-07-18
(54)【発明の名称】カーボンナノチューブ複合体、ナノ粒子複合体の製造方法、およびナノ粒子複合体の製造装置
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/172 20170101AFI20240710BHJP
   B82Y 20/00 20110101ALI20240710BHJP
   B82Y 35/00 20110101ALI20240710BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20240710BHJP
【FI】
C01B32/172
B82Y20/00
B82Y35/00
B82Y40/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023212521
(22)【出願日】2023-12-15
(31)【優先権主張番号】P 2023000362
(32)【優先日】2023-01-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】丹下 将克
【テーマコード(参考)】
4G146
【Fターム(参考)】
4G146AA11
4G146AB06
4G146AB07
4G146AC16A
4G146AC16B
4G146BA04
4G146CB09
4G146CB10
4G146CB17
4G146CB26
4G146DA06
4G146DA50
(57)【要約】
【課題】カーボンナノチューブを固体状態で含み、光吸収スペクトル線幅が狭いカーボンナノチューブ複合体を提供する。
【解決手段】カーボンナノチューブ複合体は、カーボンナノチューブと、カーボンナノチューブのチューブ構造を識別できる疎水性分散剤とを固体状態で含み、吸光度0.03以上で光吸収スペクトル線幅が45meV以下である光吸収ピークを近赤外波長領域に有する。カーボンナノチューブは、半導体カーボンナノチューブであってもよい。疎水性分散剤は、フルオレン系ポリマー、チオフェン系ポリマー、およびカルバゾール系ポリマーの一種以上であってもよい。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブと、前記カーボンナノチューブのチューブ構造を識別できる疎水性分散剤とを固体状態で含み、
吸光度0.03以上で光吸収スペクトル線幅が45meV以下である光吸収ピークを近赤外波長領域に有するカーボンナノチューブ複合体。
【請求項2】
請求項1において、
前記カーボンナノチューブが半導体カーボンナノチューブであるカーボンナノチューブ複合体。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記疎水性分散剤が、フルオレン系ポリマー、チオフェン系ポリマー、およびカルバゾール系ポリマーの一種以上であるカーボンナノチューブ複合体。
【請求項4】
ナノ粒子と、前記ナノ粒子を分散する疎水性分散剤と、分散媒とを含有する分散液の表面に向かってらせん状の気流を付与しながら、前記らせん状の気流の内側で前記分散媒を蒸発させて、前記ナノ粒子と前記疎水性分散剤とを固体状態で含むナノ粒子複合体を得るナノ粒子複合体の製造方法。
【請求項5】
請求項4において、
前記分散液が、基材上に塗布されたものであり、膜形状を備えているナノ粒子複合体の製造方法。
【請求項6】
ナノ粒子と、前記ナノ粒子を分散する疎水性分散剤と、分散媒とを含有する分散液からナノ粒子複合体を製造するナノ粒子複合体の製造装置であって、
前記分散液を設置する基台と、
前記基台と対向するように設けられ、前記分散媒を蒸発させる吸引部材と、
前記吸引部材の作動によって、前記基台に向かうらせん状の気流と、前記らせん状の気流の内側で前記基台から離れる直線状の気流とを生じさせる気流調整部材と、
前記分散液を囲むように設けられ、前記吸引部材に向かって内径が小さくなる中空円錐台形状を有する壁部を備える気流カバーと、
を有するナノ粒子複合体の製造装置。
【請求項7】
請求項6において、
前記気流カバーが、前記壁部の内径が小さい方の開口に接続された円筒部をさらに備えるナノ粒子複合体の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、光吸収スペクトル線幅が狭いカーボンナノチューブ(以下「カーボンナノチューブ」を「CNT」と、「単層カーボンナノチューブ」を「SWCNT」とそれぞれ記載することがある)を固体状態で含有する複合体と、CNTなどのナノ粒子を固体状態で含有する複合体の製造方法および製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体CNTは、近赤外波長領域の発光材料および受光材料として、特に、太陽光スペクトルの近赤外波長領域(大気の窓であるJバンドとHバンドの波長領域)の受光素子の材料、および発光バンド幅が狭い、つまり、色純度が高い近赤外波長領域の発光素子の材料、ならびに分光スペクトル形状の変化を利用した化学物質の検出素子の材料などとして使用されている。受光の際のエネルギーロスの低減、発光の際の自己吸収の回避、または検出の際の感度の向上などのため、光吸収スペクトル線幅が狭い固体状態の半導体CNTが求められている。
【0003】
半導体CNTと、この半導体CNTの分散剤を含有する分散液から、ドロップキャスト法またはスピンコーター法などによって、半導体CNTを固体状態で含む膜を作製した場合、この膜の光吸収スペクトル線幅は、半導体CNTと分散剤を含有する分散液の光吸収スペクトル線幅より広がってしまう(非特許文献1)。半導体CNTを固体状態で含む膜の光吸収スペクトル線幅が広がる原因の一つは、半導体CNTと分散剤を含有する分散液からドロップキャスト法などによって膜を作製するときに、半導体CNTの粒子が凝集することである(非特許文献2)。
【0004】
このため、半導体CNTと分散剤を含有する分散液から分散媒を除去する際に、半導体CNTの凝集を抑えて、光吸収スペクトル線幅が狭く、半導体CNTを固体状態で含む複合体を製造する技術の出現が望まれている。また、半導体CNTだけでなく、金属的CNTなどの他のCNT、およびさらに他のナノ粒子についても、ナノ粒子と分散剤を含む分散液から、ナノ粒子の凝集が抑えられ、ナノ粒子を固体状態で含む複合体を製造する技術の出現が望まれている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】K. S. Mistry et al., ACS nano 7 (2013) 2231
【非特許文献2】A. J. Ferguson et al., J. Phys. Chem. Lett. 9 (2018) 6864
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願は、このような事情に鑑みてなされたものであり、CNTを固体状態で含み、光吸収スペクトル線幅が狭いCNT複合体を提供することを課題とする。また、本願は、CNTなどのナノ粒子を固体状態で含み、ナノ粒子の凝集が抑えられたナノ粒子複合体の製造方法と製造装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願のカーボンナノチューブ複合体は、カーボンナノチューブと、カーボンナノチューブのチューブ構造を識別できる疎水性分散剤とを固体状態で含み、吸光度0.03以上で光吸収スペクトル線幅が45meV以下である光吸収ピークを近赤外波長領域に有する。
【0008】
本願のナノ粒子複合体の製造方法は、ナノ粒子と、ナノ粒子を分散する疎水性分散剤と、分散媒とを含有する分散液の表面に向かってらせん状の気流を付与しながら、らせん状の気流の内側で分散媒を蒸発させて、ナノ粒子と疎水性分散剤とを固体状態で含むナノ粒子複合体を得る。
【0009】
本願のナノ粒子複合体の製造装置は、ナノ粒子と、ナノ粒子を分散する疎水性分散剤と、分散媒とを含有する分散液からナノ粒子複合体を製造するナノ粒子複合体の製造装置であって、分散液を設置する基台と、基台と対向するように設けられ、分散媒を蒸発させる吸引部材と、吸引部材の作動によって、基台に向かうらせん状の気流と、らせん状の気流の内側で基台から離れる直線状の気流とを生じさせる気流調整部材と、分散液を囲むように設けられ、吸引部材に向かって内径が小さくなる中空円錐台形状を有する壁部を備える気流カバーを有する。
【発明の効果】
【0010】
本願のカーボンナノチューブ複合体は、吸光度0.03以上で光吸収スペクトル線幅が45meV以下である光吸収ピークを近赤外波長領域に有する。このため、本願のカーボンナノチューブ複合体は、近赤外波長領域で発光しやすい。また、本願のナノ粒子複合体の製造方法では、ナノ粒子を含有する分散液の表面に向かってらせん状の気流を付与しながら、らせん状の気流の内側で分散媒を蒸発させている。このため、分散媒の蒸発時にナノ粒子の凝集が抑えられ、ナノ粒子が分散されたナノ粒子複合体が得られる。また、本願のナノ粒子複合体の製造装置は、基台に向かうらせん状の気流と、らせん状の気流の内側で基台から離れる直線状の気流とを生じさせる気流調整部材を備えている。このため、基台に設置された分散液から、ナノ粒子の凝集が抑えられたナノ粒子複合体が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】(a)実施形態のナノ粒子複合体の製造装置の断面模式図、(b)気流調整部材の側面模式図、(c)気流調整部材の断面模式図。
図2】実施例1の被処理体が設置された三角フラスコの断面模式図。
図3】実施例1の半導体SWCNT分散液と半導体SWCNT複合体のそれぞれの光吸収スペクトル。
図4】下部横軸を光子エネルギーとした実施例1の半導体SWCNT複合体の光吸収スペクトル。
図5】実施例1と比較例1の半導体SWCNT複合体のそれぞれの光吸収スペクトル。
図6】比較例2のSWCNT分散液とSWCNT複合体のそれぞれの光吸収スペクトル。
図7】実施例2の半導体SWCNT分散液と半導体SWCNT複合体のそれぞれの光吸収スペクトル。
図8】下部横軸を光子エネルギーとした実施例2の半導体SWCNT複合体の光吸収スペクトル。
図9】実施例3の半導体SWCNT分散液と半導体SWCNT複合体のそれぞれの光吸収スペクトル。
図10】下部横軸を光子エネルギーとした実施例3の半導体SWCNT複合体の光吸収スペクトル。
図11】実施例4の半導体SWCNT分散液と半導体SWCNT複合体のそれぞれの光吸収スペクトル。
図12】下部横軸を光子エネルギーとした実施例4の半導体SWCNT複合体の光吸収スペクトル。
図13】実施例5の半導体SWCNT分散液の2次元PLマップ。
図14】実施例5の半導体SWCNT分散液と半導体SWCNT複合体のそれぞれの光吸収スペクトル。
図15】下部横軸を光子エネルギーとした実施例5の半導体SWCNT複合体の光吸収スペクトル。
図16】実施例6の半導体SWCNT分散液と半導体SWCNT複合体のそれぞれの光吸収スペクトル。
図17】下部横軸を光子エネルギーとした実施例6の半導体SWCNT複合体の光吸収スペクトル。
図18】実施例7の半導体SWCNT分散液と半導体SWCNT複合体のそれぞれの光吸収スペクトル。
図19】下部横軸を光子エネルギーとした実施例7の半導体SWCNT複合体の光吸収スペクトル。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本願のカーボンナノチューブ複合体、ナノ粒子複合体の製造方法、およびナノ粒子複合体の製造装置について、実施形態と実施例に基づいて説明する。本願で「-」を用いて2つの数値の間の範囲を表わす場合、これら2つの数値もこの範囲に含まれる。なお、重複説明は適宜省略する。本願の実施形態のCNT複合体は、CNTと、CNTのチューブ構造を識別できる疎水性分散剤を固体状態で含んでいる。CNTのチューブ直径は、0.6nm-1.7nmが好ましいが、特に制限がない。また、CNTの合成方法も特に制限がない。実用性から、CNTは、半導体CNT、特に半導体SWCNTであることが好ましい。
【0013】
CNTのチューブ構造を識別できる分散剤とは、複数種のCNTを含有するCNT混在物と混合すると、チューブ直径、層の数、カイラル角、またはチューブ構造による電気的性質の型(後述のチューブ構造指数(n,m)を用いてCNTのチューブ構造を表した場合、2n+mの値を3で割った剰余が1または2のときは半導体CNTで、剰余がそれ以外のときは金属的CNT)などの所定のチューブ構造を備えるCNTを選んで、分散媒中に分散させられる分散剤をいう。
【0014】
なお、この所定のチューブ構造を備えるCNT以外のCNTは、この分散剤によってこの分散媒中に孤立状態で分散されない。このため、遠心分離などによって上澄み液と沈殿物に分離すれば、上澄み液からこの所定のチューブ構造を備えるCNTを回収できる。疎水性分散剤は、25℃の水への溶解度が0.5g/L未満である分散剤をいう。なお、界面活性剤をCNTの分散剤として用いる際に溶媒を重水とすることがあるため、疎水性分散剤は25℃の重水への溶解度が0.5g/L未満である分散剤としてもよい。疎水性分散剤は、フルオレン系ポリマー、チオフェン系ポリマー、およびカルバゾール系ポリマーの一種以上であることが好ましい。
【0015】
具体的な疎水性分散剤としては、Poly(9,9-di-n-octylfluorenyl-2,7-diyl)(PFO)、Poly(9,9-di-n-dodecylfluorenyl-2,7-diyl)(PFD)、9,9-ジオクチルフルオレン-ベンゾチアジアゾール交互ポリマー(Poly(9,9-dioctylfluorene-alt-benzothiadiazole))(F8BT)、Poly[(9,9-dioctylfluorenyl-2,7-diyl)-alt-(2,6-pyridine)](PFOPy)、Poly[(9,9-dioctylfluorenyl-2,7-diyl)-alt-(6,6’-{2,2’-bipyridine})](PFO-BPy)、Poly[(9,9-dihexylfluorenyl-2,7-diyl)-co-(9,10-anthracene)](PFH-A)、Regioregular poly(3-dodecylthiophene)(rr-P3DDT)、およびPoly(N-decyl-2,7-carbazole)などが挙げられる。
【0016】
実施形態のCNT複合体は、吸光度0.03以上で光吸収スペクトル線幅が45meV以下である光吸収ピークを近赤外波長領域に有する。なお、近赤外波長領域とは、波長900nm-2000nmをいう。光吸収ピークは、近赤外波長領域に複数あってもよい。これら複数の光吸収ピークのうち、1つ以上の光吸収ピークが、吸光度0.03以上であり、光吸収スペクトル線幅が45meV以下であればよい。しかし、吸光度0.03以上の複数の光吸収ピークの全てについて、光吸収スペクトル線幅が45meV以下であることが好ましい。
【0017】
光吸収スペクトル線幅は、原則として光吸収ピークの半値全幅、すなわち、この光吸収ピークの基線からのピーク吸光度が1/2となるときの吸光度における光吸収スペクトルの線幅である。ただし、狭い波長領域に複数の光吸収ピークが存在するなどの理由により、半値全幅の測定が困難な場合は、この光吸収ピークの基線からのピーク吸光度が4/5となるときの吸光度における光吸収スペクトルの線幅を光吸収スペクトル線幅とする。その場合、最も狭い光吸収スペクトル線幅が25meV以下であることが好ましい。光吸収スペクトル線幅の狭い半導体CNT複合体は、近赤外発光しやすく、近赤外発光ダイオード(近赤外LED)の発光層に用いられることで、光伝送損失が低いまたは生体透過性が高い近赤外波長領域で、色純度が高く、軽量・フレキシブルな光源となる。
【0018】
本願の実施形態のナノ粒子複合体の製造方法は、ナノ粒子と、ナノ粒子を分散する疎水性分散剤と、分散媒とを含有する分散液からナノ粒子複合体を得る。このナノ粒子複合体は、このナノ粒子とこの疎水性分散剤を固体状態で含んでいる。ナノ粒子としては、CNT以外に、PFD、F8BT、PFO-BPy、またはPoly(9,9-dihexylfluorene-alt-benzothiadiazole)(F6BT)などの疎水性分散剤で分散液を調製できる、フラーレンなどの異種物質をCNTの内側に閉じ込めた物質内包型CNT、窒化ホウ素ナノチューブ(BNNT)、ならびに近赤外発光可能なPbSe(セレン化鉛)およびPbS(硫化鉛)などの量子ドットが挙げられる。
【0019】
分散液に含有される分散媒は、疎水性分散剤が溶解または高分散するように、疎水性分散媒であることが好ましい。疎水性分散媒としては、p-キシレン、o-キシレン、m-キシレン、キシレン(混合物)、トルエン、ベンゼン、メシチレン、エチルベンゼン、およびスチレンなどが挙げられる。分散液は、上が開いている容器に収容されていてもよいし、基板などの基材上に塗布され、膜形状を備えていてもよい。膜状に形成された分散液からは、ナノ粒子複合体膜が得られる。実施形態のナノ粒子複合体の製造方法では、分散液の表面に向かってらせん状の気流(以下「らせん状の気流」を「らせん気流」と記載することがある)を付与しながら、らせん気流の内側で分散媒を蒸発させることによって、ナノ粒子複合体を製造する。らせん気流の内側で分散媒を蒸発させるには、例えば、らせん気流の内側で分散媒から離れる方向の直線状の気流を生じさせればよい。
【0020】
これらのらせん気流と直線状気流を発生させる機構は、ナノ粒子複合体の製造装置の説明で後述する。分散液の表面に付与されたらせん気流によって分散液が撹拌され、らせん気流の内側から、すなわち、撹拌されている分散液の中央から分散媒が主に蒸発する。このため、分散媒の蒸発に伴うナノ粒子の凝集が抑えられる。したがって、ナノ粒子の凝集が抑えられたナノ粒子複合体が得られる。ナノ粒子がCNTで、疎水性分散剤がこのCNTのチューブ構造を識別できる物質であってもよい。ナノ粒子がCNTの場合は、光吸収スペクトル線幅が狭いCNT複合体が得られる。なお、分散媒は、らせん気流の内側だけで蒸発するのではなく、中心と比べると少量ではあるが、分散液の中心以外でも蒸発する。
【0021】
金属的CNTが除去された分散液を用いて作製され、半導体CNTの凝集が抑えられた半導体CNT複合体は、CNT凝集体および半導体CNT凝集体への励起エネルギー移動が回避され、効率的な光エネルギー変換によって、太陽光発電などにおける未利用な近赤外光の活用が可能になる。また、この半導体CNT複合体は、凝集体が混在している従来のCNT複合体および半導体CNT複合体では見出しづらかった化学種に応じた光吸収および発光のスペクトル変化(波長シフト、強度変化、または半値幅変化など)が鮮明に捉えられる。このため、この半導体CNT複合体は、CNTを用いた化学物質の光学的高感度センサーに利用できる。
【0022】
図1(a)は、本願の実施形態のナノ粒子複合体の製造装置10の断面を模式的に示している。ナノ粒子複合体の製造装置10は、ナノ粒子と、ナノ粒子を分散する疎水性分散剤と、分散媒を含有する分散液Dからナノ粒子複合体を製造する。ナノ粒子複合体の製造装置10は、筐体Hと、基台12と、吸引部材14と、気流調整部材16と、気流カバー18を備えている。筐体Hの側部には、外部から気体を取り入れる2つの通気口Haが設けられている。また、筐体Hの図1(a)での背部にも、1つの通気口(不図示)が設けられている。なお、通気口の位置、大きさ、および数量などには特に制限がない。
【0023】
基台12は分散液Dを設置する。基台12には、分散液Dを収容した容器Cを設置してもよいし、膜状に形成された分散液Dを上面に備える基材を設置してもよい。また、基台12の上面に形成された凹部に分散液Dを注入してもよい。また、室温だけでなく20℃以下の低温でもナノ粒子複合体が製造できるように、ペルチェ素子などを利用した温度調整機能を基台12に付加してもよい。
【0024】
吸引部材14は、基台12と対向するように設けられている。吸引部材14は、分散液Dの分散媒を蒸発させる。吸引部材14は、円筒状の吸引口14aと、吸引口14aに接続されたポンプ(不図示)を備えている。このポンプを作動させれば、基台12に設置された分散液Dの分散媒が蒸発して蒸気になり、この蒸気が吸引口14aに吸い込まれ、筐体Hの外部に排出される。気流調整部材16は、吸引口14aに装着されている。気流調整部材16は、吸引部材14の作動によって、基台12に向かうらせん気流SFと、らせん気流SFの内側で基台12から離れる直線状の気流LF(以下「直線状の気流」を「直線気流」と記載することがある)を生じさせる。気流調整部材16がらせん気流SFと直線気流LFを生じさせる機構は後述する。
【0025】
図1(b)は、気流調整部材16の側面を模式的に示している。図1(c)は、気流調整部材16の断面を模式的に示している。市販品に基づいて、気流調整部材16の構造を説明する。気流調整部材16は、円筒状の第一基部16aと、円筒状の第二基部16bと、気流形成部16cと、バネ16dを備えている。第一基部16aと第二基部16bは、内径の差が少しだけあり、段部が形成されるように一体化されている。また、第一基部16aの外径は、第二基部16bの外径より少しだけ大きい。
【0026】
気流形成部16cは、第二基部16bの外側に装着されている。気流形成部16cは、支柱(ガイド)となる第二基部16bの外壁に沿って第一基部16aの下端に向かって移動できる。気流形成部16cは、中央に円柱中空部が形成された円錐台形状を備えている。気流形成部16cが第二基部16bから脱離しないように、第二基部16bの下端の外径は、気流形成部16cの内径より大きくなっている。気流形成部16cの外周には、らせん状の溝(以下「らせん溝」と記載することがある)16cgが形成されている。
【0027】
バネ16dは、第一基部16aの下端と気流形成部16cの上端の間で、第二基部16bの周囲に設けられている。バネ16dによって反発力を受けながら、第一基部16aの下端から気流形成部16cの上端までの長さを調整できる。バネ16dは、例えば、溶液から溶媒を除去するときに、この溶液が収容されている容器の口と気流形成部16cを押圧させながら密着させたいときなどに機能する。本願のナノ粒子複合体の製造のためには、バネ16dは特に必要ではない。また、本願のナノ粒子複合体の製造のためには、気流形成部16cが第二基部16bの長さ方向に移動することは特に必要ではない。本願のナノ粒子複合体の製造のためには、第二基部16bとバネ16dを設けずに、第一基部16aの周囲に気流形成部16cを装着してもよい。
【0028】
気流カバー18は、分散液Dを囲むように、基台12の上面に設けられている。気流カバー18は、分散液Dの表面にらせん気流SFを効率よく付与するための部材である。気流カバー18は、壁部18aと、円筒部18bを備えている。壁部18aは、中空円錐台形状を備え、上面と下面が開いており、吸引部材14に向かって内径が小さくなる。円筒部18bは、壁部18aの内径が小さい方の開口18asに接続されている。本実施形態では、壁部18aと円筒部18bは一体物である。気流形成部16cの上端の周囲は、らせん溝16cgの上端の開口部を除いて、円筒部18bの内壁に接している。すなわち、気流カバー18の最上端18cが、らせん溝16cgより上に配置されている。
【0029】
このため、気流カバー18の内部に取り込まれる空気は、らせん溝16cgの上端の開口かららせん溝16cgを通過することになり、らせん気流SFが分散液Dの表面に効率よく付与される。気流形成部16cの上端以外の周囲が、気流カバー18の最上端18cの内壁に接していてもよい。気流カバー18の最上端18cの内壁が気流形成部16cの上端以外の周囲で接していても、らせん溝16cgの途中かららせん溝16cgを通過した空気が、気流カバー18の内部に取り込まれる。この場合、気流カバー18の内部に取り込まれる空気がらせん溝16cgを長く通過できるように、気流形成部16cの高さの2/3より高い位置で、気流カバー18の最上端18cの内壁に接することが好ましい。なお、気流カバー18は、中空円錐台状の壁部18aのみから構成されていてもよい。
【0030】
ポンプが作動すると、吸引口14aから筐体Hの内部の空気が吸い込まれる。すなわち、基台12から吸引口14aに向かって、直線気流LFが発生する。それと同時に、筐体Hの内外の圧力差を解消するために、通気口Haを通じて、筐体Hの外部から筐体Hの内部に空気が取り込まれる。この取り込まれた空気は、らせん溝16cgを通過して気流カバー18の内部に入り、基台12に向かう。このとき、らせん溝16cgに沿って空気が移動するとともに、気流カバー18によって空気の拡散が制限されているので、気流調整部材16から基台12に向かって、らせん気流SFが発生する。
【0031】
らせん気流SFによって分散液Dが環状に撹拌され、分散液Dに生じる遠心力によってナノ粒子が中心方向に凝集しにくくなる。らせん気流SFの内側、すなわち分散液Dの中心付近では直線気流LFによって分散媒が蒸発するので、ナノ粒子は中心方向にも引き寄せられる。ナノ粒子に加わる遠心力と中心方向への力の均衡によって、ナノ粒子の凝集を抑えた乾燥が可能となり、ナノ粒子が分散されたナノ粒子複合体が得られる。
【実施例0032】
実施例1:HiPco法CNT
フルオレン系ポリマー、チオフェン系ポリマー、またはカルバゾール系ポリマーなどのSWCNTのチューブ構造を識別できる疎水性高分子のうち、ドデシルアルキル側鎖を有するフルオレンホモポリマーは、半導体CNTと金属的CNTの混在物から、様々なチューブ構造指数(n,m)を備える半導体SWCNTを識別して分散媒に分散させられる。なお、このフルオレンホモポリマーで識別されなかった半導体SWCNT以外の各種CNTは、分散液中で凝集して遠心分離処理で沈降除去しやすくなる。
【0033】
PFD(Sigma-aldrich社、分子量8,195)約20mgと、HiPco法(High-pressure carbon monoxide method)で合成したSWCNT粉体(NanoIntegris Inc.、HiPco(Raw Powder)、Batch#HR31-96A、チューブ直径0.8nm-1.2nm)約5mgを、有機分散媒のp-キシレン中で混合し、超音波分散処理によって実施例1の混合液を調製した。
【0034】
この超音波分散処理では、約10時間のバス型超音波洗浄器(As-one製ULTRASONIC CLEANER、USK-1R、40kHz、55W)による超音波照射と、10分間のチップ型超音波撹拌・破砕機(QSONICA製超音波ホモジナイザー、Q700、20kHz、700W)による超音波照射を行った。遠心力15,000×g(日立工機株式会社製超遠心機、CS120FNX)で実施例1の混合液を1時間遠心分離処理して上澄み液を得た。この上澄み液の約8割を採取して、カーボンナノチューブ複合体作製用の実施例1の半導体SWCNT分散液とした。実施例1の半導体SWCNT分散液は、チューブ直径0.757nm-1.17nmの半導体SWCNTを含有する。
【0035】
図1に示すようなナノ粒子複合体の製造装置、具体的には、らせん気流を利用するエバポレーター(株式会社バイオクロマト、コンビニ・エバポC1、フローメーターCEFM)を用いて、以下の手順で実施例1の半導体SWCNT複合体を作製した。このエバポレーターには、気流調整部材として、らせん気流を発生させるためのプラグ(株式会社バイオクロマト、Spiral Plug、SP-P4、対応容器口内径15mm-24mm)が装着されている。なお、気流カバーは設置していない。
【0036】
大きさ12.5mm×45.0mmの分光光度計用石英基板上に、内径6.5mmのフッ素ゴム製Oリングを介して、内径7mmのPFA(パーフルオロアルコシキアルカン)製チューブである型を設置した。この型の開口より少しだけ小さい円形の開口を中央に、2つのねじ穴を端部にそれぞれ備えるPVDF(ポリビニリデンフルオライド)製平板と、2つのねじ穴を端部に備えるPVDF製平板の2枚の平板を用いて、この型の上面の縁部と基板の下面を上下方向から挟んで、これらをボルトとナットでねじ止め固定して被処理体を得た。
【0037】
容量125mLの三角フラスコ内に載置台を設置し、この載置台上にこの被処理体を設置し、型の内側に実施例1の半導体SWCNT分散液279μLを注入した。図2は、この三角フラスコの中央の断面を模式的に示している。この三角フラスコを基台12に設置した。このとき、三角フラスコの開口の内壁は、らせん溝16cgの部位を除いて、気流形成部16cの外壁に接していた。すなわち、気流カバー18は設置されていないが、三角フラスコの壁面が、気流カバー18の壁部18aおよび円筒部18bとして機能している。らせん気流の流量を15L/minに調整し、三角フラスコ内の実施例1の半導体SWCNT分散液を約7時間乾燥させて、分光光度計用石英基板上に実施例1の半導体SWCNT複合体を得た。
【0038】
分光光度計(HITACHI、U-4100(特に断らない限り以下同じ))を用いて、実施例1の半導体SWCNT分散液および半導体SWCNT複合体の光吸収スペクトルを得た。図3は、実施例1の半導体SWCNT分散液(点線)と半導体SWCNT複合体(実線)のそれぞれの光吸収スペクトルである。図4は、下部横軸を光子エネルギーとした実施例1の半導体SWCNT複合体の光吸収スペクトルである。図3に示すように、実施例1の半導体SWCNT複合体の光吸収スペクトルのスペクトル形状は、その原料である実施例1の半導体SWCNT分散液の光吸収スペクトルのスペクトル形状と同様であり、波長900nm以上の近赤外波長領域に鋭い光吸収ピークを示した。
【0039】
また、図4に示すように、実施例1の半導体SWCNT複合体の波長1137nm(光子エネルギー1.0904eV)での近赤外光吸収ピークにおける半値全幅LWInt50%は約34meVであった。なお、LWInt50%は、基線からのピーク吸光度が1/2となるときの吸光度における光吸収スペクトルの線幅である。実施例1では、半値全幅45meV以下という光吸収スペクトル線幅が極めて狭い半導体SWCNT複合体が得られた。
【0040】
比較例1:ドロップキャスト法による成膜
実施例1で用いた分光光度計用石英基板上に、実施例1の半導体SWCNT分散液279μLを滴下し、1日半かけた自然乾燥によって比較例1の半導体SWCNT複合体を作製した(ドロップキャスト法)。すなわち、比較例1では、半導体SWCNT分散液の表面にらせん気流を付与しない乾燥過程を経て、半導体SWCNT複合体を得た。実施例1と同様にして、比較例1の半導体SWCNT複合体の光吸収スペクトルを得た。
【0041】
図5は、実施例1の半導体SWCNT複合体(実線、図中「本発明の手法」)と比較例1の半導体SWCNT複合体(点線、図中「ドロップキャスト法」)のそれぞれの光吸収スペクトルである。図5に示すように、らせん気流を付与する成膜方法は、ドロップキャスト法による成膜方法と比べて、遥かに鋭い光吸収ピークを有する半導体SWCNT複合体が得られることがわかった。比較例1の成膜方法では、乾燥過程で半導体SWCNTが凝集して、得られた半導体SWCNT複合体の光吸収ピークのスペクトル形状が平坦化すると考えられる。
【0042】
比較例2:分散剤が界面活性剤
重水中で、分散剤である界面活性剤ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(sodium dodecylbenzenesulfonate)約111mgと、HiPco法で合成したSWCNT粉体(NanoIntegris Inc.、HiPco(Raw Powder)、Batch#H11-05R、チューブ直径0.8nm-1.3nm)約1mgを混合し、実施例1と同様の超音波分散処理をした後、実施例1と同じ超遠心機を用いて、遠心力147,000×gでこの混合液を1時間遠心分離処理して上澄み液を得た。この上澄み液の約8割を採取して、カーボンナノチューブ複合体作製用の比較例2のSWCNT分散液とした。なお、分散剤が界面活性剤であるため、比較例2のSWCNT分散液は、半導体SWCNTだけでなく、金属的SWCNTも含有している。
【0043】
SWCNT分散液358μLを用いた点と、らせん気流の流量を25L/minに調整した点を除いて、実施例1と同様にして、分光光度計用石英基板上に比較例2のSWCNT複合体を作製した。実施例1と同様にして、比較例2のSWCNT分散液およびSWCNT複合体の光吸収スペクトルを得た。図6は、比較例2のSWCNT分散液(点線)とSWCNT複合体(実線)のそれぞれの光吸収スペクトルである。
【0044】
図3および図6に示すように、比較例2のSWCNT分散液の光吸収ピークは、実施例1の半導体SWCNT分散液の光吸収ピークと比べて鋭くなかった。実施例1の半導体SWCNT分散液は、SWCNTのチューブ構造を識別できる疎水性分散剤を含有している。このため、実施例1の半導体SWCNT分散液では、半導体SWCNTが比較的孤立状態で分散しており、実施例1の半導体SWCNT分散液の光吸収ピークが比較的鋭かったと考えられる。これに対して、比較例2のSWCNT分散液は、凝集状態のSWCNTも分散できる界面活性剤を分散剤として含有している。このため、比較例2のSWCNT分散液は、凝集状態のSWCNTを比較的多く含み、比較例2のSWCNT分散液の光吸収ピークが比較的鋭くなかったと考えられる。
【0045】
また、図6に示すように、比較例2のSWCNT複合体の光吸収ピークのスペクトル形状はブロードだった。凝集状態のSWCNTを比較的多く含む比較例2のSWCNT分散液を原料としたことと、比較例2のSWCNT分散液の表面にらせん気流を付与しながら水を蒸発させても、SWCNTの凝集状態が解消されないだけでなく、SWCNTがさらに凝集されながらSWCNT複合体となるからだと考えられる。
【0046】
実施例2:プラズマトーチ法で合成したCNT
HiPco法で合成したSWCNT粉体に代えて、プラズマトーチ法で合成したSWCNT粉体(Raymor Industries Inc.、PlasmaTube Single-Wall Carbon Nanotube(RN-220)、チューブ直径0.9nm-1.5nm)を用いた点、混合液の遠心分離時間を2時間に変更した点、および半導体SWCNT分散液の乾燥時間を約8.5時間に変更した点を除いて、実施例1と同様にして、チューブ直径1.03nm-1.52nmの半導体SWCNTを含有する実施例2の半導体SWCNT分散液と半導体SWCNT複合体を得た。なお、実施例2の半導体SWCNT分散液は、チューブ直径が大きく、チューブ構造が異なる多種類の半導体SWCNTを含有している。
【0047】
実施例1と同様にして、実施例2の半導体SWCNT分散液および半導体SWCNT複合体の光吸収スペクトルを得た。図7は、実施例2の半導体SWCNT分散液(点線)と半導体SWCNT複合体(実線)のそれぞれの光吸収スペクトルである。図8は、下部横軸を光子エネルギーとした実施例2の半導体SWCNT複合体の光吸収スペクトルである。図7に示すように、実施例2の半導体SWCNT複合体の光吸収スペクトルのスペクトル形状は、その原料である実施例2の半導体SWCNT分散液の光吸収スペクトルのスペクトル形状と同様であり、波長900nm以上の近赤外波長領域に鋭い光吸収ピークを示した。
【0048】
実施例1の半導体SWCNT分散液に含有される半導体SWCNTのチューブ直径(0.757nm-1.17nm)より大きなチューブ直径(1.03nm-1.52nm)の半導体SWCNTを含有する実施例2の半導体SWCNT分散液を用いて作製した実施例2の半導体SWCNT複合体の光吸収スペクトルのスペクトル形状は、成膜前の実施例2の半導体SWCNT分散液の光吸収スペクトルのスペクトル形状に近かった。
【0049】
また、図8に示すように、実施例2の半導体SWCNT複合体の波長1590nm(光子エネルギー0.7797eV)での近赤外光吸収ピークにおける光吸収スペクトル線幅LWInt80%は約22meVであった。なお、LWInt80%は、基線からのピーク吸光度が4/5となるときの吸光度における光吸収スペクトルの線幅である。さらに、図8より、実施例2の半導体SWCNT複合体の波長1664nm(光子エネルギー0.7450eV)での近赤外光吸収ピークにおける光吸収スペクトル線幅LWInt80%は約26meVであった。
【0050】
なお、チューブ直径1.2nmを超える半導体SWCNTを含有する半導体SWCNT複合体の波長1450nm以上の近赤外光吸収ピークの光吸収スペクトル線幅を評価する場合、波長領域1200nm-2000nmにおける半導体SWCNT複合体のスペクトル強度(実施例2では吸光度)の最小値を基線とした。チューブ直径が大きく、チューブ構造が異なる多種類の半導体SWCNTを含有している実施例2の半導体SWCNT分散液を用いても、光吸収スペクトル線幅が極めて狭い実施例2の半導体SWCNT複合体が得られた。
【0051】
実施例3:CoMoCAT法で合成したCNT
HiPco法で合成したSWCNT粉体に代えて、CoMoCAT(Co-Mo catalyst)法で合成して、IPA(2-プロパノール)で洗浄し、乾燥させたSWCNT粉体(Chasm Advanced Materials、CG100、チューブ直径0.7nm-1.1nm)約7mgを用いた点を除いて、実施例1と同様にして混合液を得た。この混合液の分散媒をp-キシレンからo-キシレンに置換した後、実施例1と同じバス型超音波洗浄器を用いて、SWCNTとPFDを分散媒に約3時間分散させて、実施例3の混合液を得た。
【0052】
その後は実施例1と同様にして、実施例3の混合液から、カーボンナノチューブ複合体作製用の実施例3の半導体SWCNT分散液を得た。実施例3の半導体SWCNT分散液は、チューブ直径0.692nm-1.03nmの半導体SWCNTを含有する。半導体SWCNT分散液の乾燥時間を約6.5時間に変更した点を除いて、実施例1と同様にして、実施例3の半導体SWCNT分散液から実施例3の半導体SWCNT複合体を得た。実施例1と同様にして、実施例3の半導体SWCNT分散液および半導体SWCNT複合体の光吸収スペクトルを得た。
【0053】
図9は、実施例3の半導体SWCNT分散液(点線)と半導体SWCNT複合体(実線)のそれぞれの光吸収スペクトルである。図10は、下部横軸を光子エネルギーとした実施例3の半導体SWCNT複合体の光吸収スペクトルである。図9に示すように、実施例3の半導体SWCNT複合体の光吸収スペクトルのスペクトル形状は、その原料である実施例3の半導体SWCNT分散液の光吸収スペクトルのスペクトル形状と類似していた。また、図10に示すように、実施例3の半導体SWCNT複合体の波長1138nm(光子エネルギー1.0894eV)での近赤外光吸収ピークにおける半値全幅LWInt50%は約39meVであった。実施例3でも、半値全幅45meV以下という光吸収スペクトル線幅が極めて狭い半導体SWCNT複合体が得られた。
【0054】
実施例4:分散剤がF8BT
F8BTは、チューブ直径1.28nm-1.53nmの半導体SWCNTを識別できる疎水性分散剤である。分散剤としてF8BT(Sigma-aldrich社、分子量8,224)を用いた点と、CNTとしてSWCNT粉体(Raymor Industries Inc.、PlasmaTube Single-Wall Carbon Nanotube(SPT-220)、チューブ直径0.9nm-1.5nm)を用いた点と、分散媒としてトルエンを用いた点を除いて、実施例1と同様にして実施例4の混合液を得た。
【0055】
実施例1と同じ超遠心機を用いて、遠心力15,000×gで実施例4の混合液を2時間遠心分離処理して上澄み液を得た。この上澄み液の約8割を採取して、カーボンナノチューブ複合体作製用の実施例4の半導体SWCNT分散液とした。実施例4の半導体SWCNT分散液は、チューブ構造指数(13,5)、(12,7)、(15,4)、(14,6)、(11,10)、(13,9)、および(15,5)の各種半導体SWCNTを含有する。
【0056】
実施例4の半導体SWCNT分散液179μLを用いた点と、半導体SWCNT分散液の乾燥時間を6時間に変更した点を除いて、実施例1と同様にして、実施例4の半導体SWCNT分散液から実施例4の半導体SWCNT複合体を得た。実施例1と同様にして、実施例4の半導体SWCNT分散液および半導体SWCNT複合体の光吸収スペクトルを得た。図11は、実施例4の半導体SWCNT分散液(点線)と半導体SWCNT複合体(実線)のそれぞれの光吸収スペクトルである。図12は、下部横軸を光子エネルギーとした実施例4の半導体SWCNT複合体の光吸収スペクトルである。
【0057】
図11に示すように、実施例4の半導体SWCNT複合体の波長1450nm以上の近赤外光吸収ピークのスペクトル形状は、その原料である実施例4の半導体SWCNT分散液の波長1450nm以上の近赤外光吸収ピークのスペクトル形状に近かった。また、図12に示すように、実施例4の半導体SWCNT複合体の波長1738nm(光子エネルギー0.7133eV)の近赤外光吸収ピークにおける光吸収スペクトル線幅LWInt80%は約23meVであった。実施例4でも、光吸収スペクトル線幅が狭い半導体SWCNT複合体が得られた。
【0058】
実施例5:分散剤がPFO
オクチルアルキル側鎖を有するフルオレンホモポリマーは、チューブ直径1.2nm未満のSWCNTのうち、特定のチューブ構造の半導体SWCNTを識別できる疎水性分散剤である。すなわち、このオクチルアルキル側鎖を有するフルオレンホモポリマーは、半導体CNTと金属的CNTの混在物から、カイラル角が30°に近いチューブ構造を有する半導体SWCNT、つまりチューブ構造指数が(6,5)、(7,5)、(7,6)、(8,6)、(8,7)、および(9,7)などである半導体SWCNTを選択的に分散媒中に分散できる。
【0059】
PFO(Sigma-aldrich社、分子量7,471)約14mgと、CoMoCAT法で合成して、2-プロパノールで洗浄し、乾燥させたSWCNT粉体(Chasm Advanced Materials、SG65i、平均チューブ直径0.78nm)約14mgを、o-キシレン中で混合し、実施例1と同様の超音波分散処理をして、実施例5の混合液を調製した。
【0060】
実施例1と同様にして、実施例5の混合液から、カーボンナノチューブ複合体作製用の実施例5の半導体SWCNT分散液を得た。半導体SWCNT分散液の乾燥時間を約7.5時間に変更した点を除いて、実施例1と同様にして、実施例5の半導体SWCNT分散液から実施例5の半導体SWCNT複合体を得た。近赤外フォトルミネッセンス測定装置(SHIMADZU製、NIR-PL system)を用い、2次元発光(PL)スペクトルを測定した。なお、励起側および検出側のスリット幅を10nmとし、励起波長と検出波長をそれぞれ5nmと1nmの間隔で走査した。
【0061】
図13は、実施例5の半導体SWCNT分散液の2次元PLマップである。図13の縦軸は励起波長で、横軸は発光波長(検出波長)である。図13に示すように、チューブ構造指数(6,5)、(7,5)、および(7,6)の半導体SWCNTの第2特異点間(第2バンド間)での光励起による発光が、検出波長995nm、1050nm、および1130nm付近でPLピークとしてそれぞれ観測された。特に、波長655nm付近での第2特異点間の光励起によって、チューブ構造指数(7,5)の半導体SWCNTが顕著に発光していることがわかる。
【0062】
なお、このチューブ構造指数(7,5)の半導体SWCNTの発光に関して、強く束縛された励起子における第1特異点間でのPLピークだけでなく、検出波長1150nm以上の長波長側において、波長1170nm付近にダーク励起子のフォノンサイドバンドに起因した発光と、波長1220nm付近および1265nm付近にフォノンモード(D-modeとG-mode)とのカップリングに起因した発光などの低エネルギー側の発光も現れている。
【0063】
SWCNTは、そのチューブ構造によって光吸収波長および発光波長が異なる。SWCNTでは、そのチューブ構造であるチューブ直径とカイラル角は、カイラル指数と呼ばれるチューブ構造指数(n,m)を用いて表される。そして、分散液に含有されているSWCNTのチューブ直径(dt)は、一般に、チューブ構造指数(n,m)を用いて、下記式で表される。図13に記載された半導体SWCNTのチューブ直径も、チューブ構造指数を用いて下記式によって算出した。なお、炭素原子間距離は0.144nmとした。
【0064】
【数1】
【0065】
図14は、実施例5の半導体SWCNT分散液(点線)と半導体SWCNT複合体(実線)のそれぞれの光吸収スペクトルである。図15は、下部横軸を光子エネルギーとした実施例5の半導体SWCNT複合体の光吸収スペクトルである。図14に示すように、実施例5の半導体SWCNT複合体の光吸収スペクトルのスペクトル形状は、その原料である実施例5の半導体SWCNT分散液の光吸収スペクトルのスペクトル形状に近かった。
【0066】
また、図15に示すように、実施例5の半導体SWCNT複合体に含まれるチューブ構造指数(7,5)の半導体SWCNTによる波長1044nm(光子エネルギー1.1875eV)の近赤外光吸収ピークにおける半値全幅LWInt50%は、約42meVであった。実施例5でも、半値全幅45meV以下という光吸収スペクトル線幅が極めて狭い半導体SWCNT複合体が得られた。
【0067】
実施例6:分散剤がrr-P3DDT
チオフェン系ポリマーの一種であるrr-P3DDTは、半導体CNTと金属的CNTの混在物から、様々なチューブ構造指数(n,m)を備える半導体SWCNTを選択的に分散媒中に分散できる。rr-P3DDT(Sigma-aldrich社、poly(3-dodecylthiophene-2,5-diyl)、分子量27,000)約10mgと、実施例2と同じSWCNT粉体(RN-220)約15mgを、有機分散媒のp-キシレン中で混合した。その後は実施例2と同様にして実施例6の半導体SWCNT分散液を得た。
【0068】
実施例6の半導体SWCNT分散液179μLを用いた点、半導体SWCNT分散液の乾燥時間を約9時間に変更した点、およびらせん気流の流量を18L/minに調整した点を除いて、実施例2と同様にして、実施例6の半導体SWCNT分散液から、チューブ直径1.0nm-1.5nmの大きな半導体SWCNTを含有する実施例6の半導体SWCNT複合体を得た。分光光度計を用いて、実施例6の半導体SWCNT分散液および半導体SWCNT複合体の光吸収スペクトルを得た。
【0069】
図16は、実施例6の半導体SWCNT分散液(点線)と半導体SWCNT複合体(実線)のそれぞれの光吸収スペクトルである。図17は、下部横軸を光子エネルギーとした実施例6の半導体SWCNT複合体の光吸収スペクトルである。図16に示すように、チオフェン系ポリマーであるrr-P3DDTを分散剤として用いた場合でも、一般的に凝集しやすい直径の大きなCNTを含有する実施例6の半導体SWCNT分散液と半導体SWCNT複合体の光吸収スペクトルは、波長900nm以上の近赤外波長領域で鋭い光吸収ピークを示した。
【0070】
また、図17に示すように、実施例6の半導体SWCNT複合体の波長1602nm(光子エネルギー0.7739eV)での近赤外光吸収ピークにおける光吸収スペクトル線幅LWInt80%は約23meVであった。さらに、波長1695nm(光子エネルギー0.7315eV)での近赤外光吸収ピークにおける光吸収スペクトル線幅LWInt80%は約25meVであった。このように、rr-P3DDTを分散剤として用いた場合でも、25meV以下の極めて狭い光吸収スペクトル線幅の近赤外光吸収ピークを有する半導体SWCNT複合体が得られた。なお、図17に示すように、波長領域1200nm-2000nmにおける半導体SWCNT複合体の吸光度の最小値を基線とした。
【0071】
実施例7:分散剤がPFO-BPy
フルオレン系ポリマーの一種であるPFO-BPyは、半導体CNTと金属的CNTの混在物から、チューブ構造指数(6,5)および(7,5)を備える半導体SWCNTを選択的に分散媒中に分散できる。PFO-BPy(Sigma-aldrich社、poly[(9,9-dioctylfluorenyl-2,7-diyl)-alt-(6,6’-{2,2’-bipyridine})]、分子量27,119)約14mgと、実施例5と同じSWCNT粉体(SG65i)約6mgを、有機分散媒のo-キシレン中で混合した。その後は実施例5と同様にして実施例7の半導体SWCNT分散液を得た。
【0072】
実施例7の半導体SWCNT分散液179μLを用いた点、半導体SWCNT分散液の乾燥時間を約3.5時間に変更した点、およびらせん気流の流量を17L/minに調整した点を除いて、実施例5と同様にして、実施例7の半導体SWCNT分散液から、チューブ構造指数(6,5)を備えるチューブ直径0.757nmの半導体SWCNTを含有する実施例7の半導体SWCNT複合体を得た。分光光度計を用いて、実施例7の半導体SWCNT分散液および半導体SWCNT複合体の光吸収スペクトルを得た。
【0073】
図18は、実施例7の半導体SWCNT分散液(点線)と半導体SWCNT複合体(実線)のそれぞれの光吸収スペクトルである。図19は、下部横軸を光子エネルギーとした実施例7の半導体SWCNT複合体の光吸収スペクトルである。図18に示すように、実施例7の半導体SWCNT分散液と半導体SWCNT複合体の光吸収スペクトルは、波長900nm以上の近赤外波長領域で鋭い光吸収ピークを示した。
【0074】
また、図19に示すように、実施例7の半導体SWCNT複合体に含まれるチューブ構造指数(6,5)の半導体SWCNTによる波長1007nm(光子エネルギー1.2312eV)の近赤外光吸収ピークにおける半値全幅LWInt50%は、約44meVであった。このように、PFO-BPyを分散剤として用いても、半値全幅45meV以下という極めて狭い光吸収スペクトル線幅の半導体SWCNT複合体が得られた。
【0075】
実施例8:気流カバーを用いたらせん気流の付与
実施例1で使用したらせん気流を発生させるプラグ付きのエバポレーターに、らせん気流を発生させるプラグ(株式会社バイオクロマト、Spiral Plug、SP-P2、対応容器口内径7mm-11mm)を装着した。中空円錐台部と円筒部を備えるポリプロピレン製の漏斗(サナダ精工株式会社製、D5936(中))の円筒部の先端を切り落として、気流カバーを作製した。この気流カバーを用いた装置を用いて、以下の手順でらせん気流の発生を確認した。
【0076】
ステンレス板の上面にフロロエラストマーシート(バイトン製)を貼り付けて基体を作製した。一方、円筒カップ形状を備えるポリプロピレン製の透明容器(壁面高さ27mm、底面内径18mm)に、エタノール約2mLと、CoMoCAT法で合成したSWCNT粉体(Chasm Advanced Materials、CG100)約0.1mgを入れた。この基体上にこの透明容器を設置した。さらに、この透明容器を囲むように、この基体上にこの気流カバーを設置した。このとき、気流カバーの最上端の内壁は、らせん溝の部位を除いて、気流形成部の高さ方向の中ほどの位置で気流形成部の外壁に接していた。
【0077】
らせん気流の流量を10L/min-18L/minに調整した後、透明容器の内部を観察した。より具体的には、エタノールに浮遊している少量のSWCNT粉体の動きを確認した。その結果、エタノールに浮遊しているSWCNT粉体が回転していた。すなわち、気流カバーを用いることによって、濃縮装置で発生したらせん気流が、透明容器内のエタノールに到達していることがわかった。なお、基体上に気流カバーを設置しないときには、エタノールに浮遊しているSWCNT粉体が回転しなかった。
【符号の説明】
【0078】
10 ナノ粒子複合体の製造装置
12 基台
14 吸引部材
14a 吸引口
16 気流調整部材
16a 第一基部
16b 第二基部
16c 気流形成部
16cg らせん溝
16d バネ
18 気流カバー
18a 壁部
18as 内径が小さい開口
18b 円筒部
H 筐体
Ha 通気口
D 分散液
C 容器
SF らせん気流
LF 直線気流
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