(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024097464
(43)【公開日】2024-07-19
(54)【発明の名称】(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物の精製方法、及び(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物
(51)【国際特許分類】
C07F 7/08 20060101AFI20240711BHJP
C08C 19/28 20060101ALI20240711BHJP
【FI】
C07F7/08 X
C08C19/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023000925
(22)【出願日】2023-01-06
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118599
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100160738
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 由加里
(74)【代理人】
【識別番号】100114591
【弁理士】
【氏名又は名称】河村 英文
(72)【発明者】
【氏名】伊能 博臣
【テーマコード(参考)】
4H049
4J100
【Fターム(参考)】
4H049VN01
4H049VP05
4H049VQ30
4H049VR22
4H049VR23
4H049VR41
4H049VR42
4H049VW08
4J100AL08P
4J100BA81H
4J100BA81P
4J100HA62
4J100HC91
4J100HE05
4J100HE14
4J100HE32
4J100HE41
4J100HG31
4J100JA15
(57)【要約】
【課題】
本発明は、(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物を含む粗生成物をN-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミンアルミニウムの存在下で薄膜蒸留する工程を含む(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物の精製方法において、薄膜蒸留の際に留分に混入したN-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミンアルミニウムの量を低減する(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物の精製方法を提供することを目的とする。
【解決手段】
(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物の精製方法であって、
該方法は、前記(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物を含む粗生成物をN-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミンアルミニウム存在下で薄膜蒸留する工程1、
前記薄膜蒸留により得た(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物を含む留分と吸着剤とを混合する工程2、及び、
前記混合物より前記吸着剤をろ過することにより(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物を得る工程3を含むことを特徴とする、前記方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物の精製方法であって、
該方法は、前記(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物を含む粗生成物をN-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミンアルミニウム存在下で薄膜蒸留する工程1、
前記薄膜蒸留により得た(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物を含む留分と吸着剤とを混合する工程2、及び、
前記混合物より前記吸着剤をろ過することにより(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物を得る工程3を含むことを特徴とする、前記精製方法。
【請求項2】
前記吸着剤の量が、前記工程2に付する(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物の100質量部に対して0.1質量部以上20質量部以下となる量である、請求項1記載の精製方法。
【請求項3】
前記吸着剤が、ハイドロタルサイトまたは活性炭である、請求項1又は2記載の精製方法。
【請求項4】
前記N-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミンアルミニウムの量が、上記工程1に付する(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物100質量部に対して0.001~0.5質量部となる量である、請求項1又は2記載の精製方法。
【請求項5】
前記工程3により得た(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物中のアルミニウム量が1ppm未満である、請求項1又は2記載の精製方法。
【請求項6】
前記(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物が、(メタ)アクリル基含有有機基を1分子中に少なくとも1つ有する直鎖又は分岐状のオルガノポリシロキサンである、請求項1又は2記載の精製方法。
【請求項7】
前記(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物が、重量平均分子量400~5,000を有する、請求項6記載の精製方法。
【請求項8】
前記(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物が下記式(1)で表される、請求項6記載の精製方法
【化1】
式中、R
1は互いに独立して炭素数1~8の1価炭化水素基であり、nは0≦n≦50を満たす数であり、R
2は互いに独立して前記R
1で定義される基または下記式(2)で表される基であり、ただし前記R
2の少なくとも1つは下記式(2)で表される基である
【化2】
(式中、R
3は炭素数1~8の2価炭化水素基であり、R
4は水素原子またはメチル基であり、x、y、zは0~30の数であり、かつ0≦(x+y+z)≦30を満たす数である)。
【請求項9】
上記式(2)において、x、y、zは0~30の数であり、かつ1≦(x+y+z)≦30を満たす数である、請求項8記載の精製方法。
【請求項10】
N-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミンアルミニウム存在下での薄膜蒸留精製物である(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物であって、前記N-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミンアルミニウム由来のアルミニウム含有量が1ppm未満である、前記(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物。
【請求項11】
前記(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物が、(メタ)アクリル基含有有機基を1分子中に少なくとも1つ有する直鎖又は分岐状のオルガノポリシロキサンである、請求項10記載の(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物。
【請求項12】
重量平均分子量400~5,000を有する、請求項11記載の(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物。
【請求項13】
下記式(1)で表される、請求項12記載の(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物
【化3】
式中、R
1は互いに独立して炭素数1~8の1価炭化水素基であり、nは0≦n≦50を満たす数であり、R
2は互いに独立して前記R
1で定義される基または下記式(2)で表される基であり、ただし前記R
2の少なくとも1つは下記式(2)で表される基である
【化4】
(式中、R
3は炭素数1~8の2価炭化水素基であり、R
4は水素原子またはメチル基であり、x、y、zは0~30の数であり、かつ0≦(x+y+z)≦30を満たす数である)。
【請求項14】
上記式(2)において、x、y、zは0~30の数であり、かつ1≦(x+y+z)≦30を満たす数である、請求項13記載の(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物の精製方法、及び(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
(メタ)アクリル化合物は製造中の熱で自己重合し、反応装置や蒸留釜内でゲル化したり、あるいは蒸留装置における配管内でゲル化して詰まらせたりして、製造プロセスに多大な損害を及ぼす。
【0003】
自己重合の防止技術としては、例えばp-ハイドロキノンや4-メトキシフェノールといったフェノール系の重合禁止剤やp-ベンゾキノンや2,5-ジ-tert-ブチルベンゾキノンといったキノン系の重合禁止剤や立体障害置換基を有するヒンダードフェノール系の重合禁止剤である、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノールや2,2’-メチレン-ビス(6-tert-ブチル-4-エチルフェノール)などを用いることが知られている。
【0004】
しかし、これらいずれも蒸留過程で長時間高温下の状態となる蒸留釜内の重合反応を十分には防止し得ないため、工業的規模の製造においてはほとんど使用に耐えない場合がある。さらに、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノールは蒸留過程で徐々に目的の化合物と一緒に留出されるため、蒸気状態の重合反応を防止するには比較的有効ではあるものの、蒸留過程の後半部における高温下の状態の蒸留釜内の重合反応を防止することは必然的に不可能であった。
【0005】
そこで、蒸留の際に2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノールを添加する方法(特許文献1)やN-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミンアルミニウムを添加する方法(特許文献2)が知られている。また、薄膜蒸留の際にN-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミンアルミニウムを添加する方法(特許文献3)も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7-25907号公報
【特許文献2】特開2000-327617号公報
【特許文献3】特開2006-335715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上述した薄膜蒸留では、N-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミンアルミニウムが留分側に混入することがある。精製後の(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物がアルミニウムを含むことで、(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物の重合時に反応性を低下させる問題や、重合反応後の生成物中に残存して問題を起こすおそれがある。そのため、薄膜蒸留後の留分に含まれるN-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミンアルミニウムを低減または除去する方法が必要であった。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物を含む粗生成物をN-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミンアルミニウムの存在下で薄膜蒸留する工程を含む(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物の精製方法において、薄膜蒸留の際に留分に混入したN-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミンアルミニウムの量を低減する(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物の精製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は、(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物の精製方法であって、
該方法は、前記(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物を含む粗生成物をN-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミンアルミニウム存在下で薄膜蒸留する工程1、
前記薄膜蒸留により得た(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物を含む留分と吸着剤とを混合する工程2、及び、
前記混合物より前記吸着剤をろ過することにより(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物を得る工程3を含むことを特徴とする、前記精製方法を提供する。
【0010】
さらに本発明は、下記[1]~[8]から選ばれる少なくとも1つの構成要件を有する精製方法を提供する。
[1]前記吸着剤の量が、前記工程2に付する(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物の100質量部に対して0.1質量部以上20質量部以下となる量である、前記精製方法。
[2]前記吸着剤が、ハイドロタルサイトまたは活性炭である、前記精製方法。
[3]前記N-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミンアルミニウムの量が、上記工程1に付する(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物100質量部に対して0.001~0.5質量部となる量である、前記精製方法。
[4]前記工程3により得た(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物中のアルミニウム量が1ppm未満である、前記精製方法。
[5]前記(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物が、(メタ)アクリル基含有有機基を1分子中に少なくとも1つ有する直鎖又は分岐状のオルガノポリシロキサンである、前記精製方法。
[6]前記(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物が、重量平均分子量400~5,000を有する、前記精製方法。
[7]前記(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物が下記式(1)で表される、前記精製方法。
【化1】
式中、R
1は互いに独立して炭素数1~8の1価炭化水素基であり、nは0≦n≦50を満たす数であり、R
2は互いに独立して前記R
1で定義される基または下記式(2)で表される基であり、ただし前記R
2の少なくとも1つは下記式(2)で表される基である
【化2】
(式中、R
3は炭素数1~8の2価炭化水素基であり、R
4は水素原子またはメチル基であり、x、y、zは0~30の数であり、かつ0≦(x+y+z)≦30を満たす数である)。
[8]前記(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物が、上記式(2)において、x、y、zは0~30の数であり、かつ1≦(x+y+z)≦30を満たす数である、前記精製方法。
【0011】
さらに本発明は、N-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミンアルミニウム存在下での薄膜蒸留精製物である(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物であって、前記N-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミンアルミニウム由来のアルミニウム含有量が1ppm未満である、前記(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物を提供する。
該(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物は、好ましくは下記[9]~[12]から選ばれる少なくとも1つの構成要件を有する。
[9]前記(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物が、(メタ)アクリル基含有有機基を1分子中に少なくとも1つ有する直鎖又は分岐状のオルガノポリシロキサンである、前記(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物。
[10]重量平均分子量400~5,000を有する、前記(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物。
[11]下記式(1)で表される、前記(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物
【化3】
式中、R
1は互いに独立して炭素数1~8の1価炭化水素基であり、nは0≦n≦50を満たす数であり、R
2は互いに独立して前記R
1で定義される基または下記式(2)で表される基であり、ただし前記R
2の少なくとも1つは下記式(2)で表される基である
【化4】
(式中、R
3は炭素数1~8の2価炭化水素基であり、R
4は水素原子またはメチル基であり、x、y、zは0~30の数であり、かつ0≦(x+y+z)≦30を満たす数である)。
[12]上記式(2)において、x、y、zは0~30の数であり、かつ1≦(x+y+z)≦30を満たす数である、前記(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物。
【発明の効果】
【0012】
本発明の方法によれば(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物を薄膜蒸留する際に生成物のゲル化を抑制することができ、さらに、該薄膜蒸留後の留分側に混入するN-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミンアルミニウムの量を低減した(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明において(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物の精製方法は、
1)(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物を含む粗生成物をN-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミンアルミニウム存在下で薄膜蒸留する工程1、
2)前記薄膜蒸留により得た(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物を含む留分と吸着剤とを混合する工程2、及び、
3)該混合物より吸着剤をろ過することにより(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物を得る工程3を含むことを特徴とする。
【0014】
上記薄膜蒸留工程で添加するN-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミンアルミニウムの量は、薄膜蒸留に付する粗生成物中に含まれる(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物100質量部に対して0.001~0.5質量部となる範囲にある量であり、好ましくは0.001~0.1質量部であり、より好ましくは0.001~0.02質量部となる範囲にある量である。
【0015】
本発明の方法で精製する(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物の構造は特に制限されず、従来公知の(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物であればよい。例えば、(メタ)アクリル基含有有機基を1分子中に少なくとも1つ有する直鎖又は分岐状のオルガノポリシロキサン、より好ましくは、(メタ)アクリル基含有有機基を片末端に1つ又は両末端に一つずつ有する、直鎖又は分岐状のオルガノポリシロキサンが挙げられる。(メタ)アクリル基含有有機基とは、(メタ)アクリル基を末端に有する有機基である。該有機基としては、水酸基又はエーテル結合を有してよい、炭素数2~40の2価炭化水素基が挙げられる。好ましくは、炭素数1~10のアルキレン基、炭素数2~40のオキシアルキレン基等が挙げられる。
【0016】
(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物の重量平均分子量は、400~5,000の範囲が好ましく、500~2,000の範囲がより好ましい。なお、この分子量とはポリスチレンを基準物質としたGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により測定した重量平均分子量を指すものとする。
【0017】
例えば、下記式(1)で表される(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物が挙げられる。
【化5】
式(1)中、R
1は互いに独立して炭素数1~8の1価炭化水素基であり、nは0≦n≦50を満たす数であり、R
2は互いに独立して上記R
1で定義される基または下記式(2)で表される基であり、ただし上記R
2の少なくとも1つは下記式(2)で表される基である。
【化6】
式(2)中、R
3は炭素数1~8の2価炭化水素基であり、R
4は水素原子またはメチル基であり、x、y、zは0~30の数であり、かつ0≦(x+y+z)≦30を満たす数である。
【0018】
上記R1としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、フェニル基、トリル基等のアリール基、ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基が例示される。好ましくは炭素数1~4のアルキル基、又はフェニル基であり、より好ましくはメチル基である。
【0019】
上記R2としては、上記R1で定義される基、又は、上記式(2)で表される基から選ばれる基である。ただし、上記R2のうち少なくとも1つ、好ましくはいずれか一方が上記式(2)で表される基である。
【0020】
上記R3は、互いに独立して炭素数1~8の2価炭化水素基である。R3は特に限定されないが、-(CH2)-、-(CH2)2-、-(CH2)3-、-(CH2)4-、-CH2CH(CH3)CH2-、及び-(CH2)8-が例示され、好ましくは-(CH2)2-、-(CH2)3-、及び-(CH2)4-である。
【0021】
上記R4は水素原子またはメチル基であり、好ましくはメチル基である。x、y、zはそれぞれ0~30の整数、好ましくは1~20の整数、より好ましくは1~10の整数である。かつ、0≦(x+y+z)≦30を満たす整数であり、好ましくは1≦(x+y+z)≦30を満たす整数である。好ましくは0又は1≦(x+y+z)≦20を満たす整数、より好ましくは1≦(x+y+z)≦10を満たす整数である。
【0022】
本発明において上記(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物の合成方法は特に制限されず、従来公知の方法に従えばよい。例えば、(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物は、ハイドロジェンポリシロキサンとメタクリル酸2-アリルオキシエチルとのヒドロシリル化反応により得ることができる。
【0023】
[薄膜蒸留工程]
本発明の方法は、上記のような方法により合成された(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物を含む粗生成物の精製工程において、粗生成物にN-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミンアルミニウムを添加して薄膜蒸留する工程を含む。N-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミンアルミニウム存在下で薄膜蒸留することで、薄膜蒸留中の生成物のゲル化及び増粘を抑制する。
【0024】
本発明の方法において、N-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミンアルミニウムを含む(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物の薄膜蒸留温度は特に制限がないが、好ましくは80~250℃の範囲であり、より好ましくは100~200℃、更に好ましくは130~180℃である。また、本薄膜蒸留は通常、減圧下で実施される。より詳細には、1~100Paの範囲が好ましく、より好ましくは10~50Paである。更に、本薄膜蒸留において、気流同伴を伴わない無気条件又は窒素あるいは空気等の気流同伴を行う有気条件のいずれかの蒸留を実施しても良い。また、コンデンサーの温度(冷却温度)は0~50℃であり、好ましくは10~30℃である。薄膜蒸留装置としては、柴田科学株式会社製の回転薄膜式分子蒸留装置MS-300型などが挙げられる。
【0025】
薄膜蒸留の際に混合するN-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミンアルミニウムの量は、薄膜蒸留に付する粗生成物中に含まれる(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物100質量部に対して0.001~0.5質量部となる範囲にある量、好ましくは0.002~0.1質量部となる範囲にある量、より好ましくは0.0025~0.02質量部となる範囲にある量がよい。
【0026】
[吸着処理工程]
本発明の精製方法は、上記薄膜蒸留により得た(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物を含む留分と吸着剤とを混合し、該混合物より吸着剤をろ過する工程を含む。
【0027】
吸着剤としては、ハイドロタルサイト、活性炭、シリカゲルなどが挙げられる。好ましくはハイドロタルサイトまたは活性炭である。ハイドロタルサイトの例としては、キョーワード500、キョーワード1000、キョーワード2000、DHT-4A(協和化学工業株式会社製)などが挙げられる。吸着剤の配合量は、粗生成物中に含まれる(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物100質量部に対して0.1~20質量部、より好ましくは0.5~10質量部となる量である。
【0028】
精製後の(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物に残存するアルミニウムの量はできるだけ少ない方がよい。アルミニウムは(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物の反応性を阻害する恐れがある。本発明における吸着処理後の(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物におけるアルミニウム量は(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物の質量に対して1ppm未満が好ましく、1ppm未満のできるだけ少ない方がよく、0ppmであってもよい。
従って、本発明はさらに、N-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミンアルミニウム存在下での薄膜蒸留精製物である(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物であって、上記N-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミンアルミニウム由来のアルミニウム含有量が1ppm未満である、上記(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物を提供する。(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物の好ましい説明は上述した通りである。
【0029】
なお、本発明において、(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物中のN-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミンアルミニウム由来のアルミニウム量は、ICP-MSにより測定した値を指すものとする。
【実施例0030】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。下記の例において特に明記のない場合は、組成の「%」は質量%を示す。
【0031】
[実施例1]
メタクリル酸2-アリルオキシエチル170g、トルエン170g、白金-1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体のトルエン溶液(白金濃度0.5%)0.8gを混合後、下記構造式のハイドロジェンポリシロキサン430gを滴下し、80℃で4時間熟成を行った。熟成終了後、減圧濃縮およびろ過を行い、淡黄色透明液体を得た。
【化7】
得られた生成物は下記式で表される(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物(分子量:582)の粗生成物であった。
【化8】
上記(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物100gの粗生成物と、重合禁止剤として、N-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミンアルミニウム(商品名:Q-1301、富士フィルム和光純薬株式会社製)0.001gを混合溶解し、温度150℃、圧力30Pa、コンデンサー温度20℃の条件で薄膜蒸留を行った。得られた留分中のアルミニウム量は1ppm未満であった。
上記で得た(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物を含む蒸留留分85gに対して吸着剤として1質量%となる量のハイドロタルサイト(商品名:キョーワード500、協和化学工業株式会社製)を添加、室温(25℃)下で2時間混合した後、ろ過で吸着剤を除き、精製された(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物を得た。吸着処理前後の(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物中の残存アルミニウム量を表1に示す。
【0032】
[実施例2]
重合禁止剤の量を0.001gから0.0025gに変えた以外は、実施例1の方法を繰り返して、精製された(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物を得た。吸着処理前後の(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物中の残存アルミニウム量を表1に示す。
【0033】
[実施例3]
重合禁止剤の量を0.001gから0.005gに変えた以外は、実施例1の方法を繰り返して、精製された(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物を得た。吸着処理前後の(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物中の残存アルミニウム量を表1に示す。
【0034】
[実施例4]
重合禁止剤の量を0.001gから0.01gに変えた以外は、実施例1の方法を繰り返して、精製された(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物を得た。吸着処理前後の(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物中の残存アルミニウム量を表1に示す。
【0035】
[実施例5]
重合禁止剤の量を0.001gから0.02gに変えた以外は、実施例1の方法を繰り返して、精製された(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物を得た。吸着処理前後の(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物中の残存アルミニウム量を表1に示す。
【0036】
[実施例6]
重合禁止剤の量を0.001gから0.05gに変えた以外は、実施例1の方法を繰り返して、精製された(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物を得た。吸着処理前後の(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物中の残存アルミニウム量を表1に示す。
【0037】
[実施例7]
重合禁止剤の量を0.001gから0.02gに変え、吸着剤の種類をハイドロタルサイトから活性炭に変えた以外は、実施例1の方法を繰り返して、精製された残存(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物を得た。吸着処理前後の(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物中の残存アルミニウム量を表1に示す。
【0038】
[実施例8]
重合禁止剤の量を0.001gから0.05gに変え、薄膜蒸留の温度を150℃から140℃に変えた以外は、実施例1の方法を繰り返して、精製された(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物を得た。吸着処理前後の(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物中の残存アルミニウム量を表1に示す。
【0039】
[実施例9]
重合禁止剤の量を0.001gから0.05gに変え、薄膜蒸留の温度を150℃から130℃に変えた以外は、実施例1の方法を繰り返して、精製された(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物を得た。吸着処理前後の(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物中の残存アルミニウム量を表1に示す。
【0040】
[実施例10]
重合禁止剤の量を0.001gから0.02gに変え、薄膜蒸留の温度を150℃から130℃に変え、更にハイドロタルサイトの量を1質量%から0.5質量%に変えた以外は、実施例1の方法を繰り返して、精製された(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物を得た。吸着処理前後の(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物中の残存アルミニウム量を表1に示す。
【0041】
[比較例1]
重合禁止剤の量を0.001gから0.01gに変え、薄膜蒸留後の吸着処理工程を省いた以外は、実施例1の方法を繰り返して、精製された(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物を得た。(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物中の残存アルミニウム量を表1に示す。
【0042】
[比較例2]
重合禁止剤の量を0.001gから0.05gに変え、薄膜蒸留後の吸着処理工程を省いた以外は、実施例1の方法を繰り返して、精製された(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物を得た。(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物中の残存アルミニウム量を表1に示す。
【0043】
[比較例3]
重合禁止剤をN-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミンアルミニウム0.001gから2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール0.01gと、4-メトキシフェノール0.01gに変えた以外は、実施例1の方法を繰り返して、精製された(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物を得た。薄膜蒸留中に蒸留装置内のゲル化を確認したため、精製を中断した。
【0044】
[比較例4]
実施例1と同じ(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物100g、N-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミンアルミニウム0.05gを混合溶解し、210℃、0.5kPaの条件下、フラスコで減圧蒸留を行った。蒸留中にフラスコ内のゲル化を確認したため、薄膜蒸留中断した。減圧蒸留ではN-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミンアルミニウムを使用しても重合を抑制できない。
【0045】
上記実施例及び比較例における(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物の精製結果を下記表1に示す。
【0046】
【0047】
上記表1に示す通り、本発明の精製方法によれば、(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物を薄膜蒸留する際に生成物のゲル化を抑制することができ、さらに、該薄膜蒸留後の留分側に混入するN-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミンアルミニウムの量を低減した(メタ)アクリル官能性有機ケイ素化合物を提供することができる。