(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024097616
(43)【公開日】2024-07-19
(54)【発明の名称】連続鋳造棒及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B22D 11/00 20060101AFI20240711BHJP
B22D 11/07 20060101ALI20240711BHJP
B22D 11/059 20060101ALI20240711BHJP
C22C 21/02 20060101ALI20240711BHJP
【FI】
B22D11/00 E
B22D11/07
B22D11/059 110A
B22D11/059 110F
C22C21/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023001196
(22)【出願日】2023-01-06
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(72)【発明者】
【氏名】小島 幸記
【テーマコード(参考)】
4E004
【Fターム(参考)】
4E004AB01
4E004AB06
(57)【要約】
【課題】従来の連続鋳造棒より平滑化された連続鋳造棒及びその製造方法を提供することである。
【解決手段】本発明の連続鋳造用鋳型は、アルミニウム合金A390系からなる連続鋳造棒であって、鋳肌表面において、鋳造方向の20mm長の範囲に、前記鋳造方向に沿って凹凸が10組以上存在し、かつ、前記凹凸の平均高低差が10μm以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金A390系からなる連続鋳造棒であって、
鋳肌表面において、鋳造方向の20mm長の範囲に、前記鋳造方向に沿って凹凸が10組以上存在し、かつ、前記凹凸の平均高低差が10μm以下である、連続鋳造棒。
【請求項2】
前記20mm長の範囲の円周全周にわたって、前記凹凸が存在する、請求項1に記載の連続鋳造棒。
【請求項3】
前記連続鋳造棒の先端部及び末端部を除く、前記連続鋳造棒の95%以上である部分の円周全周にわたって、前記凹凸が存在する、請求項1に記載の連続鋳造棒。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の連続鋳造棒の製造方法であって、
一端が溶湯の注入口であり、他端が鋳塊の鋳出口である、筒型の鋳型本体と、前記鋳型本体の内周面に配置するカーボンリングと、を備える鋳型を用いて連続鋳造棒を製造するものであり、
前記カーボンリングが、前記一端の側に配置する第1リング部と前記他端の側に配置する第2リング部とが積み重なって構成されている、連続鋳造棒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続鋳造棒及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近の輸送機器においては、その軽量化の要求から、アルミニウム合金部品の採用が多くなっている。このようなアルミニウム合金部品は、アルミニウム合金棒材を所定の長さに切断して鍛造用素材とし、その鍛造用素材を鍛造によって部品に成形することで得られる。そして、アルミニウム合金棒材は、金属製鋳型を用いて、例えば縦型連続鋳造や水平連続鋳造によって作製された素材に塑性加工や熱処理を施すことによって製造されている。
【0003】
たとえば、水平連続鋳造では一般に、次のような過程を経て金属溶湯から円柱状、角柱状あるいは中空柱状の長尺鋳塊を製造する。すなわち、金属溶湯を溜める溶湯受部に入った溶湯は、耐火物製の溶湯通路を通った後、ほぼ水平に設置された中空筒状の鋳型の中空部に入り、ここで強制冷却されて溶湯本体の外表面に凝固殻が形成される。さらに鋳型から引き出された鋳塊に水などの冷却剤が直接放射され、鋳塊内部まで金属の凝固が進行しつつ棒状の鋳塊が連続的に引き出される。
【0004】
金属製鋳型では、鋳型の内周面と溶湯の外表面との焼き付きを防止するために、鋳型と溶湯との接触部に鋳造用潤滑油を供給する必要がある。鋳造用潤滑油の供給方式としては、筒状の金属製鋳型の内周面に設置されたグラファイト(黒鉛)からなるリング(グラファイトリング)より潤滑油を透過させて供給するのが一般的である(例えば、特許文献1参照)。この方式では、グラファイトリングに形成された気孔内に潤滑油を圧入し、鋳造の際に、鋳型内周面の溶湯とグラファイトリングの接触部分に潤滑油を滲み出させるものである。この供給方法では微量の潤滑油を連続的かつ微量均一に供給することが可能となる。このとき、潤滑油と共に気体を鋳型内に導入してもよい。
【0005】
図10に、縦型連続鋳造法で用いる、グラファイトリングを備えた連続鋳造用鋳型の概略構成を示す。
図10に示す連続鋳造用鋳型200は、連続鋳造用鋳型200は、断面円形の成形孔11の両端が開口する筒型であり、筒型の鋳型本体200Aと、鋳型本体200Aの成形孔11に内嵌めされた筒型のグラファイトリング200Bとにより構成されている。成形孔11の一端は溶湯Mの注入口12であり、他端は鋳塊Sの鋳出口13である。
鋳型本体200Aは内部に冷却水Cを流通させるキャビティ21を有し、上部にキャビティへ21への入口22が設けられ、前記鋳出口13を囲んで冷却水Cの噴出口23が設けられている。入口22から導入された冷却水Cは、キャビティ21内を流通して成形孔11内の溶湯Mを鋳型本体200Aおよび成形孔11に内嵌めされた筒型のグラファイトリング200Bを介し一次冷却して凝固させ、噴出口23から噴出して鋳出されてくる鋳塊Sに吹き付けられて鋳塊Sを二次冷却する。また、鋳型本体200Aの内周面200Aaの鋳出口13側の一部を除く領域に、グラファイトリング200Bの厚み相当の凹部26が形成されている。
【0006】
図11に、水平(横型)連続鋳造法で用いる、グラファイトリングを備えた連続鋳造用鋳型を備えた水平連続鋳造装置の概略構成を示す。
図11に示す横型連続鋳造装置2000は、側壁に出湯口10Aを有する溶湯受部10と、断面円形の注湯通路20Aを有する注湯用ノズル20と、断面円形の成形孔41を有する筒状の鋳型本体400Aを有する連続鋳造用鋳型とを備える。
図11に示す連続鋳造用鋳型400は、断面円形の成形孔41の両端が開口する筒型であり、筒型の鋳型本体400Aと、鋳型本体400Aの成形孔41に内嵌めされた筒型のカーボンリング400Bとにより構成されている。成形孔41の一端は溶湯Mの注入口12であり、他端は鋳塊Sの鋳出口13である。
鋳型本体400Aは内部に冷却水Cを流通させるキャビティ42を有し、鋳出口13を囲んで冷却水Cの噴出口44が設けられている。入口(不図示)から導入された冷却水Cは、キャビティ42内を流通して成形孔41内の溶湯Mを鋳型本体400Aおよび成形孔41に内嵌めされた筒型のカーボンリング400Bを介し一次冷却して凝固させ、噴出口44から噴出して鋳出されてくる鋳塊Sに吹き付けられて鋳塊Sを二次冷却する。また、鋳型本体400Aの内周面400Aaの鋳出口13側の一部を除く領域に、カーボンリング400Bの厚み相当の凹部が形成されている。符号43は潤滑油供給管である。
【0007】
アルミニウム合金を連続鋳造して得られる連続鋳造棒はその後、連続鋳造棒の曲がりを矯正する矯正工程や、連続鋳造棒の外周表面の逆偏析層等の不均一組織を除去する外周面除去(ピーリング)工程を行うことが多い。
かかる工程を行うにあたっては、連続鋳造棒の鋳肌が平滑であることが好ましい。鋳肌が平滑であると、矯正工程における矯正荷重が低減できて矯正機器の負担が小さくなり、矯正治具の消耗が軽減されて交換頻度が延び、また、外周面除去工程において面削代を削減できるからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
一方、連続鋳造棒の鋳肌の凹凸の高低差が0.1mm(100μm)程度以上有する場合、矯正工程での負荷が大きくなる。また、鋳肌の凹凸の高低差が大きいと矯正の際、未矯正部(凹部)が発生しやすい。また、矯正時の負荷加重を高強力にしなければならなく、大径であるほど機器負担が大きくなる。鋳肌の凹凸の高低差が大きいと、面削残存防止のために片面1mm以上の外周面削を必要となる。
【0010】
連続鋳造棒の鋳肌を従来より平滑にすることが可能なグラファイトリングを開発し、鋳肌表面が従来の連続鋳造棒より平滑化された連続鋳造棒を得ることができ、本発明を完成した。
なお、以下では、グラファイトリングについて構成する炭素材料を黒鉛(グラファイト)に限定しないものを含めて「カーボンリング」と称する。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、従来の連続鋳造棒より平滑化された連続鋳造棒及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
【0013】
本発明の態様1は、アルミニウム合金A390系からなる連続鋳造棒であって、鋳肌表面において、鋳造方向の20mm長の範囲に、前記鋳造方向に沿って凹凸が10組以上存在し、かつ、前記凹凸の平均高低差が10μm以下である、連続鋳造棒である。
【0014】
本発明の態様2は、態様1の連続鋳造棒において、前記20mm長の範囲の円周全周にわたって、前記凹凸が存在する。
【0015】
本発明の態様3は、態様1又は態様2のいずれかの連続鋳造棒において、前記連続鋳造棒の先端部及び末端部を除く、前記連続鋳造棒の95%以上である部分の円周全周にわたって、前記凹凸が存在する。
【0016】
本発明の態様4は、態様1~態様3のいずれかの連続鋳造棒の製造方法であって、一端が溶湯の注入口であり、他端が鋳塊の鋳出口である、筒型の鋳型本体と、前記鋳型本体の内周面に配置するカーボンリングと、を備える鋳型を用いて連続鋳造棒を製造するものであり、前記カーボンリングが、前記一端の側に配置する第1リング部と前記他端の側に配置する第2リング部とが積み重なって構成されている、連続鋳造棒の製造方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の連続鋳造棒によれば、従来の連続鋳造棒より平滑化された連続鋳造棒を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】(a)は3D形状測定機で得た、本実施形態に係る連続鋳造棒の一例の鋳肌表面の画像であり、(b)は3D形状測定機で得た断面プロファイルである。
【
図2】(a)は3D形状測定機で得た、従来の製造方法で得た連続鋳造棒の一例の鋳肌表面の画像であり、(b)は3D形状測定機で得た断面プロファイルである。
【
図3】(a)は従来の製造方法で得た連続鋳造棒を、曲がりを矯正する矯正工程において矯正ロールで曲がりを矯正している状態を示す概念図であり、(b)は本実施形態に係る連続鋳造棒を同様に、矯正ロールで曲がりを矯正している状態を示す概念図である。
【
図4】本実施形態の連続鋳造棒の製造方法で用いる連続鋳造用鋳型の断面模式図である。
【
図5】
図4に示した連続鋳造用鋳型を備えた縦型連続鋳造装置を用いて、連続鋳造棒を製造する方法を説明するための図である。
【
図6】カーボンリング近傍の拡大断面模式図である。
【
図7】(a)はカーボンリング10を構成する第1リング部10aと第2リング部10bとを離間して示した断面模式図であり、(b)は第2リング部10bの平面模式図である。
【
図8】本実施形態の連続鋳造棒の製造方法で用いる連続鋳造用鋳型の作用効果を概念的に説明するための概念図である。
【
図9】分割型カーボンリングを備えた連続鋳造用鋳型を用いた場合と、一体型のカーボンリングを備えた連続鋳造用鋳型を用いた場合とで、鋳型の使用回数による潤滑油圧力の推移を比較したグラフである。
【
図10】縦型連続鋳造法で用いる、グラファイトリングを備えた連続鋳造用鋳型の概略構成である。
【
図11】水平(横型)連続鋳造法で用いる、グラファイトリングを備えた連続鋳造用鋳型を備えた水平連続鋳造装置の概略構成である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態に係る連続鋳造用鋳型及びそれ用いた連続鋳造棒の製造方法について、図面を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その効果を奏する範囲で適宜変更して実施することが可能である。理解を容易にするために誇張して描いている場合がある。
【0020】
[連続鋳造棒]
図1(a)及び(b)にそれぞれ、3D形状測定機で得た、本実施形態に係る連続鋳造棒の一例の鋳肌表面の画像及び断面プロファイルを示す。
図1において、X方向は鋳造方向であり、Y方向は鋳造方向に直交する方向であり、Z方向はX方向及びY方向の両方向に直交する方向である。
【0021】
本実施形態に係る連続鋳造棒は、アルミニウム合金A390系からなるアルミニウム合金の連続鋳造棒であって、鋳肌表面において、鋳造方向(X方向)の20mm長の範囲に、鋳造方向に沿って凹凸が10組以上存在し、かつ、前記凹凸の平均高低差が10μm以下である。
【0022】
本明細書において、鋳肌表面における「凹凸」とは、
図1(a)及び(b)からわかるような、鋳造方向にほぼ直交する方向に尾根状に延びるものを意味しており、局所的に存在するような凹部や凸部などは含まない。また、鋳肌表面における「凹凸」とは、高低差として0.5μm以上の「凹凸」を指すものとする。
また、本明細書において、「凹凸」の高低差とは、3D形状測定機で得られた断面プロファイルにおいて、・・・極小点~極大点~極小点~極大点・・・と、極小点及び極大点が順に繰り返されるプロファイルにおいて、最近接の極小点及び極大点の組(ペア)の極小点と極大点との差を意味する。
本明細書において、「3D形状測定機」とは、対象物表面にレーザー光などの光を照射し、その反射光を捉えて表面形状を測定する非接触式の形状測定機(輪郭形状測定機)の機能を備えており、0.1μm以上の測定精度で3次元測定が可能な装置を意味する。例えば、株式会社キーエンス製のワンショット3D形状測定機VRシリーズが挙げられる。
【0023】
図1(a)において、鋳肌表面の画像のY方向の中心部を、鋳造方向であるX方向に20mm長の範囲において、凹凸が10組存在する。
図1(a)における20mm長の範囲は、
図1(b)の20mm長の範囲に対応する。
図1(a)において1~10組の数を付した各凹凸と、
図1(b)の断面プロファイルの(1)~(10)組の同じ数の下方に位置する各凹凸同士が対応する。
10組の凹凸の高低差は最大のものは2.70μmで、最小のものは0.73μmであり、平均高低差は1.44μmである。
すなわち、
図1に示す連続鋳造棒では、図示した鋳造方向の20mm長の範囲に、鋳造方向に沿って凹凸が10組存在し、かつ、凹凸の平均高低差は1.44μmであった。
【0024】
対比のために、
図2(a)及び(b)に、従来の製造方法で得た連続鋳造棒について、3D形状測定機で得た、鋳肌表面の画像及び断面プロファイルを示す。
図2(a)において、鋳肌表面の画像のY方向の中心部を、鋳造方向であるX方向に20mm長の範囲において、凹凸が10組存在する。10組の凹凸の高低差は最大のものは148.41μmで、最小のものは6.67μmであり、平均高低差は53.80μmである。
すなわち、
図2に示す連続鋳造棒では、図示した鋳造方向の20mm長の範囲に、鋳造方向に沿って凹凸が10組存在し、かつ、凹凸の平均高低差は53.80μmであった。
【0025】
図3に、本実施形態に係る連続鋳造棒の効果の一例を概念的に示す図である。
図3(a)は従来の製造方法で得た連続鋳造棒を、曲がりを矯正する矯正工程において矯正ロールで曲がりを矯正している状態を示す概念図である。
図3(b)は本実施形態に係る連続鋳造棒を同様に、矯正ロールで曲がりを矯正している状態を示す概念図である。
【0026】
従来の製造方法で得た連続鋳造棒1Aは、凹凸1Atの数密度が低く(すなわち、隣接する凹凸間のピッチが広い)、かつ、凹凸1Atの高低差も大きい(凹凸の深さが深い)。そのため、矯正ロールに対して鋳塊表面1Asの接触面積が少なく、曲がりを矯正しにくい。
これに対して、本実施形態に係る連続鋳造棒1では、凹凸1tの数密度が高く(すなわち、隣接する凹凸間のピッチが狭い)、かつ、凹凸1tの高低差が小さい(凹凸の深さが浅い)。そのため、矯正ロールに対して鋳塊表面1sの接触面積が多く、曲がりを矯正しやすい。
【0027】
本実施形態に係る連続鋳造棒1では、矯正工程において矯正ロールで曲がりを矯正しやすいと、矯正工程後の鋳肌面が平滑になるため、外周面除去(ピーリング)工程において、外周面の面削の残存が低減できる。また、外周面削代を削減できる。
【0028】
本実施形態に係る連続鋳造棒1は、鋳肌表面1sの一部に、鋳造方向(X方向)の20mm長の範囲に、鋳造方向に沿って、平均高低差が10μm以下である凹凸が10組以上存在することによって上記効果を有するが、前記20mm長の範囲の円周全周にわたって、前記凹凸が存在することが好ましい。さらには、製品としては使用しない連続鋳造棒の先端部及び末端部を除く、連続鋳造棒の95%以上である部分の円周全周にわたって、前記凹凸が存在することがより好ましい。
【0029】
本実施形態に係る連続鋳造棒1は、A390系アルミニウム合金からなるものである。A390系アルミニウム合金は、17%程度のSiを含有するAl-Si過共晶系合金である。
本実施形態に係る連続鋳造棒1を構成するA390系アルミニウム合金の化学成分としては(%はwt%)、Si:16.0%~18.0%、Fe≦0.50%、Cu:4.0%~5.0%、Mg:0.45%~0.65%、Ca≦0.010%、P≦0.040%の範囲とする。
【0030】
[連続鋳造棒の製造方法]
(連続鋳造用鋳型)
図4に、本実施形態に係る連続鋳造棒の製造方法で用いる連続鋳造用鋳型の断面模式図を示す。また、
図5は、
図4に示す連続鋳造用鋳型を備えた縦型連続鋳造装置を用いて、連続鋳造棒を製造する方法を説明するための図である。
図6は、カーボンリング近傍の拡大断面模式図である。
【0031】
図4に示す連続鋳造用鋳型100は、連続鋳造に用いられる連続鋳造用鋳型であって、
一端が溶湯の注入口21であり、他端が鋳塊の鋳出口22である、両端に開口を有する筒型の鋳型本体20と、鋳型本体20の内周面20Aに配置するカーボンリング10と、を備え、カーボンリング10は、一端の側に配置する第1リング部10aと他端の側に配置する第2リング部10bとが積み重なって構成されている。
図4において、第1リング部10aと第2リング部10bとが積み重なる方向(一端と他端とを結ぶ方向)をZ方向とし、Z方向に直交し、紙面に平行な方向をX方向とし、Z方向に直交し、紙面に直交する方向をY方向とする。
以下では、第1リング部と第2リング部とからなるカーボンリングについて、「分割型カーボンリング」ということがある。
鋳型本体20の材料は限定されず、アルミニウム、鉄、銅等の周知金属材料を適宜用いることができる。
【0032】
連続鋳造用鋳型100を備えた連続鋳造装置は、上下方向において開口した筒状の鋳型本体20の上部側から溶湯Lを供給し、冷却水Hの供給により冷却されて凝固した鋳塊Sを鋳型本体20の下部側から連続的に引き出す縦型連続鋳造装置である。
【0033】
鋳型本体20は、第2リング部10bに接続された潤滑油供給経路31と、第2リング部10bに接続され、潤滑油供給経路31から離間して配置する気体供給経路32とを有し、潤滑油供給経路31と第2リング部10bとを接続する接続供給部31aは、Z方向において、気体供給経路32と第2リング部10bとを接続する接続供給部32aよりも第1リング部10a寄りに配置する。気体供給経路32から供給する気体としては例えば、空気、混合気体(例えば、酸素+不活性ガス)、不活性ガスなどを挙げることができる。
【0034】
鋳型内に潤滑油を供給する潤滑油供給経路31と気体を供給する気体供給経路32とを離間させて配置し、共有しない構成であるため、潤滑油及び気体のそれぞれの供給量に基づく圧力差による影響(干渉、逆流など)を防止することができる。
また、潤滑油供給経路31と気体供給経路32とを独立に備える構成であるため、潤滑油及び気体の供給量を独立して制御することができる。
【0035】
図示する例では、接続供給部31a及び接続供給部32aはいずれも、環状のカーボンリング10(第2リング部10b)の外周面に沿って環状に鋳型本体20内に配置する部位であるが、潤滑油供給経路31が第2リング部10b内に挿入され接続部31aがカーボンリング10内に配置する構成としてもよい。同様に、気体供給経路32が第2リング部10b中に挿入され接続部32aがカーボンリング10内に配置する構成としてもよい。接続部31a又は接続部32aの一方又は両方をカーボンリング10内に配置する構成としてもよい。
【0036】
図示する例では、Z方向から平面視して、接続供給部31a及び接続供給部32aとは重ならない位置に配置しているが、重なるように配置していてもよい。
【0037】
第2リング部10b内に、周回状に、潤滑油供給経路31から供給された潤滑油が通る潤滑油流通溝が形成されていてもよい。周回状は1周または1周未満とすることができる。
第2リング部10b内に、周回状に、気体供給経路32から供給された気体が通る気体流通溝が形成されていてもよい。周回状は1周または1周未満とすることができる。
【0038】
Z方向において、潤滑油供給経路31と第2リング部10bとを接続する接続供給部31aは第2リング部10bの上段側に配置し、気体供給経路32と第2リング部10bとを接続する接続供給部32aは第2リング部10bの下段側に配置する構成としているため、以下の作用効果を奏する。
潤滑油供給経路31から供給された潤滑油が、接続供給部31aを経由して第2リング部10bの内周面10bAAを自重で降下していく。一方、気体供給経路32から供給された気体が接続供給部32aを経由して第2リング部10bの内周面10bAAから吐出され、気体の効果(カーボン素材のポーラスにより緻密とされたエアーバブリング)によって、カーボンからなる第2リング部10bの幅広い面で気体が吐出される。この状態で気体が吐出されることで、自重で降下してきた潤滑油は泡状の潤滑油となり、鋳型の溶湯接触面付近の断熱層となり、供給された溶湯のシール層になることで溶湯が鋳型内面と非接触状態になって、滑らかな外表面の連続鋳造棒を得ることができる。また、相乗効果で1次冷却が妨げられ、表面周辺の逆偏析層が薄くなる。さらに、カーボンリング10を透過して吐出しないので油種の制限がなく、破損などしない限りは、メンテナンスフリーで長期使用が可能である。
【0039】
カーボンリング10は、カーボン製の環状部材である。カーボンリング10は、第1リング部10aと第2リング部10bとが積み重なってなる構成とされており、後で詳述するように潤滑油供給経路31から送られてきた潤滑油は第1リング部10aと第2リング部10bとが積み重なった隙間Gを通って鋳型の内周面に供給される。このようにカーボンリング10は、従来のグラファイトリングのように潤滑油がそのグラファイト材料中の孔を通って鋳型の内周面に滲み出る構成ではないため、カーボンリング10の材料として潤滑油が滲み出す孔を有することは必須ではない。ただし、潤滑油は第1リング部10aと第2リング部10bとが積み重なった隙間からだけでなく、従来のグラファイトリングのように材料中の孔を通って鋳型の内周面に滲み出る材料でもよい。また、溶湯に対する耐熱性の観点では、カーボンリング10を構成する炭素材料として黒鉛(グラファイト)が好ましいことには変わりないが、これに限定されない。また、カーボンリング10は、所定の孔構造を有するように微細な黒鉛粒子を押出しや静水圧法により押し固めることにより製造されたものでもよい。
【0040】
カーボンリング10を鋳型本体20に取り付ける方法に特に制限はなく、例えば、鋳型本体20とカーボンリング10の熱膨張率の差を利用して焼き嵌めることにより鋳型本体20に取り付けることができる。カーボンは鋳型本体20を構成する金属よりも熱膨張率が小さいので、常温において鋳型本体20の内径をカーボンリング10の外径よりも小さく設定し、加熱により内径が拡大した鋳型本体20カーボンリング10を内嵌めすると、鋳型10の温度低下によりカーボンリング10が鋳型本体20に締め付けられた状態で固定される。焼き嵌めで取り付けると鋳型本体20とカーボンリング10とが密着して両者間に隙間ができないので、連続鋳造時にカーボンリング10から鋳型本体20への熱移動が速やかに行われる。また、周方向の全域で鋳型本体20とカーボンリング10が密着するので、周方向における冷却ムラが生じない。
【0041】
カーボンリング10は、第1リング部10aと第2リング部10bとが積み重なってなる構成(合わさってなる構成)であるが、第1リング部10aと第2リング部10bとは同じ特性を有するカーボン材料であってもよいし、異なる特性を有するカーボン材料であってもよい。
第1リング部10a及び第2リング部10bのうち、少なくとも第2リング部10bは、かさ密度が1.65~1.9g/cm3で、曲げ強度30MPa~98MPaの黒鉛材料としてもよい。かかる特性を有する黒鉛材料からなるリング部は、気体供給経路32から供給された気体が十分に透過することができると共に、アルミニウム合金の連続鋳造用として用いるのに十分な強度を有するからである。
【0042】
カーボンリング10は、一体のカーボンリングを分割して第1リング部10a及び第2リング部10bの2分割された構成とされたものであってもよい。
【0043】
カーボンリング10において、Z方向の長さは、第2リング部10bの長さ(
図6の符号L2)が第1リング部の長さ(
図6の符号L1)よりも長い。
【0044】
図7(a)は説明の都合上、カーボンリング10を構成する第1リング部10aと第2リング部10bとを離間して示した断面模式図である。
図6に示すように、連続鋳造用鋳型20の内周面に嵌め込まれた状態では、第1リング部10a及び第2リング部10bのそれぞれの合わせ面(積み重ね面、重ね合わせ面)10aA、10bAとの間はそれぞれの合わせ面の平坦度に応じた形成されたわずかな隙間G(
図6参照)を有するだけである。これに対して、第2リング部10bの合わせ面10bAに、
図7(b)に示すような、潤滑油供給経路31から供給された潤滑油が溶湯側に抜ける溝あるいは凹み(そのうちの3個を符号10baで示した)を備えた構成としてもよい。
【0045】
図7(b)に示す例では、Z方向からの平面視において孔の中心をOに向いた溝が、等間隔で形成されているが、溝数はこれに限定されず、また、一部に非等間隔の溝があってもよく、さらにすべての溝が非等間隔とすることもできる。潤滑油を鋳型本体20の内周面20Aに均一に供給する観点では、複数の溝が等間隔で配置することが好ましい。溝10baの深さは例えば、0.015mm~2mm程度とすることができる。
【0046】
図8に、本実施形態の連続鋳造棒の製造方法で用いる連続鋳造用鋳型の作用効果を概念的に説明するための概念図を示す。
図4に示す連続鋳造用鋳型100では、Z方向において、潤滑油供給経路31と第2リング部10bとを接続する接続供給部31aは第2リング部10bの上段側に配置し、気体供給経路32と第2リング部10bとを接続する接続供給部32aは第2リング部10bの下段側に配置する構成を有する。また、カーボンリング10は第1リング部10aと第2リング部10bとをZ方向で積み重ねた構成を有する。
潤滑油供給経路31から供給された潤滑油は、接続供給部31aを経由して、第1リング部10aと第2リング部10bとの間の隙間Gから第2リング部10bの内周面10bAAに供給される。第2リング部10bの内周面10bAAに供給された潤滑油LUBは、内周面10bAAを自重で降下していく。一方、気体供給経路32から供給された気体は接続供給部32aを経由して第2リング部10bの内周面10bAAから吐出され、エアーバブリング効果によって第2リング部10bの幅広い面で気体が吐出される。この状態で気体が吐出されることで、自重で降下してきた潤滑油は泡状の潤滑油FLUBとなり、鋳型の溶湯接触面付近の断熱層となり、供給された溶湯のシール層になることで溶湯が鋳型内面と非接触状態になって、滑らかな外表面の連続鋳造棒を得ることができる。
【0047】
図9に、本実施形態の連続鋳造棒の製造方法で用いる分割型カーボンリングを備えた連続鋳造用鋳型を用いた場合と、従来の一体型のカーボンリングを備えた連続鋳造用鋳型を用いた場合とで、鋳型の使用回数による潤滑油供給のための圧力(潤滑油圧力)の推移を比較したグラフである。カーボンリングの材料はグラファイトである。
【0048】
図9のグラフにおいて、横軸は鋳型の使用回数(すなわち、連続鋳造棒製造の回数)、縦軸は潤滑油圧力の初期圧力を1とした場合の各使用回数での使用圧力の比である。
潤滑油圧力の初期圧力に対する使用圧力の比が1.5であるときを目詰まりと判断するものとする。
【0049】
従来の一体型のカーボンリングを用いた場合は、4回目の使用で潤滑油圧力が目詰まり判断圧力を超えているのに対して、分割型カーボンリングを用いた場合は3回目の使用時に初期圧力に対する使用圧力の比が1.03程度に上昇した後は12回目でも、潤滑油圧力は変わりなかった。
このように本実施形態の連続鋳造棒の製造方法で用いる分割型カーボンリングを用いた場合には、従来の一体型のカーボンリングを用いた場合に比べて、カーボンリングの目詰まりが激減することがわかる。
【0050】
従来のグラファイトリングを用いた潤滑油の供給方式では、繰り返し鋳造を行っていくと、高温になるグラファイトリング中で潤滑油が炭化して目詰まりが発生してしまうため、定期的にグラファイトリングの交換作業を行う必要があった。上記分割型カーボンリングでは目詰まりが激減するので、定期的な交換作業を要しない。
【0051】
[連続鋳造棒の製造方法]
本実施形態の連続鋳造棒の製造方法で用いる連続鋳造棒の製造方法は、上述したような分割型カーボンリングを備えた連続鋳造用鋳型を用いて、縦型連続鋳造法によっても水平(横型)連続鋳造法によっても連続鋳造棒を製造することができる。
【0052】
上述したような連続鋳造用鋳型を用いて連続鋳造棒の製造において、溶湯Lとカーボンリング10との間に潤滑油と気体を導入しながら、溶湯Lは、カーボンリング10の内周面から一次冷却を受けて、溶湯Lの外周面から中心へと凝固が進行し、溶湯Lが下降して冷却水Hで凝固され、連続鋳造棒が製造される。
【0053】
縦型連続鋳造法を用いて本実施形態の連続鋳造棒を製造する際の製造条件の一例を示す;
・鋳造径:直径φ50mm~φ210mm
・鋳造速度:120~330mm/min
・気体注入量:5~50ml/min(nor)
・潤滑油量:0.1~3cc/min
・冷却水量:20~80L/min
【0054】
また、その他好ましい製造条件は以下の通りである。
・冷却速度のアルミニウム溶湯の液相温度と固相温度間の冷却速度を20℃/sec以上で鋳造することが好ましい。
・カーボンリングが挿入した金属製鋳型近傍の気体(エアー)注入圧力0.1MPa~0.5MPaに対して、鋳型内に供給する潤滑油の圧力は気体注入圧力を上回ってはならない。潤滑油圧力が気体圧力を上回ると潤滑油供給経路へ流入する可能性があるためである。
・鋳造時に使用する気体、潤滑油の温度は、鋳型内近傍で気体温度5℃~50℃、潤滑油温度3℃~45℃間で可能である。
・使用する潤滑油は粘度80~1100(25℃・mPa・S)の範囲で使用可能である。
【実施例0055】
次に、本発明の具体的な実施例について説明するが、本発明はこれら実施例のものに限定されるものではない。
【0056】
(実施例1、2)
Cu製鋳型本体の内周に分割型カーボンリング(黒鉛製)を備えた連続鋳造用鋳型を備えた縦型連続鋳造装置によって、表1に示す成分のA390系アルミニウム合金の連続鋳造棒を製造した。表1にその成分の分析値を示す。単位は質量%である。
【0057】
【0058】
連続鋳造棒を製造する製造条件(鋳造条件)は以下の通りである;
・鋳造径:直径φ60mm
・鋳造速度:280mm/min(実施例1)、330mm/min(実施例2)
・気体注入量:5ml/min(nor)
・潤滑油量:0.3cc/min(粘度680_25℃・mPa・Sの植物油)
・冷却水量:40L/min
【0059】
(比較例1、2)
連続鋳造用鋳型として、カーボンリングを備えない(鋳型本体のみ)Cu製連続鋳造用鋳型を用いた以外は、実施例1、2と同様にして、表1に示す成分のA390系アルミニウム合金の連続鋳造棒を製造した。
【0060】
(評価)
3D形状測定機であるVR6000(株式会社キーエンス製)を用いて、得られた連続鋳造棒の鋳肌表面において鋳造方向の20mm長の範囲の凹凸(高低差0.5μm以上)の組数、及び、凹凸の平均高低差を計測した。なお、鋳造方向の20mm長の範囲は、得られた長さ500mmの連続鋳造棒の鋳造方向(X方向)の中心の前後10mm長の範囲をとった。
また、得られた連続鋳造棒について、矯正ロールにて所定の矯正荷重で矯正を行い、その後、外周表面を1mmピーリングを行った。矯正荷重が5t以下であり、かつ、ピーリング(P)後にいわゆる“黒皮”が残存していない場合を「〇」判定とし、いずれかが満たされていない場合を「×」判定とした。ここで、“黒皮”とは、鋳造したままの外周表面の鋳肌の事を指す。なお、「所定の矯正荷重」は、面削後の仕上りの直径φを確認し設定する。直径φが規格内であることを前提として、外周表面(黒皮)の残存有無を検査機にて検知する。
表2に評価結果を示す。
【0061】
【0062】
実施例1及び2の凹凸の平均高低差は2μm以下であり、非常に平滑であった。これに対して、比較例1及び2の凹凸の平均高低差は100μm以上であり、実施例1及び2の凹凸の平均高低差に比べて50倍以上であった。
【0063】
実施例1及び2の隣接する凹凸間のピッチは、比較例1及び2の隣接する凹凸間のピッチの1.4倍~2倍であった。