(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024097627
(43)【公開日】2024-07-19
(54)【発明の名称】芳香族ポリアミド系逆浸透膜の洗浄剤、洗浄液及び洗浄方法
(51)【国際特許分類】
B01D 65/06 20060101AFI20240711BHJP
B01D 71/56 20060101ALI20240711BHJP
B01D 61/10 20060101ALI20240711BHJP
C11D 3/08 20060101ALI20240711BHJP
C11D 3/24 20060101ALI20240711BHJP
C11D 3/30 20060101ALI20240711BHJP
C11D 1/02 20060101ALI20240711BHJP
【FI】
B01D65/06
B01D71/56
B01D61/10
C11D3/08
C11D3/24
C11D3/30
C11D1/02
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023001215
(22)【出願日】2023-01-06
(71)【出願人】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】藤井 昭宏
(72)【発明者】
【氏名】ウォン シン イー
(72)【発明者】
【氏名】小森 英之
【テーマコード(参考)】
4D006
4H003
【Fターム(参考)】
4D006GA03
4D006KC02
4D006KC16
4D006KD01
4D006KD04
4D006KD24
4D006KD30
4D006MC54
4D006PA01
4D006PB04
4D006PB08
4D006PC80
4H003BA12
4H003DA12
4H003EA15
4H003EB13
4H003ED02
4H003FA28
(57)【要約】
【課題】水処理に使用される芳香族ポリアミド系逆浸透膜が汚染して透過流束や脱塩率などの性能が低下した際に、従来の洗浄液では十分に除去することができない汚染物質を効果的に除去する洗浄剤、洗浄液及び洗浄方法を提供する。
【解決手段】安定化ハロゲンと、ケイ酸化合物とを含む水溶液よりなる、芳香族ポリアミド系逆浸透膜の洗浄剤。この洗浄剤の水溶液よりなる洗浄液を用いて芳香族ポリアミド系逆浸透膜を洗浄する。安定化ハロゲンとしては、1級アミノ基を有する化合物と次亜塩素酸及び/又は次亜塩素酸塩とを混合することにより得られたクロラミン化合物が好ましい。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
安定化ハロゲンと、ケイ酸化合物とを含む水溶液よりなる、芳香族ポリアミド系逆浸透膜の洗浄剤。
【請求項2】
前記洗浄剤中の安定化ハロゲンの濃度が0.1~2Mであり、前記ケイ酸化合物の濃度が0.01~0.05Mである請求項1の芳香族ポリアミド系逆浸透膜の洗浄剤。
【請求項3】
前記安定化ハロゲンがモノクロロスルファミン酸を含む請求項1の芳香族ポリアミド系逆浸透膜の洗浄剤。
【請求項4】
前記ケイ酸化合物がケイ酸ナトリウムおよびケイ酸カリウムの少なくとも一方である請求項1の芳香族ポリアミド系逆浸透膜の洗浄剤。
【請求項5】
分子量1000未満のアミノ基およびアミンオキシドを分子構造中に有しない非アミン系アニオン系界面活性剤を含む請求項1の芳香族ポリアミド系逆浸透膜の洗浄剤。
【請求項6】
前記水溶液中の非アミン系アニオン系界面活性剤の濃度が0.002~0.5Mである請求項5の芳香族ポリアミド系逆浸透膜の洗浄剤。
【請求項7】
前記安定化ハロゲンが、1級アミノ基を有する化合物、アンモニア及びアンモニウム塩よりなる群から選ばれる1種又は2種以上と、次亜塩素酸及び/又は次亜塩素酸塩との反応物である請求項1の芳香族ポリアミド系逆浸透膜の洗浄剤。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1項に記載の芳香族ポリアミド系逆浸透膜の洗浄剤の希釈水溶液よりなる、芳香族ポリアミド系逆浸透膜の洗浄液。
【請求項9】
前記洗浄液のpHが11~13である請求項8の芳香族ポリアミド系逆浸透膜の洗浄液。
【請求項10】
前記洗浄液の安定化ハロゲンの濃度が0.001~0.02Mであり、ケイ酸化合物の濃度が0.0001~0.0005Mである請求項8の芳香族ポリアミド系逆浸透膜の洗浄液。
【請求項11】
請求項8に記載の洗浄液に芳香族ポリアミド系逆浸透膜を接触させる工程を有する、芳香族ポリアミド系逆浸透膜の洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水処理分野で使用される芳香族ポリアミド系逆浸透膜の洗浄剤、洗浄液、及び洗浄方法に関する。詳しくは、芳香族ポリアミド系逆浸透膜が汚染して、透過流束や阻止率などの膜性能が低下した際に、その性能を効果的に回復させるための洗浄剤と、この洗浄剤を含む洗浄液と、この洗浄液を用いた芳香族ポリアミド系逆浸透膜の洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、全世界的な水供給量不足の対策として、RO(逆浸透)膜といった透過膜を用いたかん水の淡水化、排水回収が行われている。これらの透過膜を用いたシステムにおいて、透過膜の汚染による性能低下が問題となっており、汚染した透過膜を効果的に性能回復させる洗浄技術の開発が望まれている。
【0003】
近年、水処理用RO膜としては、低圧運転が可能で、脱塩性能に優れる芳香族ポリアミド系のRO膜が広く使われるようになってきている。しかし、芳香族ポリアミド系RO膜は、塩素に対する耐性が低いため、酢酸セルロース系のRO膜のように、運転条件下で塩素と接触させる処理を行うことができず、微生物や有機物による汚染が酢酸セルロース系のRO膜よりも起こりやすいという課題がある。一方、アルカリに対する耐性は、芳香族ポリアミド系RO膜の方が酢酸セルロース系RO膜よりも高く、pH10以上のアルカリ条件での洗浄を行うことが可能である。
【0004】
特許文献1には、耐アルカリ性の芳香族ポリアミドRO膜の洗浄剤として、クロラミン化合物と、アルキルベンゼンスルホン酸塩などの非アミン系界面活性剤と、アルカリ剤とを含むpH13以上の水溶液よりなる洗浄剤が記載されている。
【0005】
特許文献1の0051段落には、膜汚染物質の剥離効果を高めるために、さらにEDTAなどのキレート剤を配合してもよいと記載されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1の洗浄剤にEDTA等のアミン系キレート剤を配合すると、クロラミン化合物と反応し、クロラミン化合物濃度が減少する。
【0007】
特許文献2には、芳香族ポリアミドRO膜の洗浄剤として、クロラミン化合物と、シュウ酸等のアミノ基を含まない脂肪族カルボン酸等のキレート剤と、アルキルベンゼンスルホン酸塩などの非アミン系界面活性剤と、アルカリ剤とを含むpH13以上の水溶液よりなる洗浄剤が記載されている。
【0008】
特許文献2によれば、クロラミン化合物濃度低下が抑制され、芳香族ポリアミド系RO膜の汚染物質が効果的に除去される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2015-97991号公報
【特許文献2】特許第7136385号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、芳香族ポリアミド系RO膜が汚染して透過流束や脱塩率などの性能が低下した際に、安定化ハロゲン濃度の低下が特許文献2よりもさらに抑制され、汚染物質を効果的に除去することができる洗浄剤及び洗浄液と洗浄方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下を要旨とする。
【0012】
[1] 安定化ハロゲンと、ケイ酸化合物とを含む水溶液よりなる、芳香族ポリアミド系逆浸透膜の洗浄剤。
【0013】
[2] 前記洗浄剤中の安定化ハロゲンの濃度が0.1~2Mであり、前記ケイ酸化合物の濃度が0.01~0.05Mである[1]の芳香族ポリアミド系逆浸透膜の洗浄剤。
【0014】
[3] 前記安定化ハロゲンがモノクロロスルファミン酸を含む[1]の芳香族ポリアミド系逆浸透膜の洗浄剤。
【0015】
[4] 前記ケイ酸化合物がケイ酸ナトリウムおよびケイ酸カリウムの少なくとも一方である[1]の芳香族ポリアミド系逆浸透膜の洗浄剤。
【0016】
[5] 分子量1000未満のアミノ基およびアミンオキシドを分子構造中に有しない非アミン系アニオン系界面活性剤を含む[1]の芳香族ポリアミド系逆浸透膜の洗浄剤。
【0017】
[6] 前記水溶液中の非アミン系アニオン系界面活性剤の濃度が0.002~0.5Mである[5]の芳香族ポリアミド系逆浸透膜の洗浄剤。
【0018】
[7] 前記安定化ハロゲンが、1級アミノ基を有する化合物、アンモニア及びアンモニウム塩よりなる群から選ばれる1種又は2種以上と、次亜塩素酸及び/又は次亜塩素酸塩との反応物である[1]の芳香族ポリアミド系逆浸透膜の洗浄剤。
【0019】
[8] [1]ないし[7]のいずれかに記載の芳香族ポリアミド系逆浸透膜の洗浄剤の希釈水溶液よりなる、芳香族ポリアミド系逆浸透膜の洗浄液。
【0020】
[9] 前記洗浄液のpHが11~13である[8]の芳香族ポリアミド系逆浸透膜の洗浄液。
【0021】
[10] 前記洗浄液の安定化ハロゲンの濃度が0.001~0.02Mであり、ケイ酸化合物の濃度が0.0001~0.0005Mである[8]の芳香族ポリアミド系逆浸透膜の洗浄液。
【0022】
[11] [8]に記載の洗浄液に芳香族ポリアミド系逆浸透膜を接触させる工程を有する、芳香族ポリアミド系逆浸透膜の洗浄方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、塩素耐性の低い芳香族ポリアミド系RO膜であっても、塩素系洗浄剤成分を適用することが可能である。また、安定化ハロゲンの濃度の低下が十分に抑制される。また、ケイ酸化合物によりアルカリ条件が維持される。このため、アルカリ条件における剥離効果、加水分解効果に加えて、安定化ハロゲンによる殺菌及び有機物分解効果が相乗的に作用し、芳香族ポリアミド系逆浸透膜の性能を効果的に回復させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】実施例及び比較例の結果を示すグラフである。
【
図2】実施例及び比較例の結果を示すグラフである。
【
図3】実施例及び比較例の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0026】
本発明の芳香族ポリアミド系逆浸透膜の洗浄剤は、安定化ハロゲンと、ケイ酸化合物とを含む水溶液よりなる。本発明の芳香族ポリアミド系逆浸透膜の洗浄液は、この洗浄剤の希釈水溶液よりなる。
【0027】
<芳香族ポリアミド系逆浸透膜>
本発明は、芳香族ポリアミド系逆浸透膜(ナノ濾過(NF)膜を含む)を洗浄対象とする。
【0028】
<安定化ハロゲン>
本発明において、ハロゲン系洗浄剤成分として用いる安定化ハロゲンは、1級アミノ基を有する化合物、アンモニア、及びアンモニウム塩のいずれか(以下、これらを「NH2系化合物」と称す。)と、塩素系酸化剤や臭素系酸化剤などのハロゲン系酸化剤とを混合することにより生成させることができる。塩素系酸化剤としては次亜塩素酸及び/又は次亜塩素酸塩を使用することが好ましい。また、臭素系酸化剤としては臭素(液体臭素)、塩化臭素、臭素酸、臭素酸塩、次亜臭素酸等が挙げられる。安定化ハロゲンとしてはクロラミン化合物、すなわち、以下の反応式(1),(2)に示すような反応で次亜塩素酸(HOCl)と1級アミノ基を有する化合物(XNH2)とを反応させて得られる、アミノ基の水素原子が塩素原子に置換した化合物(XNHCl)が好ましい。この化合物は、膜に対する酸化作用が弱いため、塩素耐性の低い芳香族ポリアミド系RO膜であっても洗浄剤として用いることが可能となる。
【0029】
XNH2+HOCl⇔XNHCl+H2O (1)
XNH2+OCl-⇔XNHCl+OH- (2)
【0030】
1級アミノ基を有する化合物としては、脂肪族アミン、芳香族アミン、スルファミン酸、スルファニル酸、スルファモイル安息香酸、アミノ酸などを挙げることができる。
【0031】
また、アンモニウム塩としては、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。これらのNH2系化合物の中でもスルファミン酸(NH2SO2OH)が好ましい。スルファミン酸を用いてモノクロロスルファミンを生成させると安定なクロラミン化合物となる。スルファミン酸は、炭素を含まないため洗浄剤のTOC値を増加させない。
【0032】
NH2系化合物と反応させる次亜塩素酸塩としては、次亜塩素酸ナトリウム等の次亜塩素酸のアルカリ金属塩、次亜塩素酸カルシウム等の次亜塩素酸のアルカリ土類金属塩等を用いることができる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0033】
NH2系化合物と次亜塩素酸及び/又は次亜塩素酸塩を混合してクロラミン化合物を生成させる場合、NH2系化合物と次亜塩素酸及び/又は次亜塩素酸塩とは、次亜塩素酸及び/又は次亜塩素酸塩由来の有効塩素(Cl2)と、NH2系化合物由来の窒素原子Nとのモル比であるCl2/Nモル比が、0.1~1、好ましく0.2~0.85、更に好ましくは0.3~0.7となるように用いることが、クロラミンの生成効率と安定性の点において好ましい。
【0034】
Cl2/Nモル比が上記上限よりも大きいと遊離塩素が生成する可能性があり、上記下限よりも小さいと使用したNH2系化合物に対してクロラミンの生成効率が低くなる。
【0035】
なおこの場合、次亜塩素酸及び/又は次亜塩素酸塩の量がクロラミン化合物/界面活性剤含有アルカリ水溶液中のクロラミン化合物量となる。
【0036】
<界面活性剤>
本発明の洗浄剤はアミノ基及びアミンオキシドを分子構造中に含まない非アミン系アニオン系界面活性剤を含んでもよい。非アミン系アニオン系界面活性剤としては、洗浄効果の面から、分子量1000以下の非アミン系アニオン系界面活性剤が好ましい。分子量が過度に大きい非アミン系界面活性剤では洗浄効果が得られないだけでなく、膜を汚染する場合がある。
【0037】
このような非アミン系アニオン系界面活性剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、ラウリル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、α-スルホ脂肪酸メチルエステル塩、α-オレフィンスルホン酸塩などの1種又は2種以上を用いることができる。
【0038】
<ケイ酸化合物>
ケイ酸化合物(ケイ酸塩)としては、メタケイ酸ナトリウム、メタケイ酸カリウム、メタケイ酸リチウム、メタケイ酸カルシウム、メタケイ酸マグネシウム等のメタケイ酸塩、オルトケイ酸ナトリウム等のオルトケイ酸塩、ピロケイ酸ナトリウム等のピロケイ酸塩などの1種又は2種以上が好適であり、中でもメタケイ酸ナトリウムが好適である。
【0039】
<洗浄剤のpH及び各成分濃度>
本発明の洗浄剤のpHは、ケイ酸化合物の存在により、通常は13以上となっている。洗浄剤中の安定化ハロゲン濃度は0.1~2Mであり、ケイ酸化合物濃度は0.01~0.05Mであり、非アミン系界面活性剤濃度は0.5M以下,例えば0.002~0.5Mであることが好ましい。
【0040】
<洗浄液のpH及び各成分濃度>
本発明の洗浄液は、この洗浄剤を水で希釈した水溶液よりなる。この洗浄液のpHが11未満であると、透過流束を十分に回復させることができない。洗浄液のpHは高い方が洗浄効果に優れるが、高過ぎると、洗浄液としての取り扱い性が悪くなり、RO膜等の透過膜が劣化する危険性が高くなる。洗浄液のpHは好ましくは11以上13以下である。
【0041】
この洗浄液中のクロラミン化合物等の安定化ハロゲン濃度は0.001~0.02Mであることが好ましく、特に0.005~0.02Mであることが好ましい。洗浄液の安定化ハロゲン濃度が低過ぎると十分な洗浄効果を得ることができず、高過ぎるとRO膜等の透過膜を劣化させるおそれがある。なお、クロラミン化合物濃度0.1Mとは全塩素濃度で7100mg-Cl2/Lに相当する濃度である。全塩素濃度はJIS K0400-33-10.1999等で規定するDPD法により測定することができる。
【0042】
クロラミン化合物は、従来、透過膜のスライムコントロール剤として用いられている。スライムコントロール剤としてのクロラミン化合物は、通常、全塩素濃度として0.05~50mg-Cl2/L程度の低濃度で用いられる。その際のpHは10未満である。これに対し、本発明の洗浄液は、クロラミン化合物を上記のような高濃度で含有し、pH11以上の高いアルカリ性を有し高い洗浄効果を有する。
【0043】
希釈液よりなる該洗浄液中のケイ酸化合物濃度は、0.0001~0.0005Mであることが好ましい。
【0044】
また、洗浄液中の非アミン系アニオン系界面活性剤の濃度は、0.005M以下であることが好ましく、特に0.0002~0.005Mであることが好ましい。
【0045】
<洗浄剤及び洗浄液の製造方法>
本発明の洗浄剤に用いられる安定化ハロゲンは、モノクロロスルファミン酸等であり、スルファミン酸等のNH2系化合物の水溶液に、次亜塩素酸及び/又は次亜塩素酸塩を添加して混合することにより調製することができる。上記水溶液は、水の量を50~90重量%とすることが好ましい。ケイ酸化合物及び非アミン系アニオン系界面活性剤は、洗浄剤の調製工程で添加されてもよく、安定化ハロゲンの水溶液に添加されてもよい。
【0046】
スルファミン酸等の1級アミノ基を有する化合物は、塩であってもよい。この塩としては、クロラミン化合物/界面活性剤含有アルカリ水溶液としたときに可溶性のものが挙げられ、スルファミン酸ナトリウム、スルファミン酸カリウム、スルファミン酸アンモニウム等を用いることができる。
【0047】
本発明の洗浄液は、このようにして製造された本発明の洗浄剤を水、好ましくは純水で希釈することにより製造される。ただし、本発明の洗浄液は本発明の洗浄剤を経ることなく、直接上記と同様の方法で製造することもできる。
【0048】
<その他の洗浄剤成分>
本発明で用いる洗浄剤又は洗浄液には、その洗浄効果を損なわない範囲において、他の洗浄剤成分を添加してもよい。例えば、本発明の洗浄剤又は洗浄液は、アルカリ剤を含んでいてもよい。アルカリ剤は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物であってよい。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0049】
<洗浄方法>
本発明の洗浄液を用い芳香族ポリアミド系逆浸透膜を洗浄する方法としては、この洗浄液に芳香族ポリアミド系逆浸透膜を接触させればよく、特に制限はない。通常、透過膜モジュールの原水側に洗浄液を導入して静置する浸漬洗浄が行われる。
【0050】
洗浄液による浸漬洗浄時間には特に制限はなく、目的とする膜性能の回復率が得られる程度であればよいが、通常2~24時間程度である。
【0051】
上記の洗浄液による洗浄後は、通常、純水等の高純度水を通水して仕上げ洗浄を行う。
【0052】
なお、本発明による芳香族ポリアミド系逆浸透膜の洗浄に前後して、他の洗浄液による膜洗浄を行ってもよい。本発明の洗浄液を用いた芳香族ポリアミド系逆浸透膜の洗浄の前又は後に、クロラミン化合物及び界面活性剤を含まないアルカリ水溶液による洗浄を行ってもよい。また、スケールや金属コロイド除去に有効な酸洗浄を行ってもよい。
【実施例0053】
[実施例1~3及び比較例1~3]
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0054】
以下の実施例及び比較例では、排水処理プラントから回収した、有機物で汚染されたRO膜(Filmtec SW30)を、洗浄液で満たした容器中に入れ、容器中の洗浄液を35℃の条件で容器に接続したポンプで循環させた。汚染膜面積0.165m2に対し、0.9Lの洗浄液を用いた。一定時間経過毎に洗浄液のpHと全塩素(DPD法)を測定し、全塩素の消費量を計算した。
【0055】
[塩素消費量]=[初期塩素濃度]-[一定時間後の塩素濃度]
【0056】
<洗浄液>
洗浄液として、表1の成分を含むpH12の水酸化ナトリウム水溶液を用いた。
【0057】
【0058】
実施例1及び比較例1におけるpH及び塩素消費量の経時変化を
図1,2に示し、実施例2,3及び比較例2,3の塩素消費量の経時変化を
図3に示す。実施例は、比較例に比べて、pHが低下しにくく、塩素消費量が減少しにくかった。これらから、実施例では、安定化ハロゲンの濃度の低下が十分に抑制され、アルカリ条件が維持されることがわかる。このため、実施例の洗浄液によれば、アルカリ条件における剥離効果、加水分解効果に加えて、安定化ハロゲンによる殺菌及び有機物分解効果が相乗的に作用し、芳香族ポリアミド系逆浸透膜の性能を効果的に回復させることができる。
前記安定化ハロゲンが、1級アミノ基を有する化合物、アンモニア及びアンモニウム塩よりなる群から選ばれる1種又は2種以上と、次亜塩素酸及び/又は次亜塩素酸塩との反応物である請求項1の芳香族ポリアミド系逆浸透膜の洗浄剤。