IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人九州大学の特許一覧 ▶ 日立化成株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024097676
(43)【公開日】2024-07-19
(54)【発明の名称】エステル化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 67/38 20060101AFI20240711BHJP
   C07C 69/33 20060101ALI20240711BHJP
   C07C 69/67 20060101ALI20240711BHJP
   B01J 31/38 20060101ALI20240711BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20240711BHJP
【FI】
C07C67/38
C07C69/33
C07C69/67
B01J31/38 Z
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023001309
(22)【出願日】2023-01-06
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 第31回キャラクタリゼーション講習会 開催日:令和4年1月11日 [刊行物等] ウェブサイトのアドレス https://confit.atlas.jp/guide/event-img/csj102nd/B204-4am-01/public/pdf?type=in 掲載日:令和4年3月9日 [刊行物等] 日本化学会 第102春季年会 開催日:令和4年3月26日
(71)【出願人】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100202418
【弁理士】
【氏名又は名称】河原 肇
(74)【代理人】
【識別番号】100210697
【弁理士】
【氏名又は名称】日浅 里美
(72)【発明者】
【氏名】徳永 信
(72)【発明者】
【氏名】村山 美乃
(72)【発明者】
【氏名】山本 英治
(72)【発明者】
【氏名】白倉 那桜
(72)【発明者】
【氏名】シム ジュヨン
(72)【発明者】
【氏名】春口 一騎
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169AA20
4G169BA01A
4G169BA04A
4G169BA05A
4G169BA05B
4G169BA06A
4G169BA21A
4G169BA21B
4G169BA42A
4G169BB02A
4G169BB02B
4G169BC68A
4G169BC72A
4G169BC72B
4G169BC75A
4G169BE01A
4G169BE01B
4G169BE13A
4G169BE16A
4G169BE16B
4G169BE17A
4G169BE17B
4G169BE22A
4G169BE22B
4G169BE27A
4G169BE27B
4G169BE28A
4G169BE28B
4G169BE33A
4G169BE33B
4G169BE34A
4G169BE34B
4G169BE35A
4G169BE35B
4G169CB25
4G169CB75
4G169DA05
4G169DA10
4G169FB14
4G169FB30
4G169FB44
4H006AA02
4H006AB84
4H006AC48
4H006BA25
4H006BA48
4H006BA55
4H006BB11
4H006BE40
4H006KA34
4H006KC12
4H039CA66
4H039CF10
(57)【要約】
【課題】エチレン性二重結合を有する化合物と、1級又は2級アルコールと、一酸化炭素とを原料としてエステル化合物を製造する際に用いる高活性な触媒系を提供する。
【解決手段】特定の有機ホスフィン化合物又は有機ホスフォニウム塩、ハロゲン化含窒素有機化合物塩、酸性化合物、並びにNi、Pd、及びPtから選ばれる少なくとも1種の周期表第10族元素が酸化物担体に担持された触媒を含む触媒系。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン性二重結合を有する化合物と、
一般式(1):
OH (1)
(Rは、炭素原子数1~10の炭化水素基であり、該炭化水素基は、エチレン性二重結合を有さず、脂環又は芳香環を含んでいてもよく、脂環又は芳香環であってもよい。)
で示される1級又は2級アルコールと、
一酸化炭素とを、
一般式(2)、又は一般式(3)で示される有機ホスフィン化合物、及び一般式(4)で示される有機ホスフォニウム塩からなる群より選ばれる少なくとも1つの有機リン化合物、
ハロゲン化含窒素有機化合物塩、
酸性化合物、並びに
Ni、Pd、及びPtから選ばれる少なくとも1種の周期表第10族元素が酸化物担体に担持された触媒
の存在下で反応させるエステル化合物の製造方法。
【化1】
(R~R16は、それぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1~4のアルキル基、又は炭素原子数1~3のアルコキシ基であり、全て同一であってもよく、異なっていてもよい。)
【化2】
(R17、及びR18は、それぞれ独立に、炭素原子数1~6のアルキル基、炭素原子数6~9のシクロアルキル基、又は炭素原子数6~9のアリール基であり、同一であってもよく、異なっていてもよく、R19~R27は、それぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1~4のアルキル基、炭素原子数1~4のアルコキシ基、又は炭素原子数2~8のジアルキルアミノ基であり、全て同一であってもよく、一部又は全部が異なっていてもよい。)
【化3】
(R28~R30は、それぞれ独立に、炭素原子数1~6のアルキル基であり、全て同一であってもよく、異なっていてもよく、Xは、1価のフッ素原子含有アニオンを表す。)
【請求項2】
窒素原子含有複素環式芳香族化合物の存在下で反応させる請求項1に記載のエステル化合物の製造方法。
【請求項3】
前記一般式(2)におけるR~R16が、それぞれ独立に、水素原子、メチル基、又はメトキシ基である請求項1又は2に記載のエステル化合物の製造方法。
【請求項4】
前記一般式(2)で示される有機ホスフィン化合物が、トリフェニルホスフィン、トリ(o-トリル)ホスフィン、トリ(m-トリル)ホスフィン、トリ(p-トリル)ホスフィン、トリ(3,5-キシリル)ホスフィン、ジフェニル(p-トリル)ホスフィン、又はトリ(2-メトキシフェニル)ホスフィンである、請求項1又は2に記載のエステル化合物の製造方法。
【請求項5】
前記一般式(3)で示される有機ホスフィン化合物が、2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2’,6’-ジメトキシビフェニルである、請求項1又は2に記載のエステル化合物の製造方法。
【請求項6】
前記一般式(4)で示される有機ホスフォニウム塩が、テトラフルオロホウ酸トリ(t-ブチル)ホスフォニウムである、請求項1又は2に記載のエステル化合物の製造方法。
【請求項7】
前記ハロゲン化含窒素有機化合物塩が、塩化4級アンモニウム塩である、請求項1又は2に記載のエステル化合物の製造方法。
【請求項8】
前記ハロゲン化含窒素有機化合物塩が、塩化テトラ-n-ブチルアンモニウムである請求項1又は2に記載のエステル化合物の製造方法。
【請求項9】
前記酸性化合物が、アルキルスルホン酸、アルキルスルホン酸のアンモニウム塩、アルキルスルホン酸のピリジニウム塩、アリールスルホン酸、アリールスルホン酸のアンモニウム塩、及びアリールスルホン酸のピリジニウム塩からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1又は2に記載のエステル化合物の製造方法。
【請求項10】
前記酸性化合物が、p-トルエンスルホン酸又はメタンスルホン酸である、請求項1又は2に記載のエステル化合物の製造方法。
【請求項11】
前記窒素原子含有複素環式芳香族化合物が、ピリジン及びピコリンから選ばれる少なくとも1種である、請求項2に記載のエステル化合物の製造方法。
【請求項12】
前記周期表第10族元素がPdである、請求項1又は2に記載のエステル化合物の製造方法。
【請求項13】
前記酸化物担体が、アルミナ、マグネシア、チタニア、ジルコニア、及びこれらの物理的混合物からなる群より選ばれる少なくとも一つの金属酸化物である、請求項1又は2に記載のエステル化合物の製造方法。
【請求項14】
前記Ni、Pd、及びPtから選ばれる少なくとも1種の周期表第10族元素が酸化物担体に担持された触媒中の、前記周期表第10族元素の合計質量部が、100質量部の酸化物担体に対して0.1~20質量部である請求項1又は2に記載のエステル化合物の製造方法。
【請求項15】
前記一般式(1)におけるRが、炭素原子数1~5のアルキル基である請求項1又は2に記載のエステル化合物の製造方法。
【請求項16】
前記一般式(1)で示される1級又は2級アルコールが、メタノール又はエタノールである請求項1又は2に記載のエステル化合物の製造方法。
【請求項17】
前記エチレン性二重結合を有する化合物が、一般式(5)で示される化合物である請求項1又は2に記載のエステル化合物の製造方法。
【化4】
(R31は水素原子又は炭素原子数1~20の炭化水素基であり、該炭化水素基は、脂環又は芳香環を含んでいてもよく、脂環又は芳香環であってもよく、Yは、水素原子又は炭素原子数2~5のアシロキシ基である。)
【請求項18】
前記エチレン性二重結合を有する化合物が、炭素原子数1~22のα-オレフィン又は炭素原子数4~10のカルボン酸ビニルである請求項1又は2に記載のエステル化合物の製造方法。
【請求項19】
前記エチレン性二重結合を有する化合物が、1-ヘキセン、1-オクテン又は酢酸ビニルである請求項1又は2に記載のエステル化合物の製造方法。
【請求項20】
一般式(2)、又は一般式(3)で示される有機ホスフィン化合物、及び一般式(4)で示される有機ホスフォニウム塩からなる群より選ばれる少なくとも1つの有機リン化合物、
ハロゲン化含窒素有機化合物塩、
酸性化合物、並びに
Ni、Pd、及びPtから選ばれる少なくとも1種の周期表第10族元素が酸化物担体に担持された触媒
より構成される、
エチレン性二重結合を有する化合物と、
一般式(1):
OH (1)
(Rは、炭素原子数1~10の炭化水素基であり、該炭化水素基は、エチレン性二重結合を有さず、脂環又は芳香環を含んでいてもよく、脂環又は芳香環であってもよい。)
で示される1級又は2級アルコールと、
一酸化炭素とから、
エステル化合物を製造するための触媒組成物。
【化5】
(R~R16は、それぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1~4のアルキル基、又は炭素原子数1~3のアルコキシ基であり、全て同一であってもよく、異なっていてもよい。)
【化6】
(R17、及びR18は、それぞれ独立に、炭素原子数1~6のアルキル基、炭素原子数6~9のシクロアルキル基、又は炭素原子数6~9のアリール基であり、同一であってもよく、異なっていてもよく、R19~R27は、それぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1~4のアルキル基、炭素原子数1~4のアルコキシ基、又は炭素原子数2~8のジアルキルアミノ基であり、全て同一であってもよく、一部又は全部が異なっていてもよい。)
【化7】
(R28~R30は、それぞれ独立に、炭素原子数1~6のアルキル基であり、全て同一であってもよく、異なっていてもよく、Xは、1価のフッ素原子含有アニオンを表す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エステル化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エステル化合物は、溶剤、可塑剤、香料、乳化剤、保湿剤、医薬品などの中間原料などとして広く用いられている。エステル化合物を製造する有効な方法として、エチレン性二重結合を有する化合物と、アルコール及び一酸化炭素とを、周期表第10族元素の存在下で反応させるアルコキシカルボニル化が知られている。
【0003】
例えば特許文献1には、水、アルコール及び/又はカルボン酸の存在下に、パラジウム触媒と特定のトリオルガノホスフィンを、トリオルガノホスフィンとパラジウムのモル比が10:1より低い値で用いて、オレフィンを一酸化炭素でカルボニル化する方法が開示されている。
【0004】
特許文献2には、水及び分岐又は直鎖のアルカノールからなる水酸基含有化合物から選択される水酸基の供給源及びパラジウム又はその化合物と特定の二座ホスフィンとの組み合わせにより得られる触媒系の存在下で、プロペン、1-ブテン、1-ヘキセンなどのエチレン性不飽和化合物を一酸化炭素と反応させることでカルボニル化する方法が開示されている。
【0005】
これらの製造方法により、エチレン性不飽和化合物からエステル化合物を製造することができる。しかし、これらの製造方法は、高価な錯体触媒を用いているため、製造コストが高くなる課題があった。特に、錯体触媒として均一系触媒を用いる場合、錯体触媒の回収には、反応後に蒸留し、エステル化合物、未反応のエチレン性不飽和化合物、及びアルコールを蒸発させ、残渣として錯体触媒を回収するなどの操作が必要である。したがって、プロセスが複雑になることに加え、蒸留での加熱及び濃縮により錯体触媒が失活し、回収しても繰り返し反応を行えないことが課題となっていた。
【0006】
反応後に錯体触媒を容易に回収する方法として、錯体触媒を担体に担持させることが知られており、例えば特許文献3には、ヒドロキシル基の供給源及び(a)第VIIIB族の金属もしくはその化合物、及び(b)特定の二座ホスフィンを組み合わせた触媒系の存在下で、酢酸ビニルを一酸化炭素と反応させる酢酸ビニルのカルボニル化の方法が開示されている。特許文献3には、不溶性担体の表面に存在するか、前もって担体に挿入された相補的反応性基を使用して二座ホスフィンを固定し、触媒系を担持することも開示されている。
【0007】
非特許文献1には、担体としてスルホン酸基を導入したイオン交換樹脂に、錯体触媒を担持させ、酢酸ビニルのカルボニル化を行う方法が開示されている。
【0008】
非特許文献2には、Montmorilloniteの表面にパラジウムを担持させて、安息香酸ビニルのカルボニル化を行う方法が開示されている。
【0009】
特許文献4には、担体に担持された周期表第VIII族金属、配位子及び酸で構成されたカルボニル化触媒系が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭57-134437号公報
【特許文献2】特表第2005-535695号公報
【特許文献3】特表2006-508162号公報
【特許文献4】特開平8-299803号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Adv.Synth.Catal.、2006年、348巻、1447-1458頁
【非特許文献2】J.Org.Chem.、1995年、60巻、250-252頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、従来の、担体に担持した触媒によるエステル化合物の製造方法は、活性が低い課題があった。
【0013】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、高活性な、エステル化合物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、エチレン性二重結合を有する化合物と、特定の1級又は2級アルコールと、一酸化炭素とを、特定の有機ホスフィン化合物又は有機ホスフォニウム塩、ハロゲン化含窒素有機化合物塩、酸性化合物、並びにNi、Pd,及びPtから選ばれる少なくとも1種の周期表第10族元素が酸化物担体に担持された触媒の存在下で反応させればよいことを見出し、本発明に想到した。
【0015】
すなわち、本発明は以下の[1]~[20]に関する。
[1]
エチレン性二重結合を有する化合物と、
一般式(1):
OH (1)
(Rは、炭素原子数1~10の炭化水素基であり、該炭化水素基は、エチレン性二重結合を有さず、脂環又は芳香環を含んでいてもよく、脂環又は芳香環であってもよい。)
で示される1級又は2級アルコールと、
一酸化炭素とを、
一般式(2)、又は一般式(3)で示される有機ホスフィン化合物、及び一般式(4)で示される有機ホスフォニウム塩からなる群より選ばれる少なくとも1つの有機リン化合物、
ハロゲン化含窒素有機化合物塩、
酸性化合物、並びに
Ni、Pd、及びPtから選ばれる少なくとも1種の周期表第10族元素が酸化物担体に担持された触媒
の存在下で反応させるエステル化合物の製造方法。
【化1】
(R~R16は、それぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1~4のアルキル基、又は炭素原子数1~3のアルコキシ基であり、全て同一であってもよく、異なっていてもよい。)
【化2】
(R17、及びR18は、それぞれ独立に、炭素原子数1~6のアルキル基、炭素原子数6~9のシクロアルキル基、又は炭素原子数6~9のアリール基であり、同一であってもよく、異なっていてもよく、R19~R27は、それぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1~4のアルキル基、炭素原子数1~4のアルコキシ基、又は炭素原子数2~8のジアルキルアミノ基であり、全て同一であってもよく、一部又は全部が異なっていてもよい。)
【化3】
(R28~R30は、それぞれ独立に、炭素原子数1~6のアルキル基であり、全て同一であってもよく、異なっていてもよく、Xは、1価のフッ素原子含有アニオンを表す。)
[2]
窒素原子含有複素環式芳香族化合物の存在下で反応させる[1]に記載のエステル化合物の製造方法。
[3]
前記一般式(2)におけるR~R16が、それぞれ独立に、水素原子、メチル基、又はメトキシ基である[1]又は[2]に記載のエステル化合物の製造方法。
[4]
前記一般式(2)で示される有機ホスフィン化合物が、トリフェニルホスフィン、トリ(o-トリル)ホスフィン、トリ(m-トリル)ホスフィン、トリ(p-トリル)ホスフィン、トリ(3,5-キシリル)ホスフィン、ジフェニル(p-トリル)ホスフィン、又はトリ(2-メトキシフェニル)ホスフィンである、[1]~[3]のいずれかに記載のエステル化合物の製造方法。
[5]
前記一般式(3)で示される有機ホスフィン化合物が、2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2’,6’-ジメトキシビフェニルである、[1]~[4]のいずれかに記載のエステル化合物の製造方法。
[6]
前記一般式(4)で示される有機ホスフォニウム塩が、テトラフルオロホウ酸トリ(t-ブチル)ホスフォニウムである、[1]~[5]のいずれかに記載のエステル化合物の製造方法。
[7]
前記ハロゲン化含窒素有機化合物塩が、塩化4級アンモニウム塩である、[1]~[6]のいずれかに記載のエステル化合物の製造方法。
[8]
前記ハロゲン化含窒素有機化合物塩が、塩化テトラ-n-ブチルアンモニウムである[1]~[7]のいずれかに記載のエステル化合物の製造方法。
[9]
前記酸性化合物が、アルキルスルホン酸、アルキルスルホン酸のアンモニウム塩、アルキルスルホン酸のピリジニウム塩、アリールスルホン酸、アリールスルホン酸のアンモニウム塩、及びアリールスルホン酸のピリジニウム塩からなる群より選ばれる少なくとも1種である[1]~[8]のいずれかに記載のエステル化合物の製造方法。
[10]
前記酸性化合物が、p-トルエンスルホン酸又はメタンスルホン酸である、[1]~[9]のいずれかに記載のエステル化合物の製造方法。
[11]
前記窒素原子含有複素環式芳香族化合物が、ピリジン及びピコリンから選ばれる少なくとも1種である、[2]に記載のエステル化合物の製造方法。
[12]
前記周期表第10族元素がPdである、[1]~[11]のいずれかに記載のエステル化合物の製造方法。
[13]
前記酸化物担体が、アルミナ、マグネシア、チタニア、ジルコニア、及びこれらの物理的混合物からなる群より選ばれる少なくとも一つの金属酸化物である、[1]~[12]のいずれかに記載のエステル化合物の製造方法。
[14]
前記Ni、Pd、及びPtから選ばれる少なくとも1種の周期表第10族元素が酸化物担体に担持された触媒中の、前記周期表第10族元素の合計質量部が、100質量部の酸化物担体に対して0.1~20質量部である[1]~[13]のいずれかに記載のエステル化合物の製造方法。
[15]
前記一般式(1)におけるRが、炭素原子数1~5のアルキル基である[1]~[14]のいずれかに記載のエステル化合物の製造方法。
[16]
前記一般式(1)で示される1級又は2級アルコールが、メタノール又はエタノールである[1]~[15]のいずれかに記載のエステル化合物の製造方法。
[17]
前記エチレン性二重結合を有する化合物が、一般式(5)で示される化合物である[1]~[16]のいずれかに記載のエステル化合物の製造方法。
【化4】
(R31は水素原子又は炭素原子数1~20の炭化水素基であり、該炭化水素基は、脂環又は芳香環を含んでいてもよく、脂環又は芳香環であってもよく、Yは、水素原子又は炭素原子数2~5のアシロキシ基である。)
[18]
前記エチレン性二重結合を有する化合物が、炭素原子数1~22のα-オレフィン又は炭素原子数4~10のカルボン酸ビニルである[1]~[17]のいずれかに記載のエステル化合物の製造方法。
[19]
前記エチレン性二重結合を有する化合物が、1-ヘキセン、1-オクテン又は酢酸ビニルである[1]~[18]のいずれかに記載のエステル化合物の製造方法。
[20]
一般式(2)、又は一般式(3)で示される有機ホスフィン化合物、及び一般式(4)で示される有機ホスフォニウム塩からなる群より選ばれる少なくとも1つの有機リン化合物、
ハロゲン化含窒素有機化合物塩、
酸性化合物、並びに
Ni、Pd、及びPtから選ばれる少なくとも1種の周期表第10族元素が酸化物担体に担持された触媒
より構成される、
エチレン性二重結合を有する化合物と、
一般式(1):
OH (1)
(Rは、炭素原子数1~10の炭化水素基であり、該炭化水素基は、エチレン性二重結合を有さず、脂環又は芳香環を含んでいてもよく、脂環又は芳香環であってもよい。)
で示される1級又は2級アルコールと、
一酸化炭素とから、
エステル化合物を製造するための触媒組成物。
【化5】
(R~R16は、それぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1~4のアルキル基、又は炭素原子数1~3のアルコキシ基であり、全て同一であってもよく、異なっていてもよい。)
【化6】
(R17、及びR18は、それぞれ独立に、炭素原子数1~6のアルキル基、炭素原子数6~9のシクロアルキル基、又は炭素原子数6~9のアリール基であり、同一であってもよく、異なっていてもよく、R19~R27は、それぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1~4のアルキル基、炭素原子数1~4のアルコキシ基、又は炭素原子数2~8のジアルキルアミノ基であり、全て同一であってもよく、一部又は全部が異なっていてもよい。)
【化7】
(R28~R30は、それぞれ独立に、炭素原子数1~6のアルキル基であり、全て同一であってもよく、異なっていてもよく、Xは、1価のフッ素原子含有アニオンを表す。)
【発明の効果】
【0016】
本発明のエステル化合物の製造方法によれば、溶剤、可塑剤、香料などとして有用なエステル化合物を効率よく製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明のエステル化合物の製造方法について詳細に説明する。なお、本発明は、以下に示す実施形態のみに限定されるものではない。
【0018】
[エステル化合物の製造方法]
一実施形態のエステル化合物の製造方法は、エチレン性二重結合を有する化合物と、一般式(1):ROH(Rは、炭素原子数1~10の炭化水素基であり、該炭化水素基は、エチレン性二重結合を有さず、脂環又は芳香環を含んでいてもよく、脂環又は芳香環であってもよい。)で示される1級又は2級アルコールと、一酸化炭素とを、一般式(2)、又は一般式(3)で示される有機ホスフィン化合物、及び一般式(4)で示される有機ホスフォニウム塩からなる群より選ばれる少なくとも1つの有機リン化合物、ハロゲン化含窒素有機化合物塩、酸性化合物、並びにNi、Pd、及びPtから選ばれる少なくとも1種の周期表第10族元素が酸化物担体に担持された触媒、を含む触媒組成物の存在下で反応させることにより、エステル化合物を生成させる工程を含む。
【化8】
(R~R16は、それぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1~4のアルキル基、又は炭素原子数1~3のアルコキシ基であり、全て同一であってもよく、異なっていてもよい。)
【化9】
(R17、及びR18は、それぞれ独立に、炭素原子数1~6のアルキル基、炭素原子数6~9のシクロアルキル基、又は炭素原子数6~9のアリール基であり、同一であってもよく、異なっていてもよく、R19~R27は、それぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1~4のアルキル基、炭素原子数1~4のアルコキシ基、又は炭素原子数2~8のジアルキルアミノ基であり、全て同一であってもよく、一部又は全部が異なっていてもよい。)
【化10】
(R28~R30は、それぞれ独立に、炭素原子数1~6のアルキル基であり、全て同一であってもよく、異なっていてもよく、Xは、1価のフッ素原子含有アニオンを表す。)
生成するエステル化合物は、原料となるエチレン性二重結合を有する化合物及び一般式(1)で示される1級又は2級アルコールに対応したものとなる。例えば、エチレン性二重結合を有する化合物が、α-オレフィンの場合、生成するエステル化合物は、α-オレフィンの1位又は2位にカルボニル炭素が結合しているカルボン酸と1級又は2級アルコールとのエステルとなる。エチレン性二重結合を有する化合物が酢酸ビニル、1級又は2級アルコールがエタノールの場合、生成するエステル化合物は、3-アセトキシプロピオン酸エチル及び2-アセトキシプロピオン酸エチルとなる。
【0019】
<エチレン性二重結合を有する化合物>
一実施形態のエステル化合物の製造方法では、前記触媒組成物の存在下、エチレン性二重結合を有する化合物と一酸化炭素、及びアルコールとを反応させ、カルボニル化反応生成物としてエステル化合物を製造する。
【0020】
エチレン性二重結合を有する化合物としては、1分子中に一つ以上のエチレン性二重結合を有し、カルボニル化反応を阻害する官能基を有しない化合物を用いることができる。
【0021】
高活性に、工業的に有用なエステル化合物を製造する観点から、エチレン性二重結合を有する化合物としては、一般式(5)で示される化合物を用いることが好ましい。
【0022】
【化11】
(R31は水素原子又は炭素原子数1~20の炭化水素基であり、該炭化水素基は、脂環又は芳香環を含んでいてもよく、脂環又は芳香環であってもよく、Yは、水素原子又は炭素原子数2~5のアシロキシ基である。)
【0023】
式(5)において、R31は水素原子又は炭素原子数1~20の炭化水素基であり、該炭化水素基は、脂環又は芳香環を含んでいてもよく、脂環又は芳香環であってもよい。炭素原子数1~20の炭化水素基の炭素原子数は4~8であることが好ましい。Yは、水素原子又は炭素原子数2~5のアシロキシ基である。R31が水素原子の場合、Yは炭素原子数2~5のアシロキシ基であることが好ましい。一般式(5)で示される化合物は、1-ヘキセン、1-オクテン、又は酢酸ビニルであることが好ましく、1-ヘキセン、又は酢酸ビニルであることが特に好ましい。
【0024】
エチレン性二重結合を有する化合物としては、官能基を有しないオレフィンが好ましい。具体的には、エチレン、プロピレン、1-ブテン、2-ブテン、1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、2-オクテン、cis-4-オクテン、trans-4-オクテン、スチレン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、ノルボルネンなどが挙げられる。
【0025】
エチレン性二重結合を有する化合物としては、炭素原子数1~22のα-オレフィンがより好ましい。炭素原子数1~22のα-オレフィンとしては、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、及び1-オクテンが好ましく、1-ヘキセン、及び1-オクテンがより好ましい。
【0026】
官能基を有する、エチレン性二重結合を有する化合物としては、炭素原子数4~10のカルボン酸ビニルが好ましい。具体的には酢酸ビニル、及びプロピオン酸ビニルが挙げられ、酢酸ビニルがより好ましい。
【0027】
<1級又は2級アルコール>
一般式(1):ROHで示される1級又は2級アルコールにおけるRは、炭素原子数1~10の炭化水素基であり、該炭化水素基は、エチレン性二重結合を有さず、脂環又は芳香環を含んでいてもよく、脂環又は芳香環であってもよい。具体的には、一般式(1)で示される1級又は2級アルコールとして、メタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロピルアルコール、1-ブタノール、イソブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、1-ヘキサノール、1-オクタノール、2-エチルヘキサノール、シクロヘキサンメタノール、ベンジルアルコールなどが挙げられる。エステル化合物の製造反応の活性向上、エステル化合物との分離のしやすさ、及び入手の容易性の観点から、Rが炭素原子数1~5のアルキル基である一般式(1)で示される1級又は2級アルコールを用いることが好ましく、メタノール又はエタノールを用いることがより好ましく、エタノールを用いることが最も好ましい。
【0028】
一般式(1)で示される1級又は2級アルコールがエタノールである場合、エタノールとしては、植物に由来するバイオエタノールを用いることも好ましい。植物に由来するバイオエタノールとしては、市販品を用いてもよい。
【0029】
一実施形態のエステル化合物の製造方法において、エチレン性二重結合を有する化合物の使用量(仕込み量)に対する一般式(1)で示される1級又は2級アルコールの使用量(仕込み量)は、エステル化合物をより高収率及びより高選択率で製造できるため、モル比(エチレン性二重結合を有する化合物:1級又は2級アルコール)で1:0.5~1:100であることが好ましく、1:1~1:10であることがより好ましく、1:1.2~1:5であることがさらに好ましい。
【0030】
<一酸化炭素>
一実施形態では、一酸化炭素として、一酸化炭素を含むガスを用いることが好ましい。一酸化炭素を含むガスは、一酸化炭素のみを含むガスであってもよいし、一酸化炭素の他に、窒素ガス、アルゴンなどの不活性ガス、及び水素ガスから選ばれる少なくとも1種を含むガスであってもよい。一酸化炭素を含むガスは、空気、酸素などの酸化性ガスを含まないことが好ましい。
【0031】
一実施形態のエステル化合物の製造方法において、一酸化炭素として、プラスチック又はバイオ原料を熱分解して得たものを用いることも好ましい。この場合、エステル化合物の製造反応の前に、プラスチック又はバイオ原料を熱分解して一酸化炭素を発生させる工程(一酸化炭素生成工程)を行う。
【0032】
プラスチックを熱分解して一酸化炭素を生成させる方法には、公知の方法、例えば部分酸化による廃プラスチックガス化プロセスなどを用いることができる。
【0033】
プラスチックとしては、廃プラスチックを用いることが好ましい。廃プラスチックとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)樹脂、塩化ビニル樹脂、PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂等のエンジニアリングプラスチック、及びエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂が挙げられる。
【0034】
バイオ原料としては、セルロース、ヘミセルロース、リグニンなどを含む木質系バイオマス及び草木系バイオマスなどの植物由来のバイオマスなどが挙げられる。
【0035】
反応時における一酸化炭素の使用量は、例えば、エチレン性二重結合を有する化合物と、一般式(1)で示される1級又は2級アルコールとを含む反応溶液を仕込んで、一酸化炭素を含むガス雰囲気とされた反応容器内の一酸化炭素の分圧が、0.05~20MPaとなる範囲内であることが好ましく、0.1~10MPaとなる範囲内であることがより好ましく、1~6MPaとなる範囲内であることがさらに好ましい。反応時における上記反応容器内の一酸化炭素の分圧が、1~6MPaの範囲内で維持されるように、反応により消費された一酸化炭素を補いながら反応を行うことが特に好ましい。
【0036】
エステル化合物の製造反応の触媒組成物の成分のうちNi、Pd及びPtから選ばれる少なくとも1種の周期表第10族元素に、エチレン性二重結合を有する化合物と、1級又は2級アルコールと、一酸化炭素が配位し、前記周期表第10元素の作用によりこれらが結合することで、エステル化合物の製造反応が進行する。反応時における上記反応容器内の一酸化炭素の分圧が0.05MPa以上であると、前記周期表第10族元素への一酸化炭素の配位が進み、反応がスムーズに進行する。反応時における上記反応容器内の一酸化炭素の分圧が20MPa以下であると、エチレン性二重結合を有する化合物の前記周期表第10族元素への配位を一酸化炭素が阻害することがないため、反応がスムーズに進行する。
【0037】
<Ni、Pd及びPtから選ばれる少なくとも1種の周期表第10族元素が酸化物担体に担持された触媒>
【0038】
一実施形態のエステル化合物の製造方法で用いる触媒は、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、及び白金(Pt)から選ばれる少なくとも1種の周期表第10族元素が酸化物担体に担持されたものである。前記元素としては、特にパラジウムが好ましい。Ni、Pd、及びPtから選ばれる少なくとも1種の周期表第10族元素は金属状態で担体に担持されていてもよく、酸化物の状態で担持されていてもよいが、金属状態(0価)で担持されていることが好ましい。
【0039】
前記酸化物担体としては、例えば、シリカなどの非金属酸化物;アルミナ、マグネシア、チタニア、ジルコニア、及びこれらの物理的混合物などの金属酸化物;シリカ-アルミナ、シリカ-マグネシアなどの複合酸化物などが挙げられる。これらの中でも、エステル化合物の製造反応の活性向上の観点から、アルミナ、マグネシア、チタニア、ジルコニア、及びこれらの物理的混合物からなる群より選ばれる少なくとも一つの金属酸化物が好ましく、ジルコニアが特に好ましい。
【0040】
担体の形状は、懸濁床式、固定床式等の反応形式に応じて選択でき、例えば、粉末状、粒状、繊維状、ペレット状、ハニカム状等の何れであってもよい。
【0041】
一実施形態のエステル化合物の製造方法において、触媒中のNi、Pd、及びPtから選ばれる少なくとも1種の周期表第10族元素の合計質量部は、触媒活性と触媒の安定性を損なわない範囲で定められる。前記周期表第10族元素の合計質量部(金属としての質量部)は、100質量部の酸化物担体に対して、0.1~20質量部であることが好ましく、0.5~15質量部であることがより好ましく、2~10質量部であることが特に好ましい。周期表第10族元素の合計質量部が、100質量部の酸化物担体に対して0.1質量部以上であると、高い活性が得られる。一方で、20質量部以下であると、触媒の安定性が向上するとともに、経済的に有利となる。なお、触媒中の前記周期表第10族元素の合計質量部は、担持する際に用いた酸化物担体の質量と担持する際に用いた前記周期表第10族元素の金属源に含まれるNi、Pd及びPtの質量の合計とから算出される。
【0042】
Ni、Pd、及びPtから選ばれる少なくとも1種の周期表第10族元素の合計の使用量(金属としてのモル部)は、触媒活性と経済性の観点から、エチレン性二重結合を有する化合物100モル部に対して、0.01~20モル部であることが好ましく、0.05~10モル部であることがより好ましく、0.1~5モル部であることがさらに好ましい。Ni、Pd、及びPtから選ばれる少なくとも1種の周期表第10族元素の合計の使用量(金属としてのモル部)が、エチレン性二重結合を有する化合物100モル部に対して0.01モル部以上であると、高い活性が得られる。一方で、20モル部以下であると、経済的に有利となる。
【0043】
Ni、Pd、及びPtから選ばれる少なくとも1種の周期表第10族元素の担体への担持は、公知の担持法、例えば、含浸法、コーティング法、噴霧法、吸着法、沈殿法等により行うことができる。これらのうち、触媒の安定性向上の観点から、含浸法により担持することが特に好ましい。
【0044】
Ni、Pd、及びPtから選ばれる少なくとも1種の周期表第10族元素の金属源は、金属単体、及び周期表第10族元素の化合物のいずれであってもよい。周期表第10族元素の化合物としては、硝酸塩、硫酸塩などの無機酸塩;メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩などのスルホン酸塩;ギ酸、酢酸などのカルボン酸の塩;及び錯体又は錯塩などが挙げられる。
【0045】
錯体又は錯塩の配位子としては、例えば、ヒドロキソ;メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシなどのアルコキシ配位子;アセチル、プロピオニルなどのアシル配位子;メトキシカルボニル、エトキシカルボニルなどのアルコキシカルボニル配位子;アセチルアセトナト、ヘキサフルオロアセチルアセトナトなどのアセチルアセトナト配位子;シクロペンタジエニル、ジベンジリデンアセトン、シクロオクタジエンなどのジエン配位子;塩素、臭素などのハロゲン配位子;一酸化炭素;HO;トリフェニルホスフィン、トリ(t-ブチル)ホスフィンなどのホスフィン配位子;及びNH、NO、NO、エチレンジアミン、ピリジン、フェナントロリンなどの窒素含有化合物などが挙げられる。2種以上の互いに異なる配位子が配位していてもよい。
【0046】
錯体又は錯塩としては、例えば、アセチルアセトンパラジウム、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、ビス(トリ-o-トリルホスフィン)パラジウムジアセテートなどのパラジウム錯体又は錯塩;ビス(ジベンジリデンアセトン)白金、ジベンジリデンアセトンアセチルアセトン白金などのジベンジリデンケトン白金、ジシクロオクタジエン白金、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)白金、テトラキス(トリフェニルホスフィン)白金などの白金錯体又は錯塩などが挙げられる。
【0047】
一実施形態では、前記金属又は周期表第10族元素の化合物を酸化物担体に担持した後、還元又は酸化することにより、前記金属の酸化数を変換してもよい。特に、触媒の安定性を向上する観点から、水素ガス気流下での還元処理を行うことが好ましい。
【0048】
<有機リン化合物>
一実施形態のエステル化合物の製造方法では、一般式(2)、又は一般式(3)で示される有機ホスフィン化合物、及び一般式(4)で示される有機ホスフォニウム塩からなる群より選ばれる少なくとも1つの有機リン化合物の存在下で反応を行う。
【0049】
有機リン化合物の使用量は、Ni、Pd、及びPtから選ばれる少なくとも1種の周期表第10族元素の合計1モル部に対して0.5~5モル部であることが好ましく、1~4モル部であることがより好ましく、1.5~3モル部であることがさらに好ましい。有機リン化合物の使用量が、0.5モル部以上であると、有機リン化合物が作用した反応活性種が効率的に生成する。一方で、有機リン化合物の使用量が、5モル部以下であると、エチレン性二重結合を有する化合物の前記周期表第10族元素への配位が阻害されないため、エステル化合物の製造反応がスムーズに進行する。
【0050】
(有機ホスフィン化合物)
一実施形態では、有機リン化合物は、一般式(2)又は一般式(3)で示される有機ホスフィン化合物である。
【化12】
(R~R16は、それぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1~4のアルキル基、又は炭素原子数1~3のアルコキシ基であり、全て同一であってもよく、異なっていてもよい。)
【化13】
(R17、及びR18は、それぞれ独立に、炭素原子数1~6のアルキル基、炭素原子数6~9のシクロアルキル基、又は炭素原子数6~9のアリール基であり、同一であってもよく、異なっていてもよく、R19~R27は、それぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1~4のアルキル基、炭素原子数1~4のアルコキシ基、又は炭素原子数2~8のジアルキルアミノ基であり、全て同一であってもよく、一部又は全部が異なっていてもよい。)
【0051】
触媒の活性の向上と、有機ホスフィン化合物の入手しやすさの観点から、一般式(2)におけるR~R16は、水素原子、メチル基、又はメトキシ基であることが好ましい。一般式(2)で示される有機ホスフィン化合物としては、トリフェニルホスフィン(PPh)、トリ(o-トリル)ホスフィン(P(o-tolyl))、トリ(m-トリル)ホスフィン(P(m-tolyl))、トリ(p-トリル)ホスフィン(P(p-tolyl))、トリ(3,5-キシリル)ホスフィン(P(3,5-xylyl))、ジフェニル(p-トリル)ホスフィン(PPh(p-tolyl))、及びトリ(2-メトキシフェニル)ホスフィン(P(2-MeO-C)が特に好ましい。
【0052】
触媒の活性の向上と、有機ホスフィン化合物の入手しやすさの観点から、一般式(3)におけるR17、及びR18は、それぞれ独立に、シクロヘキシル基、又はt-ブチル基であることが好ましく、シクロヘキシル基であることがより好ましい。R19~R27は、それぞれ独立に、水素原子、メチル基、エチル基、イソプロピル基、メトキシ基、イソプロポキシ基、又はジメチルアミノ基であることが好ましく、水素原子、又はメトキシ基であることがより好ましい。一般式(3)で示される有機ホスフィン化合物としては、2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2’,6’-ジメトキシビフェニル(SPhos)、2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2’,4’,6’-トリイソプロピルビフェニル(XPhos)、2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2’-メチルビフェニル(MePhos)、2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2’,6’-ジイソプロポキシビフェニル(RuPhos)、2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2’-(N,N-ジメチルアミノ)ビフェニル(DavePhos)、2-(ジ-t-ブチルホスフィノ)ビフェニル(JohnPhos)、2-ジシクロヘキシルホスフィノ-3,6-ジメトキシ-2’,4’,6’-トリイソプロピルビフェニル(BrettPhos)、2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2’,6’-ビス(N,N-ジメチルアミノ)ビフェニル(CPhos)、2-(ジアダマンチルホスフィノ)-3-メトキシ-2’,4’,6’-トリイソプロピル-3’-(2,3,5,6-テトラフルオロ-4-ブチルフェニル)-1,1’-ビフェニル(AlPhos)などが挙げられる。これらの中でも、エステル化合物の製造反応の活性向上の観点から、SPhosが特に好ましい。
【0053】
一般式(2)又は一般式(3)で示される有機ホスフィン化合物は、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0054】
(有機ホスフォニウム塩)
一実施形態では、有機リン化合物は、一般式(4)で示される有機ホスフォニウム塩である。
【化14】
(R28~R30は、それぞれ独立に、炭素原子数1~6のアルキル基であり、全て同一であってもよく、異なっていてもよく、Xは、1価のフッ素原子含有アニオンを表す。)
【0055】
28~R30は、それぞれ独立に、炭素原子数1~4のアルキル基であることが好ましく、t-ブチル基であることがより好ましい。
【0056】
「X」が示す1価のフッ素原子含有アニオンとしては、テトラフルオロボレートアニオン(BF )、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートアニオン、ヘキサフルオロアンチモン酸アニオン(SbF )などが挙げられ、エステル化合物の製造反応の活性向上の観点から、テトラフルオロボレートアニオンが特に好ましい。
【0057】
一般式(4)で示される有機ホスフォニウム塩は、テトラフルオロホウ酸トリ(t-ブチル)ホスフォニウムであることが特に好ましい。
【0058】
一般式(4)で示される有機ホスフォニウム塩は、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0059】
<ハロゲン化含窒素有機化合物塩>
一実施形態のエステル化合物の製造方法では、ハロゲン化含窒素有機化合物塩の存在下で反応を行う。
【0060】
ハロゲン化含窒素有機化合物塩としては、塩化物、臭化物、ヨウ化物などが挙げられ、反応の活性向上の観点から塩化物が好ましく、塩化4級アンモニウム塩が特に好ましい。
【0061】
ハロゲン化含窒素有機化合物塩としては、塩化テトラメチルアンモニウム、塩化テトラ-n-ブチルアンモニウム、臭化テトラ-n-ブチルアンモニウム、ヨウ化テトラ-n-ブチルアンモニウム、塩化エチルトリメチルアンモニウム、塩化ジエチルジメチルアンモニウム、塩化ベンジルトリエチルアンモニウム、臭化ベンジルトリエチルアンモニウムなどのハロゲン化4級アンモニウム塩;塩化トリメチルアンモニウム、塩化トリエチルアンモニウム、臭化トリエチルアンモニウム、ヨウ化トリエチルアンモニウム、塩化トリ-n-ブチルアンモニウム、塩化エチルジメチルアンモニウムなどのハロゲン化3級アンモニウム塩;塩化ジメチルアンモニウム、塩化ジエチルアンモニウム、臭化ジエチルアンモニウム、ヨウ化ジエチルアンモニウム、塩化ジ-n-ブチルアンモニウム、塩化エチルメチルアンモニウムなどのハロゲン化2級アンモニウム塩;塩化メチルアンモニウム、塩化エチルアンモニウム、臭化エチルアンモニウム、ヨウ化エチルアンモニウム、塩化n-ブチルアンモニウムなどのハロゲン化1級アンモニウム塩;塩化ビス(トリフェニルホスホラニリデン)アンモニウム、臭化ビス(トリフェニルホスホラニリデン)アンモニウムなどのホスホラニリデンアンモニウム塩;塩化1,3-ジメシチルイミダゾリウム、ヨウ化1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム、ヨウ化1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウム、塩化1-エチル-2,3-ジエチルイミダゾリウムなどのイミダゾリウム塩などが挙げられる。入手の容易性、及びエステル化合物の製造反応の活性向上の観点から、塩化テトラ-n-ブチルアンモニウム、塩化ビス(トリフェニルホスホラニリデン)アンモニウム、塩化1,3-ジメシチルイミダゾリウム、及び塩化メチルアンモニウムが好ましく、塩化テトラ-n-ブチルアンモニウムが特に好ましい。
【0062】
ハロゲン化含窒素有機化合物塩は、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0063】
ハロゲン化含窒素有機化合物塩の使用量は、Ni、Pd、及びPtから選ばれる少なくとも1種の周期表第10族元素の合計1モル部に対して、1~20モル部であることが好ましく、1~10モル部であることがより好ましく、1~5モル部であることがさらに好ましい。ハロゲン化含窒素有機化合物塩の使用量が1モル部以上であると高い活性が得られる。一方で、ハロゲン化含窒素有機化合物塩の使用量が20モル部以下であると、経済的に有利となる。
【0064】
<酸性化合物>
一実施形態のエステル化合物の製造方法では、酸性化合物の存在下で反応を行う。酸性化合物は、Ni、Pd、及びPtから選ばれる少なくとも1種の周期表第10族元素に対するヒドリド化剤として機能する。このことによりアルコキシカルボニル化反応を促進させるものと推定される。なお、化合物がエチレン性二重結合を有する化合物と酸性化合物の両方に該当する場合は、該化合物は酸性化合物として扱う。
【0065】
酸性化合物としては、塩酸;硝酸;硫酸;炭素原子数2~12のアルカン酸;メタンスルホン酸、t-ブチルスルホン酸などのアルキルスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、o-トルエンスルホン酸、m-トルエンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸などのアリールスルホン酸、クロロスルホン酸、フルオロスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、及び2-ヒドロキシプロパンスルホン酸などのスルホン酸及びこれらの塩;スルホン化イオン交換樹脂;過塩素酸などの過ハロゲン酸;トリクロロ酢酸及びトリフルオロ酢酸などの過フルオロ化カルボン酸;オルトリン酸;ベンゼンホスホン酸などのホスホン酸;硫酸ジメチルなどの硫酸のエステル;メタンスルホン酸メチル、トリフルオロメタンスルホン酸メチル等のスルホン酸のエステル等が挙げられる。
【0066】
酸性度が適正であるため、酸性化合物は、アルキルスルホン酸、アルキルスルホン酸のアンモニウム塩、アルキルスルホン酸のピリジニウム塩、アリールスルホン酸、アリールスルホン酸のアンモニウム塩、及びアリールスルホン酸のピリジニウム塩からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、アルキルスルホン酸、又はアリールスルホン酸であることがより好ましく、特に、メタンスルホン酸、又はp-トルエンスルホン酸であることが好ましい。
【0067】
酸性化合物は、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0068】
酸性化合物の使用量は、Ni、Pd、及びPtから選ばれる少なくとも1種の周期表第10族元素の合計1モル部に対して、酸性化合物の持つ酸点(プロトン)が0.05~10モル部となる範囲であることが好ましく、0.1~7モル部となる範囲であることがより好ましく、0.2~5モル部となる範囲であることがさらに好ましい。酸性化合物の持つ酸点が0.05モル部以上であると、触媒の反応活性種(ヒドリド錯体等)が効率よく生成するため、アルコキシカルボニル化が効果的に促進される。一方で、酸性化合物の持つ酸点が10モル部以下であると、アルコキシカルボニル化反応における副反応等を効果的に抑制できる。
【0069】
<窒素原子含有複素環式芳香族化合物>
一実施形態のエステル化合物の製造方法では、酸性化合物とともに窒素原子含有複素環式芳香族化合物の存在下で反応を行うことも好ましい。これにより、エステル化合物の製造反応がより一層促進される。これは、窒素原子含有複素環式芳香族化合物が、酸性化合物とともに存在すると、触媒の酸性度が、アルコキシカルボニル化反応の促進される範囲内に調整されやすくなるためと推定される。加えて、エチレン性二重結合を有する化合物としてカルボン酸アルケニル化合物を用いる場合に、カルボン酸アルケニル化合物と一般式(1)で示される1級又は2級アルコールとの副反応を抑制する作用もある。なお、窒素原子含有複素環式芳香族化合物には前記ハロゲン化含窒素有機化合物塩は含まれない。化合物がエチレン性二重結合を有する化合物と窒素原子含有複素環式芳香族化合物の両方に該当する場合は、該化合物は窒素原子含有複素環式芳香族化合物として扱う。
【0070】
窒素原子含有複素環式芳香族化合物としては、ピリジン、ピコリン、イミダゾール、ピラゾール、オキサゾールなどが挙げられる。これらの中でもエステル化合物をより高収率及びより高選択率で製造できるため、窒素原子含有複素環式芳香族化合物は、ピリジン及びピコリンから選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、ピリジンであることがより好ましい。窒素原子含有複素環式芳香族化合物は、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0071】
窒素原子含有複素環式芳香族化合物は、Ni、Pd、及びPtから選ばれる少なくとも1種の周期表第10族元素の合計1モル部に対して、0.1~50モル部であることが好ましく、1~30モル部であることがより好ましく、5~25モル部であることがさらに好ましい。窒素原子含有複素環式芳香族化合物の使用量が0.1モル部以上であると、酸性度がアルコキシカルボニル化反応の促進される範囲内になりやすい。一方で、窒素原子含有複素環式芳香族化合物の使用量が50モル部以下であると、窒素原子含有複素環式芳香族化合物が、エチレン性二重結合を有する化合物の前記周期表第10族元素への配位を阻害することがないため、エステル化合物の製造反応がスムーズに進行する。
【0072】
<溶媒>
一実施形態のエステル化合物の製造方法では、必要に応じて溶媒を用いてもよい。溶媒としては、エチレン性二重結合を有する化合物と、1級又は2級アルコールと、一酸化炭素との反応に関与しない化学種を用いることが好ましい。このような溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸エチル、酢酸-n-プロピル、酢酸-n-ブチル、n-ヘプタン、アセトニトリル、トルエン、キシレン、N-メチルピロリドン、γ-ブチロラクトン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。反応基質である1級又は2級アルコールそのものを溶媒として使用することも可能である。溶媒は、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0073】
これらの溶媒の中でも特に、エステル化合物をより高収率及びより高選択率で製造できるため、テトラヒドロフラン、アセトン、酢酸エチル、トルエン、及びキシレンから選ばれる1種又は2種以上を用いることが好ましく、有機リン化合物、ハロゲン化含窒素化合物塩、及び酸性化合物の溶解性、並びに生成物との分離の容易性の観点から、特にトルエンを用いることが好ましい。
【0074】
溶媒の使用量は、エチレン性二重結合を有する化合物の反応液中の濃度が、0.05~20モル/リットルとなる範囲であることが好ましく、0.1~10モル/リットルとなる範囲であることがより好ましく、0.5~5モル/リットルとなる範囲であることがさらに好ましい。エチレン性二重結合を有する化合物の反応液中の濃度が、0.05モル/リットル以上であると、反応液中のエチレン性二重結合を有する化合物の濃度が、アルコキシカルボニル化反応の促進される範囲内になりやすいため、高い収率でエステル化合物が生成されやすい。エチレン性二重結合を有する化合物の反応液中の濃度が、20モル/リットル以下であると、反応をスムーズに進行できる基質濃度が確保されやすく、好ましい。
【0075】
<反応条件>
一実施形態のエステル化合物の製造方法における反応条件は、エチレン性二重結合を有する化合物と、1級又は2級アルコールと、一酸化炭素とのアルコキシカルボニル化反応が進行する範囲内で、製造するエステル化合物の種類などに応じて適宜決定できる。
【0076】
反応条件は、例えば、以下に示す(a)反応圧力、(b)反応温度、及び(c)反応時間のうち、いずれか1つ以上の条件を満たすことが好ましい。
【0077】
(a)反応圧力
反応容器内の一酸化炭素の分圧を、0.05~20MPaとすることが好ましく、0.1~10MPaとすることがより好ましく、1~6MPaとする行うことがさらに好ましい。反応容器内の一酸化炭素の分圧を0.05~20MPaとすることにより、エステル化合物をより高収率で製造できる。
【0078】
(b)反応温度
反応温度は、60~140℃とすることが好ましく、80~120℃とすることがより好ましい。反応温度が60℃以上であると、エステル化合物を生成させるアルコキシカルボニル化反応がよりいっそう促進される。反応温度が140℃以下であると、アルコキシカルボニル化反応における副反応を抑制できるため、好ましい。
【0079】
(c)反応時間
反応時間は、1~50時間とすることが好ましく、10~20時間がより好ましい。反応時間が1時間以上であると、エステル化合物をより高収率で製造できる。反応時間が50時間以下であると、エステル化合物の生成に伴う副反応を抑制できる。
【0080】
[用途]
エステル化合物の製造方法で得られるエステル化合物は、溶剤、可塑剤、香料、乳化剤、保湿剤、医薬品などの中間原料などとして有用である。
【実施例0081】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施例のみに限定されない。
【0082】
(製造例1)(触媒1の調製)
乳鉢中で、ZrO(JRC-ZRO-6、第一稀元素化学工業株式会社製;950mg)、及び低塩素硝酸パラジウム溶液(田中貴金属工業株式会社製;250mL、Pd金属として0.47mmol)を1mLのイオン交換水中に分散させ、乳棒を用いて室温で30分撹拌してZrOに硝酸パラジウムを吸着させた。一晩100℃で真空乾燥して溶媒を除去した後、さらに空気下550℃で4時間焼成することにより、PdOがZrOに担持されたPd担持量4.96質量%のPdO/ZrO(触媒1)を調製した。100質量部のZrOに対するPdの質量部は、5.3質量部である。
【0083】
(製造例2)(触媒2の調製)
製造例1で調製した触媒1(PdO/ZrO)に対し、テトラヒドロフラン(富士フイルム和光純薬株式会社製;5mL)中、水素ガス(5MPa)による還元処理(120℃、12時間)を行うことにより、Pd担持量5.00質量%のPd/ZrO(触媒2)を調製した。100質量部のZrOに対するPdの質量部は、5.3質量部である。
【0084】
(実施例1)
ステンレス鋼からなる容量40mLの反応容器に、撹拌子と、触媒2(5.00質量%-Pd/ZrO:86.2mg、Pd金属として41μmol)と、トリフェニルホスフィン(PPh:東京化成工業株式会社製;21mg、81μmol)と、ハロゲン化含窒素有機化合物塩としての塩化テトラ-n-ブチルアンモニウム(TBAC:東京化成工業株式会社製;23mg、81μmol)と、酸性化合物としてのPTSA(p-トルエンスルホン酸・1水和物;東京化成工業株式会社製;15.4mg、81μmol)とを入れた。これらの物質が仕込まれた反応容器内に、窒素ガス気流下で、エチレン性二重結合を有する化合物としての1-ヘキセン(関東化学株式会社製;0.68g、8.1mmol)と、1級又は2級アルコールとしてのエタノール(富士フイルム和光純薬株式会社製;1.2mL、21mmol)と、溶媒としてのトルエン(富士フイルム和光純薬株式会社;6.75mL)とを入れ、撹拌して反応懸濁液を得た。
【0085】
実施例1におけるパラジウム金属の使用量は、1-ヘキセン100モル部に対して、0.5モル部である。有機ホスフィン化合物であるトリフェニルホスフィンの使用量は、パラジウム金属1モル部に対して、2モル部である。PTSA(p-トルエンスルホン酸・1水和物)の使用量は、パラジウム金属1モル部に対してPTSAの持つ酸点が2モル部である。トルエンの使用量は、エタノール1モル部に対して0.33リットル(反応液中のエチレン性二重結合を有する化合物の濃度が1.02モル/リットルとなる量)である。
【0086】
次いで、一酸化炭素ガスを用いて、大気圧から1MPaの間で反応容器内の加圧-脱圧を3回繰り返し、反応容器内の気体を一酸化炭素ガスで置換した。その後、一酸化炭素ガスを用いて反応容器内を1MPaまで昇圧し、反応懸濁液を撹拌しながら、100℃で48時間反応させて、エステル化合物を生成させた。反応後の反応懸濁液をスクリューバイアルに移し遠心分離したのち、パスツールピペットにて反応溶液を分取して触媒2を除き、反応溶液をガスクロマトグラフィー(装置名:6850GC、アジレント・テクノロジー株式会社製)を用いて分析した。原料、目的物であるエステル化合物及び副反応物の定量分析は、内部標準物質としてジエチレングリコールジメチルエーテル(東京化成工業株式会社)を用いて、検量線を作成して行った。その結果、実施例1において、エステル化合物として、2-メチルヘキサン酸エチル(iso体)、及びヘプタン酸エチル(n体)が生成したことが確認できた。1-ヘキセン基準の、iso-エステルの収率は25%であり、n-エステルの収率は44%であった。
【0087】
(実施例2~13)
有機リン化合物の種類とその使用量、塩化テトラ-n-ブチルアンモニウムの使用量、触媒2の使用量、PTSAの使用量、エタノール及びトルエンの使用量、並びに反応時間を表1に記載の通りとした他は、実施例1と同様に反応を行った。結果を表1に示す。
【0088】
(実施例14~15)
エチレン性二重結合を有する化合物を1-オクテン(関東化学株式会社製;1.26mL、8.1mmol)に変え、有機リン化合物の種類とその使用量、塩化テトラ-n-ブチルアンモニウムの使用量、触媒2の使用量、PTSAの使用量、一酸化炭素分圧、及び反応時間を表1に記載の通りとした他は、実施例1と同様に反応を行った。エステル化合物として、2-メチルオクタン酸エチル(iso体)、及びノナン酸エチル(n体)が生成したことを確認した。結果を表1に示す。
【0089】
(実施例16~29)
エチレン性二重結合を有する化合物を酢酸ビニル(富士フイルム和光純薬株式会社製;0.75mL、8.1mmol)に変え、窒素原子含有複素環式芳香族化合物であるピリジン(関東化学株式会社製;27.4μL、0.34mmol)を添加し、有機リン化合物の種類とその使用量、ハロゲン化含窒素有機化合物塩の種類とその使用量、触媒の種類とその使用量、PTSAの使用量、トルエンの使用量、一酸化炭素分圧、反応温度、及び反応時間を表1に記載の通りとした他は、実施例1と同様に反応を行った。エステル化合物として、2-アセトキシプロピオン酸エチル(iso体)、及び3-アセトキシプロピオン酸エチル(n体)が生成したことを確認した。結果を表1に示す。
【0090】
なお、表1に記載の有機リン化合物は、トリフェニルホスフィン(PPh)、トリ(2-メトキシフェニル)ホスフィン(P(2-MeO-C)、トリ(m-トリル)ホスフィン(P(m-tolyl))、ジフェニル(p-トリル)ホスフィン(PPh(p-tolyl))、トリ(p-トリル)ホスフィン(P(p-tolyl))、トリ(3,5-キシリル)ホスフィン(P(3,5-xylyl))、2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2’,6’-ジメトキシビフェニル(SPhos)(以上、すべて有機ホスフィン化合物)、及びテトラフルオロホウ酸トリ(t-ブチル)ホスフォニウム(PH(t-Bu)BF)(有機ホスフォニウム塩)である。
【0091】
表1に記載のハロゲン化含窒素有機化合物塩は、塩化テトラ-n-ブチルアンモニウム(TBAC)、塩化ビス(トリフェニルホスホラニリデン)アンモニウム(A)、塩化1,3-ジメシチルイミダゾリウム(B)、及び塩化メチルアンモニウム(NHMeCl)である。
【0092】
(比較例1)
ハロゲン化含窒素有機化合物塩を加えなかった他は、実施例16と同様に反応を行った。目的とするエステル化合物は検出されなかった。
【0093】
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】