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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024097687
(43)【公開日】2024-07-19
(54)【発明の名称】焼菓子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A21D 8/02 20060101AFI20240711BHJP
   A21D 2/16 20060101ALI20240711BHJP
   A21D 10/04 20060101ALI20240711BHJP
   A23D 9/00 20060101ALI20240711BHJP
   A23D 9/013 20060101ALI20240711BHJP
   A21D 13/80 20170101ALI20240711BHJP
【FI】
A21D8/02
A21D2/16
A21D10/04
A23D9/00 502
A23D9/013
A21D13/80
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023001329
(22)【出願日】2023-01-06
(71)【出願人】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小堀 悟
(72)【発明者】
【氏名】大島 耕児
【テーマコード(参考)】
4B026
4B032
【Fターム(参考)】
4B026DG02
4B026DG04
4B026DH01
4B026DH02
4B026DH10
4B026DK01
4B026DK10
4B026DX02
4B032DB21
4B032DK09
4B032DK10
4B032DK12
4B032DK15
4B032DK18
4B032DL03
(57)【要約】
【課題】シュガーバッター法における油脂組成物の調温工程を省略、又は省力化し、従前知られたシュガーバッター法により得られる焼菓子の食感と同等又はそれよりも良好な食感を有する焼菓子を得ること。
【解決手段】
次の工程1~4を含む、シュガーバッター法による焼菓子の製造方法。
工程1:加熱溶解した油脂組成物と糖類とを混合してなる混合物Xの温度を20~29℃とする工程
工程2:調温した混合物Xと水性原料を混合し、混合物Yを得る工程
工程3:混合物Yと澱粉類を混合し、焼菓子生地を得る工程
工程4:焼菓子生地を加熱する工程
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の工程1~4を含む、シュガーバッター法による焼菓子の製造方法。
工程1:加熱溶解した油脂組成物と糖類とを混合してなる混合物Xの温度を20~29℃とする工程
工程2:調温した混合物Xと水性原料を混合し、混合物Yを得る工程
工程3:混合物Yと澱粉類を混合し、焼菓子生地を得る工程
工程4:焼菓子生地を、加熱する工程
【請求項2】
ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、及びグリセリン脂肪酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種類の乳化剤を、焼菓子生地の製造に用いられる澱粉類100質量部に対して0.1~3.0質量部添加する、請求項1記載の焼菓子の製造方法。
【請求項3】
ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、及びグリセリン脂肪酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種類の乳化剤を、工程1において混合物Xに添加する、請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2記載の焼菓子の製造方法に用いられる油脂組成物であって、次の条件(a)及び(b)を満たすシュガーバッター用油脂組成物。
(a)油相を構成する油脂のうち、ランダムエステル交換油脂を40~100質量%含有する
(b)ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、及びグリセリン脂肪酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種類の乳化剤を、油脂組成物中0.7~3.8質量%含有する
【請求項5】
次の条件(c)を満たす、請求項4記載のシュガーバッター用油脂組成物。
(c)飽和脂肪酸残基組成中のベヘン酸残基の含有量が0.3~8.0質量%である
【請求項6】
請求項1又は2の製造方法により製造された、焼菓子。
【請求項7】
請求項4のシュガーバッター用油脂組成物を含む焼菓子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なシュガーバッター法による焼菓子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、油脂、砂糖、卵、小麦粉を主原料とする焼菓子を製造するための方法として、「シュガーバッター法」が知られている。
「シュガーバッター法」とは、一般に次の(1)~(3)の工程を経て、焼菓子の生地を調製する方法である。すなわち、(1)バターやマーガリン等の可塑性を有する油脂組成物(以下単に可塑性油脂組成物と記載)と砂糖等の糖類を混合し含気させた後、(2)卵等の水性原料を加え、(3)最後に小麦粉等の澱粉類を混合し生地を調製するという3つの工程を経る方法である。
可塑性油脂組成物の起泡性を利用したシュガーバッター法は、得られる焼菓子がサクサクとした好ましい食感を有するものとなりやすいため、工業的にも頻用される手法である。
【0003】
シュガーバッター法により焼菓子生地を調製する場合には、上記(1)の工程の前に、使用する可塑性油脂組成物を概ね25℃程度に調温し、軟らかくしてから使用される。
この煩雑さを軽減する方法として、例えば特許文献1の段落[0047]には、低温でのクリーミング性(混合のしやすさ)が改善された油中水型油脂組成物を用いることが開示されている。
【0004】
また、シュガーバッター法の効率化の観点からは、使用する可塑性油脂組成物のクリーミング性と吸水性が重要になる。従前よりこれらの性質の改良が試みられており、例えば特許文献2には、所定の乳化剤を含有させ、クリーミング性と吸水性を改善させた油脂組成物が開示されている。
【0005】
なお、焼菓子を製造するための方法としては他にも、油脂と小麦粉を混合し含気させてから砂糖や卵を加えて更に混合する「フラワーバッター法」や、全ての原料をまとめて混合する「オールインミックス法」、可塑性油脂組成物以外の原料を混合したものに溶かした可塑性油脂組成物を添加して混合する「オールインワン法(ジェノワーズ法)」がある。
いずれもシュガーバッター法よりも簡便に焼菓子生地を製造できるとされているが、得られる焼菓子の食感が劣りやすい他、作業者によるバラつきがシュガーバッター法以上に大きいことから、工業的に用いられることは少ない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015-156855号公報
【特許文献2】特開2013-135629号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
シュガーバッター法は、通常、上記(1)の工程前に、後のクリーミングを容易に行うために、可塑性を失わない温度範囲(一般的には15~25℃)に調温する必要があるが、時間がかかり焼菓子生地の製造効率を低下させるものであった。
【0008】
また、工業的には可塑性油脂組成物は、一斗缶に詰めたり、内袋を用いて段ボールに詰めたりしたものが用いられるところ、これらを開梱して取り出し、調温して、焼菓子生地の仕込みを行うという作業が、工業生産を行う中で負担になっていた。
【0009】
このような背景から、得られる焼菓子の食感は維持しつつも、用いる可塑性油脂組成物の調温を省略して省力化・省人化を図り、シュガーバッター法をより効率よく行う手法が求められている。
【0010】
したがって、本発明の課題は以下のとおりである。
(1)従前知られたシュガーバッター法により得られる焼菓子の食感と同等又はそれよりも良好な食感を有する焼菓子を得ること
(2)シュガーバッター法における油脂組成物の調温工程を省略、又は省力化すること
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らによる鋭意検討の結果、従前知られたシュガーバッター法とは全く異なり、加熱溶解した油脂組成物と糖類とを混合し、得られた混合物の温度を20~29℃とする工程を経る、新規なシュガーバッター法により、上記課題を解決しうることを知見した。
【0012】
本発明はこの知見に基づくものであり、具体的には以下のとおりである。
[1]
次の工程1~4を含む、シュガーバッター法による焼菓子の製造方法。
工程1:加熱溶解した油脂組成物と糖類とを混合してなる混合物Xの温度を20~29℃とする工程
工程2:調温した混合物Xと水性原料を混合し、混合物Yを得る工程
工程3:混合物Yと澱粉類を混合し、焼菓子生地を得る工程
工程4:焼菓子生地を加熱する工程
[2]
ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、及びグリセリン脂肪酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種類の乳化剤を、焼菓子生地の製造に用いられる澱粉類100質量部に対して0.1~3.0質量部添加する、[1]記載の焼菓子の製造方法。
[3]
ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、及びグリセリン脂肪酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種類の乳化剤を、工程1において混合物Xに添加する、[1]又は[2]記載の製造方法。
[4]
[1]~[3]のいずれかに記載の焼菓子の製造方法に用いられる油脂組成物であって、次の条件(a)及び(b)を満たすシュガーバッター用油脂組成物。
(a)油相を構成する油脂のうち、ランダムエステル交換油脂を40~100質量%含有する
(b)ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、及びグリセリン脂肪酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種類の乳化剤を、油脂組成物中0.7~3.8質量%含有する
[5]
次の条件(c)を満たす、[4]記載のシュガーバッター用油脂組成物。
(c)飽和脂肪酸残基組成中のベヘン酸残基の含有量が0.3~8.0質量%である
[6]
[1]~[3]のいずれかに記載の製造方法により製造された、焼菓子。
[7]
[4]又は[5]記載のシュガーバッター用油脂組成物を含む焼菓子。
【発明の効果】
【0013】
本発明の効果は以下のとおりである。
(1)従前知られたシュガーバッター法により得られる焼菓子の食感と同等又はそれよりも良好な食感を有する焼菓子を得ることができる
(2)シュガーバッター法における油脂組成物の調温工程を省略、又は省力化することができる
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。本発明は以下の記述によって限定されるものではなく、各構成要素は本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
【0015】
[シュガーバッター法について]
一般的に、シュガーバッター法とは、可塑性油脂組成物と砂糖等の糖類とを混合し、卵等の水性原料を加えて混合することで、油脂の中に水分を分散させ、その後に小麦粉等の澱粉類を添加してさらに混合する方法を指す。
本発明においては、油脂組成物と糖類とを混合した後に、水性原料を加えて混合して、油脂の中に水分を分散させた後に、澱粉類を添加混合する点で、シュガーバッター法に該当するとみなすことができる。
【0016】
[焼菓子の製造方法]
本発明の焼菓子の製造方法(以下、単に「本発明の製造方法」ともいう。)は、次の工程1~4を含むことを特徴の一つとする。
工程1:加熱溶解した油脂組成物と糖類とを混合してなる混合物Xの温度を20~29℃とする工程
工程2:調温した混合物Xと水性原料を混合し、混合物Yを得る工程
工程3:混合物Yと澱粉類を混合し、焼菓子生地を得る工程
工程4:焼菓子生地を加熱する工程
【0017】
以下、工程ごとに詳述する。
【0018】
<工程1>
工程1について述べる。本発明の製造方法においては、加熱溶解した油脂組成物(以下、単に「加熱油脂組成物」ともいう。)と糖類とを混合してなる混合物X(以下、「本発明のシュガーバッター」ともいう。)の温度を20~29℃とする。なお、油脂組成物とは、油脂を含有する組成物の意である。
【0019】
(加熱油脂組成物について)
本発明の製造方法で用いられる加熱油脂組成物について述べる。
【0020】
加熱油脂組成物を得る際の、油脂組成物の加熱温度については特に制限されず、油脂組成物が流動性を有する状態(例えば、液状、ペースト状)となるまで加熱すればよい。例えば、加熱油脂組成物の温度が好ましくは40℃以上、より好ましくは50℃以上となるまで加熱する。上限は、本発明の製造方法の効率化の観点から、好ましくは75℃以下であり、より好ましくは73℃以下、70℃以下又は65℃以下である。したがって、一実施形態において、加熱油脂組成物を得る際は、油脂組成物の温度が好ましくは40~75℃、より好ましくは50~73℃、50~70℃又は50~65℃となるまで加熱する。
【0021】
本発明の製造方法に用いられる油脂組成物は、加熱溶解されるより前に流動性を有するものであってもよく、流動性を有しないものであってもよいが、良好な食感を有する焼菓子を得る観点から、加熱される前には流動性を有しないものであることが好ましい。なお、可塑性の有無は問わない。
【0022】
以下、加熱溶解される油脂組成物について詳述する。
【0023】
加熱溶解される油脂組成物に用いられる油脂は特に限定されず、例えば、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、綿実油、大豆油、ナタネ油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、オリーブ油、キャノーラ油、牛脂、乳脂、豚脂、カカオ脂、魚油、鯨油等の各種植物油脂及び動物油脂、並びにこれらに水素添加、分別及びエステル交換から選択される1または2以上の処理を施した加工油脂が挙げられる。これらの油脂は、単独でも用いることができ、または2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0024】
なお、後述のとおり、良好なクリーミング性を得る観点や良好な食感を有する焼菓子を得る観点から、本発明のシュガーバッターが20~29℃のいずれかの温度にあるときに、その温度における固体脂含量(以下、単にSFC:Solid Fat Contentsと記載)が15~35%であることが好ましい。これを好ましく満たす観点から、本発明の製造方法に用いられる油脂組成物の25℃におけるSFCは好ましくは10%以上である。また、その上限は、好ましくは35%以下、より好ましくは32%以下、さらに好ましくは30%以下である。したがって一実施形態において、本発明の製造方法に用いられる油脂組成物の25℃におけるSFCは好ましくは10~35%であり、より好ましくは10~32%であり、さらに好ましくは10~30%である。
【0025】
本発明において、SFCは常法により測定することが可能であるが、本発明においては、AOCS official methodのcd16b-93に記載のパルスNMR(ダイレクト法)にて、測定対象となる試料のSFCを測定した後、測定値を油相量に換算した値を使用する。即ち、水相を含まない試料を測定した場合は、測定値がそのままSFCとなり、水相を含む試料を測定した場合は、測定値を油相量に換算した値がSFCとなる。以下、同様である。
【0026】
本発明の製造方法に用いられる油脂組成物中の油脂の含有量(油脂配合物である場合は、油脂配合物としての含有量)は、良好な食感を有する焼菓子を得る観点から、好ましくは60質量%以上、より好ましくは75質量%以上、さらに好ましくは90質量%であり、上限は100質量%である。
なお、本発明の製造方法に用いられる油脂組成物の油脂の含有量には、配合油の他に、油脂を含有する副原料を油脂組成物中に含む場合には、それらが有する油脂も含まれる。
【0027】
本発明の製造方法に用いられる油脂組成物は、水相を含まない油相のみからなるものであってもよいし、水相を含んだ乳化物であってもよい。本発明の製造方法に用いられる油脂組成物の形態としては、例えば、油脂を含有する食品、マーガリン・ファットスプレッド・ショートニング・バター等の可塑性油脂組成物や、流動ショートニング、流動状マーガリン、粉末油脂、純生クリーム、ホイップ用クリーム(コンパウンドクリーム)、植物性ホイップ用クリーム、クリームチーズ、チョコペーストを挙げることができる。
【0028】
本発明では良好な食感を有する焼菓子が得られ易いことから、連続相が油相であることが好ましい。連続相が油相であることにより、良好な食感を有する焼菓子が得られやすくなる。
【0029】
本発明の製造方法においては、上記条件を好ましく満たすものとして、後述する本発明のシュガーバッター用油脂組成物を選択して用いることが好ましい。
【0030】
(糖類について)
本発明の製造方法で用いられる糖類について述べる。
【0031】
本発明に用いられる糖類としては、特に限定されず、例えば上白糖、グラニュー糖、粉糖、液糖、ブドウ糖、果糖、ショ糖、麦芽糖、乳糖、酵素糖化水飴、還元澱粉糖化物、異性化液糖、ショ糖結合水飴、オリゴ糖、還元糖ポリデキストロース、還元乳糖、ソルビトール、トレハロース、キシロース、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、マンニトール、フラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、ラフィノース、ラクチュロース、パラチノースオリゴ糖、ステビア、アスパルテームが挙げられる。これらの糖類は、単独で用いることもでき、又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0032】
(加熱油脂組成物及び糖類の使用量について)
工程1における、加熱油脂組成物及び糖類の使用量について述べる。
【0033】
本発明の製造方法における加熱油脂組成物の使用量は、本発明の効果を好ましく得られる観点から、後述する澱粉類100質量部に対して、好ましくは15質量部以上、より好ましくは18質量部以上、さらに好ましくは20質量部以上である。その上限は、好ましくは100質量部以下、より好ましくは45質量部以下、さらに好ましくは40質量部以下である。したがって、一実施形態において、加熱油脂組成物の使用量は、澱粉類100質量部に対して、好ましくは15~100質量部であり、より好ましくは18~45質量部であり、さらに好ましくは20~40質量部である。
【0034】
なお、本発明の製造方法に用いられる加熱油脂組成物の量は、油脂組成物が乳化物である場合には、含有される油脂分を考慮の上、澱粉類100質量部に対する使用量が決定されるものとし、加熱油脂組成物の量は、その温度が40~75℃であるときに秤量されるものとする。
【0035】
また、本発明の製造方法における糖類の使用量は、本発明の効果が好ましく得られる観点から、後述する澱粉類100質量部に対して、固形分として、好ましくは25質量部以上、より好ましくは30質量部以上、さらに好ましくは35質量部以上である。その上限は、好ましくは100質量部以下、より好ましくは60質量部以下、さらに好ましくは50質量部以下である。したがって、一実施形態において、本発明の製造方法における糖類の使用量は、澱粉類100質量部に対して、好ましくは25~100質量部であり、より好ましくは30~60質量部であり、さらに好ましくは35~50質量部である。
【0036】
加えて、焼菓子の風味の観点から、加熱油脂組成物1質量部に対する糖類の使用量は、好ましくは0.3質量部以上、より好ましくは0.4質量部以上、さらに好ましくは0.5質量部以上である。上限は、好ましくは3.0質量部以下、より好ましくは2.7質量部以下、さらに好ましくは2.4質量部以下である。従って、一実施形態において、加熱油脂組成物1質量部に対する糖類の使用量は、好ましくは0.3~3.0質量部であり、より好ましくは0.4~2.7質量部であり、さらに好ましくは0.5~2.4質量部である。
【0037】
(加熱油脂組成物と糖類との混合について)
工程1において、加熱油脂組成物と糖類とを混合し、混合物X、すなわち本発明のシュガーバッターを製造する。
【0038】
工程1における加熱油脂組成物と糖類とを混合するにあたり、その仕込み順は特に限定されないが、糖類を油相に均一に分散させる観点から、加熱油脂組成物に対して糖類を加えて混合し、本発明のシュガーバッターを得ることが好ましい。
【0039】
なお、混合の方法については特に限定されないが、例えば、縦型ミキサー(例、スタンドミキサー)にビーターやホイッパー等を用いて撹拌する手法や、横型ミキサー、ニーダー等による混合が好ましく、均一になるまで撹拌することが好ましい。また、糖類を加える際は、加熱油脂組成物に対して一回で全量加えてもよく、複数回に分けて少量ずつ混合しながら加えてもよい。
【0040】
(本発明のシュガーバッターの温度の調節について)
工程1において、本発明のシュガーバッターの温度を20~29℃とする。
【0041】
工程1において、本発明のシュガーバッターの温度を、20℃以上とし、好ましくは21℃以上、より好ましくは22℃以上、さらに好ましくは23℃以上とする。本発明のシュガーバッターの温度を20℃以上とすることで、本発明のシュガーバッターが過度に硬くならず、工程2以降で水性原料や澱粉類を添加して混合する際に、混合しやすくなり、効率よく焼菓子生地を製造することができる。また、その上限は、29℃以下であり、好ましくは28℃以下である。本発明のシュガーバッターの温度を29℃以下とすることで、本発明のシュガーバッターを製造する際に、含気して低下した比重を維持することができ、ひいては良好な食感を有する焼菓子を得ることができる。したがって一実施形態において、工程1において、本発明のシュガーバッターの温度を、好ましくは21~28℃、より好ましくは22~28℃、さらに好ましくは23~28℃とする。
【0042】
本発明のシュガーバッターの温度を20~29℃にする方法は限定されず、任意の方法を取ることができる。
【0043】
先述のとおり適度に高温の加熱油脂組成物を含むシュガーバッターの温度を20~29℃とするには、通常、加熱油脂組成物と糖類との混合時に冷却するか、得られたシュガーバッターを冷却する。
【0044】
特に以下の(1)~(3)のいずれか1つ以上の方法によれば、本発明のシュガーバッターの温度の調節を簡便に行うことができ、好ましい。なお、以下の(1)~(3)の方法は、任意の2つ以上を組み合わせて実施してもよい。
(1)本発明のシュガーバッターを製造する際、冷却した糖類を加熱油脂組成物に混合する方法
(2)本発明のシュガーバッターを製造する際、ジャケット付容器を用いる方法
(3)本発明のシュガーバッターを製造する際、雰囲気温度を調整する方法
【0045】
これら(1)~(3)の方法は、本発明のシュガーバッターの製造と、本発明のシュガーバッターの調温とを同時に行う方法であり、これらの手法をとることで効率よく焼菓子生地を製造することが可能になる。また、本発明のシュガーバッター中の油脂分と糖類の分離を抑制することが可能になるので、糖類を油相に均一に分散させやすくなる。以下、(1)~(3)の方法について、詳述する。
【0046】
まず、上記(1)の方法について述べる。
(1)の方法は、冷却した糖類を加熱油脂組成物に対して加えた後に、適宜温度を測定しながら、撹拌等により混合を行い、20~29℃の任意の品温となった時点を混合終点として、本発明のシュガーバッターを得る方法である。
【0047】
また、用いられる冷却した糖類の温度は、用いられる加熱油脂組成物の温度、用いられる加熱油脂組成物の量と糖類の量との量比や、全体の仕込み量、混合に用いられる容器の形状等によっても異なる。例えば、本発明のシュガーバッターを効率良く目標温度に到達させる観点からは、冷却した糖類の温度は、好ましくは15℃以下、より好ましくは10℃以下、さらに好ましくは7℃以下である。下限は、好ましくは1℃以上、より好ましくは3℃以上である。したがって、冷却した糖類の温度は、好ましくは1~15℃であり、より好ましくは3~10℃であり、さらに好ましくは3~7℃である。
【0048】
なお、5℃に設定された冷蔵庫で24時間以上保管された糖類は、上記の好ましい温度範囲を満たしているとみなせる。
【0049】
冷却した糖類は、加熱油脂組成物に対して一回で全量加えてもよく、複数回に分けて少量ずつ混合しながら加えてもよいが、冷却した糖類が粉末の場合に、結露を防止する観点から一回で全量加えるほうが好ましい。
【0050】
次に、上記(2)の方法について述べる。
(2)の方法は、加熱油脂組成物と糖類とを、ジャケット部に温冷媒を流せるジャケット付容器を用いて混合し、20~29℃の任意の品温となった時点を混合終点として、本発明のシュガーバッターを得る方法である。
【0051】
ジャケット部の設定温度、すなわち温冷媒の温度は、容器中に投入する加熱油脂組成物や糖類の量、加熱油脂組成物や糖類の温度、求める調温速度等によっても異なる。
例えば、加熱油脂組成物と糖類とを混合し本発明のシュガーバッターを製造するに際し、その品温を低下させて20~29℃の任意の品温とする場合、効率よく冷却し、本発明のシュガーバッター中の油脂分と糖類とが分離することを抑制する観点から、ジャケット部の設定温度、すなわち冷媒の温度を10~25℃とすることが好ましく、12~23℃とすることがより好ましく、14~20℃又は15~20℃とすることがさらに好ましい。
【0052】
次に、上記(3)の方法について述べる。
(3)の方法は、加熱油脂組成物と糖類とを、その雰囲気温度を調整しながら混合し、20~29℃の任意の品温となった時点を混合終点として、本発明のシュガーバッターを得る方法である。
【0053】
雰囲気温度は、容器中に投入する加熱油脂組成物や糖類の量、加熱油脂組成物や糖類の温度、求める調温速度等によっても異なる。
例えば、加熱油脂組成物と糖類とを混合し本発明のシュガーバッターを製造するに際し、その品温を低下させて20~29℃の任意の品温とする場合、効率よく冷却し、本発明のシュガーバッター中の油脂分と糖類とが分離することを抑制する観点から、雰囲気温度を27℃以下とすることが好ましく、25℃以下とすることがより好ましく、23℃以下とすることがさらに好ましい。なお、下限は混合に用いる容器の壁面に固化した油脂が付着するのを防止する観点から、15℃以上である。
【0054】
本発明においては、上記(1)~(3)の方法をいずれも採用せず、加熱油脂組成物と糖類(冷却されていないもの)とを混合して本発明のシュガーバッターを製造してから、得られた本発明のシュガーバッターを冷蔵や氷冷等の手法により冷却し、20~29℃に調温する方法をとることもできるが、本発明のシュガーバッターの製造中から製造後にかけて、油脂分と糖類とが分離しやすくなるため、結果として良好な食感を有する焼菓子が得られにくくなる。
そのため、本発明のシュガーバッターの製造と、本発明のシュガーバッターの調温とを分けて行う場合、得られた本発明のシュガーバッターが分離することを避ける観点から、本発明のシュガーバッターの調温の際に、(i)本発明のシュガーバッターを撹拌しながら調温する、又は(ii)本発明のシュガーバッターを冷却する、のいずれか1つ以上を選択して調温を行うことが好ましく、これら2つの手法を組み合わせて行うことが好ましい。
【0055】
本発明のシュガーバッターの製造と調温とを分けて行う場合における、本発明のシュガーバッターの冷却は、好ましくはその冷却速度が1℃/分以上であることが好ましく、1~5℃/分であることがより好ましい。
【0056】
なお、品温を低下させて20~29℃の任意の品温とする場合において、何らかの理由により、20℃未満の品温となった場合には、例えば室温下で放置したり、ジャケット付容器のジャケット部に温媒を通して、調温することが可能である。
【0057】
また、上述のとおり、本発明のシュガーバッターの調温はいずれの手法で行っても良いが、良好なクリーミング性を得る観点や良好な食感を有する焼菓子を得る観点から、本発明のシュガーバッターが20~29℃のいずれかの温度にあるときに、その温度におけるSFCが10~35%の範囲にあることが好ましく、10~32%の範囲にあることがより好ましく、10~30%の範囲にあることがさらに好ましい。
【0058】
<工程2>
工程2において、調温した混合物X、すなわち調温した本発明のシュガーバッターと水性原料を混合し、混合物Yを得る。以下、混合物Yを、「本発明の粉前生地」ともいう。
【0059】
本発明の製造方法に用いられる水性原料は、特に制限はなく、焼菓子生地及び焼菓子の製造に必要な水分を供給しうる食品原料であればよい。
例えば水、卵や卵製品、乳や乳製品、及び、豆乳やオーツミルク等の植物乳のうちから1種又は2種以上の水性原料を挙げることができる。
【0060】
また、水性原料に由来する原料、デキストリンや水溶性食物繊維、食塩や塩化カリウム等の塩類、果汁、調味料、酵母エキス、抹茶粉末、ココア粉末等の風味原料、乳化剤や増粘多糖類、着色料、香料、保存料、pH調整剤、膨張剤等の水溶性原料のうち、1種又は2種以上を、上記水性原料とともに用いることもできる。
【0061】
上記水としては特に限定されず、通常の水道水、ミネラルウォーター、イオン交換処理水、蒸留水等の何れであってもよい。これらの水は、単独で用いることもでき、又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0062】
上記乳や乳製品としては、クリーム・発酵乳・牛乳・ヨーグルト・練乳・加糖練乳・全脂練乳・脱脂練乳・濃縮乳・純生クリーム・ホイップクリーム(コンパウンドクリーム)・植物性ホイップクリーム・ナチュラルチーズ・プロセスチーズ・クリームチーズ・ゴーダチーズ・チェダーチーズ等が挙げられ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
【0063】
上記の卵や卵製品としては、全卵、卵黄、卵白、加塩全卵、加塩卵黄、加塩卵白、加糖全卵、加糖卵黄、加糖卵白、凍結全卵、凍結卵黄、凍結卵白、凍結加糖全卵、凍結加糖卵黄、凍結加糖卵白、酵素処理全卵、酵素処理卵黄等を用いることができ、これらの中から選ばれた1種または2種以上を用いることができる。
【0064】
なお、上記の水溶性原料のうち「水性原料に由来する原料」とは、水性原料を出発原料として、乾燥や遠心分離等の加工により、全成分又は特定成分を分離したり濃縮したりしたもの、その固形分濃度を高めたものである。
【0065】
「水性原料に由来する原料」のうち、卵や卵製品由来の原料としては、乾燥全卵、乾燥卵黄、乾燥卵白等を挙げることができ、乳や乳製品由来の原料としては、カゼインやホエー等の乳蛋白質、全粉乳、脱脂粉乳等を挙げることができ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
【0066】
また、上記の水溶性原料のうち「膨脹剤」とは、加熱によって発生するガスによって生地を膨脹させる作用を有する物質をいう。膨脹剤の例としては、例えば、ミョウバン、石灰、ソーダ灰、炭酸水素ナトリウム(重炭酸ナトリウム)および重炭酸アンモニウムが挙げられる。
【0067】
膨脹剤の配合量は、後述する澱粉類100質量部に対し通常、0.1~2質量部であり、好ましくは0.3~1質量部である。
【0068】
本発明の製造方法における、水性原料及び水溶性原料の使用量は特に限定されないが、良好な食感を有する焼菓子を得る観点から、水性原料及び水溶性原料の総量は、後述する澱粉類100質量部に対して、好ましくは10質量部以上、より好ましくは20質量部以上である。その上限は、好ましくは80質量部以下、より好ましくは70質量部以下、さらに好ましくは60質量部以下である。したがって、一実施形態において、水性原料及び水溶性原料の総量が、後述する澱粉類100質量部に対して、好ましくは10~80質量部であり、より好ましくは10~70質量部であり、さらに好ましくは20~60質量部である。
【0069】
なお、焼菓子生地に必要な水分を供給する観点から、水溶性原料よりも水性原料の量を多くすることが好ましい。具体的には、本発明の製造方法に用いられる水性原料1質量部に対する水溶性原料の使用量は、好ましくは0.1~0.5質量部であり、より好ましくは0.1~0.4質量部であり、さらに好ましくは0.1~0.3質量部である。
【0070】
本発明の製造方法において、水溶性原料を用いる場合には、本発明のシュガーバッターに直接添加してもよく、用いられる水性原料に分散・溶解させてから添加してもよいが、得られる焼菓子生地中に均一に水溶性原料を分散させる観点から、事前に水性原料に分散・溶解させてから添加することが好ましい。
【0071】
本発明においては、本発明のシュガーバッターに対して、水性原料、あるいは水性原料と水溶性原料を添加させる際、その温度を常温(25℃)以下としてから添加させることが好ましい。
水性原料、水性原料と水溶性原料とを常温以下としてから、本発明のシュガーバッターに加えることで、本発明のシュガーバッター中の油脂分と、水性原料中の水分とが分離することなく混合されやすくなるほか、水性原料を加えた本発明のシュガーバッターの硬さが変化しにくいため、後述する工程3において澱粉類が混合しやすくなる。
【0072】
本発明のシュガーバッターと水性原料とを混合する手法としては、特に限定されず、工程1と同様に、縦型ミキサーや横型ミキサー、ニーダー等による混合が好ましく、均一になるまで撹拌することが好ましい。
【0073】
なお、水性原料を加える際は、本発明のシュガーバッターに対して一回で全量加えてもよく、複数回に分けて少量ずつ混合しながら加えてもよい。
【0074】
本発明においては、良好な食感の焼菓子を得る観点から、本発明のシュガーバッターと水性原料、又は本発明のシュガーバッターと水性原料と水溶性原料とを均一に混合し終えたあとの混合物Y、すなわち本発明の粉前生地の比重(以下、単に「粉前比重」ともいう。)は菓子配合により変わるが、例えばクッキーでは、作業性が向上する観点から、好ましくは0.90以下又は0.85以下であり、より好ましくは0.83以下又は0.80以下であり、さらに好ましくは0.75以下である。粉前比重の下限は、クッキー生地の保型性の観点から0.65以上である。したがって、一実施形態において、粉前比重は、好ましくは0.65~0.90又は0.65~0.85であり、より好ましくは0.65~0.83又は0.65~0.80であり、さらに好ましくは0.65~0.75である。
【0075】
粉前比重は、容積法により測定することができる。具体的には、一定容積の計量カップに粉前生地を充填し、該カップ内の粉前生地の質量を測定し、その質量を計量カップの容積で除して得られる数値を粉前比重とする。なお、粉前比重は20~29℃において測定するものとする。
【0076】
粉前比重を上記範囲とする際には、従前知られた手法を用いてよい。本発明の製造方法における工程2の時点で、例えば、(i)空気、窒素、酸素等の食品に使用することのできるガスを、本発明のシュガーバッター及び水性原料の混合中に、又は粉前生地中に、注入、混和、又はその両方を行うことで、粉前生地中にガスを分散させて比重を上記範囲内とする手法、(ii)粉前生地を泡立て器等でかき混ぜて空気を含気させ、比重を上記範囲内とする手法が挙げられる。
【0077】
<工程3>
工程3において、混合物Y、すなわち本発明の粉前生地と澱粉類を混合し、焼菓子生地(以下、「本発明の焼菓子生地」ともいう。)を得る。
【0078】
本発明で用いられる澱粉類としては、例えば、薄力粉、強力粉、準強力粉、中力粉、デュラム粉、全粒粉等の小麦粉類、ライ麦粉、大麦粉、米粉等のその他の穀粉類、アーモンド粉、へーゼルナッツ粉、カシューナッツ粉、オーナッツ粉、松実粉等の堅果粉、コーンスターチ、タピオカ澱粉、小麦澱粉、甘藷澱粉、サゴ澱粉、米澱粉等の澱粉や、これらの澱粉をアミラーゼ等の酵素で処理したものや、α化処理、分解処理、エーテル化処理、エステル化処理、架橋処理、グラフト化処理等の中から選ばれた1種又は2種以上の処理を施した加工澱粉を挙げることができる。澱粉類は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0079】
本発明の製造方法においては、良好な食感の焼菓子を得る観点から、用いられる澱粉類のうち、70質量%以上が小麦粉類であることが好ましく、78質量%以上が小麦粉類であることがより好ましく、85質量%以上が小麦粉類であることがさらに好ましい。
【0080】
本発明の粉前生地と澱粉類とを混合する手法としては、特に限定されず、縦型ミキサーや横型ミキサー、ニーダー等による混合が好ましく、均一になるまで撹拌することが好ましい。
【0081】
なお、澱粉類を加える際は、本発明の粉前生地に対して一回で全量加えてもよく、複数回に分けて少量ずつ混合しながら加えてもよい。
【0082】
本発明の焼菓子生地の種類としては、クッキー生地、パイ生地、ドーナツ生地、バターケーキ生地、ビスケット生地、ワッフル生地、スコーン生地等が挙げられるが、本発明による改善効果が特に得られやすい点で、クッキー生地、バターケーキ生地、ビスケット生地であることが好ましい。
【0083】
<工程4>
工程4において、本発明の焼菓子生地を加熱する。
【0084】
本発明の焼菓子生地の加熱の手法は特に限定されず、例えば、焼成や、油ちょう、蒸し加熱、電子レンジ処理のうちから1種又は2種以上の加熱を施すことができるが、焼菓子特有の食感を得る観点から、焼成を行うことが好ましい。
【0085】
なお、焼成の方法に特に制限はなく、例えばオーブン、ガスバーナー、電子レンジ、電気ヒーター(トースター)等の焼成装置を用いることができ、焼成する際は、適宜成形された焼菓子生地を通常、天板上あるいはコンベア上に積置するが、焼型に入れて焼成してもよい。
【0086】
焼成する際の温度は、通常の焼菓子同様、好ましくは160℃以上であり、より好ましくは170℃以上である。これにより、火どおりが良くなり、焼成時間が延びてしまうこと、及び、焼菓子の浮きが悪く硬い食感になるのを防ぐことができる。また、その上限は、好ましくは250℃以下、より好ましくは220℃以下である。これにより、焦げを生じ、食味が悪く、仕上がりの品質がばらつくのを防ぐことができる。したがって、一実施形態において、焼成する際の温度は、通常の焼菓子同様、好ましくは160℃~250℃、より好ましくは170℃~220℃である。
【0087】
加熱時間は、本発明の焼菓子生地の水分量や生地配合によっても異なり、適宜調整可能である。例えばクッキーでは、上述の焼成する際の温度と同様の観点から、加熱時間は好ましくは5分以上、より好ましくは7分以上、さらに好ましくは10分以上である。また、その上限は、好ましくは25分以下、より好ましくは23分以下、さらに好ましくは20分以下である。したがって、一実施形態において、加熱時間は好ましくは5~25分であり、より好ましくは7~23分であり、さらに好ましくは10~20分である。
【0088】
<その他工程>
本発明の製造方法は、上記の工程1~4を含むことを特徴とするが、必要に応じて工程1~4以外の任意の工程を含んでよい。
【0089】
任意の工程としては、例えばリタード工程や成形工程を挙げることができ、工程1~4の任意の工程間で実施してよい。なお、リタード工程及び成形工程については、上記工程3と上記工程4との間で行うことが好ましい。
【0090】
本発明でとりうるリタード工程について述べる。
リタードの温度は、焼菓子の種類や配合によって異なり、例えばクッキーでは好ましくは10~25℃、より好ましくは15~25℃である。リタードの温度が10℃以上であることで、生地が過度に固くなり成形しにくくなることを回避することができる。また、リタードの温度が25℃以下であることで、生地が軟化してべたつき、作業性が低下することを回避することができる。
【0091】
上記のリタードの時間は、好ましくは0.25時間以上、より好ましくは0.25~3時間、さらに好ましくは0.25~1時間である。リタードの時間が0.25時間以上であることにより、生地がべたつきやすくなるのを防ぐことができる。また、リタードの時間が3時間以下であることにより、生地が過度に固くなり成形しにくくなることを回避することができる。
【0092】
本発明でとりうる成形工程について述べる。
本発明の焼菓子生地は、例えば、ワイヤーカットやデポジッターにより分注する方法、ロータリーモールドで一定の厚さに成形する方法、また、必要に応じて、ロールでの展延や、押出し成形する方法を採用して、成形することができる。
【0093】
成形後の本発明の焼菓子生地の形状や厚み、長さは特に制限されないが、焼成時間や水分残存率、喫食のし易さを鑑み、例えば円形に成形された場合には、2~10mmの厚み、20~100mmの直径に成形されることが好ましく、4~8mmの厚み、40~80mmの直径がより好ましい。
【0094】
<本発明の製造方法に用いられる副原料>
本発明の製造方法においては、上記の加熱油脂組成物や糖類、水性原料の他、通常、製菓用原料として使用し得る副原料を使用して、本発明の焼菓子生地及び焼菓子を製造することが可能である。
【0095】
本発明の製造方法に用いられる副原料としては、例えば、塩味剤、上記以外の乳や乳製品、グリセリン脂肪酸エステル・グリセリン有機酸脂肪酸エステル(例、グリセリン酢酸脂肪酸エステル・グリセリン乳酸脂肪酸エステル・グリセリンコハク酸脂肪酸エステル・グリセリン酒石酸脂肪酸エステル・グリセリンクエン酸脂肪酸エステル・グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル)・ソルビタン脂肪酸エステル・ショ糖脂肪酸エステル・ショ糖酢酸イソ酪酸エステル・ポリグリセリン脂肪酸エステル・ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル・プロピレングリコール脂肪酸エステル・ステアロイル乳酸塩(例、カルシウム塩・ナトリウム塩)・ポリオキシエチレンソルビタンモノグリセリド・レシチン・リゾレシチン・乳脂肪球皮膜等の乳化剤、着色料(例、β-カロテン、カラメル、紅麹色素)、酸化防止剤(例、トコフェロール、茶抽出物)、植物蛋白(例、小麦蛋白、大豆蛋白)、乳蛋白、動物蛋白、上記以外の卵や卵製品、増粘多糖類、着香料、調味料、蛋白質加水分解物、保存料、ナッツペースト、香辛料、香辛料抽出物、カカオマス、ココアパウダー、野菜類及びこれらの加工品、肉類及びこれらの加工品、魚介類及びこれらの加工品、果汁や果実類及びこれらの加工品が挙げられる。これらの中から選ばれた1種又は2種以上を、本発明の焼菓子の製造の任意の時点で用いることができる。
【0096】
本発明の製造方法においては、上記の副原料のうちでも乳化剤を含有させることが好ましく、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、グリセリン脂肪酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種の乳化剤を含有させることがより好ましく、少なくともグリセリン脂肪酸エステルを含有させることがさらに好ましく、グリセリン脂肪酸エステル単体で含有させることがさらにより好ましい。
【0097】
本発明に好ましく用いられるポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルについて述べる。
【0098】
本発明に用いられるポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルはポリグリセリンと縮合リシノレイン酸とのエステルであり、通常、グリセリン重合度2~10、リシノレイン酸の縮合度3~10、HLB3以下のものを用いることができる。
【0099】
本発明の製造方法における、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルの使用量は、本発明の焼菓子生地の製造に用いられた澱粉類100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上であり、より好ましくは0.015質量部以上であり、さらに好ましくは0.02質量部以上である。ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルの使用量が上記下限を満たすことで、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルの添加効果が得られやすく、得られる焼菓子の食感が硬くなることを防ぎ、且つ、粉前比重を低下させ作業性を向上させることができる。その上限は、好ましくは3質量部以下、より好ましくは2.2質量部以下、又は1質量部以下、更に好ましくは0.5質量部以下、又は0.3質量部以下である。ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルの使用量が上記上限を満たすことで、焼成後の焼菓子中に水分が残り湿気た食感となることを防ぐことができる。したがって、一実施形態において、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルの使用量は、澱粉類100質量部に対して、好ましくは0.01~3質量部、より好ましくは0.01~2.2質量部、又は0.01~1質量部、更に好ましくは0.015~0.5質量部、又は0.02~0.3質量部である。
【0100】
また、本発明の製造方法における、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルの使用量は、本発明の焼菓子生地100質量部中、好ましくは0.001質量部以上であり、より好ましくは0.005質量部以上であり、さらに好ましくは0.001質量部以上である。ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルの使用量が上記下限を満たすことで、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルの添加効果が得られやすく、得られる焼菓子の食感が硬くなることを防ぎ、且つ、粉前比重を低下させ作業性を向上させることができる。上限は、好ましくは1質量部以下であり、より好ましくは0.5質量部以下であり、さらに好ましくは0.2質量部以下である。ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルの使用量が上記上限を満たすことで、焼成後の焼菓子中に水分が残り湿気た食感となることを防ぐことができる。したがって、一実施形態において、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルの使用量は、本発明の焼菓子生地100質量部中、好ましくは0.001~1質量部であり、より好ましくは0.005~0.5質量部であり、さらに好ましくは0.01~0.2質量部である。
【0101】
本発明に好ましく用いられるグリセリン脂肪酸エステルについて述べる。
【0102】
本発明に用いられるグリセリン脂肪酸エステルは、グリセリンと脂肪酸のエステル又はその誘導体であり、グリセリン脂肪酸モノエステル、グリセリン脂肪酸ジエステル、グリセリン有機酸脂肪酸モノエステル等を示すが、本発明においては、良好な食感の焼菓子を得る観点から、グリセリン脂肪酸モノエステルを用いることが好ましい。
【0103】
用いられるグリセリン脂肪酸エステルは、その構成脂肪酸残基が飽和脂肪酸残基であっても不飽和脂肪酸残基であってもよいが、本発明の焼菓子生地中の油脂分や水分の分離を抑制する観点や、得られる焼菓子の食感をいっそう良好なものとする観点から、構成脂肪酸残基が不飽和脂肪酸残基であるグリセリン脂肪酸エステルを用いることが好ましい。すなわち、グリセリン不飽和脂肪酸モノエステルを用いることが好ましい。
【0104】
本発明においては、「構成脂肪酸残基が不飽和脂肪酸残基である」とは、構成脂肪酸残基組成中の不飽和脂肪酸残基の割合が、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上である場合を意味する。なお、構成脂肪酸残基組成中の不飽和脂肪酸残基の割合の上限は100質量%以下である。
【0105】
構成脂肪酸残基組成中の各脂肪酸残基の含有量については、例えば、「日本油化学会制定 基準油脂分析試験法2.4.2.3-2013」、「日本油化学会制定 基準油脂分析試験法2.4.4.3-2013」、「AOCS法Ce-1h05」を参考に、キャピラリーガスクロマトグラフ法により測定することができる。本発明において示す脂肪酸残基組成は、「AOCS法Ce-1h05」に準拠して、キャピラリーガスクロマトグラフ法により測定した値に基づくものであり、以下同様である。
【0106】
本発明の製造方法におけるグリセリン脂肪酸エステルの使用量は、本発明の焼菓子生地の製造に用いられた澱粉類100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.3質量部以上、更に好ましくは0.5質量部以上である。これにより、グリセリン脂肪酸エステルの添加効果が得られやすく、得られる焼菓子の食感が硬くなることを防ぎ、且つ、作業性を向上させることができる。上限は、好ましくは3質量部以下、より好ましくは2.2質量部以下、更に好ましくは1.5質量部以下である。これにより、油性感を抑えることができる。したがって、一実施形態において、グリセリン脂肪酸エステルの使用量は、澱粉類100質量部に対して、好ましくは0.1~3質量部、より好ましくは0.3~2.2質量部、更に好ましくは0.5~1.5質量部である。
【0107】
本発明の製造方法におけるグリセリン脂肪酸エステルの使用量は、本発明の焼菓子生地100質量部中、好ましくは0.05質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上、さらに好ましくは0.2質量部以上である。これにより、グリセリン脂肪酸エステルの添加効果が得られやすく、得られる焼菓子の食感が硬くなることを防ぎ、且つ、作業性を向上させることができる。上限は、好ましくは2質量部以下、より好ましくは1質量部以下、さらに好ましくは0.8質量部以下である。これにより、油性感を抑えることができる。したがって、一実施形態において、グリセリン脂肪酸エステルの使用量は、本発明の焼菓子生地100質量部中に好ましくは0.05~2質量部、より好ましくは0.1~1質量部、さらに好ましくは0.2~0.8質量部である。
【0108】
本発明の効果が好ましく得られる観点から、本発明の製造方法における、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、及びグリセリン脂肪酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種類の乳化剤の使用量は、本発明の焼菓子生地の製造に用いられる澱粉類100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.12質量部以上、さらに好ましくは0.13質量部以上である。上限は、好ましくは4質量部以下、より好ましくは3質量部以下、さらに好ましくは2質量部以下である。したがって、一実施形態において、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、グリセリン脂肪酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種類の乳化剤の使用量は、澱粉類100質量部に対して、好ましくは0.1~4質量部であり、より好ましくは0.1~3質量部又は0.12~3質量部であり、さらに好ましくは0.13~2質量部である。
【0109】
乳化剤を含有させる場合、好ましくは乳化剤としてポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、グリセリン脂肪酸エステルを含有させる場合には、本発明の焼菓子生地中の油脂分や水分の分離を抑制する観点や、粉前比重を低下させ作業性を良好なものとする観点、得られる焼菓子の食感をいっそう良好なものとする観点から、上記工程3以前に添加されるのが好ましく、上記工程2以前に添加されるのがより好ましく、上記工程1の時点で添加されるのがさらに好ましい。
すなわち、本発明の焼菓子生地、又は本発明の粉前生地、本発明のシュガーバッターのいずれかに添加されるのが好ましく、本発明の粉前生地、又は本発明のシュガーバッターのいずれかに添加されるのがより好ましく、本発明のシュガーバッターに添加されるのがさらに好ましく、糖類との混合前に加熱油脂組成物に予め添加されるのがさらにより好ましい。
【0110】
ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルとグリセリン脂肪酸エステルの添加の方法については、単独で直接添加することもでき、他の原料と同時に添加することもできるが、これらを系中に均一に分散させる観点から、本発明においては加熱油脂組成物又は糖類と同時に添加することが好ましく、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルやグリセリン脂肪酸エステルを原料の一つとする油脂組成物(すなわち、後述の本発明のシュガーバッター用油脂組成物を用いることにより)を用いることにより添加することがより好ましい。
【0111】
<シュガーバッター用油脂組成物>
本発明のシュガーバッター用油脂組成物について述べる。本発明のシュガーバッター用油脂組成物は、本発明の焼菓子の製造方法に用いられるものであり、加熱して用いられるものであって、好ましくは条件(a)及び(b)を満たし、より好ましくはさらに条件(c)を満たすものである。
(a)油相を構成する油脂のうち、ランダムエステル交換油脂を40~100質量%含有する
(b)ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、グリセリン脂肪酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種類の乳化剤を、油脂組成物中0.7~3.8質量%含有する
(c)飽和脂肪酸残基組成中のベヘン酸残基の含有量が0.3~8.0質量%である
【0112】
<条件(a)について>
条件(a)は、油相中のランダムエステル交換油脂の含有量に関する。
【0113】
本発明のシュガーバッター用油脂組成物は、後述するとおり、水相を含まない油相のみからなるものであってもよいし、水相を含んだ乳化物であってもよいが、いずれの場合であっても油相を含むものである。
【0114】
そして、本発明のシュガーバッター用油脂組成物は、油相を構成する油脂のうち、ランダムエステル交換油脂を40~100質量%含有することが好ましい。
ランダムエステル交換油脂を上記範囲で含有させることにより、食感がサクサクと良好なものとなる。この理由は明らかではないが、ランダムエステル交換油脂を用いることにより加熱油脂組成物をクリーミングしていく際に粗大な油脂結晶が生じにくいためより良くショートネス性が発揮されるためであると推察している。
【0115】
粉前比重が低下し、作業性が良好となる観点、及び、良好な食感を有する焼菓子を得る観点から、本発明のシュガーバッター用油脂組成物の油相を構成する油脂のうち、ランダムエステル交換油脂の含有量は、より好ましくは55~100質量%であり、さらに好ましくは70~100質量%である。
【0116】
特に、良好なクリーミング性と、良好な食感の焼菓子を得る観点から、ランダムエステル交換油脂として、以下のランダムエステル交換油脂α~γからなる群のうち1以上を含有することが好ましく、ランダムエステル交換油脂αを含有することがより好ましく、ランダムエステル交換油脂αに加えてランダムエステル交換油脂β又はランダムエステル交換油脂γのいずれか1つ以上を含有させることがさらに好ましい。
ランダムエステル交換油脂α:ベヘン系ランダムエステル交換油脂
ランダムエステル交換油脂β:パーム系ランダムエステル交換油脂
ランダムエステル交換油脂γ:ラウリン系ランダムエステル交換油脂
【0117】
なお、本発明においてベヘン系油脂とは、エルシン酸を多く含む菜種油をヨウ素価が1以下となるまで水素添加した油脂等のベヘン酸を含む油脂や、ベヘン酸を含む油脂に対して水素添加、分別から選択される1又は2の処理を施して得られる加工油脂を指す。
【0118】
油脂のヨウ素価の測定は常法に基づいて行うことができる。例えば基準油脂分析試験法(社団法人日本油化学会)の「2.3.4.1-2013 ヨウ素価(ウィイス-シクロヘキサン法)」により実施することができ、以下同様である。
【0119】
また、本発明においてパーム系油脂とは、パーム油、及びパーム油に対して水素添加、分別から選択される1又は2の処理を施して得られる加工油脂を指す。パーム油に対して分別を施した油脂としては、例えば、分別軟部油、分別硬部油を選択することができ、該分別軟部油としては、例えば、パームオレイン、スーパーオレイン、ソフトパームミッドフラクション、トップオレイン、ハードパームミッドフラクションが挙げられ、また、該分別硬部油としては、例えば、ハードステアリン、ソフトステアリン、スーパーステアリンが挙げられ、水素添加したパーム油の分別軟部油、分別硬部油も挙げられる。
【0120】
また、本発明において、ラウリン系油脂とは、パーム核油やヤシ油、及びこれらの油脂に対して水素添加、分別から選択される1又は2の処理を施して得られる加工油脂を指す。
【0121】
本発明に用いられるランダムエステル交換油脂を製造する際のランダムエステル交換は、常法に従って行うことができ、化学的触媒による方法でも、酵素による方法でもよい。上記化学的触媒としては、例えば、ナトリウムメトキシド等のアルカリ金属系触媒が挙げられ、また、上記酵素としては、位置選択性のない酵素、例えば、アルカリゲネス(Alcaligenes)属、リゾープス(Rhizopus)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、ムコール(Mucor)属、ペニシリウム(Penicillium)属等に由来するリパーゼが挙げられる。なお、該リパーゼは、イオン交換樹脂、ケイ藻土及びセラミック等の担体に固定化して、固定化リパーゼとして用いることもできるし、粉末の形態で用いることもできる。以下、本発明において同様である。
【0122】
(ランダムエステル交換油脂αについて)
本発明のシュガーバッター用油脂組成物に好ましく用いられるベヘン系ランダムエステル交換油脂について述べる。
【0123】
本発明において、ベヘン系ランダムエステル交換油脂とは、ベヘン系油脂(例、ハイエルシン菜種極度硬化油、魚油極度硬化油、菜種極度硬化油)のうちから選択された1種又は2種以上を含有する油脂配合物(以下、単に「油脂配合物α」ともいう。)をランダムエステル交換して得られる油脂を指す。
【0124】
油脂配合物α中のベヘン系油脂の含有量は、好ましくは5~60質量%、より好ましくは10~50質量%、さらに好ましくは15~40質量%である。
【0125】
ランダムエステル交換油脂αは、本発明の効果が好ましく得られる観点から、構成飽和脂肪酸残基組成におけるベヘン酸残基の割合が好ましくは4質量%以上、より好ましくは5質量%以上、7質量%以上、又は10質量%以上である。その上限は、構成脂肪酸残基組成におけるベヘン酸残基の割合が好ましくは40質量%以下、より好ましくは25質量%以下、さらに好ましくは15質量%以下であるものである。したがって一実施形態においてランダムエステル交換油脂αは、構成飽和脂肪酸残基組成におけるベヘン酸残基の割合が好ましくは4~40質量%、より好ましくは4~25質量%、さらに好ましくは4~15質量%である。
【0126】
油脂配合物αに含有される、ベヘン系油脂以外の油脂としては特に限定されないが、良好な食感を有する焼菓子を得る観点や、焼菓子生地の製造において粉前比重を好ましく低下させる観点等から、パーム系油脂又はラウリン系油脂のうちいずれか1種以上を油脂配合物αに含有させることが好ましい。パーム系油脂としては、パーム油、パーム油の分別軟部油のいずれか1種以上を含有させることが好ましく、パーム分別軟部油を含有させることがより好ましい。ラウリン系油脂としては、パーム核油、パーム核油の分別油、ヤシ油のいずれか1種以上を含有させることが好ましく、パーム核油を含有させることがより好ましい。
【0127】
なお、ベヘン系油脂以外の油脂としてラウリン系油脂を含む場合であっても、構成脂肪酸残基組成におけるベヘン酸残基の割合が上記範囲を満たすものであれば、本発明においてはベヘン系油脂として取り扱うものとする。また、ベヘン系油脂以外の油脂として、水素添加した油脂又は水素添加した油脂をさらに分別した油脂を用いる場合には、構成脂肪酸残基組成におけるトランス脂肪酸残基の量を低減する観点から、ヨウ素価が3以下となるまで硬化させた油脂を用いることが好ましく、1以下となるまで硬化させた油脂を用いることがより好ましい。以下、本発明において硬化油を用いる場合に同様である。
【0128】
油脂配合物αにパーム系油脂を含有させる場合、その量は、クリーミング性を高める観点から、40~95質量%であることが好ましく、50~90質量%であることがより好ましく、55~85質量%であることがさらに好ましい。
【0129】
油脂配合物αにラウリン系油脂を含有させる場合、その量は、クリーミング性を高める観点から、5~40質量%であることが好ましく、10~35質量%であることがより好ましく、15~30質量%であることがさらに好ましい。
【0130】
ランダムエステル交換油脂αのSFCは、本発明のシュガーバッターが上述のSFCの数値範囲を満たせばよく、特に制限されないが、良好なクリーミング性を得る観点や良好な食感を有する焼菓子を得る観点から、25℃におけるSFCが10~50%であることが好ましく、20~40%であることがより好ましく、25~35%であることがさらに好ましい。
【0131】
ランダムエステル交換油脂αの飽和脂肪酸残基組成中のラウリン酸残基量は、本発明の効果が好ましく得られる観点から、通常、30質量%以下であり、0.5~20質量%が好ましく、0.8~15質量%がより好ましい。
また、飽和脂肪酸残基組成中のパルミチン酸残基とステアリン酸残基の含量の和は、本発明の効果が好ましく得られる観点から、45~95質量%であることが好ましく、55~85質量%であることがより好ましく、60~80質量%であることがさらに好ましい。
また、飽和脂肪酸残基組成中のラウリン酸残基、ベヘン酸残基、パルミチン酸残基及びステアリン酸残基の和は、本発明の効果が好ましく得られる観点から、85質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましい。
また、ランダムエステル交換油脂αの構成脂肪酸残基組成における飽和脂肪酸残基及び不飽和脂肪酸残基の質量比は、本発明の効果が好ましく得られる観点から、0.75~3が好ましく、1~2がより好ましい。
【0132】
これらの要件を満たし、本発明のシュガーバッター用油脂組成物に好ましく用いられるベヘン系ランダムエステル交換油脂としては、例えば、以下の(i)や(ii)を挙げることができる。
(i)パーム分別軟部油と、ハイエルシン菜種油の極度硬化油とを、この順で70~90:10~30の質量比で混合した油脂を常法に則りランダムエステル交換した油脂
(ii)パーム分別軟部油と、パーム核油と、ハイエルシン菜種油の極度硬化油とを、この順で40~70:10~30:10~30で混合した油脂を常法に則りランダムエステル交換した油脂
【0133】
本発明のシュガーバッター用油脂組成物がランダムエステル交換油脂αを含有する場合、その含有量は、良好なクリーミング性と良好な食感の焼菓子を得る観点から、好ましくは5質量%以上、より好ましくは7質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上である。その上限は、好ましくは50質量%以下、より好ましくは35質量%以下、さらに好ましくは25質量%以下である。したがって、一実施形態において、本発明のシュガーバッター用油脂組成物におけるランダムエステル交換油脂αの含有量は、好ましくは5~50質量%、より好ましくは7~35質量%、さらに好ましくは10~25質量%である。
【0134】
(ランダムエステル交換油脂βについて)
本発明のシュガーバッター用油脂組成物に好ましく用いられるパーム系ランダムエステル交換油脂について述べる。
【0135】
パーム系ランダムエステル交換油脂は、パーム油、及びパーム油に対して水素添加、分別から選択される1又は2の処理を施して得られる加工油脂から選択される油脂をランダムエステル交換して得られる。ランダムエステル交換に供される油脂は、1種のみであってもよく、2種以上を混合したものであってもよい。
【0136】
本発明のシュガーバッター用油脂組成物がランダムエステル交換油脂βを含有する場合、クリーミング性を向上させる観点や、生地の保型性の観点、良好な食感の焼菓子を得る観点から、ランダムエステル交換に供される油脂は、パーム油、パーム硬化油、パーム分別軟部油、又はパーム分別硬部油が好ましく、パーム油、パーム極度硬化油、パーム分別軟部油がより好ましい。
【0137】
ランダムエステル交換油脂βのSFCは、本発明のシュガーバッターが上述のSFCの数値範囲を満たせばよく、特に制限されないが、良好なクリーミング性を得る観点や良好な食感を有する焼菓子を得る観点から、25℃におけるSFCが5~80%であることが好ましく、8~70%であることがより好ましく、10~60%又は10~20%であることがさらに好ましい。
【0138】
ランダムエステル交換油脂βの飽和脂肪酸残基組成中のラウリン酸残基量は、本発明の効果が好ましく得られる観点から、通常、10質量%以下であり、5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましい。下限は0質量%である。
飽和脂肪酸残基組成中のパルミチン酸残基とステアリン酸残基の含量の和は、本発明の効果が好ましく得られる観点から、80質量%以上であることが好ましく、85~98質量%であることがより好ましく、90~97質量%であることがさらに好ましい。
飽和脂肪酸残基組成中のラウリン酸残基、パルミチン酸残基及びステアリン酸残基の和は、本発明の効果が好ましく得られる観点から、85質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましい。
また、ランダムエステル交換油脂βの構成脂肪酸残基組成における飽和脂肪酸残基及び不飽和脂肪酸残基の質量比は、本発明の効果が好ましく得られる観点から、0.1~3が好ましく、0.5~2.5がより好ましい。
【0139】
本発明のシュガーバッター用油脂組成物がランダムエステル交換油脂βを含有する場合、その含有量は、良好なクリーミング性と良好な食感の焼菓子を得る観点から、好ましくは15質量%以上、より好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは25質量%以上である。その上限は、好ましくは75質量%以下又は70質量%以下である。したがって一実施形態において、本発明のシュガーバッター用油脂組成物におけるランダムエステル交換油脂βの含有量は、好ましくは15~70質量%であり、より好ましくは20~70質量%であり、さらに好ましくは25~70質量%である。
【0140】
(ランダムエステル交換油脂γについて)
本発明のシュガーバッター用油脂組成物に好ましく用いられるラウリン系ランダムエステル交換油脂について述べる。
【0141】
なお、本発明において、ラウリン系ランダムエステル交換油脂とは、パーム核油やヤシ油、及びこれらの油脂に対して水素添加、分別から選択される1又は2の処理を施して得られる加工油脂(以下、これらの油脂を総称して単に「ラウリン系油脂」ともいう。)のうちから選択された1種又は2種以上を含有した油脂配合物(以下、単に「油脂配合物γ」ともいう。)をランダムエステル交換して得られる油脂を指す。
【0142】
油脂配合物γ中のラウリン系油脂の含有量は、好ましくは5~95質量%、より好ましくは10~80質量%、さらに好ましくは15~65質量%である。
【0143】
油脂配合物γに含有される、ラウリン系油脂以外の油脂としては特に限定されないが、上記条件(a)及び(b)を好ましく満たす観点から、パーム系油脂を油脂配合物γに含有させることが好ましく、パーム系油脂としてパーム油又はパーム硬化油を含有させることが好ましく、パーム極度硬化油を含有させることがより好ましい。
【0144】
ランダムエステル交換油脂γのSFCは、本発明のシュガーバッターが上述のSFCの数値範囲を満たせばよく、特に制限されないが、良好なクリーミング性を得る観点や良好な食感を有する焼菓子を得る観点から、25℃におけるSFCが10~85%であることが好ましく、50~80%であることがより好ましく、65~75%であることがさらに好ましい。
【0145】
油脂配合物γにおけるパーム系油脂の含有量は、本発明の効果が好ましく得られる観点から、20~75質量%であることが好ましく、35~70質量%であることがより好ましく、45~65質量%であることがさらに好ましい。
【0146】
本発明に用いられるラウリン系ランダムエステル交換油脂の構成飽和脂肪酸残基組成におけるラウリン酸残基量は5~40質量%であることが好ましく、5~33質量%であることがより好ましく、5~28質量%であることがさらに好ましい。
また、飽和脂肪酸残基組成中のパルミチン酸残基とステアリン酸残基の含量の和は、本発明の効果が好ましく得られる観点から、40~80質量%であることが好ましく、50~70質量%であることがより好ましく、55~65質量%であることがさらに好ましい。
また、飽和脂肪酸残基組成中のラウリン酸残基、パルミチン酸残基及びステアリン酸残基の和は、本発明の効果が好ましく得られる観点から、80質量%以上が好ましく、85質量%以上がより好ましい。
また、ランダムエステル交換油脂γの構成脂肪酸残基組成における飽和脂肪酸残基及び不飽和脂肪酸残基の質量比は、本発明の効果が好ましく得られる観点から、1~9が好ましく、5~8.5がより好ましい。
【0147】
これらの要件を満たし、本発明のシュガーバッター用油脂組成物に好ましく用いられるラウリン系ランダムエステル交換油脂としては、例えば、パーム核油と、ヨウ素価40以下のパームステアリンやパーム油の極度硬化油とを、この順で40~80:20~60の質量比で混合した油脂を常法に則りランダムエステル交換した油脂を、好ましく用いることができる。
【0148】
本発明のシュガーバッター用油脂組成物がランダムエステル交換油脂γを含有する場合、その含有量は、良好なクリーミング性と良好な食感の焼菓子を得る観点から、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下、さらに好ましくは20質量%以下である。下限は、好ましくは3質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上である。したがって一実施形態において、本発明のシュガーバッター用油脂組成物におけるランダムエステル交換油脂γの含有量は、好ましくは40質量%以下であり、より好ましくは3~30質量%であり、さらに好ましくは5~20質量%である。
【0149】
(その他の油脂について)
本発明のシュガーバッター用油脂組成物は、油相を構成する油脂として、ランダムエステル交換油脂以外の油脂(以下、単に「その他の油脂」という。)を含有させることができる。
【0150】
本発明のシュガーバッター用油脂組成物に用いることができるその他の油脂としては特に限定されず、例えば、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、綿実油、大豆油、菜種油(ハイエルシン種を含む)、米油、ヒマワリ油(ハイオレイック種を含む)、サフラワー油(ハイオレイック種を含む)、オリーブ油、キャノーラ油、牛脂、乳脂、豚脂、カカオ脂、魚油、鯨油等の各種植物油脂及び動物油脂、並びにこれらに水素添加、分別及びエステル交換から選択される1または2以上の処理を施した加工油脂が挙げられる。これらの油脂は、単独でも用いることができ、または2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0151】
その他の油脂のSFCは、本発明のシュガーバッターが上述のSFCの数値範囲を満たせばよく、特に制限されない。
【0152】
本発明のシュガーバッター用油脂組成物に上記その他の油脂を含有させる場合、油相を構成する油脂に占めるその他の油脂の量は、得られる焼菓子生地の作業性や、得られる焼菓子の食感等の観点から、3~60質量%であることが好ましく、5~50質量%であることがより好ましく、8~35質量%であることがさらに好ましい。
【0153】
本発明のシュガーバッター用油脂組成物に含有される油脂の量は、特に限定されないが、シュガーバッター法による焼菓子の製造に用いられる点や、良好なクリーミング性を得る観点、良好な食感の焼菓子を得る観点から、好ましくは60~100質量%であり、より好ましくは75~100質量%であり、さらに好ましくは90~100質量%である。
なお、本発明のシュガーバッター用油脂組成物の油脂の含有量には、配合油の他に、油脂を含有する副原料を使用した場合には、それらが有する油脂も含まれる。
【0154】
<シュガーバッター用油脂組成物の油相の融点について>
本発明のシュガーバッター用油脂組成物の油相を構成する油脂の融点は好ましくは28℃以上、より好ましくは30℃以上、さらに好ましくは35℃以上である。上限は、好ましくは50℃以下、より好ましくは47℃以下、さらに好ましくは44℃以下である。したがって、一実施形態において、本発明のシュガーバッター用油脂組成物の油相を構成する油脂の融点は、好ましくは28~50℃又は30~50℃、より好ましくは30~47℃又は33~47℃、さらに好ましくは30~44℃又は35~44℃である。
【0155】
本発明のシュガーバッター用油脂組成物の油相を構成する油脂の融点が、上記範囲を満たすことにより、本発明のシュガーバッター用油脂組成物と糖類とを混合する際のクリーミング性が良好なものとなり、好ましく含気された本発明のシュガーバッターが得られやすく、粉前比重の低い粉前生地が製造しやすいため、良好な食感の焼菓子が得られやすい。
【0156】
配合油の融点を上記範囲の上限よりも高めることで、本発明のシュガーバッターの温度が29℃超となっても、シュガーバッター自体の比重又は粉前比重を維持するようにすることもできるが、焼菓子の食感が硬く口どけが劣るものになりやすく、好ましくない。
【0157】
<シュガーバッター用油脂組成物の油相のヨウ素価について>
本発明のシュガーバッター用油脂組成物において、油相を構成する油脂のヨウ素価は、特に限定されないが、本発明の効果が好ましく得られる観点から、好ましくは20~90であり、より好ましくは30~80であり、さらに好ましくは40~70である。
【0158】
<条件(b)について>
条件(b)は、乳化剤の種類と含有量に関する。
【0159】
本発明のシュガーバッター用油脂組成物は、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、グリセリン脂肪酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種類の乳化剤を、油脂組成物中0.7~3.8質量%含有することが好ましい。
【0160】
ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、グリセリン脂肪酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種類の乳化剤を上記範囲で含有することにより、サクサクとした食感を有する焼菓子が得られやすくなる他、本発明のシュガーバッター用油脂組成物を用いて焼菓子生地を得る際のクリーミング性が良好になり、油水分離が生じにくくなる。
【0161】
本発明のシュガーバッター用油脂組成物におけるポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、グリセリン脂肪酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種類の乳化剤の含有量は、上記効果を好ましく得る観点から、組成物中により好ましくは0.9質量%以上、さらに好ましくは1.2質量%以上である。その上限は、より好ましく3.6質量%以下、さらに好ましくは3.4質量%以下である。したがって一実施形態において、本発明のシュガーバッター用油脂組成物における乳化剤の含有量は、より好ましくは0.9~3.6質量%、さらに好ましくは1.2~3.4質量%である。
【0162】
本発明の製造方法における、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、グリセリン脂肪酸エステルからなる群のうち、少なくとも1種類の乳化剤の使用量が上記下限を満たすことにより、添加効果が得られやすく、得られる焼菓子の食感が硬くなることを防ぐことができる。また、使用量が上記上限を満たすことにより、焼菓子中に残る水分を低減でき、湿気た食感になることや油性感が強いものとなることを防ぐことができる。本発明においてはクリーミング性を良好なものにするとともに、得られる焼菓子の食感を良好なものとする観点から、グリセリン脂肪酸エステルを含有することが好ましい。
【0163】
本発明のシュガーバッター用油脂組成物に用いられるグリセリン脂肪酸エステルは、グリセリンと脂肪酸のエステル又はその誘導体であり、グリセリン脂肪酸モノエステル、グリセリン脂肪酸ジエステル、グリセリン有機酸脂肪酸モノエステル等を示すが、本発明においては、良好な食感の焼菓子を得る観点から、グリセリン脂肪酸モノエステルが用いられる。
【0164】
用いられるグリセリン脂肪酸エステルは、その構成脂肪酸残基が飽和脂肪酸残基であっても不飽和脂肪酸残基であってもよいが、本発明の焼菓子生地中の油脂分や水分の分離を抑制する観点や、得られる焼菓子の食感をいっそう良好なものとする観点から、構成脂肪酸残基が不飽和脂肪酸残基であるグリセリン脂肪酸エステルを用いることが好ましい。すなわち、グリセリン不飽和脂肪酸モノエステルを用いることが好ましい。
【0165】
本発明のシュガーバッター用油脂組成物において、グリセリン脂肪酸エステルの含有量は、良好な食感の焼菓子を得る観点から、好ましくは0.6質量%以上又は0.7質量%以上であり、より好ましくは0.8質量%以上又は0.9質量%以上であり、さらに好ましくは1.1質量%以上、1.2質量%以上、1.3質量%以上、1.4質量%以上、又は1.5質量%以上である。その上限は、好ましくは3.8質量%以下又は3.7質量%以下であり、より好ましくは3.6質量%以下又は3.5質量%以下であり、さらに好ましくは3.4質量%以下又は3.3質量%以下である。したがって一実施形態において、本発明のシュガーバッター用油脂組成物におけるグリセリン脂肪酸エステルの含有量は、0.6~3.8質量%が好ましく、0.8~3.6質量%がより好ましく、1.1~3.4質量%がさらに好ましい。
【0166】
ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを含有する場合には、良好な食感の焼菓子を得る観点から、本発明のシュガーバッター用油脂組成物中の含有量は、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.03質量%以上、さらに好ましくは0.05質量%以上である。上限は、好ましくは0.3質量%以下、より好ましくは0.22質量%以下、さらに好ましくは0.2質量%以下、又は0.15質量%以下である。したがって一実施形態において、本発明のシュガーバッター用油脂組成物におけるポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルの含有量は、好ましくは0.01~0.3質量%であり、より好ましくは0.03~0.22質量%であり、さらに好ましくは0.05~0.2質量%、又は0.05~0.15質量%である。
【0167】
また、本発明のシュガーバッター用油脂組成物において、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルとグリセリン脂肪酸モノエステルとを併用する場合、本発明の効果を好ましく得られる観点から、その質量比は、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル1質量部に対して、グリセリン脂肪酸エステルが好ましくは1.5質量部以上、より好ましくは4質量部以上、さらに好ましくは7質量部以上である。上限は、好ましくは300質量部以下であり、より好ましくは150質量部以下、さらに好ましくは70質量部である。したがって一実施形態において、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル1質量部に対して、グリセリン脂肪酸エステルは好ましくは1.5~300質量部であり、より好ましくは4~150質量部であり、さらに好ましくは7~70質量部である。
【0168】
本発明のシュガーバッター用油脂組成物は、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、グリセリン脂肪酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種類の乳化剤に加えて、本発明の効果を損ねない範囲で他の乳化剤を含有することもできる。
【0169】
<条件(c)について>
条件(c)は、油相の飽和脂肪酸残基組成中のベヘン酸残基の含有量に関する。
【0170】
上記条件(a)及び(b)に加えて、次の条件(c)を満たすことが、本発明のシュガーバッター用油脂組成物を用いて本発明のシュガーバッターを製造する際のクリーミング性が向上し、且つ、得られる焼菓子の食感がいっそう向上するため好ましい。
(c)飽和脂肪酸残基組成中のベヘン酸残基の含有量が0.3~8.0質量%である
【0171】
飽和脂肪酸残基組成中のベヘン酸残基の含有量は、本発明の効果をいっそう向上させる観点から、より好ましくは0.8質量%以上、さらに好ましくは1.3質量%以上又は1.5質量%以上である。上限は、より好ましくは6.5質量%以下、さらに好ましくは4.5質量%以下又は4.0質量%以下である。したがって一実施形態において、飽和脂肪酸残基組成中のベヘン酸残基の含有量は、より好ましくは0.8~6.5質量%であり、さらに好ましくは1.3~4.5質量%又は1.5~4.0質量%である。
【0172】
また、飽和脂肪酸残基組成中のラウリン酸残基の含有量が0.8~8.0質量%であることが好ましく、0.8~7.0質量%であることがより好ましく、0.8~6.0質量%であることがさらに好ましい。
ラウリン酸残基が上記範囲で含まれることにより、本発明のシュガーバッター用油脂組成物を用いて本発明のシュガーバッターを製造する際のクリーミング性が向上しやすくなる。
【0173】
さらに、飽和脂肪酸残基のうち、パルミチン酸残基(P)の含量とステアリン酸残基(S)の含量の質量比(P/S)が4.5~7.0であることが好ましく、4.8~6.8であることがより好ましく、5.0~6.6であることがさらに好ましい。
パルミチン酸残基とステアリン酸残基とが上記質量比の範囲で含まれることにより、本発明のシュガーバッター用油脂組成物を用いて製造された焼菓子の食感が良好なものとなりやすい。
【0174】
なお、本発明の効果を好ましく得られる観点から、飽和脂肪酸残基組成中のパルミチン酸残基とステアリン酸残基の含量の和は、75~95質量%であることが好ましく、80~95質量%であることがより好ましく、83~95質量%又は86~95質量%であることがさらに好ましい。
【0175】
また、本発明の効果を好ましく得られる観点から、本発明のシュガーバッター用油脂組成物の飽和脂肪酸残基組成に占める、ラウリン酸残基、パルミチン酸残基、ステアリン酸残基、ベヘン酸残基の含量の和の割合が、90質量%以上であることが好ましく、92質量%以上であることがより好ましく、94質量%以上又は95質量%以上であることがさらに好ましい。
【0176】
本発明のシュガーバッター用油脂組成物は、本発明のシュガーバッターを得る際のクリーミング性が良好なものとなりやすく、良好な食感を有する焼菓子を得られやすくする観点から、構成脂肪酸残基組成における飽和脂肪酸残基(S)と不飽和脂肪酸残基(U)の質量比(S/U、飽和脂肪酸残基量を不飽和脂肪酸残基量で除したもの)が、0.75~1.5であることが好ましく、0.75~1.3であることがより好ましく、0.75~1.28、又は0.75~1.2であることがさらに好ましく、0.75~1.1であることがさらにより好ましい。
【0177】
なお、健康への影響を鑑み、本発明のシュガーバッター用油脂組成物の構成脂肪酸残基組成におけるトランス脂肪酸残基の量は、6質量%以下であることが好ましく、4質量%以下であることがより好ましく、2質量%以下であることがさらに好ましく、下限は0質量%であってよい。
【0178】
<シュガーバッター用油脂組成物の形態について>
本発明のシュガーバッター用油脂組成物は、水相を含まない油相のみからなるものであってもよいし、水相を含んだ乳化物であってもよい。本発明のシュガーバッター用油脂組成物の形態としては、油脂を含有する食品、例えばマーガリン・ファットスプレッド・ショートニング・バター等の可塑性油脂組成物や、流動ショートニング、流動状マーガリン、粉末油脂、ホイップ用クリーム(コンパウンドクリーム)、植物性ホイップ用クリームを挙げることができる。
【0179】
本発明では、良好な食感を有する焼菓子が得られ易いことから、連続相が油相であることが好ましく、水相を含まないことがより好ましい。連続相が油相であることにより、クリーミング性が高まり、且つ良好な食感を有する焼菓子が得られやすくなる。
【0180】
本発明のシュガーバッター用油脂組成物が水相を含む場合、本発明のシュガーバッター用油脂組成物中の水分含量は、30質量%以下であることが好ましく、1~20質量%であることがより好ましい。後述するその他の原材料が水分を含む場合には、その水分も含めた量が、上記範囲にあることが好ましい。
【0181】
なお、本発明のシュガーバッター用油脂組成物が油相又は乳化物のいずれであっても、可塑性の有無は問われず、任意である。なお、後述するとおり、本発明のシュガーバッター用油脂組成物は、糖類と混合して本発明のシュガーバッターを得る際に加熱して用いられることから、焼菓子の製造上、可塑性は必要とされない。
【0182】
<シュガーバッター用油脂組成物に含有しうるその他成分について>
本発明のシュガーバッター用油脂組成物は、上記条件(a)及び(b)、好ましくはさらに上記条件(c)を満たせば、本発明のシュガーバッター用油脂組成物としての機能を損ねない範囲、又は本発明のシュガーバッター用油脂組成物を含有する焼菓子の風味・食感を損ねない範囲で任意の副成分を含有することが可能である。
【0183】
本発明のシュガーバッター用油脂組成物が含有することができる副成分として、例えば、乳化剤、酸化防止剤、着色料、香料を挙げることができる。
【0184】
乳化剤としては、グリセリン脂肪酸エステル又はポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル以外の乳化剤を挙げることができ、例えば、グリセリン有機酸脂肪酸エステル(例、グリセリン酢酸脂肪酸エステル・グリセリン乳酸脂肪酸エステル・グリセリンコハク酸脂肪酸エステル・グリセリン酒石酸脂肪酸エステル・グリセリンクエン酸脂肪酸エステル・グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル)・ソルビタン脂肪酸エステル・ショ糖脂肪酸エステル・ショ糖酢酸イソ酪酸エステル・ポリグリセリン脂肪酸エステル・プロピレングリコール脂肪酸エステル・ステアロイル乳酸塩(例、カルシウム塩・ナトリウム塩)・ポリオキシエチレンソルビタンモノグリセリド・レシチン・リゾレシチン・乳脂肪球皮膜が挙げられる。
【0185】
酸化防止剤としては、風味を損ねるものでなければ、限定されるものではないが、トコフェロール又は茶抽出物を使用することが好ましい。
【0186】
<本発明のシュガーバッター用油脂組成物の製造方法>
本発明のシュガーバッター用油脂組成物の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法を採用できる。
【0187】
例えば、本発明のシュガーバッター用油脂組成物が、連続相が油相であって水相を含まないショートニング又は流動ショートニングの形態をとる場合は、その製造の過程で、好ましくは上記油脂αとグリセリン脂肪酸エステルを、好ましくは上記条件(a)、(b)及び(c)を満たすように油相中に含有させることにより製造することができる。
【0188】
以下、本発明の好ましい態様に基づき、連続相が油相であり水相を含まない、ショートニングの製造方法について述べる。
【0189】
連続相が油相であり水相を含まない、ショートニングを製造するには、好ましくは上記油脂αを上記の含有量の範囲内となるような量で、必要に応じて他の食用油脂と混合して、連続相となる油相を作製する。常温で流動性を有さない油脂を用いる場合には、例えば60℃に加熱して溶解してから混合する。なお、グリセリン脂肪酸エステル、油溶性のその他の原材料を必要に応じて油相に混合してよい。
【0190】
本発明では、このように得られた油相を、そのまま本発明のシュガーバッター用油脂組成物として用いることもできる。本発明のシュガーバッター用油脂組成物は、加熱溶解して用いられるという特徴を有することから、シュガーバッター法で一般に用いられるバターやマーガリン、ショートニングのように可塑性の有無は問われない。そのため、製造工程における冷却可塑化の有無は問われず、製造効率を高める観点からは冷却可塑化を行わないことが好ましい。
【0191】
なお、冷却可塑化の有無を問わず、殺菌処理することが望ましい。
殺菌方式は、タンクでのバッチ式でもよく、プレート式熱交換器や掻き取り式熱交換器を用いた連続方式でもよい。また殺菌温度は、好ましくは80~100℃、より好ましくは80~95℃、さらに好ましくは80~90℃である。殺菌時間は、例えば掻き取り式熱交換器を用いて85℃で連続殺菌する場合、好ましくは30~300秒間、より好ましくは40~285秒間、さらに好ましくは50~260秒間である。その後、必要に応じ、油脂結晶が析出しない程度に予備冷却を行う。予備冷却の温度は、好ましくは40~60℃、より好ましくは40~55℃、さらに好ましくは40~50℃とする。
【0192】
本発明のシュガーバッター用油脂組成物を容器充填する場合には、予備冷却せずに容器充填してもよく、予備冷却後に容器充填してもよく、予備冷却した油相を必要に応じて追加で冷却してから容器充填してもよい。
【0193】
この追加の冷却として冷却可塑化を行うことができるが、上述のとおり、本発明のシュガーバッター用油脂組成物の製造方法における冷却可塑化の有無は問われない。冷却可塑化を行う場合には、従前知られた手順を取ることができ、以下のような工程を経ることができる。
例えば、コンビネーター、ボテーター、パーフェクター及びケムテーター等の密閉型連続式掻き取りチューブチラー冷却機(Aユニット)、プレート式熱交換器、開放型冷却機のダイヤクーラーとコンプレクターとの組み合わせを用いて急冷可塑化を行うことができる。上記冷却、特に急冷可塑化の際に、例えば、ピンマシン等の捏和装置(Bユニット)やレスティングチューブ、ホールディングチューブを使用してもよい。
【0194】
冷却は油相温度が25℃以下となるまで冷却されることが好ましく、23℃以下となるまで冷却されることがより好ましく、20℃以下となるまで冷却されることがさらに好ましい。
【0195】
なお、本発明のシュガーバッター用油脂組成物の製造工程において、窒素、空気等を含気させてもよく、含気させなくてもよい。
含気させる場合は、その比重を0.70~0.90とすることが好ましく、0.73~0.87とすることがより好ましく、0.76~0.84とすることがさらに好ましい。
【0196】
本発明においては、殺菌処理が施された油脂組成物を本発明のシュガーバッター用油脂組成物としてもよく、予備冷却した油脂組成物を本発明のシュガーバッター用油脂組成物としてもよく、急冷可塑化した油脂組成物を本発明のシュガーバッター用油脂組成物としてもよい。
【0197】
なお、本発明のシュガーバッター用油脂組成物は、液状やペースト状等の流動性を有するものであってもよく、流動性を有しないものであってもよいが、本発明のシュガーバッター用油脂組成物を用いて得られる焼菓子の食感を良好なものとするために、冷却した際には、流動性を有しないものであることが好ましい。
【0198】
<本発明のシュガーバッター用油脂組成物の使用方法>
本発明のシュガーバッター用油脂組成物は、シュガーバッター法による焼菓子の製造に用いられるものであって、加熱溶解してから用いられることを特徴の一つとする。
【0199】
加熱してから用いることにより、従前シュガーバッター法による焼菓子の製造の際に行われてきたバターやマーガリン等の調温の工程を省略することが可能になる他、秤量や保管が容易になる。また、糖類とのクリーミングの際に流動性を有する油脂組成物に糖類を混合・撹拌することになるため、短時間で均一に分散することが可能になり、省力化・省人化を図ることができる。
【0200】
本発明のシュガーバッター用油脂組成物を用いる際の加熱溶解については、本発明のシュガーバッター用油脂組成物が流動性を有する温度になるまで加熱されれば特に制限はないが、その温度は、好ましくは40℃以上であり、より好ましくは50℃以上である。なお、上限は、焼菓子の製造の効率化の観点から、好ましくは75℃以下であり、より好ましくは65℃以下である。したがって、加熱溶解された本発明のシュガーバッター用油脂組成物の温度は、好ましくは40~75℃であり、より好ましくは50~65℃である。
【0201】
本発明のシュガーバッター用油脂組成物の焼菓子生地を製造するミキサーへの装入は任意の方法で行うことができ、例えば、蒸気もしくは温水ジャケットがついたタンクに溶解した状態で保管し、必要量を配管で送液する方法、コンテナ・ドラム・缶等に保管しておき、使用前に溶解して流し入れる方法をとることができる。
【0202】
<本発明のシュガーバッター用油脂組成物を用いた焼菓子>
本発明の製造方法により製造された焼菓子(以下単に「本発明の焼菓子」ともいう。)、好ましくは本発明のシュガーバッター用油脂組成物を用いて製造された焼菓子について述べる。
【0203】
本発明の焼菓子の製造は、好ましくは本発明のシュガーバッター用油脂組成物を加熱油脂組成物として用いる他は、上記の本発明の焼菓子の製造方法に則って行われる。
【0204】
本発明の焼菓子の種類としては、クッキー、パイ、ドーナツ、バターケーキ、ビスケット、ワッフル、スコーン等が挙げられるが、本発明による改善効果が特に得られやすい点で、クッキー、バターケーキ、ビスケットであることが好ましい。
【実施例0205】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明する。ただし、本発明は、これらの実施例により何ら制限されるものではない。
【0206】
[配合油脂について]
実施例および比較例で使用したランダムエステル交換油脂及び非エステル交換油脂は以下に示すとおりである。なお、各油脂の構成脂肪酸残基組成等については、表1に示した。
【0207】
[使用したランダムエステル交換油脂の製造例]
[ベヘン系ランダムエステル交換油脂1の製造]
パーム分別軟部油(ヨウ素価55)60質量%と、パーム核油(ヨウ素価18)20質量%と、ハイエルシン菜種油の極度硬化油(ヨウ素価1以下)20質量%とからなる油脂配合物に対して、ナトリウムメトキシドを触媒としてランダムエステル交換反応を行い、常法により精製して、ベヘン系ランダムエステル交換油脂1(以下、単に「BIE-1」という。)を得た。
【0208】
[ベヘン系ランダムエステル交換油脂2の製造]
パーム分別軟部油(ヨウ素価55)80質量%とハイエルシン菜種極度硬化油(ヨウ素価1以下)20質量%とからなる油脂配合物に対して、ナトリウムメトキシドを触媒としてランダムエステル交換反応を行い、常法により精製して、ベヘン系ランダムエステル交換油脂2(以下、単に「BIE-2」という。)を得た。
【0209】
[パーム系ランダムエステル交換油脂1の製造]
パーム分別軟部油(ヨウ素価55)からなる油脂配合物に対して、ナトリウムメトキシドを触媒としてランダムエステル交換反応を行い、常法により精製して、パーム系ランダムエステル交換油脂1(以下、単に「PIE-1」という。)を得た。
【0210】
[パーム系ランダムエステル交換油脂2の製造]
パーム分別軟部油(ヨウ素価63)からなる油脂配合物に対して、ナトリウムメトキシドを触媒としてランダムエステル交換反応を行い、常法により精製して、パーム系ランダムエステル交換油脂2(以下、単に「PIE-2」と記載)を得た。
【0211】
[パーム系ランダムエステル交換油脂3の製造]
パーム油(ヨウ素価51)65質量%と、パーム極度硬化油(ヨウ素価1以下)35質量%とからなる油脂配合物に対して、ナトリウムメトキシドを触媒としてランダムエステル交換反応を行い、常法により精製して、パーム系ランダムエステル交換油脂3(以下、単に「PIE-3」という。)を得た。
【0212】
[ラウリン系ランダムエステル交換油脂1の製造]
パーム核油(ヨウ素価18)50質量%とパーム極度硬化油(ヨウ素価1以下)50質量%とからなる油脂配合物に対して、ナトリウムメトキシドを触媒としてランダムエステル交換反応を行い、常法により精製して、ラウリン系ランダムエステル交換油脂1(以下、単に「LIE-1」という。)を得た。
【0213】
[使用した非エステル交換油脂]
・パーム油(ヨウ素価51)
・パーム分別軟部油(ヨウ素価63)
・パームステアリン(ヨウ素価35)
・ハイエルシン菜種油の極度硬化油(ヨウ素価1)
【0214】
【表1】
【0215】
[混合油脂A~Lの製造]
表2及び表3の配合に則り、パーム油、パーム分別軟部油、パームステアリン、BIE-1~2、PIE-1~3、LIE-1を用いて、混合油脂A~Lの製造を行った。
具体的には、配合される油脂を全て70℃となるまで加熱溶解した後、配合される全ての油脂を均一になるまで混合し、混合油脂A~Lを得た。
【0216】
【表2】
【0217】
【表3】
【0218】
<検討1:従来のシュガーバッター法との比較>
検討1では、可塑性を有する油脂組成物を調温してから用いる従来のシュガーバッター法と本発明の製造方法、及びこれらの方法により得られた焼菓子の比較を行った。
【0219】
<コントロール:従来のシュガーバッター法による焼菓子の製造>
冷蔵保管された可塑性油脂組成物A(バター)を、20℃に調温した。調温が終了した後、調温済の可塑性油脂組成物A 28質量部と上白糖42質量部とを軽く混合したのち、ビーターを用いて高速で7分間クリーミングした。次いで、溶いた全卵15質量部、溶いた卵黄5質量部、食塩0.7質量部、脱脂粉乳5質量部、炭酸水素ナトリウム0.5質量部、及び水15質量部を混合した水性原料と水溶性原料との混合物を、撹拌しながら3回に分けて添加した。
得られた混合物に、予め篩っておいた薄力粉100質量部を添加し、低速で均一になるまで混合して、比較例であり、コントロールとなるワイヤーカットクッキー生地を得た。
得られた比較例のワイヤーカットクッキー生地を、乾燥を防ぎながら常温で30分リタードした後、ワイヤーカット成形を行い、天板を用いて上火200℃下火185℃設定のオーブンで11分焼成して、比較例であり、コントロールとなるワイヤーカットクッキー(以下、単にコントロールと記載する)を製造した。
【0220】
<コントロール(ネガティブ):溶かしバター法による焼菓子の製造方法>
バター45質量部を加熱溶解し、常温のグラニュー糖36質量部を加えて撹拌した。
次に予め篩っておいた薄力粉100質量部を加えて混ぜ合わせ、コントロール(ネガティブ)となるワイヤーカットクッキー生地を得た。得られたワイヤーカットクッキー生地を冷蔵庫で1時間冷やし固めた後にワイヤーカット成形を行い、上下火170℃設定のオーブンで18分焼成して、溶かしバター法によるワイヤーカットクッキーを製造した。
【0221】
<本発明の焼菓子の製造方法>
[本発明のシュガーバッターに用いる油脂組成物の製造]
60℃に加温(加熱溶解)された混合油脂Aを本発明のシュガーバッター用油脂組成物Aaとして得た。
また、60℃に加温された混合油脂A 97質量部に、グリセリンモノ不飽和脂肪酸エステル(理研ビタミン株式会社製「エマルジーOL-100H」)を3質量部加えてよく混合したものを本発明のシュガーバッター用油脂組成物Abとして得た。
【0222】
<実施例1-1>
シュガーバッター用油脂組成物Aa 28質量部に、5℃に設定された冷蔵庫で24時間以上保管された上白糖42質量部(シュガーバッター用油脂組成物Aa 1質量部に対し糖類1.5質量部)を加えて10分間撹拌(スタンドミキサー(キッチンエイド社)、速度:6速)し、本発明のシュガーバッター1-1を得た。なお、撹拌終点における本発明のシュガーバッター1-1の温度は25℃であった。
次いで、本発明のシュガーバッター1-1に、溶いた全卵15質量部、溶いた卵黄5質量部、食塩0.7質量部、脱脂粉乳5質量部、炭酸水素ナトリウム0.5質量部、及び水15質量部を混合した水性原料(総量35質量部)と水溶性原料(総量6.2質量部)との混合物(総量41.2質量部、水性原料1質量部に対し水溶性原料0.18質量部、常温25℃以下)を、撹拌(スタンドミキサー(キッチンエイド社)、速度:6速)しながら3回に分けて添加し、本発明の粉前生地1-1を得た。
得られた本発明の粉前生地1-1に、予め篩っておいた薄力粉100質量部を添加し、低速で均一になるまで混合(スタンドミキサー(キッチンエイド社)、速度:6速)して、実施例のワイヤーカットクッキー生地1-1を得た。
得られたワイヤーカットクッキー生地1-1を、乾燥を防ぎながら常温(約20℃)で30分リタードした後、ワイヤーカット成形(厚み5mm、直径48mm)を行い、天板を用いて上火200℃下火185℃設定のオーブンで11分焼成して、実施例のワイヤーカットクッキー1-1(以下、単にEx-1-1と記載する。他の実施例も同様である)を製造した。
【0223】
<実施例1-2>
シュガーバッター用油脂組成物Aa 28質量部に、5℃に設定された冷蔵庫で24時間以上保管された上白糖42質量部を加えてよく撹拌したものに、グリセリンモノ不飽和脂肪酸エステル(理研ビタミン株式会社製「エマルジーOL-100H」)を0.84質量部加えてさらにホイップして得られた本発明のシュガーバッター用油脂組成物1-2を用いた他は実施例1-1と同様に製造し、Ex-1-2を得た。
なお、撹拌終点における本発明のシュガーバッター1-2の温度は25℃であった。
【0224】
<実施例1-3>
シュガーバッター用油脂組成物Abを用いた他は、実施例1-1と同様に製造し、Ex-1-3を得た。
なお、撹拌終点における本発明のシュガーバッター1-3の温度は25℃であった。
【0225】
<評価について>
得られたコントロール、Ex-1-1~1-3について、12名の専門パネラーにより、その食感の評価と、各ワイヤーカットクッキーを得る際のワイヤーカットクッキー生地の作業性について評価を行った。具体的には、各ワイヤーカットクッキー又は各ワイヤーカットクッキー生地について、以下の基準によりスコア付けし、得られた12名の専門パネラーの合計点を評価点数とした。
そして評価点数が54~60点の場合に+++、44~53点の場合に++、36~43点の場合に+、18~35点の場合に-、0~17点の場合に--と評価し、表4に示した。また、粉前比重が0.75以下の場合に+++、0.76~0.79の場合に++、0.80~0.82の場合に+、0.83~0.85の場合に±、0.86~0.90の場合に-、0.91以上の場合に--と表4に示した。本評価においては、「食感」が「+」以上の評点のものが合格品である。
なお、評価に参加したパネラーは、本評価に先立ち、事前にパネラー間で各点数に対応する官能の程度をすり合わせた。
【0226】
[食感の評価基準]
5点:コントロールと同様に口溶けやバラけがよく、良好なサクサクとした噛みだしを有している。
3点:コントロールと同様に口溶けやバラけがよく、サクサクとした噛みだしを有するが、やや目が詰まった食感を有する。
1点:口溶けやバラけがやや悪く、目が詰まった食感を有し、固い噛みだしを有している。若しくは、口溶け・バラけはよいが、軟らかく、サクサクとした噛みだしが乏しかった。
0点:口溶け・バラけが悪い上、噛みだしが固く、ガリガリとした食感を有している。若しくは、口溶け・バラけはよいが、軟らかく、サクサクとした噛みだしが感じられなかった。
【0227】
[作業性の評価基準]
5点:ワイヤーカットクッキー生地にべたつきがなく、作業性に優れる。
3点:ワイヤーカットクッキー生地にわずかにべたつきがある若しくは生地がわずかに硬いものの、問題なく作業できる。
1点:ワイヤーカットクッキー生地にべたつきがある若しくは生地が硬いために、作業しにくい。
0点:ワイヤーカットクッキー生地に強いべたつきがある若しくはとても硬いために、成形が困難である。
【0228】
【表4】
【0229】
検討1の結果、本発明の焼菓子の製造方法によれば、焼菓子の製造に使用する油脂組成物の調温を省略しても食感や作業性が、従前知られたシュガーバッター法で製造された焼菓子と同等となることを知見した。
また、乳化剤を加えないEx-1-1に比して、Ex-1-2やEx-1-3では食感が良好なものとなっていることを知見した。
Ex-1-1の食感が低下した理由としては、他のワイヤーカットクッキーと異なり、乳化剤を含まない為、粉前比重が十分に低下しなかったことが理由であると考えられる。
さらに、Ex-1-2では得られるクッキーの食感はEx-1-1よりも良好であるが、作業性はEx-1-1と同様であることが知見された。Ex-1-1の作業性が低下した理由としては、他のワイヤーカットクッキーと異なり、乳化剤を含まないため、水性原料の水分により上白糖が水和してしまったためと考えられる。
また、乳化剤を、加熱溶解された混合油脂Aに予め含有させたEx-1-3は、混合油脂Aと糖類との混合物に対し乳化剤を添加したEx-1-2よりも、粉前比重が小さく、作業性においてより一層評価が高かった。
【0230】
<検討2:本発明のシュガーバッターの製造方法における工程1の比較>
検討2では、本発明のシュガーバッターを得る際に、本発明のシュガーバッターの温度を20~29℃にする方法として、以下の(1)~(3)について検討を行った。
なお、検討1におけるコントロールを用いて検討1と同様に評価を行った。(1)の方法については、検討1における実施例1-3と同様であり、(2)の方法については実施例2-1に示すものであり、(3)の方法については実施例2-2に示すものである。各ワイヤーカットクッキー及びワイヤーカットクッキー生地の評価結果については、表5に示すとおりである。
(1)本発明のシュガーバッターを製造する際、冷却した糖類を加熱油脂組成物に混合する方法
(2)本発明のシュガーバッターを製造する際、ジャケット付容器を用いる方法
(3)本発明のシュガーバッターを製造する際、雰囲気温度を調整する方法
【0231】
<実施例2-1>
シュガーバッター用油脂組成物Ab 28質量部と5℃に設定された冷蔵庫で24時間以上保管された上白糖42質量部とを、15℃の冷媒が通液されているジャケット付容器に秤量し、冷却しながら10分間ミキサー(スタンドミキサー(キッチンエイド社)、速度:6速)で撹拌し、本発明のシュガーバッター2-1を得た。なお、撹拌終点における本発明のシュガーバッター2-1の温度は25℃であった。
次いで、本発明のシュガーバッター2-1を用いた他は、実施例1-1と同様に行い、本発明の粉前生地2-1を得た。なお、粉前比重は0.77であった。
また、得られた本発明の粉前生地2-1を用いた他、以降の工程も実施例1-1と同様に行い、Ex-2-1を製造した。
【0232】
<実施例2-2>
室温が20℃である室内で、シュガーバッター用油脂組成物Ab 28質量部と5℃に設定された冷蔵庫で24時間以上保管された上白糖42質量部とを15分間撹拌し、本発明のシュガーバッター2-2を得た。なお、撹拌終点における本発明のシュガーバッター2-2の温度は28℃であった。
次いで、本発明のシュガーバッター2-2を用いた他は実施例1-1と同様に行い、本発明の粉前生地2-2を得た。なお、粉前比重は0.76であった。
また、得られた本発明粉前生地2-2を用いた他は、以降の工程も実施例1-1と同様にして、Ex-2-2を製造した。
【0233】
<比較例2-1>
工程1における撹拌終点を本発明のシュガーバッターの温度が30℃となった際に止めた他は実施例1-3と同様に製造し、比較例のワイヤーカットクッキー2-1(以下、単にCex-2-1と記載する。他の比較例も同様)を得た。
【0234】
<比較例2-2>
10℃の冷媒が通液されているジャケット付容器を用い、工程1における撹拌終点を本発明のシュガーバッターの温度が15℃となった際に止めた他は実施例1-3と同様に製造し、Cex-2-2を得た。
【0235】
【表5】
【0236】
検討2の結果から、工程1における、本発明のシュガーバッターを20~29℃とする方法の違いによる、作業性や食感の差は生じない、または極めて小さいことが知見された。
この知見から、焼菓子を製造する際に使用される設備等によらず、本法を採用してシュガーバッター法における調温工程を省略又は省力化することが可能であることが示唆された。
また、本発明の製造方法の工程1において、得られるシュガーバッターの温度が20~29℃よりも高い、あるいは低いCex-2-1及び2-2においては、得られる焼菓子の食感が、目が詰まったような食感となる等低下しやすく、また得られる焼菓子生地の作業性が低下した。これに対し、Ex-1-3、2-1及び2-2においては、いずれも食感及び作業性が良好であり、本発明のシュガーバッターを20~29℃に調温することが、本発明の焼菓子の食感及び作業性を向上させることが知見された。
【0237】
<検討3:油脂組成の検討>
検討3では、本発明のシュガーバッターを得る際に使用する、本発明のシュガーバッター用油脂組成物の油脂組成の影響の評価を行った。具体的には、60℃に加熱溶解された混合油脂B~L 97質量部に、グリセリンモノ不飽和脂肪酸エステル(理研ビタミン株式会社製 「エマルジーOL-100H」)3質量部加えてよく混合したものを本発明のシュガーバッター用油脂組成物Bb~Lbとして用いて、焼菓子の製造を行った。
【0238】
なお、検討1におけるコントロールを用いて検討1と同様に評価を行った。各ワイヤーカットクッキー及びワイヤーカットクッキー生地の評価結果については、表6に示すとおりである。
【0239】
<実施例3-1~3-11>
シュガーバッター用油脂組成物Bb~Lbを用いた他は、実施例1-1と同様に製造し、実施例のEx3-1~3-11を得た。なお、工程1における撹拌終点は本発明のシュガーバッターの温度が25℃となった際に止めた。
【0240】
【表6】
【0241】
検討3の結果から、シュガーバッター用油脂組成物中に含有されるランダムエステル交換油脂の量が多いほど食感が良好なものとなりやすく、また粉前比重が低下する傾向があり、作業性が良好なものとなる傾向が知見された。
また、ベヘン系ランダムエステル交換油脂等のベヘン酸残基を多く含む油脂を用いることで食感や作業性が改善する傾向や粉前比重が低下する傾向がみられた。理由は明らかではないが、飽和脂肪酸残基中のベヘン酸残基の含量が高められた結果として、本発明のシュガーバッターを得る際のクリーミング性や、水性原料を添加した際の抱水性が改善された結果であると推察された。
一方で、ベヘン系ランダムエステル交換油脂やハイエルシン菜種油の極度硬化油等の、ベヘン酸残基を多く含む油脂は特定の量範囲において改善効果が特に向上していた。例えばシュガーバッター用油脂組成物Kbを用いたEx3-10では、シュガーバッター用油脂組成物Lbを用いたEx3-11に対し飽和脂肪酸残基中のベヘン酸残基の含量が相対的に低いにもかかわらず、食感や作業性が向上していた。このことから、求める焼菓子生地の物性や食感によっても異なるが、本発明のシュガーバッター用油脂組成物中のベヘン酸残基を多く含む油脂には適当な量範囲があることが示唆された。
【0242】
<検討4:乳化剤の検討>
検討4では、検討3の検討結果を基に、特に評価が良好であった焼菓子の製造に用いられた本発明のシュガーバッター用油脂組成物HbおよびJbを得る際に選択された混合油脂Hおよび混合油脂Jを用いて、本発明における乳化剤の効果の検証を行った。
【0243】
検討4で用いた本発明のシュガーバッター用油脂組成物の詳細は表7に示すとおりである。
なお、検討1におけるコントロールを用いて検討1と同様に評価を行った。各ワイヤーカットクッキー及びワイヤーカットクッキー生地の評価結果については、表8に示すとおりである。
【0244】
【表7】
【0245】
<実施例4-1~4-10>
シュガーバッター用油脂組成物Hc~Hi、又はシュガーバッター用油脂組成物Jb~Jeを用いた他は、実施例1-1と同様に製造し、実施例のワイヤーカットクッキーEx-4-1~4-10を得た。なお、工程1における撹拌終点は本発明のシュガーバッターの温度が25℃となった際に止めた。
【0246】
【表8】
【0247】
検討4の結果から、本発明のシュガーバッター用油脂組成物中に乳化剤を含有することにより、コントロールと同定度、又はそれ以上の食感及び作業性を発揮することが分かった。また、含有される乳化剤の量・種類によって、得られる焼菓子の食感や作業性、粉前比重が変化することが知見された。
特に、グリセリンモノ不飽和脂肪酸エステルに加えて、その他の乳化剤としてポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを加えた場合よりも、グリセリン不飽和脂肪酸モノエステル単体で添加した場合の方が食感や作業性が向上する傾向がみられた。この理由は定かではないが、過度なワイヤーカットクッキー生地の乳化が抑えられているためと推察された。
また、混合油脂Hを用い、グリセリンモノ不飽和脂肪酸エステル単体で添加して製造されたシュガーバッター用油脂組成物Hb、Hc、Hh、Hiを用いた焼菓子についてみると、グリセリンモノ不飽和脂肪酸エステルの量を増加させると食感や作業性、粉前比重が改良される傾向がみられた。
また、Ex-3-7とEx-4-7との比較、及びEx-3-9と、Ex-4-9と、Ex-4-10との比較から、グリセリンモノ不飽和脂肪酸エステルが有効である量範囲には上限があることがうかがわれた。