(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024097737
(43)【公開日】2024-07-19
(54)【発明の名称】白色インク印刷方法、及び印刷物
(51)【国際特許分類】
B41J 2/21 20060101AFI20240711BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20240711BHJP
C09D 11/02 20140101ALI20240711BHJP
D06B 11/00 20060101ALI20240711BHJP
D06C 23/00 20060101ALI20240711BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20240711BHJP
B41M 1/26 20060101ALI20240711BHJP
【FI】
B41J2/21
B41M5/00 114
B41M5/00 120
C09D11/02
D06B11/00 A
D06C23/00
B41J2/01 201
B41J2/01 123
B41M1/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023069814
(22)【出願日】2023-04-21
(31)【優先権主張番号】P 2023001186
(32)【優先日】2023-01-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】平野 政徳
【テーマコード(参考)】
2C056
2H113
2H186
3B154
4J039
【Fターム(参考)】
2C056EA13
2C056EC72
2C056ED05
2C056EE18
2C056FB03
2C056HA42
2H113AA01
2H113AA06
2H113BB06
2H113CA46
2H113EA07
2H113FA10
2H186BA08
2H186DA17
2H186FA07
3B154AB19
3B154AB27
3B154BA09
3B154BB33
3B154BC08
3B154BD01
3B154BD02
3B154BF16
3B154DA13
4J039EA18
4J039FA03
(57)【要約】
【課題】高い画像堅牢性と優れた着心地を有する印刷物を得ることができる白色インク印刷方法の提供。
【解決手段】複数の布目ピッチを有する記録媒体の所定の領域に対して、白色インクを塗布して白色インク層を形成する白色インク層形成工程を有し、
前記白色インク層形成工程において、複数の前記布目ピッチに跨り、且つ布目の方向に沿わない白色インク層の厚塗り部を局所的に形成する白色インク印刷方法である。
【選択図】
図8C
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の布目ピッチを有する記録媒体の所定の領域に対して、白色インクを塗布して白色インク層を形成する白色インク層形成工程を有し、
前記白色インク層形成工程において、複数の前記布目ピッチに跨り、且つ布目の方向に沿わない白色インク層の厚塗り部を局所的に形成することを特徴とする白色インク印刷方法。
【請求項2】
局所的な前記白色インク層の厚塗り部が、視覚的に分布が認識され難い2次元的なパターンを元に形成された、請求項1に記載の白色インク印刷方法。
【請求項3】
局所的な前記白色インク層の厚塗り部が、布目ピッチの1倍以上の連結長を持ったm種(mは1以上の整数)の厚塗り部である、請求項1から2のいずれかに記載の白色インク印刷方法。
【請求項4】
局所的な前記白色インク層の厚塗り部が、前記布目に対して略直交の角度に形成される、請求項1から2のいずれかに記載の白色インク印刷方法。
【請求項5】
局所的な前記白色インク層の厚塗り部が、前記布目に対して45°以上135°以下の角度に形成される、請求項1から2のいずれかに記載の白色インク印刷方法。
【請求項6】
局所的な前記白色インク層の厚塗り部の面積が、前記白色インク層の所定の領域の面積に対して50%以下であり、請求項1から2のいずれかに記載の白色インク印刷方法。
【請求項7】
局所的な前記白色インク層の厚塗り部が、布目ピッチの1倍以上の連結長を持った特定の意匠に基づいたパターンを形成する、請求項1から2のいずれかに記載の白色インク印刷方法。
【請求項8】
複数の布目を有する記録媒体と、前記記録媒体上に白色インク層と、前記白色インク層上にカラーインク層とを有し、
前記白色インク層が、白色インクの非厚塗り部と、白色インクの付着量が前記非厚塗り部の2倍以上8倍以下である厚塗り部とを有し、
前記厚塗り部が前記記録媒体における複数の前記布目に跨るように形成されることを特徴とする印刷物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白色インク印刷方法、及び印刷物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のDTG(Direct to Garment)プリンターは、黒生地や白以外の濃色生地などの記録媒体に印刷を行う場合、画像を形成するためのカラーインクが生地の色の影響を受けないよう、カラーインクによる印刷を行う前に、白色インクによる下地の印刷が行われている。前記白色インクは、カラーインクよりも生地の繊維への定着性に劣るため、白色インクの印刷前に更に前処理液を生地に塗布される。
従来では、前処理液を塗布する工程は、プリンターとは別に行われるオフライン作業であり、前処理液を塗布した後に加熱及び加圧処理を施してから、記録媒体をDTGプリンターへセットして印刷を行われている。
ここで、塗布した前処理液が未乾燥状態で白色インクの印刷を行うWet on Wet印刷においては、前記白色インクは、前処理液中で速やかに凝集して白色インク層を形成する必要があるが、オフラインで前処理液を塗布したときと比べると、白色インク層の定着性や堅牢性が低く、印刷面の割れ、剥離などが発生しやすくなるという問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、高い画像堅牢性と優れた着心地を有する印刷物を得ることができる白色インク印刷方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記課題を解決するための手段としての本発明の白色インク印刷方法は、複数の布目ピッチを有する記録媒体の所定の領域に対して、白色インクを塗布して白色インク層を形成する白色インク層形成工程を有し、前記白色インク層形成工程において、複数の前記布目ピッチに跨り、且つ布目の方向に沿わない白色インク層の厚塗り部を局所的に形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明によると、高い画像堅牢性と優れた着心地を有する印刷物を得ることができる白色インク印刷方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1A】
図1Aは、従来からDTG(Direct to Garment)プリントで使用される代表的なメディアの絹生地の拡大写真の一例である。
【
図1B】
図1Bは、従来からDTG(Direct to Garment)プリントで使用される代表的なメディアのポリエステル生地の拡大写真の一例である。
【
図2】
図2は、布目(縦目)に対する生地の伸縮性を説明する概略図。
【
図3A】
図3Aは、従来からDTG(Direct to Garment)プリントで使用される代表的なメディアの黒綿生地の拡大写真の一例である。
【
図3B】
図3Bは、従来からDTG(Direct to Garment)プリントで使用される代表的なメディアの黒ポリエステル生地の拡大写真の一例である。
【
図4】
図4は、洗濯機で洗濯及び自然乾燥後の黒ポリエステル生地の実写真(左)及び赤外線LED光源で撮影したモノクロ写真(右)の一例である。
【
図5】
図5は、従来の方法で白色インクを印刷した後に、カラーインクを用いて印刷した印刷直後の生地(左)と、前記生地を洗濯及び乾燥を10回繰り返したものの実画像の一例である。
【
図6A】
図6Aは、記録媒体上の複数の前記布目ピッチに跨るように局所的に形成されるは厚塗り部の一例を示す概略図である。
【
図6B】
図6Bは、記録媒体上の複数の前記布目ピッチに跨るように局所的に形成されるは厚塗り部の他の一例を示す概略図である。
【
図6C】
図6Cは、記録媒体上の複数の前記布目ピッチに跨るように局所的に形成されるは厚塗り部の他の一例を示す概略図である。
【
図7A】
図7Aは、厚塗り部を「リング状」とした厚塗り部のパターンの一例を示す概略図である。
【
図7B】
図7Bは、厚塗り部を「ハートマーク状」とした厚塗り部のパターンの一例を示す概略図である。
【
図8A】
図8Aは、白色インク層形成工程における厚塗り部の形成方法の一例を示す概略図である。
【
図8B】
図8Bは、白色インク層形成工程における厚塗り部の形成方法の一例を示す概略図である。
【
図8C】
図8Cは、白色インク層形成工程における厚塗り部の形成方法の一例を示す概略図である。
【
図9A】
図9Aは、種となるFMマスクパターンの一例を示す概略図である。
【
図9B】
図9Bは、「2つ以上(複数)の布目に跨る長さ」まで厚塗り部を拡大する方法の一例を示す概略図である。
【
図10B】
図10Bは、厚塗り部の2次元的なパターンの他の一例を示す概略図である。
【
図10C】
図10Cは、厚塗り部の2次元的なパターンの他の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
(白色インク印刷方法)
前記白色インク印刷方法としては、白色インク層形成工程を有し、更に必要に応じてその他の工程を有することができる。
【0008】
図1は、従来からDTG(Direct to Garment)プリントで使用される代表的なメディアの絹生地(
図1A)及びポリエステル生地(
図1B)の拡大写真の一例である。
前記DTGプリントで使用される生地には、
図1に示すように生地を織る際に基準となる縦糸や横糸に応じた布目が存在する。同じような繊維を元にしていても、紙などよりはるかに粗い織り目となっており、数百μmから1mm程度のピッチで織り目が構成されている。
この布目に関する従来の発明では、印刷する生地の布目を検出し、インクの滲みやすい方向/滲みにくい方向を判断し、印刷画像パターンを決定する方法が提案されている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【0009】
図2は、布目(縦目)に対する生地の伸縮性を説明する概略図である。
図2に示すように、布目の方向(Y)には生地は伸びにくく、布目に直交する方向(X)には生地は伸びやすい。Tシャツ等は、伸びる方向が着易さや着心地に影響するため、基本的に「縦目」の生地が使用される。
【0010】
図3は、黒綿生地(
図3A)及び黒ポリエステル生地(
図3B)における、白色インクを従来の方法で印刷された部分(
図3A及び
図3Bにおける下部)及び生地が露出する部分(
図3A及び
図3Bにおける上部)の実写真(左)及び赤外線LED光源で撮影したモノクロ写真(右)の一例である。
図1に示す白生地と同様に、黒綿生地の方が黒ポリエステル生地よりも粗く、白色インクの印刷面の仕上がりにも差がでる。
【0011】
図4は、洗濯機で洗濯及び自然乾燥後の黒ポリエステル生地の実写真(左)及び赤外線LED光源で撮影したモノクロ写真(右)の一例である。布目に沿う様に白色インク印刷面に亀裂が発生している。前記亀裂は、Tシャツを使用(着衣)、洗濯及び乾燥を繰り返すことで増加し、亀裂同士が繋がった部分から白色インク層が剥離及び脱落していく。
【0012】
図5は、従来の方法で白色インクを印刷した後に、カラーインクを用いて印刷した印刷直後の生地(左)と、前記生地を洗濯及び乾燥を10回繰り返したものの実画像の一例を示す。
【0013】
そこで、本発明者らが鋭意検討を行ったところ、複数の布目ピッチを有する記録媒体の所定の領域に対して、白色インクを塗布して白色インク層を形成し、複数の前記布目ピッチに跨るように白色インク層の厚塗り部を局所的に形成することで、高い画像堅牢性と優れた着心地を有する印刷物を得ることができることを知見した。
【0014】
本発明の白色インク印刷方法としては、白色インク層形成工程を有し、更に必要に応じてその他の工程を有することができる。
以下、本発明の白色インク印刷方法の実施例形態について図を用いて説明するが、本発明は、これらの実施形態に何ら限定されるものではない。
【0015】
<白色インク層形成工程>
前記白色インク層形成工程としては、複数の布目ピッチを有する記録媒体の所定の領域に対して、白色インクを塗布して白色インク層を形成する工程であり、複数の前記布目ピッチに跨り、且つ布目の方向に沿わない白色インク層の厚塗り部を局所的に形成する。
前記白色インク層の割れの起点となる布目ピッチが跨るように白色インクを厚塗りすることで、前記白色インク層の割れや剥離を抑えることができ、前記白色インク層の強度の向上を図ることができる。また、白色インク層の厚塗り部を局所的に形成するため、白色インクの厚塗りによって生じる異物感を抑えることができる。また、白色インクの吐出量を減らすことができるため、コストを低減することができる。
【0016】
前記白色インクの塗布方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、インクジェット法、ブレードコート法、グラビアコート法、グラビアオフセットコート法、バーコート法、ロールコート法、スプレーコート法、ナイフコート法、エアナイフコート法、コンマコート法、Uコンマコート法、AKKUコート法、スムージングコート法、マイクログラビアコート法、リバースロールコート法、4本ロールコート法、5本ロールコート法、ディップコート法、カーテンコート法、スライドコート法、ダイコート法などが挙げられる。これらの中でも、インクジェット法が好ましい。
【0017】
前記所定の領域とは、前記白色インクを塗布して、画像を形成するためのカラーインクの下地となる白色インク層を形成する領域であり、白色インクの非厚塗り部と、白色インクの付着量が前記非厚塗り部の2倍以上8倍以下である厚塗り部と、を含む。
前記厚塗り部とは、前記所定の領域全体に前記白色インク層(以下、「ベース層」と称することがある)を形成した後に、前記ベース層上に追加して白色インクを塗布した領域である。
【0018】
前記厚塗り部としては、前記記録媒体上の複数の前記布目ピッチに跨るように局所的に形成される。
なお、前記「複数の布目ピッチに跨る」とは、連続する一つの領域から形成される厚塗り部が、2つ以上の布目ピッチの上に形成されることを意味し、例えば、
図6Aから
図6Cに示すようなパターンなどが挙げられる。
【0019】
前記厚塗り部の面積(被覆率)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記所定の領域に対して、50%以下が好ましく、10%以上33%以下がより好ましい。前記面積(被覆率)が、50%以下であると、単位面積当たりの前記白色インクの付着量を抑えることができるため、生地などの記録媒体の柔軟性を損なうことなく、ゴムの被膜のような異物感も低減することができる。前記白色インクの付着量を抑えることで、白色インク層の剛性を適度に抑えることができるため、優れた着心地を有する印刷物を得ることができる。
【0020】
前記厚塗り部の平均厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、100μm以上が好ましい。前記平均厚みが100μm以上であると、前記白色インク層の強度の向上を図ることができるため白色インク層の割れ及び剥離を抑えることができる。
【0021】
前記厚塗り部の平均厚みの測定方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、デジタルマイクロスコープVHXシリーズ(キーエンス株式会社製)などを用いて測定することができる。具体的な測定方法としては、記録媒体(Tシャツ等)上の印刷部を、デジタルマイクロスコープVHXシリーズ(キーエンス株式会社製)のステージに載せることができる大きさに裁断し、前記所定の領域において前記厚塗り部について、計5か所の平均厚みを測定し、その平均値を算出することで求めることができる。
【0022】
前記局所的な前記白色インク層の厚塗り部としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、視覚的に分布が認識され難い2次元的なパターンを元に形成されていることが好ましい。
前記2次元的な分布としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、ハーフトーン処理(FMマスク等)における空間周波数分布的なパターンなどが挙げられる。具体的には、
図10Aに示すようなピークを有していないがざらつき感を有するパターン、
図10Bに示すような固有の目立つピーク(空間周波数)を有するパターン、
図10Cに示すような高周波成分に偏りを有する(滑らかに見える)パターンなどが挙げられる。
【0023】
前記局所的な前記白色インク層の厚塗り部としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、布目ピッチの1倍以上の連結長を持ったm種(mは1以上の整数)の厚塗り部であることが好ましい。即ち、前記厚塗り部としては、2列に跨るものや、3列や4列に跨る厚塗り部が共存していてもよい。
【0024】
前記非厚塗り部の平均厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、50μm以下が好ましい。前記平均厚みが50μm以下であると、塗布後の白色インクの乾燥性が良好となり、また、白色インクの吐出量を減らすことができるためコストを低減することができる。また、単位面積当たりの前記白色インクの付着量を抑えることができるため、生地などの記録媒体の柔軟性を損なうことなく、ゴムの被膜のような異物感も低減することができる。
なお、前記非厚塗り部の平均厚みとは、前記所定の領域における前記厚塗り部の厚みを含めない領域の平均厚みである。
【0025】
前記非厚塗り部の平均厚みの測定方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、デジタルマイクロスコープVHXシリーズ(キーエンス株式会社製)などを用いて測定することができる。具体的な測定方法としては、記録媒体(Tシャツ等)上の印刷部を、デジタルマイクロスコープVHXシリーズ(キーエンス株式会社製)のステージに載せることができる大きさに裁断し、前記所定の領域において前記非厚塗り部について、計5か所の平均厚みを測定し、その平均値を算出することで求めることができる。
【0026】
前記厚塗り部の平均厚み(A)と、前記非厚塗り部の平均厚み(B)との比(A/B)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、印刷部の堅牢性に優れる点から2~4が好ましい。
【0027】
前記布目の方向に対する前記厚塗り部の方向の角度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、45°以上135°以下が好ましく、画像堅牢性がより優れる点から略直交がより好ましい。
また、前記角度が45°又は135°であると、記録媒体の布目が縦目及び横目のいずれでも画像堅牢性に優れる印刷物を得ることができる。
【0028】
前記厚塗り部の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、直線状、曲線状、多角形状、円形状、その他複雑な図形(以下、「意匠」と称することがある)などが挙げられる。
図7は、厚塗り部の形状を意匠とした場合の一例を示す概略図である。
図7Aは、厚塗り部を「リング状」とした厚塗り部のパターンである。
図13Aに示すような布目に沿った形状及び分布でなければ、応力の分散に寄与することができる。
図7Bは、厚塗り部を「ハートマーク状」とした厚塗り部のパターンである。
【0029】
前記白色インク層形成工程における厚塗り部の形成方法について、
図8Aから
図8Cを用いて説明する。
図8Aに示すように、前記記録媒体は、複数の布目ピッチを有する。なお、
図8Aでは、前記布目は縦目である。
図8Bに示すように、前記記録媒体上の所定の領域に、白色インクを塗布して白色インク層(ベース層)を形成する。
次に、
図8Cに示すように、形成した白色インク層(ベース層)上に、更に白色インクを塗布して局所的に厚塗り部を形成する。
【0030】
前記白色インク層形成工程における厚塗り部の形成パターンについて、
図9を用いて説明する。
前記厚塗り部のパターンとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、布目の方向以外でも新たな応力の集中を避けるために、分散且つ規則性が無いことが好ましい。
前記分散且つ規則性の無いパターン生成の手段としては、例えば、BlueNoise特性を有するFMマスクパターンを利用する方法などが挙げられる。前記厚塗り部を「分散且つ規則性の無いパターンで形成することで、前記厚塗り部を視覚的に目立たなくすることができる。
図9Aは、種となる前記FMマスクパターンの一例を示す概略図であり、必要条件である「2つ以上(複数の)の布目に跨る長さ」まで厚塗り部を形成する方法を示している。
図9Bは、「2つ以上(複数)の布目に跨る長さ」まで厚塗り部を拡大する方法を示している。
なお、厚塗り部の長さとしては、条件を満たす長さ以上であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。厚塗り部の連結部分は固くなるので、柔軟性の観点から長さが不定である方が、より応力の分散性が高くなるため好ましい。印刷面の柔軟性という観点からは、厚塗り部をいたずらに連結/延長するのは必ずしも好ましいとは言えないが、厚塗りによって生じる印刷面の盛り上がり(立体感)や光沢感差は、着衣に対する装飾効果という観点からは、付加価値となり得る為、
図12とは真逆の発想で、厚塗り部を目立たせる方法となる。
【0031】
-白色インク-
前記白色インクとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、白色顔料、樹脂、有機溶剤、界面活性剤を含有することが好ましく、更に必要に応じてその他の成分を含有する。
なお、前記白色インクとしては、インクジェット法によって吐出することができるインクジェット用白色インクであることが好ましい。
【0032】
前記白色顔料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、酸化チタン、酸化鉄、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム等の無機顔料などが挙げられる。
【0033】
前記白色顔料の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記白色インクに対して、5質量%以上30質量%以下が好ましい。
【0034】
前記樹脂としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂などが挙げられる。これらの中でも、ポリエステル樹脂が好ましい。
【0035】
前記有機溶剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、多価アルコール類、多価アルコールアルキルエーテル類や多価アルコールアリールエーテル類などのエーテル類、含窒素複素環化合物、アミド類、アミン類、含硫黄化合物類などが挙げられる。
【0036】
前記有機溶剤の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記白色インクに対して、40質量%以上80質量%以下が好ましい。
【0037】
前記界面活性剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン界面活性剤等を使用することが可能である。
【0038】
-記録媒体-
前記記録媒体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、絹生地、ポリエステル生地などが挙げられる。
前記記録媒体の色としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、黒色、赤色、青色、緑色等の濃色などが挙げられる。
【0039】
(印刷物)
本発明の印刷物としては、複数の布目ピッチを有する記録媒体と、前記記録媒体上に白色インク層と、白色インク層上にカラーインク層とを有する。
前記白色インク層としては、白色インクの非厚塗り部と、白色インクの付着量が前記非厚塗り部の2倍以上8倍以下である厚塗り部とを有し、前記厚塗り部が前記記録媒体における複数の前記布目ピッチに跨るように形成される。
【0040】
前記印刷物の製造フローとしては、下記(1)~(11)によって印刷物が得られる。
(1)記録媒体としての生地を選択する。生地の種類や製品によって布目のピッチが変わるため、どのようなTシャツ生地を使用するのかを選択する。
(2)選択した前記生地の布目を設定する。Tシャツ等の生地は、基本的に縦目である。
(3)布目ピッチを算出する。算出方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、目視で計測して算出する方法などが挙げられる。
(4)厚塗り部を形成するパターンを設定する。FMマスクをベースとした「ランダム且つ分散」なパターンか、何らかの「意匠」的な意味を持たせた連結パターンを選択する。
(5)厚塗り部の連結長を決定する。前記厚塗り部の連結長は、最低限必要の長さが好ましい。前記最低限必要の長さとしては、前記(3)で算出した布目ピッチの2倍以上の長さが好ましい。
(6)上記(1)~(5)に基づき、アプリケーション(RIPソフト、プリンタドライバ等)を用いて、印刷データを作成する。前記印刷データとしては、例えば、白色インクやカラーインクを生地に定着させる補助の前処理液、黒生地又は濃色生地を印刷する際の下地となる白色インク、絵柄を印刷する為のカラーインクを塗布できるインクジェットヘッドを内蔵したDTGプリンターを想定している。なお、それぞれのインクの記録モジュールがベルトコンベア上で分離している印刷システムであっても、本発明の白色インク印刷方法は適用可能である。
(7)白色インク層の厚塗り部の印刷領域も白色インクの印刷領域に限定される。「白色インク印刷データ」とAND処理を行うことで、厚塗りパターンの印刷部位が確定する。仮に、「黒生地利用/濃色生地利用」といった生地色を前提とした色再現の場合であっても、白色インクデータとAND処理を行うことで、白を使わない色に対して、不必要に「厚塗り」が適用されるのを回避できる。
(8)白色インクの凝集又は定着を補助する前処理液を最初に生地に塗布する。前処理液塗布機構を有していないプリンターや印刷機の場合は、こと前にオフラインで前処理液を塗布してもよい。
(9)本発明の白色インク印刷方法によって、カラー印刷の下地としての白色インク層の形成を行う。まず、前記白色インク層を記録媒体としての生地の所定の領域に形成する。その後、白色インク層を形成した前記所定の領域において、局所的に厚塗り部を形成する。前記厚塗り部としては、前記生地の布目を跨ぐように形成される。前記厚塗り部の形成は複数回行ってもよい。
(10)前記白色インク層上に、カラーインクを用いて画像を印刷する。前記カラーインクとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、公知のものを用いることができる。
(11)印刷した画像を速やかに生地に定着させるために、加熱処理又は加圧処理を行う。
【0041】
本発明の態様は、例えば、以下のとおりである。
<1> 複数の布目を有する記録媒体の所定の領域に対して、白色インクを塗布して白色インク層を形成する白色インク層形成工程を有し、
前記白色インク層形成工程において、複数の前記布目ピッチに跨り、且つ布目の方向に沿わない白色インク層の厚塗り部を局所的に形成することを特徴とする白色インク印刷方法である。
<2> 局所的な前記白色インク層の厚塗り部が、視覚的に分布が認識され難い2次元的なパターンを元に形成された、前記<1>に記載の白色インク印刷方法である。
<3> 局所的な前記白色インク層の厚塗り部が、布目ピッチの1倍以上の連結長を持ったm種(mは1以上の整数)の厚塗り部である、前記<1>から<2>のいずれかに記載の白色インク印刷方法である。
<4> 局所的な前記白色インク層の厚塗り部が、前記布目に対して略直交の角度に形成される、前記<1>から<3>のいずれかに記載の白色インク印刷方法である。
<5> 局所的な前記白色インク層の厚塗り部が、前記布目に対して45°以上135°以下の角度に形成される、前記<1>から<4>のいずれかに記載の白色インク印刷方法である。
<6> 局所的な前記白色インク層の厚塗り部の面積が、前記白色インク層の所定の領域の面積に対して50%以下であり、前記<1>から<5>のいずれかに記載の白色インク印刷方法である。
<7> 局所的な前記白色インク層の厚塗り部が、布目ピッチの1倍以上の連結長を持った特定の意匠に基づいたパターンを形成する、前記<1>から<6>のいずれかに記載の白色インク印刷方法である。
<8> 複数の布目を有する記録媒体と、前記記録媒体上に白色インク層と、前記白色インク層上にカラーインク層とを有し、
前記白色インク層が、白色インクの非厚塗り部と、白色インクの付着量が前記非厚塗り部の2倍以上8倍以下である厚塗り部とを有し、
前記厚塗り部が前記記録媒体における複数の前記布目に跨るように形成されることを特徴とする印刷物である。
【0042】
前記<1>から<7>のいずれかに記載の白色インク印刷方法、及び前記<8>に記載の印刷物によると、従来における前記諸問題を解決し、前記本発明の目的を達成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0043】
【特許文献1】特許第6663494号公報
【特許文献2】特許第6732021号公報
【符号の説明】
【0044】
10 布目
20 厚塗り部
30 白色インク層(ベース層)