(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024098112
(43)【公開日】2024-07-19
(54)【発明の名称】ウニ風味付与剤
(51)【国際特許分類】
A23L 27/20 20160101AFI20240711BHJP
A23L 5/00 20160101ALI20240711BHJP
【FI】
A23L27/20 F
A23L5/00 H
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024084538
(22)【出願日】2024-05-24
(62)【分割の表示】P 2020054767の分割
【原出願日】2020-03-25
(71)【出願人】
【識別番号】000226976
【氏名又は名称】日清食品ホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】前中 理沙
(72)【発明者】
【氏名】内藤 厚憲
(72)【発明者】
【氏名】中村 由美子
(57)【要約】
【課題】ウニ風味を付与又は増強することが可能なウニ風味付与剤を開発することを課題
とする。
【解決手段】本発明者らは、実際のウニを利用して種々の実験を試みた。種々の研究の結果、ウニの風味の付与剤として、2,4,6-トリブロモアニソール(2,4,6-Tribromoanisole:TBA)が有効な成分であることを見出して2,4,6-トリブロモアニソールをウニ風味付与剤として利用する。当該方法によって各種食品にウニ風味を付与又は増強することが可能となる。さらに、上記成分に加えて、パラクレゾールを含有させることでウニの風味を一層増強することが可能となる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2,4,6-トリブロモアニソールを含有するウニ風味付与剤。
【請求項2】
さらに、パラクレゾールを含有する請求項1に記載のウニ風味付与剤。
【請求項3】
食品に対して2,4,6-トリブロモアニソールを添加する工程を含むウニ風味が付与された食品の製造方法(100%果汁グレープジュースを除く)。
【請求項4】
さらに、パラクレゾールを添加する請求項3に記載のウニ風味が付与された食品の製造方法。
【請求項5】
2,4,6-トリブロモアニソールを添加することを特徴とするウニ風味の付与方法。
【請求項6】
さらに、パラクレゾールを添加する請求項5に記載のウニ風味の付与方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウニの風味を付与することができるウニ風味付与剤及びウニ風味の付与方法等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ウニは海産物であり高級食材である。日本で特に多く消費され、フランス等の国々でもよく利用されている。ウニは独特の風味があり、種々の料理に利用されている。一方、ウニは、日本やチリ等で生産されるが、生産量が十分であるとは言えない。
ここで、ウニの風味を利用することができれば、簡便にウニ風味を得ることができ、各種食品に利用することでウニ風味を当該食品に付与することができ、食品産業の発達に一層寄与するものとなる。
一方、ウニの風味について再現することを目的とした先行技術として以下の特許文献が公開されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭62-181753 当該先行技術は、“特定の科に属する海藻より蒸留によって得られる蒸留物あるいは有機溶剤接触によって得られる抽出物を単独もしくは複数で有効成分として含有することを特徴とするアワビ・ウニ類様香気香味賦与剤”に関するものである。本技術は、天然物を利用するものであることが特徴となっている。一方、当該技術以外にもウニの風味を再現できる方法も考えられるところである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明の発明者らは新たなウニ風味を付与又は増強することが可能なウニ風味付与剤を開発することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、実際のウニを利用して種々の実験を試みた。種々の研究の結果、ウニの風味の付与剤として、2,4,6-トリブロモアニソール(2,4,6-Tribromoanisole:TBA)が有効な成分であることを見出して本発明を完成するに至ったのである。
すなわち、本願第一の発明は、
“2,4,6-トリブロモアニソールを含有するウニ風味付与剤。”、である。
【0006】
上記ウニ風味付与剤はさらに、パラクレゾールを含有することでより風味付与の効果が向上して好ましい。
すなわち、本願第二の発明は、
“さらに、パラクレゾールを含有する請求項1に記載のウニ風味付与剤。”、である。
【0007】
次に、本出願人は、2,4,6-トリブロモアニソールを添加する工程を含むウニ風味が付与された食品を製造する方法についても意図している。
すなわち、本願第三の発明は、
“食品に対して2,4,6-トリブロモアニソールを添加する工程を含むウニ風味が付与された食品の製造方法。”、である。
【0008】
次に、上記ウニ風味は、さらにパラクレゾールを添加することでより風味付与の効果が向上して好ましい。
すなわち、本願第四の発明は、
“さらに、パラクレゾールを添加する請求項3に記載のウニ風味が付与された食品の製造方法。”、である。
【0009】
次に、本出願人は、2,4,6-トリブロモアニソールを添加することによってウニ風味を付与する方法についても意図している。
すなわち、本願第五の発明は、
“2,4,6-トリブロモアニソールを添加することを特徴とするウニ風味の付与方法。”、である。
【0010】
次に、ウニ風味は、さらにパラクレゾールを添加することでより風味付与の効果が向上して好ましい。
すなわち、本願第六の発明は、
“さらに、パラクレゾールを添加する請求項5に記載のウニ風味の付与方法。”、である。
【発明の効果】
【0011】
本発明を利用することでウニ風味を付与又は増強することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の内容について実施例を交えて説明する。但し、本発明はこれらの実施
態様に限定されるものではない。
【0013】
─ウニ─
ウニとは、ウニ綱に属する棘皮動物の総称をいう。また、ウニの可食部は生殖巣、すなわち、精巣及び卵巣をいう。ウニは独特の芳香があり、生食したり、加工したりして種々の食品に利用されている。特に日本とチリで生産量が多く、日本において多量に消費されている。各種食品に使用されている。
【0014】
─2,4,6-トリブロモアニソール─
本発明でいう2,4,6-トリブロモアニソール(2,4,6-Tribromoanisole(TBA))は化学式1の構造式を有する。
【0015】
【0016】
本発明で利用する2,4,6-トリブロモアニソール(2,4,6-Tribromoanisole(TBA))については、合成することが可能である。また、市販されており購入することもできる。
合成法としては種々可能であるが、例えば、褐藻から放出される成分である2,4,6-Tribromophenol をヨードメタン等でメチル化して生成することが可能である。また、4-メトキシ安息香酸を臭素で反応させて生成させることもできる。
さらに、各種食品素材を加熱、乾燥、冷却等の加工処理をすることによって2,4,6-トリブロモアニソールを生成させ、当該加工処理物を利用してもよいことは勿論である。
【0017】
─2,4,6-トリブロモアニソールの有効濃度─
ウニ風味を付与するための2,4,6-トリブロモアニソールの最終濃度は特に限定されるものではないが、食品やスープ等の最終製品中、概ね0.001ppt~10ppt以上あればウニ風味を向上させることができる。また、ウニ風味を効果的に向上させる濃度範囲としては、概ね0.001ppt~100ppbが好適であり、さらに好ましくは、0.01ppt~5ppbである。
【0018】
─2,4,6-トリブロモアニソール使用時の態様─
本発明に利用する2,4,6-トリブロモアニソール(2,4,6-Tribromoanisole)については、当該化合物を直接利用することもできるが、食用オイル、エタノール、グリセリン、ベンジルアルコール、水等の何れの溶媒に溶解してもよいし、これらの溶媒の混合液に溶解して使用してもよい。
また、本発明にいう食用オイルとしては種々のオイルを利用することができるが、すなわち、植物油脂、動物油脂等の種々の食用オイルを使用することができる。より具体的には、植物油脂としては、パーム油、菜種油、米油、コーン油、オリーブ油、白絞油、ひまわり油等の種々の植物油脂が挙げられる。また、動物油脂としては、豚脂、牛脂、鶏油等の種々のオイルを利用することができる。
【0019】
尚、本発明においては、食用オイルに2,4,6-トリブロモアニソールを含んでいればよいため、当該、食用オイルに他の風味成分や、その他の成分を含んでいてもよいことは勿論である。食用オイル以外のエタノール、グリセリン、ベンジルアルコール、水等の何れの溶媒を利用する場合も同様である。
【0020】
─他の成分─
他の成分として、食用オイルを使用する場合、該食用オイルの劣化を防止する観点から、トコフェロール、アスコルビン酸モノパルミテート等の抗酸化剤等を含有させることができる。
【0021】
─パラクレゾール─
次に、本発明のウニ風味付与剤においては他の風味を付与する成分として化学式2のパラクレゾール(p-クレゾール)を利用することが好ましい。
【0022】
【0023】
パラクレゾール(p-クレゾール)を添加することでウニの風味を一層増強することが可能となる。また、パラクレゾールについては、例えば、2,4,6-トリブロモアニソールを食用オイルやエタノールに含有させたウニ風味付与剤とするのであれば、同時に添加して含有させておくことができる。
パラクレゾールの有効濃度は特に限定されるものではないが、2,4,6-トリブロモアニソールの濃度に対して概ね、10倍~100000倍程度の濃度が好適である。さらに、好ましくは50倍~5000倍である。
【0024】
─本ウニ風味付与剤の使用方法─
本発明のウニ風味付与剤は、各種食品に添加して当該食品にウニ風味を付与することができる。また、スープや調味オイルに添加することでウニ風味を付与することができる。例えば、チルド、冷凍食品や各種の即席食品(乾燥食品・レトルト食品等)に広く風味付与の目的で利用することができる。
【0025】
また、2,4,6-トリブロモアニソールを含む食品素材(2,4,6-トリブロモアニソールを高濃度に含むよう濃縮した素材)を別の食品に添加してウニ風味を当該食品に付与する方法も勿論可能である。尚、このような態様も本発明における“食品に対して2,4,6-トリブロモアニソールを添加する”ことに該当することは勿論である。
【0026】
さらに、実際のウニ自体(生ウニ、乾燥ウニ等)に添加することで当該ウニ風味を増強することもできる。さらに、食品に限られず種々の日用品等(例えば、ウニを利用した食品サンプル等)にも利用することが可能である。このように様々な場面での利用が可能である。
【実施例0027】
以下の本発明の実施例について説明する。但し、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[試験例1]2,4,6-トリブロモアニソール(2,4,6-tribromoanisole)及びこの類縁物質の単独配合の場合の効果
2,4,6-トリブロモアニソール(2,4,6-tribromoanisole)及びこれに構造的に類似する類縁の化合物について、単独でウニ風味を付与できるかどうかを試験した。
【0028】
<試験区1>
2,4,6-tribromoanisole(2,4,6-トリブロモアニソール)(東京化成工業株式会社)を0.001gにエタノールを加えて合計100gとした第一希釈溶液を調製した。当該第一希釈溶液0.1gにイオン交換水を加えて合計100gとした第二希釈溶液を調製した。さらに、当該第二希釈溶液0.1gを100mlビーカーに入れ、イオン交換水99.9gを入れて混合して合計100gとしたもの(最終希釈溶液)を準備した。
風味の官能評価は熟練の技術者5名により行い、評価はビーカーより立ち上がる風味についてウニの風味を感じるかを評価した。
評価基準は、“0:ウニの風味と全く異なると感じる又は全く風味を感じない ⇔ 9:ウニの風味と全く同じに感じる”の10段階とした。結果と最終希釈溶液の2,4,6-トリブロモアニソールの濃度を表1に示す。
【0029】
<試験区2>
2,4,6-tribromophenol(2,4,6-トリブロモフェノール)(東京化成工業株式会社)を0.001gにエタノールを加えて合計100gとした第一希釈溶液を調製した点を除いては試験区1と同様に第二希釈溶液及び最終希釈溶液を準備した。風味の官能評価は試験区1に示したものと同様である。結果と最終希釈溶液の濃度を表1に示す。
【0030】
<試験区3>
2,4,6-tribromophenol(2,4,6-トリブロモフェノール)を0.01gにエタノールを加えて合計100gとした第一希釈溶液を調製した点を除いては試験区1と同様に第二希釈溶液及び最終希釈溶液を準備した。結果と最終希釈溶液の濃度を表1に示す。
【0031】
<試験区4>
2,4,6-tribromophenol(2,4,6-トリブロモフェノール)を0.1gにエタノールを加えて合計100gとした第一希釈溶液を調製した点を除いては試験区1と同様に第二希釈溶液及び最終希釈溶液を準備した。結果と最終希釈溶液の濃度を表1に示す。
【0032】
<試験区5>
2,4,6-trichloroanisole(2,4,6-トリクロロアニソール)(東京化成工業株式会社)を0.001gにエタノールを加えて合計100gとした第一希釈溶液を調製した点を除いては試験区1と同様に第二希釈溶液及び最終希釈溶液を準備した。風味の官能評価は試験区1に示したものと同様である。結果と最終希釈溶液の濃度を表1に示す。
【0033】
<試験区6>
2,4,6-trichloroanisole(2,4,6-トリクロロアニソール)(東京化成工業株式会社)を0.01gにエタノールを加えて合計100gとした第一希釈溶液を調製した点を除いては試験区1と同様に第二希釈溶液及び最終希釈溶液を準備した。風味の官能評価は試験区1に示したものと同様である。結果と最終希釈溶液の濃度を表1に示す。
【0034】
<試験区7>
ポジティブコントロールとしてチリ産のウニ(冷凍)を市場より購入し、解凍して100mlビーカーに入れて官能評価に利用した。
【0035】
<試験区8>
ネガティブコントロールとしてエタノール0.0001gを100mlビーカーに入れ、イオン交換水を入れて混合して合計100gとしたものを準備した。
【0036】
【0037】
─結果─
2,4,6-トリブロモアニソールを希釈した溶液についてウニの風味が感じられた。
【0038】
[試験例2] 2,4,6-トリブロモアニソールとクレゾールを併用した場合の効果
2,4,6-トリブロモアニソール(2,4,6-tribromoanisole)及びクレゾールを併用した場合の効果について調べた。
【0039】
<試験区9>
試験区1と同様に調製した。また、官能評価は試験区1と同様に行った。結果を表2に示す。
【0040】
<試験区10>
2,4,6-tribromoanisole(2,4,6-トリブロモアニソール)(東京化成工業株式会社)0.001g及びパラクレゾール(p-cresol)(東京化成工業株式会社)0.1gにエタノールを加えて合計100gとした第一希釈溶液を調製した点を除いて試験区1と同様に第二希釈溶液及び最終希釈溶液を調製した。また、官能評価は試験区1と同様に行った。結果と2,4,6-トリブロモアニソール及びパラクレゾールの最終希釈溶液の濃度を表2に示す。
【0041】
<試験区11>
2,4,6-tribromoanisole(2,4,6-トリブロモアニソール)(東京化成工業株式会社)0.001g及びオルトクレゾール(o-cresol)(東京化成工業株式会社)0.1gにエタノールを加えて合計100gとした第一希釈溶液を調製した点を除いて試験区1と同様に第二希釈溶液及び最終希釈溶液を調製した。また、官能評価は試験区1と同様に行った。結果と最終希釈溶液の濃度を表2に示す。
【0042】
<試験区12>
2,4,6-tribromoanisole(2,4,6-トリブロモアニソール)(東京化成工業株式会社)0.001g及びオルトクレゾール(o-cresol)(東京化成工業株式会社)1.0gにエタノールを加えて合計100gとした第一希釈溶液を調製した点を除いて試験区1と同様に第二希釈溶液及び最終希釈溶液を調製した。また、官能評価は試験区1と同様に行った。結果と最終希釈溶液の濃度を表2に示す。
【0043】
<試験区13>
2,4,6-tribromoanisole(2,4,6-トリブロモアニソール)(東京化成工業株式会社)0.001g及びメタクレゾール(m-cresol)(東京化成工業株式会社)0.1gにエタノールを加えて合計100gとした第一希釈溶液を調製した点を除いて試験区1と同様に第二希釈溶液及び最終希釈溶液を調製した。また、官能評価は試験区1と同様に行った。結果と最終希釈溶液の濃度を表2に示す。
【0044】
<試験区14>
2,4,6-tribromoanisole(2,4,6-トリブロモアニソール)(東京化成工業株式会社)0.001g及びメタクレゾール(m-cresol)(東京化成工業株式会社)1.0gにエタノールを加えて合計100gとした第一希釈溶液を調製した点を除いて試験区1と同様に第二希釈溶液及び最終希釈溶液を調製した。また、官能評価は試験区1と同様に行った。結果と最終希釈溶液の濃度を表2に示す。
【0045】
<試験区15>
試験区7と同様である。
【0046】
<試験区16>
試験区8と同様である。
【0047】
【0048】
2,4,6-トリブロモアニソールに対して、クレゾールの三種の異性体のうち、パラクレゾールを添加した場合のみウニ風味の増強効果が見られた。